説明

排卵障害改善剤とこれを含有する医薬品組成物、飼料、食品組成物および化粧料組成物、並びに家畜または家禽の排卵障害改善方法

【課題】安全性に優れる新規な排卵障害改善剤の提供。
【解決手段】アシタバの抽出物を有効成分として含有する排卵障害改善剤を提供する。この排卵障害改善剤において、前記アシタバは、農林水産省品種登録第14641号のアシタバとすることができる。また、この排卵障害改善剤を含有する不妊治療または予防のための医薬品組成物と、アシタバの抽出物を含有し、排卵障害の改善のために用いられるものである旨を表示した家畜用または家禽用の飼料および食品組成物並びに化粧料組成物をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排卵障害改善剤とこれを含有する医薬品組成物、飼料、食品組成物および化粧料組成物、並びに家畜または家禽の排卵障害改善方法に関する。より詳しくは、アシタバの抽出物を有効成分として含有する排卵障害改善剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、我が国において、妊娠を望む人の約10%が不妊症との診断を受けている。WHOの定義によれば、不妊症は「避妊なしで2年以内に妊娠にいたることができない状態」とされている。不妊症に対する治療の選択肢には、排卵誘発剤や体外授精、人工授精等がある。
【0003】
このうち、体外授精には、採取した卵子と精子をシャーレ内で受精させて受精卵を子宮に戻す胚移植(In Vitro Fertilization Embryo Transfer: IVF-ET)と、顕微鏡下で精子を直接卵子に注入し授精を行う顕微授精(Intracytoplasmic Sperm Injection: ICSI)と呼ばれる方法がある。ICSIは、精子不動症等により精子と卵子が自然に受精するのが困難な場合に行われている。体外受精の成功率は一般に20%程度とされ、未だ十分に高い確率とはなっていない。複数回の治療が必要となるケースも多く、患者は大きな経済的負担を強いられている。また、通院・治療のための患者の身体的・精神的負担も非常に大きい。
【0004】
多くの患者にとって不妊治療の第一の選択肢は、従来の排卵誘発剤による治療となっている。排卵誘発剤には、主としてhMG(human menopausal gonadotropin: ヒト閉経期尿中ゴナドトロピン)やhCG(human chorionic gonadotropin: ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)、プロジェステロン(progesterone)などのホルモン製剤が使用されている。この他、クロミフェンやクロモクリプチンといった薬剤も用いられている。しかし、排卵誘発剤による治療には、過排卵による多胎妊娠のリスクがあり、卵巣過剰刺激症等の副作用を引き起こす危険性もある。
【0005】
不妊の要因は、男性側および女性側のそれぞれに多数の要因が存在している。女性側の主な要因としては、(1)排卵障害または内分泌異常、(2)卵管障害や子宮内膜症などの器質的異常、(3)染色体異常がある。
【0006】
このうち、上述した排卵誘発剤による治療は、(1)排卵障害または内分泌異常を対象としている。近年では、過度のダイエットや、職場や家庭での心労といった身体的・精神的ストレスにより、無月経や稀発月経、月経不順に陥る女性が増加しており、排卵障害を原因とする不妊症は増加傾向にある。
【0007】
従って、正常な排卵を促すことで排卵障害を改善し、かつ、多胎妊娠および副作用のリスクを回避することができる排卵誘発剤が開発されれば、従来の排卵誘発剤による不妊治療に替わる有用な治療法に結びつくものと期待される。
【0008】
一方、不妊症は、ヒトのみならず、ブタやウシ、ニワトリ等の産業動物においても問題となっている。ブタやウシにおける不妊症(繁殖障害)は、産仔数の低下による食肉生産量の減少や、搾乳不能による牛乳生産量の減少といった生産効率上の問題を引き起こす。また、ニワトリでは、特に排卵障害による産卵数の低下が問題となる。
【0009】
産業動物においても、上記(1)排卵障害または内分泌異常は、不妊症(繁殖障害)の主な要因となっている。排卵障害は、栄養状態や温度、飼育密度等の飼育環境における管理不良による動物の身体的・精神的ストレスが原因となり得る。例えば低栄養は、卵巣活動の開始遅延や卵胞発育障害、卵巣静止を引き起こす。また、温度環境に関しては、いわゆる「夏季不妊症」が知られている。夏季不妊症は、狭義には、高温多湿の夏季に一時的にオス個体の造精機能が減退し、精液性状の不良化や受胎率の低下が現れる現象をいうが、特に乳用牛のホスルタイン種のように暑さに弱い動物では、メス個体においても暑熱ストレスにより排卵障害が生じることが知られている。
【0010】
