説明

拍動周期算出装置およびこれを備えた生体センサ

【課題】 従来の心拍測定装置では、センサから得られる生体の心拍波形信号のレベルが低い場合にはピーク判定を行えず、また、演算処理が複雑で簡便性に欠けた。
【解決手段】 所定時間間隔で取得される心拍信号の最大値Mが最大値検出手段により検出され、S11およびS14の処理で、検出された最大値Mよりも大きな最大値Mが一定時間T1内に検出されない場合に、S15の処理で、最大値検出手段によって検出された最大値Mがピーク値Pと判定される。そして、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値P間の時間間隔T2に基づいて、心拍数が算出手段により算出される。また、一定時間T1は、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値P間の時間間隔T2に応じて、ピーク値P間の時間間隔T2に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に、S3〜S10の処理において逐次変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号から生体の拍動の律動周期を算出する拍動周期算出装置、およびこの拍動周期算出装置を備えて構成される生体センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の拍動周期算出装置としては、例えば、特許文献1に開示された心拍測定装置がある。
【0003】
この心拍測定装置では、心拍波形信号がピークホールド部でピークホールドされることで、階段状をした波形のピークホールド信号が生成される。パターン検出・周期判定部は、生成されたピークホールド信号から信号レベルが順次増大するパターンを検出し、このパターンを心電図におけるP波とR波に対応させる。そして、P波に対応するピークとR波に対応するピークとの時間間隔が所定の範囲内にあり、各ピーク間のレベル値がしきい値を超える場合に、これらのピークが確かにP波とR波とに対応するピークであるとみなし、最大のピークをR波と特定する。順次増大するパターンが検出されない場合、順次減少するパターンを補完的に検出し、このパターンを心電図におけるR波とT波に対応させる。そして、R波に対応するピークとT波に対応するピークとについて、P波とR波との場合と同様な処理を行うことで、これらのピークのうちの最大のピークをR波と特定する。心拍数は、このように特定されたR波の時間間隔から算出される。
【0004】
また、従来、この種の拍動周期算出装置として、特許文献2に開示された心拍測定システムもある。
【0005】
この心拍測定システムでは、信号検出装置により測定対象から心拍信号が検出される。検出された心拍信号は、信号処理装置により時間分割されて連続する信号が比較され、その比較結果から心拍信号のピーク値が検出される。また、信号処理装置により、一つ若しくは複数のピーク値を有するピーク値群が心拍信号の心拍単位に生成され、ピーク値群の最大のピーク値でピーク値群の各ピーク値が除算されることにより、ピーク値群の各ピーク値が規格化される。このため、規格化された信号が加算・積算され得ることとなり、従来見逃されがちであった信号の微細構造が顕現化される。
【0006】
また、従来、この種の拍動周期算出装置として、特許文献3に開示された脈波解析装置もある。
【0007】
この脈波解析装置では、脈波センサからの脈波信号に基づいて脈波が取得され、脈波解析装置を構成するデータ処理装置により、取得された脈波の頂点検索が行われて心臓の収縮期に対応した頂点(ピーク)が求められる。求められた頂点は、隣り合う時間間隔が頂点検索補正係数t3で表される所定の時間未満であるか否かが判断される。この判断で隣り合う頂点の時間間隔が所定の時間以上であると判断されると、検出された頂点はノイズ等でない真の頂点としてカウントされ、この頂点の数の1分平均が脈拍数として算出される。また、脈波からその基線が引かれることで、sin波に近付けた修正脈波が求められる。この修正脈波が脈波の周波数で複素復調解析されると、各脈波のピーク間の周波数fを示す瞬時周波数が求められ、周波数fよりその周期Tである脈拍間隔が求められる。頂点検索補正係数t3はこの脈拍間隔の平均値から更新され、頂点検索はノイズが除去されてより的確に行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−112624号公報
【特許文献2】特開2008−220556号公報
【特許文献3】特開2003−339651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の特許文献1に開示された心拍測定装置は、P波とR波またはR波とT波との対応を判定するため、各ピーク間のレベル値が一定のしきい値を超え、かつ、ピーク値が低い方のP波またはT波がノイズに埋もれない信号レベルを持つことが必要とされる。このため、従来の特許文献1に開示された心拍測定装置では、センサから得られる生体の心拍波形信号のレベルが低い場合には、ピーク判定を行うことが出来ない。
【0010】
また、上記従来の特許文献2に開示された心拍測定システムは、心拍信号のピーク値群の各ピーク値を規格化するための除算処理や、ピークアドレスの強度を対数関数を用いて指数化する指数化処理、ピークアドレス群情報が形成する波形信号を積算・平均化する処理等が必要とされる。このため、従来の特許文献2に開示された心拍測定システムは、演算処理が複雑で簡便性に欠け、装置の小型化および低価格化を図ることが出来ない。
【0011】
また、上記従来の特許文献3に開示された脈波解析装置も、分析したい周波数領域の中心周波数を持つ複素三角関数を脈波信号に掛けたり、分析したい周波数領域の成分の実部と虚部を極座標系に変換したり等する複雑な複素復調解析を実施することにより、頂点検索補正係数t3を更新するための脈拍間隔が求められる。このため、従来の特許文献3に開示された脈波解析装置も、演算処理が複雑で簡便性に欠け、装置の小型化および低価格化を図ることが出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
所定時間間隔で取得される生体信号の最大値を検出する最大値検出手段と、
最大値検出手段によって検出された最大値よりも大きな最大値が最大値検出手段によって一定時間内に検出されない場合に、最大値検出手段によって検出された最大値をピーク値と判定するピーク値判定手段と、
ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値間の時間間隔に基づいて生体信号を生じさせる生体の拍動の律動周期を算出する算出手段と、
ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値間の時間間隔に応じて、前記一定時間をピーク値間の時間間隔に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する一定時間変更手段と
を備えて、拍動周期算出装置を構成した。
【0013】
本構成によれば、所定時間間隔で取得される生体信号の最大値が最大値検出手段により検出され、検出された最大値よりも大きな最大値が最大値検出手段によって一定時間内に検出されない場合に、ピーク値判定手段により、最大値検出手段によって検出された最大値がピーク値と判定される。生体の拍動の律動周期は、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値間の時間間隔に基づいて、算出手段により算出される。
【0014】
このため、特許文献1に開示された従来の装置と異なり、センサから得られる生体信号のレベルが低い場合にも、最大値検出手段によって検出される生体信号の最大値がノイズに埋もれない信号レベルでありさえすれば、ピーク値の判定が行え、拍動の律動周期を算出することが出来る。また、生体信号の振幅の基準となる基線が変動しても、同様に、最大値検出手段によって検出される生体信号の最大値がノイズに埋もれない信号レベルでありさえすれば、ピーク値の判定が行え、拍動の律動周期を算出することが出来る。
【0015】
また、ピーク値の判定に用いられる一定時間は、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値間の時間間隔に応じて、ピーク値間の時間間隔に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に、一定時間変更手段により逐次変更される。このため、ピーク値の判定は、除算等の複雑な演算処理を用いて行われる特許文献2や特許文献3に開示された従来の装置と異なり、取得される生体信号の大きさを単に比較する処理、一定時間やピーク値間の時間間隔をカウントする処理、予め定められた複数の時間の中のいずれの時間をピーク値間の時間間隔に応じて選択する処理といった簡便な演算処理によって行われる。この結果、逐次変動する生体の拍動の律動周期は、簡便な演算処理によって随時適切に算出され、拍動周期算出装置の小型化および低価格化を図ることが可能になる。
