説明

振動体の駆動回路

【課題】 従来の振動体の駆動回路は、使用する周波数帯域において、圧電素子に印加する交番電圧の振幅変化が振動体の共振周波数近傍で大きかった為、振動体の共振周波数の変化に対して交番電圧が大きく変動してしまう。
【解決手段】 本発明の振動体の駆動回路は、弾性体に固定された電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧を印加することにより、前記電気−機械エネルギー変換素子と前記弾性体とから少なくとも構成される振動体に振動を発生させる。そして、前記電気−機械エネルギー変換素子に直列に接続されたインダクタとキャパシタとを有し、前記インダクタと前記キャパシタとによる直列共振周波数をfsとし、前記振動体の共振周波数をfmとした場合に、0.73・fm<fs<1.2・fmを満たすことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動体の駆動回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学機器としての撮像装置は、撮像素子の分解能が向上するにつれて、使用中に光学系に付着するゴミが撮影画像に影響を及ぼすようになってきた。特に、ビデオカメラ、スチルカメラに用いられる撮像素子の分解能はめざましく向上している。このため、撮像素子の近くに配置されている赤外線カットフィルタ、光学ローパスフィルタ等の光学部材に、外部からの埃や内部の機械的な摺擦面で生じる磨耗粉等の塵埃(粉体)が付着すると、撮像素子面で像のぼけが少ないので、撮影画像に粉体が写り込んでしまうことがあった。
【0003】
また、光学機器としての複写機、ファクシミリ装置等の撮像部は、ラインセンサを走査(スキャン)することで、あるいはラインセンサに近接させた原稿を走査(スキャン)することで、平面原稿を読み取っている。この場合、ラインセンサへの光線入射部に埃が付着すると、スキャン画像に写り込んでしまう。原稿を走査して読み取る方式のファクシミリ装置の読み取り部や、自動原稿送り装置からの原稿を搬送中に読み取る、いわゆる流し読み方式の複写機の読み取り部では、1つの塵埃が原稿送り方向へ連続する線画像となって写り込み、画像の品質を大きく損ねていた。
【0004】
特許文献1では、このような塵埃を、光学部材を備えた振動体に進行波を励起することによって、所望の方向に移動させることができる塵埃除去装置が提案されている。図3は、特許文献1に開示された塵埃除去装置の構成を示す模式図である。撮像素子503の光入射側に光学部材502を備えた振動体501が設けられている。電気−機械エネルギー変換素子である圧電素子101a及び101bは、振動体501における面外曲げ振動の節線の並ぶ方向に位置をずらして配置されている。圧電素子101a及び101bには、各々周波数が同じであり、かつ位相差が90°となる交番電圧を印加する。
【0005】
印加される交番電圧の周波数は、振動体501の長手方向に沿って面外に変形するm次(mは自然数)の振動モードの共振周波数と(m+1)次の振動モードの共振周波数との間の周波数である。振動体501には、共振現象の応答を持ったm次の振動モードの振動、及び90°の時間的位相差(m次の面外曲げ振動に対して90°進んだ位相)を持った(m+1)次の振動モードの振動が、同じ振幅かつ同じ振動周期で励起される。そして、振動体501には、この2つの振動モードの振動が合成された合成振動(進行波)が生成する。この合成振動によって、振動体501の表面の塵埃を所望の方向に移動していく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−207170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の塵挨除去装置は、使用する周波数帯域において、圧電素子101に印加する交番電圧の振幅変化、即ち、交番電圧の周波数特性における傾きが振動体501の共振周波数近傍で大きくなる。この為、振動体501の共振周波数が個体差でばらつく場合や、駆動中に発熱等により共振周波数が変化する場合において、交番電圧が大きく変動してしまう。交番電圧が必要以上に大きくなる場合、電流の増加による消費電力の増加や、振動体501に励起される振動振幅の増大による光学部材501の破損を招いてしまう。また、交番電圧が必要とする電圧を下回る場合、振動体501に励起される面外曲げ振動の振動振幅が十分に得られず、塵挨の除去効率が低下してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、使用する周波数帯域において、振動体の共振周波数がばらつく場合や駆動中に変化する場合においても、電気−機械エネルギー変換素子に印加する交番電圧の変動が小さく、安定した電圧振幅を出力する駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の振動体の駆動回路は、弾性体に固定された電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧を印加することにより、前記電気−機械エネルギー変換素子と前記弾性体とから少なくとも構成される振動体に振動を発生させる振動体の駆動回路であって、前記電気−機械エネルギー変換素子に直列に接続されたインダクタとキャパシタとを有し、前記インダクタと前記キャパシタとによる直列共振周波数をfsとし、前記振動体の共振周波数をfmとした場合に、0.73・fm<fs<1.2・fmを満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用する周波数帯域において、振動体の共振周波数がばらつく場合や駆動中に変化する場合においても、電気−機械エネルギー変換素子に印加する交番電圧の変動が小さく、安定した電圧振幅を出力する駆動回路を提供する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態における振動体の駆動回路を示す図である。
【図2】本発明が適用できる撮像装置の斜視図である。
【図3】塵埃除去装置が装備されたカメラ本体の撮像部の構造を示す斜視図である。
【図4】本発明が適用できる塵挨除去装置の制御装置を示すブロック図である。
【図5】従来の駆動回路の構成を示す図である。
【図6】第1の実施形態における、圧電素子に印加される交番電圧の周波数と圧電素子に生じる各振動の振幅と、その電圧波形とを示すグラフである。
【図7】振動体に励起され、長手方向に沿って面外に変形する10次の面外曲げ振動の変位、11次の面外曲げ振動の変位、および圧電素子の配置を示す図である。
