説明

排気浄化システム

【課題】尿素水の供給精度と応答性との両方を向上できる排気浄化システムを提供すること。
【解決手段】排気浄化システム2は、エンジン1の排気管4に設けられた選択還元触媒43と、駆動パルスが印加されると選択還元触媒43の上流側に尿素水を噴射するインジェクタ45と、エンジンの運転状態及び選択還元触媒43の状態の少なくとも何れかに応じて、選択還元触媒43へ供給すべき尿素水の単位時間当りの噴射量を所定の演算周期毎に算出する指示噴射量演算部31と、演算周期毎に算出された噴射量を積算し、未噴射量積算値を算出する指示噴射量積算部32、噴射済み分積算部34及び未噴射量積算部36と、未噴射量積算値が予め設定された噴射量閾値を上回ったときに、噴射量閾値に相当する量の尿素水が噴射されるような駆動パルスを発生する駆動パルス発生部33と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化システムに関する。より詳しくは、還元剤の存在下で排気中のNOxを浄化する選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction Catalysts)を備えた排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気中のNOxを浄化する排気浄化システムの1つとして、アンモニア(NH)などの還元剤により排気中のNOxを選択的に還元する選択還元触媒を排気通路に設けたものが提案されている。例えば、尿素添加式の排気浄化システムでは、選択還元触媒の上流側からアンモニアの前駆体である尿素水を供給し、この尿素水から排気の熱で熱分解又は加水分解することでアンモニアを生成し、このアンモニアにより排気中のNOxを選択的に還元する。このような尿素添加式のシステムの他、例えば、アンモニアカーバイトのようなアンモニアの化合物を加熱することでアンモニアを生成し、このアンモニアを含んだガスを直接添加するNH直接添加式のシステムも提案されている。以下では、尿素添加式のシステムについて説明する。
【0003】
一般的な選択還元触媒には排気中のNOxを吸着しておく機能は無いため、基本的には、内燃機関から排出されたNOxは、これを還元するのに必要な量の尿素水を選択還元触媒に供給した上で、逐次還元する必要がある。また、選択還元触媒にはアンモニアを吸着しておく機能があるものの、過剰な量のアンモニアが供給されると、NOxの還元に供されずまた選択還元触媒に吸着されなかったアンモニアがそのまま選択還元触媒の下流側へ排出されるNHスリップが発生する。したがって、選択還元触媒を備えた排気浄化システムでは、尿素水の必要な供給量を逐次算出するとともに、この量に応じた分だけを過不足無く供給することは、その機能を発揮する上で重要な課題となっている。
【0004】
特許文献1には、選択還元触媒を備えた排気浄化システムにおいて、決定された噴射量に相当する量の尿素水を噴射するための尿素水用のインジェクタの制御方法が提案されている。特許文献1の制御方法では、所定の演算周期毎に算出された単位時間当りの尿素水噴射量[mg/s]に基づいて、駆動パルスの発生間隔(前回尿素水を噴射してから今回尿素水を噴射するまでの時間に相当)と駆動パルスの幅(1つの駆動パルス当りの尿素水の噴射量に相当)と、を決定する。
【0005】
より具体的には、この制御方法では、単位時間当りの尿素水噴射量が所定量以上である場合には、駆動パルスの発生間隔を一定にしながら駆動パルス幅を尿素水噴射量に比例して長くし、尿素水噴射量が所定量以下である場合には、駆動パルス幅を一定にしながら発生間隔を尿素水噴射量に反比例して長くする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−327377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、特許文献1の制御方法は、PWM周期[s]と開弁Duty比[%]とを尿素水の指示噴射量[mg/s]に応じて設定するものであり、いわゆる周波数可変型のPWM制御に相当する。
【0008】
しかしながら、特許文献1のPWM制御では、特に低噴射領域においてPWM周期を長く設定するため、PWM周期が指示噴射量の演算周期よりも長くなってしまう場合がある。この場合、短い演算周期で算出された指示噴射量を実際の尿素水の噴射に反映させることができず応答遅れが生じてしまう。
【0009】
