説明

排水用通気弁

【課題】排水管が鉛直方向又は水平方向に配置されているかによって、別途、継ぎ手を用意する必要がなく、弁機能を維持することができる排水用通気弁を提供。
【解決手段】排水用通気弁10は、本管部1の両端に排水管が接続される接続口2を有し、本管部1から分岐して設けられる分岐管3を備えている。そして、該分岐管3の先端には弁体4が備えられ、前記本管部1の軸方向に対して45度の角度を成してスライド可能となっている。そのため、本管部1が鉛直方向又は水平方向に設置された場合であっても、別途継ぎ手を必要とすることがなく、弁機能を維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、住宅等の建物に設けられた台所の流し台、浴槽、トイレ等の排水管に取り付けられ、排水管内が負圧時に外気を吸入するために用いられる排水用通気弁に関する。
【背景技術】
【0002】
前記排水管は、S字やU字に湾曲したトラップ部を有しており、当該トラップ部に排水が溜まるようになっている。これは、残留排水がトラップ部内部を塞ぐことより、排水管下流から漂う悪臭が、室内へ充満しないようするものである。また、排水管下流側から這い上がってくる害虫の侵入も防ぐものである。
【0003】
しかし、排水管下流の状態により排水管内の気圧が下がり負圧となると、トラップ部の残留排水は、吸引され下流へと流されてしまうことがある。そこで、排水管のトラップ部より下流に通気弁を設けることで、配水管内が負圧になった際に、外気を吸引し、残留排水が流されてしまうのを防ぐ必要がある。また、排水管は設置のし易さや排水効率等を考慮し、鉛直方向(重力方向と同一)又は水平方向に設置されているものが殆どである。
【0004】
また、前記排水管に取り付ける通気弁には、様々な種類のものがあり、例えば特許文献1の排水用通気装置70が知られている。
【0005】
図4の(a)は、特許文献1の排水用通気装置70が鉛直方向に設置された排水管P1に取付けられた斜視図である。排水用通気装置70は、排水管P1にロックナットBで締付固定された継ぎ手E1に取り付けられている。また、排水用通気装置70は、排水管P1と平行になるように取り付けられている。
【0006】
図4の(b)は、図4の(a)の排水用通気装置70の断面図を示している。排水用通気装置70は、排水用通気装置70の嵌合部71が、継ぎ手E1側の突出開口E1aに差込まれて固定されており、容易に取り付けが可能となっている。通気口45を塞ぐ通気弁50の弁体44は、弁軸受け48にスライド可能に挿入された弁軸44aに固定されている。また、排水管P1からの排水の逆流を防ぐために、逆止弁60が設けられているが、ばねSによる付勢力を用いていること以外は、通気弁50と同じ構造である。
【0007】
排水管P1内が負圧になると、逆止弁60の弁体54が吸引され、ばねSの付勢力に逆らって弁体54が下方にスライドする。次に、弁室56を介して通気弁50の弁体44が吸引され、弁体44の重量に逆らって上方にスライドし、外気は通気口45から吸入されて排水管P1まで至る。そして、排水管P1内が負圧でなくなると、通気弁50の弁体44は、弁体44の重量により再び下方にスライドして通気口45を塞ぐ。また、逆止弁60の弁体54は、ばねSの付勢力で再び上方にスライドする。
【0008】
上記の通気弁50及び逆止弁60の開閉動作は、弁体(44、54)の重量により調節されているため、重量方向が変わると、弁体が確実に通気口を塞ぐことができない場合や、負圧時に弁体がスライドしない場合があり、所望の弁機能を維持することができない。
【0009】
そこで、図4の(c)のように排水管P2が水平方向に設置されている場合には、排水用通気装置70が排水管P2に対して直角になるように継ぎ手E2を用いて設置されることになる。これにより、排水用通気装置70が図4の(a)と同様に鉛直方向に設置されることとなる。そのため、弁体の重量方向は変わらないので、開閉特性が変わることなく弁機能は維持される。
【0010】
