説明

抽出溶媒を含む、局部的な麻酔および/または疼痛低減のための揮発性麻酔薬組成物

本発明は、抽出溶媒(例えば、DMSOまたはNMP)を含む溶液中に、疼痛を低減するのに有効な量で溶解された揮発性麻酔薬を、疼痛の低減を必要とする被験体において(例えば、髄腔内または硬膜外に)送達することにより、該被験体の疼痛を低減するための方法を提供する。慢性もしくは急性の疼痛が処置され得るか、または麻酔薬が、手術前に被験体のある部分を麻酔するための該被験体に対する局所的な麻酔薬として送達され得る。特定の実施形態において、イソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、またはそれらの混合物が用いられ得る。一回の投与、連続的および/または断続的な投与を含む投薬レジメが企図される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、麻酔および疼痛管理の分野に関する。より明確には、本発明は、揮発性麻酔薬および抽出溶媒を含む溶液を、疼痛の低減または麻酔を必要とする被験体に局所的に送達することにより疼痛を低減するための方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
数百万人のヒトが疼痛に苦しんでいる。疼痛は、軽症の疼痛(例えば、頭痛、腰痛、急性の筋肉痛)、または重症の疼痛(例えば、慢性疼痛)であり得る。慢性疼痛は、癌の処置、HIV、糖尿病、または他の状態と関連し得る。慢性疼痛は、処置が困難であり得、多くの慢性疼痛患者が、彼らの疼痛が現在の疼痛用薬剤では十分に制御されないこと、または彼らの薬剤が重大な関連する有害反応(例えば、悪心および嘔吐、依存症、耐性など)を有することに言及している。
【0003】
慢性疼痛の管理の問題に取り組む試みにおいて、髄腔内注入ポンプおよび神経刺激装置が開発された。髄腔内注入ポンプは、液体麻酔薬および/または鎮痛剤の連続的またはほぼ連続的な送達にねらいを定めている。これらの多くの注入ポンプは、完全に移植可能であり、外部システムの長期使用と比較した場合、感染の危険性を低減する助けとなる。注入ポンプはまた、プログラム可能であり、患者または彼らの臨床医が、投薬量または毎日の送達スケジュールを調整することを可能にし、患者の変化する要求に応じることを助ける。
【0004】
神経刺激装置は、多様な形態で利用可能であり、そして疼痛を和らげるように神経を刺激する。髄腔内ポンプおよび神経刺激装置の両方が、耐性の開始を含む欠点を有し、その処置は時間とともに、より有効でなくなる。加えて、髄腔内注入ポンプと神経刺激装置のどちらも、手術前に患者に麻酔をかけるためには適切でない。
【0005】
麻酔または無痛覚を誘導するための多様なアプローチが公知である。全身麻酔薬の全身送達は、患者を意識不明にし手術に気づかせない。対照的に、麻酔薬は、局所的に、例えば、脊椎に、硬膜外に、または患者の身体の一部のみに麻酔をかけるために神経ブロックにおいて神経の近くに適用され得る。全身麻酔について、手術前の患者への全身麻酔薬の送達は、挿管および吸入可能な麻酔ガスの投与前に、麻酔薬の最初の静脈注射を用いて典型的に実施される。全身麻酔のための作用の機構がなお完全には理解されていないことに注意することは無駄ではない。
【0006】
考慮すべき負の副作用が、全身麻酔の投与の結果として生じ得る。気管中に大きな管を置かねばならず、それは上気道への外傷を生じ得る。多くの患者が、手術後のしわがれ声ならびに口腔および喉の圧痛を報告する。加えて、標的器官に到達するために身体にあふれさせることが必要とされる大量のガスは、非標的器官、特に心臓で、全身麻酔の間の心肺の病的状態の危険性の増大をともなう有害反応を有し得る。特に年配者において、全身麻酔後の長期の認知機能障害についての実質的な証拠がある(非特許文献1)。さらに、局所的な麻酔方法は、全身麻酔と比較して心肺の原因からの、より低い全体の罹患率および死亡率を生じるように見える(非特許文献2;非特許文献3)。
【0007】
特定の危険性はまた、揮発性麻酔薬の吸入投与と(例えば、全身麻酔の間に)関連する。吸入のために処方された揮発性麻酔薬組成物は、比較的低い沸点および高い蒸気圧を一般的に有する。揮発性麻酔薬組成物は、その液体状態および気化状態の両方において、多くの場合可燃性または爆発性である。さらに医療従事者による吸入剤の吸入は、手術室環境において望ましくない眠気を引き起こし得る。したがって、医療従事者による吸入の危険性および火災または爆発の危険性の両方を最小化するために、揮発性麻酔薬を安全に取り扱うように実質的な注意を払わねばならず、そして取り扱いの全ての段階において大気中への揮発性麻酔薬の放出が殆どないかまたは全くないことを保証するように試みられねばならない。
【0008】
明らかに、疼痛の管理および局所的な麻酔のための改善された方法に対する必要性がある。さらに、その使用に関連して、上に記載したような危険性が減少した揮発性麻酔薬組成物に対する必要性が存在する。そのような改善された揮発性麻酔薬組成物を送達するための方法(例えば、疼痛を処置するための、または外科的な処置における使用のための)に対する必要性もまたある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Mollerら、Lancet.、(1998)351:857−861
【非特許文献2】Rasmussenら、Acta Anaesthesiologica Scandinavica(2003)47(3):260−266
【非特許文献3】Rogersら、BMJ(2000)321:1−12
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、改善された揮発性麻酔薬組成物ならびに麻酔薬を投与して疼痛の低減を必要とする被験体(例えば、ヒトもしくは動物の患者またはマウスもしくはラットのような実験動物)において疼痛を低減するための方法を提供することにより、先行技術における制限を克服する。特定の実施形態において、本発明は、水に基づく溶液中に溶解された揮発性麻酔薬を含む麻酔薬組成物を提供し、ここでその溶液は薬学的に許容される抽出溶媒(例えば、DMSO等)をさらに含む。
【0011】
揮発性麻酔薬を含む溶液中の抽出溶媒の存在は、物理的な性質、薬理学的な特性および/または麻酔薬溶液の使用の容易さを改善することを含む実質的な利益を提供し得る。抽出溶媒は、揮発性麻酔薬(例えば、イソフルラン)と非共沸様式で相互作用し得、揮発性麻酔薬の気化または蒸発を効果的に低減することができる。この方法で、溶液中の揮発性麻酔薬の有効期間、持続性、および/または使用の容易さが改善され得る。麻酔薬溶液中の抽出溶媒の存在はまた、投与前の溶液の混合の容易さを改善し得、特定の実施形態において、使用前に麻酔薬溶液を混合するために超音波処理器は必要とされない。加えて、揮発性麻酔薬の薬物動態学は、抽出溶媒の存在により変化させられ得、疼痛軽減の改善を与えることができる。例えば、いずれの理論にも縛られるものではないが、本発明者らは、特定の実施形態において、特定の領域において揮発性麻酔薬をより効果的に維持し、および/または作用の部位(単数および複数)への揮発性麻酔薬の送達を助ける、揮発性麻酔薬のためのリザーバとしてとして抽出溶媒が機能し得ることを予想する。溶液中の揮発性麻酔薬の気化低減はまた、麻酔薬組成物の取り扱いの容易さを改善し得る。さらに、抽出溶媒の存在による溶液中の揮発性麻酔薬の揮発性低減はまた、火災および/または医療従事者による吸入の起こり得る危険性に関する上述されたような懸念を低減し得る。
【0012】
本発明は、揮発性麻酔薬の蒸気のみの吸入による、被験体への揮発性麻酔薬の投与は含まないと理解される。その方法は、好ましくは、慢性または急性の疼痛を軽減するのに有効な量での、水に基づく溶液中の揮発性麻酔薬の被験体への、例えば経皮の、局所の、粘膜の、口腔内の、直腸の、膣の、筋肉内の、皮下の、髄腔内の、または硬膜外の送達のような局部または局所の送達を含む。他の実施形態において、本発明の麻酔薬組成物は、疼痛を低減するのに十分な量で局所的に投与され得る。より特異的には、特定の実施形態において、本願発明者らは、本発明の麻酔薬組成物が、局部的な疼痛の軽減を達成するためにヒト被験体に局所的に投与され得ることを発見した。特定の実施形態において、本麻酔薬は、手術前に被験体に麻酔をかけるために被験体に送達され得る。本明細書中で用いられる場合、句「疼痛の低減」は、麻酔、無痛覚、および/または疼痛の知覚に関わる神経衝撃の阻害(例えば、部分的神経伝導ブロックを介して)の結果としての疼痛の低減を含むことが意図される。特定の実施形態において、本発明の組成物は、疼痛を低減するのに有効な量および様式で被験体のある部分に送達され得る。他の実施形態において、本発明の組成物は、被験体の運動機能を実質的に妨げることなく疼痛を低減するのに有効な量および様式で被験体のある部分に送達され得る。
【0013】
本発明は、局所的な麻酔のために以前に用いられた方法を越えるいくつかの実質的な利点を有する。これらの利点は、以下:(1)本発明の揮発性麻酔薬は迅速に滴定可能であり、したがって本発明による揮発性麻酔薬の投与は、無痛覚または局所的な麻酔のたいへん急速な開始に帰結し得る。(2)本発明は、投与後の麻酔薬のすばやい消失を可能にし、したがって麻酔または無痛覚は迅速に終わらせ得る。所望されるように局所的な麻酔または無痛覚の投薬量を敏速に変えることは従事者にとって好ましくありえることから、これらの特性は、従事者にとって特に価値がある。(3)局所的な麻酔のために現在用いられている特定の薬剤は、さまざまな理由(例えば、耐性、薬剤の相互作用、異常な応答等)のために多様な個体において有効には用いられ得ない。さらに、(4)オピオイドは、特定の不利な点(耐性、薬剤の相互作用、および依存等を含む)を有することから、本発明の揮発性麻酔薬は一般的に非オピオイド化合物であり、従事者のための多様な恩恵を提供する。
【0014】
本発明の一局面は、抽出溶媒を含む溶液中に疼痛を低減するのに有効な量で溶解された揮発性麻酔薬を、被験体に局所的または局部的に送達することを含む、疼痛の低減を必要とする被験体における該疼痛の低減のための方法に関する。投与が、髄腔内の、または硬膜外の投与である場合、溶液は脂質エマルジョンを含み得ないかまたは本質的に含み得ない。好ましい実施形態において、本発明から特に除外されないとはいえ、好ましい局面ではない全身麻酔を静脈内の送達が潜在的に生じ得るが故に、静脈を通しての経路以外の経路により、麻酔薬は送達される。好ましい揮発性麻酔薬は、水性の薬学的に許容される溶液中に溶解されたハロゲン化エーテル麻酔薬である。麻酔薬は、好ましくは髄腔内、硬膜外、または神経ブロック処置で送達され得、例えば慢性疼痛または急性疼痛を軽減することができる。特定の実施形態において、麻酔薬は、静脈穿刺、注射(例えば、BotoxTM)、末梢静脈カニューレ挿入、切開または他の処置のような処置の前に、局部的または局所的に投与され得る。他の実施形態において、麻酔薬は、非局所的経路を介して投与され得る。麻酔薬は、毛髪の除去、入墨の適用もしくは除去のような美容処置、および/または乳房撮影の前に局所的に適用され得る。
【0015】
多様な抽出溶媒が、本発明で用いられえる。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルイソソルビド、エタノール、プロパノール、またはイソプロパノールは、抽出溶媒であり得る。抽出溶媒は、溶液の約10%から約75%、溶液の25%から約75%、溶液の10%から約50%、溶液の約10%から約25%、または溶液の約25%から約50%を構成する。
【0016】
特定の実施形態において、溶液中の揮発性麻酔薬は、手術の前に被験体のある部分に麻酔をかけるために送達される。その揮発性麻酔薬は、イソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびそれらの混合物からなる群より選択されるハロゲン化揮発性麻酔薬であり得る。特定の実施形態において、イソフルランが用いられる。イソフルラン溶液のような溶液が、約5ng/ml溶液〜約100ng/ml溶液の濃度で調製され得る。その溶液は、溶液中、約0.1%〜約15% v/v、1%〜約75% v/v、1%〜約50% v/v、5%〜約50% v/v、5%〜約75% v/v、約10%〜約50% v/v、または約10% v/vの麻酔薬を含み得る。その麻酔薬は、イソフルランであり得、および/またはその溶液は、人工の脳脊髄液であり得る。硬膜外または髄腔内に投与された場合、約250 ng/mlから約50,000 ng/mlの脊髄液における活性な薬剤の濃度を達成することが望ましい。活性な薬剤の送達は、連続的、断続的、一度の事象であり得るか、またはその活性な薬剤は、別々の時に被験体へ断続的に投与されるおよび連続的に投与されるの両方であり得る。低減は、被験体の身体の一部分の疼痛の知覚の除去を含み得る。
【0017】
特定の実施形態において、本発明の組成物は、被験体の運動機能を実質的に妨げることなく(例えば、投薬量、量、濃度、投与の頻度、および/または投与のタイミングを変えることにより)疼痛を低減するのに有効な量および様式で被験体のある部分に送達され得る。運動機能の評価のために有用な試験は、例えば、制限されるものではないが、ミネソタマニピュレーションレート(MRM)検査(Minnesota Rate of Manipulation(MRM)test)(Fleishman, 1964, Abilities and motor skill.: The structure and measurement of physical fitness Prentice−Hall, Inc.: Englewood Cliffs, N.J, 1964, pp. 23−24)、上肢運動機能検査(Upper Extremity Function Test)(UEFT)(Carroll, 1965, J Chron Dis 18: 479−491)、Purdueペグボード検査(Purdue Pegboard test)(Tiffinら、1948, J Appl Psychol 32: 234−247)、ジョゼフセン手指機能検査(Jebsen test of hand function)(Jebsenら、1969, Arch Phys Med Rehab 50: 311−319)、9穴ペグ検査(Nine−Hole Peg test)(Kellorら、1971, Am J Occup Ther 25: 77−83)、スミス手指機能評価(Smith hand function evaluation)(Smith, 1973, Am J Occup Ther 27: 244−251)、ボックスアンドブロック検査(Box and Block Test)(BBT)(Holserら、1960, Box and Block test.: Cromwell FS (ed) Occupational therapists manual for basic skills assessment: primary prevocational evaluation Fair Oaks Printing Company: Pasadena, California, pp. 29−31)、手指スキルの身体能力評価(Physical Capacities Evaluation of Hand Skill)(PCE)(Bellら、1976, Am J Occup Ther 30: 80−86)、上肢機能検査(Action Research Arm (ARA) test)(Lyle, 1981, Int J Rehabil Res 4: 483−492)、ソラーマン手指機能検査(Sollerman hand function test)(Sollermanら、1995, Scand J Plast Reconstr Surg Hand Surg 29: 167−176)、下肢運動協調検査(Lower Extremity MOtor COordination Test)(LEMOCOT)(Desrosiersら、2005, Arch Phys Med Rehabil 86, 993−98)、フーゲル−マイヤーアセスメント(Fugl−Meyer Assessment)(Fugl−Meyerら、1975, Scand J Rehabil Med 7:13−31)、バーグバランススケール(Berg Balance Scale)(Bergら、1995, Scand J Rehabil Med 27:27−36; Bergら、1989, Physiother Can 41:304−11, Berg et al, 1992, Arch Phys Med Rehabil 73:1073−80; Stevensonら、1996, Arch Phys Med Rehabil 1996;77:656−62)、5メートル歩行テスト(5MWT)(Salbachら、2001, Arch Phys Med Rehabil 82:1204−12)、2分間歩行テスト(Wade, 1992, Measurement in neurological rehabilitation. New York: Oxford Univ Pr; Guyattら、1984, Thorax 39:818−22)、および機能自律性測定システム(Functional Autonomy Measurement System)(Hebert, 1988, Age Ageing 17:293−302)を含み、それら参考文献の全ては、その全体が本明細書中に援用される。
