説明

持続放出のための医薬製剤

活性成分としての化合物Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)もしくは前記化合物の医薬的に許容しうる塩〔例えばスルホン酸塩(例えばベンゼンスルホン酸(ベシラート)塩)〕;および医薬的に許容しうる希釈剤もしくはキャリヤー;を含み、他の付随的に投与される薬物(特に、CYP−450酵素によって代謝される薬物)との薬物−薬物相互作用を抑えつつ抗血栓治療効果をもたらすのに使用するための持続放出医薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の持続放出医薬製剤(extended release pharmaceutical formulations)、このような製剤の製造、および血栓症(特に、非弁性心房細動に罹患している患者の全身性血栓塞栓症および静脈血栓塞栓症)の治療もしくは予防においてこのような製剤を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
国際特許出願WO02/44145は、トリプシン様プロテアーゼ(例えばトロンビン)の競合的阻害薬であるか、あるいはトリプシン様プロテアーゼ(例えばトロンビン)の競合的阻害薬である化合物に代謝される多くの化合物を開示している。下記の化合物は、具体的に開示されている化合物の1つである:Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)(以後化合物Aと呼ぶ)。
【0003】
【化1】

【0004】
化合物Aは、哺乳動物への経口投与および/または非経口投与後に代謝され、対応する遊離アミジン化合物(トロンビンを阻害することが見出されている)を形成する。このように化合物Aは、プロドラッグ中間体であるPh(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OH)(以後化合物Bと呼ぶ)を経てPh(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(以後化合物Cと呼ぶ)に代謝される。化合物A、B、およびCの合成法がWO02/44145に記載されている。
【0005】
WO02/44145に記載のように、化合物Aは、他の薬物(例えばアセチルサリチル酸等)も受けている患者に投与することができる。患者が受けてよい他の可能な薬物組み合わせは、化合物Aと、例えばジゴキシンを含む。患者が受けてよいさらに他の可能な薬物組み合わせは、化合物Aと、例えば以下の薬物のいずれか1つ以上を含む;メトホルミン、アミオダロン、フロセミド、メトプロロール、アムロジピン、ベラパミル、エナラプリル、ロサルタン、および/またはシムバスタチン。患者はさらに、上記薬物のいずれかと同じ種類の他のいかなる薬物〔例えば、他のスタチン(例えば、アトルバスタチンやロスバスタチン)または他の抗血小板薬(例えばクロピドグレル)〕も受けてよい。薬物の組み合わせが投与される場合は、薬物−薬物相互作用が生じる可能性がある。このような薬物−薬物相互作用は、代謝を含む多くのファクター、あるいは吸収、分散、および排泄に関係したファクターに起因することがある。こうした薬物−薬物相互作用は、臨床効果と安全性に対する潜在的な重要性に関して、薬物曝露の変質をきたすことがある。したがって、ある特定の薬物が、特定の患者が受けることのある他の薬物との相互作用を示すかどうかを、そしてもし示す場合は、臨床的に望ましくない何らかの相互作用をできるだけ抑えるかどうかを明らかにすることが重要である。
【0006】
化合物Aの、化合物Bを経由しての化合物Cへの代謝は、イソ酵素2C9、2C19、および3Aを含めたシトクロム(CYP)P450酵素によって媒介される。したがって、ミダゾラム等のP450酵素(例えばCYP450 3A)によって代謝される、付随的に使用される他の薬物との薬物動態学的相互作用を生じる可能性がある。一般的に使用することができる他のこのような3A(4)基質としては、シムバスタチン、アトルバスタチン、アムロジピン、ジルチアゼム、プレドニソロン、ベラパミル、およびケトコナゾールなどがある。シトクロム(CYP)P450酵素によって媒介される幾つかの化合物はさらに、P糖タンパク質阻害薬(例えばベラパミル)であってもよい。一般的に使用される2C9基質は、ロサルタンとグリベンクラミドを含んでよい。
【0007】
化合物Aは、特定の製剤〔例えば、徐放出製剤(WO03/000293とWO03/101424を参照)や即時放出製剤(WO03/101423を参照)〕につくり上げることができる。これら特許文献からの関連したセクションを参照により本明細書に含める。
【0008】
徐放出剤形は益々、特定の薬物を患者に送達する(特に経口経路を介して)方法になってきている。このような剤形は、例えば、長期間にわたっての薬物の放出をもたらす。
インビボ血漿濃度対時間に関して異なったプロフィール(例えばピークレベル)を与える、化合物Aを投与するための種々の医薬製剤は、化合物Aが他の薬物の薬物動態学に影響を及ぼす可能性が異なることがある。しかしながら、ある特定の薬物のための特定の製剤が、他の特定の薬物との薬物−薬物相互作用を引き起こす可能性を増大させるか、あるいは減少させるかは簡単には予測しえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願WO02/44145
【特許文献2】国際特許出願WO03/000293
【特許文献3】国際特許出願WO03/101424
【特許文献4】国際特許出願WO03/101423
【発明の概要】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、化合物Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)もしくは本化合物の医薬的に許容しうる塩〔例えば、ベンゼンスルホン酸塩(ベシラート)等のスルホン酸塩〕(活性成分として);および医薬的に許容しうる希釈剤もしくはキャリヤー;を含み、抗血栓治療効果をもたらしつつ薬物−薬物相互作用を抑えるのに使用するための持続放出医薬製剤が提供される。
【0011】
特に、本発明の持続放出医薬製剤を使用すると、CYP−P450酵素〔より具体的には、イソ酵素3A、2C9、および2C19(特にイソ酵素3A)〕によって代謝される、他の付随的に投与される薬物に対して化合物A、B、またはCが及ぼす影響が抑えられる。
【0012】
特に、本発明の持続放出医薬製剤を使用すると、化合物A、B、またはCと同じ輸送タンパク質を介して吸収、分散、または排泄される、他の付随的に投与される薬物に対して化合物A、B、またはCが及ぼす影響が抑えられる。
【0013】
