説明

排ガス浄化触媒

【課題】排ガスに含まれるリン化合物等による触媒の被毒を防止し、触媒の脱硝活性を向上させる。
【解決手段】メソポーラスシリカを担体とし、前記担体にMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素と、V、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素とを担持する。これらの元素は、酸化物又は複合酸化物であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス中の窒素酸化物をアンモニア(NH)で還元して除去する方法は、システムが簡単で効率が高いため、ボイラ燃焼排ガスをはじめとする各種固定発生源排ガスの脱硝プロセスの主流となっている。このプロセスには、NOxとNHとの反応を促進するための脱硝触媒が必要である。この脱硝触媒としては、酸化チタン系触媒が一般に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、近年では、鉱物質を多く含有する低品位石炭や低品位原油が燃料に用いられる傾向にある。このような低品位石炭や低品位原油を燃焼した場合には、鉱物質から生成する揮発性の物質、特に、リン、セレン、テルル、タリウム、ヒ素などの酸化物が排ガスに含まれるようになり、これら酸化物による触媒の被毒が問題となる。
【0004】
特許文献2には、平均細孔径が8Å以下でシリカ/アルミナ比が10以上のゼオライトと、酸化チタンとを混合し、さらに、銅、モリブデン、タングステン、バナジウム、鉄から選ばれる1種以上の元素を酸化チタンの部分に比べ、ゼオライトの部分に高濃度で存在させた窒素酸化物還元用触媒が開示されている。この触媒は、硫黄、鉛、セレン、ヒ素などの揮発性触媒毒を多量に含む排ガスの脱硝用に適用可能であるとされている。
【0005】
特許文献3には、細孔径が3.6〜5.8Åである担体に活性金属を担持した排煙脱硝触媒が開示されている。この触媒は、触媒細孔内部にヒ素酸化物等が拡散侵入することを防止することができるとされている。
【0006】
特許文献4には、熱処理後の貴金属及び基材のシンタリングを抑制し、HC、CO及びNOxの浄化効率を高めることを目的として、ゼオライト、メソポーラスシリカなどの多孔質物質に、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、インジウムなどの貴金属を担持させた排ガス浄化用触媒が開示されている。
【0007】
また、発明者らは、特許文献5において、排ガス中に含まれるリン化合物による触媒の被毒を防止し、耐久性を高めることを目的として、細孔の直径が8〜9Åであり、一次粒子径が150〜300nmであるメソポーラスシリカを用い、細孔内部に活性成分を担持した窒素酸化物除去用触媒であって、活性成分としてCu、Fe、Co、バナジウム、モリブデン及びタングステンから選ばれる少なくとも1種を含む窒素酸化物除去用触媒が開示している。さらに、活性成分としてチタン及びバナジウムを用いることも開示している。
【0008】
非特許文献1には、従来の酸化チタン系触媒におけるアンモニアを還元剤とした脱硝反応機構モデルが記載されている。このモデルにおいては、触媒上の還元剤であるアンモニアの吸着点(活性点)として固体酸点を想定し、反応物である窒素酸化物の吸着点(ペアの活性点)として触媒上の酸化金属における二重結合酸素(M=O)を想定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50−128681号公報
【特許文献2】特開昭63−12350号公報
【特許文献3】特開昭63−51948号公報
【特許文献4】特開2004−148166号公報
【特許文献5】特開2008−221203号公報
【非特許文献1】M.Imanari et al.、Proc. 7th Int. Congr. Catal.、1980、Vol.1、841(1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
メソポーラスシリカは、耐水熱性が高い細孔制御材料である。
【0011】
しかしながら、シリカは脱硝活性が低いため、メソポーラスシリカの細孔内に活性成分を担持する必要がある。メソポーラスシリカの細孔内に活性成分の一種である酸化チタン系触媒を多量に担持した場合、細孔が閉塞して十分な脱硝活性が得られない場合がある。
【0012】
