説明

排気ガス浄化装置

【課題】加速運転域を含む広範囲な運転条件下において、三元触媒の劣化診断を高精度に行うことが可能な排気ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】本発明の排気ガス浄化装置は、内燃機関から排出された燃焼排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置1であって、内燃機関の排気流路4の内部に配設された三元触媒2と、排気流路4の内部の三元触媒2より上流側と下流側とに、燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を連続的に測定可能な検出器3とを備え、排気流路の三元触媒より上流側と下流側とにおける燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を測定し、得られた窒素酸化物の濃度の変動により三元触媒2の劣化の程度を診断することが可能な排気ガス浄化装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化装置に関する。さらに詳しくは、加速運転域を含む広範囲な運転条件下において、三元触媒の劣化診断を高精度に行うことが可能な排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリン車の排出ガス対策では、高精度な空燃比(以下、「A/F」ということがある)制御と浄化効率の高い触媒装置を組合わせた三元触媒方式が多く用いられている。一方、燃料消費率向上を目的として、筒内直噴方式の希釈燃料エンジンも普及しつつある。いずれにしても、近年のガソリン車は、上述した三元触媒のような高性能な触媒を用いることによって、大幅な排気ガス浄化を実現している。
【0003】
このため、使用過程の段階で触媒が劣化して浄化性能が低下した場合には、排出ガスを触媒にて十分に浄化することができずに排出してしまうため、周辺大気を汚染してしまう。特に、触媒の浄化性能が低下したとしても、車両(ガソリン車)の運転性能にはほとんど影響が出ないことから、異常な排出ガス状態の車両が長期間、しかもユーザに認識されることなく使われ続ける危険性がある。
【0004】
このことから、我が国では、触媒排出ガス浄化システム等の機能を車上で自己診断する装置(OBD:On−Board Diagnostic System)の導入が検討され、2008年モデル以降の車両において装着義務付けの方針が示されている。
【0005】
三元触媒を備えた種々の装置(例えば、浄化装置)の劣化診断は、診断対象の運転域が広く、且つその診断の誤りができる限り少ないことが望ましい。しかしながら現状では、触媒の劣化を車上で直接検知できる技術が存在しないため、触媒を備えた浄化装置の入口側と出口側とに取り付けた2本の酸素センサ(O2センサ)の出力波形等の情報から間接的に劣化診断する手法(デュアルO2センサ法)が、米国でのOBD規制等に対応して用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
このデュアルO2センサ法による劣化診断方法は、例えば、触媒の入口側と出口側とのO2センサ信号波形の周波数をカウントして比較し、触媒の出口側のカウント数が入口側のカウント数に近づくほど触媒の劣化が進行していると判定する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−305623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述したデュアルO2センサ法は、三元触媒の劣化診断の結果に影響が出やすい加速運転域、即ち、排気ガスのガス量やA/Fが不規則に変動する運転域では正確な診断が困難であり、比較的に劣化診断を行いやすい運転域のみを限定した診断しか行うことができないという問題があった。特に、一般的な市街地走行では加減速の繰り返しが多く、デュアルO2センサ法で診断可能な定常走行の時間が短いため、実際の使用条件下での三元触媒の劣化診断としては、十分なものではなかった。
【0009】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、加速運転域を含む広範囲な運転条件下において、三元触媒の劣化診断を高精度に行うことが可能な排気ガス浄化装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 内燃機関から排出された燃焼排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置であって、
