説明

排水処理装置及び排水処理方法

【課題】難分解性化学的酸素要求量(COD)及び生物化学的酸素要求量(BOD)を高負荷で処理可能な排水処理装置を提供する。
【解決手段】有機物を含有する溶液が導入され、有機物を分解する分散菌が投入される分散菌槽1と、分散菌槽1で処理された溶液が導入され、残存する有機物を分解する微生物が付着している複数の粒子状の担体、及び分散菌を捕食する捕食生物が投入される、流動床式バイオリアクター槽2と、を備える、排水処理装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境技術に係り、排水処理装置及び排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排水処理方法として活性汚泥法が広く用いられている(例えば、特許文献1、2参照。)。しかし、活性汚泥法単独では、難分解性で化学的酸素要求量(COD:Chemical Oxygen Demand)を高める要因となる成分(以下において「難分解性COD成分」という。)を含有する排水を処理できない。そのため 事前にオゾン酸化、過酸化水素添加、及び紫外線(UV)照射等で難分解性COD成分を分解した後、排水を活性汚泥法で処理する方法、あるいは排水を活性汚泥法で処理した後、活性炭吸着法により処理液から難分解性COD成分を除去する方法がとられている。しかし、これらの方法はいずれも初期コスト、及びランニングコストが増大する傾向にある。
【0003】
また、難分解性COD成分を除去する方法として、流動床式バイオリアクター法がある。流動床式バイオリアクター法では、微生物の担体としての活性炭が投入された流動床式バイオリアクター槽と、循環曝気槽と、が使用される。流動床式バイオリアクター槽は、導入された排水に上向流を発生させ、排水内に活性炭を浮遊させる。循環曝気槽は、溶存酸素が飽和濃度付近になるよう、循環水を曝気する。酸素を高濃度で含む循環水は、排水と混合され、流動床式バイオリアクター槽へ移送される。これにより、流動床式バイオリアクター槽内に酸素が供給される。
【0004】
循環水は、活性炭が流動床式バイオリアクター槽からリークしない程度の低流速で流動床式バイオリアクター槽に供給される。そのため、活性汚泥法と異なり、流動床式バイオリアクター槽内は層流状態の非常にマイルドな環境となっている。よって、活性炭表面に多種多様なバクテリアや原生動物が存在できるので、活性汚泥法で処理困難な難分解性COD成分も分解することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭56−48235号公報
【特許文献2】特許第3035569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、流動床式バイオリアクター槽は難分解性COD成分を分解可能であっても、高負荷COD又は高負荷BOD(生物化学的酸素要求量:Biochemical Oxygen Demand)処理に問題があった。そこで、本発明は、化学的酸素要求量(COD)及び生物化学的酸素要求量(BOD)を高負荷で処理可能な排水処理装置及び排水処理方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様は、有機物を含有する溶液が導入され、有機物を分解する分散菌が投入される分散菌槽と、分散菌槽で処理された溶液が導入され、残存する有機物を分解する微生物が付着している複数の粒子状の担体、及び分散菌を捕食する捕食生物が投入される、流動床式バイオリアクター槽と、を備える排水処理装置であることを要旨とする。
【0008】