このような産業動物における排卵障害を改善し、正常な排卵を促すことは、畜産業の生産効率を高めるため極めて重要である。特許文献2には、オレウロペイン等を含有し、排卵障害または初期発生異常の改善に用いられ得る飼料が開示されている。
【0011】
ここで、正常な排卵過程について説明する。卵胞の発育には、下垂体前葉から分泌されるFSH(Follicle stimulating hormone: 卵胞刺激ホルモン)とエストロジェン(卵胞ホルモン)が重要な働きを担っている。FSHは、卵巣に作用して卵細胞を取り囲む卵巣顆粒膜細胞の分裂と増殖を刺激し、卵胞腔の形成と卵胞液の貯留を促して卵胞を発育させる。卵胞が成熟すると、卵胞から分泌されるエストロジェンのポジティブフィードバック作用によって、下垂体前葉から急激な一過性のLH(Luteinizing hormone: 黄体形成ホルモン)の放出(LHサージ)が起こり、成熟卵胞が排卵する。
【0012】
卵胞からのエストロジェン分泌には、卵巣顆粒膜細胞(以下、単に「顆粒膜細胞」ともいう)のステロイド合成機能が関与している。顆粒膜細胞は、卵胞発育に阻害的に働くアンドロジェンをアロマターゼ(芳香化酵素)によりエストロジェンに転換することにより、卵胞からのエストロジェンの分泌量を増加させ、LHサージを誘起する。
【0013】
卵胞の正常な排卵には、この顆粒膜細胞のアンドロジェン/エストロジェン転換機能が重要な役割を果たし、卵胞の発育過程で顆粒膜細胞の細胞死(アポトーシス)が生じると卵胞は排卵せずに退行すると考えられている。
【0014】
この発育過程にある卵胞が排卵に至らず退行する現象は、「卵胞閉鎖」と呼ばれる。卵胞の発育と閉鎖は、正常な卵巣周期にあっては複数の卵胞において同時に進行している。しかし、例えば強い身体的・精神的ストレスにより内分泌系に失調をきたした場合などには、卵胞の正常な発育が阻害され、閉鎖する卵胞が支配的となる結果、排卵にいたる卵胞が減少し、排卵障害が生じることとなる。
【0015】
次に、本発明に関連する「アシタバ」および「源生林あしたば」(「源生林」は登録商標)について説明する。
【0016】
アシタバ(明日葉)は、日本の八丈島原産のセリ科シシウド属の多年草であり、伊豆地域で多く栽培されている。アシタバの葉と茎は、従来天ぷらなどとして食用に供されている。アシタバは、緑黄色野菜としてミネラルおよびビタミンが豊富であり、便秘防止作用、利尿作用および強壮作用などの効果があるとされることから、近年では健康食品として注目されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、アシタバにはカルコン類およびクマリン類に属する複数の化合物が含まれていることが知られており、これらの化合物が制がん作用、抗潰瘍作用、抗血栓作用、抗菌作用および抗エイズ作用などの効果を有することが報告されている。
【0017】
源生林あしたばは、野生種のアシタバが低温で枯れてしまうのに対して、氷点下の温度でも枯れない変異体として見出された種であり、農林水産省品種登録第14641号として登録されている。源生林あしたばは、食味および栄養価に優れ、上述した各種の作用についても野生種と同等以上の効果が期待されている。さらに、源生林あしたばは、耐寒性および越冬性に優れるため、野性種のように伊豆地域に限定されることなく、寒冷地も含めた広い地域において大規模な栽培が可能であるものと期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2005−237292号公報
【特許文献2】特開2009−191012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述のように、排卵障害を改善して正常な排卵を促すことは、ヒトおよび動物の不妊治療のため、さらには畜産業の生産効率向上のため、非常に重要な課題となっている。そこで、本発明は、安全性に優れる新規な排卵障害改善剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題解決のために鋭意検討した結果、アシタバの抽出物が排卵障害改善作用を有することを新規に見出し、本願発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、アシタバの抽出物を有効成分として含有する排卵障害改善剤を提供するものである。
この排卵障害改善剤において、前記アシタバは、農林水産省品種登録第14641号のアシタバとすることができる。
また、本発明は、この排卵障害改善剤を含有する不妊治療または予防のための医薬品組成物および化粧料組成物と、アシタバあるいはその抽出物を含有し、排卵障害の改善のために用いられるものである旨を表示した家畜用または家禽用の飼料および食品組成物並びに化粧料組成物も提供する。
さらに、本発明は、アシタバあるいはその抽出物を家畜または家禽に給餌する手順を含む、家畜または家禽の排卵障害改善方法をも提供する。
【0021】
