説明

抗菌剤

【課題】銀担持ペプチドの抗菌効果を可及的阻害することなく、カビや酵母に対して増殖抑制効果を生起させることができ、しかも、人体に対して刺激の少ない抗菌剤を提供する。
【解決手段】微細銀粒子を担持させたポリペプチドを含有する銀溶液と、大根を所定の浸漬液中で発酵し搾汁して得られる大根発酵液とを混合してなることとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細銀粒子と発酵大根液とを含有する抗菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀は抗菌効果や殺菌効果があることが知られており、銀イオンや銀粒子を含有する抗菌剤が数多く知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これらの抗菌剤の中でも、微細銀粒子を担持させたポリペプチド(以下、銀担持ペプチドともいう。)を含有する銀溶液は、担体をペプチドとしているため人体への刺激が低く、化粧料等に使用することができる。
【特許文献1】特開2000−198708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の銀担持ペプチドを含有する銀溶液は、カビや酵母類に対しての殺菌効果や抗菌効果が顕著に表れているとは言い難いものであった。
【0005】
例えば、化粧品類の抗菌剤として銀担持ペプチドをを含有させた場合であっても、化粧品類の汚染微生物は、カビや酵母によるものが多いため、カビや酵母の繁殖を効果的に抑制することができない場合があった。
【0006】
このような場合、銀担持ペプチドと共に、カビや酵母を顕著に抑制することのできる薬剤を添加することも考えられるが、このような薬剤の多くは人体への刺激が強い場合が多いため、化粧料の消費者にとって使用をためらう要因となっていた。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、銀担持ペプチドの抗菌効果を可及的阻害することなく、カビや酵母に対して増殖抑制効果を生起させることができ、しかも、人体に対して刺激の少ない抗菌剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る抗菌剤では、微細銀粒子を担持させたポリペプチドを含有する銀溶液と、大根を所定の浸漬液中で発酵し搾汁して得られる大根発酵液とを混合してなることとした。
【0009】
また、本発明に係る抗菌剤は、下記の点にも特徴を有する。
【0010】
(1)前記微細銀粒子を担持させたポリペプチドは、コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物の水溶液に銀塩溶液及び触媒を添加して反応させ、同反応液に波長400nm以下の紫外線を照射して還元を行うことにより、前記コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物のαアミノ基の近傍に微細銀粒子を析出させ、静電吸着により担持させたものであること。
(2)前記大根発酵液は、Leuconostoc属に属する微生物により発酵して得られたものであること。
【0011】
また、本発明に係る化粧料では、請求項1〜3に記載の抗菌剤を添加することとした。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の抗菌剤では、微細銀粒子を担持させたポリペプチドを含有する銀溶液と、大根を所定の浸漬液中で発酵し搾汁して得られる大根発酵液とを混合してなることとしたため、銀担持ペプチド単独や大根発酵液単独では抗菌効果や殺菌効果が生起しにくいカビや酵母に対して効果的に抗菌や殺菌を行うことができる。
【0013】
また、請求項2に記載の抗菌剤では、前記微細銀粒子を担持させたポリペプチドは、コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物の水溶液に銀塩溶液及び触媒を添加して反応させ、同反応液に波長400nm以下の紫外線を照射して還元を行うことにより、前記コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物のαアミノ基の近傍に微細銀粒子を析出させ、静電吸着により担持させたものであることを特徴とすることとしたため、銀担持ペプチドに対し長期に亘る分散安定性を付与することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の抗菌剤では、前記大根発酵液は、Leuconostoc属に属する微生物により発酵して得られたものであることを特徴とすることとしたため、カビや酵母に対して顕著に抗菌効果や殺菌効果を生起することができる。