このように、鉛直方向又は水平方向に設置された排水管に対して、排水用通気装置70を取り付けるためには、別途2つの継ぎ手(E1、E2)を用意しなければならない。これは、排水用通気装置70を取付ける際に、排水管の設置方向に応じて異なる継ぎ手を容易しなければならず、面倒で且つコストがかかるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特願2002−154191号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本願発明は上記問題に鑑み、排水管が鉛直方向又は水平方向に配置されているかによって、別途、継ぎ手を必要とせず、弁機能を維持することが可能な排水用通気弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明の排水用通気弁は、両端に排水管が接続される接続口を有する本管部と、本管部から分岐して設けられる分岐管とを備え、前記分岐管の先端には、排水管内が負圧になることにより通気口を開放する弁体を備えてなり、前記弁体は、前記本管部の軸方向に対して45度の角度で移動して通気口を開閉可能に設けられてなることを特徴としている。
【0014】
上記特徴によれば、弁体は、本管部の軸方向に対して45度の角度で設けられているため、本管部を鉛直方向の排水管に接続しても、平行方向の排水管に接続しても、前記弁体と排水管とがなす角度は45度となる。そして、前記弁体は通気口を開閉することができるので、従来のように、排水管の配置によって、別途異なる継ぎ手を必要としない。
【0015】
次に、本願発明の排水用通気弁は、前記弁体が通気口を閉止するように付勢されてなることを特徴としている。
【0016】
上記特徴によれば、弁体が通気口を閉止するように付勢されていても、弁体は本管部の軸方向に対して45度の角度で移動して通気口を開閉可能に設けられているので、通気弁の機能を失うことはない。
【0017】
次に、本願発明の排水用通気弁は、前記弁体が、磁石の反発又は吸引により付勢されてなることを特徴としている。
【0018】
上記特徴によれば、磁石の反発又は吸引による非接触な付勢手段を用いることで、通気口の開閉動作がより円滑に行われる。
【発明の効果】
【0019】
上記に記したように、本願発明の排水用通気弁によれば、排水管が鉛直方向又は水平方向に配置されているかによって、別途継ぎ手を用意する必要がなく、弁機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本願発明の排水用通気弁の一例を示すもので、(a)は本管部の軸方向が鉛直方向である断面図、(b)は本管部の軸方向が水平方向である断面図である。
【図2】本願発明の排水用通気弁の他例であり、(a)は磁力により弁体を付勢している場合、(b)は、分岐管が湾曲している場合を示した断面図である。
【図3】本願発明の排水用通気弁を、排水管に設置している使用態様を示すものである。
【図4】本願発明の背景技術の一例として排水用通気装置を示すもので、(a)は鉛直方向の排水管に設置された排水用通気装置の斜視図、(b)は排水用通気装置の断面図、(c)は水平方向の排水管に設置された排水用通気装置の斜視図である。
【符号の説明】
【0021】
1 本管部
2 接続口
3 分岐管
4 弁体
5 通気口
6 上蓋
7 防虫ネット
8 弁軸受け
9 弁体ガイド
10 排水用通気弁
S ばね
P1 鉛直方向の排水管
P2 水平方向の排水管
B ロックナット
E1、E2 継ぎ手

【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本願発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0023】
図1の(a)に示すように、排水用通気弁10は、上流排水管の接続口2aと下流排水管の接続口2bを両端に備えた本管部1を有し、該本管部1から分岐する分岐管3及び通気口5は上流側に向いている。このように、分岐管3及び通気口5が上流側に向くように配置されているため、排水が逆流して通気口5から外部に流出することを防ぐことができる。
【0024】