【0016】
また、本発明は、ピーク値判定手段が、最大値検出手段によって検出された最大値よりも大きな最大値が最大値検出手段によって一定時間内に検出されると、大きな最大値が検出された時点から一定時間内に大きな最大値よりもさらに大きな最大値が最大値検出手段によって検出されない場合に、最大値検出手段によって検出された大きな最大値をピーク値と判定することを特徴とする。
【0017】
本構成によれば、最大値検出手段によって検出された最大値よりも大きな最大値が最大値検出手段によって一定時間内に検出されると、大きな最大値が検出された時点から一定時間のカウントが再開される。そして、この一定時間内に、大きな最大値よりもさらに大きな最大値が最大値検出手段によって検出されない場合に、最大値検出手段によって検出された大きな最大値がピーク値判定手段によってピーク値と判定される。
【0018】
このため、最大値検出手段によって一旦検出された最大値は、一定時間内にその最大値よりも大きな最大値が最大値検出手段によって検出されると、ピーク判定に用いられず、拍動の律動周期の算出データから除外される。この結果、最大値検出手段によって検出される最大値の中で、拍動の律動周期の算出にふさわしくない、心拍信号のP波やT波といった信号に相当する最大値や、ノイズに起因する最大値などがピーク判定の対象に用いられなくなり、拍動の律動周期の算出にふさわしいR波といった信号に相当する最大値のみがピーク判定の対象に用いられるようになって、拍動の律動周期の算出精度が向上する。
【0019】
また、本発明は、一定時間変更手段が、ピーク値判定手段によって判定される、相互の値が所定範囲内にある連続するピーク値間の時間間隔に応じて、一定時間を逐次変更することを特徴とする。
【0020】
本構成によれば、ピーク値の判定に用いられる一定時間は、ピーク値判定手段によって判定される、相互の値が所定範囲内にある連続するピーク値間の時間間隔に応じて、一定時間変更手段により逐次変更される。
【0021】
このため、ピーク値判定手段によって判定された連続するピーク値であっても、相互の値が所定範囲内にない場合には、同種のピーク値ではないものとされ、ピーク値の判定に用いられる一定時間は、このピーク値間の時間間隔に応じて変更されない。一方、連続する相互のピーク値が所定範囲内にある場合には、同種のピーク値であるものとされ、ピーク値の判定に用いられる一定時間は、このピーク値間の時間間隔に応じて変更される。従って、ピーク値の判定に用いられる一定時間は、似通ったピーク値間の時間間隔に応じて変更され、ノイズに起因するピーク値などに基づいて変更されることなく、拍動の律動周期の遷移に的確に追従して変更される。この結果、逐次変動する生体の拍動の律動周期は、簡便な演算処理によってより適切に随時算出されることになる。
【0022】
また、本発明は、生体信号が心拍信号であり、算出手段が、拍動の律動周期を心拍数として算出することを特徴とする。
【0023】
本構成によれば、ピーク値判定手段によって判定される心拍信号の連続するピーク値間の時間間隔に基づいて、拍動の律動周期が心拍数として算出手段により算出される。
【0024】
また、本発明は、生体信号が脈波信号であり、算出手段が、拍動の律動周期を脈拍数として算出することを特徴とする。
【0025】
本構成によれば、ピーク値判定手段によって判定される脈波信号の連続するピーク値間の時間間隔に基づいて、拍動の律動周期が脈拍数として算出手段により算出される。
【0026】
また、本発明は、
最大値検出手段が、所定時間間隔で取得される心拍信号の最大値を検出する心拍最大値検出手段と、所定時間間隔で取得される脈波信号を2回微分した加速度脈波信号の最大値を検出する脈波最大値検出手段とから構成され、
ピーク値判定手段が、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号の最大値よりも大きな最大値が心拍ピーク値判定用の一定時間内に心拍最大値検出手段によって検出されない場合に、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号の最大値を心拍ピーク値と判定する心拍ピーク値判定手段と、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号の最大値よりも大きな最大値が加速度脈波ピーク値判定用の一定時間内に脈波最大値検出手段によって検出されない場合に、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号の最大値を加速度脈波ピーク値と判定する脈波ピーク値判定手段とから構成され、
算出手段が、心拍ピーク値判定手段によって判定された心拍ピーク値と脈波ピーク値判定手段によって判定された加速度脈波ピーク値との時間差から脈波伝搬時間を算出し、
一定時間変更手段が、心拍ピーク値判定手段によって判定される連続する心拍ピーク値間の時間間隔に応じて、心拍ピーク値判定用の一定時間を心拍ピーク値間の時間間隔に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する心拍ピーク値判定用一定時間変更手段と、脈波ピーク値判定手段によって判定される連続する加速度脈波ピーク値間の時間間隔に応じて、加速度脈波ピーク値判定用の一定時間を加速度脈波ピーク値間の時間間隔に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する脈波ピーク値判定用一定時間変更手段と
から構成されることを特徴とする。
【0027】
本構成によれば、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号の最大値よりも大きな最大値が心拍ピーク値判定用の一定時間内に心拍最大値検出手段によって検出されない場合に、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号の最大値が心拍ピーク値判定手段によって心拍ピーク値と判定される。また、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号の最大値よりも大きな最大値が加速度脈波ピーク値判定用の一定時間内に脈波最大値検出手段によって検出されない場合に、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号の最大値が脈波ピーク値判定手段によって加速度脈波ピーク値と判定される。そして、心拍ピーク値判定手段によって判定された心拍ピーク値と脈波ピーク値判定手段によって判定された加速度脈波ピーク値との時間差が、算出手段によって脈波伝搬時間として算出される。このため、算出される脈波伝搬時間から、拍動により動脈に脈波が伝搬する時間が知れるので、血管年齢の推定や、血圧値の算出を行うことが可能になる。
【0028】
また、本発明は、
生体信号を制御信号に応じた増幅率で増幅して最大値検出手段へ出力する増幅手段と、
増幅手段で増幅された生体信号の所定タイミングにおける大きさを基準値として検出する基準値検出手段とを備え、
算出手段が、ピーク値判定手段によって判定されたピーク値と基準値検出手段によって検出された基準値との差から、ピーク値判定手段によって判定されたピーク値の大きさを算出し、算出したピーク値の大きさに基づいた制御信号を増幅手段へ出力する
ことを特徴とする。
【0029】
本構成によれば、ピーク値判定手段によって判定されたピーク値と基準値検出手段によって検出された基準値との差からピーク値の大きさが算出手段によって算出され、算出されたピーク値の大きさに基づいた制御信号が増幅手段へ出力されて、増幅手段の増幅率が変更される。従って、制御信号に応じた増幅率で増幅する増幅手段は、算出されたピーク値の大きさに基づいた増幅率で生体信号を増幅することになる。
【0030】
このため、算出手段が、算出したピーク値の大きさが大きい場合には、増幅手段の増幅率を小さくする制御信号に変え、算出したピーク値の大きさが小さい場合には、増幅手段の増幅率を大きくする制御信号に変えることで、増幅手段によって増幅して得られる生体信号の大きさは、最大値検出手段による生体信号の最大値検出、およびピーク値判定手段によるピーク値の判定に適した大きさに適宜制御される。この結果、最大値検出手段による生体信号の最大値検出、およびピーク値判定手段によるピーク値の判定を誤ることが無くなり、ピーク値の検出精度が向上する。
【0031】
また、本発明は、生体信号の前記所定タイミングが、P波、Q波、R波、S波、T波、およびU波で構成される生体信号のST分節が現れるタイミングであることを特徴とする。
【0032】
本構成によれば、基準値検出手段によって検出される基準値は、生体信号のST分節の値、すなわち、生体信号の振幅の基準となる基線値となる。このため、算出手段によって算出されるピーク値の大きさは基線に対する大きさになって評価し易いものとなる。
【0033】
