説明

抗CEA抗体を用いた標的化遺伝子治療

【課題】 本発明は、癌の遺伝子治療のためのアデノウイルスベクターによる非特異的な遺伝子送達を改善すること、ならびに抗体を用いて癌治療を行う際の交差反応性の問題および免疫反応の問題を改善することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、抗CEAモノクローナル抗体を含有する癌治療薬、特に、完全ヒト型抗CEAモノクローナル抗体を含有する癌治療薬を提供し、典型的には、上記抗体と抗体を結合するように遺伝的に改変したファイバー変異型アデノウイルスとの複合体を含有する癌治療剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗CEA抗体を用いた標的化遺伝子治療に関する。
【背景技術】
【0002】
胃癌は、世界で最も一般的な、癌に関連する死の原因である。胃癌の発生率はアジアで高く、日本において、特に胃癌は、癌による死の最も一般的な原因である。現在の処置ストラテジーには、外科手術、化学療法、および放射線療法などがあるが、これらはその治療効果が限られている。したがって、これらの疾患の治療のための新たな治療態様が必要とされていることが明らかである。遺伝子治療は、この点において、進行した胃癌の治療のための合理的なアプローチを代表する。
【0003】
しかしながら、癌遺伝子治療に対する主要な障壁の1つは、癌細胞への不十分かつ非特異的な遺伝子送達であり、これは、自殺遺伝子療法、免疫学的遺伝子療法のようないくつかの効果的ストラテジーが、遺伝子導入していない癌細胞をある程度治療し得、そして部分的にこの問題を避けることができるにもかかわらず、遺伝子導入していない腫瘍細胞からの再発のために、臨床試験において不満足な結果を導くに至っている。したがって、遺伝子治療における課題は、より良い腫瘍選択性に基づいて現在の治療態様を改善することである。
【0004】
現在までに、アデノウイルスベクターは高力価で産生され得、そして多くの異なる細胞型に感染し得るため、遺伝子を腫瘍細胞に導入するために広範に適用されている。5型アデノウイルス(Ad5)の感染は、コクサッキーアデノウイルスレセプター(CAR)へのアデノウイルスファイバーノブの高親和性結合、およびそれに続く細胞表面上のインテグリンαvβ3およびαvβ5へのペントンベース中のRGDモチーフの結合によって仲介される内部移行によって仲介される。
【0005】
しかしながら、癌遺伝子治療のためのアデノウイルスベクターの広範な適用は、CARが正常細胞および悪性細胞の両方に発現することによる悪性細胞の特異性の欠如のために阻まれている(Bergelson,J.M.,et al. Science,275:1320−1323,1997:非特許文献1)。すなわち、CAR受容体は肝細胞をはじめとする多くの正常細胞でも十分に発現している。また、癌細胞ではCARの発現はさまざまであり、扁平上皮癌、悪性黒色腫、前立腺がん、一部の消化器癌などでは極めて発現が低く、通常のアデノウイルスでは十分な遺伝子導入効率が得られない。このような状況で全身にアデノウイルスを投与されると、肝毒性等の副作用が出現してしまうのが実情である。全身性疾患(Systemic disease)である癌を治療するためには、原発巣のみならず、全身に転移しうる癌細胞に対し全身的な特異的な治療が必要であり、アデノウイルスによる癌遺伝子治療を飛躍させるためには、効率の良い標的化(腫瘍の標的化)が求められている。
【0006】
近年、アデノウイルスの指向性は、Ad5を代替のレセプターに再標的化するように改変されることができ、それによってウイルス感染をCAR非依存性にすることができることがわかっている。Ad5カプシド改変のための最も一般的に利用される部位は、ファイバータンパク質ノブドメインである(Curiel, D. T. Ann N Y Acad Sci, 886:158−171,1999:非特許文献2)。CAR非依存性遺伝子送達のためのいくつかのストラテジーが、報告されている。例えば、抗ファイバーノブ抗体および標的化レセプターリガンドの融合タンパク質(Watkins, S. J.,et al., Gene Ther.4:1004−1012,1997:非特許文献3)、ファイバーノブおよび腫瘍関連抗原に対する二重特異的抗体(Haisma, H. J.,et al. Gene Ther, 6: 1469−1474, 1999:非特許文献4;Nettelbeck, D. M.,et al. Mol Ther, 3: 882−891, 2001:非特許文献5)、免疫グロブリンG(IgG)結合ドメイン(Z33)のノブタンパク質および標的化レセプターへの挿入(Volpers, C.,et al.J Virol, 77: 2093−2104, 2003:非特許文献6)である。本発明者らは、3番目のストラテジー、つまり、ブドウ球菌プロテインAに由来する合成33アミノ酸IgG結合ドメイン(Z33)が、アデノウイルスファイバータンパク質に挿入されることに注目する。ファイバーは、3量体になる能力を維持しており、IgGに高親和性で結合し、ベクター粒子に組み込まれた。Volpersらは、Z33改変アデノウイルスベクターのEGFR発現細胞への遺伝子導入効率は、EGFR特異的モノクローナル抗体との組み合わせによって強力にかつ用量依存的に増強されたことを報告した(非特許文献6)。
【0007】
ヒト癌胎児性抗原(CEA)は、高度にグリコシル化された同型/異型の細胞表面細胞内接着分子のグループに属し、免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーの一部であるヒトCEA遺伝子ファミリーの原型メンバーである(Paxton, R. J.,et al. Proc Natl Acad Sci U S A, 84: 920−924, 1987:非特許文献7)。CEAは、種々のヒト組織の癌細胞の95%までにおいて、および正常胃腸組織および胎児の小腸の上皮細胞の表面に広範に発現されている。
【非特許文献1】Bergelson,J.M.,et al. Science,275:1320−1323,1997
【非特許文献2】Curiel, D. T. Ann N Y Acad Sci, 886:158−171,1999
【非特許文献3】Watkins, S. J.,et al., Gene Ther.4:1004−1012,1997
【非特許文献4】Haisma, H. J.,et al. Gene Ther, 6: 1469−1474, 1999
【非特許文献5】Nettelbeck, D. M.,et al. Mol Ther, 3: 882−891, 2001
【非特許文献6】Volpers, C.,et al.J Virol, 77: 2093−2104, 2003
【非特許文献7】Paxton, R. J.,et al. Proc Natl Acad Sci U S A, 84: 920−924, 1987
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、癌の遺伝子治療は、5型アデノウイルスベクターを使用することによって限定されている。このアプローチの主要な問題は、癌細胞中でのアデノウイルスレセプターであるコクサッキーアデノウイルスレセプター(CAR)の発現が弱いことによる遺伝子導入効率が低いこと、および/または正常細胞中でのCARの発現による副作用に関係していると考えられている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のような状況に鑑み、本発明者らは、癌胎児性抗原(CEA)を癌細胞中での特異的分子として選択し、CEA発現ヒト腫瘍細胞に対し、ファイバー変異型アデノウイルスベクター(Adv−FZ33)と結合させたヒト型抗CAEモノクローナル抗体を用いて、インビトロおよびインビボの両方において標的化治療の検討を行なった。
【0010】
その結果、本発明者らは、抗CEAモノクローナル抗体(mAb)を結合させたAdv−FZ33による癌細胞に対する標的化効果を実証し、本発明を完成した。
【0011】
したがって、本発明は、以下の抗CEA抗体を提供する。
(1)抗CEAモノクローナル抗体を取得し、
上記抗CEAモノクローナル抗体の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと上記腫瘍細胞とを接触させることによって、上記ファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する感染効率をレポーター遺伝子発現アッセイによって評価し、そして
上記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも2倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択すること、
によって調製される、抗CEAモノクローナル抗体。
(2)上記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも10倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択する、上記(1)に記載の抗CEAモノクローナル抗体。
(2a)上記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも50倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択する、上記(1)に記載の抗CEAモノクローナル抗体。
(3)上記ファイバー変異型アデノウイルスが、Z33ファイバー変異型アデノウイルスベクターである、上記(1)に記載の抗CEAモノクローナル抗体。
(4)C2−45である、上記(1)に記載の抗CEAモノクローナル抗体。
【0012】
本発明はまた、以下に記載する複合体を提供する。
(5)抗CEAモノクローナル抗体とIgG結合モチーフを有する遺伝的に改変されたアデノウイルスベクターとの複合体。
(6)上記アデノウイルスベクターが、Z33ファイバー変異型アデノウイルスベクターである、上記(5)に記載の複合体。
(7)上記抗CEAモノクローナル抗体が、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗CEAモノクローナル抗体である、上記(5)または(6)に記載の複合体。
【0013】
本発明はまた、以下に記載する癌の治療薬を提供する。
(8)抗CEAモノクローナル抗体を含有する、癌の治療薬。
(9)上記抗CEAモノクローナル抗体が、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗CEAモノクローナル抗体である、上記(8)に記載の癌の治療薬。
(10)上記抗CEAモノクローナル抗体が、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、治療遺伝子を担持したウイルスベクター、および薬剤を担持した非ウイルスベクターのうちのいずれか、またはこれらの任意の組み合わせと化学的または遺伝子工学的に結合されている、上記(8)または(9)に記載の癌の治療薬。
(11)上記抗CEAモノクローナル抗体が、Z33ファイバー変異型アデノウイルスベクターに結合されている、上記(10)に記載の癌の治療薬。
(12)上記非ウイルスベクターが、リポソームベクター、重合リポソーム、脂質小胞、デンドリマー、ポリエチレングリコール集合体、ポリリジン、デキストラン、ポリヒドロキシ酪酸、センダイウイルスエンベロープベクター、プラスミドベクター、およびプラスミドDNAネイキッドベクターからなる群から選択される、上記(10)に記載の癌の治療薬。
(13)上記リポソームベクターが、飽和リン脂質、不飽和リン脂質、フォスファチジルコリン(PC)、フォスファチジルセリン(PS)、フォスファチジルグリセロール(PG)、フォスファチジルエタノールアミン(PE)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)からなる群から選択されるリポソーム、または該リポソームの2種以上のいずれかの組み合わせからなるリポソームである、上記(12)に記載の癌の治療薬
(14)上記抗CEAモノクローナル抗体が、免疫学的エフェクター細胞を介在して、CEA発現癌細胞を溶解またはその成長を阻害する、上記(8)〜(13)のいずれかに記載の癌の治療薬。
(15)上記抗CEAモノクローナル抗体が、CEA発現細胞をオプソニン化する、上記(8)〜(13)のいずれかに記載の癌の治療薬。
(16)上記癌が、CEA産生癌である、上記(8)〜(15)のいずれかに記載の癌の治療薬。
(17)上記癌が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌である、上記(16)に記載の癌の治療薬。
【0014】
本発明はまた、以下に記載する薬剤の標的化送達方法を提供する。
(18)抗CEA抗体を用いて、薬剤を標的部位へ送達することを包含する、薬剤の標的指向化方法。
(19)上記抗CEA抗体が、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗CEAモノクローナル抗体である、上記(18)に記載の方法。
(20)上記薬剤が、上記抗CEA抗体と化学的または遺伝子工学的に結合している、上記(18)または(19)に記載の方法。
(21)上記薬剤が、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、または治療遺伝子を含む、上記(18)または(19)に記載の方法。
(22)上記治療遺伝子が、ウイルスベクターに担持されている、上記(21)に記載の方法。
(23)上記ウイルスベクターが、上記抗CEA抗体が結合し得るファイバー変異型アデノウイルスである、上記(22)に記載の方法。
(24)上記標的部位が、CEAを特異的に発現している細胞、組織、または臓器である、上記(18)〜(23)のいずれかに記載の方法。
【0015】
本発明はまた、以下に記載する抗CEA抗体を使用する方法を提供する。
(25)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗CEA抗体を用いてCEA発現細胞をオプソニン化する方法。
(26)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗CEA抗体を用いて、免疫学的エフェクター細胞を介在して、CEA発現細胞を溶解またはその成長を阻害する方法。
【0016】
本発明はまた、以下に記載する抗CEAモノクローナル抗体の調製方法を提供する。
(27)腫瘍特異的CEA抗原に対するモノクローナル抗体を調製する方法であって、
CEAまたはCEA陽性腫瘍細胞で哺乳動物を免疫し、免疫した該哺乳動物からのリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマのライブラリーを作製する工程、および
上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと上記腫瘍細胞とを接触させることによって、上記ファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する感染効率を評価する工程、
を包含する、方法。
(28)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物の存在下での、上記ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞への感染が、
(A)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物を、上記腫瘍細胞と接触させた後、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に接触させるか、
(B)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとをあらかじめ反応させてから、上記腫瘍細胞に接触させるか、または
(C)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとを、同時に投与することによって、上記腫瘍細胞に接触させること、
によって行われる上記(27)に記載の方法。
(28a)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物の代わりに、予め調製された抗CEAモノクローナル抗体を用いる、上記(27)または(28)に記載の方法。
(29)上記感染効率を評価する工程が、レポーター遺伝子発現アッセイによって上記ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する上記感染効率を評価することを含み、ここで上記ファイバー変異型アデノウイルスは、上記感染の際に上記感染効率を評価するためのレポーター遺伝子を発現する、上記(27)または(28)に記載の方法。
(30)上記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも2倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択する、上記(29)に記載の方法。
(31)上記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも10倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択する、上記(29)に記載の方法。
(31a)上記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも50倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択する、上記(29)に記載の方法。
(32)上記レポーター遺伝子が、lacZまたはEGFPである、上記(29)〜(31)のいずれかに記載の方法。
(33)上記CEA陽性腫瘍細胞が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌細胞である、上記(27)〜(32)のいずれかに記載の方法。
(34)上記(27)〜(33)のいずれかに記載の方法によって得られる、抗CEAモノクローナル抗体。
【0017】
本発明はまた、以下に記載する癌の診断薬を提供する。
(35)抗CEAモノクローナル抗体を含有する、癌の診断薬。
(36)上記抗CEAモノクローナル抗体が、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗CEAモノクローナル抗体である、上記(35)に記載の癌の診断薬。
(37)上記癌が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌である、上記(35)または(36)に記載の癌の診断薬。
(38)上記抗CEA抗体が、標識されている、上記(35)〜(37)のいずれかに記載の癌の診断薬。
(39)上記抗CEA抗体が、放射性同位元素、蛍光基、発光基、フリーラジカル基、粒子、バクテリオファージ、細胞、金属、酵素、または補酵素によって標識されている、上記(38)に記載の癌の診断薬。
(40)上記癌が、CEA産生癌である、上記(35)〜(39)のいずれかに記載の癌の診断薬。
(41)上記CEA産生癌が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌である、上記(40)に記載の診断薬。
【0018】
本発明はまた、以下に記載する癌の診断方法を提供する。
(42)被験者由来の生体試料中のCEAタンパク質もしくはその断片、またはこれらをコードする核酸を診断マーカーとして検出および/または定量する工程を包含する、癌の診断方法。
(43)被験者由来の生体試料中のCEAを、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の抗CEAモノクローナル抗体を用いて免疫学的に検出および/または定量する、上記(42)に記載の方法。
(44)上記生体試料と抗CEA抗体とを接触させる工程、および
該生体試料中のCEAと該抗CEA抗体との結合を検出および/または定量する工程
を包含する、上記(42)または(43)に記載の方法。
(45)上記検出および/または定量する工程が、標識された抗CEA抗体を用いて、CEAと抗CEA抗体との結合を検出および/または定量することを包含する、上記(42)〜(44)のいずれかに記載の方法。
(46)上記生体試料が、被験者由来の組織、細胞、血液、尿、リンパ液、精液、唾液、または汗である、上記(42)〜(45)のいずれかに記載の方法。
(47)ウエスタンブロット法、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、サンドイッチ免疫測定法、蛍光免疫測定法(FIA)、時間分解蛍光免疫測定法(TRFIA)、酵素免疫測定法(EIA)、発光免疫測定法(LIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、ラテックス凝集法、免疫沈降アッセイ、沈降素反応法、ゲル拡散沈降素反応法、免疫拡散検定法、凝集素検定法、補体結合検定法、免疫放射分析検定法、蛍光免疫検定法、およびプロテインA免疫検定法からなる群から選択される免疫測定法に従う、上記(43)〜(46)のいずれかに記載の方法。