本発明において、「アシタバ抽出物」には、アシタバの全草、あるいは葉、茎、根茎、花序、果実、種子などから選択される一以上の部位を圧搾または粉砕等することにより得られる液体成分が含まれるものとする。また、アシタバ抽出物には、アシタバの全草、あるいは葉、茎、根茎、花序、果実、種子などから選択される一以上の部位から適当な溶媒を用いて抽出される溶出成分も含まれる。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、安全性に優れる新規な排卵障害改善剤が提供される。この排卵障害改善剤の有効成分は、アシタバ抽出物由来であるため、副作用が少なく安全性に優れたものである可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】排卵障害動物モデルを用いた実験(試験例1)のスケジュールを説明するための図である。
【図2】アシタバ抽出物の排卵障害改善作用の評価結果(試験例1)を示す図面代用グラフである。
【図3】アシタバ抽出物の排卵障害改善作用の評価結果(試験例1)を示す図面代用グラフである。
【図4】アシタバ抽出物(茎)の顆粒膜細胞に対する細胞保護作用の評価結果(試験例2)を示す図面代用グラフである。
【図5】アシタバ抽出物(葉)の顆粒膜細胞に対する細胞保護作用の評価結果(試験例2)を示す図面代用グラフである。
【図6】アシタバ抽出物による処置を行った顆粒膜細胞におけるp38およびErk1/2のリン酸化量の変化を評価した結果(試験例3)を示す図面代用グラフである。
【図7】アシタバ抽出物による処置を行った顆粒膜細胞におけるAktのリン酸化量の変化を評価した結果(試験例3)を示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、実施例において詳しく後述するように、ラット排卵障害モデルを用いた検討により、アシタバ抽出物が排卵障害を改善する作用を有することを初めて見出した。このアシタバ抽出物の排卵障害改善作用は、経口投与されたアシタバ抽出物の顆粒膜細胞に対する細胞保護作用を介して発現されるものと考えられた。
【0025】
先に説明したように、卵胞の正常な排卵には、顆粒膜細胞のアンドロジェン/エストロジェン転換機能が重要な役割を果たし、卵胞の発育過程で顆粒膜細胞の細胞死(アポトーシス)が生じると卵胞は排卵せずに退行すると考えられている。本発明に係る排卵障害改善剤は、この顆粒膜細胞の細胞死を抑制し、卵胞の発育を促進することで、正常な排卵を促し、排卵障害を改善するものと考えられる。
【0026】
これまでに、身体的・精神的ストレス下において内分泌系の失調などによって排卵障害がおきることがよく知られている(例えば、”Induction of menstrual disorders by strenuous exercise in untrained women.” New England Journal of Medicine, 1985, Vol.312, No.21, p.1349-1353や、「性機能の障害と回復」,産科と婦人科(診断と治療社発行), 1989, 55巻, p.2-7を参照)。さらに、動物に暑熱ストレスを負荷したin vivo実験や細胞に酸化ストレスを負荷したin vitro実験で、これらのストレスによって内分泌系の失調や顆粒膜細胞の細胞死が引き起こされることが明らかにされている(例えば、”Heat stress diminishes gonadotropin receptor expression and enhances susceptibility to apoptosis of rat granulosa cells.” Reproduction, 2005, Vol.129, No.4, p.463-472や、”Correlation of mitogen-activated protein kinase activities with cell survival and apoptosis in porcine granulosa cells.” Zoological Science, 2003, Vol.20, No.2, p.193-201参照)。本発明に係る排卵障害改善剤は、この顆粒膜細胞の細胞死を抑制することで排卵障害を改善するものと推定される。
【0027】
従って、本発明に係る排卵障害改善剤は、排卵障害による不妊患者に対し適用して、正常な排卵を促進し妊娠を図るために好適に用いられ得る。また、産業動物に適用して、排卵障害による産仔数および産卵数の低下を改善し、生産効率の向上を図るためにも用いられ得る。さらに、健常者および健常動物に適用して、排卵障害や不妊を予防するためにも用いられる。
【0028】
本発明において、アシタバは、生のままでも乾燥したものでも使用することができる。アシタバとしては、特に農林水産省品種登録第14641号の源生林あしたばを用いることができる。使用するアシタバの部位は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、全草、あるいは葉、茎、根茎、花序、果実、種子などから選択される一以上の部位とでき、これらを適宜組み合わせて用いることができる。使用する部位は、葉、茎が好ましい。
