説明

振動予測装置、及び振動予測プログラム

【課題】工事による嫌振装置への影響を容易に予測可能にすることを目的とする。
【解決手段】振動環境予測プログラムを実行することにより、基本画面を表示し(100)、基本画面に沿って、工事位置からの距離の入力、工事種の入力、及び評価基準値の入力を行う(102〜118)。そして、予測振動値の表示が指示された場合に、入力された工事位置からの距離、及び工事種、並びに予め記憶された建設機械種毎にデータベースに基づいて、嫌振装置が配置された位置における振動を算出することによって予測し、予測結果及び評価基準値をディスプレイに表示する(120〜126)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動予測装置、及び振動予測プログラムにかかり、特に、免震改修工事や、制震改修工事、耐震補強工事等のように既存の建物に対して工事を行う際に発生する人が体感できない振動を予測する振動予測装置、及び振動予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オフィスビル等の建物のリニューアルに際し、建設工事中にも建物を継続して利用する形態が増えてきている。しかし、リニューアル工事等で建設機械を用いると、建物の躯体に加えられた振動が構造体を伝搬することで、建設工事を行っている階や別の階でも振動及び騒音が発生する。このため、建設工事中に建物を継続して利用する形態の建設工事においては、建物のうち工事期間に継続利用可能な区域を適宜に定めたり、建設工事で使用可能な建設機械を適正に選定するために、建設機械の使用に伴って建物の各箇所で発生する振動及び騒音の大きさを建設工事の施工前に予測したい、という要望がある。
【0003】
そこで、特許文献1に記載の技術では、所定の建設機械を用いて既存の建築物に対する建設工事を実施したときの建築物内の複数箇所で発生する振動の加速度レベル及び騒音の音圧レベルを各々実測しておき、所定の建設機械の加振力の仮定値を用いて加速度レベルを推定し、実測値とのレベル差を演算し、加速度レベルの推定値を用いて騒音の音圧レベルを推定し、実測値とのレベル差を演算することを、各箇所毎で各オクターブバンド毎に行い、各オクターブバンド毎に、加速度レベルのレベル差と音圧レベルのレベル差のエネルギー平均値を求め、加振力の仮定値を補正することで所定の建設機械の加振力を推定して、所定の建設機械を使用したときの任意の箇所での振動及び騒音を、前記加振力の推定値を用いて推定することが提案されている。
【0004】
一方、半導体や液晶等の精密機器を製造する工場において、居ながらできる免震改修工事や、制震改修工事、耐震補強工事等の要望も増加している。このような場合に、工事中も建物をそのまま利用して工場の操業を止めることなく工事を実施することが工事の依頼主にとってメリットがあり工事着手の条件となる場合がおおくなっっているが、工場を操業しながら工事を行う際には、工事によって発生する微振動が問題となる。特に半導体や液晶など精密機器を製造する工場では、工事による微振動が操業中の生産装置に伝搬して歩留まりの低下の原因となる。
【特許文献1】特開2003−42836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、人が騒音として聞くことができる31.5Hz以上の振動及び騒音を対象としているので、加振源の加振力を補正して、騒音を再現するようにしたもので、人には聞こえない20Hz以下の振動を評価して、振動を嫌う生産装置(以下、嫌振装置という。)に対する工事の影響を予測するものではない。
【0006】
建物を使用しながら実施する免震改修工事や、制震改修工事、耐震補強工事などでは、工事場所が振動を嫌う工場の場合に、工事中の振動が嫌振装置に与える影響が問題となる。こうした改修工事では、工事着工前に、どの程度の振動が、どこまで影響を与えるかなどを予測することが求められる。
【0007】
本発明は、上記事実を考慮して成されたもので、工事による嫌振装置への影響を容易に予測可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1に記載の振動予測装置は、既存の建物に対して建設機械を用いて工事を実施したときの前記建物内の特定位置での振動を建設機械の種類毎に予め測定した測定値を記憶する記憶手段と、振動の評価対象装置が配置された位置における前記工事による振動を予測する際に必要な条件を設定するための設定画面及び前記位置における振動の予測結果を表示する表示手段と、前記表示手段に表示された前記設定画面に対して、前記工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から前記評価対象装置が配置された位置までの距離を前記条件として入力するための入力手段と、前記入力手段によって入力された建設機械の種類及び前記距離、並びに、前記記憶手段に記憶された前記測定値に基づいて、前記位置における前記工事による振動を予測する予測手段と、を備えることを特徴としている。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、記憶手段には、既存の建物に対して建設機械を用いて工事(例えば、免震改修工事や、制震改修工事、耐震補強工事等)を実施したときの建物内の特定位置での振動を建設機械の種類毎に予め測定した測定値が記憶される。