本発明の他の態様は、有機物を含有する溶液を分散菌槽に導入するステップと、分散菌槽内の分散菌により、有機物を分解するステップと、分散菌槽で処理された溶液を流動床式バイオリアクター槽に導入するステップと、流動床式バイオリアクター槽内の複数の粒子状の担体に付着している微生物によって、溶液中に残存する有機物を分解するステップと、流動床式バイオリアクター槽内の捕食生物に溶液中の分散菌を捕食させるステップと、を含む、排水処理方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、難分解性化学的酸素要求量(COD)及び生物化学的酸素要求量(BOD)を高負荷で処理可能な排水処理装置及び排水処理方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る排水処理装置の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態の比較例に係る排水処理装置の模式図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る排水処理装置の模式図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る排水処理装置の模式図である。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係る排水処理装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る排水処理装置は、図1に示すように、有機物を含有する溶液が導入され、有機物を分解する分散菌(非凝集性細菌)が投入される分散菌槽1と、分散菌槽1で処理された溶液が導入され、残存する有機物を分解する微生物が付着している数の粒子状の担体、及び分散菌を捕食する捕食生物が投入される、流動床式バイオリアクター槽2と、を備える。
【0013】
分散菌槽1には、パイプ11を介して、有機物を含有する溶液が供給される。有機物を含有する溶液としては、化学工場、電子機械部品工場、建材工場、及び塗料工場等から排出される、易分解性有機物と難分解性有機物とが混在する排水が挙げられる。ここで、易分解性有機物とは、分散菌で分解されやすく、溶液の生物化学的酸素要求量(BOD:Biochemical Oxygen Demand)を高める要因となりうる有機物をいう。易分解性有機物は、BOD成分ともいう。また、難分解性有機物とは、分散菌で分解されにくく、溶液の化学的酸素要求量(COD:Chemical Oxygen Demand)を高める要因となりうる有機物をいう。難分解性有機物は、難分解性COD成分ともいう。なお、排水は着色されていてもよい。
【0014】
分散菌槽1内に投入される分散菌としては、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、及びアシネトバクター(Acinetobactor)属等が使用可能である。なお、分散菌槽1に、単離した分散菌を投入する必要はなく、活性汚泥等を投入することにより、分散菌を投入してもよい。分散菌槽1は、有機物を含有する溶液を2乃至5時間滞留させる。有機物を含有する溶液が分散菌槽1に2乃至5時間滞留されている間、分散菌が、例えば溶液中の易分解性有機物の70%程度を分解する。そのため、分散菌槽1において、溶液のBODが低下する。なお、分散菌槽1内に有機物を含有する溶液を滞留させる時間を2乃至5時間とすることにより、分散菌を捕食する原生動物が分散菌槽1内で成長することを抑制することが可能となる。
【0015】
分散菌槽1には、分散菌槽1に滞留する溶液に酸素を供給する酸素供給ブロワ21が接続されている。好ましくは、分散菌槽1にゴム製メンブレン散気管やOHR式散気管等を介して酸素供給ブロワ21を接続することにより、分散菌槽1に滞留する溶液に微細気泡の酸素を供給することが可能となり、分散菌による溶存酸素の消費効率を上昇させることが可能となる。
【0016】
分散菌槽1で処理された溶液は、分散菌槽1に接続されたパイプ12、パイプ12に接続されたパイプ13、パイプ13に接続された吸引ポンプ22、及び吸引ポンプ22に接続されたパイプ14を介して、流動床式バイオリアクター槽2の底部から、流動床式バイオリアクター槽2の内部に注入される。流動床式バイオリアクター槽2の底部から溶液を注入することによって、流動床式バイオリアクター槽2の内部に溶液が貯蔵される。さらに、流動床式バイオリアクター槽2の底部から上方に重力方向とは反対に向かう流れが、流動床式バイオリアクター槽2の内部に貯蔵された溶液中に形成される。形成された流れによって、複数の粒子状の担体が溶液中に分散し、粒子分散層30を形成する。
【0017】
