説明

排ガス処理装置及び排ガス処理システム

【課題】排ガス中の水銀の酸化性能を常に安定して行うことができる排ガス処理装置及び排ガス処理システムを提供する。
【解決手段】ボイラからの排ガス12中の窒素酸化物(NOx)を除去すると共に、排ガス12中に塩素化剤である塩化水素を噴霧して水銀(Hg)を酸化する脱硝触媒部13を有する排ガス処理装置において、前記塩素化剤を供給する供給位置は、脱硝触媒部の前流側煙道の断面形状が軸方向に亙って均一な部分(塩化水素供給領域41のいずれか)としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼装置から排出される排ガスの水銀の酸化処理を行う排ガス処理装置及び排ガス処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば火力発電所等の燃焼装置である石炭焚ボイラから排出される排ガスには毒性の高い水銀が含まれるため、従来から排ガス中の水銀を除去するためのシステムが種々検討されてきた。
【0003】
通常、石炭焚ボイラには排ガス中の硫黄分を除去するための湿式の脱硫装置が設けられている。このようなボイラに排ガス処理装置として脱硫装置が付設されてなる排煙処理設備においては、排ガス中の塩素(Cl)分が多くなると、水に可溶な2価の金属水銀(Hg)の割合が多くなり、前記脱硫装置で水銀が捕集しやすくなることが、広く知られている。
【0004】
そのため、近年、NOxを還元する脱硝装置、および、アルカリ吸収液を硫黄酸化物(SOx)吸収剤とする湿式脱硫装置と組み合わせて、この金属水銀を処理する方法や装置について様々な考案がなされてきた。
【0005】
排ガス中の金属水銀を処理する方法としては、活性炭やセレンフィルター等の吸着剤による除去方法が知られているが、特殊な吸着除去手段が必要であり、発電所排ガス等の大容量排ガスの処理には適していない。
【0006】
そこで、大容量排ガス中の金属水銀を処理する方法として、煙道中、高温の脱硝装置の前流工程で塩素化剤をガス噴霧し、脱硝触媒上で水銀を酸化(塩素化)させ、水溶性の塩化水銀にした後、後流の湿式脱硫装置で吸収させる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2、参照)。また、煙道にガス噴霧する装置および技術は脱硝装置のNH3噴霧、塩素化剤のガス噴霧で実用化されている。
【0007】
石炭焚きボイラの排ガス処理装置の概略図を図5に示す。図5に示すように、従来の排ガス処理システム100は、燃料Fとして石炭を供給する石炭焚ボイラ11からの排ガス12中の窒素酸化物(NOx)を除去すると共に、排ガス12中に塩素化剤である塩化水素(HCl)を噴霧して水銀(Hg)を酸化する脱硝触媒部13と、窒素酸化物(NOx)除去後の排ガス12中の熱を回収する空気予熱器14と、熱回収後の排ガス12中の煤塵を除去する電気集塵器15と、除塵後の排ガス12中の硫黄酸化物(SOx)、水銀(Hg)を除去する脱硫装置16と、脱硫後の排ガス12を浄化ガス17として外部に排出する煙突18とを具備するものである。
【0008】
また、脱硝装置13の前流の煙道19には、塩酸(HCl)の注入箇所が設けられており、塩酸(液体HCl)供給部20に貯蔵された塩酸(液体)は、塩化水素噴霧部21で気化して塩化水素(HCl)噴霧ノズルを介して塩化水素として排ガス12に噴霧されている。
【0009】
また、脱硝触媒部13の前流の煙道19には、アンモニア(NH3)の注入箇所が設けられており、NH3供給部23から供給されるアンモニアはアンモニア噴霧ノズルにより排ガス12に噴霧し、窒素酸化物(NOx)の還元を行うようにしている。
なお、図5中、符号25は酸化還元電位測定制御装置(ORPコントローラ)、26は空気を各々図示する。
【0010】
ここで、石炭焚ボイラ11から排ガス12は、脱硝触媒部13に供給され、その後空気予熱器14で熱交換により空気27を加熱した後、電気集塵器15に供給され、更に、脱硫装置16に供給された後、浄化ガス17として大気に排出される。
【0011】
また、塩素化剤による装置への腐食破損等の影響を抑え信頼性を向上させるため、湿式脱硫後の排ガスについて水銀濃度を水銀モニターで測定し、脱硫後の水銀濃度に基づいて塩素化剤の供給量を調整するようにしている(例えば、特許文献2、参照)。
【0012】
このように、従来においては、排ガス12中に塩化水素とアンモニアとを供給することで、排ガス12中のNOx(窒素酸化物)を除去すると共に、排ガス12中の水銀(Hg)を酸化するようにしている。
