説明

抗ILT7抗体

【課題】ILT7(Immunoglobulin-Like transcript-7)に結合する抗体の提供、並びにIPCの検出、同定、あるいは単離。
【解決手段】ILT7と会合する細胞膜蛋白質とを共発現させた動物細胞を免疫原として、IPCに結合する抗体を得た。該抗体は、他のILTファミリー分子とILT7とを免疫学的に識別できる高度な特異性を有し、IPCに結合するとともに、その活性を抑制した。該抗体はIPCの活性を抑制し、インターフェロンが関与する疾患を治療あるいは予防することができる。ILT7の発現は、IFNα存在下のIPCにおいても維持される。そのため、IFNαの産生が亢進している自己免疫疾患の患者においても、抗ILT7抗体によるIPCの活性抑制作用が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトILT7に結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
インターフェロンα(IFNα、以下「インターフェロン」をIFNと省略して記載する)、およびインターフェロンβ(IFNβ)は、抗ウイルス活性、あるいは抗腫瘍活性を有するtype 1 IFNとして知られている。一方で、IFNαは自己免疫疾患に関連していることも明らかにされている。たとえば、以下のような自己免疫疾患患者においてIFNαの異常産生が報告されている。そしてIFNαの中和によって自己免疫症状が緩和される可能性も示唆されている。
全身性エリテマトーデス(Shiozawa et al., Arthr. & Rheum. 35, 412, 1992(非特許文献1))
慢性関節リウマチ(Hopkins et al.,Clin. Exp. Immunol. 73, 88, 1988(非特許文献2))
更に組み換えIFNα2やIFNの投与によって自己免疫疾患症状が発現あるいは悪化した症例が報告されている(Wada et al., Am.J. Gastroenterol. 90, 136, 1995(非特許文献3); Perez et al., Am. J. Hematol. 49, 365, 1995(非特許文献4); Wilson LE et al, Semin Arthritis. Rheum. 32, 163-173, 2002(非特許文献9))。
【0003】
またIFNαが、樹状細胞(dendritic cell)の分化を誘導していることも明らかにされている。樹状細胞(dendritic cell)は抗原提示細胞でもある。したがって樹状細胞の分化誘導は、自己免疫疾患における重要なメカニズムを構成していると考えられる。実際、IFNαの樹状細胞の分化誘導と、全身性エリテマトーデスの発症には、深い関連性があることが示唆されている(Blanco et al., Science, 16:294,1540-1543,2001(非特許文献5))。このようにIFNαは、抗腫瘍活性とともに、自己免疫疾患との密接な関連性が指摘されている。また乾癬の発症にもIFNαが深く関わっている。(Nestle FO et al., J.Exp.Med. 202, 135-143, 2005(非特許文献10))
【0004】
さて、ウイルス感染に伴って、type 1 IFNを大量に産生する細胞として同定されたのがインターフェロン産生細胞(Interferon Producing cells; IPC)である。IPCは血中にわずかしか存在していない。末梢血リンパ球に占めるIPCの割合は、1%以下と考えられている。しかしIPCは、きわめて高いIFNの産生能を有する。IPCのIFN産生能は、たとえば3000pg/mL/104cellsに達する。つまり、細胞の数は少ないが、ウィルス感染時に産生される血中IFNαあるいはIFNβの大部分は、IPCによってもたらされていると言って良い。
【0005】
一方IPCは、樹状細胞(dendritic cell)の前駆細胞に位置付けられる未分化のリンパ球系樹状細胞である。IPCは、プラズマ細胞様樹状細胞(Plasmacytoid dendritic cell)と呼ばれることもある。IPCは、ウイルス刺激によって樹状細胞に分化し、T細胞によるIFN-γやIL-10の産生を誘導する。またIPCは、IL-3刺激によっても樹状細胞に分化する。IL-3刺激によって分化した樹状細胞は、T細胞によるTh2サイトカイン(IL-4、IL-5、IL-10)の産生を誘導する。このようにIPCは、刺激の違いによって異なる樹状細胞に分化する性質を有している。
【0006】
したがってIPCは、IFN産生細胞としての側面と、樹状細胞の前駆細胞としての2つの側面を有する細胞である。いずれの細胞も、免疫システムにおいて重要な役割を担っている。つまりIPCは、様々な面で免疫システムを支える重要な細胞の一つである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Shiozawa et al., Arthr. & Rheum. 35, 412, 1992
【非特許文献2】Hopkins et al.,Clin. Exp. Immunol. 73, 88, 1988
【非特許文献3】Wada et al., Am.J. Gastroenterol. 90, 136, 1995
【非特許文献4】Perez et al., Am. J. Hematol. 49, 365, 1995
【非特許文献5】Blanco et al., Science, 16:294,1540-1543,2001
【非特許文献6】Ju et al., Gene. 2004 Apr 28;331:159-64.
【非特許文献7】Colonna M et al., Seminars in Immunology 12:121-127, 2000.
【非特許文献8】Nakajima H. et al., J.Immunology 162:5-8. 1999
【非特許文献9】Wilson LE et al, Semin Arthritis. Rheum. 32, 163-173, 2002
【非特許文献10】Nestle FO et al., J.Exp.Med. 202, 135-143, 2005
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO03/12061(米国公開特許2003-148316)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ILT7(Immunoglobulin-Like transcript-7)に結合する抗体の提供、並びにIPCの検出、同定、あるいは単離を課題とする。また本発明は、IPCの活性の調節を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
IFNのような液性因子の活性調節には、当該因子を認識する抗体の投与が有効である。たとえばインターロイキン(IL)−1、あるいはIL-4に対する抗体によって自己免疫疾患を治療する試みが実用化された(Guler et al.,Arthritis Rheum., 44. S307, 2001)。またインターフェロンにおいても同様に、中和抗体が自己免疫疾患の治療薬となりうるとされている(Stewart, TA. Cytokine Growth Factor Rev. 14; 139-154, 2003)。IPCが産生するIFNに対しても同様のアプローチが有効であろうことは予想できる。しかしこのようなアプローチは、産生された後の液性因子の作用の阻害に基づいている。目的とする液性因子の産生を直接的に制御することができれば、より本質的な治療効果を達成することができる。
【0011】
ヒトIPCを認識する抗体が報告されている。たとえば、抗BDCA-2モノクローナル抗体は、ヒトIPC特異モノクローナル抗体である(Dzionek A. et al. J. Immunol. 165:6037-6046,2000)。抗BDCA-2モノクローナル抗体は、ヒトIPCのIFN産生を抑制する作用を有することが明らかにされている(J. Exp. Med.194:1823-1834, 2001.)。その他にもマウスのインターフェロン産生細胞を認識するモノクローナル抗体が、インターフェロンの産生を抑制することも報告されている(Blood 2004 Jun 1;103/11:4201-4206. Epub 2003 Dec)。マウスのプラズマ細胞様樹状細胞(Plasmacytoid Dendritic Cell)に対するモノクローナル抗体による樹状細胞数の減少が報告された(J. Immunol. 2003, 171:6466-6477)。
【0012】
同様にヒトIPCを認識し、その活性を調節しうる抗体が提供されれば有用である。たとえば本発明者は、既にLy49Qを認識する抗体がマウスIPCに特異的に結合することを明らかにしている。しかしLy49Qに対する抗体は、マウスIPCの活性には干渉しなかった(Blood, 1 April 2005, Vol. 105, No. 7, pp. 2787-2792.; WO2004/13325)。一方、プラズマ細胞様樹状細胞において特異的な発現が見られる分子として、ILT7が知られている(Ju XS et al., Gene. 2004 Apr 28;331:159-64.; WO03/12061)。しかしILT7に対する抗体は得られていない。したがって抗体がIPCに与える影響も未知である。
【0013】
ILT7は、イムノグロブリン様のモチーフを含む膜蛋白質である。骨髄系あるいはリンパ系の細胞に発現している分子の一つとして報告された(Colonna M et al., Seminars in Immunology 12:121-127, 2000.)。ILT7と類似する構造を持つ複数の分子は、ILTファミリーと呼ばれている。ILTファミリーは構造的にも機能的にもKIR(killer cell inhibitory receptors)に類似している。ILT7は、ILTファミリーのその他の分子と同様に4個のC型イムノグロブリン様ドメインを持つ。ILT1、ILT1-like protein、ILT8、LIR6aなどと同様に、ILT7も細胞内に活性化シグナルを与えると考えられている。ILTファミリーに属する分子は、血球系の細胞で発現が確認されている(Young et al., Immunogenetics 53:270-278, 2001; "The KIR Gene Cluster." Carrington, Mary and Norman, Paul.Bethesda (MD):National Library of Medicine (US), NCBI; 2003.)。
【0014】
その後、ILT7の発現がプラズマ細胞様樹状細胞(PDC:Plasmacytoid dendritic cell)で高く、単球由来樹状細胞(MDDC:Monocyte-derived dendritic cells)で低いことが、サブトラクティブハイブリダイゼーションによって明らかにされた。ILT2とILT3は、PDCだけでなく、MDDCや、CD34陽性細胞から得られたDCにも発現している。しかしILT7のmRNAはPDCに特異的に発現しているため、そのmRNAがPDCのマーカーとなり得ることが明らかにされた。更にこのとき、CpGの刺激によってILT7の発現が低下することも明らかになった(Ju XS et al., Gene. 2004 Apr 28;331:159-64.; WO03/12061)。
【0015】
本発明者らは、ヒトIPCに関する研究を通じて、ILT7がIPCにおいて特異的に発現が亢進していることを確認した。そこで本発明者は、ILT7の抗体の作成と、その作用の解明を試みた。たとえば、ILT2やILT3などのILTファミリーを構成する分子は、特に細胞外ドメインのアミノ酸配列に高度な保存性を持つ(図9)。これらのILTファミリーは、種々の血液細胞において、それぞれ特徴的な発現プロファイルを示す。したがって、他のILTファミリー分子とILT7を免疫学的に識別することができる抗体を得ることはきわめて重要な課題である。ところが、実際には以下に述べるような障害のために、ILT7を免疫原としてヒトIPCに特異的に結合する抗体を得ることは困難であった。
【0016】
生体由来の微量の蛋白質を認識する抗体を得るためには、一般に、遺伝子組み換え技術によって作製された蛋白質が免疫原として利用される。本発明者らは、既に明らかにされたいるヒトILT7のcDNAの塩基配列とそれによってコードされるアミノ酸配列(GenBank Accession No. NM_012276)の情報を基に、ヒトILT7の発現を試みた。しかし通常の条件では、ヒトILT7を組み換え体として発現させることはできなかった。
【0017】
蛋白質の抗体を得るために、天然の蛋白質の部分アミノ酸配列を免疫原として利用することもしばしば試みられる。しかしILTファミリーのように、アミノ酸配列の相同性が極めて高い蛋白質においては、ヒトILT7に特異的なアミノ酸配列はわずかしかない。その上、抗体が細胞表面の分子を認識するためには、細胞表面においてエピトープとして抗体に認識される部分を構成している領域を選択しなければならない。したがって、断片アミノ酸配列を免疫原としてILT7に特異的な抗体を得ることは、現実的でないと考えられた。
【0018】
このような条件の下で、本発明者は、特殊な免疫原を利用することによってIPCに結合する抗体が得られることを明らかにした。更に、こうして得られた抗体がヒトIPCを特異的に認識し、更にその活性を調節する作用を有することを確認して本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の抗ILT7抗体、その製造方法、並びにその用途に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、ヒトILT7を認識する抗体の製造に有用な免疫原と、その免疫原を利用する抗ヒトILT7抗体の製造方法を提供した。ILT7は、ILTファミリーに属する膜蛋白質である。特にその細胞外領域のアミノ酸配列は、ILTファミリーの間で高度に保存されている。したがって、一般的な免疫方法によってILTファミリーを識別する抗体を得ることは、著しく困難である。本発明者らは、ILT7を細胞膜蛋白質と共発現させた動物細胞を利用することによって、ヒトILT7を認識する抗体を容易に得られることを明らかにした。本発明によって得ることができる抗ILT7抗体は、他のILTファミリーを発現している細胞と、ヒトIPCを識別する、高い特異性を有する抗体であった。
【0020】
好ましい態様において、本発明によって提供された抗ヒトILT7抗体は、ヒトIPCと結合する。しかも本発明の抗体は、ヒトIPCを特異的に認識する。したがってIPCの検出や単離に有用である。IPCは、タイプ1インターフェロンの大部分を産生する細胞である。したがってその検出や単離は、自己免疫疾患のような、IPCが関与する疾患の診断や研究において重要である。特に本発明者の得た知見によれば、ILT7はIFNαの存在下でも、IPCにおいて発現が低下しない。自己免疫疾患の患者においては、しばしばIFNα発現が亢進している。このことは、本発明の抗ILT7抗体が、IFNαの発現が亢進した自己免疫疾患の患者においてもIPCの検出や単離に利用できることを意味している。
【0021】
更に本発明によって提供された抗ILT7抗体は、好ましい態様において、ヒトIPCの活性を調節する作用を有する。したがって、本発明の抗ILT7抗体は、IPCの活性抑制に利用することができる。先に述べたように、ILT7はIFNαの存在下でも、IPCにおいて発現が低下しない。したがって、本発明の抗体を利用したIPCの活性抑制を利用すれば、IFNαの発現が亢進した自己免疫疾患の患者においても、治療効果を期待することができる。
【0022】
IPCは、わずかな細胞が多量のIFNを産生する。IFNの中和には、IFNの分子数に応じた抗体が必要である。しかし本発明においては、産生細胞の活性が直接抑制される。その結果、抗IFN抗体による中和と比較して、より少量の抗体で強力なIFNの抑制効果を期待できる。更に、持続的にIFNが産生されている場合には、IFNの抗体による中和は、一過的な抑制に留まると予想される。本発明においては、IPCの活性を抑制することから、長期間にわたるIFN産生抑制効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1a】ILT7遺伝子のmRNAの発現をRT-PCR法にて検討した写真である。ヒト免疫細胞におけるILT7遺伝子のmRNAの発現を解析した結果である。
【図1b】定量的PCR法を用いて、ヒトの種々の組織や細胞におけるILT7遺伝子のmRNAの発現を比較・検討した図である。横軸は調べた組織や細胞を示し、縦軸はGAPDH遺伝子の発現レベルで標準化したILT7の発現レベルを示す。
【図2】ILT7蛋白質の構造を示す図である。(a)はILT7蛋白質のアミノ酸配列を示し、推定されている分泌シグナル配列及び膜貫通領域を図中に示す。(b)は構築した発現ベクターがコードするILT7蛋白質の模式図を示す。
【図3】ILT7発現ベクター及びFcRγ発現ベクターを細胞に導入し、ILT7分子の細胞表面への発現をFCMにて検討した結果を示す図である。横軸は抗FLAG抗体で検出した際の蛍光強度、すなわち、FLAGタグが付加されたILT7分子の細胞表面発現強度を示し、縦軸は細胞数を示す。
【図4】ILT7発現ベクター及びFcRγ発現ベクターを細胞に導入し、分子の会合を免疫沈降及びウエスタンブロッティングにより解析した写真である。左側は抗myc抗体でFcRγ分子を免疫沈降した後、抗FLAG抗体でILT7分子を(上の図)、抗myc抗体でFcRγ分子を(下の図)ブロットした結果である。右側は同様に、抗FLAG抗体で免疫沈降した後、抗FLAG抗体(上)、抗myc抗体(下)でブロットした結果である。
【図5】ILT7発現ベクター及びFcRγ発現ベクターを細胞に導入し、N-グリコシダーゼ処理を行なうことにより、ILT7分子への糖鎖付加を検討した写真である。左側がN-グリコシダーゼを反応させなかったILT7の大きさ、右側がN-グリコシダーゼ処理を行なったILT7の大きさを示す。
【図6a】作製した抗ILT7モノクローナル抗体の反応性をFCM解析により検討した図である。(a)はヒト末梢血リンパ球を用いて、抗BDCA-2抗体と二重染色することにより、BDCA-2陽性であるIPC画分に抗ILT7抗体が結合するかを解析した結果である。縦軸がBDCA-2抗体との反応性、横軸が作製したそれぞれの抗ILT7抗体との反応性を示す。
【図6b】作製した抗ILT7モノクローナル抗体の反応性をFCM解析により検討した図である。(b)はILT7及びFcRγ分子の発現ベクターを導入した293T細胞をもちいて、ILT7分子への抗ILT7抗体の結合を検討した結果である。縦軸は抗FLAG抗体の反応性、すなわちFLAGタグが付加されたILT7分子の発現強度を示し、横軸がそれぞれの抗ILT7抗体の反応性を示す。
【図7】作製した抗ILT7モノクローナル抗体のうち、2クローンのヒト末梢血リンパ球への反応性をFCM解析により検討した図である。左側の3つのグラフが#11の、右側の3つのグラフが#17の結果である。左側の図のILT7と記載した軸はILT7#11の反応性を示す。同様に、右側の図のILT7と記載した軸は、ILT7#17の反応性を示す。
【図8】作製した抗ILT7モノクローナル抗体ILT7#11とILT7#17の、ヒトリンパ球への結合活性を、抗BDCA-2抗体と比較、検討した結果である。縦軸は抗CD123抗体の反応性を示し、横軸がそれぞれの抗体の反応性を示す。すなわちCD123陽性細胞の一部に各抗体が結合する。その反応性を2種類のCpG、IFN-αでリンパ球細胞を刺激した際に解析した結果を示す図である。
【図9a】ILT7分子と相同性の高いファミリー分子のアミノ酸配列を示す図である。それぞれ主に細胞外領域のアミノ酸配列をアライメントとして示す。
