説明

押釦スイッチ用部材および押釦スイッチ用部材の製造方法

【課題】粘着剤の粘着作業を簡素化することが可能でかつ寸法変化が生じにくい押釦スイッチ用部材を提供すること。
【解決手段】押釦スイッチ用部材1は、弾性部材からなるカバー部材2と、樹脂製または金属製のキートップ3と、カバー部材2とキートップ3とを貼り合わせるための粘着剤10および複数のビーズ9を有しカバー部材2とキートップ3との間に配置される粘着剤層4とを備えている。この押釦スイッチ用部材1では、カバー部材2への粘着剤10の粘着作業時に、複数のビーズ9を利用して、カバー部材2と粘着剤10との位置合せを行いながら、カバー部材2への粘着剤10の粘着を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押釦スイッチ用部材および押釦スイッチ用部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、携帯電話、携帯情報端末(PDA)あるいは電子手帳等の各種の電気・電子機器の操作部分には、キートップとカバー部材とが貼り合わされて形成された押釦スイッチ用部材が使用されている。この種の押釦スイッチ用部材として、粘着剤(両面テープ)によってキートップとカバー部材とが貼り合わされた押釦スイッチ用部材が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−343174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、粘着剤は、剛性が低く、キートップやカバー部材に粘着させる際に変形しやすい。そのため、特許文献1に記載の押釦スイッチ用部材では、粘着作業時に、精度の高い位置決めを行わないと、目標位置でキートップおよび/またはカバー部材に粘着剤を粘着させることができないといった事態が生じ得る。また、一旦、粘着剤を粘着させた後に、粘着位置を再調整することは困難である。したがって、特許文献1に記載の押釦スイッチ用部材では、粘着剤の粘着作業の作業効率が低下する。
【0005】
また、粘着剤は接着剤に比べて硬度が低く柔らかいため、外部からの力によって変形しやすい。たとえば、図8(A)に示すように、キートップ101の上方から外力F1が働くと、キートップ101とカバー部材102との間の粘着剤103が図示上下方向へ縮む。また、図8(B)に示すように、キートップ101の側方から外力F2が働くと粘着剤103が図示横方向へずれる。したがって、特許文献1に記載の押釦スイッチ用部材では、キートップとカバー部材とを貼り合わせた後に寸法変化が生じるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、粘着剤の粘着作業を簡素化することが可能でかつ寸法変化が生じにくい押釦スイッチ用部材を提供することにある。また、本発明の課題は、寸法変化が生じにくい押釦スイッチ用部材を製造することが可能でかつ粘着剤の粘着作業を簡素化することが可能な押釦スイッチ用部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の押釦スイッチ用部材は、弾性部材からなるカバー部材と、樹脂製または金属製のキートップと、カバー部材とキートップとを貼り合わせるための粘着剤および複数のビーズを有しカバー部材とキートップとの間に配置される粘着剤層とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の押釦スイッチ用部材では、カバー部材とキートップとの間に配置される粘着剤層が複数のビーズを有している。そのため、カバー部材および/またはキートップへの粘着剤の粘着作業時に、ビーズを利用して、カバー部材やキートップと粘着剤との位置合せを行いながら、カバー部材やキートップへの粘着剤の粘着を行うことが可能になる。その結果、本発明では、粘着剤の粘着作業を簡素化することが可能になる。また、本発明では、カバー部材とキートップとの間に配置される粘着剤層が複数のビーズを有しているため、キートップ等に外力が生じても、ビーズの剛性で粘着剤層が変形しにくくなる。その結果、本発明では、押釦スイッチ用部材の寸法変化が生じにくくなる。
【0009】
本発明において、ビーズは、カバー部材およびキートップの少なくともいずれか一方に接していることが好ましい。このように構成すると、ビーズを用いて、カバー部材およびキートップの少なくともいずれか一方と粘着剤との位置合せをより容易に行うことが可能となる。
【0010】
