説明

排ガス浄化触媒用ハニカム担体

【課題】ハニカム担体自体の構造を改良することで、触媒の浄化性能を高く維持しつつ排気騒音及び排気圧損を低減する。
【解決手段】排ガス流れ方向における下流側に、セル密度が上流側より低密度の低セル密度部12を形成した。
上流側に流入した排ガスが低セル密度部12に流入することで、排ガス流路が拡張されるため、一般的な消音器と同様に流路の拡張による消音効果が発現され、圧損も低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の排ガス浄化用触媒などに用いられるハニカム担体に関し、詳しくは排気騒音を低減できるハニカム担体に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス浄化用触媒に用いられる担体基材として、触媒と排ガスとの接触面積を高めるためにハニカム担体が広く知られている。このハニカム担体は、多数のセル通路を有するハニカム形状のものであり、コージェライトなどの耐熱セラミック製あるいはメタル製などのものが知られている。そして近年の排ガス規制の強化に伴い、ハニカム担体はセル密度が益々高まっている。ここでセル密度とは、排ガス流れ方向に対して直角方向の断面における単位面積あたりのセル通路の数をいう。セル密度が高くなるほど、セル隔壁にコートされる触媒と排ガスとの接触面積が増大するので、浄化性能が向上する。
【0003】
ところがセル密度が高くなるほど、排ガス浄化用触媒を通過する際の排ガスへの抵抗が増大するために、排気騒音が増大し、排気圧損も増大するという問題があった。しかし浄化性能を犠牲にしてまで排気騒音や圧損を低減することはできない。
【0004】
そこで特開平04ー269321号公報には、エキゾーストマニホールドと触媒コンバータとの間に膨張室を設けた排気ガス消音装置が提案されている。この発明によれば、膨張室で音響エネルギーが減衰した排ガスが触媒コンバータに流入するので、触媒コンバータからの放射音を低減することができる。
【0005】
また特開2002ー129953号公報には、チェーンソーなど持ち運び可能な作業機器用に、触媒を内包した排気消音器が記載され、触媒の温度が所定温度以上となった場合にバイパス穴を開くことが記載されている。
【0006】
しかしながら従来の技術には、ハニカム担体自体の構造を改良することで、排気騒音を低減する技術は見あたらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平04ー269321号公報
【特許文献2】特開2002ー129953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ハニカム担体自体の構造を改良することで、排ガス浄化用触媒の浄化性能は高く維持しつつ、排気騒音及び排気圧損を低減することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明のハニカム担体の特徴は、複数のセル通路をもつストレートフロー構造をなし内燃機関からの排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒に用いられる排ガス浄化触媒用ハニカム担体であって、排ガス流れ方向における下流側には、排ガス流れ方向に対して直角方向の断面における単位面積あたりのセル通路の数であるセル密度が上流側より低密度の低セル密度部をもつことにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハニカム担体を用いた排ガス浄化用触媒によれば、排ガス流入側端面から流入した排ガスが高セル密度部から低セル密度部に流入することで、排ガス流路が拡張される。したがって一般的な消音器と同様に、流路の拡張による消音効果が発現される。
【0011】
そしてハニカム担体内の平均セル密度が小さくなるので、ハニカム担体あたりの圧損上昇が抑制される。そのため排気系全体での消音のために必要になる圧損に余裕ができ、排気系全体での消音性能に対して低圧損で消音が実現できる。
【0012】
また排ガス浄化性能に影響の大きな上流部では、高セル密度のままとすることができるので、排ガス浄化性能を損なうこともない。
【0013】
さらに本発明のハニカム担体を排ガス浄化用触媒に用いることで、自動車の排気管に備えられる消音器を小型化できる可能性も大きい。また排気管全体の圧損レベルを低減できるので、エンジン出力性能の向上も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係るハニカム担体の模式的な平面図である。
【図2】本発明の一実施例に係るハニカム担体に用いた波板の部分斜視図である。
【図3】本発明の第二の実施例に係るハニカム担体の模式的な説明図である。
【図4】本発明の第二の実施例に係るハニカム担体に用い平波板の部分平面図である。
【図5】排気圧損と音圧レベルを相対的に示すグラフである。
【図6】NOx浄化率と音圧レベルとを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のハニカム担体は、排ガス流れ方向における下流側に、セル密度が上流側より低密度の低セル密度部をもつ。すなわち低セル密度部の上流側には、セル密度が低セル密度部より高い高セル密度部が形成されている。高セル密度部のセル密度は、自動車に用いられる一般的な三元触媒の場合と同様の 500〜 700セル/in2 程度とすることが好ましい。したがって低セル密度部のセル密度は、それより低ければよいが、 300〜 500セル/in2 とするのが好ましい。