「他の付随的に投与される薬物に対して化合物A、B、またはCが及ぼす影響が抑えられる」とは、化合物A、B、またはCが同時投与されるときの、付随的に投与される薬物の曝露プロフィールもしくは血漿プロフィールに対する臨床的に重要ではない影響も含む。
【0014】
他の実施態様においては、本発明の持続放出医薬製剤を使用すると、即時放出製剤を同じレベルで使用して投与したときの化合物Aの血漿濃度より少なくとも2倍低い(特に少なくとも3倍低い、そして特に少なくとも4倍低い)、化合物Aのピーク血漿濃度がもたらされる。
【0015】
他の実施態様においては、本発明の持続放出医薬製剤の使用は、付随的に投与される他の薬物が、(i)スタチン(例えば、シムバスタチン、プラバスタチン、アトルバスタチン、またはロスバスタチン);(ii)アムロジピン;(iii)ジルチアゼム;(iv)プレドニソロン;(v)ベラパミル;(vi)ロサルタン;または(vii)グリベンクラミド;のいずれかから選択されるときに行われる。
【0016】
化合物A、または化合物Aの医薬的に許容しうる塩〔例えば、ベンゼンスルホン酸塩(ベシラート)等のスルホン酸塩〕は、溶媒和物、水和物、溶媒和物と水和物との混合物、または好ましくは非溶媒和物(例えば非水和物)の形態であってよい。溶媒和物は、低級(例えばC1−4)アルキルアルコール(例えば、メタノール、エタノール、またはイソプロパノール)、ケトン(例えばアセトン)、エステル(例えば酢酸エチル)、またはこれらの混合物等の、1種以上の有機溶媒との溶媒和物であってよい。
【0017】
「持続放出医薬組成物」という用語は、当業者により、薬物の放出速度が、調剤上の巧みな操作によって変えられる(すなわち持続される)全ての組成物/配合物を含むものと理解されている。
【0018】
本発明はさらに、本明細書に開示の薬物−薬物相互作用を抑えるための医薬を製造する上で本明細書に開示の持続放出製剤を使用することを含む。
本発明においては、持続放出は、活性成分の放出速度の変化を生じさせる、医薬的に許容しうる適切なキャリヤーおよび/または他の手段によってもたらすことができる。したがって、「持続放出医薬組成物」という用語は、当業者により、薬物の「持続的な(sustained)」、「長期の(prolonged)」、または「延長された、持続(extended)」放出(必要とされる期間にわたって治療反応性を生じるよう、十分に遅延させた速度にて薬物が放出される)をもたらすように適合される(例えば、本明細書に記載のように)組成物を含むものと理解されている。
【0019】
本発明のさらに特定の組成物は、所望の治療効果を得るために、投与間隔(単位時間当たりの投与回数にかかわりなく)に対して十分な薬物投与量をもたらすように適合させることができる。放出は、長期間にわたって均一および/または一定であってもよいし、あるいは別の仕方でもよい。
【0020】
本発明の組成物は、例えば、下記の形態をとってよい(これらの形態のいずれも当業者によく知られている):
活性化合物の分散体もしくは固溶体をマトリックス(ワックス、ガム、または脂質の形態をとってよく、あるいは特にポリマーの形態をとってよい)中に含み、錠剤の緩やかな表面浸食および/または拡散によって薬物の放出が起こる製剤。例としては、例えばHPMCを含むゲルマトリックス製剤がある。
【0021】
膜を介しての拡散によって薬物が放出される系(多層系を含む)。例としては、コーティングされたペレット、錠剤、またはカプセルなどがある。さらなる例としては、マルチプルユニット系(multiple unit systems)系もしくは多粒子系(multiparticulate systems)がある。これらの系は、薬物を含む微粒子、ミクロスフィア(microspheres)、またはペレットの形態をとってよい(マルチプルユニット/多粒子系は、薬物を含有する製剤を、胃から十二指腸に緩やかに放出させるのを可能にし、そしてさらに、薬物を含有する製剤を、所定の速度にて薬物を放出させつつ、小腸と大腸を介して緩やかに放出させるのを可能にする)。
【0022】
他の持続放出原理を使用する製剤(例えば、薬物がイオン交換樹脂に結び付けられている、いわゆる「ペンダント」デバイス)。これらの製剤は、胃腸管中に存在する他のイオン(例えば、胃の酸性環境)の影響によって、薬物の緩やかな放出を可能にする。他のこのような持続放出原理は、薬物の放出速度が、その化学ポテンシャル(例えば浸透圧ポンプ)とシラスティック制御放出デポー(silastic controlled release depots)(薬物を、入口/出口ポートを介してデバイス中に、水および/または胃腸液の拡散の関数として放出し、この結果溶解し、その後の薬物放出が起こる)によって制御されるデバイスを含む。
【0023】
上記の原理は、「Pharmaceutisch Weekblad Scientific Edition,6,57(1984)」;「Medical Applications of Controlled Release,Vol II,eds.Langer and Wise(1984) Bocaraton,Florida,pp.1−34」;「Industrial Aspects of Pharmaceuticals,ed.Sandel,Swedish Pharmaceutical Press(1993),pp.93−104」;「Pharmaceutics:The Science of Dosage Form Design,ed.M.E.Aulton(1988)(Churchill Livingstone),pp.191−211」;およびこれらの文献中に引用されている文献(これら全ての文献中の開示内容を参照により本明細書に含める);を含む先行技術の文献中に詳細に説明されている。適切な持続放出製剤は、本明細書もしくは上記文献中に記載のような、および/またはよく知られているような、製薬学における標準的な方法に従って製造することができる。
【0024】
活性成分は、一般には、医薬的に許容しうるキャリヤーと共に供給される。特に、本発明の組成物は、ポリマーマトリックスもしくはペレット中に活性成分が存在する形態で提供される。
【0025】
この点において、本発明の特定の組成物は、水性媒体中に膨潤するポリマー(すなわち「親水性のゲル化成分」)と共に活性成分が供給される、いわゆる「膨潤性」徐放出系または「ゲル化マトリックス」徐放出系の形態での経口投与用に提供される。この文脈における「水性媒体」とは、水、および哺乳動物の胃腸管中に存在する液体、もしくは哺乳動物の胃腸管中に存在する液体に近い液体を含むものと理解すべきである。このようなポリマー系は通常、乾燥形態においてガラス質状態であるか、または少なくともある程度は結晶質状態であって、水性媒体と接触したときに膨潤する親水性の巨大分子構造を含む。したがって、薬物の持続放出は、ポリマーマトリックス中への溶媒の移動、ポリマーの膨潤、膨潤したポリマーを通しての薬物の拡散、および/または、ポリマーの浸食(これらのプロセスの1つ以上が、薬物をポリマーマトリックスから水性媒体中に緩やかに放出させる作用を果たす)の1つ以上によって果たされる。
