説明

拡張管を応用した折畳式気管チューブ

【課題】
気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、十分に気道を確保することが可能な気管チューブを提供する。
【解決手段】
患者の呼吸に伴う気体を流通させる内管11と、内管11の外径より大きな管径を有する薄肉の外管12と、所定の接続部とを介して形成された第1の流体収納空間部15と、流体が流入することで拡張し患者の気管内壁に当接するカフ部14を有し、外管の外周面に沿って配設された薄肉の最外管13と、所定の接続部を介して形成された第2の流体収納空間部16と、第1の流体収納空間部15及び/又は第2の流体収納空間部16に流体を流入、流出させるための流体入出機構とを備えており、内管、外管、及び最外管は扁平状に折り畳まれた気管チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気管挿管時に使用される気管チューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
気管挿管とは、重症呼吸不全患者に対して十分な呼吸(気道)を確保するとともに、誤嚥を防止するために患者に対して施される気道確保法である。気管挿管は、その効果の高さから、近年、医師のみならず救急救命士による気管挿管が正式に認められるようになり、様々な医学的状況下において必要不可欠な医療技術となっている。
【0003】
このような気管挿管においては、例えば、図7に示される形態の気管チューブ100が多用されている。図7に示される気管チューブ100は、塩化ビニル等の折り曲げ可能な材質で形成された直径10mm程度で肉厚tが2mm程度のシャフト101と、シャフト101の後端側開口部に取り付けられたコネクタ106と、シャフト101の先端側の一端に設けられた膨張自在なカフ102と、カフ102に強制的に流体を供給するとともに、当該カフ102から流体を強制的に排出させるための流体供給排出部105とを備える。なお、流体供給排出部105は、一端がカフ102に接続されシャフト101に沿って配設された接続管103、及び当該接続管103の他端に接続される膨張表示器104を備えたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
気管挿管時には、施術者は気管チューブ100を患者の口腔から喉頭内にかけて挿入後、喉頭蓋を通過させ、シャフト101の先端側の一端に設けられたカフ102が気管内壁の一部分に当接するように膨張させる。すると、気管チューブ100は所定の気管内留置位置において留置される。そして、気管チューブ100と適当な人工呼吸器とをシャフト101の後端側開口部に取り付けられたコネクタ106を介して接続させることで、重症呼吸不全患者に対して呼吸が確保されることになる。
【0005】
ところで、本願出願人は、血管、気管あるいは消化管などの体内の管腔内の目的位置に留置するまでの操作が容易で、かつ、管路面積を大きくすることができ、さらに、接触する管内壁面に対する負荷を低減することができる挿入管について特許出願した(特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2記載の挿入管は、薄肉の内管と、この内管の外周面に沿って配置され前記内管の外径よりも大きな管径を有する薄肉の外管と、この外管の内周面と前記内管の外周面との間に設けられ流体を収納する流体収納空間部と、この流体収納空間部に接続管を介して前記流体を流入、流出させるための流体入出機構とを備え、前記流体収納空間部は、前記外管の先端および後端を前記内管の円周方向に連続的に接続する端部接続部と、前記内管の外周面および前記外管の内周面を間欠的に接続する間欠接続部を介して形成されるものである。
【0007】
【特許文献1】特開2000−167060号公報
