排水機能付き矢板および矢板壁
【課題】製作及び取扱いが容易で、施工性に優れ、土砂による目詰まりが生じにくい排水機能付矢板および矢板壁を提供する。
【解決手段】U形、ハット形等の鋼矢板2の内側等に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付ける。立体網状構造体はポリプロピレン等の線状体の接点を溶着したものであり、表面近傍に密な部分4a、その内側に粗な部分4bを形成し、さらにその内側に中空部4cを形成してもよく、全体として略長方形断面等の長尺筒状体に整形する。排水部材4の下端と上端を、それぞれ先端取付部材5と後端取付部材6でU形、ハット形等の鋼矢板2のウェブ2aに取り付けることで鋼矢板2と一体化し、そのまま地盤中に打設できるようにする。表面近傍の密な部分4aは地震時に土砂の侵入を防止する機能を有し、その内側の粗な部分4bと中空部分4cで過剰間隙水圧を逸散させ、地盤の液状化を抑止する。
【解決手段】U形、ハット形等の鋼矢板2の内側等に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付ける。立体網状構造体はポリプロピレン等の線状体の接点を溶着したものであり、表面近傍に密な部分4a、その内側に粗な部分4bを形成し、さらにその内側に中空部4cを形成してもよく、全体として略長方形断面等の長尺筒状体に整形する。排水部材4の下端と上端を、それぞれ先端取付部材5と後端取付部材6でU形、ハット形等の鋼矢板2のウェブ2aに取り付けることで鋼矢板2と一体化し、そのまま地盤中に打設できるようにする。表面近傍の密な部分4aは地震時に土砂の侵入を防止する機能を有し、その内側の粗な部分4bと中空部分4cで過剰間隙水圧を逸散させ、地盤の液状化を抑止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤に施工される耐震補強用壁体、土留め壁、護岸等に用いられる排水機能付き矢板および矢板壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋立地その他、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤においては、液状化対策として、地盤中に排水機能を付与した排水部材(ドレーン材)を打設したり、あるいは矢板や杭等に排水部材を取り付けて打設し、地震時にこれらの排水部材を通じて過剰間隙水圧を逸散させることで液状化を抑制する技術が各種開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、透水用の多数の孔を開設したパイプの外周に土粒子の侵入を阻止するためのメッシュ状フィルターを被せた液状化防止用のドレーンパイプが開示されている。
【0004】
また、本願の出願人による特許文献2には、鋼管、樹脂パイプ、棒鋼その他の棒状体の外周に立体網状構造体を装着し、さらにその外周に土砂の侵入を防ぐためのフィルターを装着した液状化対策用の排水部材が開示されている。
【0005】
また、同じく本願の出願人による特許文献3には、矢板の所定区間に多数の開口部を有するリブ付き平板を取り付け、液状化対策用の排水空間を形成したものが開示されており、リブ付き平板の開口部には土砂の侵入を防ぐためのフィルターも取り付けている。
【0006】
この他、特許文献4にも矢板にドレーン部材を一体化し、ドレーン部材と矢板を同時に打設できるようにしたものが開示されている。
【0007】
また、本願の出願人による特許文献5には、ハット形鋼矢板のウェブ部に溝形鋼を取り付け、ハット形鋼矢板のウェブ部または溝形鋼にフィルター付きの多数の排水孔を設けたり、あるいはフランジ部間に多数のフィルター付きの排水孔を多数設けた有孔板を取り付けるなどして、液状化対策用の排水空間を形成させたものが開示されている。
【0008】
なお、上述した立体網状構造体としては、例えばポリプロピレン等の樹脂線状体の接点を溶着したもの等があり、非特許文献1に記載されているように土木用の排水部材として市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平06−011990号公報
【特許文献2】特許第2663603号公報
【特許文献3】特許第3031336号公報
【特許文献4】特開平10−168868号公報
【特許文献5】特開平09−242100号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“ヘチマロン・土木用途”、[online]、新光ナイロン株式会社、[平成22年11月26日検索]、インターネット<URL:http://www.shinko-nylon.co.jp/doboku/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したような従来の液状化対策用の排水部材では、土砂の侵入による目詰まりを防止するためにメッシュの細かい合成樹脂あるいは合成繊維製の薄いフィルターを用いるのが一般的である。
【0012】
しかしながら、これらのフィルターは排水部材あるいは排水部材を一体化した矢板等の地盤への打設時や運搬時に損傷を受けやすいという問題がある。
【0013】
フィルターの外周にさらにフィルター保護部材を取り付ける場合もあるが、保護部材の取り付けなどの製作手間、施工手間や材料費が増え、また保護部材を地中に残す場合には、その分、透水性が損なわれるといった問題もある。
【0014】
また、排水部を構成する鋼材あるいは樹脂パイプに開口部を設け、開口部にフィルターを取り付ける形式では、フィルターの損傷はある程度抑えることができるが、製作費や材料費が嵩むといった問題がある。
【0015】
本発明は、このような課題の解決を図ったものであり、排水部材を一体化してなる矢板として、製作及び取扱いが容易で、施工性に優れ、土砂による目詰まりが生じにくい排水機能付き矢板および矢板壁を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の請求項1に係る発明は、土中または水中に打設して壁体を構成する矢板本体に、該矢板本体の長手方向に延びる樹脂製立体網状構造体からなる排水部材を一体化してなる排水機能付き矢板において、前記排水部材の表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にしたことを特徴とするものである。
【0017】
矢板本体が鋼矢板の場合、その鋼矢板としては、U型鋼矢板、左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板、Z型鋼矢板、直線型鋼矢板、H形鋼とハット形鋼矢板(あるいは左右非対称鋼矢板)を組み合わせた鋼材、鋼矢板同士の組合せ鋼矢板、鋼管矢板、H形鋼矢板等をあげることができる。矢板本体はコンクリートであってもよい。本発明の排水機能付き矢板は、いずれの場合でも、容易に排水部材を取り付けて製作することができる。
【0018】
また、これらの矢板は、土中あるいは水中への打設の際、両側の継手の嵌合等により容易に接続していくことができ、本発明の場合、一体化した排水部材を従来工法により同時に打設することができる。
【0019】
樹脂製立体網状構造体からなる排水部材は、代表的にはポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル等の樹脂線状体の接点を溶着したものであり、線状体の太さや密度を変えることで隙間あるいは内部空間の大きさを調整することができる。
【0020】
本発明ではこの排水部材としての樹脂製立体網状構造体について、表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にすることで、上方への排水性能は主として網状構造が粗となる内側で発揮され、網状構造が密となる表面側は土砂の侵入を阻止するフィルター機能を発揮するため、従来、損傷が問題となっていた合成繊維等からなるフィルターを省略することもできる。
【0021】
また、樹脂製立体網状構造体は、一般的なフィルターに比べ摩耗にも強いので損傷しにくく、仮に部分的に損傷したとしても隙間が立体状に形成されているため性能に与える影響がほとんどなく、かつ耐圧性を有しそれ自体で整形された形状をある程度保つことができる。
【0022】
したがって、排水部材の保護部材を設けなくても、地盤中に直接打ち込み設置することが可能である。ただし、フィルターや保護部材を併用することは妨げない。
【0023】
表面近傍の網状構造と内側の網状構造の密度は、密と粗の2段階に変化させる場合に限らず、多段階に変化させてもよく、また連続的に変化させてもよい。
【0024】
なお、液状化は地表から20m以内程度の深さの間隙水が飽和状態の比較的緩い砂質地盤等で生じる可能性が高いため、液状化対策のための排水部材も現地地盤に応じて液状化地層と判定される層に対して必要な範囲に取り付ければよい。
【0025】
地震時には、従来の液状化対策工と同様、排水部材を通じて、過剰間隙水圧が逸散され、地盤の液状化が抑止される。