また、このような応答遅れの課題を解消するには、指示噴射量の演算周期と同程度となるようにPWM周期を短く設定することも考えられるが、この場合、駆動パルスの幅(1回の駆動パルス当りの尿素水の噴射量に相当)も短くしなければならない。しかしながら、単に駆動パルスの幅を短くしてしまうと、以下、図9を参照して説明するように、インジェクタの物ばらつきや劣化による誤差の割合が大きくなってしまう。
【0010】
図9は、インジェクタに印加する駆動パルスの波形と、弁開度及び噴射量の時間変化を模式的に示す図である。図9において、左側は、右側と比較して駆動パルス幅を長くした場合を示す。
この図に示すように、駆動パルスのON/OFFに応じて、弁開度は所定の時間をかけて変化するため、噴射量も所定の時間をかけて変化する。また、インジェクタを構成するニードル弁は、これを直接的に駆動する電磁的なアクチュエータだけでなく、コイルやスプリングなどの複数の機械部品で動作するため、開弁速度や閉弁速度に物ばらつきや劣化の影響が生じ易い。したがって、1つの駆動パルス当りの噴射量のうち、物ばらつきや劣化を要因とした誤差の占める割合は、駆動パルス幅が短くなるに従い大きくなるといえる。
【0011】
以上のように、従来のインジェクタの制御方法では、応答性を向上するべくPWM周期を短くすれば噴射精度が低下してしまうため、応答性の向上と噴射精度の向上との両立を図ることが困難であった。また、選択還元触媒に尿素水やアンモニアガスを供給するインジェクタの制御では、上述のように予期せぬNHスリップを抑制しながら高い浄化率でNOxを浄化し続けるためには、インジェクタには速やかな応答性と高い噴射精度との両方が要求される。
【0012】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、選択還元触媒を備えた排気浄化システムであって、尿素水やアンモニア等の供給精度と応答性との両方を向上できる排気浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、内燃機関(例えば、後述のエンジン1)の排気通路(例えば、後述の排気管4)に設けられた選択還元触媒(例えば、後述の選択還元触媒43)と、駆動パルスが印加されると前記選択還元触媒の上流側に還元剤(例えば、後述のアンモニアガス)又はその前駆体(例えば、後述の尿素水)を噴射するインジェクタ(例えば、後述のインジェクタ45)と、前記内燃機関の運転状態及び前記選択還元触媒の状態の少なくとも何れかに応じて、当該選択還元触媒へ供給すべき還元剤又は前駆体の単位時間当りの噴射量(例えば、後述の指示噴射量)を所定の演算周期毎に算出する噴射量算出手段(例えば、後述の指示噴射量演算部31)と、を備えた排気浄化システム(例えば、後述の排気浄化システム2,2A)を提供する。前記排気浄化システムは、前記演算周期毎に算出された噴射量を積算し、噴射量積算値(例えば、後述の未噴射量積算値)を算出する積算手段(例えば、後述の指示噴射量積算部32、噴射済み分積算部34及び未噴射量積算部36)と、前記噴射量積算値が予め設定された噴射量閾値(例えば、後述の噴射量閾値)を上回ったときに、当該噴射量閾値に相当する量の還元剤又は前駆体が噴射されるような駆動パルスを発生する駆動手段(例えば、後述の駆動パルス発生部33)と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明では、演算周期毎に算出された噴射量を積算することで噴射量積算値を算出し、この噴射量積算値が噴射量閾値を上回ったときに、噴射量閾値に相当する量の還元剤又は前駆体(以下、単に「還元剤等」という)が噴射されるような駆動パルスを発生する。
このように、演算周期毎に算出された噴射量そのものを逐次用いるのではなく、これを積算して得られる噴射量積算値に応じて駆動パルスを発生することにより、前回の噴射から次回の噴射までの間に行われた複数回の噴射量の演算の全てを次回の噴射に反映させることができるので、還元剤等の噴射精度を向上できる。
本発明では、噴射量積算値が予め定められた噴射量閾値を上回ったときに駆動パルスを発生しインジェクタから還元剤等を噴射させることにより、従来のPWM制御のように予め定められたPWM周期分だけ時間が経過するのを待つ必要がないので、還元剤等の噴射の応答性も向上することができる。