前記内燃機関の排気流路の内部に配設された三元触媒と、前記排気流路の前記三元触媒より上流側と下流側とにそれぞれ配設された、前記燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を連続的に測定可能な検出器と、を備えた排気ガス浄化装置。
【0011】
[2] 前記検出器が、ジルコニア固体電解質方式の検出器である前記[1]に記載の排気ガス浄化装置。
【0012】
[3] 前記検出器が、前記内燃機関が希薄燃焼状態において、前記排気流路の前記三元触媒より上流側と下流側とにおける前記燃焼排気ガスに含まれる前記窒素酸化物の濃度を測定し、得られた前記窒素酸化物の濃度の変動により前記三元触媒の劣化の程度を診断するものである前記[1]又は[2]に記載の排気ガス浄化装置。
【0013】
[4] 前記検出器が、前記燃焼排気ガスの空燃比も連続的に測定可能なものであり、前記排気流路の前記三元触媒より上流側と下流側とにおける前記燃焼排気ガスの空燃比を測定し、下記式(1)に示す相互相関係数Rxy(τ)により、前記三元触媒の劣化の程度を診断するものである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の排気ガス浄化装置。
【0014】
【数1】

(但し、tは時間、τは上流側と下流側とにおいて測定した信号間の遅れ時間、x(t)は時間tでの前記排気流路の前記三元触媒より上流側における前記燃焼排気ガスの空燃比、y(t+τ)は時間(t+τ)での前記排気流路の前記三元触媒より下流側における前記燃焼排気ガスの空燃比、Rxy(τ)は相互相関係数を示す)
【発明の効果】
【0015】
本発明の排気ガス浄化装置は、加速運転域を含む広範囲な運転条件下において、三元触媒の劣化診断を高精度に行うことができ、三元触媒の劣化の程度を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の排気ガス浄化装置の構成を模式的に示す説明図である。
【図2】新品の三元触媒、及び劣化した三元触媒をエンジンの排気流路内部に配設して10・15モード運転を行ったときの、三元触媒より下流側の排出ガス中の一酸化炭素、炭化水素、及び窒素酸化物の排出量を示すグラフである。
【図3(a)】新品の三元触媒を排気流路内部に配設して10・15モード運転を行ったときの、三元触媒を通過後の排気ガス中の窒素酸化物の濃度を示すグラフである。
【図3(b)】10万km走行に相当する劣化した三元触媒を排気流路内部に配設して10・15モード運転を行ったときの、三元触媒を通過後の排気ガス中の窒素酸化物の濃度を示すグラフである。
【図4(a)】新品の三元触媒を排気流路内部に配設して10・15モード運転を行ったときの、燃料カット域(希薄燃焼状態)における三元触媒の下流側の窒素酸化物濃度を示すグラフである。
【図4(b)】10万km走行に相当する劣化した三元触媒を排気流路内部に配設して10・15モード運転を行ったときの、燃料カット域(希薄燃焼状態)における三元触媒の下流側の窒素酸化物濃度を示すグラフである。
【図5】10・15モード及び実走行モード運転を行ったときの、燃料カット域(希薄燃焼状態)における窒素酸化物浄化率(%)を示すグラフである。
【図6】10・15モード運転を行ったときの、三元触媒の上流側及び下流側に配設したそれぞれの検出器によって測定した燃焼排気ガスの空燃比を示すグラフである。
【図7】新品の三元触媒及び劣化した三元触媒を排気流路内部に配設して10・15モード運転を行ったときの、相互相関係数Rxy(τ)と、三元触媒の上流側と下流側とにおいて測定した信号間の遅れ時間τとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の排気ガス浄化装置の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