【0013】
即ち、NH3はNOxの還元脱硝用に用い、NH3供給部29から供給されるNH3をアンモニア(NH3)噴霧ノズルを介して排ガス12中に噴霧し、脱硝触媒部13で、下記式のように還元反応によりNOxを窒素(N2)に置換し、脱硝するようにしている。
4NO + 4NH3 + O2 → 4N2 + 6H2O・・・(1)
NO + NO2 + 2NH3 → 2N2 + 3H2O・・・(2)
【0014】
また、塩化水素は水銀酸化用に用いており、塩素化剤として用いられる塩化水素はHCl供給部20から塩化水素(HCl)噴霧部21に供給され、ここで塩酸は気化され、塩化水素(HCl)として塩化水素噴霧ノズル21aにより排ガス12中に噴霧することで、脱硝触媒部13において、下記式のように脱硝触媒上で溶解度の低いHgを酸化(塩素化)し、水溶性の高い塩化水銀(HgCl2)に変換させ、後流側に設けられる脱硫装置16で排ガス12中に含有するHgを除去するようにしている。
Hg + 2HCl + 1/2O2 → HgCl2 + H2O・・・(3)
【0015】
また、燃料として石炭又は重油を使用した場合、燃料中にはClが含まれるため燃焼ガスにはCl分が含まれるが、燃料の種類によりCl分の含有量は異なり、排ガス中のCl濃度を制御するのは困難であるため、排ガス処理装置10の前流に必要量以上のHCl等を添加し、確実にHgを除去するようにするのが好ましい。
【0016】
また、脱硝触媒部13は、例えば格子状に配列して四角形状の通路28を有するハニカム形状のものに脱硝触媒を担持したものを用いており、その通路の断面形状は例えば三角形状や四角形状など多角形状からなる通路としている。
【0017】
【特許文献1】特開平10−230137号公報
【特許文献2】特開2001−198434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、従来のボイラ11からの排ガス12の気流は、偏流となっており、塩化水素を供給する位置により、脱硝触媒部に均一な塩化水素の供給ができなくなり、水銀酸化性能にバラツキが生じる場合がある。
この結果、排ガス中の水銀の酸化性能が低下するという問題がある。
よって、排ガスの気流の条件によらず、所要の水銀酸化性能を達成できることが切望されている。
【0019】
本発明は、前記問題に鑑み、排ガス中の水銀の酸化性能を常に安定して行うことができる排ガス処理装置及び排ガス処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、ボイラからの排ガス中の窒素酸化物を除去すると共に、排ガス中に塩素化剤を噴霧して水銀を酸化する脱硝触媒部を有する排ガス処理装置において、前記塩素化剤を供給する供給位置は、脱硝触媒部の前流側煙道の断面形状が軸方向に亙って均一な部分とすることを特徴とする排ガス処理装置にある。
【0021】
第2の発明は、第1の発明において、前記断面形状が均一な部分は、脱硝触媒部の前流側煙道の鉛直部であることを特徴とする排ガス処理装置にある。
【0022】
第3の発明は、前記ボイラと、前記ボイラの下流側の煙道に排出された排ガスに塩素化剤を注入する塩素化剤供給部と、第1又は2の排ガス処理装置と、脱硝後の排ガス中の硫黄酸化物を除去する脱硫装置と、脱硫後のガスを外部に排出する煙突とを有することを特徴とする排ガス処理システムにある。
【0023】
第4の発明は、第3の発明において、前記ボイラの下流側の煙道に排出された排ガスにアンモニアを投入するアンモニア供給部が設けられてなることを特徴とする排ガス処理システムにある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、排ガスの気流条件によらず、塩素化剤を供給することができ、所要の水銀酸化性能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0026】
本発明による実施例に係る排ガス処理装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施例に係る排ガス処理装置を示す概略図であり、図2は、実施例に係る排ガス処理装置の構成の一部を示す斜視図である。ここで、本実施例では塩素化剤として塩化水素を例にして説明する。
図1及び図2に示すように、本実施例に係る排ガス処理装置10は、ボイラ11からの排ガス12中の窒素酸化物(NOx)を除去すると共に、排ガス12中に塩素化剤である塩化水素を噴霧して水銀(Hg)を酸化する脱硝触媒部13を有する排ガス処理装置において、前記塩素化剤を供給する供給位置は、脱硝触媒部の前流側の排ガス煙道(以下、「煙道」という)19の断面形状が軸方向に亙って均一な部分(図1中、塩化水素供給領域41のいずれか)としている。