また本発明では、噴射量積算値が噴射量閾値を上回ったときには、この時における噴射量積算値に相当する量ではなく、予め定められた噴射量閾値に相当する量の還元剤等が噴射されるような駆動パルスを発生する。つまり、インジェクタからは毎回決まった量の還元剤等が噴射されることとなる。このため、インジェクタから噴射された還元剤等を微粒化したり均質化したりするためのミキサを選択還元触媒の上流側に設ける場合には、このミキサの形状や設置場所等の最適化を容易にすることができる。つまり、インジェクタからの還元剤等の噴射態様が毎回異なる場合には、上記ミキサの形状や設置場所はこれら全ての噴射態様に合わせて最適化する必要があるのに対し、本発明ではこのような最適化の工程を容易にすることができる。
【0015】
この場合、前記駆動手段は、前記噴射量積算値が前記噴射量閾値を上回るまでは、駆動パルスを発生しないことが好ましい。
【0016】
本発明では、噴射量積算値が噴射量閾値を上回るまでは駆動パルスを発生せず、インジェクタを駆動しないようにすることにより、必要以上にインジェクタの駆動回数が増加してしまうのを防止できる。
【0017】
この場合、前記駆動手段は、前記噴射量積算値が前記噴射量閾値を上回る度に同じ幅の駆動パルスを発生することで、1つの駆動パルス当りの還元剤又は前駆体の噴射量及び噴射時間を一定にすることが好ましい。
【0018】
本発明では、噴射量積算値が噴射量閾値を上回る度に、同じ幅の駆動パルスを発生し、1つの駆動パルス当りの還元剤等の噴射量と噴射時間とを一定することにより、上述のようなミキサの形状や設置場所の最適化を容易にすることができる。
【0019】
この場合、前記噴射量閾値は、1つの駆動パルス当りの還元剤又は前駆体の噴射量が、当該噴射量に対する誤差の許容範囲内で最小となる値に設定されることが好ましい。
【0020】
上述のように、1つの駆動パルス当りの還元剤等の噴射量が少なくなるとインジェクタの物ばらつきや劣化による誤差の割合が大きくなるので、還元剤等の噴射精度のみを考慮すれば、噴射量閾値はできるだけ大きな値に設定することが好ましい。しかしながら、噴射量閾値を大きくすると、噴射量積算値が噴射量閾値を上回るまでに時間がかかってしまいので、還元剤等の噴射の応答性が低下してしまう。そこで本発明では、誤差の許容範囲内で最小となる値に噴射量閾値を設定することにより、還元剤等の噴射精度と応答性の向上を両立できる。
【0021】
この場合、前記排気浄化システムは、前記噴射量積算値の増加速度が所定速度(例えば、後述の高噴射判定速度)以上である場合には前記駆動手段により発生させる駆動パルスの幅が長くなるように、前記噴射量閾値を低噴射量用閾値と当該低噴射量用閾値よりも大きな高噴射量用閾値との何れかの値に設定する噴射量閾値設定手段(例えば、後述の噴射量設定部35A)をさらに備えることが好ましい。
【0022】
上述のように、噴射量閾値を大きな値に設定すると、噴射量積算値が噴射量閾値を上回るまでに時間がかかってしまい応答性が低下してしまう。このため本発明では、噴射量閾値を必要以上に大きな値に設定することは好ましくない。しかしながら、還元剤等が多量に要求されている場合、すなわち噴射量積算値が速やかに増加する場合に、噴射量閾値が必要以上に小さな値に設定されていると、インジェクタの駆動回数が多くなりまた噴射精度も低下してしまう。そこで本発明では、噴射量積算値の増加速度が所定速度以上である場合には駆動パルスの幅が長くなるように、噴射量閾値を低噴射量用閾値と高噴射量用閾値との何れかの値に設定することにより、インジェクタの駆動回数を必要最小限にとどめることができる。なお、噴射量閾値を低噴射量用閾値よりも大きな高噴射量用閾値に設定することで応答性の低下も懸念される。しかしながら、噴射量積算値が噴射量閾値を上回るまでにかかる時間は、噴射量積算値の増加速度が所定速度以上であれば、噴射量閾値を高噴射量用閾値に設定したとしても大きく変わらないと考えられることから、応答性が低下することもない。以上より、本発明によれば、噴射精度の向上と応答性の向上とを両立しながら、加えてインジェクタの駆動回数を低減することができる。
【0023】
この場合、前記噴射量閾値設定手段は、駆動パルスの発生後所定時間(例えば、後述の高噴射設定時間)が経過するまでの間は前記噴射量閾値を前記高噴射量用閾値に設定し、前記所定時間が経過した後は前記噴射量閾値を前記低噴射量用閾値に変更することが好ましい。
【0024】