本発明の目的は、排ガスに含まれるリン化合物等による触媒の被毒を防止するとともに、耐水熱性及び脱硝活性が高い排ガス浄化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の排ガス浄化触媒は、メソポーラスシリカを担体とし、前記担体にMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素と、V、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素とを担持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、排ガス浄化触媒において、排ガスに含まれるリン化合物等による被毒を防止するとともに、耐水熱性及び脱硝活性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例の脱硝装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の脱硝装置の内部に内蔵された触媒ユニットの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施例においては、窒素酸化物(NOx)を含有する排ガスから窒素酸化物を浄化する排ガス浄化触媒、この排ガス浄化触媒を用いた触媒プレート、触媒ユニット、脱硝装置及びボイラシステムを開示する。
【0017】
前記排ガス浄化触媒は、窒素酸化物及びリン化合物を含む排ガスから窒素酸化物を除去するものであって、メソポーラスシリカを担体とし、担体にMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素と、V、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素とを担持している。
【0018】
前記排ガス浄化触媒において、担体に担持されたMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素は、酸化物又は複合酸化物である。
【0019】
前記排ガス浄化触媒において、担体に担持されたV、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素は、酸化物又は複合酸化物である。
【0020】
前記排ガス浄化触媒においては、担体の平均細孔径が2〜70nmである。
【0021】
前記排ガス浄化触媒は、メソポーラスシリカに含まれるSiOの割合が質量基準で担体全体の30%以下である。
【0022】
前記触媒プレートは、排ガス浄化触媒を板状部材又は網状部材の表面に付設したものである。
【0023】
前記触媒ユニットは、触媒プレートを収納容器の内部に収納したものである。
【0024】
前記脱硝装置は、触媒プレートを用いたものである。
【0025】
前記ボイラシステムは、ボイラ(燃焼器)と脱硝装置とを含み、ボイラの排ガスを脱硝装置で処理するものである。
【0026】
以下、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、実施例の脱硝装置を示す概略構成図である。
【0028】
本図において、脱硝装置2は、ボイラ1の下流側の排気流路11に設置してある。脱硝装置2は、ボイラ1等から排出される排ガス中の窒素酸化物を除去するためのものである。この排気流路11には、熱交換器等を配置してもよい。
【0029】
図2は、図1の脱硝装置の内部に内蔵された触媒ユニットの一例を示す概略斜視図である。
【0030】
図1の脱硝装置2の内部には、図2に示す触媒ユニット12が複数個配置してある。これにより、触媒ユニット12メンテナンスが容易となるようにしている。
【0031】
触媒ユニット12は、実施例の排ガス浄化触媒を付着させた板状の触媒プレート3を金属製の収納容器4に複数固定したものである。
【0032】
収納容器4は、触媒プレート3に排ガスを接触させるため、図1の排気流路11に対向する面に開口部を設けてある。
【0033】
以下、排ガス浄化触媒(脱硝触媒)の作用について更に説明する。
【0034】
リンやその他の被毒物質(触媒毒)を含有する石炭を燃料とするボイラにおいては、排ガス中にP(リン)化合物やその他の被毒物質の化合物が含まれ、これらの化合物は、窒素酸化物及びアンモニア(NH)等の還元剤とともに触媒プレートの排ガス浄化触媒(脱硝触媒)の表面に到達する。
【0035】
