説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】排気ガス浄化用触媒の性能向上を図る。
【解決手段】担体21にCePr系複合酸化物を含有する触媒層22が形成された排気ガス浄化用触媒において、上記CePr系複合酸化物の金属成分は、Ceと、Prと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と、触媒金属とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
排気ガス浄化用触媒は、Pt等の触媒金属と、高比表面積酸化物(例えば、γ−アルミナ)と、Ce含有酸化物とを含有する構成にされることが多い。すなわち、Ce含有酸化物は、酸素吸蔵放出能を有することから、三元触媒に利用される他、ディーゼルエンジン等から排出されるパティキュレートを燃焼するパティキュレート燃焼触媒に利用され、また、NOx吸着能を有することから、リーンバーンエンジンから排出されるNOxを浄化するリーンNOx触媒にも利用されている。
【0003】
また、近年では、Ce含有酸化物に触媒金属を固溶させることによって、触媒金属のシンタリング抑制と酸素吸蔵放出能の向上を図った触媒金属ドープ型Ce含有酸化物も排気ガス浄化用触媒に利用されている。例えば、特許文献1には、金属成分としてCe、Pr及びPtを含有する排気ガス浄化用のCePr系複合酸化物について記載され、特許文献2には、触媒金属ドープ型CePr系複合酸化物を含有するリーンNOx吸蔵触媒について記載され、特許文献3には触媒金属ドープ型CePr系複合酸化物を含有するパティキュレート燃焼触媒について記載されている。また、特許文献4には、Ce、Pr及びBiを含有する複合酸化物をパティキュレート燃焼触媒に利用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−5418号公報
【特許文献2】特開2010−94625号公報
【特許文献3】特開2010−94628号公報
【特許文献4】特開2009−61432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、触媒金属をドープしたCePr系複合酸化物は、触媒金属のシンタリング抑制と酸素吸蔵放出能の向上が図れる。しかし、CePr系複合酸化物に単に触媒金属をドープしただけでは、触媒の性能向上にも限界がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記触媒金属ドープ型CePr系複合酸化物に別の金属成分をドープすることにより、その触媒成分としての性能をさらに高め、排気ガス浄化用触媒の性能向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記触媒金属ドープ型CePr系複合酸化物の性能改善にアルカリ金属又はアルカリ土類金属が有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、ここに提示する排気ガス浄化用触媒は、担体にCePr系複合酸化物を含有する触媒層が形成されたものであって、上記CePr系複合酸化物の金属成分が、Ceと、Prと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と、触媒金属とからなることを特徴とする。
【0009】
ここに「からなる」とは、当該CePr系複合酸化物が、金属成分(当該酸化物を構成する金属イオン)としては、Ceと、Prと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と、触媒金属との他には含まないことを意味する。但し、不純物として混入する金属成分を除く。
【0010】
上記触媒金属、並びにアルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種を金属成分として含有するCePr系複合酸化物は、上記触媒金属を含有しアルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれも含有しないCePr系複合酸化物に比べて、酸素吸蔵放出性能が高い。アルカリ金属又はアルカリ土類金属がCePr系複合酸化物酸素の出し入れを促進するとともに、このアルカリ金属又はアルカリ土類金属の固溶によってCePr系複合酸化物の結晶歪みが大きくなるためと推測される。よって、本発明によれば、酸化触媒、三元触媒、パティキュレート燃焼触媒として、優れた排気ガス浄化性能を得ることができる。
【0011】
