説明

抗菌防カビ性樹脂組成物、コーティング被膜およびその製造方法

【課題】抗菌防カビ性樹脂組成物及び該膜を備える空調ダクトを提供する。
【解決手段】抗菌防カビ性樹脂組成物は、式(1)の重量平均分子量100000〜2000000のホスホリルコリン基含有重合体と、式(2)のビグアニド系抗菌防カビ剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物、室内装飾品、各種空調機、ダクト、水周り等の抗菌防カビを必要とする箇所において、人体への影響を抑え、優れた抗菌防カビ作用を中長期的に発揮しうる、樹脂基体に抗菌防カビ剤を備えたコーティング被膜、その製造方法、該被膜を製造しうる抗菌防カビ性樹脂組成物、並びに該コーティング被膜を備えた空調ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物における気密性の向上や空調設備の完備により、室内環境が、院内感染に係る黄色ブドウ球菌や病理性大腸菌等の細菌類だけでなく、喘息アレルギーの原因の一つである真菌(カビ)類にとっても快適な生育環境になっている。
そこで、細菌類及び真菌類の双方に効果がある抗菌材料の開発が望まれている。
従来、抗菌材料としては、基材に抗菌剤等を備える塗膜材料や、細菌類等の基材への付着そのものを防止する抗菌剤等を有していない塗膜材料等が知られている。
前者の基材に抗菌剤等を備える材料としては、例えば、非特許文献1において、抗菌防カビ剤をプラスチックに練り込んだり、抗菌防カビ剤を含有する塗料をコーティングした材料が提案されている。また、特許文献1及び2においては、アクリル樹脂に抗菌防カビ剤としての塩酸ポリヘキサメチレンビグアニドを内包した材料が提案されている。
このような材料は、基材のアクリル樹脂自体に菌付着抑制作用がないため、抗菌防カビ剤として有機系を用いた場合には、該抗菌防カビ剤が基材から徐放されることにより抗菌活性が発現される。
【0003】
しかし、このような徐放作用により抗菌防カビ作用を発揮させる材料を、例えば、カビの発生し易い空調ダクト等に適用した場合、送風による抗菌防カビ剤の室内への拡散が生じ、アレルギー症状等の人体への悪影響が懸念される。従って、このような材料は、特に、病院、食品工場、バス、車両内の空調ダクトを中心とした防菌面への連続的な使用には適さない。
一方、近年、銀系等の無機系の抗菌防カビ剤を用い、湿気による塗膜表面への微量銀イオンの溶出により殺菌作用を示す材料や、酸化チタン系の光触媒作用による微量活性酸素発生等による抗菌材料も開発されている。
しかし、このような材料は、抗菌作用を得るために、いずれも適当な湿度環境や光が必要等の外部環境に大きな影響を受けるため、特に、上述のダクト環境下等においての使用には適していない。
【0004】
また、上述の抗菌剤等を有していない塗膜材料としては、例えば、シリコーン系塗膜やフッ素系塗膜が知られている他、特許文献3及び4において、ホスホリルコリン基含有重合体を用いた菌付着抑制効果を有する塗膜が提案されている。
これら文献によると、該塗膜の抗タンパク吸着性や細胞接着抑制等のいわゆる生体物質の吸着抑制効果を利用した用途が検討されている。
しかし、このような効果は、理化学機器やメディカルデバイス等における一時的な菌付着抑制作用を得るためのものであり、例えば、空調ダクト等の中長期使用環境下においては、特に真菌類が再付着するために、所望性能の持続が見込めない。
ところで、前記ホスホリルコリン基含有重合体を基体とし、抗菌防カビ剤を備えた塗膜材料も考えられる。しかし、このような材料は、上述した従来の抗菌防カビ剤の溶出や徐放による抗菌防カビ作用の発現を期待するものであり、該抗菌防カビ剤の溶出を抑制した抗菌防カビ作用の発現が見込めるものではない。
【非特許文献1】特殊機能コーティングの開発と展望、シーエムシー、2002年、p.278−289
【特許文献1】特表2001−508041号公報
【特許文献2】特表2003−517498号公報
【特許文献3】特表平7−506138号公報
【特許文献4】特開2003−180801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、基体である膜からの抗菌防カビ剤の溶出等を抑制し、該抗菌防カビ剤により形成される菌の発育阻止ゾーン(ハロー)の拡散を抑制し、人体への悪影響を防止しながら中長期的に優れた抗菌防カビ作用を示すことが可能な抗菌防カビ性のコーティング被膜、並びに該被膜を製造するための抗菌防カビ性樹脂組成物を提供することにある。
本発明の別の課題は、上記コーティング被膜を所望の防菌面に容易に形成することが可能な抗菌防カビ性のコーティング膜の製造方法を提供することにある。