被毒物質の化合物は、還元剤が吸着する触媒の活性点上に吸着するため、還元剤の吸着が阻害され、脱硝触媒の活性が低下すると推測される。そのため、被毒物質の化合物が侵入・拡散しにくいメソ細孔の内部に脱硝触媒を付着させれば、被毒による触媒劣化を防止することが可能である。
【0036】
メソポーラスシリカは、メソ細孔を有し、その細孔構造が安定である代表的な材料である。
【0037】
アンモニアを還元剤とした脱硝反応は、窒素酸化物がNO(一酸化窒素)の場合、下記反応式(1)に従って進行する。
【0038】
【化1】

【0039】
非特許文献1に記載されている脱硝反応機構モデルによれば、脱硝反応は、以下のように進むと想定されている。
【0040】
反応物である窒素酸化物(以下、NOとも呼ぶ。)と、還元剤であるアンモニア(以下、NHとも呼ぶ。)とが触媒上に吸着される必要がある。
【0041】
触媒上のNHの吸着点(活性点)は固体酸点(単に酸点とも呼ぶ。)であり、NOの吸着点(ペアの活性点)は触媒上の酸化金属における二重結合酸素(M=O)である。
【0042】
NHは、まず、酸点に吸着する。NOは、NHと相互作用を持ちながら、二重結合酸素によって活性化されてNHと反応し、N(窒素)とHOとに分解する。次いで、ガス中の酸素により活性点が酸化されて再生される。
【0043】
代表的な脱硝触媒である酸化チタン−酸化バナジウム系触媒の場合、固体酸点は、主に酸化チタンに由来し、二重結合酸素は、酸化バナジウムのV=Oに由来すると考えられる。これら2種類の活性点が近接して存在することが高活性触媒の条件となる。
【0044】
メソポーラスシリカを担体として、これに酸化チタン−酸化バナジウム系触媒を少量担持すると、酸化チタンと酸化バナジウムとがばらばらに配置され、酸点及び二重結合酸素のペアが減少して活性が低下する。また、バナジウムの二重結合酸素がシリカとペアをつくると、活性が発現しなくなる。シリカは、固体酸点が非常に少ないからである。
【0045】
そこで、発明者は、メソポーラスシリカを担体にしたアンモニア脱硝触媒の脱硝活性を高めるため鋭意検討した結果、固体酸点の代わりに、アンモニア酸化活性の高い活性成分であるMn、Co、Fe又はNiと、脱硝触媒活性のある成分であるV、Mo又はWとを組み合わせることが好適であることを見出した。
【0046】
アンモニア酸化活性の高い活性成分は、NHと酸素との反応を促進するため、NHを活性成分上に吸着する性能が高いと考えられる。そのため、アンモニア脱硝反応におけるNH吸着点の役割を担うことができると考えられる。
【0047】
しかしながら、NHが活性点に吸着した直後に酸化されて窒素酸化物になってしまうと、NOと反応することができない。
【0048】
そこで、脱硝活性が高い、すなわち、NOとNHとを反応させやすい活性成分と活性点を近接させることにより、触媒としての脱硝活性を高めることができると考えた。
【0049】
実施例の触媒に用いるメソポーラスシリカには、二次元六方構造のMCM−41、SBA−15、FMS−16及びMSU−H、立方構造のMCM−48及びSBA−1、ラメラ構造のMCM−50などがある。構造はいずれでもよいが、被毒物質の侵入を防止する観点から、平均細孔径は2〜70nmが好ましい。また、メソポーラスシリカにSiOが混ざっていてもよいが、その量は、質量基準で担体(メソポーラスシリカ)全体の30%以下が好ましい。
【0050】
メソポーラスシリカに担持してアンモニア酸化活性の高い活性成分としては、Mn、Co、Fe又はNiが好適である。これらの活性成分の担持形態は、金属、金属イオン又は酸化物が好ましい。Mnの酸化物としては、MnO、Mn、Mn、MnOなどが挙げられる。Coの酸化物としては、CoO、CoO(OH)、Coなどが挙げられる。Feの酸化物としては、FeO、FeO(OH)、Fe、Feなどが挙げられる。Niの酸化物としては、NiO、Ni(OH)などが挙げられる。
【0051】
一方、アンモニア脱硝活性のある活性成分としては、V、Mo又はWが好適である。これらの活性成分の担持形態は、金属、金属イオン又は酸化物が好ましい。これらの元素は、酸化チタンを担体とした場合、酸化チタンの表面に担持することにより高い脱硝活性が得られる。すなわち、アンモニア吸着点となる酸化チタンがあることにより高活性を示す。
【0052】
アンモニア酸化活性のある活性成分が酸化チタンの役割を果たすことから、アンモニア脱硝活性のある活性成分V、Mo又はWを、メソポーラスシリカの表面においてアンモニア酸化活性を有する活性成分Mn、Co、Fe又はNiと組み合わせることにより高活性を発現する。
【0053】
