説明

振動アクチュエータ、レンズユニットおよび撮像装置

【課題】振動アクチュエータの効率を向上させる。
【解決手段】ロータと、ロータの回転軸の方向に、ロータに接して配されたステータと、回転軸の方向についてロータとの間でステータを挟む位置に配され、ステータに対してロータの回転軸周りに遷移する振動を付与する電気機械変換部と、回転軸の方向についてステータとの間で電気機械変換部を挟む位置に配された狭持部材と、ロータ、ステータおよび電気機械変換部に挿通され、狭持部材に結合された軸部材と、回転軸の径方向について軸部材とステータとの間に挟まれており、回転軸の方向に沿ってロータ側に延伸する振動体とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動アクチュエータ、レンズユニットおよび撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子によりステータを振動させ、当該ステータに接触するロータを回転させる振動アクチュエータがある(特許文献1参照)。この種の振動アクチュエータは、互いに異なる位相で伸縮運動する複数の圧電素子の振動を、ロータの回転運動に変換して出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−287246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記振動アクチュエータでは、圧電素子が生じた振動の一部がロータの回転駆動に寄与しない部材にも伝達される。このため、振動アクチュエータの駆動効率が低下していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明の第1の態様として、ロータと、ロータの回転軸の方向に、ロータに接して配されたステータと、回転軸の方向についてロータとの間でステータを挟む位置に配され、ステータに対してロータの回転軸周りに遷移する振動を付与する電気機械変換部と、回転軸の方向についてステータとの間で電気機械変換部を挟む位置に配された狭持部材と、ロータ、ステータおよび電気機械変換部に挿通され、狭持部材に結合された軸部材と、回転軸の径方向について軸部材とステータとの間に挟まれており、回転軸の方向に沿ってロータ側に延伸する振動体と、を備える振動アクチュエータが提供される。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】振動アクチュエータ100の側面図である。
【図2】振動アクチュエータ100の断面図である。
【図3】電気機械変換部130の分解斜視図である。
【図4】ステータ120および電気機械変換部130の動作を示す斜視図である。
【図5】ステータ120および電気機械変換部130の動作を示す斜視図である。
【図6】ステータ120および電気機械変換部130の動作を示す斜視図である。
【図7】ステータ120および電気機械変換部130の動作を示す斜視図である。
【図8】振動アクチュエータ100の振動モードを模式的に示す図である。
【図9】振動アクチュエータ100の組立工程を示す斜視図である。
【図10】振動アクチュエータ100の組立工程を示す斜視図である。
【図11】他の実施形態に係る振動アクチュエータ101を示す断面図である。
【図12】振動アクチュエータ100の組立工程を示す斜視図である。
【図13】振動アクチュエータ100の組立工程を示す斜視図である。
【図14】撮像装置400の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、振動アクチュエータ100の側面図である。なお、振動アクチュエータ100は、後述するように、電気機械変換部130において発生した振動を、歯車180から回転運動として出力する。
【0010】
そこで、以下の説明においては、軸部材110の軸方向について、歯車180に近い側を「出力側」、電気機械変換部130に近い側を「駆動側」とそれぞれ記載する。また、以下の説明においては、軸部材110の軸方向から振動アクチュエータ100を見た場合を平面視、軸部材110の径方向から振動アクチュエータ100を見た場合を側面視と記載する。
【0011】
振動アクチュエータ100は、円柱状の軸部材である軸部材110と、軸部材110が挿通された取付板190、ロータ160、ステータ120、電気機械変換部130、配線板140およびベース150を備える。取付板190、ロータ160、ステータ120、電気機械変換部130、配線板140およびベース150は、軸部材110の軸方向に沿って出力側から駆動側へ記載順に配される。
【0012】
取付板190は、円盤であって、軸心に軸部材110が挿通される。また、取付板190は複数のネジ孔を有して、振動アクチュエータ100が搭載される機器の取付部191にネジ192により締結される。この複数のネジ孔は、取付板190の軸心に対して対称に配される。また、軸部材110の出力側の端部には、Eリング230が取り付けられており、軸部材110が取付板190から駆動側へ抜け出ることはない。