また、本発明は、算出手段が、ピーク値判定手段によって連続して判定された複数のピーク値と基準値検出手段によって各ピーク値に対応して連続して検出された複数の基準値との各差から各ピーク値の大きさを算出し、算出した各ピーク値の大きさが連続して所定の範囲にある場合に増幅手段へ出力する制御信号を変えることを特徴とする。
【0034】
本構成によれば、算出手段によって複数算出されるピーク値と基準値との各差が連続して所定の範囲にある場合に、増幅手段へ出力される制御信号が変えられて増幅手段の増幅率が変更される。このため、ピーク値の大きさが連続して所定の範囲にあって安定している場合に、増幅手段の増幅率が変更されるので、ピーク値の大きさを誤判定して増幅手段の増幅率を誤って変更することが無くなる。
【0035】
また、本発明は、上記のいずれかの拍動周期算出装置を備えて、生体センサを構成した。
【0036】
本構成によれば、上記の各効果が奏される生体センサが提供される。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、上記のように、最大値検出手段によって検出される生体信号の最大値がノイズに埋もれない信号レベルでありさえすれば、ピーク値の判定が行え、拍動の律動周期を算出することが出来る。また、逐次変動する生体の拍動の律動周期は、簡便な演算処理によって随時適切に算出され、拍動周期算出装置の小型化および低価格化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態による拍動周期算出装置の電気回路構成を示すブロック図である。
【図2】心拍信号の典型的な正常波形を示す図である。
【図3】第1の実施形態による拍動周期算出装置の信号処理部で行われるピーク値判定を説明するための心拍信号列を示す図である。
【図4】第1の実施形態による拍動周期算出装置の信号処理部で算出される、連続するピーク値間の時間間隔を説明するための心拍信号列を示す図である。
【図5】第1の実施形態による拍動周期算出装置の信号処理部で行われる心拍数算出処理を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施形態による拍動周期算出装置により脈拍数が算出される際に導出される加速度脈波信号列を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態による拍動周期算出装置の電気回路構成を示すブロック図である。
【図8】第2の実施形態による拍動周期算出装置の信号処理部で算出される脈波伝搬時間を説明するための加速度脈波信号列および心拍信号列を示す図である。
【図9】本発明の第3の実施形態による拍動周期算出装置の電気回路構成を示すブロック図である。
【図10】第3の実施形態による拍動周期算出装置の信号処理部でピーク値と基準値との差から算出されるピーク値の大きさを説明するための心拍信号列を示す図である。
【図11】第3の実施形態による拍動周期算出装置の信号処理部で連続する複数のピーク値と複数の基準値との各差から算出される各ピーク値の大きさを説明するための心拍信号列、および制御信号としての判定信号を示す図である。
【図12】第3の実施形態による拍動周期算出装置の信号処理部で行われる心拍数算出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、本発明による拍動周期算出装置を心拍数の算出に用いた第1の実施形態について説明する。
【0040】
図1は、本実施形態による拍動周期算出装置の電気回路構成を示すブロック図である。
【0041】
拍動周期算出装置1には心電センサ2が接続されている。心電センサ2は、人間や動物といった生体の所定位置に接触させられ、生体の心臓の拍動に伴って変化する心臓の活動電位の時間変化を検出し、これを生体信号である心拍信号として拍動周期算出装置1へ出力する。
【0042】
心拍信号の1回の心拍に対応した典型的な正常波形は図2に示される。この心拍信号波形は、P波、Q波、R波、S波、T波の5つの波と図示しないU波とで構成される。Q波、R波、S波は一括してQRS波と呼ばれる。P波は心房の興奮により起こる活動電位の波であり、QRS波は心室の興奮により起こる活動電位の波、T波は興奮した心室の心筋細胞が再分極する過程で起こる活動電位の波である。
【0043】
拍動周期算出装置1は、増幅回路10、フィルタ回路11、ADコンバータ12、信号処理部13、および表示部14から構成される。心電センサ2から拍動周期算出装置1へ出力される心拍信号は、増幅回路10で増幅され、フィルタ回路11でノイズ成分が除去される。ノイズ成分が除去された心拍信号はADコンバータ12でアナログ信号からデジタル信号に変換され、信号処理部13に与えられる。信号処理部13は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(読み出し専用メモリ)、およびRAM(読み書き可能メモリ)を備えたマイクロコンピュータなどによって構成される。CPUは、ROMに記憶された心拍数算出プログラムに従い、RAMを一時記憶作業領域として所定の演算処理を行って心拍数を算出する。算出された心拍数は、LCD(液晶表示装置)や有機EL(エレクトロルミネセンス)等で構成される表示部14に表示される。
【0044】
信号処理部13のCPUは、ROMに記憶された心拍数算出プログラムにより、最大値検出手段、ピーク値判定手段、算出手段、および一定時間変更手段として、機能する。
【0045】
最大値検出手段は、心電センサ2から出力される心拍信号を所定時間間隔で取得して、心拍信号の最大値Mを検出する。本実施形態では、心拍信号は、600[Hz]のサンプリング時間間隔で取得され、検出された心拍信号の最大値MはCPUによってRAMに記憶される。ピーク値判定手段は、最大値検出手段によって検出された最大値Mよりも大きな最大値M1が最大値検出手段によって一定時間T1内に検出されない場合に、最大値検出手段によって検出された最大値Mをピーク値Pと判定する。例えば、図3に示す心拍信号列が信号処理部13に取得され、最大値検出手段によって時刻t1に検出された、心拍信号SaのR波に対応する最大値Mよりも大きな最大値M1が最大値検出手段によって一定時間T1内に検出されない場合に、ピーク値判定手段は、最大値検出手段によって時刻t1に検出された最大値Mをピーク値Pと判定する。時刻t1から一定時間T1の経過後の、ピーク値判定手段によってピーク値Pが判定される時刻t2は、ピーク判定ポイントtpとされる。ピーク値判定手段によって判定されたピーク値PはRAMに記憶される。ここで、心拍信号列における各心拍信号は、基線Gを基準に振幅している。また、一定時間T1は、最大値検出手段によって検出された最大値Mが更新されない時間であり、RAMの所定領域に形成された最大値更新カウンタでカウントされることによって計時される。
【0046】
本実施形態では、ピーク値判定手段は、最大値検出手段によって検出された最大値Mよりも大きな最大値M1が最大値検出手段によって一定時間T1内に検出されると、大きな最大値M1が検出された時点から一定時間T1内に大きな最大値M1よりもさらに大きな最大値M2が最大値検出手段によって検出されない場合に、最大値検出手段によって検出された大きな最大値M1をピーク値Pと判定する。例えば、図3に示すように、最大値検出手段によって時刻t3に検出された心拍信号Sbの最大値Mよりも大きな心拍信号Scの最大値M1が、最大値検出手段によって時刻t3から一定時間T1内の時刻t4において検出されると、大きな最大値M1が検出された時点の時刻t4から一定時間T1内に、大きな最大値M1よりもさらに大きな最大値M2が最大値検出手段によって検出されない場合に、時刻t4から一定時間T1経過後の時刻t5のピーク判定ポイントtpにおいて、最大値検出手段によって検出された大きな最大値M1をピーク値Pと判定する。そして、判定したピーク値PをRAMに記憶する。
【0047】
その後、同様に、最大値検出手段によって時刻t6に検出された心拍信号Sdの最大値Mよりも大きな最大値M1が最大値検出手段によって一定時間T1内に検出されない場合に、ピーク値判定手段は、時刻t6から一定時間T1経過後の時刻t7のピーク判定ポイントtpにおいて、最大値検出手段によって時刻t6に検出された最大値Mをピーク値Pと判定し、RAMに記憶する。
【0048】
算出手段は、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値P間の時間間隔T2に基づいて、1分間当たりに出現するピーク値Pの数を求め、生体信号を生じさせる生体の拍動の律動周期を心拍数として算出する。連続するピーク値P間の時間間隔T2は、例えば、図4の心拍信号列に示すように、ピーク値Pとして判定されてRAMに記憶された心拍信号Seの最大値Mが検出された時刻t8と、ピーク値Pとして判定されてRAMに記憶された心拍信号Sfの最大値Mが検出された時刻t9との時間間隔である。同様に、ピーク値Pとして判定されてRAMに記憶された心拍信号Sfの最大値Mが検出された時刻t9と、ピーク値Pとして判定されてRAMに記憶された心拍信号Sgの最大値Mが検出された時刻t10との時間間隔である。なお、図4において図3と同一のものには同一の符号を付してその説明は省略する。この連続するピーク値P間の時間間隔T2は、最大値Mが更新されない時間T1を計時する最大値更新カウンタとは別にRAMの所定領域に形成されたピーク間隔カウンタでカウントされることにより、計時される。