【0026】
請求項2は、請求項1に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の内部が中空であることを特徴とするものである。
【0027】
排水部材の内部を中空とすれば、中空部では排水に対する抵抗がほとんどないので、排水性能を向上させることができる。ただし、整形や耐圧性の面では中空部がない方が有利となる場合もある。
【0028】
請求項3は、請求項1または2に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の少なくとも一部が矢板本体に接合されていることを特徴とするものである。
【0029】
本願発明において、排水部材と樹脂製立体網状構造体の一体化は、排水部材を矢板本体に装着した状態で同時に土中または水中に打設できる状態であればよく、例えば排水部材の上下を矢板本体に留め付けたり、あるいは治具や鋼線などで簡易に固定したもの、排水部材の下部のみ矢板本体と接合したもの、排水部材の下部と排水部材の途中位置などを適当に留め付けたものなどでもよい。また、排水部材は矢板本体から全体的に少し離れていても排水部材のどこかが矢板本体に留められてあればよい。
【0030】
請求項4は、請求項1、2または3に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の表面近傍の網状構造の隙間の面積比率が4%以上であることを特徴とするものである。
【0031】
排水部材の表面近傍の網状構造の隙間の面積比率が4%程度以上あれば、排水性能を大きく損なうことはないと考えられる。
【0032】
請求項5は、請求項1〜4に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材が矢板本体の片面または両面に、1条または複数条取り付けられていることを特徴とするものである。
【0033】
排水部材は矢板の幅や断面形状等に応じて、1つの矢板本体の幅方向に複数条取り付けてもよく、また壁体の両側で液状化対策が必要な場合あるいは壁体への取付け面積を増やす場合には、矢板本体の両面に取り付けることもできる。
【0034】
請求項6は、請求項1〜5に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の外表面および/または前記排水部材の内部が中空である場合には中空側内表面がフィルターで覆われていることを特徴とするものである。
【0035】
本願発明では、樹脂製立体網状構造体の網状構造が密となる表面側が土砂の侵入を阻止するフィルター機能を発揮するため、従来、損傷が問題となっていた合成繊維等からなるフィルターを省略することができるというものであるが、フィルターの損傷が少ない条件においては、合成繊維等からなるフィルターを併用することで、さらに細かい土粒子の侵入を阻止し、立体網状構造体の目詰まり防止などをさらに確実にすることができる。
【0036】
その場合のフィルターとしては、合成繊維製のものや合成樹脂製のものが好ましく、例えばナイロン製、ポリエチレンモノフィラメント製などの経編布や、ポリプロピレン製、ポリエステル繊維製などの不織布などを用いることができる。また、合成繊維どうし、合成樹脂どうし、あるいは合成樹脂と合成樹脂を組み合わせたり、重ね合せたりして、フィルターとしてもよい。
【0037】
フィルターとしての経織布や不織布などのメッシュ間隔または間隙は、液状化防止などの対象とする地盤(一般には砂地盤)の土の粒径分布を勘案して、土砂によるフィルターの目詰まりを起こさないように設定する。
【0038】
フィルターの立体網状構造体表面への取付け方法としては、フィルターを立体網状構造体の外周に巻付け、フィルターの端部を留め金具で留めるなどして行うことができる。また、巻付けたフィルターの外周を針金、ロープなどでしばり付けて留めてもよいし、留めバンドなどで留めてもよい。
フィルターの他の取付け方法としては、立体網状構造に中空部を設ける場合には、中空部の外側表面近くにフィルターを設置してもよい。
【0039】
請求項7は、請求項1〜6に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材が保護部材で保護されていることを特徴とするものである。
【0040】
保護部材は、樹脂製立体網状構造体や、その表面が合成繊維等からなるフィルターで覆われている場合には、そのフィルターの損傷を防止する目的や、樹脂製立体網状構造体を一体化した矢板の打設をスムーズにする目的で使用される。
【0041】
例えば、尖った石等が混じった固い地盤に打設する場合等においても、保護部材を併用することで、排水部材付き矢板をより安全に地盤に打設することができる。すなわち、従来フィルターで覆った排水部材を多数の小孔を有する保護部材で保護した場合に、フィルター損傷なしに打設することが困難であったが、保護部材を併用した排水機能付き矢板では、フィルター機能をほとんど低下させることなく厳しい地盤にでも打設できる。
【0042】
加えて、ウォータージェットや地盤の先行撹拌など補助工法を用いれば、本発明の排水部材付き矢板を一段と安全に打設することができる。
【0043】
この保護部材としては、鋼、ステンレスなどの金属製、ポリエチレン、強化プラスチックなどの合成樹脂製のものなどを用いることができる。
【0044】
保護部材を排水部材付き矢板の打設後もそのまま土中などに残す場合には、多数の小孔を設けるなどして通水性を有するものを用いる必要があるが、排水部材付き矢板の打設後に引き抜く場合には、孔のない保護部材を用いることもできる。
【0045】
また、保護部材は、筒状体を用いて、排水部材の外周部を全面的に保護する構造でもよい。
【0046】
請求項8は、請求項7に係る排水機能付き矢板において、前記保護部材が、開口率が4%以上ある保護部材であることを特徴とするものである。
【0047】
請求項8は請求項4と同様、液状化対策としての排水性能の面から規定したものであり、保護部材の開口率が4%程度以上あれば、排水性能を大きく損なうことはないと考えられる。
【0048】
排水性能の面からは、より好ましくは保護部材の開口率を8%以上とすれば排水材による排水機能が大きくは損なわれず、液状化対策の機能を効果的に発揮させることができる。
【0049】
ただし、保護部材の開口率が20%、あるいはそれ以上になると、排水性能の面では好ましいものの、保護部材としての強度・剛性を確保するためにはコストが上昇し、また開口率が大きくなることで排水部材あるいはフィルターの保護の面では不利となる。
【0050】
請求項9は、請求項7または8に係る排水機能付き矢板において、前記保護部材は矢板本体または前記排水部材に対し着脱自在であることを特徴とするものである。
【0051】
保護部材を矢板本体または排水部材に対し着脱自在とすることで、排水部材付き矢板の打設後、保護部材を引き抜き、転用することができる。
【0052】
また、保護部材を打設後もそのまま土中などに残す場合には、多数の小孔を設けるなどして通水性を有するものを用いる必要があるが、排水部材付き矢板の打設後に引き抜く場合には、孔のない保護部材を用いることができるため、打設時における樹脂製立体網状構造体やフィルターの損傷をより確実に防止することができる。
【0053】
請求項10に係る排水機能付き矢板壁は、請求項1〜9に係る排水機能付き矢板どうしを多数連結してなる矢板壁であって、前記矢板壁の投影面積に対して、片側に取り付けられた排水部材の排水部の投影面積が8%以上であることを特徴とするものである。
【0054】
矢板に設けられる排水部は、矢板壁方向の幅が大きいほど排水機能・集水機能が増すことは自明であるが、施工性や剛性の面から選択されることが多い、U型鋼矢板やハット型鋼矢板などを考えた場合、矢板の形状から排水部材を設けることができる位置や幅が限定されることになる。
【0055】
また、取り付けのコストや施工の容易性、排水効率などを考慮した場合、解析的には矢板壁の幅と排水部の矢板壁方向の幅(複数の排水部の幅の合計)に関連し、矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積は、一般的な地盤では8%以上であることが望ましい。
【0056】
さらに、地盤の性質にもよるが、矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積が10%以上あれば、排水部の投影面積を100%とした場合と比較して大きくは低下することのない排水機能が発揮できると考えられる。
【発明の効果】
【0057】
本発明では、矢板に一体化される排水部材としての樹脂製立体網状構造体の表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にしたことで、網状構造が密となる表面近傍が土砂の侵入を阻止するフィルター機能を発揮し、従来、損傷が問題となっていた合成繊維等からなるフィルターを省略することができる。
【0058】
