説明

抗腫瘍療法または免疫抑制療法によって誘導される粘膜炎の治療のための製剤

サンギナリンもしくはケレリトリンまたはその塩またはそれらを含む抽出物を、適した担体および/または添加剤と混合して含む、粘膜炎の治療および/または予防のための製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学療法、放射線療法および全身的な免疫抑制剤での治療によってヒトに誘導される粘膜炎の治療に有用な医薬製剤に関する。
【0002】
本発明の製剤は、治療すべき患者の体の種々の部分に応じて、遊離のまたは塩化のベンゾフェナントリジンアルカロイドおよび適した担体を含む。前記アルカロイドは、癌細胞に対して選択的な、強力な抗菌、抗真菌、抗炎症、鎮痛、免疫賦活、抗血管新生および抗増殖性の作用を有し、粘膜炎を軽減または予防することができる。
【0003】
本発明はさらに、前記アルカロイドとルテイン酸との塩に関する。
【背景技術】
【0004】
疼痛性粘膜炎の重症型は、免疫抑制療法と併用される腫瘍学および臓器または骨髄移植術の両方において発症することが多い。それらは、過酷な支持療法と組み合わせた、全身性鎮痛薬、特にオピオイドだけにより打ち消すことができる。多くの場合、重症の粘膜炎の発現は、化学療法での治療を一時的に中止したために、腫瘍が増殖し続けてしまうことが原因である。
【0005】
根治治療は、主に胃腸管、特に、口、食道、胃、腸およびある場合には尿生殖路さえも冒す副作用を誘導する可能性がある。
【0006】
粘膜炎を最も頻繁に誘導する医薬品は、単独でまたは癌療法に一般的に使用されている白金錯体などの他の化学療法と組み合わせた、アントラサイクリン、フルオロウラシルおよび類似体;ならびにタキソール、アクチノマイシン、ミトラマイシン、エトポシド、トポテカン、アムサクリン、メトトレキサート、ヒドロキシウレアなど、その他のものである。頭頚部への治療などの、いくつかの部位における化学療法および放射線療法の組合せは、治療患者の95%に粘膜炎を引き起こす。
【0007】
粘膜炎のための従来の治療には、非胃病変性の(non−gastrolesive)抗炎症薬、鎮痛薬、抗菌薬、抗真菌薬、H2拮抗薬および冒されている領域の水分を維持するのに役立つ防護ゲルの投与が含まれる。局所疼痛は、他の薬物の合理的な投与を制限する副作用である。そのような状態の下で、患者は摂食困難に陥り、その結果、体重減少、脱水症および重症の健康障害を来たす。
【発明を実施するための形態】
【0008】
発明の開示
今回、驚いたことに、ベンゾフェナントリジンアルカロイドであるサンギナリン(sanguinarine)およびケレリトリン(chelerythrine)は、有利なことに、腫瘍学的治療または免疫抑制治療によって誘導される粘膜炎の発現を軽減および/または予防する際に有効であることが見出された。
【0009】
したがって、本発明は、サンギナリンもしくはケレリトリンまたはその塩またはそれらを含む抽出物を、適した担体および/または添加剤と混合して含む、粘膜炎の治療および/または予防のための製剤を提供する。
【0010】
サンギナリンまたはケレリトリンは、実質的に純粋な形でまたはサンギナリアカナデンシス(Sanguinaria canadensis)、マクレアヤコルダータ(Macleaya cordata)もしくはマクレアヤマクロカルパ(Macleaya macrocarpa)の抽出物の形で存在し得る。
【0011】
本発明はさらに、粘膜炎の治療および/または予防用の医薬品を調製するための、サンギナリンもしくはケレリトリンまたはその塩またはそれらを含む抽出物の使用に関する。
【0012】
さらに、これらのアルカロイドとルテイン酸との塩が、本発明の目的のためには特に有効であることが見出され、このことは本発明のさらなる目的である。
【0013】
本発明の塩は、アルカロイドの硫酸塩または塩化物とルテイン酸のナトリウム塩またはカリウム塩との反応およびそれに続く結晶化によって調製される。
【0014】
前記塩、特にサンギナリン塩は、感受性細胞および耐性細胞の両方に、抗炎症、鎮痛、抗血管新生、抗菌、抗真菌、瘢痕形成および抗増殖性の作用を及ぼす。
【0015】
ルテイン酸は、アルカロイドに、異なるバイオアベイラビリティーを与え、特にサイトメガロウイルス(Citomegalovirus)、パピローマウイルス、ライノウイルス、アデノリノウイルス(Adenorinovirus)、帯状ヘルペスおよび単純ヘルペスに対する抗ウイルス活性を増加させ;さらに、ルテイン酸は、細菌および真菌の細胞への接着を低減させ、これによって、アルカロイドの抗菌および抗真菌効果を高める。
【0016】
