説明

抵抗変化素子及びその製造方法

【課題】特性が向上した抵抗変化素子を提供する。
【解決手段】抵抗変化素子は、2つの電極28,電極29と、2つの電極の間に設けられた抵抗変化膜21とを具備し、抵抗変化膜21は、ハフニウム(Hf)、マンガン(Mn)及び酸素(O)を含む膜であり、立方晶のHf1−xMn膜(0<x<1)の組成式で示される酸化物膜である。電極28,29は、例えば、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)のグループから選択される少なくとも1つの材料からなる。これらの電極材の酸化物の生成自由エネルギーの絶対値は、Mnの酸化物の生成自由エネルギーの絶対値よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、抵抗変化素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗変化型メモリは、微細化による悪影響を受けにくく、大容量化も可能であるため、次世代の不揮発性半導体メモリとして注目されている。
【0003】
抵抗変化型メモリは、メモリ素子としての抵抗変化素子の抵抗値の可逆的な変化を、データの記憶及び判別に利用している。抵抗変化素子の抵抗値は、例えば、2つの電極に挟まれた抵抗変化膜に電圧を印加し、抵抗変化膜に電流を流すことによって、高抵抗状態から低抵抗状態、又は、低抵抗状態から高抵抗状態に変化する。
【0004】
抵抗変化素子の抵抗状態を高抵抗状態から低抵抗状態へ変化させる動作は、セット動作とよばれ、抵抗変化素子の抵抗状態を低抵抗状態から高抵抗状態へ変化させる動作は、リセット動作とよばれる。
【0005】
抵抗変化素子の抵抗変化機構として、抵抗変化膜の材料に応じて、様々なモデルが報告されている。その1つに、フィラメントとよばれる微細な電流経路が形成されることによって抵抗変化膜の抵抗値が変化するモデルが報告されている。さらに、フィラメントによる抵抗変化機構として、フィラメントの一部の酸化及び還元によって抵抗値が変化するモデルや、フィラメント内における電荷のトラップ/デトラップによって抵抗値が変化するモデルがある。
【0006】
フィラメントによる抵抗変化機構を利用する抵抗変化型メモリの製造工程において、フィラメントを抵抗変化膜内に形成するために、フォーミングとよばれる工程が実行される。フォーミング工程は、メモリセルアレイ内の抵抗変化素子のばらつきを抑制するため、微細なフィラメントを形成するための電流の電流値及びパルス幅を高精度に制御して、実行する必要がある。それゆえ、抵抗変化型メモリに含まれる全ての抵抗変化素子に対して、高精度のフォーミング工程を実行しなければならないため、この抵抗変化型メモリの製造工程は、膨大な時間がかかる。
【0007】
フィラメントによる抵抗変化機構を用いた抵抗変化素子において、リセット動作時に、抵抗変化素子に過剰な電流が流れ、抵抗変化素子及びそれに接続された素子(例えば、ダイオード)が破壊されてしまう問題がある。また、フィラメントによる抵抗変化機構を用いた抵抗変化素子において、読み出し動作時における誤動作やリテンション特性が悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2010−512018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、抵抗変化素子の特性向上を図る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本実施形態の抵抗変化素子は、第1及び第2の電極と、前記第1の電極と第2の電極との間に設けられた抵抗変化膜と、を具備し、前記抵抗変化膜は、立方晶のHf1−xMn膜(0<x<1)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態の抵抗変化素子の構造を示す断面図。
【図2】抵抗変化膜の結晶構造を模式的に示す図。
【図3】抵抗変化膜のX線回折の解析結果を示す図。
【図4】酸化物膜のX線回折の解析結果を示す図。
【図5】酸化物膜のX線回折の解析結果を示す図。
【図6】酸化物膜のX線回折の解析結果を示す図。
【図7】第1の実施形態の抵抗変化素子の動作を説明するための図。
【図8】第1の実施形態の抵抗変化素子の動作を説明するための図。
【図9】第1の実施形態の抵抗変化素子の適用例を説明するための図。
【図10】第1の実施形態の抵抗変化素子の適用例を説明するための図。
【図11】第1の実施形態の抵抗変化素子の適用例を説明するための図。
【図12】第1の実施形態の抵抗変化素子の適用例を説明するための図。
【図13】第1の実施形態の抵抗変化素子の適用例を説明するための図。
【図14】第1の実施形態の抵抗変化素子の製造方法を説明するための図。
【図15】第1の実施形態の抵抗変化素子の製造方法を説明するための図。
【図16】第1の実施形態の抵抗変化素子の製造方法を説明するための図。
【図17】第2の実施形態の抵抗変化素子の構造を示す断面図。
【図18】第2の実施形態の抵抗変化素子の動作を説明するための図。
【図19】第2の実施形態の抵抗変化素子の動作を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の例を実施するための形態について詳細に説明する。以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については、同一符号を付し、重複する説明は必要に応じて行う。
【0013】
[実施形態]
(1) 第1の実施形態
以下、図1乃至図16を参照して、第1の実施形態の抵抗変化素子について、説明する。
【0014】
(a) 構造
図1乃至図8を用いて、第1の実施形態の抵抗変化素子の構造について、説明する。
【0015】
図1は、第1の実施形態の抵抗変化素子20の断面構造の示す模式図である。
【0016】
第1の実施形態の抵抗変化素子20は、2つの電極28,29と、2つの電極28,29に挟まれた抵抗変化膜21とを含んでいる。
【0017】
本実施形態の抵抗変化素子20において、抵抗変化膜21は、ハフニウム(Hf)、マンガン(Mn)及び酸素(O)を含む膜である。本実施形態において、抵抗変化膜としてのHf、Mn及びOを含む膜21は、“Hf1−xMn”の組成式で示される酸化物膜である。以下の説明において、抵抗変化膜21としてHf1−xMn膜21に関して、単に、HfMnO膜と述べる場合もある。尚、図1において、抵抗変化膜21の構成原子の配列は、模式的に示されている。
【0018】
電極28,29は、例えば、白金(Pt)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)のグループから選択される少なくとも1つの材料からなる。これらの電極材の酸化物の生成自由エネルギーの絶対値は、Mnの酸化物の生成自由エネルギーの絶対値よりも小さい。これによって、電極28,29と抵抗変化膜21との化学反応(化合物の形成)や抵抗変化膜21A内における電極の構成原子の拡散などが抑制される。それゆえ、抵抗変化膜21及びその抵抗変化膜21を用いた抵抗変化素子20の特性劣化が低減される。但し、抵抗変化膜21は、微量の電極28,29の構成元素を含む場合がある。
【0019】
尚、電極28,29の材料は、例示した材料と同様の性質を有していれば、他の材料が用いられてもよい。また、電極28,29の構造は、これらの材料の単層構造に限定されず、複数の膜の積層構造を有していてもよい。
【0020】
本実施形態の抵抗変化膜21としてのHfMnO膜において、Mnの組成(x)は、0より大きく、1より小さい値に設定される。
【0021】
抵抗変化膜21としてのHf1−xMn膜21において、抵抗変化膜21内におけるHfの組成(1−x)とMnとの組成(x)との組成比は、x/(1−x)で示される。そして、膜21内におけるMnの濃度(組成)は、例えば、Hfの濃度よりも低い。Hfに対するMnの組成比x/(1−x)は、0.25以上、0.35以下に設定される。尚、本実施形態において、Hf1−xMnで示される組成式において、Oの組成(y)は、1より大きく、2より小さい範囲(1<y<2)に設定されている。
【0022】
図2を用いて、本実施形態の抵抗変化素子に用いられるHf1−xMnの結晶構造について説明する。
【0023】
本実施形態の抵抗変化膜21としてのHfMnO膜は、立方晶の結晶構造を有する。
【0024】
図2は、HfMnOの結晶構造が、立方晶である場合の単位格子を示している。本実施形態において、HfMnOは、例えば、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.25〜0.35の範囲内に設定された場合に、立方晶の結晶構造を有する。立方晶のHfMnOは、例えば、蛍石構造の結晶構造を有する。
