説明

抗菌活性および抗真菌活性を有する医療機器として使用するための、ヒアルロン酸誘導体と組み合わせた、亜鉛で塩化したカルボキシメチルセルロースをベースとする生体材料、ならびにその製造方法

様々な種類の創傷、褥瘡、火傷を治療する外科的処置において、そして創傷の治癒および保護処置が抗菌作用および/または抗真菌作用と関連することを必要とする全ての状態において用いられる、様々なパーセンテージでヒアルロン酸誘導体と組み合わせた、亜鉛で塩化したカルボキシメチルセルロースを含む不織布フェルトの形態の生体材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な種類の創傷、特に感染創、褥瘡、火傷を治療する外科的処置において、そして創傷の治癒および保護処置が抗菌作用および/または抗真菌作用と関連することを必要とする全ての状態において用いられる、様々なパーセンテージでヒアルロン酸誘導体と組み合わせた、亜鉛で塩化したカルボキシメチルセルロースを含む不織布フェルトの形態の新規な生体材料を述べるものである。本発明はまた、その生体材料を製造する方法に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
皮膚擦過傷、火傷または様々な種類の潰瘍(糖尿病性潰瘍、褥瘡、静脈性もしくは動脈性潰瘍)という、感染または高い感染の危険性を特徴とする様々な重度の創傷の治療は、外傷を保護し、創傷の治癒を促進し、壊死を防ぎ、生成する滲出液をすべて吸収し、そして特には抗菌/抗細菌/抗真菌特性を有する物質を放出するようになっている一連の医療機器を用いることで行われる。
【0003】
現在市販されている機器は、実質的に、抗菌剤として銀金属を含んでおり、その特徴に基づいて、下記のものに細分することができる。
【0004】
親水コロイド(接着性および非接着性発泡体):例えば、COLOPLASTのContreet(登録商標)などの親水コロイド物質(ゼラチン、ペクチン)と組み合わせたポリウレタンフォーム。
【0005】
低アレルギー性錠剤:DEVERGE’M.&M.の微粉銀金属緩衝剤を含むKatomed(登録商標)など。
【0006】
ポリエチレンメッシュ:ナノ結晶銀でコーティングされた2つの非接着性ポリエチレンメッシュの間の吸収性のコアからなる多層体であるActicoat(登録商標)(Smith & Nephew)など。
【0007】
粉剤および生理食塩水溶液:いずれもDEVERGE’M.&M.のKatoxyn(登録商標)(微粉金属銀ベースの粉末)およびVulnopur(登録商標)(銀を含む生理食塩水溶液)など。
【0008】
ハイドロファイバードレッシング材:Hydrofiber(登録商標)(セルロースカルボキシメチル繊維)および銀イオンで作られているドレッシング材であるAquacel(登録商標)Agなど。
【0009】
使用される機器は、満足すべき要件に応じて、そして創傷の種類と、その創傷に放出されるべき銀の量、すなわち感染または感染の危険性のレベルの両方に応じて選択される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
実際には、状態によっては、かなりの量の銀を早急に塗布する必要がある場合もあり(重度に感染した外傷)、また、ゆっくりと、しかし絶えず金属が放出される必要がある場合もある(部分層または全層の褥瘡)。
【0011】
上記の銀ベースのドレッシング材の使用は、銀が過敏化現象を起こすことが多いという点で、若干制限され(Chronic exposure to Silver or Silver salts, Patty’s Industrial Hygiene and Toxicology, Vol.2゜, G.D. Clayton, F.E.