【図8】従来の駆動回路を用いた場合における、交番電圧Voの電圧振幅の周波数特性を示すものである。
【図9】インダクタとキャパシタによる直列共振周波数fsを、振動体の共振周波数fmとほぼ一致させた場合における、電流振幅と交番電圧Voの周波数特性を示すシミュレーション結果を示す。
【図10】アドミッタンスの変化による交番電圧Voの変動の様子を計算によりシミュレーションした結果である。
【図11】インダクタとキャパシタと圧電素子の固有静電容量のばらつきによる、交番電圧Voの変動の様子を示すシミュレーション結果である。
【図12】駆動時間に対する電源電流の変化を測定した結果である。
【図13】fe<2・fdを満たす場合の交番電圧Voの周波数特性を示す図である。
【図14】fs/fmの変化に応じた、従来に対する位相と交番電圧Voの変動の様子を示すシミュレーション結果である。
【図15】fs/fmの変化に応じた、従来に対する位相変化量の割合を示すシミュレーション結果である。
【図16】ピーク周波数feに応じたインダクタのインダクタンスLとキャパシタの静電容量Cとの関係を示す図である。
【図17】第2の実施形態における、トランスを用いた塵挨除去装置の駆動回路を示す図である。
【図18】第3の実施形態における、定在波駆動時の圧電素子に印加される交番電圧の周波数と圧電素子に生じる各振動の振幅と、その電圧波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明が適用できる振動体の駆動回路の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の振動体の駆動装置は、振動体を振動させることにより、粉体等の対象物を駆動することができる。以下の各実施形態では、粉体である塵埃を除去するための塵埃除去装置とその駆動回路を例として説明するが、本発明は、振動体を振動させることにより振動体上の粉体等の対象物を駆動するものであればどのようなものでも適用可能である。本発明において、粉体とは、1μm以上100μm以下の範囲の物体を示す。
【0013】
本発明の振動体やその駆動回路を搭載する装置としては、カメラ(撮像装置)、ファクシミリ装置、スキャナ、プロジェクタ、複写機、プリンタ等の光学機器が考えられる。以下の実施形態では、撮像装置に搭載する例を説明する。また、本発明においては、光電変換素子である、カメラ等の撮像装置に用いられるCCDやCMOSセンサ等の撮像素子や、コピー機やファクシミリ装置等で用いられるラインセンサ等を、受光素子と称する。
【0014】
(第1の実施形態)
本実施形態では、振動体に進行波を励起して粉体である塵埃を移動させる塵埃除去装置をカメラに搭載した形態について説明する。
【0015】
(カメラ本体の構成)
図2(a)は、第1の実施形態における、撮像装置であるデジタル一眼レフカメラを被写体側より見た正面側斜視図であり、撮影レンズを外した状態を示す。図2(b)は、カメラを撮影者側より見た背面側斜視図である。カメラ本体201内には、不図示の撮影レンズを通過した撮影光束が導かれるミラーボックス202が設けられており、ミラーボックス202内にメインミラー(クイックリターンミラー)203が配設されている。塵埃除去装置を備えた撮像部は、不図示の撮影レンズを通過した撮影光軸上に設けられている。メインミラー203は、撮影者がファインダ接眼窓204から被写体像を観察するために撮影光軸に対して45°の角度に保持される状態と、撮像素子の方向へ導くために撮影光束から退避した位置に保持される状態と、を取り得る。カメラ背面には、塵埃除去装置である振動体を駆動するためのクリーニング指示スイッチ205が設けられている。撮影者がクリーニング指示スイッチ205を押すと、塵埃除去装置を駆動するよう指令装置604(図4参照)に指示する。
【0016】
(防塵除去装置の構成)
図3は、振動体である塵埃除去装置が装備されたカメラ本体201の撮像部の構造を示す斜視図である。カメラ本体201の撮像部では、受光した被写体像を電気信号に変換するCCDやCMOSセンサ等の受光素子である撮像素子503が設けられている。また、撮像素子503の表(おもて)面の空間が密封されるように、振動体501が取り付けられる。振動体501は、弾性体である矩形の板状を有する光学部材502と、及びその両端部に接着によって固定された電気−機械エネルギー変換素子である1対の圧電素子101a(第1の電気−機械エネルギー変換素子)、圧電素子101b(第2の電気−機械エネルギー変換素子)と、から少なくとも構成される。光学部材502はカバーガラス、赤外線カットフィルタ、あるいは、光学ローパスフィルタ等の透過率の高い光学部材で構成されており、撮像素子503には、光学部材502を透過した光が入射する。
【0017】
ここで、光学部材502の両端部に配置された圧電素子101a、101bの厚み方向(図中、上下方向)の寸法は、振動に対する曲げ変形の発生力が大きくなるように、光学部材502の厚み方向(図中、上下方向)の寸法と同じ値である。なお、圧電素子101a、101bを特に区別する必要がないときは、単に圧電素子101と称する。
【0018】
(制御装置の構成)
図4は、塵挨除去装置の制御装置を示すものである。制御装置は、指令部604と、パルス発生回路603a及び603bと、スイッチング回路602a及び602bと、電源回路605と、駆動回路601a及び601bと、から構成される。指令部604から交番電圧信号のパラメータとなる周波数情報、位相情報、パルス幅情報が、パルス発生回路603a及び603bに送られる。パルス発生回路には、例えば一般的なデジタル発振器などが用いられる。周波数は、振動体501に発生させる2つの振動モードの振動(面外曲げ振動)の共振周波数の中間値近傍に設定され、同じ周波数がパルス発生回路603a及び603bに各々設定される。振動モードについては、図7を用いて後述する。位相は、互いに異なる値をパルス発生回路603a及び603bに入力し、出力される各交番電圧信号の位相差が異なるように(例えば位相差が90°)設定される。パルス幅(パルス・デューティ)は所望の電圧振幅が得られるよう適宜調整され、パルス発生回路603a及び603bに個別に設定される。
【0019】
パルス発生回路603から出力されたデジタルの交番電圧信号はスイッチング回路602a及び602bに入力され、電源回路605より供給される電圧に基づいてアナログの交番電圧Viとして出力される。電源回路には、一般的な直流電源回路、DC−DCコンバータ回路などが用いられる。また、スイッチング回路には、一般的なHブリッジ回路が用いられる。
【0020】