【特許文献2】特開2005−253804号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されるような従来の気管チューブ100においては、上記のように一定の厚みを有するシャフト101の先端側の一端に膨張自在なカフ102が設けられた構成となっている。したがって、施術者が開口した口腔から喉頭内にかけて気管チューブ100を挿入する際、シャフト101または収縮状態のカフ102によって口腔内の視界が遮られてしまうため、気管挿管時の操作性が悪く、また、誤って当該気管チューブ100を食道側に挿管してしまうといった危険性があった。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、十分に気道を確保することが可能な気管チューブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者等は鋭意研究を行った結果、特許文献2において開示された発明である挿入管を応用し、当該挿入管にかかる構造、製造方法、折り畳み形式等を精査することにより、本発明の折畳式気管チューブの完成に至った。
【0011】
即ち、本発明にかかる折畳式気管チューブは、患者の呼吸に伴う気体を流通させる内径を有する薄肉の内管と、内管の外周面に沿って配設され内管の外径より大きな管径を有する薄肉の外管と、外管の内周面と内管の外周面との間に配設され、外管の先端及び後端を内管の円周方向に連続的に接続する第1の端部接続部と内管の外周面及び外管の内周面を間欠的に接続する間欠接続部とを介して形成された第1の流体収納空間部と、流体が流入することで拡張し患者の気管内壁に当接するカフ部を有し、外管の外周面に沿って配設された薄肉の最外管と、最外管の内周面と外管の外周面との間に配設され、最外管の先端及び後端を外管の円周方向に連続的に接続する第2の端部接続部を介して形成された第2の流体収納空間と、第1の流体収納空間部及び/又は第2の流体収納空間に流体を流入、流出させるための流体入出機構とを備え、内管、外管、及び最外管は扁平状に折り畳まれた構成とする。
【0012】
本発明の折畳式気管チューブは、内管、外管、及び最外管が扁平状に折畳まれた状態で口腔内に挿入される。つまり、気管挿管時において、口腔内の視界が妨げられることを最小限に抑えることができるとともに、折畳式気管チューブの口腔から喉頭内にかけての狭小部の通過が容易となり、気管挿管の操作性を高めることができる。そして、カフ部が喉頭蓋、声門を通過し、所定の気管内留置位置に到達すると、流体入出機構から、例えば、空気等の流体が第2の流体収納空間に強制的に送りこまれる。すると、折畳まれた状態の最外管が拡張されることで円管が形成されると同時に、最外管に設けられたカフ部は気管内壁に所定の圧力を持って当接するまで拡張する。カフ部が気管内壁を緩やかに押圧した状態で当接することにより、折畳式気管チューブは気管内の所定の留置位置に留置されることになる。次に、流体流入機構から、流体が第1の流体収納空間に強制的に送りこまれることにより、内管が拡張される。内管が拡張すると、最外管の拡張により形成された円管の剛性が高められその形状が保持されるとともに、患者の呼吸に伴う気体を流通させる流路が形成され、確実に患者の気道を確保することができる。
【0013】
また、本発明にかかる折畳式気管チューブにおいて、内管、外管、及び最外管は管の円心方向側に対し折り込まれることで扁平状に折畳まれる構成とする。
【0014】
折畳式気管チューブの内管、外管、及び最外管は、管の円心方向側に対し折り込まれることで扁平状に折畳まれているため、最外管の拡張に伴い、最外管の折畳み位置周縁の対峙する外周面同士はお互いに押圧することになる。この押圧力に対して発生する反発力により、折畳式気管チューブは内管、外管、及び最外管が単に扁平状に折畳まれた状態よりも確実に拡張することができる。
【0015】
さらに、本発明にかかる折畳式気管チューブにおいて、折畳まれた際の最外管の外周面は第1の流体収納空間部及び/又は第2の流体収納空間部から流体を流出させるか、生体適合性を有する接着手段を介して仮止めされる構成としてもよい。このように構成することにより、折畳式気管チューブの折畳形状が確実に保持され、気管挿管時において、口腔内の視界が妨げられることを最小限に抑えることができるとともに、折畳式気管チューブの口腔から喉頭内にかけての狭小部の通過が容易となり、気管挿管の操作性を高めることができる。
【0016】
さらにまた、本発明にかかる折畳式気管チューブにおいて、第1の端部接続部、第2の端部接続部、及び間欠接続部は溶着により形成される構成とする。このように構成することにより、折畳式気管チューブの製造において、接続部に新たな部材を介入させる必要がなく、部品点数を少なくすることができる。
【0017】