Clayton, Eds. Wiley-Interscience, New York, 3rd ed., 1981, pp.1881-1894 を参照のこと。)、それは特に、細菌感染を防ぐのに高用量の金属が必要な場合、詳細には黄色ブドウ球菌;大腸菌;カンジダアルビカンス;黒色アスペルギルス;緑膿菌などの細菌株および/または真菌株の場合である。
【0012】
可能性としてセルロース誘導体と組み合わせてもよい、ヒアルロン酸誘導体の繊維ベースの不織布フェルトは、特に血塊形成を目的とする生体材料として既に報告されている。例えば、EP618817を参照のこと。しかし、それには、抗菌活性を有する金属イオンを含む生体材料は記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
公知の技術の限界および欠点は、生体接着性、弾力性、吸収特性、生体分解性/生体吸収性および広範囲の抗菌活性を特徴とする機器を提供する方法によって製造される、ヒアルロン酸誘導体を亜鉛で塩化したカルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせることによって得ることができる、本発明の主題である生体材料によって克服された。
【0014】
本発明の機器は、繊維中に亜鉛が存在するために、それを当てる組織が治癒するのに十分な時間in situに残り、創傷からの滲出液を放出することなく、それを吸収することにより、細菌汚染を防止するものである。さらに、ドレッシング材は取り扱いが容易であり、あらゆる形状および大きさの創傷に適合するように改造することができ、可撓性であるので、快適に使用することができる。
【0015】
本発明によれば、亜鉛で塩化したCMCは、抗菌活性を特徴とし、様々な原因の創傷の治療に適した医療機器を提供する方法によって、ヒアルロン酸誘導体と良好に組み合わされる。
【0016】
亜鉛が抗菌活性を有することは以前から知られており、それに関する刊行物は下記のものなど、数多くある。
【0017】
− Yamamoto et al., “Effect of lattice constant of zinc oxide on antibacterial
characteristics”, J.Mater.Sci.Mater.Med., 2004, 15, 847-851;
− Cho YH et al., “Antibacterial effect of intraprostatic zinc injection in a rat model
of chronic bacterial prostatitis”, Int.J.Antimicrob.Agents.,
2002, 19, 576-582;
− G. M. Hill et al., “Effect of pharmacological concentrations of zinc oxide with or
without the inclusion of an antibacterial agent on nursery pig performance”, J.Anim.Sci., 2001, 79, 934-941。
【0018】
他の刊行物には、亜鉛の創傷の治癒を促進する能力が記載されている。
【0019】
− Kerry A. et al., “Zinc-containing wound dressings encourage autolytic debridement of
dermal burns”, WOUNDS, 1998, 10, 54-58;
− Joe A. Vinson et al., “Age related differences in topical zinc absorption from different
formulations: Implications for health and disease”, J.Geriatr.Dermatol., 1997, 5, 276-280。
【0020】
さらに、EP526541には、酸性樹脂に結合した亜鉛が口腔疾患の治療に有用であることが開示されている。そして、この樹脂はアレルギー誘発性が非常に低いと報告されている。
【0021】
亜鉛の毒性については広く報告・立証されている(DRAFT TOXICOLOGICAL
PROFILE FOR ZINC, U.S. DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES, Public Health
Service Agency for Toxic Substances and Disease Registry September 2003)。
【0022】
【化1】

カルボキシメチルセルロースの構造