交番電圧Viは、駆動回路601a及び601bに各々入力されて、電圧振幅が昇圧、且つSIN波形に変換されてから交番電圧Voとして出力される。出力された交番電圧Voは、圧電素子101a及び101bに各々印加され、振動体501に2つの面外曲げ振動が同時に発生する。この合成振動が進行波となり、光学部材502の表面の塵埃を所望の方向に移動させることができる。本発明の特徴である、駆動回路601a及び601bの構成については、図1を用いて後述する。
【0021】
パルス発生回路603から出力されたデジタルの交番電圧信号は、スイッチング回路602a及び602bに入力され、電源回路605より供給される電圧に基づいてアナログの交番電圧Viとして出力される。電源回路には、一般的な直流電源回路、DC−DCコンバータ回路などが用いられる。また、スイッチング回路には、一般的なHブリッジ回路が用いられる。
【0022】
交番電圧Viは、駆動回路601a及び601bに各々入力されて、電圧振幅が昇圧、且つSIN波形に変換されてから交番電圧Voとして出力される。交番電圧Voは圧電素子101a及び101bに各々印加され、振動体501に2つの面外曲げ振動が同時に発生する。この合成振動が進行波となり、光学部材502の表面の塵埃を所望の方向に移動させることができる。
【0023】
(駆動周波数の設定)
次に、駆動周波数の設定について説明する。図6(a)は、圧電素子101に印加される交番電圧の周波数と圧電素子101に生じる各振動の振幅を示すグラフである。図6中、f(m)はm次の面外曲げ振動の共振周波数であり、f(m+1)は(m+1)次の面外曲げ振動の共振周波数である。圧電素子101に印加される交番電圧の周波数fdを、f(m)<fd<f(m+1)に設定すると、m次の面外曲げ振動と(m+1)次の面外曲げ振動それぞれの共振現象によって振幅が拡大された、周波数fdの振動が得られる。各振動の時間周期は同じである。一方、圧電素子101に印加される交番電圧の周波数fdをf(m)より低くするほど、(m+1)次の面外曲げ振動の振幅が小さくなり、周波数fdをf(m+1)より高くするほどm次の面外曲げ振動の振幅が小さくなる。
【0024】
(振動モードの説明)
図7は、振動体501に励起され、長手方向に沿って面外に変形する10次の面外曲げ振動の変位、11次の面外曲げ振動の変位、および圧電素子101a、101bの配置を示す模式図である。横軸は、振動体501の長手方向の位置である。縦軸は、面外の振動変位である。図7中、10次の面外曲げ振動を第1の振動モードとして波形A(実線)で示し、11次の面外曲げ振動を第2の振動モードとして波形B(破線)で示している。第1の振動モードA及び第2の振動モードBは、振動体501を光学部材502の厚さ方向へ曲げ変形させる面外曲げ振動モードである。
【0025】
駆動回路601a及び601bが、上述した交番電圧Voを圧電素子101a及び101bに各々印加することにより、第1の振動モードA及び第2の振動モードBの振動が、振動体501に同時に発生し、重ね合わされる。尚、本実施形態では、塵埃を除去するための最低限必要な振動モードとして、第1の振動モードとして10次の曲げ振動モードを、第2の振動モードとして11次の曲げ振動モードを用いているが、これに限定されるものではない。ここで、撮像素子503に対応する光学有効部は図7中に示す範囲とする。第1の振動モードAの変形形状は、左端と右端で逆相(位相差180°)となっている。一方、第2の振動モードBの変形形状は、左端と右端で同相(位相差0°)となっている。つまり、圧電素子101aと圧電素子101bに印加する交番電圧の位相差を180°とすれば第1の振動モードAのみが発生し、逆に位相差を0°とすれば第2の振動モードBのみが発生する。したがって、位相差を90°とすれば第1の振動モードAと第2の振動モードBを同時に発生させることができ、合成振動による進行波が図中右方向に生じる。
【0026】
図6(b)は、次数の異なる振動モードを同時に励起する際に各圧電素子に印加する交番電圧の例を示す図である。交番電圧Vo1は、圧電素子101aに印加する電圧波形であり、交番電圧Vo2は圧電素子101bに印加する電圧波形を示す。縦軸は電圧振幅であり、横軸は時間を示す。交番電圧Vo1及びVo2の周波数は前述のfdで一定であり、各交番電圧の位相差は90°である。但し、交番電圧Vo1とVo2の位相は異なっていれば良く、位相差は90°に限定されない。
【0027】
塵埃除去装置では、光学部材502の表面に付着した塵埃は、光学部材502が塵埃を面外に突き上げる時、光学部材502の表面の法線方向の力を受けて弾かれるように移動していく。つまり、駆動周波数周期の各位相で、振動体501の合成振動変位の速度が正であるとき塵埃は面外に突き上げられ、この位相における合成振動変位の法線方向の力を受け、塵埃は移動していく。図7では、光学部材502の有効部の表面に付着している塵埃に繰り返し振動を与えることで、塵埃を図7の右方向に移動させ、除去することが可能である。
【0028】
(駆動回路の説明:LC昇圧)
図1を用いて、本発明の第1の実施形態の駆動回路を説明する。図1(a)は第1の実施形態における塵埃除去装置の駆動回路を示す図である。駆動回路の構成として、インダクタ102とキャパシタ103とが、圧電素子101に直列に接続されている。尚、キャパシタ103は、圧電素子101の図1の下側に接続されているが、上側(インダクタ102と圧電素子101との間)に接続しても良い。また、図1(c)に示すように、圧電素子101に対して並列に抵抗104を接続しても良い。抵抗104は電流がほとんど流れない1MΩ程度に設定し、抵抗部で消費電力が発生しないようにする。抵抗104を設けることで、キャパシタ103と圧電素子101の接続点の電位が定まり、圧電素子の両端に安定した交番電圧を印加することができる。
【0029】
ここで、インダクタ102としては、コイル等のインダクタンス素子を用いることができる。また、キャパシタ103としてはフィルムコンデンサ等の静電容量素子を用いることができる。本発明の特徴は、インダクタ102とキャパシタ103とによる直列共振周波数を、振動体501の共振周波数とほぼ一致させる(後述の許容範囲内に設定する)ことにある。
【0030】
ここで、圧電素子101の等価回路について、図1(b)を用いて説明する。図1(b)は、圧電素子101を等価回路で表わしたものである。圧電素子101の等価回路は、振動体501の機械的振動部分のRLC直列回路(自己インダクタンスLmの等価コイル301b、静電容量Cmの等価コンデンサ301c、抵抗値Rmの等価抵抗301d)と、RLC直列回路に並列に接続された圧電素子101の固有静電容量Cdとしてのコンデンサ301aと、により構成される。