【0016】
低セル密度部は、ハニカム担体の排ガス流出側端面から流入側端面へ向かって、ハニカム担体全長の20〜50%の長さ範囲に形成することが望ましい。この場合、高セル密度部は流入側端面から全長の50〜80%の範囲に形成されることになる。低セル密度部の形成範囲が、流出側端面から全長の20%に満たないと騒音低減効果が不足する。また低セル密度部が流出側端面から50%を超えて形成されると、排ガス浄化性能が低下するようになる。なお低セル密度部は、内周から外周まで形成してもよいし、外周部のみあるいは内周部のみに形成することもできる。
【0017】
本発明に係るハニカム担体は、コージェライト、アルミナ、SiC、SiNなどの耐熱性セラミックス、あるいは金属から製造することができる。低セル密度部を形成するには、以下のようにいくつかの方法がある。
【0018】
セラミックスから製造するには、まず従来のように粘土状スラリーを押出成形してセル通路を形成した後、下流側のセル隔壁を適宜除去して複数のセル通路を連結することで製造することができる。あるいは押出成形時にダイスを交換することで低セル密度部を形成することも可能である。
【0019】
また金属製のメタルハニカム担体の場合には、低セル密度部をさらに容易に形成することができる。メタルハニカム担体を製造するには、箔状の平板と、平板をコルゲート加工してなる波板とを重ねて巻回することで製造されるのが一般的である。この際に、波高さが一端側より他端側が高い波板を用いれば、巻回後には他端側で全体断面積とセル通路の断面積が大きなメタルハニカム担体が形成され、セル数は両端で同一であるので、他端側にセル密度が上流側より低密度の低セル密度部が形成される。あるいは波ピッチが一端側より他端側が大きな波板を用いてもよい。
【0020】
また、波板又は平板の一端部から他端部側へ延びるスリット又は切欠きを形成しておき、それを巻回してメタルハニカム担体を製造すれば、一端部側ではスリットによって複数のセル通路が連通し複数のセル通路どうしが結合される。これにより一端部側ではセル通路の数が他端部より少なくなり、一端部側に低セル密度部が形成される。
【0021】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に本実施例に係るハニカム担体を示す。このハニカム担体1はメタルハニカム担体であり、複数のセル通路10を有している。全体の径は排ガス上流側が小径で下流側が大径となっている。またセル通路10の径も、排ガス上流側がφ 112mmの小径で下流側がφ 135mmの大径となっている。セル通路10の数は上流側も下流側も同一であるので、上流側にセル密度が 600セル/in2 の高セル密度部11が形成され、下流側にセル密度が 400セル/in2 の低セル密度部12が形成されている。
【0023】
ハニカム担体1の全長は 118mmであり、高セル密度部11は排ガス流入側端面から50mmの長さの範囲に形成されている。また低セル密度部12は、排ガス流出側端面から50mmの長さの範囲に形成されている。高セル密度部11と低セル密度部12の間には、長さ18mmの傾斜セル部13が形成されている。
【0024】
このハニカム担体1は、以下のようにして製造された。まず厚さ50μmのステンレス製金属箔からなる平板と、その平板をコルゲート加工することで形成された波板2を用意した。ここで波板2は、図2に示すように、一端側に波高さが低い一般波部20と、他端側に波高さが高い高波部21とが形成され、一般波部20と高波部21との間には波高さが徐々に変化する傾斜波部22が形成されている。
【0025】
そして平板と波板2とを重ねてロール状に巻回し、その際に平板については外周で段差を設けながら巻回し、最後に平板と波板との接触部をスポット溶接によって接合して、本実施例のハニカム担体1を製造した。
【実施例2】
【0026】
図3に本実施例に係るハニカム担体を示す。このハニカム担体3はメタルハニカム担体であり、複数のセル通路30を有している。セル通路30の数は排ガス上流側で多く下流側で少なく、排ガス流入側端面から2/3の長さ範囲にセル密度が 600セル/in2 の高セル密度部31が形成され、排ガス流出側端面から1/3の長さ範囲にセル密度が 400セル/in2 の低セル密度部32が形成されている。
【0027】
このハニカム担体3は、以下のようにして製造された。図4に示すように、実施例1と同様の平板4の一端部に全幅寸法に対して約1/3の40mmの長さで、幅2mmのスリット40をピッチ12mmで形成した。この平板4と、全幅に一般波部20のみが形成されたこと以外は実施例1と同様の波板2とを用い、実施例1と同様にロール状に巻回し接合して本実施例のハニカム担体とした。排ガス流出側端面から1/3の長さ範囲では、スリット40によって複数のセル通路どうしが連通し結合された結果、その範囲にセル密度が 400セル/in2 の低セル密度部32が形成された。
[比較例1]