【0049】
ピーク値P間の時間間隔T2は、最初の最大値Mが、一定時間T1が経過した直後のピーク判定ポイントtpにピーク値Pと判定され、そのピーク判定ポイントtpの直後に現れた最大値Mが、さらに一定時間T1が経過した直後の次のピーク判定ポイントtpにピーク値Pと判定される場合に、最短となり、一定時間T1を極僅かに超える時間間隔になる。また、ピーク値P間の時間間隔T2は、最初の最大値Mが、一定時間T1が経過した直後のピーク判定ポイントtpにピーク値Pと判定され、そのピーク判定ポイントtpから一定時間T1が経過する直前に現れた最大値Mが、そのピーク判定ポイントtpから一定時間T1が経過した直後の次のピーク判定ポイントtpにピーク値Pと判定される場合に、最長となり、一定時間T1の2倍を極僅かに下回る時間間隔になる。成人の心拍数の標準値は1分間当たり60〜90であることから、一定時間T1を0.5[s(秒)]とすることで、最短で0.5[s]を極僅かに超え、最長で0.5[s]の2倍の1[s]を極僅かに下回るピーク値P間の時間間隔T2が計測され、60(=60÷1)を超え120(=60÷0.5)未満の心拍数が計測される。しかし、これでは、成人の標準的な心拍数しか測定することが出来ない。このため、一定時間変更手段は、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値P間の時間間隔T2に応じて、一定時間T1を、ピーク値P間の時間間隔T2に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に、逐次変更する。
【0050】
本実施形態では、連続するピーク値P間の時間間隔T2が、0.3[s]超え0.5[s]未満には0.3[s]、0.5[s]超え0.6[s]未満には0.4[s]、0.6[s]超え0.8[s]未満には0.5[s]、0.8[s]を超えるときには0.75[s]の一定時間T1が対応して予め定められている。これにより、一定時間T1は、0.3[s]、0.4[s]、0.5[s]、および0.75[s]の4つの複数の時間から最適な時間に随時変動させられる。心拍数は、一定時間T1が0.3[s]とされたときには100(=60÷0.6)を超え200(=60÷0.3)未満、0.4[s]とされたときには75(=60÷0.8)を超え150(=60÷0.4)未満、0.5[s]とされたときには60(=60÷1.0)を超え120(=60÷0.5)未満、0.75[s]とされたときには40(=60÷1.5)を超え80(=60÷0.75)未満の範囲が測定される。この結果、40を超え200未満の心拍数が測定されることになり、成人の標準的な心拍数に限らず、広い範ちゅうの人や動物等の心拍数を測定することが可能になる。
【0051】
また、本実施形態では、一定時間変更手段は、ピーク値判定手段によって判定される、相互の値が所定範囲内にある連続するピーク値P間の時間間隔T2に応じて、一定時間T1を逐次変更する。例えば、図4に示すように、心拍信号Seのピーク値Pとされた最大値Mから一定値Cを減算した値以上の最大値Mを心拍信号Sfのピーク値Pが持つ場合、心拍信号Seおよび心拍信号Sfの連続するピーク値Pは、相互の値が所定範囲内にあるものと一定時間変更手段によって判断される。同様に、心拍信号Sfのピーク値Pとされた最大値Mから一定値Cを減算した値以上の最大値Mを心拍信号Sgのピーク値Pが持つ場合、心拍信号Sfおよび心拍信号Sgの連続するピーク値Pは、相互の値が所定範囲内にあるものと一定時間変更手段によって判断される。このように相互の値が所定範囲内にあるものと判断されたピーク値P間の時間間隔T2に応じて、一定時間T1は、一定時間変更手段によって逐次変更される。
【0052】
次に、本実施形態による拍動周期算出装置1の信号処理部13において、上記の心拍数算出プログラムに従ってCPUによって行われる心拍数算出処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0053】
CPUは、まず、図5、ステップ(以下、Sと記す)1において、心電センサ2から出力されて増幅回路10で増幅され、フィルタ回路11でノイズが除去されてADコンバータ12でデジタル信号に変換された心拍信号を、所定の時間間隔で取得する。次に、CPUは、S2で、所定の時間間隔で取得した心拍信号の最大値Mが、RAMに記憶された最新のピーク値Pから一定値Cを減算した値以上であるか否かを判別する。取得した心拍信号の最大値Mが最新のピーク値Pから一定値Cを減算した値以上で、S2の判別結果がYesである場合、CPUは、S3において、ピーク間隔カウンタによってカウントされたピーク値Pの時間間隔T2が、0.3[s]超え0.5[s]未満であるか否かを判別する。ピーク値Pの時間間隔T2が0.3[s]超え0.5[s]未満で、S3の判別結果がYesである場合、CPUは、S4において、一定時間T1を0.3[s]に設定する。
【0054】
一方、ピーク値Pの時間間隔T2が0.3[s]超え0.5[s]未満でなく、S3の判別結果がNoである場合、CPUは、S5において、ピーク間隔カウンタによってカウントされたピーク値Pの時間間隔T2が、0.5[s]超え0.6[s]未満であるか否かを判別する。ピーク値Pの時間間隔T2が0.5[s]超え0.6[s]未満で、S5の判別結果がYesである場合、CPUは、S6において、一定時間T1を0.4[s]に設定する。一方、ピーク値Pの時間間隔T2が0.5[s]超え0.6[s]未満でなく、S5の判別結果がNoである場合、CPUは、S7において、ピーク間隔カウンタによってカウントされたピーク値Pの時間間隔T2が、0.6[s]超え0.8[s]未満であるか否かを判別する。ピーク値Pの時間間隔T2が0.6[s]超え0.8[s]未満で、S7の判別結果がYesである場合、CPUは、S8において、一定時間T1を0.5[s]に設定する。一方、ピーク値Pの時間間隔T2が0.6[s]超え0.8[s]未満でなく、S7の判別結果がNoである場合、CPUは、S9において、ピーク間隔カウンタによってカウントされたピーク値Pの時間間隔T2が、0.8[s]を超えるか否かを判別する。ピーク値Pの時間間隔T2が0.8[s]を超え、S9の判別結果がYesである場合、CPUは、S10において、一定時間T1を0.75[s]に設定する。
【0055】
ピーク値Pの時間間隔T2が0.8[s]を超えるものでなく、S9の判別結果がNoである場合、または、取得した心拍信号の最大値Mが最新のピーク値Pから一定値Cを減算した値以上でなく、S2の判別結果がNoである場合、または、S4、S6、S8、もしくはS10で一定時間T1が設定された場合、次に、CPUは、S11で、S1で取得した心拍信号の最大値Mが、RAMに記憶されている現在の最大値Mよりも大きいか否かを判別する。S1で取得した心拍信号の最大値Mが、図3に示す心拍信号Scの最大値M1のように、RAMに記憶されている心拍信号Sbの現在の最大値Mよりも大きく、S11の判別結果がYesである場合、CPUは、S12において、RAMに記憶されている現在の最大値Mを、S1で取得した心拍信号の最大値Mに書き換えて、更新する。そして、一定時間T1をカウントする最大値更新カウンタ、およびピーク値Pの時間間隔T2をカウントするピーク間隔カウンタをリセットし、各カウンタによる計時を再開させる。
【0056】
また、S1で取得した心拍信号の最大値Mが現在の最大値Mよりも大きくなく、S11の判別結果がNoである場合、CPUは、S13において、最大値更新カウンタおよびピーク間隔カウンタの各カウント値をカウントアップし、計時を進める。次に、CPUは、S14において、最大値更新カウンタによって計時される時間が一定時間T1を超えるか否かを判別する。最大値更新カウンタによって計時される時間が一定時間T1を超え、S14の判別結果がYesである場合、CPUは、S15において、S1で取得した心拍信号の最大値Mをピーク値Pと判定し、最新のピーク値PとしてRAMに記憶し、設定する。そして、この最新のピーク値Pとこれより1つ前のピーク値Pとの時間間隔T2から、1分間当たりのピーク値Pの数を求めて、心拍数を算出する。引き続いて、最大値更新カウンタをリセットすると共に、RAMに記憶されている、今回ピーク値Pと判定された最大値Mをリセットする。
【0057】
最大値更新カウンタが一定時間T1を超えず、S14の判別結果がNoである場合、または、S12もしくはS15の処理終了後、CPUは、S1の処理に戻って上記の各処理を繰り返し行う。
【0058】