本発明において、ビーズは、粘着剤層の厚さ方向に直交する方向からみたとき一層に配置されていることが好ましい。このように構成すると、粘着剤層にビーズが含まれている場合であっても、粘着剤層を薄くすることができる。
【0011】
本発明において、ビーズは球状に形成されていることが好ましい。このように構成すると、カバー部材および/またはキートップとビーズとの間の接触抵抗を軽減することができる。そのため、カバー部材やキートップと粘着剤との位置合せをさらに容易に行うことが可能になる。
【0012】
本発明において、ビーズの径は、粘着剤の厚さ以下であることが好ましい。このように構成すると、カバー部材およびキートップの両者へ確実に粘着剤を接触させることができ、カバー部材とキートップとの接着力を高めることができる。
【0013】
本発明において、ビーズの重心は、粘着剤の厚さ方向の一方に偏っていることが好ましい。このように構成すると、粘着剤層にビーズが含まれている場合であっても、粘着剤層を薄くすることができる。
【0014】
また、上記の課題を解決するため、本発明は、弾性部材からなるカバー部材と、樹脂製または金属製のキートップとを備える押釦スイッチ用部材の製造方法において、カバー部材とキートップとを接着するための粘着剤の一方の粘着面に複数のビーズを配置するビーズ配置工程と、一方の粘着面にカバー部材またはキートップの一方を粘着させる第1粘着工程と、粘着剤の他方の粘着面にカバー部材またはキートップの他方を粘着させる第2粘着工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法では、ビーズ配置工程で、カバー部材とキートップとを接着するための粘着剤の一方の粘着面に複数のビーズを配置している。そのため、少なくとも、一方の粘着面にカバー部材またはキートップの一方を粘着する第1粘着工程において、粘着剤の一方の粘着面に配置された複数のビーズを利用し、カバー部材またはキートップの一方と一方の粘着面とを接触させないようにして、カバー部材やキートップと粘着剤との位置合せを行いながら、カバー部材やキートップへの粘着剤の粘着を行うことができる。その結果、本発明では、粘着剤の粘着作業を簡素化することが可能になる。また、本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法で製造された押釦スイッチ用部材では、粘着剤の中に複数のビーズが含まれているため、キートップ等に外力が生じても、ビーズの剛性で押釦スイッチ用部材の寸法変化が生じにくくなる。
【0016】
本発明において、ビーズ配置工程を、粘着剤が剥離可能なセパレータに他方の粘着面が粘着した状態で行い、ビーズ配置工程後に第1粘着工程を行い、第1粘着工程後に第2粘着工程を行うことが好ましい。このように構成すると、複数のビーズが配置された後の粘着剤を比較的容易に取り扱うことができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の押釦スイッチ用部材では、粘着剤の粘着作業を簡素化することが可能になり、かつ、寸法変化が生じにくくなる。また、本発明の押釦スイッチ用部材の製造方法では、寸法変化が生じにくい押釦スイッチ用部材を製造することが可能になり、かつ、粘着剤の粘着作業を簡素化することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(押釦スイッチ用部材の構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる押釦スイッチ用部材1を側面から示す図である。
【0020】
本形態の押釦スイッチ用部材1(以下、「スイッチ用部材1」とする。)は、携帯電話、携帯情報端末、リモコンあるいは電子手帳等の各種の電気・電子機器の操作部分に使用されるものであり、図1に示すように、カバー部材2と、キートップ3と、カバー部材2とキートップ3との間に形成される粘着剤層4とを備えている。
【0021】
カバー部材2は、弾性部材で形成されている。たとえば、カバー部材2は、耐久性を考慮して、シリコーンゴムで形成されており、透光性を有している。なお、カバー部材2は、たとえば、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴムまたはフッ素ゴム等の合成ゴム、あるいは、天然ゴム、ないしは、ウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー等で形成されても良い。上述のように、耐久性を考慮した場合には、カバー部材2はシリコーンゴムで形成されることが好ましいが、カバー部材2の薄型化を考慮した場合には、カバー部材2は、ウレタン系エラストマーで形成されることが好ましい。また、カバー部材2の薄型化を考慮した場合には、カバー部材2は、ウレタン系エストラマーとシリコーンゴムとの積層品で形成されても良いし、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート等の熱可塑性樹脂からなる薄膜シートで形成されても良い。