【0010】
表示手段では、振動の評価対象装置が配置された位置における工事による振動を予測する際に必要な条件を設定するための設定画面及び振動の予測結果が表示される。
【0011】
また、入力手段には、表示手段に表示された設定画面に対して、工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から評価対象装置が配置された位置までの距離が条件として入力される。
【0012】
そして、予測手段では、入力手段によって入力された建設機械の種類及び距離、並びに、記憶手段に記憶された測定値に基づいて、評価対象装置が配置された位置における工事による振動が予測される。そして、予測手段によって予測された予測結果が表示手段に表示される。
【0013】
すなわち、工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から評価対象装置が配置された位置までの距離を入力手段を用いて入力するだけで、評価対象装置が配置された位置における振動の予測結果を表示することができるので、評価対象装置(振動を嫌う嫌振装置)への影響を容易に予測することができる。
【0014】
なお、請求項2に記載の発明のように、記憶手段が、評価対象装置の振動スペックを条件として更に記憶し、表示手段が、予測結果と共に振動スペックを更に表示するようにしてもよい。これによって、工事着工により評価対象装置に影響を及ぼすか否かを容易に確認することができる。
【0015】
また、請求項3に記載の発明のように、入力手段が、評価対象装置が配置された位置が梁上かスラブ上かを条件として更に入力し、予測手段が、入力手段によって入力された条件に対応した記憶手段に予め記憶された増幅値を用いて工事により発生する振動を予測するようにしてもよい。すなわち、評価対象装置の配置が梁上かスラブ上かによって振動の伝搬特性が異なるので、これを考慮して振動を予測することによって評価対象装置に伝搬する振動をより正確に予測することができる。
【0016】
さらに、請求項4に記載の発明のように、予測手段が、記憶手段に記憶された測定結果を加振点のパワーレベルとし、評価対象装置が配置された階層数に所定の減衰値を乗算した値を垂直方向の減衰として該加振点のパワーレベルから減算し、躯体内振動伝搬特性の距離減衰式を用いて水平方向の振動の減衰を算出することで、工事による振動を予測するようにしてもよい。すなわち、振動が騒音になっても聞こえない20Hz以下の振動については、躯体内振動伝搬特性の距離減衰式を用いて算出することができ、当該距離減衰式を用いることで、距離に対して振動の減衰を算出することができるので、評価対象装置が配置された位置へ伝搬される振動(特に、20Hz以下の振動)を予測することができる。また、垂直方向の振動の伝搬は、1階層につき所定の減衰値であるので、垂直方向を階層数×所定の減衰値として加振源パワーレベルから減算して計算することにより、簡単に評価対象装置が配置された位置へ伝搬される振動を予測することができる。
【0017】
また、請求項5に記載の振動予測プログラムは、既存の建物に対して建設機械を用いて工事を実施する際に振動の評価対象装置が配置された位置における前記工事による振動を予測するときに必要な条件を設定するための設定画面を表示手段に表示する設定表示ステップと、前記設定表示ステップで表示した前記設定画面に対して、既存の建物に対する前記工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から前記評価対象装置が配置された位置までの距離を前記条件として入力手段を用いて入力させる入力ステップと、入力ステップで入力された建設機械の種類及び前記距離、並びに前記工事を実施したときの前記建物内の特定位置での振動を建設機械の種類毎に予め測定した測定値に基づいて、前記位置における振動を予測する予測ステップと、前記予測ステップで予測した予測結果を表示手段に表示する結果表示ステップと、含む処理をコンピュータに実行させることを特徴としている。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、設定表示ステップでは、既存の建物に対して建設機械を用いて工事(例えば、免震改修工事や、制震改修工事、耐震補強工事等)を実施する際に振動の評価対象装置が配置された位置における工事による振動を予測するときに必要な条件を設定するための設定画面をディスプレイ等の表示手段に表示する。
【0019】
