説明

排気ガス浄化用触媒及びその製造方法

【課題】触媒金属及びCeZr系複合酸化物粉末を含有する排気ガス浄化用触媒の排気ガス浄化性能を高める。
【解決手段】担体1上に、触媒金属とCeZr系複合酸化物粉末と無機酸化物からなるバインダとを含む触媒層2が設けられている排気ガス浄化用触媒において、触媒層2は、上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面に担持されるように該粒子に組み込まれて、上記CeZr系複合酸化物粉末上に偏在させたアルカリ金属を備え、上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面において、上記触媒金属と上記アルカリ金属とが互いに近接した状態で存在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガス浄化用触媒では、触媒金属の凝集による性能の低下が従来より問題になっている。この触媒金属の凝集は、触媒が高温の排気ガスに晒されることによって生ずる。例えば、自動車エンジンの排気マニホールドに直結される排気ガス浄化用触媒では、触媒温度が1100℃程度の高温になることがある。触媒金属を活性アルミナのような大きな比表面積を有するサポート材に分散担持させても、その触媒金属が次第に凝集していくことは避けられない。従来の触媒では、触媒金属が凝集してもある程度の触媒性能が得られるように、触媒金属量が多めになっている。しかし、触媒金属として一般に採用されるPt、Pd、Rh等の貴金属は高価であり、しかも、近年はそのようなレアメタル資源の確保が求められている。
【0003】
これに対して、触媒金属を活性アルミナ等の表面に担持するだけでなく、排気ガスの空燃比の変動に応じて酸素を吸蔵・放出する酸素吸蔵放出材として機能するCeZr系複合酸化物に触媒金属を固溶させることが行なわれている(特許文献1,2)。このCeZr系複合酸化物に触媒金属を固溶させると、その酸素吸蔵放出能が大幅に改善される。そのため、この触媒金属を固溶したCeZr系複合酸化物を三元触媒に使用し、理論空燃比を中心として排気ガスの空燃比をリーンとリッチとに繰り返し変化させると、少ない触媒金属量でも優れた排気ガス浄化性能が得られる。
【0004】
また、CeZr系複合酸化物にアルカリ金属を固溶させると、その塩基性が高まるなど、性質が変化することが知られている。
【0005】
例えば、特許文献3には、CeZr系複合酸化物に触媒金属と共にアルカリ金属を固溶させることにより、CeZr系複合酸化物に塩基性が高いサイトを形成し、該サイトに排気ガス中の硫黄を吸着させることにより、触媒金属の硫黄被毒を抑制することが記載されている。その調製法は、Ce、Zr、触媒金属及びアルカリ金属の各イオンを含む硝酸塩溶液にアンモニア水を添加して共沈を生じさせ、共沈物を乾燥・焼成する、というものであり、これにより、触媒金属及びアルカリ金属が固溶したCeZr系複合酸化物を得ている。
【0006】
また、特許文献4には、CeZr系複合酸化物にアルカリ金属を固溶させることにより、該複合酸化物の酸素吸蔵放出量を増大させること、かかるアルカリ金属を固溶したCeZr系複合酸化物と、Pdを担持した活性アルミナとを排気ガス浄化用触媒に用いることが記載されている。さらに、アルカリ金属を固溶したCeZr系複合酸化物は、共沈法や錯体重合法で調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−161143号公報
【特許文献2】特開2006−334490号公報
【特許文献3】特開2006−326550号公報
【特許文献4】特開2005−279332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記アルカリ金属を固溶したCeZr系複合酸化物の場合、アルカリ金属はCeZr系複合酸化物の粒子内に固溶しているから、粒子表面に露出するアルカリ金属量は少なくなる。従って、アルカリ金属の固溶によるCeZr系複合酸化物粉末の粒子表面特性の向上、触媒金属との相互作用の向上には限界がある。これに対して、アルカリ金属溶液を触媒層に含浸させてCeZr系複合酸化物粉末の粒子表面にアルカリ金属を担持させることも考えられる。しかし、その場合は、アルカリ金属がCeZr系複合酸化物粉末だけでなく、バインダなど触媒層の他の成分にもアルカリ金属が担持され、無駄が多くなるとともに、アルカリアタックによる担体の強度低下を招き易くなる。
