説明

振動センサの感度補正装置及び内燃機関の燃焼状態監視装置

【課題】内燃機関に装着される振動センサの感度補正を機関の通常燃焼状態の監視に適した周波数帯域において簡便に行うことができる振動センサの感度補正装置を提供する。
【解決手段】機関の点火が行われない所定運転状態において、振動センサ(圧力センサ)の検出信号に含まれる、機関回転数に対応する基本周波数成分の振幅C1を算出するとともに、所定運転状態における、基本周波数に対応する基準振幅C1Mを算出する。基本周波数振幅C1と基準振幅C1Mの比率であるセンサ出力補正係数KSを算出し、センサ出力補正係数KSを用いて圧力センサ出力を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に装着される振動センサの感度補正装置、及び振動センサの検出信号に基づいて、内燃機関の燃焼状態を示す燃焼状態パラメータを算出する燃焼状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関に装着される典型的な振動センサである圧電型圧力センサの感度補正方法が示されている。この方法によれば、圧電型圧力センサの検出信号から、測定対象となる周波数帯域の信号成分が抽出され、抽出された信号が補正基準値によって検出感度がほぼ一定となるように補正される。補正基準値は、抽出信号成分と同じ周波数帯域の特定周波数成分を用いて算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003ー83153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に示された手法は、具体的にはノッキングの検出に用いる圧電型圧力センサの感度補正に適用される手法であり、6〜10kHzのバンドパスフィルタ処理によって得られる信号レベルの平均値(例えばクランク角度が上死点前12度から上死点までの期間に検出される信号レベルを10サイクル程度の期間において平均化することにより得られる値)である。
【0005】
一方、圧力センサの検出値を、機関の通常の燃焼状態を示すパラメータである図示平均有効圧の算出に適用する場合には、必要な圧力センサ出力の主たる周波数成分(1次成分、2次成分)は、機関回転数が相当高い状態(例えば8000rpm)でも300Hzより低い周波数の成分であり、特許文献1に示された手法を適用して圧力センサの感度補正を行うことはできない。
【0006】
また、圧力センサの検出値を、機関の燃焼状態を示すパラメータである図示平均有効圧の算出に適用する場合にはセンサ検出値から得られる、機関回転に同期した成分の強度をより高い精度で補正することが望ましい。
【0007】
本発明は上述した点に着目してなされたものであり、機関に装着される振動センサの感度補正を機関の通常燃焼状態の監視に適した周波数帯域において簡便に行うことができる振動センサの感度補正装置を提供することを第1の目的とし、さらに機関燃焼状態を示す燃焼状態パラメータを、振動センサの検出値に基づいて高い精度で算出することができる内燃機関の燃焼状態監視装置を提供すること第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため請求項1に記載の発明は、内燃機関に装着される振動センサ(11)の感度補正装置において、前記機関の回転数(NE)を検出する回転数検出手段と、前記機関の点火が行われない所定運転状態において、前記振動センサ(11)の検出信号に含まれる、前記機関回転数(NE)に対応する基本周波数成分の強度を示す基本周波数強度パラメータ(C1)を算出する基本強度パラメータ算出手段と、前記所定運転状態における、前記基本周波数に対応する基準強度パラメータ(C1M)を算出する基準強度パラメータ算出手段と、前記基本周波数強度パラメータ(C1)と前記基準強度パラメータ(C1M)との比率に応じて補正係数(KS)を算出する補正係数算出手段と、前記補正係数(KS)を用いて前記振動センサ出力(Eo)を補正するセンサ出力補正手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、内燃機関に装着される振動センサ(11)の出力に基づいて前記機関の燃焼状