【0026】
したがって、ゲル化マトリックス徐放出組成物の親水性ゲル化成分として使用することができる適切な高分子物質(キャリヤーとして作用する)は、5000g/モルより高い分子量を有していて、(a)前記した水性媒体に対して少なくともやや溶解しにくいか、あるいは(b)前記した水性媒体と接触したときに膨潤する(これにより、キャリヤーからの薬物の放出が可能となる)高分子物質を含む。
【0027】
したがって、合成ポリマーであっても天然ポリマーであってもよい、適切なゲル化マトリックスポリマーとしては、多糖類(例えば、マルトデキストリン、キサンタン、イオータカラゲーニン、スクレログルカン、デキストラン、澱粉、アルギン酸塩、プルラン、ヒアルロン酸、キチン、およびキトサン等);他の天然ポリマー(例えば、アルブミンやゼラチン等のタンパク質);ポリ−L−リシン;ポリ(アクリル酸)ナトリウム;ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)〔例えば、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)〕;カルボキシポリメチレン(例えばカルボポール(商標));カルボマー;ポリビニルピロリドン;ガム(例えば、グアーガム、アラビアガム、カラヤガム、ガティガム、イナゴマメガム、タマリンドガム、ゲランガム、トラガカントガム、寒天、ペクチン、およびグルテン等);ポリ(ビニルアルコール);エチレンビニルアルコール;ポリ(エチレンオキシド)(PEO);セルロースエーテル〔例えば、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシエチルセルロース(CEC)、エチルヒドロキシエチルセルロース(EHEC)、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース(CMHEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルエチルセルロース(HPEC)、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)〕;ならびに上記ポリマーのいずれかのコポリマーおよび/または(単純な)混合物;などがある。上記ポリマーのうちの特定のポリマーはさらに、標準的な方法によって架橋することができる。
【0028】
さらなる態様においては、本発明は、1種以上のポリマーをゲル化マトリックスにて含む〔特に、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む〕持続放出製剤の使用を提供する。HPMCは、単独であっても、あるいは異なった粘度または分子量を有する2種以上のHPMCの混合物であってもよい。本発明の製剤は、HPMCのほかに、pHに依存する溶解性を有するポリマー(例えば、ポリメタクリル酸および/またはメタクリル酸コポリマー)をさらに含んでよい。本発明の製剤はさらに、微晶質セルロース、滑剤(ステアリルフマル酸ナトリウム等)、またはマンニトールを含む群から選択される1種以上のさらなる成分を含んでよい。
【0029】
適切なHPMCポリマーはさらに、25℃にて3〜150,000cps(例えば10〜120,000cps、好ましくは30〜50,000cps、さらに好ましくは50〜15,000cps)の粘度〔United States Pharmacopeia XXIV(USP XXIV/NF19)の2002ページ以下、ならびに特に843ページと844ページに一般的に記載の方法のような、標準的な方法によって測定〕を有する2重量%ポリマー水溶液を生成するポリマーを含む。これらの範囲内の種々の粘度を有するHPMCポリマーの混合物は、例えば、上記の好ましい範囲内の「平均」粘度(すなわち、混合物に対する粘度)を有する上記溶液を生成するHPMC混合物を得るために使用することができる。同様に、HPMCポリマー(これらの範囲内の粘度および/または「平均」粘度を有する)と上記の他のポリマーとの混合物も使用することができる。適切なHPMCポリマーは、United States Pharmacopeiaの標準置き換えタイプ(standard substitution types)2208、2906、2910、および1828(さらなる詳細についてはUSP XXIV/NF19を参照)を実現するHPMCポリマーを含む。したがって適切なHPMCポリマーは、METHOCELの商標(ダウケミカル社)で市販されている、またはMETHOLOSEの商標(信越化学(株))で市販されているHPMCポリマーを含む。
【0030】
ポリマーの選択は、所望の放出速度だけでなく活性成分/薬物の特質によって決定される。特に、当業者にとっては言うまでもないことであるが、例えばHPMCの場合、分子量が高くなるほど、組成物からの薬物の放出速度は遅くなる。さらに、HPMCの場合、メトキシ基とヒドロキシプロポキシ基との置換度が異なると、組成物からの薬物の放出速度の変化を引き起こす。この点において、そして前述したように、特定の必要とされる又は所望する放出プロフィールを得るためには、本発明の組成物を、ポリマーキャリヤーが、例えば異なった分子量を有していて、例えば後述するような2種以上のポリマーのブレンドによって供給される、ゲル化マトリックス系の形態にて提供するのが望ましい。
【0031】
ゲル化マトリックス系の形態をとっている場合、本発明において使用される組成物からの薬物放出速度は、薬物とポリマーキャリヤー系を含む個々の組成物(例えば錠剤)内の薬物:ポリマー比、および個々の組成物の表面積:体積比を制御することによってさらに調節することができる。
【0032】
さらなる態様においては、本発明の組成物は、ペレットまたはマルチプルユニット系の形態にて経口投与用に提供される。このようなマルチプルユニット系もしくは多粒子系は、流動床での噴霧層化や噴霧結晶化、melt spheronization、extrusion/spheronization、粉末層化、およびローター造粒を含めた多くの方法によって製造することができる。噴霧層化法によって製造されるペレットの場合は、活性成分を水性媒体中に分散し、流動床装置にて不活性コアに噴霧する。不活性コアは、例えば、微晶質セルロースから造ることができる。このようにして形成されるペレットは、活性物質の放出を制御するために、1種以上のポリマーの溶液もしくは分散液を物質層に噴霧することによってコーティングすることができる。このようにして得られるポリマーコーティング(多くのポリマー層が存在する場合は複数のコーティング)は、例えば異なった物理化学的性質(例えば、水性媒体に対する溶解性)を有してよい1種以上のポリマーを含んでよい。ポリマーの選択と組み込まれるポリマー間の比は、所望する放出速度だけでなく活性成分/薬物の特質によって決定される。適切なコーティング用ポリマーとしては、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、およびpH依存性の可溶性ポリマー(例えばメタクリル酸ポリマー)などがある。