【0029】
アシタバ抽出物は、アシタバを圧搾または粉砕等することにより液体成分として得ることができ、あるいはアシタバを適当な溶媒を用いて抽出することにより溶出成分として得ることもできる。
【0030】
溶媒抽出は、従来公知の手法によって行うことができる。溶媒抽出は、例えば、アシタバの全草あるいは一以上の部位を低温ないし加温下で溶媒中において所定時間浸漬したり加熱還流したりすることによって行い得る。得られた溶媒抽出物は、必要に応じてろ過や濃縮、イオン交換樹脂や液体クロマトグラフィーなどを用いた精製・分離、凍結乾燥等を行ってもよい。
【0031】
溶媒には、通常、植物抽出に用いられる溶媒を1種または2種以上選択して用いることができる。溶媒としては、例えば、水、アルコール類、グリコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭素類などを挙げることができる。アルコール類としては、エタノール、メタノールおよびプロパノールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコールおよびプロピレングリコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、ギ酸エチルなどが挙げられる。
【0032】
アシタバ抽出物は、液状(ジュース)、ペースト状、ゲル状等いずれの形態で用いることもできる。アシタバ抽出物は、乾固させて固体状としてもよく、あるいは凍結乾燥やスプレードライ等により乾燥させて粉末状としてもよい。
【0033】
アシタバは古くから食用されており、このことはアシタバ抽出物の高い安全性を示すものである。従って、アシタバ抽出物を有効成分とする本発明に係る排卵障害改善剤、およびこれを含有する医薬品組成物、飼料、食品組成物および化粧料組成物は、次のような優位性を有する。
【0034】
すなわち、本発明に係る排卵障害改善剤等は天然物由来成分であるため、その医薬品組成物は長期にわたって連続的に適用できる可能性が高く、副作用も少ない可能性が高い。また、例えば、健康補助食品(機能性食品)や化粧料などとして長期間、連続的に適用することにより、過度のダイエットや職場や家庭での心労といった身体的・精神的ストレスによる無月経や稀発月経、月経不順を原因とする排卵障害を予防できる可能性がある。また、産業動物の飼料に適用すれば、飼育環境の管理不良によるストレスを原因とする排卵障害の発生を予防できる可能性がある。
【0035】
本発明に係る医薬品組成物は、例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして経口的に、あるいは水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液または懸濁液剤などの注射剤の形で非経口的に使用できる。医薬品組成物は、上記排卵障害改善剤を、生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和することによって製造される。錠剤、カプセル剤などに混和することができる添加剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガント、アラビアゴムのような結合剤、結晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸などのような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤、ショ糖、乳糖またはサッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油またはチェリーのような香味剤などが用いられる。
【0036】
医薬品組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、投与対象(動物を含む)の年齢や体重、症状等を考慮して決定されるものである。
【0037】
本発明に係る化粧料組成物は、アシタバ抽出物と公知の化粧品成分とを混合し、例えば、化粧水、ローション、クリーム、パック等として調製ができる。
【0038】