【0009】
すなわち、本発明は、触媒金属及びCeZr系複合酸化物粉末を含有する排気ガス浄化用触媒の向上にアルカリ金属を効果的に利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、アルカリ金属をCeZr系複合酸化物(Ce及びZrの各イオンを含む酸化物)粉末の粒子表面に担持されるように該粒子に組み込み、且つ触媒金属とアルカリ金属とが該CeZr系複合酸化物粒子表面において互いに近接した状態になるようにした。以下、具体的に説明する。
【0011】
本発明は、担体上に、触媒金属と、Ce及びZrを含有するCeZr系複合酸化物粉末と、無機酸化物からなるバインダとを含む触媒層が設けられている排気ガス浄化用触媒であって、
上記触媒層において、上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面に担持されるように該粒子に組み込まれて、上記CeZr系複合酸化物粉末上に偏在させたアルカリ金属を備え、
上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面において、上記触媒金属と上記アルカリ金属とが互いに近接した状態で存在していることを特徴とする。
【0012】
このような排気ガス浄化用触媒によれば、アルカリ金属がCeZr系複合酸化物粉末の粒子表面に担持され、該粒子表面において触媒金属とアルカリ金属とが互いに近接した状態で存在するから、アルカリ金属が立体障害となって、CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面における触媒金属の凝集が抑制される。そして、アルカリ金属が有する電子供与性により、触媒金属とCeZr系複合酸化物とが酸素を介した結合状態をとり易くなり、触媒金属は酸化物としての性質が強くなって、HC(炭化水素)やCOを酸化浄化する活性が高くなり、同時にNOxの還元浄化が図れる。また、上記電子供与性により、CeZr系複合酸化物に吸着される排気ガス成分の活性が高くなり、触媒金属によって浄化され易くなる。しかも、アルカリ金属は、CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面に担持されるように該粒子に組み込まれているから、つまり、アルカリ金属を触媒層においてCeZr系複合酸化物粉末上に偏在させているから、アルカリ金属がバインダ等に担持される無駄が防止されるとともに、担体に対するアルカリアタックが避けられ、触媒の耐久性向上に有利になる。
【0013】
好ましい実施形態は、上記触媒金属が上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子に固溶し、その一部が該粒子表面に露出していることである。これにより、CeZr系複合酸化物の酸素吸蔵放出能が高くなるとともに、触媒金属の凝集抑制に有利になる。
【0014】
上記CeZr系複合酸化物に対する上記アルカリ金属の好ましい担持比率は、酸化物に換算して11モル%以下であり、さらに好ましいのは0.2モル%以上5モル%以下である。
【0015】
上記CeZr系複合酸化物粉末として好ましいのは、CeOとZrOとの質量比が同じか、ZrOがリッチである複合酸化物粉末である。CeZr系複合酸化物には、Ce及びZrの他にNdを配合することが好ましい。その場合の好ましい組成(質量比)は、CeO:ZrO:Nd=(5〜45):(45〜85):(5〜20)である。さらに第四金属成分として、例えばPr、Y、La、Hf、Ba、Sr、Ca、Mgを0.1質量%以上10質量%以下の範囲で配合することもできる。
【0016】
上記アルカリ金属としては、Li、Na、Kが好ましい。
【0017】