【0013】
ロータ160は、円筒状の回転体であって、軸心に軸部材110を挿通される。また、ロータ160と取付板190との間に、軸受220および歯車180が配される。軸受220および歯車180は、軸部材110の軸方向に沿って出力側から記載順に配されて、軸部材110を共通に挿通される。
【0014】
軸受220は転がり軸受であって、軸受220の内輪は、軸部材110に嵌合する。軸受220の外輪は、歯車180の中央部に嵌合する。また、歯車180およびロータ160は嵌合する。
【0015】
ステータ120は、セラミック製の円盤であって、軸心に軸部材110を挿通される。電気機械変換部130は、セラミック製の圧電素子が積層されてなる円筒状の積層型圧電素子であって、軸心に軸部材110が挿通される。配線板140は、ポリイミド製の円盤状の基板部分と銅製の配線部分とを備えたフレキシブルプリント配線板であり、軸心に軸部材110が挿通される。更に、ベース150は、ステンレス製の円盤であり、軸心に軸部材110を挿通される。
【0016】
ステータ120はロータ160に、電気機械変換部130はステータ120に、それぞれ当接する。配線板140は、電気機械変換部130およびベース150に挟まれる。
【0017】
ベース150の外周部には、保持部154が形成される。保持部154は、ベース150の軸心を中心として回転対称に配された4個の平面を含み、レンチ等の工具により保持される。
【0018】
図2は、振動アクチュエータ100を示す断面図である。この図に示すように、軸部材110の出力側には、出力側から駆動側へかけて記載順に、Eリング取付用の溝112、Dカット部113、軸受220の内輪と嵌合する嵌合部114が配される。溝112とDカット部113とは軸部材110の軸方向に間隔を空けずに形成され、Dカット部113と嵌合部114とが軸部材110の軸方向に微小間隔を空けて形成される。嵌合部114の直径はDカット部113の直径より大きい。
【0019】
Dカット部113は、平面視にてD字状に形成される。取付板190の軸心には、Dカット部113と凸凹関係にある平面視にてD字状の孔193が形成され、Dカット部113と孔193とが相対回転不能に嵌り合う。Eリング230の外径がDカット部113の外径より大きく、嵌合部114の直径が孔193の内径より大きく、さらに、取付板190の厚みとDカット部113の軸方向長さが同一なので、取付板190は軸方向に移動しない。
【0020】
取付板190の駆動側の面における中央部には、円状のリブ194が形成される。リブ194の高さは、Dカット部113と嵌合部114との間隔と等しい。また、軸受220および嵌合部114は、同一の軸方向寸法を有する。このため、軸受220の駆動側の端部と嵌合部114の駆動側の端部とは面一となる。
【0021】
歯車180の出力側の面における中央部には、軸受220の外輪と嵌合する円状の凹部181が形成される。即ち、歯車180は、軸受220を介して軸部材110の嵌合部114に軸部材110の軸線周りに回転自在に支持される。
【0022】
また、歯車180の駆動側の面には、平面視にて円状の凹部182が形成される。ロータ160の出力側の面には、凹部182と嵌合する平面視にて円状の凸部161が形成される。ロータ160の内周部166と軸部材110との間には空間が形成され、この空間に付勢部材170および振動体210が配される。
【0023】
振動体210は、円筒状の金属製弾性体であって、軸部材110が挿通される。振動体210の内周部212における駆動側の端部は、ネジ部214を有する。軸部材110は、ネジ部214と螺合するネジ部115を有して、振動体210における駆動側の端部は、軸部材110に締結固定される。
【0024】
ロータ160の内周部166における駆動側の端部は、内径側へ張り出したフランジ部168を有する。フランジ部168は、付勢部材170の駆動側の端部に当接する。付勢部材170は、圧縮コイルバネであって、内部に軸部材110および振動体210を挿通される。付勢部材170の出力側の端部は、歯車180の凹部182に当接して、軸部材110の軸方向に圧縮して装着される。
【0025】
ステータ120は、振動体210の駆動側端部に存する嵌合部211が嵌合する嵌合孔121を軸芯に有する。振動体210は、該嵌合部211よりも大径の段差部218を嵌合部211より出力側に有する。これにより、ステータ120の出力側の面と段差部218とが係合する。
【0026】
ロータ160は、円環状のリブ162を駆動側の面に有する。リブ162は、付勢部材170の付勢力によりステータ120に圧接される。付勢部材170の付勢力は、歯車180および軸受220を取付板190に、取付板190をEリング230に、それぞれ圧接させる。
【0027】
配線板140は、円盤状に形成された円盤部142と、円盤部142から外径側へ延出する外延部144とを有する。円盤部142の直径は、電気機械変換部130の直径と略等しい。
【0028】