分散菌槽1で処理され流動床式バイオリアクター槽2に注入された溶液は、分散菌と、分散菌で分解されなかった難分解性COD成分と、を含む。分散菌は、流動床式バイオリアクター槽2内に投入された原生動物(フィロディナ、ボルティセラ、及びアスピディスカ等)や後生動物(ネマトーダ、Aeolosoma等のミミズ)等の捕食生物によって捕食される。捕食生物による食物連鎖等により、余剰汚泥の発生量が減少するため、流動床式バイオリアクター槽において清澄な処理水が得られる。また、難分解性COD成分は、流動床式バイオリアクター槽2内の溶液中に分散された複数の粒子状の担体に付着する。複数の粒子状の担体のそれぞれには、活性炭が使用可能である。複数の粒子状の活性炭に付着した難分解性COD成分は、複数の粒子状の活性炭に付着しているヒュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、及びズーグレア属(Zoogloea)等のバクテリア、並びに原生動物等の微生物によって徐々に生分解される。そのため、流動床式バイオリアクター槽2において、溶液の化学的酸素要求量(COD:Chemical Oxygen Demand)が低下する。
【0018】
流動床式バイオリアクター槽2の内部の溶液に形成される流れの速さは、5乃至40m/時間である。流れの速さが5m/時間より遅いと、複数の粒子状の活性炭の分散が不充分となり、複数の粒子状の活性炭が凝集する場合がある。また、流れの速さが40m/時間より速いと、複数の粒子状の活性炭が流動床式バイオリアクター槽2から排出される場合がある。流れの速さを5乃至40m/時間とすることにより、流れがない場合と比較して、複数の粒子状の活性炭は、流動床式バイオリアクター槽2の底面から1.2乃至1.5倍程度の高さまで浮遊分散される。
【0019】
複数の粒子状の活性炭のそれぞれの粒径は、0.3乃至1.0mmが好ましい。活性炭の粒径が0.3mmより小さい場合、複数の粒子状の活性炭の総表面積が増えるため、多数の微生物を複数の粒子状の活性炭の表面に付着させることが可能となる。しかし、微生物の量が多くなると、微生物に消費される酸素の供給量を増やす必要も生じ得る。酸素の供給量を増やすために、流動床式バイオリアクター槽2の内部の溶液の流れの速さを速くすると、複数の粒子状の活性炭が流動床式バイオリアクター槽2から排出されるため好ましくない。
【0020】
また、活性炭の粒径が1.0mmより大きい場合、複数の粒子状の活性炭の総表面積が減少するため、複数の粒子状の活性炭の表面に付着する微生物の数も減少する傾向にある。また、微生物の数が減少すると、微生物に消費される酸素の供給量も減少するが、活性炭の粒径が1.0mmより大きいと、それぞれの活性炭の質量が増すため、流動床式バイオリアクター槽2の内部の溶液の流れの速さを速くする必要が生じ得る。そのため、吸引ポンプ22の消費エネルギが不必要に上昇するので好ましくない。なお、粒子状の活性炭は、球状である必要はなく、変形していてもよい。
【0021】
流動床式バイオリアクター槽2に含まれる溶液のうち、複数の粒子状の活性炭が分散していない上澄み液は、パイプ15を介して、酸素供給装置としての曝気槽3に流される。曝気槽3において、酸素供給ブロワ23から空気が溶液中に吹き込まれ、溶液中に酸素が供給される。曝気槽3においてほぼ飽和酸素濃度状態となった溶液は、曝気槽3に接続されたパイプ13、吸引ポンプ22、及びパイプ14を介して、流動床式バイオリアクター槽2に再び注入される。したがって、酸素を供給された溶液が、流動床式バイオリアクター槽2と、曝気槽3と、を循環する。また、曝気槽3から、溶液の一部が、パイプ16を介して、処理済みの溶液として河川等に放流される。
【0022】
ここで、図2に示すように、流動床式バイオリアクター槽2の上流に分散菌槽が設置されなかった場合、CODのみならずBODも高い溶液が流動床式バイオリアクター槽2に直接注入される。この場合、分散菌槽を設置した場合と比較して、流動床式バイオリアクター槽2に導入される溶液の酸素要求量が極めて高くなる。そのため、流動床式バイオリアクター槽2の底部の活性炭に付着した微生物が急激に成長し、サッカーボール大の活性炭の凝集物が発生する場合がある。また、活性炭の凝集物が生じると、流動床式バイオリアクター槽2内に形成される溶液の上昇流の均一性が阻害されて偏流が生じ、活性炭の均一な分散が妨げられ得る。さらに、粒子分散層30と上澄みとの界面が上昇し、活性炭が流動床式バイオリアクター槽2から排出されるおそれもある。