そして、該分岐管3の先端に取り付けられた通気弁先端部10aには弁体4が備えられ、前記本管部1の軸方向に対して45度の角度でスライドできるようになっている。通気口5上方には、上蓋6が設けられ、該上蓋6と通気口5との間には防虫ネット7が張られている。これら上蓋6と防虫ネット7により通気口5からの害虫の侵入を防いでいる。
【0025】
弁体4は、弁軸4aと突起4bと弁板4cとを備えており、弁板4cの中心から垂直に弁軸4aが設けられている。前記弁軸4aは、弁軸受け8によりスライド可能に支持されており、さらに弁軸4aには、ばねSが取り付けられている。そして、ばねSの上端は弁体4の下部に、バネ4の下端は弁軸受け8にそれぞれ固定され、弁体4は通気口5に向けて付勢されることにより通気口5を塞いでいる。また、通気口5は円形状をしており、弁板4cは当該通気口5より半径が大きい同心円形状をしている。そのため、通気口5を弁体4により確実に塞ぐことができる。
【0026】
弁軸受け8は、通気弁先端部10aの内側から延設されているものであり、貫通孔8aを有している。そして、貫通孔8aに弁軸4aは挿入され、スライド可能に支持されている。前記弁軸受け8の貫通孔8aの中心は、弁軸4aの中心と一致し、本管部1の軸方向に対して45度を成している。そのため、常に弁体4は、本管部1の軸方向に対して45度の角度でスライドし、通気口5に向けて付勢されている。
【0027】
排水管内が負圧となった時には、弁体4は本管部1方向に引っ張られて下方にスライドし、通気口5から外気が吸い込まれる。弁体4が回転したり、斜めになったりしないように、弁軸4aと平行に設けられた弁体ガイド9が突起4bを誘導している。そして、排水管内が負圧でなくなると、弁体4はばねSの付勢力により上方に押し戻され、再び通気口5を塞ぐ。
【0028】
上記のような弁体4の開閉動作の特性は、ばねSの剛性により決まる。また、ばねSの伸縮方向には、常に弁体4の重量が付加されている。そのため、ばねSの剛性は、弁体4の重量が付加された状態で、通気口5に弁体4を付勢できる程度で、尚且つ、負圧時にばねSの付勢力に逆らって弁体4が下方にスライド可能な程度に、調節されている。
【0029】
ここで、図1の(a)のばねSの伸縮方向に働く弁体4の重量の大きさF1について考える。排水用通気弁10は、鉛直方向に設けられた排水管P1に設置され、弁体4及び弁軸4aは鉛直方向に対して45度を成している。そのため、弁体4の重量をW[N]とし、弁体4の重量Wを弁軸4a方向に分解すると、F1=Wcos45°(Wかけるcos45°、以下同様である。)となる。
【0030】
次に、図1の(b)は、図1の(a)の排水用通気弁10を水平方向に設けられた排水管P2に設置したものである。弁体4及び弁軸4aは水平方向に対して45度を成している。そのため、ばねSの伸縮方向に働く弁体4の重量の大きさF2は、弁体4の重量Wを弁軸4a方向に分解すると、F2=Wsin45°となる。
【0031】
ここで、sin45°とcos45°は同じ値であるので、F1とF2とは等しいことが分かる。そして、弁体4は、鉛直方向及び水平方向の排水管(P1、P2)に接続された本管部1の軸方向に対して45度の角度でスライドするので、常にばねSの伸縮方向に働く弁体4の重量の大きさ(F1、F2)は一定である。さらに、弁板4cは円形状をしているので、重心は常に弁体4の中心にある。よって、排水用通気弁10を鉛直方向及び水平方向の排水管(P1、P2)に取り付けた場合であっても、開閉動作において、通気口5に向けた弁体4の付勢力は等しく、開閉動作特性が変わることがない。なお、弁板4cは円形状でなくてもよく、重心が弁体4の中心に位置するものであれば任意の形状にすることができる。
【0032】
このように、本管部1の軸方向に対して45度の角度でスライドする弁体4であれば、本管部1が鉛直方向又は水平方向に設置された場合であっても、別途、継ぎ手を必要とすることがなく、弁機能を維持できる。
【0033】
図2の(a)は、磁力により弁体14を付勢している場合を示している。図1の(a)に示す排水用通気弁10とは、付勢手段として磁石(M1、M2)を用いている点を除いては同じ構成となっており、弁体14は本管部11の軸方向に対して45度の角度でスライド可能となっている。