本発明では、駆動パルスの発生後所定時間が経過するまでの間は噴射量閾値を高噴射量用閾値に設定する。すなわち、駆動パルスを発生した後における噴射量積算値の増加が速く所定時間が経過するまでの間に噴射量積算値が高噴射量用閾値を上回った場合(駆動パルスを発生した後における噴射量積算値の増加速度が所定速度以上であると判断できる場合)には、高噴射量用閾値に相当する多量の還元剤等が噴射されるような長い幅の駆動パルスを発生し、噴射量積算値の増加が遅く所定時間が経過するまでの間に噴射量積算値が高噴射量用閾値を上回らなかった場合には、低噴射量用閾値に相当する少量の還元剤等が噴射されるような短い幅の駆動パルスを発生する。これにより、インジェクタの駆動回数を必要最小限にとどめつつ、還元剤等の噴射精度の向上と応答性の向上とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図2】上記実施形態に係る駆動パルス発生部により発生された駆動パルスの一例を示す図である。
【図3】上記実施形態に係る尿素水噴射制御の制御例を示すタイムチャートである。
【図4】上記実施形態に係る尿素水噴射制御と従来のPWM制御の制御例を示すタイムチャートである。
【図5】指示噴射量と噴射量誤差との関係について、上記実施形態に係る尿素水噴射制御と従来のPWM制御とを比較する図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る排気浄化システムの構成を示す模式図である。
【図7】上記実施形態に係る尿素水噴射制御の制御例を示すタイムチャートである。
【図8】噴射周期と指示噴射量との関係を模式的に示す図である。
【図9】インジェクタに印加する駆動パルスの波形と、弁開度及び噴射量の時間変化を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る内燃機関(以下、「エンジン」という)1及びその排気浄化システム2の構成を示す模式図である。エンジン1は、リーンバーン運転方式のガソリンエンジン又はディーゼルエンジンであり、図示しない車両に搭載されている。
【0027】
エンジン1の排気管4には、排気の上流側から順に酸化触媒41、DPF42、選択還元触媒43、が設けられている。DPF42と選択還元触媒43との間には、尿素水を噴射する尿素水用のインジェクタ45が設けられている。
【0028】
酸化触媒41は、排気との反応により発生する熱で排気を昇温するとともに、排気中のNOをNOに変換し後述の選択還元触媒43におけるNOxの還元を促進する。
DPF42は、排気がフィルタ壁の微細な孔を通過する際、排気中の炭素を主成分とする粒子状物質(以下、「PM(Particulate Matter)」という)を、フィルタ壁の表面及びフィルタ壁中の孔に堆積させることによって捕集する。
【0029】
選択還元触媒43は、アンモニア等の還元剤が存在する雰囲気下で、排気中のNOxを選択的に還元する。
インジェクタ45は、後述の制御装置3で発生した駆動パルスが印加されると開弁し、図示しないポンプにより圧送された尿素水を排気管4内の選択還元触媒43の上流側に噴射する。インジェクタ45により噴射された尿素水は、排気の熱により熱分解又は加水分解されて還元剤としてのアンモニアが生成される。生成されたアンモニアは、選択還元触媒43に供給され、これらアンモニアにより、排気中のNOxが選択的に還元される。
【0030】
また、この排気浄化システム2には、エンジン1の運転状態や選択還元触媒43の状態を検出するため、NOxセンサ51とNHセンサ52と、が設けられている。
NOxセンサ51は、排気管4のうち、インジェクタ45により尿素水が噴射される場所よりも上流側の排気中のNOx濃度[ppm]を検出し、検出値に略比例した信号を制御装置3に送信する。
NHセンサ52は、排気管4のうち、選択還元触媒43の下流側の排気中のNH濃度[ppm]を検出し、検出値に略比例した信号を制御装置3に送信する。
【0031】
制御装置3には、インジェクタ45による尿素水噴射制御の実行に係るモジュールとして、指示噴射量演算部31と、指示噴射量積算部32と、駆動パルス発生部33と、噴射済み分積算部34と、噴射量設定部35と、未噴射量積算部36と、が形成されている。なお、これらブロック31〜36は、全て同じ演算周期(例えば、10[ms])で動作する。
【0032】