【図9b】図9aの続き。
【図9c】図9bの続き。
【図10】作製した抗ILT7モノクローナル抗体ILT7#11とILT7#17の、ILT1、ILT2、ILT3分子への反応性をそれらの発現ベクターを導入した細胞を用いて検討した結果である。上図はFLAGタグを付加したILT7分子をFcRγとともに発現させた細胞への反応性を再確認した結果であり、下図が、ILT1、ILT2、ILT3、FcRγを導入した細胞への反応性を示す図である(左図:ILT7#11、右図:ILT7#17)。横軸はそれぞれ抗ILT7抗体の反応性を示す。
【図11】作製した抗ILT7モノクローナル抗体ILT7#11とILT7#17のヒトリンパ球のインターフェロン産生能への影響を示す図である。図中、横軸はヒトリンパ球をインフルエンザウイルスで刺激して培養した際の培養上清中のIFN-αの濃度を、縦軸は処理した抗体を示す。「感染なし」はインフルエンザウイルスで刺激しなかった細胞の結果を示す。
【図12】作製した抗ILT7モノクローナル抗体ILT7#37、ILT7#28、及びILT7#33のCDC活性を示す図である。いずれのハイブリドーマから得られた抗ILT7モノクローナル抗体を用いた場合でも、抗体濃度0.1μg/ml以上において、80%以上のCDC活性を示した。抗ILT7モノクローナル抗体以外の抗体では、ターゲット細胞に対するCDC活性は認められなかった。
【図13】作製した抗ILT7モノクローナル抗体ILT7#17、ILT7#26、ILT7#37、ILT7#28、及びILT7#33のターゲット細胞に対するインターナリゼーションを示す図である。APCの蛍光強度は、インキュベーション前に細胞表面に存在していたILT7-抗ILT7抗体免疫複合体量の指標であり、インキュベーション後に、ILT7-抗ILT7抗体免疫複合体が、ターゲット細胞表面にあるか細胞内にとりこまれているかに関わらず検出される。一方、FITCの蛍光強度は、インキュベーション後に細胞表面上に残存するILT7-抗ILT7抗体免疫複合体量の指標である。すなわち、インターナリゼーションによってFITCの蛍光強度は低下する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ヒトILT7(Immunoglobulin-Like transcript-7)は、プラズマ細胞様樹状細胞において特異的な発現が見られる分子であることが報告されている(Gene. 2004 Apr 28;331:159-64.; WO03/12061)。あるいはリンパ腫の予後予測のための指標として利用できることも知られている(WO2005/24043)。しかしヒトILT7を認識する抗体の製造方法は確立されていない。
【0025】
ヒトILT7は配列番号:2に示す499アミノ酸残基からなり、その構造中に4つのイムノグロブリン様ドメインと、1つの細胞膜貫通領域(445−466;配列番号:2における429から450)を含む1型の膜貫通蛋白質である。N末端を含む444アミノ酸残基のうち、16アミノ酸残基(配列番号:2における−15から−1)がシグナル配列で、17−444(配列番号:2における1から428)が細胞外ドメインを構成する。一方C末端側は細胞内ドメインである。ヒトILT7の大部分は細胞外ドメインで、細胞内ドメインを構成しているのは33アミノ酸残基(467−499;配列番号:2における451から483)である。細胞内ドメインの中にシグナル伝達に関与するモチーフは予測されていない。ヒトILT7の全長アミノ酸配列を配列番号:2に、それをコードするcDNAの塩基配列を配列番号:1に示す。なお配列番号:1に示した、成熟ペプチドのコード領域(72)..(1520)は終始コドンを含まない。すなわち配列番号:1における終始コドンを含む蛋白質コーディング配列は、24-1523である。
【0026】
ヒトILT7は、シグナル伝達分子との会合によって、リガンドのシグナルを細胞内に伝えているものと考えられている。たとえば、Fc受容体γ鎖は、その大部分が細胞内にあって、しかもその細胞内ドメインには、シグナル伝達に関与するモチーフITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)を備えている。ITAMは、Fc受容体などの免疫受容体などと会合するアダプター分子などに共通して見られるアミノ酸配列部分である。ITAMには、チロシンリン酸化の標的となるYxxL(配列番号;76)などのモチーフが含まれ、そのリン酸化によってシグナルを伝達する。細胞内ドメインにITAMを含むシグナル伝達分子には、Fc受容体γ鎖の他に、CD3ζやDAP12が知られている。これらのシグナル伝達分子のうち、ヒトILT7と会合するものはFc受容体γ鎖と予測されている。ヒトILT7と結合するリガンドは現在のところ明らかにされていない。
【0027】
本発明者らは遺伝子発現解析によって、ILT7がヒトIPCにおいて特異的に発現していることを確認した。ヒトILT7を他の分子と免疫学的に識別できる抗体が得られれば、IPCの研究に有用であろうと考えた。ところがILT7を含むILTファミリーには、構造の良く似た多くの分子が存在する。ILT1、ILT2、ILT3、ILT4、ILT5、ILT6、あるいはLIR-8などの分子は、特にその細胞外ドメインに相同性の高いアミノ酸配列を含む。したがって、細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列の部分配列を使ったドメインペプチドを免疫原として、これらの分子を相互に識別することができる抗体を得ることは困難であろうと考えた。そこで本発明者らは、ヒトILT7を発現する細胞を免疫原として、ヒトILT7に対する抗体の取得を試みた。
【0028】
しかしヒトILT7のcDNAを一般的な発現ベクターを利用して動物細胞で発現させることはできなかった。ILT7とよく似た構造を有するILT1分子については、Fc受容体γ鎖と会合するという報告がある。すなわち、RBL(rat basophilic leukemia)やP815(mouse mastocytoma)などのFc受容体γ鎖を発現している細胞を宿主細胞に利用したときに、ILT1の細胞表面への発現が確認された。しかしもともとFc受容体γ鎖を発現していない293細胞においては、ILT1を強制発現させても細胞表面への発現は見られなかった。他方、ILT1をFc受容体γ鎖と共発現させると、ILT1の細胞表面における発現が確認できたことが示されている(Nakajima H. et al., J.Immunology 162:5-8. 1999)。しかしILT7の抗体を得るための免疫原についての情報は無い。
【0029】
たとえばこの報告においては、ILT1遺伝子を導入したRBL細胞を免疫原としてILT1の抗体が作製されている。本発明者らも、ILT7について同様の組み合わせで発現を試みた。しかし、ILT7をRBL細胞(P815)で強制発現させても、細胞表面でのILT7の発現が見られず、免疫原として用いることができなかった。
【0030】
本発明者らはヒトILT7を認識する抗体を取得するために研究を重ね、特定の形質転換細胞を免疫原とすることによって、目的とする抗体を得られることを明らかにして本発明を完成した。すなわち本発明は、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片に関する。
【0031】
本発明において、ヒトILT7はヒトIPCに発現している天然の分子、あるいはヒトIPCに発現しているILT7と免疫学的に同等な分子と定義することができる。本発明において、抗体がヒトILT7に結合することは、たとえば次のようにして確認することができる。
−ヒト細胞との反応性に基づく確認:
本発明者らの得た知見によれば、ヒトILT7は、ヒトIPCに特異的な発現が見られた。もともとヒトILT7は、プラズマ細胞様樹状細胞において発現が見られる遺伝子として単離された(Blood. 2002 100; 3295-3303, Gene. 2004 Apr 28;331:159-64.)。更にプラズマ細胞様樹状細胞のマーカーとして利用できることも知られている(WO03/12061)。プラズマ細胞様樹状細胞とIPCは、ほぼ同じ細胞群、あるいはその大部分が共通している細胞群と考えられている。したがってこれらの報告と本発明者らの知見は矛盾しない。
【0032】
このようなヒトILT7の発現プロファイルに基づけば、まず、IPCあるいはプラズマ細胞様樹状細胞の少なくとも一部のサブセットとの結合活性は、本発明におけるヒトILT7に結合する抗体の重要な特徴の一つである。ある細胞がIPCあるいはプラズマ細胞様樹状細胞であることは、各細胞群に固有の細胞表面マーカーによって確認することができる。たとえば、細胞表面マーカーに結合する抗体と、結合活性を確認すべき抗体による二重染色によって、目的とする細胞に対して結合することが確認される。すなわち、本発明におけるIPCは、たとえばBDCA2を発現する細胞を含む。
【0033】
−ヒトILT7遺伝子を発現する形質転換細胞との反応性に基づく確認:
本発明者らは、特定の条件でヒトILT7遺伝子を発現させたときに、ヒトIPCで発現しているILT7の免疫学的特徴が再構成されることを確認した。したがってILT7をコードする遺伝子を人為的に導入された細胞に対する抗体の反応性に基づいて、ヒトILT7との反応性を確認することもできる。すなわち本発明は、ヒトILT7の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列を細胞外ドメインとして含み、シグナル伝達分子と共発現している分子と結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片に関する。なお細胞外ドメインとは、配列番号:2に示したアミノ酸配列のN末端から17−444位(配列番号:2における1〜428)に相当するアミノ酸配列によって構成される。
たとえば、ヒトILT7をコードするDNAを含む発現ベクターと、シグナル伝達分子をコードするDNAを含む発現ベクターとで共形質転換した細胞においては、ヒトIPCで発現しているILT7の免疫学的特徴が維持される。したがって、ヒトILT7とシグナル伝達分子とを共発現する形質転換細胞は、本発明におけるヒトILT7の細胞外ドメインに対する抗体の結合性を確認するための細胞として好ましい。本発明において、形質転換細胞によって抗体の反応性を確認するときには、対照として、形質転換されていない細胞を利用するのが望ましい。更に、シグナル伝達分子のみを発現する同じ宿主細胞を対照として、抗体の結合が検出されないことを確認することも重要である。
【0034】
本発明において、共発現のためのシグナル伝達分子としては、ヒトILT7の細胞表面への発現を誘導する分子を利用することができる。本発明におけるシグナル伝達分子は、ILT7を発現する細胞において、ILT7分子の少なくとも細胞外ドメインに、天然のヒトILT7の免疫学的特徴を与えることができる分子と定義することもできる。本発明において、天然のヒトILT7の免疫学的特徴とは、ヒトIPCに結合する抗体によって認識されることを言う。
具体的には、Fc受容体γ鎖、あるいはDAP12などはシグナル伝達分子として好ましい。本発明における特に好ましいシグナル伝達分子は、Fc受容体γ鎖である。Fc受容体γ鎖は配列番号:16に示すアミノ酸配列からなる分子である。シグナル伝達分子は、共発現させるヒトILT7が細胞表面に局在する限り、断片であっても良い。あるいは共発現させるヒトILT7が細胞表面に局在する限り、配列番号:16に示すアミノ酸配列において、アミノ酸配列の変異や付加も許容される。すなわち本発明は、次の工程(1)および(2)を含む、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体を産生する細胞の製造方法を提供する。
(1) ヒトILT7の細胞外ドメインを含む蛋白質、および配列番号:16に記載のアミノ酸配列を含む分子を外来性に発現する細胞を免疫動物に投与する工程、および
(2)前記免疫動物の抗体産生細胞から、ヒトILT7に結合する抗体を産生する抗体産生細胞を選択する工程
【0035】
次に、ILT7以外のILTファミリーを発現していることが知られている細胞群との交差性が見られない抗体は、本発明におけるヒトILT7に結合する抗体として好ましい。具体的には、IPCに対する結合を確認した条件と同じ条件の下で、ILT7以外のILTファミリーを発現していることが知られている細胞群との結合が確認できない抗体は、本発明におけるヒトILT7に結合する抗体として好ましい。たとえば、ILT2やILT3は、既に述べたように、PDCのみならず、MDDCやCD34陽性細胞から得られたDCにも発現している(Gene. 2004 Apr 28;331:159-64.)。一方ILT7はIPCから樹状細胞への分化に伴ってその発現が検出できなくなる。したがって、IPCへの結合が確認できる条件で、MDDCやCD34陽性細胞から得られたDCへの結合が検出できない抗体は、本発明におけるヒトILT7に結合する抗体に含まれる。
【0036】
その他のILTファミリー分子についても、次のような発現パターンを有することが報告されている("The KIR Gene Cluster" Carrington, Mary and Norman, Paul. Bethesda (MD):National Library of Medicine (US), NCBI; 2003, Gene. 2004 Apr 28;331:159-64.)。したがって、ヒトIPCあるいはPDCに結合し、以下の細胞に対する結合が確認できない抗体は、ILT7に対する特異性を有する抗体に含まれる。
ILT1;ミエロイド系の細胞(単球、単球由来DC、マクロファージ)
ILT2;PDC、B細胞、CD34陽性細胞、CD34陽性細胞由来DC、単球由来DC
ILT3;PDC、DC、
ILT5;単球、CD34陽性細胞由来DC、単球由来DC
ILT8;単球系
【0037】
すなわち本発明におけるヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体とは、好ましくは、以下の免疫学的特徴を有するモノクローナル抗体を含む。
a) ヒトIPCと結合する;
b) ヒトIPCと結合する条件下で、単球、マクロファージ、B細胞、CD34陽性細胞並びにこれらの細胞に由来する樹状細胞からなる群から選択される1または複数種の細胞との結合が確認できない;
特に、ヒトIPCと結合する条件下で、単球、マクロファージ、B細胞、CD34陽性細胞及びこれらの細胞に由来する樹状細胞との結合が確認できない抗体は、本発明のモノクローナル抗体として好ましい。
【0038】
あるいは本発明におけるヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体とは、好ましくは、以下の免疫学的特徴を有するモノクローナル抗体を含む。
c) ヒトILT7をコードするDNAを発現可能に保持した発現ベクターと、シグナル伝達分子をコードするDNAを発現可能に保持した発現ベクターとで共形質転換された形質転換細胞と結合する;
d) c)の共形質転換細胞と結合する条件下で、c)の共形質転換される前の宿主細胞との結合が確認できない;
あるいは本発明のモノクローナル抗体は、更に付加的に次の免疫学的特徴を有するモノクローナル抗体を含む。
e) c)の共形質転換細胞と結合する条件下で、前記シグナル伝達分子のみを発現する宿主細胞との結合が確認できない;
【0039】
本発明において、抗ILT7モノクローナル抗体が、ILTファミリーの他の分子と交差しないことは、各ILTファミリーを強制発現させた細胞を使って確認することができる。すなわち、各ILTファミリーのアミノ酸配列をコードするcDNAを適当な宿主細胞に導入して強制発現させる。得られた形質転換細胞に対して、交差性を確認すべき抗ILT7モノクローナル抗体を接触させる。そして、ILT7以外のILTファミリー分子を発現する細胞に対する結合が見られなければ、その抗体がILT7を他のILTファミリー分子と免疫学的に識別できることが確認できる。たとえば後に述べる実施例においては、本発明によって得られた抗ILT7モノクローナル抗体が、ILT1、ILT2、およびILT3と交差しないことが確認されている。したがって、ILT7と結合し、同じ条件においてILT1、ILT2、およびILT3との結合が検出できないモノクローナル抗体は、本発明における好ましいモノクローナル抗体である。
【0040】
特にILT2、およびILT3は、IPCにおける発現が確認されている遺伝子である(Ju et al. Gene 331, 159-164,2004)。しかしこれらの分子は、それぞれIPCの分化レベル、あるいはウイルスや他のサイトカインの刺激などの条件によって、それぞれに固有の発現プロファイルを示す可能性がある。こららのILTファミリー分子をILT7と免疫学的に識別することができる抗体を利用すれば、ILT7の発現の変化を特異的に検出することができる。
【0041】
結合活性を確認すべきモノクローナル抗体と、各種の細胞との結合は、たとえばフローサイトメトリーの原理で確認することができる。フローサイトメトリーの原理による抗体の反応性の確認のためには、抗体は検出可能なシグナルを生成する分子あるいは原子団で標識しておくと有利である。一般的には、蛍光標識や発光標識が利用される。蛍光標識した抗体と細胞との結合をフローサイトメトリーの原理で解析するために、蛍光標示式細胞分取器(fluorescence-activated cell sorter;FACS)を利用することができる。FACSを利用することによって、複数の抗体と細胞との結合を効率的に確認することができる。
【0042】
具体的には、たとえばIPCを同定することができることが予め明らかな抗体Aと、IPCとの結合特性を解析すべき抗体Bを同時にIPCを含む細胞群に反応させる。抗体Aと抗体Bには互いに識別できる蛍光シグナルを標識しておく。両者のシグナルが同じ細胞群から検出されれば、それらの抗体が同じ細胞群に結合していることが確認できる。すなわち、抗体Aと抗体Bが同じ結合特性を有していることがわかる。もしも異なる細胞群に結合したときは、両者の結合特性が異なることが明らかである。
【0043】
本発明における好ましいモノクローナル抗体として、たとえば、ハイブリドーマILT7#11あるいはILT7#17が産生するモノクローナル抗体を示すことができる。ハイブリドーマILT7#11およびハイブリドーマILT7#17は、2005年10月21日付けで独立行政法人産業技術総合研究所内特許生物寄託センターに対して、受託番号FERM BP-10704および受託番号FERM BP-10705として寄託されている。以下に、寄託を特定する内容を記載する。
(a)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番1号中央第6(郵便番号305-8566)
(b)寄託日:2005年10月21日
(c)受託番号:FERM BP-10704 (ハイブリドーマILT7#11)
(c)受託番号:FERM BP-10705 (ハイブリドーマILT7#17)
【0044】
本発明のモノクローナル抗体は、その抗原結合領域を含む断片であっても良い。たとえばIgGの酵素的な消化によって生成される、抗原結合部位を含む抗体断片も、本発明における抗体として利用することができる。具体的には、パパインあるいはペプシンによる消化によって、FabあるいはF(ab')2などの抗体断片を得ることができる。これらの抗体断片は、抗原との結合親和性を有する抗体分子として利用しうることは周知である。あるいは、必要な抗原結合活性を維持している限り、遺伝子組み換えによって構築された抗体を用いることもできる。遺伝子組み換えによって構築された抗体とは、たとえばキメラ抗体、CDR移植抗体、シングルチェインFv、diabody (diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体等を示すことができる。モノクローナル抗体、あるいはそれを産生する抗体産生細胞をもとに、これらの抗体を得る方法は公知である。