また、樹脂製立体網状構造体は、一般的なフィルターに比べ損傷しにくく、仮に部分的に損傷したとしても隙間が立体状に形成されているため性能に与える影響がほとんどなく、かつ耐圧性を有しそれ自体で整形された形状をある程度保つことができる。
【0059】
したがって、排水部材の保護部材を設けなくても、地盤中に直接打ち込み設置することも可能である。使用環境や条件によっては、フィルターや保護部材を適用しても構わない。
【0060】
排水部材が壁体を構成する矢板本体に取り付けられていることで、壁体位置での液状化抑止効果が確実となり、また排水部材が矢板に一体化されているため、運搬や地盤への打設作業において効率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の排水機能付き矢板の一実施形態を示したもので、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は正面図、(c)は排水部材のみの拡大断面図、(d)は(a)のA−A断面図である。
【図2】図1に対応する斜視図である。
【図3】本発明の排水機能付き矢板の他の実施形態としてU形鋼矢板に適用した場合の斜視図である。
【図4】(a)〜(d)は本発明で用いる排水部材のバリエーションを示す断面図である。
【図5】(a)〜(d)はそれぞれ本発明の排水機能付き矢板を用いた矢板壁の例を示す水平断面図である。
【図6】本発明の排水機能付き矢板の他の実施形態として保護部材を設けた場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【図7】図6の実施形態の変形例として保護部材が平板状のパンチングメタルの場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【図8】図6の実施形態のさらに他の変形例として保護部材が溶接金網である場合を示した斜視図である。
【図9】保護部材が矢板に対し着脱可能な場合の実施形態を示したものであり、(a)は排水機能付き矢板全体の斜視図、(b)は着脱部分の断面図、(c)は着脱部分の他の例の断面図である。
【図10】他の実施形態として、開口部がない保護部材を用い、打設後、保護部材のみ引き抜く場合の着脱機構と引き抜き手順を示した斜視図である。
【図11】排水部材の矢板壁に対する取付け面積割合に関する説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
図1は、本発明の排水機能付き矢板の一実施形態を示したもので、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は正面図、(c)は排水部材のみの拡大断面図、(d)は(a)のA−A断面図、図2は、図1に対応する斜視図である。
【0064】
本実施形態では、図1(a)に示すように、矢板本体として左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板2やJパイル(商品名)のウェブ2aとフランジ2bに囲まれた内側に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付けている。
【0065】
本実施形態で、排水部材4を構成する立体網状構造体はポリプロピレン等の線状体の接点を溶着したものであり、図1(c)に示すように、表面近傍に密な部分4a、その内側に粗な部分4bを形成し、さらにその内側に中空部4cを形成し、全体として略長方形断面の長尺筒状体に整形してある。
【0066】
このように整形された排水部材4を、図1(b)、(d)、図2に示すように、ハット形鋼矢板2の長手方向に沿わせている。この例では排水部材4の下端と上端を、それぞれ先端取付部材5と後端取付部材6でハット形鋼矢板2のウェブ2aに取り付けることでハット形鋼矢板2と一体化し、そのまま地盤中に打設できるようにしている。
【0067】
先端取付部材5の上部に図1のように排水部材保護プレート7を設けておくことで、矢板の地盤打設時、排水部材近傍の地盤密度を一時的に緩和させる効果により排水部材が損傷する懸念を小さくすることができる。
【0068】
排水部材4の取付け方は、先端を固定するとともに排水部材4の中間部を矢板本体に簡易的に拘束してもよい。
【0069】
表面近傍の密な部分4aは土砂の侵入を防止する機能を有する。好ましくは、密な部分4aの網状構造の隙間(網状体の繊維の太さを除いた間隔をいう。)が、平均10mm以内である。地盤条件に応じて、例えば0.5mm程度、あるいは1mm程度としてもよい。また、同じ隙間であっても、密な部分4aの厚さを厚くすれば、土粒子の侵入抑制効果は大きい。実用的には、0.2mm〜0.5mm程度以上の大きさの土粒子の侵入がかなり阻止できれば多くの場合十分であり、そのように表面近傍の密な部分4aの隙間及び厚さを設定すればよい。それ以下の粒径の砂やシルトの多少の侵入は排水機能の維持の面からはそれほど問題とならない場合が多いが、地盤条件や使用条件等によって、より細かい粒子の侵入を抑制されるように、密な部分4aの隙間及び厚さが選択されていてもよい。
【0070】
排水部材4の内側の粗な部分4bと中空部分4cは排水機能を持たせたものである。すなわち、排水部材4に流入した地中間隙水は、通水抵抗の小さい粗な部分4bおよび/または中空部分を通じて排水部材4の上端部から排水される。
【0071】
なお、先端取付部材5については、図1(d)に示すように下端にテーパーを付けることで地盤中への打設における抵抗を軽減させ、スムーズに打設できるようにしている。
【0072】
図3は、排水機能付き矢板の他の形態として、矢板本体としてU形鋼矢板3に適用した場合の斜視図である。排水部材4をU形鋼矢板3の長手方向に沿わせ、その下端と上端を、それぞれ先端取付部材5と後端取付部材6でU形鋼矢板3のウェブ3aに取り付けることでU形鋼矢板3と一体化し、そのまま地盤中に打設できるようにした基本構成は、図2のハット形鋼矢板2の場合と同様である。
【0073】
図4(a)〜(d)は本発明で用いる排水部材4のバリエーションを示す軸方向と直角な断面図である。
【0074】
図4(a)の例は、図1と同様、表面近傍に密な部分4a、その内側に粗な部分4bを形成し、さらにその内側に中空部4cを形成し、全体として略長方形断面の長尺筒状体に整形してある。
【0075】
また、この例では、中空部4cを形成するために芯材4dを入れているが、芯材4dはなくてもよい。芯材4dとしては中空の管体に孔を開けたものや金網を筒状に丸めたものなどを用いることができる。
【0076】
図4(b)の例は、図4(a)の例に対し中空部4cがない場合である。図4(c)の例は、図4(a)の例に対し、排水部材4を全体として円筒状断面の長尺筒状体に整形した場合である。また、図4(d)の例は、図4(c)の例に対し中空部4cがない場合である。
【0077】
その他、形状や密な部分と粗な部分の配置、忠実の芯材を用いる場合など種々のバリエーションが考えられる。
【0078】
図5(a)〜(d)は、それぞれ本発明の排水機能付き矢板を用いた矢板壁の例を示す水平断面図である。
【0079】
図5(a)は、図1と同様、排水部材4を、ハット形鋼矢板2のウェブ2aとフランジ2bに囲まれた内側に取り付け、左右非対称継手により同じ向きで接続することで、矢板壁1を構成したものである。
【0080】
地震時には、過剰間隙水圧が排水部材4を通じて逸散され、地盤の液状化が抑止される。
【0081】
図5(b)は、排水部材4を、U形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に取り付け、両端の継手により向きを交互にして接続することで、矢板壁1を構成したものである。
【0082】
なお、以上の例で排水部材4は、ハット形鋼矢板2のウェブ2aとフランジ2bに囲まれた内側に1条(図5(a)の場合)、またはU形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に1条(図5(b)の場合)ずつ取り付けているが、ウェブ2a、3aの反対側面に取り付けることもできる。また、一つの矢板本体に対し、排水部材4を複数条取り付けてもよい。
【0083】
図5(c)、(d)は、それぞれ図5(a)、(b)に対し、排水部材4をウェブ2a、3aの両側の面に取り付けたものに相当する。
【実施例2】
【0084】
図6は、本発明の排水機能付き矢板の他の実施形態として保護部材を設けた場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【0085】
この例では、保護部材として、溝型鋼21aのウェブ部分に多数の小孔22を設けた保護部材21を用い、この保護部材21をU形鋼矢板3の長手方向に沿わせて取り付けた排水部材4の表面を覆うように取り付けてある。
【0086】
溝型鋼21aからなる保護部材21は、例えばそのフランジ部の先端を、点溶接などでU形鋼矢板3のウェブ3aに取り付けることができる。
【0087】