【0033】
本発明において使用される組成物は、ゲル化マトリック系であろうと、マルチプルユニット系であろうと、あるいは他の系であろうと、薬物の放出を変更するために、最終的な組成物の物理的および/または化学的性質を改良するために、および/または製造のプロセスを容易にするために、1種以上のさらなる賦形剤を含有してよい。このような賦形剤は、徐放出組成物を製剤する上で従来使用されている。
【0034】
例えば、本発明において使用される組成物は、リン酸カルシウム(リン酸一カルシウム、リン酸二カルシウム、およびリン酸三カルシウム);ラクトース;微晶質セルロース;マンニトール;ソルビトール;二酸化チタン;およびケイ酸アルミニウム等;の希釈剤の1種以上を含有してよい。好ましい希釈剤としては、微晶質セルロースとマンニトールがある。
【0035】
本発明において使用される組成物は、ステアリン酸マグネシウムやステアリルフマル酸ナトリウム等の滑剤の1種以上を含有してよい。
本発明において使用される組成物は、コロイダルシリカ等の流動促進剤を含有してよい。
【0036】
本発明において使用される組成物は、ポリビニルピロリドン;ラクトース;マンニトール;微晶質セルロース;ポリエチレングリコール(PEG);メタクリル酸コポリマー;低分子量のHPMC;低分子量のMC;および低分子量のHPC等;の結合剤の1種以上を含有してよい。
【0037】
本発明において使用される組成物は、適切なポリマー(例えば、ポリメタクリル酸および/またはメタクリル酸コポリマー);有機酸(例えばクエン酸等)とそれらのアルカリ金属(な問えばナトリウム)塩;無機酸(例えば、炭酸やリン酸)の医薬的に許容しうる塩(ナトリウム塩、マグネシウム塩、またはカルシウム塩);マグネシウムの酸化物;ならびにアルカリ金属とアルカリ土類金属(例えば、ナトリウム、カルシウム、およびカリウム等)の硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、プロピオン酸塩、およびソルビン酸塩;のpH調整剤の1種以上を含有してよい。
【0038】
他のさらなる賦形剤としては、着色剤、風味剤、可溶化剤、界面活性剤、コーティング剤、保存剤、および可塑剤などがある。
上記のさらなる賦形剤の組み合わせ物も使用することができる。
【0039】
適切な錠剤コーティングは、HPMC〔ヒプロメローズ(Hydromellose)、例えば6cPs〕;PEG(マクロゴール);二酸化チタン;着色剤である酸化鉄イエローもしくは酸化鉄レッド;および水(適量);を含んでよい。適切なコーティングは一般に、製剤の5重量%を構成する。
【0040】
言うまでもないが、上記のさらなる賦形剤の幾つか(本発明において使用される最終組成物中に存在してよい)は、上記した機能の2つ以上を有する場合がある。上記のさらなる賦形剤はさらに、ゲル化マトリックス系における親水性ゲル化成分の一部として機能する場合がある。
【0041】
本発明において使用される組成物中に存在してよいさらなる賦形剤の総量(ゲル化マトリックス系の場合は、主要なポリマーキャリヤーを含めない)は、組成物の性質ならびに該組成物の他の成分の性質と量に依存し、最大で85%までの量〔例えば0.1〜75重量%(例えば0.2〜65重量%)、好ましくは0.3〜55重量%、さらに好ましくは0.5〜45重量%、そして特に1〜40重量%(例えば2〜35重量%)〕であってよい。いずれにしても、賦形剤の選択と量は、当業者によって通常のやり方で(すなわち、本発明を考慮することなく)決定することができる。
【0042】
ゲル化マトリックス系においては、系中のポリマーの量は、所望の治療効果が得られるに足る薬物投与量が投与間隔にわたって確実に供給されるだけの充分な量でなければならない。したがってゲル化マトリックス系に関しては、後述の試験条件下にて投与した後、患者に放出される組成物の初期薬物含量が80%(特に60%)の場合は、少なくとも4時間(特に少なくとも6時間、特に8〜24時間)かかる、と我々は推測している。組成物の初期薬物含量の少なくとも80%が約8〜24時間で放出されるのが最も好ましい。組み込むことができる適切なポリマー量(とりわけ、組成物中に使用される活性成分、存在してよい任意の賦形剤、および使用されるポリマーの性質に依存する)は、5〜99.5重量%(例えば10〜95重量%)の範囲であり、好ましくは30〜80重量%の範囲である。いずれにしても、当業者によって通常のやり方で決定することができる。
【0043】
中性のゲル化ポリマーは、ゲル化特性を有していて、実質的にpH依存性の溶解性を有する中性の浸食性ポリマーの単独物としても、あるいは前記浸食性ポリマーの2種以上の混合物としても使用することができる。中性のゲル化ポリマーは、製剤中に10重量%以上(好ましくは20重量%以上)のレベルで存在するのが好ましい。さらに、帯電したポリマー(例えば、イオータカラゲーニンやメタクリル酸コポリマー)が存在してもよい。
【0044】
このような製剤中の特定の追加賦形剤としては、ステアリルフマル酸ナトリウム等の滑剤がある(例えば、製剤の0.1〜2.5重量%、または0.5〜1.25重量%の範囲にて使用)。1つの態様においては、本発明は、化合物Aもしくは化合物Aの医薬的に許容しうる塩〔例えば、ベンゼンスルホン酸塩(ベシラート)等のスルホン酸塩〕;HPMC;および滑剤(例えばステアリルフマル酸ナトリウム);を含む本発明の注射不可能な製剤の使用を提供する。
【0045】
さらなる態様においては、本発明の製剤は、異なった粘度(例えば、10,000cPsや50cPs)を有する2種以上のHPMCの混合物含んでよい。本発明において使用される組成物(ゲル化マトリックス系の形態であろうと他の形態であろうと)中の活性成分の適切な量は、当該成分の性質(遊離塩基/塩など)、必要とされる用量、および組成物の他の成分の性質と量、等の多くのファクターに依存する。しかしながら、適切な量は、0.5〜80重量%〔例えば1〜75重量%(例えば3〜70重量%)〕、好ましくは5〜65重量%、さらに好ましくは10〜60重量%、そして特に15〜55重量%の範囲であってよい。いずれにしても、組み込まれる活性成分の量は、当業者によって通常のやり方で決定することができる。