カルボキシメチルセルロースは、高い粘度と、21,000〜500,000の間の分子量(MW)を有する半合成親水性セルロース誘導体(セルロースのポリカルボキシメチルエーテルのナトリウム塩)であり、顆粒状もしくは繊維状の粉末のような形状で、白色、黄色がかった色もしくは灰色がかった色をしており、わずかに吸湿性で、無味無臭である。
【0023】
そのポリマーは、次の一般式:C(OR1)(OR2)(OR3)(式中、R1、R2、R3は−H、−CHCOONa、または−CHCOOHである。)を有する無水グルコースの置換単位を含む。
【0024】
それは、懸濁液および乳濁液中の作用薬として、錠剤用の賦形剤として、薬剤の製剤における粘度を上げる薬剤として広く使用されている。多くの注射可能なステロイド製剤中に存在する他に、それは下剤として経口投与され、また、X線の造影剤として用いられるバリウム粥中の成分として経口投与あるいは直腸投与される。カルボキシメチルセルロースに対する循環特異的IgEの存在が実証されており、この賦形剤を含むステロイドを服用した直後に反応を経験した患者は、皮膚プリックテストにおいて試験結果は陽性であった。
【0025】
ヒアルロン酸(HA)は以前から知られている。それは、交互に存在するD−グルクロン酸残基とN−アセチル−D−グルコサミン残基から成るヘテロ多糖類である。それは直鎖を有しており、それの抽出源および/またはそれの製造に用いた方法に応じて、50,000〜13×10Daの範囲の分子量を有する。それは、天然には、細胞周囲のゲル中、脊椎動物の結合組織の主物質中(それの主要成分の一つである)、関節の滑液、硝子体液および臍帯中に存在する。
【0026】
従って、HAは、特に皮膚、腱、筋肉および軟骨などの多くの組織の細胞の機械的支持剤として、生物体にとって非常に重要である。
【0027】
それの膜受容体であるCD44を通して、ヒアルロン酸は、組織水和および関節潤滑などの他の機能の他に、細胞の増殖、移動、分化および脈管形成などの細胞の生理学および生物学に関係する多くの様々なプロセスを調節する。さらに、HAが、構造上の観点から(細胞外マトリックスの構築、およびそれの水和の調節において)と、直接および間接的に介入する幅広い一連のプロセス(血塊形成、食細胞活性、線維芽細胞増殖、新血管新生、再上皮化など)に対する刺激において、その両方で組織修復プロセスにおいて非常に重要な役割を果たすことが実証されている(Weigel P. et al., J.Theoretical Biol., 1986:219-234;Abatangelo G. et
al., J.Surg.Res., 1983, 35:410-416;Goa K. et al., Drugs, 1994, 47:536-566)。
【0028】
これらの広く認められた特性は、様々な原因の創傷、潰瘍および皮膚損傷用のドレッシング材の製造に利用されてきた。
【0029】
ヒアルロン酸は様々な方法で化学的に修飾されて、出発ポリマーの生理的/薬理的特徴を維持しながら、より加工しやすく、より良好な機械的性能を与えるポリマーが得られている。本発明の目的に特に好適なのは、下記の方法によって得られるヒアルロン酸誘導体である。
【0030】
脂肪族、アリール脂肪族、脂環式、芳香族、環状および複素環式アルコールによるエステル化であって、エステル化のパーセンテージは、使用されるアルコールの種類および長さに応じて、0.1〜100%、好ましくは50〜100%の間であることができ、非エステル化HAの残りのパーセンテージは有機塩基および/または無機塩基で塩化することができる(HYAFF(登録商標)−EP216453B1)。これらの材料の優れた吸収特性も知られている(EP999859B1)。
【0031】
N−アセチル−グルコサミン部分の1級ヒドロキシルを酸化することによって得られる過カルボキシル化であり、過カルボキシル化度は0〜100%、好ましくは25〜75%である(HYOXX(商標)−特許出願番号EP1339753)。
【0032】
本発明において使用されるヒアルロン酸は、任意の供給源から、例えば雄鶏のとさかからの抽出によって(EP138572B1)、または発酵によって(EP716688B1)、または科学技術的手段によって得ることができ、その分子量は400〜3×10Daの範囲内であることができる。
【0033】
本明細書に記載の誘導体は、適当なパーセンテージでCMC亜鉛塩と組み合わせられ、湿式押出法によって、それから繊維が得られ、その繊維を用いて、新規な生体適合性で生体分解性の高吸収性、弾性、可撓性、生体接着性の医療機器が作られ、この医療機器はあらゆる形状および大きさの、様々な種類の創傷に適合するように改造することができ、抗菌活性および/または抗真菌活性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、感染しているか、または感染する危険性がある様々な種類の創傷(例えば、皮膚擦過傷、深いすり傷、切り傷)および火傷の治療において、単独で、または他のものと組み合わせて使用される医療機器の製造に好適な、不織布フェルトの形態の新規な生体材料、およびそれの製造方法に関するものである。本発明の生体材料は、完全に生体適合性かつ生体分解性であり(従って、それは、使用部位から取り除く必要がない)、生体接着性、弾性、可撓性で、創傷に適合するように改造可能であり、高吸収性で、高い抗菌活性および/または抗真菌活性を発揮することができる。これらの特徴は、その新規な生体材料を構成するポリマー、すなわち所定のパーセンテージで混合され、下記に記載の湿式押出によって加工される、亜鉛で塩化したCMCおよびヒアルロン酸誘導体によるものである。