まず、本発明の排気ガス浄化装置の実施の形態に用いられる三元触媒の劣化診断方法について説明する。図1は、本実施の形態の排気ガス浄化装置の構成を模式的に示す説明図である。図1に示すように、本実施の形態の排気ガス浄化装置に用いられる三元触媒の劣化診断方法は、内燃機関5から排出される燃焼排気ガス(以下、単に「排気ガス」ということがある)の排気流路4の内部に配設され、この燃焼排気ガスを浄化する三元触媒2の劣化の程度を診断する三元触媒の劣化診断方法である。三元触媒2は、ガソリンエンジン等の内燃機関5が理論空燃比の状態の時に、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の三成分を同時に浄化する触媒であり、通常、内燃機関5から排出される燃焼排気ガスの排気流路4の内部に配設されて用いられている。この三元触媒2は、長期間使用していると、徐々にその性能が低下するため、劣化の程度を診断し、劣化が進行したものについては交換等を行う必要がある。
【0019】
本実施の形態の排気ガス浄化装置に用いられる三元触媒の劣化診断方法は、排気流路4の内部の三元触媒2より上流側と下流側とに、燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度及び/又は燃焼排気ガスの空燃比を連続的に測定可能な検出器3を配設して、排気流路の三元触媒より上流側と下流側とにおける燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度及び/又は燃焼排気ガスの空燃比を得、得られた窒素酸化物の濃度及び/又は燃焼排気ガスの空燃比の変動により三元触媒2の劣化の程度を診断する三元触媒の劣化診断方法である。このように構成することにより、加速運転域を含む広範囲な運転条件下において、三元触媒2の劣化診断を高精度に行うことができる。なお、この三元触媒の劣化診断方法においては、「燃焼排気ガスの空燃比」とは、酸素濃度換算値のことをいう。
【0020】
上記三元触媒の劣化診断方法は、燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度及び/又は燃焼排気ガスの空燃比を得、得られた窒素酸化物の濃度及び/又は燃焼排気ガスの空燃比の変動により三元触媒2の劣化の程度を診断する三元触媒の劣化診断方法であるが、ここで、上述した検出器3として窒素酸化物の濃度を測定することが可能な濃度検出器を用い、燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を測定して劣化診断する場合について説明する。図2は、新品の三元触媒、及び劣化した三元触媒をエンジンの排気流路内部に配設して10・15モード(新車認証時に実施される排出ガス試験モード)運転を行ったときの、三元触媒より下流側の排出ガス中の一酸化炭素、炭化水素、及び窒素酸化物の排出量を示すグラフである。図2における、劣化した三元触媒から排出された排気ガス中のそれぞれの排出量は、新品の三元触媒における排出量を1.0とした場合に対する割合として示している。図2により、走行距離8万km相当までは三成分ともに排出量の増加が続いていることから、三元触媒の劣化が進行していることがわかる。しかし、走行距離が10万km相当になると、窒素酸化物の増加傾向は続いているものの、一酸化炭素及び炭化水素については8万km相当時よりも排出量がやや低下しており、触媒劣化の進行が頭打ちになる傾向がみられる。このため、排気ガス中の窒素酸化物の濃度を測定することにより、三元触媒の劣化診断を高精度に行うことができる。なお、この三元触媒の劣化診断方法においては、窒素酸化物の濃度を測定し、得られた窒素酸化物の濃度から三元触媒2の劣化の程度を診断すると説明したが、この窒素酸化物の濃度及び瞬時の排気ガス量から算出される窒素酸化物の排出量の変動によっても、この三元触媒2の劣化の程度を診断することができる。
【0021】
この三元触媒の劣化診断方法においては、窒素酸化物の濃度を測定する場合に、排気ガスに含まれる他の物質によって測定値が影響を受けることがある。このため、より正確な診断を行うためには、測定値が影響を受け難い運転状態で窒素酸化物の濃度を測定することが好ましい。例えば、三元触媒においては、排気ガスに含まれる水素(H2)と窒素酸化物とが反応することによりアンモニア(NH3)が生成される。アンモニアは、検出器の種類によっても異なるが、得られる窒素酸化物の濃度測定値に影響を与えることがある。
【0022】
