説明

振動エネルギー吸収材を有する建物

【課題】振動エネルギー吸収装置を用いることなく振動エネルギーを吸収できるようにすることにより、前記振動エネルギー吸収装置を製作する手間や前記振動エネルギー吸収装置を壁状部材の上端部と上方の梁とに固定する手間を要することなく建物を効率的に建設できるようにすること。
【解決手段】建物は、水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材と、該壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動エネルギー吸収材を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の建物には、水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、下端部が前記下方の梁に固定された壁状部材と、該壁状部材の上端部と前記上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置とを含むものがある(特許文献1参照)。
【0003】
前記振動エネルギー吸収装置は、前記上方の梁に固定された水平部分及び前記壁状部材に平行な垂直部分からなる逆L字形の断面を有するL形金具と、前記壁状部材の前記上端部に固定され、前記L形金具の前記垂直部分を受け入れるU字形の断面を有するU形金具と、該U形金具に収容され、前記L形金具の前記垂直部分に密着する粘弾性体とからなる。
【0004】
前記建物が地震時又は強風時に振動したとき、前記上方の梁は前記水平方向の力を受けて前記壁状部材の上端部に対して移動する。これにより、前記L形金具の前記垂直部分は前記U形金具に対して動く。このとき、前記粘弾性体の内部に生じる粘性抵抗により、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーが消費される。このようにして前記振動エネルギー吸収装置は、前記振動エネルギーを吸収し、前記建物の振動を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−265707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記振動エネルギー吸収装置の製作時、前記L形金具と前記U形金具とを作ること、前記粘弾性体を前記U形金具に収容すること、前記L形金具を、該L形金具の前記垂直部分が前記U形金具に受け入れられるように前記U形金具と組み合わせることに多くの手間を要する。また、前記振動エネルギー吸収装置を前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定することに多くの手間を要する。このため、前記建物を効率的に建設することができない。
【0007】
また、前記振動エネルギー吸収装置が前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定されているため、前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収装置により狭められる。このため、前記空間を有効に利用することができない。さらに、前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定された前記振動エネルギー吸収装置は、目立ち易く、前記壁状部材の外観を損ねる。
【0008】
本発明の目的は、振動エネルギー吸収装置を用いることなく振動エネルギーを吸収できるようにすることにより、前記振動エネルギー吸収装置を製作する手間や前記振動エネルギー吸収装置を壁状部材の上端部と上方の梁とに固定する手間を要することなく建物を効率的に建設できるようにすることである。また、本発明の他の目的は、前記振動エネルギー吸収装置により前記壁状部材の周囲の空間が狭められたり、前記壁状部材の外観が損なわれたりすることがないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、壁状部材の下端部と下方の梁との間に介在する振動エネルギー吸収材又は壁状部材の上端部と上方の梁との間に介在する振動エネルギー吸収材により地震時又は強風時の振動エネルギーを吸収する。これにより、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置を製作することや前記振動エネルギー吸収装置を前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定することに多くの手間を要することがないようにし、建物を効率的に建設できるようにする。また、前記振動エネルギー吸収装置により前記壁状部材の周囲の空間が狭められたり、前記壁状部材の外観が損なわれたりすることがないようにする。
【0010】
本発明に係る建物は、水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材と、該壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む。
【0011】
前記建物が地震時又は強風時に振動したとき、前記上方の梁が前記水平方向の力を受けて前記壁状部材の前記下端部が前記下方の梁に対して移動する。このとき、前記振動エネルギー吸収材は、前記振動エネルギーを吸収し、前記建物の振動を低減させる。
【0012】
前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材により前記振動エネルギーを吸収するため、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置を製作すること及び前記振動エネルギー吸収装置を前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定することに多くの手間を要することはなく、前記建物を効率的に建設することができる。
【0013】
ところで、前記従来の建物は、地震時又は強風時に上方の梁が受けた水平方向の力が壁状部材を介して柱に伝わることによって前記柱に設計上想定しない力が加えられることを防ぐため、前記上方の梁と前記壁状部材の上端部との間にいわゆるスリット材が介在する。前記スリット材は、前記上方の梁が受けた前記水平方向の力を前記壁状部材に伝えないように前記壁状部材を前記上方の梁から力学的に絶縁する絶縁材である。本発明に係る建物において前記振動エネルギー吸収材を前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在させることは、前記従来の建物において前記スリット材を前記上方の梁と前記壁状部材の前記上端部との間に介在させる手間と同程度の手間を要するに過ぎない。
【0014】
前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在するため、前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはない。このため、前記空間を有効に利用することができる。さらに、前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材は、目立ち難く、前記壁状部材の外観を損ねることがない。
【0015】
前記振動エネルギー吸収材は弾性体又は粘弾性体からなるものとすることができる。また、上方に開放され、前記壁状部材の前記下端部を受け入れる容器が前記下方の梁に固定されており、前記振動エネルギー吸収材は、前記容器に収容された粘性体からなるものとすることができる。
