説明

担体、この担体を備える反応物質複合体及び担体の製造方法

【課題】担持した反応物質によって、より高速での反応を実現できる担体、この担体を備える反応物質複合体及び担体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定物質と選択的に反応する反応物質20を担持する担体10において、互いに平行な複数の貫通孔11aを有する基材11と、貫通孔11a内に当該貫通孔11aの内壁11a1に沿って形成された中空糸状のシリカ構造体12と、を備え、シリカ構造体12は、ナノメートルオーダーの大きさの細孔12aを壁面に複数有し、細孔12aの内部に反応物質20が固定されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体、この担体を備える反応物質複合体及び担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新規ナノスケール材料の作製及びナノスケール材料の応用が盛んに行われている。特に、ナノスケール材料に触媒を固定化して、その触媒機能や利便性を高めようとする試みが盛んである。例えば、シリカを原料とし、界面活性剤を鋳型として作製した、均一で規則的なナノ細孔を有するシリカ系メソ多孔体に、タンパク質である酵素を固定化した酵素複合体の作製、この酵素複合体をリアクター等に応用する試み等がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の膜状の反応物質複合体(酵素複合膜)は、例えば、図11に示すように、互いに平行な複数の貫通孔(マクロ細孔)を有する陽極酸化アルミナ膜と、当該マクロ細孔内に形成されたシリカ系メソ多孔体と、シリカ系メソ多孔体の細孔の内部に固定された反応物質(酵素)と、を備えている。そして、この反応物質複合体において、シリカ系メソ多孔体の細孔の貫通方向は、陽極酸化アルミナ膜のマクロ細孔の貫通方向と同一となっている。
このような膜状の反応物質複合体をリアクター等に応用する場合、反応物質複合体の一方の面から他方の面に向かって、特定物質(反応基質)を含有する液体や気体を強制的に透過させる方法や、反応物質複合体を電解液等に浸漬させ、特定物質を含有する気体を当該電解液等と接触させて、当該電解液等に当該特定物質を溶解させる方法などによって、当該特定物質と、シリカ系メソ多孔体の細孔内の反応物質と、を接触させ、当該特定物質を生成物に変えるようになっている。この場合、特定物質は反応物質と接触するために、また、生成物は反応物質複合体の外部へと移動するために、反応物質が固定された領域を拡散するようになっている。すなわち、従来のシリカ系メソ多孔体においては、反応物質が固定された固定領域と、特定物質や生成物が拡散する拡散領域と、が分離していない。
【0004】
ここで、シリカ系メソ多孔体の形状としては、粉末状、顆粒状、シート状、バルク状、膜状等がある。また、その細孔の配向には、ランダムなもの、一方向に方向制御されたもの等がある。
【特許文献1】特開2008−193979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、何れの形状、配向においても、シリカ系メソ多孔体の細孔の大きさはナノメートルオーダーであり、また、反応物質が固定された固定領域と、特定物質や生成物が拡散する拡散領域と、が分離した構造ではないため、シリカ系メソ多孔体の細孔の内部に分子量の大きな反応物質を固定すると、細孔内における特定物質や生成物の拡散性が悪くなる。したがって、特に、シリカ系メソ多孔体のアスペクト比(細孔の深さ/細孔径)が高い場合に、高速で反応を実施できないという問題がある。また、特定物質を含有する液体や気体を強制的に透過させる方法の場合、シリカ系メソ多孔体の細孔の内部に分子量の大きな反応物質を固定すると、圧損が大きくなるため、当該液体や気体を高速で透過させることができず、やはり高速で反応を実施できないという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、担持した反応物質によって、より高速での反応を実現できる担体、この担体を備える反応物質複合体及び担体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
特定物質と選択的に反応する反応物質を担持する担体において、
互いに平行な複数の貫通孔を有する基材と、
前記貫通孔内に当該貫通孔の内壁に沿って形成された中空糸状のシリカ構造体と、
を備え、
前記シリカ構造体は、ナノメートルオーダーの大きさの穴部を内壁面に複数有し、
前記穴部の内部に前記反応物質が固定されることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の担体において、
前記基材は、アルミニウムを含む基板を陽極酸化して得た陽極酸化アルミナ基板であり、
前記貫通孔は、前記陽極酸化によって形成された孔であることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の担体において、
前記反応物質は生体触媒であり、前記穴部の大きさは、当該生体触媒のサイズの0.5〜2.0倍であることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、
反応物質複合体において、
請求項1〜3の何れか一項に記載の担体と、
前記担体に担持された前記反応物質と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、
請求項1〜3の何れか一項に記載の担体の製造方法において、
前記貫通孔の内壁に、所定の界面活性剤を含むシリカ層を形成するシリカ層形成ステップと、
前記シリカ層から前記界面活性剤を除去して、前記シリカ構造体を形成するシリカ構造体形成ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、
請求項5に記載の担体の製造方法において、
前記シリカ層形成ステップは、
前記界面活性剤を含むシリカ源溶液を所定の吸引速度で前記貫通孔内に吸引導入する吸引導入ステップと、
前記貫通孔内に導入された前記シリカ源溶液を所定の吸引速度で吸引乾燥させる吸引乾燥ステップと、
を備え、
前記シリカ構造体形成ステップは、前記シリカ層を焼成することによって、当該シリカ層から前記界面活性剤を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、担体は、互いに平行な複数の貫通孔を有する基材と、貫通孔内に当該貫通孔の内壁に沿って形成された中空糸状のシリカ構造体と、を備え、シリカ構造体は、ナノメートルオーダーの大きさの穴部を内壁面に複数有し、穴部の内部に反応物質が固定されるようになっている。
したがって、シリカ構造体の壁面部分が、反応物質が固定される固定領域となって、シリカ構造体の中空部分が、特定物質や生成物が拡散する拡散領域となる。すなわち、シリカ構造体は、固定領域と拡散領域とが分離した構造になっているため、分子量の大きな反応物質が固定された場合であっても、シリカ構造体のアスペクト比が高い場合であっても、担持した反応物質によって、より高速での反応を実現することができる担体及びこの担体を備える反応物質複合体を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、基材の貫通孔の内壁に、所定の界面活性剤を含むシリカ層を形成するシリカ層形成ステップと、シリカ層から界面活性剤を除去して、シリカ構造体を形成するシリカ構造体形成ステップと、によって担体を製造するようになっている。
すなわち、担持した反応物質によって、より高速での反応を実現することができる担体を、簡易な方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0016】
図1は、本実施形態の担体10の構成を説明するための模式図である。図2は、本実施形態の反応物質複合体1の構成を説明するための模式図であり、図3は、本実施形態の反応物質複合体1の要部構成を説明するための断面模式図である。
【0017】
<担体>