【0015】
また、請求項4に記載の化粧料では、請求項1〜3に記載の抗菌剤を添加したため、長期に亘ってカビや酵母による汚染を防止することのできる化粧料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、微細銀粒子を担持させたポリペプチドを含有する銀溶液と、大根を所定の浸漬液中で発酵し搾汁して得られる大根発酵液とを混合してなる抗菌剤を提供するものである。
【0017】
なお、ここで搾汁とは、フィルタープレス等により圧搾しながら絞り汁を得るのを含むのは勿論のこと、例えば、布や紙、糸巻きフィルター等により濾過して濾液を得ることについても包含する。
【0018】
本発明に係る抗菌剤によれば、化粧料を汚染するカビや酵母に対して抗菌効果や殺菌効果を生起することができる。
【0019】
特に化粧料は、工場等で製造されたり出荷される時点では、衛生的な環境が保たれいるため、微生物汚染のおそれは殆どないが、使用者が化粧料の内容物を手に取り出したり、指先に付着させた場合、使用者の皮膚に付着しているカビや酵母が化粧料の取出し口を汚染したり、また、内容物を直接汚染する場合がある。
【0020】
このような場合、時間の経過に伴って、カビや酵母が内容物中で繁殖するおそれがあり、化粧料の劣化の大きな要因となる。
【0021】
そこで、本発明に係る抗菌剤を用いることにより、カビや酵母に対して抗菌効果や殺菌効果を生起して、カビや酵母による汚染を可及的防止することができるのである。
【0022】
ここで、微細銀粒子を担持させたポリペプチド(銀担持ペプチド)は、コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物の水溶液に銀塩溶液及び触媒を添加して反応させ、同反応液に波長400nm以下の紫外線を照射して還元を行うことにより、前記コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物のαアミノ基の近傍に微細銀粒子を析出させ、静電吸着により担持させたものであることが望ましい。
【0023】
銀を担持させるポリペプチドは、特に限定されるものではないが、使用者が摂取したり皮膚に塗布した場合でも無害であることが要求される。
【0024】
そこで、このようなポリペプチドとして、化粧料として使用実績の高いコラーゲンやコラーゲンの加水分解物が挙げられるが、コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物は、使用者が摂取したり皮膚に塗布した場合でも無害であるだけでなく、皮膚の張りや艶を改善する効果があると言われている。
【0025】
それゆえ、銀粒子の担体をコラーゲンやコラーゲンの加水分解物とした場合には、化粧料に、カビや酵母に対する抗菌効果や殺菌効果を付与でき、しかも、皮膚の改善効果をも期待することができる。
【0026】
また、詳細は未だ不明であるものの、コラーゲンやコラーゲンの加水分解物は、他のポリペプチドに比して水中での安定性が高く、銀粒子の析出を効果的に抑制することができるという効果も有している。
【0027】
これはコラーゲンやコラーゲンの加水分解物を構成するアミノ酸残基に由来する疎水度や、三次構造によるものであると考えられる。
【0028】
この観点からも、銀粒子の担体として、コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物を選択する長所がある。
【0029】
換言すれば、銀担持ペプチドは、微細銀粒子を水溶性乃至親水性ゲルの状態を採り得る有機高分子ミセルの電気陰性官能基(ペプチド基のαアミノ基)に静電吸着により担持させ、水溶性高分子ミセルに付与したものであるとも言える。
【0030】
銀溶液を調製する際に使用する銀塩溶液は、アンモニア性硝酸銀水溶液、硝酸銀水溶液、硫酸銀水溶液より成る群から選択される少なくとも一種の銀塩溶液とすると良い。
【0031】
これらの銀塩溶液を使用することにより、効率よく微細銀粒子を析出させることができる。
【0032】
また、銀塩溶液としては、上述したようにアンモニア性硝酸銀水溶液、硝酸銀水溶液および硫酸銀水溶液の中から一種類を選択するが、いずれも還元生成する微細銀粒子の抗菌効果に於ける顕著な差異は認められない。
【0033】
いずれも本発明の特徴的効果を発現することができるが、担体の材質、性状により適切な銀塩を試験により選択することが好ましい。発明者らの知見では、アンモニア性硝酸銀水溶液並びに硝酸銀水溶液は分子量が10万以上の比較的高分子量のコラーゲン或いはゼラチンへの担持に適しており、最も汎用性の高い銀塩溶液である。硫酸銀水溶液は分子量が数千乃至10万未満のコラーゲン或いはゼラチンへの担持に適している。