小孔22は図のような円形の孔に限定されず、矩形状あるいはスリット状のものでもよい。この場合、排水部材4の排水機能を損なわないようにするためには、保護部材21前面における多数の小孔22の開口率を4%以上、より好ましくは10%以上とする。
【0088】
保護部材21以外の構成は、基本的には図3の実施形態と同じである。なお、排水部材4を留めつけるための先端取付部材5と保護部材21の下端とを点溶接などで簡易的に接合してもよい。
【0089】
なお、保護部材21を用いているため、図6には示していないが、排水部材4の表面を合成繊維製のフィルターで覆い、細かい土粒子の侵入を阻止するようにすれば、立体網状構造体からなる排水部材4の目詰まり防止をさらに確実にすることができる。
【0090】
また、この例では、排水部材4として、図4(b)のタイプを示しているが、図4(a)の中空部4cを有するタイプを用いてもよい。
【0091】
図7は、図6の実施形態の変形例として保護部材21が平板状のパンチングメタル21bの場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【0092】
保護部材21は主として打設時に排水部材4等の損傷を防止できる強度、剛性を有するものであればよく、図7は図6の孔あきの溝形鋼21aの代わりにパンチングメタル21bを用いたものである。この場合、排水部材4の側面が露出することになる。
【0093】
保護部材21としてのパンチングメタル21bの開口率の考え方は、図6の場合と同様であり、4%以上、より好ましくは10%以上とすればよい。
【0094】
図8は、図6の実施形態のさらに他の変形例として保護部材が溶接金網21cである場合を示した斜視図である。
【0095】
図8の実施形態も基本的な考え方は、図6、図7の実施形態と同様であるが、保護部材21がより安価で、取り付けも容易である。この場合、溶接金網21cの強度、剛性はそれほど問題とならないが、開口率が大きくなることで、排水部材4等の表面に損傷が生じないように留意する必要がある。
【0096】
また、この例では、排水部材4を取り付けるための先端取付部材5および後端取付部材6が、保護部材21としての溶接金網21cの固定具を兼ねている。
【実施例3】
【0097】
図9は、保護部材が矢板に対し着脱可能な場合の実施形態を示したものであり、(a)は排水機能付き矢板全体の斜視図、(b)は着脱部分の断面図、(c)は着脱部分の他の例の断面図である。
【0098】
本実施形態では、図9(a)に示すように、U形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付け、そのU形鋼矢板3の前面側に、着脱可能な保護部材21として、多数の小孔22(透水孔)を有する孔穿き板21dを設置している。
【0099】
保護部材21としての孔穿き板21dは、図9(b)に示すように、U形鋼矢板3のフランジ3bに設けた係止部材23の内側に挿入され、排水部材4と係止部材23に挟まれる形で納まり、そのままU形鋼矢板3、排水部材4とともに打設される。係止部材23は、U形鋼矢板3の長手方向に連続するものでもよいが、むしろ短いものを所定間隔で不連続に設ける方が施工は容易である。
【0100】
打設時は、この保護部材21としての孔穿き板21dにより、排水部材4が損傷しないように保護されるが、打設後は保護部材21のみ上方に引き抜くことにより、保護部材21が排水部材4への通水を阻害することがなくなる。
【0101】
なお、このように、打設後は保護部材21を取り除く前提においては、保護部材21に小孔22がなくてもよく、鋼板、その他必要な強度を有する孔なしのパネルを用いることもできる。
【0102】
図9(c)は、保護部材21としての孔穿き板21dが二重に設けた係止部材23間に納まるようにしたものであり、図9(b)のものに比べ、保護部材21を安定的に納めることができる。
【実施例4】
【0103】
図10は、他の実施形態として、開口部がない保護部材を用い、打設後、保護部材のみ引き抜く場合の着脱機構と引き抜き手順を示した斜視図である。
【0104】
U形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付け、そのU形鋼矢板3の前面側に、着脱可能な保護部材21を取り付ける構成は図9の場合と同様であり、本実施形態では保護部材21として開口部がない溝形鋼21eを用いている。
【0105】
U形鋼矢板3の打設に際しては、排水部材4を保護部材21で覆った状態で、保護部材としての溝形鋼21eの先端部、すなわち下端部を先端取付部材5に点溶接26等で簡易に接合しておく(図9(a)参照)。
【0106】
保護部材21としての開口部がない溝形鋼21eの上端には、把持片24が溶接25されており、打設後、この把持片24を、引抜き機のチャックで把持するか、または把持片に開孔しこの孔にワイヤー等を通し、保護部材21のみ引き上げる(図9(b)参照)。
【0107】
溝形鋼21eを完全に引き抜くことで、U形鋼矢板3と排水部材4のみが地中に残り、保護部材21が排水効率を阻害する恐れがない(図9(c)参照)。
【実施例5】
【0108】
図11は、排水部材の矢板壁に対する取付け面積割合に関する説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【0109】
前述したように、液状化は地表から20m以内程度の深さの間隙水が飽和状態の緩い砂質地盤等で生じる可能性が高いため、液状化対策のための排水部材も現地地盤に応じて液状化地層と判定される層に対して必要な範囲に取り付ければよい。
【0110】
また、取り付けのコストや施工の容易性、排水効率などを考慮した場合、排水効率は解析的には矢板壁の幅と排水部の矢板壁方向の幅(複数の排水部の幅の合計)に関連し、その範囲に限定してとらえるのが合理的である。
【0111】
図11はそのような観点から、矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積を基準に解析を行おうとしたものである。
【0112】
ここで求めようとする矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積(排水部材取り付け面積比率RA)は、図11を参照し、RA=(2×c×d)/(a×b)で求められる。
【0113】
このRAは、コストや施工の容易性、排水効率などを考慮した場合、10%以上であることが望ましく、さらに好ましくは、20%以上あれば、排水部の投影面積を100%とした場合と比較して遜色のない排水機能が発揮できることになる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の排水機能付き矢板は、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤における、アンダーパス、沈砂池、共同溝・洞道などの各種地中構造物や河川堤防、堰堤、鉄道盛土・鉄道擁壁、道路等の盛土状構造物の安定化などのため設けられる、液状化対策壁体、耐震補強壁体として、あるいは土留め壁、護岸、岸壁などとして利用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1…矢板壁、2…ハット形鋼矢板、2a…ウェブ、2b…フランジ、3…U形鋼矢板、3a…ウェブ、3b…フランジ、4…排水部材(立体網状構造体)、4a…密な部分、4b…粗な部分、4c…中空部、4d…芯材、4e…芯材、5…先端取付部材、6…後端取付部材、7…排水部材保護プレート、
21…保護部材、21a…孔あき溝形鋼、21b…パンチングメタル、21c…溶接金網、21d…孔穿き板、21e…溝形鋼、22…小孔、23…係止部材、24…把持片、25…溶接、26…点溶接
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤に施工される耐震補強用壁体、土留め壁、護岸等に用いられる排水機能付き矢板および矢板壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋立地その他、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤においては、液状化対策として、地盤中に排水機能を付与した排水部材(ドレーン材)を打設したり、あるいは矢板や杭等に排水部材を取り付けて打設し、地震時にこれらの排水部材を通じて過剰間隙水圧を逸散させることで液状化を抑制する技術が各種開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、透水用の多数の孔を開設したパイプの外周に土粒子の侵入を阻止するためのメッシュ状フィルターを被せた液状化防止用のドレーンパイプが開示されている。
【0004】
また、本願の出願人による特許文献2には、鋼管、樹脂パイプ、棒鋼その他の棒状体の外周に立体網状構造体を装着し、さらにその外周に土砂の侵入を防ぐためのフィルターを装着した液状化対策用の排水部材が開示されている。
【0005】