このような本実施形態による拍動周期算出装置1によれば、所定時間間隔で取得される心拍信号の最大値Mが最大値検出手段により検出され、S11およびS14の処理で、検出された最大値Mよりも大きな最大値Mが最大値検出手段によって一定時間T1内に検出されない場合に、S15の処理で、ピーク値判定手段により、最大値検出手段によって検出された最大値Mがピーク値Pと判定される。そして、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値P間の時間間隔T2に基づいて、心拍数が算出手段により算出される。
【0059】
このため、本実施形態による拍動周期算出装置1は、特許文献1に開示された従来の装置と異なり、心電センサ2から得られる心拍信号のレベルが低い場合にも、最大値検出手段によって検出される心拍信号の最大値Mがノイズに埋もれない信号レベルでありさえすれば、心拍信号のP波やT波(図2参照)がノイズに埋もれていても、ピーク値Pの判定が行え、心拍数を算出することが出来る。また、心拍信号の振幅の基準となる基線G(図3参照)が変動しても、同様に、最大値検出手段によって検出される心拍信号の最大値Pがノイズに埋もれない信号レベルでありさえすれば、ピーク値Pの判定が行え、心拍数を算出することが出来る。
【0060】
また、ピーク値Pの判定に用いられる一定時間T1は、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値P間の時間間隔T2に応じて、ピーク値P間の時間間隔T2に応じて予め定められた0.3[s]、0.4[s]、0.5[s]、および0.75[s]の複数の時間の中のいずれの時間に、一定時間変更手段によりS3〜S10の処理において逐次変更される。このため、ピーク値Pの判定は、除算等の複雑な演算処理を用いて行われる特許文献2や特許文献3に開示された従来の装置と異なり、取得される心拍信号の大きさを単に比較するS11の処理、一定時間T1やピーク値P間の時間間隔T2をカウントするS13の処理、予め定められた複数の時間の中のいずれの時間をピーク値P間の時間間隔T2に応じて選択するS3〜S10の処理といった簡便な演算処理によって行われる。この結果、逐次変動する心拍数は、簡便な演算処理によって随時適切に算出され、拍動周期算出装置1の小型化および低価格化を図ることが可能になる。
【0061】
また、本実施形態による拍動周期算出装置1によれば、例えばS11の処理において、図3に示す心拍信号Scのように、最大値検出手段によって検出された心拍信号Sbの最大値Mよりも大きな最大値M1が最大値検出手段によって時刻t3から一定時間T1内に検出されると、S12の処理により、大きな最大値M1が検出された時点の時刻t4から一定時間T1のカウントが再開される。そして、その後のS11およびS14の処理で、この一定時間T1内に、大きな最大値M1よりもさらに大きな最大値M2が最大値検出手段によって検出されない場合に、S15の処理で、最大値検出手段によって検出された大きな最大値M1がピーク値判定手段によってピーク値Pと判定される。
【0062】
このため、最大値検出手段によって一旦検出された最大値Mは、一定時間T1内にその最大値Mよりも大きな最大値M1が最大値検出手段によって検出されると、ピーク判定に用いられず、心拍数の算出データから除外される。この結果、最大値検出手段によって検出される最大値Mの中で、心拍数の算出にふさわしくない、心拍信号のP波やT波といった信号に相当する最大値Mや、ノイズに起因する最大値Mなどがピーク判定の対象に用いられなくなり、心拍数の算出にふさわしいR波に相当する最大値Mのみがピーク判定の対象に用いられるようになって、心拍数の算出精度が向上する。
【0063】
また、本実施形態による拍動周期算出装置1によれば、ピーク値Pの判定に用いられる一定時間T1は、図4に示す心拍信号Sfや心拍信号Sgのように、1つ前のピーク値Pから一定値Cを減算した値以上のピーク値Pを持つ、相互の値が所定範囲内にある連続するピーク値P間の時間間隔T2に応じて、S3〜S10の処理において、一定時間変更手段により逐次変更される。
【0064】
このため、ピーク値判定手段によって判定された連続するピーク値Pであっても、相互の値が所定範囲内にない場合には、同種のピーク値Pではないものとされ、ピーク値Pの判定に用いられる一定時間T1は、このピーク値P間の時間間隔T2に応じて変更されない。一方、連続する相互のピーク値Pが所定範囲内にある場合には、同種のピーク値Pであるものとされ、ピーク値Pの判定に用いられる一定時間T1は、このピーク値P間の時間間隔T2に応じて変更される。従って、ピーク値Pの判定に用いられる一定時間T1は、似通ったピーク値P間の時間間隔T2に応じて変更され、ノイズに起因するピーク値Pなどに基づいて変更されることなく、心拍数の遷移に的確に追従して変更される。この結果、逐次変動する生体の心拍数は、簡便な演算処理によってより適切に随時算出されることになる。
【0065】
なお、上記の実施形態では、生体信号を心電センサ2によって検出される心拍信号とし、拍動周期算出装置1が拍動の律動周期を心拍数として算出する構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、生体信号を脈波センサによって検出される脈波信号とし、拍動周期算出装置1が拍動の律動周期を脈拍数として算出する構成にしてもよい。
【0066】
この構成では、信号処理部13において、脈波センサから取得される脈波信号を2回微分して加速度脈波信号とし、例えば、図6に示すような加速度脈波信号列における各加速度脈波信号Sの連続するピーク値P間の時間間隔T2に基づいて、拍動の律動周期が脈拍数として算出される。この際、加速度脈波信号Sの最大値Mが最大値検出手段により検出され、検出された最大値Mよりも大きな最大値Mが最大値検出手段によって一定時間T1内に検出されない場合に、ピーク値判定手段により、最大値検出手段によって検出された最大値Mがピーク判定ポイントtpでピーク値Pと判定されてRAMに記憶される。そして、ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値P間の時間間隔T2に基づいて、脈拍数が算出手段により算出される。ここで、脈波センサから取得される脈波信号を2回微分して加速度脈波信号とすることなく、脈波信号の連続するピーク値P間の時間間隔T2に基づいて、脈拍数を算出する構成にしてもよい。
【0067】
このような構成によっても、拍動周期算出装置1は、最大値検出手段によって検出される加速度脈波信号Sまたは脈波信号の最大値Mがノイズに埋もれない信号レベルでありさえすれば、ピーク値Pの判定が行え、脈拍数を算出することが出来て、上記実施形態と同様な作用効果が奏される。
【0068】
次に、本発明による拍動周期算出装置を脈波伝搬時間の算出に用いた第2の実施形態について説明する。
【0069】
図7は、本実施形態による拍動周期算出装置の電気回路構成を示すブロック図である。なお、同図において図1と同一または相当する部分には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0070】
拍動周期算出装置3には心電センサ2および脈波センサ4が接続されている。脈波センサ4は、人間や動物といった生体の所定位置に当てられ、LED(発光ダイオード)から発せられる赤外線の反射光をフォトディテクタで検出することなどで、生体の心臓の拍動に伴って変化する血管中の血流の時間変化を検出し、これを生体信号である脈拍信号として拍動周期算出装置3へ出力する。
【0071】
拍動周期算出装置3は、脈波センサ4から出力される脈波信号を増幅する増幅回路20、増幅回路20で増幅された脈波信号からノイズ成分を除去するフィルタ回路21、ノイズ成分が除去された脈波信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するADコンバータ22を備えている。信号処理部13は、ADコンバータ22から出力される脈波信号を2回微分して加速度脈波信号に変換する。
【0072】
信号処理部13のROMには、心拍信号のピーク値Pと加速度脈波信号のピーク値Pとを同時に検出して、それらの時間差から脈波伝搬時間を算出する脈波伝搬時間算出プログラムが記憶されている。脈波伝搬時間は、図8(a)に示す加速度脈波信号列における加速度脈波信号Sのピーク値Pと、同図(b)に示す心拍信号列における心拍信号Sのピーク値Pとの時間差T3として、算出される。ここで、信号処理部13のCPUは、ROMに記憶された脈波伝搬時間算出プログラムにより、最大値検出手段、ピーク値判定手段、算出手段、および一定時間変更手段として、機能する。
【0073】