本発明の他の課題は、抗菌防カビ剤の基体からの溶出等が抑制され、該抗菌防カビ剤により形成される菌の発育阻止ゾーン(ハロー)の拡散も抑制され、ダクトにおける空調によって生じる抗菌防カビ剤の人体への悪影響を防止しながら中長期的にダクト内における抗菌防カビ作用を発揮しうる空調ダクトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明によれば、式(1)で示される重量平均分子量100000〜2000000のホスホリルコリン基含有重合体と、式(2)で示されるビグアニド系抗菌防カビ剤とを含み、かつ前記ホスホリルコリン基含有重合体とビグアニド系抗菌防カビ剤との配合割合が、重量比で1:1〜30である、ビグアニド系抗菌防カビ剤溶出抑制型の抗菌防カビ性樹脂組成物が提供される。
【化2】

(式(1)中、n及びmはモル分率を示し、それぞれn=0.5〜0.8の数、m=0.2〜0.5の数を示す。但し、n+m=1である。pは1〜12の整数を示す。また、式(2)中、xは1〜500の数を示す。)
また本発明によれば、上記抗菌防カビ性樹脂組成物を含む抗菌防カビ性のコーティング被膜が提供される。
更に本発明によれば、上記抗菌防カビ性樹脂組成物を溶剤に溶解し、該組成物濃度が0.5〜5重量%の抗菌防カビ用塗工液を準備する工程(a)と、該抗菌防カビ用塗工液を、防菌面に塗布又はスプレー噴霧し、塗工液被膜を形成する工程(b)と、該塗工液被膜を乾燥させる工程(c)とを含むことを特徴とする抗菌防カビ性のコーティング被膜の製造方法が提供される。
更にまた本発明によれば、空調ダクトの防菌面に、上記抗菌防カビ性のコーティング被膜を備えたことを特徴とする空調ダクトが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の抗菌防カビ性樹脂組成物は、特定分子量及び構造のホスホリルコリン基含有重合体と、特定の抗菌防カビ剤とを特定割合で含むので、基体である膜からの抗菌防カビ剤の溶出等を抑制し、該抗菌防カビ剤により形成される菌の発育阻止ゾーンの拡散を抑制し、人体への悪影響を防止しながら中長期的に優れた抗菌防カビ作用を示す抗菌防カビ性のコーティング被膜、及びその製造方法に用いる原材料に好適である。
本発明の抗菌防カビ性のコーティング被膜は、上記本発明の組成物を含むので、抗菌防カビ剤の溶出及び拡散に伴う人体への影響を抑え、優れた抗菌防カビ作用を中長期的に発揮することができる。従って、建築構造物、室内装飾品、各種空調機、ダクト、水周り等の抗菌防カビを必要とする種々の防菌面に適用することができる。
本発明の空調ダクトは、上記本発明のコーティング被膜を所望の防菌面に備えるので、抗菌防カビ剤の基体からの溶出等が抑制され、該抗菌防カビ剤により形成される菌の発育阻止ゾーンの拡散も抑制され、ダクトにおける空調によって生じる抗菌防カビ剤の人体への悪影響を防止しながら中長期的にダクト内における抗菌防カビ作用が発揮される。従って、特に、病院、食品工場、バス、車両内等における空調ダクトとしての使用に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の抗菌防カビ性樹脂組成物(以下、本発明の組成物という)は、上記式(1)で示される特定分子量のホスホリルコリン基含有重合体(以下、重合体(1)と略す)と、上記式(2)で示されるビグアニド系抗菌防カビ剤(以下、抗菌防カビ剤(2)と略す)とを特定割合で含む。
尚、本発明において「抗菌」とは、微生物の発生・生育・増殖を抑制することをいい、特に製品表面の細菌の増殖を抑制することを言う。また「防カビ」とは、カビの発生・育成・増殖を抑制することをいい、特に製品表面のカビの増殖を抑制することを言う。
以上の「抗菌」及び「防カビ」の定義については、文献「抗菌・防カビ技術」(株式会社東レリサーチセンター調査研究部門、2004年、p.22)を参考とした。
【0009】
重合体(1)を示す上記式(1)において、n及びmはモル分率を示し、それぞれn=0.5〜0.8の数、m=0.2〜0.5の数を示す。但し、n+m=1である。mが0.2未満、即ち、nが0.8を超えると、コーティング被膜とした際に、ホスホリルコリン基由来の菌カビ付着抑制能が発現され難く、一方、mが0.5を超えると、即ち、nが0.5未満の場合は、コーティング被膜とした際の基体としての膜強度が低下し、内包する抗菌防カビ剤が溶出する恐れがある。また、pは1〜12の整数を示す。pが13以上の場合は、アルキル基による疎水性及び立体障害のために、コーティング被膜とした際に、ホスホリルコリン基由来の菌カビ付着抑制能が十分発現できない。
【0010】
