説明

拡散制御変性された白金族ボンドコート

【課題】 高温に付される部品での使用に適した被覆法及び皮膜系を提供する。
【解決手段】 変性白金族金属(PGM)皮膜82組成物は、白金族材料に富む、固溶体面心立方(fcc)結晶構造をもつ相を含む。基材84材料の化学組成及び化学的活性に基づいて、白金族金属皮膜材料を変性して有効な結果を得た。白金族金属皮膜材料は、超合金基材の元素、即ちニッケル(Ni)及びコバルト(Co)を固溶体状態で含有するように変性した。基材材料によっては、変性白金族金属皮膜材料は、NiやCoを含有しなくてもよいが、基材の化学組成に一致する別の元素を適当量含有するように変性する。変性白金金属皮膜材料はアルミニウム(Al)も含有する。本皮膜組成物はfcc相マトリックス中に孤立した第2相を少量含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆積された実質的に固溶体の白金族金属皮膜、特に白金族金属に富み、母材金属基材の元素も含有し、皮膜と基材間の相互拡散を抑制する白金族金属皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンドコートは、ガスタービンエンジンで使用する基材母材金属上に設けられる。これらのボンドコートは、様々な目的で形成され、その組成は目的に応じて異なる。航空機エンジンの高熱区分、即ちタービン部分に位置する部品に使用する場合、ボンドコートは、環境保護のために用いられ、また遮熱コーティング(TBC)形成用の表面として、部品へのTBCの密着を強化するために用いられる。
【0003】
多種多様なボンドコートが考案されているが、ほとんどの場合、組成、微細組織、形成法又は機械的特徴が微妙に異なるだけである。これらのボンドコートに共通した問題として、被覆した遮熱コーティングが部品表面から剥離(スポーリング)する傾向がある。剥離は様々な理由で起こる。例えば、1つの問題として、複合基材化学、代表的には超合金材料からボンドコートへの硫黄の悪影響、即ち硫黄が被覆したTBCの早期剥離に関連していることが確認されている。多くの問題が確認され、様々な解決策が提案されているが、解決すべき喫緊の問題は、航空機エンジンなどのガスタービンエンジンのタービン区分内の高熱な環境的に有害な環境でタービン部品上にTBCを保持することである。
【0004】
タービン運転時の高温で、複合基材化学、代表的には超合金材料から元素がボンドコート中に拡散する結果として、基材とボンドコート両方の化学的性質が変化することが問題となっている。これらの皮膜は、大抵は、白金類金属を含有する変性種を含む拡散アルミナイド並びにNiAlCrZr及びMCrAlY(MはNi、Co及びFeの少なくとも1つである)のようなオーバーレイアルミナイドなどの含アルミニウム材料である。これらの皮膜は、表面に生成するアルミナ、即ち酸化アルミニウム(Al)の優れた耐環境性を利用するように設計されている。しかし、このような耐環境性皮膜の能力は、通常、有効元素、代表的にはアルミニウムの欠乏、即ち剥離の起こる表面での継続的な酸化及び基材中へのアルミニウムの拡散によるアルミニウムの欠乏により限定される。しかし、基材中へのアルミニウムの拡散は、新開発の超合金に有害な二次反応帯域(SRZ;secondary reaction zone)を形成する恐れもある。TBC用のボンドコートとしての皮膜の能力は、TBCと耐環境性ボンドコート間の熱成長拡散層の厚膜化及び熱による応力での剥離によっても限定される。
【0005】
この問題への解決策は、超合金基材とボンドコート間に拡散障壁層を形成したり、拡散障壁層の有無にかかわらず母材金属上に白金族金属(PGM)ボンドコートを設けることである。ボンドコートと超合金基材の化学組成が著しく異なるので、運転時の高温で超合金基材と金属ボンドコート間の拡散の推進力(活性化エネルギー)は非常に大きく、したがって、この解決策は、一方から他方への元素の拡散を防止するか有意に低減しなければならない。本出願人に譲渡されたゴーマンらの米国特許第6933052号(2005年8月23日発行)は、このような解決策の一例であり、ボンドコートと基材間に拡散障壁を用いて、基材からボンドコートへ元素が拡散するのを抑制する。拡散障壁は、基材とボンドコート間及びボンドコートの上側の非金属酸化物又は窒化物の介在物であり、ボンドコートと基材間での元素の拡散を抑制する。超合金基材又はボンドコートから拡散障壁を通って元素が拡散するのを有意に低減する。PGM系皮膜を使用する場合、これらの解決策の限定要因の1つは、酸素が拡散し続け、下側の母材金属と拡散障壁層の一方又は両方を酸化することである。しかも、超合金基材又はボンドコートを構成する他の元素の拡散を低減しても、酸素の拡散は続く。