【0031】
本発明において、インダクタ102とキャパシタ103とによる直列共振周波数をfsとし、振動体501の共振周波数をfmと定義する。インダクタ102の自己インダクタンスをL、キャパシタ103の静電容量をCとすると、
【0032】
【数1】

【0033】
【数2】


となる。上記fsとfmをほぼ一致させることで、fm近傍での交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることが可能となる。
【0034】
ここで、図5を用いて、圧電素子101に直列にインダクタ102のみを接続した従来の駆動回路の構成について説明する。図5に示すように、圧電素子101に直列にインダクタ102を接続することによって、圧電素子101の固有静電容量とインダクタ102とによるLC直列共振回路が形成される。交番電圧Viの電圧振幅は、LC直列共振回路によって所望の電圧まで昇圧されて、交番電圧Voが出力される。
【0035】
図8に、従来の駆動回路を用いた場合における、交番電圧Voの電圧振幅の周波数特性を示す。横軸は周波数、縦軸は電圧振幅を示す。各プロットは、インダクタ102の値を40μHから90μHまで変えた場合の特性を示している。図8中、f(m)はm次の面外曲げ振動の共振周波数であり、f(m+1)は(m+1)次の面外曲げ振動の共振周波数である。圧電素子101に印加される交番電圧Voの周波数fdは、f(m)<fd<f(m+1)に設定される。図8より、fm及びf(m+1)近傍で、交番電圧Voの振幅変化が生じていることが分かる。また、インダクタ102の値を大きくするほど、fm及びf(m+1)や、fd近傍の電圧振幅の変動が大きくなっている事がわかる。インダクタ102の値を小さくすれば電圧振幅の変動は小さくなるが、昇圧率が低下する為に所望の電圧振幅が出せなくなる。さらに、インダクタ102の値を小さくすると、LC直列共振の電気共振周波数feが高域にシフトする為、駆動周波数fdの高調波成分が基本波に重畳されて波形が歪んでしまう。波形の歪みが大きい場合、振動体501に不要な振動が励起されてしまう。
【0036】
従来例のように、fmやf(m+1)近傍で交番電圧Voの振幅変化が生じる原因は、振動体501の機械的振動部分の自己インダクタンスLmと静電容量Cmによってインピーダンスの変化が生じているためである。これに対して、本発明では、fsとfmをほぼ一致させることで、振動体501の機械的振動部分のインピーダンスに対してマッチング(整合)を取ることができる。よって、結果として交番電圧Voの振幅変化を低減することができるものと考えられる。さらに、fm近傍での交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることで、アドミッタンス(等価抵抗301d)の変化や、インダクタ102及びキャパシタ103のばらつきによる交番電圧Voの変動を低減することができる。これは、振動体501の機械的振動部分のインピーダンスに対してマッチングを取っているため、fm近傍では素子のばらつきに対して周波数特性が影響を受けにくくなっているものと考えられる。
【0037】
(シミュレーション結果:本発明の実施例と従来例との電圧振幅及び電流の比較)
図9に、インダクタ102とキャパシタ103とによる直列共振周波数fsを、振動体501の共振周波数fmとほぼ一致させた場合における、交番電圧Voの周波数特性を示すシミュレーション結果を示す。本実施例では、駆動回路は図1(a)の構成を用いた。本実施例の振動体501は2つの面外曲げ振動を用いており、共振周波数fmはf(m)とf(m+1)の2つとなる。本実施例では、直列共振周波数fsは共振周波数f(m)の方に合わせて、fs=0.83・f(m)として設定した。理想的にはfsとfmを完全に一致させることが望ましいが、電圧振幅の昇圧率を上げることが難しいため、fmより小さい値に設定した。計算によると、fsがfmより小さいと昇圧率が大きくなり、fsがfmより大きいと昇圧率が小さくなる傾向となる。尚、直列共振周波数fsをf(m)に合わせたが、f(m+1)近傍の周波数においても所望の効果を得る事ができる。
【0038】
このシミュレーションでは、等価コイル301bの自己インダクタンスLmを0.04H、等価コンデンサ301cの静電容量Cmを44pFとした。また、f(m)は120kHz、f(m+1)は128kHz、駆動周波数fd=123kHzとした。インダクタ102の自己インダクタンスLを82μH、キャパシタ103の静電容量Cを31nFとして設定した(fs=0.83・fm)。また、プロットが重なっているが、インダクタ102を68μH、キャパシタ103を42nFとして設定したものも示した(fs=0.79・fm)。さらに、従来例として、図5の駆動回路の構成を用いた場合のインダクタ102を68μHとして設定したものを比較例として示した。
【0039】
(電圧の安定化)
図9(a)は、駆動回路に流れる電流振幅の周波数特性を示す図である。図9(b)は、交番電圧Voの電圧振幅の周波数特性を示す図である。図9(a)(b)に示されるように、fsとfmをほぼ一致させることで、f(m)及びf(m+1)近傍での交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることが可能となる。つまり、振動体501の共振周波数の変化に対して安定した電圧が印加され、駆動電流の変化も少なくする事ができる。例えば駆動中に共振周波数f(m+1)が時間の経過に伴って低下していく場合、従来例では交番電圧の振幅が増大し、駆動電流が上昇してしまうが、本発明ではその変化を低減することが可能となる。
【0040】
インダクタ102と、キャパシタ103及び圧電素子101の固有静電容量であるコンデンサ301aと、の電気共振を用いて、交番電圧Voの振幅は、ある周波数でピークを持つように設定される。この交番電圧Voのピーク周波数をfeと定義すると、feをfmより高い周波数に設定することで、fmからfeの間の周波数帯域において、振動体501の駆動周波数fdを変えても電圧変動の少ない周波数特性を得ることができる。本実施例では、ピーク周波数feは、いずれも180〜200kHzに設定した。
【0041】
(アドミッタンス変化の影響低減)
交番電圧Voの変動の低減の効果を図10に示す。図10は、アドミッタンスの変化による交番電圧Voの変動の様子を計算によりシミュレーションした結果である。アドミッタンスの変化は、等価抵抗301dの値を基準値に対して10%〜100%まで変化させて計算した。等価抵抗が小さいほど、アドミッタンスは大きくなる。図10(a)は従来例であり、図10(b)は本実施例である。本実施例は、アドミッタンスの変化の影響を従来例に対して20%程度に低減していることが分かる。