【0022】
また、カバー部材2は、スイッチ用部材1が使用される電気・電子機器の接点部(図示省略)を押すための押圧突起2aが形成される押圧部2bと、押圧部2b間を接続する接続部2cとを備えている。押圧突起2aは、カバー部材2の裏面(図1の下面)に形成されている。カバー部材2の表面側(図1の上面側)は、プラズマ改質されたシリコーンゴム層2dとなっている。また、シリコーンゴム層2dの表面(図1の上面)には、プライマーからなるプライマー層6が形成され、プライマー層6の表面には、非シリコーン系有機塗料からなる塗料層7が形成されている。
【0023】
キートップ3は、樹脂で形成されている。たとえば、キートップ3は、ポリカーボネートの射出成型品である。なお、キートップ3は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)またはスチレン等の熱可塑性樹脂の射出成型品であっても良いし、不飽和ポリエステルやシリコーン等の硬化性樹脂を熱や光で硬化、成型したものであっても良い。また、キートップ3は、アルミニウム、ステンレスまたはチタン等の金属で形成されても良い。
【0024】
キートップ3の表面(図1の上面)には、文字、図形および/または記号が描かれた装飾層8が形成されている。本形態では、印刷によって装飾層8が形成されている。なお、装飾層8は、メッキ、塗装、蒸着あるいはホットスタンプ等によって形成されても良い。また、装飾層8は、キートップ3の裏面(図1の下面)に形成されても良い。この場合には、キートップ3を通して外部から装飾層8を視認可能とするために、キートップ3は透明性を有する樹脂で形成される。
【0025】
粘着剤層4は、カバー部材2(具体的には、押圧部2b)の表面側とキートップ3の底面側とを貼り合わせるための粘着剤10と複数のビーズ9とを備えている。具体的には、粘着剤10の中に複数のビーズ9が含まれることで粘着剤層4が形成されている。なお、図1では、便宜上、一部のビーズ9にのみ符号を付している。
【0026】
粘着剤10は、カバー部材2およびキートップ3の材質、粘着力、保持力、耐熱性および剥離力等を考慮して適宜選択される。たとえば、粘着剤10は、アクリル系の粘着剤である。なお、粘着剤10は、ウレタン系、ポリエステル系、ゴム系あるいはシリコーン系の粘着剤であっても良いし、ホットメルト系の粘着剤であっても良い。また、カバー部材2とキートップ3との間におけるズレや、カバー部材2やキートップ3の表面の微細な凹凸に対する粘着剤10の追従性を考慮すると、粘着剤10の硬さ(具体的には、JISK7312で規定されるスプリング硬さ試験機C型で測定される硬さ)は、1〜10の範囲であることが好ましい。
【0027】
ビーズ9は、樹脂で形成されている。たとえば、ビーズ9は、アクリルで形成されている。なお、ビーズ9は、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ナイロン、ポリアセタールのような樹脂で形成されても良いし、ソーダ石灰、鉛、硼珪酸ガラス類、アルミナ、ジルコニア、窒化珪素のようなセラミック、あるいは、鋼、ステンレス、アルミニウム、チタンのような金属等で形成されても良い。また、ビーズ9はゴムで形成されても良い。また、たとえば、キートップ3が透光性を有する樹脂で形成され、カバー部材2側から光が照射される場合には、光拡散性を有する材料や透光性を有する材料でビーズ9を形成して、カバー部材2側から光が照射されても、ビーズ9を目立たなくすることも可能である。さらに、ビーズ9の硬さは、粘着剤10の硬さを超えるものであれば良い。
【0028】
本形態のビーズ9は、中実の球状に形成されている。具体的には、ビーズ9は、図1に示すように、粘着剤10の厚さtよりも小さな径の球状に形成されている。また、本形態では、ビーズ9は、粘着剤10の厚さ方向に直交する方向(図1の左右方向あるいは紙面垂直方向)からみたとき一層に配置されるとともに、カバー部材2(具体的には、押圧部2b)の表面側に接している。すなわち、本形態では、粘着剤層4において、ビーズ9の重心は、粘着剤10の厚さ方向の一方(具体的には、図1の下方)に偏っている。