ベース150は、ネジ孔152を軸芯に有する。軸部材110の駆動側端部は、ネジ孔152と螺合するネジ部116を有する。これらにより、ベース150および軸部材110の駆動側端部は、相互に締結固定される。即ち、電気機械変換部130および配線板140は、段差部218により出力側への移動を阻止されたステータ120と、軸部材110に螺合したベース150とにより、締付けられた状態で固定される。
【0029】
なお、ステータ120の駆動側の面126と、電気機械変換部130の出力側の面136とは、共に研磨、熱処理等の表面処理により平滑化され、互いに密接する。また、電気機械変換部130の駆動側の面135と、配線板140の出力側の面145も、同様の表面加工により、互いに密接する。さらに、配線板140の駆動側の面146と、ベース150の出力側の面156も、同様の表面加工により密接する。これらの構造により、電気機械変換部130で生じた振動は、ステータ120へ効率よく伝播される。
【0030】
ここで、配線板140の出力側の面145と、当該面145に密着する電気機械変換部130の駆動側の面135との間の摩擦係数μ11と、配線板140の駆動側の面146と当該面146に密着するベース150の出力側の面156との間の摩擦係数μ12とは、下記(1)式の関係を満足するように設定される。
μ11>μ12…(1)
【0031】
また、上記摩擦係数μ11と、電気機械変換部130の出力側の面136と当該面136に密着するステータ120の駆動側の面126との間の摩擦係数μ13とは、下記(2)式の関係を満足するように設定される。
μ11>μ13…(2)
【0032】
更に、上記摩擦係数μ12と上記摩擦係数μ13とは、下記(3)式の関係を満足するように設定される。
μ13>μ12…(3)
【0033】
摩擦係数μ11、μ12、μ13は、面126、135、136、145、146、156の表面粗さに依存するので、面126、135、136、145、146、156の表面粗さを大小させることにより、摩擦係数μ11、μ12、μ13を大小させる。また、摩擦係数μ11、μ12、μ13は、面126、135、136、145、146、156の材質の違いにも依存するので、面126、135、136、145、146の表面粗さを、材質の違いを考慮に入れたうえで調整する。
【0034】
図3は、電気機械変換部130の分解斜視図である。電気機械変換部130は、軸部材110の軸方向に積層された複数の素子層138を備える。素子層138の各々は、圧電材料板137と、圧電材料板137の表面に形成された複数の電極131、132、133、134とを備える。
【0035】
電極131、132、133、134は、略セクタ状の同形状を有して、軸部材110を中心として回転対称に配される。また、同符号が付された電極の全体同士が軸方向に重なり合うように、素子層138が積層されて、電極131、132、133、134の各々は、電気機械変換部130の側面に形成された導線により、配線板140の配線に導通される。
【0036】
また、圧電材料板137の電極形成面の裏側にはグランド電極が配される。各層のグランド電極は、電気機械変換部130の側面に形成された導線により、配線板140のグランド電極に導通される。
【0037】
圧電材料板137は、駆動電圧を印加された場合に伸張または収縮する圧電材料を含む。具体的には、チタン酸ジルコン酸鉛、水晶、ニオブ酸リチウム、チタン酸バリウム、チタン酸鉛、メタニオブ酸鉛、ポリフッ化ビニリデン、亜鉛ニオブ酸鉛、スカンジウムニオブ酸鉛等の圧電材料を含む。なお、多くの圧電材料は脆いので、りん青銅等の高弾性金属材料で補強することが好ましい。電極131、132、133、134は、ニッケル、金等の電極材料を用いて、鍍金、スパッタ、蒸着、厚膜印刷等の方法で、圧電材料の表面に直接に形成すればよい。
【0038】
図4、図5、図6および図7は、ステータ120および電気機械変換部130の動作を模式的に示す斜視図である。電気機械変換部130において、図4から図7までに示した状態は、図番の順序に順次遷移する。また、図7に示した状態の次には、図4に示す状態が再び訪れ、図4から図7に示す状態は循環する。このように、ステータ120および電気機械変換部130は、周期的な動作をする。
【0039】
電極131、132、133、134のいずれかに対して駆動電圧が印加された場合、電気機械変換部130の軸方向の長さは、駆動電圧が印加された電極131、132、133、134に対応する部位で増加する。駆動電圧が印加されていない電極131、132、133、134に対応する部位では、電気機械変換部130の軸方向の長さは変化しない。ステータ120は、電気機械変換部130の軸方向の長さが増加した部位において持ち上げられる。これにより、ステータ120は傾斜する。
【0040】
電極131、132、133、134に対して駆動電圧が順次印加されると、電極131、132、133、134に対応する部位で、電気機械変換部130の軸方向の長さが順次増加する。例えば、電極131、132、133、134に対して、π/4ずつ位相が異なる交流電圧が印加される。これにより、ステータ120の傾斜方向が、軸心周りの一方向へと遷移すると共に、当該方向へ遷移する振動が発生する。ステータ120には、共振周波数の振動を発生させる。