上記触媒金属としては、Pd、Pt、Rh、In、Au、Ag等の遷移金属(特に貴金属)があげられ、そのうちでもPdが好ましい。上記CeZr系複合酸化物粉末に対する触媒金属の担持比率は0.01質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明の別の観点は、上述の如き排気ガス浄化用触媒を製造することに適した方法であり、Ce及びZrの各イオンを含む溶液から得たCe及びZrを含むゲル形態の共沈物にアルカリ金属溶液を混合し、該混合物を焼成することによって、粒子表面にアルカリ金属が担持されたCeZr系複合酸化物粉末を得る工程と、
上記CeZr系複合酸化物粉末をバインダと共に担体にウォッシュコートして、該担体上に触媒層を形成する工程とを備え、
上記CeZr系複合酸化物粉末を得る工程において、上記溶液に触媒金属のイオンを添加して上記Ce及びZrと共に触媒金属を共沈させることにより、該触媒金属を上記CeZr系複合酸化物の粒子に固溶させるとともに、その一部の触媒金属を該粒子表面に露出させることを特徴とする。
【0019】
この製造方法の場合、Ce及びZrを含むゲル形態の共沈物にアルカリ金属溶液を混合し、該混合物を焼成するから、アルカリ金属溶液はゲルを構成する粒子表面に付着し、その後の焼成により、アルカリ金属が酸化物としてCeZr系複合酸化物の粒子表面に担持された状態になる。これにより、アルカリ金属を触媒層においてCeZr系複合酸化物粉末上に偏在させることができる。そして、CeZr系複合酸化物粉末を得る工程において、触媒金属をCe及びZrと共に共沈させるから、該触媒金属は当該CeZr系複合酸化物粒子に固溶するとともに、その一部の触媒金属が該粒子表面に露出した状態になり、その結果、該粒子表面ではアルカリ金属と触媒金属とが互いに近接した状態になる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように本発明に係る排気ガス浄化用触媒によれば、アルカリ金属はCeZr系複合酸化物粉末の粒子表面に担持されるように該粒子に組み込まれて該CeZr系複合酸化物粉末上に偏在し、該アルカリ金属と触媒金属とがCeZr系複合酸化物粉末の粒子表面において互いに近接した状態で存在しているから、アルカリ金属が立体障害となって、CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面における触媒金属の凝集が抑制され、また、アルカリ金属が有する電子供与性により、触媒金属はHCやCOを酸化浄化する活性が高くなり、或いは、CeZr系複合酸化物に吸着される排気ガス成分の活性が高くなり、優れた排気ガス浄化性能が得られるとともに、担体に対するアルカリアタックが避けられ、触媒の耐久性向上に有利になる。
【0021】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒の製造方法によれば、Ce及びZrを含むゲル形態の共沈物にアルカリ金属溶液を混合し、該混合物を焼成することによって、粒子表面にアルカリ金属が担持されたCeZr系複合酸化物粉末を得る工程と、該CeZr系複合酸化物粉末をバインダと共に担体にウォッシュコートして触媒層を形成する工程とを備え、上記CeZr系複合酸化物粉末を得る工程において、上記Ce及びZrと共に触媒金属を共沈させることにより、該触媒金属を上記CeZr系複合酸化物粒子に固溶させるとともに、その一部の触媒金属を該粒子表面に露出させるようにしたから、アルカリ金属がCeZr系複合酸化物の粒子表面に担持されてCeZr系複合酸化物粉末上に偏在し、且つアルカリ金属と触媒金属とはCeZr系複合酸化物粉末の粒子表面において互いに近接した状態になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る排気ガス浄化用触媒の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例に係るNaドープ型CeZr系複合酸化物粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例に係るNa後担持型CeZr系複合酸化物粒子の電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例に係るNaドープ型CeZr系複合酸化物粉末及び比較例に係るNa後担持型CeZr系複合酸化物粉末のX線回折パターンを示すグラフ図である。
【図5】実施例1〜6及び比較例1のライトオフ温度を示すグラフ図である。