担体10は、特定物質と選択的に反応する反応物質20を担持するためのものである。
具体的には、担体10は、例えば、互いに平行な複数の貫通孔11aを有する基材11と、貫通孔11a内に当該貫通孔11aの内壁11a1に沿って形成された中空糸状のシリカ構造体12と、を備えて構成され、シリカ構造体12が有する穴部としての細孔12aの内部に反応物質20が固定されるようになっている。
【0018】
基材11は、例えば、アルミニウムを含む基板(アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板)を陽極酸化して得た陽極酸化アルミナ基板(陽極酸化アルミナ膜)である。
【0019】
貫通孔11aは、例えば、陽極酸化によって形成された、基材11の一方の面から他方の面にかけて貫通する円筒状の孔である。
貫通孔11aの直径は、担体10に担持させる反応物質20の種類等に応じて適宜任意に変更可能であり、具体的には、例えば、10nm〜10μmである。
【0020】
なお、基材11は、陽極酸化アルミナ基板に限ることはなく、所定の金属を含む基板を陽極酸化して得た陽極酸化金属基板等の、互いに平行な複数の貫通孔11aを有する金属酸化物基板であれば任意である。
【0021】
シリカ構造体12は、ナノメートルオーダーの大きさの細孔12aを複数有する多孔性シリカ膜(シリカ製のメッシュ体)を丸めて円筒状に形成したような形状をなしている。すなわち、シリカ構造体12は、ナノメートルオーダーの大きさの細孔12aを壁面に複数有する中空糸状のシリカ系メソ多孔体である。
シリカ構造体12は、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1を鋳型として形成される。具体的には、例えば、貫通孔11aの内壁11a1に、界面活性剤とシリカとの自己組織化によって有機−無機複合体(界面活性剤を含むシリカ層)を形成させ、その後、有機−無機複合体から界面活性剤を焼却除去や溶媒抽出除去することによって、周期構造を有するメソポーラスな多孔質材料(シリカ構造体12)を形成するようになっている。
【0022】
細孔12aは、界面活性剤のミセルを鋳型として形成された、シリカ構造体12の内壁面12bから外壁面12cにかけて貫通する孔である。細孔12aの貫通方向は、例えば、基材11が有する貫通孔11aの貫通方向に対して略垂直となっている。
細孔12aの大きさ(中心細孔直径)は、担体10に担持させる反応物質20の種類等に応じて適宜任意に変更可能であり、具体的には、例えば、1nm〜50nmである。ここで、細孔12aの大きさは、界面活性剤の種類を変えて、界面活性剤のミセルの径を変えることによって制御することができる。また、細孔12aの大きさは、例えば、界面活性剤と併せて、トリメチルベンゼンやトリプロピルベンゼンなどの比較的疎水性の分子を添加し、ミセルを膨潤させて、ミセルの径を変えることによって制御することができる。
ここで、細孔12aの中心細孔直径とは、細孔12aの断面形状が正円形状であると仮定し、シリカ構造体12の細孔容積(V)を細孔12aの直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔12aの直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径を意味する。なお、図1や図2に示す細孔12aの断面形状は、正六角形状である。
【0023】
担体10に担持させる反応物質20が、例えば、タンパク質等の生体触媒である場合、シリカ構造体12が有する細孔12aの大きさは、生体触媒のサイズの0.5〜2.0倍程度であることが好ましく、生体触媒のサイズの0.7〜1.4倍程度であることがより好ましく、生体触媒のサイズとほぼ同等であることが最も好ましい。細孔12aの大きさが担体10に担持させる生体触媒のサイズの0.5倍未満であると、生体触媒の細孔12a内への吸着が不充分となる傾向があり、細孔12aの大きさが担体10に担持させる生体触媒のサイズの2.0倍より大きいと、生体触媒の立体構造が効率よく保持されない傾向がある。
すなわち、シリカ構造体12が有する細孔12aの大きさを、担体10に担持させる生体触媒のサイズの0.5〜2.0倍程度(より好ましくは0.7〜1.4倍程度、最も好ましくはほぼ同程度)にすることによって、担体10に対する生体触媒の固定(吸着)を効率化でき、また、担体10に固定された生体触媒の立体構造の保持も容易となるため、生体触媒を安定的に担持することができる。
具体的には、例えば、生体触媒としてホルムアルデヒド脱水素酵素を担体10に担持させる場合、ホルムアルデヒド脱水素酵素の直径は約8nmであるため、シリカ構造体12が有する細孔12aの大きさとしては、4nm〜16nm程度が好ましい。
【0024】
なお、担体10に担持させる反応物質20が、タンパク質であり、そのタンパク質が多量体を形成する場合には、担体10に担持させるタンパク質のサイズは、多量体のサイズとすることができる。ここで、多量体とは、2以上のタンパク質が、直接に、又は水などの低分子を介して結合してなる化合物をいい、結合には、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合が含まれる。しかし、これらの結合の種類は、特に制限されない。
また、担体10に担持させる反応物質20のサイズは、その反応物質20の形状が、球状である場合は反応物質20の直径(例えば、楕円球状のように直径が複数ある場合は、そのうちの何れか1つ)、板状である場合は反応物質20の長辺の長さ、等とすることができるが、これらに限られるものではなく、その反応物質20の形状や特性に応じて適宜任意に判断するのが好ましい。
【0025】
また、担体10に担持させる反応物質20が、例えば、タンパク質等の生体触媒である場合、担持された生体触媒の変性を抑制する等の観点から、シリカ構造体12の酸解離定数(pKa)は、pKa5〜14が好ましい。
【0026】
また、細孔12aの深さ(すなわち、シリカ構造体12の壁面の厚み)は、担体10に担持させる反応物質20の種類等に応じて適宜任意に変更可能であり、具体的には、例えば、1nm以上である。
ここで、シリカ構造体12の壁面の厚みを決めるファクターの1つとして、界面活性剤とシリカとの自己組織化時の吸引速度(すなわち、吸引導入時及び吸引乾燥時の吸引速度)が挙げられる。吸引速度が低下するにつれて、基材11が有する貫通孔11a内に形成される中空糸状のシリカ構造体12の壁面の厚みは厚くなり、吸引速度が所定の閾値以下になると、貫通孔11a内には、固定領域A1と拡散領域A2とが分離された構造のシリカ系メソ多孔体(中空糸状のシリカ構造体12)が形成されず、固定領域A1と拡散領域A2とが分離されていない構造のシリカ系メソ多孔体(例えば、図11に示すような従来のシリカ系メソ多孔体)が形成されてしまう。
【0027】
シリカ構造体12は、0.1〜1.5mL/gの細孔容積を有するシリカ系メソ多孔体であることが好ましく、また、200〜1500mの比表面積を有するシリカ系メソ多孔体であることが好ましい。そして、シリカ構造体12は、全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合が60%以上のシリカ系メソ多孔体であることが好ましい。
ここで、「全細孔容積に占める、中心細孔直径の±40%の範囲内の直径を有する細孔の全容積の割合が60%以上」とは、例えば、中心細孔直径が3.00nmである場合、この3.00nmの±40%、すなわち、1.80〜4.20nmの範囲にある細孔の容積の合計が、全細孔容積の60%以上を占めていることを意味する。
このような条件を満たすシリカ系メソ多孔体は、細孔の直径が非常に均一であることを意味し、このような細孔配列構造を有するシリカ系メソ多孔体に、例えば、反応物質20としてタンパク質等の生体触媒を吸着させると、生体触媒の安定性及び吸着量(固定量)をより向上させることができる。なお、細孔容積は、例えば、リン酸溶液や硝酸溶液で基材11を溶解させて、析出したシリカ構造体12を液体窒素温度に冷却して窒素ガスを導入する方法(窒素吸着法)によって算出することができる。
【0028】