また、同じく本願の出願人による特許文献3には、矢板の所定区間に多数の開口部を有するリブ付き平板を取り付け、液状化対策用の排水空間を形成したものが開示されており、リブ付き平板の開口部には土砂の侵入を防ぐためのフィルターも取り付けている。
【0006】
この他、特許文献4にも矢板にドレーン部材を一体化し、ドレーン部材と矢板を同時に打設できるようにしたものが開示されている。
【0007】
また、本願の出願人による特許文献5には、ハット形鋼矢板のウェブ部に溝形鋼を取り付け、ハット形鋼矢板のウェブ部または溝形鋼にフィルター付きの多数の排水孔を設けたり、あるいはフランジ部間に多数のフィルター付きの排水孔を多数設けた有孔板を取り付けるなどして、液状化対策用の排水空間を形成させたものが開示されている。
【0008】
なお、上述した立体網状構造体としては、例えばポリプロピレン等の樹脂線状体の接点を溶着したもの等があり、非特許文献1に記載されているように土木用の排水部材として市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平06−011990号公報
【特許文献2】特許第2663603号公報
【特許文献3】特許第3031336号公報
【特許文献4】特開平10−168868号公報
【特許文献5】特開平09−242100号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】“ヘチマロン・土木用途”、[online]、新光ナイロン株式会社、[平成22年11月26日検索]、インターネット<URL:http://www.shinko-nylon.co.jp/doboku/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したような従来の液状化対策用の排水部材では、土砂の侵入による目詰まりを防止するためにメッシュの細かい合成樹脂あるいは合成繊維製の薄いフィルターを用いるのが一般的である。
【0012】
しかしながら、これらのフィルターは排水部材あるいは排水部材を一体化した矢板等の地盤への打設時や運搬時に損傷を受けやすいという問題がある。
【0013】
フィルターの外周にさらにフィルター保護部材を取り付ける場合もあるが、保護部材の取り付けなどの製作手間、施工手間や材料費が増え、また保護部材を地中に残す場合には、その分、透水性が損なわれるといった問題もある。
【0014】
また、排水部を構成する鋼材あるいは樹脂パイプに開口部を設け、開口部にフィルターを取り付ける形式では、フィルターの損傷はある程度抑えることができるが、製作費や材料費が嵩むといった問題がある。
【0015】
本発明は、このような課題の解決を図ったものであり、排水部材を一体化してなる矢板として、製作及び取扱いが容易で、施工性に優れ、土砂による目詰まりが生じにくい排水機能付き矢板および矢板壁を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願の請求項1に係る発明は、土中または水中に打設して壁体を構成する矢板本体に、該矢板本体の長手方向に延びる樹脂製立体網状構造体からなる排水部材を一体化してなる排水機能付き矢板において、前記排水部材の表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にしたことを特徴とするものである。
【0017】
矢板本体が鋼矢板の場合、その鋼矢板としては、U型鋼矢板、左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板、Z型鋼矢板、直線型鋼矢板、H形鋼とハット形鋼矢板(あるいは左右非対称鋼矢板)を組み合わせた鋼材、鋼矢板同士の組合せ鋼矢板、鋼管矢板、H形鋼矢板等をあげることができる。矢板本体はコンクリートであってもよい。本発明の排水機能付き矢板は、いずれの場合でも、容易に排水部材を取り付けて製作することができる。
【0018】
また、これらの矢板は、土中あるいは水中への打設の際、両側の継手の嵌合等により容易に接続していくことができ、本発明の場合、一体化した排水部材を従来工法により同時に打設することができる。
【0019】
樹脂製立体網状構造体からなる排水部材は、代表的にはポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル等の樹脂線状体の接点を溶着したものであり、線状体の太さや密度を変えることで隙間あるいは内部空間の大きさを調整することができる。
【0020】
本発明ではこの排水部材としての樹脂製立体網状構造体について、表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にすることで、上方への排水性能は主として網状構造が粗となる内側で発揮され、網状構造が密となる表面側は土砂の侵入を阻止するフィルター機能を発揮するため、従来、損傷が問題となっていた合成繊維等からなるフィルターを省略することもできる。
【0021】
また、樹脂製立体網状構造体は、一般的なフィルターに比べ摩耗にも強いので損傷しにくく、仮に部分的に損傷したとしても隙間が立体状に形成されているため性能に与える影響がほとんどなく、かつ耐圧性を有しそれ自体で整形された形状をある程度保つことができる。
【0022】
したがって、排水部材の保護部材を設けなくても、地盤中に直接打ち込み設置することが可能である。ただし、フィルターや保護部材を併用することは妨げない。
【0023】
表面近傍の網状構造と内側の網状構造の密度は、密と粗の2段階に変化させる場合に限らず、多段階に変化させてもよく、また連続的に変化させてもよい。
【0024】
なお、液状化は地表から20m以内程度の深さの間隙水が飽和状態の比較的緩い砂質地盤等で生じる可能性が高いため、液状化対策のための排水部材も現地地盤に応じて液状化地層と判定される層に対して必要な範囲に取り付ければよい。
【0025】
地震時には、従来の液状化対策工と同様、排水部材を通じて、過剰間隙水圧が逸散され、地盤の液状化が抑止される。
【0026】
請求項2は、請求項1に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の内部が中空であることを特徴とするものである。
【0027】
排水部材の内部を中空とすれば、中空部では排水に対する抵抗がほとんどないので、排水性能を向上させることができる。ただし、整形や耐圧性の面では中空部がない方が有利となる場合もある。
【0028】
請求項3は、請求項1または2に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の少なくとも一部が矢板本体に接合されていることを特徴とするものである。
【0029】
本願発明において、排水部材と樹脂製立体網状構造体の一体化は、排水部材を矢板本体に装着した状態で同時に土中または水中に打設できる状態であればよく、例えば排水部材の上下を矢板本体に留め付けたり、あるいは治具や鋼線などで簡易に固定したもの、排水部材の下部のみ矢板本体と接合したもの、排水部材の下部と排水部材の途中位置などを適当に留め付けたものなどでもよい。また、排水部材は矢板本体から全体的に少し離れていても排水部材のどこかが矢板本体に留められてあればよい。
【0030】
請求項4は、請求項1、2または3に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の表面近傍の網状構造の隙間の面積比率が4%以上であることを特徴とするものである。
【0031】
排水部材の表面近傍の網状構造の隙間の面積比率が4%程度以上あれば、排水性能を大きく損なうことはないと考えられる。
【0032】
請求項5は、請求項1〜4に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材が矢板本体の片面または両面に、1条または複数条取り付けられていることを特徴とするものである。
【0033】
排水部材は矢板の幅や断面形状等に応じて、1つの矢板本体の幅方向に複数条取り付けてもよく、また壁体の両側で液状化対策が必要な場合あるいは壁体への取付け面積を増やす場合には、矢板本体の両面に取り付けることもできる。
【0034】
請求項6は、請求項1〜5に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材の外表面および/または前記排水部材の内部が中空である場合には中空側内表面がフィルターで覆われていることを特徴とするものである。
【0035】
本願発明では、樹脂製立体網状構造体の網状構造が密となる表面側が土砂の侵入を阻止するフィルター機能を発揮するため、従来、損傷が問題となっていた合成繊維等からなるフィルターを省略することができるというものであるが、フィルターの損傷が少ない条件においては、合成繊維等からなるフィルターを併用することで、さらに細かい土粒子の侵入を阻止し、立体網状構造体の目詰まり防止などをさらに確実にすることができる。
【0036】