【0045】
本発明のモノクローナル抗体は、特定の形質転換細胞を免疫原とすることによって得ることができる。すなわち本発明は、次の工程を含む、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体を産生する細胞の製造方法に関する。
(1) ヒトILT7の細胞外ドメインを含む外来性の蛋白質、およびヒトILT7と会合する外来性の分子を発現する細胞を免疫動物に投与する工程、および
(2)前記免疫動物の抗体産生細胞から、ヒトILT7に結合する抗体を産生する抗体産生細胞を選択する工程。
このようにして得られた抗体産生細胞、あるいは不死化(immortalize)された当該抗体産生細胞を培養し、その培養物から目的とするモノクローナル抗体を回収することができる。抗体産生細胞を不死化するための方法については種々の方法が公知である。
【0046】
本発明のモノクローナル抗体の製造方法において、免疫原とする形質転換細胞を得るためのヒトILT7と会合する分子としては、細胞膜蛋白質を利用することができる。中でも、細胞膜に局在するシグナル伝達分子は、本発明における細胞膜蛋白質として好ましい。シグナル伝達分子とは、細胞外ドメインに受容体構造を有する蛋白質と細胞膜において会合し、受容体へのリガンドの結合刺激を、細胞内に伝達する分子を言う。具体的には、Fc受容体γ鎖あるいはDAP12などをシグナル伝達分子として示すことができる。たとえばFc受容体γ鎖は、本発明における細胞膜蛋白質として好ましい。ヒトのDAP12やFc受容体γ鎖のアミノ酸配列、並びにそれをコードするcDNAの塩基配列はいずれも公知である。ヒトFc受容体γ鎖の塩基配列、およびそれによってコードされるアミノ酸配列を、配列番号15および配列番号:16にそれぞれ示した。
【0047】
本発明において免疫原とする形質転換細胞は、たとえば下記の(a)および(b)を発現可能に保持した細胞を調製することによって得ることができる。
(a) ヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列をコードする外来性のポリヌクレオチド
(b) Fc受容体γ鎖をコードする外来性のポリヌクレオチド
本発明において、外来性のポリヌクレオチドとは、当該ポリヌクレオチドが人為的に宿主細胞に導入されたものであることを言う。細胞としてヒト細胞を用いる場合には、ヒトの細胞にヒトの遺伝子が導入される。このような組み合わせにおいても、人為的に導入されたポリヌクレオチドは、外来性のポリヌクレオチドと言う。したがって、ヒトILT7あるいはヒトFc受容体γ鎖の異所性(ectopic)の発現は、外来性のポリヌクレオチドの発現に含まれる。
【0048】
本発明において、ヒトILT7の細胞外ドメインとは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列中、その細胞外ドメインに相当する17−444位のアミノ酸配列(配列番号:2における1から428)を言う。たとえば、N末端側から順に、次の順で各領域を含むアミノ酸配列は、本発明におけるヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列として好ましい。
[シグナル配列+細胞外ドメイン+膜貫通ドメイン+細胞内領域]
あるいは、下記のように細胞内領域を部分的に欠くアミノ酸配列も、本発明におけるヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列に含まれる。
[シグナル配列+細胞外ドメイン+膜貫通ドメイン+細胞内領域の一部]
更に、下記のように細胞内領域を欠いた構造も、本発明におけるヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列に含まれる。
[シグナル配列+細胞外ドメイン+膜貫通ドメイン]
【0049】
前記構造において、細胞外ドメイン以外の領域は、アミノ酸配列:2に示すアミノ酸配列から選択された配列であることもできるし、その他の相同なアミノ酸配列を組み合わせることもできる。たとえば、シグナル配列、膜貫通ドメイン、および細胞内領域を構成するアミノ酸配列は、ILT7以外のILTファミリー分子のアミノ酸配列とすることもできる。あるいは、ヒト以外の種のILTファミリーのアミノ酸配列を組み合わせることもできる。更に、細胞外ドメイン以外の領域を構成するアミノ酸配列には、各領域の機能を維持できる範囲で、変異を含むことができる。また、各領域の間に、その他の領域を介在させることもできる。たとえば、シグナル配列と細胞外ドメインの間に、FLAGなどのエピトープタグを挿入することもできる。特にシグナル配列は、蛋白質に翻訳された後、細胞膜表面に移送される段階でプロセシングされて除去される領域である。したがって、翻訳された蛋白質の細胞膜の通過を誘導する任意のアミノ酸配列を、シグナル配列として利用することができる。より具体的には、ヒトILT7のアミノ酸配列(配列番号:2)は、ヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列として好ましい。
【0050】
したがって、本発明において、前記(a)を構成するポリヌクレオチドは、前記構造[シグナル配列+細胞外ドメイン+膜貫通ドメイン+細胞内領域]を構成するアミノ酸配列をコードする任意の塩基配列を利用することができる。たとえば配列番号:2のアミノ酸配列は、配列番号:1に記載の塩基配列によってコードされている。
【0051】
本発明において、免疫原とする形質転換細胞を得るには、適当な宿主細胞に、上記ポリヌクレオチド(a)および(b)を発現可能に保持した発現ベクターを導入すればよい。ポリヌクレオチド(a)および(b)は、一つのベクター上に保持することもできるし、別のベクターに搭載することもできる。異なるベクターに各ポリヌクレオチドを搭載した場合には、宿主細胞は、2種類のベクターで共形質転換される(co-transfect)。
【0052】
本発明において、好ましい宿主細胞は、哺乳動物細胞である。具体的には、ヒト、サル、マウス、あるいはラットに由来する細胞を宿主細胞として利用することができる。特にヒト由来の細胞は、宿主細胞として好ましい。たとえば、293T細胞は、本発明における宿主細胞として利用することができる好ましいヒト由来の細胞である。293T細胞は、ATCC CRL-11268として入手することができる。その他、免疫動物に由来する細胞も、宿主細胞として利用することができる。免疫動物に由来する細胞を免疫原として利用すれば、宿主細胞に対する免疫応答が少ない。そのため、外来性に発現しているILT7の細胞外ドメインに対する抗体を効率的に得ることができる。したがって、たとえば、マウスを免疫動物とするときには、マウス由来の細胞を宿主細胞として利用することもできる。
【0053】
前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞において発現を誘導できるベクターに搭載して細胞に形質転換することができる。哺乳動物細胞において発現を誘導できる市販のベクターを利用すればよい。たとえば、pCMV-Script(R) Vector、pSG5 Vector(Stratagene製)、pcDNA3.1(Invitrogen製)などの発現ベクターを本発明に利用することができる。
【0054】
こうして得られた形質転換細胞は、必要に応じてアジュバント等の付加的な成分とともに免疫動物に投与される。アジュバントとしては、フロインドのコンプリートアジュバントなどを利用することができる。マウスを免疫動物に利用する場合、形質転換細胞は、10〜10個の細胞、より具体的には10〜10個の細胞を投与することができる。一般に、免疫原は、抗体価が上昇するまで間隔をあけて複数回投与される。たとえば、短期間免疫法の場合は、2〜4日、より具体的には3日間隔で形質転換細胞を投与し、2〜3回の投与の後に抗体産生細胞を回収することができる。また週1回程度の間隔で5〜6回投与した後に抗体産生細胞を回収することもできる。
【0055】
本発明においては、モノクローナル抗体を得るために、回収された抗体産生細胞がクローニングされる。クローニングのために、抗体産生細胞を不死化するのが好ましい。たとえばハイブリドーマ法に代表される細胞融合法や、エプスタインバーウイルス(EBV)による形質転換を、抗体産生細胞を不死化するための方法として利用することができる。
【0056】
抗体産生細胞は、1つの細胞が1種類の抗体を産生している。したがって、1つの細胞に由来する細胞集団を確立すること(すなわちクローニング)ができれば、モノクローナル抗体を得ることができる。ハイブリドーマ法とは、抗体産生細胞を適当な細胞株と融合させ、不死化(immortalize)した後にクローニングする方法を言う。不死化された抗体産生細胞は、限界希釈法(limiting dilution method)などの手法によりクローニングすることができる。ハイブリドーマ法に有用な多くの細胞株が知られている。これらの細胞株は、リンパ球系細胞の不死化効率に優れ、かつ細胞融合に成功した細胞の選択に必要な各種の遺伝マーカーを有している。更に抗体産生細胞の取得を目的とする場合には、抗体産生能を欠落した細胞株を用いることもできる。
【0057】
たとえばマウスミエローマP3x63Ag8.653(ATCC CRL-1580)やP3x63Ag8U.1(ATCC CRL-1597)は、マウスやラットの細胞融合法に有用な細胞株として広く用いられている。一般にハイブリドーマは、同種の細胞の融合によって作成されるが、近縁の異種間でのヘテロハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得することもできる。
【0058】
細胞融合の具体的なプロトコルは公知である。すなわち、免疫動物の抗体産生細胞を適当な融合パートナーと混合し、細胞融合させる。抗体産生細胞には、脾細胞、リンパ節から採取されたリンパ球細胞、末梢血B細胞などが用いられる。融合パートナーとしては、先に述べた各種の細胞株を利用することができる。細胞融合には、ポリエチレングリコール法や、電気融合法が用いられる。
次に、融合細胞が有する選択マーカーに基づいて、細胞融合に成功した細胞が選択される。たとえばHAT感受性の細胞株を細胞融合に用いた場合には、HAT培地において成育する細胞を選択することによって、細胞融合に成功した細胞が選択される。更に選択された細胞が産生する抗体が、目的とする反応性を有していることを確認する。
【0059】
各ハイブリドーマは、抗体の反応性に基づいて、スクリーニングされる。すなわち、先に述べたような方法によって、ヒトILT7に結合する抗体を産生するハイブリドーマが選択される。好ましくは、選択されたハイブリドーマをサブクローニングし、最終的に目的とする抗体の産生が確認された場合に、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマとして選択する。
【0060】
具体的には、ヒト細胞との反応性、あるいはヒトILT7遺伝子を発現する形質転換細胞との反応性に基づいて、目的とするハイブリドーマを選択することができる。細胞に結合する抗体は、イムノアッセイの原理によって検出することができる。たとえば、細胞を抗原として利用するELISAを、目的とする抗体の検出に利用することができる。具体的には、ヒトIPC、あるいは免疫原として利用した形質転換細胞を固定化した担体に、ハイブリドーマの培養上清を接触させる。培養上清が目的とする抗体を含む場合には、抗体が担体に固定化された細胞に捕捉される。次いで、固相を培養上清から分離し、必要に応じて洗浄した後に、固相に捕捉された抗体を検出することができる。抗体の検出には、抗体を認識する抗体を利用することができる。たとえば、マウスの抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出することができる。抗体を認識する抗体を標識しておけば、その検出が容易である。標識には、酵素、蛍光色素、発光色素などを利用することができる。
一方、細胞を固定化する担体としては、粒子や、マイクロタイタープレートの内壁を利用することができる。プラスチック製の粒子や容器の表面には、細胞を物理吸着によって固定することができる。たとえばポリスチレン製のビーズや反応容器を、細胞を固定するための担体として利用することができる。
【0061】
ハイブリドーマの選択において、ILT7ではなく、免疫原に用いた形質転換細胞の宿主細胞に対する抗体の産生が予測される場合がある。たとえば、実施例に示したように、ヒト細胞を免疫原としマウスを免疫動物に利用すると、ヒト細胞が異物として認識されそれに結合する抗体の産生が予測される。本発明においては、ヒトILT7を認識する抗体の取得を目的とする。したがって、ヒトILT7以外のヒト細胞抗原を認識する抗体を取得する必要は無い。このような抗体を産生するハイブリドーマを、スクリーニングにおいて排除するために、抗体の反応性の確認に先立ち、目的としない抗体を予め吸収することができる。
【0062】
目的としない抗体は、存在が予測される抗体が結合する抗原によって吸収することができる。具体的には、たとえばヒトILT7以外のヒト細胞抗原に対する抗体は、ヒトILT7の発現が検出できない細胞によって吸収することができる。本発明において、免疫原に用いた宿主細胞は、目的としない抗体を吸収するための抗原として好ましい。あるいは、ヒトILT7の細胞外ドメインを発現せず、ILT7と会合する分子を発現する宿主細胞も、抗体の吸収のための抗原として利用することができる。
【0063】
抗原に対する結合活性が確認されたモノクローナル抗体は、必要に応じて実際にIPCの活性に与える影響が確認される。IPCに対する影響は、たとえば後に述べるような方法によって確認することができる。
【0064】
本発明のモノクローナル抗体は、それを産生するハイブリドーマを培養しその培養物から回収することができる。ハイブリドーマは、in vitroまたはin vivoで培養することができる。in vitroにおいては、RPMI1640などの公知の培地を用いて、ハイブリドーマを培養することができる。培養上清には当該ハイブリドーマが分泌したイムノグロブリンが蓄積される。したがって、培養上清を採取し、必要に応じて精製することにより、本発明のモノクローナル抗体を得ることができる。培地には、血清を添加しない方が、イムノグロブリンの精製が容易である。しかし、ハイブリドーマのより迅速な増殖と、抗体産生の促進を目的として、10%程度のウシ胎児血清を培地に加えることもできる。
【0065】
ハイブリドーマは、in vivoにおいて培養することもできる。具体的には、ヌードマウスの腹腔にハイブリドーマを接種することにより、腹腔内でハイブリドーマを培養することができる。モノクローナル抗体は、腹水中に蓄積する。したがって、腹水を採取し、必要に応じて精製すれば、必要なモノクローナル抗体を得ることができる。得られたモノクローナル抗体は、目的に応じて適宜、修飾、あるいは加工することができる。
【0066】
本発明のモノクローナル抗体は、当該ハイブリドーマから抗体の抗原結合領域をコードするcDNAを取得し、これを適当な発現ベクターに挿入することによって発現させることができる。抗体の可変領域をコードするcDNAを取得し、適当な宿主細胞に発現させる技術は公知である。また抗原結合領域を含む可変領域を、定常領域と結合させることによってキメラ抗体とする手法も公知である。
【0067】
たとえば本発明における好ましいモノクローナル抗体として、ハイブリドーマ #11 (受託番号:FERM BP-10704)、ハイブリドーマ #17 (受託番号:FERM BP-10705)、あるいはハイブリドーマ#37などが産生するモノクローナル抗体を示すことができる。これらのモノクローナル抗体の可変領域を構成するアミノ酸配列、ならびにそれをコードするcDNAの塩基配列は次のとおりである。したがって、たとえば、これらの可変領域を、他のイムノグロブリンの定常領域と接合することによって得られるキメラ抗体は、本発明における好ましいキメラ抗体である。なお配列表中に記載したアミノ酸配列において、1からC末端までのアミノ酸配列が、成熟タンパク質を構成する。すなわち各アミノ酸配列の1からC末端までの連続するアミノ酸配列が、各アミノ酸配列の成熟配列である。一方、N末端から−1までの数値で示したアミノ酸配列はシグナル配列である。
重鎖可変領域 軽鎖可変領域
#11 配列番号:38(塩基配列) 配列番号:40(塩基配列)
配列番号:39(アミノ酸配列) 配列番号:41(アミノ酸配列)
#17 配列番号:42(塩基配列) 配列番号:44(塩基配列)
配列番号:43(アミノ酸配列) 配列番号:45(アミノ酸配列)
#37 配列番号:46(塩基配列) 配列番号:48(塩基配列)
配列番号:47(アミノ酸配列) 配列番号:49(アミノ酸配列)
たとえば、これらの可変領域遺伝子を、それぞれ、ヒトIgG1重鎖定常領域、およびヒトIg kappa軽鎖定常領域をコードする遺伝子と連結することによって、マウス(可変領域)−ヒト(定常領域)キメラ抗体とすることができる。このようなキメラ抗体のアミノ酸配列、およびそれをコードする塩基配列は、それぞれ次のとおりである。これらの配列によって特定されるキメラ抗体は、本発明における抗ILT7モノクローナル抗体の好ましい態様を構成する。なお以下のキメラ抗体のアミノ酸配列においても、N末端から−1までのアミノ酸配列がシグナル配列を、1からC末端までのアミノ酸配列が成熟蛋白質に相当する。すなわち、各アミノ酸配列の1からC末端までのアミノ酸配列からなる重鎖、および軽鎖によって構成されるキメラ抗体が、本発明における好ましいキメラ抗体である。
重鎖 軽鎖
#11 配列番号:50(塩基配列) 配列番号:52(塩基配列)
配列番号:51(アミノ酸配列) 配列番号:53(アミノ酸配列)
#17 配列番号:54(塩基配列) 配列番号:56(塩基配列)
配列番号:55(アミノ酸配列) 配列番号:57(アミノ酸配列)
【0068】
更に、モノクローナル抗体の抗原結合活性を他のイムノグロブリンに移植することもできる。イムノグロブリンの可変領域は、相補性決定領域(complementarity-determining region; CDR)と、フレーム領域で構成されている。各イムノグロブリンの抗原結合特性はCDRによって決定されており、フレームは抗原結合領域の構造を維持している。CDRのアミノ酸配列がきわめて多様性に富むのに対して、フレーム部分のアミノ酸配列は高度に保存されている。CDRを構成するアミノ酸配列を他のイムノグロブリン分子のフレーム領域に組み込むことによって、抗原結合活性も移植できることが知られている。この方法を利用して、異種のイムノグロブリンが有する抗原結合特性をヒト・イムノグロブリンに移植する方法が確立されている。本発明において、抗原結合領域とは、フレームに移植(graft)されたCDRを含みうる。したがって、あるモノクローナル抗体の「抗原結合領域を含む断片」とは、当該モノクローナル抗体のCDRを移植された可変領域を含むヒトイムノグロブリンの断片を含む。たとえば、上記の可変領域のアミノ酸配列は、それぞれ、次のようなアミノ酸配列(配列番号)をCDRとして含む。
CDR1 CDR2 CDR3
#11重鎖 SDYAWN (58) YISYSGSTSYNPSLKSR (59) SPPYYAMDY (60)
#11軽鎖 KASQDVGTAVA(61) WASTRHT (62) QQYSSYPLT(63)
#17重鎖 SYWIH (64) RIYPGTGSTYYNEKFKG(65) YPTYDWYFDV (66)
#17軽鎖 RASQSISNYLH (67) YASQSIS (68) QQSNSWPLT (69)
#37重鎖 SDYAWN(70) YISYSGSTSYNPSLKSR (71) ALPLPWFAY (72)
#37軽鎖 KASQDVGTAVA (73) WASTRHT (74) QQYSSYPYT (75)