【0006】
拡散障壁を使用しない場合、PGM系ボンドコートと基材間の急速な相互拡散からの広範囲のカーケンドール(Kirkendall)ボイド形成が起こることによって別の限定要因が生まれる。著しいカーケンドールボイドの合体は、上側の保護ボンドコートの剥離をもたらし、基材材料を無保護の状態にする恐れがある。これまで利用されてきた拡散障壁は、基材との密着に決定的な限界があったり、酸素の進入又は皮膜の破損に耐えることができない不十分な耐環境性を示す。
【特許文献1】米国特許第6933052号明細書
【特許文献2】米国特許第7011894号明細書
【特許文献3】米国特許第6974636号明細書
【特許文献4】米国特許第6969558号明細書
【特許文献5】米国特許第6933062号明細書
【特許文献6】米国特許第6921586号明細書
【特許文献7】米国特許第6881452号明細書
【特許文献8】米国特許第6458473号明細書
【特許文献9】米国特許第6168874号明細書
【特許文献10】米国特許第5942337号明細書
【特許文献11】米国特許第5856027号明細書
【特許文献12】欧州特許出願公開第0905281号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ボンドコートと超合金基材間の拡散を抑制するように設計されているが、従来とは異なるアプローチをとっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ボンドコートとして変性白金族金属を用いて、耐環境性ボンドコートと超合金基材間の拡散を抑制する。拡散を抑制することにより、基材と皮膜間の有効元素の欠乏を低減できる。これは、結果として、皮膜の剥離、熱成長拡散層の厚膜化及び有害なSRZの形成を抑制する。白金族金属皮膜材料は超合金基材の元素を固溶体状態で含有するように変性した。タービンエンジンの高熱タービン区分で使用するほとんどの超合金基材は、耐熱性超合金を用いるので、本発明の白金族金属皮膜材料はニッケル(Ni)及び/又はコバルト(Co)を含有するように変性した。しかし、以下の説明から明らかになるように、白金族金属皮膜材料は、基材材料の化学組成及び化学的活性に基づいて変性して有効な結果を得た。したがって、基材材料に応じて、変性白金族金属皮膜材料は、NiやCoを含有しなくてもよいが、基材の化学組成に一致する別の元素を適当量含有するように変性すればよい。白金金属皮膜材料はアルミニウム(Al)を含有するようにも変性した。なぜなら、この元素が耐熱性超合金組成基材に含有され、またこの元素が高温環境保護を発揮するのに重要であるからである。アルミニウムは、白金金属皮膜が耐環境性皮膜である場合、この皮膜の表面でのアルミナリッチ熱成長酸化物の形成に寄与し、或いは遮熱コーティングを白金金属皮膜の上に設ける場合、ボンドコートと遮熱コーティングの界面としてのアルミナリッチ熱成長酸化物の形成に寄与する。
【0009】
変性白金族金属皮膜組成物は、固溶体として適用できるように開発した。したがって形成後の皮膜が、面心立方(fcc)結晶構造(γ相材料ともいう)をもち、白金族材料に富む相を含む。自由エネルギーを考えると、若干の金属間化合物が必然的に形成されるので、皮膜組成物はfcc相マトリックス中に孤立した第2相を少量含有することがある。さらに、皮膜材料は望ましい耐環境性の一部をアルミニウムから得ているので、ボンドコートの表面に、高熱ガス環境又はTBCのような次のオーバーコートとの境界で若干の酸化アルミニウム(Al)が形成する。アルミナは熱成長するが、皮膜が元素の拡散を抑制しており、熱膨張がボンドコートとほとんど一致するので、この酸化物はより密着性になる。
【0010】
本発明の最も広い実施形態は、形成後の皮膜において、基材からの重要元素を含有するfcc相固溶体白金族合金の存在を想定しているが、ガスタービンエンジンで用いるような超合金に使用する本発明の1実施形態は、原子%で表して、Ni約10〜45原子%、クロム(Cr)、Co、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)及びこれらの組合せから選択される元素約20原子%以下、ここでNiと上記の元素から選択される元素の合計量が約50原子%以下であり、アルミニウム約5〜30原子%、PGM元素残部、但し全量の約40原子%以上を含有する。さらに、少量の反応性元素、例えばZr、Hf、Y及び希土類元素を約2原子%以下含有することができる。希土類元素は、周期表で原子番号58〜71の元素であり、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuを含む。特記しない限り、皮膜組成は原子%で表す。