特に、上述したアンモニア(NH3)は、A/Fがリッチとなるような運転条件で、より多く生成されるため、上述した三元触媒の劣化診断方法においては、A/Fフィードバック制御時のリーン域変動時や減速時燃料カット時のような、内燃機関が希薄燃焼状態において、排気流路の三元触媒より上流側と下流側とにおける燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を測定し或いは排出量を算出し、得られた窒素酸化物の濃度或いは排出量の変動により三元触媒の劣化の程度を診断することが好ましい。図3(a)、及び図3(b)は、10・15モード運転を行ったときの、三元触媒を通過後の排気ガス中の窒素酸化物の濃度を示すグラフである。図3(a)は、新品の三元触媒における結果を示し、図3(b)は、10万km走行に相当する劣化した三元触媒における結果を示す。なお、図3(a)、及び図3(b)においては、得られた窒素酸化物濃度(NOx濃度)の連続データ(NOxセンサ出力)を、A/Fをリーン域に限定して窒素酸化物濃度出現率(%)(該当領域のデータ数/モード運転時リーン域全体のデータ数)として示したものである。なお、測定する排気ガスを、酸素濃度(O2濃度)が0〜4.5%、4.5〜9.0%、9.0〜13.5%、13.5〜18%、及び18%以上の五種類に分類して測定を行った。
【0023】
図3(a)、及び図3(b)を比較することにより、O2濃度が0〜4.5%(A/Fとして14.6〜18.5に相当)のフィードバック制御時の窒素酸化物濃度出現率は、三元触媒の劣化により高濃度域へと広く分散していることがわかる。また、O2濃度が4.5%以上の減速時燃料カット域と推測される領域の窒素酸化物濃度出現率は、三元触媒の劣化によって高濃度域が増加していることがわかる。これらの結果から、内燃機関が希薄燃焼状態における窒素酸化物濃度出現率を調べること、即ち、窒素酸化物の濃度或いは排出量を測定することによって、三元触媒の劣化の程度を高精度に診断することができる。
【0024】
ここで、三元触媒の劣化により、窒素酸化物の濃度が変化する理由について説明する。図4(a)、及び図4(b)は、減速時燃料カット域(希薄燃焼状態)における三元触媒の下流側の窒素酸化物濃度を示すグラフである。図4(a)は、新品の三元触媒における結果を示し、図4(b)は、10万km走行に相当する劣化した三元触媒における結果を示す。図4(a)及び図4(b)に示すグラフから、三元触媒の上流側から流入する窒素酸化物と、燃料カット前のフィードバック制御時に三元触媒に吸着した一酸化炭素、炭化水素等の還元成分とが反応して、排気ガスの浄化が行われていることが分かる。三元触媒が劣化した場合には、上記還元成分の吸着能が低下して、減速時等の燃料カット域(希薄燃焼状態)における三元触媒の下流側の窒素酸化物濃度が増加する。このようなことから、窒素酸化物濃度の変動を測定することにより、三元触媒の劣化の程度を診断することができる。
【0025】
また、図5は、10・15モード及び実走行モード運転を行ったときの、減速時燃料カット域(希薄燃焼状態)における窒素酸化物浄化率(%)を示すグラフである。図5においては、新品の三元触媒、及び二種類の劣化した三元触媒(3万km走行と10万km走行に相当)についての窒素酸化物浄化率を示す。両モード運転ともに、三元触媒の劣化が進むにつれて、窒素酸化物浄化率が低下していることがわかる。このことからも、窒素酸化物の濃度の変化を測定することにより、三元触媒の劣化の程度を診断することが可能であることがわかる。この窒素酸化物浄化率(%)は、三元触媒の上流側における窒素酸化物の排出量(g/秒)に対する、三元触媒により構成された層内での浄化反応による窒素酸化物の減少量(g/秒)の割合を百分率(%)で示したものである。なお、三元触媒により構成された層内での浄化反応による窒素酸化物の減少量(g/秒)は、上流側における窒素酸化物の排出量(g/秒)から下流側における窒素酸化物の排出量(g/秒)を減算することによって求めることができる。また、上流側及び下流側における窒素酸化物の排出量(g/秒)は、瞬時の窒素酸化物の濃度と、瞬時の排気ガスの流量(l/秒)と、窒素酸化物の密度(g/l)とを乗算することによって求めることができる。このような窒素酸化物浄化率(%)を用いた理由としては、燃料カット前のフィードバック制御時に三元触媒に吸着した一酸化炭素、炭化水素等の還元成分と、燃料カット時に触媒に流入した窒素酸化物との反応を扱うため、濃度をベースとした比較ではなく排出量をベースした比較が有効なためである。
【0026】
三元触媒の劣化診断方法に用いられる、窒素酸化物の濃度を連続的に測定可能な検出器(濃度検出器)としては、例えば、ジルコニア固体電解質方式の検出器を好適例として挙げることができる。さらに、窒素酸化物の濃度を測定する場合には、排気ガスに含まれる他の成分、例えば、アンモニア等によって影響を受けるため、このような他の成分による影響が低減された検出器を用いることに、より精度の高い診断を行うことができる。