その場合のフィルターとしては、合成繊維製のものや合成樹脂製のものが好ましく、例えばナイロン製、ポリエチレンモノフィラメント製などの経編布や、ポリプロピレン製、ポリエステル繊維製などの不織布などを用いることができる。また、合成繊維どうし、合成樹脂どうし、あるいは合成樹脂と合成樹脂を組み合わせたり、重ね合せたりして、フィルターとしてもよい。
【0037】
フィルターとしての経織布や不織布などのメッシュ間隔または間隙は、液状化防止などの対象とする地盤(一般には砂地盤)の土の粒径分布を勘案して、土砂によるフィルターの目詰まりを起こさないように設定する。
【0038】
フィルターの立体網状構造体表面への取付け方法としては、フィルターを立体網状構造体の外周に巻付け、フィルターの端部を留め金具で留めるなどして行うことができる。また、巻付けたフィルターの外周を針金、ロープなどでしばり付けて留めてもよいし、留めバンドなどで留めてもよい。
フィルターの他の取付け方法としては、立体網状構造に中空部を設ける場合には、中空部の外側表面近くにフィルターを設置してもよい。
【0039】
請求項7は、請求項1〜6に係る排水機能付き矢板において、前記排水部材が保護部材で保護されていることを特徴とするものである。
【0040】
保護部材は、樹脂製立体網状構造体や、その表面が合成繊維等からなるフィルターで覆われている場合には、そのフィルターの損傷を防止する目的や、樹脂製立体網状構造体を一体化した矢板の打設をスムーズにする目的で使用される。
【0041】
例えば、尖った石等が混じった固い地盤に打設する場合等においても、保護部材を併用することで、排水部材付き矢板をより安全に地盤に打設することができる。すなわち、従来フィルターで覆った排水部材を多数の小孔を有する保護部材で保護した場合に、フィルター損傷なしに打設することが困難であったが、保護部材を併用した排水機能付き矢板では、フィルター機能をほとんど低下させることなく厳しい地盤にでも打設できる。
【0042】
加えて、ウォータージェットや地盤の先行撹拌など補助工法を用いれば、本発明の排水部材付き矢板を一段と安全に打設することができる。
【0043】
この保護部材としては、鋼、ステンレスなどの金属製、ポリエチレン、強化プラスチックなどの合成樹脂製のものなどを用いることができる。
【0044】
保護部材を排水部材付き矢板の打設後もそのまま土中などに残す場合には、多数の小孔を設けるなどして通水性を有するものを用いる必要があるが、排水部材付き矢板の打設後に引き抜く場合には、孔のない保護部材を用いることもできる。
【0045】
また、保護部材は、筒状体を用いて、排水部材の外周部を全面的に保護する構造でもよい。
【0046】
請求項8は、請求項7に係る排水機能付き矢板において、前記保護部材が、開口率が4%以上ある保護部材であることを特徴とするものである。
【0047】
請求項8は請求項4と同様、液状化対策としての排水性能の面から規定したものであり、保護部材の開口率が4%程度以上あれば、排水性能を大きく損なうことはないと考えられる。
【0048】
排水性能の面からは、より好ましくは保護部材の開口率を8%以上とすれば排水材による排水機能が大きくは損なわれず、液状化対策の機能を効果的に発揮させることができる。
【0049】
ただし、保護部材の開口率が20%、あるいはそれ以上になると、排水性能の面では好ましいものの、保護部材としての強度・剛性を確保するためにはコストが上昇し、また開口率が大きくなることで排水部材あるいはフィルターの保護の面では不利となる。
【0050】
請求項9は、請求項7または8に係る排水機能付き矢板において、前記保護部材は矢板本体または前記排水部材に対し着脱自在であることを特徴とするものである。
【0051】
保護部材を矢板本体または排水部材に対し着脱自在とすることで、排水部材付き矢板の打設後、保護部材を引き抜き、転用することができる。
【0052】
また、保護部材を打設後もそのまま土中などに残す場合には、多数の小孔を設けるなどして通水性を有するものを用いる必要があるが、排水部材付き矢板の打設後に引き抜く場合には、孔のない保護部材を用いることができるため、打設時における樹脂製立体網状構造体やフィルターの損傷をより確実に防止することができる。
【0053】
請求項10に係る排水機能付き矢板壁は、請求項1〜9に係る排水機能付き矢板どうしを多数連結してなる矢板壁であって、前記矢板壁の投影面積に対して、片側に取り付けられた排水部材の排水部の投影面積が8%以上であることを特徴とするものである。
【0054】
矢板に設けられる排水部は、矢板壁方向の幅が大きいほど排水機能・集水機能が増すことは自明であるが、施工性や剛性の面から選択されることが多い、U型鋼矢板やハット型鋼矢板などを考えた場合、矢板の形状から排水部材を設けることができる位置や幅が限定されることになる。
【0055】
また、取り付けのコストや施工の容易性、排水効率などを考慮した場合、解析的には矢板壁の幅と排水部の矢板壁方向の幅(複数の排水部の幅の合計)に関連し、矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積は、一般的な地盤では8%以上であることが望ましい。
【0056】
さらに、地盤の性質にもよるが、矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積が10%以上あれば、排水部の投影面積を100%とした場合と比較して大きくは低下することのない排水機能が発揮できると考えられる。
【発明の効果】
【0057】
本発明では、矢板に一体化される排水部材としての樹脂製立体網状構造体の表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にしたことで、網状構造が密となる表面近傍が土砂の侵入を阻止するフィルター機能を発揮し、従来、損傷が問題となっていた合成繊維等からなるフィルターを省略することができる。
【0058】
また、樹脂製立体網状構造体は、一般的なフィルターに比べ損傷しにくく、仮に部分的に損傷したとしても隙間が立体状に形成されているため性能に与える影響がほとんどなく、かつ耐圧性を有しそれ自体で整形された形状をある程度保つことができる。
【0059】
したがって、排水部材の保護部材を設けなくても、地盤中に直接打ち込み設置することも可能である。使用環境や条件によっては、フィルターや保護部材を適用しても構わない。
【0060】
排水部材が壁体を構成する矢板本体に取り付けられていることで、壁体位置での液状化抑止効果が確実となり、また排水部材が矢板に一体化されているため、運搬や地盤への打設作業において効率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の排水機能付き矢板の一実施形態を示したもので、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は正面図、(c)は排水部材のみの拡大断面図、(d)は(a)のA−A断面図である。
【図2】図1に対応する斜視図である。
【図3】本発明の排水機能付き矢板の他の実施形態としてU形鋼矢板に適用した場合の斜視図である。
【図4】(a)〜(d)は本発明で用いる排水部材のバリエーションを示す断面図である。
【図5】(a)〜(d)はそれぞれ本発明の排水機能付き矢板を用いた矢板壁の例を示す水平断面図である。
【図6】本発明の排水機能付き矢板の他の実施形態として保護部材を設けた場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【図7】図6の実施形態の変形例として保護部材が平板状のパンチングメタルの場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【図8】図6の実施形態のさらに他の変形例として保護部材が溶接金網である場合を示した斜視図である。
【図9】保護部材が矢板に対し着脱可能な場合の実施形態を示したものであり、(a)は排水機能付き矢板全体の斜視図、(b)は着脱部分の断面図、(c)は着脱部分の他の例の断面図である。
【図10】他の実施形態として、開口部がない保護部材を用い、打設後、保護部材のみ引き抜く場合の着脱機構と引き抜き手順を示した斜視図である。
【図11】排水部材の矢板壁に対する取付け面積割合に関する説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、本発明の具体的な実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
図1は、本発明の排水機能付き矢板の一実施形態を示したもので、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は正面図、(c)は排水部材のみの拡大断面図、(d)は(a)のA−A断面図、図2は、図1に対応する斜視図である。
【0064】
本実施形態では、図1(a)に示すように、矢板本体として左右非対称継手により同じ向きで接続可能なハット形鋼矢板2やJパイル(商品名)のウェブ2aとフランジ2bに囲まれた内側に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付けている。