【0023】
また、BODが高い溶液が注入されると、流動床式バイオリアクター槽2内の溶液の溶存酸素が不足するようになる。特に、流動床式バイオリアクター槽2の底部付近において、溶液の溶存酸素が著しく不足するようになる。そのため、吸引ポンプ22による曝気槽3からの溶液の供給速度をあげる必要が生じるため、吸引ポンプ22の消費電力等が増加する場合がある。
【0024】
これに対し、図1に示す第1の実施の形態に係る排水処理装置は、流動床式バイオリアクター槽2の上流に設置された分散菌槽1で易分解性有機物のほとんどが分解される。そのため、流動床式バイオリアクター槽2に導入される溶液のBODが低いため、流動床式バイオリアクター槽2内での酸素不足、糸状菌の発生、及び活性炭の凝集等の問題が生じにくくなる。そのため、分散菌槽1に導入される前の溶液のCOD及びBODが高い場合でも、長期にわたって安定な運転が可能となる。さらに、活性炭の凝集が生じない範囲で、流動床式バイオリアクター槽2内に形成される溶液の流れの速度を低下させることが可能となるため、吸引ポンプ22の消費電力を低減することも可能となる。
【0025】
(第1の実施の形態の変形例)
図1に示す第1の実施の形態に係る排水処理装置においては、分散菌槽1で処理された溶液は、流動床式バイオリアクター槽2に供給される。これに対し、図3に示すように、分散菌槽1で処理された溶液を、曝気槽3に供給してもよい。図3に示す排水処理装置によっても、図1に示す排水処理装置と同様の効果を得ることが可能となる。
【0026】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る排水処理装置は、図4に示すように、糸状菌の発生によるバルキングを防止するバルキング防止剤を分散菌槽1に供給するバルキング防止剤供給装置40をさらに備える。分散菌槽1内の溶液中のBOD成分、窒素成分、及びリン成分の比が100:5:1に保たれている場合、糸状菌は発生しにくい。しかし、工場等から分散菌槽1に導入される溶液のBOD成分の濃度は逐次変化するため、栄養塩バランス崩れ等により分散菌槽1に糸状菌が発生する場合がある。
【0027】
これに対し、バルキング防止剤供給装置40から糸状菌溶菌作用のあるバルキング防止剤を分散菌槽1に供給することにより、分散菌槽1におけるバルキングの発生を抑制することが可能となる。市販のバルキング防止剤としては、日鉄環境エンジニアリング株式会社製「バルヒビター」KEL225及びKEX250シリーズ等が使用可能である。バルキング防止剤の分散菌槽1への投入量は、分散菌槽1内の溶液量に対して、例えば1乃至5ppm程度である。
【0028】
(第3の実施の形態)
図4に示す流動床式バイオリアクター槽2において、溶液中のアンモニア態窒素は、ニトロソモナス属等のアンモニア酸化菌及びニトロバクター属等の亜硝酸酸化菌を含む好気バクテリアである硝化細菌によって硝化され、硝酸態窒素になる。さらに硝酸態窒素は、活性炭に付着している通性嫌気菌等の脱窒細菌によって形成された菌層の内部の無酸素領域で脱窒され、窒素ガス等になる。しかし、分散菌槽1に導入される溶液の窒素成分が多い場合、窒素成分が流動床式バイオリアクター槽2に残留し、全窒素(T−N)濃度が低下しない場合がある。
【0029】
これに対し、第3の実施の形態に係る排水処理装置は、図5に示すように、流動床式バイオリアクター槽2に導入される溶液から窒素を除去する脱窒槽4をさらに備える。脱窒槽4には脱窒菌を保持する担体が投入される。脱窒菌としては、一般的に汚泥中に数多く存在する通性嫌気性菌が利用可能であり、例えばヒュードモナス属(Pseudomonas)等が挙げられる。脱窒菌は、NO2及びNO3の酸素成分を酸素呼吸源として利用し、N2ガス化させる。また、酸素は水素と結合され、H2Oとして放出される。脱窒菌を保持する担体としては、固定担体及び流動担体が使用可能である。例えば、脱窒槽4の容積に対して、40%程度の安価なスポンジ担体が投入される。スポンジ担体としては、例えば、アキレス株式会社のSQAやKI等が使用可能である。
【0030】
