説明

抗腫瘍組成物

【課題】 優れた安全性と抗腫瘍作用を有する抗腫瘍組成物の提供。
【解決手段】 ヒメマツタケの熱水抽出物と牛グロブリン濃縮物とを含有することを特徴とする抗腫瘍組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハラタケ属(Agaricus)のキノコである「学名」Agaricus blazei Murrill「正式和名」ヒメマツタケ(一名、カワリハラタケ)の抽出物と牛グロブリン濃縮物とを必須成分とした抗腫瘍作用に優れた抗腫瘍組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗腫薬は、がん細胞の増殖阻止作用をもつ薬物で、増殖に必要な核酸や蛋白質の合成を直接阻害することで作用を発現する細胞毒性薬と、免疫機構を介して間接的に阻害する生物学的応答調節物質(BRM)がある。
【0003】
BRMに分類されるヒメマツタケについては、当該本発明者の一人、伊藤均らにより1980年日本癌学会総会で報告されたのが契機であり、すでに公的学会・学術誌に60報余の発表がされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
しかし、有害作用のない細胞毒性薬はなく、作用機序の異なる複数の抗腫瘍薬を少量ずつ組合せることにより、有害作用の軽減をはかりつつ、有効性を高める多剤併用療法が行われる。
【0004】
そこで、いわゆるBRMに属するキノコ類、海藻類、クマ笹、ローヤルゼリー、サメ軟骨、人参、十全大補湯などの漢方方剤の単独及び併用、さらに細胞毒性薬とBRMとの併用が一般的に行なわれる。しかし、安全性と抗腫瘍作用について未だ十分に満足の行くものが得られていなかったのが実状であった。
【特許文献1】特開昭64−67194号公報
【特許文献2】特開昭64−67195号公報
【特許文献3】特開平2−78630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、斯かる従来の実状に鑑みてなされたものであり、優れた安全性と抗腫瘍作用を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ヒメマツタケの熱水抽出物と牛グロブリン濃縮物とを含有することを特徴とする抗腫瘍組成物により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明組成物は、毒性がなく安全性に優れ、しかも高い抗腫瘍作用を有するので、経口投与により腫瘍の抑制、治療を効果的に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、ヒメマツタケの熱水抽出物は、ヒメマツタケの子実体、ヒメマツタケ培養物、ヒメマツタケの子実体の細胞壁破壊物、ヒメマツタケ培養物の細胞壁破壊物、それらの乾燥物の何れか1種以上から得られるが、保存性、取扱性及び抽出効率の点で当該乾燥物から抽出するのが好ましい。
【0009】
本発明において、熱水抽出に先立ち、ヒメマツタケの子実体やヒメマツタケ培養物、あるいはそれらの細胞壁破壊物やそれらの乾燥物を有機溶媒又は含水有機溶媒で抽出処理して、これらに特有の臭気成分や色素成分を除去しておくのが望ましい。ここに用いる有機溶媒としてはメタノール、エタノール、酢酸エチル、エーテル等があり、また含水有機溶媒としては一般に30%以下の範囲で水を含有する含水メタノール、含水エタノール等があるが、取扱性及び残留有機溶媒の点で80%程度のエタノールが好ましい。
【0010】
また、本発明の熱水抽出物としては、熱水抽出液、その減圧濃縮液あるいはその凍結乾燥物の何れであっても良いが、熱水抽出液を減圧濃縮し、次いでエタノールで沈澱処理し、次いで液体クロマトグラフィーで分画処理し、次いで透析した後、凍結乾燥したものが望ましい。
【0011】
因に、ヒメマツタケの子実体の細胞壁破壊乾燥物をその倍量の熱水で2時間抽出し、その熱水抽出液を更に減圧濃縮、液体クロマトグラフィーによる分画、透析及び凍結乾燥して得られる抽出物は、その一例を挙げると、次のような化学的組成を有する。粗灰分5.36%(重量%、以下同じ)、粗蛋白41.20%、粗脂質3.54%、粗繊維6.20%、糖質43.57%、エルゴステロール0.13%。これらの粗灰分、粗蛋白、粗脂質及び糖質は、更に分析すると、それぞれ表1、表2、表3及び表4の組成を有する。
【0012】
【表1】

【0013】
【表2】

【0014】
【表3】

【0015】
【表4】

【0016】
上記のような組成を有する抽出物は一定の分解点、融点を示さず、強熱により炭化するが、著しく安定である。室温では少なくとも3年間は安定であり、120℃×20分間の滅菌処理を行なっても活性の低下は見られない。
【0017】
牛グロブリン濃縮物は、アメリカ農務省の指定するGMP規準に合致した高純度品用施設で、食用牛の血清から精製された100%天然品であり、保存性が高く安定である。牛グロブリン濃縮物の成分を表5に示す。この数値は、米国プロライアント社のデータである。
【0018】
【表5】