【0016】
本発明に係る建物は、水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材とを含み、該壁状部材は、前記水平方向において相対する一対の端部であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、それぞれが前記柱に対して移動する一対の端部を有し、前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間及び少なくとも一方の端部と前記柱との間に、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材が介在する。
【0017】
地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、前記壁状部材の前記下端部が前記下方の梁に対して移動するとともに、前記壁状部材の各端部が前記柱に対して移動する。このとき、前記振動エネルギー吸収材は前記振動エネルギーを吸収する。
【0018】
前記振動エネルギー吸収材が、前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間のみならず、前記壁状部材の前記少なくとも一方の端部と前記柱とに間にも介在するため、前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間にのみ介在する場合と比べて、前記振動エネルギー吸収材が存在する範囲は広く、前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0019】
本発明に係る建物は、水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、下端部が前記下方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、前記上方の梁が前記壁状部材の上端部に対して移動する壁状部材と、該壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む。
【0020】
前記建物が地震時又は強風時に振動したとき、前記上方の梁が前記水平方向の力を受けて前記壁状部材の前記上端部に対して移動する。このとき、前記振動エネルギー吸収材は、前記振動エネルギーを吸収し、前記建物の振動を低減させる。
【0021】
前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材により前記振動エネルギーを吸収するため、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置を製作すること及び前記振動エネルギー吸収装置を前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定することに多くの手間を要することはなく、前記建物を効率的に建設することができる。
【0022】
また、前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間に介在するため、前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはない。このため、前記空間を有効に利用することができる。さらに、前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材は、目立ち難く、前記壁状部材の外観を損ねることがない。
【0023】
本発明に係る建物は、水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、下端部が前記下方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、前記上方の梁が前記壁状部材の上端部に対して移動する壁状部材とを含み、該壁状部材は、前記水平方向において相対する一対の端部であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、各柱が前記端部に対して移動する一対の端部を有し、前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間及び少なくとも一方の端部と前記柱との間に、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材が介在する。
【0024】
地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、前記上方の梁が前記壁状部材の前記上端部に対して移動するとともに、各柱が前記壁状部材の前記端部に対して移動する。このとき、前記振動エネルギー吸収材は前記振動エネルギーを吸収する。
【0025】
前記振動エネルギー吸収材が、前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間のみならず、前記壁状部材の前記少なくとも一方の端部と前記柱とに間にも介在するため、前記振動エネルギー吸収材が前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間にのみ介在する場合と比べて、前記振動エネルギー吸収材が存在する範囲は広く、前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、壁状部材の下端部と下方の梁との間に介在する振動エネルギー吸収材又は壁状部材の上端部と上方の梁との間に介在する振動エネルギー吸収材により地震時又は強風時の振動エネルギーを吸収するため、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置を製作すること及び前記振動エネルギー吸収装置を前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定することに多くの手間を要することはなく、建物を効率的に建設することができる。
【0027】
また、前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材又は前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材により前記振動エネルギーを吸収するため、前記壁状部材の周囲の空間が前記振動エネルギー吸収材により狭められることはない。このため、前記空間を有効に利用することができる。さらに、前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材又は前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間に介在する前記振動エネルギー吸収材は、目立ち難く、前記壁状部材の外観を損ねることがない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施例に係る建物の正面図。
【図2】図1の線2における建物の縦断面図。
【図3】本発明の第2実施例に係る建物の縦断面図。
【図4】本発明の第3実施例に係る建物の正面図。
【図5】本発明の第4実施例に係る建物の正面図。
【図6】本発明の第5実施例に係る建物の正面図。