当該アミノ酸配列をコードする塩基配列情報と、ヒトのイムノグロブリンのフレーム(FR)をコードする塩基配列情報に基づいて、プライマーをデザインし両者を接合した塩基配列を持つcDNAを増幅することができる。この操作を各フレームについて繰り返して、マウスのCDR1、CDR2、およびCDR3をヒトのFRで連結した可変領域を構築することができる。更に、必要に応じてヒトイムノグロブリンの定常領域をコードする塩基配列を接合すれば、定常領域を備えたヒト化抗体を得ることができる。
前記可変領域を含むキメラ抗体、あるいは可変領域を構成するCDRを移植したヒト化抗体として、IgGあるいはIgM由来の定常領域を有する抗体は、本発明における好ましい抗体に含まれる。本発明者らは、ILT7に対するモノクローナル抗体がILT7発現細胞に対するCDC作用を有することを確認している。したがって、IgGあるいはIgM由来の定常領域を有する抗体は、CDC作用によるILT7発現細胞に対する細胞障害作用を有する。このような抗体は、IPCなどのILT7発現細胞の細胞数の抑制に有用である。
【0069】
本発明によって提供される、ILT7を認識するキメラ抗体、あるいはヒト化抗体は、それをコードするポリヌクレオチドを利用して遺伝子工学的に製造することができる。たとえば、#11、あるいは#17の可変領域をコードするポリヌクレオチドとして、次の配列番号に記載された塩基配列であって、各アミノ酸配列成熟蛋白質を構成するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを利用することができる。各アミノ酸配列の1からC末端までの連続するアミノ酸配列が、成熟タンパク質に相当するアミノ酸である。各成熟タンパク質を別々のタンパク質として発現させる場合には、各アミノ酸配列のN末端に分泌シグナルを配置するのが好ましい。たとえばこれらの配列番号に示したアミノ酸配列において、N末端から−1までのアミノ酸配列は、これらのタンパク質を動物細胞などで発現させるときのシグナル配列として利用することができる。あるいは、イムノグロブリンの分泌を可能とする任意のシグナル配列を利用して、これらの可変領域を成熟蛋白質として分泌させることができる。
#11 配列番号:50(塩基配列) 配列番号:52(塩基配列)
#17 配列番号:54(塩基配列) 配列番号:56(塩基配列)
【0070】
同様にして、ヒト化抗体をコードするポリヌクレオチドについても、N末端に付加するシグナル配列を持つタンパク質をコードする塩基配列を利用して、ヒト化抗体を発現するポリヌクレオチドとすることができる。重鎖と軽鎖を別々のベクターに搭載したときには、両方のベクターが同じ宿主細胞に導入される(co-transfect)。各ベクターから発現される重鎖と軽鎖により、両者を備えたイムノグロブリン分子が構築される。あるいは、重鎖をコードするポリヌクレオチドと軽鎖をコードするポリヌクレオチドとを同じベクターに搭載することもできる。両者を搭載したベクターを導入された宿主細胞は、重鎖と軽鎖を発現し、両者を備えたイムノグロブリンを産生する。
これらのポリヌクレオチドは、抗体遺伝子を発現することができる宿主ベクター系を利用して、抗体として発現させることができる。更に、もしも重鎖可変領域を軽鎖可変領域と連結して1つの蛋白質分子として発現させる場合には、シグナル配列は、当該タンパク質分子のN末端に配置することができる。このような抗体分子としては、たとえば重鎖可変領域と軽鎖可変領域をリンカーで接続したscFv分子が公知である。
【0071】
このようにして作成されたモノクローナル抗体はいずれも本発明のモノクローナル抗体に含まれる。すなわち、当該モノクローナル抗体の抗原結合領域をコードするcDNAに由来するポリヌクレオチドによってコードされた抗原結合領域を含むイムノグロブリンからなるモノクローナル抗体は、本発明におけるモノクローナル抗体に含まれる。
【0072】
先に述べたように、ILT1遺伝子を強制発現させたRBL細胞は、ILT1の抗体を得るための免疫原として利用できた。ところがILT7は、RBL細胞(P815)では細胞表面における発現が確認できず、免疫原にはならなかった。本発明者らは、ヒトILT7と会合する他の細胞膜蛋白質との共発現によって、ヒトILT7の細胞表面への発現を誘導できることを見出した。そして、こうして発現を誘導した形質転換細胞を免疫原として利用することによって、ヒトIPCに結合する抗体を得られることを明らかにし、本発明を完成した。
すなわち本発明は、(a) ヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドおよび、(b) Fc受容体γ鎖をコードするポリヌクレオチドを外来性に発現可能に保持する動物細胞、またはその細胞膜分画を含む、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合する抗体を製造するための免疫原を提供した。
【0073】
1998年にヒトILT7の構造が明らかにされてから既に6年以上を経過しているが、未だにILT7を特異的に認識できる抗体は得られていない。本発明の免疫原によって、初めてヒトILT7を認識する抗体が提供された。すなわち本発明は、下記の工程によって得ることができる、ヒトILT7を認識する抗体を提供した。
(1) ヒトILT7の細胞外ドメインを含む蛋白質、およびヒトILT7と会合する分子を外来性に発現する細胞を免疫動物に投与する工程、
(2)前記免疫動物の抗体産生細胞から、ヒトILT7に結合する抗体を産生する抗体産生細胞を選択する工程、および
(3)(2)で選択された抗体産生細胞を培養しその培養物からヒトILT7を認識する抗体を回収する工程
【0074】
ヒトILT7は、ヒトIPCにおいて特異的に発現していることが明らかにされている。本発明者らのSAGEによる遺伝子発現解析においても、ヒトIPCにおける特異的な発現が確認された。しかし過去の報告においては、ILT7の発現レベルはいずれもmRNAに基づいて解析されていた。ヒトILT7の検出が可能な抗体が提供されていなかったため、蛋白質の発現状態を解析することは従来行われなかった。本発明によって提供されたヒトILT7の細胞外ドメインに結合する抗体は、ヒトILT7蛋白質の解析を実現した。
【0075】
実際に本発明者らが確認したところ、本発明に基づくヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体は、ヒトIPCを特異的に検出した。すなわち本発明は、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片を被検細胞に接触させ、細胞に結合したモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片を検出する工程を含む、インターフェロン産生細胞の検出方法に関する。
【0076】
本発明に基づいてヒトILT7を検出することによって、ある細胞がIPCであるかどうかを確認することができる。すなわち本発明は、ヒトILT7を指標とするIPCの同定方法を提供する。あるいは本発明に基づいてヒトILT7が検出された細胞を分離することによって、ヒトIPCを分離することができる。すなわち本発明は、ヒトILT7を指標とするIPCの分離方法を提供する。
【0077】
ヒトILT7の抗体による解析によって、ILT7の発現レベルが、CpGなどによって分化誘導されたIPCにおいて低下していくことが確認された。すなわちILT7を指標とすることによって、分化誘導される前のIPCを特異的に検出することができる。つまり本発明のモノクローナル抗体は、特に、樹状細胞に分化する前のIPCの検出に有用である。本発明において、分化前のIPCとは、インターフェロンの産生能を維持している細胞群と定義することができる。
【0078】
本発明において、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片は、標識しておくことができる。たとえば、発光色素や蛍光色素によって標識することにより、抗体を容易に検出することができる。より具体的には、蛍光色素標識抗体をIPCを含む可能性のある細胞集団と接触させ、本発明の抗体が結合した細胞を蛍光色素を指標として検出することができる。更に、蛍光色素が検出された細胞を分離すれば、IPCを分離することができる。一連の工程は、FACSの原理により容易に実施することができる。
【0079】
あるいは本発明の抗体を磁性粒子などの固相担体に結合しておくこともできる。固相担体に結合した抗体がヒトILT7を認識し、IPCが固相担体に捕捉される。その結果、IPCを検出、あるいは分離することができる。
【0080】
本発明に基づくIPCの検出方法に必要な抗体は、IPC検出用試薬として供給することができる。すなわち本発明は、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片を含む、インターフェロン産生細胞の検出用試薬を提供する。本発明のIPCの検出用試薬には、抗体のほか、陽性対照、あるいは陰性対照を組み合わせることができる。たとえば、免疫原に利用したヒトILT7の細胞外ドメインを発現する形質転換細胞や、ヒトから採取されたIPCなどを陽性対照として利用することができる。通常、ヒトIPCは末梢血からはわずかしか得ることができない。したがって、特に形質転換細胞は、本発明の試薬における陽性対照として好ましい。一方、陰性対照には、ヒトILT7を発現しない任意の細胞を利用することができる。
【0081】
すなわち本発明は、(a)ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片、および(b)ヒトILT7の細胞外ドメインを含む外来性の蛋白質、およびヒトILT7と会合する外来性の分子を発現する細胞、とを含む、ヒトIPCの検出用キットを提供する。
【0082】
また本発明者らは、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合する抗体がIPCに与える影響を解析した。その結果、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合する抗体は、IPCの活性を抑制することが確認された。すなわち本発明は、次の成分のいずれかをインターフェロン産生細胞に接触させる工程を含む、インターフェロン産生細胞の活性抑制方法に関する。
(a)ヒトILT7に結合し、インターフェロン産生細胞の活性を抑制するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;、および
(b)(a)のモノクローナル抗体の相補性決定領域を移植したイムノグロブリン、またはその抗原結合領域を含む断片
【0083】
あるいは本発明は、次の成分のいずれかを生体に投与する工程を含む、生体中のインターフェロン産生細胞の活性抑制方法に関する。
(a)ヒトILT7に結合し、インターフェロン産生細胞の活性を抑制するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;
(b)(a)のモノクローナル抗体の相補性決定領域を移植したイムノグロブリン、またはその抗原結合領域を含む断片;、および
(c)(a)または(b)に記載の成分をコードするポリヌクレオチド;
【0084】
本発明においてインターフェロン産生細胞(Interferon Producing cells; IPC)は、IFN産生能を有し、かつ細胞表面にILT7を発現する細胞を言う。以下、特に断りの無い場合には、IPCは、樹状細胞の前駆細胞である細胞のみならず、IFN産生能を有し、かつ細胞表面にILT7を発現する細胞を含む。このようなIPCの同定方法は公知である。たとえばいくつかの細胞表面マーカーを指標としてIPCを他の血液細胞と識別することができる。具体的には、ヒトIPCの細胞表面マーカーのプロファイルは次のとおりである(Shortman,K. and Liu, YJ. Nature Reviews 2: 151-161, 2002)。近年になって、BDCA-2陽性細胞をIPCと位置づける報告もある(Dzionek, A. et al. J.Immunol. 165: 6037-6046, 2000.)。
[ヒトIPCの細胞表面抗原のプロファイル]
CD4陽性、CD123陽性、
Lineage(CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD56)陰性、CD11c陰性
したがって、これらの公知のマーカーの発現プロファイルを持ち、IFN産生能を持つ細胞をIPCと言うこともできる。更に、これらのマーカーの発現プロファイルの発現パターンとは異なるプロファイルを持つ細胞群であっても、IFN産生能を有する生体中の細胞はIPCに含まれる。
更に、ヒトIPCに共通して見られる特徴として、以下のような特徴を示すことができる。
[細胞の形態上の特徴]
−プラズマ細胞に似ている
−細胞表面が平滑な丸い細胞
−核が比較的大きい
[細胞の機能的な特徴]
−ウイルス感染時に、短期間に大量のType-1 interferonを産生する
−ウイルス感染後、樹状細胞に分化する
【0085】
本発明において、IPCの活性抑制とは、IPCが有する機能の少なくとも一つを抑制することを言う。IPCの機能として、IFNの産生と細胞生存を示すことができる。細胞の生存は、細胞数と言い換えることもできる。したがって、これらの機能の両方あるいはいずれかを抑制する場合に、IPCの活性を抑制すると言う。IPCによって産生されるタイプ1IFNが種々の疾患の原因となっていることが明らかにされている。したがって、IPCの細胞数やIFNの産生を抑制することは、それらの疾患の治療戦略として有用である。
たとえば、自己免疫性の疾患の病態とIFNαの関連性が指摘されている。IFNαの大部分がIPCによって産生されている。したがってその産生を抑制すれば、IFNαによってもたらされる病態を緩和することができる。なお本発明において、IPCによるIFN産生抑制とは、IPCが産生するIFNの少なくとも1種類のIFN産生を抑制することを言う。本発明における好ましいIFNは、タイプ1IFNである。中でもIFNαは重要である。
【0086】
すなわち本発明は、ILT7の細胞外ドメインに結合する抗体を有効成分として含有する、IFN産生抑制剤に関する。あるいは本発明は、ILT7の細胞外ドメインに結合する抗体を投与する工程を含む、IFNの産生抑制方法を提供する。更に本発明は、ILT7の細胞外ドメインに結合する抗体の、IFNの産生を抑制するための医薬組成物の製造における使用に関する。
【0087】
IPCには、少数の細胞で大量のIFNを産生する細胞が含まれる。たとえば、ウイルスなどで刺激を受けた樹状細胞の前駆細胞は、生体が産生するIFNの大部分を産生する。大量のIFNを産生するIPCの細胞数を抑制することは、結果としてIFNの産生量を抑制することになる。したがって、IPCの細胞数の抑制によっても、IFNαによってもたらされる病態を緩和することができる。
本発明の好ましい態様において、抗ILT7モノクローナル抗体は、ILT7発現細胞に結合し、CDC(補体依存性の細胞障害作用;Complement Dependent Cytotoxicity)作用によって細胞障害作用を与えることが確認された。CDC作用は、抗体医薬の重要な作用機序の一つである。本発明の抗ILT7モノクローナル抗体も、そのCDC作用により、IPCなどのILT7発現細胞に対する強力な細胞障害作用を有する。つまり、抗ILT7モノクローナル抗体は、好ましい態様において、IFN産生の抑制機構に加えて、IPCに対する細胞障害作用によっても、IFN産生抑制効果を期待することができる。
【0088】
本発明に用いるヒトILT7の細胞外ドメインを認識する抗体は、先に述べたような方法に基づいて得ることができる。本発明における抗体は、任意のクラスであってよい。また抗体が由来する生物種も限定されない。更に、抗体の抗原結合領域を含む断片を抗体として用いることができる。たとえばIgGの酵素的な消化によって生成される、抗原結合部位を含む抗体断片も、本発明における抗体として利用することができる。具体的には、パパインあるいはペプシンによる消化によって、FabあるいはF(ab')2などの抗体断片を得ることができる。これらの抗体断片は、抗原との結合親和性を有する抗体分子として利用しうることは周知である。あるいは、必要な抗原結合活性を維持している限り、遺伝子組み換えによって構築された抗体を用いることもできる。遺伝子組み換えによって構築された抗体とは、たとえばキメラ抗体、CDR移植抗体、シングルチェインFv、diabody (diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体等を示すことができる。モノクローナル抗体を基に、これらの抗体を得る方法は公知である。
【0089】
本発明において、抗体は、必要に応じて修飾することができる。本発明によれば、ヒトILT7の細胞外ドメインを認識する抗体は、IPCの活性を抑制する作用を有する。すなわち、抗体そのものがIPCに対する細胞障害作用を有している可能性が考えられた。強いエフェクター作用を示す抗体のサブクラスは公知である。あるいは、抗体を細胞障害物質(cytotoxic agent)によって修飾することによって、IPCの活性抑制効果を更に増強することができる。細胞障害物質としては、以下のような物質を示すことができる。
トキシン類:緑膿菌毒素(Pseudomonas Endotoxin; PE)、ジフテリアトキシン、リシン
放射性同位元素:Tc99m、Sr89、I131、Y90
抗癌剤:カリキアマイシン、マイトマイシン、パクリタキセル
蛋白質からなるトキシン類は、2官能性試薬によって抗体あるいはその断片などに結合することができる。あるいは、抗体をコードする遺伝子にトキシン類をコードする遺伝子を接合し、両者の融合蛋白質を得ることもできる。放射性同位元素を抗体に結合する方法も公知である。たとえば、キレート剤を利用して、抗体を放射性同位元素で標識する方法が公知である。更に抗癌剤は、糖鎖あるいは2官能性試薬などの利用により、抗体に結合することができる。
【0090】
本発明者らは、細胞膜上に発現したILT7に結合したモノクローナル抗体が、結合後に細胞内に取り込まれる現象(内部移行/internalization)を確認している。したがって、これらの細胞障害物質を結合した本発明のモノクローナル抗体をILT7発現細胞に接触させることによって、細胞内部に細胞障害物質を送達することができる。すなわち、本発明は、細胞障害物質を結合した抗ILT7モノクローナル抗体を有効成分として含有する、ILT7発現細胞の活性抑制剤を提供する。あるいは本発明は、細胞障害物質を結合した抗ILT7モノクローナル抗体の、ILT7発現細胞の活性抑制剤の製造における使用に関する。更に本発明は、細胞障害物質を結合した抗ILT7モノクローナル抗体を投与する工程を含む、ILT7発現細胞の活性抑制方法を提供する。
【0091】
本発明においては、人為的に構造を改変された抗体を有効成分として利用することもできる。たとえば、抗体の細胞障害作用や安定性を改善するための様々な修飾方法が公知である。具体的には、重鎖の糖鎖が改変されたイムノグロブリンが知られている(Shinkawa, T. et al. J. Biol. Chem.278:3466-3473. 2003.)。糖鎖の改変によって、イムノグロブリンのADCC(抗体依存性の細胞障害;Antibody Dependent Cell-mediated Cytotoxicity)活性が増強された。あるいは、Fc領域のアミノ酸配列を改変されたイムノグロブリンも公知である。すなわち、イムノグロブリンのFc受容体との結合活性を人為的に高めることによって、ADCC活性が増強された (Shield,RL.et al. J.Biol.Chem. 276;6591-6604, 2001.)。
【0092】