上記重合体(1)としては、例えば、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−メチルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−エチルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−プロピルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−ブチルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−ペンチルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−ヘキシルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−オクチルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−ノニルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−デシルメタクリレート)、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−ドデシルメタクリレート)が挙げられる。入手のし易さ等から、ポリ(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート−ブチルメタクリレート)が好ましい。
【0011】
上記重合体(1)の分子量は、重量平均分子量で100000〜2000000、好ましくは300000〜1000000である。重量平均分子量が100000未満では、コーティング被膜とした際に上記抗菌防カビ剤(2)の溶出の可能性があり、2000000を超えると重合体(1)と抗菌防カビ剤(2)とを混合した際に不均一となる恐れがある。
【0012】
上記重合体(1)は、例えば、特開平9−3132号公報、特開平8−333421号公報、特開平11−35605号公報等に記載される公知の重合方法により調製することができる。例えば、原料としての、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートモノマーと、n−アルキルメタクリレートとを、重合開始剤の存在下、塊状重合、乳化重合、分散重合、溶液重合等の方法で重合することにより得ることができる。但し、重合時の発熱による分子量のコントロールのし易さ等の点からは、溶液重合が望ましい。
前記重合開始剤としては、通常用いられるラジカル重合開始剤が使用でき、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、サクシニルパーオキサイド、グルタルパーオキサイド、サクシニルパーオキシグルタノエート、t−ブチルパーオキシマレート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシカーボネート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2−アゾビスイソブチレート、1−((1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ)ホルムアミド、2,2−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミヂン)ジハイドロクロライド、2,2−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド)、2,2−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2−アゾビス(2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル)等のアゾ化合物が挙げられ、使用に際しては単独若しくは混合物として用いることができる。
【0013】
本発明に用いる抗菌防カビ剤(2)は、上記式(2)で示され、使用に際しては、塩を形成していてもよい。式(2)においてxは、1〜500の数である。
抗菌防カビ剤(2)としては、例えば、ヘキサメチレンビグアニド(以下PHMBと略す)、そのポリマー、ならびにその塩基化合物の水溶性塩が挙げられる。
PHMBのポリマーとしては、通常、分子量約2000であり、上限として100000のものが挙げられる。このようなビグアニド化合物としては、例えば、アーチケミカルズインコーポレイテッド製の商品名Cosmosil CQ、Proxel IB等の市販品を用いることができる。
【0014】
本発明の組成物において、上記重合体(1)と上記抗菌防カビ剤(2)との配合割合は、重量比で1:1〜30、好ましくは1:5〜20である。重合体(1)に対する抗菌防カビ剤(2)の割合が上記30を超えると、本発明の組成物を所望箇所に塗布した後に、重合体(1)から抗菌防カビ剤(2)が溶出する恐れがある。一方、重合体(1)に対する抗菌防カビ剤(2)の割合が上記1未満では、抗菌防カビ剤(2)の有する抗菌防カビ性能が十分発現できない恐れがある。
【0015】
本発明の組成物においては、上記抗菌防カビ剤(2)に加えて他の抗菌防カビ剤を、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、少量含有させ、抗菌防カビ作用を更に強化することもできる。