【図6】実施例1〜6及び比較例1の排気ガス浄化率を示すグラフ図である。
【図7】実施例6及び比較例1,2のライトオフ温度を示すグラフ図である。
【図8】実施例6及び比較例1,2のライトオフ温度を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
図1に示す排気ガス浄化用触媒において、1は担体であり、この担体1上に触媒層2が形成されている。この排気ガス浄化用触媒1は自動車のガソリンエンジンが理論空燃比付近で運転されるときの排気ガスに含まれるHC(炭化水素)、CO及びNOx(窒素酸化物)を同時に浄化する三元触媒に適する。
【0025】
担体1は例えばコージェライト製のハニカム担体とされる。触媒層2は、触媒金属と、アルカリ金属と、酸素吸蔵放出材としてのCeZr系複合酸化物粉末と、無機酸化物からなるバインダとを含有する。触媒層2は、さらに、活性アルミナ粉末など他の触媒成分を含有することができる。CeZr系複合酸化物粉末上には、アルカリ金属と触媒金属とが共存している。すなわち、アルカリ金属は、触媒層2おいて上記CeZr系複合酸化物粉末上に偏在しており、さらに、CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面において、アルカリ金属と触媒金属とが互いに近接して設けられている。
【0026】
<アルカリ金属・触媒金属共存型CeZr系複合酸化物粉末について>
上記アルカリ金属と触媒金属とが共存したCeZr系複合酸化物粉末について、アルカリ金属としてNaを採用し、触媒金属としてPdを採用したケースで説明する。
【0027】
−実施例に係るNaドープ型CeZr系複合酸化物粉末の調製−
硝酸セリウム6水和物(17.15g)とZrOに換算して25.13質量%のZrを含有したオキシ硝酸ジルコニル溶液(78.78g)と硝酸ネオジム4水和物(7.07g)と硝酸パラジウム(3.44g)をイオン交換水(300mL)に溶かして硝酸塩混合溶液を得る。この硝酸塩混合溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液(900mL)を混合して中和させることにより、共沈物を得る。この共沈物を遠心分離法で水洗してゲルを得る。このゲル形態の共沈物に、アルカリ金属化合物としての硝酸ナトリウム(0.82g)を溶解させた水溶液を添加し、一昼夜攪拌混合する。得られた混合物を空気中において150℃の温度で乾燥させ、粉砕した後、空気中において500℃の温度に2時間保持する焼成を行なう。
【0028】
以上により、Pdが固溶し且つ粒子表面にNaが担持されたCeZr系複合酸化物粉末30gを得ることができる。一部のPdはCeZr系複合酸化物粉末の粒子表面に露出した状態になる。また、硝酸ナトリウム水溶液をCeZr系複合酸化物の前駆体であるゲル形態の共沈物に添加・混合(ドープ)するようにしているから、Naは、得られるCeZrNd複合酸化物粉末の粒子に組み込まれた状態になる。
【0029】
すなわち、上記ドープ後の焼成により、NaはCeZr系複合酸化物粉末の二次粒子表面に担持されるだけでなく、該二次粒子内部に埋もれている一次粒子の表面にも担持された状態になる。この場合、一部のNaがCeZr系複合酸化物粒子に固溶し、残部のNaが当該粒子表面に担持された状態になり、そして、粒子内に固溶したNaの一部はその粒子表面に露出し、この露出したNaに上記残部のNaが結合するから、NaのCeZr系複合酸化物粒子に対する結合強度が高くなっていると考えられる。その結果、このCeZr系複合酸化物粒子表面にはPdと強く結合したNaとが互いに近接した状態で存在し、そのNaがPdの凝集を抑制する立体障害の機能を果たすと考えられる。また、NaがCeZr系複合酸化物粒子(二次粒子)を構成する一次粒子間にあって、排気ガスを当該二次粒子内部に拡散させ易くしていると考えられる。
【0030】
得られたNaドープ(Pd固溶)型CeZr系複合酸化物粉末のPd及びNaを除く組成は、CeO:ZrO:Nd=23:67:10(質量比)である。Naの担持比率はNaOに換算してCeZrNd複合酸化物粉末の1質量%であり、これは金属酸化物のモル数で換算すれば、2.3モル%に相当する。
【0031】