【0018】
好ましくは、その溶液が、非経口的投与または局所的な投与が意図されているが故に、揮発性麻酔薬を含む水性溶液は滅菌されている。これは、全ての出発材料が滅菌されていることを確実にし、そしてそれらを投与前に滅菌条件下に維持することにより達成され得る。基礎をなす水性溶液に関するかぎりでは、その溶液の性質は重要であるとは考えられておらず、生理食塩水のような溶液または天然の体液を模倣するように処方された溶液(例えば、人工脳脊髄液)でさえ企図される。
【0019】
本発明のさらに別の局面は、本発明の麻酔溶液を含む密封された容器に関係する。その容器の内部は滅菌され得る。その容器は、注射針により容易に刺し通され得るゴム栓を含み得る。その容器は、注射器のチャンバー部分を含み得る。その容器は、点滴チャンバーを含み得る。その点滴チャンバーは、カテーテルに連結され得る。そのカテーテルは、硬膜外のカテーテルまたは髄腔内のカテーテルであり得る。その容器は、プラスチックバッグ、ガラス瓶、またはプラスチックボトルであり得る。その容器は、注入ポンプに連結され得る。その注入ポンプは、髄腔内ポンプ、硬膜外送達注入ポンプ、または患者管理鎮痛法(patient control analgesia)(PCA)ポンプであり得る。注入ポンプは、プログラム可能であり得る。
【0020】
用語「阻害する」、「低減する」、または「予防する」、またはこれらの用語の任意の変形物は、本特許請求の範囲および/または本明細書において用いられる場合、所望の結果を達成する任意の測定可能な減少または完全な阻害を含む。
【0021】
用語「有効」は、その用語が本明細書および/または特許請求の範囲において用いられる場合、所望される、予想される、または意図される結果を達成するために適切であることを意味する。
【0022】
本特許請求の範囲および/または本明細書において、語句「含む」とともに用いられる場合、語「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、および「1または1より多い」の意味ともまた一致する。
【0023】
本明細書において議論される任意の実施形態は、本発明の任意の方法または組成物に関して実行され得ることが企図され、逆もまた同様である。さらに、本発明の組成物は、本発明の方法を達成するために用いられ得る。
【0024】
本出願をとおして、語句「約」は、値が、その値を決定するために用いられるデバイスについての誤差の固有の変動、その値を決定するために用いられる方法についての誤差の固有の変動、または本研究被験体の間に存在する変動を含むことを示すために用いられる。
【0025】
その開示は、選択肢および「および/または」にのみ言及する定義を支持するが、本特許請求の範囲における語句「または」の使用は、選択肢のみか、または選択肢がお互いに排他的であることに言及するように明白に示されないかぎり、「および/または」を意味するように用いられる。
【0026】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる場合、語「含む(comprising)」(および含む(comprising)の任意の形態(例えば、「comprise」および「comprises」)、語「有す(having)」(および有す(having)の任意の形態(例えば、「have」および「has」)、語「含む(including)」(および含む(including)の任意の形態(例えば、「includes」および「include」)または語「含む(containing)」(および含む(containing)の任意の形態(例えば、「contains」および「contain」)は、包括的または無制限であり、そして付加的な、説明されていない要素または方法の工程を排除しない。
【0027】
本開示をとおして、本発明の種々の局面が、範囲のフォーマット(range format)で示され得る。範囲のフォーマットにおける説明は、利便性および簡潔さのためだけのものであり、本発明の範囲において不変の制限として解釈されるべきではない。したがって、範囲の説明は、その範囲内の個々の数値と同じく、全ての可能な部分範囲を明確に開示していると考えられるべきである。例えば、1〜6のような範囲の説明は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6等のような部分範囲、ならびにその範囲内の個々および部分の数(例えば、1、2、3、4、5、5.5、および6)を明確に開示していると考えられるべきである。これは、その範囲の幅に関係なく適用する。
【0028】
本発明の、他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明白になる。しかしながら、詳細な説明および特定の実施例は、本発明の特定の実施形態を示すとはいえ、説明としてのみ与えられるものであって、本発明の精神および範囲内の種々の変化および改変は、この詳細な説明から当業者には明白である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】被験体に麻酔ガスを送達するための一般的な方法を示すフローチャート。
【図2】ホットプレートテストを用いて測定された、イソフルラン溶液の髄腔内投与を介する疼痛の阻害。
【図3】人工脳脊髄液(ACSF)および/またはDMSO中の髄腔内イソフルランを用いる疼痛の阻害。1.46mgのイソフルラン投薬量での、イソフルラン−ACSFおよびイソフルラン−DMSO/ACSFに関しての時間経過を示す。
【図4】刺激応答(SR)のグラフは、イソフルラン−ACSFの髄腔内注射後10分の時点での、投薬量による最大可能性効果(MPE)を示す。
【図5】イソフルランの局部的な投与を介する足底熱刺激検査(Plantar Heat Stimulation Test)を用いての疼痛の阻害。後足中へのイソフルランの投与は、未処置の足(con.iso)と比較した場合、顕著な抗侵害受容性効果(iso)を生じた。その抗侵害受容性効果は、25分で始まり、そして実験をとおして続いた。リドカインの投与(lid対con.lid)は、顕著な抗侵害受容性効果を生じ、それは5分で始まり、15分で最高点に達し、そして45分で基本レベルにもどった。# P<0.05 イソフルラン対コントロール(n=4)。 * P<0.05 リドカイン対コントロール (n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、水に基づく溶液中に溶解された揮発性麻酔薬を含む、改善された揮発性麻酔薬組成物を提供することにより、先行技術における制限を克服し、ここでその溶液は、薬学的に許容される抽出溶媒をさらに含む。抽出溶媒の存在は、麻酔薬組成物に対して、溶液から放たれる麻酔薬の蒸気の低減(例えば、その蒸気の可燃性および/または医療従事者による吸入に関する危険性の低減)、その組成物の有効期間または持続性における改善、および/またはその麻酔薬組成物の薬物動態の改善を含む特定の利点を提供し得る。例えば、抽出溶媒は、非共沸様式で揮発性麻酔薬(例えば、イソフルラン)と相互作用し得、その揮発性麻酔薬の気化または蒸発を効果的に低減することができる。この方法で、溶液中の揮発性麻酔薬の有効期間および/または持続性が改善され得る。加えて、その揮発性麻酔薬の薬物動態が変えられ得、疼痛の軽減の改善を与える。例えば、理論に束縛されるものではないが、本願発明者は、抽出溶媒が、特定の実施形態において揮発性麻酔薬のためのリザーバとして機能し得、特定の領域において揮発性麻酔薬をより効果的に維持すること、および/または揮発性麻酔薬の作用部位への送達を助けるものと予想する。種々の実施形態において、麻酔薬溶液中の抽出溶媒の存在はまた、超音波処理器の使用なしに投与前にその溶液を混合することを可能にし得る。
【0031】
本発明はまた、そのような疼痛の低減を必要とする被験体において疼痛を低減するための、そのような麻酔薬組成物の使用のための方法を提供する。特に、揮発性麻酔薬は、全身麻酔処置の間に通常吸入されるが、本願発明者は、揮発性麻酔薬が、溶液中に溶解され得、そして局所的または局部的に(例えば、経皮的に、局所的に、粘膜に、口腔内に、直腸に、膣に、筋肉内に、皮下に、髄腔内に、硬膜外に、または神経ブロックにおいて)送達され得、疼痛の知覚を阻害またはブロックし得ることを発見した。特定の実施形態において、麻酔薬は、静脈穿刺、注射(例えば、BotoxTM)、末梢静脈カニューレ挿入、切開、または他の処置のような処置の前に、局部的または局所的に投与され得る。これらの実施形態において、麻酔薬の投与は、小手術処置、非手術処置、および美容処置(例えば、毛髪の除去、入墨の適用、入墨の除去を含む)、および乳房撮影を含む医療処置の前およびその間に、被験体により感知される疼痛を好ましくは低減または予防する。
【0032】
一般的に、その方法は、疼痛を低減するに有効な量での被験体へのハロゲン化エーテル麻酔薬の送達を含み得る。本発明は、慢性または急性の疼痛の疼痛管理のために用いられ得る。他の実施形態において、麻酔薬は、手術前に被験体の少なくともある部分を麻酔するために、被験体に送達され得る。特定の実施形態において、本発明は、被験体の意識の喪失をまた引き起こすことなく、被験体における疼痛を低減または除去するために用いられ得る。他の実施形態において、本発明は、被験体の運動機能をまた実質的に妨害することなく、被験体における疼痛を低減または除去するために用いられ得る。
【0033】
抽出溶媒
本発明の麻酔薬組成物は、抽出溶媒のような溶媒を揮発性麻酔薬と組み合わせて含み得る。本明細書中で用いられる場合、句「抽出溶媒」は、溶液中で揮発性麻酔薬と相互作用して、その麻酔薬と化学的に反応することなく、その揮発性麻酔薬の揮発性を低減し得る溶媒に関する。特定の抽出溶媒は、揮発性麻酔薬と非共沸様式で相互作用する。それにもかかわらず、本明細書中で用いられる場合、用語「抽出溶媒」は、揮発性麻酔薬と相互作用して共沸性のまたは偽共沸性の溶液を形成する特定の化合物を、その溶液からの揮発性麻酔薬の蒸気圧または蒸発が低減される限り、含み得る。以下に記載するように、種々の抽出溶媒(例えば、DMSO、NMP等)が本発明との使用のために想定される。本発明とともに使用される抽出溶媒は、好ましくは薬学的に許容されるものである。抽出溶媒の正確な濃度は、経験的に決定され得、そして用いられる特定の揮発性麻酔薬にによって変化し得る。投与された場合に毒性がほとんどないか存在しない、抽出溶媒の濃度を選択するために、特定の処置がとられるべきである。特定の抽出溶媒は、種々の分離処置(例えば、抽出蒸留)において用いられ得る特性を示し得るが、本発明の実施形態による抽出溶媒は、好ましくは、揮発性麻酔薬を「抽出する」よりもむしろ揮発性麻酔薬の揮発性を低減するために揮発性麻酔薬を含む薬理学的混合物または溶液中に含まれる。
【0034】
麻酔薬組成物中に抽出溶媒を含むことが、投与前に溶液を混合することができる容易さを増大させ得る。例えば、特定の実施形態において、抽出溶媒がその麻酔薬溶液中に含まれる場合、投与前の麻酔薬溶液の超音波処理は必要とされない。この利点は、超音波処理器の存在がやかましいか、または気を散らすものである手術室のような例(例えば、長期投与)において特に有用であり得、そして超音波処理器の騒音の除去はまた、麻酔薬溶液を(例えば、疼痛除去のために長期的にまたは間欠的に)受けている意識のある患者のための改善された環境を作り得る。超音波処理器または他の類似のデバイスに対する必要性を除去することは、本発明による麻酔薬組成物の投与に関連する費用を低減するためにもまた特に有用であり得る。超音波処理器の存在に関連する容積の低減は、患者の運動性を有利に改善し得る。例えば、患者が、ポンプを介した麻酔薬組成物の繰り返し投与を無痛覚のために受ける例では、低減された装置の量は、患者が追加して超音波処理器を動かすことを必要としないことから、運動性を改善し得る。
【0035】
抽出溶媒は、当該分野で公知であり、そして主成分の蒸気圧を妨げることにより類似の沸点をもつ化合物を分離するための抽出蒸留において典型的に用いられ、それによりそのような溶媒の非存在下では決して起こらないであろう効果的な分離を可能にする。例えば、米国特許第5,230,778号は、ジメチルホルムアミドのような抽出溶媒を用いる抽出蒸留によるイソフルランの精製を記載する。米国特許第5,336,429号は、電子部品をきれいにするための、および金属を脱脂するための、イソフルランおよび低級アルコールまたはエステルを含む溶媒を記載するが、これらの組成物は、事実上一定の沸点をもつ共沸性の混合物として記載される。対照的に、本発明は、薬学的調製物(例えば、無痛覚および/または局所的な麻酔を誘導するための)を提供する。当該分野で公知の特定の抽出溶媒(例えば、米国特許第5,230,778号に記載されたアセトン)は、十分に毒性であり、薬学的調製物における高濃度での含有を制限する。
【0036】
特定の実施形態において、抽出溶媒は、共沸性の混合物として麻酔薬と相互作用し得、そしてその麻酔薬の揮発性を低減し得る。例えば、エタノールは、米国特許第5,230,778号明細書に記載されたように、共沸性の様式で揮発性麻酔薬と相互作用し得る。
【0037】
抽出溶媒の種々の濃度が、本発明において用いられ得る。例えば、揮発性麻酔薬を含む本発明の溶液は、約1%〜99%、1%〜60%、5%〜50%、10%〜40%、5%〜25%、10%〜30%、10%〜25%、25%〜50%、10%〜75%、25%〜75%、10%〜65%、25%〜65%、10%〜60%、25%〜60%、5%、10%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%またはその中から導き出せる任意の範囲の抽出溶媒を含み得る。