他の抗菌防カビ剤としては、例えば、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブロモニトロ−1,3−プロパンジオール、N−(2−ヒドロキシプロピル)−アミノメタノール、3−メチル−4−イソプロピルフェノール、2−イソプロピル−5−メチルフェノール、オルトフェニルフェノール、オルトフェニルフェノールナトリウム、モノクロロ−2−フェニルフェノール、4−クロロ−3,5−ジメチルフェノール、メチルフェノール、パラクロロフェノール、トリブロムフェノール、4−クロロ−2−(フェニルメチルフェノール)、安息香酸、安息香酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸エステル、パラヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(メチルパラベン)、1−((ジヨードメチル)スルホニル)−4−メチルベンゼン、2,3,5,6−テトラクロル−4−(メチルスルホニル)ピリジン、(2−ピリジルチオ−1−オキシド)ナトリウム、ビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、3,4,4'−トリクロロカルバニリド、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド(塩化ベンゼトニウム)、セチルピリジニウムクロライド(塩化セチルピリジニウム)、その他イソチアン酸アリル、ヒノキチオールのような天然抽出エキス等が挙げられる。
【0016】
本発明の抗菌防カビ性のコーティング被膜は、上記本発明の組成物を含む。
前記コーティング被膜は、例えば、前記本発明の組成物を溶剤に溶解し、該組成物濃度が0.5〜5重量%の抗菌防カビ用塗工液を準備する工程(a)と、該抗菌防カビ用塗工液を、防菌面に塗布又はスプレー噴霧し、塗工液被膜を形成する工程(b)と、該塗工液被膜を乾燥させる工程(c)とを含む本発明におけるコーティング被膜の製造方法により得ることができるが、その製造方法はこれに限定されない。
【0017】
工程(a)において用いる溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、グリセリン、1,3−ブタンジオール、又はこれら2種以上の混合溶剤、これら少なくとも1種と、水及び/又はヘキサンとの混合溶剤が挙げられ、安全性と塗工性の点からエタノールと水との混合溶剤、2−プロパノールと水との混合溶剤系が望ましい。
工程(a)において、前記溶剤を含む抗菌防カビ用塗工液中における本発明の組成物の濃度は、溶液粘度や製造コストの観点から上記範囲にすることが望ましい。
【0018】
工程(b)において防菌面は、建築構造物やその周辺機器、機械等において、細菌や酵母を含むカビが発生し易く、これらの発生を防止する必要のある面であれば特に限定されない。例えば、建築構造物では、床、壁、天井、外壁材等の表面の所望箇所、周辺領域では、空調機、家具、室内装飾品、水周り等における表面の所望箇所が対象となる。特に、空調機では、加湿器周辺、除湿器周辺、ドレンまわり、ダクト内面、吹き出し口等を形成する表面が挙げられる。水周りでは、食品製造器、食品保存庫、熱交換器、水槽等における表面が挙げられる。
更に、抗菌防カビ剤により形成される菌の発育阻止ゾーン(ハロー)の拡散の抑制が強く望まれる、病院用の空調ダクト、クーリングタワーにおける所望箇所の表面や、醸造工場、製パン工場、生麺工場、水産加工場等の食品関連工場における空調ダクトにおける所望箇所の表面、幼稚園、小学校、福祉施設等の公共施設、列車、自動車等における空調ダクトにおける所望箇所の表面が挙げられる。
【0019】
工程(b)において、前記抗菌防カビ用塗工液の塗布又はスプレー噴霧は、防菌面に対する塗布量が、通常0.1〜100g/m2、好ましくは1〜10g/m2となるように、公知の塗布方法又はスプレー噴霧器を使用して行うことができる。前記塗布量が0.1g/m2未満では、所望の防菌面に一様に塗布できない恐れがあり、十分な抗菌防カビ作用を有するコーティング膜の製造が困難となる恐れがある。一方、塗布量が100g/m2を超えると、抗菌防カビ作用を十分達成できるコーティング膜を得ることは可能であるが、経済性を損ね、また、後述する塗工液被膜の乾燥に時間を要する等、コーティング被膜の製造が煩雑化する恐れがある。
前記抗菌防カビ用塗工液の塗布又はスプレー噴霧を実施するにあたっては、その前工程として、防菌面を公知の方法等によりクリーンニングしておくことが望ましい。
【0020】
工程(c)において、塗工液被膜の乾燥は、通常、湿度10〜80%の環境下において、乾燥温度10〜70℃、乾燥時間0.5〜24時間の条件等により、自然乾燥又は強制乾燥することにより行なうことができる。該乾燥により、塗工液被膜中の上述した溶剤を気化させ、本発明の組成物を含むコーティング被膜を得ることができる。