続いて、入力ステップでは、設定表示ステップで表示した設定画面に対して、既存の建物に対する工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から前記評価対象装置が配置された位置までの距離を条件としてマウスやキーボード等の入力手段を用いて入力させる。すなわち、解析者がキーボードやマウス等の入力手段を用いて設定画面に対して条件を入力する。
【0020】
これによって予測ステップでは、入力ステップで入力された建設機械の種類及び距離、並びに工事を実施したときの既存の建物内の特定位置での振動を建設機械の種類毎に予め測定した測定値に基づいて、評価対象装置が配置された位置における振動を予測し、結果表示ステップでは、予測ステップで予測した予測結果をディスプレイ等の表示手段に表示する。
【0021】
すなわち、振動予測プログラムをコンピュータに実行させることにより、工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から評価対象装置が配置された位置までの距離を入力手段を用いて入力するだけで、評価対象装置が配置された位置における振動の予測結果を表示することができるので、評価対象装置(振動を嫌う嫌振装置)への影響を容易に予測することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から評価対象装置が配置された位置までの距離を入力するだけで、評価対象装置が配置された位置の振動を予測結果を表示することができるので、評価対象装置(振動を嫌う嫌振装置)への影響を容易に予測することができる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係わる振動予測装置10の概略構成を示すブロック図である。
【0024】
本発明の実施の形態に係わる振動予測装置10は、複数台の振動ピックアップ12が接続可能に構成されている。各振動ピックアップ12は、建物の任意の位置に各々設置可能とされ、建設機械14(建設機械の一例を図1の符号「14」を付して示す)の使用に伴って測定箇所に発生する振動を測定する。
【0025】
振動ピックアップ12は、振動の実測時にはデータレコーダ16に接続され、振動の実測結果はデータレコーダ16へ出力され、振動データとしてデータレコーダ16に記録される。データレコーダ16は周波数分析器18に接続可能とされており、データレコーダ16に記録された振動データは周波数分析器18へ出力される。
【0026】
周波数分析器18はデータレコーダ16から入力される振動データに対して周波数分析を行い、振動データからそれぞれの振動の実測箇所について、発生した振動の加速度レベルを1/3オクターブバンド単位で表す加速度レベルデータを生成する。なお、本実施の形態では、主として20Hz以下の周波数について、1/3オクターブバンド単位で表す加速度レベルデータを生成する。
【0027】
また、振動予測装置10は、パーソナルコンピュータ(PC)20を含んで構成されている。PC20は、CPU22、ROM24、RAM26、及び入出力ポート28を備えている。これらがアドレスバス、データバス、及び制御バス等のバス30を介して互いに接続されている。入出力ポート28には、各種の入出力機器として、ディスプレイ32、マウス34、キーボード36、ハードディスク(HDD)38、及びCD−ROM42からの情報の読出しを行うCD−ROMドライブ40が各々接続されている。
【0028】
周波数分析器18は、PC20に接続可能とされており、上述した加速度レベルデータは周波数分析器18からPC20に入力される。そして、HDD38に記憶される。
【0029】
PC20のHDD38には、後述する振動を予測するための振動環境予測プログラムがインストールされている。本実施の形態の振動環境予測プログラムは、建物を使用しながら実施する工事(免震改修工事や、制震改修工事、耐震補強工事等)を行う際に、当該建物で使用される振動を嫌う生産装置に伝搬される振動(特に、20Hz以下の振動)を予測及び評価するものである。すなわち、免震改修工事や、制震改修工事、耐震補強工事等の工事着工前に、どの程度の振動が、どこまで影響を与えるかなどを予測するためのプログラムである。なお、以下の説明では、免震改修工事の場合を例として説明する。
【0030】
なお、振動環境予測プログラムをPC20にインストールするには幾つかの方法があるが、例えば、振動環境予測プログラムをセットアッププログラムと共にCD−ROM42に記録しておき、CD−ROM42をPC20のCD−ROMドライブ40にセットし、CPU22に対してセットアッププログラムの実行を指示すれば、CD−ROM42から振動環境予測プログラムが順に読み出され、読み出されたプログラムがHDD38に書き込まれることで、振動環境予測プログラムのインストールが行われる。また、振動環境予測プログラムが、公衆電話回線やコンピュータネットワーク(例えば、LAN、インターネット、及び無線通信ネットワーク等)を介してPC20と接続される他の情報処理機器(例えば、ネットワークサーバ等)の記憶装置に記憶されており、PC20が情報処理機器と通信することで、情報処理機器からPC20へ伝送され、HDD38にインストールされてPC20で実行される構成を採用するようにしてもよい。