【0025】
図2に示されるように、3価のMnイオン(Mn3+)43は、4価のHfイオン(Hf4+)41と格子置換することによって、HfMnO膜21の結晶格子中に含まれる。Mnイオン43がHfイオン41と格子置換することによって、結晶格子中に、酸素欠損(酸素空格子ともよばれる)49が形成される。HfMnO膜21の膜面に対して垂直方向において、立方晶のHfMnOが<100>方位に配向性を有する場合、HfMnO膜内の酸素欠損49は膜面に対して垂直方向に配列する。以下では、膜面に対して垂直方向をND方向とよび、膜面に対して平行方向をTD方向とよぶ。
【0026】
結晶格子中の酸素イオン(O2−)42は、電極28,29間に印加された電圧によって生じる電界によって、形成された酸素欠損49を経由して、一方の電極に向かって移動する。これによって、本実施形態の抵抗変化素子の抵抗状態は、変化する。以下では、イオンが電界によって移動することを、電界拡散とよぶ。
【0027】
図3乃至図6は、HfMnO膜におけるHfとMnとの組成比x/(1−x)を変化させた抵抗変化膜のX線回折(XRD:X-Ray Defalcation)の解析結果を示している。尚、図4は、Mnを含んでいないHfO膜(1<y<2)のXRDの解析結果を示している。HfOは、単斜晶の結晶構造を有している。
【0028】
図3乃至6のX線回折において、2θ−θ法によって、HfMnO膜又はHfO膜の結晶相の同定が実行されている。また、図3乃至図6の解析結果において、HfMnO膜の組成は、X線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)によって分析されている。
【0029】
図3の(a)は、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.3に設定された場合におけるHf0.7Mn0.3膜(1<y<2)の解析結果が示されている。図3の(a)の横軸は、2θの角度(単位:[°])が示され、図3の(a)の縦軸は、X線回折強度が任意単位(a.u.:arbitrary unit)で示されている。図4乃至図6における横軸及び縦軸に関しても、図3の(a)と同様である。
【0030】
図3乃至図6の測定に用いられたサンプルの構造は、図3の(b)に示されている。図3の(b)に示されるように、測定サンプルは、シリコン基板90上の絶縁膜91,92上に形成される。シリコン基板90上に、窒化シリコン(SiN)膜91が設けられ、酸化シリコン(SiO)膜92がSiN膜91上に設けられている。SiN膜91の膜厚は、10nmであり、SiO膜92の膜厚は、150nmである。
【0031】
SiO膜92上に、下地層93,94,95が設けられている。SiO2膜92上の窒化チタン(TiN)膜93上に、タングステン(W)膜94が設けられ、W膜94上に、さらに、TiN膜95が設けられている。2つのTiN膜93,95の膜厚は、それぞれ10nmであり、W膜94の膜厚は、50nmである。この積層構造の下地層は、抵抗変化素子20及びその素子20を用いた抵抗変化型メモリの構造における配線又は電極に相当する。
【0032】
下地層の最上層のTiN膜95上に、抵抗変化膜(HfMnO膜又はHfO膜)96が設けられている。HfMnO膜又はHfO膜96の膜厚は、20nmである。HfMnO膜及びHfO膜96は、スパッタ法によって形成される。HfMnO膜96は、HfMnO化合物ターゲットがアルゴン(Ar)とOの混合ガスによりスパッタリングされることによって、TiN膜95上に堆積される。本実施形態において、HfMnO膜におけるHf及びMnの組成比(モル比率)は、HfO単体におけるHfのレート及びMnO単体におけるMnのレートから算出された体積比とHfO及びMnOの分子量とに基づいて、設定されている。
【0033】
図3の(a)に示されるHfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.3に設定されたHfMnO膜のXRDの解析結果を、図4に示されるHfO膜のXRDの解析結果と比較する。図3の(a)に示される解析結果において、33°近傍の回折ピークに加え、30°から32°の範囲内、35°から36°の範囲内で、回折ピークA1,A2がそれぞれ検出されている。
【0034】
回折ピークA1は、立方晶のHfMnOの(111)面の回折ピークを示し、回折ピークA2は、立方晶のHfMnOの(200)面の回折ピークを示している。2θ=33°における回折ピークは、HfOの(002)面の回折ピークに相当している。
【0035】
図4に示されるHfOのXRDの解析結果において、HfOの(−111)面を示す回折ピーク(2θ=28°〜29°)が検出されているが、図3の(a)に示されるように、組成比x/(1−x)が0.3に設定されることによって、HfO(−111)面の回折ピークは低減又は消失している。
【0036】
このように、図3の(a)及び図4に示されるように、HfOの結晶構造が単斜晶であっても、MnがHfOにドーピングされることによって、HfMnO膜の結晶構造が立方晶に変化する。
【0037】
図5は、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.1に設定されたHf0.9Mn0.1膜のXRDの解析結果を示し、図6は、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.7に設定されたHf0.3Mn0.7膜のXRDの解析結果を示している。
【0038】
図5に示されるように、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.1程度である場合、膜内に含まれるMnの組成比がHfの組成に比較して小さく、膜内における立方晶のHfMnOの結晶相又は結晶粒が小さく、立方晶のHfMnOを示す回折ピークは検出されない。すなわち、組成比がx/(1−x)が0.1程度である場合、Mnの組成が微量であるため、HfOyに対するMnの格子置換が不十分で、立方晶のHfMnOの結晶格子が膜全体の結晶性に及ぼす影響が小さい。それゆえ、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.1程度である場合、回折ピークが検出されるのに十分な立方晶のHfMnOが形成されていない。
【0039】
図6に示されるように、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.7程度である場合、HfMnOの(111)面の回折ピークに加え、HfOの(−111)面の回折ピークも検出されている。それゆえ、HfOに対するMnの過剰なドーピングによって、膜内における相分離やマンガン酸化物の形成が引き起こされ、立方晶のHfMnOの結晶成長が妨げられている可能性がある。また、HfMnO以外の化合物の結晶相が膜96内に混在している可能性がある。そのため、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.7程度である場合、配向性の良好な立方晶のHfMnO膜が形成されていない可能性がある。この場合、抵抗変化膜としての特性も、Hf酸化物としての特性よりも、Mn酸化物としての特性の依存度が大きくなる可能性がある。
【0040】
以上のように、図3の(a)に示されるように、立方晶のHfMnOの(111)面及び(200)面の回折ピークが検出されていることから、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.3程度である場合、立方晶の結晶構造を有するHfMnO膜が形成されることが示される。尚、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が、0.25以上、0.35以下である場合においても、実質的に同様の結果が得られる。
【0041】
HfMnOは立方晶の結晶構造を有するので、HfMnOの(200)面は、HfMnOの(100)面に等価な面である。すなわち、図3の(a)に示されるように、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が0.3程度である場合、立方晶のHfMnO膜は、<100>方位の配向性(以下、<100>配向とよぶ)が強くなる。
【0042】
<100>配向したHfMnO膜において、酸素欠損49の位置が、ND方向に平行方向に配列し、各単位格子における酸素欠損49の位置が、2つの電極28,29間で、直線状に並ぶ。それゆえ、<100>配向した立方晶のHfMnO膜において、酸素欠損49の位置が、抵抗変化素子20の駆動時に2つの電極28,29間に生じる電界の方向に沿って配列する。そのため、酸素欠損49を経由した酸素イオンの移動は、実質的に、ND方向における電界の大きさのみに依存する。