(48)上記癌が、CEA産生癌である、上記(42)〜(47)に記載の方法。
(49)上記CEA産生癌が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌である、上記(48)に記載の方法。
【0019】
本発明はまた、以下のような自己抗体を用いた癌の診断方法を提供する。
(50)CEAに対する自己抗体を癌の診断マーカーとして使用する方法。
(51)被験者由来の生体試料中の抗CEA自己抗体を検出および/または定量する工程を包含する、上記(50)に記載の方法。
(52)上記癌が、CEA産生癌である、上記(50)または(51)に記載の方法。
(53)上記CEA産生癌が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌である、上記(52)に記載の方法。
【0020】
本発明はさらに、以下の抗CEA抗体をコードするDNA、該DNAを含有するベクター、該ベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体、抗CEA抗体の製造方法、およびそれにより製造される抗CEA抗体を提供する。
(54)抗CEA抗体をコードするDNA。
(55)抗CEA抗体のH鎖V領域(CDR1〜3を含む)またはL鎖V領域(CDR1〜3を含む)をコードするDNA。
(56)上記(54)または(55)に記載のDNAを含有するベクター。
(57)上記(56)に記載のベクターを宿主細胞に導入して得られる形質転換体。
(58)上記(57)に記載の形質転換体を適切な培地で培養する工程、および
該培養物から抗CEA抗体を収集する工程
を包含する、抗CEA抗体の製造方法。
(59)上記(58)に記載の方法により製造される、抗CEA抗体。
(60)H鎖V領域(CDR1〜3を含む)またはL鎖V領域(CDR1〜3を含む)を含有する、上記(59)の抗CEA抗体。
【0021】
本発明はまた、以下のような特徴を有する抗CEA抗体を提供する。
(61)特定の細胞に対するウイルスベクターによる遺伝子導入効率を高めることができる、抗CEA抗体。
(62)抗CEA抗体のH鎖V領域およびL鎖V領域を含むヒト化抗CEA抗体。
(63)ヒト型キメラ抗体またはヒト型CDR移植抗体である、上記(62)に記載のヒト化抗CEA抗体。
(64)完全にヒト型である、上記(62)または(63)に記載のヒト化抗CEA抗体。
(65)モノクローナル抗体である、上記(61)〜(64)に記載の抗CEA抗体。
(66)上記(61)〜(65)のいずれかに記載の抗CEA抗体と放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤とを化学的または遺伝子工学的に結合させた誘導体。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、抗CEA抗体と、IgG結合モチーフを有する遺伝的に改変したアデノウイルスベクターとの組み合わせを使用することによって、癌(特にCEA産生癌)の遺伝子治療を、遺伝子導入効率および特異性の両面において顕著に改善し得る。
【0023】
本発明の抗CEAモノクローナル抗体は、CEA産生癌(特に転移癌)の標的化療法、診断等の用途において有用である。特に、抗体のFcドメインに結合するように改変されたファイバー変異型アデノウイルスと共に用いた場合、CEA陽性細胞に対するアデノウイルスの感染効率を特異的に高めることから、CEA産生癌特異的な遺伝子療法に有用である。
【0024】
また、マウス抗CEA抗体が、臨床試験で癌に対して抗癌剤として使用される場合、モノクローナル抗体の正常組織との交差反応性およびマウスモノクローナル抗体に対するヒトの免疫反応は、主要な問題である。CEAファミリーは、7つの発現された遺伝子からなる。それらのうち、CEACAM1、CEACAM6、およびCEACAM8はしばしば種々のタイプの正常組織に存在するため、非常に障害となる。本発明の完全ヒト型の抗CEAモノクローナル抗体を用いることにより、上記免疫反応の問題は解決される。また、本発明の抗CEAモノクローナル抗体は、実施例に示すように、CEACAM1、CEACAM6、またはCEACAM8のいずれとも交差反応しないため、上記の交差反応性の問題も解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者らは、Z33ファイバー変異型アデノウイルスを用いた癌への遺伝子導入療法において、CEA陽性腫瘍細胞への特異的な遺伝子導入効率を高めるモノクローナル抗体を同定した。
【0026】
本発明者らは、上記モノクローナル抗体を併用して、Z33ファイバー変異型アデノウイルスを用いたCEA陽性もしくは陰性の胃癌細胞または正常細胞への遺伝子導入を評価し、CEA陽性胃癌細胞において特異的に遺伝子導入効率が顕著に高まることを見出した。本発明の抗CEAモノクローナル抗体は、上記Z33ファイバー変異型アデノウイルスとの組み合わせのみならず、他の薬剤(例えば、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、または治療遺伝子など)と組み合わせて、CEA産生癌の標的化療法に用いることができる。
【0027】
CEAは、正常成人組織において、円柱上皮細胞の腔側に局在し、そのため、正常CEAは、血流または組織液に直接接していない。それゆえ、腫瘍CEAは、抗CEA抗体を用いた遺伝子治療のための魅力的な標的分子であり得る。
【0028】
したがって、本発明は、CEAをマーカーとして利用するCEA産生癌の診断、および/またはCEAを標的としたCEA産生癌の標的化療法を提供する。本発明はまた、癌特異的CEA抗原に対するモノクローナル抗体を調製する方法を提供する。癌特異的CEA抗原に特異的に結合し得る抗体を同定することにより、癌のイメージングおよび/または処置のために有用なシステムが提供される。
【0029】
1.抗CEA抗体
本発明は、CEAに対する抗体を提供する。
【0030】
本明細書中、「CEA(carcinoembryonic antigen)」、「CEAタンパク質」、または「CEA抗原」とは、NCBIタンパク質配列データベースにアクセッション番号P06731で登録されているアミノ酸配列(配列番号1)で特定される702アミノ酸残基のタンパク質、ならびに上記タンパク質の断片、またはこれらの誘導体を意味する。ここで、「誘導体」とは、CEAタンパク質またはその断片のアミノ酸配列において1または複数個(例えば、数個(例、6個))のアミノ酸残基の変異、置換、欠失および/または付加を含み、実質的にCEAタンパク質と同じ抗原性を有するペプチドまたはポリペプチドを意味するものとする。ここで、「実質的に」とは、CEAの発現によって特徴付けられる疾患の診断および/または治療に使用され得る程度に、抗CEA抗体によって特異的に認識されるような特異性の程度を意味する。誘導体の典型的な例には、CEA多型、スプライシングなどによる配列変化がある。ここで、「断片」の長さとしては、抗CEA抗体に特異的な抗原として認識され得る長さであれば制限はないが、好ましくは6アミノ酸以上、より好ましくは8アミノ酸以上、さらに好ましくは10アミノ酸以上である。また、これらの断片は、CEAタンパク質の任意の部分であり得るが、CEAタンパク質のエピトープに対応するか、エピトープに対応する部分を含んでいることがより好ましい。
【0031】
本明細書中、「抗CEA抗体」または「CEAに対する抗体」は、CEAに特異的に結合する抗体をいい、元の抗体と実質的に同じ抗原特異性を示す当該抗体の断片(本明細書中、「機能的断片」と呼ぶ)または誘導体をも含むものとする。抗体の機能的断片または誘導体には、Fab、Fab’、F(ab’)、単鎖抗体(scFv)、ジスルフィド安定化V領域断片(dsFv)、もしくはCDRを含むペプチドのような抗体の機能的断片、またはヒト化抗体(例えば、CDR移植完全ヒト型抗体)のような誘導体などが含まれる。本発明に使用する抗体は、以下に詳述するように、動物を免疫化し、血清(ポリクローナル)または脾臓細胞を回収すること(適切な細胞との融合によるハイブリドーマの作製のため)を含む、従来の方法により作製することができる。
【0032】
本明細書中、抗体があるタンパク質またはその断片に「特異的に結合する」とは、その抗体が他のアミノ酸配列に対するその親和性よりも、これらのタンパク質またはその断片の特定のアミノ酸配列に対して実質的に高い親和性で結合することを意味する。ここで、「実質的に高い親和性」とは、所望の測定装置によって、その特定のアミノ酸配列を他のアミノ酸配列から区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味し、典型的には、結合定数(K)が少なくとも10−1、好ましくは、少なくとも10−1、より好ましくは、10−1、さらにより好ましくは、1010−1、1011−1、1012−1またはそれより高い、例えば、最高で1013−1またはそれより高いものであるような結合親和性を意味する。
【0033】
本発明の抗CEA抗体は、マウス抗CEA抗体などのヒト以外の哺乳動物の抗体であってもよいが、ヒト化抗体であることがヒトへの適用には抗原性が低く副作用が少ないため好ましく、完全ヒト型抗体であることが最も好ましい。また、本発明の抗CEA抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得るが、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0034】
以下、本発明の抗CEA抗体の作製において利用し得る、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗体断片等の一般的な作製方法について説明する。
【0035】
(モノクロナール抗体の作製方法)
モノクローナル抗体産生細胞の作製
CEAに対するモノクローナル抗体は、以下のようにして作製することができる。CEAを、哺乳動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与する。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常2〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行なわれる。用いられる哺乳動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギが挙げられるが、マウスおよびラットが好ましく用いられる。
【0036】
モノクローナル抗体産生細胞の作製に際しては、抗原を免疫された温血動物、例えば、マウスから抗体価の認められた個体を選択し最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取し、それらに含まれる抗体産生細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。抗血清中の抗体価の測定は、例えば、後記の標識化タンパク質と抗血清とを反応させたのち、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。融合操作は既知の方法、例えば、コーラーとミルスタインの方法(Kohler and Milstein (1975) Nature 256: 495)に従い実施することができる。融合促進剤としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウイルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGが用いられる。骨髄腫細胞としては、例えば、NS−1、P3U1、SP2/0などが挙げられるが、P3U1が好ましく用いられる。用いられる抗体産生細胞(脾臓細胞)数と骨髄腫細胞数との好ましい比率は1:1〜20:1程度であり、PEG(好ましくは、PEG1000〜PEG6000)が10〜80%程度の濃度で添加され、約20〜40℃、好ましくは約30〜37℃で約1〜10分間インキュベートすることにより効率よく細胞融合を実施できる。
【0037】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングには種々の方法が使用し得るが、例えば、タンパク質の抗原を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例えば、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に、放射性物質や酵素などで標識した抗免疫グロブリン抗体(細胞融合に用いられる細胞がマウスの場合、抗マウス免疫グロブリン抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法、抗免疫グロブリン抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、放射性物質や酵素などで標識したタンパク質を加え、固相に結合したモノクローナル抗体を検出する方法などが挙げられる。モノクローナル抗体の選別は、公知あるいはそれに準じる方法に従って行うことができるが、通常はHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加した動物細胞用培地などで行うことができる。選別および育種用培地としては、ハイブリドーマが生育できるものならばどのような培地を用いても良い。例えば、1〜20%、好ましくは10〜20%のウシ胎仔血清を含むRPMI 1640培地、1〜10%のウシ胎仔血清を含むGIT培地(和光純薬工業(株))またはハイブリドーマ培養用無血清培地(SFM−101、日水製薬(株))などを用いることができる。培養温度は、通常20〜40℃、好ましくは約37℃である。培養時間は、通常5日〜3週間、好ましくは1週間〜2週間である。培養は、通常5%炭酸ガス下で行うことができる。ハイブリドーマ培養上清の抗体価は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。
【0038】
モノクロナール抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、通常のポリクローナル抗体の分離精製と同様に免疫グロブリンの分離精製法〔例えば、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相またはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法〕に従って行うことができる。
【0039】
(ポリクローナル抗体の作製方法)
CEAに対するポリクローナル抗体は、公知あるいはそれに準じる方法にしたがって製造することができる。例えば、免疫抗原(タンパク質の抗原)と担体タンパク質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に哺乳動物に免疫を行い、該免疫動物から本発明のタンパク質に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行うことにより製造できる。哺乳動物を免疫するために用いられる免疫抗原と担体タンパク質との複合体に関して、担体タンパク質の種類および担体とハプテンとの混合比は、担体に架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、任意のものを任意の比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミン、ウシサイログロブリン、キーホール・リンペット・ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜20、好ましくは約1〜5の割合でカプリングさせる方法が用いられる。また、ハプテンと担体のカプリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタールアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約2〜6週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行うことができる。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された哺乳動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
【0040】
(抗体断片または誘導体の製造方法)
Fabは、IgGをタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち(H鎖の224番目のアミノ酸残基で切断される)、H鎖のN末端側約半分とL鎖全体がジスルフィド結合で結合した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFabは、CEAに特異的に結合する抗体をタンパク質分解酵素パパインで処理して得ることができる。
【0041】
F(ab’)は、IgGをタンパク質ペプシンで処理して得られる断片のうち(H鎖の234番目のアミノ酸残基で切断される)、Fabがヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合されたものよりやや大きい、分子量約10万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFab’は、CEAに特異的に結合する抗体をタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得ることができる。
【0042】
Fab’は、上記F(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した分子量約5万の抗原結合活性を有する抗体断片である。本発明のFab’は、CEAに特異的に結合する抗体を還元剤ジチオスレイトール処理して得ることができる。
【0043】
上記Fab、F(ab’)、またはFab’はまた、全長抗CEA抗体のFab、F(ab’)、またはFab’断片をコードするDNAを原核生物用発現ベクターもしくは真核生物用発現ベクターに挿入し、このベクターを原核生物もしくは真核生物に導入して発現することによっても製造することができる(例えば、Co M.S.et al., J.Immunol.(1994)152,2968−2976; Better M.& Horwitz A.H. Methods in Enzymology(1989)178,476−496; Plueckthun,A.& Skerra A. Methods in Enzymology(1989)178,497−515; Lamoyi E., Methods in Enzymology(1986)121,652−663; Rousseaux J.et al., Methods in Enzymology(1986)121,663−669; Bird R.E.et al.,TIBTECH(1991)9,132−137等を参照)。
【0044】
一本鎖抗体(以下、scFvと略すこともある)は、一本の重鎖可変領域(heavy chain variable region:以下、VHと略す)と一本の軽鎖可変領域(light chain variable region:以下、VLと略す)とを適当なペプチドリンカー(以下、Pと略す)を用いて連結した、VH−P−VLまたはVL−P−VHポリペプチドを示す(例えば、Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988)85,5879−5883を参照)。本発明の一本鎖抗体は、CEAに特異的に結合する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、一本鎖抗体をコードするDNAを構築し、これを原核生物用発現ベクターまたは真核生物用発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを原核生物または真核生物に導入して発現させることにより、製造することができる。
【0045】
ジスルフィド安定化V領域断片(以下、dsFvとも略すこともある)は、VHおよびVL中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドをシステイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基はReiterらにより示された方法(Protein Engineering, 7,697 (1994))に従って、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。本発明で使用されるジスルフィド安定化V領域断片に含まれるVHおよびVLは、CEAに特異的に結合する抗体、例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体のいずれをも用いることができる。
【0046】