態を示す燃焼状態パラメータ(IMEP)を算出する燃焼状態パラメータ算出手段を備える、内燃機関の燃焼状態監視装置において、前記機関の回転数(NE)を検出する回転数検出手段と、前記機関の点火が行われない所定運転状態において、前記振動センサ(11)の検出信号に含まれる、前記機関回転数(NE)に対応する基本周波数成分の強度を示す第1周波数強度パラメータ(C1)を算出する第1基本強度パラメータ算出手段と、前記所定運転状態における、前記基本周波数に対応する第1基準強度パラメータ(C1M)を算出する第1基準強度パラメータ算出手段と、前記第1周波数強度パラメータ(C1)と前記第1基準強度パラメータ(C1M)との比率に応じて第1補正係数(K1)を算出する第1補正係数算出手段と、前記機関の通常運転状態において前記振動センサの検出信号に含まれる前記第1周波数強度パラメータ(C1)と、前記振動センサの検出信号に含まれる、前記基本周波数の2倍の周波数の成分の強度を示す第2周波数強度パラメータ(C2)とを算出する通常強度パラメータ算出手段と、該通常強度パラメータ算出手段により算出される第1周波数成分強度パラメータ(C1)を第1補正係数(K1)を用いて補正する第1周波数成分強度補正手段とを備え、前記燃焼状態パラメータ算出手段は、前記第1周波数成分強度補正手段により補正された第1周波数成分強度パラメータ(C1C)と、前記通常強度パラメータ算出手段により算出された第2周波数成分強度パラメータ(C2)とを用いて前記燃焼状態パラメータ(IMEP)を算出することを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の燃焼状態監視装置において、前記所定運転状態において、前記第2周波数強度パラメータ(C2)を算出する第2基本強度パラメータ算出手段と、前記所定運転状態における、前記2倍周波数に対応する第2基準強度パラメータ(C2M)を算出する第2基準強度パラメータ算出手段と、前記第2周波数強度パラメータ(C2)と前記第2基準強度パラメータ(C2M)との比率に応じて第2補正係数(K2)を算出する第2補正係数算出手段と、前記通常強度パラメータ算出手段により算出される第2周波数成分強度パラメータ(C2)を前記第2補正係数(K2)を用いて補正する第2周波数成分強度補正手段とをさらに備え、前記燃焼状態パラメータ算出手段は、前記第1及び第2周波数成分強度補正手段により補正された第1及び第2周波数成分強度パラメータ(C1C,C2C)を用いて前記燃焼状態パラメータ(IMEP)を算出することを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の内燃機関の燃焼状態監視装置において、前記第1補正係数を劣化判定閾値と比較し、前記第1補正係数が前記劣化判定閾値を超えたときに、前記振動センサが劣化したと判定する劣化判定手段をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の内燃機関の燃焼状態監視装置において、前記第1及び第2補正係数を劣化判定閾値と比較し、前記第1補正係数及び第2補正係数の少なくとも一方が前記劣化判定閾値を超えたときに、前記振動センサが劣化したと判定する劣化判定手段をさらに備えることを特徴とする。
【0013】
なお、上記振動センサとしては、圧電素子を用いた圧電型圧力センサが一般的に使用されるが、内燃機関の適切な位置に装着した加速度センサ、力センサ、あるいはすきまセンサも使用可能である。また、上記「所定運転状態」は、感度補正を行うセンサが取り付けられた気筒において点火が行われていない運転状態であり、典型的にはクランキング中(アイドルストップ後の再始動時を含む)で且つ点火開始前の運転状態である。また、例えば気筒休止運転を行う機関において休止中の気筒も「所定運転状態」に該当する。
【0014】
