説明

振動検知方法

【課題】 振動信号により変調されたバッテリーレス振動センサからの反射波と周波数や時間変化が類似した電磁ノイズが混入した場合にも、誤判定を生じにくい振動検知方法を提供すること。
【解決手段】 シングルポート表面弾性波共振子を備えるバッテリーレス振動センサと、質問器とを使用し、バッテリーレス振動センサに与えられる機械振動に応じてバッテリーレス振動センサからの反射波に生じる変化に基づいて振動現象を検知する振動検知方法であって、反射波のFFT演算により算出される第一のデータ列の絶対値をIFFT演算して得られる第二のデータ列と、予め記憶されている検知すべき振動の基準となる基準データ列との間の相関係数を求め、その相関係数を予め定めた相関係数の閾値と比較することにより、検知すべき振動の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シングルポート表面弾性波共振子を備えたバッテリーレス振動センサを利用して、対象物の振動を検知する振動検知方法に関し、特に物体の破壊現象に伴う数十kHz〜数百kHz帯のAE(Acoustic Emission)波を検出する振動検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
振動センサは、建造物の耐震診断や防犯セキュリティ用のガラス破壊検知装置、或いは設備や工作機械の異常振動検知に利用されている。
【0003】
従来、ガラス等の破壊現象において生じるAE波の振動のように瞬時的な振動を検出可能な振動検知システムおよび振動センサが特許文献1に記載されている。特許文献1に記載の振動検知方法は、シングルポート表面弾性波共振子を備えたバッテリーレス振動センサにより、対象物の破壊や変形に伴って発生するAE波を検知する振動検知方法である。この振動検知方法は、RFID(Radio Frequency IDentification)技術を応用している。質問器から搬送波を送出して、対象物に取り付けた振動センサのシングルポート表面弾性波共振子からの反射波の変化を監視し、対象物の振動現象に伴って反射波に生じる変化に基づいて対象物の振動現象を検知する方法である。この方式の振動検知方法は、振動センサの部分に電源や信号処理回路が不要であるので、振動センサの小型化、低背化に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4345984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、検知対象である振動現象の周波数や時間変化と類似した電磁ノイズが混入した場合、それらを弁別することが困難である。例えば、特許文献1の振動検知方法は、質問器から送出される搬送波に対して、振動信号によって変調された反射波を監視し、その反射波の特定周波数における強度と時間変化量から、対象となる振動事象の有無を判定する方法であるので、搬送波と同一の周波数帯に存在する無線機器や電子機器より発せられる電磁ノイズがアンテナを経由して質問器に混信すると誤判定を生じやすいという課題がある。特に、振動信号により変調されたバッテリーレス振動センサからの反射波と周波数や時間変化が類似した電磁ノイズが混入した場合が問題となる。
【0006】
そこで、本発明の目的は、振動信号により変調されたバッテリーレス振動センサからの反射波と周波数や時間変化が類似した電磁ノイズが混入した場合にも、誤判定を生じにくい振動検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明による振動検知方法は、バッテリーレス振動センサと、質問器とを使用し、前記バッテリーレス振動センサは、圧電体基板と前記圧電体基板上に形成された櫛歯電極とを有するシングルポート表面弾性波共振子と、前記圧電体基板を支持する支持基板とを備え、前記圧電体基板は片持ち梁状に前記支持基板に支持されて片持ち梁振動子を構成し、前記片持ち梁振動子の品質係数Q値は50〜3,000であり、前記バッテリーレス振動センサを対象物に取付け、前記質問器は、前記バッテリーレス振動センサに対して連続送信波を送出する一方で、前記バッテリーレス振動センサの前記シングルポート表面弾性波共振子からの反射波を監視し、前記対象物の振動現象に伴って前記バッテリーレス振動センサに与えられる機械振動に応じて前記反射波に生じる変化に基づいて前記振動現象を検知する振動検知方法であって、前記反射波のFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)演算により算出される第一のデータ列の絶対値をIFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)演算して得られる第二のデータ列と、予め記憶されている検知すべき振動の基準となる基準データ列との間の相関係数を求め、前記相関係数を予め定めた相関係数の閾値と比較することにより、検知すべき振動の有無を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記のように、本発明の振動検知方法に用いるバッテリーレス振動センサの基本的構造は、特許文献1に記載の従来のバッテリーレス振動センサと同様であるが、本発明では、圧電体基板による片持ち梁振動子の品質係数Q値を、実用的な感度が得られるように50以上とし、かつ、製造上の再現性を得やすいように3,000以下としている。