また、上記触媒金属、並びにアルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種を金属成分として含有するCePr系複合酸化物は、上記触媒金属を含有しアルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれも含有しないCePr系複合酸化物に比べて、塩基性が強くなるためNOx吸着能が高くなる。よって、本発明によれば、NOxの浄化にも有利になる。
【0012】
好ましい実施形態では、上記触媒層は、上記CePr系複合酸化物と、Pt及びRhより選ばれる少なくとも一種の触媒金属と、NOx吸蔵材とを含有し、上記Pt及びRhより選ばれる少なくとも一種の触媒金属及びNOx吸蔵材各々の少なくとも一部は、上記CePr系複合酸化物に担持されていること特徴とする。
【0013】
この実施形態は上記触媒をリーンNOx吸蔵触媒として利用するケースである。NOx吸蔵材から放出されるNOxは、上記CePr系複合酸化物に固溶し該CePr系複合酸化物の粒子表面に露出している触媒金属、並びに上記Pt及びRhより選ばれる少なくとも一種の触媒金属によって還元浄化される。そして、上記Pt及びRhより選ばれる少なくとも一種の触媒金属及びNOx吸蔵材各々の少なくとも一部は、上記CePr系複合酸化物に担持されているから、このCePr系複合酸化物上でNOxの還元浄化反応が効率良く進むことになる。また、先に述べたように、CePr系複合酸化物自体のNOx吸着能が高いから、そのことも、NOxの浄化に有利になる。
【0014】
なお、本書では、「吸蔵」はNOxがNOx吸蔵材に硝酸塩となって捕捉される現象の意味で使用し、「吸着」はNOxがCePr系複合酸化物粒子表面に物理吸着ないし化学吸着する現象の意味で使用している。
【0015】
ところで、アルカリ金属やアルカリ土類金属に代表されるNOx吸蔵材は、Ce含有酸化物と反応してそのNOx吸蔵能が低下することが知られている。従って、そのNOx吸蔵能の低下を見越して、触媒層には比較的多量のNOx吸蔵材を含有させることが求められる。しかし、上記CePr系複合酸化物の場合は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種を金属成分として含有するから、NOx吸蔵材との反応性が低い。このため、NOx吸蔵材の触媒層への添加量をそれほど多くしなくても、比較的高いNOx吸蔵能が長期にわたって維持され、NOx浄化に有利になる。
【0016】
別の好ましい実施形態では、上記担体は、エンジンの排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタであり、該フィルタの排気ガス通路壁部に、捕集されたパティキュレートを燃焼除去するための触媒層が形成されていて、該触媒層が上記CePr系複合酸化物を含有することを特徴とする。
【0017】
この実施形態は上記触媒をパティキュレート燃焼触媒として利用するケースである。先に述べたように、上記CePr系複合酸化物は優れた酸素吸蔵放出能を有することから、上記フィルタに捕集されたパティキュレートを短時間で効率良く燃焼させることができ、該フィルタのパティキュレート捕集能を回復させることに有利になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、触媒層のCePr系複合酸化物の金属成分が、Ceと、Prと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と、触媒金属とからなるから、酸化触媒、三元触媒、パティキュレート燃焼触媒として、或いはリーンNOx触媒として、優れた排気ガス浄化性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】各種CePr系複合酸化物のXRDパターンを示すグラフ図である。
【図2】各種CePr系複合酸化物の酸素吸蔵放出能をTPR(HO脱離)によって調べた結果を示すグラフ図である。
【図3】パティキュレートフィルタをエンジンの排気ガス通路に配置した状態を示す図である。
【図4】パティキュレートフィルタを模式的に示す正面図である。
【図5】パティキュレートフィルタを模式的に示す縦断面図である。
【図6】パティキュレートフィルタの排気ガス流入路と排気ガス流出路とを隔てる壁を模式的に示す拡大断面図である。
【図7】各種CePr系複合酸化物のカーボン燃焼速度と温度との関係を示すグラフ図である。
【図8】リーンNOx吸蔵触媒の触媒層構成を示す断面図である。
【図9】各種のCePr系複合酸化物を用いたリーンNOx吸蔵触媒の排気ガス温度250℃でのリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【図10】各種のCePr系複合酸化物を用いたリーンNOx吸蔵触媒の排気ガス温度300℃でのリーンNOx浄化率を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0021】