【0042】
(LとC及びCdによるばらつきの影響低減)
図11は、インダクタ102とキャパシタ103と圧電素子101の固有静電容量とのばらつきによる、交番電圧Voの変動の様子を示すシミュレーション結果である。インダクタ102の自己インダクタンスLのばらつきは±20%、キャパシタ103の静電容量Cのばらつきは±10%、圧電素子101の固有静電容量Cdであるコンデンサ301aのばらつきは±10%として、モンテカルロ法による一様分布の乱数計算を行った。図11(a)は従来例であり、図11(b)は本実施例である。本実施例は、圧電素子101を含む駆動回路全体の素子のばらつきの影響を、従来例に対して70%程度に低減していることが分かる。
【0043】
(電流上昇の低減)
実際に本実施例の駆動回路によって振動体501を駆動し、電源電流の比較を行った。図12は、駆動時間に対する電源電流の変化を測定した結果である。電源は12V直流電源を使用した。従来例の駆動回路では、20秒後に、電源電流が初期値に対して約2倍増加したが、本実施例の駆動回路では40%程度の増加であった。従って、消費電力を低減する事が可能となる。
【0044】
(fsとfmとの関係の許容範囲)
次に、圧電素子101に直列に接続されているインダクタ102とキャパシタ103とによる直列共振周波数fsと、振動体501の共振周波数fmと、の関係の許容範囲(fsとfmのほぼ一致の範囲)について説明する。上記実施例では、fmとfsを完全に一致させているが、本発明は、fsとfmを完全に一致させる場合に限定されない。つまりfsとfmとを、ある範囲内の近い値に設定することで、fm近傍での交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることができる。但し、fsはfmに近い程、その効果は大きくなる。
【0045】
本発明では、効果の得られるfsの範囲を求める為に、圧電素子101の共振周波数fm近傍における交番電圧Voの位相変化に着目した。図14(a)は、交番電圧Voの位相を示すシミュレーション結果である。横軸は周波数であり、共振周波数fmを44.142kHzとして、40kHzから48kHzまでのVoの位相の変化を示す。このシミュレーションでは、図1(a)の駆動回路を用いて、インダクタ102とキャパシタ103による直列共振周波数fsのfmに対する比(fs/fmとする)を0.73から1.2の範囲で変化させ、これをプロットした。
【0046】
ここで、ピーク周波数feは常に61.798kHz(=1.4・fm)になるようにLとCの値を各々調整して、fs/fmを変化させた。ピーク周波数feを一定にする理由は、feの値によって振動体501の共振周波数fm近傍でのVoの振幅が大きく変わってしまう為である。また、比較をする上での基準となる従来の構成としては図5の回路を用いて計算し、この結果をプロットした。この場合のインダクタ102の自己インダクタンスLは1.97mHとし、交番電圧Voのピーク周波数feを61.798kHz(=1.4・fm)になるよう設定した。
【0047】
図14(a)より、従来例の構成のVoは最大で60°近く位相が遅れてしまうことがわかる。これに対して、fs/fm=1となる場合は、Voの位相変化はほとんど生じない。なお、fs/fm=1の場合、インダクタ102の自己インダクタンスLは4.17mH、キャパシタ103の静電容量Cは3.12nFである。傾向としては、fs/fm<1となる程、負側に位相の変化が大きくなり、fs/fm>1となる程、正側に位相の変化が大きくなる。
【0048】
図14(b)は、図14(a)の交番電圧Voの位相変化と交番電圧Voの振幅変動の関係を調べるために、周波数に応じた交番電圧Voの変化を示すシミュレーションを行った結果である。シミュレーション条件は図14(a)と同様であり、fs/fmを0.73から1.2の範囲で変化させたものと、従来例の構成と、を比較し、これをプロットした。図14(b)で示した位相の変化量と、図14(a)で示す電圧の変動量の傾向は対応している事がわかる。つまり、Voの位相の変化が大きい程、Voの振幅変動は大きくなる。
【0049】
図15は、fs/fmの変化に応じた、従来例の構成に対する位相変化量の割合を示すシミュレーション結果である。横軸はfs/fmであり、振動体501の共振周波数fmに対するfsの比である。縦軸は従来例の構成に対する位相変化量の割合であり、次のように計算した。まず、従来例の構成を用いた場合のVoの位相変化量の絶対値を40kHzから48kHzの範囲で計算し、最大値を検出した。これを「従来の構成の位相最大変化量」とする。続いて、図1(a)の構成において、fs/fmをパラメータとして、Voの位相変化量の絶対値を40kHzから48kHzの範囲で計算し、最大値を検出した。これを「fs/fmに応じた位相最大変化量」とする。従来例の構成に対する位相変化量の割合は、両者の比を計算し、
「fs/fmに応じた位相最大変化量」/「従来の構成の位相最大変化量」
として、これを縦軸とした。
【0050】
本発明では、図15のように従来例の構成に対する位相変化量の割合が半分となる条件を閾値と定義して、fm近傍での交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることができる範囲を求めた。この結果、fs/fmの効果の得られる範囲は、
0.73・fm<fs<1.2・fm
となった。上記範囲は、ピーク周波数feを61.798kHz(=1.4・fm)、圧電素子101のコンデンサ301aの固有静電容量Cdを3.5nFとして計算したが、ピーク周波数feや固有静電容量Cdの値を変えても、ほぼ同等の計算結果となる。なお、圧電素子101における等価コイル301bの自己インダクタンスLmは0.1H、等価コンデンサ301cの静電容量Cmは130pF、等価抵抗301dの抵抗値Rmは1kΩとして計算した。
【0051】
よって、上記範囲に従って、交番電圧Voの位相差の変化量を半分以下に抑えることにより、従来と比較してVoの変動量も概ね半分以下に抑えることが可能となる。つまり、fsとfmとを完全に一致させなくとも、上記fsとfmの関係を満たすことにより、fm近傍での交番電圧Voの周波数特性を従来に比べてなだらかにすることができる。
【0052】
(インダクタ102とキャパシタ103の値の決め方)