【0035】
前述のように、CMCは、セルロースが15〜40%程度までカルボキシル化されるとヒドロゲルを形成することができる。これらは、生理水溶液の吸収に優れた特性を有する化合物を得るのに理想的な状態である。
【0036】
ヒアルロン酸を様々な方法で化学的に修飾して、出発ポリマーの生理特性/薬理特性を維持しながら、より良好な機械的特性(例えば、より良好な抵抗、およびより容易な加工と取り扱い)および調節可能な生体分解性を有するポリマーを得ることはよく知られている。
【0037】
水和しやすいという点で、本発明の特に好ましい誘導体は、下記によって得られるものである。
【0038】
・様々な種類のアルコール、特にはベンジルアルコールによるエステル化であり、エステル化度が0.1〜100%、好ましくは50〜100%であるもの(HYAFF(登録商標)−11);
・N−アセチル−グルコサミン部分の過カルボキシル化であり、過カルボキシル化度が0〜100%、好ましくは25〜75%であるもの(HYOXX(商標))。
【0039】
ヒアルロン酸部分の水和性は、創傷の治癒に有利である湿潤環境を維持し、滲出液の吸収においてCMC亜鉛塩の作用をサポートすることで、感染、新たな組織の壊死および異常な瘢痕が残るのを防止するために重要である。ヒアルロン酸は、様々な面で介入することにより、生理作用/薬理作用を発揮する。実際に、それは、細胞外マトリックスの構築、およびそれの水和の調節において活性であり、それが直接あるいは間接的に介入する幅広い一連のプロセス(血塊形成、食細胞活性、線維芽細胞増殖、新血管新生、再上皮化)を刺激する。CMCの生体分解性が遅いために、in situでそれが長く存在することによって、これらの組み合わせられた効果が高められる。
【0040】
所望に応じて、アルギン酸またはその塩、ジェランおよびコラーゲンなどのさらに別のポリマーをCMCおよびヒアルロン酸誘導体に加えることができる。
【0041】
本発明の生体材料の製造方法によって、ポリマーの加工を効率的に行い、それを工業的要求に容易に適合させることが可能になる。また、それにより、現在入手可能な公知の製品と比較して、有利な特徴を有する医療機器を得ることができる。
【0042】
本発明の方法は、適当な条件でのポリマーの混合物の湿式押出を含むものである。特には、その方法は、下記の別個の2工程を含む。
【0043】
1.ポリマーの非極性・非プロトン性溶媒(例えば、ジメチルスルホキシド−DMSO)の溶液の調製
テトラブチルアンモニウム塩またはベンザルコニウム塩などのCMCのアンモニウム誘導体と、ヒアルロン酸誘導体とを、それぞれ95%および5%、好ましくは90%および10%、より好ましくは80%および20%のパーセンテージで混合することにより、溶液を調製する。使用されるCMCは、Walocel(登録商標)CRT1000(Bayer)など市販されており、一方、ヒアルロン酸誘導体は、エステル、好ましくはベンジルエステルであり、エステル化度は様々であり、例えば75%(HYAFF(登録商標)11p75)または100%(HYAFF(登録商標)11)である。さらに別のポリマーを前記の混合物に加えてもよく、例えば同じく塩の形態(テトラブチルアンモニウムまたはベンザルコニウム)のアルギン酸またはジェランなどがあり、パーセンテージはCMC/Hyaff(登録商標)混合物の5〜50重量%の範囲である。ジェランは、CP Kelco USから市販されており(Kelcogel CG−LA ジェランガム)、一方、アルギン酸、特にはアルギン酸ナトリウムは、PRONOVAが製造している。次に、生成物を非プロトン性・非極性溶媒(DMSO)に100〜140mg/mLの濃度で溶解する。
【0044】
2.押出
溶液をタンクに入れ、定量ポンプによって、それぞれが直径65μmである3000個の孔を有する湿式押出紡糸口金に送る。
【0045】
5〜10%アルコール(無水エタノール)溶液中に塩化亜鉛または臭化亜鉛を含む凝固浴で押出を行う。紡糸口金から吐出される糸塊を、ローラーによって、純エタノールのみが入った2つの連続した、すすぎ浴中に搬送する。
【0046】
すすぎ工程の終了後、糸塊を熱風気流中で乾燥させる。
【0047】