【0029】
なお、ビーズ9の径は、粘着剤10の厚さtと同じであっても良い。また、本形態では、複数のビーズ9の径が略同一となっているが、複数のビーズ9の径が異なっても良い。さらに、ビーズ9は、中空の球状に形成されても良い。また、ビーズ9は、円柱状、円筒状、多角柱状、多角筒状あるいは多角錐状等に形成されても良い。この場合には、ビーズ9の軸方向が粘着剤10の厚さ方向を向いた状態で、ビーズ9が配置されても良いし、ビーズ9の軸方向が粘着剤10の厚さ方向に対して傾いた方向を向いた状態で、ビーズ9が配置されても良い。すなわち、ビーズ9は、後述の粘着剤転写工程S10において、粘着剤10の第1粘着面10aとカバー部材2の表面側とが接触せずに位置合せを行うことが可能な形状で、かつ、粘着剤層4の変形を抑制できる形状であれば良い。
【0030】
(押釦スイッチ用部材の製造方法)
図2は、図1に示す押釦スイッチ用部材1の製造工程を示すフローチャートである。図3は、図1に示すキートップ3の製造工程を説明するための図である。図4は、図1に示すカバー部材2の製造工程を説明するための図である。図5は、図2に示す粘着剤加工工程S8およびビーズ配置工程S9を説明するための図である。図6は、図2に示す粘着剤転写工程S10および貼合せ工程S11を説明するための図である。
【0031】
以上のように構成されたスイッチ用部材1の製造方法の概略を以下に説明する。まず、キートップ3およびカバー部材2をそれぞれ製造する。
【0032】
キートップ3は、図3に示す工程で製造する。すなわち、まず、図3(A)に示すように、金型11を用いた射出成型でキートップ3の外形を形成する(射出成型工程S1)。具体的には、ポリカーボネート系樹脂(商品名:カリバー301−22、住友ダウ株式会社製)を射出成型してキートップ3の外形を形成する。
【0033】
その後、図3(B)に示すように、キートップ3の表面(図3(B)の上面)に装飾層8を印刷で形成する(印刷工程S2)。具体的には、蒸発乾燥型インキ(商品名:CAVメイバン、株式会社セイコーアドバンス製)で5μmの厚さの文字や図形等を印刷し、その後、乾燥温度80℃で30分乾燥させて、装飾層8を形成する。
【0034】
その後、図3(C)に示すように、射出成型で形成されたランナーやゲート等の余剰部分を刃治具により切断して(切断工程S3)、キートップ3が完成する。
【0035】
また、カバー部材2を図4に示す工程で製造する。すなわち、まず、図4(A)、(B)に示すように、金型12を用いた圧縮成型でカバー部材2の外形を形成する(圧縮成型工程S4)。具体的には、シリコーンゴムコンパウンド(商品名:DY32−6014U、東レ・ダウコーニング株式会社製)100重量部と、架橋剤(商品名:RC−8、東レ・ダウコーニング株式会社製)0.5重量部とからなる原料を、成型温度180℃、成型時間5分、成型圧力180kg/cmの条件で圧縮成型して、厚さが0.5mmとなるように、カバー部材2の外形を形成する。その後、乾燥温度200℃、乾燥時間60分にて、カバー部材2を乾燥する。
【0036】
その後、プラズマ処理を行い、図4(C)に示すように、カバー部材2の表面側(図4(C)の上面側)をプラズマ改質されたシリコーンゴム層2dとする(プラズマ処理工程S5)。具体的には、プロセスガスとしての酸素(O)を40cc/分で流すとともに減圧度を0.3hPaとした室内に乾燥後のカバー部材2を挿入し、高周波出力300Wで60秒間プラズマ処理する。
【0037】
その後、直ちにプライマーを塗布して、図4(D)に示すように、プライマー層6を形成する(プライマー塗布工程S6)。具体的には、プライマー(商品名:KBP−40、信越化学工業株式会社製)にトルエン30%希釈液を加えたものをエアスプレーでシリコーンゴム層2dの表面に薄く塗布する。
【0038】
その後、非シリコーン系有機塗料を塗布して、図4(E)に示すように、塗料層7を形成する(有機塗料塗布工程S7)。具体的には、ウレタン樹脂塗料(商品名:ラバサン、武蔵塗料株式会社製)の主剤40重量部、助剤10重量部、シンナー10重量部および有機化酸化物(商品名:パーヘキサV、日本油脂株式会社製)4重量部を配合した非シリコーン系有機塗料を乾燥後の膜厚が10μmとなるようにエアスプレーでプライマー層6の表面に塗布する。
【0039】
その後、150℃で40分間乾燥、硬化を行い、バリ等の余剰部分を除去して、カバー部材2が完成する。
