説明

拡大ヘッド

【課題】 拡大翼拡開時の過大な掘削抵抗を緩和すると共に、拡大翼の拡縮を確実に行い、しかも堅ろうで安価な拡大ヘッドを提供する。
【解決手段】
拡大翼を拡開するための油圧シリンダ及びリンク機構を使用せず、通常掘削時は、拡大翼を閉縮状態に予めロックしておき、拡大掘削時に、拡大翼をロック解除後外力の利用により拡開させることを基本とし、外周部に拡大翼を上下に拡縮揺動自在に軸支された上部駆動軸と、外周面に掘削ヘッドを突設された下部従動軸とを回転自在かつ軸方向摺動自在に嵌合したヘッドロッドにおいて、上部駆動軸と下部従動軸の間に、補助キー溝を付加されたキー溝及びそれに係合するキーを設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空杭の中掘り工法その他種々の工法に使用される掘削スクリューロッド、掘削撹拌ロッド等の掘削作業ロッドの下端に接続される拡大球根造成用の拡大翼を有する拡大ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば中空杭中掘り工法に使用される掘削スクリューロッドの下端に接続される拡大ヘッドとして、ヘッドロッド外周面に突設された掘削羽根に、拡大爪をヘッドロッド横断平面上で拡縮揺動自在に軸支すると共に、該拡大爪が拡大ヘッド正転時に閉縮状態にあるが、逆転時に周囲の土圧により拡開する構造のものが知られている。
【0003】
上記のような従来の拡大ヘッドは堅ろう性に優れてはいるが、逆転時に、拡大翼が閉縮状態から一気に最大径に拡開するため、拡大ヘッドに過大な掘削抵抗が加わり、それに対応するためには駆動部に多大なトルクが必要となり、それは硬質地盤の掘削において特に著しい欠点となっていた。
【0004】
これを改善するため、ヘッドロッド内に油圧シリンダを内蔵すると共に、ヘッドロッド外周面に拡大翼を拡縮揺動自在に軸支し、上記シリンダの往復駆動力によりリンクを介して上記拡大翼を拡縮揺動させる構造のものが種々提案されている。
【0005】
しかし、上記の油圧シリンダ内臓の拡大ヘッドは、油圧源及び油圧制御機器を含む高価な油圧装置が必要となるばかりでなく、故障発生率が高くなるため、その保全、修理に人手を要する等の経済的負担が重くなり、さらには、リンク部分に掘削土砂が圧蜜状態で堆積し、拡大翼の拡縮が困難に至る危険もみられた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、拡大翼拡開時の過大な掘削抵抗を緩和すると共に拡大翼の拡縮を確実にし、しかも堅ろうで安価な拡大ヘッドを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、まず油圧シリンダ及びリンク機構を使用せず、又通常掘削時は、拡大翼を閉縮状態にロックし、拡大掘削時は、拡大翼をロック解除後外力を利用して拡開させることを基本思想とし、それに基づいて、
外周部に拡大翼を上下に拡縮揺動自在に軸支された上部駆動軸と、外周面に掘削ヘッドを突設された下部従動軸とを回転自在且つ軸方向摺動自在に嵌合してなるヘッドロッドにおいて、
上記駆動軸及び従動軸の一方にスライドキーを、他方に上記スライドキーが係合する上下方向のキー溝をそれぞれ設け、
上記従動軸が上記キー溝に沿って上昇するとき、上記拡大翼を押して拡開させ、降下したとき上記拡大翼を自重で閉縮可能におく位置関係にあり、
上記従動軸の外周面に、上記拡大翼を閉縮状態にロックするためのロック部材を突設し、上記駆動軸の従動軸に対する一方向への相対的小角度回転により上記閉縮状態にある拡大翼を上記ロック部材にロックさせ、他方向への相対的小角度回転により上記ロックから離脱させる関係にあり、
上記駆動軸が、上記キー溝に沿って上昇した位置で、上記従動軸に対する相対的小角度回転を行うことができるように、上記キー溝に、上記スライドキーの小角度回転を受け入れ且つ該スライドキーの上下移動を抑止する補助キー溝を連通状態に付加した、