最大値検出手段は、心電センサ2から出力される心拍信号Sを所定時間間隔で取得して心拍信号Sの最大値Mを検出する心拍最大値検出手段と、脈波センサ4から出力される脈波信号を所定時間間隔で取得して2回微分した加速度脈波信号Sの最大値Mを検出する脈波最大値検出手段とから構成される。ピーク値判定手段は、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号Sの最大値Mよりも大きな最大値Mが心拍ピーク値判定用の一定時間T1内に心拍最大値検出手段によって検出されない場合に、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号Sの最大値Mをピーク判定ポイントtpで心拍ピーク値Pと判定する心拍ピーク値判定手段と、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号Sの最大値Mよりも大きな最大値Mが加速度脈波ピーク値判定用の一定時間T1内に脈波最大値検出手段によって検出されない場合に、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号Sの最大値Mをピーク判定ポイントtpで加速度脈波ピーク値Pと判定する脈波ピーク値判定手段とから構成される。
【0074】
算出手段は、心拍ピーク値判定手段によって判定された心拍ピーク値Pと脈波ピーク値判定手段によって判定された加速度脈波ピーク値Pとの時間差T3を、脈波伝搬時間として算出する。算出された脈波伝搬時間は表示部14に表示される。一定時間変更手段は、心拍ピーク値判定手段によって判定される連続する心拍ピーク値P間の時間間隔T2に応じて、心拍ピーク値判定用の一定時間T1を心拍ピーク値P間の時間間隔T2に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する心拍ピーク値判定用一定時間変更手段と、脈波ピーク値判定手段によって判定される連続する加速度脈波ピーク値P間の時間間隔T2に応じて、加速度脈波ピーク値判定用の一定時間T1を加速度脈波ピーク値P間の時間間隔T2に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する脈波ピーク値判定用一定時間変更手段とから構成される。
【0075】
このような本実施形態による拍動周期算出装置3によれば、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号Sの最大値Mよりも大きな最大値Mが心拍ピーク値判定用の一定時間T1内に心拍最大値検出手段によって検出されない場合に、心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号Sの最大値Mが心拍ピーク値判定手段によって心拍ピーク値Pと判定される。また、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号Sの最大値Mよりも大きな最大値Mが加速度脈波ピーク値判定用の一定時間T1内に脈波最大値検出手段によって検出されない場合に、脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号Sの最大値Mが脈波ピーク値判定手段によって加速度脈波ピーク値Pと判定される。そして、心拍ピーク値判定手段によって判定された心拍ピーク値Pと脈波ピーク値判定手段によって判定された加速度脈波ピーク値Pとの時間差T3が、算出手段によって脈波伝搬時間として算出される。このため、算出される脈波伝搬時間から、拍動により動脈に脈波が伝搬する時間が知れるので、血管年齢の推定や、血圧値の算出を行うことが可能になる。
【0076】
また、拍動周期算出装置3の信号処理部13のROMに、第1の実施形態で説明した心拍数算出プログラムに加え、脈波センサ4から所定時間間隔で取得される脈波信号を2回微分した加速度脈波信号Sから脈拍数を算出する脈拍数算出プログラムを備えることで、脈波伝搬時間と共に心拍数および脈拍数も同時に算出して、これらを表示部14に表示させることが出来る。この構成では、心拍数算出プログラムの機能を実現する手段に加速度脈波信号Sを与えることで、脈拍数算出プログラムの機能を実現する手段を構成することが出来るため、設計リソースを削減することが出来る。
【0077】
次に、本発明による拍動周期算出装置を心拍数の算出に用いた第3の実施形態について説明する。
【0078】
図9は、本実施形態による拍動周期算出装置の電気回路構成を示すブロック図である。なお、同図において図1と同一または相当する部分には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0079】
本実施形態による拍動周期算出装置5は、信号処理部13と増幅回路10とが接続され、信号処理部13から増幅回路10へ向かうフィードバック経路が形成されている点が、第1の実施形態による拍動周期算出装置1と相違し、その他のハードウエア構成は、第1の実施形態による拍動周期算出装置1と同じである。
【0080】
本実施形態による拍動周期算出装置5でも、心電センサ2から拍動周期算出装置5へ出力される心拍信号は、増幅回路10で増幅されるが、その増幅率は、信号処理部13からフィードバックされる制御信号によって定められる。制御信号に応じた増幅率で増幅された心拍信号は、フィルタ回路11およびADコンバータ12を介して、信号処理部13内のCPUによって構成される最大値検出手段に与えられる。増幅回路10は、心拍信号を制御信号に応じた増幅率で増幅して最大値検出手段へ出力する増幅手段を構成する。
【0081】
本実施形態の信号処理部13内のCPUは、ROMに記憶された後述する心拍数算出プログラムにより、前述した最大値検出手段、ピーク値判定手段、算出手段、および一定時間変更手段として機能すると共に、基準値検出手段としても機能する。
【0082】
基準値検出手段は、増幅回路10で増幅された心拍信号の所定タイミングにおける大きさを基準値として検出する。この所定タイミングは、本実施形態では、P波、Q波、R波、S波、T波、およびU波で構成される図2に示した心拍信号のST分節が現れるタイミングに、設定されている。ここで、ST分節とは、S波からT波にかけての平坦部分であり、心拍信号の振幅の基準となる基線G(図3参照)に相当し、基準値は基線値Bとして検出される。本実施形態では、ピーク値Pとして検出されるR波の出現タイミングから0.1[s]経過したタイミングを、ST分節が現れるタイミングとしている。
【0083】
また、本実施形態の算出手段は、ピーク値判定手段によって判定されたピーク値Pと、基準値検出手段によって検出された基線値Bとの差(P−B)から、ピーク値判定手段によって判定されたピーク値Pの大きさを算出し、算出したピーク値Pの大きさに基づいた制御信号を増幅回路10へ出力する。例えば、算出手段は、図10に示す心拍信号列において、時刻t8、t9におけるR波のピーク値Pと、このピーク値Pが検出された時刻t8、t9からそれぞれ0.1[s]経過した時点の基線判定ポイントtgにおいて検出されたST分節の基線値Bとの差(P−B)から、ピーク値Pの大きさHを算出する。そして、算出したピーク値Pの大きさHに基づいた制御信号を増幅回路10へ出力する。なお、同図において図2および図4と同一または相当する部分には同一の符号を付してその説明は省略する。
【0084】
また、算出手段は、ピーク値判定手段によって連続して判定された複数のピーク値Pと、基準値検出手段によってこれら各ピーク値Pに対応して連続して検出された複数の基線値Bとの各差(P−B)から、各ピーク値Pの大きさHを算出し、算出した各ピーク値Pの大きさHが連続して所定の範囲にある場合に、増幅回路10へ出力する制御信号を変える。
【0085】
例えば、図11(a)に示す心拍信号列において、心拍信号Shのピーク値Pの大きさH1は所定の第2の閾値Y未満であるが、その後に連続する4個の心拍信号Si、Sj、Sk、およびSlの各ピーク値の大きさH2、H3、H4、およびH5が第2の閾値Y以上(H≧Y)で大きい場合、増幅回路10へ出力する制御信号である判定信号のレベルを変える。なお、同図において図10と同一または相当する部分には同一の符号を付してその説明は省略する。この場合、増幅回路10へ出力される制御信号は、同図に示すように時刻t11において、高レベルのHighの判定信号から低レベルのLowの判定信号に変えられる。このLowの判定信号がフィードバックされた増幅回路10は、予め用意された大増幅率および小増幅率の2つの増幅率の中の小増幅率で、心電センサ2から出力される心拍信号Sを増幅する。従って、信号処理部13では、その後に、ピーク値Pの大きさHがH6と小さくなった心拍信号Smが検出される。
【0086】
また、さらにその後に連続する4個の心拍信号Sn、So、Sp、およびSqの各ピーク値の大きさH7、H8、H9、およびH10が第1の閾値X以下(H≦X)で小さい場合、増幅回路10へ出力される制御信号は、同図に示すように時刻t12において、Lowの判定信号からHighの判定信号に変えられる。このHighの判定信号がフィードバックされた増幅回路10は、予め用意された大増幅率および小増幅率の2つの増幅率の中の大増幅率で、心電センサ2から出力される心拍信号Sを増幅する。従って、信号処理部13では、その後に、ピーク値Pの大きさHがH11と大きくなった心拍信号Srが検出される。
【0087】
次に、本実施形態による拍動周期算出装置5の信号処理部13において、ROMに記憶された心拍数算出プログラムに従ってCPUによって行われる心拍数算出処理について、図12のフローチャートを参照して説明する。なお、同図において図5のフローチャートと同一または相当するステップには同一のステップ符号を付してその説明は省略する。