本発明のジスルフィド安定化V領域断片は、CEAに特異的に結合する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得し、ジスルフィド安定化V領域断片をコードするDNAを構築し、これを原核生物用発現ベクターあるいは真核生物用発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物あるいは真核生物へ導入して発現させることにより製造することができる。相補性決定領域(Complementary Determining Region:以下、CDRと略す)を含むペプチドは、H鎖またはL鎖CDRの少なくとも1領域以上を含んで構成される。複数のCDRは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。
【0047】
本発明のCDRを含むペプチドは、CEAに特異的に結合する抗体のVHおよびVLをコードするcDNAを取得した後、CDRをコードするDNAを構築し、このDNAを原核生物用発現ベクターもしくは真核生物用発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物もしくは真核生物へ導入して発現させることにより、製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によって製造することもできる。
(ヒト化抗体)
【0048】
ヒト以外の動物の抗体を、遺伝子組換え技術を利用してヒト型キメラ抗体、ヒト型CDR移植抗体、または完全ヒト型抗体などとしたヒト化抗体もまた、本発明において有利に使用することができる。ヒト型キメラ抗体とは、抗体の可変領域(以下、V領域と表記する)がヒト以外の動物の抗体で、定常領域(以下、C領域と表記する)がヒト抗体である抗体であり(Morrison S.L. et al., Proc Natl Acad Sci USA.81(21),6851−6855,1984)、ヒト型CDR移植抗体とは、ヒト以外の動物の抗体のV領域中のCDRのアミノ酸配列をヒト抗体の適切な位置に移植した抗体である(Jones P.T. et al., Nature,321(6069),522−525,1986)。また、完全ヒト型抗体とは、マウスのようなヒト以外の動物で作成した抗体を遺伝子組換え技術によりヒト化部分を100%含むようにした抗体である。ヒト化抗体は、ヒトに投与した場合、ヒト以外の動物の抗体に比べ、副作用が少なく、その治療効果が長期間持続する。また、ヒト化抗体は、遺伝子組換え技術を利用して様々な形態の分子として作製することができる。例えば、ヒト抗体の重鎖(以下、H鎖)C領域としてγ1サブクラスを使用すれば、血中で安定で、かつ抗体依存性細胞障害活性などのエフェクター活性の高いヒト化抗体を作製することができる(Co M.S. et al., Cancer Research,56(5),1118−1125,1996)。エフェクター活性の高いヒト化抗体は、癌などの標的の破壊が望まれる場合に有用である。一方、単に標的を中和する作用のみが必要とされる場合や、エフェクター活性による標的の破壊による副作用が懸念される場合には、ヒト抗体のH鎖C領域としてγ4サブクラスを使用すれば、γ4サブクラスは一般的にエフェクター活性が低いため(Bruggemann M et al., Journal of Experimental Medicine,166(5),1351−1361,1987; Bindon C.I. et al., Journal of Experimental Medicine,168(1),127−142,1988)、副作用を回避でき、しかもマウス抗体に比べ血中半減期の延長が期待される(Stephens S. et al., Immunology, 85(4),668−674,1995)。さらに、蛋白質工学、遺伝子工学的手法を用いてヒト化抗体を含めた抗体から作製したFab、Fab’、F(ab’)、scFv (Bird R.E. et al., Science, 242(4877),423−426,1988)、dsFv(Webber K.O. et al., Molecular Immunology,32(4),249−258,1995)、CDRを含むペプチド(Monfardini C et al., Journal of Biological Chemistry,271(6),2966−2971,1996)などのより分子量の小さい抗体断片を使用することもできる。これらの抗体断片は、完全な抗体分子に比べ分子量が小さいために、標的組織への移行性に優れており、有利である(Cancer Research,52,3402−3408,1992)。
【0049】
本発明のCEAに特異的に結合する抗体(例えば、ヒト化抗体、ヒト抗体およびそれらの抗体断片)に、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させた抗体は、CEAに特異的に反応する抗体および抗体断片のH鎖或いはL鎖のN末端側或いはC末端側、該抗体および抗体断片中の適当な置換基あるいは側鎖、さらには該抗体および抗体断片中の糖鎖に放射性同位元素、治療タンパク質あるいは低分子の薬剤などを化学的あるいは遺伝子工学的に結合させることにより製造することができる(例えば、抗体工学入門、金光修著、地人書館、1994を参照)。
【0050】
2.診断薬および治療薬
本発明はまた、別の態様において、抗CEA抗体を含有する癌の診断薬および治療薬を提供する。なお、本願明細書中、用語「癌」と「腫瘍」とは同じ意味を有する用語として使用される。
【0051】
本明細書の実施例において具体的に記載するように、本発明の抗CEA抗体を含有する治療薬または診断薬は、CEAを発現または高発現することによって特徴づけられる任意の疾患(例えば、胃癌など)の診断または治療に適している。
【0052】
癌の診断または治療に使用するための本発明の抗CEA抗体は、本発明の診断薬または治療薬において、必要に応じて、モニタリング等のための標識物質(例えば、放射性同位元素、蛍光物質など)で標識されていてもよい。
【0053】
また、本発明の抗CEA抗体は、本発明の診断薬または治療薬において、それ自体が、抗原の活性を減弱させるような中和活性を有する薬剤(agent)であり得るが、必要に応じて、治療効果を奏するための他の薬剤(例えば、放射性同位元素、治療タンパク質、または低分子の薬剤など、あるいは標的への遺伝子導入のためのウイルスベクターもしくは非ウイルスベクター)と化学的または遺伝子工学的に結合され得る。ここで、「化学的な結合」には、イオン結合、水素結合、共有結合、分子間力による結合、疎水性相互作用による結合などが含まれるものとし、「遺伝子工学的な結合」には、例えば、抗体と治療タンパク質とからなる融合タンパク質を遺伝子組換えなどの技術を用いて作製した場合の、抗体と治療タンパク質との間の結合様式などが含まれるものとする。
【0054】
in vivoでの診断に使用するための抗体調製物の調製および使用方法は当該分野でよく知られている。例えば、インジウム−111で標識した抗体とキレート剤との結合体(抗体−キレート剤)が、癌胎児性抗原を発現している腫瘍のラジオイムノシンチグラフィーによるイメージングでの使用に関して記述されている(Sumerdon et al. Nucl. Med. Biol. 1990 17:247−254)。特にこれらの抗体−キレート剤は、再発性の結腸直腸癌を有する疑いのある患者において腫瘍を検出するのに用いられている(Griffin et al. J. Clin. Onc. 1991 9:631−640)。磁気共鳴イメージングで用いる標識としての常磁性イオンを有する抗体もまた記載されている(Lauffer, R.B. Magnetic Resonance in Medicine 1991 22:339−342)。
【0055】
CEAに対する抗体も同様に用いることができる。すなわち、CEAに特異的に結合する標識された抗体を、例えば、癌を有する疑いのある患者に、その患者の疾患の状態の診断または病期診断等の目的で注射することができる。用いる標識は、用いるイメージングの様式に応じて選択し得る。例えば、インジウム−111(111In)、テクネチウム−99m(99mTc)またはヨウ素−131(131I)などの放射性標識は、平面スキャンまたはシングルフォトン断層撮影に用いることができる。フッ素−18(18F)などのポジトロン放出標識をポジトロン断層撮影に用いることができる。ガドリニウム(III)またはマンガン(II)などの常磁性イオンを磁気共鳴イメージングに用いることができる。標識の局在性を検査することにより、癌の播種の判定をすることができる。また、器官または組織内の標識の量により、その器官または組織における癌の存在または欠如を決定することができる。
【0056】
したがって、好ましくは、本発明の診断薬または治療薬中の抗CEA抗体は、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、または治療遺伝子を担持したウイルスベクター等と化学的にまたは遺伝子工学的に結合されている。
【0057】
「放射性同位元素」の例としては、フッ素−18、ヨウ素−125(125I)、およびヨウ素−131などの放射性ハロゲン元素が挙げられる。これらの放射性ハロゲン元素も上述の放射性金属元素と同様に抗体やペプチドに標識して、放射性診断薬あるいは放射性治療薬として広く利用し得る。例えば、125Iまたは131Iでのヨード化は、クロラミンT法等の公知の方法により、抗体または抗体断片に結合させることができる。
【0058】
さらに、診断用としてはテクネチウム−99m、インジウム−111およびガリウム−67(67Ga)など、また治療用としてはイットリウム−90(90Y)、レニウム−186(186Re)またはレニウム−188(188Re)などが使用され得る。放射性同位元素を用いて抗体に標識する場合には、通常、金属キレート剤が用いられる。金属キレート剤としては、EDTA、DTPA、ジアミノジチオ化合物、サイクラム、およびDOTAなどが知られている。これらのキレート剤は抗体に予め結合しておき、その後放射性金属で標識する場合と、放射性金属キレートを形成後、抗体に結合して標識する方法がある。
【0059】
「治療タンパク質」の例としては、免疫を担う細胞を活性化するサイトカインが好適であり、例えば、ヒトインターロイキン2、ヒト顆粒球−マクロファージ−コロニー刺激因子、ヒトマクロファージコロニー刺激因子、ヒトインターロイキン12等が挙げられる。また、癌細胞を直接殺傷するため、リシンやジフテリア毒素などの毒素を用いることができる。例えば、治療タンパク質との融合抗体については、抗体または抗体断片をコードするcDNAに治療タンパク質をコードするcDNAを連結させ、融合抗体をコードするDNAを構築し、このDNAを原核生物または真核生物用の発現ベクターに挿入し、この発現ベクターを原核生物または真核生物へ導入することにより発現させ、融合抗体を製造することができる。
【0060】
「低分子の薬剤」は、本明細書中で「放射性同位元素」や「治療タンパク質」等以外の診断または治療用化合物を意味するものとして用いられる。「低分子の薬剤」の例としては、ナイトロジェン・マスタード、サイクロファスファミドなどのアルキル化剤、5−フルオロウラシル、メソトレキセートなどの代謝拮抗剤、ダウノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンC,ダウノルビシン、ドキソルビシンなどの抗生物質、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシンのような植物アルカロイド、タモキシフェン、デキサメタソンなどのホルモン剤等の抗癌剤(臨床腫瘍学(日本臨床腫瘍研究会編 1996年 癌と化学療法社))、またはハイドロコーチゾン、プレドニゾンなどのステロイド剤、アスピリン、インドメタシンなどの非ステロイド剤、金チオマレート、ペニシラミンなどの免疫調節剤、サイクロフォスファミド、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、マレイン酸クロルフェニラミン、クレマシチンのような抗ヒスタミン剤等の抗炎症剤(炎症と抗炎症療法 昭和57年 医歯薬出版株式会社)などがあげられる。例えば、ダウノマイシンと抗体を結合させる方法としては、グルタールアルデヒドを介してダウノマイシンと抗体のアミノ基間を結合させる方法、水溶性カルボジイミドを介してダウノマイシンのアミノ基と抗体のカルボキシル基を結合させる方法等があげられる。
【0061】
「ウイルスベクター」の例としては、本発明の抗CEA抗体に結合し得るように改変されたウイルスベクター(例えば、Z33ファイバー変異型アデノウイルス)が使用し得る。このようなウイルスベクターには、細胞増殖関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子、免疫制御遺伝子等の、標的部位(例えば、癌)において、例えば、癌細胞のアポトーシスを誘導するなどの治療効果を奏する遺伝子(治療遺伝子)が組み込まれる。抗CEA抗体に結合するウイルスベクターは、抗CEA抗体と共に遺伝子治療を必要とする患者に投与された場合、抗CEA抗体が認識する抗原(すなわち、CEA)が存在する部位に指向されることができる。
【0062】
3.組換えアデノウイルス発現システムの作製方法
本発明において典型的に使用される組換えアデノウイルスベクターは、当該分野で周知の分子生物学的手法によって作製することができる。例えば、一般的な分子生物学的手法については、Sambrook, J. et al.:Molecular Cloning.A laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989; Ausbel. F et al.:Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Associates and Wiley−Interscience,1987;田村隆明編、改訂第2版 遺伝子工学実験ノート 上・下 洋土社 2001などを参照することができる。また、組換えアデノウイルスの作製のためには、ウイルスゲノムの両端に共有結合した末端タンパク質を保持したままのゲノム−末端タンパク質複合体(以下DNA−TPCと略す)を用いる方法、例えば、Yoshidaらの方法(Yoshidaら、Hum. Gene Ther. 9:2503−1515 (1998))を利用することができる。これらの手法はいずれも当業者に良く知られたものである。典型的な作製方法においては、まず、pAxCw、pAxCAwt等のコスミドカセットに目的とする遺伝子を組み込んだコスミドを作製する。一方、ウイルスからDNA−TPCを調製し、適当な制限酵素で切断しておく。次に、前述のコスミドおよび制限酵素処理したDNA−TPCを適切な宿主細胞、例えば293細胞にコトランスフェクションする。その後適当な条件で一定期間培養し、培養液中にウイルス粒子として放出された組換えアデノウイルス粒子を回収することができる。
【0063】
本発明において典型的に使用される組換えアデノウイルス粒子は、前述のように組換えアデノウイルス発現用核酸分子を適切な培養細胞にトランスフェクションし、その細胞を更に培養し、培養上清を回収することによって多量に調製することができる。必要であれば、回収したアデノウイルスを更に適切な宿主細胞で必要な回数だけ継代することによって更に大量のアデノウイルベクター粒子を調製することができる。アデノウイルスの増殖および回収のために適した細胞、トランスフェクションの条件、トランスフェクトした細胞の培養条件および培地等は当業者に良く知られたものである。例えば、通常よく使用されるE1A、E1B領域に欠損のあるアデノウイルスを増殖させる場合には、恒常的にE1A、E1Bを発現している293細胞等を使用すればよい。更に、必要に応じて、塩化セシウムの濃度勾配遠心法を用いて濃縮精製することもできる。濃縮することにより、109〜1011粒子/ml程度の高力価のウイルス液を得ることができる。
【0064】
本発明において典型的に使用される組換えアデノウイルス発現用核酸分子は、外来遺伝子を組み込むことができ、組み込まれた外来遺伝子を効率的に標的細胞に導入することができる。本発明において使用される組換えアデノウイルス発現用核酸分子に組み込む外来遺伝子としては、直接または間接的に標的細胞に対して細胞毒性を示すような分子をコードする遺伝子、細胞増殖因子、細胞増殖抑制因子、アポトーシス制御遺伝子、癌抑制遺伝子、細胞周期調節遺伝子、免疫調節遺伝子等が挙げられる。更に、非毒性のプロドラッグと組み合わせて使用するための自殺遺伝子を組み込むことも可能である。そのような組み合わせとしては、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ(HSVtk)とガンシシクロビルの組み合わせ(HSVtk/GCV)、シトシンデアミナーゼと5−フルオロシトシンの組み合わせ(CD/5FC)、ウラシルホスホリラーゼと5−フルオロウラシルの組み合わせ(UP/5FU)、HSVtkとUPを組み合わせた系(UPTK/5FU+GCV)が挙げられる。このような外来遺伝子は、一般にはアデノウイルスゲノムのE1領域および/またはE3領域と置換され、またはこの領域に挿入される。
【0065】
ファイバー変異型組み換えアデノウイルスの作製方法については、報告されている例を参照し得る(Yoshida et al., Hum. Gene Ther. 1998; Nakamura et al., Hum. Gene Ther. 2002; Nakamura et al., J. Virol. 2003など)。
【0066】
本発明において好適に用いられるベクターの非限定的な例としては、抗体のFcドメインに結合するように改変されたZ33ファイバー変異型アデノウイルス、アデノウイルスに抗体を任意の方法で結合(共有結合、ビオチン−アビジンによる架橋、抗体を化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包む、など)させた修飾型のアデノウイルスなどが挙げられる。Z33ファイバー変異型アデノウイルスは、図3に模式的にその概要を示すように、抗体のFcドメインに結合するプロテインAのZ33モチーフ(FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号14))をノブ(Knob)のHIループ部位(ngtqetglik−−−−−idasdttpsa)に含むFZ33ファイバー変異型Ad5ウイルスをベースとして、lacZ、EGFPなどのレポーター遺伝子が組み込まれたアデノウイルスである。なお、これは非限定的な例示であり、他のウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、シンドビスウイル、麻疹ウイルス、センダイウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス、など各種ウイルスの外被(エンベロープ)やキャプシドに修飾を施した各種変異型ウイルス、または前記各種ウイルスに抗体を任意の方法で結合(例えば、共有結合、ビオチン−アビジンによる架橋、抗体を化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包む、など)させた修飾型のウイルスもまた、本発明の抗CEA抗体とともに使用し得ることを、当業者は理解し得る。あるいは、ウイルスベクターに限らず、リポソームベクター、センダイウイルスエンベロープベクター、プラスミドDNAネイキッド(naked)ベクターなどの非ウイルスベクターもまた、抗体を任意の方法で結合(FZ33などの抗体結合分子を結合させる方法、化学的共有結合、ビオチン−アビジンによる架橋、抗体を化学結合させたポリエチレングリコールでベクターを包む、など)させた修飾型の非ウイルスベクターとすることによって、本発明の抗CEA抗体とともに使用し得ることを、当業者は理解し得る。
【0067】
本発明の抗CEA抗体に結合し得るように改変されたウイルスベクターを使用する利点として、以下のような点が挙げられる。通常、ウイルスベクターを使用する場合、そのウイルスが本来認識する細胞表面のレセプター(例えば、アデノウイルスの場合のCAR、またはシンドビスウイルスの場合の高親和性ラミニンレセプター(high−affinity laminin receptor:LAMR)、ポリオウイルスの場合のCD155、コクサッキーウイルスA21の場合のICAM/DAF、麻疹ウイルスの場合のSLAM/CD46など)を細胞表面に発現している細胞に対して標的化される。したがって、使用するウイルスに特異的な細胞表面レセプターを発現していないか、発現の程度が低い細胞に対しては、通常、ウイルスベクターを用いた遺伝子の効果的な標的指向化導入は困難である。しかしながら、本発明の抗CEA抗体と結合し得るかまたは結合するように改変されたウイルスベクターを用いれば、そのウイルスの本来の細胞表面レセプターを発現していない細胞であっても、その細胞がCEAを発現する細胞であれば、その細胞に対してウイルスベクターを用いた治療遺伝子の標的指向化導入および発現が容易に可能となる。図4に、ファイバーノブに結合させた抗CEA抗体を結合させることによって、アデノウイルスをCEA発現細胞へ指向化し得ることを模式的に示す。
【0068】
なお、本発明において使用される組換えアデノウイルスの作製については、さらに下記文献を参照することができる。
【0069】
Yoshida Y., Sadata A., Zhang W., Shinoura N. and Hamada H. “Generation of fiber-mutant recombinant adenoviruses for gene therapy of malignant glioma.”Human Gene Therapy, 9(17): 2503-2515, 1998.