拡大ヘッドを提案する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の拡大ヘッドによれば、従動軸下端を地盤に接地した状態で、駆動軸を押し下げて従動軸を相対的に上昇させることにより拡大翼を拡開させることができると共に、従動軸に周囲の土圧を及ぼしつつ駆動軸を引き上げることにより拡大翼を閉縮させることができ、その際拡大翼の拡開は、上記駆動軸の押し下げを徐々に行うことにより過大な掘削抵抗を受けることなしに容易に行うことができるのであり、しかも油圧シリンダ、油圧装置、リンク機構等を省略したから、堅ろうで安価な拡大ヘッドを提供できるのである。
以下図面を参照して本発明の実施例について詳述する。
【実施例】
【0009】
図1、2において、軸心に固化液供給路(2)を縦通した円形軸からなる上部駆動軸(1)のほぼ下半部を、上端を開口し、下端を閉成してなる円筒状の下部従動軸(3)内に回転自在かつ軸方向摺動自在に挿入すると共に、上記従動軸(3)内にあって該従動軸(3)下端部に固定された固化液案内管(4)を上記駆動軸(1)の固化液供給路(2)内に回転自在かつ軸方向摺動自在に挿入し、それにより伸縮自在の拡大ヘッドロッドを構成している。
【0010】
上記駆動軸(1)には、その上部外周部の直径方向相対する位置にブラケット(5)、(5)を突設し、該ブラケット(5)、(5)に拡大翼(6)、(6)の各基部を軸(7)、(7)により上下に拡開揺動自在に軸支してあり、これら拡大翼(6)、(6)は、上方へ揺動したとき、拡大翼基部に突設されたストッパー(8)、(8)が駆動時(1)の外周面に当接してそれ以上の上方への揺動を阻止された最大拡開位置(図1(ロ)の位置)に至り、又拡大翼(6)、(6)を、下方へ揺動したときは、ヘッドロッドに添接する閉縮位置(図1(イ)、図2(イ)の位置)に至り、その場合、上記ヘッドロッドの伸長時には、拡大翼(6)、(6)の先端部分が従動軸(3)の上端部外周面に添接する閉縮位置をとる。
【0011】
上記拡大翼(6)、(6)の拡開作動構造は次のようである。まず、拡開作動部(9)は、駆動軸(1)に沿って相対的に上昇する従動軸(3)の上端、特に上端の外側縁部である。次に、拡大翼(6)、(6)の内側辺について、該拡大翼閉縮時において、先端から中間までの範囲をヘッドロッドと平行する無作動辺(10)、(10)に、ついで中間から基端までの範囲を内方へゆるく傾斜する傾斜従動辺(11)、(11)にそれぞれ形成してある。
【0012】
従って、今、図1(イ)の閉縮状態から従動軸(3)が上昇すると、該従動軸の拡開作動部(9)が拡大翼(6)、(6)の無作動辺(10)、(10)を滑走しつつ拡大翼(6)、(6)を静止状態に保って上昇し、ついで作動部(9)が従動辺(11)、(11)に至ると、該従動辺(11)、(11)を押して拡大翼(6)、(6)を軸(7)、(7)を中心に上方へ揺動させ、最大拡開位置まで揺動させる。従動軸(3)が降下し、上記作動部(9)も降下すると、拡大翼(6)、(6)は自重により揺動して閉縮位置に戻る。
【0013】
上記拡大翼(6)、(6)を閉縮位置に保持するため、上記従動軸(3)の上端部外周面における直径方向の相対する位置に、カギ形のロック爪(12)、(12)を、図2(ロ)に示すように、互に同一周方向に向けた状態に突設してある。
【0014】
この場合、拡大翼(6)、(6)が閉縮位置にあるとき、駆動軸(1)と同(ロ)図時計方向に回転させると、拡大翼(6)、(6)先端部がロック爪(12)、(12)内に係止して拡開不能の状態となり、又駆動軸(1)を同図各反時計方向に小角度回転させると、拡大翼(6)、(6)先端部がロック爪(12)、(12)から離脱し、拡開可能の状態になる。
【0015】
上記従動軸(3)の外周面には二重らせんの掘削羽根(16)が設けられ、羽根下端縁にビット(17)…が突設されている。この従動軸(3)に駆動軸(1)の回転を伝達する手段として、上記従動軸(3)の内周面における直径方向相対する位置に、母線方向に延長するキー溝(13)、(13)を形成すると共に、上記駆動軸(1)の下端部分外周面に、上記キー溝(13)、(13)内に係合し、該キー溝(13)の上下長さの2分の1の長さのスライドキー(14)、(14)を突設してある。
【0016】
この場合、上記スライドキー(14)、(14)のキー溝(13)内での上下摺動距離は、上記従動軸(3)の拡開作動部(9)が最下位から拡大翼(6)、(6)を最大拡開させるまでの上昇距離とほぼ等しくしてある。