振動センサとして加速度センサ、力センサ、あるいはすきまセンサを用いる場合には、上記補正係数(K1,K2)は、筒内圧に起因する間接的情報であるため、振動や力などの間接情報と、筒内圧データの相関付けをする定数をかけることで、間接情報から得る図示平均有効圧と、圧力センサ出力から得られる図示平均有効圧との相関性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、機関の点火が行われない所定運転状態において、振動センサの検出信号に含まれる、機関回転数に対応する基本周波数成分の強度を示す基本周波数強度パラメータが算出されるとともに、所定運転状態における、基本周波数に対応する基準強度パラメータが算出され、基本周波数強度パラメータと基準強度パラメータとの比率に応じて算出される補正係数を用いて振動センサ出力が補正される。機関の点火が行われない運転状態においては、振動センサ検出信号に含まれる、機関回転数に対応する基本周波数成分の強度が最も大きくなるので、検出される基本周波数強度パラメータと、予め設定されている基準強度パラメータとの比率に応じて補正係数を算出し、この補正係数を用いて振動センサ出力を補正することにより、振動センサの感度補正を機関の通常燃焼状態の監視に適した周波数帯域において比較的簡便に行うことができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、機関の点火が行われない所定運転状態において、振動センサの検出信号に含まれる、機関回転数に対応する基本周波数成分の強度を示す第1周波数強度パラメータが算出されるとともに、所定運転状態における、基本周波数に対応する第1基準強度パラメータが算出され、第1周波数強度パラメータと第1基準強度パラメータとの比率に応じて第1補正係数が算出される。そして、機関の通常運転状態において振動センサの検出信号に含まれる第1周波数強度パラメータと、基本周波数の2倍の周波数の成分の強度を示す第2周波数強度パラメータとが算出され、第1補正係数により補正された第1周波数成分強度パラメータと、補正されない第2周波数強度パラメータとを用いて燃焼状態パラメータが算出される。振動センサ出力に含まれる基本周波数成分及び2次高調波成分の強度(振幅)を用いることにより、代表的な燃焼状態パラメータである図示平均有効圧を比較的高い精度で算出することができるので、検出される第1周波数強度パラメータを、第1補正係数を用いて補正することにより、振動センサ出力の主たる周波数成分を示す第1周波数強度パラメータが振動センサの感度に応じて適切に補正され、燃焼状態パラメータを高い精度で算出することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、機関の点火が行われない所定運転状態において第2周波数強度パラメータとが算出されるとともに、所定運転状態における、2倍周波数に対応する第2基準強度パラメータが算出され、第2周波数強度パラメータと第2基準強度パラメータとの比率に応じて第2補正係数が算出される。そして、機関の通常運転状態において振動センサの検出信号に含まれる第1及び第2周波数強度パラメータが、第1及び第2補正係数を用いて補正され、補正された第1及び第2周波数成分強度パラメータを用いて燃焼状態パラメータが算出される。第2補正係数を用いて第2周波数成分強度パラメータも補正することにより、振動センサの感度補正がより適切に行われ、燃焼状態パラメータを算出精度をより高めることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、第1補正係数が劣化判定閾値と比較され、第1補正係数が劣化判定閾値を超えたときに、振動センサが劣化したと判定されるので、振動センサの感度劣化を簡便に検出することができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、第1及び第2補正係数が劣化判定閾値と比較され、第1補正係数及び第2補正係数の少なくとも一方が劣化判定閾値を超えたときに、振動センサが劣化したと判定されるので、振動センサの感度劣化を簡便に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかる内燃機関及びその制御装置の構成を示す図である。
【図2】圧電型圧力センサの等価回路及び積分増幅器の構成を示す回路図である。
【図3】圧電型圧力センサ出力に含まれる周波数成分の比率を示す図である。
【図4】図示平均有効圧(IMEP)を算出する処理のフローチャートである。
【図5】圧電型圧力センサ出力を補正する補正係数(KS)を算出する処理のフローチャートである。