また、Fc受容体に結合したIgGは、細胞内にいったん取り込まれる。その後、エンドソームに発現したFc受容体と結合して、再び血中に放出される現象が明らかにされている。Fc受容体との結合活性が高いIgGは、細胞に取り込まれた後に再び血中に放出される可能性が高まる。その結果、IgGの血中における滞留期間が延長される(Hinton,PR. et al. J Biol Chem. 279:6213-6216. 2004)。その他、Fc領域のアミノ酸配列の改変は、CDC(補体依存性の細胞障害作用;Complement Dependent Cytotoxicity)活性の変化をもたらすとも言われている。これらの改変を施した抗体を本発明における抗体として用いることができる。
【0093】
ヒトILT7の細胞外ドメインに結合する抗体は、IPCに接触させるとその活性を抑制する。したがってこれらの抗体を、IPCの活性抑制剤、あるいは抑制方法に利用することができる。すなわち本発明は、下記(a)-(c)からなる群から選択される少なくとも1種類の成分を有効成分として含む、IPCの活性抑制剤を提供する。あるいは本発明は、下記(a)-(c)からなる群から選択される少なくとも1種類の成分を投与する工程を含むIPCの活性抑制方法に関する。更に本発明は、下記(a)-(c)からなる群から選択される少なくとも1種類の成分のIPC活性調節剤の製造における使用に関する。
(a)ヒトILT7の細胞外ドメインに結合する抗体、またはその抗原結合領域を含む断片
(b)(a)の抗体の相補性決定領域を移植したイムノグロブリン、またはその抗原結合領域を含む断片、および
(c)(a)または(b)に記載の成分をコードするポリヌクレオチド
本発明において、IPCの活性を抑制するモノクローナル抗体としては、ヒトILT7の細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体を利用することができる。本発明においては、1種類あるいは複数種類のモノクローナル抗体を利用することができる。たとえば、ヒトILT7の細胞外ドメインを認識する複数種のモノクローナル抗体を配合して、本発明に利用することができる。
【0094】
抗体がIPCのIFN産生活性の抑制作用を有することは次のようにして確認することができる。IPCはウイルスの刺激によってIFNを大量に産生する。IPCに対するウイルス刺激の前、後、あるいはウイルス刺激と同時に抗体を与え、抗体を与えないIPCを対照として、IFNの産生能を比較する。IFN産生能は、IPCの培養上清中に含まれるIFN-αやIFN-βを測定することによって評価することができる。比較の結果、抗体の添加によって、上清中のIFNの量が有意に低下すれば、試験された抗体は、IFN産生能を抑制する作用を有することが確認できる。これらIFNの測定方法は公知である。IPCは、生体におけるIFNの大部分を産生する細胞である。したがって、IPCのIFN産生能の抑制によって、生体のIFNの産生状態を調節することができる。
【0095】
本発明において、IPCの活性にはIPCの細胞数の維持が含まれる。したがって本発明におけるIPCの活性の抑制は、IPCの細胞数の抑制を含む。IPCの細胞数が、抗体の存在下で抑制されることを確認すれば、当該抗体がIPCの活性を抑制していることがわかる。比較対照としては、IFN産生と同様に、活性を確認すべき抗体と同じ動物種に由来する不活性なイムノグロブリンを用いることができる。IPCの細胞数は、細胞の計数によって定量的に比較することができる。細胞数は、FACSや顕微鏡によって計数することができる。
【0096】
また、IPCはウイルスなどの感染の結果DC 2(Dendritic Cell 2)というTh2を誘導する細胞へ分化するとも言われている。ウイルス刺激によるIPCのIFN産生を抑制できれば、Th2への分化も抑制できる可能性がある。したがって、IFN産生を抑制する本発明のモノクローナル抗体は、各種アレルギー疾患の治療効果も期待できる。
【0097】
ヒトILT7の細胞外ドメインを認識する抗体を、その抗体が由来する生物種とは異なる宿主に投与する場合には、当該宿主にとって異物と認識されにくい形に加工するのが望ましい。たとえば、次のような分子に加工することにより、イムノグロブリンを異物として認識されにくくすることができる。イムノグロブリン分子を以下のように加工する手法は公知である。
−定常領域を欠失した抗原結合領域を含む断片(Monoclonal Antibodies : Principles and Practice, third edition, Academic Press Limited. 1995; Antibody Engineering, A Practical Approach, IRL PRESS, 1996)
−モノクローナル抗体の抗原結合領域と宿主のイムノグロブリンの定常領域とで構成されるキメラ抗体(遺伝子発現実験マニュアル 講談社 1994年 (石田 功、安東 民衛 編))
−宿主のイムノグロブリンにおける相補性決定領域(CDR)をモノクローナル抗体のCDRに置換したCDR置換抗体(遺伝子発現実験マニュアル 講談社 1994年 (石田 功、安東 民衛 編))
【0098】
あるいはヒト抗体遺伝子を組み込まれた非ヒト動物を免疫動物として用いることにより、非ヒト動物を用いながら、ヒト抗体を得ることができる。たとえば、ヒト抗体遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスが、ヒト抗体を製造するための免疫動物として実用化されている(Ishida et al., Cloning and Stem Cells, 4:85-95,2002)。このような動物を用いることにより、先に述べたような免疫原を使って、ILT7を認識するヒト抗体を得ることができる。ヒト抗体は、ヒトに投与する抗体として好ましい抗体である。
【0099】
あるいは、ファージディスプレー法(McCafferty J. et al., Nature 348:552-554,1990; Kretzschmar T et.al., Curr Opin Biotechnol. 2002 Dec;13(6):598-602.)によって、ヒトのイムノグロブリン可変領域遺伝子を取得することもできる。ファージディスプレー法においては、ヒトイムノグロブリン可変領域をコードする遺伝子がファージ遺伝子に組み込まれる。多様なイムノグロブリン遺伝子をソースとして、ファージライブラリーを作成することもできる。ファージは自身を構成する蛋白質の融合蛋白質として、当該可変領域を発現する。ファージによって発現されたファージ表面の可変領域は、抗原との結合活性を維持している。したがって、抗原あるいは抗原を発現した細胞などに結合するファージを選択することによって、ファージライブラリーから、目的とする結合活性を有する可変領域を発現したファージをスクリーニングすることができる。更に、こうして選択されたファージ粒子の中には、目的とする結合活性を有する可変領域をコードする遺伝子が保持されている。すなわち、ファージディスプレー法においては、可変領域の結合活性を指標として、目的とする結合活性を有する可変領域をコードしている遺伝子を取得することができる。
【0100】
本発明によるIPCの活性抑制剤、または抑制方法において、ヒトILT7の細胞外ドメインを認識する抗体、またはその少なくとも抗原結合領域を含む抗体断片は、蛋白質として、あるいはそれをコードするポリヌクレオチドとして、投与することができる。ポリヌクレオチドを投与するには、目的とする蛋白質を発現できるように、適当なプロモーターの制御下に目的とする蛋白質をコードするポリヌクレオチドを配置したベクターを利用するのが望ましい。ベクターには、エンハンサーやターミネーターを配置することもできる。イムノグロブリンを構成する重鎖と軽鎖の遺伝子を保持し、イムノグロブリン分子を発現することができるベクターが公知である。
イムノグロブリンを発現することができるベクターは、細胞に導入することにより投与することができる。生体への投与にあたっては、生体への投与によって細胞に感染させることができるものはそのまま投与することができる。あるいは、いったん生体から分離したリンパ球にベクターを導入して再び生体に戻すこともできる(ex vivo)。
【0101】
本発明に基づくIPCの活性抑制剤、または抑制方法において、生体に投与されるモノクローナル抗体の量は、イムノグロブリンとして体重1kgあたり、通常0.5mg〜100mg、たとえば1mg〜50mg、好ましくは2mg〜10mgである。生体への抗体の投与間隔は、治療期間中の生体内におけるイムノグロブリンの有効濃度が維持できるように適宜調節することができる。具体的には、たとえば、1〜2週間間隔で投与することができる。投与経路は、任意である。当業者は、治療に際して効果的な投与経路を適宜選択することができる。具体的には、経口的に、あるいは非経口的な投与を示すことができる。たとえば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、あるいは皮下注射等により、全身あるいは局所に抗体を投与することができる。本発明における非経口投与に適当な製剤として、注射剤、座剤、噴霧剤などがあげられる。また細胞に与える場合には、培養液中に通常1μg/mL、好ましくは10μg/mL以上、より好ましくは50μg/mL以上、更に好ましくは0.5mg/mL以上のイムノグロブリンを与える。
【0102】
本発明のIPCの活性抑制剤または抑制方法において、モノクローナル抗体は、任意の方法により生体に投与することができる。通常モノクローナル抗体は、薬学的に許容される担体と配合される。モノクローナル抗体には、必要に応じて増粘剤、安定剤、防腐剤および可溶化剤などの添加剤を配合することができる。このような担体または添加剤としては、ラクトース、クエン酸、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、スクロース、デンプン、タルク、ジェラチン、寒天、植物油、エチレングリコールなどが挙げられる。「薬学的に許容される」という用語は、各国政府の監督当局により承認されているか、または各国の薬局方もしくは一般的に認知されている薬局方に動物、哺乳動物、および特にヒトへの使用に関して列記されていることを言う。本発明のIPCの活性抑制剤は、1回または複数回の用量の凍結乾燥粉末または錠剤の形態で供給することもできる。凍結乾燥粉末または錠剤には、更に、投与の前に該組成物を所望の濃度となるように溶解するための注射用の滅菌済みの水、生理的食塩水または緩衝液を組み合わせることもできる。
【0103】
更に、イムノグロブリンを発現するベクターとして投与する場合には、重鎖と軽鎖を別のプラスミドとしてコトランスフェクトするとして、体重1kgあたり各プラスミドを0.1〜10mg、たとえば1〜5mgを投与することができる。またin vitroにおいて細胞に導入するためには、1〜5μg/106cellのベクターが用いられる。以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明する。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0104】
実施例1
A.ILT7の発現解析
A−1) SAGEライブラリーを用いた解析
ヒト単球、IPC、およびHSV処理したIPCにおける遺伝子の発現を、SAGETM(Serial Analysis of Gene Expression)法により比較、解析した。解析方法は次のとおりである。
ヒト末梢血より、単球をCD14陽性細胞として、IPCをBDCA-4陽性細胞として、セルソーターによって分離した。更にIPCをHerpes Simplex Virus(HSV)存在下で12時間培養して、分化したIPCを調製した。それぞれの細胞よりRNAを取得し、I-SAGETM kit(Invitrogen社)を用いて、SAGEライブラリーを作製した。得られた約10万タグの塩基配列データを、SAGE Analysis Software(Invitrogen社)で解析した。その結果、単球/IPC/IPC+HSVのスコア値が0/16/0の遺伝子、すなわちIPC特異的発現を示す遺伝子として、既知の遺伝子であるILT7(GenBank Acc# NM_012276)が見出された。ILT7は、配列番号:1に示す塩基配列によってコードされる、免疫グロブリン様ドメインを持つ膜蛋白質である(図2(a))。ILT7のmRNAがIPCに発現していることが報告されている(Blood 100, 3295-3303(2002))。
【0105】
A−2) RT-PCR
ILT7の血球細胞での発現をより詳細に検討した。ヒト末梢血から、セルソーターによって各細胞を分取した。分取した各細胞群からRNAを抽出し、cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型として、定法に従って定量的PCRを行ない、ILT7のmRNAの発現レベルを解析した。用いたプライマーの塩基配列、及びPCRの条件は下記である。
Forward primer: 5' CTC CAA CCC CTA CCT GCT GTC 3' (配列番号:3)
Reverse primer: 5' TTC CCA AGG CTC CAC CAC TCT 3' (配列番号:4)
94℃3分を1サイクル、
[94℃30秒、58℃30秒、72℃1分]を25サイクル、
72℃6分を1サイクル
単球、IPC、HSVで刺激したIPC、CD19陽性細胞すなわちB細胞、CD3陽性細胞すなわちT細胞、PMAで刺激したT細胞、CD56陽性細胞すなわちNK細胞について検討したところ、ILT7がIPC特異的に発現していることが示された(図1(a))
【0106】
A−3) 定量的RT-PCR
更に、その他の臓器、組織における発現をABI PRISM 7000(Applied Biosystem社)を用いた定量PCRにより検討した。cDNAパネルとして、BDTM MTC multiple tissue cDNA panel (Human I; Cat.No.636742, Human immune; Cat.No.636748, Human blood fractions; Cat.No.636750;いずれもBecton Dickinson社)、および、上記2)と同様の血球細胞由来cDNAを用いた。用いたプライマーの塩基配列を以下に示す。
ILT7用 Forward primer: 5' CCT CAA TCC AGC ACA AAA GAA GT 3’(配列番号:5)
ILT7用 Reverse primer: 5' CGG ATG AGA TTC TCC ACT GTG TAA 3'(配列番号:6)
GAPDH用 Forward primer: 5' CCA CCC ATG GCA AAT TCC 3’(配列番号:7)
GAPDH 用Reverse primer: 5' TGG GAT TTC CAT TGA TGA CAA G 3'(配列番号:8)
SYBR green PCR master mix kit(Applied Biosystem社)を用いて、同社のABI PRISM 7000によりPCRを行った。解析には同社Sequence Detection System Softwareを用いた。反応条件は次のとおりである。
ステップ1:50℃, 2分を1サイクル
ステップ2:95℃,10分を1サイクル
ステップ3:95℃,15秒、60℃,1分を40サイクル
恒常的に発現していることが知られているGAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子の発現レベルで標準化することにより、ILT7遺伝子の発現を各組織間で比較した。その結果、ILT7はリンパ組織以外の臓器には発現しておらず、IPC特異的に発現していることが確認された。
【0107】
B.ILT7及びFcRγ発現ベクターの作製
次に、ILT7蛋白質を発現させるため、遺伝子のクローニングおよび発現ベクターの作製を行った。
B−1) ILT7遺伝子のクローニング
ヒト末梢血より分離したIPCよりポリ(A)+RNAを抽出し、オリゴdTプライマー及びSuperScript Choice System for cDNA Synthesis kitを用いてcDNAを合成した。合成したcDNAにEcoRIアダプターを連結し、EcoRIで切断したpME18Sベクターと連結して、ヒトIPC cDNAライブラリーを作製した。
作製したcDNAライブラリーを鋳型として、次の塩基配列のプライマーを用いてILT7遺伝子をPCR法により増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNA polymerase(TOYOBO社)1ユニットを用い、反応条件は、94℃2分を1サイクル行なった後、[94℃15秒、55℃30秒、68℃2分]を25サイクルとした。
Forward primer: 5' CAG GGC CAG GAG GAG GAG ATG 3' (配列番号:9)
Reverse primer: 5' TCA GCA GAC ACT TCC CCA ACT 3' (配列番号:10)
増幅された約2kbのILT7cDNA断片を、1%アガロースゲルを用いた電気泳動により分離、回収し、Zero Blunt TOPO PCR Cloning kit(Invitrogen社)を用いてpCR4Blunt-TOPO plasmid vector(Invitrogen社)にクローニングした。得られた遺伝子の塩基配列を解析し、配列番号:1に示した、目的のILT7遺伝子が取得できたことを確認した。
【0108】
B−2) FLAGタグを付加したILT7発現ベクターの作製
ILT7のN末端とC末端にそれぞれFLAGタグを融合した蛋白質を発現するプラスミドを構築した。ILT7にタグを融合させておくことによって、タグの検出によって、ILT7蛋白質が発現していることを確認できる。上記1)で得られたILT7遺伝子を鋳型とし、次の塩基配列のプライマーを用いて、目的の配列をPCR法により増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNA polymerase(TOYOBO社)1ユニットを用い、反応条件としては、94℃2分を1サイクル行なった後、[94℃15秒、55℃30秒、68℃2分]を25サイクルとした。
N-FLAG ILT7用
Forward primer(配列番号:11): 5' CCG ctc gag ATG ACC CTC ATT CTC ACA AGC CTG CTC TTC TTT GGG CTG AGC CTG GGC [GAT TAC AAG GAT GAC GAC GAT AAG] CCC AGG ACC CGG GTG CAG GCA GAA 3'
Reverse primer(配列番号:12): 5' C TAG act agt TCA GAT CTG TTC CCA AGG CTC 3'
C-FLAG ILT7用
Forward primer(配列番号:13): 5' CCG ctc gag ATG ACC CTC ATT CTC ACA AGC 3'
Reverse primer(配列番号:14): 5' C TAG act agt TCA [CTT ATC GTC GTC ATC CTT GTA ATC] GAT CTG TTC CCA AGG CTC 3'
上記の塩基配列において、[]で囲んだ下線部は付加したFLAGタグをコードする塩基配列を示し、小文字は制限酵素XhoIの切断部位あるいはSpeIの部位を示す。
PCRにより増幅されたDNA断片を、XhoI及びSpeIにより切断した後、ゲル電気泳動によって分離した。約2kbのDNA断片を回収し、同様にXhoIとSpeIで切断したpME18Xベクターと連結し、目的の融合蛋白質を発現し得る2種類のプラスミド、それぞれpME18X-N-FLAG ILT7とpME18X-C-FLAG ILT7を構築した。
【0109】
B−3) FcRγ遺伝子のクローニング