【0041】
ロータ160は、付勢部材170に付勢されて、ステータ120に対して定常的に当接する。このため、ロータ160は、傾斜方向を周回させつつ揺動するステータ120から摩擦駆動力および軸周りに遷移する共振を受けて回転する。また、ロータ160の凸部161および歯車180の凹部182は相互に接している。このため、ロータ160および歯車180は、凸部161と凹部182との間に生じる摩擦力により一体的に回転する。こうして、振動アクチュエータ100は回転駆動力を発生する。
【0042】
図8は、振動アクチュエータ100における振動の系を模式的に示す図である。なお、他の図と共通の要素には同じ参照番号を付して重複する説明を省く。
【0043】
振動アクチュエータ100において、振動を発生する電気機械変換部130は、ベース150およびステータ120に挟持される。従って、電気機械変換部130が発生した振動は、ベース150およびステータ120に直接的に伝えられる。
【0044】
ここで、ロータ160に駆動力を伝えるのはステータ120であり、ベース150はステータの駆動には寄与しない。そこで、電気機械変換部130が発生する振動が、軸部材110の軸方向について見た場合のベース150の位置Qを節とする振動を発生するように、駆動周波数が選択される。
【0045】
更に、ロータ160は、ステータ120に対して、ステータ120の周縁部近傍において接して駆動力を受ける。そこで、電気機械変換部130が発生する振動が、軸部材110の軸方向について見た場合のステータ120の位置Pをもうひとつの節とすることをもうひとつの条件として駆動周波数が選択される。
【0046】
更に、既に説明したように、振動体210の下端は、ステータ120の内部に嵌入する。また、振動体210の下端部近傍は、軸部材110の径方向について、軸部材110およびステータ120に挟まれる。更に、振動体210のネジ部214の下端では、軸部材110に対して、振動体210の一部が、軸部材110の軸方向に当接する。
【0047】
ただし、振動体210の下端面は、電気機械変換部130から離間して、電気機械変換部130が発生した振動を直接に受けることはない。また、振動体210は、軸部材110に螺合すると共に、電気機械変換部130に対して反対の側からステータ120に当接して、ステータ120が軸部材110に沿って変位することを防止する。
【0048】
これにより、軸部材110のステータ120から駆動側の部分と、ステータ120および振動体210とを含み、電気機械変換部130の駆動周波数に強く共振する振動モードを有する振動系が形成される。この振動系は、電気機械変換部130が所定の駆動周波数で発生した振動を受けて、ステータ120を効率よく振動させると共に、振動系の外に振動を伝播させない。よって、例えば、軸部材110の出力側は、電気機械変換部130が振動を発生している場合でも略無振動となる。従って、電気機械変換部130が発生した振動は、ステータ120に損失無く伝達され、ロータ160の駆動に寄与する。
【0049】
このように、振動アクチュエータ100は、ステータ120および振動体210を含む振動系が、電気機械変換部130の駆動周波数と強く共振する振動モードを有する。それ故、電気機械変換部130が発生した振動は専らステータ120に伝達され、他の部材を振動させない。これにより、振動アクチュエータ100に投入された電力は、ロータの回転に効率よく変換される。
【0050】
以下、振動アクチュエータ100の組立手順を説明する。まず、軸部材110のDカット部113を、取付板190の孔193に、取付板190の駆動側から挿入する。このとき、Dカット部113の平面部と孔193の平面部とを合わせる。これにより、軸部材110は、取付板190に対して、軸回りに回転しなくなる。
【0051】
次に、Eリング230を軸部材110の溝112に嵌める。これにより、取付板190は、Eリング230により出力側への移動を係止される。また、Dカット部113より大径の嵌合部114により、軸部材110が出力側へ移動することも規制される。
【0052】
続いて、軸部材110を軸受220の内輪に、軸受け200の出力側から挿通して、軸部材110の嵌合部114と軸受220の内輪とを嵌合させる。これにより、軸受220の内輪を取付板190のリブ194に当接させる。次に、歯車180の出力側から、軸部材110を挿通して、軸受220の外輪を歯車180の凹部181に嵌合させる。
【0053】
更に、付勢部材170をロータ160の内側に挿入した状態で、軸部材110を付勢部材170およびロータ160の内部に、ロータ160の出力側から挿通する。このとき、ロータ160の凸部161を歯車180の凹部182に嵌合させる。
【0054】