本発明に係る排気ガス浄化用触媒は、担体にCePr系複合酸化物を含有する触媒層が形成されたものであって、上記CePr系複合酸化物の金属成分が、Ceと、Prと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と、触媒金属とからなることを特徴とする。ここに、アルカリ金属としては、塩基性酸化物を形成する例えば、Li、Na及びKを採用することができ、アルカリ土類金属としては、塩基性酸化物を形成する例えば、Mg、Ca、Sr及びBaを採用することができる。触媒金属としては、Pt、Rh等の貴金属を採用することが優れた排気ガス浄化性能を得る上で好ましい。
【0022】
<CePr系複合酸化物の結晶構造>
アルカリ金属又はアルカリ土類金属としてLi、Na、K、Mg、Ca、Sr及びBa各々を採用し、触媒金属としてPtを採用した計7種類の本発明に係るCePr系複合酸化物、すなわち、「Pt−Li」ドープCePr系複合酸化物、「Pt−Na」ドープCePr系複合酸化物、「Pt−K」ドープCePr系複合酸化物、「Pt−Mg」ドープCePr系複合酸化物、「Pt−Ca」ドープCePr系複合酸化物、「Pt−Sr」ドープCePr系複合酸化物及び「Pt−Ba」ドープCePr系複合酸化物、並びに触媒金属としてのPtを含有しアルカリ金属及びアルカリ土類金属のいずれも含有しないCePrPt複合酸化物(以下では必要に応じて「比較例」と表示する。)を調製した。その調製法は次のとおりである。
【0023】
Ceイオン、Prイオン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のイオン、及びPtのヒドロキソ錯体を含む酸性溶液を調製する。Ce源としては硝酸セリウム(III)六水和物を、Pr源としては硝酸プラセオジム(III)六水和物を、アルカリ金属又はアルカリ土類金属源としてはそれらの硝酸塩を、Pt源(ヒドロキソ錯体)としてはヘキサヒドロキソ白金(IV)酸エタノールアミン溶液を、それぞれ採用する。Pt源としてはヘキサヒドロキソ白金(IV)酸硝酸溶液を採用してもよい。これら4種の金属塩各々の所定量と水とを混合して原料溶液(酸性)とする。
【0024】
上記原料溶液に塩基性溶液を添加混合して、当該複合酸化物粒子の前駆体である複合水酸化物の沈殿を生成する(共沈)。原料溶液を室温で約1時間攪拌した後、これに塩基性溶液として例えば濃度7%程度のアンモニア水を添加すればよい。苛性ソーダ水溶液など他の塩基性溶液を採用することもできる。
【0025】
上記前駆体沈殿物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する。この上澄み液を除去した沈殿脱水物にさらにイオン交換水を加えて攪拌し再び遠心分離器にかける、という水洗・脱水操作を必要回数繰り返す。当該水洗・脱水操作により、余剰塩基性溶液が除去される。この沈殿脱水物を乾燥させた後、焼成し、粉砕する。乾燥は、例えば大気雰囲気において100℃〜250℃程度の温度に所定時間保持することによって行なうことができる。また、焼成は、例えば大気雰囲気において400℃〜600℃程度の温度に数時間保持することによって行なうことができる。
【0026】
以上により、CeとPrとアルカリ金属又はアルカリ土類金属とPtとが酸化物粒子を形成するように複合されてなり、Ce酸化物及びPr酸化物各々の少なくとも一部が互いに固溶し、これに上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属とPtとが固溶し、その一部が当該酸化物粒子表面に分散して露出している、本発明に係るCePr系複合酸化物粒子が得られる。
【0027】
上記比較例に係るCePrPt複合酸化物は、原料溶液にアルカリ金属源及びアルカリ土類金属源を添加しないことを除いて、上記本発明に係るCePr系複合酸化物と同様の方法で調製することができる。
【0028】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有する7種のCePr系複合酸化物の組成は、Ce:Pr=9:1(モル比)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は複合酸化物全体の20モル%、Pt含有量は0.4質量%である。また、比較例のCePrPt複合酸化物の組成は、Ce:Pr=9:1(モル比)、Pt含有量は0.4質量%である。
【0029】
図1は上記計8種種類のCePr系複合酸化物の結晶構造を調べたXRD(X線回折)パターンである。同図から明らかなように、これらCePr系複合酸化物はいずれも立方晶構造のCePr複合酸化物を主成分とするものである。
【0030】
<CePr系複合酸化物の酸素吸蔵放出能>