次に、インダクタ102とキャパシタ103の値の決め方について説明する。直列共振周波数fsは、インダクタ102のインダクタンスLと、キャパシタ103の静電容量Cと、の積によって決まるので、同じfsでも、組み合わせは多数存在する。これに対しては、交番電圧Voのピーク周波数feを最初に決めることで、1つの組み合わせを求めることができる。
【0053】
Voのピーク周波数feは、インダクタ102のインダクタンスLと、キャパシタ103の静電容量C、そして圧電素子101の固有静電容量Cdと、から算出することができる。ピーク周波数feの式は、
【0054】
【数3】


となる。ここで、実際のピーク周波数feを計算するには、圧電素子101を等価的にキャパシタと見なし、機械的振動部分のRLC直列回路の影響を考慮したCd’を用いて計算する必要がある。例えば、機械的振動部分のRLC直列回路の影響が44pFの容量変化に相当する場合には、
Cd’=Cd−44pF
として計算することが出来る。
【0055】
ピーク周波数feの式より、feの値を決めることによって、各々のLとCの関数を求めることができる。図16は、ピーク周波数feに応じたインダクタ102のインダクタンスLと、キャパシタ103の静電容量Cと、の関係を示す図である。横軸がCの値、縦軸がLの値である。feが1.4・fm、1.5・fm、2・fmの場合における、(式1−3)より求まるLとCの値を各々プロットした。さらに、LとCの積LCがLmCmとなる場合、即ち、直列共振周波数fsがfmと一致する場合のプロットも示した。上述したように、Lmは等価コイル301bの自己インダクタンス、Cmは等価コンデンサ301cの静電容量を示す。
【0056】
図16より、feを固定した場合のインダクタとキャパシタの関数は、LC=LmCmとなる関数と1つの点で交差する。この点が、fsがfmと一致する最適なインダクタンスLと静電容量Cの値である。例えば、feが1.4・fmの場合、Lは4.17mH、Cは3.12nFである。
【0057】
次に、feの値について説明する。本発明において、ピーク周波数feの条件は、振動体501の駆動周波数をfdとすると、
fe<2・fd
の関係を満たすように設定することが好ましい。この理由を次に説明する。
【0058】
図13は、fe<2・fdを満たす場合の交番電圧Voの周波数特性を示す図である。2・fdは、駆動周波数fdの2次高調波周波数である。交番電圧Voの波形には、2次高調波成分や3次高調波成分が極力少ないSIN波形が求められる。実機における交番電圧Voの駆動波形はパルス・デューティが10%〜50%と調整されるので、特に3次高調波成分を落とす必要がある。従って、ピーク周波数feを2・fdより低い値に設定することで、3次高調波成分の周波数2・fdの交番電圧Voの振幅を駆動周波数fdより小さくすることができる。例えば、駆動周波数fdを46kHzとした場合、2・fdは92kHzである。この場合、インダクタ102のインダクタンスLを4mH、キャパシタ103の静電容量Cを3.25nFに設定すれば、ピーク周波数feは61.3kHzとなり、上記条件を満たすことができる。
【0059】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。本実施形態は、トランスを用いて昇圧する点が第1の実施形態と異なる。尚、振動体である塵挨除去装置の構成や、振動モードは第1の実施形態と同一であり、以下では駆動回路のみを説明する。
【0060】
(駆動回路の説明:トランス昇圧)
図17(a)は本発明の第2の実施形態における、塵挨除去装置の駆動回路を示す図である。駆動回路の構成は、圧電素子101にトランス401の2次側コイル401bが並列に接続されている。また、トランス1次側コイル401aに直列にキャパシタ103が接続されている。ここで、キャパシタ103にはフィルムコンデンサ等の静電容量素子を用いることができる。また、トランス401の結合を弱めることで、トランス1次側コイル401aの漏洩インダクタンスと、トランス2次側コイル401bの漏洩インダクタンスと、をインダクタとして用いることができる。
【0061】
この漏洩インダクタンスは、図17(a)においてインダクタ102a(トランス1次側コイル401aの漏洩インダクタンス)、102b(トランス2次側コイル401bの漏洩インダクタンス)として等価的に示している。この2つの漏洩インダクタンスとキャパシタ103とにより、直列共振を形成する。尚、キャパシタ103は、トランス1次側コイル401aの下側に図17(a)では接続されているが、上側(インダクタ102aとトランス1次側コイル401aとの間)に接続しても良い。ここで、1次側の漏洩インダクタンス102aと2次側の漏洩インダクタンス102bとキャパシタ103とによる直列共振周波数をfsとし、振動体501の共振周波数をfmと定義する。トランス1次側コイル401aの漏洩インダクタンス102aをL、トランス2次側コイル401bの漏洩インダクタンス102bをL、2次側コイル401bの1次側コイル401aに対する巻線比をN、キャパシタ103をCとすると、
【0062】
【数4】

【0063】
【数5】


となる。上記したように、Lm、Cmは圧電素子101の機械的な振動の等価回路定数であり、Lmは等価コイル301bの自己インダクタンス、Cmは等価コンデンサ301cの静電容量を示す。
【0064】
直列共振周波数fsは、第1の実施形態と同様に、振動体501の共振周波数fmに完全に一致させなくとも、以下の範囲でfmに近い値に設定することで、fm近傍での交番電圧Voの周波数特性をなだらかにすることが可能となる。
0.73・fm<fs<1.2・fm
ここで、トランスを用いる構成の場合、インダクタ102とキャパシタ103をトランスの1次側と2次側のどちらに接続するかによって、fsの算出式におけるLCに係る係数が異なる。構成としては、以下の4つに大別される。
(1)トランスの1次側にLCが接続される構成。
(2)トランスの2次側にLCが接続される構成。
(3)トランスの1次側にL、トランスの2次側にCが接続される構成。
(4)トランスの1次側にC、トランスの2次側にLが接続される構成。
【0065】
上記、(1)と(2)については、LCに係る係数は1である。これに対して、(3)は、N・LCである。これは、1次側のLは2次側に換算すると、トランスの巻線比Nの2乗に相当するからである。また、(4)は、(1/N)・LCである。これは、1次側のCは2次側に換算すると、トランスの巻線比Nの2乗分の1に相当するからである。
インダクタ102とキャパシタ103の値の決め方については、第1の実施形態と同様である。即ち、交番電圧Voのピーク周波数feを最初に決めることで、1つの組合せを求めることができる。
【0066】