【0027】
次に、三元触媒の劣化診断方法において、排気流路の三元触媒より上流側と下流側とにおける燃焼排気ガスの空燃比を測定して劣化診断する場合について説明する。図6は、10・15モード運転を行ったときの、三元触媒の上流側及び下流側に配設したそれぞれの検出器によって測定した燃焼排気ガスの空燃比を示すグラフである。図6に示すように、三元触媒の上流側の燃焼排気ガスの空燃比は、フィードバック制御の影響を受けてリーン域とリッチ域の間を激しく変動している。一方、三元触媒は、燃焼排気ガスの空燃比がリーン域になっている場合には、酸化性物質(例えば、酸素、一酸化窒素等)を吸着し、また、リッチ域になっている場合には、還元性物質(例えば、一酸化炭素、炭化水素等)を吸着する性質があるため、結果として、三元触媒の下流側の燃焼排気ガスの空燃比は、上流側の燃焼排気ガスの空燃比に比較して変動量がはるかに少なくなっている。三元触媒の劣化は、リーン域での酸化性物質の吸着能及びリッチ域での還元性物質の吸着能がそれぞれ低下することに起因する。このことから、三元触媒の上流側及び下流側における燃焼排気ガスの空燃比を比較することにより、三元触媒の劣化の程度を診断することができる。具体的には、例えば、三元触媒の減衰効果を定量化することにより、三元触媒の劣化の程度を診断することができる。なお、図6に示すスピードは、実験室内で実路走行時と同等の走行試験が可能な、シャシダイナモメータ等の装置上に試験車両を設置して10・15モード運転で走行した際の、試験車両の速度の変化を示している。
【0028】
三元触媒の劣化診断方法においては、特に限定されることはないが、三元触媒の上流側及び下流側における燃焼排気ガスの空燃比の変動状態の違い(即ち、三元触媒の上流側及び下流側における燃焼排気ガスの空燃比の変化によって示される波形の類似の程度)を示す方法として、相互相関係数Rxy(τ)を挙げることができる。具体的には、排気流路の三元触媒より上流側と下流側とにおける燃焼排気ガスの空燃比を測定し、下記式(2)に示す相互相関係数Rxy(τ)により、三元触媒の劣化の程度を診断してもよい。
【0029】
【数2】

(但し、tは時間、τは上流側と下流側とにおいて測定した信号間の遅れ時間、x(t)は時間tでの排気流路の三元触媒より上流側における燃焼排気ガスの空燃比、y(t+τ)は時間(t+τ)での排気流路の三元触媒より下流側における燃焼排気ガスの空燃比、Rxy(τ)は相互相関係数を示す)
【0030】
このような相互相関係数Rxy(τ)を用いることにより、三元触媒の減衰効果を定量化することが可能となり、三元触媒の上流側及び下流側のそれぞれの燃焼排気ガスの空燃比から、三元触媒の劣化の程度を高精度に診断することができる。
【0031】
また、特に限定されることはないが、前記(2)式を適用して相互相関係数Rxy(τ)を算出する場合には、三元触媒の劣化診断の精度を向上させるために、算出に用いる空燃比変動データは、多数のショートトリップ(車両の発進から停止までの走行区間)から構成されるデータ、例えば、10・15モード運転全域に渡る空燃比変動データ等を用いることが好ましい。ここで三元触媒における浄化反応は、三元触媒により構成された層内において過去に触媒に吸着した物質と新規に触媒に流入した物質との反応によって生じることから、常に過去の運転履歴に影響されることとなる。このため、比較的長時間の空燃比変動データを用いることにより、運転履歴の影響を緩和して、より高精度の三元触媒の劣化診断を実現することができる。
【0032】
このような三元触媒の劣化診断方法に用いられる、燃焼排気ガスの空燃比を連続的に測定可能な検出器としては、例えば、ジルコニア固体電解質方式の検出器を好適例として挙げることができる。
【0033】
また、三元触媒の劣化診断方法において、これまでに説明した窒素酸化物の濃度或いは排出量により三元触媒の劣化の程度を診断する方法と、燃焼排気ガスの空燃比により三元触媒の劣化の程度を診断する方法とを組合わせて実施することによって、さらに精度の高い診断を実現することができる。例えば、ジルコニア固体電解質方式の検出器は、一つの検出器によって両者を測定することが可能である。
【0034】
また、このような三元触媒の劣化診断方法においては、診断する三元触媒の温度が、燃焼排気ガスを浄化する浄化反応における活性化温度以上となった状態で、三元触媒の劣化の程度を診断することが好ましい。このように構成することによって、さらに精度の高い診断を実現することができる。
【0035】