また、シリカ構造体12は、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有するX線回折パターンを示すシリカ系メソ多孔体であることが好ましい。X線回折パターンでピークが現われる場合は、そのピーク角度に相当するd値の周期構造がシリカ系メソ多孔体中にあることを意味する。
したがって、1nm以上のd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1nm以上の間隔で規則的に配列していることを意味する。このように、非常に規則的な細孔配列構造を有するシリカ系メソ多孔体に、例えば、反応物質20としてタンパク質等の生体触媒を吸着させると、生体触媒の安定性及び吸着量をより向上させることが可能になる。
【0029】
なお、シリカ構造体12における、細孔12aの配列状態(細孔配列構造)は、特に制限されるものではない。シリカ構造体12としては、例えば、ヘキサゴナルの細孔配列構造を有するもの、キュービックやディスオーダの細孔配列構造を有するものが例示される。
ここで、シリカ構造体12がヘキサゴナルの細孔配列構造を有するとは、シリカ構造体12が有する細孔12aの配置が六方構造であることを意味する。ヘキサゴナルの細孔配列構造としては、2次元ヘキサゴナル及び3次元ヘキサゴナルが挙げられる。本発明において好適に用いることのできる2次元ヘキサゴナルの細孔配列構造を有するシリカ構造体12は、例えば、図1及び図2に示すように、2次元ヘキサゴナル配列構造に基づいて、六角柱状の細孔が互いに平行に規則的に形成されている。
また、シリカ構造体12がキュービックの細孔配列構造を有するとは、シリカ構造体12が有する細孔12aの配置が立方構造であることを意味する。
また、シリカ構造体12がディスオーダの細孔配列構造を有するとは、シリカ構造体12が有する細孔12aの配置が不規則であることを意味する。
【0030】
なお、シリカ構造体12が、ヘキサゴナルやキュービック等の規則的細孔配列構造を有する場合は、細孔12aの全てがこれらの規則的細孔配列構造である必要はない。すなわち、シリカ構造体12は、ヘキサゴナルやキュービックなどの規則的細孔配列構造と、ディスオーダの不規則的細孔配列構造と、の両方を有していることが可能である。しかしながら、全ての細孔12aのうちの80%以上は、ヘキサゴナルやキュービックなどの規則的細孔配列構造となっていることが好ましい。
【0031】
また、シリカ構造体12としては、有機基を有するシリカ系メソ多孔体、有機基を有しないシリカ系メソ多孔体が例示される。そして、何れのシリカ系メソ多孔体の場合においても、ケイ素以外の金属元素(例えば、Al、Zr、Ti)を更に含むことができる。なお、何れのシリカ系メソ多孔体であっても、表面にはシラノール基(−SiOH基)が存在している。
有機基を有するシリカ系メソ多孔体とは、シリカ系メソ多孔体を構成するケイ素原子の少なくとも一部に、有機基が、炭素−ケイ素結合を形成することによって結合しているものをいう。有機基としては、例えば、アルカンやアルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカンなどの炭化水素から1以上の水素がとれて生じる炭化水素基、アミド基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフォン基、カルボキシル基、エーテル基、アシル基、ビニル基等が挙げられる。
【0032】
<反応物質>
反応物質20は、特定物質或はその生成物と選択的に反応する物質であれば任意であり、具体的には、例えば、生体由来の分子識別素子(タンパク質等の生体触媒など)、パラジウムや白金などの金属触媒、酸化ルテニウムや酸化マンガン、酸化鉄、酸化チタンなどの酸化触媒、その他の有機触媒又は無機触媒、各種ポリマー、ポリマーコンプレックス、ポリイオンコンプレックス、吸光物質、蛍光物質、色素等である。
なお、担体10に担持される反応物質20の種類は、1種類であっても良いし、複数種類であっても良い。
【0033】
<反応物質複合体>
反応物質複合体1は、例えば、図2及び図3に示すように、担体10と、担体10に担持された反応物質20と、を備えて構成される。反応物質複合体1は、例えば、生化学分析や微量成分分析のためのセンサとして、或は、高分子合成や触媒反応などにおけるリアクターとして好適に適用することができる。
【0034】
ここで、担体10において、基材11が有する貫通孔11a内は、例えば、図3に示すように、反応物質20が固定される固体領域A1と、特定物質(反応物質)及び生成物(反応生成物)が拡散する拡散領域A2と、に分けられる。
固定領域A1は、シリカ構造体12の壁面部分であり、その壁面部分に形成された細孔12aの内部に反応物質20が固定される。
拡散領域A2は、反応物質複合体1の一方の面から他方の面にかけて貫通する孔からなる。すなわち、拡散領域A2は、シリカ構造体12の中空部分であり、何も充填されていない空洞となっている。
【0035】
したがって、例えば、反応物質複合体1の一方の面から他方の面に向かって、特定物質を含有する液体や気体を強制的に透過させると、当該液体や気体は拡散領域A2を通過する。
例えば、図11に示すような従来の反応物質複合体の場合、固定領域A1と拡散領域A2とが分離されていない構造(反応物質20が固定された領域を、特定物質や生成物が拡散する構造)であるため、当該液体や気体は、反応物質20が固定された領域を通過することになる。これに対し、本発明の反応物質複合体1の場合、当該液体や気体は、何も充填されていない空洞状態の拡散領域A2を通過することになり、従来の反応物質複合体と比較して、圧損が低く、当該液体や気体を高速に透過させることができるため、高速で反応を実施することができる。
【0036】
さらに、当該液体や気体が拡散領域A2を通過する際に、当該液体や気体に含有された特定物質は、拡散領域A2を拡散して、固定領域A1に固定された反応物質20へと移動し、当該反応物質20と接触する。そして、当該接触によって生じた生成物も、拡散領域A2を拡散して、反応物質複合体1の外部へと移動する。
例えば、図11に示すような従来の反応物質複合体の場合、固定領域A1と拡散領域A2とが分離されていない構造であるため、特定物質や生成物は、反応物質20が固定された領域を拡散することになる。これに対し、本発明の反応物質複合体1の場合、特定物質や生成物は、何も充填されていない空洞状態の拡散領域A2を拡散することになり、従来の反応物質複合体と比較して、特定物質や生成物の拡散性が高くなるため、高速で反応を実施することができる。
【0037】
また、例えば、反応物質複合体1を電解液等に浸漬させ、特定物質を含有する気体を当該電解液等と接触させて、当該電解液等に当該特定物質を溶解させると、当該特定物質は、反応物質複合体1の外部を拡散して内部(拡散領域A2)へと移動し、さらに、拡散領域A2を拡散して固定領域A1に固定された反応物質20へと移動し、当該反応物質20と接触する。そして、当該接触によって生じた生成物も、拡散領域A2を拡散して、反応物質複合体1の外部へと移動する。
例えば、図11に示すような従来の反応物質複合体の場合、固定領域A1と拡散領域A2とが分離されていない構造であるため、特定物質や生成物は、反応物質20が固定された領域を拡散することになる。これに対し、本発明の反応物質複合体1の場合、特定物質や生成物は、何も充填されていない空洞状態の拡散領域A2を拡散することになり、従来の反応物質複合体と比較して、特定物質や生成物の拡散性が高くなるため、高速で反応を実施することができる。
【0038】
<反応物質複合体の製造方法>
次に、反応物質複合体1の製造方法について説明する。反応物質複合体1は、担体10を製造し、その製造された担体10に反応物質20を固定することによって製造される。
【0039】
(担体の製造)
まず、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製する。
ここで、シリカ源溶液とは、シリカ源となる化合物(例えば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)等のアルコキシシラン)を含有する溶液のことである。