【0043】
一方、単斜晶の結晶構造において、酸素欠損の位置は、電極28,29間の電界の向きに対して平行にならず、2つの電極間において、ジグザグに配列する。それゆえ、単斜晶の検証構造において、酸素欠損を経由した酸素イオンの移動は、ND方向における電界の大きさとTD方向における電界の大きさとに依存する。
【0044】
このように、<100>配向した立方晶のHfMnO膜が、抵抗変化素子20の抵抗変化膜に用いることによって、単斜晶のHfO膜に比較して、電界による酸素欠損を介した酸素イオンの移動が、比較的容易になる。
【0045】
したがって、本実施形態の抵抗変化素子20によれば、小さい電界、即ち、小さい電圧によって、抵抗変化素子の抵抗状態を変化させることができる。
【0046】
チタニウム(Ti)やアルミニウム(Al)が、HfOy膜内のHfと格子置換する3価のイオンとして用いられた場合においても、マンガン(Mn)と同様に、膜内に酸素欠損が形成される。但し、Mnは、TiやAlに比較して、HfO内でHfと格子置換した場合に、立方晶の結晶構造を形成しやすい。すなわち、Mnのドーピングによる立方晶のHfMnO膜の形成は、酸素欠損を経由した酸素イオンの電界拡散による抵抗変化機構に、有効である。
【0047】
尚、本実施形態において、立方晶のHfMnO膜が<100>方位に配向した面内配向膜であることが好ましいが、HfMnO膜は、<100>方位に配向した結晶相/結晶粒を含む多結晶膜(又は、多相膜)でもよい。
【0048】
以上のように、第1の実施形態の抵抗変化素子によれば、抵抗変化素子の特性を向上できる。
【0049】
(b) 動作
図7及び図8を用いて、本実施形態の抵抗変化素子20の動作(抵抗変化機構)について、説明する。尚、図7及び図8において、電極28を、下部電極28とよび、電極29を上部電極とよぶ。
【0050】
本実施形態の抵抗変化素子20は、バイポーラ動作で駆動する。即ち、セット動作(低抵抗化)とリセット動作(高抵抗化)とで、極性の異なる電圧が用いられる。
【0051】
本実施形態の抵抗変化素子20のセット/リセット動作において、抵抗変化膜21を挟んでいる2つの電極28,29間に電位差が印加される。印加された電位の極性に応じて、下部電極28から上部電極29へ向かう電界、又は、上部電極29から下部電極28へ向かう電界が生じる。以下では、セット動作時に電極間に印加される電圧をセット電圧とよび、リセット動作時に電極間に印加される電圧をリセット電圧とよぶ。
【0052】
図7を用いて、抵抗変化素子20が低抵抗状態に変化する場合について、説明する。
抵抗変化素子20を低抵抗状態にする場合、抵抗変化素子20の一方の電極(ここでは、上部電極)29がアノード(陽極)に設定され、抵抗変化素子20の他方の電極(ここでは、下部電極)28がカソード(陰極)に設定される。この場合、上部電極29から下部電極28に向かう電界が、2つの電極28,29間に発生する。この電界によって、抵抗変化膜としての立方晶のHf1−xMn膜(0.25≦x≦0.35)21内の酸素イオン(O2−)が、電界の向きとは反対方向、つまり、上部電極29側に移動する。
【0053】
図2に示される結晶格子中の酸素イオン42は、Mnイオン43とHfイオン41との格子置換によって形成された酸素欠損49を経由して、アノード(上部電極)側へ電界拡散する。
【0054】
これによって、HfMnO膜21内の酸素濃度プロファイルが変化し、HfMnO膜21内に酸素欠損49が生じる。ただし、酸素イオンが上部電極29近傍に偏析するので、抵抗変化膜21内の酸素イオン濃度はほとんど変化しない。
【0055】
酸素欠損49は、半絶縁性/半導体性の酸化物において、ドナーとして振る舞う。すなわち、HfMnOなどの酸化物の導電性は、膜21内の酸素欠損の個数(濃度)に依存し、酸素欠損の個数が多くなると、膜の抵抗値(抵抗率)が低下する。
【0056】
それゆえ、酸素イオン42がセット動作時にアノードとなる上部電極29に引き寄せられることによって、本実施形態の抵抗変化素子が含むHfMnO膜(抵抗変化膜)21の抵抗値は、低下する。尚、セット動作によって上部電極29に引き寄せられた酸素イオンは、セット電圧が印加されなくなっても、酸素欠損の位置(site)にほとんど戻らない。
【0057】
このように、本実施形態の抵抗変化素子20に対して、素子20が低抵抗状態に変化する動作、即ち、セット動作が実行される。
【0058】
図8を用いて、抵抗変化素子が高抵抗状態に変化する場合について、説明する。
抵抗変化素子20を高抵抗状態にする場合、抵抗変化素子20の上部電極29がカソードに設定され、抵抗変化素子20の下部電極28がアノードに設定される。この場合、電極28,29に生じる電界の向きは、下部電極28から上部電極29へ向かう方向である。
【0059】
上部電極29から下部電極28へ向かう電界が低抵抗状態(セット動作後)の抵抗変化素子20に印加されると、上部電極29側に移動していた酸素イオン49が、電界拡散によって、セット動作によって形成された下部電極28側の酸素欠損49の位置に移動する。つまり、リセット動作によって、酸素イオンが酸素欠損49の位置に配位するので、HfMnO膜21の酸素濃度プロファイルがセット動作前の状態に実質的に戻る。
【0060】
それゆえ、HfMnO膜21内の酸素欠損49の個数が、低抵抗状態のHfMnO膜に比較して減少するので、この状態のHfMnO膜21の抵抗値は、低抵抗状態のHfMnO膜より高くなる。
【0061】
このように、本実施形態の抵抗変化素子20に対して、素子20が高抵抗状態に変化する動作、即ち、リセット動作が実行される。
【0062】
尚、セット動作とリセット動作に用いられる電圧の極性が反対であれば、各動作時における電極とカソード/アノードとの関係は、図7及び図8と反対であってもよい。
【0063】
本実施形態の抵抗変化素子20に対する読み出し動作は、読み出し電圧を抵抗変化素子20に印加することによって、実行される。読み出し電圧は、セット電圧及びリセット電圧より小さく、酸素イオンの電界拡散が生じない大きさに設定される。読み出し電圧印加時に、抵抗変化素子20を流れる電流の大きさ、または、抵抗変化素子20に接続された接続ノードの電位の変動を検知することによって、抵抗変化素子20の抵抗値が判別される。これによって、抵抗値に対応するデータが、メモリ素子としての抵抗変化素子20から読み出される。
【0064】
以上のように、立方晶のHf1−xMn膜(0.25≦x≦0.35,1<y<2)を抵抗変化膜21に用いた抵抗変化素子20は、抵抗変化素子20の電極28,29間に印加される電圧の極性を変えることによって、抵抗変化素子の抵抗状態を可逆的に変化できる。つまり、抵抗変化膜としての立方晶のHfMnO膜21は、バイポーラ動作で駆動する抵抗変化素子を形成できる。
【0065】
また、抵抗変化素子の低抵抗/高抵抗状態、即ち、HfMnO膜における酸素濃度プロファイルが変化した状態は、酸素イオンが酸素欠損に戻る電界が印加されるまで、不揮発に維持される。
【0066】
上述のように、本実施形態の抵抗変化素子に用いられる抵抗変化膜21は、立方晶の結晶構造を有するHfMnO膜である。そのHfMnO膜において、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)は、0.25以上、0.35以下の範囲に設定される。より好ましくは、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)は、0.30程度である。
【0067】
立方晶のHfMnO膜21が、(100)面などの<100>配向を有することによって、膜21内の酸素欠損49の位置は、2つの電極28,29間の電界の向きに対して平行に配列する。すなわち、酸素欠損49の位置が、2つの電極28,29間で直線上に並ぶ。そのため、単斜晶など他の結晶構造に比較して、<100>配向した立方晶のHfMnOは、電極に対する酸素イオン49の移動(電界拡散)が容易であり、低い電界、すなわち、低いセット/リセット電圧で、酸素イオンを電界拡散させることができる。
【0068】
したがって、本実施形態の抵抗変化素子20は、低い電圧で駆動できる。
【0069】
また、本実施形態の抵抗変化素子において、抵抗変化膜としての立方晶のHfMnO膜21の抵抗変化機構は、抵抗変化膜21内におけるフィラメントの形成による抵抗変化機構とは異なるメカニズムも示す。それゆえ、本実施形態の抵抗変化素子20は、フォーミングを行わずともよい場合もある。
【0070】
尚、HfMnO膜を抵抗変化膜21に用いた抵抗変化素子20は、ユニポーラ動作で駆動することもできる。
【0071】