【0027】
この結果、排ガス12の気流条件によらず、塩素化剤である塩化水素を供給することができ、脱硝触媒部13において、所要の水銀酸化性能を確保することができる。
なお、本実施例においては、脱硝触媒部13は3層の触媒層13−1〜13−3から形成されているが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例では、脱硝触媒部13の前流側に塩化水素が供給された後の排ガス12を整流する整流板30を配置して、触媒に供給する排ガスを整流化するようにしている。
【0028】
また、図1に示すように、アンモニア(NH3)投入位置から、塩化水素供給領域41のアンモニア側との距離42は、少なくとも3m以上離すようにすることが好ましい。
これは、塩化水素とアンモニアとの混合を防止するためである。
【0029】
ここで、図2においては、図1の斜視図であるが、脱硝触媒部13の前流側に配置した整流板30は省略している。ここで、図2において、前記脱硝触媒部13の入口側において、排ガスの温度、排ガスの流速分布、塩化水素濃度分布の少なくとも一以上を計測する第1のモニタリング部31(31a〜31d)と、前記脱硝触媒部13の出口側において、排ガス中の水銀量を計測する第2のモニタリング部32(32a、32b)を配設しており、第1のモニタリング部31と第2のモニタリング部32との結果により、塩化水素の噴霧量を調整するようにしている。
なお、煙道19は断面が矩形状としており、例えば3m×12mとしている。
このような矩形状の煙道に塩化水素を供給するノズル供給部としては、煙道の断面長手方向に延びる塩化水素供給管に設けた無数(500個以上)のノズルから、塩化水素を噴霧するようにしている。
【0030】
さらに、排ガス処理装置10の運転条件(排ガス温度、排ガスの流速分布、排ガス中の塩化水素濃度分布)や、そのバラツキ度合いを第1のモニタリング部31でモニタリングし、それらの値を中央演算装置(CPU)で演算し、それらに応じて塩化水素量や排ガス温度を調整することにより、所要の水銀酸化性能を確保するようにしてもよい。
【0031】
図3は、本発明の試験例にかかる塩化水素の投入位置(塩化水素供給領域41のいずれか)による塩化水素濃度と水銀酸化率との関係図であり、排ガス中の水銀酸化率におおきなバラツキはみられなかった。
これに対し、図4に示すように、比較例にかかる塩化水素の投入位置(図1に示す塩化水素供給領域41の前流側で煙道屈曲部43)に示すように、排ガス中の水銀酸化率にバラツキはみられた。
【0032】
ここで、水銀酸化率は脱硝触媒部13の入口側において、第1のモニタリング部31として、400個のセンサを設けて、断面における水銀酸化率のバラツキを計測した。
【0033】
ここで、運転条件により、所定濃度(X)としては、200〜500ppmとすればよいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
このように、本発明によれば、前記塩素化剤を供給する供給位置は、脱硝触媒部の前流側煙道の断面形状が軸方向に亙って均一な部分の領域41とすることで、ボイラからの排ガスの気流条件が変動しても常に安定して高い水銀酸化性能(例えば95%以上)を確保することができるものとなる。
【0035】
ここで、本実施例に係る排ガス処理装置10においては、還元脱硝用に脱硝触媒部13で用いる脱硝触媒として、V、W、Mo、Ni、Co、Fe、Cr、Mn、Cu等の金属酸化物又は硫酸塩あるいは、Pt、Ru、Rh、Pd、Irなどの貴金属、又はこれらの混合物を担体であるチタニア、シリカ、ジルコニア及びこれらの複合酸化物、又はゼオライトに担持したものを用いることができる。
【0036】
また、本実施例において、用いるHClについて、特に濃度の制限はないが、例えば濃塩酸から5%程度の希塩酸を用いることができる。また、本実施例において、使用する塩素化剤として塩化水素(HCl)を用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、塩素化剤としては、排ガス中のHgが脱硝触媒の存在下で反応してHgCl及び/又はHgCl2の塩化水銀を生成するものであればよい。例えば塩化アンモニウム、塩素、次亜塩素酸、次亜塩素酸アンモニウム、亜塩素酸、亜塩素酸アンモニウム、塩素酸、塩素酸アンモニウム、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、その他上記酸のアミン塩類、その他の塩類等が例示される。