【0070】
Nakamura T., Sato K. and Hamada H. “Effective Gene Transfer to Human Melanomas via Integrin-Targeted Adenoviral Vectors.”Hum. Gene Ther., 13(5): 613-626, 2002.
【0071】
Nakamura T., Sato K. and Hamada H. “Reduction of natural adenovirus tropism to the liver by both ablation of fiber-Coxsackievirus and adenovirus receptor interaction and use of replaceable short fiber.”J. Virol., 77(4): 2512-2521, 2003.
【0072】
Uchida H, Tanaka T, Sasaki K, Kato K, Dehari H, Ito Y, Kobune M, Miyagishi M, Taira K, Tahara H, Hamada H. “Adenovirus-Mediated Transfer of siRNA against Survivin Induced Apoptosis and Attenuated Tumor Cell Growth in Vitro and in Vivo.” Mol Ther. 10(1):162-71, 2004.
【0073】
Volpers C et al. “Antibody-mediated targeting of an adenovirus vector modified to contain a synthetic immunoglobulin G-binding domain in the capsid.” J. Virol. 77: 2093-2104, 2003.
【0074】
Braisted AC and Wells JA “Minimizing a binding domain from protein A.” Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:5688-5692, 1996.
【0075】
4.薬剤の標的指向化
上記2.の説明からも明らかなように、本発明の抗CEA抗体を用いて、疾患の診断および/または治療に有用な薬剤を標的となる疾患の部位へ送達することができる。したがって、本発明はまた、抗CEA抗体を用いて、疾患の診断および/または治療に有用な薬剤を標的となる疾患の部位へ送達する方法を提供する。
【0076】
「薬剤(agent)」の例としては、既に説明した放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、治療遺伝子などが挙げられる。
【0077】
典型的な例として、本発明の抗CEA抗体は、抗CEA抗体が結合し得る、治療遺伝子を組み込んだファイバー変異型アデノウイルスベクターに結合される。これにより、アデノウイルス本来の受容体である(CAR)に依存する感染のみの場合と比較して、標的細胞への感染効率を高めることができ、ファイバー変異型アデノウイルスを用いた標的部位への治療遺伝子の導入を効果的に行うことができる。
【0078】
本発明において、「標的部位」は、CEAを発現または高発現している細胞、組織、臓器等であり、特に、CEAを高発現している腫瘍細胞である。そのような細胞の非限定的な例として、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌細胞等が本発明の目的にとって好適なものとして挙げられ得る。また、本発明において、「CEA産生癌」とは、CEAを発現または高発現する癌(CEA陽性の癌)のことをいうものとする。また、本明細書中、「腫瘍特異的CEA抗原」とは、腫瘍細胞において発現しているCEAをいうものとする。
【0079】
5.本発明の抗CEA抗体を用いるエフェクター細胞を介在する疾患の治療およびオプソニン化
本発明はまた、1つの態様において、本発明の治療薬に有効成分として含まれる抗CEA抗体が、被験者に投与された場合に、免疫学的エフェクター細胞を介在して、CEA発現細胞を溶解または成長を阻害するように作用する、CEAの高発現によって特徴付けられる疾患(例えば、癌)の治療薬およびそのような治療薬を被験者に投与することによる該疾患の治療方法を提供する。
【0080】
用語「免疫学的エフェクター細胞」は、当該分野で通常用いられる意味で本明細書中でも用いられるが、特に、免疫応答の認識及び活性化段階ではなく、免疫応答のエフェクター段階に関与する免疫細胞を言うものとする。免疫学的エフェクター細胞の非限定的な例には、T細胞(例えば、細胞溶解性T細胞(CTL)、ヘルパーT細胞(Th))、NK細胞、NK様T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、クッパー細胞、ランゲルハンス細胞、多核白血球(例えば、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞)などが含まれる。例えば、本発明者の抗CEA抗体は、免疫学的エフェクター細胞表面上のFc受容体に結合することができる。エフェクター細胞は、特異的なFc受容体を発現して、抗体の結合によって特異的な免疫機能を奏することができ、例えば、好中球は、抗体依存的細胞媒介細胞傷害性(ADCC)を誘導することができる。このように、免疫学的エフェクター細胞を介在して、CEA発現細胞を貪食するか、または溶解させることができる。
【0081】
本発明者はまた、さらに別の態様において、本発明の治療薬に有効成分として含まれる抗CEA抗体が、被験者に投与された場合に、CEA発現細胞をオプソニン化するように作用する、CEAの高発現によって特徴付けられる疾患(例えば、癌)の治療薬、およびそのような治療薬を被験者に投与することによる該疾患の治療方法を提供する。
【0082】
例えば、本発明の抗CEA抗体は、CEAに対する少なくとも1つの第1の結合特異性と、第2の標的エピトープに対する第2の結合特異性とを含む二重特異的または多重特異的分子であり得る。例えば、上記第2の標的エピトープは、例えば、ヒトFcγRI又はヒトFcα受容体などのFc受容体であり得る。従って、本発明には、FcγR、FcαR又はFcεRを発現しているエフェクター細胞(例えば単球、マクロファージ又は多核白血球など)と、CEAを発現している標的細胞との両方に結合し得る二重特異的または多重特異的分子が含まれる。また上記第2の標的エピトープは抗CEA抗体の補体結合部でもあり得る。抗CEA抗体は補体を介して補体受容体を発現しているエフェクター細胞(例えば単球、マクロファージ又は多核白血球など)と、CEAを発現している標的細胞との両方に結合し得る二重特異的または多重特異的分子が含まれる。これらの二重特異的または多重特異的分子は、CEA発現細胞をエフェクター細胞に狙わせ、CEA発現細胞のファゴサイトーシス、ADCC、サイトカイン放出、またはスーパーオキシドアニオン産生などのFc受容体媒介エフェクター細胞活性を惹起することができる。
【0083】
6.CEAを診断マーカーとして検出および/または定量する方法
本発明は、1つの態様において、被験者由来の生体試料中のCEAタンパク質もしくはその断片、またはそれらをコードする核酸を診断マーカーとして検出および/または定量する工程を包含する、癌の診断方法を提供する。
【0084】
本明細書中、「被験者」とは、CEAを高発現することによって特徴づけられる疾患、代表的には、癌を罹患しているか、そのような疾患を罹患していると疑われるか、またはそのような疾患を罹患する危険性のある、ヒトの被験者を意味するものとする。本発明の目的に従う代表的な「癌」の例としては、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、および前立腺癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
本明細書中、「生体試料」とは、検査のために採取された被験者由来の細胞、組織、臓器、体液などを意味する。体液には、血液、リンパ液、精液、唾液、汗等が含まれ、血液には、全血の他、血清、血漿などの血液製剤も含まれるものとする。より具体的には、生体試料は、癌細胞(または癌組織)であり得、好ましくは、CEA陽性癌細胞である。
【0086】
本発明はまた、1つの態様において、被験者由来の生体試料中のCEAを、抗CEA抗体を用いて免疫学的に検出および/または定量する方法を提供する。
【0087】
好ましい態様に係る本発明の方法は、(1)生体試料と抗CEA抗体とを接触させる工程、および(2)該生体試料中のCEAと該抗CEA抗体との結合を検出および/または定量する工程を包含する。
【0088】
このような方法は、CEAを例えば、正常細胞と比較して高発現することによって特徴づけられる疾患、代表的には、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌等を含む癌の診断のために使用することができる。通常、CEAと抗CEA抗体との結合体のレベル(または量)に基づいて、生体試料中のCEAのレベル(または量)が評価される。生体試料中のCEAのレベルと正常なヒトのコントロールで測定したレベルとを比較し、その変化(または差違)に基づいて、癌の存在が診断される。通常、正常ヒトコントロールと比較して高いCEAレベルは、癌の存在を示す。この場合、通常少なくとも2倍、好ましくは、5倍程度高いCEAレベルが、被験者が癌を有することを示す陽性結果である。あるいは、生体試料中のCEAの存在そのものが、被験者における癌の存在を示し得る。
【0089】
ヒト由来の生体試料において、CEAのようなタンパク質の発現レベルを決定するのに用いることができるアッセイ技術は、当業者によく知られている。このようなアッセイ方法は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISAアッセイ)、ウエスタンブロット分析、ラジオイムノアッセイ、結合タンパク質競合アッセイ、逆転写酵素PCR(RT−PCR)アッセイ、免疫組織化学アッセイ、in situハイブリダイゼーションアッセイ、およびプロテオミクスアプローチ(proteomics approach)を含む。これらの中で、ELISAが、生物学的液体における遺伝子の発現タンパク質の診断に好まれることが多い。
【0090】
もし商業的に容易に入手できない場合、ELISA分析は、最初に、CEAに特異的に結合する抗体、好ましくはモノクローナル抗体の調製を含む。さらに、一般的に、CEAに特異的に結合するレポーター抗体が調製される。レポーター抗体は、放射性試薬、蛍光試薬または例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素またはアルカリホスファターゼなどの酵素試薬などの検出可能な試薬を付着している。
【0091】
ELISAを行う場合、CEAに特異的に結合する抗体は、例えば、ポリスチレンディッシュなどの、抗体を結合する固体支持体上でインキュベートされる。次に、ディッシュ上の任意の遊離タンパク質結合部位(free protein binding sites)は、ウシ血清アルブミンなどの非特異的タンパク質とインキュベートすることにより被覆される。次に、分析される試料は、CEAがポリスチレンディッシュに付着した特異抗体に結合する時間中、ディッシュ内でインキュベートされる。非結合試料はバッファーで洗い流される。CEAに対して特異的に指向し、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの検出可能な試薬を連結したレポーター抗体がディッシュ内に設置され、該レポーター抗体がCEAに結合した任意のモノクローナル抗体に結合する。次に非結合レポーター抗体が洗い流される。比色基質を含むペルオキシダーゼ活性のための試薬が、次にディッシュに加えられる。抗CEA抗体に連結した、固定化したペルオキシダーゼが着色反応産物を産生する。所定の時間内に発生した色素の量は、試料中のCEAタンパク質の量に比例している。量的な結果は、通常標準曲線を参照して得られる。
【0092】
競合アッセイもまた用いることができ、そこでは、CEAに特異的に結合する抗体が固体支持体に付着しており、標識したCEAおよび患者またはヒト対照に由来する試料が固体支持体上を通過する。固体支持体に付着した検出標識量を試料中のCEAの量に相関させることができる。
【0093】
上記に例示した個々の測定法以外にも、例えば、サンドイッチ免疫測定法、蛍光免疫測定法(FIA)、時間分解蛍光免疫測定法(TRFIA)、酵素免疫測定法(EIA)、発光免疫測定法(LIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、ラテックス凝集法、免疫沈降アッセイ、沈降素反応法、ゲル拡散沈降素反応法、免疫拡散検定法、凝集素検定法、補体結合検定法、免疫放射分析検定法、蛍光免疫検定法、またはプロテインA免疫検定法などのいずれかの免疫学的な測定方法を本発明において用いることができる。
【0094】
CEAを診断マーカーとして使用する意味において、CEAの核酸配列の全てまたは一部をハイブリダイゼーションプローブとして用いた核酸法(nucleic acid method)もまた、肺癌を含む癌のマーカーとしてのCEAのmRNAを検出するのに用いることができる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、およびリガーゼ連鎖反応(LCR)および核酸配列をもとにした増幅(nucleic acid sequence based amplification:NASABA)などのその他の核酸法を、様々な悪性腫瘍を診断およびモニタリングするための悪性細胞の検出に用いることができる。例えば、逆転写酵素PCR(RT−PCR)は、特定のmRNA集団の存在を、何千ものその他のmRNA種の複雑な混合物の中で検出するために用いることができる強力な技術である。RT−PCRにおいては、1種類のmRNAが、酵素である逆転写酵素を用いて最初に相補DNA(cDNA)に逆転写され、次にそのcDNAが標準的なPCR反応と同様に増幅される。このように、RT−PCRは、増幅により、単一種のmRNAの存在を明らかにすることができる。したがって、このmRNAがそれを産生する細胞に高度に特異的である場合、RT−PCRは、特定の種類の細胞の存在を同定するのに用いることができる。また、リアルタイムPCR法も、CEAをコードする核酸(例えば、mRNA)を定量し、被験者と健常者との比較において、CEAをマーカーとして被験者の癌の診断を行うために使用することができる。
【0095】

また、CEAをマーカーとして、被験者の癌の進展の経過あるいは治療経過をモニタリングすることもできる。そのような癌としては、CEA陽性の癌であれば特に種類を問わず、CEA陽性の胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌などの診断に好適に使用することができる。例えば、抗体とマグネチックビーズとを用いた細胞の分別と濃縮(エンリッチメント)、ならびにRT−PCR法による高感度のmRNAの検出法を組み合わせることによって、例えば、5mlの被験者の血液中に存在する数個の腫瘍細胞を検出することが可能である。血液中に存在する腫瘍細胞を検出すること、そのCEAの発現量またはmRNAの量を検出または測定することによって、感度および特異性の高い腫瘍の診断が可能である。このような方法については、さらに以下の参考文献を参照することができる。
【0096】
Zieglschmid V, Hollmann C, Bocher O. “Detection of disseminated tumor cells in peripheral blood.” Crit Rev Clin Lab Sci. 2005;42(2):155-96.
【0097】
Waguri N, Suda T, Nomoto M, Kawai H, Mita Y, Kuroiwa T, Igarashi M, Kobayashi M, Fukuhara Y, Aoyagi Y. “Sensitive and specific detection of circulating cancer cells in patients with hepatocellular carcinoma; detection of human telomerase reverse transcriptase messenger RNA after immunomagnetic separation.” Clin Cancer Res. 2003 Aug 1;9(8):3004-11.
【0098】
Zhang YL, Feng JG, Gou JM, Zhou LX, Wang P. “Detection of CK20mRNA in peripheral blood of pancreatic cancer and its clinical significance.” World J Gastroenterol. 2005 Feb 21;11(7):1023-7.
【0099】
Demel U, Tilz GP, Foeldes-Papp Z, Gutierrez B, Albert WH, Bocher O. “Detection of tumour cells in the peripheral blood of patients with breast cancer. Development of a new sensitive and specific immunomolecular assay.” J Exp Clin Cancer Res. 2004 Sep;23(3):465-8.