次に、振動体210の出力側から、軸部材110を振動体210に挿通する。更に、軸部材110のネジ部115と振動体210のネジ部214とを螺着させることにより、振動体210を軸部材110に締結固定する。続いて、ステータ120の嵌合孔121に、ステータ120の出力側から軸部材110を挿通して、振動体210の嵌合部211をステータ120の嵌合孔121に嵌合させると共に、ステータ120を段差部218に係合させる。
【0055】
図9および図10は、振動アクチュエータ100の以降の製造過程を段階毎に示す図である。まず、図9に示すように、電気機械変換部130の孔および配線板140の孔に、電気機械変換部130の出力側から、軸部材110を順次挿通する。次に、ベース150のネジ孔152に、ベース150の出力側から、軸部材110のネジ部116を螺入する。
【0056】
更に、図10に示すように、ベース150の保持面を工具により保持して、軸部材110に対して相対的に回転させることにより、ベース150を軸部材110に螺合させる。電気機械変換部130および配線板140を、ベース150およびステータ120に挟み込んだ状態で、ベース150を軸部材110に対して締め込むことにより、電気機械変換部130および配線板140は、ベース150およびステータ120に締付けられる。
【0057】
ここで、配線板140および電気機械変換部130が密着し合う面145、135の摩擦係数μ11は、配線板140およびベース150が密着し合う面146、156の摩擦係数μ12より大きい。このため、軸部材110に対してベース150を締め込む場合に、配線板140および電気機械変換部130の間に生じる摩擦抵抗は、配線板140およびベース150の間に生じる摩擦抵抗より大きい。これにより、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させた場合、配線板140は電気機械変換部130と共に止まり、ベース150が配線板140に対して回転する。
【0058】
また、上記の摩擦係数μ11は、電気機械変換部130およびステータ120が密着し合う面136、126の摩擦係数μ13より大きい。このため、ベース150を軸部材110に対して回転させて締め込む場合に、配線板140および電気機械変換部130の互いに密着し合う面145、135の間に生じる摩擦抵抗は、電気機械変換部130およびステータ120の互いに密着し合う面136、126に生じる摩擦抵抗より大きい。従って、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させる場合に、配線板140がベース150に連れ従って回転したとしても、電気機械変換部130も配線板140と一体的に、ステータ120に対して相対的に回転する。
【0059】
これにより、振動アクチュエータ100は、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させた場合に、配線板140および電気機械変換部130の位置関係を一定に保つことができる。従って、配線板140および電気機械変換部130を、接着、嵌合等の位置決め構造を形成することなく、配線板140および電気機械変換部130の位置関係を確保した状態で、ベース150およびステータ120により配線板140および電気機械変換部130を締結固定できる。また、配線板140の周方向の位置が、ステータ120に対して変化しないので、外延部144の位置も変化しない。これにより、ベース150の締めつけ後も、外延部144を所定の位置に合わせた状態を維持できる。
【0060】
また、ベース150、配線板140、電気機械変換部130、ステータ120が、動作中の捩りモーメントを受けて軸部材110の周りで動く場合でも、配線板140と電気機械変換部130とは一体となって、ベース150およびステータ120に対して相対的に動く。従って、配線板140と電気機械変換部130とを接着したり、配線板140と電気機械変換部130とをキーとキー溝とにより位置決めしたりすることなしに、動作中の配線板140と電気機械変換部130との位置関係を確保できる。
【0061】
このように、配線板140と電気機械変換部130との接着を不要としたことにより、作業工程、作業工数を削減できる。また、配線板140と電気機械変換部130との間に接着層が存在しないので、振動アクチュエータ100の振動周波数特性の変動要因を減らすことができるので、振動周波数特性の調整が容易になる。
【0062】
更に、配線板140と電気機械変換部130とを位置決めするキーとキー溝等の位置決め部を要しないので、配線板140および電気機械変換部130の周方向の位置による形状特性の差をなくすことができる。これにより、振動アクチュエータ100における周方向の位置による周波数特性のバラツキを抑制できる。
【0063】
以上により、振動アクチュエータ100は、ベース150を軸部材110に締結する場合にベース150を軸部材110に対して相対的に回転させても、電気機械変換部130とステータ120との位置関係が一定に保たれる。よって、電気機械変換部130に対する相対位置が決められた配線板140の周方向の位置を、締付け前の位置に対して不変とすることができる。従って、締付け前に、配線板140の外延部144を所定の位置に合わせることにより、締付け中の配線板140の固定を要することなく、締付け後においても、外延部144を所定の位置に合わせた状態にすることができる。