【0040】
また、平行して、図5(A)から(C)に示すように、粘着剤10が剥離可能なセパレータ13付きの粘着剤10を所定形状に加工する(粘着剤加工工程S8)。具体的には、紙、布、不織布、ポリオレフィンフィルムまたはポリエステルフィルム等の表面に剥離特性を向上させるためのメチルシリコーン系の剥離コーティング剤を塗布して形成されるセパレータ13付きの粘着剤10の粘着剤10部分のみをキートップ3やカバー部材2の形状に合わせて加工して、余剰部分を取り除く。
【0041】
なお、セパレータ13は、粘着剤10を簡単に剥離できるものであれば良い。たとえば、粘着剤10がアクリル系、ウレタン系、ポリエステル系またはゴム系の場合には、上述のように、セパレータ13は、紙等の表面にメチルシリコーン系の剥離コーティング剤を塗布したものであれば良い。また、粘着剤10がシリコーン系の場合には、セパレータ13は、紙等の表面にフロロシリコーン系の剥離コーティング剤を塗布したものであれば良い。
【0042】
その後、図5(D)に示すように、粘着剤10の、セパレータ13が粘着されていない一方の粘着面(図5の下面)である第1粘着面10aに複数のビーズ9を配置して、第1粘着面10aにビーズ9を粘着させる(ビーズ配置工程S9)。なお、ビーズ配置工程S9では、粘着剤10の他方の粘着面(図5の上面)である第2粘着面10bは、セパレータ13が粘着したままの状態となっている。
【0043】
その後、図6(A)から(C)に示すように、複数のビーズ9が配置された粘着剤10をカバー部材2に転写する(粘着剤転写工程S10)。この粘着剤転写工程S10では、まず、図6(A)に示すように、カバー部材2の表面(塗料層7が形成された側の面)と第1粘着面10aとを接触させずに、カバー部材2の表面と第1粘着面10aに配置されたビーズ9とを接触させて、カバー部材2の表面上でビーズ9を滑らせながら、粘着剤10とカバー部材2との位置合せを行う。その後、図6(B)に示すように、カバー部材2と粘着剤10とを圧着し、その後、図6(C)に示すように、セパレータ13を剥がす。この粘着剤転写工程S10では、セパレータ13とカバー部材2との間に所定の圧力をかけてカバー部材2と粘着剤10とを圧着する。なお、圧着の際にセパレータ13とカバー部材2との間にかける圧力は、カバー部材2の表面の微細な凹凸に対する粘着剤10の追従性を考慮して、1kgf/cm以上であることが好ましい。
【0044】
カバー部材2と粘着剤10とが圧着されると、図6(B)、(C)に示すように、粘着剤10の中にビーズ9が入り込んだ状態で、粘着剤10がカバー部材2に転写される。なお、粘着剤10がカバー部材2に適切に転写されるように、粘着剤転写工程S10に先立って、カバー部材2の表面にプラズマ処理、コロナ処理、UV処理あるいはプライマー処理等の前処理を行っても良い。
【0045】
その後、図6(D)に示すように、カバー部材2とキートップ3とを貼り合わせる(貼合せ工程S11)。具体的には、第2粘着面10bとキートップ3の裏面(図6(D)の上面)とを接触させた状態でカバー部材2とキートップ3との間に所定の圧力をかけてカバー部材2とキートップ3とを貼り合わせる。この貼合せ工程S11で、粘着剤層4が形成され、スイッチ用部材1が完成する。なお、カバー部材2とキートップ3との接着力を上げるため、貼合せ工程S11に先立って、キートップ3にプラズマ処理、コロナ処理、UV処理あるいはプライマー処理等の前処理を行っても良い。また、この貼合せ工程S11でカバー部材2とキートップ3との間にかける圧力は、キートップ3の表面の微細な凹凸に対する粘着剤10の追従性、および、貼合せ時のキートップ3の損傷等を考慮すると、1〜50kgf/cmであることが好ましく、キートップ3の損傷を適切に防止するためには、圧力は、1〜25kgf/cmであることがより好ましい。
【0046】
本形態では、粘着剤転写工程S10は、一方の粘着面である第1粘着面10aにカバー部材2を粘着させる第1粘着工程となっている。また、貼合せ工程S11は、他方の粘着面となる第2粘着面10bにキートップ3を粘着させる第2粘着工程となっている。
【0047】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、カバー部材2とキートップ3との間に配置される粘着剤層4が複数のビーズ9を有しており、このビーズ9は、ビーズ配置工程S9で、粘着剤10の第1粘着面10aに配置されている。そのため、上述のように、粘着剤転写工程S10で、複数のビーズ9を利用して、粘着剤10とカバー部材2との位置合せを行いながら、カバー部材2への粘着剤10の転写(粘着)を行うことができる。その結果、本形態では、粘着剤10の粘着作業を簡素化することができる。