【0011】
剥離問題に対して提案されたアルミナイド及び拡散障壁を形成する他の解決策とは異なり、本発明は実質的に白金族金属のγ単相溶体を使用する。このγ相溶体は、原子%で表してかなり広い範囲の白金族材料を含有する。さらに、タービン区分の運転温度で、PtはAl及びNiの溶解度が高い。このγ相に他の元素もかなり広い範囲で添加することができる。なお、このγ相溶体は白金アルミニウム皮膜、白金アルミナイド、白金変性ニッケルアルミナイドなどとして同定されるβ相金属間化合物とは異なる。これらの皮膜は、典型的にはB2結晶構造をもつ(Pt,Ni)Alタイプのβ相金属間化合物構造である。このようなβ相金属間化合物は脆弱で、非常に狭い範囲の溶解度を有する。溶解度が小さいので、これらの金属間化合物は典型的には白金含量が少ない。
【0012】
本発明は、γ相固溶体合金であるので、脆弱でなく、さらに、耐環境能力を発揮しやすくするAlを含有する。アルミニウムが熱成長アルミナを形成し、この皮膜が拡散を阻止するように設計されているので、酸化アルミニウム層の成長は遅い。
【0013】
本発明の他の特徴及び利点は、具体例を挙げて本発明の原理を示した図面を参照した好ましい実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1はNi−Alの2元相図2を示す。ボンドコート及び耐環境性皮膜として使用するいわゆる白金アルミナイド皮膜の多くは、実際上、ニッケルを置換する白金の添加により変性した、β相ニッケルアルミナイド4である。このβ相は、約47〜60原子%(2元組成で)の範囲のアルミニウム溶解度をもつ金属間化合物である。このβ相NiAl金属間化合物は、それを構成する元素の溶解度に乏しく、性質上少し脆弱であるといったような金属間化合物の特徴をもつ。対照的に、本発明は、高いPGM含量の皮膜であり、皮膜に添加する元素の量は皮膜を設ける下側基材からの元素に基づいているので限定される。ガスタービンエンジンで使用するこのような基材には、高い割合のNi及びAlを含有し、Crも含有する第2世代のニッケル基超合金がある。したがって、このような基材とともに使用する場合、本発明の皮膜もNi、Al及びCrを含有する。
【0015】
本発明は、Pt、Rh、Pd、Ir、Ru及びOsを含む白金族金属(PGM)を高い割合で含有する。図2はPt−Alの2元相図12を示す。γ相14は、約15原子%以下のAlを溶体状態で含有する白金リッチ固溶体相である。図3はPt−Niの2元相図22を示す。この相図は2つの元素が高温で実質的に全率固溶体であることを示す。PtをPd又はRhで置換しても同様な挙動が予想される。このような相図は、これらの元素が2元系でどのように相互作用するかを示す。しかし、本発明の皮膜はPt−Al−Niの3元図で考えるのがよい。
【0016】
図4はPt−Ni−Al系の3元組成図であり、このPt−Ni−Al系は白金を置換する白金族金属(例えばRh)及びNiを置換する元素(例えばCr)を含む。斜線領域は皮膜の好ましい組成を示す。この皮膜は、タービンエンジン高熱区分部品に使用するニッケル基超合金基材、例えばRene N5又はRene N6に適用する組成に処方されている。Rene N5は、周知のニッケル基超合金であり、重量%で、7.5%のCo、7%のCr、6.2%のAl、6.5%のTa、5%のW、3%のRe、1.5%のMo、0.15%のHf、0.05%のC、0.004%のB及び残部のNi及び不可避的不純物からなる公称組成をもつ。Rene N6は、別の周知の単結晶ニッケル基超合金であり、重量%で、約4.5%のクロム、約12.5%のコバルト、約5.7%タングステン、約7%のタンタル、約6.1%のアルミニウム、約6.2%のレニウム、約0.15%のハフニウム、約0.05%の炭素、約0.004%のホウ素及び残部の本質的にニッケルからなる公称組成をもち、さらに優れた耐環境性及び耐応力破断性を特徴とする。本発明の皮膜は高い割合の白金族金属を含有する。ここで用いる用語「白金族金属」は、Ptだけでなく、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)及びイリジウム(Ir)も含む。白金族金属成分は、皮膜組成の約40原子%以上かつ皮膜組成の約85原子%以下を構成し、(Pt+Rh)が白金族金属組成の約50原子%以上を構成する。これらの元素は耐酸化性、拡散率及び超合金基材との熱整合性を併せもつので好ましい。
【0017】