【0031】
次に、本実施の形態の作用として、振動環境予測プログラムを実行するために必要な振動の実測について説明する。
【0032】
本実施の形態では、既存の建物に対して免震改修工事を実施する際に発生する振動を予測するためには、建設機械の種類毎に発生する振動データが必要であるため、所定(建物構造種毎)の建物をモデルとして振動を実測する。なお、建物の種類毎に実測するようにしてもよい。
【0033】
実測に用いる建物内における建設機械の使用箇所(建設機械による施工箇所・加振点)を定め、施工箇所の位置に振動ピックアップ12を設置する。例えば、振動ピックアップ12は、施工箇所の近傍(施工箇所と同一階)及び施工箇所より上層の各階における、施工箇所の真上に相当する柱、床、壁に各々設置することができる。
【0034】
また、振動ピックアップ12の実測結果を記録するために、振動ピックアップ12の近傍にデータレコーダ16を設置(例えば各階毎に設置)し、それぞれの振動ピックアップ12をデータレコーダ16に接続する。そして、建設機械の種類(ワイヤソー、ウォールソー、ブレーカ、ベビークラッシャー等)毎により施工箇所に対して施工(加振)を行う。
【0035】
これにより、建設機械によって発生した振動が固体(躯体)を伝搬することで各実測箇所に振動が発生し、各振動ピックアップ12で実測された振動が振動データとしてデータレコーダ16に記録される。
【0036】
振動の実測終了後、データレコーダ16に記録された振動データは、周波数分析器18に出力される。そして、周波数分析器18では、振動データが1/3オクターブバンド毎に周波数分析されて、加速度レベルデータとしてPC20に出力され、建設機械の種類毎に加速度のデータベースとしてHDD38に記憶される。
【0037】
このように実測によってデータベースがHDD38に記憶された状態で振動環境予測プログラムを実行すると、既存の建物に対して免震改修工事を行った場合に建物内の所定位置(嫌振装置が配置された位置)に伝搬する振動が予測される。すなわち、図2に示すように、免震改修工事の際に使用する建設機械14を加振源として、建物内の所定位置(嫌振装置44の位置)に伝搬する振動が伝搬するので、当該振動が予測される。
【0038】
振動の予測は、建設機械から予測対象位置までの距離及び建設機械の種類等を入力設定することによって予測される。
【0039】
振動の予測は、具体的には、「建築構造体中の固体音伝搬性状」日本音響学会誌 昭和54年11月号に記載されている、松田等による躯体内振動伝搬特性の距離減衰式(以下の(1)式)を用いて予測する。
【0040】

=P−N・log10r−α・√f・r ・・・(1)

但し、Lは加振点から距離r(m)離れた位置の加速度、Pは加振源パワーレベル(dB)、Nは加振方法による係数(5、10、20など)、fは周波数(Hz)、αは減衰定数、rは伝搬距離(m)である。なお、減衰定数αは、建物構造によって異なる定数であり、例えば、S造建築の場合に減衰定数α1、RC造建築の場合に減衰定数α2を用いる。
【0041】
本実施形態では、データベースとしてHDD38に建設機械の種類毎に記憶された振動データに基づいて、(1)式の各係数を決定する。そして、加振点から予測点までの距離及び使用する建設機械の種類等を入力設定することで、予測点における振動を(1)式から算出することによって振動を予測する。なお、(1)式の各係数の決定は、振動環境予測プログラムの実行前に予め決定する。
【0042】
実測値を用いて各係数を決定する際には、(1)から算出される加速度レベルと実測値とを比較することによって算定するが、このとき実測値Lsは、柱・壁・床のそれぞれの測定値のエネルギー平均を用いる。また、本実施の形態では、(1)式の未知数のうち幾何学的拡散による減衰を表す定数Nは、RC柱を切断している時の定常振動に近い加振状態とブレーカーで破壊している時のような衝撃振動の加振状態とではNの数値を実測にあうように変えて用いる。
【0043】
ここで、振動環境予測プログラムを実行した際にディスプレイ32に表示される各種画面の一例について簡単に説明する。
【0044】
振動環境予測プログラムを実行すると、まず初めに初期画面として図3に示す基本画面46がディスプレイ32に表示される。基本画面46では、振動環境を予測するための入力項目(図3では、「工事位置からの距離」、「免震工事の種類選択」、「評価基準値の選択」、「予測振動値の表示」)を選択するための表示が行われる。
【0045】