【0038】
特定の実施形態において、抽出溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)またはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である。他の実施形態において、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、またはジメチルイソソルビドのような抽出溶媒が用いられ得る。アセトンが用いられる例においては、いずれの可能性のある毒性をも最小化するために適切な投薬量を選択するための配慮がなされるべきである。
【0039】
種々の実施形態において、医療上許容されるアルコール(例えば、エタノール、プロパノール、またはイソプロパノール)が用いられ得ることが想定される。これらの実施形態において、用いられるアルコールの濃度は、溶液中で十分に希釈され、その結果、神経の近くでのその溶液の注射の結果としてのニューロンの死はほとんどまたは全く起こらない。
【0040】
単一の抽出溶媒または複数の抽出溶媒が、本発明の麻酔薬組成物中に存在し得る。例えば、特定の実施形態において、単一の抽出溶媒(例えば、DMSまたはNMP)のみが、揮発性麻酔薬を含む溶液中に存在する。他の実施形態において、2、3、4、またはそれより多い抽出溶媒が、揮発性麻酔薬を含む溶液中に存在し得る。特定の実施形態において、単一の揮発性麻酔薬(例えば、イソフルラン)のみが、本発明の麻酔薬溶液中に存在する。他の実施形態において、2、3、4、またはそれより多い揮発性麻酔薬が、本発明の麻酔薬組成物中に存在し得る。
【0041】
N−メチルピロリドン
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)は、本発明による麻酔薬組成物中に含まれ得る抽出溶媒である。NMPは、5員のラクタム構造をもつ化合物である。それは、水ならびに酢酸エチル、クロロホルム、ベンゼンおよび低級アルコールまたはケトンを含む溶媒と混和可能な、わずかに黄色の液体である。NMPはまた、1−メチル−2−ピロリドンまたはN−メチル−2−ピロリジノンおよびm−ピロールの化学名によっても言及される。NMPは、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびジメチルスルホキシドをまた含む双極性非プロトン性溶媒のクラスに属する。その良好な溶解(solvency)特性により、NMPは、特にポリマーの分野における広いレンジの化学物質を溶解するために用いられてきた。それはまた、織物、樹脂および金属コートされたプラスチックの表面処理のための溶媒として、または塗料剥離剤として用いられた。
【0042】
NMPは、医療産業において、特定の薬学的調合物中で可溶性の乏しい薬剤の可溶性を改善するために用いられてきた。例えば、NMPは、獣医学における種々の薬剤とともに用いられてきた。NMPの使用による薬剤の溶解性の改善、ならびにヒトのための局所性および経皮性の医薬製品におけるその適用可能性を主張するいくつかの特許が出されてきた。
【0043】
NMPの比較的無毒性の特性が、NMPを本発明についての抽出溶媒としての使用に特に適切にする。NMPは、NMPを種々の局所性、経皮性および非経口的な投薬形態における使用のための適切な候補とする好都合の毒性プロフィールを有する。NMPは、International Specialty Products (ISP; New Jersey, USA)から販売されているPharmasolveという登録商標のGMPグレードのN−メチル−2−ピロリドン(N−Methyl−2−pyrrolidone)として入手可能である。
【0044】
DMSO
ジメチルスルホキシド(DMSO)が、本発明の特定の実施形態において抽出溶媒として用いられる。DMSOは、式(CHSOを有する。DMSOは、極性非プロトン性溶媒であり、極性および非極性化合物の両方を溶解し、そして広い範囲の有機溶媒ならびに水に混和可能である。
【0045】
DMSOは、比較的無毒性の化合物であり、そのことがDMSOを本発明についての抽出溶媒としての使用に特に適切にする。DMSOの毒性の相対的な欠如は、よく確認されており、そして医療目的のためのDMSOの使用の可能性は、DMSOが皮膚および他の膜を傷つけることなくそれらに浸透し得ることおよび生物学的システム中に他の化合物を運び得ることを発見したオレゴン大学医学部(University of Oregon Medical School)チームのStanley Jacobにより確認された。DMSOはまた、凍結防止剤としておよび抗炎症剤として用いられてきた。ジメチルスルホキシドは、炭水化物、ポリマー、ペプチドを含む種々の有機物質、ならびに多くの無機塩および気体を溶解する。
【0046】
種々の実施形態において、揮発性麻酔薬を含む溶液中の、より低い濃度(例えば、約5%から約10%の低さ)のDMSOが、投与前のその溶液の超音波処理の必要性を除くために十分であり得ると想定される。揮発性麻酔薬を含む溶液中の、より高い濃度(例えば、約25%から約75%以上、約30%から約60%以上)のDMSOは、鎮痛または麻酔効果の持続期間の増加を可能にするように、揮発性麻酔薬の薬物動態を変化させるに十分であり得る。
【0047】
麻酔薬
一般的に、記載した方法での使用のに適切なハロゲン化エーテル麻酔薬または揮発性麻酔薬は、室温でしばしば液体であるが、室温で気体に容易になることが可能であるか、またはすでに気体であり、そして重大な副作用なしに疼痛を低減することができる薬剤を含む。例えば、身体により最小限度に代謝されるか、ほかの方法で不活性である麻酔薬を選択することが所望され得る。この状況においては、肝臓毒性および腎臓毒性が最小化され得る。同様に、短い半減期を有するか、または即効性であって滴定可能性(titratability)を増進する(すなわち、被験体は、彼または彼女が経験している疼痛の量に対して送達量を容易に調節し得る)麻酔薬が所望され得る。(オピオイドまたは局部的な麻酔薬とは異なり)耐性を生じないかまたは(オピオイドのような)依存性を生じない活性な薬剤の気体がまた、所望され得る。本発明の方法はまた、別の揮発性薬剤を被験体に送達するために(例えば、局所的に、局部的に、または局所麻酔方法において)用いられ得る。揮発性薬剤は、麻酔薬または小分子であり得る。
【0048】
揮発性麻酔薬は、ハロゲン化エーテル化合物、イソフルラン、セボフルラン、ハロタン、エンフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびジエチルエーテルを含む周知のクラスの麻酔薬である。特定の実施形態において、キセノンがまた、本発明と一緒に用いられ得る。単一の麻酔薬または上記麻酔薬の混合物は、本明細書中に記載される方法での使用のために特に適切であり得る。
【0049】
種々の実施形態において、気体麻酔薬が、本発明と一緒に用いられ得る。例えば、気体麻酔薬は、本発明による溶液中に溶解され得、そして局所麻酔または局部麻酔の処置(例えば、経皮に、局所に、粘膜に、口腔内に、直腸に、膣に、筋肉内に、皮下に、硬膜外に、髄腔内に、または神経ブロック処置など)で投与され得る。ハロゲン化麻酔薬以外の気体麻酔薬が企図され、その例は、キセノン、亜酸化窒素、シクロプロパン、およびエーテルを含む。種々の実施形態において、他の生物学的に活性な気体(例えば、一酸化窒素等)が、本発明により溶液で被験体に送達され得る。
【0050】
1つより多い麻酔薬が、一度に投与され得、そして異なる麻酔薬が、一度の処置サイクルをとおして種々の回数で投与され得る。例えば、2、3、4またはそれより多い麻酔薬が、被験体に同時にまたは繰り返して投与され得る。化合物が、被験体に繰り返して投与される場合、化合物の投与の間の持続時間は、約1〜60秒、1〜60分、1〜24時間、1〜7日、1〜6週以上、またはその中から導き出せる任意の範囲であり得る。いくつかの例において、異なるハロゲン化エーテル化合物の送達をその物理的および生理学的特性により実施することが所望され得る。
【0051】
投薬
投与される(例えば、髄腔内または硬膜外に)麻酔薬の量は、所望する特定の適応症に依存する。例えば、投薬量は、処置が意図される疼痛の型に依存する。例えば、麻酔薬の送達が、急性の疼痛に対立するものとして慢性の疼痛を低減することを意図する場合、投薬量は異なり得る。同様に、活性な薬剤が、被験体を(局部に、または全身に)麻酔するために用いられる場合、投薬量は異なり得る。被験体の身体的特徴もまた、適切な投薬量を決定するうえで重要であり得る。体重、年齢等のような特徴が、重要な因子であり得る。例えば、揮発性麻酔薬のイソフルランの例で示されたように、麻酔薬は、年齢とともに増大した効力を有し得る。
【0052】
多くの麻酔薬の溶解性が麻酔薬および/または水性溶液の温度により影響され得ることから、揮発性麻酔薬の温度もまた、適切な投薬量の選択における因子として考慮され得る。例えば、温度の上昇は、活性な薬剤の溶解性を増大させ、それにより効力を増大させ得る。この特性が、特定の麻酔薬で示された。特定の投薬量はまた、選択された投薬レジメに依存し得る。例えば、活性な薬剤は、連続的に、または定期的に送達され得る。反対に、活性な薬剤は、一回のイベントとしての単一回の投与として投与され得る。
【0053】
揮発性麻酔薬(例えば、ハロゲン化麻酔化合物)は、選択された麻酔薬および所望の効果に依存して、約250ナノグラム/ml〜約50,000ナノグラム/mlの範囲の脊髄液レベルを導く量で注入され得る。特定の実施形態において、ハロゲン化麻酔薬または揮発性麻酔薬が、約5ナノグラム/ml〜約500,000ナノグラム/mlの脳脊髄液(CSF)濃度を達成するために投与され得る。投薬量の範囲は、選択化合物および患者の差異に依存して、変化するとはいえ、より低い投薬量(例えば、約0.01ナノグラム/mlから約10,000ナノグラム/ml)が、軽症から中程度の疼痛を処置するために、より適切であることは一般的に正しく、一方、より高い投薬量(例えば、約10000ナノグラム/mlから約500,000ナノグラム/ml以上)が、重症の疼痛を処置し、麻酔を誘導するためには、適切である。もちろん、その投薬量は一度に(例えば、軽症の一度の疼痛の発生に対して)、繰り返して(例えば、中程度または慢性の疼痛に対して)、または連続的に(例えば、重症の疼痛または麻酔の目的に対して)与えられ得る。これらの投薬レジメの組み合わせがまた、用いられ得る。例えば、重症の疼痛を罹患している被験体は、疼痛を打開するために必要とされる周期的な追加の投薬をともなう連続的な投薬を必要とし得る。
【0054】
麻酔薬(例えば、揮発性麻酔薬のイソフルラン等)が、生理食塩水または人工CSF溶液のような溶液と混合される実施形態において、揮発性麻酔薬の濃度は変化し得る。例えば、溶液は、約1%から約99%、約10%から約75%、約10%から約50%、約20%から約50%、約1%から約50%、約1%から約45%、約1%から約40%、約1%から約35%、約1%から約30%、約1%から約25%、約1%から約20%、約1%から約15%、約1%から約10%、約1%から約5%、約0.5%から約5%、約0.1%から約5%、約0.1%から約2.5%、約0.5%から約2.5%、または
それらの中で得られる任意の範囲のv/v比において麻酔薬を含み得る。これらの実施形態において、その麻酔薬は、揮発性麻酔薬(例えば、イソフルラン)であり得、そしてその溶液は、人工脳脊髄液(ACSF)溶液であり得る。
【0055】
本発明の組成物の投薬および送達の様式は、被験体の運動機能を実質的に妨害することなく、例えば、投与の量、濃度、頻度、および投与のタイミングを変えることにより、疼痛の低減を達成するように調節され得る。
【0056】
麻酔薬溶液はまた、1つ以上の添加剤(例えば、界面活性剤、PVP、ポリマー、抗微生物剤等)を含み得る。特定の実施形態において、本発明の麻酔薬組成物は、約0.1〜50%の揮発性麻酔薬(例えば、イソフルラン、メトキシフルラン、またはセボフルラン)、1〜99%の抽出溶媒(例えば、NMPまたはDMSO)、0〜90%の生理食塩水、および0〜10%の他の添加剤(例えば、界面活性剤、PVP等)を含み得る。いくつかの実施形態において、投与前に最終的な希釈を受け得る濃縮された処方物を生成することが望ましくあり得る。
【0057】
種々の実施形態において、および以下の実施例において示されるように、約10%の揮発性麻酔薬(例えば、イソフルラン)の溶液が用いられ得る。この溶液は、無痛覚および/または麻酔を達成するために、ボーラス注入として投与、連続的に投与、および/または繰り返しで投与され得る。したがって、以下の実施例に示すように、揮発性麻酔薬の10% v/v溶液が、無痛覚を誘導するために用いられ得る。種々の実施形態において、局所麻酔を誘導するために、より高い濃度の揮発性麻酔薬が用いられ得る。
【0058】
活性な薬剤送達の方法
本発明の麻酔薬は、局所的にまたは局部的に送達され得る。本明細書中で用いられる場合、「局所」または「局部」麻酔は、全身麻酔とは区別され、身体の特定の領域(例えば、神経の近くまたは神経束の近く)への麻酔薬の選択的な送達を可能にする麻酔処置を指す。対照的に、全身麻酔は、麻酔薬の全身投与(例えば、静脈内投与を介して)を可能とする。局所または局部麻酔は、無痛覚または被験体の身体の少なくとも部分での疼痛の知覚の減少のために被験体に投与される麻酔薬の総身体濃度を下げることを(局部的な濃度は上昇するが)一般的に可能にする。例えば、髄腔内麻酔、硬膜外麻酔、および神経ブロックは、局所または局部麻酔の例である。局所または局部麻酔のために用いられ得る麻酔薬の具体的な濃度は、約250から約50,000ナノグラム/ml、約250から約25000ナノグラム/ml、約250から約10000ナノグラム/ml、約250から約5000ナノグラム/ml、約250から約2500ナノグラム/ml、または約250から約1000ナノグラム/mlを含む。用いられる麻酔薬の具体的な濃度は、所望の効果によって変わり得、そして種々の実施形態において、麻酔薬組成物は効果について滴定される。したがって、用いられるかまたは組織中で達成される麻酔薬の濃度は、特定の所望の結果(例えば、無痛覚に対しての局所麻酔)および/または患者の特定の性質(例えば、麻酔薬に対する感受性)に依存して変わり得る。
【0059】
本発明は、種々の神経ブロック処置とともに用いられ得る。本発明による神経ブロック処置は、超音波可視化をともなって、またはともなわずに実施され得る。例えば、超音波装置が、神経ブロック処置を必要とする身体の領域(例えば、肩、首、腰部等における種々の神経束のような)を可視化するために用いられ得る。本発明が、例えば、ひざの復位、股関節部の復位、肩の復位、および/または分娩関連処置を含むが、それらに制限されるものではない種々の手術処置とともに用いられ得ることを本発明者は想定する。
【0060】
特定の実施形態において、本発明の組成物および方法が、疼痛管理のために用いられ得る。疼痛管理は、好ましくは被験体を意識喪失にすることなく、無痛覚を増加させるかまたは疼痛の知覚を低減するために、より低い全身体濃度の麻酔薬が、被験体に投与され得ることで全身麻酔とは区別される。疼痛管理のために用いられ得る麻酔薬の具体的な濃度は、約250から約50,000ナノグラム/ml、約250から約25000ナノグラム/ml、約250から約10000ナノグラム/ml、約250から約5000ナノグラム/ml、約250から約2500ナノグラム/ml、または約250から約1000ナノグラム/mlを含む。
【0061】