立方晶のHfMnO膜21を用いた抵抗変化素子20のユニポーラ動作において、セット動作は、図7に示された動作と同じ動作で実行される。
【0072】
一方、HfMnO膜21を用いた抵抗変化素子20のユニポーラ動作において、リセット動作は、図8に示された例とは異なり、上部電極29がアノード、下部電極28がカソードとなる。即ち、ユニポーラ動作において、電圧の極性は、セット動作とリセット動作で同じである。
【0073】
抵抗変化膜21を介して上部電極29と下部電極28との間を流れる電流(以下では、リセット電流とよぶ)によって、ジュール熱が、抵抗変化膜21内に発生する。リセット電流に起因するジュール熱によって、酸素イオン42が、セット動作によって形成された酸素欠損49に移動(熱拡散)する。即ち、酸素イオン49が、HfMnO膜21の結晶構造において安定なサイトに戻る。それゆえ、HfMnO膜21内の酸素欠損の個数が減少し、HfMnO膜を抵抗変化膜21に用いた抵抗変化素子20は、高抵抗状態になる。
【0074】
ユニポーラ動作のように、酸素イオンが抵抗変化膜内を熱拡散する場合において、抵抗変化膜が立方晶のHfMnO膜であることによって、酸素の移動(熱拡散)が容易になり、熱拡散のための熱量を低減できる。それゆえ、本実施形態の抵抗変化素子20は、ジュール熱を発生させるための電流を、低減できる。
【0075】
このように、HfMnO膜を抵抗変化膜21に用いた抵抗変化素子20は、ユニポーラ動作で駆動することもできる。
【0076】
以上のように、本実施形態の抵抗変化素子20は、抵抗変化素子の特性を向上できる。
【0077】
(c) 適用例
図9乃至図13を用いて、第1の実施形態の抵抗変化素子20の適用例について、説明する。
【0078】
本実施形態の抵抗変化素子20は、例えば、抵抗変化型メモリのメモリ素子に適用される。
図9は、抵抗変化型メモリの主要部を示している。
【0079】
抵抗変化型メモリ(例えば、チップ)1は、メモリセルアレイ2を有する。
【0080】
メモリセルアレイ2の第1方向(ロウ方向)の一端に、ロウ制御回路3が配置され、第1方向に交差する第2方向(カラム方向)の一端に、カラム制御回路4が配置される。
【0081】
ロウ制御回路3は、例えば、ロウアドレス信号に基づいて、メモリセルアレイ2のロウを選択する。カラム制御回路4は、例えば、カラムアドレス信号に基づいて、メモリセルアレイ2のカラムを選択する。
【0082】
ロウ及びカラム制御回路3,4は、メモリセルアレイ2内のメモリ素子(抵抗変化素子)に接続されたワード線及びビット線の動作を制御する。
【0083】
外部(例えば、ホスト又はコントローラ)からの制御信号CMDは、コマンド・インターフェイス回路6に入力される。外部からのデータDT又はメモリセルアレイ2からのデータは、データ入出力バッファ7に入力される。
【0084】
コマンド・インターフェイス回路6は、制御信号CMDに基づいて、外部からのデータDTがコマンドデータであるか否かを判断する。そのデータDTがコマンドデータである場合、コマンド・インターフェイス回路6は、そのデータDTをデータ入出力バッファ7からステートマシーン8に転送する。
【0085】
ステートマシーン8は、制御信号CMD及びコマンドデータに基づいて、抵抗変化型メモリ1の動作を管理する。例えば、ステートマシーン8は、外部からの制御信号CMDに基づいて、セット/リセット動作及び読み出し動作を管理する。
【0086】
セット/リセット動作及び読み出し動作時において、アドレス信号ADRが、外部から抵抗変化型メモリ1内に供給される。アドレス信号ADRは、アドレスバッファ9を経由して、ステートマシーン8、ロウ及びカラム制御回路3,4に入力される。
【0087】
電位生成回路10は、ステートマシーン8からの命令に基づき、例えば、セット/リセット動作及び読み出し動作に必要な電圧パルス(又は電流パルス)を生成する。電位生成回路10は、例えば、その内部にパルスジェネレータを含んでいる。パルスジェネレータは、生成された電圧パルスのパルス波形を制御する。
【0088】
メモリセルアレイ2は、例えば、クロスポイント型の構造を有する。
【0089】
図10は、クロスポイント型メモリセルアレイの構造を示す鳥瞰図である。
【0090】
クロスポイント型メモリセルアレイ2は、基板11上に配置される。基板11は、半導体基板(例えば、シリコン基板)、又は、半導体基板上の層間絶縁膜である。尚、基板11が、層間絶縁膜である場合、クロスポイント型メモリセルアレイ2下方の半導体基板表面に、電界効果トランジスタ等を用いた回路が、抵抗変化型メモリの周辺回路として形成されていてもよい。
【0091】
クロスポイント型メモリセルアレイ2は、例えば、複数のメモリセルアレイ(メモリセルレイヤーともよばれる)のスタック構造を有する。
【0092】
図10は、一例として、クロスポイント型メモリセルアレイ2が、第3方向(基板11の主平面に対して垂直な方向)にスタックされた4つのメモリセルアレイM1,M2,M3,M4を含む場合を示している。スタックされるメモリセルアレイの数は、2つ以上であればよい。尚、クロスポイント型メモリセルアレイ2は、1つのメモリセルアレイから構成されてもよい。また、スタックされた2つのメモリセルアレイ間に絶縁膜が設けられ、その絶縁膜によって、2つのメモリセルアレイが、電気的に分離されていてもよい。
【0093】
図10のように、複数のメモリセルアレイM1,M2,M3,M4がスタックされている場合、アドレス信号は、例えば、メモリセルアレイ選択信号、ロウアドレス信号及びカラムアドレス信号を含んでいる。ロウ及びカラム制御回路3,4は、例えば、メモリセルアレイ選択信号に基づいて、スタックされた複数のメモリセルアレイのうちの1つを選択する。ロウ/カラム制御回路3,4は、スタックされた複数のメモリセルアレイのうちの1つに対してデータの書き込み/消去/読み出しを行うため制御を実行する。但し、ロウ/カラム制御回路3,4は、スタックされた複数のメモリセルアレイのうちの2つ以上又は全てに対して同時にデータの書き込み/消去/読み出しを行うための制御も実行できる。
【0094】
メモリセルアレイM1は、第1及び第2方向にアレイ状に配置された複数のセルユニットCU1を含む。これと同様に、メモリセルアレイM2は、アレイ状に配置された複数のセルユニットCU2を含み、メモリセルアレイM3は、アレイ状に配置された複数のセルユニットCU3を含み、メモリセルアレイM4は、アレイ状に配置された複数のセルユニットCU4を含む。
【0095】
また、基板11上に、基板11側から順に、制御線L1(j−1),L1(j),L1(j+1)、制御線L2(i−1),L2(i),L2(i+1)、制御線L3(j−1),L3(j),L3(j+1)、制御線L4(i−1),L4(i),L4(i+1)、制御線L5(j−1),L5(j),L5(j+1)が、配置される。
【0096】
基板11側から奇数番目の配線、即ち、制御線L1(j−1),L1(j),L1(j+1)、制御線L3(j−1),L3(j),L3(j+1)及び制御線L5(j−1),L5(j),L5(j+1)は、第1方向(ロウ方向)に延びる。
【0097】
基板11側から偶数番目の配線、即ち、制御線L2(i−1),L2(i),L2(i+1)及び制御線L4(i−1),L4(i),L4(i+1)は、第1方向に交差する第2方向(ロウ方向)に延びる。
【0098】
これらの制御線は、ワード線又はビット線として用いられる。
【0099】
最下層の第1番目のメモリセルアレイM1は、第1番目の制御線L1(j−1),L1(j),L1(j+1)と第2番目の制御線L2(i−1),L2(i),L2(i+1)との間に配置される。メモリセルアレイM1に対するセット/リセット動作及び読み出し動作において、制御線L1(j−1),L1(j),L1(j+1)のグループ及び制御線L2(i−1),L2(i),L2(i+1)のグループのうち、一方のグループがワード線として用いられ、他方のグループがビット線として用いられる。
【0100】
これと同様に、各メモリセルアレイM2,M3,M4は、下層の制御線と上層の制御線との間に設けられている。セット/リセット動作及び読み出し動作において、メモリセルアレイを挟む上層又は下層の制御線のグループのうち、一方のグループがワード線として用いられ、他方のグループがビット線として用いられる。
【0101】
制御線L1(j−1),L1(j),L1(j+1)と制御線L2(i−1),L2(i),L2(i+1)とが立体的に交差する箇所に、セルユニットCU1が配置される。これと同様に、制御線L2(i−1),L2(i),L2(i+1)と制御線L3(j−1),L3(j),L3(j+1)とが交差する箇所、制御線L3(j−1),L3(j),L3(j+1)と制御線L4(i−1),L4(i),L4(i+1)とが交差する箇所、制御線L4(i−1),L4(i),L4(i+1)と制御線L5(j−1),L5(j),L5(j+1)とが交差する箇所に、セルユニットCU2,CU3,CU4がそれぞれ配置される。