また、本発明にかかる折畳式気管チューブにおいて、間欠接続部は内管の周方向に対して少なくとも6点以上の溶着点数を有する構成とする。このように構成することにより、内管の拡張に伴う流路の狭小を押えることが可能となり、折畳式気管チューブの小径化を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の折畳式気管チューブによれば、気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、十分に気道を確保することが可能な気管チューブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0020】
図1(A)は、本発明にかかる折畳式気管チューブ10の拡張前の状態を説明する概略外面図であり、図1(B)は折畳式気管チューブ10の拡張後の状態を説明する概略外面図である。また、図2は、折畳式気管チューブ10の一部を破断して模式的に示す斜視図である。
【0021】
図1、図2に示すように、折畳式気管チューブ10は、生体適合性のある合成樹脂製で薄肉に形成された内管11、外管12と、内管11と外管12との間に間欠接続部20、及び第1の端部接続部21、21’を介して形成された第1の流体収納空間部15と、流体が流入することで拡張し患者の気管内壁に当接するカフ部14を有し、内管11、外管12と同様に生体適合性のある合成樹脂製で薄肉に形成された最外管13と、外管12と最外管13との間に第2の端部接続部22、22’を介して形成された第2の流体収納空間部16と、第1の流体収納空間部15及び/又は第2の流体収納空間部16に流体を強制的に供給、排出する流体入出機構17、17’とを備える。
【0022】
薄肉の内管11、外管12、最外管13、及びカフ部14には、流体としての空気の充填圧力に耐えうる材質強度、溶着時に孔が空かない熱溶着性、折畳み可能な柔軟性、臨床応用に適用可能な生体適合性を示す材質が選ばれる。特にカフ部14は気管と直接当接するため、内管11、外管12、及び最外管13よりも高い柔軟性を有する材質から形成される。本実施形態においては、薄肉の内管11、外管12、及び最外管13を形成するために、一例として合成樹脂シートを使用して内管11、外管12、及びカフ部14以外の最外管13を形成して折畳式気管チューブ10とした。一方、最外管13の一部分に形成されるカフ部14には、内管11、外管12、及び最外管13の形成に使用した合成樹脂シートよりも柔軟性が高い合成樹脂シートを使用している。なお、これらの管の製造において、シートよりも薄いものをフィルムとし、フィルムをラミネートしてシート状に形成して使用しても構わない。さらに、予め筒状に形成した薄肉管を内管11、外管12、及び最外管13として使用しても構わない。また、内管11、外管12、及び最外管13は、円筒形状でなくともよく、外形形状、内形形状を限定されるものではない。ここでは、内管11、外管12、及び最外管13の厚みは、例えば、10μm〜1mmの範囲のものを使用した。
【0023】
内管11は、予め設定された内径を有する筒状に形成されており、例えば、厚みを数十μmとしたナイロン系(ポリアミド系)、ポリエステル系、ポリオレフィン系あるいはそれらの少なくとも1種以上をラミネートしたラミネートフィルム等の気管内に使用した際に影響が少ない、すでに公知の材質により構成されている。
【0024】
外管12は、予め設定された内管11の外径よりも大きく形成された内径を有する筒状に形成されており、内管11と同様に厚みを数十μmとしたナイロン系(ポリアミド系)、ポリエステル系、ポリオレフィン系あるいはそれらの少なくとも1種以上をラミネートしたラミネートフィル等の材質により構成されている。この外管12は、内管11と同様な材質である必要は特にはないが、熱溶着により内管11の外周面と外管12の内周面とが接続して所定の接続強度を有する材質であることが好ましい。そして、外管12と内管11とは、長手方向における寸法が同じか、又は外管12が短くなるように形成されており、両管は第1の流体収納空間部15が形成できる間隔となるよう配置されている。また、両管の間には、流体入出機構17を構成する接続管18が接続可能となるように接続口12aが形成されている。この接続口12aは、接続管18の一端側の外周に対して気密となるように接続され、供給される流体が漏れないように構成されている。
【0025】
第1の流体収納空間部15は、内管11の外周面と外管12の内周面とを間欠的に接続する複数の間欠接続部20と内管11と外管12との対面する両端部分をその周面方向に連続して接続する後述する第1の端部接続部21、21’とを介し、内管11と外管12との間に形成されており、供給された流体が漏れないように形成されている。