Vの酸化物としては、例えば、V、VO、V、VOなどが挙げられる。Moの酸化物としては、例えば、MoO、MoOなどが挙げられる。Wの酸化物としては、例えば、WO、WOなどが挙げられる。また、VとMoとの複合酸化物などでもよく、例えば、MoVO、VOMoO、VMoO、Mo25、Mo40などが挙げられる。
【0054】
実施例の触媒は、メソポーラスシリカに、アンモニア酸化活性の高い活性成分であるMn、Co、Fe又はNiと、脱硝触媒活性のある成分であるV、Mo又はWとを組み合わせて担持した脱硝触媒であるため、このままでも十分触媒活性を有するが、必要に応じて、窒素酸化物除去活性を有する触媒成分を更に追加担持してもよい。
【0055】
実施例の触媒の脱硝活性が高い理由は、アンモニア酸化活性の高い活性成分であるMn、Co、Fe又はNiがNHの吸着点の役割を担い、アンモニア脱硝活性の高い活性成分であるV、Mo又はWがNOの吸着及び還元反応の活性点となり、この2種類の活性点が共存することにより、窒素酸化物の還元反応が速やかに進行するためである。
【0056】
実施例の触媒において、メソポーラスシリカに担持するアンモニア酸化活性の高い活性成分Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される1種類以上の元素の担持量は、元素の重量基準で0.5〜10wt%であることが好ましい。担持量が0.5wt%より少ないと、NH吸着量が少なくなり、脱硝活性が低くなる。これに対して、担持量が10wt%より多いと、NHの酸化活性が優勢になり、脱硝活性が低くなる。
【0057】
メソポーラスシリカに担持するアンモニア脱硝活性の高い活性成分であるV、Mo及びWからなる群から選択される1種類以上の元素の担持量は、元素の重量基準で0.5〜10wt%であることが好ましい。
【0058】
実施例の排ガス浄化触媒を調製する方法としては、メソポーラスシリカにアンモニア酸化活性の高い活性成分であるMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される1種類以上の元素と、アンモニア脱硝活性のあるV、Mo及びWからなる群から選択される1種類以上の元素とを担持する方法としては、含浸法、蒸発乾固法、混練法、イオン交換法、TMP(Thermolytic Molecular Precursor)法などがあるが、細孔内部に活性成分を導入できる担持法であれば特に限定されるものではない。これらの方法のうち、TMP法は、担持する金属元素を含む金属アルコキシドとメソポーラスシリカの表面水酸基とを反応させて前駆体を形成するため、細孔内に確実に活性成分が担持される有効な方法である。
【0059】
アンモニア酸化活性の高い活性成分であるMn、Co、Fe又はNiの原料としては、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、シュウ酸塩、リン酸塩、水酸化物、酸化物、金属アルコキシドなどが使用できる。アンモニア脱硝活性のあるV、Mo又はWの原料としては、アンモニウム塩、シュウ酸塩、硫酸塩、酸化物、金属アルコキシドなどが使用できる。
【0060】
以上の条件で、メソポーラスシリカに、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される1種類以上の元素と、V、Mo及びWからなる群から選択される1種類以上の元素とを担持した触媒を調製し、200℃以下の温度で十分乾燥した後、空気雰囲気において800℃未満、好ましくは300〜500℃の範囲で、1〜10時間焼成し、触媒粉末を得る。
【0061】
このようにして調製した触媒は、そのまま、あるいはTiO、SiO、Alなどの結合剤や水を添加した後、成型する。成型物の形状は、粒状、ペレット状、ハニカム状、板状など、適用する反応器やガス流通条件により任意に選定することができる。成型物は、100℃以上で乾燥した後、さらに不活性ガスあるいは空気雰囲気において800℃未満好ましくは300〜500℃の範囲で、1〜10時間焼成することにより、強度を向上させることができる。
【0062】
実施例の触媒は、単独で使用することもできるが、周知の他の排ガス浄化触媒と組み合わせて使用することもできる。
【0063】
実施例の触媒は、メソポーラスシリカを担体としているため、P化合物などの被毒物質に対する耐久性が高い。このため、ハニカム触媒や板状触媒において、従来の排ガス浄化触媒で形成された層に上塗りする形で実施例の触媒を含む触媒層を形成し、反応ガスが従来の排ガス浄化触媒よりも先に実施例の触媒と接触する構成とすることが可能となる。これによって、従来の触媒成分のみで構成されたハニカム触媒や板状触媒よりも、劣化を軽減することができ、長寿命化することができる。