指示噴射量演算部31は、エンジンの運転状態及び選択還元触媒の状態に基づいて、選択還元触媒43へ噴射すべき尿素水の単位時間当りの噴射量に相当する指示噴射量[mg/s]を、所定の演算周期毎に算出する。より具体的には、選択還元触媒43によるNOx浄化率はそのNH吸着量(NHストレージ量)に応じて高くなることから、指示噴射量演算部31は、選択還元触媒43に流入するNOxを浄化し、かつ選択還元触媒43のNHストレージ量がその最大値近傍に維持されるように、NOxセンサ51及びNHセンサ52などの出力に基づいて指示噴射量を算出する。なお、この指示噴射量を算出するアルゴリズムについては、本願出願人による国際公開第2009/128169号に説明されているので、ここではこれ以上詳細な説明を省略する。
【0033】
指示噴射量積算部32は、指示噴射量演算部31により演算周期毎に算出された噴射量を積算し、噴射量積算値[mg]を算出する。
未噴射量積算部36は、指示噴射量積算部32により算出された噴射量積算値から、後述の噴射済み分積算値[mg]を減算することにより、噴射量積算値に相当する量の尿素水のうち未だインジェクタ45から噴射していない分に相当する未噴射量積算値[mg]を算出する。
【0034】
駆動パルス発生部33は、未噴射量積算部36により算出された未噴射量積算値[mg]と、噴射量設定部35により設定された後述の噴射量閾値[mg]と、に基づいてインジェクタを駆動させるための駆動パルスを発生する。
【0035】
より具体的には、駆動パルス発生部33は、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回ったか否かを判別する。そして、駆動パルス発生部33は、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回っている場合には、予め定められた幅の駆動パルスを発生し、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回っていない場合には、駆動パルスを発生しない。ここで、駆動パルス発生部33が発生する駆動パルスの幅は、1つの駆動パルスをインジェクタに印加すると、噴射量閾値に相当する量の尿素水が噴射されるような長さに設定される。すなわち、駆動パルス発生部33は、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回る度に、噴射量閾値に相当する同じ幅の駆動パルスを発生することで、1つの駆動パルス当りの尿素水の噴射量及び噴射時間を一定にする。
【0036】
図2は、駆動パルス発生部33により発生された駆動パルスの一例を示す図である。図2の下段は、指示噴射量が小さくなるような運転領域(低負荷運転領域)における一例を示し、図2の上段は、下段に対し指示噴射量が大きくなるような運転領域(高負荷運転領域)における一例を示す。
【0037】
指示噴射量が小さくなるような運転領域では、噴射量積算値は比較的緩やかに増加するため、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回るまでに時間がかかる。このため、図2に示すように、指示噴射量が小さくなるに従い、駆動パルスの発生間隔は短くなる傾向がある。なお、図2に示す例では、上段の高負荷運転領域では1つの演算周期毎に1つの駆動パルスを発生させているのに対し、下段の低負荷運転領域では7つの演算周期毎に1つの駆動パルスを発生させている。また、図2に示すように、駆動パルス発生部33が発生する駆動パルスの幅は、指示噴射量の大小に関わらず一定となる。
【0038】
図1に戻って、噴射済み分積算部34は、インジェクタから噴射された尿素水の量を積算することで、噴射済み分積算値を算出する。上述のように、駆動パルス発生部33で発生させる駆動パルスは、1つの駆動パルス当りの尿素水の噴射量が噴射量閾値に相当する量になるように調整されている。従って、この噴射済み分積算部34は、駆動パルス(ON信号)が入力される毎に噴射量閾値を積算することにより、噴射済み分積算値を算出する。
【0039】
また、図9を参照して説明したように、駆動パルス幅を短くすると、1つの駆動パルス当りの尿素水の噴射量に対し誤差の占める割合が大きくなり、噴射精度が低下する。このため、噴射精度を確保するためには、駆動パルス幅はある程度より長くしなければならない。また逆に、駆動パルスを長くすると、必然的に駆動パルスを発生させる間隔も長くなり、応答性が低下する。このため、応答性を確保するためには、駆動パルス幅はある程度より短くしなければならない。そこで、噴射量設定部35では、噴射精度の向上と応答性の向上とを両立するため、噴射量閾値を、1つの駆動パルス当りの尿素水の噴射量が、この噴射量に対する誤差の許容範囲内で最小となる値に設定する。