基本画面46の中から工事位置からの距離が選択指示されると、図4に示す距離入力画面48がディスプレイ32に表示される。距離入力画面48では、建設機械(施工場所)から予測対象位置(嫌振装置)までの鉛直方向の距離として「工事位置と振動予測点との階層数」、水平方向の距離として「工事位置と振動予測点との距離」、予測点の状態として「梁上かスラブ上かの選択」(柱から振動が伝搬してきた場合、梁上とスラブ上とでは振動の増幅度合いが異なるので選択)、「プロットする周波数範囲」(嫌振装置44の装置メーカーにより振動スペックを規定されている周波数範囲が異なることがあるため出力する周波数範囲を変えるために選択)、及び使用する振動減衰値の選択(自動計算の減衰を選択すれば予め定めたデフォルト値が与えられ、デフォルト値ではなく解析者の判断により任意に減衰値を計算可能としている)を行うための表示項目がディスプレイ32に表示される。
【0046】
また、基本画面46の中から免震工事の種類選択が選択指示されると、図5に示す免震工事の種類選択画面50が表示がディスプレイ32に表示される。免震工事の種類選択画面50では、使用する建設機械の種類毎に予め実測されて記憶された1/3オクターブバンド毎の振動データがディスプレイ32に表示される。
【0047】
また、基本画面46の中から評価基準値の選択が選択指示されると、図6に示す評価基準値の選択画面52がディスプレイ32に表示される。評価基準値の選択画面52では、予め記憶されたファイルを選択するための画面がディスプレイ32に表示される。本実施の形態では、よく使われる振動スペックの1μm,1gal、2μm,2galは100Hzまでと200Hzまでの2種類を準備しており、選択するだけで、予測結果をディスプレイ32に表示することができる。その他に振動スペックを選択する場合には、各自解析者が作成することができる。作成する場合には、周波数範囲や振幅値の表示、周波数分析方法などに注意して作成する必要がある。例えば、周波数分析については、1/3オクターブ分析、FET分析など、振幅値については実効値(r.m.s.)、片振幅(0−P)、全振幅(P−P)などについて注意する。
【0048】
また、基本画面46の中から予測振動値の表示が選択指示されると、振動予測の結果がディスプレイ32に表示される。振動予測の結果の一例としては、図7に示す振動環境予測結果がトリパータイト上にプロットされた予測結果画面54がディスプレイ32に表示される。図7は、耐圧版上で重機が移動した場合の5層上の水平距離5m離れた場所の予測結果画面である。実線は振動スペックの1μm,1galを表しており、この例では振動スペックを予測結果の周波数特定が下回っているため重機移動による嫌振装置への影響がないことがわかる。
【0049】
続いて、PC20のHDD38に加速度のデータベース(加振源となる建設機械の種類毎の加速度レベル)が記憶された状態で、オペレータの指示により、PC20のCPU22が振動環境予測プログラムを実行することで実現される振動予測処理について説明する。図8は、本発明の実施の形態に係わる振動予測装置10で行われる振動予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0050】
振動環境予測プログラムの実行が指示されると、まずステップ100では、図3に示す基本画面46が表示されてステップ102へ移行する。すなわち、図3の基本画面46の各項目について順に入力設定し、「予測振動値の表示」を選択指示することによって、所望の位置における振動を予測することができる。
【0051】
次にステップ102では、工事位置からの距離の入力指示が行われたか否か判定される。該判定は、図3に示す「工事位置からの距離」がマウス34やキーボード36等によって選択指示されたか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ104へ移行し、否定された場合にはステップ108へ移行する。
【0052】
ステップ104では、図4に示す距離入力画面48が表示されてステップ106へ移行する。これによって、距離入力画面48の各項目についての入力設定が可能となる。
【0053】
ステップ106では、距離入力終了か否か判定される。該判定、図4に示す距離入力画面48の各表示項目について入力が終了して、「戻るボタン」がマウス34やキーボード36等によって選択指示されたか否か等を判定し、該判定が肯定されるまで待機してステップ128へ移行する。
【0054】
また、ステップ108では、工事種の入力指示が行われたか否か判定される。該判定は、図3に示「す免震工事の種類選択」がマウス34やキーボード36等によって選択指示されたか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ110へ移行し、否定された場合にはステップ114へ移行する。
【0055】
ステップ110では、図5に示す免震工事の種類選択画面50が表示されてステップ112へ移行する。これによって、免震工事の種類によって異なる振動レベルを選択することが可能となる。
【0056】
ステップ112では、工事種の入力が終了したか否か判定される。該判定は、図5に示す免震工事の種類選択画面50の列番号がマウス34やキーボード36等によって入力されて「戻るボタン」が指示されたか否か等を判定し、該判定が肯定されるまで待機してステップ128へ移行する。