上記8種類のCePr系複合酸化物各々について、大気雰囲気において750℃の温度に24時間保持するエージングを行なった後、TPR(昇温還元法)によって酸素吸蔵放出能を調べた。すなわち、上記の各複合酸化物に対して室温から600℃まで昇温しながら酸素を吸蔵させ、次いで室温まで温度を下げた後、室温から650℃まで昇温しながら当該複合酸化物に対して3.5%濃度の水素を供給し、複合酸化物から脱離するHOの濃度を測定することによって、当該複合酸化物の酸素吸蔵放出能(複合酸化物に吸蔵された酸素量)を評価した。昇温速度は20℃/分、ガス流速は1.667mL/秒とし、100℃から650℃の間の酸素吸蔵放出能を評価した。
【0031】
結果を図2に示す。「Pt−Li」、「Pt−Na」、「Pt−K」、「Pt−Ca」、「Pt−Sr」及び「Pt−Ba」の各CePr系複合酸化物は、比較例(CePrPt複合酸化物)よりも低温域にHO脱離濃度のピークが現れており、触媒の低温活性向上に有利であることがわかる。「Pt−Mg」のCePr系複合酸化物は、比較例(CePrPt複合酸化物)と略同じ温度にHO脱離濃度のピークが現れているが、そのピークは比較例よりも大きいことから、排気ガスの浄化に有利であることがわかる。
【0032】
<実施形態1>
本実施形態はCePr系複合酸化物をパティキュレート燃焼触媒に利用するケースである。図3はエンジンの排気ガス通路11に配置されたパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」という。)1を示す。フィルタ1よりも排気ガス流の上流側の排気ガス通路11には、活性アルミナ等のサポート材にPt、Pd等に代表される触媒金属を担持した酸化触媒(図示省略)を配置することができる。このような酸化触媒をフィルタ1の上流側に配置するときは、該酸化触媒によって排気ガス中のHC、COが酸化され、その酸化燃焼熱でフィルタ1に流入する排気ガス温度が高められる。また、NOがNOに酸化され、該NOがフィルタ1にパティキュレートを燃焼させる酸化剤として供給されることになる。
【0033】
図4及び図5に模式的に示すように、このフィルタ1は、ハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排気ガス通路2,3を備えている。すなわち、フィルタ1は、下流端が栓4により閉塞された排気ガス流入路2と、上流端が栓4により閉塞された排気ガス流出路3とが交互に設けられ、排気ガス流入路2と排気ガス流出路3とは薄肉の隔壁5を介して隔てられている。なお、図4においてハッチングを付した部分は排気ガス流出路3の上流端の栓4を示している。
【0034】
フィルタ1は、上記隔壁5を含むフィルタ本体がコージェライト、SiC、Si、サイアロンのような無機多孔質材料から形成されており、排気ガス流入路2内に流入した排気ガスは図5において矢印で示したように周囲の隔壁5を通って隣接する排気ガス流出路3内に流出する。すなわち、図6に示すように、隔壁5は排気ガス流入路2と排気ガス流出路3とを連通する微小な細孔(排気ガス通路)6を有し、この細孔6を排気ガスが通る。そして、パティキュレートは、主に排気ガス流入路2と細孔6の壁部に捕捉され堆積する。
【0035】
上記フィルタ1のフィルタ本体の上記排気ガス通路(排気ガス流入路2、排気ガス流出路3及び細孔6)の壁部には触媒層7が形成されている。なお、排気ガス流出路3の壁部に触媒層を形成することは必ずしも要しない。
【0036】
上記触媒層7は、上述のアルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と触媒金属とをドープしたCePr系複合酸化物粒子成分と、触媒金属を担持した活性アルミナ粒子成分とを含有する。
【0037】
−パティキュレート燃焼性の評価−
本発明に係る「Pt−Li」、「Pt−Na」、「Pt−K」、「Pt−Sr」及び「Pt−Ba」の各CePr系複合酸化物粉末、並びに比較例に係るCePrPt複合酸化物粉末を準備した。本発明に係るCePr系複合酸化物粉末の組成は、XRD分析に供したものと同じく、Ce:Pr=9:1(モル比)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は複合酸化物全体の20モル%、Pt含有量は0.4質量%である。また、比較例に係るCePrPt複合酸化物の組成は、Ce:Pr=9:1(モル比)、Pt含有量は0.4質量%である。
【0038】
そうして、上記各複合酸化物粉末について、大気雰囲気において750℃の温度に24時間加熱するエージングを行なった後、パティキュレートとしてカーボンを採用して、TG-DTA測定装置を用いて各々のパティキュレート燃焼性を評価した。
【0039】