【0048】
特に本形態では、粘着剤転写工程S10で接触したビーズ9とカバー部材2とが、スイッチ用部材1が完成した後もそのまま接している。すなわち、粘着剤転写工程S10で、カバー部材2に粘着剤10が転写し終わるまで、ビーズ9とカバー部材2とが接している。そのため、カバー部材2の表面上でビーズ9を確実に滑らせながら、カバー部材2と粘着剤10との位置合せをより容易に行うことができる。また、本形態では、ビーズ9が球状に形成されているため、カバー部材2の表面とビーズ9との間の接触抵抗を軽減することができる。そのため、カバー部材2と粘着剤10との位置合せをさらに容易に行うことができる。
【0049】
本形態では、カバー部材2とキートップ3との間に配置される粘着剤層4にビーズ9が含まれている。そのため、キートップ3等に外力が生じても、ビーズ9の剛性で、粘着剤層4が変形しにくくなり、その結果、スイッチ用部材1の寸法変化が生じにくくなる。すなわち、図7(A)に示すように、キートップ3の上方から外力F1が働いても、ビーズ9の上下方向の圧縮量はわずかであり、粘着剤層4は上下方向の縮み量はわずかになる。また、図7(B)に示すように、キートップ3の側方から外力F2が働いても、ビーズ9の上下方向の圧縮量がわずかであるため、粘着剤層4の横方向へのずれはわずかである。その結果、スイッチ用部材1の寸法変化が生じにくくなる。
【0050】
なお、粘着剤10では、一般に高温になるとヤング率が低下する傾向にある。そのため、スイッチ用部材1が組み込まれる携帯電話等において、粘着剤10のヤング率が低下した状態で、キートップ3が斜め方向に押され、粘着剤層4が横方向へずれると、隣接するキートップ3や筐体へキートップ3がもぐりこんで操作不能となる事態が生じ得るが、本形態のスイッチ用部材1を用いるとかかる事態の発生を防止することが可能になる。
【0051】
本形態では、ビーズ9の径は、粘着剤10の厚さtよりも小さくなっている。そのため、第1粘着面10aを確実にカバー部材2に粘着させ、第2粘着面10bを確実にキートップ3へ粘着させることができる。したがって、粘着剤層4にビーズ9が含まれている場合であっても、カバー部材2とキートップ3との接着力を高めることができる。
【0052】
本形態では、ビーズ9は、粘着剤層4の厚さ方向に直交する方向からみたとき一層に配置されている。また、ビーズ9の重心は、粘着剤10の厚さ方向の一方に偏っている。そのため、粘着剤層4にビーズ9が含まれている場合であっても、粘着剤層4を薄くすることができる。さらに、本形態では、カバー部材2と粘着剤10との位置合せを容易に行うことができ、かつ、粘着剤層4が変形しにくくなるため、薄くて剛性の低い粘着剤10を用いることが可能になる。その結果、粘着剤層4を薄くすることができ、スイッチ用部材1を薄型化することができる。
【0053】
本形態では、セパレータ13に第2粘着面10bが粘着した状態でビーズ配置工程S9を行い、ビーズ配置工程S9後に粘着剤転写工程S10を行っている。そのため、セパレータ13を用いて、複数のビーズ9が配置された後の粘着剤10を比較的容易に取り扱うことができる。
【0054】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形可能である。
【0055】
上述した形態では、第2粘着面10bにセパレータ13が粘着したままの状態で、第1粘着面10aに複数のビーズ9を配置し、その後、粘着剤10をカバー部材2に転写し、その後、粘着剤10を用いてカバー部材2とキートップ3とを貼り合わせている。この他にもたとえば、まず、第1粘着面10aにセパレータ13が粘着したままの状態で、第2粘着面10bにキートップ3を粘着させ、その後、セパレータ13を剥がして、粘着剤10をキートップ3に転写し、その後、第1粘着面10aに複数のビーズ9を配置し、その後、ビーズ9でカバー部材2と粘着剤10との位置合せをしながら、粘着剤10を用いてカバー部材2とキートップ3とを貼り合わせても良い。
【0056】
上述した形態では、粘着剤転写工程S10で、カバー部材2に粘着剤10を転写しており、ビーズ9は、カバー部材2に接している。この他にもたとえば、粘着剤転写工程S10で、キートップ3に粘着剤10を転写して、ビーズ9が、粘着剤10に接するようにしても良い。また、カバー部材2およびキートップ3の両者にビーズ9が接するように、ビーズ9および粘着剤10を構成しても良い。