Niは、ニッケル基超合金中の主要元素であるので、皮膜組成に約10原子%〜約45原子%含有される。Niに加えて、皮膜組成に含有させることができる他の母材金属成分には、約20原子%以下の量のCr、Co、Ta、W、Re、Mo、Nb及びTiがある。しかし、NiとCr、Co、Ta、Re、W、Mo、Ru、Nb及びTiからなる群からの元素との合計量が約50原子%を超えるべきではない。
【0018】
Alは皮膜組成中に約5原子%〜約30原子%含有される。反応性元素を皮膜組成に約2原子%以下含有することもできる。これらの付加的な反応性元素は、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ランタン(La)及びこれらの組合せから選択される。
【0019】
拡散は、拡散元素の化学ポテンシャルの勾配によって推進される温度活性化現象である。従来の適用例では、β相金属間化合物は、それを堆積するニッケル基超合金基材と比較して比較的高濃度(約50原子%)のアルミニウムを含有する。例えば、Rene N6は、約5〜7重量%のAlを含有し、好ましくは約5.7重量%のAlを含有する。拡散の元になる推進力は、母材金属基材のアルミニウム含量と比較して、β相金属間化合物皮膜中の高いアルミニウム含量である。急速に拡散する元素であるAlは、基材と皮膜間で平衡に達するよう付勢される。Alはまた、皮膜表面に向かって外側に移動し、酸化物保護層を形成する。結果として、皮膜表面と基材中へのアルミニウムの拡散があり、前者ではアルミナ保護層が形成され、後者では、余分なアルミニウム濃度が、SRZ感受性材料中に二次反応帯域(SRZ)を形成する恐れがある。なお、SRZは基材の耐熱材料特性を劣化する恐れがある。
【0020】
白金族金属系ボンドコートはfccタイプの含Pt合金である。アルミニウム、クロムなどの付加的な元素がない場合、酸素がボンドコートを通って拡散して、その後母材金属又は拡散障壁層(使用する場合)の酸化をもたらす。図5に示したように剥離50がこの酸化物界面で起こることがある。
【0021】
図6は従来の白金族金属(PGM)系ボンドコートのカーケンドールボイドラインに沿った剥離不良を示す。ここで、基材とボンドコート間の元素の相互拡散が非常に速いので、カーケンドールボイドライン60が凝集して空孔となり、それが剥離の位置となった。
【0022】
本発明は、高い原子%の白金族金属を含有するだけでなく、母材金属中の元素も母材金属と皮膜間で元素が拡散する推進力を低減するのに十分な割合で含有する。したがって、基材材料、代表的には超合金とボンドコートとの相互拡散の程度及び速度が小さくなるので、カーケンドールボイド形成がなくなるか大幅に抑制され、剥離が起こらない。本発明の組成物は、耐環境性を示す固溶体γ相を形成し、またより典型的には、TBC(勿論任意であるが)のためのボンドコートとしても働く。
【0023】
図7は図4のPt−Ni−Al系の3元組成図であり、斜線領域は皮膜の最も好ましい組成を示す。この好ましい組成は、特にNi基超合金、例えばRene N5及びRene N6と使用するために開発したが、他の超合金、及びNb、Co、PGM及びMo基合金のような母材とともに使用するのにも適している。この好ましい実施形態では、白金族金属含量は約50原子%超えである。ここでも、白金族金属成分の約半分以上がPt+Rhである。この好ましい実施形態では、Niを約15〜35原子%の量含有し、付加的な母材金属成分を約10原子%以下含有する。アルミニウムを約10〜25原子%含有し、反応性元素を約2原子%以下含有することもできる。
【0024】
本発明の実質的にfccの変性PGM皮膜は基材上に5〜60μmの厚さに堆積する。皮膜厚さは、予想使用条件、例えば最高温度、その温度での時間及び基材と変性PGM皮膜間に拡散障壁を設けるか否かに応じて選択するが、厚さ15〜50μmを用いるのが好ましい。皮膜を設けるにはどのような堆積方法を使用してもよい。これらにはスパッタリング、イオンプラズマ堆積及びEB−PVDなどの物理蒸着(PVD)法がある。別の製造法としては、エントラップメント電気メッキ法又は溶射とそれに続く適当な熱処理を用いることができる。他の製造法としては、電気メッキによりPt及び/又はRhを代表的には5〜20μmの厚さに堆積した後、適当な熱処理を施すことが考えられる。熱処理は、代表的には約1600〜2100oFの範囲で約2時間行うのが適当である。このような熱処理は、元素を相互拡散させるだけでなく、基材への結合を強化し、応力を低減する。この次にイオンプラズマ堆積(陰極アークともいう)などのPVD法により他の成分を約5〜10μmの厚さに堆積し、その後に適当な熱処理を施し、皮膜を完成する。付着皮膜は複数の成分元素を順次堆積したものでも同時に堆積したものでもよい。本発明の組成物は、組成物中のAl及びNiがβ相(Pt)NiAlを形成するのに不十分であるので、実質的にPGMリッチfcc単相の皮膜を形成する。しかし、全体の組成によっては、ロジウムアルミナイドの形成が可能である。この状況では、皮膜は2つの相を有し、主相はfcc相であり、B2構造を有するRhアルミナイドがこの主fcc相中に分布する。