【0026】
間欠接続部20は、例えば、内管11、外管12に用いる合成樹脂シートの厚みを45μmとし、展開した際のシートサイズを60mm×270mmとした場合、内管11、外管12における設置間隔は、それぞれ内管11:6mm、外管12:9mmとなるように間隔をあけて設定される。さらに、間欠接続部20の設置間隔は、好ましくは内管4mm、外管6mmと、設置間隔がより狭くなるほど好適である。また、内管11、外管12の周方向における設置点数は、少なくとも6点以上、好ましくは8点以上となるように設定する。このように、間欠接続部20の設置間隔と設置点数とを適切に設定することにより、第1の流体収納空間部15に流体が供給された際に、適切な拡張状態として内管11の流路が確保されるとともに、外管12が中心から半径方向に向かって適切に拡張することができる。さらに、間欠接続部20の設置間隔を狭くし、管の周方向における設置点数を多くすることにより、内管11の流路の狭小を抑えることができ、折畳式気管チューブ10の小径化を図ることができる。
【0027】
また、間欠接続部20は、熱溶着させる場合、あるいは接着剤を用いて接着させる場合により異なるが、ここではその接続面形状が、例えば、正方形、丸形、楕円等になるように超音波溶着器を使用した。間欠接続部20は、第1の流体収納空間部15内に収納された流体が所定温度において所定の荷重が付加された状態においても、漏れでないものであれば、特にその接続面積、接続手段等について限定されるものではない。さらに、折畳式気管チューブ10において、接着剤を使用する場合には、生体適合性の優れた医療用のものが使用でき、例えば、高分子量ポリエステル系の接着剤(バイロン(登録商標)、商品名、東洋紡株式会社製、主成分:ポリブチレンテレフタレート、溶剤:トルエンとメチルエチルケトンとの混合液)、エポキシ樹脂、シアノアクリレート系接着剤(溶剤)等を使用することができる。
【0028】
第1の端部接続部21、21’は、例えば、内管11及び外管12の両端部分の長さを同じとした場合、所定の幅間隔を円周方向に連続して接続することにより形成され、第1の流体収納空間部15内に収納された流体が所定温度において所定の荷重が付加された状態においても、漏れでないものであればよい。そのため、第1の端部接続部21、21’の接続手段は、人体に悪影響がない接着剤による接着や、溶着であってよい。なお、流体入出機構17の接続管18の接続を行うための接続口12aを後方となる第1の端部接続部20’側に形成しても構わない。
【0029】
以上のように間欠接続部20、及び第1の端部接続部21、21’を形成することで、第1の流体収納空間部15は、所定の温度において所定の荷重が付加された状態で、流体入出機構17により流体が強制的に供給された場合においても、収納された流体が漏れ出ることがなく、かつ、拡張したときの縮小率が所定値(例えば、85%)以上であるように構成される。
【0030】
最外管13は、予め設定された外管12の外径よりも大きく形成された内径を有する筒状に形成されており、外管12と同様に厚みを数十μmとしたナイロン系(ポリアミド系)、ポリエステル系、ポリオレフィン系あるいはそれらの少なくとも1種以上をラミネートしたラミネートフィル等の材質により構成されている。この最外管13は、外管12と同様な材質である必要は特にはないが、熱溶着により外管12の外周面と最外管13の内周面とが接続して所定の接続強度を有する材質であることが好ましい。そして、最外管13には、カフ端部接続部14a、14bを介してカフ部14が形成されるため、カフ部14の寸法を考慮してその寸法が決定される。また、最外管13と外管12とは、第2の流体収納空間部16が形成できる間隔となるように配置されている。また、両管の間には、流体入出機構17’を構成する接続管18’が接続可能となるように接続口13aが形成されている。この接続口13aは、接続管18’の一端側の外周に対して気密となるように接続され、供給される流体が漏れないように構成されている。
【0031】