化粧品成分として、具体的には、流動パラフィン、イソパラフィン、ワセリン、スクワラン、ミツロウ、カルナウバロウ、ラノリン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソパルミチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソオクチル酸セチル、トリイソオクチル酸グリセリル、トリカプリル酸グリセリル、カプリル酸およびカプリン酸の混合脂肪酸のトリグリセリド、ジイソオクチル酸ネオペンチルグリコールエステル、リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソノニル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル、イソステアリン酸ジペンタエリスリトールエステル、オリーブ油、ホホバ油、月見草油、ユーカリ油、大豆油、菜種油、サフラワー油、パーム油、ゴマ油、米胚芽油、タートル油、ミンク油、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、ステアリルアルコール、セタノール、ベヘニルアルコール等の油性成分、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトールテトラオレエート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、レシチン、リゾレシチン、ポリグリセリンやショ糖と前記脂肪酸とのモノ、ジ、トリまたはテトラエステル等の界面活性剤、多価アルコール類、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチン、天然保湿因子(NMF)、ピロリドンカルボン酸ソーダ、スフィンゴ脂質、リン脂質、コレステロール等の保湿剤、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カラギーナン等の増粘剤、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、安息香酸ナトリウム等の防腐剤、タルク、カオリン、マイカ、ベントナイト、雲母、雲母チタン、酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄等の顔料、クエン酸−クエン酸ナトリウム等のpH、BHT、BHA、ビタミンA類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンC類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩、ビタミンE類およびそれらの誘導体並びにそれらの塩等の抗酸化剤、ベンゾフェノン誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、メトキシケイ皮酸誘導体、ウロカニン酸等の紫外線吸収剤などが挙げられる。アシタバ抽出物にこれらの成分を組み合わせて適量配合し、加温もしくは非加温状態で、混合、分散、乳化あるいは溶解させ、液状、ペースト状、ゲル状、クリーム状(半固形状を含む)または固形状とし、化粧料組成物を得る。
【0039】
また、本発明に係る食品組成物は、アシタバあるいはその抽出物に、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤等の通常食品原料として使用されているものを適宜配合することにより製造できる。また、一般に食品材料として使用される米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、昆布、ワカメ、テングサなどと混合してもよい。
【0040】
食品組成物としては、例えば、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品等を挙げることができる。さらに、これらの食品組成物は、動物に給餌することも可能である。
【0041】
本発明に係る飼料は、アシタバあるいはその抽出物と、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、わら類、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、わら類等と混合することにより得ることができる。
【0042】
一般に、家畜の飼料は、粗飼料、濃厚飼料、および特殊飼料の3種類に大別される。このうち、粗飼料は相対的に粗繊維含量が多く、容積が多い割には可消化栄養分が少ない飼料を指す。粗飼料には、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、根菜類、わら類などが用いられている。また、濃厚飼料は比較的養分含量が高く、水分や粗繊維含量の低い飼料を指す。濃厚飼料には、トウモロコシ、マイロ、大麦、エンバク、米、アワ、ヒエ、キビ、コーリャンなどの穀類や、米糠、ふすま類などの穀物副産物(糠類)、落花生粕、綿実粕、ヒマワリ粕、菜種粕、胡麻粕、亜麻仁粕などの油粕類などが用いられている。
【0043】
本発明に係る飼料は、これらの飼料に、アシタバの全草、あるいは葉、茎、根茎、花序、果実、種子を、生の状態であるいは乾燥物として添加することにより製造できる。この場合、アシタバは、切断あるいは粉砕して添加すればよい。また、本発明に係る飼料は、上記した飼料に、アシタバ抽出物を添加することによっても製造できる。