【0100】
固体支持体上に配列(すなわち、グリッド化(gridding))されたクローンまたはオリゴヌクレオチドへのハイブリダイゼーションもまた、その遺伝子の発現の検出および発現レベルの定量の両方に用いることができる。この手法では、CEA遺伝子をコードするcDNAが基材に固定される。基材は、ガラス、ニトロセルロース、ナイロンまたはプラスチックを含むがこれらに限定されない任意の好適な種類であってもよい。CEA遺伝子をコードするDNAの少なくとも一部を基材に付着させ、次に、当該組織から単離したRNAまたはRNAのコピーである相補DNA(cDNA)であってもよい検体とインキュベートする。基材に結合したDNAと検体とのハイブリダイゼーションは、検体またはハイブリッド検出用の二次分子を放射性標識または蛍光標識することを含むがこれらに限定されないいくつかの手段で検出し定量することができる。本発明において使用し得る標識の非限定的な例としては、放射性同位元素、蛍光基、発光基、フリーラジカル基、粒子、バクテリオファージ、細胞、金属、酵素、または補酵素等が挙げられる。遺伝子の発現レベルの定量は、検体からの信号の強度を、既知の標準から決定したレベルと比較することによってなされる。標準は、標的遺伝子のin vitroでの転写、収量の定量化、およびこの材料を用いて標準曲線を作成することにより得ることができる。
【0101】
プロテオミクスアプローチでは、2次元電気泳動が当業者によく知られた技術である。すなわち、血清などの試料からの個別のタンパク質は、通常ポリアクリルアミドゲル上で、タンパク質の異なる特性による分離を連続的に行うことによって単離することができる。最初に、タンパク質は電流を用いて大きさにより分離される。電流は全てのタンパク質に均等に作用し、それにより、小さいタンパク質は大きいタンパク質よりもゲル上で早く移動する。第2次元では、第1次元に対して直角に電流をかけ、タンパク質を大きさに基づいてではなく、各タンパク質が有する特定の電荷に基づいて分離する。異なる配列の2つのタンパク質で大きさおよび電荷の両方に関して同一なものは存在しないため、2次元分離の結果は、各タンパク質が固有のスポットを占有する正方形のゲルとなる。該スポットの化学的プローブまたは抗体プローブによる分析、またはそれに引き続くタンパク質のマイクロシーケンスにより、所定のタンパク質の相対的な存在度を明らかにし、試料中のタンパク質の同定をすることができる。
【0102】
以上詳述した検出および/または定量方法は、組織生検材料および検死解剖材料を含む患者または被験者から得られた様々な細胞、体液および/または組織抽出物(ホモジネートまたは可溶化した組織)に由来する試料について行うことができる。本発明に有用な体液は、血液、尿、唾液または任意のその他の体分泌物またはそれらの派生物を含む。血液は、全血、血漿、血清、または任意の血液の派生物を含む。
【0103】
7.抗CEA自己抗体を検出および/または定量する方法
本発明はまた、別の態様において、被験者由来の生体試料中のCEAに対する自己抗体(抗CEA自己抗体)を検出および/または定量する方法を提供する。
【0104】
被験者からの生体試料中の抗CEA自己抗体の検出は、任意の多くの方法で行うことができるが、代表的な方法には、免疫アッセイがあり、例えば、ウエスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA、サンドイッチ免疫測定法、蛍光免疫測定法(FIA)、時間分解蛍光免疫測定法(TRFIA)、酵素免疫測定法(EIA)、発光免疫測定法(LIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、ラテックス凝集法、免疫沈降アッセイ、沈降素反応法、ゲル拡散沈降素反応法、免疫拡散検定法、凝集素検定法、補体結合検定法、免疫放射分析検定法、プロテインA免疫検定法等が挙げられる。
【0105】
このような免疫アッセイは、様々な方法で実施することができる。例えば、このようなアッセイを実施するための1つの方法は、CEAタンパク質の固相支持体上への繋留、およびそれに対して特異的な抗CEA抗体の検出を包含する。本発明のアッセイに用いられるCEAタンパク質は、当該分野において周知の組換えDNA技術によって調製し得る。例えば、CEAタンパク質をコードするDNAを適当な発現ベクター中に遺伝子組換え技術により導入して、CEAタンパク質を大規模に発現することができる。好ましくは、CEAの標識、固定化または検出を容易にすることができる融合タンパク質が遺伝子操作される(例えば、Sambrookら、1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.に記載された技術を参照)。別法として、CEAタンパク質は天然の供給源から精製することができる。例えば、当該分野において周知のタンパク質分離技術を用いて前立腺がん細胞から精製する。このような精製技術には、分子シーブクロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーが包含されるが、これらに限定されない。実際にはCEAタンパク質の固体支持体としては、マイクロタイタープレートが好都合に使用される。
【0106】
8.薬剤の標的指向化療法において使用し得る抗体分子を探索する方法
本明細書の実施例に、抗CEA抗体とZ33ファイバー変異型アデノウイルスベクターとを用いて具体的に例示したCEA陽性、陰性または正常細胞への遺伝子導入効率の評価の方法は、CEAを標的とした標的化療法に使用し得る抗体を同定するための方法として有用である。
【0107】
したがって、本発明は、薬剤の標的指向化療法において使用し得る腫瘍特異的CEA抗原に対するモノクローナル抗体を同定する方法を提供する。
【0108】
本発明は、1つの態様において、腫瘍特異的抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製方法を提供し、この方法は、
(1)CEAまたはCEA陽性腫瘍細胞で哺乳動物を免疫し、免疫した該哺乳動物からのリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマのライブラリーを作製する工程、
(2)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物(例えば、抗体など)の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと上記腫瘍細胞とを接触させることによって、上記ファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する感染効率を評価する工程、および
(3)上記感染効率が上記ハイブリドーマ由来産物(抗体など)を上記腫瘍細胞と接触させない場合と比較して増大したハイブリドーマを選択し、クローニングする工程
を包含する。
【0109】
本発明はまた、腫瘍特異的CEA抗原に対するモノクローナル抗体を調製する方法を提供する。この調製方法は、
(1)CEAまたはCEA陽性腫瘍細胞で哺乳動物を免疫し、免疫した該哺乳動物からのリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマのライブラリーを作製する工程、および
(2)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物(例えば、抗体など)の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと上記腫瘍細胞とを接触させることによって、上記ファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する感染効率を評価する工程、
を包含する。
【0110】
ここで、好ましくは、上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物の存在下での、上記ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞への感染は、
(A)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物を、上記腫瘍細胞と接触させた後、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスを上記腫瘍細胞に接触させるか、
(B)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとをあらかじめ反応させてから、上記腫瘍細胞に接触させるか、または
(C)上記ライブラリー由来の上記ハイブリドーマ由来産物と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとを、同時に投与することによって、上記腫瘍細胞に接触させること、によって行われる。
【0111】
上記調製方法では、感染効率を評価した結果、通常、感染効率がハイブリドーマ由来産物(抗体など)を腫瘍細胞と接触させない場合と比較して、またはコントロール抗体と腫瘍細胞とを接触させた場合と比較して、増大したハイブリドーマを選択し、クローニングすることによって、目的のモノクローナル抗体を得ることができる。なお、予め抗CEAモノクローナル抗体が入手可能な場合(例えば、市販の抗CEAモノクローナル抗体を使用し得る場合)は、上記のハイブリドーマのライブラリーを作製する工程は省略し得ることは明らかである。好ましい態様では、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択する工程は、レポーター遺伝子発現アッセイによって上記ファイバー変異型アデノウイルスの上記腫瘍細胞に対する上記感染効率を評価することを含む。ここで、上記ファイバー変異型アデノウイルスは、上記感染の際に上記感染効率を評価するためのレポーター遺伝子を発現することができるように作製されている。また、上記レポーター遺伝子発現アッセイは、例えば、分光光度計あるいはフローサイトメトリーを利用してレポーター遺伝子EGFPの発現測定を行うことができる。ここで、上記発現効率の増大したハイブリドーマの選択においては、レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体を使用した場合と比較して、少なくとも2倍、好ましくは、少なくとも10倍、より好ましくは、少なくとも20倍、より好ましくは、少なくとも30倍、より好ましくは、少なくとも40倍、最も好ましくは、少なくとも50倍であるモノクローナル抗体が選択される。なお、ここでいう「コントロール抗体」とは、IBL社(lot No 9G−717)のようなマウス抗CEA抗体のことをいう。
【0112】
また、レポーター遺伝子発現アッセイの代替的な実施方法としては、例えば、レポーター遺伝子としてlacZを使用する場合には、lacZ遺伝子産物の発現は、市販の化学発光β−Galレポーター測定キット(例えば、Galacto Light Plus Reporter Gene Assay System(Roche社製:コード番号T1011)など)を使用して測定し得る。また、レポーター遺伝子としてルシフェラーゼ遺伝子を使用する場合には、市販のルシフェラーゼ定量システムとして、Luciferase assay system (Promega,Cat No.E1500)などを使用して測定し得る。
【0113】
上記方法において、抗体に結合するように改変されたファイバー変異型アデノウイルスとしては、例えば、抗体のFcドメインに結合するプロテインAのZ33モチーフをノブのHIループ部位に含むZ33ファイバー変異型アデノウイルスが挙げられる。上記方法においては、Z33ファイバー変異型アデノウイルスに限らず、抗体とある程度以上のアフィニティー(例えば、結合定数(K)が少なくとも10−1、好ましくは、少なくとも10−1、より好ましくは、10−1以上であるような結合親和性;以下同様)をもって結合できる性質を付与したベクターであれば、その種類を問わない。例えば、アデノウイルスにFZ33などの抗体結合分子もしくはペプチドを任意の方法で結合(Z33などを共有結合、Z33などをビオチン−アビジンによって架橋、Z33などを化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包む、など)させたZ33などの修飾型のアデノウイルス、などが挙げられる。また、アデノウイルスのファイバーのCAR受容体(Coxsackievirus adenovirus receptor)との結合部位を欠いたファイバー変異型アデノウイルス、すなわち、Kirby I et al. J.Virol.73: 9508−9514, 1999.; Mizuguchi et al. Gene Therapy 9: 769−776, 2002.; RoelvinkPW et al. Science, 286: 1568−1571, 1999.などの参考文献に基づいて作られるファイバー変異型アデノウイルスをもとに、抗体とある程度以上のアフィニティーをもって結合できる性質を付与したベクターであっても良い。また、アデノウイルスのインテグリン分子群との反応性を欠いた、ペントンベースタンパク変異型アデノウイルスをもとに、抗体とある程度以上のアフィニティーをもって結合できる性質を付与したベクターであっても良い。また、アデノウイルスの肝臓への取り込みを欠いたファイバー変異型アデノウイルス、すなわち、Smith TA et al (Smith TA, Idamakanti N, Rollence ML, Marshall−Neff J, Kim J, Mulgrew K, Nemerow GR, Kaleko M, Stevenson SC. Adenovirus serotype 5 fiber shaft influences in vivo gene transfer in mice. Hum Gene Ther. 2003 May 20;14(8):777−87.)などの参考文献に基づいて作られるファイバー変異型アデノウイルスをもとに、抗体とある程度以上のアフィニティーをもって結合できる性質を付与したベクターであっても良い。なお、これらは非限定的な例示であり、他のウイルス(例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、単純ヘルペスウイルス、シンドビスウイル、麻疹ウイルス、センダイウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス随伴ウイルス、など)の外被(エンベロープ)やキャプシドに修飾を施した変異型ウイルス、または上記各種ウイルスにFZ33などの抗体結合分子ないしペプチドを任意の方法で結合(FZ33などを共有結合、FZ33などをビオチンーアビジンによって架橋、FZ33などを化学結合させたポリエチレングリコールでウイルスを包む、など)させた修飾型のウイルスもまた、本発明の方法に使用し得る。あるいは、ウイルスベクターに限らず、リポソームベクター、センダイウイルスエンベロープベクター、プラスミドDNAネイキッド(naked)ベクターなどの非ウイルスベクターに、抗体結合分子ないしペプチドを任意の方法で結合(抗体結合分子を化学的に共有結合させる、ビオチンーアビジンによって架橋させる、抗体結合分子を化学結合させたポリエチレングリコールでベクターを包む、など)させた修飾型の非ウイルスベクターも、本発明において有利に使用することができる。
【0114】
レポーター遺伝子としては、例えば、lacZ、EGFPなどの蛍光タンパク、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。これらのレポーター遺伝子は、当業者に周知のレポーター遺伝子アッセイ系を用いて検出し得る。例えば、lacZを発現するように調製されたZ33ファイバー変異型アデノウイルスの感染効率は、市販の化学発光β−Galレポーターキット(例えば、Galacto Light Plus Reporter Gene Assay System(Roche社製:コード番号T1011)など)を使用して測定し得る。ルシフェラーゼ定量システムとしては Luciferase assay system (Promega , Cat NoE1500)などを使用して測定し得る。EGFPなどの蛍光タンパクは、分光光度計あるいはフローサイトメトリーによって発現量を測定し得る。
【0115】
なお、上記した薬剤の標的指向化療法に使用するためのモノクローナル抗体の作製および精製については、さらに以下の文献を参照することができる。
【0116】
Hamada H. and Tsuruo T. “Functional role for the 170- to 180-kDa glycoprotein specific to drug-resistant tumor cells as revealed by monoclonal antibodies.” Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83: 7785-7789, 1986.
【0117】
Hamada H. and Tsuruo T. “Determination of membrane antigens by a covalent crosslinking method with monoclonal antibodies.”Anal. Biochem., 160: 483-488, 1987.
【0118】
Hamada H., Hagiwara K., Nakajima T. and Tsuruo T. “Phosphorylation of the Mr 170,000 to 180,000 glycoprotein specific to multidrug-resistant tumor cells: Effects of verapamil, trifluoperazine, and phorbol esters.”Cancer Res., 47: 2860-2865, 1987.
【0119】
Hamada H. and Tsuruo T. “Purification of the 170- to 180 kilodalton membrane glycoprotein associated with multidrug resistance: The 170- to 180-kilodalton membrane glycoprotein is an ATPase.”J. Biol. Chem., 263: 1454-1458, 1988.
【0120】
Mishell BB, Shiigi SM eds. “Selected Methods in Cellular Immunology” WH Freeman and Co., San Francisco, 1980. (邦訳 細胞免疫実験操作法、今井ら訳、理工学社、1982)
【0121】
Birch JR and Lennox ES eds. “Monoclonal antibodies: Principles and Applications.” Wiley-Liss, New York, 1995.
【0122】
Goding JW “Monoclonal antibodies: Principles and practice.” Academic Press, London, 1983.
【0123】
Goding JW “Monoclonal antibodies: Principles and practice.” Third ed. Academic Press, London, 1996.