【0102】
尚、スタックされるメモリセルアレイが、絶縁膜によって、各層毎に分離される場合、第1及び第2方向に延在する制御線はスタックされる2つのメモリセルアレイで共有されず、各層のメモリセルアレイ毎に、ワード線及びビット線としての制御線が、設けられる。
【0103】
図11は、クロスポイント型メモリセルアレイ1の等価回路の一例を示している。
図11は、クロスポイント型メモリセルアレイ1が含む1つのメモリセルアレイM1の等価回路である。
【0104】
メモリセルアレイM1内には、第1方向(ロウ方向)に延在する複数の第1の制御線が設けられる。第1の制御線は、例えば、ワード線WLである。複数のワード線WLは、第2方向に互いに隣接して、メモリセルアレイM1内に配置される。
【0105】
メモリセルアレイM1内には、第2方向(カラム方向)に延在する複数の第2の制御線が、設けられる。第2の制御線は、例えば、ビット線BLである。複数のビット線BLは、メモリセルアレイM1内において、第1方向に互いに隣接して配置されている。
【0106】
そして、ビット線BLとワード線WLとの間に、本実施形態の抵抗変化素子20を含むセルユニットCUが接続されている。
【0107】
1つのセルユニットCUは、抵抗変化素子20と低電界電流制限素子30とを含んでいる。ビット線BLとワード線WLとの間において、抵抗変化素子20及び低電界電流制限素子30は、直列接続されている。
【0108】
低電界電流制限素子30(非オーミック素子ともよばれる)は、低い電界や低い電流が抵抗変化素子20に与えられるのを制限し、抵抗変化素子20が誤動作するのを抑制する。低電界電流制限素子30は、メモリの動作時、動作の対象になっていない(選択されていない)セルユニットに対するクロストークを抑制するために、設けられている。
【0109】
図11に示されるビット線BLとワード線WLとに対するセルユニットCUの接続関係の一例は、以下のとおりである。本実施形態において、低電界電流制限素子30に、ダイオード(整流素子)が用いられた場合について、説明する。例えば、PNダイオード、PINダイオード及びMIS(Metal-Insulator-Semiconductor)ダイオードなどが、低電界電流制限素子30として用いられる。
【0110】
図11に示されるように、抵抗変化素子20の一端は、例えば、ワード線WLに接続される。抵抗変化素子20の他端は、例えば、ダイオード30のアノードに接続される。ダイオード30のカソードは、例えば、ビット線BLに接続される。
【0111】
尚、図11において、ダイオード30が低電界電流制限素子30として用いられた例について述べたが、抵抗変化型メモリに要求される動作に応じて、ダイオードの代わりに、SIS(Semiconductor-Insulator-Semiconductor)構造やMIM(Metal-Insulator-Metal)構造が、低電界電流制限素子30として用いられてもよい。また、図11に示される抵抗変化素子とダイオードとの位置関係とは反対に、抵抗変化素子20がビット線BL側に接続され、ダイオード30がワード線側に接続されてもよい。又、ダイオード30のアノードとカソードの向きが反対でもよい。
【0112】
ここでは、クロスポイント型メモリセルアレイを例示して、抵抗変化型メモリのメモリセルアレイの構造について、説明した。しかし、これに限定されず、抵抗変化型メモリのメモリセルアレイは、1つの抵抗変化素子と選択スイッチとしての電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)を含むメモリセルを用いて、形成されてもよい。
【0113】
図12及び図13を用いて、本実施形態の抵抗変化素子を含むセルユニットの構造例について説明する。
【0114】
図12は、本実施形態の抵抗変化素子20を含むセルユニットCUの構造例を示す鳥瞰図である。図13は、本実施形態の抵抗変化素子20を含むセルユニットCUの構造例を示す断面図である。
【0115】
図12及び図13に示される例において、抵抗変化素子20上に、ダイオード30が積層される。
【0116】
抵抗変化素子20とダイオード30とを含む積層体が、1つのセルユニットCUとして、2つの制御線50,59に挟まれている。制御線50上に、セルユニットCUが設けられ、セルユニットCU上に、制御線59が設けられている。一方の制御線がビット線BLとして機能し、他方の制御線がワード線として機能する。図11に示された接続関係に基づくと、制御線50がワード線であり、制御線59がビット線である。
【0117】
低電界電流制限素子としてのダイオード30は、2つの導電層38,39と、2つの導電層38,39に挟まれた少なくとも2つの層を有する。ダイオード30が、PINダイオードである場合、そのダイオード30は、P型半導体層と、N型半導体層と、P型半導体層とN型半導体層との間に挟まれた真性半導体層(I型半導体層とよぶ)とを含む。P型及びN型半導体層の積層順序は、制御線とセルユニットの接続関係に応じて、異なる。図11に示される接続関係によれば、抵抗変化素子20の電極29上に、導電層38を介してP型半導体層が設けられる。P型半導体層上に、I型半導体層が設けられ、I型半導体層上に、N型半導体層33が設けられる。N型半導体層とビット線59との間に、導電層39が設けられる。尚、抵抗変化素子20の電極29上に、ダイオード30が設けられる場合、導電層38は、省略されてもよい。
【0118】
尚、PNダイオードが低電界電流制限素子30として用いられた場合、PNダイオード30は、P型半導体層とN型半導体層とを含む。また、MISダイオードが低電界電流制限素子として用いられた場合、MISダイオード30は、半導体層と、金属層と、半導体層と金属層に挟まれた絶縁層とを含む。
【0119】
上述のように、本実施形態の抵抗変化素子20は、2つの電極28,29に挟まれている抵抗変化膜は、立方晶の結晶構造を有するHf1−xMn膜21である。Hfに対するMnの組成比x/(1−x)は、0.25から0.35の範囲、より好ましくは、0.30程度に設定されている。そして、立方晶のHf1−xMn膜21は、例えば、<100>配向している。
【0120】
抵抗変化膜としての立方晶のHfMnO膜21は、下部電極28上に設けられている。上部電極29は、HfMnO膜21上に設けられている。
【0121】
ダイオード30は、抵抗変化素子20の電極29上に積層される。導電層38はダイオード30の底部に設けられ、導電層39はダイオードの上部に設けられている。導電層38,39は、ダイオードの電極、又は、接着層、拡散防止層として用いられる。接着層は、2つの素子20,30間の剥離、素子30と制御線50,59との剥離するのを防止する。拡散防止層は、2つの素子20,30間、素子30と制御線50,59との間における不純物の拡散を防止する。抵抗変化素子20の電極28,29が、接着層や拡散防止層としての機能を有していてもよい。
【0122】
抵抗変化素子20は、電極29及び導電層38を介して、ダイオード30に、直列接続されている。
【0123】
図9乃至図13を用いて、抵抗変化型メモリの動作について説明する。尚、ここでは、図11乃至図13に示される回路構成(接続関係)を有するクロスポイント型メモリセルアレイの動作について説明するが、メモリセルアレイ及びセルユニットの回路構成に応じて、ビット線及びワード線に印加される電圧及びその極性が変化されるのは、もちろんである。
【0124】
まず、本実施形態の抵抗変化素子20を用いた抵抗変化型メモリの読み出し動作について説明する。
【0125】
制御信号CMD、データDT及びアドレス信号ADRが外部からチップ1内に入力される。
【0126】
ステートマシーン8は、アドレス信号ADRに基づいて、ロウ及びカラム制御回路3,4にワード線及びビット線を駆動させる。ロウ制御回路3は、アドレス信号ADRが示すワード線を選択する。カラム制御回路4は、アドレス信号ADRが示しているビット線を選択する。以下では、アドレス信号ADRによって示された動作の対象のワード線及びビット線のことを、選択ワード線及び選択ビット線とそれぞれよび、選択ワード線及び選択ビット線以外のワード線及びビット線のことを、非選択ワード線及び非選択ビット線とそれぞれよぶ。
【0127】
また、ステートマシーン8は、実行する動作に応じて、ビット線及びワード線に印加される所定の電圧を、電位生成回路10に生成させる。読み出し動作時において、電位生成回路10は、読み出し電圧Vrdを生成する。
【0128】