【0065】
本実施形態で、排水部材4を構成する立体網状構造体はポリプロピレン等の線状体の接点を溶着したものであり、図1(c)に示すように、表面近傍に密な部分4a、その内側に粗な部分4bを形成し、さらにその内側に中空部4cを形成し、全体として略長方形断面の長尺筒状体に整形してある。
【0066】
このように整形された排水部材4を、図1(b)、(d)、図2に示すように、ハット形鋼矢板2の長手方向に沿わせている。この例では排水部材4の下端と上端を、それぞれ先端取付部材5と後端取付部材6でハット形鋼矢板2のウェブ2aに取り付けることでハット形鋼矢板2と一体化し、そのまま地盤中に打設できるようにしている。
【0067】
先端取付部材5の上部に図1のように排水部材保護プレート7を設けておくことで、矢板の地盤打設時、排水部材近傍の地盤密度を一時的に緩和させる効果により排水部材が損傷する懸念を小さくすることができる。
【0068】
排水部材4の取付け方は、先端を固定するとともに排水部材4の中間部を矢板本体に簡易的に拘束してもよい。
【0069】
表面近傍の密な部分4aは土砂の侵入を防止する機能を有する。好ましくは、密な部分4aの網状構造の隙間(網状体の繊維の太さを除いた間隔をいう。)が、平均10mm以内である。地盤条件に応じて、例えば0.5mm程度、あるいは1mm程度としてもよい。また、同じ隙間であっても、密な部分4aの厚さを厚くすれば、土粒子の侵入抑制効果は大きい。実用的には、0.2mm〜0.5mm程度以上の大きさの土粒子の侵入がかなり阻止できれば多くの場合十分であり、そのように表面近傍の密な部分4aの隙間及び厚さを設定すればよい。それ以下の粒径の砂やシルトの多少の侵入は排水機能の維持の面からはそれほど問題とならない場合が多いが、地盤条件や使用条件等によって、より細かい粒子の侵入を抑制されるように、密な部分4aの隙間及び厚さが選択されていてもよい。
【0070】
排水部材4の内側の粗な部分4bと中空部分4cは排水機能を持たせたものである。すなわち、排水部材4に流入した地中間隙水は、通水抵抗の小さい粗な部分4bおよび/または中空部分を通じて排水部材4の上端部から排水される。
【0071】
なお、先端取付部材5については、図1(d)に示すように下端にテーパーを付けることで地盤中への打設における抵抗を軽減させ、スムーズに打設できるようにしている。
【0072】
図3は、排水機能付き矢板の他の形態として、矢板本体としてU形鋼矢板3に適用した場合の斜視図である。排水部材4をU形鋼矢板3の長手方向に沿わせ、その下端と上端を、それぞれ先端取付部材5と後端取付部材6でU形鋼矢板3のウェブ3aに取り付けることでU形鋼矢板3と一体化し、そのまま地盤中に打設できるようにした基本構成は、図2のハット形鋼矢板2の場合と同様である。
【0073】
図4(a)〜(d)は本発明で用いる排水部材4のバリエーションを示す軸方向と直角な断面図である。
【0074】
図4(a)の例は、図1と同様、表面近傍に密な部分4a、その内側に粗な部分4bを形成し、さらにその内側に中空部4cを形成し、全体として略長方形断面の長尺筒状体に整形してある。
【0075】
また、この例では、中空部4cを形成するために芯材4dを入れているが、芯材4dはなくてもよい。芯材4dとしては中空の管体に孔を開けたものや金網を筒状に丸めたものなどを用いることができる。
【0076】
図4(b)の例は、図4(a)の例に対し中空部4cがない場合である。図4(c)の例は、図4(a)の例に対し、排水部材4を全体として円筒状断面の長尺筒状体に整形した場合である。また、図4(d)の例は、図4(c)の例に対し中空部4cがない場合である。
【0077】
その他、形状や密な部分と粗な部分の配置、忠実の芯材を用いる場合など種々のバリエーションが考えられる。
【0078】
図5(a)〜(d)は、それぞれ本発明の排水機能付き矢板を用いた矢板壁の例を示す水平断面図である。
【0079】
図5(a)は、図1と同様、排水部材4を、ハット形鋼矢板2のウェブ2aとフランジ2bに囲まれた内側に取り付け、左右非対称継手により同じ向きで接続することで、矢板壁1を構成したものである。
【0080】
地震時には、過剰間隙水圧が排水部材4を通じて逸散され、地盤の液状化が抑止される。
【0081】
図5(b)は、排水部材4を、U形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に取り付け、両端の継手により向きを交互にして接続することで、矢板壁1を構成したものである。
【0082】
なお、以上の例で排水部材4は、ハット形鋼矢板2のウェブ2aとフランジ2bに囲まれた内側に1条(図5(a)の場合)、またはU形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に1条(図5(b)の場合)ずつ取り付けているが、ウェブ2a、3aの反対側面に取り付けることもできる。また、一つの矢板本体に対し、排水部材4を複数条取り付けてもよい。
【0083】
図5(c)、(d)は、それぞれ図5(a)、(b)に対し、排水部材4をウェブ2a、3aの両側の面に取り付けたものに相当する。
【実施例2】
【0084】
図6は、本発明の排水機能付き矢板の他の実施形態として保護部材を設けた場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【0085】
この例では、保護部材として、溝型鋼21aのウェブ部分に多数の小孔22を設けた保護部材21を用い、この保護部材21をU形鋼矢板3の長手方向に沿わせて取り付けた排水部材4の表面を覆うように取り付けてある。
【0086】
溝型鋼21aからなる保護部材21は、例えばそのフランジ部の先端を、点溶接などでU形鋼矢板3のウェブ3aに取り付けることができる。
【0087】
小孔22は図のような円形の孔に限定されず、矩形状あるいはスリット状のものでもよい。この場合、排水部材4の排水機能を損なわないようにするためには、保護部材21前面における多数の小孔22の開口率を4%以上、より好ましくは10%以上とする。
【0088】
保護部材21以外の構成は、基本的には図3の実施形態と同じである。なお、排水部材4を留めつけるための先端取付部材5と保護部材21の下端とを点溶接などで簡易的に接合してもよい。
【0089】
なお、保護部材21を用いているため、図6には示していないが、排水部材4の表面を合成繊維製のフィルターで覆い、細かい土粒子の侵入を阻止するようにすれば、立体網状構造体からなる排水部材4の目詰まり防止をさらに確実にすることができる。
【0090】
また、この例では、排水部材4として、図4(b)のタイプを示しているが、図4(a)の中空部4cを有するタイプを用いてもよい。
【0091】
図7は、図6の実施形態の変形例として保護部材21が平板状のパンチングメタル21bの場合を示したものであり、(a)は部材軸方向と直角な断面図、(b)は斜視図である。
【0092】
保護部材21は主として打設時に排水部材4等の損傷を防止できる強度、剛性を有するものであればよく、図7は図6の孔あきの溝形鋼21aの代わりにパンチングメタル21bを用いたものである。この場合、排水部材4の側面が露出することになる。
【0093】
保護部材21としてのパンチングメタル21bの開口率の考え方は、図6の場合と同様であり、4%以上、より好ましくは10%以上とすればよい。
【0094】
図8は、図6の実施形態のさらに他の変形例として保護部材が溶接金網21cである場合を示した斜視図である。
【0095】
図8の実施形態も基本的な考え方は、図6、図7の実施形態と同様であるが、保護部材21がより安価で、取り付けも容易である。この場合、溶接金網21cの強度、剛性はそれほど問題とならないが、開口率が大きくなることで、排水部材4等の表面に損傷が生じないように留意する必要がある。
【0096】
また、この例では、排水部材4を取り付けるための先端取付部材5および後端取付部材6が、保護部材21としての溶接金網21cの固定具を兼ねている。
【実施例3】
【0097】
図9は、保護部材が矢板に対し着脱可能な場合の実施形態を示したものであり、(a)は排水機能付き矢板全体の斜視図、(b)は着脱部分の断面図、(c)は着脱部分の他の例の断面図である。
【0098】
本実施形態では、図9(a)に示すように、U形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付け、そのU形鋼矢板3の前面側に、着脱可能な保護部材21として、多数の小孔22(透水孔)を有する孔穿き板21dを設置している。
【0099】
保護部材21としての孔穿き板21dは、図9(b)に示すように、U形鋼矢板3のフランジ3bに設けた係止部材23の内側に挿入され、排水部材4と係止部材23に挟まれる形で納まり、そのままU形鋼矢板3、排水部材4とともに打設される。係止部材23は、U形鋼矢板3の長手方向に連続するものでもよいが、むしろ短いものを所定間隔で不連続に設ける方が施工は容易である。
【0100】