このようにして得られた繊維を梳いて、不織布フェルトを得る。
【0048】
前記方法によって得られた繊維は10〜60μmの直径を有しており、不織布フェルトは重量が20〜500g/mで、幅が0.2〜5mmとすることができる。
【0049】
生体材料は、通常の方法によって(例えば、γ線)、包装段階で滅菌することができる。
【実施例】
【0050】
本発明の繊維の製造についての詳細な実施例を以下に報告する。
【0051】
実施例1:CMC亜鉛塩(90%)およびHYAFF(登録商標)11p75(10%)の混合物から成る不織布フェルトの製造
CMC Walocel(登録商標)CRT1000を出発原料として、水酸化テトラブチルアンモニウムを担持した強スルホン酸樹脂Dowex M15を用いてイオン交換して得られたCMCテトラブチルアンモニウム塩9gを、1gの粉末状のHYAFF(登録商標)11p75と混合し、DMSO100mLに溶解させた。
【0052】
溶解が完了したら、溶液をタンクに入れ、定量ポンプによって、それぞれが直径65μmである3000個の孔を有する湿式押出紡糸口金に送った。5%純粋エタノールのアルコール溶液中に塩化亜鉛を含む凝固浴で押出を行った。
【0053】
紡糸口金から吐出される糸塊を、ローラーによって、純粋エタノールが入った2つの連続すすぎ浴中に搬送し、その後、熱風気流中で乾燥させた。
【0054】
このようにして得られた繊維を梳いて、不織布フェルトを得た。
【0055】
最終製品である不織布フェルトは厚さ2mmのものであり、それを10×10cmのピースに切り分け、γ線によって滅菌した。
【0056】
実施例2:CMC亜鉛塩(95%)およびHYAFF(登録商標)11p75(5%)の混合物から成る不織布フェルトの製造
CMC Walocel(登録商標)CRT1000を出発原料として、塩化ベンザルコニウムでイオン交換して得られたCMCベンザルコニウム塩19gを、1gの粉末状のHYAFF(登録商標)11p75と混合し、DMSO160mLに溶解させた。
【0057】
溶解が完了したら、溶液をタンクに入れ、定量ポンプによって、それぞれが直径65μmである3000個の孔を有する湿式押出紡糸口金に送った。7%純粋エタノールのアルコール溶液中に臭化亜鉛を含む凝固浴で押出を行った。
【0058】
紡糸口金から吐出される糸塊を、ローラーによって、純粋エタノールが入った2つの連続すすぎ浴中に搬送し、その後、熱風気流中で乾燥させた。
【0059】
このようにして得られた繊維を梳いて、不織布フェルトを得た。
【0060】
最終製品である不織布フェルトは厚さ1mmのものであり、それを5×5cmのピースに切り分け、γ線によって滅菌した。
【0061】
実施例3:CMC亜鉛塩(95%)およびHYOXX(登録商標)(5%)の混合物から成る不織布フェルトの製造
CMC Walocel(登録商標)CRT1000を出発原料として、塩化ベンザルコニウムでイオン交換して得られたCMCベンザルコニウム塩9.5gを、粉末状のHYOXX(登録商標)0.5gと混合し、DMSO100mLに溶解させた。
【0062】
溶解が完了したら、溶液をタンクに入れ、定量ポンプによって、それぞれが直径65μmである3000個の孔を有する湿式押出紡糸口金に送った。5%純粋エタノールのアルコール溶液中に塩化亜鉛を含む凝固浴で押出を行った。
【0063】
紡糸口金から吐出される糸塊を、ローラーによって、純粋エタノールが入った2つの連続すすぎ浴中に搬送し、その後、熱風気流中で乾燥させた。
【0064】
このようにして得られた繊維を梳いて、不織布フェルトを得た。
【0065】
最終製品である不織布フェルトは厚さ1mmのものであり、それを5×5cmのピースに切り分け、γ線によって滅菌した。
【0066】
実施例4:CMC亜鉛塩(90%)およびHYAFF(登録商標)11p75(10%)、およびアルギン酸(CMC/HYAFF(登録商標)混合物基準で40%)の混合物から成る不織布フェルトの製造
CMC Walocel(登録商標)CRT1000を出発原料として、水酸化テトラブチルアンモニウムを担持した強スルホン酸樹脂Dowex M15を用いてイオン交換して得られたCMCテトラブチルアンモニウム塩9gを、1gの粉末状のHYAFF(登録商標)11p75と混合し、DMSO100mLに溶解させた。塩化ベンザルコニウムでイオン交換して得られたアルギン酸ベンザルコニウム塩4gを、別個に、DMSO40mLに溶解させ、CMC/HYAFF(登録商標)混合物に加えて、CMC/HYAFF(登録商標)混合物重量基準で40%の量のアルギン酸を加えた混合物を得た。
【0067】
得られた材料をタンクに入れ、定量ポンプによって、それぞれが直径65μmである3000個の孔を有する湿式押出紡糸口金に送った。5%純粋エタノールのアルコール溶液中に塩化亜鉛を含む凝固浴で押出を行った。
【0068】