【0124】
上記の腫瘍特異的抗原に対する抗CEAモノクローナル抗体を同定する方法により、CEA産生癌細胞の標的化治療に実用化可能な抗体を系統的に探索することができる。
【0125】
9.標的化療法における標的分子および抗体の配列決定およびクローニング
本発明の上記方法により、同定された抗体のアミノ酸配列およびそれをコードする核酸配列は、当業者に周知の配列決定法により決定することができる。
【0126】
アミノ酸配列決定法としては、気相シークエンサー(例えば、Procise 490cLC ABI社、HP241 HP社など)を用いるアミノ酸配列の決定方法、酵素や化学分解により切断して得られたペプチドのHPLCによる分離、ゲル電気泳動によるペプチドマップ法、質量分析装置によるHPLCで分離されたペプチドのアミノ酸配列分析等が使用され得る。核酸配列の決定方法としては、PCRを用いたサイクルシークエンス法などのような当業者に周知の核酸配列の決定法が使用され得る。
【0127】
得られた標的分子またはそれに対する抗体のDNAの塩基配列が決定されれば、それに基づいて遺伝子工学的手法により、本発明の抗体を作製したり、他の分子との融合体を作製したりすることができる。目的とするDNAは、プラスミドベクターによるクローニング法等の当業者に周知の分子生物学的手法を用いて大量に得ることができる(例えば、Sambrook, J. et al.:Molecular Cloning.A laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989等を参照)。
【0128】
10.製剤化および製剤の投与方法
本発明の抗体を含有する治療薬、本発明の抗体が、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、および治療遺伝子を担持したウイルスベクターのうちのいずれか、またはこれらの任意の組み合わせと化学的または遺伝子工学的に結合されている治療薬は、公知の手法に基づいて製剤化することができる。
【0129】
本発明の治療薬の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0130】
本発明の治療薬の剤型の種類としては、例えば、経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。有効成分は、製剤中0.1から99.9重量%含有することができる。
【0131】
本発明の薬剤の有効成分の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、患者(60kgとして)に対して一日につき約0.1mg〜1,000mg、好ましくは約1.0〜100mg、より好ましくは約1.0〜50mgである。非経口的に投与する場合は、その一回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、患者(60kgに対して)、一日につき約0.01から30mg程度、好ましくは約0.1から20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。しかしながら、最終的には、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【0132】
このようにして得られる製剤は、例えば、ヒトやその他の哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。ヒト以外の動物の場合も、上記の60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0133】
本発明の治療剤は、対象となる細胞、組織、臓器、または癌の種類は特定のものに限定されないが、CEA産生癌(例えば、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、および前立腺癌)の治療に用いることができる。
【0134】
また、本発明において典型的に使用されるウイルスベクター粒子は、医薬組成物の成分の一つとして、抗CEA抗体と組み合わせて、治療、特に腫瘍の治療のために使用することができる。組換えアデノウイルス粒子と抗CEA抗体との組み合わせを治療のために使用する場合は、これら単独で使用してもよいが、一般には製薬的に許容できる担体と共に使用される。そのような担体としては、既に上記したような担体、ならびに水、生理食塩水、グルコース、ヒトアルブミン等の水性等張溶液が好ましい。更に、製薬的に通常使用される添加剤、保存剤、防腐剤、衡量等を添加することもできる。そのように調製した医薬組成物は、治療すべき疾病に依存して適切な投与形態、投与経路によって投与することができる。投与形態としては、例えば、乳剤、シロップ剤、カプセル、錠剤、顆粒剤、注射剤、軟膏等が挙げられる。本発明の抗CEA抗体−ウイルスベクター粒子またはこれを含む医薬組成物を治療のために投与する場合は、通常成人一人当たり1回に10〜1015個のウイルス粒子を投与するのが好ましいが、疾病の状態や標的細胞・組織の性質によって変更してよい。投与回数は、1日1回〜数回でよく、投与期間は1日〜数ヶ月以上にわたってもよく、1〜数回の投入を1セットとして、長期にわたって断続的に多数セットを投与してもよい。また、本発明において使用されるウイルスベクター粒子またはウイルスベクター核酸分子は、特定の細胞および/または組織の検出、または疾病状態の診断に使用することができる。例えば、ウイルスベクターの核酸分子に検出可能なマーカー遺伝子を組込み、これを適切な宿主細胞にトランスフェクションして得られたウイルスベクター粒子は、抗CEA抗体と組み合わせて腫瘍細胞を検出診断するために使用することができる。あるいは、抗CEA抗体に検出可能な標識を結合させて腫瘍細胞を検出診断するために使用することができる。
【0135】
以下、実施例によって本発明をより具体的に記載するが、本発明の範囲は、以下の実施例によって限定されない。
【実施例】
【0136】
1.材料および方法
1.1. 細胞培養
高レベルのCEAを産生するヒト胃腺癌から樹立したMKN45細胞株を、日本癌研究リサーチリソースバンク(Japanese Cancer Research Resources Bank)(Tokyo,Japan)から入手した。MKN−74(CEAを発現しないヒト胃癌細胞)は、Dr.Kurokiから提供された。ヒト正常肝細胞株であるChan−liverは、Dr.Niitu(Forth Department of Internal Medicine Sapporo Medical University)により提供された。これらの細胞を、10% FBSを補充したRPMI 1640中で、37℃、5% COで増殖させた。
【0137】
1.2. pAx3プラスミド構築
Saitoらによって最初に開発されたコスミドDNA pAdex1cwは、アデノウイルスゲノムの最左端の33塩基対(bp)および最右端の約200塩基対(bp)の両方を欠失するため、本発明者らは、アデノウイルスゲノムの左端および右端の両方の全長配列を提供する組換えアデノウイルス産生のためにコスミドDNAを作製することを試みた。コスミドpAx357−FRGD(単にpAx3と略記されることもある)は、以下のようにこのプロジェクトのために構築された。Ad5ゲノムの左端の357bpを、Ad5ゲノムDNAをテンプレートとして用い、そしてMunI(caattg)、PacI(ttaattaa)、およびBamHI(ggatcd)部位を含む5’プライマー:5’CCGCAATTGTTAATTAAGGATCCCCATCATCAATAATATACCTTA−3’(配列番号2)、およびClaI(atcgat)、SwaI(atttaaat)、およびBglII(agatct)部位を含む3’プライマー:5’CCATCGATTTAAATAGATCTGCGGCCCTAGACAAATATTACGCGC−3’(配列番号3)を用いてPCRによって得た。得られた401bpのPCR産物を、MunIおよびClaIで消化し、そしてClontech(Japan BD Biosciences Clontech,Tokyo,Japan)から購入したpWE15コスミドのEcoRI(MunI接着末端と互換性)およびClaI部位にライゲーションし、コスミドpWE357PacIを得た。Ad5ゲノムの357bp左側末端を含有するpWE357PacI由来のClaI/RsrIIフラグメント(フラグメントA)を、pAx−FRGD由来のAd5ゲノムDNAの約24kbpの中央部分を含有するClaI/EcoRIフラグメント(フラグメントB)(Nakamura T.,Hum Gene Ther.,13(5):613−26,2002)、およびpAxFRGD由来のFRGDファイバー変異体Ad5ゲノムの右側6.7kbpを含有するEcoRI/RerIIフラグメント(フラグメントC)へ、フラグメントA、BおよびCの3部分ライゲーションによってライゲーションした。得られたコスミドDNAを、pAx357−FRGDと命名した(これはまた、単にpAx3とも略記される)。
【0138】
図1は、本発明において代表的な例として使用される組換えアデノウイルス作製のためのアデノウイルスベクターpAx3の模式図である。図1に示されるように、pAx3プラスミドDNAは、PacI部位を、Ad5ゲノム(Ad5ゲノムのヌクレオチド(nt)1〜357)の左側末端および右側末端の両方に含有し、続いてBglII、SwaI、ClaI、およびSalI制限酵素部位を含有する。pAx3は、nt358〜3328のE1AおよびE18コード領域を欠失する。これはまた、E3をコードする1.8kbp XbaI−XbaIフラグメントを欠失する。それは、RGDファイバー変異をコードするCDCRGDCFCをファイバーノブのHIループに含有し、Ad5ゲノムの全長右側末端を含有する。RGD変異を有するファイバーノブHIループのDNA配列は、以下の通りであり:TGTGACTGCCGCGGAGACTGTTTCTGCCCAAGTGCATACTCTATGTCATTTTCATGGGACTGGTCTGGCCACAACTACATTAATGAAATATTTGCCACCTCGAGTTACACTTTTTCATACATTGCCCAAGAATAAGGATCCACGCGTGTCGACAAGAATAAAGAAT(配列番号4)、SacII部位をRGDリガンド(CDCRGDCFC)コード領域に有し、続いてAseI、XhoI、BamHI、MluI、およびSalI制限酵素部位を有する。
【0139】
1.3. FZ33アデノウイルスベクター構築のためのプラスミド
a.プラスミドpSKII+hiAN構築
AdvファイバーノブHIループの遺伝子工学を簡略化するために、本発明者らはまず、Agel(ACCGGT)部位およびNheI(GCTAGC)部位を含有するHIループをコードするDNAフラグメントを作製し、このフラグメントをhiANと名付けた。hiANフラグメントの5’側半分は、5’プライマー#2091および3’プライマー#2092を使用して、プラスミドpWE6.7R−F/wt−2(Nakamura T et al.2002(前出))をテンプレートとして使用してPCRによって合成した。KpnI(ggtacc)部位を有する#2091の37塩基プライマーの配列は、以下の通りである:cggggtaccaatatctggaacagttcaaagtgctcat(配列番号5)。EcoRI部位およびAgeI(accggt)部位を有する#2092の47塩基プライマーの配列は、以下の通りである:cggaattcggcgcgccaccggtttcctgtgtaccgtttagtgtaatg(配列番号6)。得られる314bpのPCRフラグメントを、KpnIおよびEcoRIで消化し、pSKII+hiANプラスミド構築のために使用した。hiANフラグメントの3’側半分を、5’プライマー#2093および3’プライマー#2068を使用して、プラスミドpWE6.7R−F/wt−2(Nakamura et al.2002(前出))をテンプレートとして使用して合成した。NheI(gctagc)部位を有する#2093の52塩基プライマーの配列は、以下の通りである:ccgaattccgctagcgacacaactccaagtgcatactctatgtcattttcat(配列番号7)。#2068の26塩基プライマーの配列は、以下の通りである:atatggtaccgggaggtggtgaatta(配列番号8)。得られる974bpのPCRフラグメントをEcoRIおよびBamHIで消化し、136bpのEcoRI/BamHIフラグメントを、pSKII+hiANプラスミド構築のために使用した。5’および3’部分を、pBluescript SKII+(Stratagene)のKpnI/BamHI部位に、3部分ライゲーションによってサブクローニングし、プラスミドpSKII+hiANを得た。
【0140】
b.pSKII+Z33プラスミド構築
Z33ペプチドモチーフを有するDNAフラグメントを、48塩基の#2085 5’プライマーおよび48塩基 #2086 3’プライマーを用いて、86塩基 #2087オリゴヌクレオチドテンプレートを使用してPCRによって合成した。このオリゴヌクレオチド配列は、以下の通りである:#2085、48b:gaaaccggtctcatcaagtttaacatgcagcagcagcgccgcttttac(配列番号9)、#2086、48b:gtcgctagcatctatgtcgtcgcgaatgctcttaatcttggcgttgcg(配列番号10)、#2087、86b:atgcagcagcagcgccgcttttacgaggccttgcacgaccccaacctgaacgaggagcagcgcaacgccaagattaagagcattcg(配列番号11)。得られた132bpのPCR産物(GAAACCGGTCTCATCAAGTTTAACATGCAGCAGCAGCGCCGCTTTTACGAGGCCTTGCACGACCCCAACCTGAACGAGGAGCAGCGCAACGCCAAGATTAAGAGCATTCGCGACGACATAGATGCTAGCGAC(配列番号12))を、AgeIおよびNheIで消化し、pSKII+hiANのAgeI/NheI部位に挿入し、プラスミドpSKII+Z33を得た。132bpフラグメントによってコードされるアミノ酸配列は、以下の通りである:ETGLIKFNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDDIDASD(配列番号13)。報告されたFZ33配列:FNMQQQRRFYEALHDPNLNEEQRNAKIKSIRDD(配列番号14)には、下線を付している。さらに、下線を付したTGは、ACCGGT(AgeI部位)としてコードされ、そして下線を付したASはGCTAGC(NheI部位)としてコードされる。
【0141】
c.pWE6.7R−FZ33プラスミド構築
Ad5ファイバーのN末端領域(フラグメントA)をコードするpWE6.7R−F/wt−2由来のXbaI/BstXIフラグメント、Ad5ゲノムの右側末端を含有するpWE6.7R−F/wt−2由来のBamHI/XbaIフラグメント(フラグメントB)、およびZ33モチーフをコードするpSKII+Z33由来のBstXI/BamHIフラグメント(フラグメントC)を、3部分ライゲーションによってライゲーションし、pWE6.7R−FZ33を得た。
【0142】
d.pAx3−FZ33プラスミド構築
Ad5ゲノムの左側末端357bpを含有するpAx3由来のRsrII/ClaIフラグメント(3956bp)、Ad5ゲノムの中央の24kbpを含有するpAx3由来のClaI/EcoRIフラグメント、およびpWE6.7R−FZ33由来のEcoRI/RsrIIフラグメントを、3部分ライゲーションによってライゲーションして、pAx3−FZ33を得た。図2は、pAx3−FZ33プラスミドの模式図である。
【0143】
e.pAx3CAEGFP−FZ33プラスミド構築
EGFP(enhanced green fluorescence protein)をコードするDNAフラグメントを、NotI消化およびT4 DNAポリメラーゼによる平滑末端化、およびその後のEcoRIでの消化によって、pEGFP−N1(Clontech)から切り出した。そのフラグメントを、pCAcc(Yoshida et al.BBRC(Yoshida Y and Hamada H.(1997)Biochem. Biophys. Res.Commun.,230,426−430.1997)のEcoRI/BglII(T4 DNAポリメラーゼによって予め平滑末端化した)部位へ挿入し、pCAEGFPを得た。pCAEGFP由来のClaIフラグメントを、pAx3−FZ33のClaI部位にライゲーションし、コスミドpAx3CAEGFP−FZ33を得た。左側方向のプラスミドpAx3CAEGFP(L)−FZ33(ここで、EGFPをコードする遺伝子を駆動するプロモーターはE1Aプロモーターに対して反対向きである)をアデノウイルス産生のために使用した。
【0144】
f.pAx3CAZ3−FZ33プラスミド構築
プラスミドpCAZ3(ここで、lacZ遺伝子は、CAプロモーター(ニワトリβアクチンプロモーターを有するサイトメガロウイルスエンハンサー)によって駆動される)を作製した(Nakamura et al. 2002(前出))。βガラクトシダーゼ発現カセット(CAZ3、5153bp)を、BamHI/BglII消化によって、pCAZ3から切り出し、T4 DNAポリメラーゼによって平滑末端化し、そしてpAx3−FZ33のSwaI部位にライゲーションし、コスミドpAx3CAZ3−FZ33を得た。左側方向プラスミドpAx3CAZ3(L)−FZ33(ここで、lacZ遺伝子を駆動するプロモーターは、E1Aプロモーターに対して反対向きである)を、アデノウイルス産生のために使用した。
【0145】
g.pAx3CAUP−FZ33プラスミド構築
プラスミドpCAUP(大腸菌ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTase)遺伝子は、CAプロモーターによって駆動される)を作製した(Kanai et al.Cancer Res.)。UPRT遺伝子発現カセット(CAUP、2.8kbp)を、SalI/HindlII消化によってpCAUPから切り出し、T4 DNAポリメラーゼによって平滑末端化し、そしてpAx3−FZ33のSwaI部位にライゲーションし、コスミドpAx3CAUP−FZ33を得た。左側方向のプラスミドpAx3CAUP(L)−FZ33(UPRTaseを駆動するプロモーターは、E1Aプロモーターに関して反対方向に向いている)を、アデノウイルス産生のために使用した。
【0146】