生成された読み出し電圧Vrdは、選択ワード線及び選択ビット線に接続された動作の対象のセルユニット(以下、選択セルユニットとよぶ)に、印加される。ダイオードを含むセルユニットにおいて、ダイオード30に順バイアスが印加されるように、読み出し電圧Vrdが選択ワード線及び選択ビット線に印加される。それゆえ、図11に示される回路構成のメモリセルアレイにおいて、例えば、選択ワード線に読み出し電圧Vrd(Vrd>0)が印加され、選択ビット線にグランド電圧(0V)が印加される。
【0129】
読み出し電圧Vrdの大きさは、セット/リセット電圧Vset,Vresetの大きさより小さい。それゆえ、読み出し電圧Vrdの印加によって、酸素イオンの移動(電界拡散)は、ほとんど生じない。それゆえ、読み出し時における誤書き込みは低減される。
【0130】
これに対して、読み出し動作時、選択セルユニット以外のセルユニット(以下、非選択セルユニットとよぶ)に対して、それらのダイオードに逆バイアスが印加されるように、非選択ワード線及び非選択ビット線に、非選択電圧が印加される。これによって、非選択セルユニットに起因するクロストークが抑制される。非選択電圧も、読み出し電圧と同様に、電位生成回路8によって、生成される。また、非選択電圧も、読み出し電圧と同様に、本実施形態の抵抗変化素子20内の酸素イオンが電界拡散しない大きさに設定される。また、非選択電圧の大きさは、選択ワード線に接続された非選択セルユニットの端子間の電位差、及び、選択ビット線に接続された非選択セルユニットの端子間の電位差が、実質的に0Vになるように、設定される。
【0131】
図11の回路構成のメモリセルアレイM1において、選択セルユニット内のダイオード30に順バイアスを印加する場合、ステートマシーン8及びロウ/カラム制御回路3,4によって、選択ワードがアノード側(高電位側)に設定され、選択ビット線がカソード側(低電位側)に設定される。
【0132】
本実施形態の抵抗変化素子20の低抵抗状態において、立方晶のHfMnO膜の酸素イオンが、一方の電極側に電界拡散し(移動し)、膜内における相対的な酸素欠損の個数が増大する。この結果として、抵抗変化素子20(抵抗変化膜21)の抵抗値は低くなり、読み出し電圧によって生じる読み出し電流は大きくなる。
【0133】
一方、本実施形態の抵抗変化素子20の高抵抗状態において、HfMnO膜の酸素イオンは、所定の格子位置(Oサイト)に配位しており、膜内における相対的な酸素欠損の個数は、低抵抗状態の抵抗変化膜(HfMnO)より減少する。この結果として、抵抗変化素子20の抵抗値は高くなり、高抵抗状態の抵抗変化素子20を流れる読み出し電流の大きさは、低抵抗状態の素子20を流れる読み出し電流に比較して小さくなる。
【0134】
これらの読み出し電流の大きさの違いから、選択セルユニット内の抵抗変化素子の抵抗値が判別される。
【0135】
このように、選択セルユニット内のメモリ素子としての抵抗変化素子20の抵抗状態に応じて、その抵抗変化素子20が記憶しているデータが、読み出される。
【0136】
以上のように、本実施形態の抵抗変化素子20を用いた抵抗変化型メモリにおいて、ステートマシーン(制御回路)8の制御によって、メモリ素子としての抵抗変化素子20の抵抗状態を判別し、データを読み出すことができる。
【0137】
本実施形態の抵抗変化素子20を用いた抵抗変化型メモリのセット/リセット動作について説明する。ここでは、本実施形態の抵抗変化素子20は、バイポーラ動作で駆動する場合について説明する。それゆえ、抵抗変化素子20を高抵抗状態に変化させる場合と抵抗変化素子20を低抵抗状態に変化させる場合とで、極性が反対の電圧が、選択セルユニット、選択ワード線及び選択ビット線に印加される。
【0138】
セット/リセット動作において、読み出し動作と同様に、入力されたコマンド信号CMD及びアドレス信号ADRに基づいて、ステートマシーン8が、ロウ/カラム制御回路3,4及び電位生成回路10の動作を制御する。
ロウ制御回路3は、選択ワード線を選択し、カラム制御回路4は、選択ビット線を選択する。セット動作(書き込み動作)時において、電位生成回路10は、セット電圧Vsetを生成する。一方、リセット動作(消去動作)時において、電位生成回路10は、リセット電圧Vresetを生成する。また、電位生成回路10は、非選択ワード線及び非選択ビット線に印加する非選択電位を生成する。
【0139】
セット動作時において、ステートマシーン8は、ロウ/カラム制御回路3,4及び電位生成回路10を制御して、セット電圧Vset(Vset>0)を選択ワード線に印加し、グランド電圧(0V)を選択ビット線に印加する。これによって、選択ワード線側から選択ビット線側に向かう電界が、選択セルユニットに印加される。
【0140】
図12及び図13に示されるセルユニットにおいて、セット電圧Vsetによって生じた電界によって、抵抗変化膜内の酸素イオンは、ワード線側(アノード側)の電極28に向かって、電界拡散する。その結果として、抵抗変化膜21内において酸素欠損が相対的に増大し、抵抗変化素子20は低抵抗状態に変化する。
【0141】
一方、リセット動作時において、ステートマシーン8は、ロウ/カラム制御回路3,4及び電位生成回路10を制御して、リセット電圧Vresetを選択ワード線に印加し、グランド電圧を選択ビット線に印加する。バイポーラ動作の抵抗変化素子のセット電圧とリセット電圧とは反対の極性を有する。そのため、この場合において、リセット電圧Vresetは、負の電圧(Vreset<0)であり、例えば、“−Vset”の関係を有する。
【0142】
これによって、選択ビット線側から選択ワード線側に向かう電界が、選択セルユニットに印加される。
【0143】
但し、セット電圧とリセット電圧とで極性が互いに反対であれば、セルユニット内のダイオードによる電圧降下を考慮して、リセット電圧Vresetの大きさ(電圧値)は、セット線圧Vsetの大きさと異なってもよい。
【0144】
また、リセット動作において、セルユニットに印加される電圧の極性が、セット動作の電圧の極性と反対であればよいので、選択ビット線に、正のリセット電圧Vreset(Vreset>0)が印加され、選択ワード線にグランド電圧が印加されてもよい。
【0145】
図12及び図13に示されるセルユニットにおいて、リセット電圧Vresetによって生じた電界によって、抵抗変化膜21としてのHfMnO膜21内の酸素イオンは、ビット線側(アノード側)の電極29に向かって、電界拡散する。電界拡散した酸素イオンは、酸素欠損の位置に配位する。その結果として、高抵抗状態の抵抗変化膜21内において、低抵抗状態の抵抗変化膜に比較して酸素欠損が相対的に減少し、抵抗変化素子20は高抵抗状態に変化する。
【0146】
このように、メモリ素子としての抵抗変化素子20に対するセット動作(書き込み動作)及びリセット動作(消去動作)が、バイポーラ動作によって実行される。
【0147】
尚、セット動作及びリセット動作における非選択電圧の大きさは、非選択ワード線−非選択ビット線間の非選択セルユニットの端子間、選択ワード線−非選択ビット線間の非選択セルユニットの端子間、或いは、非選択ワード線−選択ビット線間の非選択セルユニットの端子間に対して、0V又は酸素イオンが電界拡散しない大きさの電圧が印加されるように、適宜設定される。その非選択電圧が、非選択ワード線及び非選択ビット線に印加される。これによって、非選択セルユニットに対してセット動作及びリセット動作が実行される動作不良が、低減される。
【0148】
以上のように、抵抗変化膜が立方晶のHfMnO膜である抵抗変化素子20を用いた抵抗変化型メモリにおいて、メモリ素子としての抵抗変化素子20の抵抗状態を、ステートマシーン(制御回路)8の制御によって変化させることができる。
【0149】
図9乃至図13に示されるように、第1の実施形態の抵抗変化素子20は、抵抗変化型メモリに適用できる。本実施形態の抵抗変化素子20を用いることによって、特性が向上した抵抗変化型メモリを提供できる。
【0150】
(c) 製造方法
図14乃至図16を用いて、第1の実施形態の抵抗変化素子20の製造方法について、説明する。尚、ここでは、抵抗変化素子の製造方法に加えて、適用例で示したクロスポイント型メモリセルアレイの製造方法についても、説明する。図14乃至図16に示される各製造工程において、基板表面に対して平行方向に沿う断面工程図が、それぞれ示されている。
【0151】
図14に示されるように、基板(例えば、層間絶縁膜)11上に、制御線を形成するための配線層(例えば、タングステン層)50Aが、スパッタ法を用いて、堆積される。例えば、層間絶縁膜11下方の半導体基板上面に、例えば、電界効果トランジスタなどの抵抗変化型メモリの構成素子が、形成されている。
【0152】
配線層50A上に、抵抗変化素子の下部電極を形成するための導電膜28Aが形成される。
【0153】