本態様は、粘膜炎が細菌感染症および/または真菌感染症を伴うことが多い点で、特に有利である。
【0017】
本発明の製剤は、エキナセアアングスティフォリア(Echinacea angustifolia)から抽出されるかまたはポリ不飽和酸から合成されるイソブチルアミドをさらに含むことができ、イソブチルアミドは、CB1およびCB2カンナビノイド受容体に対してアゴニスト作用を有する。天然および合成の両方のイソブチルアミドは、放射線化学療法での治療と同時に投与される場合、治療患者のほとんどすべてを冒す悪心および嘔吐の出現を低減し、このことは本発明の特に有利なさらなる態様である。
【0018】
本発明の製剤中に含まれる有効成分は、経口経路からの無視することができる吸収を示すため、化学療法薬の投与前または化学療法のサイクル間に、予防的に投与することができる。
【0019】
本発明の組成物は、末梢性の腫瘍学的疼痛を、早くも20分以内に軽減することができ;口腔中の腐生菌によって感染する化膿性プラークの形成を予防し、感染の進行を減退させている間に抗生物質の使用を避けることができ;真菌感染症の重症度を軽減することができ、粘液障壁の回復に寄与することができる。
【0020】
医薬組成物は、錠剤、カプセル剤またはチュアブル錠、チューインガム、クリーム、軟膏、フォーム、膣坐剤の形であってよい。
【0021】
口腔中で緩徐に溶出する錠剤またはチュアブルガムは、有効成分の徐放が望ましい場合に適している可能性がある。
【0022】
好ましい態様によると、本発明の製剤は、口腔の爽やかさという点で患者のコンプライアンスを高めるために、精油をさらに含む。
【0023】
本発明の組成物中のサンギナリンおよびケレリトリンの有効用量は、遊離形または塩化形のどちらかで、1から20mgまでの範囲であってよく;同アルカロイドおよびその塩は、プロテオグリカンまたは置換されたセルロースからなる徐放性ジェルに可溶化され得る。アルカロイドは、従来の製剤を使用することに困難を覚える対象の治療用に、口蓋に適用される貼付剤に組み込むことができる。
【0024】
消化管の粘膜炎の治療に適した製剤には、錠剤、カプセル剤または胃腸壁への接着を促進する分散可能な顆粒剤が含まれる。尿生殖路、特に膣の粘膜炎の治療に関しては、膣坐剤、フォーム、ジェルおよび類似の局所形態に適切に製剤されるサンギナリンルテイン酸塩が特に有効であることがわかった。
【0025】
本発明の組成物は、「Remington’s Pharmaceutical Handbook」、Mack Publishing Co.,N.Y.,USAに記載されているものなどの、従来のよく知られている方法に従って、適した添加剤と一緒に調製することができる。
【0026】
以下に報告されている例は、本発明をより詳しく説明する。
【実施例】
【0027】
例I−サンギナリンルテイン酸塩の調製
塩化サンギナリン3.68gを100mlのエタノールに溶かし、撹拌下で3.6gのルテイン酸カリウムを加え、混合物を3時間反応させる。形成された塩化カリウムをろ過分離し、溶液を少容量に濃縮する。以下の特徴を有する塩5.6gが得られる。
【0028】
例II−1グラムチュアブル錠
1.マクレアヤコルダータアルカロイド(70%) 2.5mg
2.大豆レシチン 30.0mg
3.無水クエン酸 10.0mg
4.ラクトース 240.0mg
5.マンニトール 550.0mg
6.メチルセルロース 40.0mg
7.パルミトステアレート 50.0mg
8.ベリーフレーバー 40.0mg
9.アセスルファムカリウム 0.5mg
10.タルク 10.0mg。
【0029】
例III−1グラムチュアブル錠
1.サンギナリン重硫酸塩 2.5mg
2.大豆レシチン 30.0mg
3.無水クエン酸 10.0mg
4.ラクトース 240.0mg
5.マンニトール 550.0mg
6.メチルセルロース 40.0mg
7.パルミトステアレート 50.0mg
8.ベリーフレーバー 40.0mg
9.アセスルファムカリウム 0.5mg
10.タルク 10.0mg。
【0030】
例IV−1グラムチュアブル錠
1.サンギナリン重硫酸塩 2.5mg
2.大豆レシチン 30.0mg
3.無水クエン酸 10.0mg
4.ラクトース 240.0mg
5.マンニトール 550.0mg
6.メチルセルロース 40.0mg
7.パルミトステアレート 50.0mg
8.ベリーフレーバー 40.0mg
9.アセスルファムカリウム 0.5mg
10.タルク 10.0mg。
【0031】
例V−1グラムチュアブル錠
1.サンギナリンルテイン酸塩 2.5mg
2.大豆レシチン 30.0mg
3.無水クエン酸 10.0mg
4.ラクトース 240.0mg
5.マンニトール 550.0mg