界面活性剤は、担体10に担持させる反応物質20の種類等に応じて適宜任意に変更可能であり、トリブロック共重合体のCTAB、P123及びF127等を好ましく用いることができる。
具体的には、例えば、CTAB、P123及び/又はF127を、エタノールや塩酸の混合物中に溶解して、30℃〜60℃程度で、還流器を用いて数時間程度攪拌する。
次いで、これに、TEOS等のシリカ源を添加し、更に、30℃〜60℃程度で、還流器を用いて2時間〜20数時間程度攪拌することによって、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製する。
なお、シリカ源溶液に含まれる界面活性剤の種類は、1種類であっても良いし、複数種類であっても良い。
【0040】
次に、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に、界面活性剤を含むシリカ層を形成する(シリカ層形成ステップ)。
具体的には、例えば、調製した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、基材11の一方の面に滴下し、真空ポンプ等の吸引装置を用いて、所定の吸引速度で、当該滴下された界面活性剤を含むシリカ源溶液を貫通孔11a内に吸引導入する(吸引導入ステップ)。
次いで、例えば、貫通孔11a内に導入された界面活性剤を含むシリカ源溶液を、真空ポンプ等の吸引装置を用いて、所定の吸引速度で、吸引乾燥させて(吸引乾燥ステップ)、貫通孔11aの内壁11a1に界面活性剤を含むシリカ層を形成する。
なお、吸引導入時の吸引速度と、吸引乾燥時の吸引速度と、は同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0041】
次に、貫通孔11aの内壁11a1に形成されたシリカ層から界面活性剤を除去して、シリカ構造体12を形成する(シリカ構造体形成ステップ)。
具体的には、例えば、貫通孔11aの内壁11a1に形成されたシリカ層を焼成することによって、当該シリカ層から界面活性剤を除去することにより、貫通孔11aの内壁11a1に沿って中空糸状のシリカ構造体12を形成する。
以上のようにして、担体10を製造する。
【0042】
(反応物質の固定)
まず、反応物質20を含む反応物質溶液を調製する。
次に、調製した反応物質溶液中に、製造された担体10を浸漬させて、担体10に反応物質20を吸着固定させる。
次に、担体10を洗浄することによって、拡散領域A2内の反応物質20を洗い流す。
以上のようにして、製造された担体10に反応物質20を固定化して、反応物質複合体1を製造する。
【0043】
なお、上記の担体10の製造方法、反応物質複合体1の製造方法は、一例であって、これに限られるものではない。
【実施例1】
【0044】
以下、具体的な実施例によって本発明を説明するが、発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
実施例1では、担体を作製して、その担体について評価した。
【0046】
まず、界面活性剤(P123)1.0gを、エタノール20mL、濃塩酸100μL及び水2mLと混合して、攪拌しながら60℃で1時間還流を行った。
次いで、これに、TEOS2.13gを添加し、還流器を用いて60℃で12時間攪拌することによって、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製した。
【0047】
次に、リン酸溶液中でアルミニウム基板に一定電圧を印加して、当該アルミニウム基板を陽極酸化することによって、貫通孔の直径が100nm、厚みが60μmの陽極酸化アルミナ基板(基材11)を作製した。
【0048】
次に、調製した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、作製した陽極酸化アルミナ基板の一方の面に滴下し、吸引装置を用いて、吸引速度10L/minで、当該陽極酸化アルミナ基板の貫通孔内に吸引導入した。
次いで、貫通孔内に吸引導入した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、吸引装置を用いて、吸引速度10L/minで、吸引乾燥させることによって、当該貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層を形成した。
【0049】
次に、貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層が形成された陽極酸化アルミナ基板を、デシケータ中で一晩乾燥させた後、500℃で6時間焼成して、当該シリカ層から界面活性剤を除去することによって、担体を作製した。
【0050】
次に、作製した担体を貫通孔に対して斜めに切断し、その断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察した。その結果を図4に示す。
図4に示すように、SEM観察の結果、陽極酸化アルミナ基板の貫通孔の内壁に沿って、中空糸状の構造体が形成されていることが確認された。
【0051】
また、作製した担体を貫通孔に対して斜めに切断し、その断面を、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて観察した。その結果を図5に示す。
図5に示すように、TEM観察の結果、陽極酸化アルミナ基板の貫通孔の内壁に沿って形成された中空糸状の構造体は、メッシュ状の均一な3次元構造であることが確認された。また、TEM観察の結果、この中空糸状の構造体は、壁面の厚みが約8.0nmであることが分かった。さらに、TEM観察の結果、この中空糸状の構造体が有する細孔(細孔12a)は、断面形状が略正六角形状であり、平均細孔サイズが約8.0nmであることが確認された。ここで、細孔サイズとは、六角形における、一辺と、当該一辺に対向する他の一辺と、の間の距離のことである。
【0052】
また、作製した担体を、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて解析した。
その結果、陽極酸化アルミナ基板の貫通孔の内壁に沿って、シリカが分布していることが確認された。
【0053】
以上のSEM、TEM及びEDXの結果から、本発明の担体の製造方法によって、陽極酸化アルミナ基板(基材11)と、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に沿って形成された中空糸状の構造体(シリカ構造体12)と、を備える担体(担体10)を作製できることが確認された。
【0054】
<実施例2>
実施例2では、担体を作製して、界面活性剤を含むシリカ源溶液中の、界面活性剤の量及びTEOSの量について評価した。
【0055】
まず、界面活性剤(P123)を、エタノール20mL、濃塩酸100μL及び水2mLと混合して、攪拌しながら60℃で1時間還流を行った。
次いで、これに、TEOSを添加し、還流器を用いて60℃で12時間攪拌することによって、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製した。
【0056】
次に、リン酸溶液中でアルミニウム基板に一定電圧を印加して、当該アルミニウム基板を陽極酸化することによって、貫通孔の直径が100nm、厚みが60μmの陽極酸化アルミナ基板(基材11)を作製した。
【0057】
次に、調製した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、作製した陽極酸化アルミナ基板の一方の面に滴下し、吸引装置を用いて、吸引速度10L/minで、当該陽極酸化アルミナ基板の貫通孔内に吸引導入した。
次いで、貫通孔内に吸引導入した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、吸引装置を用いて、吸引速度10L/minで、吸引乾燥させることによって、当該貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層を形成した。