また、ピーク周波数feは、振動体501の駆動周波数をfdとすると、第1の実施形態と同様に、
fe<2・fd
の関係を満たすように設定する。
【0067】
(第2の実施形態の変形例1)
図17(b)は、第2の実施形態における塵挨除去装置の駆動回路の変形例1を示す図である。駆動回路の構成は、圧電素子101にトランス401の2次側コイル401bが並列に接続され、トランス1次側コイル401aに直列にインダクタ102とキャパシタ103とが接続されている。尚、インダクタ102とキャパシタ103は、トランス1次側コイル401aに直列に接続されていれば、図17(b)に示した構成以外のものであっても良い。インダクタ102はトランス401の1次側に接続することで、2次側に接続する場合よりもインダクタンス値を1/Nの小さい素子を用いることができる。ここで、Nは巻線比である。また、キャパシタ103は、トランス401の1次側に接続することで、2次側に接続する場合よりも1/Nの耐圧を有する素子を用いることができる。
インダクタ102をL、キャパシタ103をCとすると、直列共振周波数をfsは(式1−1)と同様であり、
【0068】
【数6】


となる。これを振動体501の共振周波数fmと略一致させれば良い。
【0069】
(第2の実施形態の変形例2)
図17(c)は、本発明の第2の実施形態における塵挨除去装置の駆動回路の変形例2を示す図である。駆動回路の構成は、圧電素子101にトランス401の2次側コイル401bが並列に接続され、トランス1次側コイル401aに直列にキャパシタ103が接続され、トランス2次側コイル401bに直列にインダクタ102が接続されている。インダクタ102はトランス401の2次側に接続することで、1次側に接続する場合よりも電流許容値を1/Nと小さい素子を用いることができる。ここで、Nは巻線比である。インダクタ102のインダクタンスをL、キャパシタ103の静電容量をCとすると、直列共振周波数をfsは、
【0070】
【数7】


となる。これを振動体501の共振周波数fmと略一致させれば良い。
【0071】
(第2の実施形態の変形例3)
図17(d)は、本発明の第2の実施形態における塵挨除去装置の駆動回路の変形例3を示す図である。駆動回路の構成は、圧電素子101にトランス401の2次側コイル401bが並列に接続され、トランス1次側コイル401aに直列にインダクタ102が接続され、トランス2次側コイル401bに直列にキャパシタ103が接続されている。インダクタ102はトランス401の1次側に接続することで、2次側に接続する場合よりもインダクタンスが1/Nと小さい素子を用いることができる。また、キャパシタ103も、トランス401の2次側に接続することで、1次側に接続する場合よりもキャパシタンスが1/Nと小さい素子を用いることができる。この場合の直列共振周波数をfsは、
【0072】
【数8】


となる。これを振動体501の共振周波数fmと略一致させれば良い。
【0073】
(第2の実施形態の変形例4)
図17(e)は、本発明の第2の実施形態における塵挨除去装置の駆動回路の変形例4を示す図である。駆動回路の構成は、圧電素子101にトランス401の2次側コイル401bが並列に接続され、トランス2次側コイル401bに直列にインダクタ102とキャパシタ103が接続されている。インダクタ102はトランス401の2次側に接続することで、1次側に接続する場合よりも電流許容値を1/Nと小さい素子を用いることができる。また、キャパシタ103も、トランス401の2次側に接続することで、1次側に接続する場合よりもキャパシタンスが1/Nと小さい素子を用いることができる。この場合の直列共振周波数をfsは、
【0074】
【数9】


となる。これを圧電素子101の共振周波数fmと一致させれば良い。
【0075】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。本実施形態は、振動体501に2つの振動モードが交互に励起される点が第1の実施形態と異なる。尚、振動体501や駆動回路の構成は第1及び第2の実施形態と同一であり、制御装置における指令部の周波数情報と位相情報の設定が第1及び第2の実施形態と異なることで、励起される振動が定在波振動となる。
【0076】
(定在波振動と駆動方法)
図18(a)は、圧電素子に印加される交番電圧の周波数と圧電素子に生じる各振動の振幅を示すグラフである。ここで、f(m)はm次の面外曲げ振動の共振周波数であり、f(m+1)は(m+1)次の面外曲げ振動の共振周波数である。図18中、f(m)を逆相駆動によって励起される10次の面外曲げ振動モード(第1の振動モード)、f(m+1)を同相駆動によって励起される11次の面外曲げ振動モード(第2の振動モード)とする。本実施形態では、この2つの振動モードの定在波を交互に励起して、弾性体である光学部材の表面に付着した塵埃を除去する。
【0077】
第1の実施形態において図7を用いて説明したが、本実施形態においても同様に、10次の面外曲げ振動を第1の振動モード(波形A(実線))とし、11次の面外曲げ振動を第2の振動モード(波形B(破線))とする。第1の振動モードA及び第2の振動モードBは、振動体501を光学部材502の厚さ方向へ曲げ変形させる面外曲げ振動モードである。第1の振動モードAの変形形状は、左端と右端で逆相(位相差180°)となっている。一方、第2の振動モードBの変形形状は、左端と右端で同相(位相差0°)となっている。つまり、圧電素子101aと圧電素子101bに印加する交番電圧の位相差を180°とすれば第1の振動モードAのみが共振状態で励起され、逆に位相差を0°とすれば第2の振動モードBが励起される。
【0078】
図18(b)は、次数の異なる2つの定在波振動を交互に励起する際に、各圧電素子に印加する交番電圧の例を示す図である。制御装置は、図4で説明したものを用いる。交番電圧Vo1は圧電素子101aに印加する電圧波形、交番電圧Vo2は圧電素子101bに印加する電圧波形を示す。縦軸は電圧振幅であり、横軸は時間を示す。
【0079】
上記2つの振動モードの振動を交互に生成するため、まず、振動体501の10次の曲げ振動モードの固有振動数近傍の周波数を有し、位相差が180°となる交番電圧を圧電素子101a、101bに印加する(逆相駆動)。このような交番電圧を印加することにより、振動体501に10次の曲げ振動モードが励起される。所定の時間、10次の曲げ振動モードを励起した後、次に、振動体501の11次の振動モードの固有振動数近傍の周波数を有し、位相差が0°となる交番電圧を圧電素子101a、101bに印加する(同相駆動)。このような交番電圧を印加することにより、振動体501に11次の曲げ振動モードが励起される。