−比較例に係るNa後担持型CeZr系複合酸化物粉末の調製−
上記Naドープ型CeZr系複合酸化物粉末の調製法とは違って、上記硝酸塩混合溶液の調製工程では硝酸パラジウムを添加せず、上記ゲル形態の共沈物に対して硝酸パラジウム水溶液を添加して攪拌混合するようにした。また、硝酸ナトリウム水溶液は、上記ゲル形態の共沈物には添加せずに、該ゲル形態の共沈物を乾燥焼成して得られたPd後担持CeZrNd複合酸化物粉末に含浸させるようにし、その後に焼成をした。その他は上記Naドープ型CeZr系複合酸化物粉末の調製法と同様にして、Na後担持(Pd後担持)型CeZr系複合酸化物粉末を得た。
【0032】
−電子顕微鏡写真観察−
上記Naドープ型CeZr系複合酸化物粉末及びNa後担持型CeZr系複合酸化物粉末各々に対して、大気雰囲気で1000℃の温度に24時間保持するエージングを行なった後に、それら粒子を電子顕微鏡で観察した。図2はNaドープ型CeZr系複合酸化物粒子の電子顕微鏡写真であり、図3はNa後担持型CeZr系複合酸化物粒子の電子顕微鏡写真である。実施例のNaドープ型CeZr系複合酸化物粒子では、該粒子に担持されているPd粒子の粒径が約79nmであるが、比較例のNa後担持型CeZr系複合酸化物粒子では、該粒子に担持されているPd粒子の粒径が約154nmであり、実施例の法がPd粒径は小さい。
【0033】
−X線回折パターン−
図4は上記エージング後のNaドープ型CeZr系複合酸化物粉末及びNa後担持型CeZr系複合酸化物粉末各々のXRD(X線回折分析)によるX線回折パターンを示す。このX線回折パターンに基いて、次のシェラーの式からPdの結晶子径を求めたところ、実施例のNaドープ型CeZr系複合酸化物粉末では70.2nmとなり、比較例のNa後担持型CeZr系複合酸化物粉末では86.3nmになった。
結晶子径D(hkl)=0.9λ/(β1/2・cosθ)
但し、hklはミラー指数、λは特性X線の波長(Å)、β1/2は(hkl)面の半価幅(ラジアン)、θはX線反射角度である(X線条件;X線源:CuKα,管電圧:50KV,管電流:240mA)。
【0034】
また、実施例のNaドープ型CeZr系複合酸化物粉末の場合、X線回折パターンに単斜晶(monoclinic)ZrOに由来するピークが認められたが、比較例のNa後担持型CeZr系複合酸化物粉末のX線回折パターンにはそのようなピークは見られない。実施例のNaドープ型CeZr系複合酸化物粉末に見られる単斜晶ZrO由来のピークは、一部のNaが当該CeZr系複合酸化物に固溶していることを推察させる。
【0035】
<実施例及び比較例に係る触媒の排気ガス浄化性能>
−実施例1〜6に係る触媒−
上記Naドープ型CeZr系複合酸化物粉末の調製法により、表1に示す仕込量にてNaのNaOに換算した担持比率が異なる実施例1〜5の各Naドープ(Pd固溶)型CeZr系複合酸化物粉末を調製した。Pd担持比率はいずれも0.5質量%である。実施例5では、硝酸Naの仕込み量が実施例4と同じく0.08gになっているが、Naドープ(Pd固溶)型CeZr系複合酸化物粉末の調製後に、該粉末をシュウ酸で処理してNa成分を溶出させ、NaO担持比率を0.01質量%以下にしている。
【0036】
また、実施例1〜5とは違って、上記硝酸塩混合溶液の調製工程では硝酸パラジウムを添加せずに、上記ゲル形態の共沈物に対して硝酸パラジウム水溶液を添加して攪拌混合するようにし、他は同様にして、NaO担持比率が1質量%(2.3モル%)である実施例6のNaドープ(Pd後担持)型CeZr系複合酸化物粉末を調製した。
【0037】
なお、表1のオキシ硝酸Zr溶液は、25.13質量%オキシ硝酸ジルコニル溶液のことである。
【0038】
【表1】

【0039】
そうして、実施例1〜6については、各々のCeZr系複合酸化物粉末を硝酸ジルコニルバインダ及びイオン交換水と共に混合してスラリーとし、これをハニカム担体にコーティングして触媒層を形成した。担体1L当たりのCeZr系複合酸化物粉末担持量は100g/Lである。ハニカム担体としては、セル壁厚さ3.5mil(8.89×10−2mm)、1平方インチ(645.16mm)当たりのセル数600のコージェライト製のもの(容量1L)を用いた。
【0040】
−比較例1に係る触媒−