また、三元触媒の劣化診断方法においては、OBD装置として用いられることが好ましく、例えば、上述したそれぞれの診断方法によって得られた結果から三元触媒の劣化の程度を判断し、一定以上に三元触媒が劣化している場合には、警報等の外部信号を発信するようにしてもよい。特に、自動車等の排気ガス浄化装置に上記三元触媒の劣化診断方法を用いる場合には、運転席において三元触媒の劣化の程度を確認することができたり、三元触媒が一定以上劣化している場合に、ランプ等の警報器により運転者に警報を発するようにすることにより、三元触媒の劣化を的確に検知することができ、劣化した三元触媒による環境汚染の危険性を回避することができる。また、得られた診断結果については、コンピュータ等の記憶手段に保存し、診断結果について後からでも確認することができるようにすることにより、車両の状態を長期的に確認したり、車両の異常等の発見にも利用することができる。
【0036】
次に、本発明の排気ガス浄化装置の一の実施の形態について具体的に説明する。本実施の形態の排気ガスの処理装置は、図1に示すような、これまでに説明した三元触媒の劣化診断方法を実現可能な排気ガス浄化装置1であり、加速運転域を含む広範囲な運転条件下において、三元触媒2の劣化診断を高精度に行うことが可能なものである。
【0037】
図1に示すように、本実施の形態の排気ガス浄化装置1は、内燃機関5(例えば、ガソリンエンジン)から排出された燃焼排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置1であって、内燃機関5の排気流路4の内部に配設された三元触媒2と、排気流路4の三元触媒2より上流側と下流側とにそれぞれ配設された、燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度及び/又は燃焼排気ガスの空燃比を連続的に測定可能な検出器3と、を備えたものである。このように、排気流路4の三元触媒2より上流側と下流側とにそれぞれ配設された、燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度及び/又は燃焼排気ガスの空燃比を連続的に測定可能な検出器3により、これまでに説明した三元触媒の劣化診断方法を用い、三元触媒3の劣化の程度を診断することができる。
【0038】
本実施の形態の排気ガス浄化装置1に用いられる検出器3としては、特に制限はないが、ジルコニア固体電解質方式の検出器を好適に用いることができる。
【0039】
また、三元触媒2としては特に制限はないが、白金、ロジウム、パラジウム等の金属を含む従来公知の三元触媒を用いることができる。また、本実施の形態の排気ガス浄化装置1においては、燃焼排気ガスの排気流路の一部となるケース体を備え、このケース体の内部に三元触媒2が配設されたものであってもよい。このように構成されたケース体を燃焼排気ガスの排気流路4に接続して用いることにより、例えば、三元触媒2が劣化した場合に、ケース体とともに三元触媒2を交換することが可能となり、三元触媒2の交換作業を簡便に行うことができる。
【0040】
また、図示は省略するが、本実施の形態の排気ガス浄化装置としては、OBD装置として好適に用いることができるように、それぞれの検出器によって得られた結果から三元触媒の劣化の程度を判断し、一定以上に三元触媒が劣化している場合には、警報等の外部信号を発信する外部信号発信手段をさらに備えたものであってもよい。この外部信号発信手段としては、運転席において、三元触媒の劣化の程度を確認することが可能なモニターや、三元触媒が一定以上劣化している場合に警報を発するランプ等の警報器を好適例として挙げることができる。このような外部信号発信手段を備えることにより、三元触媒の劣化の程度を的確に検知することができ、劣化した三元触媒による環境汚染の危険性を回避することができる。
【0041】
また、本実施の形態の排気ガス浄化装置においては、特に限定されることはないが、得られた診断結果を保存することが可能な、コンピュータ等の記憶手段をさらに備えたものであってもよい。このように構成することにより、診断結果について後からでも確認することができ、車両の状態を長期的に確認したり、車両の異常等の発見にも利用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0043】