【0064】
図11は、他の振動アクチュエータ101を示す断面図である。この図に示すように、振動アクチュエータ101は、電気機械変換部130の出力側の面136とステータ120の駆動側の面126との間に挟み込まれた配線板140を有する。
【0065】
配線板140の駆動側の面146と電気機械変換部130の出力側の面136との間の摩擦係数μ21と、電気機械変換部130の駆動側の面135とベース150の出力側の面156との間の摩擦係数μ22とは、下記(4)式の関係を満足するように設定されている。
μ21>μ22…(4)
【0066】
また、上記摩擦係数μ21と、配線板140の出力側の面145とステータ120の駆動側の面126との間の摩擦係数μ23とは、下記(5)式の関係を満足するように設定されている。
μ21>μ23…(5)
【0067】
また、上記摩擦係数μ23と上記摩擦係数μ22とは、下記(6)式の関係を満足するように設定されている。
μ23>μ22…(6)
【0068】
次に、振動アクチュエータ101の組立工程について説明する。なお、軸部材110をステータ120に挿通するまでの工程は、振動アクチュエータ100の組立工程と同様なので、重複する説明は省く。
【0069】
図12および図13は、振動アクチュエータ101の組み立てに固有の段階を、段階毎に示す図である。まず、図12に示すように、軸部材110を配線板140の穴に出力側から挿通する。そして、軸部材110を電気機械変換部130の穴に出力側から挿通する。
【0070】
次に、ベース150のネジ孔152に、ベース150の出力側から、軸部材110のネジ部116を挿入して、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させる。これにより、ベース150を軸部材110に螺合させる。電気機械変換部130および配線板140は、ベース150およびステータ120に挟まれているので、ベース150を締め込むことにより、電気機械変換部130および配線板140は締付けられる。
【0071】
ここで、配線板140および電気機械変換部130の互いに密着し合う面146、136の摩擦係数μ21は、電気機械変換部130およびベース150の互いに密着し合う面135、156の摩擦係数μ22より大きい。このため、配線板140および電気機械変換部130の間に生じる摩擦抵抗は、電気機械変換部130およびベース150の間に生じる摩擦抵抗より大きい。これにより、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させた場合、ベース150は、電気機械変換部130に対しても相対的に回転する。
【0072】
また、上記摩擦係数μ21は、配線板140およびステータ120の互いに密着し合う面145、126の摩擦係数μ23より大きい。このため、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させる場合に、配線板140および電気機械変換部130の間に生じる摩擦抵抗は、配線板140およびステータ120の間に生じる摩擦抵抗より大きい。従って、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させた場合、配線板140は、電気機械変換部130と一体的に、ステータ120に対して相対的に回転する。
【0073】
このように、振動アクチュエータ101では、振動アクチュエータ100と同様に、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させて配線板140および電気機械変換部130を締付ける場合に、配線板140および電気機械変換部130の位置関係を一定に保つことができる。従って、配線板140および電気機械変換部130を接着し、あるいは、配線板140および電気機械変換部130をキーにより嵌合させて位置決めすることなしに、配線板140および電気機械変換部130の位置関係を維持しつつ、ベース150を締め込んで配線板140および電気機械変換部130を締結固定できる。
【0074】
また、振動アクチュエータ101では、上記の摩擦係数μ23が、摩擦係数μ22より大きいので、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させた場合に、ベース150が、電気機械変換部130、配線板140およびステータ120に対して相対的に回転する一方、電気機械変換部130および配線板140は、ステータ120に対して相対的に回転することはない。
【0075】
これにより、振動アクチュエータ101では、ベース150を軸部材110に対して相対的に回転させて、ベース150を締め込む場合に、配線板140およびステータ120の位置関係を一定に保つことができる。よって、配線板140の周方向の位置が、締付け前の位置に対して不変となる。従って、締付け前に、配線板140の外延部144を所定の位置に合わせることにより、外延部144を所定の位置に合わせた状態で振動アクチュエータ101を組み立てることができる。