実施例5:CMC亜鉛塩(80%)およびHYAFF(登録商標)11p75(20%)、およびジェラン(CMC/HYAFF(登録商標)混合物基準で25%)の混合物から成る不織布フェルトの製造
CMC Walocel(登録商標)CRT1000を出発原料として、水酸化テトラブチルアンモニウムを担持した強スルホン酸樹脂Dowex M15を用いてイオン交換して得られたCMCテトラブチルアンモニウム塩8gを、2gの粉末状のHYAFF(登録商標)11p75と混合し、DMSO100mLに溶解させた。Kelcogel CG−LAを出発原料として、水酸化テトラブチルアンモニウムを担持した強スルホン酸樹脂Dowex M15を用いてイオン交換して得られたジェラン2.5gを、別個に、DMSO25mLに溶解させ、CMC/HYAFF(登録商標)混合物に加えて、CMC/HYAFF(登録商標)混合物重量基準で25%の量のジェランを加えた混合物を得た。
【0069】
得られた材料をタンクに入れ、定量ポンプによって、それぞれが直径65μmである3000個の孔を有する湿式押出紡糸口金に送った。5%純粋エタノールのアルコール溶液中に塩化亜鉛を含む凝固浴で押出を行った。
【0070】
このようにして製造した各不織布フェルトについて、特定の試験を行い、CMC繊維によって含有される亜鉛の量および放出される亜鉛の量の両方を評価し、幾つかの細菌種および真菌種の増殖を阻害する上での亜鉛の有効性を実証した。
【0071】
以下、試験について説明する。
【0072】
37℃の人工血漿中での処理後の95/5混合物でのCMC亜鉛塩とHYAFF(登録商標)11p75の不織布フェルト中における亜鉛イオン含有量の評価
実施例2に記載の方法で得られた不織布フェルトについて、37℃の温度で、2時間、4時間、6時間、24時間、48時間および72時間の設定間隔にて人工血漿で処理することにより、繊維中に存在する亜鉛イオンの放出動態を調べた。
【0073】
不織布フェルト100mgを10mL無菌ガラスバイアル6本に入れ、人工血漿5mLで処理した。全てのバイアルを、設定時間の間、37℃の温度に保持した。インキュベーション期間後、各サンプルを0.2μmフィルターで濾過し、溶液を凍結乾燥した。時間ゼロに関しては、人工血漿のみを0.2μmフィルターで濾過し、凍結乾燥した。
【0074】
実験中に放出された亜鉛の量を図1に示す。
【0075】
亜鉛は、人工血漿と接触した状態の最初の2時間にわたり、一定の割合で不織布フェルトから放出され(繊維中に存在する亜鉛イオンのパーセンテージ、合計14%に対して7.6%)、その後、さらに48〜72時間かけて徐々に放出されて、全ての亜鉛が放出される。
【0076】
90/10混合物でのCMC亜鉛塩とHYAFF(登録商標)11p75の不織布フェルトの阻害活性の寒天拡散による分析
実施例1に従って得られた不織布フェルトについて、緑膿菌;大腸菌;黄色ブドウ球菌;カンジダアルビカンス;黒色アスペルギルスの菌株に対する抗菌活性を調べた。
【0077】
陰性の対照として、出発CMCであるWalocel(登録商標)CRT1000を用いた。
【0078】
各細菌株について、無菌状態で、手順を繰り返した。
【0079】
シャーレ2枚を準備し、それぞれに、固化させた特定の不完全寒天培地15mLの層を設け、45℃で融解させた特定の培養液5mLを加え、予め、培地中の濃度が約10UFC/mLになるように、試験微生物を接種した。培地を放置して固化させた。
【0080】
直径10mmのウェル3個を各シャーレに設けた。
【0081】
シャーレ1枚はサンプル用に、他方は陰性対照用に用いた。
【0082】
試験サンプルおよび陰性対照を次のようにして準備した。0.6gを無菌蒸留水9mLに溶解して、ゼラチン状の粘度の混合物を得た。シャーレに設けたウェルを、この混合物小量(約100μL)で縁まで満たした。
【0083】
上記の試験手順と並行して、各細菌株について、特定の不完全寒天培地15mL未満の層と特定の培養液5mL超の層を設け、培地中の濃度が約10UFC/mLになるように試験微生物を予め接種したシャーレを準備することにより、培地の繁殖力を調べた。
【0084】
このようにして準備したシャーレを、30℃±1℃で48〜72時間インキュベートした。
【0085】
インキュベーション期間終了後、シャーレは、ウェル周囲の阻害輪(inhibiting
halo)の有無について目視で調べた。さらに、対照の培地の繁殖力について準備したシャーレで微生物の増殖を評価した。
【0086】
黄色ブドウ球菌、大腸菌、カンジダアルビカンスおよび黒色アスペルギルスのサンプルを含むシャーレでは明らかな阻害輪が認められたが、緑膿菌を接種したシャーレではやや限られた阻害輪が認められた。
【0087】
いずれの陰性対照シャーレでも、阻害輪は認められなかった。
【0088】
培地の繁殖力を調べた全てのシャーレで、微生物の増殖が認められた。
【0089】