【図6】図4に示す処理の変形例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる内燃機関(以下「エンジン」という)及びその制御装置の全体構成図であり、例えば4気筒のエンジン1の吸気管2の途中にはスロットル弁3が配されている。スロットル弁3にはスロットル弁開度THを検出するスロットル弁開度センサ4が連結されており、センサ4の検出信号は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)5に供給される。
【0022】
燃料噴射弁6はエンジン1とスロットル弁3との間かつ吸気管2の図示しない吸気弁の少し上流側に各気筒毎に設けられており、各噴射弁は図示しない燃料ポンプに接続されていると共にECU5に電気的に接続されて当該ECU5からの信号により燃料噴射弁6の開弁時間が制御される。エンジン1の各気筒には、点火プラグ7が設けられており、点火プラグ7はECU5に接続されている。ECU5は、点火プラグ7に点火信号を供給する。
【0023】
スロットル弁3の下流側には吸気圧PBAを検出する吸気圧センサ8、及び吸気温TAを検出する吸気温センサ9が設けられている。エンジン1の本体には、エンジン冷却水温TWを検出する冷却水温センサ10が装着されている。さらにエンジン1の各気筒の点火プラグ7の近傍には、筒内圧を検出する圧電型圧力センサ11が装着されている。センサ8〜11の検出信号は、ECU5に供給される。
【0024】
ECU5には、エンジン1のクランク軸(図示せず)の回転角度を検出するクランク角度位置センサ12が接続されており、クランク軸の回転角度に応じた信号がECU5に供給される。クランク角度位置センサ12は、エンジン1の特定の気筒の所定クランク角度位置でパルス(以下「CYLパルス」という)を出力する気筒判別センサ、各気筒の吸入行程開始時の上死点(TDC)に関し所定クランク角度前のクランク角度位置で(4気筒エンジンではクランク角180度毎に)TDCパルスを出力するTDCセンサ及びTDCパルスより短い一定クランク角周期(例えば6度周期)で1パルス(以下「CRKパルス」という)を発生するCRKセンサから成り、CYLパルス、TDCパルス及びCRKパルスがECU5に供給される。これらのパルスは、燃料噴射時期、点火時期等の各種タイミング制御、エンジン回転数(エンジン回転速度)NEの検出に使用される。
【0025】
ECU5は、各種センサからの入力信号波形を整形し、電圧レベルを所定レベルに修正し、アナログ信号値をデジタル信号値に変換する等の機能を有する入力回路、中央演算処理ユニット(以下「CPU」という)、該CPUで実行される各種演算プログラム及び演算結果等を記憶する記憶回路(メモリ)、燃料噴射弁6及び点火プラグ7に駆動信号を供給する出力回路等から構成される。
【0026】
ECU5は、圧力センサ11により検出される筒内圧PCYLを用いて燃焼状態パラメータである図示平均有効圧IMEPを算出し、図示平均有効圧IMEPに応じた点火時期制御を行う。この点火時期制御の詳細は、特許第3993851号公報に示されている。
【0027】
図2は、圧力センサ11及び接続ケーブルの等価回路と、圧力センサ11の出力信号を増幅する積分増幅器の構成を示す図である。圧力センサ11及び接続ケーブルの等価回路は、電圧Eiを出力する電圧源と、センサ及びケーブルの合成抵抗Roc及び合成静電容量Cocの並列回路として表すことができる。積分増幅器21は、演算増幅器AMP及び帰還抵抗Rf及び帰還容量Cfによって構成される。本実施形態では、積分増幅器21はECU5の入力回路内に設けられている。
【0028】
圧力センサ11に力が加わると、センサ感度Ssに応じた電荷Qが発生し、電荷Qは、印加された力Fに比例する(Q=Ss×F)。積分増幅器21の出力電圧Eoは下記式(1)で与えられ、圧力センサ11の印加される力Fに比例する。
Eo=Q/Cf=Ss×F/Cf (1)
したがって、センサ感度Ssがばらつくことにより、力Fに対応する出力電圧Eoが変化する。そこで、後述する圧力センサ11の感度補正が行われる。
【0029】
一方、エンジン1の燃焼状態を示す図示平均有効圧IMEPは、下記式(2)により比較的高精度かつ簡便に算出することができる。この式(2)による図示平均有効圧の算出手法は特公平8−20339号公報に示されている。