麻酔薬の硬膜外または髄腔内投与は、当該分野で公知の技術(例えば、髄腔内または硬膜外カテーテルの使用)を介して成し遂げられ得る。そのカテーテルは、神経を損傷することなく、従事者が阻害することを所望する、任意の疼痛感覚情報の伝播に重要な神経に接近して設置されるべきである。
【0062】
意図する投与の他のルートは、以下:注射、注入、連続注入、標的細胞を直接浸ける局所灌流、カテーテルを介して、ナノ粒子送達を介して、局所的投与(例えば、担体ビヒクル、局所的制御放出パッチ、創傷被覆材、親水コロイド、泡沫、またはヒドロゲルにおける)、関節内の、腫瘍内の、および/または頭蓋内の投与を含む。特定の実施形態において、投与のルートは、経口、静脈内、または吸入を介してではない。適切な生物学的担体または薬学的に受容される賦形剤が用いられ得る。種々の実施形態において、投与される化合物は、ラセミ体であるか、異性体として精製されているか、または異性体として純粋であり得る。
【0063】
特定の実施形態において、本発明の麻酔薬は、静脈内に投与されない。静脈内投与は、しばしば全身麻酔のために用いられ(Mathiasら、2004) 、そして一般的に被験体の全身への麻酔薬の迅速な分布を結果として生じる。したがって、特定の実施形態において、静脈内投与は、局所または局部麻酔での使用のためには適合しない。
【0064】
図1は、ハロゲン化エーテル麻酔薬を送達するための一般的方法のフローチャートの描写を与える。図1に示されるように、方法(100)は、ハロゲン化エーテル化合物(102)の選択で始まる。そのハロゲン化エーテル麻酔薬は、標準的な揮発性麻酔ガス、または上述したように、疼痛を低減することが可能であり、そして容易に気体になることが可能な活性剤であり得る。
【0065】
溶液
ハロゲン化エーテル麻酔薬が選択された後、それは溶液(104)中に溶解され得る。その溶液は、水性溶液(例えば、食塩水、人工脳脊髄液、被験体の自身の脳脊髄液等)であり得る。いくつかの変種においては、他の溶液が適切であり得る。
【0066】
食塩水の種々の処方物が、当該分野で公知であり、本発明と一緒に用いられ得る。例えば、その食塩水は、乳酸加リンガー溶液、酢酸加リンガー溶液、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)、ダルベッコのリン酸緩衝生理的食塩水(D−PBS)、トリス緩衝生理的食塩水(TBS)、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、または標準食塩水クエン酸塩(standard saline citrate)(SSC)であり得る。
【0067】
本発明の生理食塩水溶液は、特定の実施形態において、「ノーマルセーライン」(すなわち、約0.9% w/vのNaClの溶液)である。ノーマルセーラインは、血液と比較してわずかに高い程度のオスモル濃度を有する。しかしながら、種々の実施形態において、該セーラインは、ヒト患者のような被験体の身体において等張であり得る。「ノーマルセーライン」(NS)はしばしば、流体を経口摂取できない、進行した重度の脱水症状を有する患者のための点滴静注(IV)において頻繁に用いられる。特定の実施形態において、「半ノーマルセーライン」(すなわち、約0.45%のNaCl)または「1/4ノーマルセーライン」(すなわち、約0.22%のNaCl)が、本発明と一緒に用いられ得る。随意に、約5%のデキストロースまたは約4.5g/dLのグルコースが、該セーライン中に含まれ得る。種々の実施形態において、1つ以上の塩、緩衝剤、アミノ酸および/または抗微生物剤が、該セーライン中に含まれ得る。
【0068】
種々の人工脳脊髄液(ACSF)溶液が、本発明と一緒に用いられ得る。特定の実施形態において、ACSFは、以下の組成物(mMで示す)をともなう緩衝塩溶液(pH7.4)である:NaCl、120;KCl、3;NaHCO、25;CaCl、2.5;MgCl、0.5;グルコース,12。ACSFはまた、種々の市販の供給源(例えば、Harvard Apparatus (Holliston, Massachusetts )から入手できる。
【0069】
種々の実施形態において、保存剤または安定剤が、組成物または溶液中に含まれ得る。例えば、微生物の作用の防止は、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール、またはそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されるものではない種々の抗菌剤および抗真菌剤のような保存剤によりもたらされ得る。注射での使用に適切である含まれ得る薬剤は、滅菌された注射可能な溶液または分散液の即座の調製のための、滅菌された水溶液または分散液および滅菌された粉末を含む(米国特許第5,466,468号明細書、その全体が参考により本明細書中に特に援用される)。全ての例において、組成物は、好ましくは滅菌されており、そして注射の容易さを促進するために流体でなければならない。溶液は、好ましくは製造および貯蔵の条件下で安定であり、そして細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護されねばならない。含まれ得る安定剤の例は、緩衝剤、アミノ酸(例えば、グリシンおよびリジン)、炭水化物(例えば、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、マンニトール)等を含む。適切な安定剤または保存剤は、所望の投与のルートにより選択され得る。
【0070】
溶液中の化合物の重量の範囲は、変化し得る。例えば、種々の実施形態において、組成物は、約1〜5重量%の麻酔薬、約1〜5重量%の保存剤/安定剤、約1〜5重量%のNaCl、および約85%〜97%の水を含み得る。水に対する麻酔薬の割合は、所望の効果(疼痛の低減または無痛覚、局所麻酔等)を達成するのに必要とされるように変化し得る。
【0071】
溶液および/または組成物はまた、投与前に滅菌され得る。滅菌の方法は、当該分野で周知であり、加熱、煮沸、加圧、濾過、衛生化化学物質(sanitizing chemical)への曝露(例えば、溶液からの脱塩素または塩素の除去が続く塩素処理)、エアレーション、加圧蒸気滅菌等を含む。
【0072】
活性な薬剤のガスが、任意の数の方法で溶液中に溶解され得る。例えば、それは、溶液をとおして泡沫化され得(例えば、気化器を用いて)、または攪拌により可溶化され得る。特定の実施形態において、ハロゲン化エーテルのような麻酔薬または揮発性麻酔薬が、液体形態において測定され得、溶液中に直接混合され得る。もちろん、溶液中に麻酔薬を溶解する他の適切な方法もまた用いられ得る。ハロゲン化エーテル麻酔薬は可溶化された後、当該分野で周知の技術を用いて、疼痛を低減(麻酔の形態における疼痛の低減を含む)する必要のある被験体に硬膜外または髄腔内(図1、106)で投与され得る。特定の実施形態において、揮発性麻酔薬は、密封された真空容器中で溶液と混合され、合せた溶液はその後3〜5分間、機械的に攪拌され、そして使用時まで熱的中立(thermo−neutral)の超音波処理機中に保持される。
【0073】
従事者は油を脊柱管中に注入することを望まないため、髄腔内または硬膜外の適用のために、水中油型乳剤は所望され得ない。対照的に、食塩水、人工CSF、または患者自身のCSFが、本発明による麻酔薬の髄腔内または硬膜外投与のために用いられ得る。イソフルランの特定のエマルジョンが、硬膜外(da Sila Tellesら、2004)または静脈内投与(Chaiら、2006)のために以前に調製された。脂質エマルジョンはまた、細菌で汚染されたプロポフォールエマルジョンで過去に観察されたように、感染のいくらかの危険を引き起こし得る。脂質エマルジョンを含まないか、または本質的に含まない本発明の麻酔薬溶液は、したがって低減された汚染のリスクを有し得る。
【0074】
他の実施形態において、脂質エマルジョンまたは水中油エマルジョンは、本発明の麻酔薬組成物中に含まれ得る。例えば、抽出溶媒を含む溶液中に溶解された揮発性麻酔薬を含む、麻酔薬組成物はまた、脂質エマルジョンまたは水中油エマルジョンを含み得る。種々の実施形態において、リポソーム(例えば、多層状の、単層の、および/または多小胞リポソーム)または脂質組成物は、揮発性麻酔薬および(an)抽出溶媒の両方を含む水溶液を含み得る。麻酔薬組成物における水中油エマルジョンまたは脂質エマルジョンの包含が、例えば、麻酔薬組成物の安定性に有利に影響し、そして/または麻酔薬の薬物動態学を変えるために用いられ得る。脂質組成物、脂質エマルジョン、水中油エマルジョン、および/またはリポソームはまた、例えば局所麻酔のための神経ブロック処置において、有用であり得る。
【0075】
本発明の薬学的組成物は、有効量の1つ以上の麻酔薬、または生物学的に活性なガスまたは薬学的に許容される担体中に溶解または分散された付加的な薬剤を含む。句「薬学的にまたは薬理学的に許容される」は、動物(例えば、特定の場合、ヒトのような)に投与された場合、有害な、アレルギー性の、または他の不都合な反応を生じない、分子実体および組成物を指す。少なくとも1つの麻酔薬または溶液中の生物学的に活性なガスまたは付加的な活性成分を含む薬学的組成物の調製は、参考により本明細書中に援用されるRemington: The Science and Practice of Pharmacy, 20th Edition (2000)により例示されたように、本開示に照らして当業者には公知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)での投与のために、調製物は、FDA Office of Biological Standardsにより要求される、無菌状態、発熱原性、一般的な安全性および純度基準に適合するべきであることが理解されるであろう。
【実施例】
【0076】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すことが含まれる。当業者は、本願発明者により発見された代表的な技術に従う、実施例中に開示される技術が、本発明の実施において十分に機能すること、したがってその実施のための好ましい方式を構成すると考えられ得ることを認識すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、多くの変更が、開示された特定の実施形態においてなされ得ること、そして本発明の精神と範囲からはずれることなく同様の、または類似の結果がなお得られることを認識すべきである。
【0077】
実施例I
イソフルランおよびセボフルランの髄腔内投与
この研究を、疼痛を低減し、無痛覚を提供することにおける麻酔薬ガスの直接的な髄腔内注射の効能を評価するために設計した。この研究を、髄腔内に直接注射されるか、または以下の研究で示されるように食塩水に溶解させた、麻酔ガスであるイソフルランおよびセボフルランを使用して、1ヶ月の期間にわたって実施した。使用した対象動物はラットであった。なぜなら、ラットは、疼痛/無痛覚試験の十分に確立されたモデルを有していたからである。特に、350gm超の体重のSprague−Dawleyラットを使用した。これらのラットを、ペントバルビタール(50mg/kg)で麻酔し、そしてこれらの動物の麻酔深度を、有害刺激への角膜反射および足引き込み反射(paw withdrawal reflex)によって決定した。
【0078】
ラットの頚部を剃り、手術の間の細菌汚染を回避するために、消毒薬溶液で清潔にした。後頚部の筋肉(posterior neck muscle)の正中外科切開(midline surgical dissection)を行い、後頭環椎の膜(occipito−atlantoid membrane)へのアクセスを達成した。この膜を同定し、その後切開した。無菌のポリエチレンカテーテルを、脊髄の腰膨大までクモ膜下腔内に導入した(各動物において測定して、おおよそ7〜8cm)。まず3−0絹縫合糸で頚部の筋肉を縫合し、それから皮膚の切開をステープルで閉じることによって、外科的な創傷を閉じた。
【0079】
手術後、ラットをそれらのケージに移動させ、これらのラットが、麻酔誘発性低体温(anesthetic−induced hypothermia)にならないように、放射ランプ(radiant lamp)を、ケージ上に配置した。これらのラットを、手術の終わりからラットが完全に覚醒するまで、継続的にモニタリングした。手術後に任意の運動障害を示したラットを安楽死させた。
【0080】
手術から5日目に、創傷の感染も運動機能障害も有さないラットを、疼痛挙動研究室に輸送し、揮発性麻酔薬を使用した髄腔内研究に入れた。12匹のラットをこの研究のために選択した。全てのこれらのラットは髄腔内カテーテルを有した。イソフルラン(1−クロロ−2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)およびセボフルラン(フルオロメチル2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチルエーテル)を、ハロゲン化エーテル化合物として使用した。これらの両方は、ハロゲン化揮発性麻酔薬であり、イソフルランはBaxterによって製造され、セボフルランはAbbott Laboratoriesによって製造された。12匹のラットを、各々研究AおよびBのための、4匹のラット3群に分けた。
【0081】
第一の群において、2マイクロリットルの保存剤を含まないノーマルセーラインを、髄腔内カテーテルを介して各ラットに注射した。その後、このカテーテルに、保存剤を含まないノーマルセーラインを流した(flush)。それから、この群についての疼痛挙動試験(pain behavioral testing)を実施した。
【0082】
第二の群において、2マイクロリットルのイソフルランを、髄腔内カテーテルを介して各ラットに注射した。このカテーテルにもまた、保存剤を含まないノーマルセーラインを流した。その後、この群を疼痛挙動試験に供した。
【0083】
第三の群において、2マイクロリットルのセボフルランを、髄腔内カテーテルを介して各ラットに注射した。このカテーテルにもまた、保存剤を含まないノーマルセーラインを流した。その後、この群を疼痛挙動試験に供した。
【0084】
「ホットプレート」挙動試験を使用して、疼痛の知覚および無痛覚を評価した。これらの研究に使用した疼痛挙動試験モデルは、Tony Yakshによって十分に確立されている(例えば、Chaplanら、1994;Yakshら、2001;KimおよびChung、1992;Sorkinら、2001を参照のこと)。この試験は、ラットが、その肢の直下に配置された放射熱源などの有害刺激に応答して、どのくらい迅速に後脚を引き込むのかを決定することを含む。引き込みのためのこの時間は、「熱引き込み潜伏時間(thermal withdrawal latency)」として公知である。
【0085】
ラットを、25℃に維持した加熱されたガラスプレートを備える、改変されたHargreaves装置での試験に移した(Hargreavesら、1988を参照のこと)。プレートの下の集束映写用電球(focused projection bulb)を、脚の中央の足底表面に狙いを定めた。フォトダイオード作動性タイマーが引き込み潜伏時間を測定し、25秒のカットオフ時間を使用して、組織の損傷を防止した。放射熱に対する熱引き込み潜伏時間を、各髄腔内注射の5分後および30分後に測定した。各脚を三回試験し、その結果を平均した。以下のデータを、右後脚および左後脚の両方について収集した。
【0086】
【表1】