【0057】
また、ステップ114では、基準値の入力指示が行われたか否か判定される。該判定は、図3に示す「評価基準値の選択」がマウス34やキーボード36等によって選択指示されたか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ116へ移行し、否定された場合にはステップ120へ移行する。
【0058】
ステップ116では、図6に示す評価基準値の選択画面52が表示されてステップ118へ移行する。これによって、嫌振装置44の振動スペックとしての評価基準値を選択することができる。
【0059】
ステップ118では、評価基準値となるファイルが選択されたか否か判定される。該判定は、HDD38やCD−ROM42等に予め記憶しておいた評価基準値のファイルの選択が図6の評価基準値の選択画面52で行われて「戻るボタン」がマウス34やキーボード36等によって指示されたか否かを判定し、該判定が肯定されるまで待機してステップ128へ移行する。
【0060】
また、ステップ120では、予測振動値の表示指示が行われたか否か判定される。該判定は、図3に示す「予測振動値の表示」がマウス34やキーボード36等によって選択指示されたか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ122へ移行し、否定された場合にはステップ128へ移行する。
【0061】
ステップ122では、全入力が終了しているか否か判定される。該判定は、上記各ステップで各入力が全て終了しているか否かを判定し、該判定が肯定された場合にはステップ124へ移行し、否定された場合にはステップ100に戻って基本画面46が表示される。なお、全入力が終了していない場合に基本画面46を表示する際に、入力設定されていない項目を知らせるようにしてもよい。例えば、入力設定されていない項目の色を変える等の処理を行うようにしてもよい。
【0062】
ステップ124では、振動予測演算が行われてステップ126へ移行する。振動予測演算は、具体的には、上述の(1)式を用いて1/3オクターブバンド毎の予め実測した加速度(ステップ110で選択された使用する建設機械の種類毎の振動データ)をPに代入してLを算出する。このとき、図4の距離入力画面48に入力された階層数を用いて階層数×所定値(本実施の形態では、1層あたりの減衰が周波数によらず一定の数値であることから所定値としては或る定数を適用する。)を基準の加速度Pから減算することにより、鉛直方向の減衰を算出し、水平方向の距離を(1)式のrに代入してLを算出することで、対象位置の振動を予測する。
【0063】
また、予測点の位置が梁上かスラブ上かによって柱からの振動の増幅度合い(増幅値)が異なるので、距離入力画面48で入力された予測点の状態に応じて、算出したLに対して予め定めた補正を行う。例えば、算出したLに対して予測点の状態に応じて異なる値を加算する等の補正を行うことで、梁上かスラブ上かによる振動の増幅度合いを考慮することができる。なお、本実施の形態では、算出したLを補正するようにしたが、これに限るものではなく、例えば、(1)式の係数を梁上かスラブ上かで異なるようにしてもよいし、他の補正方法を適用するようにしてもよい。
【0064】
ステップ126では、算出した振動予測結果画面が表示されてステップ128へ移行する。例えば、図7に示すように、算出した振動予測値と、図6の評価基準値の選択画面52で選択された評価基準値とが表示される予測結果画面54が表示される。これによって、予測された振動レベルと、嫌振装置44の振動スペックとを表示された画面で確認することができ、工事によって嫌振装置に影響を与えるか否かを評価することができる。
【0065】
そして、ステップ128では、プログラムの終了指示が行われたか否か判定される。該判定は、図3の基本画面46の「プログラムの終了」がマウス34やキーボード36等によって選択指示されたか否かを判定し、該判定が否定された場合にはステップ100に戻って上述の処理が繰り返され、判定が肯定された場合には一連の処理を終了する。
【0066】
このように、加振源の建設機械14の種類と、加振源から嫌振装置44までの距離に関する情報と、嫌振装置44の評価基準値と、を入力するだけで、免震工事によって嫌振装置44が配置された位置へ伝搬される20Hz以下の振動を主として予測することができる。これによって、これまで正確に測定することが困難であった建設機械14による嫌振装置44への振動の影響を容易に評価することができる。
【0067】
また、振動の予測結果と併せて嫌振装置44の振動スペックが同時にディスプレイ32に表示されるので、振動の予測結果と嫌振装置44の振動スペックとを容易に比較することができ、工事着工前に嫌振装置44への影響度を把握して、振動影響が懸念される場合に嫌振装置44を使用しないときに工事を進めるなどの工事計画を立てることができる。
【0068】