【0034】
担持に使用される銀塩水溶液の濃度(Ag+ mol/l)は0.1〜0.001の範囲が適している。銀イオン濃度が高すぎると生成する銀粒子が凝集し易くなり、微細銀粒子の量子サイズ効果が低下するため抗菌効果が低減される傾向がある。銀イオンの濃度を低めに設定した場合の方が抗菌効果に優れた結果が得られる。
【0035】
また、抗菌性組成物の調製時に使用する触媒は、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの、それぞれの水溶液より成る群から選択される少なくとも一種の水溶液としても良い。
【0036】
これらの水溶液を使用することにより、効率よく微細銀粒子を析出させることができる。
【0037】
また、上述したように、触媒としては、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムのそれぞれの水溶液の中から一種類を選択するが、いずれも還元生成する微細銀粒子の抗菌効果に於ける顕著な差異は認められない。当該触媒は、先に担体の水溶液に添加加される上記銀塩水溶液の銀イオンを、担体のペプチド結合の切断で生成するαカルボキシル基の水素と一時的に置換するための触媒として使用されるものである。
【0038】
上記触媒の選択は、担体の種類、分子量によって適切な触媒を試験して選択することが好ましい。水酸化カルシウムは水に対する溶解度が比較的低いため分子量が1万未満の比較的低分子量のコラーゲンへの担持に適している。
【0039】
水酸化リチウムは高分子量(10万以上)のコラーゲンへの適用に効果的である。水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムは共通して全分子量領域のコラーゲンに使用して効果的な汎用性を持つ触媒である。従って、コラーゲンを選択する場合、最初の担持触媒として水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウムを使用した試験担持の試行を推奨する。
【0040】
添加される触媒の水溶液濃度は、担体として使用されるコラーゲンに対して2乃至5重量%に相当する量の触媒成分を含む水溶液を使用する。触媒成分の種類により水に対する溶解度がそれぞれ異なるので触媒水溶液の濃度は適宜選択可能であるが、最高10重量%以下が好ましい。ことに、強アルカリ性の水酸化リチウム、水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムを選ぶ際は、それぞれ10重量%未満の水溶液で使用することを推奨する。
【0041】
また、紫外線照射による還元に使用される光源として、自然太陽光、高圧或いは低圧キセノンガス放電管、高圧或いは低圧水銀灯或いはそれらと同等の紫外線放射能を有する光源群から選択される一種若しくは2種以上を用いるようにしても良い。
【0042】
これらの光源を使用することにより、効率よく微細銀粒子を析出させることができる。
【0043】
この紫外線の照射は、αアミノ基及びαカルボキシル基に、配位又は置換で結合している銀イオンをその場で光還元し、微細銀粒子を生成させると同時に、該粒子をαアミノ基周辺の陰性電界領域に静電吸着させる微細銀粒子の担持工程となる。
【0044】
光源は、波長400nm以下の近紫外領域を含む光源であればすべて使用が可能である。好ましくは、上述したように、紫外線を集中的に放射する水銀ランプ、キセノンガス放電管、或いはそれらと同等以上の紫外線放射能力を持つ照明器具の使用が好ましい。本発明者らは、試みに太陽光による照射実験を行った結果、晴天の午前11時から午後2時の時間帯を選び、太陽光に30分間照射された試料について試験の結果、十分満足すべき還元結果が得られることを確認した。
【0045】
紫外線照射による光還元工程の確認は、紫外吸収スペクトルメーターを用いて、紫外線照射以前の試料の300nm付近の特定波長の吸収と、紫外線照射還元処理後の同一波長の吸収との差を比較する方法が原則的に適切である。しかし、天然物由来のコラーゲンでは分子量、不純物の種類及びその含有量等のばらつきが大きいため、紫外吸収スペクトルによる測定は困難である。よって、光還元工程の確認及び管理の簡易な方法として比色計を用いる方法を推奨している。
【0046】
比色計による上記光還元工程の確認は、波長430〜540nmの光の比透過率を光還元工程の前後で測定比較し、その差が5%以上であれば還元の完了を確認できる。この方法は簡易であるが実際上の便宜があり工業的に有効である。
【0047】