【0080】
第1の振動モードを励起する場合、駆動回路の素子ばらつき等の影響により、各交番電圧の位相差が誤差の範囲内で180°から少しずれた場合であっても、振動体501に発生する振動として、第1の振動モードの振動が支配的な場合は、位相差180°であるとする。同じく、第2の振動モードを励起する場合、駆動回路の素子ばらつき等の影響により、各交番電圧の位相差が誤差の範囲内で0°から少しずれた場合であっても、振動体501に発生する振動として、第2の振動モードの振動が支配的な場合は、位相差0°であるとする。
【0081】
以上の駆動(逆相駆動と同相駆動)を繰り返すことにより、10次と11次の面外曲げ振動モードの振動が交互に励起される。上記駆動の際の交番電圧Vo1及びVo2は、図18(b)に示すように、各固有振動数近傍で、高周波側から徐々に低周波側に掃引していくと良い。交番電圧の周波数は、振動体501の固有振動数の近傍とすることで、小さな印加電圧でも大きな振幅を得ることができ、効率を良くすることができる。
【0082】
このように、振動体501に第1の振動モードの振動を生じさせることにより、第1の振動モードの振動の腹位置の光学部材502に付着した塵埃を剥離する機能を有する。具体的には、第1の振動モードの振動によって、光学部材502に付着した塵埃の付着力以上の加速度が、塵埃に加えられたとき、塵埃は光学部材502から剥離される。更に、振動体501に第2の振動モードの振動を生じさせることにより、第1の振動モードの振動の節近傍の光学部材502に付着した塵埃を剥離する機能を有する。次数の異なる定在波を励起しているのは、2つの定在波の節の位置をずらして、光学部材502に振幅が生じない個所を設けないためである。
【0083】
尚、上記交番電圧を圧電素子101a、101bの一方にのみ印加することで、塵埃除去装置の振動体501に1つの面外曲げ振動の定在波を励起させても良い。また、本実施形態のように、異なる次数の振動モードの振動を時間的に切替えて発生させる場合、弾性体に設ける圧電素子は上記したような2つの場合に限らず、1つだけでも良い。この場合、位相差の設定は無く、単に圧電素子に印加する交番電圧の周波数をスイープして駆動する。
【符号の説明】
【0084】
101 圧電素子
102 インダクタL
102a トランス1次側コイルの漏洩インダクタンス
102b トランス2次側コイルの漏洩インダクタンス
103 キャパシタC
201 カメラ本体
301a 振動体の固有静電容量Cd
301b 機械的な振動の等価回路定数Lm
301c 機械的な振動の等価回路定数Cm
301d 機械的な振動の等価回路定数Rm
401 トランス
401a トランス1次側コイル
401b トランス2次側コイル
501 振動体
502 光学部材
503 撮像素子
601 駆動回路
602 スイッチング回路
603 パルス発生回路
604 指令部
605 電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性体に固定された電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧を印加することにより、前記電気−機械エネルギー変換素子と前記弾性体とから少なくとも構成される振動体に振動を発生させる振動体の駆動回路であって、
前記電気−機械エネルギー変換素子に直列に接続されたインダクタとキャパシタとを有し、
前記インダクタと前記キャパシタとによる直列共振周波数をfsとし、前記振動体の共振周波数をfmとした場合に、
0.73・fm<fs<1.2・fm
を満たすことを特徴とする振動体の駆動回路。
【請求項2】
弾性体に固定された電気−機械エネルギー変換素子に交番電圧を印加することにより、前記電気−機械エネルギー変換素子と前記弾性体とから少なくとも構成される振動体に振動を発生させる振動体の駆動回路であって、
交番電圧が印加される1次側のコイルと、前記電気−機械エネルギー変換素子に並列に接続された2次側のコイルと、からなるトランスと、
前記トランスの1次側及び2次側のうち少なくとも一方に、前記電気−機械エネルギー変換素子に直列に接続されたインダクタとキャパシタと、を有し、
前記インダクタと前記キャパシタとによる直列共振周波数をfsとし、前記振動体の共振周波数をfmとした場合に、
0.73・fm<fs<1.2・fm
を満たすことを特徴とする振動体の駆動回路。
【請求項3】
前記インダクタは、前記トランスの漏洩インダクタンスであることを特徴とする請求項2に記載の振動体の駆動回路。
【請求項4】
前記電気−機械エネルギー変換素子に印加される交番電圧のピーク周波数をfe、前記振動体の駆動周波数をfdとした場合に、
fe<2・fd
を満たすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動体の駆動回路。
【請求項5】
前記振動体は、弾性体と、前記弾性体に固定された第1の電気−機械エネルギー変換素子及び第2の電気−機械エネルギー変換素子と、を備え、
前記振動体に次数の異なる第1の振動モードの振動及び第2の振動モードの振動を重ね合わせた振動を発生させる周波数と、異なる位相と、を持つ波形の交番電圧を前記第1及び第2の電気−機械エネルギー変換素子の夫々に印加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動体の駆動回路。
【請求項6】
前記振動体に次数の異なる第1の振動モードの振動と第2の振動モードの振動とを時間的に切替えて発生させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の振動体の駆動装置。
【請求項7】
前記振動体に振動を発生させることにより、前記振動体上の粉体を駆動することを特徴とする請求項1乃至6にいずれか1項に記載の振動体の駆動回路。
【請求項8】
前記粉体は塵埃であり、前記振動体上の塵埃を駆動して除去することを特徴とする請求項7に記載の振動体の駆動回路。
【請求項9】
請求項8に記載の駆動回路と、前記駆動回路により駆動される振動体と、前記振動体の前記弾性体を透過した光が入射する位置に設けられた受光素子と、を備えることを特徴とする光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−152719(P2012−152719A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16348(P2011−16348)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】