その後、これらのラットを、それらの髄腔内注射から回復する時間、置いておいた。呼吸低下、心臓または神経学的な不全(compromise)のような明らかな有害作用は存在しなかった。注射後30分で、これらのラットを、群分けにしたがって再度試験した。
【0087】
【表2】

この研究の結果は、疼痛を低減することにおける揮発性麻酔薬の髄腔内投与の効能を実証した。2マイクロリットルの髄腔内送達される最小用量において、イソフルランおよびセボフルランの鎮痛効果を示した。熱潜伏時間(thermal latency time)は有意に増大し、ゆえに、熱性C線維疼痛経路が、有効に鈍らされたことを示した。この研究はまた、活性剤ガスを髄腔内送達することの安全性に幾分の見通しを与えた。この研究におけるラットはいずれも有害作用を経験せず、全ての群について熱潜伏時間のベースラインに戻ることによって示されるように、それらの全ては、30分後に髄腔内注射から完全に回復した。
【0088】
実施例II
食塩水に溶解させたイソフルランの5μLサンプルの調製
以下の方法(「通気(bubbling)」法とも言われる)を使用して、イソフルランを食塩水に溶解させた。研究C:モック気化デバイスを、500mlの改変エルレンマイアーフラスコ(2つの入口および液相への1つのカテーテル)を使用して作製した。このフラスコを、0.9%ノーマルセーラインで部分的に満たし、栓のついたガラスピペットを、イソフルランの注入のために液相の底部に挿入した。第二の排出(egress)ピペットは、この閉鎖された容器からのガスの排出を可能にした。2L/分での酸素中2%イソフルラン溶液を、このピペットを介して注入し、およそ10分間の注入後に、この0.9%食塩溶液を飽和させた。5mLをこの飽和した食塩溶液から取り出し、上記の実施例Iに概説される手順を使用して10匹の動物に投与した。
【0089】
研究Cについて、全ての動物を、実験AおよびBと同様に準備した。本発明者らは、髄腔内カテーテルを介して、4匹の動物に5マイクロリットルの溶解させたイソフルラン溶液(0030で調製した)を注射した。注記、脚引き込みまでのコントロール(ベースライン)潜伏時間は、使用した異なる強度の加熱ランプに起因して、研究Cにおいて異なる。各動物は、研究Cにおいてそれら自体のコントロールとして役立つ。
【0090】
研究Cのデータを、熱源に対する脚引き込みまでの秒でここに提示する。表形式およびグラフ形式。結果を図2に示す。
【0091】
【表3】