組換えアデノウイルスの作製のために、各コスミドを、Lipofectamine2000試薬(Invitrogen)を使用したリポフェクションによって293細胞中へトランスフェクトした。トランスフェクトした293細胞から生じるプラークを単離し、そしてウイルスゲノムの制限酵素消化および発現ユニットの配列決定によって評価した。得られたアデノウイルスベクターを、293細胞中で拡大し、そして塩化セシウム超遠心分離によって精製した。精製したウイルスを、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で、10%グリセロールとともに透析し、そして−70℃で使用するまで保存した。ウイルス濃度(vp/ml)を決定するために、ウイルス溶液を0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)中にインキュベートし、そしてA260で測定した。濃度をvp/ml=A260×(1.1×1012)として規定した。使用前に、ウイルスストックへのレプリコンコンピテントウイルスの混入を、E1Aに特異的なプライマー:フォワードプライマー:5’−ATTACCGAAGAAATGGCCGC−3’(配列番号15)、リバースプライマー:5’−CCCATTTAACACGCCATGCA−3’(配列番号16)、E1Bに特異的なプライマー:フォワードプライマー:5’−CGGCTGCTGTTGCTTTTTTG−3’(配列番号17)、リバースプライマー:5’−GTATCTTCATCGCTAGAGCC−3’(配列番号18)、およびE2B(陽性コントロール)に特異的なプライマー:フォワードプライマー:5’−TCGTTTCTCAGCAGCTGTTG−3’(配列番号19)、リバースプライマー:5’−CATCTGAACTCAAAGCGTGG−3’(配列番号20)を使用したPCR分析によって排除した。図3は、このようにして作製したZ33ファイバー変異型アデノウイルスのファイバー部分の構造の模式図である。
【0147】
1.4. 完全ヒト型CEA抗体
本発明では、C2−45クローン(IgGκ)を、完全ヒト型抗CEAモノクローナル抗体として使用した。抗CEAヒトモノクローナル抗体の調製を、以前に記載されたように行った(Imakiire, T.,et al., Int J Cancer, 108: 564−570, 2004;Shibauchi et al.,Anticancer Res.,24:3355−3360,2004)。簡単に説明すると、大腸癌由来の精製したCEAで免疫したKMマウスの脾細胞を、P3−U1マウスミエローマ細胞と融合させた。CEA反応性クローンを選択し、プロテインGカラムを使用して精製した。抗CEAヒトモノクローナル抗体のCEACAMとの交差反応性(表1を参照)、抗体のCEA抗原との親和性(表2を参照)、および抗体に対するCEA上のエピトープを、それぞれ分析した。
【表1】

表1から明らかなように、C2−45クローンは、正常組織にも発現しているCEAファミリーであるCEACAM6、CEACAM1、またはCEACAM8とは結合せず、CEAに特異的に結合することが示された。
【表2】

表2から明らかなように、C2−45クローンは、CEA抗原に対して高い親和性を有することが示された。
【0148】
1.5. CEA、CAR、およびインテグリンの細胞表面上での発現
腹水液として調製したマウス抗ヒトCARモノクローナル抗体、RmcBは、Dr Jeffrey Bergelson(the Children’s Hospital of Philadelphia,Philadelphia,PA)から提供された。抗αVβ3mAb MAB1961、抗αvβ5 MAB1976を、Chemicon International(Temecula,CA)から購入した。ヒト細胞株でのヒトCEAの発現を、C2−45によって分析した。コントロールヒトIgGを、The Binding Site LTD(Birmingham,UK)から購入した。コントロールマウスIgGおよびFITCを結合させた抗マウスIgGを、SigmaおよびDako Japan(Kyoto,Japan)からそれぞれ購入した。培養細胞を、トリプシン−EDTA溶液(0.5%)(Sigma)を5分間用いて回収した。脱着した細胞を遠心分離し、そして2%ウシ血清アルブミン(BSA)を10細胞/mLの濃度で含有するPBS中で再懸濁した。次いで、細胞をRmcB、または10μg/mL C2−45または10μg/mL 抗インテグリン抗体(MAB1961、MAB1976)とともに1時間氷上でインキュベートした。続いて、その細胞を洗浄し、FITC結合体化ウサギ抗マウスIgG(Dako)とともに、30分間氷上で暗所でインキュベートした。2% BSA/PBS中で洗浄後、その細胞を500μLの2% BSA/PBS中で再懸濁した。分析を、FACS caliber(Becton Dickinson、San Jose、CA、USA)で行った。
【0149】
1.6. インビトロでの遺伝子導入効率
抗ヒトCEA mAbを結合させたAx3CAEGFPFZ33に感染させたCEA陽性および陰性細胞の遺伝子導入効率を、FACS分析によって評価した。EGFP遺伝子の遺伝子導入を、以下の方法にしたがって行った。MKN−45、MKN−74およびChang−liver細胞を、アデノウイルスベクターでの感染の1日前に、2×10細胞/ウェルで6ウェルプレート中に播種した。細胞を、3μg/mlの抗体(C2−45またはコントロールヒトIgG)を含有する無血清培地、または抗体を含まない無血清培地で、37℃、5% COで1時間処理した。インキュベーションの後、これらの細胞を無血清培地で洗浄し、次いで、細胞をAx3CAEGFPFZ33(0〜1,000ウイルス粒子/細胞)を含有する1mlの無血清培地で37℃、5%CO中で1時間感染させた。インキュベーションの後、これらの細胞を、無血清培地で2回洗浄し、次いで、細胞を、10%FBSを含有するRPMI−1640中で24時間培養した。抗体と結合させたまたはさせていないAdvの遺伝子導入効率を、CEA陽性または陰性細胞株および正常肝細胞を感染させることによって比較した。GFP活性をFACScaliberによって測定した。
【0150】
1.7. インビトロでのトランスジーン発現
抗ヒトCEA mAbを結合させたAx3CAZ3−FZ33で感染させたCEA陽性および陰性細胞のトランスジーン発現量を、化学発光レポーター遺伝子アッセイによって評価した。LacZ遺伝子の遺伝子導入を、以下の方法に従って行った。MKN−45、MKN−74およびChang−liver細胞を、アデノウイルスベクターでの感染の1日前に1×10細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。細胞を、3μg/mlの抗体(C2−45またはコントロールヒトIgG)を含有するか、または抗体を含有しない無血清培地で、37℃、5% CO中で、1時間処理した。インキュベーションの後、これらの細胞を無血清培地で洗浄し、次いで細胞を、Ax3CAZ3−FZ33(0〜1,000ウイルス粒子/細胞)を含有する100μLの無血清培地を用いて、37℃、5% CO中で、1時間感染させた。インキュベーションの後、これらの細胞を無血清培地で2回洗浄し、次いで、細胞を10% FBSを含有するRPMI−1640中で24時間培養した。抗体と結合させたかまたは結合させていないAdvのトランスジーン発現を、CEA陽性または陰性細胞株および正常肝細胞を感染させることによって比較した。LacZ活性をb−galレポーター遺伝子アッセイ(Roche Molecular Biochemicals,Indianapolis,IN)によって測定した。
【0151】
1.8. インビトロでの5−FUの感受性
抗ヒトCEA mAbを結合させたAx3CAUPFZ33に感染させたCEA陽性および陰性細胞の5−FU感受性を、MTTアッセイによって評価した。大腸菌UPRT遺伝子の遺伝子導入を、以下の方法に従って行った。MKN−45、MKN−74、およびChang−liver細胞を、5×10細胞/ウェルで、アデノウイルスベクターでの感染の1日前に、24ウェルプレートに播種した。細胞を、3μg/mlの抗体(C2−45またはコントロールヒトIgG)を含有するか、または抗体を含有しない無血清培地で、37℃、5%CO中で、1時間処理した。インキュベーション後、これらの細胞を、無血清培地で洗浄し、次いで、細胞を、Ax3CAUP−FZ33を含有する200μLの無血清培地(0〜100ウイルス粒子/細胞)に、37℃、5%CO中で、1時間感染させた。インキュベーション後、これらの細胞を無血清培地で2回洗浄し、次いで、細胞を、5FU(0〜100μM)を含有する10%FBS RPMI−1640培地中で、4日間培養した。抗体を結合させたAdvまたは抗体を結合させていないAdvの5−FU感受性を、CEA陽性または陰性細胞株および正常肝細胞を感染させることによって比較した。細胞生存を、MTTアッセイによって評価した。
【0152】
1.9. 抗CEA mAbと結合させたAdv−FZ33を仲介させたインビボlacZ発現
インビボでの播種性胃癌における、抗CEA mAbと結合させたZ33を仲介する遺伝子の遺伝子導入の能力および選択性を評価するために、メス胸腺欠損ヌードマウス(BALB/c nu/nu)をJapan SLGから入手した。これらは、各実験の開始時に4週齢であった。PBS中で再懸濁した新たに回収した1×10個のMKN−45の細胞を、腹腔中へ接種した。次に、異種移植の10日後に、3μg/mlの抗体(C2−45またはコントロールヒトIgG)を含有するか、または抗体を含有しない無血清培地と結合体化させたAx3CAZ3−FZ33(5×10ウイルス粒子/動物)を、ウイルスベクター投与の4日後にマウスの腹腔内に投与し、マウスを屠殺し、そして4%パラホルムアルデニドを15分間全身灌流させることによって固定した。βガラクトシダーゼの発現を検出するために、腹腔をX−gal(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)溶液(PBS、pH7.2中、1mg/ml X−gal、2mM MgCl、および4mM フェリシアン化カリウム)で4時間染色した。
【0153】
1.10. マウスモデルにおける腹膜播種性胃癌のための、抗CEA mAbを結合させたAdv−FZ33を仲介する遺伝子治療
樹立された腫瘍に対する、抗CEA mAbを結合したAdv−FZ33を仲介させた腫瘍特異的遺伝子治療のインビボでの効力を評価するために、全ての動物実験を札幌医科大学によって確立されたガイドラインの下に行った。雄胸腺欠損ヌードマウス(BALB/c nu/nu)を、Japan SLGから購入した。MKN 45細胞(1×10細胞/マウス)の腹腔内注射を受けたマウスを、無作為に、処置計画にしたがって以下の5つのグループに分けた。(a)30μgのC2−45を含有するAx3CAUP−FZ33、続いて5−FU(10mg/kg)処置(n=3);(b)30μgのコントロールIgGを含有するAx3CAUP−FZ33、続いて5−FU(10mg/kg)(n=3);(c)抗体を含まないAx3CAUP−FZ33、続いて5−FU(10mg/kg)(n=3);(d)PBS、続いて5−FU(10mg/kg)(n=3);(e)処置無し(n=3)。総容量300μlのアデノウイルスベクター(5×10VP)を、腫瘍移植の4日後にマウスの腹腔内に注射した。次の日から、5−FUまたはPBSを、毎日5日間腹腔内投与した。このプロトコルを、2コース連続的に行った。動物を腫瘍移植の18日後に屠殺し、その後、各動物の腹腔播種性塊を回収し、重量を測定した。
【0154】
2.結果
2.1. CEA陽性または陰性細胞株におけるCARおよびインテグリンの発現
本発明者らは、まず、胃癌細胞および正常肝細胞株におけるCEAの発現を調べた。何人かの研究者が、MKN−45はCEAを豊富に産生するが、MKN−74のCEA産生はほとんどないことを報告している(Pranay D. et al, Can. Res., 61: 370-375,2001; KENG-HSIN LAN. et al, GASTROENTEROLOGY., 111:1241−1251,1996)。
【0155】
図5は、ヒト培養細胞株におけるCEAおよびアデノウイルスエントリーレセプターの発現を示す。図5に示されるように、CEAは、MKN−45(CEA陽性胃癌細胞株)において発現されるが(図5A)、MKN−74(CEA陰性胃癌細胞株)またはChang−liver細胞株(正常肝細胞株)においては発現されない(図5B)。
【0156】
次に、一次のアデノウイルスレセプターであるCAR、および二次のアデノウイルスレセプターであるインテグリンαvβ3およびαvβ5の発現もまた、FACSにより分析した。その結果もまた、図5に示す。図5に示す結果は、癌細胞および正常細胞が、明らかにCARおよび両方のインテグリンを発現することを実証した。したがって、これらのデータは、ヒト細胞株におけるCARまたはインテグリンの発現が、癌遺伝子治療のための特異的な標的ではないことを示唆する。
【0157】
2.2. インビトロでのCEA陽性細胞に対する遺伝子導入効率の改善
本発明者らは、ファイバードメイン中にIgG結合配列を担持し、そしてEGFP遺伝子をコードする遺伝的に改変したAdv(Ax3CAEGFP−FZ33)を使用して、ヒトCEA陽性または陰性細胞株における遺伝子導入効率を評価した。これらの研究において、C2−45ウイルスコントロールIgGとの直接比較を行った。
【0158】
図6は、CEA抗原陽性および陰性株における遺伝子導入効率の比較をFACS caliberを用いて行った結果を示すグラフである。Ax3CAEGFP−FZ33のChang−liver細胞およびMKN−74細胞への適用は、C2−45を用いた遺伝子導入効率が、コントロール抗体を用いたものと同等であるという結果をもたらした(図6AおよびB)。次いで、本発明者らは、MKN−45細胞上でAx3CAEGFP−FZ33を試験した。CEA陰性細胞とは対照的に、顕著に、C2−45を用いた遺伝子導入効率は、コントロール抗体と比較して有意に増大した(図6C)。特に、VP10に感染させたMKN−45細胞は、遺伝子移入において15.2倍の増強を示した。他方、VP1000に感染させたアデノウイルスベクターである、C2−45結合体化アデノウイルスベクターは、91%のトランスフェクションを誘導した。これらの結果は、抗CEA抗体を結合させたZ33アデノウイルスベクターが、CEA陽性細胞に対するアデノウイルスにより仲介される遺伝子導入の効率を増強することができることを実証した。
【0159】
2.3. インビトロでのCEA陽性細胞に対するトランスジーン発現の改善
次に、本発明者らは、ファイバードメインにIgG結合配列を担持し、lacZ遺伝子(Ax3CAZ3−FZ33)をコードする遺伝的に改変したAdvを用いて、ヒトCEA陽性または陰性細胞株におけるトランスジーン発現を評価した。C2−45ウイルスコントロールIgGを用いてこれらの研究において、直接比較を行った。
【0160】
図7は、CEA抗原陽性および陰性株における遺伝子発現量の比較を化学発光β−galレポーター遺伝子アッセイを用いて行った結果を示すグラフである。Ax3CAZ3−FZ33のChang−liver細胞(図7A)およびMKN−74細胞(図7B)への適用により、C2−45でのトランスジーン発現が、コントロール抗体または抗体なしの場合と同等であるという結果を得た。次に、本発明者らは、MKN−45細胞においてAx3CAEGFP−FZ33を試験した。図7Cに示されるように、CEA陰性細胞とは対照的に、コントロール抗体または抗体なしの場合と比較して、C2−45での遺伝子発現は有意に増大した。特に、VP1,000に感染させたMKN−45細胞は、lacZ発現の20倍の増強を示した。これらの結果は、抗CEA抗体と結合させたAdv−FZ33アデノウイルスベクターが、CEA陽性細胞に対するアデノウイルス仲介遺伝子発現を増強し得ることを実証した。
【0161】
2.4. 抗CEA抗体と結合体化したAdv−FZ33により仲介されるUPRT遺伝子の遺伝子導入は、インビトロでCEA陽性細胞における5−FUに対して感作する
さらに、本発明者らは、ファイバードメインにIgG結合配列を担持し、UPRT遺伝子をコードする遺伝的に改変したAdv(Ax3CAUP−FZ33)を使用して、ヒトCEA陽性または陰性細胞株において5−FUに対する感受性を、MTTアッセイによって評価した。大腸菌ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRT)は、ウラシルおよびホスホリボシルピロホスフェート(PRPP)からの、ピリミジンヌクレオチドの前駆体であるUMPの合成を触媒するピリミジン再利用酵素である。UPRT遺伝子の遺伝子導入は、癌細胞耐性5−FUの感受性を改善する。
【0162】
図8は、インビトロでAx3CAUP−FZ33を用いた遺伝子導入後の5−FUに対する細胞株の感受性を示すMTTアッセイの結果を示すグラフである。抗体を含まないAx3CAUP−FZ33によって遺伝子導入された全ての細胞株は、5−FUに対するウイルス粒子依存性の感受性増加を示した。Ax3CAUP−FZ33のChang−liver細胞およびMKN−74細胞への適用は、5−FU感受性を生じ、C2−45は、コントロール抗体または抗体無しの場合と同等であった(図8AおよびB)。本発明者らは、次に、Ax3CAUP−FZ33のMKN−45細胞に対する効果を試験した。CEA陰性細胞とは対照的に、C2−45を有するAx3CAUP−FZ33は、有意に、5−FUに対する細胞の感受性を100倍まで増大させた(C2−45でIC20、0.2μMに対して、IgG4コントロール抗体で20μM)(図8C)。これらの結果は、抗CEA抗体と結合させたAx3CAUP−FZ33が、CEA陽性細胞において、5−FUに対する感受性を増強させ得ることを実証した。
【0163】
2.5. マウス抗CEAモノクローナル抗体を用いたAdv−FZ33による遺伝子導入効率の比較
本発明者らはまた、各種マウス抗CEAモノクローナル抗体を用いて、Adv−FZ33による遺伝子導入効率の比較を行った。手順を以下に説明する。
【0164】
感染の1日前(Day −1)に、MKN−45細胞株を6ウェルプレートに、1×10細胞/ウェルで播種した。Day 0において、Dr.Kuroki(Fukuoka University)から提供されたか、または市販の各種マウス抗CEAモノクローナル抗体を、無血清RPMI−1640中に3μg/mlの濃度で調節し、1000μlの容量で各種細胞に添加した。陽性コントロールとして、ヒト型抗CEA抗体であるC2−45を使用した。Istype controlとして、それぞれ、Mouse IgG1(eBioscience, clone P3)、Mouse IgG2a(eBioscience, clone eBM2a)、Mouse IgG2b(eBioscience, clone eBMG2b)、およびMouse IgG3( BD Pharmingen, Cat No 553484)を使用した。抗体を添加後、1000μlの無血清RPMI−1640で2回洗浄した。次いで、無血清RPMI−1640にてAx3CAEGFP−FZ33を1000VP/細胞の濃度に希釈し、1000μlの容量で各種細胞に添加し、37℃で1時間インキュベートすることによって感染させた。インキュベーション後、1000μlの無血清PRMI−1640にて2回洗浄し、さらに10%FBSを補充したRPMI−1640中で24時間培養した。Day 1において、GFP活性をFACS caliberによって測定した。
【0165】
図9は、FACScaliberの測定結果を示すグラフである。マウス抗CEA抗体やキメラ方抗体、でもコントロールに比し、いずれも遺伝子導入効率を上昇させる事が出来た。中でもC2−45は、他のマウス抗CEAモノクローナル抗体と比較してEGFP遺伝子の導入効率が高いことが示された。
【0166】
図9に示す結果はまた、このようにファイバードメイン中にIgG結合配列を担持し、EGFP遺伝子のようなマーカー遺伝子をコードする遺伝的に改変したAdv(Ax3CAEGFP−FZ33)を用いて、ヒトCEA抗原陽性細胞株において遺伝子導入効率の比較を行うことによって、ヒトCEA抗原に対して特異的に結合し、Advの導入効率を改善することができる抗CEAモノクローナル抗体を同定することができることも実証する。