【0046】
化合物Aもしくは化合物Aの医薬的に許容しうる塩の一般的な日用量は、当該日にちの過程において投与される個別投与の回数とはかかわりなく、体重1kg当たり遊離塩基(すなわち、塩の場合は、対イオンから生じる重量は除外する)0.001〜100mgの範囲である。特定の日用量は、20〜1,000mg、50〜750mg、または20〜500mgの範囲であり、特に150〜600mg、または100〜500mgの範囲である。
【0047】
本発明において使用される組成物(例えば、前記した組成物)は、よく知られている方法(例えば、前記した文献に記載の方法)にしたがって製造することができる。ゲル化マトリックス系の形態をとっている本発明の組成物は、当業者に公知の標準的な装置を使用して標準的な方法〔湿式もしくは乾式造粒法、直接圧縮/締め固め、乾燥、微粉砕、混合、錠剤化、コーティング、およびこれらの方法の組み合わせ(例えば、後述のような)〕によって製造することができる。
【0048】
本発明において使用される組成物は、経口的に投与すべく適合させるのが好ましいけれども、組成物の使い方は投与方式に制約されることはない。本発明の非経口徐放出組成物〔当業者によく知られている系(例えば、ポロキサマー、生分解性ミクロスフィア、リポソーム、油中懸濁液、および/またはエマルジョンをベースとする系)を含んでよい〕は、標準的な方法〔例えば、Leungらによる「『Controlled Drug Delivery:Fundamentals and Applications』(Drugs and the Pharmaceutical Sciences;vol29),第2版,Robinson and Lee編,Dekker(1987),第10章,p.433」(該文献中の開示内容を参照により本明細書に含める)に記載の方法〕にしたがって製造することができる。
【0049】
本発明において使用される組成物は、1回の投与量の一部として投与される個々のユニット(製剤/組成物)の数にかかわりなく、一日当たり1回以上投与することができる。
本発明のさらなる態様によれば、本発明の製剤の医薬としての使用が提供される。
【0050】
化合物Aは特に、国際特許出願PCT/SE01/02657、ならびに国際特許出願WO02/14270、WO01/87879、およびWO00/42059(これらの特許文献における関連した開示内容を参照により本明細書に含める)に記載の試験において実証されているように、投与後にトロンビンの強力な阻害薬を形成するよう代謝される。
【0051】
「活性成分」および「活性(薬物)物質」とは、製剤中に存在する医薬品(トロンビン阻害薬とそのプロドラッグを含む)を意味している。「トロンビン阻害薬のプロドラッグ」は、投与後に代謝されて、トロンビン阻害薬を実験的に検知しうる量にて形成する化合物を含む。
【0052】
したがって本発明において使用される製剤は、下記を含めて、トロンビンの阻害が必要とされる疾病、および/または抗凝固療法が指示される疾病に対して有用であると推測される:
ヒトを含む動物の血液および/または組織における血栓症と凝固性亢進の治療および/または予防。周知のように、凝固性亢進は血栓塞栓症を引き起こすことがある。凝固性亢進と血栓塞栓症に関連した疾病としては、先天性もしくは後天性の活性化プロテインC抵抗性〔例えば、第V因子−突然変異(第V因子Leiden)〕、および先天性もしくは後天性の、アンチトロンビン、プロテインC、プロテインS、もしくはヘパリン副因子II欠乏症などがある。凝固性亢進と血栓塞栓症に関連していることが知られている他の疾病としては、循環性抗リン脂質抗体(ループス抗凝固剤)、ホモシスチン血症、ヘパリン誘発性血小板減少症、繊維素溶解における欠陥、凝固症候群(例えば、播種性血管内凝固(DIC))、および一般的な血管外傷などがある。
【0053】
凝固性亢進の徴候がないのにトロンビンが過剰に存在する(望ましくない)という場合の疾病(例えば、アルツハイマー病等の神経変性疾患)の治療。
挙げることのできる特定の疾患状態(disease states)としては、静脈血栓症(例えばDVT)や肺塞栓症、動脈血栓症(例えば、心筋梗塞、不安定アンギナ、血栓症に基づく脳卒中、および末梢動脈血栓症)、そして通常は心房細動時における心房からの全身性塞栓症(例えば、非弁性心房細動、発作性AF、持続性AF、もしくは永続的AF)、貫壁性心筋梗塞後の左心室からの全身性塞栓症、または鬱血性心不全によって引き起こされる全身性塞栓症の治療処置および/または予防処置;血栓溶解、経皮経管的血管形成(PTA)、および冠状動脈バイパス手術後の再閉塞(すなわち血栓症)の予防;ならびに一般的なマイクロ手術や血管手術後の再血栓症の予防;などがある。
【0054】
さらなる適用としては、バクテリア、多発性外傷、中毒、もしくは他のメカニズムによって引き起こされる播種性血管内凝固の治療処置および/または予防処置;血液が体内の異質表面(例えば、血管移植片、血管ステント、血管カテーテル、機械的・生物学的人口弁、もしくは他のあらゆる医療機器)と接触しているときの抗凝固処置;血液が体外の医療機器と接触しているときの(例えば、人工心肺装置を使用する心臓血管手術時における、あるいは血液透析時における)抗凝固処置;ならびに、特発性の成人呼吸窮迫症候群、放射線療法もしくは化学療法による処置後の肺線維症、敗血症性ショック、敗血症、炎症反応〔浮腫、および急性もしくは慢性のアテローム性動脈硬化症(例えば、冠状動脈疾患やアテローム斑の形成)(これらに限定されない)を含む〕、大脳動脈疾患、脳梗塞、脳血栓症、脳塞栓症、末梢動脈疾患、虚血、アンギナ(不安定アンギナを含む)、再潅流損傷、および経皮経管的血管形成術や冠動脈バイパス手術後の再狭窄の治療処置および/または予防処置;などがある。
【0055】
本発明において使用される製剤は、化合物Aの作用メカニズムとは異なった作用メカニズムを有するいかなる抗血栓剤(例えば、下記の抗血栓剤の1種以上)を含んでもよい:抗血小板薬(アセチルサリチル酸)、チクロピジン、およびクロピドグレル;トロンボキサン受容体および/またはシンテターゼ阻害薬;フィブリノゲン受容体アンタゴニスト;プロスタサイクリン模擬体;ホスホジエステラーゼ阻害薬;ADP受容体(P2T)アンタゴニスト;ならびにカルボキシペプチダーゼU(CPU)の阻害薬。
【0056】
トリプシンおよび/またはトロンビンを阻害する化合物も、膵炎(慢性膵炎と膵臓痛を含む)の治療において有用である。
したがって本発明において使用される製剤は、これらの疾病の治療処置に対しても、および/または予防処置に対しても指示される。
【0057】