【0040】
図3は、以上のような本実施形態の尿素水噴射制御の制御例を示すタイムチャートである。図3には、演算周期毎に算出された指示噴射量と、この指示噴射量を積算することによって得られる未噴射量積算値と、この未噴射量積算値に基づいて発生された駆動パルスと、を示す。
【0041】
図3に示すように、演算周期毎に算出された指示噴射量を積算することにより、未噴射量積算値は増加する。そして、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回ったことに応じて、この噴射量閾値に相当する量の尿素水を噴射させるべく予め定められた幅の駆動パルスを発生させる(時刻t1〜t6参照)。また、駆動パルスを発生させた後は、未噴射量積算値は、その時の値から噴射量閾値だけ減少した後、再び増加する。このため、未噴射量積算値は図3に示すようにのこぎり波状に変化する。
【0042】
また、指示噴射量が比較的小さな値を推移する区間と比較的大きな値を推移する区間とを比較すると、どちらの区間とも駆動パルス幅は同じであるが、指示噴射量が比較的小さな値を推移する区間の方が未噴射量積算値の増加速度が緩やかになるため、駆動パルスの発生間隔は長くなり、インジェクタからの尿素水の噴射量も少なくなる。より具体的には、時刻t5における駆動パルスの発生には、直近1演算周期分の指示噴射量の積算値が寄与するのに対し、時刻t3における駆動パルスの発生には、直近6演算周期分の指示噴射量の積算値が寄与する。
【0043】
以上詳述した本実施形態の排気浄化システムの効果について、従来のPWM制御と比較しながら説明する。
図4は、本実施形態の尿素水噴射制御と従来のPWM制御の制御例を示すタイムチャートである。なお、図4には、従来のPWM制御として、PWM制御周期を、指示噴射量の演算周期の5倍の長さに設定した場合を示す。
図5は、指示噴射量と噴射量誤差との関係について、本実施形態の尿素水噴射制御と従来のPWM制御とを比較する図である。
【0044】
(1)本実施形態では、演算周期毎に算出された噴射量を積算することで未噴射量積算値を算出し、この未噴射量積算値が噴射量閾値を上回ったときに、噴射量閾値に相当する量の尿素水が噴射されるような幅の駆動パルスを発生する(図4中、時刻t1、t2、t4〜t9及びt11参照)。このように、演算周期毎に算出された指示噴射量そのものを逐次用いるのではなく、これを積算して得られる未噴射量積算値に応じて駆動パルスを発生することにより、前回の噴射から次回の噴射までの間に行われた複数回の噴射量の演算の全てを次回の噴射に反映させることができるので、尿素水の噴射精度を向上できる。これに対し、従来のPWM制御では、PWM制御周期毎に発生させる駆動パルス(図4中、時刻t1、t3、t6及びt10参照)は、基本的にはその直前の指示噴射量しか反映させることができない。
本実施形態では、未噴射量積算値が予め定められた噴射量閾値を上回ったときに駆動パルスを発生しインジェクタから還元剤等を噴射させることにより、従来のPWM制御のように予め定められたPWM制御周期分だけ時間が経過するのを待つ必要がないので、還元剤等の噴射の応答性も向上することができる。
また本実施形態では、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回ったときには、この時における噴射量積算値に相当する量ではなく、予め定められた噴射量閾値に相当する量の尿素水が噴射されるような駆動パルスを発生する。つまり、インジェクタからは決まった量の尿素水が噴射されることとなる。このため、ミキサの形状や設置場所等の最適化を容易にすることができる。
【0045】
(2)本実施形態では、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回るまでは駆動パルスを発生せず、インジェクタを駆動しないようにすることにより、必要以上にインジェクタの駆動回数が増加してしまうのを防止できる。
【0046】
(3)本実施形態では、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回る度に、同じ幅の駆動パルスを発生し、1つの駆動パルス当りの還元剤等の噴射量と噴射時間とを一定することにより、上述のようなミキサの形状や設置場所の最適化を容易にすることができる。
【0047】