ILT7蛋白質と会合しうる蛋白質として、FcRγ蛋白質が考えられた。本分子は配列番号15,16の塩基配列、アミノ酸配列を持つ遺伝子である(Genbank Acc# NM_004106、J.Biol.Chem. 265, 6448-6452(1990))。高親和性IgE受容体であるFcεRIを構成する分子(γ鎖)であって、FcεRIγとも呼ばれるが、以下FcRγと示す。なお、本分子はFcγRやFcαRの構成分子としても知られている。本遺伝子を次に示すようにPCR法によりクローニングし、発現ベクターを作製した。
上記1)で作製したヒトIPC cDNAライブラリーを鋳型として、次の塩基配列のプライマーを用いてFcRγ遺伝子をPCR法により増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNA polymerase(TOYOBO社)1ユニットを用い、反応条件は94℃2分を1サイクル行なった後、[94℃15秒、55℃30秒、68℃1分]を25サイクルとした。
Forward primer: 5' CCC AAG ATG ATT CCA GCA GTG 3' (配列番号:17)
Reverse primer: 5' GGA AGA ACC AGA AGC CAA AGA 3' (配列番号:18)
増幅された約0.3kbのFcRγcDNA断片を、2%のアガロースゲルを用いた電気泳動により分離、回収し、Zero Blunt TOPO PCR Cloning kit(Invitrogen社)を用いてpCR4Blunt-TOPO plasmid vector(Invitrogen社)にクローニングした。得られた遺伝子の塩基配列を解析し、配列番号:15に示した、目的のFcRγ遺伝子がクローニングできたことを確認した。
【0110】
B−4) Mycタグを付加したFcRγ発現ベクターの作製
FcRγ蛋白質が発現していることを確認できるように、C末端にMycタグを付加した蛋白質の発現プラスミドの構築を行なった。上記3)で得られたFcRγ遺伝子を鋳型とし、次の塩基配列のプライマーを用いて、目的の配列をPCR法により増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNA polymerase(TOYOBO社)1ユニットを用い、条件は、94℃2分を1サイクル行なった後、[94℃15秒、55℃30秒、68℃1分]を25サイクルとした。
Forward primer(配列番号:19): 5' CCG ctc gag ATG ATT CCA GCA GTG GTC TTG 3'
Reverse primer(配列番号:20): 5' CTA Gac tag tCT A[CA GAT CCT CTT CAG AGA TGA GTT TCT GCT C]CT GTG GTG GTT TCT CAT G 3'
上記のプライマー配列のうち、[]で囲んだ下線部は付加したMycタグをコードする塩基配列を示し、小文字は制限酵素XhoIの切断部位あるいはSpeIの部位を示す。
PCRにより増幅されたDNA断片を、XhoI及びSpeIにより切断した後、ゲル電気泳動によって分離した。約0.3kbのDNA断片を回収し、同様にXhoIとSpeIで切断したpME18Xベクターと連結し、目的の融合蛋白質を発現し得るプラスミドpME18X-Myc-FcRγを構築した。
【0111】
C.ILT7の動物細胞での発現
上記で作製した発現ベクターを用いて、動物細胞でのILT7の発現を検討した。
C−1)293T細胞での発現
7x105個の293T細胞に、下記の5種類の組み合わせのDNAをeffectene tansfection kit(Qiagen社)を用いて導入し、2日後にフローサイトメトリー解析(FCM解析)をおこなった。
(1)pME18X-N-FLAG ILT7 2μg
(2)pME18X-C-FLAG ILT7 2μg
(3)pME18X-N-FLAG ILT7 1μg + pME18X-Myc-FcRγ 1μg
(4)pME18X-C-FLAG ILT7 1μg + pME18X-Myc-FcRγ 1μg
(5)pME18X-Myc-FcRγ 2μg
FCM解析の方法は下記の実施例2のA−4)と同様である。反応にはCy3 conjugated anti-Flag抗体(Sigma社)を用い、解析にはFACScan(Becton Dickinson社)を用いた。その結果、ILT7は単独ではわずかしか細胞表面に発現しないが、FcRγと共存する時に細胞外に強く発現することが明らかとなった(図3)。なお、マウスFcRγとヒトFcRγは相同性が高いことが知られているが、マウスFcRγを内在的に発現するP815細胞(mouse mastocytoma)を宿主とした場合には、ILT7の発現は確認できなかった。
【0112】
C−2)免疫沈降及びウエスタン法による解析
細胞表面において、ILT7がFcRγを伴って発現していることを次のようにして確認した。両遺伝子を前記の(1)-(5)のそれぞれの組み合わせで共発現させた293T細胞について、免疫沈降後に、各種抗体により解析した。
上記1)と同様に、7x105個の293T細胞にDNAを導入し、2日後に293T細胞を回収した。細胞分画を0.5% Triton, 150mM NaClのlysis bufferに溶解し、氷上にて20分静置した後、27Gの針で数回吸引を繰り返し15Krpmにて20分遠心した。このうち200μgのライセ−トに、抗myc抗体(サンタクルーズ社、2μg)あるいは抗Flag抗体(シグマ社、2μg)を加えて4℃で4時間、回転させて攪拌した。その後、ProteinA/G Sepharose 4 Fast Flow mix(アマシャムバイオサイエンス社)を添加し、4℃で更に1時間、回転による攪拌を行った。その後 下記組成のlysis bufferで、沈殿分画を3回洗浄した。
lysis buffer:
0.5 % TritonX-100,
50mM HEPES(pH7.6),
150mM NaCl,
1mM EDTA,
10% glycerol,
1mM DTT,
2mM PMSF,
1μg/ml Aprotinin,
1μg/ml Leupeptin,
1μg/ml Pepstatin A,
0.1μg/ml Chymostatin,
1mM Na3VO4,
0.1mM β-glycerophosphate
【0113】
洗浄後の沈殿にSDS-PAGE用のサンプルバッファーを添加して、5分間煮沸し、遠心してから10% SDSゲルで電気泳動をおこなった。定法にしたがって、泳動後のゲルから試料をPVDF膜(イモビロン-pトランスファーメンブレン:ミリポア社)にトランスファーし、抗Flag抗体、および抗myc抗体にてブロットを行なった。それぞれの免疫沈降物の中に存在が確認されたことから、293T細胞において、ILT7とFcRγは会合して存在することが確認された(図4)。
【0114】
C−3)糖鎖についての解析
上記のウエスタン解析において、ILT7の数本のバンドが確認されたことから、ILT7に糖鎖の付加が加わっている可能性について検討した。上記1)2)に従い、N-FLAG ILT7とMyc-FcRγを発現する293T細胞のライセ−ト 200μgを抗Flag抗体で免疫沈降した後、沈殿画分を、下記組成のN-グリコシダーゼバッファー60μLに懸濁し、30μLずつ2つのチューブに分注した。
N-グリコシダーゼバッファー:
10mM EDTA,
0,2% SDS,
0.5% TritonX100,
1% 2-メルカプトエタノール in PBS(りん酸緩衝液)
【0115】
その後、一方には3μLのN-グリコシダーゼ(Roche社# 1365177)3unitsを添加し、37℃で15時間反応させた。更に、7μLのサンプルバッファーを添加し、100℃で5分加熱し、10%のSDSゲルにて電気泳動をおこなった。泳動後ゲルをPVDF膜にトランスファーし、4)の抗ILT7ポリクローナル抗体1μgを添加し、4℃で一晩反応させ、TBS-Tバッファーで洗浄した後、10万倍希釈したHRP標識抗ウサギ抗体(ジャクソン社)を室温で反応させ、その後ECL Western Blotting Detection System(アマシャムバイオサイエンス社)にて発色させた。その結果、N-グリコシダーゼ処理を行なうことによって、見かけの分子量が低下したことから、ILT7には糖鎖が付加されてることが予想された(図5)。
【0116】
C−4)抗ILT7ポリクローナル抗体の作製
3)で用いた抗ILT7ポリクローナル抗体は次のように作製した。ILT7のC末端に相当する23アミノ酸のペプチド(CSQEANSRKDNAPFRVVEPWEQI;配列番号:21)を化学的に合成し、キャリアであるKLH蛋白質と結合させて免疫原とした。Freund 完全アジュバントと混合した免疫原をウサギ皮内に免疫した。週一回合計6回免疫した後、血清中の抗体価が上昇していることを確認して、全採血を行った。その後、血清の一部を同じ配列のペプチドカラムを用いてアフィニティー精製し、抗ILT7ポリクローナル抗体とした。
【0117】
実施例2
A.抗ILT7モノクローナル抗体の作製
A−1) 免疫原の作製
免疫原とする細胞は、以下のように293T細胞に遺伝子を導入して調製した。100mm / Collagen Coated Dish(IWAKI)の底面全体にいきわたらせたopti-MEM(GIBCO) 3mLに46.4μg(pME18X-C-FLAG ILT723.2μgとpME18X-Myc-FcRγ23.2μg)の導入遺伝子を添加し混合した。次に、導入遺伝子溶液とは別に、3mLのopti-MEMで58μLのLipofectamineTM2000(Invitrogen)を希釈し、室温で5分間静置してリポフェクトアミン溶液を調製した。その後、導入遺伝子溶液が入っているディッシュに、リポフェクトアミン溶液を静かに添加し混合した。室温で20分間静置した後、10%FBS(牛胎児血清)を含む DMEM培地(SIGMA)で1×106cells/mLに希釈した293T細胞 10mLをディッシュへ静かに添加した。37℃ CO2インキュベーターで48時間静置培養後、ピペッティングにより細胞を回収し、免疫原用トランスフェクタントとした。
【0118】
A−2) ハイブリドーマの作製
細胞を免疫する前日に、PBS200μLとアジュバント200μL(complete adjuvant (FREUND) 三菱化学ヤトロン RM606-1)を混合しエマルジョンにしたものを、Balb/cマウス雌(4週齢)4匹の両足の裏に各50μLずつ免疫した。翌日、細胞2×107個をPBS 400μLでサスペンドしたものを50μLずつ免疫した。3日おきに2回目、3回目の免疫を行い、3回目の免疫の3日後に、次のように細胞融合を行なった。
免疫したマウスの両足リンパ節より細胞を採取し、10%FBSを含むRPMI1640培地(SIGMA)で培養したマウスミエローマ細胞P3-X63-Ag8-U1と、リンパ節由来細胞とミエローマの比が2:1〜10:1になるように混和して、遠心分離により細胞を回収した。得られた細胞画分に、RPMI1640培地により等量希釈したPEG4000(MERCK)を加えて、細胞融合を行なった。細胞を洗浄した後、supplementを含む15%FBS-HAT培地160mLで懸濁し、96穴プレート16枚に、200μL/Wellで播種した。3日後に培地を交換し、コロニー形成が確認された1〜2週間後に、1次スクリーニングを行なった。
【0119】
A−3) Cell ELISA法によるハイブリドーマのスクリーニング
次のようなCell ELISAにより、目的の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングした。上記1)で作製した細胞を96穴プレート1枚あたり1×107個使用し、0.5%BSA/2mM EDTA/PBSに懸濁して、Cell ELISA用プレート(NUNC 249570 96V NW PS)に100μL/wellで分注した。2000rpmで2分間、4℃で遠心分離後、上清を捨て、サンプリングした培養上清を50μL/wellで添加し、室温にて30分間反応させた。0.5%BSA/2mM・EDTA/PBSを各ウェルに添加して2000rpmで2分間、4℃で遠心分離した後、上清を捨てる洗浄操作を2回行なった。洗浄後のウエルに、10000倍希釈したペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(MBL;Code330)を50μL/wellで添加し、30分間反応させた。0.5%BSA/2mM・EDTA/PBSを用いた洗浄操作を3回行なった後、発色溶液を添加して、OD 450nm-620nmを測定して、陽性反応を示すウェルを選択した。
【0120】
A−4)フローサイトメトリー(FCM)解析による抗体の反応性の検討
フローサイトメトリー(FCM)解析により、ハイブリドーマ培養上清の解析を行った。上記1)で作製した細胞を0.5%BSA/2mM EDTA/PBSに懸濁して、1サンプルあたり1×105個として遠心チューブに回収した後、培養上清各40μL を添加して、室温にて30分間反応させた。0.5%BSA/2mM・EDTA/PBSを1mlずつ各チューブに添加して1200rpmで3分間、4℃で遠心分離した後に上清を捨てる、という洗浄操作を2回行なった。洗浄後のウエルに、100倍希釈したFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Beckman coulter;IM0819)を40μLずつ添加し、室温で30分間反応させた。0.5%BSA/2mM・EDTA/PBSを用いた洗浄操作を2回行なった後、フローサイトメーターFC500(Beckman coulter)を用いて解析した。宿主細胞のみには反応せず、遺伝子を導入した細胞に特異的に反応する抗体を産生するハイブリドーマを選択した。選択したハイブリドーマを、限界希釈法によりクローニングし、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ#11および#17を取得した。
【0121】
B.抗ILT7抗体の反応性の検討
実施例1のC−1)と同様にN末端にFLAGタグを付加したILT7分子をFcRγ分子と共に293T細胞に共発現させ、実施例2で取得した抗体の反応性をFACScan(Becton Dickinson)を用いたFCM解析により、確認した。その結果、Aで得られたハイブリドーマ#11および#17が産生する抗体は、いずれも、ILT7遺伝子を導入しILT7を発現する細胞に反応することが確認された(図6(b))。
更に、ヒトの末梢血よりフィコールを用いてリンパ球を分離し、作製した抗ILT7抗体及び、PE標識抗BDCA-2抗体(Miltenyi)による二重染色を行なって、そのリンパ球への反応性を検討した。その結果、ハイブリドーマ#11および#17が産生したモノクローナル抗体の、BDCA-2陽性細胞に対する結合が検出された。すなわち、両モノクローナル抗体が、ヒトIPC上に発現するILT7分子を認識していることが確認された(図6(a))。これらのモノクローナル抗体を、それぞれ抗ILT7抗体#11、抗ILT7抗体#17と命名し、更に詳細な解析を行った。
【0122】
作製した抗ILT7抗体と抗Lineage-1抗体 (Becton Dickinson; 抗CD3、CD14、CD16、CD19、CD56抗体)、抗CD123抗体(Becton Dickinson)、抗BDCA-2抗体(Miltenyi)、を用いて、ヒト末梢血リンパ球の多重染色解析を行なった。ILT7抗体陽性分画は、Lineage Markerは陰性であり、CD123は陽性、BDCA-2は陽性であったことから、ILT7#11とILT7#17はIPCのみを染色することが確認された(図7)。
【0123】
また、ヒト末梢血リンパ球をCpGやIFN-αで24時間刺激した際の各種分子の発現をFCM解析により検討した。IPCからのIFNの産生を誘導するCpGAとしてCpGODN2216を、一方樹状細胞の成熟を促進するCpGBとしてCpGODN2006を用いた(Moseman et al. J.Immunology. 173, 4433-4442, 2004)。Lineage Marker陰性分画にゲートを設定して、CD123陽性細胞群への抗BDCA-2抗体、抗ILT7抗体の反応性を解析したところ、ILT7陽性分画はCpG刺激後24時間後ではほとんど消失した。一方、BDCA-2はCpG刺激24時間後でも一部の細胞が陽性を示した(図8)。IPCはCpG刺激後、直ちに別の細胞へ分化していくと考えられており、本発明の抗ILT7抗体はIPCのstage specificな抗体として有用であることが示された。更に、末梢血リンパ球中のIPCは、IFN-α存在下では分化せず、生存率が高いが、この際にもILT7の発現はIPC上に保たれており、血清中のIFNが高い状態にあることが考えられる自己免疫疾患等で、ILT7は安定してIPC上に存在していることが確認された。
【0124】
C.抗ILT7抗体の特異性の検討
ILT7はILT/LIRファミリーに属し、相同性の高い分子が複数存在し、特に細胞外領域の相同性は高い(図9)。中でも、IPCにはILT2、ILT3等の分子のmRNAが発現していることが報告されている(Ju et al. Gene 331, 159-164,2004)。従ってこれらの分子との反応性を、遺伝子導入細胞を用いて確認した。
C−1) ILT1分子のクローニングと発現ベクターの作製
ヒト扁桃腺由来RNAより、オリゴdTプライマー及びSuperScript Choice System for cDNA Synthesis kitを用いてcDNAを合成した。次に、NotIアダプターを連結し、NotIで切断したpME18Sベクターと連結して、ヒト扁桃腺 cDNAライブラリーを作製した。
【0125】
作製したcDNAライブラリーを鋳型として、次の塩基配列のプライマーを用いてC末端にFLAGタグを付加したILT1遺伝子をPCR法により増幅した。PCR反応にはKOD Plus DNA polymerase(TOYOBO社)1ユニットを用い、反応条件としては94℃2分を1サイクル行なった後、[94℃15秒、55℃30秒、68℃2分]を25サイクルとした。
Forward primer(配列番号:22): 5' CCG ctc gag ATG ACC CCC ATC CTC ACG GTC C 3'
Reverse primer(配列番号:23): 5' CTA Gac tag tTC A[CT TAT CGT CGT CAT CCT TGT AAT C]CC TCC CGG CTG CAT CTT G 3'
上記のプライマー配列のうち、[]で囲んだ下線部は付加したFLAGタグをコードする塩基配列を示し、小文字は制限酵素XhoIの切断部位あるいはSpeIの部位を示す。
PCRにより増幅されたDNA断片を、XhoI及びSpeIにより切断した後、ゲル電気泳動によって分離した。約2kbのDNA断片を回収し、同様にXhoIとSpeIで切断したpME18Xベクターと連結し、目的の融合蛋白質を発現し得るプラスミド、pME18X-C-FLAG ILT1を構築した。その塩基配列およびアミノ酸配列を配列番号:24、25に示す。
【0126】
C−2)発現細胞の作製と抗体の反応性の検討
ILT2(配列番号:26)およびILT3(配列番号:28)については、それぞれの遺伝子がpcDNA4.1(Invitrogen社)のXbaI、XhoI部位にクローニングされた発現ベクターを用いた。実施例1のC−1)と同様に、7x105個の293T細胞に、次の組み合わせのDNAを導入し、2日後にFCM解析をおこない、抗ILT7抗体の解析を行った。
(1)pME18X-N-FLAG ILT7 1μg + pME18X-Myc-FcRγ 1μg
(2)pME18X-C-FLAG ILT1 0.5μg + pME18X-Myc-FcRγ 0.5μg +
pcDNA4.1-ILT2 0.5μg + pcDNA4.1-ILT3 0.5μg
その結果、ILT1等が発現している細胞には抗体が反応しなかったことから、これらの抗ILT7抗体はIPC上のILT7分子を特異的に認識することが示唆された(図10)。
【0127】
実施例3
抗ILT7抗体のヒトIFN産生能への影響