【0058】
次に、貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層が形成された陽極酸化アルミナ基板を、デシケータ中で一晩乾燥させた後、500℃で6時間焼成して、当該シリカ層から界面活性剤を除去することによって、担体を作製した。
【0059】
ここで、P123の量が0.6g,1.0g及び1.5gである各シリカ源溶液(TEOSの量は2.13g)を用いて、3種類の担体を作製した。
また、TEOSの量が1.28g,2.13g及び3.2gである各シリカ源溶液(P123の量は1.0g)を用いて、3種類の担体を作製した。
【0060】
次に、作製した6種類の担体それぞれを、TEMを用いて観察した。
その結果、P123の量が0.6g及び1.5gの場合、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に沿って中空糸状のシリカ構造体12が形成されていることは確認されたが、そのシリカ構造体12が有する細孔12aは、内壁11a1(内壁面)に不規則に配置され、形状が歪んだ略六角柱状であった。
これに対し、P123の量が1.0gの場合は、例えば、図1及び図2に示すような、互いに平行な規則的に配置された略正六角柱状の細孔12aを有する中空糸状のシリカ構造体12が、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に沿って形成されていることが確認された。
また、TEOSの量が1.28g及び3.2gの場合、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に沿って中空糸状のシリカ構造体12が形成されていることは確認されたが、そのシリカ構造体12が有する細孔12aは、内壁11a1(内壁面)に不規則に配置され、形状が歪んだ略六角柱状であった。
これに対し、TEOSの量が2.13gの場合は、例えば、図1及び図2に示すような、互いに平行な規則的に配置された略正六角柱状の細孔12aを有する中空糸状のシリカ構造体12が、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に沿って形成されていることが確認された。
以上の結果から、界面活性剤としてP124を用いるときは、シリカ構造体12が有する細孔12aの形状等の観点から、P123の量が1.0g、TEOSの量が2.13gであるシリカ源溶液を用いて担体10を作製することが好適であることが分かった。
【0061】
同様にして、界面活性剤F127についても、担体を作製して、界面活性剤を含むシリカ源溶液中の、界面活性剤の量及びTEOSの量について評価した。
その結果、界面活性剤としてF127を用いるときは、シリカ構造体12が有する細孔12aの形状等の観点から、F127の量が0.92g、TEOSの量が2.0gであるシリカ源溶液(具体的な組成は実施例4参照)を用いて担体10を作製することが好適であることが分かった。
【0062】
また、同様にして、界面活性剤CTABについても、担体を作製して、界面活性剤を含むシリカ源溶液中の、界面活性剤の量及びTEOSの量について評価した。
その結果、界面活性剤としてCTABを用いるときは、シリカ構造体12が有する細孔12aの形状等の観点から、CTABの量が1.52g、TEOSの量が11.57gであるシリカ源溶液(具体的な組成は実施例4参照)を用いて担体10を作製することが好適であることが分かった。
【0063】
<実施例3>
実施例3では、担体を作製して、界面活性剤を含むシリカ源溶液を貫通孔11a内に吸引導入する時(吸引導入時)及び貫通孔11a内に吸引導入された界面活性剤を含むシリカ源溶液を吸引乾燥させる時(吸引乾燥時)の吸引速度について評価した。
【0064】
まず、界面活性剤(P123)1.0gを、エタノール20mL、濃塩酸100μL及び水2mLと混合して、攪拌しながら60℃で1時間還流を行った。
次いで、これに、TEOS2.13gを添加し、還流器を用いて60℃で12時間攪拌することによって、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製した。
【0065】
次に、リン酸溶液中でアルミニウム基板に一定電圧を印加して、当該アルミニウム基板を陽極酸化することによって、貫通孔の直径が100nm、厚みが60μmの陽極酸化アルミナ基板(基材11)を作製した。
【0066】
次に、調製した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、作製した陽極酸化アルミナ基板の一方の面に滴下し、吸引装置を用いて、当該陽極酸化アルミナ基板の貫通孔内に吸引導入した。
次いで、貫通孔内に吸引導入した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、吸引装置を用いて、吸引導入時と同一の吸引速度で、吸引乾燥させることによって、当該貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層を形成した。
【0067】
次に、貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層が形成された陽極酸化アルミナ基板を、デシケータ中で一晩乾燥させた後、500℃で6時間焼成して、当該シリカ層から界面活性剤を除去することによって、担体を作製した。
【0068】
ここで、吸引導入時及び吸引乾燥時の吸引速度を、0.1L/min、0.5L/min、1L/min、2L/min、3L/min、5L/min、8L/min及び10L/minとして、8種類の担体を作製した。
【0069】
次に、作製した8種類の担体それぞれを、TEMを用いて観察した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0070】
表1に示すように、TEM観察の結果、吸引速度が1L/min以上である場合は、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に沿って、中空糸状のシリカ構造体12が形成されていることが確認された。すなわち、細孔12aの貫通方向が、貫通孔11aの貫通方向に対して略直交しており、かつ、中空部分(拡散領域A2)を有するシリカ系メソ多孔体(シリカ構造体12)が形成されていることが確認された。
これに対し、吸引速度が0.5L/min以下の場合は、中空糸状のシリカ構造体12ではなく、細孔サイズが約8.0nmの細孔を有する従来のシリカ系メソ多孔体(例えば、図11参照)が、基材11が有する貫通孔11a内に形成されていることが確認された。すなわち、細孔の貫通方向が、貫通孔11aの貫通方向と略同一であり、かつ、中空部分を有さないシリカ系メソ多孔体が形成されていることが確認された。
【0071】
また、表1に示すように、TEM観察の結果、吸引速度が1L/min以上である場合、吸引速度が増加するにつれて、中空糸状のシリカ構造体12の壁面の厚みが薄くなっていくことが確認された。
【0072】
以上の結果から、上記組成の溶液(界面活性剤を含む溶液)を用い、かつ、貫通孔11aの直径が100nmである基材11を用いた場合、中空糸状のシリカ構造体12を形成するためには、1L/min以上の吸引速度で吸引導入及び吸引乾燥する必要があることが分かった。また、吸引速度によって、中空糸状のシリカ構造体12の壁面の厚みを制御できることが分かった。
【0073】
<実施例4>
実施例4では、担体を作製して、界面活性剤を含むシリカ源溶液中の界面活性剤の種類と、中空糸状のシリカ構造体12が有する細孔12aの大きさと、の関係について評価した。
【0074】
まず、界面活性剤(P123)1.0gを、エタノール20mL、濃塩酸100μL及び水2mLと混合して、攪拌しながら60℃で1時間還流を行った。
次いで、これに、TEOS2.13gを添加し、還流器を用いて60℃で12時間攪拌することによって、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製した。
【0075】