【0076】
なお、振動アクチュエータ100、101では、軸部材110に螺合するベース150とステータ120とにより電気機械変換部130および配線板140を締付けた。しかし、ベース150の駆動側に軸部材110に螺合するナットを配して、該ナットとステータ120とによりベース150、電気機械変換部130および配線板140を締め付けてもよい。また、取付板190を軸部材110に螺合させ、またはEリング230の替わりとなるナットを軸部材110に螺合させ、取付板190または該ナットとベース150とにより、これらの間に存する構成要素を締め付けてもよい。
【0077】
図14は、振動アクチュエータ100を備える撮像装置400の模式的な断面図である。なお、上記実施形態と同様の構成には同一の符号を付して説明は省略する。
【0078】
この図に示すように、撮像装置400は、光学部材420と、レンズ鏡筒430と、振動アクチュエータ100と、撮像部500と、制御部550と、を備える。レンズ鏡筒430は光学部材420を収容する。
【0079】
振動アクチュエータ100は、光学部材420を移動させる。撮像部500は、光学部材420によって結像された画像を撮像する。制御部550は、振動アクチュエータ100および撮像部500を制御する。
【0080】
また、撮像装置400は、光学部材420、レンズ鏡筒430、および振動アクチュエータ100を備えるレンズユニット410と、ボディ460を含む。レンズユニット410は、マウント450を介して、ボディ460に対して着脱自在に装着される。
【0081】
光学部材420は、図中で左側にあたる入射端から順次配列された、フロントレンズ422、コンペンセータレンズ424、フォーカシングレンズ426およびメインレンズ428を含む。フォーカシングレンズ426およびメインレンズ428の間には、アイリスユニット440が配置される。
【0082】
振動アクチュエータ100は、光軸方向についてレンズ鏡筒430の中程にあって相対的に小径なフォーカシングレンズ426の下方に配置される。これにより、レンズ鏡筒430の径を拡大することなく、振動アクチュエータ100はレンズ鏡筒430内に収容される。振動アクチュエータ100は、例えばギア列を介してフォーカシングレンズ426を光軸方向に前進または後退させる。
【0083】
ボディ460は、メインミラー540、ペンタプリズム470、接眼系490を含む光学部材を収容する。メインミラー540は、レンズユニット410を介して入射した入射光の光路上に傾斜して配置される待機位置と、入射光を避けて上昇する撮影位置(図中に点線で示す)との間を移動する。
【0084】
待機位置にあるメインミラー540は、入射光の大半を、上方に配されたフォーカシングスクリーン472に導く。ペンタプリズム470は、入射光の鏡映を接眼系490に向かって出射するので、フォーカシングスクリーン472に投影された像を接眼系490から正像として見ることができる。入射光の残りは、ペンタプリズム470により測光ユニット480に導かれる。測光ユニット480は、入射光の強度およびその分布等を測定する。
【0085】
なお、ペンタプリズム470および接眼系490の間には、ファインダ液晶494に形成された表示画像を、フォーカシングスクリーン472の映像に重ねるハーフミラー492が配置される。表示画像は、ペンタプリズム470から投影された画像に重ねて表示される。
【0086】
また、メインミラー540は、入射光の入射面に対する裏面にサブミラー542を有する。サブミラー542は、メインミラー540を透過した入射光の一部を、下方に配置された測距ユニット530に導く。これにより、メインミラー540が待機位置にある場合は、測距ユニット530が被写体までの距離を測定する。なお、メインミラー540が撮影位置に移動した場合は、サブミラー542も入射光の光路から退避する。
【0087】
更に、入射光に対してメインミラー540の後方には、シャッタ520、光学フィルタ510および撮像部500が順次配置される。シャッタ520が開放される場合、その直前にメインミラー540が撮影位置に移動するので、入射光は直進して撮像部500に入射される。これにより、入射光の形成する画像が電気信号に変換される。これにより、撮像部500は、レンズユニット410によって結像された画像を撮像する。
【0088】
撮像装置400において、レンズユニット410とボディ460とは電気的にも結合されている。従って、例えば、ボディ460側の測距ユニット530が検出した被写体までの距離の情報に応じて振動アクチュエータ100の回転を制御することにより、オートフォーカス機構を形成できる。また、測距ユニット530が振動アクチュエータ100の動作量を参照することにより、フォーカスエイド機構を形成することもできる。振動アクチュエータ100および撮像部500は、制御部550により上記の通り制御される。