脱窒槽4内部に脱窒反応を抑制する酸素が導入されるのは好ましくない。また、酸化還元電位として−50mV以下が必要である。ここで、流動床式バイオリアクター槽2の内部において、溶液中の酸素は下方の粒子分散層30で主に消費される。そのため、溶液中の酸素濃度は、重力方向の反対方向に進むにつれて低下していく。そのため、脱窒槽4には、流動床式バイオリアクター槽2の上方の酸素濃度が低い溶液が、流動床式バイオリアクター槽2の上方に接続されたパイプ17、パイプ17に接続された吸引ポンプ24、及び吸引ポンプ24に接続されたパイプ18を介して導入される。なお、パイプ18は、脱窒槽4の底部に接続されている。
【0031】
また、脱窒槽4には、分散菌槽1で処理される前の溶液の一部が、パイプ11と吸引ポンプ24とを接続するパイプ19を介して、導入される。分散菌槽1で処理される前の溶液は、BOD成分が分解されずに含まれている。分散菌槽1において、分散菌槽1で処理される前の溶液が、流動床式バイオリアクター槽2の上方から来た酸素濃度が低い溶液と混合される。分散菌槽1で処理される前の溶液に含まれていたBOD成分は、脱窒菌の水素供与体として利用される。なお、パイプ19から脱窒槽4に導入される溶液の量は、流動床式バイオリアクター槽2の上方から来た溶液の全窒素(T−N)に対してBOD成分の量が3倍となるよう、設定される。また、このBOD成分が不足する場合は メタノール等を脱窒菌の水素供与体として脱窒槽4にさらに注入してもよい。
【0032】
パイプ18から脱窒槽4に注入された溶液は、脱窒槽4の底部から重力方向の反対方向に流れを形成する。脱窒槽4における溶液の滞留時間は4時間程度である。脱窒槽4には、攪拌用のモーターに接続された攪拌板等の攪拌手段61が設置されている。攪拌手段61は、脱窒槽4内部の溶液を穏やかに攪拌して、発生した窒素の気泡の脱泡を行うとともに担体の沈降を防止する。脱窒が終了した脱窒槽4の上部の溶液は、脱窒槽4と曝気槽3とを接続するパイプ51を介して、曝気槽3に流される。
【0033】
例えば分散菌槽1で処理される前の溶液の全窒素(T−N)濃度が30乃至40ppm程度であった場合、脱窒槽4を設けることにより、曝気槽3からパイプ16に排出される溶液の全窒素(T−N)濃度を7乃至10ppmに低減させることが可能となる。なお、脱窒が終了した脱窒槽4の上部の溶液を、流動床式バイオリアクター槽2に戻してもよい。
【実施例】
【0034】
次に、実施例及び比較例を挙げて実施の形態をより具体的に説明するが、実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
実施例1においては、図4に示す排水処理装置と同様の装置を用いた。分散菌槽1の容積は400mLであり、アルカリゲネス(Alcaligenes)属及びアシネトバクター(Acinetobactor)属を含む活性汚泥が投入された。また、分散菌槽1に導入される有機物含有溶液として、BODが800mg/Lであり、COD(cr)が1380mg/Lであり、全有機炭素(TOC:Total Organic Carbon)が300mg/Lである塗料排水を用いた。塗料排水は、分散菌槽1に2.5L/日で導入された。この場合、分散菌槽1のBOD容積負荷は、5kg−BOD/m3・日である。分散菌槽1内の溶液は、L字型の塩ビ製パイプにφ2mmの孔を開けた散気管を用いて、4L/分で曝気した。また、バルキング防止剤供給装置40から、分散菌槽1における濃度が1mg/Lになるよう、バルキング防止剤(日鉄環境エンジニアリング株式会社製 バルヒビター「KEL225」)を供給した。
【0036】
流動床式バイオリアクター槽2の容積は2.7Lであり、内径が3cmであった。また、流動床式バイオリアクター槽2において、溶液の液面の高さは3.8mとなるよう設定した。さらに、流動床式バイオリアクター槽2には、平均粒径が0.5mmである活性炭を900mL投入した。活性炭には、ヒュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、及びズーグレア属(Zoogloea)等のバクテリア、並びに原生動物等の微生物が付着していた。曝気槽3の容積は1Lであった。曝気槽3で0.15L/分の速度で溶液を曝気し、曝気された溶液を吸引ポンプ22で流動床式バイオリアクター槽2の底部に供給し、流動床式バイオリアクター槽2の内部に上向きの溶液の流れを形成させた。流動床式バイオリアクター槽2の内部における溶液の流れの速さは16m/時であった。活性炭の初期展開高さは190cmであった。また、流動床式バイオリアクター槽2の底部における溶存酸素濃度は7ppmであり、流動床式バイオリアクター槽2の上部における溶存酸素濃度は4乃至5ppmであった。