本発明の製造方法により得られるコーティング被膜の膜厚は、防菌面に対する上記塗布量を調整することにより制御できる。通常は、膜厚0.1〜100μmm程度の範囲に制御することができる。
【0021】
本発明の空調ダクトは、上述の様々な場所に使用することが可能な各種空調ダクトであって、該空調ダクトの所望の防菌面に、上記本発明のコーティング被膜を備えたものである。該コーティング被膜の設置面は、抗菌防カビが必要な箇所であれば特に限定されないが、通常、ダクト内面の所望箇所に設けることができる。
コーティング被膜の形成は、本発明の組成物を、上述の本発明の製造方法に準じて、空調ダクトの防菌面に塗布又はスプレー噴霧し、乾燥させる方法等により行うことができる。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが本発明はこれらに限定されない。
合成例
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)23.5g、ブチルメタクリレート(BMA)26.5gをエタノール75gに溶解し4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ後に、60℃でアゾビスイソブチロニトリル0.1gを加えて8時間重合反応させた。重合液を3Lのジエチルエーテル中に撹拌しながら滴下し、析出した沈殿を濾過し、48時間室温で真空乾燥を行って、粉末35.1gを得た。得られた粉末の重合体は、ポリ(MPC0.3−BMA0.7)(PMB1と略す)であった。
また、上述の合成例又は公知の方法等に従って、表1に示す各重合体を製造した。これら重合体の重量平均分子量を、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により分析した。
得られた重合体中のホスホリルコリン基含有単量体の単位割合(式(1)に示される構造におけるm)及び重量平均分子量を表1に示す。
尚、表1中のMPCは2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、BMAはn−ブチルメタクリレート、LMAはラウリルメタクリレート、SMAはステアリルメタクリレート、QMAはN,N,N−トリメチル−N−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロル)アンモニウムクロライドをそれぞれ示す。また、表1中のポリビニルアルコール(PVA)としては、キシダ化学株式会社製の商品名「ポリビニルアルコール2,000」(けん化度:98.5−99.4mol%)を用いた。
更に、PMB1、PMB2及びPMLが式(1)で示される上述の重合体(1)を充足するものであり、他の重合体は、重合体(1)を充足しないものである。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例1〜5及び比較例1〜10
表2に示す組成となるように、重合体と抗菌防カビ剤とを準備し、次いで、重合体を溶剤としての水、エタノール又はプロパノールに溶解した後、抗菌防カビ剤を添加混合して、重合体及び抗菌防カビ剤の合計濃度が2重量%である抗菌防カビ性樹脂含有溶液を調製した。尚、比較例9は、抗菌防カビ剤を用いていない樹脂含有溶液である。得られた溶液を用いて、以下の各試験を行った。結果を表3に示す。
【0025】
溶出試験
調製した抗菌防カビ性樹脂含有溶液を、直径5cmのポリスチレンシャーレの底面に1g塗布して1晩乾燥させて、コーティング被膜を調製した。得られたコーティング被膜上に、即ち、乾燥後のシャーレに、純水10gを入れて30分おきに振とうし、4時間後に上澄み液を採取した。これを10〜100倍に希釈して各種抗菌防カビ剤をUV吸収にて測定し、各コーティング被膜からの抗菌防カビ剤の溶出率を以下の式に従って算出した。
溶出率(%)=(上澄み液中に溶出した抗菌防カビ剤重量)/(コーティング被膜中の抗菌防カビ剤重量)×100
【0026】
ハロー試験
調製した抗菌防カビ性樹脂含有溶液約1gを、直径約3cmのろ紙に塗布・含浸させ、常温で乾燥させて試験片を作製した。また、抗菌防カビ性樹脂含有溶液を塗布しないろ紙をブランクとした。
試験管に生理食塩水5mlを加え、検査対象菌としてAlternaria sp.(アルタナリア属)、Aspergillus sp.(アスペルギルス属)、Cladosporium sp.(クラドスポリウム属)の3菌種混合菌を5白金耳加え、よく攪拌したものを等量ずつ採取し、試験菌液を調製した。次いで、直径約10cmのシャーレ中のPDA(Potato.Dextrose.Agar.)培地に、調製した試験菌液を0.1ml塗布した後、シャーレ中心部に上記で作製した試験片を上方から添付し、培養器により2週間培養した。