さらに、本発明では、従来のように、シングルポート表面弾性波共振子からの反射波の波形から直接的に振動を検知して判断するのではなく、検出波形の演算処理を行った後、基準波形との相関を取ることによって判断を行っている。すなわち、反射波のFFT演算により算出される第一のデータ列の絶対値をIFFT演算して得られる第二のデータ列と、予め記憶されている基準データ列との間の相関係数を求め、その相関係数と予め定めた閾値とを比較することにより振動の有無を判定している。
【0009】
上記のようなFFTとIFFTの演算処理を行うことにより、質問器に入力された反射波の波形の特徴が明確に抽出されるので、それを検知すべき振動の基準波形と比較することにより、検出された信号が検知すべき振動による反射波であるか、電磁ノイズであるかを弁別することができる。
【0010】
以上のように、本発明により、振動信号により変調されたバッテリーレス振動センサからの反射波と周波数や時間変化が類似した電磁ノイズが混入した場合にも、誤判定を生じにくい振動検知方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明による振動検知方法の一実施の形態に用いるバッテリーレス振動センサの構造を模式的に示す斜視図。
【図2】本発明による振動検知方法の一実施の形態に用いるバッテリーレス振動センサと質問器とから成る振動検知システムのシステム構成図。
【図3】本発明による振動検知方法の一実施の形態に用いる質問器のブロック構成図。
【図4】本発明による振動検知方法の一実施の形態における信号処理のフローチャート図。
【図5】検知対象となる振動の振動波形の一例を示す図であり、ガラスを割ったときに生成する破壊振動による破壊信号を示す図。
【図6】妨害波が存在する場合の質問器のバンドパスフィルタからの出力信号、すなわち時間応答波形の一例を示す図。
【図7】質問器のバンドパスフィルタからの出力信号をFFT演算処理した第一のデータ列の一例を示す図。
【図8】第二のデータ列の一例を示す図。
【図9】基準データ列と第二のデータ列との間の相関関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する
【0013】
図1は、本発明による振動検知方法の一実施の形態に用いるバッテリーレス振動センサの構造を模式的に示す斜視図である。図1において、バッテリーレス振動センサ1は、圧電体基板4と圧電体基板4上に形成された櫛歯電極3とを有するシングルポート表面弾性波共振子と、圧電体基板4を支持する支持基板5とを備え、圧電体基板4は片持ち梁状に支持基板5に支持されて片持ち梁振動子を構成し、前記片持ち梁振動子の品質係数Q値は50〜3,000となっている。また、バッテリーレス振動センサ1は、櫛歯電極3と接続されたアンテナ2を備えている。バッテリーレス振動センサ1において、外部より圧電体基板4に振動が加わると圧電体基板4に歪が生じ、櫛歯電極3を構成する電極指間の距離と圧電体基板4を伝搬する弾性波の速度が変化し、その結果、シングルポート表面弾性波共振子のインピーダンスが変化する。ここで、圧電体基板4が支持基板5に支持されて構成された片持ち梁振動子の共振周波数は、検知対象である対象物の機械振動における特徴的な周波数帯に属するように設計されている。
【0014】
図2は、本発明による振動検知方法の一実施の形態に用いるバッテリーレス振動センサと質問器とから成る振動検知システムのシステム構成図である。図2において、バッテリーレス振動センサ11としては、例えば図1に示したバッテリーレス振動センサ1を用いることができる。バッテリーレス振動センサ11を対象物に取付け、質問器12は、バッテリーレス振動センサ11に対して連続送信波を送出する一方で、バッテリーレス振動センサ11のシングルポート表面弾性波共振子からの反射波を監視し、対象物の振動現象に伴ってバッテリーレス振動センサ11に与えられる機械振動に応じて反射波に生じる変化に基づいて対象物の振動現象を検知するものである。すなわち、バッテリーレス振動センサ11のアンテナは、質問器12より放射された送信波13を受信し、表面弾性波共振子のインピーダンス変化に応じた反射波14を放射する。このとき放射される反射波14は、外部振動によって送信波13の搬送波が変調された波形となる。なお、質問器12のアンテナには反射波14以外にも、電磁ノイズなどの妨害波15が入力する場合がある。