【0044】
以上に説明した本発明に係る化粧料組成物、食品組成物および飼料には、必要に応じて、排卵障害の改善に用いられるものである旨が表示される。
【実施例】
【0045】
<試験例1>
1.アシタバ抽出物の排卵障害改善作用の検討
暑熱ストレス負荷による排卵障害動物モデルを用い、アシタバ抽出物の排卵障害改善作用について検討を行った。
【0046】
動物には、Wistarラット(メス、21日齢)を用いた。暑熱ストレスは、ラットを室温35℃、相対湿度60%環境下で飼育することにより負荷した(「ストレス負荷区」)。対照には、室温25℃、相対湿度50%環境下で飼育したラットを用いた(「対照区」)。なお、温度および相対湿度以外の環境条件(照明、換気、給餌方法等)は、ストレス負荷区および対照区において同条件とした。
【0047】
対照区およびストレス負荷区のラットに対し、図1に示すスケジュールにより被検物質としてコーンオイルあるいはアシタバ抽出物添加コーンオイルを投与し、PMSG(妊馬血清性性腺刺激ホルモン)およびhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)による排卵誘発を行った。
(1)第2日目に、ラットに被検物質を経口投与した。コーンオイルに添加したアシタバ抽出物には、源生林あしたばの茎をミキサーで粉砕し、遠心分離によって繊維質を除いて得た上清を凍結乾燥したものを用いた。アシタバ抽出物は、40 mg / kg body weight、160 mg / kg body weightあるいは640 mg / kg body weightの濃度で投与した。また、比較のため、コントロール個体には、コーンオイルのみを投与した。
(2)第3日目〜第6日目まで、第2日目と同時刻に同様の被検物質を投与した。
(3)第4日目および第6日目の被検物質の経口投与の後、それぞれPMSG(あすか製薬株式会社、Cat.No.879412)またはhCG(あすか製薬株式会社、Cat.No.879411)をラットに投与し、排卵を誘発した。PMSGおよびhCGは、0.6% NaCl溶液中に濃度200 IU/mlで溶解し、それぞれ100μl/個体で皮下投与した。PMSGは強いFSH作用と弱いLH作用を有し、その投与によって卵胞の発育を促進させることができる。その後、hCGを大量投与することで過排卵を誘起することが可能である。
(4)ストレス負荷区の個体については、第2日目の被検物質投与後から第6日目のhCG投与後まで、上記の暑熱環境下で飼育を行い、暑熱ストレスを負荷した。
(5)第7日目に、ラットの解剖を行い、両側卵管膨大部内の排卵数をカウントした。
【0048】
結果を図2および図3に示す。図2中、(A)は対照区のラットの排卵数を示し、(B)はストレス負荷区においてコーンオイルのみを投与したラットの排卵数を示す。また、(C)はストレス負荷区において40 mg / kg body weightの濃度でアシタバ抽出物を投与したラットの排卵数を示し、(D)はストレス負荷区において160 mg / kg body weightの濃度でアシタバ抽出物を投与したラットの排卵数を示す。図2に示すように、ストレス負荷区においてコーンオイルのみを投与した個体(B)では、対照区の個体(A)に比べ、顕著な排卵数の低下が確認された。これに対して、ストレス負荷においてアシタバ抽出物を投与した個体(C),(D)では、ストレス負荷による排卵数の減少が有意に抑制され、排卵障害が改善された。また、この排卵数の減少抑制効果は、アシタバ抽出物の投与濃度に依存した。
【0049】
図3中、(A)は対照区のラットの排卵数を示し、(B)はストレス負荷区においてコーンオイルのみを投与したラットの排卵数を示す。また、(C)はストレス負荷区において640 mg / kg body weightの濃度でアシタバ抽出物を投与したラットの排卵数を示す。図3に示すように、ストレス負荷区においてコーンオイルのみを投与した個体(B)では、対照区の個体(A)に比べ、顕著な排卵数の低下が確認された。これに対して、ストレス負荷区においてアシタバ抽出物を640 mg / kg body weightの濃度で投与した個体(C)では、暑熱ストレスの負荷による排卵数の減少が完全に抑制され、排卵数は対照区の個体と同程度に回復した。
【0050】
試験例1の結果から、アシタバ抽出物が、ストレス負荷による排卵数の減少を顕著に抑制する効果を示し、排卵障害改善作用を有することが明らかになった。
【0051】
<試験例2>
2.アシタバ抽出物の卵巣顆粒膜細胞に対する細胞保護作用の検討
上述の通り、卵胞の正常な排卵には、顆粒膜細胞のアンドロジェン/エストロジェン転換機能が重要な役割を果たし、卵胞の発育過程で顆粒膜細胞の細胞死(アポトーシス)が生じると卵胞は排卵せずに退行すると考えられている。そこで、試験例1において観察されたアシタバ抽出物の排卵障害改善作用が、顆粒膜細胞に対する細胞保護作用を介し発現されている可能性を検討するため、in vitroにおいてアシタバ抽出物の顆粒膜細胞に対する細胞死の抑制効果について検討を行った。