実施例1で用いた平板と実施例2で用いた波板とを重ねて巻回し、最後に平板と波板との接触部を接合して、本比較例のハニカム担体を製造した。セル密度は、全長均一で 600セル/in2 である。
【0028】
<試験例・評価>
各実施例及び比較例1のハニカム担体に、以下のようにして触媒コート層をそれぞれ形成した。
【0029】
まずアルミナにPtが担持されたPt/Al2O3 触媒粉末と、ジルコニアにRhが担持されたRh/ZrO2触媒粉末と、セリアージルコニア複合酸化物粉末と、バインダとしてのアルミナゾルとを、イオン交換水と混合してスラリーを調製した。このスラリーに各ハニカム担体を浸漬し、引き上げて余分なスラリーを吹き払った後、乾燥、焼成して触媒コート層を形成した。触媒コート層は、それぞれのハニカム担体の1リットルあたり 240g形成され、Pt及びRhはそれぞれのハニカム担体の1リットルあたり1g及び 0.3g担持されている。
【0030】
触媒コート層が形成された各ハニカム担体を 2.4Lのエンジンベンチの排気系にそれぞれ装着し、ハニカム担体前後の排ガス圧力差から圧損を測定した。また触媒コート層が形成された各ハニカム担体をモータ式ブロワーに接続し、騒音計によって音圧レベルを測定した。比較例1の測定値に対する相対値として結果を図5に示す。
【0031】
図5より、実施例1、2に係るハニカム担体によれば、比較例1に係る従来のハニカム担体に比べて圧損ばかりでなく騒音も低減されることが明らかである。
【実施例3】
【0032】
スリット40の形成長さを、全幅寸法に対して約21%(25mm)、50%(59mm)、約72%(85mm)の長さとしたこと以外は実施例2と同様の平板と、実施例2で用いた波板とを重ねてそれぞれ巻回し、最後に平板と波板との接触部を接合して、低セル密度部32の長さが異なること以外は同一の複数種のハニカム担体を製造した。これらのハニカム担体と、実施例2及び比較例1のハニカム担体に、上記試験例と同様にして触媒コート層を形成した。
【0033】
得られたそれぞれの触媒を 2.4Lのエンジンベンチの排気系にそれぞれ装着し、上記試験例と同様にして音圧レベルを測定するとともに、定常走行時のNOx 浄化率をそれぞれ測定した。結果を図6に示す。
【0034】
図6より、低セル密度部32を設けた各実施例によれば、比較例1に比べて音圧レベルが低下し騒音を低減できることが明らかである。更に、スリットの長さが全長の20%〜50%の範囲内であれば、NOx 浄化率を高く維持しつつ騒音を低減することができることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のハニカム担体は、セル隔壁表面にウォッシュコート法によって触媒コート層を形成することで、酸化触媒、三元触媒、NOx 吸蔵還元触媒、リーンNOx 触媒などとして利用することができる。またコートする材料を変更することで、HC吸着材、NOx 吸着材、H2S 吸着材などとして用いることもできる。
【符号の説明】
【0036】
1、3:ハニカム担体 2:波板 4:平板
10、30:セル通路 11、31:高セル密度部
12、32:低セル密度部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセル通路をもつストレートフロー構造をなし内燃機関からの排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒に用いられる排ガス浄化触媒用ハニカム担体であって、
排ガス流れ方向における下流側には、排ガス流れ方向に対して直角方向の断面における単位面積あたりの該セル通路の数であるセル密度が上流側より低密度の低セル密度部をもつことを特徴とする排ガス浄化触媒用ハニカム担体。
【請求項2】
前記低セル密度部は、下流側における全体断面積と該セル通路の断面積を上流側の全体断面積と該セル通路の断面積より大きくすることで形成されている請求項1に記載の排ガス浄化触媒用ハニカム担体。
【請求項3】
前記低セル密度部は、下流側において複数の該セル通路どうしを結合して該セル通路の数を上流側より少なくすることで形成されている請求項1に記載の排ガス浄化触媒用ハニカム担体。
【請求項4】
前記低セル密度部のセル密度は 300〜 499セル/in2 であり、前記低セル密度部以外の上流側におけるセル密度は 500〜 700セル/in2 である請求項1〜3のいずれかに記載の排ガス浄化触媒用ハニカム担体。
【請求項5】
前記低セル密度部は、排ガス流出側端面からハニカム担体全長の20〜50%の範囲に形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の排ガス浄化触媒用ハニカム担体。
【請求項6】
金属製平板と金属製波板との積層体からなる請求項1〜5のいずれかに記載の排ガス浄化触媒用ハニカム担体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−284599(P2010−284599A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140747(P2009−140747)
【出願日】平成21年6月12日(2009.6.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】