【0064】
このような方法により形成された触媒を用いて排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去するには、例えば、実施例の触媒に、窒素酸化物を含有する排ガスと還元剤であるアンモニアガスとの混合ガスを300℃以上の温度で流通して接触させればよい。還元剤としてアンモニア以外の化合物、例えば、分解してアンモニアを発生する尿素などの物質あるいは炭化水素、一酸化炭素(CO)などを流通してもよい。
【0065】
以下、実施例について具体的に説明する。
【実施例1】
【0066】
実施例触媒1、実施例触媒2、比較例触媒1及び比較例触媒2を調製し、NHを還元剤とした窒素酸化物の除去性能を測定した。
【0067】
実施例触媒1及び2並びに比較例触媒1及び2の調製方法は、以下の通りである。
【0068】
(実施例触媒1)
含浸法を用いてメソポーラスシリカにV及びMnを担持した。
【0069】
最初にV担持を行い、次にMn担持を行った。
【0070】
過酸化水素水溶液40gにNHVO1.05gを溶解した溶液を、メソポーラスシリカ(MCM−41、日本化学工業製SILFAM−A、比表面積977m/g、平均細孔径4.2nm)15gに含浸し、スパチュラでよく混合した。これを30分放置した後、120℃に設定した乾燥炉に入れ、大気中で1時間乾燥し、500℃に設定した電気炉で2時間乾燥した。
【0071】
次に、この粉末に、蒸留水45cmに硝酸マンガン六水和物2.58gを溶解した水溶液を含浸し、スパチュラでよく混合した。これを30分放置した後、120℃に設定した乾燥炉に入れ、大気中で1時間乾燥し、500℃に設定した電気炉で2時間乾燥し、実施例触媒1の粉末を得た。
【0072】
定量分析の結果、本実施例触媒のV担持量は2.8wt%であり、Mn担持量は3wt%であった。
【0073】
(実施例触媒2)
TMP法を用いてメソポーラスシリカにV及びMnを担持した。
【0074】
最初にV担持を行い、次にMn担持を行った。
【0075】
シュレンクナス型フラスコにメソポーラスシリカ(MCM−41、日本化学工業製SILFAM−A)15gを入れ、これをシュレンクラインに接続してオイルバスで180℃に加熱して15時間真空乾燥した。
【0076】
次に、このナス型フラスコにNガスを導入し、Nガス流通下で脱水テトラヒドロフラン110cm及びバナジウムトリ−n−ブトキシドオキシド2.58gを添加した。
【0077】
この混合液を、Nガス流通下、室温で15時間攪拌した。攪拌終了後、静置して固形物を沈降させ、上澄み液を注射器で除去した。ナス型フラスコ内に残った固形物をシュレンクラインにて室温で5時間真空乾燥した。これをオイルバスで180℃に加熱して15時間真空乾燥した。このナス型フラスコにNガスを導入し、Nガス流通下でセロソルブ110cm及びジ−i−プロポキシマンガン1.56gを添加した。
【0078】
この混合液を、Nガス流通下、室温で15時間攪拌した。攪拌終了後、静置して固形物を沈降させ、上澄み液を注射器で除去した。ナス型フラスコ内に残った固形物をシュレンクラインにて室温で5時間真空乾燥した。この乾燥粉末を大気中150℃で2時間乾燥した。
【0079】
最後に、大気中500℃で2時間焼成し、実施例触媒2を得た。
【0080】
定量分析の結果、本実施例触媒のV担持量は2.7wt%であり、Mn担持量は2.9wt%であった。
【0081】
(比較例触媒1)
実施例触媒1と同様の方法でV担持を行い、Mn担持を行わないで、メソポーラスシリカにVのみを担持した触媒を調製し、比較例触媒1の粉末を得た。
【0082】
定量分析の結果、本比較例触媒のV担持量は2.8wt%であった。
【0083】
(比較例触媒2)
Vの担持は行わず、メソポーラスシリカ15gに実施例触媒1と同様の方法でMnのみを担持した触媒を調製し、比較例触媒2の粉末を得た。
【0084】
定量分析の結果、本比較例触媒のMn担持量は3.2wt%であった。
【0085】
実施例触媒1、実施例触媒2、比較例触媒1及び比較例触媒2について、アンモニアを還元剤とした窒素酸化物(NOx)除去性能を比較した。
【0086】
触媒粉末をプレス成型後粉砕し、これを10〜20mesh(1.7mm〜870μm)に分級し、粒状触媒とした。
【0087】
このようにして形成した触媒を常圧流通式反応装置に設置し、以下の条件で入口NOx濃度及び出口NOx濃度を測定した。
【0088】