【0019】
本発明組成物中には、上記の如きヒメマツタケの熱水抽出物と牛グロブリン濃縮物が配合されるが、両者の配合割合は、前者1質量部に対し、後者0.5〜20質量部とするのが好ましい。
【0020】
また、本発明において、飲食品として供する方法には例えば下記のような方法が挙げられる。
1)前記した組成物をそのままふりかけとして、又はティーパックやカプセルの中に充填して使用する方法。
2)前記したような組成物に糖類、酸類、塩類及び香料類等を調合して使用する方法。
3)前記したような組成物をベイク品、発酵品、練り製品、乳製品、油脂製品、調味料、菓子等の食品、又はコーヒー、ココア、茶、果実ジュース、野菜ジュース、発酵飲料、清涼飲料等の飲料の製造工程で添加して使用する方法。
【実施例】
【0021】
以下実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【0022】
実施例1
ヒメマツタケ培養物(培養菌糸体及び培養濾液)から以下のようにして抽出物を得た。
まず、ヒメマツタケ菌糸体を、グルコース20g、酵母エキス5g、水1Lから成る液体培地(pH5.5)にて、30℃で30日間振盪培養した。遠心分離した菌糸体に7倍量の水を加え、95℃にて2時間加熱抽出し、抽出濾液にエタノールを加えて多糖を沈澱させた。多糖を遠心分離して集め、アセトン次いでエーテルにて洗浄して、菌糸体1g当り21mgの熱水抽出物を得た。複合成分は分子量105〜107(ゲル濾過法)、[α]D+57°(c=2.0、水)、蛋白含量5%、少量のガラクトースとリボースを伴うグルコマンナン蛋白複合体であった。
次に、上で述べた菌糸体を培養して得られた濾液を、1/6容まで減圧濃縮し、これに等容のエタノールを加え、4℃に一夜放置した。生じた沈澱を遠心分離後、アセトンとエーテルで洗浄し、真空乾燥(室温)して、培養濾液1L当り575mgの乾燥物を得た。
乾燥物は分子量105〜107(ゲル濾過法)、[α]D+63°(c=2.0、水)、微量のグルコース、ガラクトース、リボースを含むマンナン蛋白複合体であった。
このようにヒメマツタケ培養物から分離された成分は、いずれもグルコマンナン蛋白複合体であった。
【0023】
上記のヒメマツタケ培養物より得られた熱水抽出物は一定の分解点、融点を示さず、強熱により炭化するが、著しく安定である。室温では少なくとも3年間は安定であり、120℃×20分間の滅菌処理を行なっても活性の低下は見られなかった。
【0024】
次いで、上記で得た熱水抽出物(乾燥物を含む)50mgと牛グロブリン濃縮物240mgを均一に混合して本発明組成物を得た。
【0025】
実施例2
ヒメマツタケの子実体の細胞壁破壊乾燥物100gに精製水1000mLを加え、緩やかに撹拌しながら水浴上で2時間、熱水抽出した。同一操作を2回繰り返し、2回の熱水抽出液を合わせた後、200mLになるまで減圧濃縮液した。減圧濃縮液に最終エタノール濃度が70%になるまでエタノールを加え、遠心分離して、エタノール沈澱物13.3gを分離した。エタノール沈澱物を固定相としてDEAE−トヨパールゲル(商品名、東洋曹達工業社製)を充填したカラムクロマトグラフィーに供し、フェノール硫酸法により糖の発色がなくなるまで溶出して、溶出画分を分画した。溶出画分を透析した後、凍結乾燥して、熱水抽出物5.6gを得た。得られた熱水抽出物は前記表1〜表4のような組成及び理化学的性質を有していた。
【0026】
次いで、上記で得た熱水抽出物100mgと牛グロブリン濃縮物240mgを均一に混合して本発明組成物を得た。
【0027】
試験例1
実施例1及び2で得た本発明組成物、実施例1及び2で得られた抽出物、牛グロブリン濃縮物のそれぞれについて経口投与による抗腫瘍作用の確認試験を下記のように行なった。
【0028】
抗腫瘍試験
5週齢のICR/Slc系雌性マウス10匹を1群として用いた。これに、移植後7日目のマウスから採取したSarcoma 180腫瘍細胞(5×106個)を皮下に移植し、24時間後から各検体の一定量を毎日朝・夕2回連日20日間、胃ゾンデにて強制的に経口投与を行なった。移植21日目に腫瘍の体積(cm3)、(4/3πa2b/2、但し、a:短径mm、b:長径mm)を測定し、対照群と比較して腫瘍抑制率(%)=(1−T/C)×100を算出した。但し、T:検体投与群の腫瘍の体積、C:対照群の腫瘍の体積。また、移植28日目までにおいて腫瘍が完全に消失したマウス数及び当該移植28日後まで生存したマウス数を確認した。その結果は表6のとおりであった。
【0029】
尚、マウスに対する経口投与実験では、各投与量とも所定の経口投与量がマウスの体重10gあたり、0.2mLになるように生理食塩水で調整し毎日、朝・夕2回、連日20日間胃ゾンデにて強制的に経口投与を行なった。
【0030】
【表6】