すなわち、各複合酸化物粉末2mgとカーボン0.5mgを均一に混合した燃焼性評価用サンプルを作成する。これをO−20%、NO−250ppmの気流中でカーボンが燃焼することによる重量減少速度を評価した。昇温速度は10℃/分、ガス流速は3.333mL/秒とし、100℃から700℃の間のカーボン燃焼速度を評価した。
【0040】
結果を図7に示す。「Pt−Li」、「Pt−Na」、「Pt−K」及び「Pt−Sr」の各CePr系複合酸化物は、比較例(CePrPt複合酸化物)よりも、カーボン燃焼速度のピークが低温側に現れており、パティキュレートの着火温度が低いことがわかる。従って、それらCePr系複合酸化物を含有するパティキュレート燃焼触媒によれば、パティキュレートを比較的低い温度で速やかに燃焼除去することができること、そして、パティキュレートを燃焼させるために(排気ガス温度を高めるために)必要な燃料消費量を抑えることができることがわかる。
【0041】
また、「Pt−Ba」のCePr系複合酸化物は、比較例(CePrPt複合酸化物)と略同じ温度にカーボン燃焼速度のピークが現れているが、低温度域に燃焼速度の速い領域が存在することから、パティキュレートの早期着火に有利であり、連続再生領域が拡大することによって、燃料消費の抑制に有利になることがわかる。
【0042】
<実施形態2>
本実施形態はCePr系複合酸化物をリーンNOx吸蔵触媒に利用するケースである。リーンNOx吸蔵触媒は、エンジンの排気ガス通路に配置され、排気ガス中の酸素が過剰である空燃比リーン時に排気ガス中のNOxをNOx吸蔵材に吸蔵させ、NOx吸蔵量が所定値に達したときに、排気ガス中の未燃燃料が多くなるようにエンジンの燃料噴射を制御することにより、排気の酸素濃度を低下させて(空燃比リッチにして)NOx吸蔵材からNOxを放出させるとともに、その未燃燃料を還元剤としてNOxを還元浄化する触媒として知られている。
【0043】
図8はリーンNOx吸蔵触媒の触媒層構造を示す。同図において、21はハニカム担体のセル壁、22はセル壁21に形成された下触媒層、23は下触媒層2の上に積層された上触媒層である。ハニカム担体21はコージェライト等の耐熱性無機材料によって形成することができ、或いはメタル担体とすることができる。
【0044】
好ましいのは、下触媒層22に上述のアルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と触媒金属とをドープしたCePr系複合酸化物粒子成分と、活性アルミナ粒子成分とを配置し、上触媒層23に触媒金属としてのRhを担持した活性アルミナ粒子成分を配置し、さらにこの上下の触媒層22,23にPt、Rh及びNOx吸蔵材成分を含浸させて担持させることである。
【0045】
上記含浸担持は、Pt溶液、Rh溶液及びNOx吸蔵材溶液を触媒層22,23に含浸させて乾燥及び焼成をすることによって行なうことができる。従って、下触媒層22のCePr系複合酸化物粒子成分及び活性アルミナ粒子成分、並びに上触媒層23のRh担持活性アルミナ粒子成分各々には、Pt、Rh及びNOx吸蔵材成分各々の少なくとも一部が担持された状態になる。NOx吸蔵材としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は希土類金属を採用することができ、特にBa、Sr等のアルカリ土類金属が好ましい。
【0046】
酸素過剰雰囲気では、下触媒層22の活性アルミナ粒子成分に担持されたPtは、排気ガス中のNOをNOx吸蔵材に吸蔵され易いNOに転化する。また、上記CePr系複合酸化物粒子成分は、酸素過剰雰囲気で酸素を吸蔵し、雰囲気の酸素濃度が低下すると、吸蔵していた酸素を活性酸素として放出するが、酸素過剰雰囲気においても、Ceイオンの価数変化により、排気ガス中の酸素を取り込んで当該複合酸化物粒子内の酸素と交換する酸素交換反応を起こす性質があり、その酸素交換反応によって放出される活性酸素が排気ガス中のNOのNOへの転化することに働く。
【0047】
排気ガスの酸素濃度が下がったときには、活性アルミナに担持されたPtは、上記CePr系複合酸化物粒子成分から放出される活性酸素によって排気ガス中のHCやCOを酸化し、その反応熱で触媒温度を高める一方、HCやCOを還元剤として、NOx吸蔵材から放出されるNOxを還元浄化する。また、上触媒層23の活性アルミナに担持されたRhは、雰囲気の酸素濃度が低下した状態において、HCやCOを還元剤とするNOxの還元浄化に効果的な働きをする。
【0048】
以下、具体例を説明する。4種類のリーンNOx吸蔵触媒を調製した。いずれも触媒層は、図8に示す二層構造であり、下触媒層22がCePr系複合酸化物粒子成分と活性アルミナ粒子成分とを含有し、上触媒層23がRhを担持した活性アルミナ粒子成分を含有し、この上下の触媒層22,23にPt、Rh及びNOx吸蔵材成分としてのBa及びSrが含浸担持されているが、CePr系複合酸化物粒子成分の種類が相異なる。すなわち、「Pt−K」ドープCePr系複合酸化物を採用した実施例、「Pt−Mg」ドープCePr系複合酸化物を採用した実施例、「Pt−Ca」ドープCePr系複合酸化物を採用した実施例、及びCePrPt複合酸化物を採用した比較例の4種類である。