【図7】図6の線7における建物の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1、2に示すように、建物10が建設されており、該建物は、水平方向(図1における左右方向)に間隔を置かれた一対の柱12a、12bと、該柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁14及び下方の梁16と、上方の梁14と下方の梁16との間に配置された壁状部材18とを含む。柱12a、12b、上方の梁14及び下方の梁16のそれぞれは鉄筋コンクリートからなる。上方の梁14及び下方の梁16のそれぞれに床スラブ20が接続されている。
【0030】
壁状部材18は、上端部22と、下端部24と、前記水平方向において相対する一対の端部26a、26bとを有する。壁状部材18は、その厚さ方向が前記水平方向と直交している。壁状部材18の上端部22は上方の梁14に固定されており、壁状部材18の下端部24は下方の梁16に固定されていない。壁状部材18の下端部24は、地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けたとき、下方の梁16に対して移動する。
【0031】
壁状部材18の前記水平方向の長さは柱12a、12bの間の間隔より短く、壁状部材18の一方の端部26aは一方の柱12aから間隔を置かれており、壁状部材18の他方の端部26bは他方の柱12bから間隔を置かれている。壁状部材18は、図1に示した例では、現場打ちコンクリートからなるが、これに代え、プレキャストコンクリートからなるものでもよいし、金属製でもよい。
【0032】
建物10は、壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間に介在する振動エネルギー吸収材28を有する。振動エネルギー吸収材28は、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する。
【0033】
振動エネルギー吸収材28は弾性体又は粘弾性体からなる。例えば、振動エネルギー吸収材28は、天然ゴムやイソプレンゴムにカーボンブラックやシリカを配合することにより製造されたいわゆる高減衰ゴムからなるものとすることができる。また、振動エネルギー吸収材28は、アクリル高分子を含む粘弾性体からなるものとすることができる。振動エネルギー吸収材28は、地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けて壁状部材18の下端部24が下方の梁16に対して移動したときにせん断変形して前記振動エネルギーを吸収する。
【0034】
建物10が地震時又は強風時に振動したとき、上方の梁14が前記水平方向の力を受けて下方の梁16に対して変位する。これにより、壁状部材18の下端部24は下方の梁16に対して動く。このとき、振動エネルギー吸収材28がせん断変形することにより、前記振動エネルギーが消費される。このようにして振動エネルギー吸収材28は、前記振動エネルギーを吸収し、建物10の振動を低減させる。
【0035】
建物10の1つの階層を施工するとき、まず、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面の下方に位置する部分と、下方の梁16と、該下方の梁に接続された床スラブ20とを構築する。次に、下方の梁16の上に振動エネルギー吸収材28を配置する。その後、振動エネルギー吸収材28の上にコンクリートを打設して、壁状部材18と、上方の梁14と、該上方の梁に接続された床スラブ20とを構築すると同時に、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面と上方の梁14の上面との間に位置する部分を構築する。
【0036】
なお、壁状部材18がプレキャストコンクリートからなる場合、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面の下方に位置する部分と、下方の梁16と、該下方の梁に接続された床スラブ20とを構築した後、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面と上方の梁14の上面との間に位置する部分を構築する。その後、下方の梁16の上に振動エネルギー吸収材28を配置し、該振動エネルギー吸収材の上に壁状部材18を配置する。その後、壁状部材18の上に、上方の梁14と、該上方の梁に接続された床スラブ20とを設ける。この場合、上方の梁14及び下方の梁16のそれぞれはプレキャストコンクリートからなる。
【0037】
壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間に介在する振動エネルギー吸収材28により前記振動エネルギーを吸収するため、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置を製作すること及び前記振動エネルギー吸収装置を前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定することに多くの手間を要することはなく、建物10を効率的に建設することができる。
【0038】
ところで、前記従来の建物は、地震時又は強風時に上方の梁が受けた水平方向の力が壁状部材を介して柱に伝わることによって前記柱に設計上想定しない力が加えられることを防ぐため、前記上方の梁と前記壁状部材の上端部との間にいわゆるスリット材が介在する。前記スリット材は、前記上方の梁が受けた前記水平方向の力を前記壁状部材に伝えないように前記壁状部材を前記上方の梁から力学的に絶縁する絶縁材である。振動エネルギー吸収材28を壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間に介在させることは、前記従来の建物において前記スリット材を前記上方の梁と前記壁状部材の前記上端部との間に介在させる手間と同程度の手間を要するに過ぎない。
【0039】
振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間に介在するため、壁状部材18の周囲の空間が振動エネルギー吸収材28により狭められることはなく、前記空間を有効に利用することができる。また、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間に介在するため、振動エネルギー吸収材28は、目立ちにくく、壁状部材18の外観を損ねることがない。このため、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置により前記壁状部材の周囲の空間が狭められたり、前記壁状部材の外観が損なわれたりすることはない。
【0040】
図3に示す例では、振動エネルギー吸収材28が弾性体又は粘弾性体からなる図2に示した例に代え、振動エネルギー吸収材28が粘性体からなる。上方に開放され、壁状部材18の下端部24を受け入れる容器30が下方の梁16に固定されており、前記粘性体は容器30に収容されている。前記粘性体は、オイル、シリコンオイル、ポリイソブチレン等からなる。前記粘性体は、地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けて壁状部材18の下端部24が下方の梁16に対して移動したときに粘性抵抗やせん断抵抗を受けて前記振動エネルギーを吸収する。容器30は、間隔を置かれた、相対する一対の側部32と、該側部の間の底部34とを有し、容器30の各側部32と壁状部材18の下端部24とにカバー36が固定されている。カバー36は、容器30内に異物が入るのを阻止する。
【0041】