実施例III
人工脳脊髄液に溶解させたイソフルランを使用する疼痛の髄腔内抑制
疼痛感受性を、人工脳脊髄液(ACSF)中のイソフルランの髄腔内投与後に測定した。さらに、以下に詳述されるように、イソフルランをまずACSFに溶解させ、次に、投与前に超音波処理した。その後、髄腔内投与されて、無痛覚または感覚脱失を達成し得るイソフルランの適切な濃度を決定するために、用量反応関係を、刺激−応答(SR)グラフを作成することによって評価した。ACSF中のイソフルランを髄腔内投与することの薬理学的なプロフィールの特徴付けを、ラットを使用してこの実施例で実施し;さらに、当業者によって認識されるように、類似のアプローチを使用して、ヒトにおける正確な薬理学的なプロフィールを決定し得る。
【0092】
ACSFに溶解されたイソフルランを、以下の方法によって調製した。イソフルランを、以下の組成(mMで)を有する脳脊髄液(pH7.4)に近い緩衝化塩溶液と、10%〜50%のv/v比で密閉された真空容器内で混合した:NaC1、120;KC1、3;NaHCO、25;CaCl、2.5;MgCl、0.5;グルコース、12。合わせた溶液を、3〜5分、機械的に攪拌し、次に、使用時まで熱的中立の超音波処理機中に保持される。
【0093】
ACSF中のイソフルランの溶液を、次に、以下の方法を介してラットに髄腔内投与した。処置溶液を、10μlの容量で腰部セグメント(lumbar segment)L1〜2上に重なる髄腔内カテーテルを介して送達し、続いて、10μlのACSFを流す。
【0094】
人工CSFに溶解させたイソフルランの髄腔内投与の後に、疼痛の知覚を、20秒のカットオフ時間を使用する改変を伴う、上記の「ホットプレート」挙動試験を使用して試験した。上記のように、「ホットプレート」挙動試験は、放射熱に対する後脚引き込み閾値(すなわち、ラットが熱源から脚を持ち上げて離すまでの持続時間)を試験することを含む。
【0095】
ACSF中のイソフルランの髄腔内投与は無痛覚をもたらした。図3に示されるように、ACSF中のイソフルランの髄腔内投与(すなわち、1.46mg用量のイソフルラン)は、放射熱に対する後脚引き込み閾値を試験することによって測定されるように、無痛覚をもたらした。10μLの、ACSF中のイソフルラン溶液(10%v/v)を使用した。以下に記載されるように、この用量のイソフルランは、適度な用量の髄腔内イソフルランを代表する。さらに、図3に示されるように、DMSOを、髄腔内注射のための薬学的組成物に含め得る。1%の濃度のDMSOを使用した。
【0096】
次に、動物を横断して応答を標準化し、そして髄腔内投与されて、無痛覚または感覚脱失を達成し得るイソフルランの適切な濃度を決定するために、用量反応関係を、刺激−応答(SR)グラフを作成することによって評価した。図4は、ACSF中のイソフルランの注射の後、10分の時点についての用量による最大可能効果(maximal possible effect)(MPE)の刺激−応答(SR)グラフを示す。種々の用量のイソフルランをx軸に示す;例えば、図3に示される、上記で使用された10%v/v溶液のイソフルランは、図4に示されるように、およそ34%のMPEに相当する。ACSFおよび/またはDMSOを含む薬学的組成物を図3に示す。ここでは、MPEを使用して、動物を横断して応答を標準化する。MPEを、((薬物応答時間−ベースライン応答時間)/(カットオフ時間−ベースライン応答時間))*100と計算する。ここで使用されるカットオフ時間は20秒であった。図4に示されるように、実質的な鎮痛効果が観察された。図4に示されるデータについて1%のDMSO溶液を使用した。
【0097】
実施例IV
抽出溶媒を含む麻酔薬組成物の調製
以下の溶液を調製した。イソフルランを取得した。NMPをSigma−Aldrich Chemical会社から取得した。40%(v/v)溶液のイソフルラン−NMP溶液を、40mlのイソフルランを60mlのNMPに添加して作製した。40%(v/v)溶液のイソフルラン−エタノール溶液を、40mlのイソフルランを60mlのエタノールに添加して作製した。
【0098】
種々の濃度のイソフルランおよびNMPを含む食塩水組成物を、以下のように、上記のNMP−イソフルラン溶液と食塩水とを混合することによって作製した:
【0099】
【表4】