打設時は、この保護部材21としての孔穿き板21dにより、排水部材4が損傷しないように保護されるが、打設後は保護部材21のみ上方に引き抜くことにより、保護部材21が排水部材4への通水を阻害することがなくなる。
【0101】
なお、このように、打設後は保護部材21を取り除く前提においては、保護部材21に小孔22がなくてもよく、鋼板、その他必要な強度を有する孔なしのパネルを用いることもできる。
【0102】
図9(c)は、保護部材21としての孔穿き板21dが二重に設けた係止部材23間に納まるようにしたものであり、図9(b)のものに比べ、保護部材21を安定的に納めることができる。
【実施例4】
【0103】
図10は、他の実施形態として、開口部がない保護部材を用い、打設後、保護部材のみ引き抜く場合の着脱機構と引き抜き手順を示した斜視図である。
【0104】
U形鋼矢板3のウェブ3aとフランジ3bに囲まれた内側に、立体網状構造体からなる排水部材4を取り付け、そのU形鋼矢板3の前面側に、着脱可能な保護部材21を取り付ける構成は図9の場合と同様であり、本実施形態では保護部材21として開口部がない溝形鋼21eを用いている。
【0105】
U形鋼矢板3の打設に際しては、排水部材4を保護部材21で覆った状態で、保護部材としての溝形鋼21eの先端部、すなわち下端部を先端取付部材5に点溶接26等で簡易に接合しておく(図9(a)参照)。
【0106】
保護部材21としての開口部がない溝形鋼21eの上端には、把持片24が溶接25されており、打設後、この把持片24を、引抜き機のチャックで把持するか、または把持片に開孔しこの孔にワイヤー等を通し、保護部材21のみ引き上げる(図9(b)参照)。
【0107】
溝形鋼21eを完全に引き抜くことで、U形鋼矢板3と排水部材4のみが地中に残り、保護部材21が排水効率を阻害する恐れがない(図9(c)参照)。
【実施例5】
【0108】
図11は、排水部材の矢板壁に対する取付け面積割合に関する説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【0109】
前述したように、液状化は地表から20m以内程度の深さの間隙水が飽和状態の緩い砂質地盤等で生じる可能性が高いため、液状化対策のための排水部材も現地地盤に応じて液状化地層と判定される層に対して必要な範囲に取り付ければよい。
【0110】
また、取り付けのコストや施工の容易性、排水効率などを考慮した場合、排水効率は解析的には矢板壁の幅と排水部の矢板壁方向の幅(複数の排水部の幅の合計)に関連し、その範囲に限定してとらえるのが合理的である。
【0111】
図11はそのような観点から、矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積を基準に解析を行おうとしたものである。
【0112】
ここで求めようとする矢板壁の投影面積に対する排水部材の排水部の投影面積(排水部材取り付け面積比率RA)は、図11を参照し、RA=(2×c×d)/(a×b)で求められる。
【0113】
このRAは、コストや施工の容易性、排水効率などを考慮した場合、10%以上であることが望ましく、さらに好ましくは、20%以上あれば、排水部の投影面積を100%とした場合と比較して遜色のない排水機能が発揮できることになる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の排水機能付き矢板は、地震時に液状化が発生する恐れのある地盤における、アンダーパス、沈砂池、共同溝・洞道などの各種地中構造物や河川堤防、堰堤、鉄道盛土・鉄道擁壁、道路等の盛土状構造物の安定化などのため設けられる、液状化対策壁体、耐震補強壁体として、あるいは土留め壁、護岸、岸壁などとして利用することができる。
【符号の説明】
【0115】
1…矢板壁、2…ハット形鋼矢板、2a…ウェブ、2b…フランジ、3…U形鋼矢板、3a…ウェブ、3b…フランジ、4…排水部材(立体網状構造体)、4a…密な部分、4b…粗な部分、4c…中空部、4d…芯材、4e…芯材、5…先端取付部材、6…後端取付部材、7…排水部材保護プレート、
21…保護部材、21a…孔あき溝形鋼、21b…パンチングメタル、21c…溶接金網、21d…孔穿き板、21e…溝形鋼、22…小孔、23…係止部材、24…把持片、25…溶接、26…点溶接
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土中または水中に打設して壁体を構成する矢板本体に、該矢板本体の長手方向に延びる樹脂製立体網状構造体からなる排水部材を一体化してなる排水機能付き矢板において、前記排水部材の表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にしたことを特徴とする排水機能付き矢板。
【請求項2】
前記排水部材の内部が中空であることを特徴とする請求項1記載の排水機能付き矢板。
【請求項3】
前記排水部材の少なくとも一部が矢板本体に接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の排水機能付き矢板。
【請求項4】
前記排水部材の表面近傍の網状構造の隙間の面積比率が4%以上であることを特徴とする請求項1、2または3記載の排水機能付き矢板。
【請求項5】
前記排水部材は矢板本体の片面または両面に、1条または複数条取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板。
【請求項6】
前記排水部材の外表面および/または前記排水部材の内部が中空である場合には中空側内表面がフィルターで覆われていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板。
【請求項7】
前記排水部材が保護部材で保護されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板。
【請求項8】
前記保護部材が、開口率が4%以上ある保護部材であることを特徴とする請求項7記載の排水機能付き矢板。
【請求項9】
前記保護部材は矢板本体または前記排水部材に対し着脱自在であることを特徴とする請求項7または8記載の排水機能付き矢板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板どうしを多数連結してなる矢板壁であって、前記矢板壁の投影面積に対して、片側に取り付けられた排水部材の排水部の投影面積が8%以上であることを特徴とする排水機能付き矢板壁。
【請求項1】
土中または水中に打設して壁体を構成する矢板本体に、該矢板本体の長手方向に延びる樹脂製立体網状構造体からなる排水部材を一体化してなる排水機能付き矢板において、前記排水部材の表面近傍の網状構造を内側の網状構造より密にしたことを特徴とする排水機能付き矢板。
【請求項2】
前記排水部材の内部が中空であることを特徴とする請求項1記載の排水機能付き矢板。
【請求項3】
前記排水部材の少なくとも一部が矢板本体に接合されていることを特徴とする請求項1または2記載の排水機能付き矢板。
【請求項4】
前記排水部材の表面近傍の網状構造の隙間の面積比率が4%以上であることを特徴とする請求項1、2または3記載の排水機能付き矢板。
【請求項5】
前記排水部材は矢板本体の片面または両面に、1条または複数条取り付けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板。
【請求項6】
前記排水部材の外表面および/または前記排水部材の内部が中空である場合には中空側内表面がフィルターで覆われていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板。
【請求項7】
前記排水部材が保護部材で保護されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板。
【請求項8】
前記保護部材が、開口率が4%以上ある保護部材であることを特徴とする請求項7記載の排水機能付き矢板。
【請求項9】
前記保護部材は矢板本体または前記排水部材に対し着脱自在であることを特徴とする請求項7または8記載の排水機能付き矢板。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の排水機能付き矢板どうしを多数連結してなる矢板壁であって、前記矢板壁の投影面積に対して、片側に取り付けられた排水部材の排水部の投影面積が8%以上であることを特徴とする排水機能付き矢板壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−140813(P2012−140813A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−363(P2011−363)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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