図4に示す例では、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間にのみ介在する図1に示した例に代え、振動エネルギー吸収材28が、壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間のみならず、壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間にも介在する。なお、壁状部材18の他方の端部26bと他方の柱12bとの間は空間になっている。
【0042】
地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けたとき、壁状部材18の下端部24が下方の梁16に対して移動するとともに、壁状部材18の一方の端部26a及び他方の端部26bがそれぞれ一方の柱12a及び他方の柱12bに対して移動する。このとき、壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間及び壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間において振動エネルギー吸収材28がせん断変形して前記振動エネルギーが吸収される。このため、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間にのみ介在する場合と比べて、前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0043】
壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間及び壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間の双方に振動エネルギー吸収材28が介在する図4に示した例に代え、壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間に振動エネルギー吸収材28が介在し、壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間にいわゆるスリット材(図示せず)が介在してもよい。前記スリット材は、地震時又は強風時に上方の梁14が受けた前記水平方向の力を壁状部材18を介して一方の柱12aに伝えることがないように壁状部材18を一方の柱12aから力学的に絶縁する絶縁材である。前記スリット材は、地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けたときに壁状部材18の下端部24が下方の梁16に対して移動するのを妨げない程度の伸縮性を有する。前記スリット材は、例えば、ポリエチレン発泡体からなる。
【0044】
図5に示す例では、壁状部材18の前記水平方向の長さが柱12a、12bの間の間隔より短い図1に示した例に代え、壁状部材18の前記長さが前記間隔とほぼ等しい。振動エネルギー吸収材28は、壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間、壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間及び壁状部材18の他方の端部26bと他方の柱12bとの間に介在する。
【0045】
地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けたとき、壁状部材18の下端部24が下方の梁16に対して移動するとともに、壁状部材18の一方の端部26a及び他方の端部26bがそれぞれ一方の柱12a及び他方の柱12bに対して移動する。このとき、壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間、壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間及び壁状部材18の他方の端部26bと他方の柱12bとの間において振動エネルギー吸収材28がせん断変形して前記振動エネルギーが吸収される。これにより前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0046】
図6、7に示す例では、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の下端部24と下方の梁16との間に介在する図1に示した例に代え、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間に介在する。この場合、壁状部材18の下端部24は下方の梁16に固定されており、壁状部材18の上端部22は上方の梁14に固定されていない。地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けたとき、上方の梁14は壁状部材18の上端部22に対して移動する。振動エネルギー吸収材28は弾性体又は粘弾性体からなる。
【0047】
建物10が地震時又は強風時に振動したとき、上方の梁14が前記水平方向の力を受けて下方の梁16に対して変位する。これにより、上方の梁14は壁状部材18の上端部22に対して動く。このとき、振動エネルギー吸収材28がせん断変形することにより、前記振動エネルギーが消費される。このようにして振動エネルギー吸収材28は、前記振動エネルギーを吸収し、建物10の振動を低減させる。
【0048】
建物10の1つの階層を施工するとき、まず、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面の下方に位置する部分と、下方の梁16と、該下方の梁に接続された床スラブ20とを構築する。次に、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面と上方の梁14の上面との間に位置する部分を構築すると同時に、下方の梁16の上にコンクリートを打設して壁状部材18を構築する。その後、壁状部材18の上に振動エネルギー吸収材28を配置し、該振動エネルギー吸収材の上に、上方の梁14と、該上方の梁に接続された床スラブ20とを設ける。
【0049】
なお、壁状部材18がプレキャストコンクリートからなる場合、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面の下方に位置する部分と、下方の梁16と、該下方の梁に接続された床スラブ20とを構築した後、各柱12a、12bのうち下方の梁16の上面と上方の梁14の上面との間に位置する部分を構築する。その後、下方の梁16の上に壁状部材18を配置し、該壁状部材の上に振動エネルギー吸収材28を配置する。その後、振動エネルギー吸収材28の上に、上方の梁14と、該上方の梁に接続された床スラブ20とを設ける。
【0050】
壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間に介在する振動エネルギー吸収材28により前記振動エネルギーを吸収するため、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置を製作すること及び前記振動エネルギー吸収装置を前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁とに固定することに多くの手間を要することはなく、建物10を効率的に建設することができる。
【0051】