カフ部14は、予め設定された内径を有する筒状に形成されており、例えば、厚さを数十μmとしたポリエチレン系、PVC系、シリコン系あるいはそれらの少なくとも1種以上をラミネートしたラミネートフィルム等の内管11、外管12、及びカフ部14以外を構成する最外管13よりも柔軟性が高く、気管内に使用した際に影響が少ない、すでに公知の材質により構成されている。また、カフ部14は、カフ端部接続部14a、14bを介して所定の幅間隔を最外管13の円周方向に連続して接続される。カフ端部接続部14a、14bの接続手段は、特には限定されないが、人体に悪影響がない接着剤による接着や、溶着であってもよい。
【0032】
第2の流体収納空間部16は、外管12と最外管13との対面する両端部分をその周面方向に連続して接続する第2の端部接続部22、22’とを介し、外管12と最外管13との間に形成されており、供給された流体が漏れないように形成されている。
【0033】
流体入出機構17、17’は、外管12と内管11との間、及び最外管13と外管12との間にその一端の開口を設置するように設けられた接続管18、18’と、この接続管18、18’の他端の開口に設けられ流体を供給、排出するための供給排出口部19、19’とを備える。この流体入出機構17、17’の供給排出口19、19’は、空気等の流体を供給排出手段A1、A1’を介して第1の流体収納空間部15、及び第2の流体収納空間部16に強制的に流体を供給、排出させる場合に、その流体が供給排出口部19、19’の位置で制御できるように図示せぬ逆止弁等を備える。
【0034】
次に、図3を参照して、本発明にかかる折畳式気管チューブ10の製造工程の一例について説明する。図3(A)〜(E)は、折畳式気管チューブ10の製造工程を模式的に示す斜視図である。
【0035】
図3(A)に示すように、第1工程では、内管11、外管12として所定の寸法のナイロンとポリエチレンとをラミネート加工したシート(商品名、ユニチカ株式会社(登録商標)製、ON−15/FCS−30、厚み:45μm)を管状にし、それぞれのシートの長手方向の所定幅を超音波ミニウェルダー等の溶着手段により線状溶着し、内管11、外管12をそれぞれ作成する(図3(B))。なお、外管12となるシートの寸法は、内管11となるシートよりも管状にした場合にその円周が内管11の円周よりも長くなるように設定されている。また、外管12となるシートの長手方向長さは、内管11となるシートの長手方向長さと同等か、あるいは長くなるように設定されている。
【0036】
次に、図3(C)に示す第2工程のように、内管11を外管12に挿入し、超音波溶着機等の溶着手段により間欠的に接着させて間欠接続部20を複数形成する。間欠接続部20における溶着間隔及び溶着点数は、製造する折畳式気管チューブ10の内管11、外管12から成る円管Fの管径に基づき任意に設定することができる。例えば、溶着幅が1mm(溶着ホーン形状:1mm×2mmの矩形状)の超音波溶着機ホーンを使用し、溶着間隔を円管の長手方向に対して内管11:6mm、外管12:9mmとし、溶着点数を円管の周方向に対して6点とした場合、内径10mm、外径15mmの円管Fを作成することができる。同様に、溶着間隔を内管11:4mm、外管12:6mmとし、溶着点数を円管の周方向に対して6点とした場合、内径10mm、外径13mの円管Fが作成でき、さらに、溶着間隔を内管11:4mm、外管12:6mmとし、溶着点数を円管の周方向に対して8点とした場合、内径6.5mm、外径10.5mmの円管Fを作成することができる。
【0037】
そして、内管11の前側の端部(先端部)の所定幅における円周位置と、外管12の前側の端部(先端部)の所定幅における円周位置とが連続して円周方向に溶着され接続されることで第1の端部接続部21が形成されるとともに、同様にして内管11の後側の端部(後端部)の所定幅における円周位置と、外管12の後側の端部(後端部)の所定幅における円周位置とが連続して円周方向に溶着され接続されることで端部接続部21’が形成される。これと同時に接続管18の供給排出口19が、例えば、シリコンチューブを気密に装着することで形成される。
【0038】
次に、図3(D)に示す第3工程では、カフ部14として所定の寸法のポリエチレンシートを管状にし、シートの長手方向の所定幅を超音波ミニウェルダー等の溶着手段により線状溶着する。そして、ポリエチレンの熱収縮性を利用し、例えば、ホットエアガン等の熱供給手段により、カフ部14の端部の外径が最外管13の外径となるまで収縮させる。そして、内管11又は外管12と同じ材質のシートで形成された最外管13b、13cと熱収縮により端部を収縮させたカフ部14とを円周方向に溶着して接続することでカフ端部接続部14a、14bが形成される。なお、このときの最外管13の内径は、内管11、外管12から成る円管Fの管径よりも大きくなるように設定される。