【0037】
上記条件で、4か月間、停止することなく連続して溶液を処理し続けた。その結果、パイプ16から放流された処理済み溶液の水質は、表1に示すように良好であった。また、4か月後の活性炭の展開高さは210cmであり、4か月前と比較して20cm程度の上昇にとどまった。なお、全有機炭素(TOC)及び全窒素(T−N)は、溶液を遠心分離(1500rpm*15分間)し、菌体が除去された上澄み液をTOC計(島津製作所製)にかけて測定した。全有機炭素(TOC)及び全窒素(T−N)の測定方法は、以下の実施例においても同様である。
【0038】
(比較例1)
比較例1においては、図2に示すように、分散菌槽を有さない排水処理装置を用いた。分散菌槽を有さない点以外は、実施例1と同様の条件で溶液を処理した。なお、流動床式バイオリアクター槽2の底部における溶存酸素濃度は、実施例1と同様に7ppmとしたが、流動床式バイオリアクター槽2の上部における溶存酸素濃度は1乃至2ppmとなった。溶液を処理した結果、活性炭に付着した菌体の量の増加が著しく、活性炭の展開高さが約3ケ月で3.8mまで上昇し、流動床式バイオリアクター槽2から活性炭が溢流してしまった。
【表1】

【0039】
(実施例2)
実施例1において、図4に示す分散菌槽1にバルキング防止剤を投入しなかった場合、運転を開始して約50乃至60日を経過した頃に、分散菌槽1に糸状菌が多量に発生するとともに、流動床式バイオリアクター槽2にも糸状菌が成長し、活性炭の展開高さが3mまで急上昇した。そこで、バルヒビター「KEX250」を20ppm程度、分散菌槽1へ投入すると糸状菌は消失し、その後、流動床式バイオリアクター槽2における活性炭の展開高さも2.1mと糸状菌が発生する前の展開高さに戻った。なお、バルキング防止剤を添加せずに運転しても、約50日の間は、糸状菌の発生による展開高さの上昇はなかった。したがって、運転期間によっては、バルキング防止剤は必須ではない。
【表2】

【0040】
(実施例3)
実施例3においては、図5に示す排水処理装置と同様の装置を用いた。分散菌槽1には、実施例1と同じ溶液を2.5L/日導入した。また、分散菌槽1、流動床式バイオリアクター槽2、及び曝気槽3は、実施例1と同じ装置を同じ条件で用いた。容積が1Lであり、内径6.7cmである塩ビ製円筒からなる脱窒槽4において、溶液の液面高さは28cmとなるよう設定した。また、脱窒槽4には、10mm角のウレタンスポンジ(アキレス株式会社SQA)を、ヒュードモナス属(Pseudomonas)等の脱窒菌の担体として500mL投入した。
【0041】
脱窒槽4には、流動床式バイオリアクター槽2の上方から酸素濃度の低い溶液を5.5L/日導入した。また、分散菌槽1で処理される前の溶液の一部を、脱窒槽4に0.4L/日導入した。さらに、脱窒槽4における溶液の滞留時間は4時間となるよう設定した。 酸化還元電位は−200mVであった。脱窒槽4の上方には、オリエンタルモーターに接続された回転板を備える攪拌手段61を設置し、1回転/10秒で脱窒槽4内の溶液を撹拌した。脱窒された溶液は、曝気槽3に戻した。
【0042】
上記条件で約4ケ月間、停止することなく連続して溶液を処理し続けた。その結果、パイプ16から放流された処理済み溶液の水質は、表3に示すように良好であった。また、4か月後の活性炭の展開高さは200cmであり、4か月前と比較して10cm程度の上昇にとどまった。
【0043】
(実施例4)
図5に示す排水処理装置の分散菌槽1に、実施例1と同じ溶液を3.8L/日導入した。この場合、分散菌槽1のBOD容積負荷は7.5kg−BOD/m3・日であった。これ以外は、実施例3と同様の条件で、約3ケ月間、停止することなく連続して溶液を処理し続けた。その結果、パイプ16から放流された処理済み溶液の水質は、表3に示すように、実施例3と同様に良好であった。また、約3か月後の活性炭の展開高さは220cmであり、3か月前と比較して30cm程度の上昇にとどまった。