【0052】
顆粒膜細胞の分離は以下のように行った。ブタ卵巣を採取し、0.2% Cetyl trimethyl ammonium bromideを用いて洗浄した後、卵胞を摘出した。摘出した卵胞を0.1% Polyvinyl alcoholを含むリン酸緩衝生理食塩水液中で破り、卵胞の内外を反転させ、顆粒膜細胞を採取した。分離後の細胞は、35mm シャーレに播種し、10% FCSと2 mM glucose含有DMEM/F-12Ham (Sigma,Cat.No.D8062) 中で37℃、5%CO2の条件下において培養を行った。
【0053】
培養24時間後に死細胞を除いた顆粒膜細胞に対し、以下に示す手順に従ってアシタバ抽出物による処置と酸化ストレス負荷を行い、細胞生存率を評価した。
(1)培地交換を行った後、アシタバ熱水抽出液を培地に添加した。熱水抽出液は、源生林あしたばの茎と葉それぞれ1.6 gを細切し、60 ℃の水40 mlで2時間抽出し、遠心分離を行った後の上清をろ過して得た。各抽出液は、培地容量に対して1/10,000容量、1/1,000容量あるいは1/100容量の濃度で培地に添加した。
(2)アシタバ抽出物を含有する培地で24時間培養を行った後、洗浄により培地中のアシタバ抽出物を除去し、過酸化水素を終濃度150-300μMで培地に添加した。
(3)過酸化水素添加後、16時間培養を行い、MTSアッセイにより細胞生存率の測定を行った。
【0054】
結果を図4および図5に示す。図4は茎の熱水抽出物の結果を示し、図5は葉の熱水抽出物の結果を示す。図中、細胞生存率は、過酸化水素によるストレス負荷を行わなかった細胞を100とした相対値により示している。
【0055】
図4および図5に示すように、アシタバ抽出物で前処理しない細胞に過酸化水素によるストレス負荷を行った場合、細胞生存率が40〜60 %程度に減少した。これに対し、アシタバ抽出物で前処理した細胞にストレス負荷を行った場合では、細胞生存率が75 %程度に回復し、茎抽出物では細胞死が有意に抑制された。
【0056】
試験例2の結果から、アシタバ抽出物が、ストレス負荷による顆粒膜細胞の細胞死を抑制する効果を示し、顆粒膜細胞に対する細胞保護作用を有することが明らかになった。
【0057】
<試験例3>
3.アシタバ抽出物による卵巣顆粒膜細胞内のシグナル因子の活性化の検討
従来、シグナル因子p38のリン酸化による活性化が、顆粒膜細胞の酸化ストレスによる細胞死に関与することが知られている(例えば、“Correlation of mitogen-activated protein kinase activities with cell survival and apoptosis in porcine granulosa cells.” Zoolog Science, 2003, Vol.20, No.2, pp.193-201や“Cellular functions of mitogen-activated protein kinases and protein tyrosine phosphatases in ovarian granulosa cells.” Journal of Reproduction and Development, 2004, Vol.50, No.1, pp.47-55参照)。また、顆粒膜細胞の生存は、シグナル因子Erk1/2のリン酸化による活性化によって増強されることが知られている(例えば、上記の2文献参照)。さらに、シグナル因子PDK1/Aktのリン酸化による活性化が、顆粒膜細胞の生存に促進的に働くことが知られている(例えば、”Activation of the Akt/protein kinase B signaling pathway is associated with granulosa cell survival.” Biology of Reproduction, 2001, Vol.64, No.5, pp.1566-1574や、”Ovarian follicular growth and atresia: The relationship between cell proliferation and survival.” Journal of Animal Science, 2004, Vol.82, pp.E40-E52参照)。そこで、顆粒膜細胞をアシタバ抽出物で処置した際のp38、Erk1/2およびAktのリン酸化状態について検討を行った。
【0058】
試験例2で説明した方法により分離培養した顆粒膜細胞に対し、以下に示す手順に従ってアシタバ抽出物による処置を行い、p38、Erk1/2およびAktのリン酸化量の変化を評価した。
[p38およびErk1/2のウェスタンブロット解析]