【0039】
そして、図3(E)に示す第4工程のように、円管Fを最外管13に挿入し、円管Fの前側の端部(先端部)の所定幅における円周位置と、最外管13の前側の端部(先端部)の所定幅における円周位置とが連続して円周方向に溶着され接続されることで第2の端部接続部22が形成されるとともに、同様にして円管Fの後側の端部(後端部)の所定幅における円周位置と、最外管13の後側の端部(後端部)の所定幅における円周位置とが連続して円周方向に溶着され接続されることで第2の端部接続部22’ が形成される。これと同時に接続管18’の供給排出口19’が、例えば、シリコンチューブを気密に装着することで形成される。
【0040】
次に、上記構成の折畳式気管チューブ10を気管に挿入する場合について説明する。折畳式気管チューブ10を気管に挿入する場合には、図4(A)に示すように、折畳式気管チューブ10を扁平状に折畳むか、若しくは図4(B)に示すように、管の円心方向に対して折り込み扁平状に折畳むことで気管に挿入することができる。前述したように、図4(B)に示した折畳形式によれば、最外管13の拡張に伴い、最外管13の折畳み位置周縁の対峙する外周面同士はお互いに押圧することになる。この押圧力に対して発生する反発力により、折畳式気管チューブは内管11、外管12、及び最外管13が単に扁平状に折畳まれた状態よりも確実に拡張することができる。折畳み時には流体入出機構17、17’により第1の流体収納空間部15及び第2の流体収納空間部16内の流体を陰圧により強制的に抜き、折畳式気管チューブ10の厚みを極小にすることで、扁平化することが可能である。なお、このとき、この折畳まれた状態を維持するために、生体適合性の接着剤(例えば、フィブリン等)により最外管13の折畳位置周縁の対峙する外周面同士を仮止めしておいてもよい。
【0041】
そして、図4に示した何れかの形式により折畳まれた折畳式気管チューブ10の気管への挿入方法について図5及び図6を用いて説明する。図5に示すように、例えば、扁平状に折畳まれた折畳式気管チューブ10を気管に挿入する場合、まず、扁平状に折畳まれた折畳式気管チューブ10内(内管11内)に一端側が鋭頭形状のスタイレット23が挿入される。気管挿管の前段階では、流体入出機構17、17’から流体が供給されていないため、折畳式気管チューブ10は収縮状態にあり剛性を有さない。この状態において、折畳式気管チューブ10を気管に挿入するためには、スタイレット23を折畳式気管チューブ10内に挿入し、ある程度の剛性を付与する必要がある。なお、スタイレット23の気管への挿入方向一端側は鋭頭形状に形成されているため、声門の隙間をぬって折畳式気管チューブ10を挿入することができる。
【0042】
まず、図6(A)に示すように、施術者はスタイレット23を内包した折畳式気管チューブ10を患者の口腔から喉頭内にかけて挿入して送り込む。
【0043】
そして、施術者は喉頭蓋Gの位置において、折畳式気管チューブ10の先端が食道側に入り込まないように注意して目視にて気管側に折畳式気管チューブ10を送り込んで行く(図6(B))。なお、このとき、折畳式気管チューブ10は扁平状に折畳まれているため、施術者が操作する上で視界を妨げな最小限の状態で挿入作業を行うことができ安全性に優れているとともに、操作性においても優れている。
【0044】
図6(C)に示すように、折畳式気管チューブ10の先端が声門Hを通過し、所定の留置位置に到達すると、施術者は流体入出機構17、17’から、供給排出手段A1、A1’であるシリンジを介して強制的に流体である空気を注入する。このとき、まず、供給排出手段A1’であるシリンジから空気が注入される。すると、折畳まれた状態の最外管13が拡張されることで円管が形成されると同時に、最外管13に設けられたカフ部14は気管内壁に所定の圧力を持って当接するまで拡張する。カフ部14が気管内壁を緩やかに押圧した状態で当接することにより、折畳式気管チューブ10は気管内の所定の留置位置に留置されることになる。次に、供給排出手段A1であるシリンジから空気が注入されると、内管11が拡張される。内管11が拡張すると、最外管13の拡張により形成された円管の剛性が高められその形状が保持されるとともに、患者の呼吸に伴う気体を流通させる流路が形成され、確実に患者の気道を確保することができる。