実施例6と同様に、上記硝酸塩混合溶液の調製工程では硝酸パラジウムを添加せずに、上記ゲル形態の共沈物に対して硝酸パラジウム水溶液を添加して攪拌混合するようにし、且つこのゲル形態の共沈物には硝酸ナトリウム水溶液は添加せずに、他は同様にして、Naを担持させていない比較例1に係るNa無担持(Pd後担持)型CeZr系複合酸化物粉末を調製した。そして、このCeZr系複合酸化物粉末を実施例と同様の方法で同様のハニカム担体にウォッシュコートし、比較例1に係る触媒を得た。
【0041】
−比較例2に係る触媒−
先に説明した比較例に係るNa後担持型CeZr系複合酸化物粉末の調製法にて、NaO担持比率が1質量%(2.3モル%)である比較例2に係るNa後担持(Pd後担持)型CeZr系複合酸化物粉末を調製した。そして、このCeZr系複合酸化物粉末を実施例と同様の方法で同様のハニカム担体にウォッシュコートし、比較例2に係る触媒を得た。
【0042】
−排気ガス浄化性能の評価テスト−
実施例及び比較例の各触媒には、2%の酸素と10%の水を含んだ窒素雰囲気において、1000℃の温度に24時間保持するエージング処理を施した。
【0043】
しかる後、各触媒から担体容量25mLのコアサンプルを切り出し、これをモデルガス流通反応装置に取り付け、HC、CO及びNOの浄化に関するライトオフ温度T50(℃)及び排気ガス浄化率C400を測定した。T50(℃)は、触媒に流入するモデルガス温度を常温から漸次上昇させていき、浄化率が50%に達したときの触媒入口のガス温度である。排気ガス浄化率C400は、触媒入口でのモデル排気ガス温度が400℃であるときのガスの各成分の浄化率である。モデルガスは、A/F=14.7±0.9とした。すなわち、A/F=14.7のメインストリームガスを定常的に流しつつ、所定量の変動用ガスを1Hzでパルス状に添加することにより、A/Fを±0.9の振幅で強制的に振動させた。空間速度SVは60000h−1、昇温速度は30℃/分である。A/F=14.7、A/F=13.8及びA/F=15.6のときのガス組成を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例1〜6及び比較例1のライトオフ温度T50の測定結果を図5に示し、排気ガス浄化率C400の測定結果を図6に示す。
【0046】
図5の実施例1〜5のNaドープ(Pd固溶)型触媒(黒塗り)をみると、NaO担持比率が5質量%(10.7モル%)、1質量%(2.3モル%)及び0.1質量%(0.2モル%)である実施例2〜4は、NaO担持比率が0.01質量%以下である(同図の「*」を付けた)実施例5よりも、HC、CO及びNOの浄化に関するライトオフ温度T50が低い。
【0047】
図6の実施例1〜5のNaドープ(Pd固溶)型触媒(黒塗り)をみると、ライトオフ温度T50と同じく、実施例2〜4は実施例5よりも排気ガス浄化率C400が高い。また、NaO担持比率が1質量%(2.3モル%)であるときに(実施例3)、ライトオフ温度T50が最も低くなり、排気ガス浄化率C400が最も高くなっている。
【0048】
図5,6の両グラフから、NaO担持比率を11モル%以下にすると、Naを担持させない場合よりも、触媒の排気ガス浄化性能の向上を見込めること、また、NaO担持比率を0.2モル%以上5モル%以下にすると、高い排気ガス浄化性能を見込めることがわかる。
【0049】
実施例6のNaドープ(Pd後担持)型触媒及び比較例1のNa無担持(Pd後担持)型触媒(図5,6の「白抜き」)では、対応する実施例4,5のNaドープ(Pd固溶)型触媒よりも、ライトオフ温度T50が高くなり、排気ガス浄化率C400が低くなっている。従って、PdはCeZr系複合酸化物粉末の粒子に固溶させ、その一部のPdを該粒子表面に露出させることが好ましいということができる。
【0050】
図7は実施例6のNaドープ(Pd後担持)型触媒、比較例2のNa後担持(Pd後担持)型触媒、並びに比較例1のNa無担持(Pd後担持)型触媒各々のライトオフ温度T50を比較したグラフであり、図8はそれら3種の触媒各々の排気ガス浄化率C500(触媒入口でのモデル排気ガス温度が500℃であるときのガスの各成分の浄化率)を比較したグラフである。実施例6及び比較例2のNaO担持比率はいずれも1質量%(2.3モル%)である。また、Pd担持比率はいずれの触媒も0.5質量%である。