【0057】
上述した形態では、粘着剤層4には、カバー部材2に接するように一層でビーズ9が配置されている。この他にもたとえば、粘着剤層4には、カバー部材2およびキートップ3の両者に接するように二層でビーズ9が配置されても良い。この場合には、上述した形態の粘着剤転写工程S10の後に、第2粘着面10bに複数のビーズ9を配置し、その後、カバー部材2とキートップ3とを貼り合せれば良い。また、この場合には、キートップ3の裏面と第2粘着面10bとを接触させずに、キートップ3の裏面と第2粘着面10bに配置されたビーズ9とを接触させて、キートップ3の裏面上でビーズ9を滑らせながら、粘着剤10とキートップ3との位置合せを行えば良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施の形態にかかる押釦スイッチ用部材を側面から示す図である。
【図2】図1に示す押釦スイッチ用部材の製造工程を示すフローチャートである。
【図3】図1に示すキートップの製造工程を説明するための図である。
【図4】図1に示すカバー部材の製造工程を説明するための図である。
【図5】図2に示す粘着剤加工工程およびビーズ配置工程を説明するための図である。
【図6】図2に示す粘着剤転写工程および貼合せ工程を説明するための図である。
【図7】図1に示す押釦スイッチ用部材の効果を説明するための図である。
【図8】従来技術の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
【0059】
1 スイッチ用部材(押釦スイッチ用部材)
2 カバー部材
3 キートップ
4 粘着剤層
9 ビーズ
10 粘着剤
10a 第1粘着面(一方の粘着面)
10b 第2粘着面(他方の粘着面)
13 セパレータ
S9 ビーズ配置工程
S10 粘着剤転写工程(第1粘着工程)
S11 貼合せ工程(第2粘着工程)
t 粘着剤の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性部材からなるカバー部材と、樹脂製または金属製のキートップと、上記カバー部材と上記キートップとを貼り合わせるための粘着剤および複数のビーズを有し上記カバー部材と上記キートップとの間に配置される粘着剤層とを備えることを特徴とする押釦スイッチ用部材。
【請求項2】
前記ビーズは、前記カバー部材および前記キートップの少なくともいずれか一方に接していることを特徴とする請求項1記載の押釦スイッチ用部材。
【請求項3】
前記ビーズは、前記粘着剤層の厚さ方向に直交する方向からみたとき一層に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の押釦スイッチ用部材。
【請求項4】
前記ビーズは球状に形成されていることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の押釦スイッチ用部材。
【請求項5】
前記ビーズの径は、前記粘着剤の厚さ以下であることを特徴とする請求項4記載の押釦スイッチ用部材。
【請求項6】
前記ビーズの重心は、前記粘着剤の厚さ方向の一方に偏っていることを特徴とする請求項4または5記載の押釦スイッチ用部材。
【請求項7】
弾性部材からなるカバー部材と、樹脂製または金属製のキートップとを備える押釦スイッチ用部材の製造方法において、
上記カバー部材と上記キートップとを接着するための粘着剤の一方の粘着面に複数のビーズを配置するビーズ配置工程と、上記一方の粘着面に上記カバー部材または上記キートップの一方を粘着させる第1粘着工程と、上記粘着剤の他方の粘着面に上記カバー部材または上記キートップの他方を粘着させる第2粘着工程とを備えることを特徴とする押釦スイッチ用部材の製造方法。
【請求項8】
前記ビーズ配置工程を、前記粘着剤が剥離可能なセパレータに前記他方の粘着面が粘着した状態で行い、前記ビーズ配置工程後に前記第1粘着工程を行い、前記第1粘着工程後に前記第2粘着工程を行うことを特徴とする請求項7記載の押釦スイッチ用部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−70710(P2009−70710A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238708(P2007−238708)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】