結論として、上記の試験条件では、試験した製品が、黄色ブドウ球菌および大腸菌の菌株に対して優れた殺菌活性を有し、緑膿菌に対してはより穏やかな殺菌活性を有し、黒色アスペルギルスおよびカンジダアルビカンスに対して殺菌活性を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例2に記載の方法で得られた不織布フェルトについて、37℃での人工血漿での処理中に放出された亜鉛の量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸誘導体を、亜鉛で塩化したカルボキシメチルセルロース(CMC)と組み合わせることによって構成された、不織布フェルトの形態の生体材料。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸誘導体がアルコールとのエステルである請求項1に記載の生体材料。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸誘導体がベンジルエステルである請求項2に記載の生体材料。
【請求項4】
エステル化のパーセンテージが0.1〜100%である請求項2または3に記載の生体材料。
【請求項5】
エステル化のパーセンテージが50〜100%である請求項4に記載の生体材料。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸誘導体がN−アセチル−グルコサミン部分の過カルボキシル化誘導体である請求項1に記載の生体材料。
【請求項7】
過カルボキシル化度が25〜75%である請求項6に記載の生体材料。
【請求項8】
前記カルボキシメチルセルロースが、15〜40%のカルボキシル化度を有する請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項9】
前記カルボキシメチルセルロースの重量パーセンテージが、前記ヒアルロン酸誘導体の95〜5%である請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項10】
前記カルボキシメチルセルロースの重量パーセンテージが、前記ヒアルロン酸誘導体の90〜10%である請求項9に記載の生体材料。
【請求項11】
前記カルボキシメチルセルロースの重量パーセンテージが、前記ヒアルロン酸誘導体の80〜20%である請求項10に記載の生体材料。
【請求項12】
アルギン酸またはその塩、ジェランおよびコラーゲンから選択されるポリマーをさらに含む請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載の生体材料。
【請求項13】
a)カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩、ヒアルロン酸誘導体のアンモニウム塩、および任意選択で請求項12記載のさらなるポリマーのアンモニウム塩の非プロトン性・非極性溶媒溶液を調製する工程;
b)5〜10%エタノールのアルコール溶液中に塩化亜鉛または臭化亜鉛を含む凝固バッチにおいて、紡糸口金で湿式押出する工程;
c)押出によって得られた糸状物をエタノール中ですすぐ工程;
d)熱風気流中で乾燥させる工程;
e)乾燥させた糸状物を梳く工程
を有する請求項1〜12のうちのいずれか1項に記載の生体材料の製造方法。
【請求項14】
前記カルボキシメチルセルロース塩がテトラブチルアンモニウム塩またはベンザルコニウム塩である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記溶媒がジメチルスルホキシドである請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
直径が10〜60μmである請求項13〜15のうちのいずれか1項に記載の方法によって得ることができる繊維。
【請求項17】
様々な原因の創傷および火傷の治療用の器具または機器の製造のための請求項1〜12のうちのいずれか1項に記載の生体材料の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−505687(P2009−505687A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521865(P2008−521865)
【出願日】平成18年7月17日(2006.7.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/007019
【国際公開番号】WO2007/009728
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(508020476)フィディア アドバンスト バイオポリマーズ ソチエタ ア レスポンサビリタ リミタータ (1)
【Fターム(参考)】