次に、リン酸溶液中でアルミニウム基板に一定電圧を印加して、当該アルミニウム基板を陽極酸化することによって、貫通孔の直径が100nm、厚みが60μmの陽極酸化アルミナ基板(基材11)を作製した。
【0076】
次に、調製した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、作製した陽極酸化アルミナ基板の一方の面に滴下し、吸引装置を用いて、吸引速度10L/minで、当該陽極酸化アルミナ基板の貫通孔内に吸引導入した。
次いで、貫通孔内に吸引導入した界面活性剤を含むシリカ源溶液を、吸引装置を用いて、吸引速度10L/minで、吸引乾燥させることによって、当該貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層を形成した。
【0077】
次に、貫通孔内に界面活性剤を含むシリカ層が形成された陽極酸化アルミナ基板を、デシケータ中で一晩乾燥させた後、500℃で6時間焼成して、当該シリカ層から界面活性剤を除去することによって、担体を作製した。
【0078】
また、界面活性剤(F127)0.92gを、エタノール23.5mL、濃塩酸200μL及び水1.33mLと混合して、攪拌しながら60℃で1時間還流を行った。
次いで、これに、TEOS2.0gを添加し、還流器を用いて60℃で12時間攪拌することによって、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製した。
そして、界面活性剤P123を含むシリカ源溶液の場合と同様にして、担体を作製した。
【0079】
また、界面活性剤(CTAB)1.52gを、エタノール15g及び濃塩酸4mLと混合して、攪拌しながら60℃で1時間還流を行った。
次いで、これに、TEOS11.57gを添加し、還流器を用いて60℃で12時間攪拌することによって、界面活性剤を含むシリカ源溶液を調製した。
そして、界面活性剤P123を含むシリカ源溶液の場合と同様にして、担体を作製した。
【0080】
次に、作製した3種類の担体それぞれを、TEMを用いて観察した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0081】
表2に示すように、TEM観察の結果、界面活性剤の種類によって、中空糸状のシリカ構造体12が有する細孔12aの大きさが異なることが確認された。
以上の結果から、シリカ源溶液に含まれる界面活性剤の種類のよって、シリカ構造体12が有する細孔12aの大きさを制御できることが分かった。
【0082】
<実施例5>
実施例5では、担体10に、反応物質20として生体触媒(具体的には、ホルムアルデヒド脱水素酵素)を固定して反応物質複合体1を作製し、その反応物質複合体1について評価した。
【0083】
まず、実施例1と同様の方法で、担体10を作製した。
次いで、ホルムアルデヒド脱水素酵素を、リン酸バッファ(pH7.4)に溶解させて、ホルムアルデヒド脱水素酵素濃度が1.2mg/mLの酵素溶液を調製した。
次いで、作製した担体10の一方の面に、調製した酵素溶液2.5mLを滴下して、3℃で一晩静置した。
次いで、酵素溶液が滴下された担体10を、5mLの脱イオン水で3回洗浄して、陽極酸化アルミナ基板の表面や担体10中の拡散領域A2内の酵素を洗い流すことによって、反応物質複合体1を作製した。
【0084】
次に、TG−DTA(熱重量示差熱同時分析計)を用いて、作製した反応物質複合体1における酵素固定量を測定した。
その結果、1gの担体10に対して、2.0mgのホルムアルデヒド脱水素酵素が固定されていることが確認された。
【0085】
<実施例6>
実施例6では、特定物質(具体的には、ホルムアルデヒド)を含有する特定物質溶液を用いて、実施例5で作製した反応物質複合体1について評価した。
具体的には、ホルムアルデヒドをギ酸に酸化する反応(HCHO + NAD + 3HO ―(ホルムアルデヒド脱水素酵素)→ HCOO + NADH + 2H)を利用して(すなわち、NAD(酸化型)の還元によって生じるNADH(還元型)に特徴的な波長340nmを選び、その吸光度の変化から、生成したNADH濃度を求めることによって)、実施例5で作製した反応物質複合体1が備えるホルムアルデヒド脱水素酵素の活性を測定した。
【0086】
まず、実施例5で作製した反応物質複合体1を粉砕したもの1.0gを、3.0mLのリン酸バッファ(pH7.4)に加えた。
次いで、これに、補酵素(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD))12mgと、ホルムアルデヒド濃度が0.3%のホルムアルデヒド水溶液300μLと、添加して25℃で静置した。
次いで、この反応物質複合体1を粉砕したものが加えられた特定物質溶液の上澄みを600μL採取し、400μLのリン酸バッファ(pH7.4)と混合して、試料(実施例6用の試料)を作製した。
【0087】
次に、吸光光度計を用いて、作製した実施例6用の試料の340nmにおける吸収を測定した。その結果を図6に示す。
【0088】
比較例1として、遊離酵素でも同様の測定を行った。
具体的には、反応物質複合体1を粉砕したもの1.0gに代えて、ホルムアルデヒド脱水素酵素2.0mgを用いて、実施例6と同様の方法で、試料(比較例1用の試料)を作製した。
次に、吸光光度計を用いて、作製した比較例1用の試料の340nmにおける吸収を測定した。その結果も図6に示す。
【0089】
図6においては、横軸に反応時間(すなわち、ホルムアルデヒド水溶液を添加してからの経過時間)、縦軸に測定された340nmの吸光度を示す。また、丸プロット(○)は実施例6の結果、三角プロット(△)は比較例1の結果を示す。
【0090】
図6に示すように、吸光度測定の結果、実施例6の固定化酵素(すなわち、実施例5で作製した反応物質複合体1が備える酵素)は、アスペクト比の高いシリカ構造体12内に固定されているにも関わらず、比較例1の遊離酵素と同等の反応速度及び酵素活性を有することが分かった。
以上の結果から、本発明の担体10は、担持した反応物質20によって、遊離酵素と同等の反応速度での反応を実現できることが分かった。
【0091】
<実施例7>
実施例7では、特定物質(具体的には、ホルムアルデヒド)を含有する特定物質ガスを用いて、実施例5で作製した反応物質複合体1について評価した。
【0092】
まず、図7〜図9に示すガス検出用の酵素センサSを作成した。
図7は、酵素センサSの平面斜視図であり、図8は、図7におけるVIII−VIII線における断面を模式的に示す図であり、図9は、図7におけるIX−IX線における断面を模式的に示す図である。
酵素センサSは、反応物質複合体1が備える反応物質20の特性を利用して気体試料(特定物質ガス)中の特定物質を電気化学的計測法によって検出するセンサである。具体的には、酵素センサSは、例えば、図7〜図9に示すように、センサヘッドS1と、反応物質複合体1と、を備えて構成される。
【0093】
センサヘッドS1は、下側本体部S11と、下側本体部S11上に配置された上側本体部S12と、下側本体部S11と上側本体部S12との間に配置された電極部S13と、センサヘッドS1内に形成された液相部S14及び気相部S15と、液相部S14と気相部S15とを隔てるガス透過膜S16と、等を備えて構成される。
電極部S13は、作用電極S13aと、対電極13bと、参照電極S13cと、等を備えている。
また、液相部S14は、液相部S14に溶液を導入するための溶液導入口S14aと、液相部S14に導入された溶液を排出するための溶液排出口S14bと、等を備えている。
また、気相部S15は、気相部S15に特定物質ガスを導入するためのガス導入口S15aと、気相部S15に導入された特定物質ガスを排出するためのガス排出口S15bと、等を備えている。
【0094】
反応物質複合体1は、液相部S14内における、電極部S13とガス透過膜S16との間に、基材11が有する貫通孔11aの貫通方向が電極部S13の上面に対して略直交するように配置されている。