【0015】
図3は、本発明による振動検知方法の一実施の形態に用いる質問器のブロック構成図である。図3において、公知のPLL(Phase Locked Loop)等から構成される送信部24により送信周波数信号が生成され、分波器25にて2つに分波され、一方は送信信号としてパワーアンプ26へ送られ、他方は局部発信信号としてアッテネータ23を経由してミキサー21へ分配される。送信信号は、サーキュレータ27を経由してアンテナ28から所望の電力量で送信される。その送信波は、バッテリーレス振動センサに送られる。送信波に対するバッテリーレス振動センサからの微弱な反射波がアンテナ28から受信され、サーキュレータ27を経由してローノイズアンプ20により増幅される。その後、ミキサー21にてダウンコンバートされ、後段のバンドパスフィルタ22にて振動信号を有する出力信号が取り出される。出力信号は信号処理部29に入力され、以下の述べるような信号処理が行われる。
【0016】
図4は、本発明による振動検知方法の一実施の形態における信号処理のフローチャート図である。図4において、まず、図3の質問器のバンドパスフィルタ22を通過した出力信号から、その強度が予め設定されている閾値以上であり、且つ、その信号の継続時間が所定の時間以上である信号部分のデータ群を抽出する。次に、そのデータ群に対して所望のフレーム時間毎にFFT演算を実行し、第一のデータ列を作成する。その後、第一のデータ列の絶対値を算出し、IFFT演算を実行し、第二のデータ列を作成する。最後に、第二のデータ列と、検出すべき破壊によるAE波の標準的な振動波形として予め記憶されている基準データ列との比較を行い、それらのデータ列間の相関係数が予め定めた相関係数の閾値以上である場合に、破壊信号を検知したと判断し、検知結果を出力する。
【0017】
本発明においては、破壊信号を含んだ反射波が入力された時には、第二のデータ列と基準データ列との間で強い相関がみられ、電磁ノイズなどの妨害波が入力した時には基準データ列との相関がないので、バッテリーレス振動センサからの振動信号と周波数や時間変化の類似した妨害波を弁別することが可能となる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明による振動検知方法の一実施の形態の具体的な実施例について説明する。
【0019】
先ず、図1のバッテリーレス振動センサ1の実施例について説明する。圧電基板4としては、片持ち梁の張出し長さ2mm、幅1mm、厚み0.25mmの水晶STカット基板を用いる。このときの片持ち梁振動子の共振周波数は60kHzである。櫛歯電極3の電極指間隔は、シングルポート表面弾性波共振子の共振周波数が2.45GHz帯となるように0.35μmとする。また、櫛歯電極3は、外部振動に対して、圧電体基板4の歪が最大となる支持部の近傍に配置する。加えて、アンテナ2は、シングルポート表面弾性波共振子の共振周波数に合わせて、2.45GHz帯の半波長ダイポールアンテナとする。圧電基板4による片持ち梁振動子の品質係数Q値は、約100である。なお、この品質係数Q値は、圧電基板4と支持基板5との固定法等により、約50〜3,000の範囲で調整可能である。品質係数Q値が50以下では実用的な感度を得るのが困難であり、3,000以上では製造上、再現性を得るのが困難となる。
【0020】
本実施例では、図2において、質問器12より放射される送信波13の周波数は2.45GHz帯であり、バッテリーレス振動センサからの反射波は、搬送波である周波数2.45GHzの信号が、片持ち梁振動子の共振周波数である60kHzで変調された信号となる。
【0021】
また、本実施例では、図3において、バンドパスフィルタ22にて取り出される出力信号の中心周波数は、片持ち梁振動子の共振周波数である60kHzとなる。
【0022】
図5は、検知対象となる振動の振動波形の一例を示す図であり、ガラスを割ったときに生成する破壊振動による破壊信号を示す図である。破壊事象が発生してから約0.5ミリ秒間に大きな振動振幅がみられる。破壊振動の継続時間は、破壊される対象物の種類や構造等により、約0.1ミリ秒から数十ミリ秒と幅がある。このような破壊振動による信号、すなわち破壊信号の時間変化は、無線機器から混入してくる電磁ノイズ、すなわち妨害波の時間間隔と類似しているので、継続時間により破壊信号と妨害波を弁別することは困難である。また、破壊信号のエネルギーは、本実施例の圧電体基板の共振周波数である60kHzを含む数十kHzから数百kHz帯に存在する。
【0023】