なお、上記の実施の形態では、予測結果画面54に評価基準値を予測結果と共に表示するために、評価基準値を設定するようにしたが、評価基準値の設定を省略して振動の予測結果のみを予測結果画面54に表示するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係わる振動予測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】加振源の建設機械から建物内の嫌振装置に伝搬する振動の概略を示す図である。
【図3】振動環境予測プログラムを実行した際に表示される基本画面の一例を示す図である。
【図4】基本画面の「工事位置からの距離」が選択指示された場合に表示される距離入力画面の一例を示す図である。
【図5】基本画面の「免震工事の種類選択」が選択指示された場合に表示される免震工事の種類選択画面の一例を示す図である。
【図6】基本画面の「評価基準値の選択」が選択指示された場合に表示される評価基準値の選択画面の一例を示す図である。
【図7】耐圧版上で重機が移動した場合の5層上の水平距離5m離れた場所の予測結果を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係わる振動予測装置で行われる振動予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
10 振動予測装置
12 振動ピックアップ
14 建設機械
16 データレコーダ
18 周波数分析器
20 PC
32 ディスプレイ
34 マウス
36 キーボード
38 HDD
44 嫌振装置
46 基本画面
48 距離入力画面
50 免震工事の種類選択画面
52 評価基準値の選択画面
54 予測結果画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の建物に対して建設機械を用いて工事を実施したときの前記建物内の特定位置での振動を建設機械の種類毎に予め測定した測定値を記憶する記憶手段と、
振動の評価対象装置が配置された位置における前記工事による振動を予測する際に必要な条件を設定するための設定画面及び前記位置における振動の予測結果を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された前記設定画面に対して、前記工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から前記評価対象装置が配置された位置までの距離を前記条件として入力するための入力手段と、
前記入力手段によって入力された建設機械の種類及び前記距離、並びに、前記記憶手段に記憶された前記測定値に基づいて、前記位置における前記工事による振動を予測する予測手段と、
を備えた振動予測装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記評価対象装置の振動スペックを前記条件として更に記憶し、
前記表示手段が、前記予測結果と共に記憶した前記振動スペックを更に表示する請求項1に記載の振動予測装置。
【請求項3】
前記入力手段は、前記評価対象装置が配置された位置が梁上かスラブ上かを前記条件として更に入力し、
前記予測手段が、前記入力手段によって入力された前記条件に対応した前記記憶手段に予め記憶された増幅値を用いて前記位置における前記工事により発生する振動を予測する請求項1又は請求項2に記載の振動予測装置。
【請求項4】
前記予測手段が、前記記憶手段に記憶された前記測定結果を加振点のパワーレベルとし、前記評価対象装置が配置された階層数に所定の減衰値を乗算した値を垂直方向の減衰として該加振点のパワーレベルから減算して躯体内振動伝搬特性の距離減衰式を用いて水平方向の振動の減衰を算出することで、前記位置における工事による振動を予測する請求項1〜3の何れか1項に記載の振動予測装置。
【請求項5】
既存の建物に対して建設機械を用いて工事を実施する際に振動の評価対象装置が配置された位置における前記工事による振動を予測するときに必要な条件を設定するための設定画面を表示手段に表示する設定表示ステップと、
前記設定表示ステップで表示した前記設定画面に対して、既存の建物に対する前記工事を実施する際に用いる建設機械の種類、及び加振点から前記評価対象装置が配置された位置までの距離を前記条件として入力手段を用いて入力させる入力ステップと、
入力ステップで入力された建設機械の種類及び前記距離、並びに前記工事を実施したときの前記建物内の特定位置での振動を建設機械の種類毎に予め測定した測定値に基づいて、前記位置における振動を予測する予測ステップと、
前記予測ステップで予測した予測結果を表示手段に表示する結果表示ステップと、
を含む処理をコンピュータに実行させるための振動予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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