ガス組成:NO:200ppm、NH:240ppm、CO:12%、O:3%、HO:12%、N:バランス
空間速度(SV):120000h−1
反応温度:300℃、350℃、400℃、450℃
表1は、反応温度に対する各触媒のNOx除去率を示したものである。
【0089】
【表1】

【0090】
表1において、NOx除去率は、下記数式(1)により算出した。
【0091】
【数1】

【0092】
表1において、NOx除去率がマイナスの値を示している場合は、入口NOx濃度よりも、出口NOx濃度が増加していることを示す。すなわち、NHが酸化されて、NOx(NO又はNO)が生成したことを示す。
【0093】
表1の結果から、メソポーラスシリカにアンモニア脱硝活性があるVのみを担持した比較例触媒1は、測定した反応温度範囲におけるNOx除去率は約2%であり、ほとんど脱硝活性を示さない。メソポーラスシリカ上ではVは活性を発現していないことがわかる。
【0094】
また、メソポーラスシリカにMnのみを担持した比較例触媒2は、400℃以上でNOx除去率がマイナスの値を示していることから、Mnは、アンモニア酸化活性が高い成分であるといえる。
【0095】
これらと比較して、V及びMnの2成分を担持した実施例触媒1及び実施例触媒2は、どちらも測定した反応温度範囲で比較例触媒よりNOx除去率が高くなっている。また、400℃以上でNOx除去率は正の値を示しており、アンモニア酸化活性も抑制されている。
【0096】
実施例触媒1と実施例触媒2とは調製法が異なっている。含浸法を用いた実施例触媒1よりもTMP法を用いた実施例触媒2の方が各成分を細かく分散して担持させることができるため、活性が高くなると考える。
【0097】
これらの結果から、メソポーラスシリカにアンモニア酸化活性の高いMn及びアンモニア脱硝活性があるVを担持した実施例の触媒は、脱硝活性が高いことがわかる。
【実施例2】
【0098】
実施例触媒3、実施例触媒4及び比較例触媒3を調製し、NHを還元剤とした窒素酸化物の除去性能を測定した。実施例触媒3、4及び比較例触媒3の調製方法は、以下の通りである。
【0099】
(実施例触媒3)
硝酸マンガン六水和物2.58gの代わりに硝酸コバルト六水和物2.62gを用いること以外は、実施例触媒1と同様の方法で調製し、実施例触媒3の粉末を得た。本実施例触媒のV担持量は2.8wt%であり、Co担持量は3.2wt%であった。
【0100】
(実施例触媒4)
ジ−i−プロポキシマンガン1.56gの代わりにジ−i−プロポキシコバルト1.59gを用いることと、セロソルブの代わりにテトラヒドロフラン脱水を用いること以外は、実施例触媒2と同様の方法で調製し、実施例触媒4の粉末を得た。本実施例触媒のV担持量は2.7wt%であり、Co担持量は3.3wt%であった。
【0101】
(比較例触媒3)
Vの担持操作は行わず、メソポーラスシリカ15gに実施例触媒3と同様の方法でCoのみを担持した触媒を調製し、比較例触媒3の粉末を得た。定量分析の結果、本比較例触媒のCo担持量は3.2wt%であった。
【0102】
(実施例触媒5)
過酸化水素水溶液40gにNHVO1.05gを溶解した溶液の代わりに、過酸化水素水溶液40gにNHVOを0.88gと(NHMo24・4HOを0.26gとを溶解した溶液を、メソポーラスシリカ15gに含浸する以外は、実施例触媒1と同様の方法で調製し、実施例触媒5の粉末を得た。定量分析の結果、本実施例触媒のV担持量は2.5wt%、Moの担持量は0.9wt%、Mn担持量は3wt%であった。
【0103】
(実施例触媒6)
過酸化水素水溶液40gにNHVO1.05gを溶解した溶液の代わりに、過酸化水素水溶液40gにNHVO0.88g及び(NH101241・5HO0.39gを溶解した溶液を用いてメソポーラスシリカ15gに含浸すること以外は、実施例触媒1と同様の方法で調製し、実施例触媒6の粉末を得た。定量分析の結果、本実施例触媒のV担持量は2.5wt%、Wの担持量は1.8wt%、Mn担持量は3wt%であった。
【0104】
(実施例触媒7)
蒸留水45cmに硝酸マンガン六水和物2.58gを溶解した水溶液の代わりに、蒸留水45cmに硝酸マンガン六水和物2.1g及び硝酸ニッケル六水和物0.44gを溶解した水溶液を用いること以外は、実施例触媒1と同様の方法で調製し、実施例触媒7の粉末を得た。定量分析の結果、本実施例触媒のV担持量は2.8wt%、Mn担持量は2.7wt%、Niの担持量は0.5wt%であった。
【0105】
(実施例触媒8)