次に、培養後のシャーレに基づきハロー試験を行った。即ち、シャーレ内の試験片からPDA寒天培地中に溶出する抗菌防カビ剤により形成される発育阻止ゾーン(ハロー)の有無により抗菌性を以下の判定基準で定性した。また、同様に試験片表面へのカビ生育状況についても以下の判定基準により評価した。尚、説明のために図1にシャーレ内の概略図を示す。図1において、10は試験片、11は試験片から溶出した抗菌防カビ剤により菌の発育が阻止されたゾーン(ハロー)、12は培地の栄養分により菌が増殖する部分を示す。
【0027】
ハロー試験判定基準
+++:ハローが見られない。++−:ハローが一部見られる。+−−:ハローが全試験片で少し見られる。−−−:ハローが強く見られる。
カビの生育状況評価基準
+++:試験片上にカビが見られない。++−:試験片のふちにカビが盛り上がっている。+−−:試験片上に一部カビが見られる。−−−:試験片上にカビが広く見られる。
【0028】
フィールド試験
図2に示すように、アルミ板20上にシリコンゴム21を載置し、その表面の下半分に、図示するように、上記で調製した抗菌防カビ性樹脂含有溶液を10g/m2となるよう刷毛で塗布し自然乾燥させて、該溶液によるコーティング被膜22を備える試験片を作製した。
該試験片を、ビル空調機のダクト吹き出し口に取り付け、20日間放置した後に、カビの付着を目視で観察した。コーティング被膜にカビの付着が見られない(付着面積率10%以下)ものを○、カビの付着が見られる(付着面積率10%以上)ものを×とした。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
実施例1〜5ではPHMBの溶出を無視しうるだけの量しか溶出が見られなかった。溶出率の最も高い実施例4においての溶出濃度は約35ppmとなり、化粧品配合条件の1000ppmの約1/30であった。一方、重合体:抗菌防カビ剤の重量比が1:50の比較例1では、純水抽出時にポリマー被膜が壊れ、溶出率は50%以上であった。更に、MPCの比率が高い比較例2では抗菌防カビ剤の溶出が見られ、また重合体の重量平均分子量の低い比較例3においても抗菌防カビ剤の溶出が見られた。ビグアニド系以外の抗菌防カビ剤や他の重合体を使用した比較例5〜7及び9では、高い溶出率が見られた。
実施例1〜5におけるハロー試験では、ハローがほとんど見られず、試験片上にカビも認められなかった。一方、比較例の試験片ではハローが見られか、若しくは防カビ性が得られない結果であった。
実施例1〜5のフィールド試験では、比較例4〜10に比較して優れた抗菌防カビ性能を発現することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】ハロー試験におけるシャーレ内の概略図である。
【図2】フィールド試験で用いたコーティング被膜を備える試験片の概略図である。
【符号の説明】
【0033】
10:試験片
11:試験片から溶出した抗菌防カビ剤により菌の発育が阻止されたゾーン(ハロー)
12:培地の栄養分により菌が増殖する部分
20:アルミ板
21:シリコンゴム
22コーティング被膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される重量平均分子量100000〜2000000のホスホリルコリン基含有重合体と、式(2)で示されるビグアニド系抗菌防カビ剤とを含み、かつ前記ホスホリルコリン基含有重合体とビグアニド系抗菌防カビ剤との配合割合が、重量比で1:1〜30である、ビグアニド系抗菌防カビ剤溶出抑制型の抗菌防カビ性樹脂組成物。
【化1】

(式(1)中、n及びmはモル分率を示し、それぞれn=0.5〜0.8の数、m=0.2〜0.5の数を示す。但し、n+m=1である。pは1〜12の整数を示す。また、式(2)中、xは1〜500の数を示す。)
【請求項2】
請求項1記載の抗菌防カビ性樹脂組成物を含む抗菌防カビ性のコーティング被膜。
【請求項3】
請求項1記載の抗菌防カビ性樹脂組成物を溶剤に溶解し、該組成物濃度が0.5〜5重量%の抗菌防カビ用塗工液を準備する工程(a)と、
該抗菌防カビ用塗工液を、防菌面に塗布又はスプレー噴霧し、塗工液被膜を形成する工程(b)と、
該塗工液被膜を乾燥させる工程(c)とを含むことを特徴とする抗菌防カビ性のコーティング被膜の製造方法。
【請求項4】
空調ダクトの防菌面に、請求項2に記載の抗菌防カビ性のコーティング被膜を備えたことを特徴とする空調ダクト。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−308532(P2007−308532A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136535(P2006−136535)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【出願人】(505394862)株式会社ファインテック (4)
【Fターム(参考)】