【0051】
図7,8をみると、実施例6のNaドープ(Pd後担持)型触媒は、比較例2のNa後担持(Pd後担持)型触媒よりも、ライトオフ温度が低く、排気ガス浄化率C500が高い。特にNOの浄化に関するライトオフ温度では、実施例6と比較例2とに顕著な差が出ている。これから、CeZr系複合酸化物粉末において、Naの担持形態をNaドープ型(焼成前のゲル形態の共沈物(CeZr系複合酸化物前駆体)にNa化合物水溶液を添加)にすると、触媒の排気ガス浄化性能が高くなることがわかる。
【0052】
なお、上記実施形態の触媒では、担体上に単一の触媒層が形成されているが、担体上に複数の触媒層を積層し、各触媒層に相異なる触媒金属を配置するようにしてもよい。例えば、上触媒層のCeZr系複合酸化物粉末及び活性アルミナ粉末に触媒金属としてRhを担持し、下触媒層のCeZr系複合酸化物粉末及び活性アルミナ粉末に触媒金属としてPdを担持するという触媒層構成である。そして、上下の触媒層のいずれかにおいて、或いは各触媒層において、アルカリ金属の担持形態を上述のドープ型として該アルカリ金属をCeZr系複合酸化物粉末上に偏在させるようにすればよい。
【符号の説明】
【0053】
1 担体
2 触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体上に、触媒金属と、Ce及びZrを含有するCeZr系複合酸化物粉末と、無機酸化物からなるバインダとを含む触媒層が設けられている排気ガス浄化用触媒であって、
上記触媒層において、上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面に担持されるように該粒子に組み込まれて、上記CeZr系複合酸化物粉末上に偏在させたアルカリ金属を備え、
上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子表面において、上記触媒金属と上記アルカリ金属とが互いに近接した状態で存在していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記触媒金属は、上記CeZr系複合酸化物粉末の粒子に固溶し、その一部が該粒子表面に露出していることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記CeZr系複合酸化物粉末に対する上記アルカリ金属の担持比率は、酸化物に換算して20モル%以下であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
上記CeZr系複合酸化物に対する上記アルカリ金属の担持比率は、酸化物に換算して0.2モル%以上5モル%以下であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記触媒金属はPdであることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項6】
Ce及びZrの各イオンを含む溶液から得たCe及びZrを含むゲル形態の共沈物にアルカリ金属溶液を混合し、該混合物を焼成することによって、粒子表面にアルカリ金属が担持されたCeZr系複合酸化物粉末を得る工程と、
上記CeZr系複合酸化物粉末をバインダと共に担体にウォッシュコートして、該担体上に触媒層を形成する工程とを備え、
上記CeZr系複合酸化物粉末を得る工程において、上記溶液に触媒金属のイオンを添加して上記Ce及びZrと共に触媒金属を共沈させることにより、該触媒金属を上記CeZr系複合酸化物の粒子に固溶させるとともに、その一部の触媒金属を該粒子表面に露出させることを特徴とする排気ガス浄化用触媒の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−36824(P2011−36824A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188557(P2009−188557)
【出願日】平成21年8月17日(2009.8.17)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】