【0025】
所望に応じて、TBCのトップコートを変性PGM皮膜上に設けることができる。断熱材料、代表的には耐熱酸化物はどのようなものでも使用できるが、安定化ジルコニアTBCを溶射又はPVD法によって形成するのが代表的である。現在、7重量%のイットリアで安定化したジルコニア(7YSZともいう)が好ましいTBCである。7YSZに比較して、伝導率を低減したTBC、例えば希土類酸化物の添加で変性したジルコニアを用いることもできる。
【実施例】
【0026】
実施例1
スパッタ堆積法を用いてRene N5のタービンブレードに変性PGM皮膜を形成した。変性PGM皮膜の組成は、10原子%のRh、40原子%のPt、25原子%のNi、20原子%のAl及び5原子%のCrであった。低レベルのCr、Ni及びAlは白金リッチな表面での酸化物の形成を抑制する。堆積後、被覆タービンブレードを真空中約1800oFで約1時間熱処理した。
【0027】
実施例2
米国特許第6933052号(本発明の先行技術として援用する)に示されているような拡散障壁として、酸化物、窒化物、炭化物皮膜をRene N6タービンブレードに設けた。この拡散障壁を約2μmの厚さに形成した。その後、イオンプラズマ堆積により拡散障壁上に変性PGM皮膜を約50μmの厚さに形成した。変性PGM皮膜の組成は50原子%のRh、20原子%のPt、15原子%のNi、10原子%のAl及び5原子%のCrであった。堆積後、被覆タービンブレードを真空中約2000oFで約2時間熱処理した。
【0028】
実施例3
イオンプラズマ堆積によりRene N5試料に変性PGM皮膜を設けた。この皮膜を真空中1800oFで約1時間熱処理した。熱処理後の皮膜の組成をマイクロプローブにより測定したところ、原子%で表して、約15.85%のNi、約2.27%のCr、約5.76%のAl、約27.21%のPt及び約48.36%のRhであった。他の元素は存在するかもしれないが、測定器の検出限界以下の量である。この組成物が含有するNi及びAlの量はβ相NiAl金属間化合物を形成するには不十分な量であった。その後、温度を2000oFに上げて約2時間熱曝露を行った。微細組織を図8に示す。皮膜82と基材84、即ちRene N5との間にボンドライン80が認められるが、剥離はなく、カーケンドールボイド形成もほとんど観察できない。その後、試料を2200oFの温度に約24時間熱曝露した。図9に示した微細組織は2相の微細組織である。皮膜90中に、特定すると皮膜表面及び基材94との界面に生成しているブロック状部分92は、ロジウムアルミナイド(RhAl)であり、変性PGM系皮膜のfccマトリックス中に散在している。
【0029】
また、同様の試料をTBC、即ちEB−PVDによるイットリア安定化ジルコニアで被覆し、2175oFで炉内サイクル剥離試験を不具合になるまで行った。その結果を同様に処理したPtAl試料と比較した。本発明の変性PGM皮膜の寿命はPtAl試料の寿命を上回った。本発明の試料の炉サイクル寿命は、PtAl基準試料と比較して、20%増加した。
【0030】
実施例4
Rene N5試料に約26.96原子%のAl、約19.11原子%のNi、約7.22原子%のCr、約25.73原子%のRh及び残部のPtをスパッタ堆積した。この被覆試料を約2000oFの温度で約2時間真空熱処理し、その後、約2150oFでサイクル酸化試験を施した。サイクル酸化試験は1時間当たり20サイクルを含む。サイクル酸化試験での試験は著しい酸化が起こるのを確認するまで続ける。これは目視で確認できる。実施例3に記載した、図9と同様な2相構造が形成された。本発明に従って被覆した試料の平均寿命は2000時間を上回ったが、同様に処理したPtAl被覆基準試料の平均寿命は約460時間であった。
【0031】
以上、本発明を好ましい実施形態について説明したが、本発明の要旨から逸脱することなく、種々の改変が可能であり、また構成要素を均等物に置き換え得ることが当業者に明らかである。さらに、本発明の要旨から逸脱することなく、個別の状況や材料を本発明に適合させる多くの変更が可能である。したがって、本発明はこの発明を実施するうえで考えられる最良の形態として上述した特定の実施形態に限定されず、本発明は特許請求の範囲に入る全ての実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】Ni−Al系の2元相図である。
【図2】Pt−Al系の2元相図である。
【図3】Pt−Ni系の2元相図である。