【0045】
また、上述した折畳式気管チューブ10の気管への挿入は、例えば、ブレードに折畳式気管チューブ10用のガイド溝を備えた喉頭鏡30を用いても行うことができる(図6(D))。このとき、喉頭鏡30のブレードを喉頭蓋Gに挿入し、喉頭鏡30のグリップに形成された把持部を施術者が持ち上げることにより、声門Hを容易に確認することができる。そして、上記した操作手順に基づき折畳式気管チューブ10を所定の留置位置に留置させることができる。
【0046】
以上のように、本発明の実施形態にかかる折畳式気管チューブによれば、気管挿管の操作性を高め、気管挿管時に口腔から喉頭内にかけての視界を確保することができ、誤って食道側に挿管されることを防止するとともに、十分に気道を確保することが可能な気管チューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】折畳式気管チューブ10を説明するための概略外観図である。
【図2】折畳式気管チューブ10の一部を破断して模式的に示した図である。
【図3】折畳式気管チューブ10の製造工程の一例を説明する図である。
【図4】折畳式気管チューブ10の折畳方式を説明する図である。
【図5】折畳式気管チューブ10の気管への挿入方法を説明する図である。
【図6】折畳式気管チューブ10の気管への挿入方法を説明する図である。
【図7】従来の気管チューブを説明する図である。
【符号の説明】
【0048】
10 折畳式気管チューブ
11 内管
12 外管
12a 接続口
13 最外管
13a 接続口
14 カフ部
14a、14b カフ部接続部
15 第1の流体収納空間
16 第2の流体収納空間
17、17’ 流体入出機構
18、18’ 接続管
19、19’ 供給排出口部
20 間欠接続部
21、21’ 第1の断部接続部
22、22’ 第2の端部接続部
23 スタイレット
30 喉頭鏡
F 円管
G 喉頭蓋
H 声門

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の呼吸に伴う気体を流通させる内径を有する薄肉の内管と、
前記内管の外周面に沿って配設され前記内管の外径より大きな管径を有する薄肉の外管と、
前記外管の内周面と前記内管の外周面との間に配設され、前記外管の先端及び後端を前記内管の円周方向に連続的に接続する第1の端部接続部と前記内管の外周面及び前記外管の内周面を間欠的に接続する間欠接続部とを介して形成された第1の流体収納空間部と、
流体が流入することで拡張し前記患者の気管内壁に当接するカフ部を有し、前記外管の外周面に沿って配設された薄肉の最外管と、
前記最外管の内周面と前記外管の外周面との間に配設され、前記最外管の先端及び後端を前記外管の円周方向に連続的に接続する第2の端部接続部を介して形成された第2の流体収納空間部と、
前記第1の流体収納空間部及び/又は前記第2の流体収納空間部に前記流体を流入、流出させるための流体入出機構とを備え、
前記内管、前記外管、及び前記最外管は扁平状に折り畳まれることを特徴とする折畳式気管チューブ。
【請求項2】
前記内管、前記外管、及び前記最外管は管の円心方向側に対し折り込まれることで扁平状に折畳まれることを特徴とする請求項1記載の折畳式気管チューブ。
【請求項3】
折り畳まれた際の前記最外管の外周面は前記第1の流体収納空間部及び/又は前記第2の流体収納空間部から前記流体を流出させるか、あるいは生体適合性を有する接着手段を介して仮止めされることを特徴とする請求項1又は2記載の折畳式気管チューブ。
【請求項4】
前記第1の端部接続部、前記第2の端部接続部、及び前記間欠接続部は溶着により形成されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の折畳式気管チューブ。
【請求項5】
前記間欠接続部は前記内管の周方向に対して少なくとも6点以上の溶着点数を有することを特徴とする請求項4記載の折畳式気管チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−12174(P2010−12174A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177239(P2008−177239)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】