【0049】
担体1L当たりの担持量は、下触媒層22のCePr系複合酸化物粒子成分及び活性アルミナ粒子成分が共に135g/Lであり、上触媒層23のRh担持活性アルミナ粒子成分が50g/Lである。上触媒層23のRh担持活性アルミナ粒子成分のRh量は0.2g/Lである。
【0050】
実施例及び比較例各々のCePr系複合酸化物粒子成分は、Ce:Pr=9:1(モル比)であり、Pt含有量は0.4質量%(0.54g/L)である。実施例3種のCePr系複合酸化物粒子成分のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量は複合酸化物全体の20モル%である。従って、「Pt−K」ドープCePr系複合酸化物の場合、K担持量は7.18g/Lとなり、「Pt−Mg」ドープCePr系複合酸化物の場合、Mg担持量は4.51g/Lとなり、「Pt−Ca」ドープCePr系複合酸化物の場合、Ca担持量は7.24g/Lとなる。
【0051】
実施例及び比較例のいずれも、Ptの含浸担持量は0.96g/L、Rhの含浸担持量は0.2g/L、Baの含浸担持量は13g/L、Srの含浸担持量は5g/Lとなるようにした。
【0052】
そうして、実施例及び比較例の触媒について、750℃の大気雰囲気に24時間保持するエージングを行なった後、モデルガス流通反応装置及び排気ガス分析装置を用いてNOx浄化性能を調べた。まず、表1に示す前処理ガスを600℃の温度で10分間流し、次に、リーン(A/F=22)のモデル排気ガスを60秒間流し、ガス組成をリッチ(A/F=14.5)のモデル排気ガスに切り換えてこれを60秒間流す、というサイクルを数回繰り返した後、ガス組成をリッチからリーンに切り換えた時点から60秒間のリーンNOx浄化率を測定した。リーンモデル排気ガス及びリッチのモデル排気ガスの組成は表1に示すとおりであり、空間速度は33000/hとした。また、モデル排気ガスの温度は250℃及び300℃の2通りとした。
【0053】
【表1】

【0054】
250℃での結果を図9に、300℃での結果を図10に示す。250℃及び300℃のいずれの温度でも、「Pt−K」、「Pt−Mg」及び「Pt−Ca」の各CePr系複合酸化物を採用した実施例は、CePrPt複合酸化物を採用した比較例よりもNOx浄化率が高い。実施例のNOx浄化率が高いのは、CePr系複合酸化物にアルカリ金属又はアルカリ土類金属をドープしたことによって、CePr系複合酸化物の塩基性が強くなり、NOx吸着性能が高くなったこと、並びにNOx吸蔵材(Ba,Sr)とCePr系複合酸化物との反応が抑制され、該NOx吸蔵材がNOx吸蔵に有効に働いたことによると推察される。
【符号の説明】
【0055】
1 フィルタ
2 排気ガス流入路(排気ガス通路)
3 排気ガス流出路(排気ガス通路)
6 細孔(排気ガス通路)
7 触媒層
21 ハニカム担体
22 下触媒層
23 上触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体にCePr系複合酸化物を含有する触媒層が形成されている排気ガス浄化用触媒であって、
上記CePr系複合酸化物の金属成分が、Ceと、Prと、アルカリ金属及びアルカリ土類金属より選ばれる少なくとも一種と、触媒金属とからなることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記触媒層は、上記CePr系複合酸化物と、Pt及びRhより選ばれる少なくとも一種の触媒金属と、NOx吸蔵材とを含有し、
上記Pt及びRhより選ばれる少なくとも一種の触媒金属及びNOx吸蔵材各々の少なくとも一部は、上記CePr系複合酸化物に担持されていること特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1において、
上記担体は、エンジンの排気ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタであり、該フィルタの排気ガス通路壁部に、捕集されたパティキュレートを燃焼除去するための触媒層が形成されていて、該触媒層が上記CePr系複合酸化物を含有することを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−24670(P2012−24670A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164131(P2010−164131)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】