一方、大根発酵液は、大根を所定の浸漬液中で発酵し搾汁したものである。この大根の発酵は、ラクトバシラス属 (Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属 (Enterococcus)、ラクトコッカス属 (Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属 (Leuconostoc)等に属する乳酸菌によって発酵されたものが好ましい。
【0048】
なかでも、ヘテロ発酵を行うリューコノストック属(Leuconostoc)により発酵して搾汁された大根発酵液が望ましく、カビや酵母に対して抗菌効果や殺菌効果を比較的顕著に生起させることができる。
【0049】
また、上述してきたように、本発明に係る抗菌剤を化粧料に添加することにより、カビや酵母による化粧料の汚染を、人体に安全にかつ効果的に防止することができる。
【0050】
次に、本発明に係る抗菌剤の実施形態及び効果について具体的に説明する。
【0051】
〔1.抗菌剤の調製〕
本実施形態に係る抗菌剤の調製について説明する。以下ではまず、銀溶液の調製について説明し、次いで、大根発酵液の調製について説明し、さらに、これらを調合して抗菌剤を調製する過程について説明する。
【0052】
銀溶液は、下記の(1)〜(6)の手順に従って調製した。
【0053】
(1)コラーゲン粉末100グラムを500ml丸底フラスコに入れ、水200mlを加えて50℃に加熱撹拌しながら完全に溶解した。
【0054】
(2)次いで、0.5%硝酸銀水溶液70mlを上記コラーゲン溶液に添加し、温度60±2.0℃に保持して30分間撹拌反応させた。
【0055】
(3)これに、5.0%水酸化カリウム水溶液100mlをくわえて上記温度を保持したまま2.5時間継続して撹拌した。
【0056】
(4)次に加熱を止め反応液を室温迄冷却した。この間撹拌は継続した。本工程を終了した時点で、反応液の一部約5mlを比色計用ガラス製比色管(A)に予め採取した。
【0057】
(5)反応液を平型のステンレス製バット(30×21×5cm)に移し、水平に保持し、反応液面の中心より垂直距離30cm上方から直下に紫外線を10分間照射して光還元を行った。反応液の一部約5mlを採取して比色管(B)に保管した。光還元に使用された紫外線光源装置は、浜松ホトニックス株式会社製、安定化キセノンランプ75W及び専用定電流電源C2576である。
【0058】
(6)光還元工程を確認するため、上記工程(4)及び工程(5)で予め採取保管された比色用試料を、波長430nmの光透過率を比較して還元反応を確認した。その際の比色管(A)/比色管(B)の透過比は25%で還元が十分行われたことが確認できた。なお、使用した比色計はATAGO株式会社製Photo Unic5である。
【0059】
次に、大根発酵液の調製について説明する。
【0060】
密閉可能な25L容器内に、塩濃度10%とした食塩水10Lを浸漬液を収容し、同浸漬液にすり下ろした大根10kgを添加し、キムチ由来の微生物(Leuconostoc sp.)を接種した。この状態で、14日間35℃にて保管し発酵をおこなった。
【0061】
次いで、得られた発酵液をフィルタープレスを用いて濾過しながら搾汁し、大根発酵液を得た。
【0062】
次に、前述の銀溶液と大根発酵液とを調合して抗菌剤を調製する過程について説明する。
【0063】
200mlビーカーに98mlの水を収容し、1mlの銀溶液と、1mlの大根発酵液とを添加してスターラーにて5分間撹拌を行うことにより抗菌剤とした。
【0064】
〔2.本実施形態に係る抗菌剤による効果の検証〕
次に、調製した抗菌剤の効果について検証を行った。使用した菌は、Eshrichia coli(大腸菌)、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Bacillus sbutilis(芽胞形成菌)、Candida albicans(酵母)、Aspergillus niger(カビ)の6種類である。
【0065】
菌液の調製は次の通り行った。まず、凍結乾燥保存していたそれぞれの微生物をトリプチックソイ寒天培地(SCD寒天培地)に1白金耳移殖し、35±1℃で16〜24時間培養する(前々培養)。なお、Aspergillus nigerに関しては、サブロー寒天培地に移殖し、生育の度合いを見ながら20〜25℃にて72〜120時間培養を行った。
【0066】
次いで、前々培養した各菌を、SCD寒天培地に1白金耳移殖し、35±1℃で16〜24時間培養する(前培養)。なお、Aspergillus nigerに関しては、前培養を行っていない。
【0067】
そして、4mlの滅菌リン酸緩衝生理食塩水にそれぞれの菌株を1エーゼ溶解し、菌液を調製した。このときの各菌液中の生菌数は、細菌で107〜109cells/ml、105〜107cells/mlであった。