(4)図5に示すように、従来のPWM制御では、指示噴射量が小さな領域では、1つの駆動パルス当りの噴射量を少なくするため、図9を参照して説明したように、噴射量誤差が大きくなってしまう。これに対し本実施形態では、誤差の許容範囲内で最小となる値に噴射量閾値を設定し、さらにこの噴射量閾値に相当する幅の駆動パルスを発生することにより、指示噴射量が小さな領域における噴射量誤差を改善しかつ応答性も向上できる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、その説明を省略する。
図6は、本実施形態に係る排気浄化システム2Aの構成を示す模式図である。本実施形態は、制御装置3Aの噴射量設定部35Aの構成が第1実施形態と異なる。
【0049】
噴射量設定部35Aは、未噴射量積算値の増加速度に応じて駆動パルス発生部33により発生させる駆動パルスの幅を変更するために、駆動パルス発生部33に入力する噴射量閾値を、低噴射量用閾値とこの低噴射量用閾値よりも大きな高噴射量用閾値との何れかの値に設定する。より具体的には、噴射量設定部35Aは、駆動パルスの発生後、所定の高噴射設定時間が経過するまでの間は、噴射量閾値を高噴射量用閾値に設定し、高噴射設定時間が経過した後は、噴射量閾値を低噴射量用閾値に設定する。
【0050】
図7は、本実施形態の尿素水噴射制御の制御例を示すタイムチャートである。図7には、演算周期毎に算出された指示噴射量と、この指示噴射量を積算することによって得られる未噴射量積算値と、この未噴射量積算値に基づいて発生された駆動パルスと、を示す。
【0051】
図7において太線で示すように、駆動パルスの発生後(時刻t1、t2、t4及びt7参照)、高噴射設定時間(例えば、3演算周期)が経過するまでの間は、噴射量閾値を高噴射量用閾値に設定し、高噴射設定時間が経過した後は、噴射量閾値を低噴射量用閾値に設定する。
また、駆動パルスの発生後、高噴射設定時間内に未噴射量積算値が高噴射量用閾値を上回らなかった場合には、低噴射量用閾値に相当する比較的短い幅の駆動パルスを発生する(時刻t1、t3、及びt7参照)。そして、駆動パルスの発生後、高噴射設定時間内に未噴射量積算値が高噴射量用閾値を上回った場合、換言すれば駆動パルスの発生後における未噴射量積算値の増加速度が所定の高噴射判定速度(例えば、高噴射量用閾値[mg]/高噴射設定時間[s]に相当)以上である場合には、尿素水の急な要求に応えるべく、高噴射量用閾値に相当する比較的長い幅の駆動パルスを発生する(時刻t4参照)。
【0052】
次に、図8を参照して、本実施形態と第1実施形態とを比較する。
図8は、噴射周期(駆動パルスの発生間隔)と指示噴射量との関係を模式的に示す図である。図8において、破線は第1実施形態における噴射周期の特性を示し、実線は第2実施形態における噴射周期の特性を示す。
第1実施形態では、噴射量閾値は一定であり、駆動パルスの幅も一定である。従ってその噴射周期は指示噴射量に反比例することとなる。特に、指示噴射量が大きくなると、噴射周期も短くなるため、インジェクタの駆動回数が多くなってしまう。
これに対し第2実施形態では、指示噴射量が大きくなると、未噴射量積算値の増加速度も速くなるため、高噴射量用閾値に相当する長い幅の駆動パルスを発生する機会が多くなると考えられる。このため、第2実施形態における噴射周期は、実線で示すように、指示噴射量が大きくなる領域において第1実施形態よりも長い周期に維持されることとなる。これは、第2実施形態によれば、第1実施形態と比較してインジェクタの駆動回数を抑制できることを意味する。また、第1実施形態では小分けに噴射していたところ、第2実施形態ではこれをまとめて噴射することにより、噴射精度も向上することができる。
【0053】
以上詳述した本実施形態の排気浄化システムによれば、以下の効果がある。
(5)本実施形態では、未噴射量積算値の増加速度が高噴射判定速度以上である場合には駆動パルスの幅が長くなるように、噴射量閾値を低噴射量用閾値と高噴射量用閾値との何れかの値に設定することにより、インジェクタの駆動回数を必要最小限に留めることができる。なお、未噴射量積算値が噴射量閾値を上回るまでにかかる時間は、未噴射量積算値の増加速度が高噴射判定速度以上であれば、噴射量閾値を高噴射量用閾値に設定したとしても大きく変わらないと考えられる。したがって、本実施形態によれば、尿素水の噴射精度の向上と応答性の向上とを両立しながら、加えてインジェクタの駆動回数を低減することができる。
【0054】