【数1】

【0030】
式(2)のC1は、センサ出力Eoに含まれるエンジン回転数NE[rpm]に対応する周波数(基本周波数)f1(=NE/60)の成分(以下「基本周波数成分」という)の振幅であり、C2は基本周波数f1の2倍の周波数に対応する2次成分の振幅である。またφ1はクランク角度で示される基本周波数成分の位相であり、φ2は2次成分の位相であり、hは4サイクルエンジンでは「1/2」に設定され、2サイクルエンジンでは「1」に設定される定数であり、λはエンジンのコンロッド長sとクランク半径rとの比(s/r)である。
【0031】
次に振幅C1,C2の算出手法を説明する。
圧力センサ11の出力信号を積分増幅器21により増幅することにより得られる出力電圧Eoの時間変化波形P(ωt)は、離散フーリエ変換を行うことにより、下記式(3)で示されるように有限個の正弦波関数の和として示す(近似する)ことができる。式(3)のωが角速度、tは時間であり、本実施形態ではωtがクランク角度に相当する。1燃焼サイクルにおけるデータサンプル数をnとすると、式(3)のmはn/2である。また式(4)及び(5)で振幅Ck及び位相φkを定義すると、式(3)は式(6)に変形される。すなわち、上記振幅C1,C2及び位相φ1,φ2は、それぞれ式(4)及び(5)によって算出することができる。
【数2】

【0032】
また式(4)及び(5)のak及びbkは、下記式(7)及び(8)で与えられ、式(6)のa0は、下記式(9)で与えられる。
【数3】

【0033】
図3は、出力電圧Eoに含まれる周波数成分の相対強度(基本周波数成分の振幅C1を基準とする)を示す。この図に示す実線、破線、及び一点鎖線は、それぞれ図示平均有効圧IMEPが231.3kPa,411.9kPa,及び586kPaに対応する。この図から明らかなように、図示平均有効圧IMEPが変化しても、周波数成分強度の分布はほぼ同一であり、次数が高くなると急激に相対強度が減少する。したがって、振幅C1及びC2を用いる式(2)によって、比較的高精度の図示平均有効圧IMEPを得ることができる。
【0034】
図4は、図示平均有効圧IMEPを算出する処理のフローチャートであり、この処理はECU5のCPUでTDCパルスの発生に同期して実行される。
ステップS11では、所定クランク角度毎にサンプリングされたデータPj(j=1〜n)を読み込む。ステップS12では上述した離散フーリエ変換演算を読み込んだデータPjについて実行し、基本周波数成分の振幅C1及び2次成分の振幅C2を算出する(以下それぞれ「第1周波数振幅」及び「第2周波数振幅」という)。
【0035】
ステップS13では、エンジン1のクランキング中でかつ点火開始前であるか否かを判別し、その答が肯定(YES)であるときは、エンジン回転数NE及び吸気圧PBAに応じてC1Mマップ及びC2Mマップを検索し、基本周波数成分に対応する第1基準周波数振幅C1M及び2次成分に対応する第2基準周波数振幅C2Mを算出する。C1Mマップ及びC2Mマップは、平均的な特性の圧力センサを用いて実測されたデータに基づいて予め設定されている。
【0036】
ステップS15では、下記式(10)、(11)により第1及び第2補正係数K1,K2を算出する。
K1=C1M/C1 (10)
K2=C2M/C2 (11)
【0037】
クランキング中でかつ点火開始前は、はエンジン回転数NEがほぼ一定であり、基本周波数f1はほぼ一定である。したがって、第1及び第2周波数振幅C1,C2と、第1及び第2基準周波数振幅C1M,C2Mとの比率である補正係数K1,K2は、使用中の圧力センサの感度と平均的なセンサから感度のずれを示すパラメータとして使用することができる。
【0038】
ステップS13の答が否定(NO)であるときは、ステップS16に進み、下記式(12)、(13)に第1及び第2周波数振幅C1,C2と、第1及び第2補正係数K1,K2を適用し、第1及び第2補正周波数振幅C1C,C2Cを算出する。
C1C=K1×C1 (12)
C2C=K2×C2 (13)
【0039】
ステップS17では、上記式(2)に第1及び第2補正周波数振幅C1C,C2Cを適用し、図示平均有効圧IMEPを算出する。