【0068】
また、試験液としては、銀溶液と大根発酵液と本実施形態に係る抗菌剤の3種類を用いることとした。
【0069】
そして、これらの試験液を滅菌チューブに10gづつ7本にそれぞれ分注し、うち6本に各菌液を100μlづつ接種するとともに、1本は菌液を接種しないコントロールとした。
【0070】
そして、これらのチューブを20〜25℃に2週間保存し、その間の抗菌・殺菌効果について検証を行った。その結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1にも示すように、本実施形態に係る抗菌剤は、酵母及びカビにおいて、銀溶液単独や大根発酵液単独の場合に比して、抗菌・殺菌効果が顕著に表れる結果となった。なお、前述のコントロールでは、微生物の成育は確認されなかったため、この表1での記載は省略している。
【0073】
表1について具体的に説明すると、まず、Eshrichia coli(大腸菌)では、接種1時間後では、銀溶液、大根発酵液、抗菌剤のいずれにおいても、希釈倍数から算出した生菌数とほぼ同等の生菌が確認されたが、3時間後では生菌数の減少が見られ、1日後には検出限界以下となった。その後、2週間後まで生菌は確認されなかった。
【0074】
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)では、接種1時間後では、銀溶液、大根発酵液、抗菌剤のいずれにおいても、希釈倍数から算出した生菌数とほぼ同等の生菌が確認された。3時間後では銀溶液にのみ減少傾向が見られ、1日後の時点では、銀溶液は検出限界以下となり、大根発酵液及び抗菌剤は僅かに生菌が検出される程度となった。1週間後以降はいずれの試験液においても生菌は確認されなかった。
【0075】
Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)に対しては、銀溶液及び発酵大根液のいずれにおいても、1時間後で生菌数の顕著な減少が認められたが、抗菌剤においては、有意な減少は認められなかった。しかしながら、3時間後では、抗菌剤でも生菌数の減少が認められ、1日後ではいずれの試験液においても検出限界以下となった。
【0076】
Bacillus subtilis(芽胞形成菌)では、接種3時間後に至るまでは、いずれの試験液においても生菌数の顕著な減少は認められなかったが、1日後においては、全ての試験液において減少傾向が認められ、1週間後以降は生菌は検出されなかった。
【0077】
Candida albicans(酵母)に対しては、銀溶液及び大根発酵液では、3時間後に至るまで、生菌数の顕著な減少は認められなかった。しかしながら、注目すべき点として本実施形態に係る抗菌剤では、接種1時間後において既に減少傾向が確認され、3時間経過した時点で生菌は検出限界以下となっている。
【0078】
このことは、本実施形態に係る抗菌剤が、銀溶液単独や発酵大根液単独の場合に比して、酵母に対し顕著に抗菌・殺菌効果が生起されていることを示している。
【0079】
Aspergillus nigerに対しては、銀溶液及び大根発酵液では、1日後に至るまで、生菌数の顕著な減少は認められなかった。しかしながら、注目すべき点として本実施形態に係る抗菌剤では、接種1日後において生菌数が顕著に減少している。
【0080】
このことは、本実施形態に係る抗菌剤が、銀溶液単独や発酵大根液単独の場合に比して、カビに対し顕著に抗菌・殺菌効果が生起されていることを示している。
【0081】
これらの結果を総合的に検討すると、本実施形態に係る抗菌剤は、銀溶液単独や発酵大根液単独の場合に比して、細菌類(大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、芽胞形成菌)に対しては同等または僅かに弱い抗菌・殺菌効果を生起するが、酵母やカビに対しては、銀溶液単独や発酵大根液単独の場合よりも顕著に強い抗菌・殺菌効果を示すことが確認された。
【0082】
すなわち、銀担持ペプチドの抗菌効果を可及的阻害することなく、カビや酵母に対して増殖抑制効果を生起させることができる抗菌剤であることが示された。
【0083】
また、本実施形態に係る抗菌剤では、コラーゲンを銀粒子の担体に用い、また、食品(大根)の発酵液を用いたものであるため、従来のカビや酵母の殺菌剤等に比して人体に対し刺激が少なく手肌に優しいものであることが分かる。
【0084】
〔化粧料保存試験〕
次に、前述の抗菌剤を含有する化粧料を調製し、この化粧料の保存試験を行った。ここで化粧料は化粧水とし、以下に100kgの調製過程について説明する。150L容量の調合タンクに、常温の天然水を93.28kg投入し、攪拌機を稼働させた。