【0088】
CPUは、増幅回路10で増幅されてS1で取得された心拍信号の最大値MがRAMに記憶されている現在の最大値Mよりも大きくなく、S11の判別結果がNoである場合、S13において、最大値更新カウンタおよびピーク間隔カウンタの各カウント値をカウントアップし、計時を進める。次に、CPUは、S21において、最大値更新カウンタによって計時される時間が、RAMに記憶されている最新のピーク値Pが出現したタイミングから0.1[s]経過した時点で、ST分節が現れる基線判定ポイントtgであるか否かを判別する。0.1[s]経過した時点で、S21の判別結果がYesである場合、CPUは、S22において、最大値更新カウンタによる計時が0.1[s]経過した時点における心電センサ2からの入力値を基線値BとしてRAMに記憶し、S1の処理に戻って上記の各処理を繰り返し行う。
【0089】
一方、0.1[s]経過した時点でなく、S21の判別結果がNoである場合、CPUは、S14において、前述したように、最大値更新カウンタによって計時される時間が一定時間T1を超えるか否かを判別する。最大値更新カウンタによって計時される時間が一定時間T1を超え、S14の判別結果がYesである場合、CPUは、S23において、RAMに記憶されている最新のピーク値Pと、S22でRAMに記憶した基線値Bとの差、つまり、ピーク値Pの大きさHを算出する。
【0090】
次に、CPUは、S24において、算出したピーク値Pと基線値Bとの差が第1の閾値X以下で、RAMに記憶されている最新のピーク値Pの大きさHが小さいものであるか否かを判別する。ピーク値Pと基線値Bとの差が第1の閾値X以下で最新のピーク値Pの大きさHが小さく、S24の判別結果がYesである場合、CPUは、S25において、ピーク値Pと基線値Bとの第1の閾値X以下の差が連続して4回、図11に示す心拍信号Sn、So、Sp、およびSqのように、検出されたか否かを判別する。連続して4回、第1の閾値Xより小さいものとして検出されて、S25の判別結果がYesである場合、CPUは、S26において、増幅回路10へフィードバックする判定信号を例えば時刻t12にLowからHighに変更する。このため、増幅回路10の増幅率は大増幅率となり、心電センサ2から出力される心拍信号は、例えば心拍信号Srのようにピーク値Pの大きさH11が大きな適切なものとなる。
【0091】
一方、ピーク値Pと基線値Bとの差が第1の閾値X以下でなく、S24の判別結果がNoである場合、CPUは、S27において、S23で算出したピーク値Pと基線値Bとの差が第2の閾値Y以上で、RAMに記憶されている最新のピーク値Pの大きさHが大きいものであるか否かを判別する。ピーク値Pと基線値Bとの差が第2の閾値Y以上で最新のピーク値Pの大きさHが大きく、S27の判別結果がYesである場合、CPUは、S28において、ピーク値Pと基線値Bとの第2の閾値Y以上の差が連続して4回、図11に示す心拍信号Si、Sj、Sk、およびSlのように、検出されたか否かを判別する。連続して4回、第2の閾値Yより大きいものとして検出されて、S28の判別結果がYesである場合、CPUは、S29において、増幅回路10へフィードバックする判定信号を例えば時刻t11にHighからLowに変更する。このため、増幅回路10の増幅率は小増幅率となり、心電センサ2から出力される心拍信号は、例えば心拍信号Smのようにピーク値Pの大きさH6が小さな適切なものとなる。
【0092】
連続して4回検出されずにS25もしくはS28の判別結果がNoである場合、または、判定信号のレベルを変更してS26もしくはS29の処理が終了した場合、次に、CPUは、S15において、前述したように、S1で取得した心拍信号の最大値Mをピーク値Pと判定し、最新のピーク値PとしてRAMに設定し、1分間当たりのピーク値Pの数を求めて心拍数を算出すると共に、最大値更新カウンタおよび今回ピーク値Pと判定された最大値Mをリセットする。
【0093】
このような本実施形態による拍動周期算出装置5によれば、ピーク値判定手段によって判定されたピーク値Pと基準値検出手段によって検出された基線値Bとの差からピーク値Pの大きさHが、図12のS23において算出手段によって算出される。そして、算出されたピーク値Pの大きさHに基づいた制御信号が、S26またはS29でHighまたはLowの判定信号として増幅回路10へ出力されて、増幅回路10の増幅率が変更される。
【0094】
すなわち、算出されたピーク値Pの大きさHが第2の閾値Yより大きい場合には、制御信号が増幅回路10の増幅率を小さくするLowの判定信号に変えられ、算出されたピーク値Pの大きさHが第1の閾値Xより小さい場合には、制御信号が増幅回路10の増幅率を大きくするHighの判定信号に変えられる。このため、増幅回路10によって増幅して得られる心拍信号の大きさは、S11およびS12における最大値検出手段による心拍信号の最大値検出、およびS14およびS15におけるピーク値判定手段によるピーク値Pの判定に適した大きさに、適宜制御される。この結果、最大値検出手段による心拍信号の最大値検出、およびピーク値判定手段によるピーク値Pの判定を誤ることが無くなり、ピーク値Pの検出精度が向上する。
【0095】
また、本実施形態による拍動周期算出装置5によれば、基準値検出手段によって検出される基準値は、心拍信号のST分節の値、すなわち、心拍信号の振幅の基準となる基線値Bとなる。このため、算出手段によって算出されるピーク値Pの大きさHは基線G(図3参照)に対する大きさになって評価し易いものとなる。
【0096】
また、本実施形態による拍動周期算出装置5によれば、算出手段によって複数算出されるピーク値Pと基線値Bとの各差が連続して所定の範囲にある場合に、増幅回路10へフィードバック出力される制御信号が変えられて、増幅回路10の増幅率が変更される。例えば、図11に示す心拍信号Si、Sj、Sk、およびSlの各ピーク値Pと基線値Bとの各差が連続して第2の閾値Y以上(H≧Y)の所定の範囲にあって、各ピーク値Pの大きさHが連続して大きい場合に、増幅回路10へ出力される制御信号が時刻t11にHighからLowの判定信号に変えられて、増幅回路10の増幅率が小増幅率に変更される。また、図11に示す心拍信号Sn、So、Sp、およびSqの各ピーク値Pと基線値Bとの各差が連続して第1の閾値X以下(H≦X)の所定の範囲にあって、各ピーク値Pの大きさHが連続して小さい場合に、増幅回路10へ出力される制御信号が時刻t12にLowからHighの判定信号に変えられて、増幅回路10の増幅率が大増幅率に変更される。このため、ピーク値Pの大きさHが連続して所定の範囲にあって安定している場合に、増幅回路10の増幅率が変更されるので、ピーク値Pの大きさHを誤判定して増幅回路10の増幅率を誤って変更することが無くなる。
【0097】
なお、上記の実施形態では、連続する4個の心拍信号のピーク値Pの大きさHが第1の閾値X以下または第2の閾値Y以上の場合に判定信号のレベルを変える構成の場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、連続する2個や3個、もしくは5個以上の心拍信号のピーク値Pの大きさHが第1の閾値X以下または第2の閾値Y以上の場合に、判定信号のレベルを変えるように構成してもよい。また、1個の心拍信号のピーク値Pの大きさHが第1の閾値X以下または第2の閾値Y以上の場合に、判定信号のレベルを変えるように構成してもよい。
【0098】
また、上記の実施形態では、ピーク値Pの大きさHを判定する閾値を第1および第2の2つとした場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、閾値を3つ以上用意して、ピーク値Pの大きさHをさらに細かく判定し、判定信号の種類を増やして、増幅回路10の増幅率が3種類以上設定されるように構成してもよい。
【0099】
また、上記の実施形態では、ST分節が現れる基線判定ポイントtgを、ピーク値Pが出現したタイミングから0.1[s]経過した時点とし、その1点の時点における心拍信号の大きさを基線値Bとした。しかし、ピーク値Pが出現したタイミングから0.1[s]経過した時点を含むその前後の複数の時点を複数の基線判定ポイントtgとし、これら複数の基線判定ポイントtgにおける心拍信号の各大きさの平均値を基線値Bとするように構成してもよい。この構成によれば、基線値Bの検出精度が向上し、ピーク値Pの大きさHがより精度よく算出されるようになる。
【0100】
また、上記の実施形態では、基準値検出手段によって検出される基準値をST分節が現れる基線値Bとした場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、S波に続くT波のピーク値が出現する時の心拍信号の大きさや、P波とQ波との間に現れる平坦部分における心拍信号の大きさなどを基準値とし、この基準値とピーク値Pとの差をピーク値Pの大きさHとして検出するように構成してもよい。
【0101】