蒸留水45cmに硝酸マンガン六水和物2.58gを溶解した水溶液の代わりに、蒸留水45cmに硝酸マンガン六水和物2.1g及び硝酸鉄九水和物0.61gを溶解した水溶液を用いること以外は、実施例触媒1と同様の方法で調製し、実施例触媒8の粉末を得た。定量分析の結果、本実施例触媒のV担持量は2.8wt%、Mn担持量は2.7wt%、Feの担持量は0.5wt%であった。
【0106】
実施例触媒3〜8及び比較例触媒3について、実施例1と同様の方法でアンモニアを還元剤とした窒素酸化物(NOx)除去性能を比較した。
【0107】
表2は、各触媒の反応温度350℃におけるNOx除去率を示したものである。
【0108】
【表2】

【0109】
表2の結果から、メソポーラスシリカにCoのみを担持した比較例触媒3はNOx除去率が−30%を示している。このことから、Coは、アンモニア酸化活性が高い成分であるといえる。
【0110】
これに対して、V及びCoの2成分を担持した実施例触媒3及び実施例触媒4は、どちらも比較例触媒3よりNOx除去率が高くなった。また、実施例触媒3と実施例触媒4とは調製法が異なり、より細かく分散して担持できるTMP法を用いた実施例触媒4の方が、脱硝活性が高いことがわかる。
【0111】
実施例触媒5及び実施例触媒6は、アンモニア脱硝活性のある活性成分としてV、Mo及びWのうち、2種類の元素とMnとを担持した場合である。これらは、実施例1の実施例触媒1と同程度の性能を示すことがわかる。
【0112】
実施例触媒7及び実施例触媒8は、アンモニア酸化活性のある活性成分としてMn、Ni及びFeのうち、2種類の元素とVとを担持した場合である。これらも、実施例1の実施例触媒1と同程度の性能を示すことがわかる。
【0113】
以上の結果から、メソポーラスシリカにアンモニア酸化活性の高いMn、Co、Ni及びFeのうち1種類以上の元素と、アンモニア脱硝活性があるV、Mo及びWのうち1種類以上の元素を担持した実施例の触媒は、脱硝活性が高いことがわかった。
【符号の説明】
【0114】
1:ボイラ、2:脱硝装置、3:触媒プレート、4:収納容器、11:排気流路、12:触媒ユニット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物及びリン化合物を含む排ガスから窒素酸化物を除去する排ガス浄化触媒であって、メソポーラスシリカを担体とし、前記担体にMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素と、V、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素とを担持したことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記担体に担持されたMn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素は、酸化物又は複合酸化物であることを特徴とする請求項1記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記担体に担持されたV、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素は、酸化物又は複合酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記担体の平均細孔径が2〜70nmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
メソポーラスシリカに含まれるSiOの割合が質量基準で前記担体全体の30%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を板状部材又は網状部材の表面に付設したことを特徴とする触媒プレート。
【請求項7】
請求項6記載の触媒プレートを収納容器の内部に収納したことを特徴とする触媒ユニット。
【請求項8】
請求項6記載の触媒プレートを用いたことを特徴とする脱硝装置。
【請求項9】
請求項8記載の脱硝装置を有することを特徴とするボイラシステム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−230042(P2011−230042A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101588(P2010−101588)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】