(6)本実施形態では、駆動パルスを発生した後における未噴射量積算値の増加が速く高噴射設定時間が経過するまでの間に未噴射量積算値が高噴射量用閾値を上回った場合には、高噴射量用閾値に相当する多量の尿素水が噴射されるような長い幅の駆動パルスを発生し、未噴射量積算値の増加が遅く高噴射設定時間が経過するまでの間に噴射量積算値が高噴射量用閾値を上回らなかった場合には、低噴射量用閾値に相当する少量の尿素水が噴射されるような短い幅の駆動パルスを発生する。これにより、インジェクタの駆動回数を必要最小限にとどめつつ、還元剤等の噴射精度の向上と応答性の向上とを両立することができる。
【0055】
上記実施形態では、アンモニアを還元剤とし、かつこの前駆体として尿素水をインジェクタで供給する尿素添加式の排気浄化システムに、本発明を適用した例を示したが、これに限るものではない。
例えば、インジェクタからは尿素水を供給せずに、アンモニアガスを直接供給するシステムに本発明を適用しても効果的である。また、NOxを還元するための還元剤はアンモニアに限るものではない。本発明は、NOxを還元するための還元剤として、アンモニアの代わりに、例えば炭化水素を用いた排気浄化システムに適用することもできる。
【符号の説明】
【0056】
1…エンジン(内燃機関)
2…排気浄化システム
3…制御装置
31…指示噴射量演算部(噴射量算出手段)
32…指示噴射量積算部(積算手段)
33…駆動パルス発生部(駆動手段)
34…噴射済み分積算部(積算手段)
36…未噴射量積算部(積算手段)
4…排気管(排気通路)
43…選択還元触媒
45…インジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられた選択還元触媒と、
駆動パルスが印加されると前記選択還元触媒の上流側に還元剤又はその前駆体を噴射するインジェクタと、
前記内燃機関の運転状態及び前記選択還元触媒の状態の少なくとも何れかに応じて、当該選択還元触媒へ供給すべき還元剤又は前駆体の単位時間当りの噴射量を所定の演算周期毎に算出する噴射量算出手段と、を備えた排気浄化システムであって、
前記演算周期毎に算出された噴射量を積算し、噴射量積算値を算出する積算手段と、
前記噴射量積算値が予め設定された噴射量閾値を上回ったときに、当該噴射量閾値に相当する量の還元剤又は前駆体が噴射されるような駆動パルスを発生する駆動手段と、を備えることを特徴とする排気浄化システム。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記噴射量積算値が前記噴射量閾値を上回るまでは、駆動パルスを発生しないことを特徴とする請求項1に記載の排気浄化システム。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記噴射量積算値が前記噴射量閾値を上回る度に同じ幅の駆動パルスを発生することで、1つの駆動パルス当りの還元剤又は前駆体の噴射量及び噴射時間を一定にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気浄化システム。
【請求項4】
前記噴射量閾値は、1つの駆動パルス当りの還元剤又は前駆体の噴射量が、当該噴射量に対する誤差の許容範囲内で最小となる値に設定されることを特徴とする請求項1ないし3の何れかに記載の排気浄化システム。
【請求項5】
前記噴射量積算値の増加速度が所定速度以上である場合には前記駆動手段により発生させる駆動パルスの幅が長くなるように、前記噴射量閾値を低噴射量用閾値と当該低噴射量用閾値よりも大きな高噴射量用閾値との何れかの値に設定する噴射量閾値設定手段をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気浄化システム。
【請求項6】
前記噴射量閾値設定手段は、駆動パルスの発生後所定時間が経過するまでの間は前記噴射量閾値を前記高噴射量用閾値に設定し、前記所定時間が経過した後は前記噴射量閾値を前記低噴射量用閾値に変更することを特徴とする請求項5に記載の排気浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−11255(P2013−11255A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145937(P2011−145937)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】