【図4】白金を置換する白金族金属及びNiを置換する元素を含む、Pt−Ni−Al系の3元組成図である(斜線領域は皮膜の好ましい組成を示す)。
【図5】剥離が起きた酸化物表面を示す、従来の白金系ボンドコートの顕微鏡写真である。
【図6】剥離が起きたカーケンドールボイドラインを示す、従来の白金系ボンドコートの顕微鏡写真である。
【図7】図4のPt−Ni−Al系の3元組成図である(斜線領域は皮膜の最も好ましい組成を示す)。
【図8】1800oFの最初の熱処理とそれに続く2000oFに2時間の熱曝露後の本発明の組成を有する皮膜の顕微鏡写真である。
【図9】1800oFの最初の熱処理とそれに続く2200oFに24時間の追加の熱曝露後の本発明の組成を有する皮膜の顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0033】
2 Ni−Alの2元相図
4 β相NiAl
12 Pt−Alの2元相図
14 γ相
22 Pt−Niの2元相図
50 剥離
60 カーケンドールボイドライン
80 ボンドライン
82 変性PGM皮膜
84 基材
90 変性PGM皮膜
92 RhAl
94 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に設層する変性白金族金属皮膜であって、
原子%で表して、約5〜30原子%のAlと、前記基材の組成に基づいて選択される少なくとも幾つかの元素と、残部の白金族金属とを含有し、この残部が約40原子%以上を構成し、白金族金属がPt、Rh、Pd及びIrからなる群から選択される1種以上の元素からなり、
前記皮膜が実質的に面心立方固溶体構造として形成された、
変性白金族金属皮膜。
【請求項2】
原子%で表して、約5〜30原子%のAlと、約10〜45原子%のNiと、約20原子%以下のCr、Co、Ta、W、Re、Ru、Mo、Nb、Ti及びこれらの組合せからなる群から選択される元素とを含有する、請求項1記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項3】
さらに、約2原子%以下のZr、Hf、Y、希土類元素及びこれらの組合せからなる群から選択される元素を含有する、請求項2記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項4】
前記基材が超合金基材であり、超合金基材の母材がNi、Fe、Co及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項5】
前記基材がNi基超合金基材である、請求項4記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項6】
変性白金族金属皮膜が、さらに約2原子%以下のZr、Hf、Y、希土類元素及びこれらの組合せからなる群から選択される元素を含有する、請求項2記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項7】
さらに、遮熱コーティングを含み、変性白金族金属皮膜が前記基材と遮熱コーティングの間に介在する、請求項1記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項8】
前記基材が、重量%で、約7.5%のCo、約7%のCr、約6.2%のAl、約6.5%のTa、約5%のW、約3%のRe、約1.5%のMo、約0.15%のHf、約0.05%のC、約0.004%のB、残部のNi及び不可避的不純物からなる公称組成を有する、請求項1記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項9】
前記基材が、重量%で、約12.5%のCo、約4.5%のCr、約5.7%のW、約6.1%のAl、約7%のTa、5.6%のW、約6.2%のRe、0.95%のMo、約0.15%のHf、約0.05%のC、約0.004%のB、残部の本質的にNi及び不可避的不純物からなる公称組成を有し、さらに優れた耐環境性及び耐応力破断性を特徴とする、請求項1記載の変性白金族金属皮膜。
【請求項10】
前記白金族金属皮膜が約5〜60μmの厚さに形成された、請求項1記載の変性白金族金属皮膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−156744(P2008−156744A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−217014(P2007−217014)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】