ヒト末梢血リンパ球を2x105細胞/ウェルで96ウェルプレートに播種し、5μg/mLの各種抗体を37℃で反応させた。1時間培養後にインフルエンザウイルスPR8を添加し、24時間培養後に、培養上清中のIFNαをELISA kit(Bender Med System)により測定した。その結果、抗ILT7抗体の添加によって、IFNの産生は抑制された(図11)。すなわち、本発明の抗ILT7抗体は、IPCのIFN産生活性に影響を与えることが明らかとなった。
【0128】
実施例4
抗ILT7抗体のCDC活性
A.抗ILT7モノクローナル抗体の作製
実施例2のA−1)〜A−4)と同様にして、モノクローナル抗体を産生するクローンを取得し、実施例2のBと同様にして反応性を、Cと同様にして特異性を検討した。その結果、反応性、特異性がともに良好な抗ILT7モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ#37、#28、#33が得られた。この3種のハイブリドーマが産生した抗ILT7モノクローナル抗体を用いて、以下の通りCDC活性の測定を行った。
【0129】
B.CDC活性の測定
B−1)ターゲット細胞株(ILT7-CHO細胞株)の作製
前日に、6cmφディッシュ1枚あたり6×105個になるように播種しておいたCHO-k1細胞に、次のDNAをEffectene Transfection Reagent (QIAGEN社)を用いて導入し、800μg/ml Zeocin (invitrogen社)で耐性株を選択した。
導入したDNA : pcDNA3.1-C-FLAG ILT7 1μg + pME18X-Myc FcRγ 2μg
その後さらにセルソーター(BD FACSAria(Becton Dickinson社))を用い、ILT7を高発現している細胞株を得た。選択した細胞株はFCM解析によってILT7を高発現している事を確認した。FCMにBD FACSCaliber (BD社)を用いる以外は、FCM解析の操作は実施例2のA−4)に従った。一次抗体と二次抗体には、それぞれ次の抗体を用いた。
一次抗体:5μg/ml mouse anti-ILT7 antibody (#37)、
二次抗体:R-Phycoerythrin (R-PE)-conjugated goat anti-mouse immunoglobulin specific polyclonal antibody (BD社)
【0130】
B−2)ターゲット細胞と抗ILT7抗体との反応
B−1)で得られたターゲット細胞(ILT7-CHO細胞)を5mM EDTA/PBS溶液を用いて回収し、下記組成のCDCメディウムで4×105個/mlになるように懸濁した。その懸濁液をV底96穴プレートに、1ウェル当たり50μlずつ分注した。
CDCメディウム:
RPMI1640
0.1% BSA
100units/ml Penicillin
100μg/ml Streptomycin
10mM Hepes(pH7.6)
2mM L-Glutamin
ここに、抗体の最終濃度が0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、5μg/mlになるよう、CDC メディウムで調整した50μlの抗ILT7抗体溶液を加え混合した。さらに、最終補体濃度が6%になるように50μlの下記組成の補体含有CDCメディウムを加え混合した後、37℃で2時間培養した。
補体含有CDCメディウム:
1ml幼令ウサギ補体(CEDARLANE社製、カタログ番号:CL3441)
CDCメディウム(上記参照)
その後、懸濁液を遠心分離(遠心条件:250G、4分間)し、細胞の混入がないように留意しつつ上清を回収した。この上清中のLDHを定法により測定し、「補体活性によってターゲット細胞から漏出したLDH量(Experimental Sample)」とした。
【0131】
CDC活性を求める為に、以下のパラメーターも準備した。
・ターゲット細胞から自然に放出されるLDH量(Target Cell Spontaneous LDH Release):ターゲット細胞のみを試料と同じ容量で培養し、調製した。
・ターゲット細胞が最大に放出した場合のLDH量(Target Cell Maximum LDH Release):ターゲット細胞のみを試料と同じ容量で培養し、上清回収60分前に、最終濃度が0.8%になるようにキット付属のTritonX-100溶液を添加して調製した。
・液量補正用コントロール(Volume Correction Control):ターゲット細胞が最大に放出した場合のLDH量を調製した際に添加したTritonX-100と同じ量を、試料と同じ容量の培養液に加えて調製した。
・培養液のバックグラウンドコントロール(Culture Medium Background):試料と同じ容量の培養液と、培養液に補体含有CDC mediumを加えて試料と同じ容量にした溶液を調製した。
【0132】
Target MaximumとTarget Spontaneousの吸光度からは、試料と同じ容量の培養液を差し引き、Experimental Sampleの吸光度からは、培養液に補体含有CDC mediumを加えて試料と同じ容量にした溶液を差し引いて補正をした。
CDC活性は、下式により算出した。結果を、表1および図12に示す。いずれのハイブリドーマから得られた抗ILT7モノクローナル抗体を用いた場合でも、抗体濃度0.5μg/ml以上において、80%以上のCDC活性を示した。

【0133】
【表1】

【0134】
比較例1
抗ILT7抗体の代わりにmouseIgG2aを使用する以外は、実施例4のBおよびCと全く同じ操作を行った。結果を、実施例4とともに表5および図12に示す。抗ILT7モノクローナル抗体以外の抗体では、ターゲット細胞に対するCDC活性は認められなかった。
【0135】
実施例5
ターゲット細胞に対する抗ILT7抗体のインターナリゼーション
A.抗ILT7モノクローナル抗体
抗ILT7モノクローナル抗体は、以下のものを用いた。
抗ILT7モノクローナル抗体:#17、#26、#37、#28、#33
【0136】
B.インターナリゼーションの観察
B−1)ターゲット細胞株(ILT7-CHO細胞株)の作製
実施例4のB−1)と同様にしてターゲット細胞株(ILT7-CHO細胞株)を作製した。
【0137】
B−2)ターゲット細胞と抗ILT7抗体との反応
5mM EDTA/PBS溶液を用いて回収したILT7-CHO細胞を、氷冷した下記組成のT(-)+10% FBS バッファーで、1×106にCells/mLに懸濁した。
T(-) メディウム:
RPMI1640
100units/ml Penicillin
100μg/ml Streptomycin
10mM Hepes(pH7.6)
2mM L-Glutamin
1mM sodium pyruvate
50μM 2-mercaptoethanol
10% heat inactivated Fetal Bobine Serum
上記懸濁液の1mLを、15mL容遠心チューブにとり、遠心分離(遠心条件:1200rpm、4℃、5分間)して上清を廃棄した。細胞ペレットに200μLの抗ILT7モノクローナル抗体懸濁液(10μg/mL)を入れて混合し、4℃、30分間インキュベートした後、氷冷T(-)メディウムで2回洗浄した(メディウム使用量:10mL/回、遠心条件:1200rpm、4℃、5分間)。
【0138】
B−3)ターゲット細胞の表面に存在するILT7−抗ILT7抗体免疫複合体の修飾
次に、上記細胞の表面に存在しているILT7−抗ILT7抗体免疫複合体を、二次抗体で修飾し、蛍光により検出できるようにした。具体的方法は以下の通りとした。B−2)で得た細胞ペレットに、APC標識ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(BD Biosciences社、カタログ番号:550826) 含有氷冷T(-)メディウムを加え、4℃で20分遮光インキュベートした後、氷冷T(-) メディウムで2回洗浄した(メディウム使用量:10mL/回、遠心条件:1200rpm、4℃、5分間)。これに氷冷T(-) メディウムを加え、1×106Cells/mLの懸濁液とした。
【0139】
B−4)37℃インキュベーションによるインターナリゼーションの誘導
B−3)で得た懸濁液を二分してそれぞれ、チューブ(a)、チューブ(b)とした。チューブ(a)は37℃で、チューブ(b)は4℃で、それぞれ遮光条件下60分間インキュベートした後、インターナリゼーションを停止させる為に氷令1%FBS/PBSを加えた。これを遠心分離(遠心条件:1200rpm、4℃、5分間)して上清を捨て、氷令1%FBS/PBSにて2回洗浄した(液量:10mL/回、遠心条件:1200rpm、4℃、5分間)。
【0140】
B−5)インキュベート後のターゲット細胞表面に残存するILT7-抗ILT7抗体免疫複合体の修飾
インキュベート後の細胞表面上に残存しているILT7-抗ILT7抗体免疫複合体を蛍光により検出するため、三次抗体修飾した。具体的方法は以下の通りとした。B−4)で得られた細胞ペレットに、三次抗体懸濁液(FITC標識ロバ抗ヤギIgG抗体(Santa Cruz社製、カタログ番号:sc-2024)を20μLずつ加えて混合し、4℃、遮光条件下で15分間静置した。これを、1%FBS/PBSで2回洗浄した(液量:10mL/回、遠心条件:1200rpm、4℃、5分間)。
【0141】
B−6)ターゲット細胞に存在する抗ILT7抗体の解析
次に、B−5)で得られた細胞ペレットに150μLの1%FBS/PBSを加えて懸濁し、1.2ml容マイクロタイターチューブに回収してFCM解析した。解析にあたっては、各細胞の平均蛍光強度(MPI)をFITCおよび、APCに分けて解析した。さらに、蛍光強度比(%)を、下式により算出した。

結果を、表2、表3および図13に示す。
【0142】
【表2】

【0143】
【表3】

【0144】
FITCの蛍光強度は、インキュベーション後に細胞表面上に残存するILT7-抗ILT7抗体免疫複合体量の指標である。37℃、60分間のインキュベーションを行った細胞では、4℃でインキュベートした細胞に比較して、FITCの平均蛍光強度が約50%に低下した。
一方、APCの蛍光強度は、インキュベーション前に細胞表面に存在していたILT7-抗ILT7抗体免疫複合体量の指標であり、インキュベーション後に、ILT7-抗ILT7抗体免疫複合体が、細胞表面にあるか細胞内にとりこまれているかに関わらず検出されるものである。実施例5では、37℃でも4℃でも、インキュベート後のAPC蛍光強度は同等だった。これは、いずれの温度でインキュベートしても、ILT7-抗ILT7抗体免疫複合体が、ターゲット細胞のいずれかの部位には存在することを示す。以上より、37℃のインキュベーションにより、抗ILT7モノクローナル抗体がILT7のインターナリゼーションを誘起することがわかった。
【0145】
比較例2
抗ILT7抗体の代わりにマウスIgG2aを使用する以外は、実施例5と全く同じ操作を行った。結果を、実施例5とともに表2、表3および図13に示す。マウスIgG2aを使用した場合は、37℃、でも、4℃でも、FITC、APCともに蛍光強度の変化は認められず、マウスIgG2a はILT7のインターナリゼーションを誘起しないことがわかった。
【0146】
実施例6
マウス抗ヒトILT7モノクローナル抗体の構造について
[可変領域の配列]
A.マウス抗ILT7抗体の可変領域をコードするcDNAのクローニング
A−1) マウス抗ILT7抗体を産生するハイブリドーマについて
マウス抗ILT7抗体を産生するハイブリドーマとしては、下記のものを使用した。
・ ハイブリドーマ #11 (受託番号:FERM BP-10704)
・ ハイブリドーマ #17 (受託番号:FERM BP-10705)
【0147】
A−2) total RNAの単離
市販のキット「RNeasy Mini Kit」(Qiagen社、カタログ番号:74106)を用いてキット添付の指示書に従い、上記A−1)に示すハイブリドーマからtotal RNAを単離した。いずれも、1×107個のハイブリドーマから、約200μgのtotal RNAが得られた。
【0148】
A−3) マウス重鎖可変領域をコードするcDNAの増幅および断片化
A−2)で単離したtotal RNAのうち5μgを使用し、5'RACE法によって、マウス重鎖可変領域をコードするcDNAを増幅した。増幅にあたっては、市販キット「5'RACE System for Rapid Amplification of cDNA ENDs, Version 2.0Kit」(インビトロジェン社、カタログ番号:18374-058)を用いた。詳細は以下の通りである。まず、A−2)で得られたtotal RNAから逆転写酵素によって、第1鎖cDNAを合成した。このとき用いたアンチセンスプライマー(GSP1)の塩基配列は表4に示すとおりである。
【0149】
【表4】

【0150】
次に、RNaseHでtotal RNA を分解し、1本鎖となって残った第1鎖cDNAを、1.5%低融点アガロース法によって精製した。さらに、第1鎖cDNAの3'-末端に、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を用いて、ヌクレオチドホモポリマーであるdCを付加した。そして、dC(アンカー配列)に相補的なヌクレオチドポリマーを3'末端に有しているアンカープライマー(配列番号:34)と、表4に示すアンチセンスプライマー(GSP2)を用いて、PCR法によってcDNAを増幅した。更に、得られたPCR産物をテンプレートとし、AUAPプライマー(配列番号:35)と表4に示すアンチセンスプライマー(GSP2)を用いて、Nested PCR法によりcDNAを増幅した。更に、このPCR産物を1.5%低融点アガロース法によって精製した。
5'RACE用アンカープライマー(配列番号:34)
5'-GGC CAC GCG TCG ACT AGT ACG GGI IGG GII GGG IIG-3' (36-mer)
5'RACE用AUAPプライマー(配列番号:35)
5'-GGC CAC GCG TCG ACT AGT AC-3' (20-mer)
【0151】
A−4) マウス軽鎖可変領域をコードするcDNAの増幅および断片化
A−2)で単離したtotal RNA から、A−3)と同様にして、マウス軽鎖可変領域をコードするcDNAを増幅した。このとき用いたプライマーの塩基配列は、表5に示すとおりである。得られたPCR産物を1.5%低融点アガロース法によって精製した。
【0152】
【表5】

【0153】
A−5) cDNAの塩基配列の確認とCDR領域の決定
A−3)で得られた重鎖可変領域、およびA−4)で得られた軽鎖可変領域のcDNA断片を、それぞれ、市販キット「Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit」(インビトロジェン社、カタログ番号:1325137)を用い、キット添付の指示書に従ってpCR4Blunt-TOPO ベクターにクローニングし、大腸菌コンピテント細胞に導入して大腸菌形質転換体を得た。この形質転換体から上記プラスミドを得て、プラスミド中のcDNA塩基配列を自動DNAシークエンサー「PCR-based ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer」(Applied Biosystems社)を用いて確認した。相補性決定領域(以下、「CDR領域」と記す)周辺に、フレームシフト、ナンセンス変異等を生じているために不活性RNAとなったものの転写物は除外し、正しい配列のものを抽出した。さらに、当該プラスミド中に含まれるcDNA塩基配列について、カバットデータベースと相同性を確認して、各々の可変領域内のCDR領域と可変領域の配列を決定した。
実施例4で作製したハイブリドーマ#37についても、ハイブリドーマ#17を用いた実施例6のA−1)〜A−5)と同様の手順で、可変領域内のCDR領域と可変領域の配列を決定した。
それぞれのハイブリドーマが産生する抗ILT7モノクローナル抗体の重鎖可変領域、および軽鎖可変領域のcDNA塩基配列と当該配列によってコードされるアミノ酸配列を次の配列番号に示す。
重鎖可変領域 軽鎖可変領域
#11 配列番号:38(塩基配列) 配列番号:40(塩基配列)
配列番号:39(アミノ酸配列) 配列番号:41(アミノ酸配列)
#17 配列番号:42(塩基配列) 配列番号:44(塩基配列)
配列番号:43(アミノ酸配列) 配列番号:45(アミノ酸配列)
#37 配列番号:46(塩基配列) 配列番号:48(塩基配列)
配列番号:47(アミノ酸配列) 配列番号:49(アミノ酸配列)
【0154】
[定常領域のアイソタイプ確認]
ハイブリドーマ培養上清について、市販のmouse monoclonal antibody isotypingキット(Serotec Product社、カタログ番号:MMT1)を用い、産生されたモノクローナル抗体の定常領域のアイソタイプを確認した。マウス抗ヒトILT7抗体#11の重鎖定常領域はIgγ3であり、軽鎖定常領域はIgκであった。また、マウス抗ヒトILT7抗体#17およびマウス抗ヒトILT7抗体#37の重鎖定常領域はIgγ2aであり、軽鎖定常領域はIgκであった。
【0155】
実施例7
キメラ抗体の作製
A.ヒトIgG定常領域をコードするcDNAのクローニング
ヒトIPCのcDNAライブラリーから、ヒトIgG1重鎖定常領域とヒトIg kappa軽鎖定常領域を選択し、それぞれ、市販キット「Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit」(インビトロジェン社、カタログ番号:1325137)を用い、キット添付の指示書に従ってpCR4Blunt-TOPO ベクターにクローニングし、大腸菌コンピテント細胞に導入して大腸菌形質転換体を得た。この形質転換体から上記プラスミドを得て、プラスミド中のcDNA塩基配列を自動DNAシークエンサー「PCR-based ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer」(Applied Biosystems社)を用いて確認した。
【0156】
B.可変領域と定常領域の連結とクローニング
重鎖定常領域をコードするcDNAは、Aで得られたものを、また重鎖可変領域をコードするcDNAは、実施例6のA−5)で得られたものをそれぞれ用いた。両者は、DNAの塩基配列がオーバーラップする領域を持つ。そこで、この領域を用い、オーバーラップ伸長法によって二本鎖DNAを得た。詳細な方法は下記の通りである。
【0157】
C−1)キメラILT7抗体の重鎖をコードするcDNAの調製
A−5)で得られた、「#11と#17の重鎖可変領域をコードするcDNAを有するプラスミド」を制限酵素NotIおよびXbaIで消化し、1.5%アガロースゲル法で精製した。これを、各100pmol/μLとなるように、下記組成のTEバッファーで溶解し、重鎖可変領域をコードするcDNA断片の溶液とした。
TEバッファー:
10mM Tris-HCl
1mM EDTA
pH7.5〜8.0
また、Bで得られた「重鎖定常領域をコードするcDNAを有するプラスミド」も同様に処理し、100pmol/μLの溶液とした。次に、両者を混合し、まず70℃で10分、その後37℃で5分保持することによって、両者のオーバーラップ領域をハイブリダイズさせた。その後、PCR法によってcDNAを増幅後、得られたcDNAを、制限酵素NotIおよびXbaIで処理した後、1.5%低融点アガロース法によって精製した。
【0158】
C−2)キメラILT7抗体の軽鎖をコードするcDNAの調製
軽鎖定常領域をコードするcDNAは、Aで得られたものを、また軽鎖可変領域をコードするcDNAは、実施例6のA−5)で得られたものをそれぞれ用いた。これらのcDNAを用いて、C−1)と同様にし、キメラILT7抗体の軽鎖をコードするcDNAを得た。
【0159】