導電膜28A上に、抵抗変化膜21Aが堆積される。本実施形態の製造方法において、形成される抵抗変化膜21Aは、Hf1−xMn膜(単に、HfMnO膜ともよぶ)である。抵抗変化膜としてのHfMnO膜21Aにおいて、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)は、0.25以上、0.35以下の範囲内に設定される。より好ましくは、組成比x/(1−x)は、0.30程度に設定される。また、Oの組成yは、例えば、1から2の範囲に設定されている。
【0154】
例えば、上記の組成比(0.25〜0.35)を有するHfMnO膜は、スパッタ法又はCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いて、堆積される。
【0155】
抵抗変化膜21Aがスパッタ法によって形成される場合、HfMnOの化合物ターゲットがアルゴン(Ar)とOの混合ガスによってスパッタリングされることによって、HfMnO膜21Aが、導電膜(電極)28A上に堆積される。化合物ターゲット内のHf及びMnの組成比が調整されることによって、形成されたHfMnO膜内におけるHfとMnとの組成比が、所定の値となるように制御される。化合物ターゲットのHfMnOにおけるHf及びMnの組成比(モル比率)は、HfO単体におけるHfのレート及びMnO単体におけるMnのレートから算出された体積比とHfO及びMnOの分子量とに基づいて、設定されている。
【0156】
抵抗変化膜がCVD法によって形成される場合、HfOを形成するための原料ガス80に対して、in−situで、Mnを含むガス81が混合されることによって、HfMnO膜21Aが、導電膜(電極)28A上に堆積される。2つのガス80,81の混合比が調整されることによって、形成されたHfMnO膜内におけるHfとMnとの組成比が、所定の値となるように制御される。
【0157】
また、図15に示されるように、堆積後のHfO膜内にMnイオン82がイオン注入法によって導入されることによって、所定の組成比のHfMnO膜が形成されてもよい。形成されたHfMnO膜内におけるHfとMnとの組成比は、Mnイオン82のドーズ量を調整することによって、制御される。
【0158】
このように、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)が、例えば、0.25以上、0.35以下の範囲内に設定されることによって、導電膜28A上に、立方晶の結晶構造を有するHf1−xMn膜21Aが形成される。立方晶のHfMnO膜は、例えば、<100>方位に配向している。尚、HfMnO膜21Aは、(100)面または(200)面など<100>方位に配向した配向膜であることが好ましいが、<100>方位に配向した結晶相又は結晶粒を含む多結晶膜(又は多相膜)でもよい。
【0159】
抵抗変化膜としてのHfMnO膜21の堆積中において、形成されるHfMnO膜の結晶化を促進するために、例えば、200℃以上、400℃以下の基板加熱処理が実行されることが好ましい。但し、加熱処理の温度は、400℃以上でもよい。また、良好な結晶性を有する立方晶のHfMnO膜を形成するために、HfMnO膜の下地層となる導電膜28の材料を、適宜選択することが好ましい。
【0160】
HfMnO膜21Aが堆積された後、抵抗変化素子の上部電極を形成するための導電膜(図示せず)が、HfMnO膜21A上に形成される。
【0161】
抵抗変化素子の上部/下部電極としての導電膜28Aにおいて、電極(導電膜)の材料の酸化物の生成自由エネルギーの絶対値が、Mnの酸化物の生成自由エネルギーの絶対値よりも小さいことが好ましい。例えば、Pt、Co、Ni、W、Ruのグループから選択される少なくとも1つの材料が、抵抗変化素子の電極を形成するための材料として用いられる。
【0162】
これによって、電極(導電膜)と抵抗変化膜(HfMnO膜)21Aとの化学反応や抵抗変化膜21A内における電極(導電膜)の構成原子の拡散などが抑制される。それゆえ、抵抗変化膜21A及びその抵抗変化膜21Aを用いた抵抗変化素子の特性劣化が低減される。
【0163】
抵抗変化膜(HfMnO膜)21A上の導電膜上に、ダイオードの構成部材(例えば、半導体層)が、CVD法又はスパッタ法を用いて形成される。セルユニットの構成部材上に、レジスト膜が塗布される。このレジスト膜が、フォトリソグラフィー技術によってパターニングされる。パターニングされたレジスト膜(図示せず)をマスクとして、RIE(Reactive Ion Etching)法が実行される。
【0164】
これによって、図16に示されるように、積層体100が、基板11上に形成される。複数の積層体100は、エッチングによって、例えば、第2方向に分割されている。そして、積層体100は、第1方向に延在している。積層体100は、抵抗変化素子の構成部材21B,28B,29Bとダイオードの構成部材30Bとを含んでいる。
【0165】
積層体100の形成と同時に、配線層が加工され、第2方向に分割された複数の制御線50が、基板11上に形成される。制御線50は、第1方向に延在する。
【0166】
例えば、隣接する積層体100間に、層間絶縁膜89が埋め込まれた後、積層体100及び層間絶縁膜89上に、制御線を形成するための配線層59Bが堆積される。
【0167】
そして、配線層59B上に、第2方向に延在する直線状のマスク(図示せず)が、フォトリソグラフィー技術によって形成される。このマスクに基づいて、第1方向に延在する積層体100が、RIE法を用いて、第1方向に分割される。この加工の際、第1方向に延在する制御線50が分断されないように、エッチング条件(例えば、エッチング選択比)が制御される。これによって、制御線50上に、抵抗変化素子20とダイオード30とを含むセルユニットが形成される。セルユニットの形成と同時に、第2方向に延在する制御線が形成される。
【0168】
尚、図10のクロスポイント型メモリセルアレイにおいて、製造工程の簡略化のため、セルユニットとしての積層体100を第1方向に分割するエッチングは、積層された2つのメモリセルアレイの構成部材に対して、同時に実行されてもよい。
【0169】
即ち、図15に示される工程の後、第1方向に延在する積層体が第1方向に分割されずに、層間絶縁膜89が、隣接する積層体100間に形成される。そして、層間絶縁膜及び積層体100上に、制御線(ここでは、ビット線)を形成するための配線層59Bが、堆積される。その配線層59B上に、第2のメモリセルアレイのための構成部材が、図11乃至図14に示された手法と実質的に同じ手法で、堆積される。
【0170】
この後、第2のメモリセルアレイの構成部材と第1のメモリセルアレイの積層体100Aとを第1方向に分割するためのパターニング及びエッチングが、実行される。これによって、第1のメモリセルアレイを加工するための1つの工程が、第1のメモリセルアレイ上に積層された第2のメモリセルアレイを加工するための工程と、共通に実行される。
【0171】
これと同時に、積層された2つのメモリセルアレイに挟まれた配線層も、2つのメモリセルアレイの第1方向に対する加工と同時に、加工される。それゆえ、第2方向に延在する制御線が、第1及び第2のメモリセルアレイの第1方向に対する加工と同時に形成される。
【0172】
このように、n番目(n>0)のメモリセルアレイ(セルユニット)を形成するための加工と同時に、n+1番目のメモリセルアレイを形成するための加工が、実行される。これによって、下層のメモリセルアレイを第1及び第2方向に加工した後、上層のメモリセルアレイを別途の工程で形成する場合に比較して、製造工程が簡略化できる。
【0173】
尚、制御線及びセルユニットを加工するためのマスクは、レジストを用いずに、側壁加工技術によって形成されてもよい。
【0174】
以上の製造工程が所定の数のメモリセルアレイが積層されるまで繰り返されることによって、図9乃至図13に示された抵抗変化型メモリが、形成される。
【0175】
上述の製造方法によって、抵抗変化膜としての立方晶のHfMnO膜21を含む抵抗変化素子20が形成される。抵抗変化膜としての立方晶のHfMnO膜21において、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)を、0.25以上、0.35以下の範囲内に設定されている。例えば、立方晶のHfMnO膜21は、<100>配向している。
【0176】
これによって、抵抗変化膜21内において、酸素イオンが、酸素欠損を経由して、比較的に容易に電界拡散する。それゆえ、抵抗変化素子20のセット/リセット電圧を低減できる。
【0177】
また、上述のように、本実施形態の抵抗変化素子20は、その製造工程に、フォーミング工程が必要ない。それゆえ、本実施形態の抵抗変化素子20によれば、抵抗変化型メモリの製造工程及び製造コストを低減できる。