本発明において使用される製剤は、化合物Aもしくは化合物Aの塩を患者に供給する上で有用である。化合物Aと化合物Aの塩は、血栓症の予防と治療に対して有用であるので、本発明において使用される製剤も、このような疾患を処置する上で有用である。化合物Aおよび化合物Aの塩をこのような処置に対して使用する場合は、適切なアッセイ(例えば、Thrombin Time or Ecarin Clotting Time)を使用して抗凝固を観察することができる。
【0058】
本発明のさらなる態様によれば、血栓症に罹患しているか、または罹りやすい人に本発明に従って使用される製剤を治療学的に有効な量にて投与することを含む、薬物−薬物相互作用を抑えつつ血栓症を治療する方法が提供される。
【0059】
本発明のさらなる態様によれば、慢性膵炎に罹患しているか、または罹りやすい人に本発明の製剤を治療学的に有効な量にて投与することを含む、慢性膵炎の治療方法が提供される。さらに他の態様においては、本発明は、血栓症の治療において使用するための医薬の製造する上で、本発明において使用される製剤を使用することを提供する。
【0060】
曖昧さを避けるために、「処置(treatment)」という用語は、疾病の治療処置だけでなく予防も含むものとする。
本発明において使用される組成物は、血栓症に対してより均一な、および/または、より長期にわたる効果を得るために、化合物Aもしくは化合物Aの医薬的に許容しうる塩の持続放出をもたらし、したがって薬物−薬物相互作用を抑えつつ活性成分の効率的な投与(特に、一日当たり1回以下もしくは2回以下)をもたらす、という利点を有する。
【0061】
本発明において使用される組成物はさらに、確立された医薬加工法を使用して製造することができ、そして食品、医薬、または同様の規制状況にある物品での使用が認可されている物質を使用する、という利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、トルブタミド500mgとミダゾラムw/wo化合物Aを単回投与した後の時間(hr)とトルブタミドの平均血漿濃度(マイクロモル/リットル)との関係(n=24)を示している。
【図2】図2は、ミダゾラム7.5mgとトルブタミドw/wo化合物Aを単回投与した後の時間(hr)とミダゾラムの平均血漿濃度(ナノモル/リットル)との関係(n=24)を示している。
【図3】図3は、500mgの化合物AをIR錠剤またはER錠剤として、トルブタミドおよびミダゾラムと共に単回投与した後の時間(hr)と化合物Aの平均血漿濃度との関係(n=24)を示している。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、これらの実施例によって本発明が限定されることはない。本発明のさらなる特徴は、本明細書に記載の(特に、実施例のいずれかに従った)製剤、および本明細書に記載の実施例もしくはプロセスのいずれかに従うことによって得られる物品を含む。
【0064】
さらなる実施例は、異なった錠剤強度に合わせて調整された組成物を使用して、本明細書に記載の手順と類似の手順によって行うことができる。
実施例1−A:即時放出製剤
後記の実施例1−Cにおいて使用される即時放出製剤の組成と調製を以下に説明する。
【0065】
【表1】

【0066】
化合物Aベシラート錠剤は、従来の混合プロセス、湿式造粒プロセス、乾燥プロセス、微粉砕プロセス、ブレンディングプロセス、圧縮プロセス、およびフィルムコーティングプロセスを使用して製造した。
【0067】
造粒溶液は、結合剤であるヒドロキシプロピルセルロースまたはポビドンを精製水中に溶解することによって調製した。製剤原料である微晶質セルロース、マンニトール、および澱粉グリコール酸ナトリウムを混合して、製剤原料の均一分散物を得た。混合しながら造粒溶液を加えることによってこの粉末混合物を粒状化し、次いで湿式混合を行った。粒状の湿潤物質を乾燥して、適切な含水量の粒状物質を得た。適切なサイズの粒状物質を得るべく、乾燥した物質を、適切な微粉砕機により粉砕するか、あるいは適切な篩を通して篩い分けした。滑剤であるステアリルフマル酸ナトリウムを、篩を介して粒状物に加え、ブレンドし、そして従来の錠剤化装置を使用してブレンド物を錠剤コアに圧縮した。ヒプロメローズとマクロゴールを精製水中に溶解することによってコーティング液を調製し、次いでこの溶液中に二酸化チタンを懸濁させた。
【0068】
実施例1−B:持続放出製剤
後記の実施例1−Cにおいて使用される持続放出製剤の組成と調製を以下に説明する。
【0069】
【表2】

【0070】
化合物A錠剤は、従来の混合プロセス、湿式造粒プロセス、乾燥プロセス、微粉砕プロセス、ブレンディングプロセス、圧縮プロセス、およびフィルムコーティングプロセスを使用して製造した。
【0071】
混合しながら造粒液(エタノール)を加えることによって粉末混合物を粒状化し、次いで湿式混合を行った(必要に応じて、さらなるエタノールを加えた)。
湿潤物質を、熱風炉または流動床乾燥機にて乾燥した。乾燥した物質を、適切な微粉砕機により粉砕するか、あるいは適切な篩を通して篩い分けした。
【0072】
この粒状物を、微晶質セルロースおよびステアリルフマル酸ナトリウム(適切な篩を通して加えた)と混合した。この粒状物を、凸面パンチ(convex punches)を装備した錠剤プレスを使用して錠剤に圧縮した。
【0073】
実施例1−C:即時放出(IR)製剤と持続放出(ER)製剤との比較
20〜43歳の健康な男性被験者24人に対し、ランダムな順序にて次の投与計画を施した:
1.トルブタミド500mgとミダゾラム7.5mgの単回経口投与;
2.トルブタミド500mgとミダゾラム7.5mgの単回経口投与と共に、500mgの化合物Aの単回経口投与(実施例1−Aに記載のように作製したIR錠剤4×125mgとして供給);
3.トルブタミド500mgとミダゾラム7.5mgの単回経口投与と共に、500mgの化合物Aの単回経口投与(実施例1−Bに記載のように作製したER錠剤5×100mgとして供給)。
【0074】
トルブタミドは、1×500mgの市販のIR錠剤として、そしてミダゾラムは、1×7.5mgの市販のIR錠剤として投与した。これら3つの処置は、7〜21日のa wash−out periodを隔てて施した。
【0075】
投与後、血液を採取し、トルブタミド、ミダゾラム、および化合物Aの血漿濃度を、高速液体クロマトグラフィー直列の質量分析法(HPLC−MS/MS)によって測定した。このようにして得られた血漿濃度対時間曲線を、トルブタミド、ミダゾラム、および化合物Aに関してそれぞれ図1、図2、および図3に示す。
【0076】
図1は、トルブタミド500mgとミダゾラムw/wo化合物Aを単回投与した後の時間(hr)とトルブタミドの平均血漿濃度(マイクロモル/リットル)との関係(n=24)を示している。
【0077】
図2は、ミダゾラム7.5mgとトルブタミドw/wo化合物Aを単回投与した後の時間(hr)とミダゾラムの平均血漿濃度(ナノモル/リットル)との関係(n=24)を示している。