振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間に介在するため、壁状部材18の周囲の空間が振動エネルギー吸収材28により狭められることはなく、前記空間を有効に利用することができる。また、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間に介在するため、振動エネルギー吸収材28は、目立ちにくく、壁状部材18の外観を損ねることがない。このため、壁状部材の上端部と上方の梁とに固定された振動エネルギー吸収装置により前記振動エネルギーを吸収する従来の場合のように前記振動エネルギー吸収装置により前記壁状部材の周囲の空間が狭められたり、前記壁状部材の外観が損なわれたりすることはない。
【0052】
振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間にのみ介在する図6に示した例に代え、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間及び壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間に介在し、壁状部材18の他方の端部26bと他方の柱12bとの間が空間になっていてもよい。地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けたとき、上方の梁14が壁状部材18の上端部22に対して移動するとともに、一方の柱12a及び他方の柱12bがそれぞれ壁状部材18の一方の端部26a及び他方の端部26bに対して移動する。このとき、壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間及び壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間において振動エネルギー吸収材28がせん断変形して前記振動エネルギーが吸収される。このため、振動エネルギー吸収材28が壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間にのみ介在する場合と比べて、前記振動エネルギーを効果的に吸収することができる。
【0053】
壁状部材18の前記水平方向の長さが柱12a、12bの間の間隔より短い図6に示した例に代え、壁状部材18の前記長さが前記間隔とほぼ等しくてもよい。この場合、振動エネルギー吸収材28は、壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間、壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間及び壁状部材18の他方の端部26bと他方の柱12bとの間に介在するものとすることができる。地震時又は強風時に上方の梁14が前記水平方向の力を受けたとき、上方の梁14が壁状部材18の上端部22に対して移動するとともに、一方の柱12a及び他方の柱12bがそれぞれ壁状部材18の一方の端部26a及び他方の端部26bに対して移動する。このとき、壁状部材18の上端部22と上方の梁14との間、壁状部材18の一方の端部26aと一方の柱12aとの間及び壁状部材18の他方の端部26bと他方の柱12bとの間において振動エネルギー吸収材28がせん断変形して前記振動エネルギーが吸収される。
【符号の説明】
【0054】
10 建物
12a、12b 柱
14 上方の梁
16 下方の梁
18 壁状部材
22 上端部
24 下端部
26a、26b 端部
28 振動エネルギー吸収材
30 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、
前記柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、
前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材と、
前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む、建物。
【請求項2】
水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、
前記柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、
前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、上端部が前記上方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、下端部が前記下方の梁に対して移動する壁状部材とを含み、
前記壁状部材は、前記水平方向において相対する一対の端部であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、それぞれが前記柱に対して移動する一対の端部を有し、
前記壁状部材の前記下端部と前記下方の梁との間及び少なくとも一方の端部と前記柱との間に、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材が介在する、建物。
【請求項3】
水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、
前記柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、
前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、下端部が前記下方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、前記上方の梁が前記壁状部材の上端部に対して移動する壁状部材と、
前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間に介在し、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材とを含む、建物。
【請求項4】
水平方向に間隔を置かれた一対の柱と、
前記柱の間に上下方向に間隔を置いて設けられた上方の梁及び下方の梁と、
前記上方の梁と前記下方の梁との間に配置され、下端部が前記下方の梁に固定された壁状部材であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、前記上方の梁が前記壁状部材の上端部に対して移動する壁状部材とを含み、
前記壁状部材は、前記水平方向において相対する一対の端部であって地震時又は強風時に前記上方の梁が前記水平方向の力を受けたとき、各柱が前記端部に対して移動する一対の端部を有し、
前記壁状部材の前記上端部と前記上方の梁との間及び少なくとも一方の端部と前記柱との間に、地震時又は強風時に生じた振動エネルギーを吸収する振動エネルギー吸収材が介在する、建物。
【請求項5】
前記振動エネルギー吸収材は弾性体又は粘弾性体からなる、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の建物。
【請求項6】
上方に開放され、前記壁状部材の前記下端部を受け入れる容器が前記下方の梁に固定されており、前記振動エネルギー吸収材は、前記容器に収容された粘性体からなる、請求項1に記載の建物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−163787(P2010−163787A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6392(P2009−6392)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【Fターム(参考)】