【0178】
尚、本実施形態において、本実施形態の抵抗変化素子20のみを単独で形成する場合には、図14乃至図16に示される製造工程においてダイオード30の構成部材30A,38A,39Aを形成する工程を省略すればよい。
【0179】
以上のように、本実施形態の抵抗変化素子の製造方法によれば、特性が向上した抵抗変化素子を形成できる。これとともに、本実施形態の抵抗変化素子を含む抵抗変化型メモリを提供できる。
【0180】
(2) 第2の実施形態
図17乃至図19を参照して、第2の実施形態に係る抵抗変化素子について、説明する。尚、ここでは、第2の実施形態と第1の実施形態の相違点が主に説明され、第2の実施形態と第1の実施形態との共通点は、必要に応じて説明される。
【0181】
図17を用いて、第2の実施形態の抵抗変化素子20Xの構造について説明する。
【0182】
本実施形態の抵抗変化素子20Aは、抵抗変化膜21と一方の電極29との間に、イオン格納層25を有する。イオン格納層25は、抵抗変化素子20Aのセット動作時において陽極(アノード)となる電極(ここでは、上部電極29)に、隣接している。
【0183】
イオン格納層25は、セット動作によってアノード側(電極29側)に移動した酸素イオンを一時的に保持する。セット動作によって、電極29側に移動した酸素イオンは、バイポーラ動作によるリセット動作が実行されるまで、イオン格納層25内に格納される。
【0184】
イオン格納層25内に格納された酸素イオンは、リセット動作時の電界拡散によって、イオン格納層25から放出され、HfMnO膜21の酸素欠損の位置に戻る。
【0185】
イオン格納層25は、例えば、酸素欠損49Xを有する。このイオン格納層25内の酸素欠損49Xによって、セット動作時にアノードとなる電極29側に移動した酸素イオンが、捕捉される。イオン格納層25に用いられる材料は、バンドギャップがシリコンより大きく、酸素欠損を含む材料であることが、好ましい。イオン格納層25は、絶縁体でもよいし、導電体でもよい。イオン格納層25の材料の例として、HfO、TiO、MoO、WO、Al、CoO、NiO、RuOなどが挙げられる。尚、ここでは、酸化物を例示したが、外部から与えられたエネルギー(例えば、電圧)によって酸素イオンを可逆的に、格納及び放出する材料であれば、窒化物、酸窒化物又は炭化物などが、イオン格納層25の材料に用いられてもよい。尚、イオン拡散層25の抵抗値(抵抗率)が、抵抗変化素子20Xの抵抗値に対して大きな影響を及ぼさないことが好ましい。
【0186】
本実施形態の抵抗変化素子20Xの抵抗変化膜21は、第1の実施形態と同様に、立方晶のHf1−xMn膜である。HfMnO膜21において、Hfに対するMnの組成比x/(1−x)は、0.25から0.35の範囲、好ましくは、0.3程度に設定されている。例えば、立方晶のHfMnO膜21は、<100>配向している。
【0187】
図18及び図19を用いて、第2の実施形態の抵抗変化素子20Xの動作について、説明する。ここでは、本実施形態の抵抗変化素子20Xがバイポーラ動作で駆動する場合について説明する。図7及び図8を用いて説明した動作と実質的に同じ動作については、必要に応じて説明する。
【0188】
図18を用いて、本実施形態の抵抗変化素子20Xを低抵抗状態に変化させる動作(セット動作)について、説明する。
図18に示されるように、セット動作時において、抵抗変化素子20の上部電極29がアノード(陽極)に設定され、抵抗変化素子20の下部電極28がカソード(陰極)に設定される。2つの電極28,29間に発生した電界によって、抵抗変化膜としてのHfMnO膜21内の酸素イオン(O2−)42が、上部電極29側に移動する。
【0189】
酸素イオン42は、上部電極29とHfMnO膜21との間に設けられたイオン格納層25内に格納される。酸素イオン42は、イオン格納層25内の酸素欠損に捕捉(トラップ)される。
【0190】
このように、電界拡散によって移動した酸素イオン42が、イオン格納層25内の酸素欠損にトラップされることによって、電極28,29間にセット電圧が印加されなくても、電極29側へ電界拡散した酸素イオンが、HfMnO膜21内の酸素欠損にほとんど戻ることはない。
【0191】
酸素イオン42の電界拡散によって、抵抗変化膜21内に酸素欠損が形成されるので、HfMnO膜21の抵抗値は低下する。したがって、抵抗変化素子20Xは、低抵抗状態を示す。
【0192】
図19を用いて、本実施形態の抵抗変化素子20Xを高抵抗状態に変化させる動作(リセット動作)について、説明する。
図19に示されるように、リセット動作時において、抵抗変化素子20Xの上部電極29がカソード(陰極)に設定され、抵抗変化素子20Xの下部電極28がアノード(陽極)に設定される。
【0193】
イオン格納層25内に格納された酸素イオン49は、セット動作時と逆向きの電界によって、イオン格納層25内から放出(デトラップ)され、HfMnO膜21内に電界拡散する。イオン格納層25から放出された酸素イオン49は、HfMnO膜21内の酸素欠損の位置に戻る。
【0194】
これによって、HfMnO膜21内の酸素欠損の個数が低減するので、抵抗変化膜21の抵抗値は増加する。したがって、抵抗変化素子20Xは、高抵抗状態を示す。
【0195】
尚、本実施形態の抵抗変化素子20Xは、第1の実施形態の抵抗変化素子と同様に、ユニポーラ動作によって駆動できるのは、もちろんである。
【0196】
以上のように、第2の実施形態の抵抗変化素子において、セット動作時にアノードとなる電極29と抵抗変化膜21との間に、イオン格納層25が設けられる。
【0197】
イオン格納層25は、セット動作によってアノード側の電極に移動する酸素イオンを、リセット動作が実行されるまでの期間において、保持する。これによって、第2の実施形態の抵抗変化素子によれば、抵抗変化素子のデータリテンション特性が向上する。
【0198】
尚、第2の実施形態の抵抗変化素子20Xは、第1の実施形態と同様に、抵抗変化型メモリに適用できるのはもちろんである。
【0199】
また、第2の実施形態の抵抗変化素子20Xの製造方法は、イオン格納層が抵抗変化幕に隣接して形成される工程が追加されるのみで、実質的な工程は、第1の実施形態の抵抗変化素子の製造方法と同様である。
【0200】
したがって、第2の実施形態の抵抗変化素子20Xによれば、第1の実施形態と同様に、特性の向上した抵抗変化素子を提供できる。
【0201】
[その他]
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0202】
20:抵抗変化素子、21:抵抗変化膜、25:イオン格納層、28,29:電極、41:Hf、42:酸素、43:Mn、49,49X:酸素欠損。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の電極と、
前記第1の電極と第2の電極との間に設けられた抵抗変化膜と、を具備し、
前記抵抗変化膜は、立方晶のHf1−xMn膜(0<x<1)を含む、
ことを特徴とする抵抗変化素子。
【請求項2】
前記Hf1−xMn膜において、x/(1−x)で示されるHfに対するMnの組成比は、0.25以上、0.35以下であることを特徴とする請求項1に記載の抵抗変化素子。
【請求項3】
前記Hf1−xMn膜は、膜面に対して垂直方向において、<100>配向していることを特徴とする請求項1又は2に記載の抵抗変化素子。
【請求項4】
前記第1及び第2の電極に用いられる材料の酸化物の生成自由エネルギーの絶対値は、Mnの酸化物の生成自由エネルギーより小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抵抗変化素子。
【請求項5】
前記第1の電極と前記抵抗変化膜との間に設けられるイオン格納層を、さらに具備し、
前記抵抗変化素子の動作時、前記イオン格納層は、前記第1の電極に向かって移動したOイオンを保持することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の抵抗変化素子。
【請求項6】
第1の電極層上に、立方晶のHf1−xMn膜(0<x<1)を含む抵抗変化膜を形成する工程と、
前記抵抗変化膜上に、第2の電極層を形成する工程と、
を具備する抵抗変化素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−69609(P2012−69609A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211430(P2010−211430)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】