また、上記の実施形態では、生体信号を心電センサ2によって検出される心拍信号とし、拍動の律動周期を心拍数として算出する装置構成における増幅回路10の増幅率をフィードバック制御する場合について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、生体信号を脈波センサによって検出される脈波信号とし、拍動の律動周期を脈拍数として算出する装置構成における増幅回路の増幅率をフィードバック制御するようにしてもよい。また、図7に示す拍動周期算出装置3のように、生体信号を、心電センサ2によって検出される心拍信号、および脈波センサ4によって検出される脈波信号とし、拍動の律動周期を心拍数および脈拍数として算出したり、脈波伝搬時間を算出する装置構成における増幅回路10および増幅回路20の各増幅率をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0102】
また、上記の第1、第2および第3の各実施形態による拍動周期算出装置1、3および5の信号処理部13は、ASIC(特定用途向けカスタム集積回路)や、FPGA(現場プログラム可能集積回路)、DSP(デジタル信号処理プロセッサ)などによって構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
心拍数や脈拍数を算出する上記の第1の実施形態による拍動周期算出装置1を心電センサ2や脈波センサ4と共に備えて、生体センサを構成することが出来る。この構成によれば、上記の第1の実施形態による拍動周期算出装置1の各効果が奏される生体センサが提供される。同様に、脈波伝搬時間を算出する上記の第2の実施形態による拍動周期算出装置3を心電センサ2および脈波センサ4と共に備えて、生体センサを構成することも出来る。この構成によれば、上記の第2の実施形態による拍動周期算出装置3の各効果が奏される生体センサが提供される。同様に、心拍信号を増幅する増幅回路10や脈波信号を増幅する増幅回路20の増幅率をフィードバック制御する上記の第3の実施形態による拍動周期算出装置5を心電センサ2や脈波センサ4と共に備えて、生体センサを構成することも出来る。この構成によれば、上記の第3の実施形態による拍動周期算出装置5の各効果が奏される生体センサが提供される。
【符号の説明】
【0104】
1、3…拍動周期算出装置
2…心電センサ
4…脈波センサ
10、20…増幅回路
11、21…フィルタ回路
12、22…ADコンバータ
13…信号処理部
14…表示部
T1…一定時間
T2…ピーク値間時間間隔
T3…時間差(脈波伝搬時間)
M…最大値
tp…ピーク判定ポイント
tg…基線判定ポイント
C…一定値
G…基線
H…ピーク値の大きさ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間間隔で取得される生体信号の最大値を検出する最大値検出手段と、
前記最大値検出手段によって検出された最大値よりも大きな最大値が前記最大値検出手段によって一定時間内に検出されない場合に、前記最大値検出手段によって検出された最大値をピーク値と判定するピーク値判定手段と、
前記ピーク値判定手段によって判定される連続するピーク値間の時間間隔に基づいて前記生体信号を生じさせる生体の拍動の律動周期を算出する算出手段と、
前記ピーク値判定手段によって判定される連続する前記ピーク値間の時間間隔に応じて、前記一定時間を前記ピーク値間の時間間隔に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する一定時間変更手段と
を備えて構成される拍動周期算出装置。
【請求項2】
前記ピーク値判定手段は、前記最大値検出手段によって検出された最大値よりも大きな最大値が前記最大値検出手段によって前記一定時間内に検出されると、前記大きな最大値が検出された時点から前記一定時間内に前記大きな最大値よりもさらに大きな最大値が前記最大値検出手段によって検出されない場合に、前記最大値検出手段によって検出された前記大きな最大値をピーク値と判定することを特徴とする請求項1に記載の拍動周期算出装置。
【請求項3】
前記一定時間変更手段は、前記ピーク値判定手段によって判定される、相互の値が所定範囲内にある連続する前記ピーク値間の時間間隔に応じて、前記一定時間を逐次変更することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の拍動周期算出装置。
【請求項4】
前記生体信号は心拍信号であり、
前記算出手段は、前記拍動の律動周期を心拍数として算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の拍動周期算出装置。
【請求項5】
前記生体信号は脈波信号であり、
前記算出手段は、前記拍動の律動周期を脈拍数として算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の拍動周期算出装置。
【請求項6】
前記最大値検出手段は、所定時間間隔で取得される心拍信号の最大値を検出する心拍最大値検出手段と、所定時間間隔で取得される脈波信号を2回微分した加速度脈波信号の最大値を検出する脈波最大値検出手段とから構成され、
前記ピーク値判定手段は、前記心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号の最大値よりも大きな最大値が心拍ピーク値判定用の前記一定時間内に前記心拍最大値検出手段によって検出されない場合に、前記心拍最大値検出手段によって検出された心拍信号の最大値を心拍ピーク値と判定する心拍ピーク値判定手段と、前記脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号の最大値よりも大きな最大値が加速度脈波ピーク値判定用の前記一定時間内に前記脈波最大値検出手段によって検出されない場合に、前記脈波最大値検出手段によって検出された加速度脈波信号の最大値を加速度脈波ピーク値と判定する脈波ピーク値判定手段とから構成され、
前記算出手段は、前記心拍ピーク値判定手段によって判定された心拍ピーク値と前記脈波ピーク値判定手段によって判定された加速度脈波ピーク値との時間差から脈波伝搬時間を算出し、
前記一定時間変更手段は、前記心拍ピーク値判定手段によって判定される連続する心拍ピーク値間の時間間隔に応じて、心拍ピーク値判定用の前記一定時間を前記心拍ピーク値間の時間間隔に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する心拍ピーク値判定用一定時間変更手段と、前記脈波ピーク値判定手段によって判定される連続する加速度脈波ピーク値間の時間間隔に応じて、加速度脈波ピーク値判定用の前記一定時間を前記加速度脈波ピーク値間の時間間隔に応じて予め定められた複数の時間の中のいずれの時間に逐次変更する脈波ピーク値判定用一定時間変更手段と
から構成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の拍動周期算出装置。
【請求項7】
前記生体信号を制御信号に応じた増幅率で増幅して前記最大値検出手段へ出力する増幅手段と、
前記増幅手段で増幅された前記生体信号の所定タイミングにおける大きさを基準値として検出する基準値検出手段とを備え、
前記算出手段は、前記ピーク値判定手段によって判定されたピーク値と前記基準値検出手段によって検出された基準値との差から、前記ピーク値判定手段によって判定されたピーク値の大きさを算出し、算出したピーク値の大きさに基づいた前記制御信号を前記増幅手段へ出力する
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の拍動周期算出装置。
【請求項8】
前記所定タイミングは、P波、Q波、R波、S波、T波、およびU波で構成される前記生体信号のST分節が現れるタイミングであることを特徴とする請求項7に記載の拍動周期算出装置。
【請求項9】
前記算出手段は、前記ピーク値判定手段によって連続して判定された複数のピーク値と前記基準値検出手段によって各前記ピーク値に対応して連続して検出された複数の基準値との各差から各前記ピーク値の大きさを算出し、算出した各前記ピーク値の大きさが連続して所定の範囲にある場合に前記増幅手段へ出力する前記制御信号を変えることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の拍動周期算出装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の拍動周期算出装置を備えて構成される生体センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−101027(P2012−101027A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−945(P2011−945)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】