【0078】
図3は、500mgの化合物AをIR錠剤またはER錠剤として、トルブタミドおよびミダゾラムと共に単回投与した後の時間(hr)と化合物Aの平均血漿濃度との関係(n=24)を示している。
【0079】
図1、図2、および図3における、ゼロ血漿濃度から最後の定量化可能な血漿濃度までの、血漿濃度対時間曲線の下側の面積(AUC0−t)を下記の表に示す。
【0080】
【表3】

【0081】
化合物AをER製剤として同時投与した後のミダゾラムのAUC0−tの増大がごくわずかであること、および化合物AをIR製剤として同時投与した後のミダゾラムのAUC0−tの増大が約2倍であることからわかるように、化合物AのER製剤としての投与は、IR製剤としての投与と比較してCYP3Aの活性に対してそれほど影響を及ぼさない。
【0082】
化合物Aの同時投与後にトルブタミドの薬物動態学に影響を及ぼさないことからわかるように、化合物Aの投与はCYP2C9の活性に影響を及ぼさなかった。
上記のカクテルスタディ(cocktail study)において、化合物Aのピークレベルは、IRの場合(13.1マイクロモル/リットル)よりERの場合(3.45マイクロモル/リットル)のほうが3.5倍以上低かった(すなわち約75%低い)。
ここに記載のような薬物−薬物相互作用を抑える(即時放出製剤と比較して)ための適切なプロフィールを有する他の持続放出製剤は次のとおりである。このような製剤はさらに、他の望ましいプロフィール〔例えば、食品と一緒に投与したときの影響についての堅牢性(例えば、食品は、放出速度の増大を引き起こすことがあり、その結果、血漿薬物ピークレベルがより高くなる)〕を有してよい。
【0083】
実施例2:持続放出錠剤
【0084】
【表4】

【0085】
ヒプロメローズ50mPas、微晶質セルロース、および化合物Aベシラートを3分間ブレンドした。メタクリル酸−メチルメタクリレートコポリマー(1:1)をエタノール中に溶解して得られる造粒液をミキシングしながら約5分で加え、次いでさらに湿式混合を行うことによって粉末ブレンド物を粒状化した。この湿潤物質をクアドロコミル(Quadro Comill)にて微粉砕した。
【0086】
この湿潤物質を熱風炉または流動床乾燥機にて乾燥し、乾燥した物質をフィッツミル(Fitz Mill)にて微粉砕した。こうして得られた顆粒を、最後にステアリルフマル酸ナトリウム(適切な篩を通して装入)と混合した。凸面パンチを装備した錠剤プレスを使用して、この顆粒を錠剤に圧縮した。
【0087】
実施例3:持続放出錠剤
【0088】
【表5】

【0089】
ヒプロメローズ、微晶質セルロース、および化合物Aベシラートを3分間ブレンドした。メタクリル酸−メチルメタクリレートコポリマー(1:1)をエタノール中に溶解して得られる造粒液をミキシングしながら約5分で加え、次いでさらに湿式混合を行うことによって粉末ブレンド物を粒状化した。この湿潤物質をクアドロコミルにて微粉砕した。
【0090】
この湿潤物質を熱風炉または流動床乾燥機にて乾燥し、乾燥した物質をフィッツミルにて微粉砕した。こうして得られた顆粒を、最後にステアリルフマル酸ナトリウム(適切な篩を通して装入)と混合した。凸面パンチを装備した錠剤プレスを使用して、この顆粒を錠剤に圧縮した。
【0091】
実施例4:持続放出カプセル
【0092】
【表6】

【0093】
化合物Aの懸濁液を、流動床にて微晶質セルロース球体に噴霧し、引き続き乾燥した。未コーティングのペレットを、エチルセルロース(EC)とヒドロキシプロピルセルロース(HPC)のエタノールベース溶液を使用して流動床にてコーティングし、引き続き乾燥した。
【0094】
エチルセルロース(EC)とヒドロキシプロピルセルロース(HPC)でコーティングしたペレットを、メタクリル酸−エチルアクリレートコポリマー(1:1)30%分散液、モノステアリン酸グリセリル、クエン酸トリエチル、およびポリソルベートからなる分散液を使用して流動床にてさらにコーティングした。次いで、フィルムコーティングしたペレットを硬質ゼラチンカプセル中に充填した。
【0095】
実施例5:持続放出カプセル
【0096】
【表7】

【0097】
化合物Aの懸濁液を、流動床にて微晶質セルロース球体に噴霧し、引き続き乾燥した。
未コーティングのペレットを、メタクリル酸−エチルアクリレートコポリマー(1:1)30%分散液、モノステアリン酸グリセリル、クエン酸トリエチル、およびポリソルベートからなる分散液を使用して流動床にてコーティングし、引き続き乾燥した。
【0098】
メタクリル酸−エチルアクリレートコポリマー(1:1)30%分散液でコーティングしたペレットを、エチルセルロース(EC)とヒドロキシプロピルセルロース(HPC)のエタノールベース溶液を使用して流動床にてさらにコーティングし、引き続き乾燥した。次いで、フィルムコーティングしたペレットを硬質ゼラチンカプセル中に充填した。
【0099】
実施例6:持続放出錠剤
【0100】
【表8】

【0101】
ヒプロメローズ50mPas、微晶質セルロース、および化合物Aベシラートを3分間ブレンドした。メタクリル酸−メチルメタクリレートコポリマー(1:1)をエタノール中に溶解して得られる造粒液を、高剪断グラニュレーター中にて、ミキシングしながら約6分で(5〜10分の範囲で)加えることによって粉末ブレンド物を粒状化した。
【0102】
さらなる湿式混合(約15秒間)の後に、湿潤物質をグラット回転インペラーミル(Glatt rotating impeller mill)にて微粉砕した。次いで、この湿潤物質を熱風炉または流動床乾燥機にて乾燥し、乾燥した物質を従来のハンマーミルにて微粉砕した。
【0103】
得られた顆粒を、ブレンダーにて最後にステアリルフマル酸ナトリウム(適切な篩を通して装入)と混合し、凸面パンチを装備した錠剤プレスを使用して、この顆粒を錠剤に圧縮した。次いで、標準的な方法を使用して、適切な錠剤コーティングを施した。
【0104】
実施例7:持続放出錠剤
【0105】
【表9】

【0106】
最終的なミキシング工程において加えられる微晶質セルロース(couese)を使用し、実施例6に記載の手順と類似の手順に従って作製した。
実施例8:持続放出錠剤
【0107】
【表10】

【0108】
実施例6に記載の手順と類似の手順に従って〔但し、メタクリル酸−メチルメタクリレートコポリマー(1:1)は、乾燥混合工程において装入した〕作製した。HPCのエタノール溶液を加え、本混合物を粒状化した。
【0109】
実施例6〜8においては、錠剤コア中のステアリルフマル酸ナトリウムを0.7mg〜7.2mgの範囲で変えることができる。