なお、図示平均有効圧IMEPは気筒毎に算出されるパラメータであり、上述した各パラメータC1,C2,K1,K2,C1C,C2Cの算出は気筒毎に行われる。
【0040】
ステップS18では、第1補正係数K1が劣化判定閾値KDTHより大きいか否かを判別し、この答が否定(NO)であるときは、第2補正係数K2が劣化判定閾値KDTHより大きいか否かを判別する(ステップS19)。ステップS18及びS19の答がともに否定(NO)であるときは、直ちに処理を終了する。
【0041】
ステップS18またはS19の答が肯定(YES)であるときは、圧力センサ11の感度が劣化したと判定し、感度劣化フラグFSDを「1」に設定する(ステップS20)。感度劣化フラグFSDが「1」に設定されると、例えばそのことを示す警告表示が行われる。
【0042】
以上のように本実施形態では、エンジン回転数NEがほぼ一定となるクランキング中でかつ点火開始前において、圧力センサ11の検出信号に含まれる、エンジン回転数NEに対応する基本周波数成分の振幅である第1周波数振幅C1及び2次成分の振幅である第2周波数振幅C2が算出されるとともに、第1及び第2周波数振幅C1,C2に対応し、点火開始前のクランキング中における平均的な振幅である第1及び第2基準周波数振幅C1M、C2Mが算出される。そして、第1及び第2周波数振幅C1,C2と、第1及び第2基準周波数振幅C1M、C2Mとの比率として、第1及び第2補正係数K1,K2が算出され、エンジン1の通常運転状態では第1及び第2周波数振幅C1,C2を第1及び第2補正係数K1,K2で補正した第1及び第2補正周波数振幅C1C,C2Cを用いて図示平均有効圧IMEPが算出される。したがって、圧力センサ11の感度が適切に補正され、図示平均有効圧IMEPを高い精度で算出することができる。
【0043】
また第1及び第2補正係数K1,K2が劣化判定閾値KDTHと比較され、第1補正係数K1または第2補正係数K2が劣化判定閾値KDTHを超えたときに、圧力センサ11が劣化したと判定されるので、圧力センサ11の感度劣化を簡便に検出することができる。
【0044】
本実施形態では、圧力センサ11及びクランク角度位置センサ12が、それぞれ振動センサ及び回転数検出手段に相当し、ECU5が、第1及び第2基本強度パラメータ算出手段、第1及び第2基準強度パラメータ算出手段、第1及び第2補正係数算出手段、通常強度パラメータ算出手段、第1及び第2周波数成分強度補正手段、燃焼状態パラメータ算出手段、及び劣化判定手段を構成する。具体的には、図4のステップS11及びS12が第1及び第2基本強度パラメータ算出手段及び通常強度パラメータ算出手段に相当し、ステップS14が第1及び第2基準強度パラメータ算出手段に相当し、ステップS15が第1及び第2補正係数算出手段に相当し、ステップS16が第1及び第2周波数成分強度補正手段に相当し、ステップS17が燃焼状態パラメータ算出手段に相当し、ステップS18〜S20が劣化判定手段に相当する。
【0045】
[第2の実施形態]
本実施形態は、第1周波数振幅C1と第1基準周波数振幅C1Mとの比率としてセンサ出力補正係数KSを算出し、センサ出力Eoをセンサ出力補正係数KSにより補正するようにしたものである。以下に説明する点以外は、第1の実施形態と同一である。
【0046】
図5は、センサ出力補正係数KSを算出する処理のフローチャートであり、この処理はエンジン1のクランキング中でかつ点火開始前に、ECU5のCPUで実行される。
ステップS21及びS22では、図4のステップS11及びS12と同様に第1周波数振幅C1を算出する。ステップS23では、図4のステップS14と同様に第1基準周波数振幅C1Mを算出する。
【0047】
ステップS24では、下記式(21)によりセンサ出力補正係数KSを算出する。
KS=C1M/C1 (21)
なお、センサ出力補正係数KSも各気筒毎に(各気筒のセンサ毎に)算出される。
【0048】
本実施形態では、エンジン1の通常運転状態で得られるセンサ出力Eoにセンサ出力補正係数KSを乗算することにより、補正センサ出力EoCを算出し、補正センサ出力EoCを用いて、図示平均有効圧IMEP及び/または最大筒内圧PCYLMAXの算出を行う。
【0049】