【0017】
上記拡大翼(6)、(6)をロック爪(12)、(12)に係脱させるため、上記駆動、従動両軸(1)、(3)の相対的小角度回転を許容する構造が上記キー溝(13)に付加されている。すなわち図2(ハ)、(ニ)に示すように、上記キー溝(13)の上半部側辺から駆動軸(1)の正回転(時計方向回転)がわに補助キー溝(15)を連通状態で付加してある。この補助キー溝(15)は、上記スライドキー(14)が係脱可能の上下幅と、上記拡大翼(6)が上記ロック爪(12)に係合又は離脱するに必要な回転小角度に対応する左右幅とを有するものである。
【0018】
そして、上記スライドキー(14)、(14)、拡大翼(6)、(6)及びロック爪(12)、(12)の3者の関係では、駆動軸(1)の逆転(反時計方向回転)により上記スライドキー(14)、(14)がキー溝(13)、(13)内にあるときは、拡大翼(6)、(6)がロック爪(12)、(12)に対し小角度反時計がわに離れた非係止の位置(図2(ロ)仮想線の位置)にあり、駆動軸(1)の正転(時計方向回転)により上記スライドキー(14)、(14)が同図(ハ)、(ニ)のように補助キー溝(15)、(15)内に回転移動したときは、拡大翼(6)、(6)が小角度回転して同図(ロ)に実線で示すようにロック爪(12)、(12)に係止したロック状態、すなわち通常掘削可能の状態に至る位置関係にある。
【0019】
(18)は上記駆動軸(1)の上端に形成されたオス継手、(19)は上記固化液案内管(4)の下端の固化液吐出口、(20)はゴム弁である。
【0020】
上例の拡大ヘッドの作用を使用例とともに次に説明する。図3(イ)において、拡大ヘッドのオス継手(18)をスクリューロッド(S)の下端に接続し、この拡大ヘッドつきスクリューロッド(S)を、従動軸(3)を降下させ、拡大翼(6)、(6)を自重で閉縮させた状態で、中空杭(P)内に挿通する。そこで、スクリューロッド(S)を正転させ、それに伴う駆動軸(1)の正転により拡大翼(6)、(6)がロック爪(12)、(12)に係止して閉縮状態にロックされると共に、スライドキー(14)が補助キー溝(15)に係合し、それにより駆動軸(1)の正転が従動軸(3)に伝達されると共に、従動軸(3)降下状態に保持する。
【0021】
上記の正転する従動軸(3)の掘削羽根(16)により中空杭(P)の下方地盤を先掘りしつつ、掘削土砂は中空杭(P)内で上方へ搬送しながら中空杭(P)を先掘り孔内に圧入していく。
【0022】
中空杭(P)を所定深さまで圧入したら掘進を停止し、ついでスクリューロッド(S)を小角度逆転し、それにより土圧を受けて静止状態にある従動軸(3)に対し駆動軸(1)が小角度逆転して同図(ロ)のように拡大翼(6)、(6)をロック爪(12)、(12)から離脱させると共に、同図(ロ’)のようにスライドキー(14)が補助キー溝(15)からキー溝(13)内に移動する。
【0023】
次に従動軸(3)下端を先掘り孔底面に接地した状態で、スクリューロッド(S)、それに伴い駆動軸(1)を押し下げると、従動軸(3)が相対的に上昇し、それにより同図(ハ)のようにまず、拡開作動部(9)が拡大翼(6)、(6)の無作動辺(10)、(10)を滑走しつつ上昇し、その間スライドキー(14)、(14)が同図(ハ’)のようにキー溝(13)の下半部内に進入し、駆動軸(1)から従動軸(3)への回転伝達可能の状態におく。
【0024】
ついで、スクリューロッド(S)、それに伴い駆動軸(1)を正転しつつスクリューロッド、駆動軸をさらに押し下げて拡開作動部(9)を拡開従動辺(11)、(11)に押しつけると、拡大翼(6)、(6)が正転しつつ拡開を開始し、同図(ニ)から(ホ)の最大拡開位置に至る。その間、スライドキー(14)、(14)は同図(ニ’)から(ホ’)のようにキー溝(13)の最下位まで進入する。
【0025】
上記の状態でスクリューロッド(S)及び拡大ヘッドを正転しつつ押し下げて拡大掘削を行いつつ固化液吐出口(19)からセメントミルクを吐出して同図(ヘ)のようにソイルセメント球根(W)を造成する。
【0026】