ここで、気相部S15に導入された特定物質ガス中の特定物質は、ガス透過膜S16を透過して、液相部S14へと移行し、液相部S14内に配置された反応物質複合体1中の拡散領域A2を拡散して、反応物質複合体1中の固定領域A1に固定された反応物質20と接触するようになっている。そして、当該接触によって生成された生成物は、反応物質複合体1中の拡散領域A2を拡散して、反応物質複合体1の外部(電極部S13)へと移行するようになっている。
すなわち、ガス透過膜S16を透過した特定物質が、固定領域A1に固定された反応物質20と接触するまでの移動距離(拡散距離)と、当該接触によって生成された生成物が、電極部S13に到達するまでの移動距離(拡散距離)と、がより短くなるように、反応物質複合体1を、液相部S14内に配置した。
【0095】
なお、酵素センサSは、例えば、室温(25℃)で、参照電極S13aに対して作用電極S13cに所定の電圧(例えば、+600mVの電圧)を印加し、アンペロメトリー法による電流計測によって、酵素センサSからの応答電流を計測することにより、特定物質ガス中の特定物質を検出するようになっている。
また、例えば、濃度と応答電流との関係を示す検量線を予め作成しておくと、酵素センサSからの応答電流に基づいて、特定物質ガスの特定物質濃度も測定することができる。
【0096】
次に、NAD12mgを、3mLのリン酸バッファ(pH7.4)に溶解させて、液相部S14を満たすための電解液を調製した。
次いで、調製した電解液を、溶液導入口S14aから液相部S14内へと導入し、溶液排出口S14bから漏れ出すまで導入し続けることによって、反応物質複合体1が配置された液相部S14内を当該電解液で満たした。
【0097】
次に、酵素センサSからの応答電流の計測を開始し、当該計測の開始から約6000秒経過後に、気相部S15内への特定物質ガスの導入を開始した。特定物質ガスとしては、ホルムアルデヒド濃度が100ppbのホルムアルデヒドガス(HCHOガス)を使用した。
次いで、当該計測の開始から約13000秒経過後に、特定物質ガスの導入を停止し、当該計測の開始から約16000秒経過後に、当該計測を終了した。その計測結果を図10に示す。
【0098】
比較例2として、遊離酵素でも同様の測定を行った。
具体的には、まず、酵素センサSから反応物質複合体1を取り除いたもの(すなわち、センサヘッドS1)を用意した。
次いで、実施例7と同様の方法で調製した電解液(液相部S14を満たすための電解液)に、ホルムアルデヒド脱水素酵素を加えて、ホルムアルデヒド脱水素酵素濃度が12mg/ccの酵素溶液を調製した。
次いで、調製した酵素溶液で、センサヘッドS1が備える液相部S14内を満たすことによって、比較例2のセンサ(遊離酵素センサ)を作製した。
次いで、実施例7と同様の方法で、ホルムアルデヒド濃度が100ppbのホルムアルデヒドガスを導入した際の、遊離酵素センサからの応答電流を計測した。その計測結果も図10に示す。
【0099】
また、比較例3として、従来のシリカ系メソ多孔体であるFSMに固定されたFSM固定化酵素でも同様の計測を行った。
ここで、FSMは、従来のシリカ系メソ多孔体であるため、例えば、図11に示すシリカ系メソ多孔体のように、固定領域A1と拡散領域A2とが分離されていない。また、図11に示すシリカ系メソ多孔体は、細孔の配向が一方向に方向制御されているが、FSMは、細孔の配向がランダムで方向制御されていない。
具体的には、まず、反応物質複合体1に代えて、ホルムアルデヒド脱水素酵素が担持されたFSMをセンサヘッドS1の電極部S13とガス透過膜S16との間に配置することによって、比較例3のセンサ(FSM固定化酵素センサ)を作製した。
次いで、実施例7と同様の方法で調製した電解液(液相部S14を満たすための電解液)で、FSM固定化酵素センサが備える液相部S14内を満たした。
次いで、実施例7と同様の方法で、ホルムアルデヒド濃度が100ppbのホルムアルデヒドガスを導入した際の、FSM固定化酵素センサからの応答電流を計測した。その計測結果も図10に示す。
【0100】
図10においては、横軸に応答電流の計測開始からの経過時間、縦軸に計測された応答電流を示す。また、実線は実施例7の結果、一点鎖線は比較例2の結果、破線は比較例3の結果を示す。
【0101】
図10に示すように、応答電流計測の結果、実施例7の酵素センサSにおいては、酵素がアスペクト比の高いシリカ構造体12内に固定されているにも関わらず、応答の立ち上がりが、比較例2の遊離酵素センサと同等であることが分かった。すなわち、担体10には空洞状態の拡散領域A2が存在するため、担体10内での特定物質や生成物の拡散性は、溶液中での拡散性と同程度に良好であることが分かった。
また、実施例7の酵素センサSにおいては、実施例5で作製した反応物質複合体1が備える酵素は担体10に高密度に固定されているため、飽和電流が、比較例2の遊離酵素センサよりも大きくなることが分かった。
その一方で、比較例3のFSM固定化酵素センサにおいては、応答の立ち上がりが、比較例2の遊離酵素センサよりも鈍いことが分かった。これは、固定領域A1と拡散領域A2とが分離されておらず、かつ、細孔の配向がランダムな担体(FSM)に酵素が固定されているためであると考えられる。
以上の結果から、本発明の担体10は、担持した反応物質20によって、従来の担体(従来のシリカ系メソ多孔体)よりも高速での反応を実現できることが分かった。
【0102】
以上説明した本発明の担体10及び担体10を備える反応物質複合体1によれば、担体10は、互いに平行な複数の貫通孔11aを有する基材11と、貫通孔11a内に当該貫通孔11aの内壁11a1に沿って形成された中空糸状のシリカ構造体12と、を備え、シリカ構造体12は、ナノメートルオーダーの大きさの細孔12aを壁面に複数有し、反応物質20は、細孔12aの内部に固定される。
したがって、シリカ構造体12の壁面部分が、反応物質20が固定される固定領域A1となって、シリカ構造体12の中空部分が、特定物質や生成物が拡散する拡散領域A2となる。すなわち、シリカ構造体12は、固定領域A1と拡散領域A2とが分離した構造になっているため、分子量の大きな反応物質20が固定された場合であっても、シリカ構造体12のアスペクト比(シリカ構造体12(拡散領域A2)の長さ/シリカ構造体12の外径)が高い場合であっても、担体10には空洞状態の拡散領域A2が存在するため、担体10内での特定物質や生成物の拡散性は、溶液中での拡散性と同程度に良好であり、担持した反応物質20によって、より高速での反応を実現することができる。
また、基材11は、互いに平行な複数の貫通孔11aを有しているため、反応物質複合体1を、例えば、実施例7で示したように配置することによって、特定物質が、固定領域A1に固定された反応物質20と接触するまでの移動距離と、当該接触によって生成された生成物が、検出素子(例えば、電極部S13)に到達するまでの移動距離と、をより短くすることができる。したがって、貫通孔11aの配向がランダムな基材を使用する場合と比較して、より高速での反応を実現することができる。
【0103】
また、以上説明した本発明の担体10及び担体10を備える反応物質複合体1によれば、基材11は、アルミニウムを含む基板を陽極酸化して得た陽極酸化アルミナ基板であり、貫通孔11aは、陽極酸化によって形成された孔である。
したがって、基材11は、互いに平行な複数の貫通孔11aが容易かつ確実に形成されているとともに、強度や安定性が高いため、基材として好適である。
【0104】
また、以上説明した本発明の担体10及び担体10を備える反応物質複合体1によれば、反応物質20は生体触媒であり、細孔12aの大きさは、当該生体触媒のサイズの0.5〜2.0倍である。
すなわち、シリカ構造体12が有する細孔12aの内部に、タンパク質等の生体触媒をしっかりと固定することができるため、生体触媒の立体構造の変化を防止することができる。さらに、シリカ構造体12が有する細孔12aの内部に生体触媒をしっかりと固定することで、生体触媒は適度に分散された状態に維持されるため、生体触媒が凝集を起こして失活する等を防止することができる。また、シリカ構造体12は多孔質であり、比表面積が非常に大きい。したがって、シリカ構造体12を用いると、シリカ構造体12よりも比表面積が小さい担体を用いる場合と比較して、より大きな固定量でより高濃度に反応物質20を固定することができる。