以上のように本実施形態では、第1周波数振幅C1と第1基準周波数振幅C1Mとの比率としてセンサ出力補正係数KSが算出され、センサ出力Eoがセンサ出力補正係数KSにより補正されるので、圧力センサ11の感度補正を通常燃焼状態の監視に適した周波数帯域において比較的簡便に行うことができる。
【0050】
本実施形態では、ECU5が、基本強度パラメータ算出手段、基準強度パラメータ算出手段、補正係数算出手段、及びセンサ出力補正手段を構成する。具体的には、図5のステップS21,S22が基本強度パラメータ算出手段に相当し、ステップS23が基準強度パラメータ算出手段に相当し、ステップS24が補正係数算出手段に相当する。
【0051】
なお本発明は上述した実施形態に限るものではなく、種々の変形が可能である。例えば、第1の実施形態では、第1及び第2補正係数K1,K2を算出し、第1周波数振幅C1及び第2周波数振幅C1,C2をそれぞれ第1及び第2補正係数K1,K2により補正するようにしたが、図6に示すように第1補正係数K1のみ算出し、第1周波数振幅C1のみを補正するようにしてもよい。
【0052】
図6の処理は、図4のステップS14〜S17をそれぞれステップS14a〜S17aに代え、ステップS19を削除したものである。
ステップS14aでは、エンジン回転数NE及び吸気圧PBAに応じて第1基準周波数振幅C1Mを算出し、ステップS15aでは第1補正係数K1を算出する。ステップS16aでは、第1補正係数K1を用いて第1補正周波数振幅C1Cを算出し、ステップS17aでは、第1補正周波数振幅C1C及び第2周波数振幅C2を用いて図示平均有効圧IMEPを算出する。ステップS18の答が否定(NO)であるときは、直ちに処理を終了する。
【0053】
図示平均有効圧IMEPは上記式(2)により算出されるが、第2周波数振幅C2は、図3に示すように第1周波数振幅C1の1/2程度であり、かつ式(2)の(1/2λ)が一般に0.125程度の値となるため、図示平均有効圧IMEPの算出における第2周波数振幅C2の寄与度は第1周波数振幅C1に比べてかなり小さい。したがって、第1周波数振幅C1のみを補正することによっても、図示平均有効圧IMEPを比較的高い精度で算出することができる。なお、第1の実施形態のように第2周波数振幅C2も補正することにより、算出精度がさらに高めるられることは言うまでもない。
【0054】
またこの変形例では、第2補正係数K2は算出されないので、圧力センサ感度の劣化判定は、第1補正係数K1のみを用いて行われる(ステップS18,S20)。
【0055】
また上述した実施形態では振動センサとして最も一般的な圧電型圧力センサを使用したが、圧電型圧力センサに代えて、加速度センサ、力センサ、またはすきまセンサを使用してもよい。公知の非特許文献(自動車技術学会学術講演会前刷集2006/05「加速度、力、すきまセンサを用いた図示平均有効圧モニタ法」)に示されるように、加速度センサ、力センサ、またはすきまセンサにより、圧電型圧力センサと相関性の高い検出データを得ることができる。
【0056】
また上述した第1の実施形態では、第1及び第2補正係数K1,K2そのものを用いてセンサ感度の劣化判定を行うようにしたが、前回運転時に算出された補正係数K1,K2を記憶しておき、今回運転時に算出された補正係数K1,K2の前回値からの変化量または変化率に基づいて、劣化判定を行うようにしてもよい。
【0057】
また本発明は、クランク軸を鉛直方向とした船外機などのような船舶推進機用エンジンなどの燃焼状態監視装置にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 内燃機関
5 電子制御ユニット(第1及び第2基本強度パラメータ算出手段、第1及び第2基準強度パラメータ算出手段、第1及び第2補正係数算出手段、センサ出力補正手段、通常強度パラメータ算出手段、第1及び第2周波数成分強度補正手段、燃焼状態パラメータ算出手段、劣化判定手段)
11 圧電型圧力センサ(振動センサ)
12 クランク角度位置センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に装着される振動センサの感度補正装置において、