【表3】

【符号の説明】
【0044】
1 分散菌槽
2 流動床式バイオリアクター槽
3 曝気槽
4 脱窒槽
11,12,13,14,15,16,17,18,19,51 パイプ
21,23 酸素供給ブロワ
22,24 吸引ポンプ
30 粒子分散層
40 バルキング防止剤供給装置
61 攪拌手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する溶液が導入され、前記有機物を分解する分散菌が投入される分散菌槽と、
前記分散菌槽で処理された溶液が導入され、残存する前記有機物を分解する微生物が付着している複数の粒子状の担体、及び前記分散菌を捕食する捕食生物が投入される、流動床式バイオリアクター槽と、
を備える排水処理装置。
【請求項2】
バルキング防止剤を前記分散菌槽に供給するバルキング防止剤供給装置を更に備える、請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記流動床式バイオリアクター槽に導入される溶液から窒素を除去する脱窒槽を更に備える、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記流動床式バイオリアクター槽において、重力方向の反対方向に前記溶液中の酸素濃度が低下し、
前記流動床式バイオリアクター槽の上方から前記酸素濃度が低い溶液が前記脱窒槽に導入される、請求項4に記載の排水処理装置。
【請求項5】
前記脱窒槽に脱窒菌が投入され、
前記分散菌槽で処理される前の溶液の一部が、前記脱窒菌の炭素源として、前記脱窒槽に導入される、請求項4又は5に記載の排水処理装置。
【請求項6】
前記脱窒槽に設けられた、前記溶液を攪拌する攪拌手段を更に備える、請求項4乃至6のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項7】
前記流動床式バイオリアクター槽に導入される溶液に酸素を供給する酸素供給装置を更に備える、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項8】
前記酸素供給装置で酸素を供給された溶液が、前記流動床式バイオリアクター槽の底部から前記流動床式バイオリアクター槽の内部に注入され、前記流動床式バイオリアクター槽の内部に貯蔵された溶液に、重力方向とは反対方向の流れが形成される、請求項8に記載の排水処理装置。
【請求項9】
前記分散菌槽に滞留する前記溶液に酸素を供給する酸素供給ブロワを更に備える、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項10】
前記複数の担体のそれぞれが活性炭である、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の排水処理装置。
【請求項11】
前記活性炭の平均粒径が0.3乃至1mmである、請求項11に記載の排水処理装置。
【請求項12】
有機物を含有する溶液を分散菌槽に導入するステップと、
前記分散菌槽内の分散菌により、前記有機物を分解するステップと、
前記分散菌槽で処理された溶液を流動床式バイオリアクター槽に導入するステップと、
前記流動床式バイオリアクター槽内の複数の粒子状の担体に付着している微生物によって、前記溶液中に残存する前記有機物を分解するステップと、
前記流動床式バイオリアクター槽内の捕食生物に前記溶液中の前記分散菌を捕食させるステップと、
を含む、排水処理方法。
【請求項13】
前記分散菌槽内の分散菌により、前記有機物を分解するステップにおいて、前記分散菌槽における前記溶液の滞留時間が、2乃至5時間である、請求項13に記載の排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−92811(P2011−92811A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246279(P2009−246279)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】