図6は、妨害波が存在する場合の質問器のバンドパスフィルタからの出力信号、すなわち時間応答波形の一例を示す図である。図6のように、バッテリーレス振動センサからの反射波に含まれる破壊振動による振動信号の他に、無線機器から混入してくる妨害波が存在する。なお、図6において、振動信号は片持ち梁振動子によってその継続時間が拡大されている。
【0024】
図7は、質問器のバンドパスフィルタからの出力信号をFFT演算処理した第一のデータ列の一例を示す図である。振動信号(図7において信号1)は、60kHz付近に急峻な共振特性がみられる。一方、妨害波(図7においてノイズ1)には60kHz付近と120kHz付近に比較的高いピークがみられる。このため、周波数のフィルタリングによる振動信号と妨害波の弁別は困難である。
【0025】
本実施例では、図4の信号処理フローチャートにおいて、先ず、質問器のバンドパスフィルタを通過した出力信号から、強度が予め設定されている閾値以上であり、且つ、その信号の継続時間が0.5ミリ秒以上であるデータ群を抽出する。次に、そのデータ群に対して、フレーム時間を0.1ミリ秒として、そのフレーム時間毎にFFT演算を実行し、第一のデータ列を作成する。その後、第一データ列の絶対値を算出し、IFFT演算を実行し、第二のデータ列を作成する。
【0026】
図8は、第二のデータ列の一例を示す図である。図8において、破壊による振動信号の第二のデータ列(図8において信号1)は、不規則な妨害波の第二のデータ列(図8においてノイズ1)と比べると、特徴的な単調減衰曲線となっている。
【0027】
最後に、第二のデータ列と、破壊信号の基準データ列との比較を行い、相関係数が0.8以上である場合に、破壊信号を検知したと判断する。図9は、基準データ列と第二のデータ列との間の相関関係の一例を示す図である。基準データ列(図9において信号1)と破壊信号の第二のデータ列(図9において信号2)との間の相関係数は0.97である。一方、無線機器より混入する妨害波(図9においてノイズ1)は、基準データ列との間の相関係数は0.45である。したがって、破壊信号に対しては、基準データ列との間で強い相関がみられ、妨害波の相関係数は小さいので、質問器に入射する周波数や時間変化が破壊信号と類似した妨害波を弁別することが可能となり、誤判定を生じにくい振動検知方法が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の振動検知方法は、建造物の耐震診断や防犯セキュリティ用のガラス破壊検知装置、或るいは設備や工作機械の異常振動検知に利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1、11 バッテリーレス振動センサ
2 アンテナ
3 櫛歯電極
4 圧電体基板
5 支持基板
12 質問器
13 送信波
14 反射波
15 妨害波
20 ローノイズアンプ
21 ミキサー
22 バンドパスフィルタ
23 アッテネータ
24 送信部
25 分波器
26 パワーアンプ
27 サーキュレータ
28 アンテナ
29 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーレス振動センサと、質問器とを使用し、前記バッテリーレス振動センサは、圧電体基板と前記圧電体基板上に形成された櫛歯電極とを有するシングルポート表面弾性波共振子と、前記圧電体基板を支持する支持基板とを備え、前記圧電体基板は片持ち梁状に前記支持基板に支持されて片持ち梁振動子を構成し、前記片持ち梁振動子の品質係数Q値は50〜3,000であり、前記バッテリーレス振動センサを対象物に取付け、前記質問器は、前記バッテリーレス振動センサに対して連続送信波を送出する一方で、前記バッテリーレス振動センサの前記シングルポート表面弾性波共振子からの反射波を監視し、前記対象物の振動現象に伴って前記バッテリーレス振動センサに与えられる機械振動に応じて前記反射波に生じる変化に基づいて前記振動現象を検知する振動検知方法であって、前記反射波のFFT(高速フーリエ変換)演算により算出される第一のデータ列の絶対値をIFFT(逆高速フーリエ変換)演算して得られる第二のデータ列と、予め記憶されている検知すべき振動の基準となる基準データ列との間の相関係数を求め、前記相関係数を予め定めた相関係数の閾値と比較することにより、検知すべき振動の有無を判定することを特徴とする振動検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−32929(P2013−32929A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168143(P2011−168143)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】