種々の濃度のイソフルラン−エタノールを含むコントロール組成物を、以下のように、上記のイソフルラン−エタノール組成物と食塩水とを混合することによって作製した:
【0100】
【表5】

組成物の安定性を決定するために、以下の実験を実行し得る。各サンプルを、5mlのサンプルを含む2つの容器に分ける。このサンプルのうちの一方に蓋をする。他方のサンプルは蓋をしないままにする。時間(1時間、6時間、24時間など)をわたって、イソフルランが溶液から分離されているか否かを確認するために、これらのサンプルを調べる。さらに、各溶液中のイソフルランの濃度を、各時点で決定し得る。蓋をしていないサンプルを、蓋をしたサンプルと比較し、溶液の安定性を決定し得る。さらにその後、イソフルラン−NMP組成物を、コントロール組成物と比較し得る。麻酔薬組成物が全ての濃度で混和性のままであることが予測される。
【0101】
実施例V
イソフルラン組成物の調製および安定性試験
組成物中のイソフルランの安定性を、2つの方法で決定した。第一に、上記の組成物を、肉眼のレベルで相分離の存在について調べた。第二に、これらの組成物のイソフルラン含量を、時間をわたって、これらに蓋をしないままにしたときに、組成物中に残留するイソフルランの重さを量ることによって決定した。簡潔には、ガラスバイアルを、5〜10mlの組成物ビヒクルで満たし、その後重さを量った;バイアルのうちの一つは、イソフルランを受容せず、コントロールとして役立てた。他のバイアルは、種々の量のイソフルランを受容した。これらを、フード内で蓋をしないままにした。時間(0時間、0.4時間、1時間、16時間、24時間)をわたって、これらのバイアルの重さを量り、イソフルランが組成物中に留まっているか、または蒸発したかを確認した。時間をわたってビヒクル中の蒸発した量を、イソフルラン組成物中のそれから引いた。したがって、ビヒクル中のイソフルランの量を、各時点において大まかに決定した。
【0102】
純粋な形態のイソフルランは、揮発性の薬剤である。イソフルランの揮発性を決定するために、2つのバイアルは、示される量の純粋な形態のイソフルランを受容した。これらのバイアルを、化学換気フード内に置き、蓋をしないままにした。示された時間に、これらのバイアルの重さを量り、蒸発したイソフルランの量を決定した。以下の表に示されるように、0.7893gのイソフルランは3時間以内に蒸発したのに対し、3.4825gのイソフルランは、完全に蒸発するのにおよそ8時間を要した。イソフルランのこれらの量は、以下に示されるイソフルラン(iso)組成物を調製するために使用されたイソフルランの量に類似する。
【0103】
【表6】

N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中のイソフルラン溶液(v/v)の調製:純粋なイソフルランUSP(Forane)液体を、示される濃度でNMP(Sigma−Aldrich)と混合する;混合物を激しくボルテックス(vortex)し、均質なイソフルラン−NMP溶液を調製した。溶液中のNMPの量を低減するために、食塩水(0.9% NaCl)を混合物に添加した。
【0104】
【表7】

【0105】
【表8】

表7に示されるように、10%および40%のイソフルランをNMPと混合し、その結果生じた溶液は透明な外観であった。NMP濃度が最小の63%であるまで、NMP中の10% イソフルランを食塩水と混合することができた。このことは、NMP濃度が溶液中で63%未満であったとき、イソフルランが沈殿したことを意味する。表3に示されるように、NMPは、イソフルランの揮発性を低減した(表8 対 表6)。
【0106】
プロピレングリコール中のイソフルラン溶液(v/v)の調製:純粋なイソフルランUSP(Forane)液体を、示される濃度でプロピレングリコール(Sigma−Aldrich)と混合した;混合物を激しくボルテックスし、均質なイソフルラン−プロピレングリコール溶液を調製した。
【0107】
【表9】

【0108】
【表10】

表9に示されるように、10%および30%のイソフルランをプロピレングリコールと混合し、その結果生じた溶液は透明な外観であった。プロピレングリコール濃度が最小の72%であるまで、プロピレングリコール中の10% イソフルランを食塩水と混合することができた。表10に示されるように、プロピレングリコールは、イソフルランの揮発性を低減した(表10 対 表6)が、それは、NMPほど良好ではなかった(表10 対 表8)。
【0109】
ジメチルスルホキシド(DMSO)中のイソフルラン溶液(v/v)の調製:純粋なイソフルランUSP(Forane)液体を、示される濃度でDMSO(BDH)と混合する;混合物を激しくボルテックスし、均質なイソフルラン−DMSO溶液を調製した。溶液中においてより少量のDMSOを使用してイソフルラン溶液を調製するために、食塩水(0.9% NaCl)を、この混合物に添加した。
【0110】
【表11】

表11に示されるように、10%および50%のイソフルランをDMSOと混合し、その結果生じた溶液は透明な外観であった。72% DMSOと20% 食塩水との組み合わせ中の8% イソフルランを調製し、その結果生じた溶液は透明な外観であった。
【0111】
動物試験
イソフルランの足底内(intraplanar)投与:100μlの純粋な形態のイソフルランまたは100μlの2% リドカインを、後脚の足底表面(planar surface)に皮下注射した。全てのラットで、反対側の後脚を、それら自体のコントロールとして役立てた。
【0112】
脚引き込み潜伏時間の測定:放射熱(Planar Analgesia Instrument、UgoBasile、Italy)を使用して、ラットを、熱刺激に対する応答について試験する。最小の運動を許容するアクリル製の箱でラットが15分間、馴化した後、熱源を、後脚の中央の足底表面(mid−plantar surface)の下に配置した。引き込み潜伏時間を、熱刺激の開始から後脚の活発な(brisk)引き込みまでの期間として定義する。組織の損傷を回避するために、22秒のカットオフ時間を設定した。熱刺激を、3〜5分の刺激間の間隔で各後脚に三回適用した。熱侵害受容閾値(thermalnociceptive threshold)を、処置前および処置後に評価した。コントロールの脚と比較しての処置した脚での引き込み閾値における増大を、試験した処方物の鎮痛活性として評価した。
【0113】
統計分析:統計上の比較のために、スチューデントの対応のあるt‐検定分析(student paired t−test analysis)を使用した。P<0.05で差を有意とみなした。
【0114】
実験を上記のように実行した。図5に示されるように、後脚へのイソフルランの投与は、未処置の脚(con.iso)と比較したとき、有意な(P<0.05)抗侵害受容性効果を生じた(iso)。抗侵害受容性効果は、25分で始まり、実験を通して継続した。リドカインの投与(lid対con.lid)は、有意な抗侵害受容性効果をもたらし、これは、5分で始まり、15分でピークになり、そして45分でベースラインレベルに戻った。
【0115】
実施例VI
ヒトにおける無痛覚のためのイソフルランの局所塗布
局所的なイソフルランの効能を評価するために、少量(1cc)の50% ISO/DMSO溶液を、ヒト被験体の皮膚に塗布した。50% ISO/DMSO溶液を塗布した場合に、およそ1時間の期間にわたって、被験体は、軽い触診(light touch)に対する顕著な局部感覚脱失応答を含む局部感覚脱失特性を観察した。皮膚の刺激(skin irritation)は観察されなかった。
【0116】
さらに、ヒト被験体におけるこの局部感覚脱失応答を定量化するために、臨床研究を以下に記載されるように実行し得る。イソフルラン(ISO)は、十分に確立された安全性プロフィールを有する、広く使用される揮発性麻酔薬である。ジメチルスルホキシド(DMSO)は、角質層(水不浸透性の皮膚の層)を横切っての薬物の動きを促進する薬物送達系として使用されてきた有機溶媒である。以前の研究は、メトキシフルランのレシチン被覆された微小滴での局部感覚脱失を示した(Haynesら、1991)。
【0117】
以下のアプローチを、局所的なイソフルランの無痛覚を試験するために使用し得る。局所的なアミトリプチリン(amitryptiline)研究を含む研究(clinicaltrials.gov/show/ NCT00471445)に類似した研究を実行し得る。効能および/または局部の皮膚の刺激についてヒト志願者での皮膚評価もまた試験し得る。アミトリプチリンの例において、重要な進歩は、皮膚の刺激および疼痛遮断特性に関して異なる用量およびビヒクルのみを比較する志願者を使用する予備的な(pilot)ヒトでの試験から現れた(Gernerら、2003)。ビヒクルと活性薬物との間を区別するために、ビヒクルのみの部位 対 薬物+ビヒクル(異なる用量で)の部位を含む数箇所の部位を、以下で概説されるように試験する。
【0118】
被験体の適格性:試験被験体は、健康上の問題を有さない(皮膚の感受性も他の医療上の問題も有さないことを含む)志願した成人であるべきである。彼らは、読み書きができ、かつ4時間にわたって次の試験プロトコールで、彼らの前腕へ試験医薬を塗布することに同意する必要がある。
【0119】
処置計画:健常な志願者は、印をつけるペンを使用して彼らの利き腕ではない前腕に書かれた直径約10cmの3つの円を有し得る。ベースラインの生命徴候を取得し得る。
【0120】
医薬を以下のように塗布し得る:それぞれ低用量のISO/高用量のISO/ビヒクルのみを3つのスポットに塗布し、tegaderm(6×7cm、3M Healthcare、St Paul MN)で覆う。これは、15分後に取り外し得る。
【0121】
試験を、ベースライン(塗布前)、15分(包帯の除去後)、60分、3時間、および24時間で、3つの円の中心で行い得る。試験は、軽い触診に対する感受性を含み得る。
【0122】
触診検出閾値(A δ−小さな有髄線維−「速い疼痛(fast pain)」触診):触診検出閾値を、0.1mN、0.5mN、0.9mN、3.2mN、6.1mNまたは8.0mNの力を施すように較正される、6つのvon Freyモノフィラメントを使用する、Dixon 1のup/down法を使用して決定し得る。0.5mNで開始して、von Freyモノフィラメントを、約1秒当て得る。被験体が刺激を検出できなかった場合、次に高い力のvon Freyモノフィラメントを当てる。被験体が刺激の存在を検出したら、次に低いvon Freyを施す。up/down試験シークエンスを、最初の検出後、4つのさらなるvon Frey適用について続ける。50%の力学的な検出閾値を、Dixon 1に記載される手順を使用して計算する。最高の力のvon Freyモノフィラメントに対して検出されなかった場合、50%の検出閾値に、19mNの値を割り当てる。
【0123】
疼痛の検出(C線維−大きな無髄の「遅い疼痛(slow pain)」)、鮮鋭さ(sharpness)閾値および針プローブ(needle probe)に対する疼痛:鮮鋭さ検出を、重みをかけた針デバイス2を使用して決定し得る。30ゲージ針(
【0124】
【化1】