【0037】
また、本実施例において、ボイラ11から排出される排ガス12にHClとNH3の両方を添加しているが、煙道19内における排ガス12にNH3を添加しなくてもよい。排ガス処理装置10の脱硝触媒部13では、排ガス12中のNOx(窒素酸化物)を除去すると共に、排ガス12中のHgを酸化し、後流側に設けられる脱硫装置(図示しない)でHgを除去するものであるため、煙道19内で排ガス12にNH3を添加しなくても、脱硝触媒部13の脱硝触媒の存在下でHClによりHgを塩化物に転換し、脱硫装置(図示しない)でHgを除去できる効果には変わりないからである。
【0038】
また、アンモニアを添加する際、該アンモニアの添加量を低減することで水銀の酸化効率が向上するので、アンモニアを添加する場合においても最低量のアンモニアとすることが望ましい。
【0039】
また、本実施例では、石炭や重油などの硫黄、水銀等を含む化石燃料を燃焼する火力発電所のボイラから排出される排ガスを用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、NOx濃度が低く、二酸化炭素、酸素、SOx、煤塵、あるいは水分を含む排ガス、硫黄、水銀等を含む燃料を燃焼する工場などから排出されるボイラ排ガス、金属工場、石油精製工場、石油化学工場等から排出される加熱炉排ガス等にも適用できる。
【0040】
このように、本実施例に係る排ガス処理装置を適用した排ガス処理システムによれば、実機の運転条件やそのバラツキ度合いをモニタリングして、それらに応じて、塩化水素の噴霧量を調整するので、所要の水銀性能を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る排ガス処理装置は、前記塩素化剤を供給する供給位置は、脱硝触媒部の前流側煙道の断面形状が軸方向に亙って均一な部分とするので、所要の水銀性能を確保することができるので、火力発電所等の水銀を含有する石炭や重油などの化石燃料を燃焼する装置から排出される排ガスの処理に用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例に係る排ガス処理装置を示す概略図である。
【図2】脱硝触媒部の構成の一部を示す斜視図である。
【図3】本発明の試験例にかかる塩化水素の投入位置による塩化水素濃度と水銀酸化率との関係図である。
【図4】本発明の比較例にかかる塩化水素の投入位置による塩化水素濃度と水銀酸化率との関係図である。
【図5】石炭焚きボイラの排ガス処理装置の概略図である。
【符号の説明】
【0043】
10 排ガス処理装置
13 脱硝触媒部
31 第1のモニタリング部
32 第2のモニタリング部
41 塩化水素供給領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラからの排ガス中の窒素酸化物を除去すると共に、排ガス中に塩素化剤を噴霧して水銀を酸化する脱硝触媒部を有する排ガス処理装置において、
前記塩素化剤を供給する供給位置は、脱硝触媒部の前流側煙道の断面形状が軸方向に亙って均一な部分とすることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記断面形状が均一な部分は、脱硝触媒部の前流側煙道の鉛直部であることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項3】
前記ボイラと、
前記ボイラの下流側の煙道に排出された排ガスに塩素化剤を注入する塩素化剤供給部と、
請求項1又は2の排ガス処理装置と、
脱硝後の排ガス中の硫黄酸化物を除去する脱硫装置と、
脱硫後のガスを外部に排出する煙突とを有することを特徴とする排ガス処理システム。
【請求項4】
請求項3において、
前記ボイラの下流側の煙道に排出された排ガスにアンモニアを投入するアンモニア供給部が設けられてなることを特徴とする排ガス処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−46596(P2010−46596A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212225(P2008−212225)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】