前記機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記機関の点火が行われない所定運転状態において、前記振動センサの検出信号に含まれる、前記機関回転数に対応する基本周波数成分の強度を示す基本周波数強度パラメータを算出する基本強度パラメータ算出手段と、
前記所定運転状態における、前記基本周波数に対応する基準強度パラメータを算出する基準強度パラメータ算出手段と、
前記基本周波数強度パラメータと前記基準強度パラメータとの比率に応じて補正係数を算出する補正係数算出手段と、
前記補正係数を用いて前記振動センサ出力を補正するセンサ出力補正手段とを備えることを特徴とする振動センサの感度補正装置。
【請求項2】
内燃機関に装着される振動センサの出力に基づいて前記機関の燃焼状態を示す燃焼状態パラメータを算出する燃焼状態パラメータ算出手段を備える、内燃機関の燃焼状態監視装置において、
前記機関の回転数を検出する回転数検出手段と、
前記機関の点火が行われない所定運転状態において、前記振動センサの検出信号に含まれる、前記機関回転数に対応する基本周波数成分の強度を示す第1周波数強度パラメータを算出する第1基本強度パラメータ算出手段と、
前記所定運転状態における、前記基本周波数に対応する第1基準強度パラメータを算出する第1基準強度パラメータ算出手段と、
前記第1周波数強度パラメータと前記第1基準強度パラメータとの比率に応じて第1補正係数を算出する第1補正係数算出手段と、
前記機関の通常運転状態において前記振動センサの検出信号に含まれる前記第1周波数強度パラメータと、前記振動センサの検出信号に含まれる、前記基本周波数の2倍の周波数の成分の強度を示す第2周波数強度パラメータとを算出する通常強度パラメータ算出手段と、
該通常強度パラメータ算出手段により算出される第1周波数成分強度パラメータを前記第1補正係数を用いて補正する第1周波数成分強度補正手段とを備え、
前記燃焼状態パラメータ算出手段は、前記第1周波数成分強度補正手段により補正された第1周波数成分強度パラメータと、前記通常強度パラメータ算出手段により算出された第2周波数成分強度パラメータとを用いて前記燃焼状態パラメータを算出することを特徴とする内燃機関の燃焼状態監視装置。
【請求項3】
前記所定運転状態において、前記第2周波数強度パラメータを算出する第2基本強度パラメータ算出手段と、
前記所定運転状態における、前記2倍周波数に対応する第2基準強度パラメータを算出する第2基準強度パラメータ算出手段と、
前記第2周波数強度パラメータと前記第2基準強度パラメータとの比率に応じて第2補正係数を算出する第2補正係数算出手段と、
前記通常強度パラメータ算出手段により算出される第2周波数成分強度パラメータを前記第2補正係数を用いて補正する第2周波数成分強度補正手段とをさらに備え、
前記燃焼状態パラメータ算出手段は、前記第1及び第2周波数成分強度補正手段により補正された第1及び第2周波数成分強度パラメータを用いて前記燃焼状態パラメータを算出することを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃焼状態監視装置。
【請求項4】
前記第1補正係数を劣化判定閾値と比較し、前記第1補正係数が前記劣化判定閾値を超えたときに、前記振動センサが劣化したと判定する劣化判定手段をさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の燃焼状態監視装置。
【請求項5】
前記第1及び第2補正係数を劣化判定閾値と比較し、前記第1補正係数及び第2補正係数の少なくとも一方が前記劣化判定閾値を超えたときに、前記振動センサが劣化したと判定する劣化判定手段をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の燃焼状態監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−106335(P2011−106335A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261912(P2009−261912)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】