【0085】
次いで、6kgの1,3-ブチレングリコールと、0.01kgのヒアルロン酸ナトリウムと、0.05kgの海草エキスとを投入し、均一に分散させた。
【0086】
充分な分散状態となった後、調合タンクのジャケット部に蒸気を通気して、調合タンク内の調合液を80℃に昇温し、30分間撹拌しながら放置することで、分散状態にあった原料を溶解した。
【0087】
充分に溶解したのを確認した後、調合タンクのジャケット部に水を流し、撹拌しながら調合液の液温を35〜40℃に調整した。
【0088】
次いで、1kgのピロリドンカルボン酸ナトリウムを投入し、前述の抗菌剤2Lをさらに投入した。
【0089】
そして、別容器にて予め5kgの天然水に0.08kgのクエン酸と0.08kgのクエン酸ナトリウムとを溶解して調製したキレート溶液を、調合タンク内に投入し、撹拌を行った。
【0090】
また、少量のクエン酸を添加して、pHが7となるようにpH調整をおこなった。
【0091】
最後に、調合液の液温を35℃に調整し、この調合液を200〜400メッシュのフィルタにて濾過して化粧水100kgを得た。
【0092】
また、比較対象となる化粧水として、抗菌剤に替えて天然水を2L添加した化粧水についても調製した。
【0093】
そして、これらの各化粧水を300mLずつ滅菌済みのメジューム瓶に分注し、蓋を取り付けない状態で(落下菌が混入可能な状態で)25℃にて3ヵ月間保存試験をおこなった。なお、水分の蒸発が生じるため、2週間毎に滅菌水を減少分だけ添加することとした。
【0094】
その結果、抗菌剤を添加した化粧水は、3ヵ月間に亘り目視で確認できるカビの発生は認められず、また、顕著な濁度の増加も認められなかった。
【0095】
一方、抗菌剤を添加しない化粧水は、1ヵ月経過した時点で黒いカビ様の浮遊物が認められ、3ヵ月後にはその浮遊物が直径約2cm程度のコロニーに成長した。また、瓶底には沈殿物が認められ、この沈殿物の検鏡により酵母が検出された。
【0096】
これらのことから、本実施形態に係る抗菌剤を添加した化粧料は、カビや酵母の生育を効果的に抑制することができることが示された。
【0097】
なお、抗菌剤を添加した化粧水は、同化粧水を製造した工場の社員20名により1日1回3ヵ月に亘って塗布を行ったが、皮膚への異常は報告されなかった。
【0098】
上述してきたように、本実施形態に係る抗菌剤は、微細銀粒子を担持させたポリペプチドを含有する銀溶液と、大根を所定の浸漬液中で発酵し搾汁して得られる大根発酵液とを混合してなることとしたため、銀担持ペプチドの抗菌効果を可及的阻害することなく、カビや酵母に対して増殖抑制効果を生起させることができ、しかも、人体に対して刺激の少ない抗菌剤を提供することができる。
【0099】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細銀粒子を担持させたポリペプチドを含有する銀溶液と、大根を所定の浸漬液中で発酵し搾汁して得られる大根発酵液とを混合してなる抗菌剤。
【請求項2】
前記微細銀粒子を担持させたポリペプチドは、コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物の水溶液に銀塩溶液及び触媒を添加して反応させ、同反応液に波長400nm以下の紫外線を照射して還元を行うことにより、前記コラーゲンまたはコラーゲンの加水分解物のαアミノ基の近傍に微細銀粒子を析出させ、静電吸着により担持させたものであることを特徴とする請求項1に記載の抗菌剤。
【請求項3】
前記大根発酵液は、Leuconostoc属に属する微生物により発酵して得られたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の抗菌剤。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の抗菌剤を添加した化粧料。

【公開番号】特開2010−59132(P2010−59132A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228893(P2008−228893)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(508269042)株式会社シフト (1)
【出願人】(507373520)株式会社ゼンシン (6)
【出願人】(508269031)株式会社三陽商会 (1)
【出願人】(505109543)UFSリファイン株式会社 (3)
【出願人】(508269983)株式会社UFS (1)
【出願人】(397021464)株式会社永▲廣▼堂本店 (6)
【Fターム(参考)】