実施例6〜8においては、適切な錠剤コーティングは、ヒプロメローズ6cPs(10.8mg);マクロゴール(2.7mg);二酸化チタン(1.6mg);カラー酸化鉄イエロー,CI77492(0.32mg);および水(適量)(水は、プロセシング時に除去される);からなる。
【0110】
ヒプロメローズ(HPMC)とメタクリル酸−メチルメタクリレートコポリマー(1:1)を含む実施例では、微晶質セルロースは、製剤の重量を基準として5〜15重量%の範囲で変えることもできるし、あるいは微晶質セルロースを、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)と一緒に、製剤の重量を基準として5〜20重量%の組み合わせ範囲にて組み込むこともできる。さらにマンニトールも、製剤の重量を基準として5〜10重量%の範囲にて組み込むことができる。HPCを組み込む場合、HPCは、エタノールに溶解した状態の造粒液にて加えることができ、メタクリル酸−メチルメタクリレートコポリマー(1:1)は、乾燥混合工程(実施例8を参照)において加えることができる。
【0111】
実施例9:持続放出錠剤
【0112】
【表11】

【0113】
結晶形の化合物Aは、WO2008/068475に記載の手順に従って作製される。
ヒプロメローズ、微晶質セルロース、および結晶質の化合物Aをブレンドした。メタクリル酸−メチルメタクリレートコポリマー(1:1)をエタノール中に溶解して得られる造粒液をミキシングしながら加え、次いで湿式混合を行うことによって粉末ブレンド物を粒状化した。この湿潤物質を適切な粉砕機にて微粉砕した。
【0114】
この湿潤物質を熱風炉または流動床乾燥機にて乾燥し、乾燥した物質を適切な粉砕機にて微粉砕した。こうして得られた顆粒を、最後にステアリルフマル酸ナトリウム(適切な篩を通して装入)と混合した。凸面パンチを装備した錠剤プレスを使用して、この顆粒を錠剤に圧縮した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)もしくは前記化合物の医薬的に許容しうる塩;および医薬的に許容しうる希釈剤もしくはキャリヤー;を含み、他の付随的に投与される薬物との薬物−薬物相互作用を抑えつつ抗血栓治療効果をもたらすのに使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項2】
化合物Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)もしくは前記化合物の医薬的に許容しうる塩と、CYP−450酵素、より具体的にはイソ酵素3A、2C9、および2C19、によって代謝される他の付随的に投与される薬物との間の薬物−薬物相互作用が抑えられる、請求項1に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項3】
他の付随的に投与される薬物がCYP−450イソ酵素3Aによって代謝される、請求項1または2に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項4】
Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)の医薬的に許容しうる塩がスルホン酸塩である、請求項1、2または3に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項5】
Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)の医薬的に許容しうる塩がベンゼンスルホン酸塩である、請求項4に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項6】
Ph(3−Cl)(5−OCHF)−(R)CH(OH)C(O)−(S)Aze−Pab(OMe)の医薬的に許容しうる塩が、5.9Å、4.73Å、4.09Å、および4.08Åのd値を有するピークを特徴とするX線粉末回折パターンを有することを特徴とするベンゼンスルホン酸塩である、請求項5に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項7】
医薬製剤がゲル化マトリックスを含む、請求項1〜6のいずれか一項に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項8】
ゲル化マトリックスがHPMCを含む、請求項7に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項9】
ゲル化マトリックスが、メタクリル酸を、特に、ポリメタクリル酸および/またはメタクリル酸コポリマーを含む、請求項7に従って使用するための持続放出医薬製剤。
【請求項10】
医薬製剤が2つのコーティング層を含む、請求項1〜6のいずれか一項に従って使用するための持続放出医薬ペレット製剤。
【請求項11】
医薬ペレット製剤が、特に、ポリメタクリル酸および/またはメタクリル酸コポリマーの内側腸溶コーティング、ならびに、特に、エチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの外側放出制御層を含む、請求項10に従って使用するための持続放出医薬ペレット製剤。
【請求項12】
医薬ペレット製剤が、特に、エチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの内側コーティング、ならびに、特に、ポリメタクリル酸および/またはメタクリル酸コポリマーの外側層を含む、請求項10に従って使用するための持続放出医薬ペレット製剤。
【請求項13】
他の付随的に投与される薬物との薬物−薬物相互作用を抑えつつ心臓血管疾患を治療するための医薬の製造における、請求項1〜12のいずれか一項に記載の持続放出医薬製剤の使用。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項に記載の持続放出医薬製剤を治療学的に有効な量にて患者に投与することを含む、他の付随的に投与される薬物との薬物−薬物相互作用を抑えつつ、心臓血管疾患に罹患しているか、あるいは心臓血管疾患に罹患するリスクのある患者に対して心臓血管疾患を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−537966(P2010−537966A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522456(P2010−522456)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/050755
【国際公開番号】WO2009/027745
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】