(1)培地を10% FCS,2 mM glucose含有DMEM/F-12Ham (Sigma,Cat.No.D8062) に交換した後、培地容量に対して1/100容量のアシタバ抽出物を添加した。FCSには、Gibco (Cat.No.10437028) を用いた。アシタバ抽出物には、試験例2で調製した熱水抽出液を用いた。
(2)アシタバ抽出物を含有する培地で18時間培養を行い、0.3%FCSを含む培地に交換し、さらに6時間同濃度のアシタバ抽出物を含む培地で培養を行った。
(3)上記6時間培養の後、過酸化水素を終濃度300μMで培地に添加した。過酸化水素添加30分後に、p38とErk1/2のリン酸化状態を定法に従ったウェスタンブロットにより評価した。リン酸化フォームに結合する抗体として、p38にはPhospho-p38 Map Kinase (Thr180/Tyr182) Antibody (Cell Signaling Cat.No.#9211)を用い、Erk1/2にはPhospho-p44/42 Map (Erk1/2) (Thr202/Tyr104) Antibody (Cell Signaling Cat.No.#9101) を用いた。
[Aktのウェスタンブロット解析]
(1)培地を10% FCS,2 mM glucose含有DMEM/F-12Hamに交換し24時間培養後、0.3%FCSを含む培地に交換し、さらに6時間培養した。
(2)上記6時間培養の後、培地容量に対して1/100容量のアシタバ抽出物を添加し、添加5, 10, 30, 60, 120分後に細胞を溶解し、Aktのリン酸化状態を定法に従ったウェスタンブロットにより評価した。Aktのリン酸化フォームに結合する抗体としてPhospho-Akt (Ser473) Antibody (Cell Signaling Cat.No.#9271) を用いた。
【0059】
p38およびErk1/2のウェスタンブロットの結果を図6に示す。図最下段は、内部標準として用いたα-tubulinのタンパク量を示す。アシタバ抽出物を含まない培地において過酸化水素による処置を行った細胞では、細胞死に関与するp38のリン酸化が顕著に誘導されている。これに対し、アシタバ抽出物を含有する培地において過酸化水素による処置を行った細胞では、p38のリン酸化が抑制され、細胞生存を増強するErk1/2のリン酸化が誘導された。なお、α-tubulinのタンパク量は一定であった。
【0060】
Aktの結果を図7に示す。図下段は、内部標準として用いたα-tubulinのタンパク量を示す。アシタバ抽出物を含有する培地で培養を開始後60分から、顆粒膜細胞の生存に促進的に働くAktのリン酸化が顕著に誘導されていることが分かる。
【0061】
試験例3の結果から、アシタバ抽出物は、細胞内のErk1/2シグナルカスケードおよびAktシグナルカスケードを活性化させて細胞の生存を増強するとともに、p38の活性化を抑制することにより、顆粒膜細胞に対する細胞保護作用を示すものと考えられた。また、アシタバ抽出物の排卵障害改善作用は、この顆粒膜細胞に対する細胞保護作用を介して発現されるものと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る排卵障害改善剤は、ヒトおよび動物の不妊治療のため、あるいは畜産業の生産効率向上のための医薬品組成物、飼料、食品組成物並びに化粧料組成物として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシタバの抽出物を有効成分として含有する排卵障害改善剤。
【請求項2】
前記アシタバが、農林水産省品種登録第14641号のアシタバである請求項1記載の排卵障害改善剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の排卵障害改善剤を含有する不妊の治療または予防のための医薬品組成物。
【請求項4】
アシタバあるいはその抽出物を含有し、排卵障害の改善のために用いられるものである旨を表示した家畜用または家禽用の飼料。
【請求項5】
アシタバあるいはその抽出物を含有し、排卵障害の改善のために用いられるものである旨を表示した食品組成物。
【請求項6】
アシタバの抽出物を含有し、排卵障害の改善のために用いられるものである旨を表示した化粧料組成物。
【請求項7】
アシタバあるいはその抽出物を家畜または家禽に給餌する手順を含む、家畜または家禽の排卵障害改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102055(P2012−102055A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252731(P2010−252731)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(510284897)株式会社農学研センター (1)
【Fターム(参考)】