【0089】
なお、振動アクチュエータ100によりフォーカシングレンズ426を移動させる場合について例示したが、アイリスユニット440の開閉、ズームレンズのバリエータレンズの移動等を振動アクチュエータ100で駆動できることはいうまでもない。この場合も、電気信号を介して測光ユニット480、ファインダ液晶494等と情報を参照し合うことにより、振動アクチュエータ100は、露出の自動化、シーンモードの実行、ブラケット撮影の実行等に寄与する。また、本実施形態では、振動アクチュエータ100を備える撮像装置400を例に取って説明したが、振動アクチュエータ100に替えて、振動アクチュエータ101を備えてもよい。
【0090】
以上のように、振動アクチュエータ100、101は、撮影機、双眼鏡等の光学系において、合焦機構、ズーム機構、手振れ補正機構等の駆動に好適に使用できる。さらに、精密ステージ、より具体的には電子ビーム描画装置、検査装置用各種ステージ、バイオテクノロジ用セルインジェクタの移動機構、核磁気共鳴装置の移動ベッド等の動力源に使用され得るが、用途がこれらに限られないことはいうまでもない。
【0091】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0092】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0093】
100、101 振動アクチュエータ、110 軸部材、112 溝、113 Dカット部、114、211 嵌合部、115、116 ネジ部、120 ステータ、121 嵌合孔、126、135、136、145、146、156 面、130 電気機械変換部、131、132、133、134 電極、137 圧電材料板、138 素子層、140 配線板、142 円盤部、144 外延部、150 ベース、152 ネジ孔、154 保持部、160 ロータ、161 凸部、162 リブ、166 内周部、168 フランジ部、170 付勢部材、180 歯車、181、182 凹部、190 取付板、191 取付部、192 ネジ、193 孔、194 リブ、210 振動体、212 内周部、214 ネジ部、218 段差部、220 軸受、230 Eリング、400 撮像装置、410 レンズユニット、420 光学部材、422 フロントレンズ、コンペ424 ンセータレンズ、426 フォーカシングレンズ、428 メインレンズ、430 レンズ鏡筒、440 アイリスユニット、450 マウント、460 ボディ、470 ペンタプリズム、472 フォーカシングスクリーン、480 測光ユニット、490 接眼系、492 ハーフミラー、494 ファインダ液晶、500 撮像部、510 光学フィルタ、520 シャッタ、530 測距ユニット、540 メインミラー、542 サブミラー、550 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
前記ロータの回転軸の方向に、前記ロータに接して配されたステータと、
前記回転軸の方向について前記ロータとの間に前記ステータを挟む位置に配され、前記ステータに対して前記ロータの回転軸周りに遷移する振動を付与する電気機械変換部と、
前記ロータ、前記ステータおよび前記電気機械変換部に挿通された軸部材と、
前記回転軸の径方向について前記軸部材と前記ステータとの間に挟まれて、前記回転軸の方向に沿って前記ロータ側に延在する振動体と、
を備える振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記振動体は、前記軸部材に対して、前記軸部材の軸方向に当接する面を有する請求項1に記載の振動アクチュエータ。
【請求項3】
前記振動体は、前記電気機械変換部から離間する請求項1または請求項2に記載の振動アクチュエータ。
【請求項4】
前記振動体は、前記軸部材に係合すると共に、前記電気機械変換部に対して反対の側から前記ステータに当接して、前記ステータの前記軸部材に沿った変位を規制する請求項1から請求項3までの何れかに記載の振動アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の前記振動アクチュエータと、
前記振動アクチュエータに駆動されて光軸方向に移動する光学部材と、
を備えるレンズユニット。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の前記振動アクチュエータと、
前記振動アクチュエータに駆動されて光軸方向に移動する光学部材と、
前記光学部材によって結ばれた像を記録する撮像部と、
を備える撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−268631(P2010−268631A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118958(P2009−118958)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】