したがって、反応物質複合体1は、長寿命で、優れた安定性を有するものとなり、また、反応物質複合体1を適用したセンサやリアクターは、長寿命で、優れた安定性や感度を有するものとなって、好適である。
【0105】
また、以上説明した本発明の担体10の製造方法によれば、基材11が有する貫通孔11aの内壁11a1に、所定の界面活性剤を含むシリカ層を形成するシリカ層形成ステップと、シリカ層から界面活性剤を除去して、シリカ構造体12を形成するシリカ構造体形成ステップと、を備えている。そして、シリカ層形成ステップは、界面活性剤を含むシリカ源溶液を所定の吸引速度で貫通孔11a内に吸引導入する吸引導入ステップと、貫通孔11a内に導入された界面活性剤を含むシリカ源溶液を所定の吸引速度で吸引乾燥させる吸引乾燥ステップと、を備え、シリカ構造体形成ステップでは、シリカ層を焼成することによって、当該シリカ層から界面活性剤を除去するようになっている。
すなわち、担持した反応物質20によって、より高速で高感度な反応を実現することができる担体10を、簡易な方法で製造することができる。
【0106】
なお、本発明は、上記した実施の形態のものに限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0107】
シリカ構造体12が有する細孔12aの貫通方向は、基材11が有する貫通孔11aの貫通方向に対して略垂直に限ることはなく、細孔12aが中空糸状のシリカ構造体12の内壁面12bから外壁面12cにかけて貫通しているのであれば任意である。
また、シリカ構造体12が有する穴部は、シリカ構造体12の内壁面12bから外壁面12cにかけて貫通する細孔12aに限ることはなく、例えば、シリカ構造体12の内壁面12bに形成された凹部(すなわち、内壁面12b側が開口して外壁面12c側が閉口した穴)であっても良い。
【0108】
担体10の製造方法において、シリカ層形成ステップは、吸引導入ステップと吸引乾燥ステップとを備えるものに限ることはなく、貫通孔11aの内壁11a1に、所定の界面活性剤を含むシリカ層を形成することができるのであれば任意である。
また、担体10の製造方法において、界面活性剤除去の手法は、焼成法に限ることはなく、界面活性剤を除去できるのであれば、例えば、溶媒抽出法であっても良い。
【0109】
反応物質複合体1の製造方法において、製造された担体10を、反応物質20を含む反応物質溶液に浸漬させて、担体10に反応物質20を吸着固定させることによって、担体10に反応物質20を担持させるようにしたが、反応物質20の固定化の方法は、浸漬法に限ることはなく、例えば、シリカ構造体12の表面に予め所定の官能基を導入して反応物質20を化学修飾しても良いし、導電性高分子、グルタルアルデヒド、光架橋性樹脂等を用いた公知の固定化方法を用いても良いし、或いは、これらの固定化法を併用しても良い。
【0110】
反応物質複合体1の製造方法において、製造された担体10を、反応物質20を含む反応物質溶液に浸漬させて、担体10に反応物質20を吸着固定させることによって、担体10に反応物質20を担持させるようにしたが、これに限ることはなく、担体10に反応物質20を担持させることができるのであれば、担体10の製造方法や反応物質複合体1の製造方法は任意である。
具体的には、反応物質20が酸化触媒である場合、例えば、製造した担体10を金属アルコキシド等の溶液に浸漬して加水分解することで、シリカ構造体12に表面被覆を施し、その後、焼成することによって、金属粒子の酸化(酸化触媒の生成)を行い、反応物質複合体1を製造することができる。或は、例えば、界面活性剤と、シリカ源と、ルテニウムやマンガン、鉄、チタンなどの金属粒子と、を含む溶液を、所定の吸引速度で、基材11が有する貫通孔11a内に吸引導入して、吸引乾燥した後、焼成することによって、シリカ層からの界面活性剤の除去と、金属粒子の酸化(酸化触媒の生成)と、を同時に行い、反応物質複合体1を製造するようにしても良い。
【0111】
基材11は、陽極酸化アルミナ基板等の金属酸化物基板に限ることはなく、互いに平行な複数の貫通孔11aを有する基板であれば任意である。
具体的には、例えば、ナノレベルの周期的な円柱構造をテンプレートとして用いて、高分子ポリマー、金属、セラミックス等の薄膜へ転写することによって、互いに平行な複数の貫通孔11aを有する基板11を作製することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の担体の構成を説明するための模式図である。
【図2】本発明の反応物質複合体の構成を説明するための模式図である。
【図3】本発明の反応物質複合体の要部構成を説明するための断面模式図である。
【図4】実施例1でのSEM観察の結果を示す図である。
【図5】実施例1でのTEM観察の結果を示す図である。
【図6】実施例6での吸光度測定の結果を示す図である。
【図7】実施例7で作製したガス検出用の酵素センサの平面斜視図である。
【図8】図7におけるVIII−VIII線における断面を模式的に示す図である。
【図9】図7におけるIX−IX線における断面を模式的に示す図である。
【図10】実施例7での応答電流計測の結果を示す図である。
【図11】従来の担体の構成を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0113】
1 反応物質複合体
11 基材
11a 貫通孔
11a1 内壁
12 シリカ構造体
12a 細孔(穴部)
12b 内壁面
10 担体
20 反応物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定物質と選択的に反応する反応物質を担持する担体において、
互いに平行な複数の貫通孔を有する基材と、
前記貫通孔内に当該貫通孔の内壁に沿って形成された中空糸状のシリカ構造体と、
を備え、
前記シリカ構造体は、ナノメートルオーダーの大きさの穴部を内壁面に複数有し、
前記穴部の内部に前記反応物質が固定されることを特徴とする担体。
【請求項2】
請求項1に記載の担体において、
前記基材は、アルミニウムを含む基板を陽極酸化して得た陽極酸化アルミナ基板であり、
前記貫通孔は、前記陽極酸化によって形成された孔であることを特徴とする担体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の担体において、
前記反応物質は生体触媒であり、前記穴部の大きさは、当該生体触媒のサイズの0.5〜2.0倍であることを特徴とする担体。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の担体と、
前記担体に担持された前記反応物質と、
を備えることを特徴とする反応物質複合体。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一項に記載の担体の製造方法において、
前記貫通孔の内壁に、所定の界面活性剤を含むシリカ層を形成するシリカ層形成ステップと、
前記シリカ層から前記界面活性剤を除去して、前記シリカ構造体を形成するシリカ構造体形成ステップと、
を備えることを特徴とする担体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の担体の製造方法において、
前記シリカ層形成ステップは、
前記界面活性剤を含むシリカ源溶液を所定の吸引速度で前記貫通孔内に吸引導入する吸引導入ステップと、
前記貫通孔内に導入された前記シリカ源溶液を所定の吸引速度で吸引乾燥させる吸引乾燥ステップと、
を備え、
前記シリカ構造体形成ステップは、前記シリカ層を焼成することによって、当該シリカ層から前記界面活性剤を除去することを特徴とする担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−154785(P2010−154785A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334041(P2008−334041)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】