)の先端をやすりで磨いて、平坦な円筒形の末端を生成する。コットンチップ塗布器(cotton tip applicator)を針のLuer接続部に挿入し、コットンチップ塗布器のシャフトにワッシャーを置き、刺激のために所望の力レベルを達成する。次に、この組立て品全体を30ccシリンジ内に入れ、その結果、針がシリンジの先端から出、この組立て品がシリンジ内を自由に動く。針を皮膚表面に当てたとき、確実かつ一貫した力を加える。3種の力を使用する:100mN、200mNおよび400mN。各刺激を、約1秒間加える。各力を、擬似ランダムな(pseudorandom)順番で目的の各領域内に10回加える。被験体に、刺激が鋭いか否かを示すように指示する。刺激が鋭い場合、被験体は、刺激が痛みを伴うか否かを示す。
【0125】
皮膚の刺激について評価するために、被験体に、0〜10のスケール(0=全く刺激されない、そして10=極めて刺激される)で各時点、各位置での「局部の皮膚の刺激」を評点するように依頼し得る。最後に、皮膚を、各時点、上記の部位で、発赤(redness)および明らかな刺激について「存在するかまたは存在しないか」として調べ得る。
【0126】

本明細書に引用された、各々および全ての特許、特許出願および刊行物の開示は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0127】
本明細書で開示され、かつ特許請求される組成物および方法の全ては、本開示を鑑みて、過度な実験をすることなく作製および実行され得る。本発明の組成物および方法は好ましい実施形態に関して記載されたが、変形が、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく本明細書に記載された組成物および方法、ならびに方法の工程または方法の工程の連続順に加えられ得ることが当業者に明らかである。より具体的には、化学的および生理的の両方で関連する特定の薬剤が、本明細書に記載される薬剤の代わりになり得、一方で同じまたは類似の結果が達成されることは明らかである。当業者に明らかな全てのこのような類似の代用物および改変物は、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の精神、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
【0128】
本発明は具体的な実施形態に関して開示されてきたが、本発明の他の実施形態および変形物が本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく当業者によって考案され得ることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような実施形態および等価な変形物を包含するとみなされるように意図される。
【0129】
参考文献
以下の参考文献は、これらが、本明細書に示されるものを補足する、例示的な手続き上のまたは他の詳細を提供する程度まで、参考として本明細書に具体的に援用される。
【0130】
【化2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛の低減を必要とする被験体において疼痛を低減するための方法であって、静脈内以外のルートにより、疼痛を低減するのに有効な量で溶解された揮発性麻酔薬を有する薬理学的に許容される溶液を該被験体に投与する工程を含み、ここで該溶液は、該揮発性麻酔薬の揮発性を低減するのに有効な量で抽出溶媒をさらに含む、方法。
【請求項2】
前記抽出溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドまたはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出溶媒が、ジメチルイソソルビド、エタノール、プロパノール、またはイソプロパノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出溶媒が、前記溶液の約10%から約75%を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記抽出溶媒が、前記溶液の約10%から約25%を構成する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記抽出溶媒が、前記溶液の約25%から約75%を構成する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記麻酔薬が、局部または局所に送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記揮発性麻酔薬が、ハロゲン化エーテル麻酔薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記麻酔薬が、髄腔内に、硬膜外に、経皮的に、局所に、非経口的に、粘膜に、口腔内に、直腸に、膣に、筋肉内に、皮下に、または神経ブロック処置において送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記疼痛が、慢性疼痛である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記疼痛が、急性疼痛である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記麻酔薬が、手術前、手術中、または手術後に前記被験体のある部分を麻酔するために送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記揮発性麻酔薬が、イソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記揮発性麻酔薬がイソフルランである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記揮発性麻酔薬がセボフルランである、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記揮発性麻酔薬がメトキシフルランである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記溶液が、約5ng/mlから約100ng/mlの範囲の量の前記麻酔薬を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記溶液が、約1% v/vから約75% v/vの麻酔薬を溶液中に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記溶液が、溶液あたり、約5% v/vから約50% v/vの麻酔薬を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記麻酔薬がイソフルランである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記溶液が人工脳脊髄液を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記溶液が、溶液あたり、約10% v/vの麻酔薬を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記麻酔薬がイソフルランであり、前記溶液が人工脳脊髄液または食塩水を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記溶液が、脊髄液において250ng/ml〜50,000ng/mlの揮発性麻酔薬の投薬量範囲を達成するために硬膜外にまたは髄腔内に送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記揮発性麻酔薬の送達が連続的である、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記連続的送達が、経皮的送達により、または注入ポンプを介して達成される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記揮発性麻酔薬の送達が、断続的である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
前記揮発性麻酔薬の送達が、一回のイベントである、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
前記揮発性麻酔薬の送達が、別々の時機において、前記被験体への断続的投与および連続的投与の両方である、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記低減が、前記被験体の身体のある部分の疼痛の知覚の除去を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記揮発性麻酔薬を含む前記溶液が、滅菌されている、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記被験体がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記被験体がマウスまたはラットである、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記溶液が、食塩水または人工脳脊髄液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項36】
前記食塩水が、ノーマルセーラインである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記抽出溶媒がDMSOであり、前記揮発性麻酔薬がイソフルランであり、そして前記溶液がノーマルセーラインまたは人工脳脊髄液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項38】
前記DMSOが、前記溶液の約10%から約50%を構成する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記疼痛の低減が、運動機能をほとんど阻害しないかまたは運動機能を阻害することなく達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項40】
前記揮発性麻酔薬が、運動機能をほとんど阻害しないかまたは運動機能を阻害することなく疼痛の低減を達成するために滴定される、請求項1に記載の方法。
【請求項41】
前記揮発性麻酔薬が、運動機能の阻害がほとんどないか阻害なしに疼痛の低減を達成するために、一回以上投与されそして好時期に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
薬学的に許容される組成物であって、抽出溶媒を含む水溶液中に溶解された測定された量の揮発性麻酔薬を含み、ここで該組成物が、薬学的に許容される賦形剤中に包含される組成物。
【請求項43】
前記抽出溶媒が、ジメチルスルホキシド(DMSO)である、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
前記抽出溶媒が、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)である、請求項42に記載の組成物。
【請求項45】
前記抽出溶媒が、、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルイソソルビド、エタノール、プロパノール、またはイソプロパノールである、請求項42に記載の組成物。
【請求項46】
前記抽出溶媒が、前記溶液の約10%から約75%を構成する、請求項42に記載の組成物。
【請求項47】
前記組成物が滅菌されている、請求項42に記載の組成物。
【請求項48】
前記組成物が、髄腔内投与、硬膜外投与、経皮投与、局所投与、粘膜投与、口腔内投与、直腸投与、膣投与、筋肉内投与、皮下投与、または神経ブロックを介しての投与のために調合されている、請求項42に記載の組成物。
【請求項49】
前記溶液が、食塩水または人工脳脊髄液を含む、請求項42に記載の組成物。
【請求項50】
前記食塩水が、生理食塩液である、請求項49に記載の組成物。
【請求項51】
前記揮発性麻酔薬が、イソフルラン、ハロタン、エンフルラン、セボフルラン、デスフルラン、メトキシフルラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項42に記載の組成物。
【請求項52】
前記揮発性麻酔薬が、イソフルランである、請求項51に記載の組成物。
【請求項53】
前記揮発性麻酔薬が、約1% v/vから約50% v/vの濃度で水溶液中に溶解される、請求項51に記載の組成物。
【請求項54】
前記揮発性麻酔薬が、約10% v/vの濃度で前記水溶液中に溶解される、請求項53に記載の組成物。
【請求項55】
前記揮発性麻酔薬が、イソフルランであり、前記水溶液が、人工脳脊髄液である、請求項53に記載の組成物。
【請求項56】
請求項42〜55のいずれか1項に記載の麻酔薬溶液を含む、密封された容器。
【請求項57】
前記容器の内部が滅菌されている、請求項56に記載の密封された容器。
【請求項58】
前記容器が、注射針により容易に刺し通され得るゴム栓を含む、請求項57に記載の密封された容器。
【請求項59】
前記容器が、注射器のチャンバー部分を含む、請求項57に記載の密封された容器。
【請求項60】
前記容器が、点滴チャンバーを含む、請求項57に記載の容器。
【請求項61】
前記点滴チャンバーが、カテーテルに連結されている、請求項60に記載の容器。
【請求項62】
前記カテーテルが、硬膜外カテーテルまたは髄腔内カテーテルである、請求項61に記載の容器。
【請求項63】
前記容器が、プラスチックバック、ガラス瓶、またはプラスチックボトルである、請求項57に記載の容器。
【請求項64】
前記容器が、注入ポンプに連結されている、請求項57に記載の容器。
【請求項65】
前記注入ポンプが、髄腔内ポンプ、硬膜外送達注入ポンプ、または患者管理鎮痛法(PCA)ポンプである、請求項64に記載の容器。
【請求項66】
前記注入ポンプが、プログラム可能である、請求項64に記載の容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−510091(P2011−510091A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544418(P2010−544418)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/031706
【国際公開番号】WO2009/094459
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(501100582)ボード オブ リージェンツ, ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (19)
【Fターム(参考)】