新品の三元触媒と、3万km走行、5万km走行、8万km走行、及び10万km走行に相当する三元触媒とを用いて、10・15モード運転時における、三元触媒の上流側及び下流側の排気ガスの空燃比を測定し、得られたそれぞれの排気ガスの空燃比から相互相関係数Rxy(τ)を算出した。相互相関係数Rxy(τ)は、前記式(2)によって算出されたものである。このようにして得られた相互相関係数Rxy(τ)と、三元触媒の上流側と下流側とにおいて測定した信号間の遅れ時間τとの関係を図7に示す。また、図7においては、三元触媒を配設しない状態での排気ガスの空燃比を測定して算出した相互相関係数Rxy(τ)についても示している。
【0044】
排気ガスの空燃比の測定を行った検出器は、ジルコニア固体電解質方式の検出器を用いた。また、測定に使用した排気ガスは、電子燃料噴射式、理論空燃比制御型のガソリンエンジン(4サイクル、2200cc)から排気された、主なガス成分が窒素、水分、二酸化炭素、酸素、一酸化炭素、未燃炭化水素、窒素酸化物から構成されるガソリン燃焼排気ガスを用いた。
【0045】
図7に示すように、相互相関係数Rxy(τ)の値が大きくなるほど三元触媒の劣化が進行していることがわかる。具体的には、例えば、上流側と下流側とにおいて測定した信号間の遅れ時間τが0.2秒の際に、それぞれの三元触媒での相互相関係数Rxy(τ)が、走行距離に対応して大きくなっており、三元触媒の上流側及び下流側の排気ガスの空燃比によって示された相互相関係数Rxy(τ)によって、三元触媒の劣化の程度を診断することができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の排気ガス浄化装置に用いられる三元触媒の劣化診断方法は、加速運転域を含む広範囲な運転条件下において、三元触媒の劣化診断を高精度に行うことができるため、ガソリン車等から排出される排気ガスを浄化する三元触媒の劣化診断に好適に用いることができる。そして、本発明の排気ガス浄化装置は、上述した三元触媒の劣化診断方法を実現可能な排気ガス浄化装置である。
【符号の説明】
【0047】
1:排気ガス浄化装置、2:三元触媒、3:検出器、4:排気流路、5:内燃機関。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された燃焼排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置であって、
前記内燃機関の排気流路の内部に配設された三元触媒と、前記排気流路の前記三元触媒より上流側と下流側とにそれぞれ配設された、前記燃焼排気ガスに含まれる窒素酸化物の濃度を連続的に測定可能な検出器と、を備えた排気ガス浄化装置。
【請求項2】
前記検出器が、ジルコニア固体電解質方式の検出器である請求項1に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項3】
前記検出器が、前記内燃機関が希薄燃焼状態において、前記排気流路の前記三元触媒より上流側と下流側とにおける前記燃焼排気ガスに含まれる前記窒素酸化物の濃度を測定し、得られた前記窒素酸化物の濃度の変動により前記三元触媒の劣化の程度を診断するものである請求項1又は2に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記検出器が、前記燃焼排気ガスの空燃比も連続的に測定可能なものであり、
前記排気流路の前記三元触媒より上流側と下流側とにおける前記燃焼排気ガスの空燃比を測定し、下記式(1)に示す相互相関係数Rxy(τ)により、前記三元触媒の劣化の程度を診断するものである請求項1〜3のいずれかに記載の排気ガス浄化装置。
【数1】

(但し、tは時間、τは上流側と下流側とにおいて測定した信号間の遅れ時間、x(t)は時間tでの前記排気流路の前記三元触媒より上流側における前記燃焼排気ガスの空燃比、y(t+τ)は時間(t+τ)での前記排気流路の前記三元触媒より下流側における前記燃焼排気ガスの空燃比、Rxy(τ)は相互相関係数を示す)

【図1】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−121634(P2010−121634A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55541(P2010−55541)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【分割の表示】特願2004−311489(P2004−311489)の分割
【原出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】