【0167】
なお、図9に結果を示す実験で使用したマウス抗CEAモノクローナル抗体は、以下の通りである。
1. F33−104(Ikeda S.et al, Mol. Immunol., 29: 229-240, 1992., Kuroki M. et al, Hybridoma, 11:391-407, 1992.)
Class: IgG1 (k)
Affinity constant: 3.5 x 10(+8)/M
OD=14.0 (Ab Conc.= 10.0 mg/ml)
Vol.= 0.5 ml
Total Ab= 5.0 mg
Buffer: 0.01 M BBS, pH 8.0
【0168】
2. F33−60(Ikeda S.et al, Mol. Immunol., 29: 229-240, 1992., Kuroki M. et al, Hybridoma, 11:391-407, 1992.)
Class: IgG2a (k)
Affinity constant: 3.4 x 10(+8)/M
OD=14.0 (Ab Conc.= 10.0 mg/ml)
Vol.= 0.5 ml
Total Ab= 5.0 mg
Buffer: 0.01 M BBS, pH 8.0
【0169】
3. F82−81(Ikeda S.et al, Mol. Immunol., 29: 229-240, 1992., Kuroki M. et al, Hybridoma, 11:391-407, 1992.)
Class: IgG2b (k)
Affinity constant: 9.5 x 10(+8)/M
OD=14.0 (Ab Conc.= 10.0 mg/ml)
Vol.= 0.5 ml
Total Ab= 5.0 mg
Buffer: 0.01 M BBS, pH 8.0
【0170】
4. F11−12(Ikeda S.et al, Mol. Immunol., 29: 229-240, 1992., Kuroki M. et al, Hybridoma, 11:391-407, 1992.)
Class: IgG3 (k)
Affinity constant: 11.2 x 10(+8)/M
OD=14.0 (Ab Conc.= 10.0 mg/ml)
Vol.= 0.5 ml
Total Ab= 5.0 mg
Buffer: 0.01 M BBS, pH 8.0
【0171】

5. Ch F11−39 (Lot 2)(Arakawa F. et al, Hybridoma 12: 365-379, 1993.)
Class: 同上
Affinity constant: 同上
OD=2.10 (Ab Conc.= 1.5 mg/ml)
Vol.= 0.5 ml
Total Ab= 0.75 mg
Buffer: 0.01 M BBS, pH 8.0
【0172】
6. IB2 (IBL社より購入:lot No 9G−717)
class: IgG2a
Ab Conc. = 1mg/ml
【0173】
7. B6.2/CD66 (BD PharMingenより購入: catalog No 551355)
Class: IgG1
Ab Conc. 0.5mg/ml
【0174】
2.6. インビボでのCEA陽性細胞における抗CEA抗体を結合したAx3CAZ3−FZ33の選択的遺伝子移入
選択的遺伝子移入をインビボで評価するために、腹腔内播種性CEA陽性腫瘍を有するマウスを、抗体ありまたはなしのAx3CAZ3−FZ33の腹腔内注射で処置した。X−galによるβ−ガラクトシダーゼの発現を染色するために、発現の強度および選択性を評価した。図10は、マウス抗CEAモノクローナル抗体を介したAdv−FZ33によるEGFP遺伝子の導入比較を示す写真である。示されるように、C2−45を有するAx3CAZ3−FZ33(5×10VP)を受けたマウスの腹腔は、播種性腫瘍においてβ−ガラクトシダーゼの発現が選択的に増強された(図10Cを参照)。対照的に、コントロールIgGを有するAx3CAZ3−FZ33(5×10VP)を受けたマウスは、β−ガラクトシダーゼの発現が弱いことが示された(図10Bを参照)。
【0175】
これらの結果は、抗CEA抗体を結合したAx3CAZ3−FZ33が、インビボでCEA陽性細胞において、トランスジーンの発現を選択的に増強し得ることを実証した。
【0176】
2.7. 抗CEA mAbおよび5−FUを結合したAx3CAUP−FZ33の治療的効果
本発明者らはまた、UPRT(5−FUを5−フルオロウリジンモノホスフェートに直接変換する)を発現するAdv−FZ33(Ax3CAUP−FZ33)を抗CEA mAbに結合させたものを用いて、播種性胃癌を有する動物においてインビボで遺伝子治療の効果を検証した。処置の手順は以下の通りである。
【0177】
まず、1×10個のMKN−45細胞をマウスの腹腔内に注射した(n=15)。注射の4日後に、さらに以下の条件でマウスを処置した:(a)抗CEAモノクローナル抗体を結合したAx3CAUP−FZ33を5×10VPで腹腔内投与(n=3);(b)コントロールIgGを結合したAx3CAUP−FZ33を5×10VPで腹腔内投与(n=3);(c)Ax3CAUP−FZ33のみを5×10VPで腹腔内投与(n=3);(d)ベクター無し(n=3);および(e)処置無し(n=3)。5日後〜9日後に、上記(a)〜(d)のマウスに対して、10mg/kgの5FUを腹腔内注射し、(e)のマウスに対してPBSを腹腔内注射した。10日後に再び上記(a)〜(e)と同じ処置を行い、11〜15日後に、再び10mg/kgの5FU((a)〜(d))およびPBS((e))を腹腔内注射した。17日後にマウスを屠殺し、CEA標的化Adv−FZ33による治療効果の評価を行った。具体的には、各グループのマウスの重量を測定し、各動物の腫瘍塊の重量を測定し、そして腹腔における転移の数を測定した。
【0178】
図11および図12に、その結果を示す写真およびグラフをそれぞれ示す。示されるように、C2−45を結合させたAx3CAUP−FZ33は、腫瘍重量の有意な減少を示し(n=3;Fisher検定:p=0.046)、コントロール抗体よりも優れた抗腫瘍効果を実証した。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の抗CEAモノクローナル抗体は、CEA産生癌(特に転移癌)の標的化療法、診断等の用途において有用である。特に、抗体のFcドメインに結合するように改変されたファイバー変異型アデノウイルスと共に用いた場合、CEA陽性細胞に対するアデノウイルスの感染効率を特異的に高めることから、CEA産生癌特異的な遺伝子療法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0180】
【図1】本発明において代表的な例として使用される組換えアデノウイルス作製のためのアデノウイルスベクターpAx3の模式図である。
【図2】Z33ファイバー変異型アデノウイルス作製のためのpAx3−FZ33プラスミドの模式図である。
【図3】本発明において使用されるZ33ファイバー変異型アデノウイルスのファイバー部分の構造の模式図である。
【図4】Z33ファイバー変異型アデノウイルスに抗CEA抗体を結合させることによって、アデノウイルスをCEA発現細胞へ効果的に指向化し得ることを示す模式図である。
【図5A】ヒト培養細胞株におけるCEAおよびアデノウイルスエントリーレセプターの発現をFACS分析により評価した結果を示すグラフである。MKN−45におけるCEA、CAR、およびインテグリンの発現を示す。
【図5B】ヒト培養細胞株におけるCEAおよびアデノウイルスエントリーレセプターの発現をFACS分析により評価した結果を示すグラフである。MKN−74およびChang−liver細胞株におけるCEA、CAR、およびインテグリンの発現を示す。
【図6A】Ax3EGFPFZ33によって感染させたCEA抗原陽性および陰性株における遺伝子導入効率の比較をFACS caliberを用いて行った結果を示すグラフである。Chang−liver細胞における遺伝子導入効率を示す。
【図6B】Ax3EGFPFZ33によって感染させたCEA抗原陽性および陰性株における遺伝子導入効率の比較をFACS caliberを用いて行った結果を示すグラフである。MKN−74における遺伝子導入効率を示す。
【図6C】Ax3EGFPFZ33によって感染させたCEA抗原陽性および陰性株における遺伝子導入効率の比較をFACS caliberを用いて行った結果を示すグラフである。MKN−45における遺伝子導入効率を示す。
【図7】CEA抗原陽性および陰性株における遺伝子発現量の比較を化学発光β−galレポーター遺伝子アッセイを用いて行った結果を示すグラフである。(A)Chang−liver細胞;(B)MKN−74;(C)MKN−45。
【図8】インビトロでAx3CAUP−FZ33を用いた遺伝子導入後の5−FUに対する細胞株の感受性を示すMTTアッセイの結果を示すグラフである。(A)Chang−liver細胞;(B)MKN−74;(C)MKN−45。
【図9】各種マウス抗CEAモノクローナル抗体を用いてAdv−FZ33による遺伝子導入効率の比較を示すFACScaliber測定の結果を表すグラフである。
【図10】マウス抗CEAモノクローナル抗体を介したAdv−FZ33によるEGFP遺伝子の導入比較を示す写真である。(A)Ax3CAZ3−FZ33のみ投与;(B)Ax3CAZ3−F33+IgGを投与;(C)Ax3CAZ3−F33+c2−45を投与。
【図11】播種性胃癌を有する動物における、抗CEA mAbを結合させたAx3CAUP−FZ33を用いた遺伝子治療の効果を示す写真である。
【図12】CEAを標的化したAx3CAUP−FZ33による遺伝子治療の効果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CEAモノクローナル抗体とIgG結合モチーフを有する遺伝的に改変されたアデノウイルスベクターとの複合体。
【請求項2】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、
当該抗CEAモノクローナル抗体の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと前記腫瘍細胞とを接触させることによって、前記ファイバー変異型アデノウイルスを前記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの前記腫瘍細胞に対する感染効率をレポーター遺伝子発現アッセイによって評価した場合に、
前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも2倍高くなるようなモノクローナル抗体である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも10倍高くなるようなモノクローナル抗体である、請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、C2−45である、請求項1〜3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
前記アデノウイルスベクターが、Z33ファイバー変異型アデノウイルスベクターである、請求項1〜4のいずれかに記載の複合体。
【請求項6】
抗CEAモノクローナル抗体を含有する、癌の治療薬。
【請求項7】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、
当該抗CEAモノクローナル抗体の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと前記腫瘍細胞とを接触させることによって、前記ファイバー変異型アデノウイルスを前記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの前記腫瘍細胞に対する感染効率をレポーター遺伝子発現アッセイによって評価した場合に、
前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも2倍高くなるようなモノクローナル抗体である、請求項6に記載の癌の治療薬。
【請求項8】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも10倍高くなるようなモノクローナル抗体である、請求項7に記載の癌の治療剤。
【請求項9】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、C2−45である、請求項6〜8のいずれかに記載の癌の治療剤。
【請求項10】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、放射性同位元素、治療タンパク質、低分子の薬剤、治療遺伝子を担持したウイルスベクター、および薬剤を担持した非ウイルスベクターのうちのいずれか、またはこれらの任意の組み合わせと化学的または遺伝子工学的に結合されている、請求項6〜9のいずれかに記載の癌の治療薬。
【請求項11】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、Z33ファイバー変異型アデノウイルスベクターに結合されている、請求項10に記載の癌の治療薬。
【請求項12】
前記非ウイルスベクターが、リポソームベクター、重合リポソーム、脂質小胞、デンドリマー、ポリエチレングリコール集合体、ポリリジン、デキストラン、ポリヒドロキシ酪酸、センダイウイルスエンベロープベクター、プラスミドベクター、およびプラスミドDNAネイキッドベクターからなる群から選択される、請求項10に記載の癌の治療薬。
【請求項13】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、免疫学的エフェクター細胞を介在して、CEA発現癌細胞を溶解またはその成長を阻害する、請求項6〜12のいずれかに記載の癌の治療薬。
【請求項14】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、CEA発現細胞をオプソニン化する、請求項6〜12のいずれかに記載の癌の治療薬。
【請求項15】
前記癌が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌である、請求項6〜14のいずれかに記載の癌の治療薬。
【請求項16】
腫瘍特異的CEA抗原に対するモノクローナル抗体を調製する方法であって、
抗CEAモノクローナル抗体を取得する工程、および
前記抗CEAモノクローナル抗体の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと前記腫瘍細胞とを接触させることによって、前記ファイバー変異型アデノウイルスを前記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの前記腫瘍細胞に対する感染効率を評価する工程、
を包含する、方法。
【請求項17】
前記抗CEAモノクローナル抗体の存在下での、前記ファイバー変異型アデノウイルスの前記腫瘍細胞への感染が、
(A)前記抗CEAモノクローナル抗体を、前記腫瘍細胞と接触させた後、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスを前記腫瘍細胞に接触させるか、
(B)前記抗CEAモノクローナル抗体と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとをあらかじめ反応させてから、前記腫瘍細胞に接触させるか、または
(C)前記抗CEAモノクローナル抗体と、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスとを、同時に投与することによって、前記腫瘍細胞に接触させること、
によって行われる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記感染効率を評価する工程が、レポーター遺伝子発現アッセイによって前記ファイバー変異型アデノウイルスの前記腫瘍細胞に対する前記感染効率を評価することを含み、ここで前記ファイバー変異型アデノウイルスは、前記感染の際に前記感染効率を評価するためのレポーター遺伝子を発現する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも2倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも10倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
抗CEAモノクローナル抗体を含有する、癌の診断薬。
【請求項22】
前記抗CEAモノクローナル抗体が、
当該抗CEAモノクローナル抗体の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと前記腫瘍細胞とを接触させることによって、前記ファイバー変異型アデノウイルスを前記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの前記腫瘍細胞に対する感染効率をレポーター遺伝子発現アッセイによって評価した場合に、
前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも2倍高くなるようなモノクローナル抗体である、請求項21に記載の癌の診断薬。
【請求項23】
前記癌が、胃癌、大腸癌、肺癌、転移性肝癌、胆道癌、膵癌、食道癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、または前立腺癌である、請求項21または22に記載の癌の診断薬。
【請求項24】
被験者由来の生体試料中のCEAタンパク質もしくはその断片、またはこれらをコードする核酸を診断マーカーとして検出および/または定量する工程を包含する、癌の診断方法。
【請求項25】
被験者由来の生体試料中のCEAを、
抗CEAモノクローナル抗体を取得し、
前記抗CEAモノクローナル抗体の存在下で、抗体に結合するように改変したファイバー変異型アデノウイルスと前記腫瘍細胞とを接触させることによって、前記ファイバー変異型アデノウイルスを前記腫瘍細胞に感染させ、該ファイバー変異型アデノウイルスの前記腫瘍細胞に対する感染効率をレポーター遺伝子発現アッセイによって評価し、そして
前記レポーター遺伝子の発現量が、コントロール抗体と比較して少なくとも2倍高くなるようなモノクローナル抗体を選択すること、
によって調製される抗CEAモノクローナル抗体を用いて、免疫学的に検出および/または定量する、請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−20494(P2007−20494A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208800(P2005−208800)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【Fターム(参考)】