ソイルセメント硬化前に、中空杭(P)の下端部をソイルセメント球根内に圧入した後、スクリューロッド(S)、拡大ヘッドを逆転しつつ中空杭(P)内を経て地上に引き抜く。上記引き抜き時に拡大翼(6)、(6)は周囲の土圧により、最終的には中空杭(P)の下端に押圧されることにより閉縮する。
【0027】
本例では、さらに上記は図3(ニ)、(ホ)の行程において、拡大翼(6)、(6)の拡開回転と同時に、掘削羽根(16)つき従動軸(3)を正転させなければならないが、これを確実に行うため拡大翼(6)、(6)の拡開開始時にスライドキー(14)、(14)がキー溝(13)、(13)下半部に十分な長さ挿入するようにしてある。
【0028】
すなわち、
(1).キー溝(13)下半部の上下長さ(m)(図2(ニ))を、上記拡開作動部(9)が上記無作動辺(10)を経て拡大翼(6)を最大拡開位置に拡開させるまでの上昇距離(n)(図2(イ))と少くとも同長とし、
(2).一方、上記無作動辺(10)の長さは、キー溝(13)下半部に挿入するスライドキー(14)の挿入長さに相当するので、この無作動辺(10)の長さを、スライドキー(14)がその回転をキー溝(13)下半部に確実に伝達できるだけの挿入長に相当するものとしてある。
上記(1)、(2)の構成により、スライドキー(14)に損傷を受けることなく拡大翼(6)、(6)の拡開開始と同時に従動軸(3)の掘削羽根(16)による掘削を確実に行う。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(イ)本発明による拡大ヘッドの拡大翼閉縮状態の正面図である。(ロ)同上拡大翼拡開状態の一部省略正面図である。
【図2】(イ)図1(イ)の縦断面図である。(ロ)(イ)図のA−A線断面図である。(ハ)(イ)図のB−B線断面図である。(ニ)スライドキー及びキー溝の展開図である。
【図3】(イ)、(ロ)、(ハ)、(イ’)、(ロ’)、(ハ’)中空杭中掘り掘削機に使用した例による中空杭圧入、拡大掘削及び球根造成の各行程を示す断面図である。
【図4】(ニ)、(ホ)、(ヘ)、(ニ’)、(ホ’)上記各行程におけるスライドキー及びキー溝の作動を示す各展開図である。
【符号の説明】
【0030】
1 上部駆動軸
3 下部従動軸
6 拡大翼
12 ロック爪
13 キー溝
14 スライドキー
15 補助キー溝
16 掘削羽根




【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部に拡大翼を上下に拡縮揺動自在に軸支された上部駆動軸と、外周面に掘削ヘッドを突設された下部従動軸とを回転自在且つ軸方向摺動自在に嵌合してなるヘッドロッドにおいて、
上記駆動軸及び従動軸の一方にスライドキーを、他方に上記スライドキーが係合する上下方向のキー溝をそれぞれ設け、
上記従動軸が上記キー溝に沿って上昇するとき、上記拡大翼を押して拡開させ、降下したとき上記拡大翼を自重で閉縮可能におく位置関係にあり、
上記従動軸の外周面に、上記拡大翼を閉縮状態にロックするためのロック部材を突設し、上記駆動軸の従動軸に対する一方向への相対的小角度回転により上記閉縮状態にある拡大翼を上記ロック部材にロックさせ、他方向への相対的小角度回転により上記ロックから離脱させる関係にあり、
上記駆動軸が、上記キー溝に沿って上昇した位置で、上記従動軸に対する相対的小角度回転を行うことができるように、上記キー溝に、上記スライドキーの小角度回転を受け入れ且つ該スライドキーの上下移動を抑止する補助キー溝を連通状態に付加した、
拡大ヘッド。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−70914(P2007−70914A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260143(P2005−260143)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000201504)前田製管株式会社 (35)
【出願人】(000177416)三和機材株式会社 (144)
【出願人】(000229667)日本ヒューム株式会社 (70)
【Fターム(参考)】