C−3)クローニング
C−1)で得られたcDNAを、NotIとXbaIをクローニングサイトとして、プラスミドベクターpcDNA3.1-ゼオシン(インビトロジェン社)にクローニングし、キメラILT7抗体重鎖発現ベクターとした。また、C−2)で得られたcDNAを、NotIとXbaIをクローニングサイトとして、プラスミドベクターpcDNA3.1-ハイグロマイシン(インビトロジェン社)にクローニングし、キメラILT7抗体軽鎖発現ベクターとした。各ベクターの名称を表6に示す。
【0160】
【表6】

【0161】
D.キメラILT7抗体の発現
D−1)一過性形質転換
C−3)で得られた、キメラILT7抗体重鎖発現ベクター1μgとキメラILT7抗体軽鎖発現ベクター1μgを、effectine transfection kit (Qiagen社、カタログ番号:301427)を用いて293T細胞にコトランスフェクションした。その後、下記組成の2% Low IgG FBS添加DMEM培地を用い、37℃で培養した。
2% Low IgG FBS添加DMEM培地:
DMEM培地(Sigma社、カタログ番号:D5796)
2% Low IgG FBS (HyClone社、カタログ番号:SH30151.03)
2mM L−グルタミン
100 U/ml ペニシリン
100 μg/ml ストレプトマイシン
pH 7.2-pH 7.4
ベクター導入後96時間培養し、培養上清を集めて遠心分離により細胞破片を除去し、粗抗体液とした。
【0162】
D−2)恒常性形質転換
C−3)で得られた、キメラILT7抗体重鎖発現ベクター1μgとキメラILT7抗体軽鎖発現ベクター1μgを、effectine transfection kit (Qiagen社、カタログ番号:301427)を用いてYB 2/0細胞(ラットミエローマ由来の細胞、ATCC#CRL-1622)にコトランスフェクションした。用いたプラスミドベクターのうち、重鎖発現用はゼオシン耐性を、軽鎖発現用はハイグロマイシン耐性をマーカーとしている。したがって、両ベクターが導入された細胞は、ゼオシンとハイグロマイシンを同時に添加した培地で生育できることになる。そこで、ゼオシン-ハイグロマイシン添加RPMI培地で培養し、耐性株の選択を行った。
ゼオシン-ハイグロマイシン添加RPMI培地:
RPMI1640培地 (Sigma社、カタログ番号:R8758)
10% FBS
0.01M HEPES (N-2-hydroxyethylpiperazine-N'-2-ethanesulfonic acid)
1mM ピルビン酸ナトリウム
2mM L−グルタミン
100 U/ml ペニシリン
100 μg/ml ストレプトマイシン
55μM 2−メルカプトエタノール
0.5mg/ml ゼオシン
0.5mg/ml ハイグロマイシン
pH 7.2-pH 7.4
3日後、培養上清中の抗体産生量をELISA法にて測定した。発現量が高く、かつ細胞が十分に増えていたILT7キメラ抗体産生株を選択し、さらにセルソーター法によりシングルクローン化して、下記の株を得た。
#11 ILT7キメラ抗体 産生株:#11-5株 および #11-16株
#17 ILT7キメラ抗体 産生株:#17-24株
上記の株(#11-5株、#11-16株、#17-24株)を、それぞれ下記組成の5% FBS添加RPMI培地で培養した。培養温度は37℃、培養時間は96時間とした。
5% FBS添加RPMI培地:
RPMI1640培地 (Sigma社、カタログ番号:R8758)
5% FBS
0.01M HEPES
1mM ピルビン酸ナトリウム
2mM L−グルタミン
100 U/ml ペニシリン
100 μg/ml ストレプトマイシン
55μM 2−メルカプトエタノール
pH 7.2-pH 7.4
培養上清を集めて遠心分離により細胞破片を除去し、粗抗体液とした。
【0163】
E.抗体の精製
D−1)およびD−2)で得られた粗抗体液を、それぞれプロテイン Aアフィニティーカラム(rProtein A Sepharose FF, Amershram Pharmacia社、カタログ番号:17-1279-01)で精製した。精製条件は以下の通りである。付属の説明書に従い吸着バッファーとして下記組成のPBS(-)バッファー、溶出バッファーとして0.1Mクエン酸ナトリウムバッファー(pH 3)を用いてアフィニティー精製した。溶出画分は1M Tris-HCl (pH 8.0)を添加してpH7.2付近に調整した。調整された抗体溶液は、透析膜(10000カット、PIERCE社製)を用いてPBS(-)に置換し、精製抗ILT7キメラ抗体を得た。精製抗体の濃度は280 nmの吸光度を測定し、1mg/mlを1.38 ODとして算出した。得られたキメラILT7抗体とその可変領域遺伝子が由来するハイブリドーマ、および宿主細胞の関係を表7にまとめた。
PBS(-) バッファー:
0.2g/L リン酸二水素一カリウム
0.2g/L 塩化カリウム
8g/L 塩化ナトリウム
1.15g/L 無水リン酸一水素二ナトリウム
【0164】
【表7】

【0165】
作製されたキメラ抗体の重鎖、および軽鎖のcDNA塩基配列とアミノ酸配列は、それぞれ次の配列番号のとおりである。各アミノ酸配列において、N末端から−1までのアミノ酸配列はシグナル配列を、1からC末端までのアミノ酸配列が成熟蛋白質のアミノ酸配列を示す。すなわち、これらのキメラ抗体を構成する重鎖と軽鎖は、以下の各アミノ酸配列の1からC末端までのアミノ酸配列からなる。
重鎖 軽鎖
#11 配列番号:50(塩基配列) 配列番号:52(塩基配列)
配列番号:51(アミノ酸配列) 配列番号:53(アミノ酸配列)
#17 配列番号:54(塩基配列) 配列番号:56(塩基配列)
配列番号:55(アミノ酸配列) 配列番号:57(アミノ酸配列)
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明によって、ヒトILT7を特異的に認識する抗体の製造に有用な免疫原と、それを利用する抗ILT7抗体の製造方法が提供された。本発明のヒトILT7を特異的に認識する抗体は、ILTファミリーの存在下で、ILT7を特異的に認識する。したがって本発明の抗体は、ヒトILT7の検出や単離に利用することができる。たとえば本発明の抗体によって、ILT7の局在を解析することもできる。ILT7はIPCや樹状細胞の分化や機能に密接に関連する分子と考えられている。したがって、ILT7を高い特異性で認識する抗体は、IPCや樹状細胞の機能解析に有用である。
IPC様(BDCA-2を発現しているなどの特徴を持つ)の癌細胞が知られている(Chaperot L et al. Eur.J.Immunol.34; 418-426, 2004, Maeda T et al., Int.J.Hematol.81;148-154, 2005)。これらの細胞でのILT7の発現が確認されれば、癌の診断及び治療薬になり得る。
自己免疫疾患の場合、例えば、皮膚疾患である乾癬において、IPCが産生するIFNαと発症には深い関連性が指摘されている(Nestle FO et al., J.Exp.Med. 202, 135-143, 2005)。従って、乾癬患者の皮膚組織中すなわち生検試料中のIPCを抗ILT7抗体により同定することにより、重症度などを検定することができる。
HIV感染患者のエイズ発症とIPC数には相関があることが知られている。すなわち、発症しない患者においてはIPCの数が多く、発症時にはIPCの減少が見られる(Soumells V. et al., Blood 98; 906-912, 2001)。従ってHIVなどのウィルス感染の予後予測などに有効である。
【0167】
たとえばILT7はヒトIPCにおいて特異的に発現している分子である。したがって本発明の抗ILT7抗体は、IPCの検出、同定、あるいは単離に利用することができる。IPCは、タイプ1インターフェロンの大部分を産生している細胞である。したがって、その検出、同定、あるいは単離は、タイプ1インターフェロンが関与する疾患の診断や研究において重要な課題である。このような疾患としては、たとえば、各種の自己免疫疾患、インターフェロンが病態形成に関与する感染症などを示すことができる。
【0168】
また本発明の抗ILT7抗体は、IPCの活性抑制作用を有する。したがって、本発明の抗ILT7抗体を利用して、IPCの活性を抑制することができる。更にIPCの活性抑制によって、タイプ1インターフェロンが関与する疾患の治療が可能となる。具体的には、本発明の抗ILT7抗体は、各種の自己免疫疾患、インターフェロンが病態形成に関与する感染症などの治療に有用である。特に抗ILT7抗体は特異性が高いため、効率よくIPCを除去できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片。
【請求項2】
ヒトインターフェロン産生細胞に結合する請求項1に記載のモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片。
【請求項3】
受託番号FERM BP-10704として寄託されたハイブリドーマILT7#11、または受託番号FERM BP-10705として寄託されたハイブリドーマILT7#17が産生するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片。
【請求項4】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域において、以下のi)からiii)のいずれかに記載のアミノ酸配列をCDR1、CDR2、およびCDR3として含む請求項1に記載のモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;
i)重鎖可変領域のCDR1:SDYAWN(配列番号:58);
重鎖可変領域のCDR2:YISYSGSTSYNPSLKSR(配列番号:59);、および
重鎖可変領域のCDR3:SPPYYAMDY(配列番号:60);
軽鎖可変領域のCDR1:KASQDVGTAVA(配列番号:61);
軽鎖可変領域のCDR2:WASTRHT(配列番号:62);および
軽鎖可変領域のCDR3:QQYSSYPLT(配列番号:63);
ii)重鎖可変領域のCDR1:SYWIH(配列番号:64);
重鎖可変領域のCDR2:RIYPGTGSTYYNEKFKG(配列番号:65);および
重鎖可変領域のCDR3:YPTYDWYFDV(配列番号:66);
軽鎖可変領域のCDR1:RASQSISNYLH(配列番号:67);
軽鎖可変領域のCDR2:YASQSIS(配列番号:68);
軽鎖可変領域のCDR3:QQSNSWPLT(配列番号:69);
iii)重鎖可変領域のCDR1:SDYAWN(配列番号:70);
重鎖可変領域のCDR2:YISYSGSTSYNPSLKSR(配列番号:71);
重鎖可変領域のCDR3:ALPLPWFAY(配列番号:72);
軽鎖可変領域のCDR1:KASQDVGTAVA(配列番号:73);
軽鎖可変領域のCDR2:WASTRHT(配列番号:74);および
軽鎖可変領域のCDR3:QQYSSYPYT(配列番号:75)。
【請求項5】
重鎖可変領域および軽鎖可変領域として、それぞれ以下のa)からc)の組み合わせから選択されたいずれかに記載のアミノ酸配列の成熟配列を含む、請求項1に記載のモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;
a) 配列番号:39の重鎖可変領域と配列番号:41の軽鎖可変領域;
b) 配列番号:43の重鎖可変領域と配列番号:45の軽鎖可変領域;、および
c) 配列番号:47の重鎖可変領域と配列番号:49の軽鎖可変領域。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載のモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項4または請求項5に記載のモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片をコードするポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを発現可能に保持した形質転換細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の形質転換細胞を培養し、その培養物からモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片を回収する工程を含む、請求項4または請求項5に記載のモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片の製造方法。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載のモノクローナル抗体のいずれかを産生するハイブリドーマ。
【請求項11】
受託番号FERM BP-10704として寄託されたハイブリドーマILT7#11、または受託番号FERM BP-10705として寄託されたハイブリドーマILT7#17。
【請求項12】
請求項11に記載のハイブリドーマを培養し、培養物からモノクローナル抗体を採取する工程を含む、モノクローナル抗体の製造方法。
【請求項13】
次の工程を含む、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体を産生する細胞の製造方法;
(1) ヒトILT7の細胞外ドメインを含む外来性の蛋白質、およびヒトILT7と会合する外来性の分子を発現する細胞を免疫動物に投与する工程、および
(2)前記免疫動物の抗体産生細胞から、ヒトILT7に結合する抗体を産生する抗体産生細胞を選択する工程。
【請求項14】
ヒトILT7と会合する分子が、細胞膜蛋白質である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
細胞膜蛋白質が、Fc受容体γ鎖である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ヒトILT7と、ヒトILT7と会合する分子を発現する細胞が、(a) ヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列をコードする外来性のポリヌクレオチド、および(b) Fc受容体γ鎖をコードする外来性のポリヌクレオチド、とを発現可能に保持する細胞である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞が動物細胞である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞がヒト由来の細胞である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヒト由来の細胞が、293T細胞である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項13に記載の方法によって得られた抗体産生細胞をクローン化する工程を付加的に含む、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
請求項13に記載の方法によって得られた抗体産生細胞を培養し、その培養物からモノクローナル抗体を採取する工程を含む、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体の製造方法。
【請求項22】
下記の工程によって得ることができる、ヒトILT7を認識するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;
(1) ヒトILT7の細胞外ドメインを含む蛋白質、およびヒトILT7と会合する分子を外来性に発現する細胞を免疫動物に投与する工程、
(2)前記免疫動物の抗体産生細胞から、ヒトILT7に結合する抗体を産生する抗体産生細胞を選択する工程、および
(3)(2)で選択された抗体産生細胞を培養しその培養物からヒトILT7を認識する抗体を回収する工程。
【請求項23】
(a) ヒトILT7の細胞外ドメインを含むアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドおよび、(b) Fc受容体γ鎖をコードするポリヌクレオチドを外来性に発現可能に保持する動物細胞、またはその細胞膜分画を含む、ヒトILT7の細胞外ドメインに結合する抗体を製造するための免疫原。
【請求項24】
動物細胞がヒト由来の細胞である請求項23に記載の免疫原。
【請求項25】
ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片を被検細胞に接触させ、細胞に結合したモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片を検出する工程を含む、インターフェロン産生細胞の検出方法。
【請求項26】
ヒトILT7の細胞外ドメインに結合するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片を含む、インターフェロン産生細胞の検出用試薬。
【請求項27】
次の成分のいずれかをインターフェロン産生細胞に接触させる工程を含む、インターフェロン産生細胞の活性抑制方法;
(a)ヒトILT7に結合し、インターフェロン産生細胞の活性を抑制するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;、および
(b)(a)のモノクローナル抗体の相補性決定領域を移植したイムノグロブリン、またはその抗原結合領域を含む断片。
【請求項28】
次の成分のいずれかを生体に投与する工程を含む、生体中のインターフェロン産生細胞の活性抑制方法;
(a)ヒトILT7に結合し、インターフェロン産生細胞の活性を抑制するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;
(b)(a)のモノクローナル抗体の相補性決定領域を移植したイムノグロブリン、またはその抗原結合領域を含む断片;、および
(c)(a)または(b)に記載の成分をコードするポリヌクレオチド。
【請求項29】
インターフェロン産生細胞の活性が、インターフェロン産生活性およびインターフェロン産生細胞の生存のいずれか、または両方である請求項27または請求項28に記載の方法。
【請求項30】
次の成分のいずれかを有効成分として含む、インターフェロン産生細胞の活性抑制剤;
(a)ヒトILT7に結合し、インターフェロン産生細胞の活性を抑制するモノクローナル抗体、またはその抗原結合領域を含む断片;
(b)(a)のモノクローナル抗体の相補性決定領域を移植したイムノグロブリン、またはその抗原結合領域を含む断片;、および
(c)(a)または(b)に記載の成分をコードするポリヌクレオチド。
【請求項31】
インターフェロン産生細胞の活性が、インターフェロン産生活性およびインターフェロン産生細胞の生存のいずれか、または両方である請求項30に記載のインターフェロン産生細胞の活性抑制剤。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図9c】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−143232(P2012−143232A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21947(P2012−21947)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2007−551124(P2007−551124)の分割
【原出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(507206192)SBIバイオテック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】