【0031】
表6から明らかな如く、本発明組成物たる試験群(1)及び(3)では、ヒメマツタケの熱水抽出物単独投与群である(2)及び(4)と比較して、腫瘍の完全消失をともなう顕著な抗腫瘍増強効果が認められた。
【0032】
動物実験の結果より、人体に薬剤を投与する場合、まず問題になるのはヒトと動物(マウス)との薬剤感受性を考慮する必要がある。そこで本実験では、これまでマウスにおいて抗腫瘍効果の面から有効性が推定された経口投与量に基づき、マウスとヒトの感受性差(Emil J. Freireich et al.:Cancer chemotherapy reports, 50(4), 219, 1966)より、ヒトに対する経口投与量を推測すると、ヒメマツタケの熱水抽出物50〜100mg/60kg(ヒト)に牛グロブリン濃縮物50〜1000mg/60kg(ヒト)の添加するのが好ましい。
【0033】
試験例2
表6に記載した試験群(1)[併用群]、試験群(2)[単独投与群]を選択して、牛グロブリン濃縮物添加によるヒメマツタケの抗腫瘍増強効果に対するメカニズムについて検討した。
【0034】
表6記載の全て同一実験条件下において対照群、(1)及び(2)の試験群の各種の免疫担当細胞に対する作用をみることにより、免疫学的メカニズムについて考察した。20日経口投与し、最終投与24時間後にマウスを放血致死させ、脾臓中に存在するL3T4−陽性細胞とアシアロGM1−陽性細胞を伊藤均らの方法(Anti-Cancer Drug Design, 8巻, 193〜202頁, 1993年)によりフロウ・サイトメトリで測定した。その結果は表7のとおりであった。
【0035】
【表7】

【0036】
表7の結果から本発明で用いる熱水抽出物は単独投与においてもL3T4−陽性細胞及びアシアロGM1−陽性細胞の産生抑制に対して賦活作用を示すが、さらに牛グロブリン濃縮物の添加により、より顕著な賦活作用が認められ、表6に示される抗腫瘍効果とよく相関することが確認された。
【0037】
試験例3
実施例1及び2で得た本発明組成物について、経口投与による急性毒性試験を行なったが、マウスに対するLD50は3000mg/kg超であり、ラットに対するLD50は3500mg/kg超であった。またラットに対する亜急性毒性試験結果及びウサギに対する一般薬理試験結果からも、本発明組成物は毒性に関する問題点を有しなかった。
【0038】
実施例3
実施例1と同様にして熱水抽出液を得た後、該熱水抽出液1kgに、牛グロブリン濃縮物5kg、砂糖100g、蜂蜜15g、カラメル5g、アスコルビン酸0.75g、クエン酸0.3g及びレモン系香料0.2gを添加混合して、本発明健康飲料を得た。
【0039】
実施例4
実施例1と同様にしてエタノール沈澱物を得た後、該エタノール沈澱物の凍結乾燥物10gに、牛グロブリン濃縮物50g、アスコルビン酸0.5g及びリンゴ搾汁液2kgを添加混合して、本発明リンゴジュースを得た。
【0040】
実施例5
実施例1と同様にして凍結乾燥した抽出物を得た後、若干量の塩化カルシウム及び第三リン酸ナトリウムと共に該抽出物5gと牛グロブリン濃縮物25gを、採肉して水さらして脱水した後、予冷した魚肉2kgに、そのすりつぶし工程で添加し、凍結して、本発明冷凍すり味を製造した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒメマツタケの熱水抽出物と牛グロブリン濃縮物とを含有することを特徴とする抗腫瘍組成物。
【請求項2】
ヒメマツタケの熱水抽出物が、ヒメマツタケの子実体、ヒメマツタケの子実体の細胞壁破壊物、ヒメマツタケ培養物、ヒメマツタケ培養物の細胞壁破壊物、それらの乾燥物の何れか1種以上から得られたものであることを特徴とする請求項1記載の抗腫瘍組成物。
【請求項3】
熱水抽出物が、ヒメマツタケの熱水抽出液を減圧濃縮し、次いでエタノールで沈澱処理し、次いで液体クロマトグラフィーで分画処理し、次いで透析した後、凍結乾燥したものであることを特徴とする請求項1又は2記載の抗腫瘍組成物。
【請求項4】
医薬又は健康食品である請求項1〜3の何れか1項記載の抗腫瘍組成物。

【公開番号】特開2006−28070(P2006−28070A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207988(P2004−207988)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000118095)
【出願人】(591253249)パワフル健康食品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】