6.メチルセルロース 40.0mg
7.パルミトステアレート 50.0mg
8.ベリーフレーバー 40.0mg
9.アセスルファムカリウム 0.5mg
10.タルク 10.0mg。
【0032】
例VI−膣粘膜炎の治療のための軟ゼラチンカプセル剤
サンギナリンルテイン酸塩 10mg
大豆レシチン 50mg
蜜ろう 50mg
植物油 適量 800mgまで。
【0033】
例VII−内部および外部膣粘膜炎のためのクリーム(水中油エマルジョン)
1.サンギナリン重硫酸塩 200.0mg
2.エキナセアアングスティフォリア親油性抽出物 100.0mg
3.プロピレングリコール 10.00g
4.大豆レシチン 50mg
5.蜜ろう 50mg
6.ミリスチン酸イソプロピル 5.00g
7.セチルアルコール 5.00g
8.ポリソルベート80 3.00g
9.カルボマー 0.40g
10.パラヒドロキシ安息香酸メチル 0.10g
11.パラヒドロキシ安息香酸プロピル 0.05g
12.精製水 適量 100gまで。
【0034】
例VIII−膣坐剤
1.サンギナリン重硫酸塩 3mg
2.脂肪酸グリセリド 適量 2.0gまで

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンギナリン(sanguinarine)もしくはケレリトリン(chelerythrine)またはその塩またはそれらを含む抽出物を、適した担体および/または添加剤と混合して含む、粘膜炎の治療および/または予防のための製剤。
【請求項2】
サンギナリンを含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
ケレリトリンを含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
サンギナリアカナデンシス(Sanguinaria canadensis)、マクレアヤコルダータ(Macleaya cordata)またはマクレアヤマクロカルパ(Macleaya macrocarpa)の抽出物を含む、請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
サンギナリンまたはケレリトリンがルテイン酸塩の形である、請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
天然または合成のイソブチルアミドをさらに含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項7】
イソブチルアミドが、エキナセアアングスティフォリア(Echinacea angustifolia)親油性抽出物中に含まれる、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
錠剤、顆粒剤、カプセル剤またはチュアブル錠、チューインガム、クリーム、軟膏、フォーム、膣坐剤、貼付剤の形である、請求項1から7のいずれか一項に記載の製剤。
【請求項9】
ケレリトリンルテイン酸塩。
【請求項10】
サンギナリンルテイン酸塩。
【請求項11】
粘膜炎の治療および/または予防用の医薬品を調製するための、サンギナリンもしくはケレリトリンまたはその塩またはそれらを含む抽出物の使用。
【請求項12】
粘膜炎が、化学療法、放射線療法または免疫抑制治療によって誘導される、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
粘膜炎が頬または膣の粘膜炎である、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
サンギナリンまたはケレリトリンがルテイン酸で塩化されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
天然または合成のイソブチルアミドと組み合わせた、請求項12から14のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2011−509270(P2011−509270A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−541748(P2010−541748)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際出願番号】PCT/EP2009/000050
【国際公開番号】WO2009/087091
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(591092198)インデナ エッセ ピ ア (52)
【Fターム(参考)】