【0034】
弁体14は、磁石M1と突起14bと弁板14cとを備えており、弁板14cの中心に磁石M1が設けられている。磁石M1は、弁体14下方において通気弁先端部20aに固定されている磁石M2と反発するように配置されている。また、磁石M1の表面M1aと磁石M2の表面M2aは、通気口15及び弁体14と平行となるように配置されているので、磁石(M1、M2)の反発力が、通気口15と弁体14との接触面に均等に伝わり、通気口15を確実に塞ぐことができる。
【0035】
排水管内が負圧となった時には、弁体14は本管部11方向に引っ張られて、下方にスライドし、通気口15から外気が吸い込まれる。その際、弁体14が本管部11の軸方向に対して45度の角度でスライドできるように、本管部11の軸方向に対して45度の角度を成す弁体ガイド19が突起14bを誘導している。そして、排水管内が負圧でなくなると、弁体14は磁石M1とM2の反発力により上方に押し戻され、再び通気口15を塞ぐ。
【0036】
上記のような弁体14の開閉動作の特性は、磁石(M1、M2)の反発力により決まる。そして、弁体14のスライド方向には、常に弁体14の重量が付加されている。そのため、磁石(M1、M2)の反発力は、弁体14の重量が付加された状態で、通気口15に弁体14を付勢できる程度で、尚且つ、負圧時に磁石(M1、M2)の反発力に逆らって弁体14が下方にスライド可能な程度に、調節されている。
【0037】
そして、排水用通気弁20を鉛直方向及び水平方向の排水管(P1、P2)に取り付けた場合であっても、弁体14のスライド方向に付加される重量の大きさは等しく、弁体14は、常に本管部11の軸方向に対して45度の角度でスライドする。そのため、開閉動作において、通気口15に向けた弁体14の付勢力は等しく、開閉動作特性が変わることがない(段落[0026]から[0028]参照)。
【0038】
このように、付勢手段として磁石を用いることで、図1の(a)の排水用通気弁10のように、弁軸4aと弁軸受け8との接触がなく、より円滑に開閉動作が可能となる。また、磁石M2を通気口15の上方の上蓋16側に固定して、磁石M1と吸引するように配置しても、弁体14を通気口15に付勢し、開閉動作を行うこともできる。
【0039】
図2の(b)は、分岐管23が湾曲している場合を示した断面図である。弁機能を維持するためには、弁体24が本管部21の軸方向に対して45度の角度でスライドできればよいので、図2の(a)のように分岐管13が本管部11に対して45度に傾斜していなくてもよい。そのため、分岐管23のように湾曲した形状でもよく、その形状は任意にすることができる。
【0040】
図3の(a)は、トラップ部Tを有した鉛直方向の排水管P1に排水用通気弁40が設置された斜視図を示している。前記トラップ部Tの下流側に、通気口35が上流側に向くように排水用通気弁40が設置されている。排水用通気弁40は、接続口32aに、上流排水管P1aが接続されロックナットBで締付固定されている。また同様に、接続口32bに下流排水管P1bが接続されロックナットBで締付固定されている。
【0041】
このように排水用通気弁40を設置することで、排水管P1の下流側が負圧になっても、排水用通気弁40の弁機能により通気口35から外気を吸入して、トラップ部Tの残留排水が押し流されることを防止できる。また、分岐管33及び通気口35を上流側に向けるように配置しているため、排水が逆流して通気口35から外部に流出することを防ぐことができる。
【0042】
先端の通気口35上方の上蓋36を支える支柱36a、36bは、それぞれ幅が異なっている。支柱36aは、ごみや埃等が支柱36a内側に堆積しないように幅が狭くしてある。一方、支柱36bは、上方から落下するごみや埃等が通気口35に入らないようにするために幅が広くしてある。
【0043】
前記排水用通気弁40をそのまま、図3の(b)に示す水平方向の排水管P2に取り付けようとすると、幅が広い支柱36bが通気口35の下側になってしまう。そこで、上蓋36又は排水用通気弁40の先端部40aを分岐管33に回転可能に取り付けることで、図3の(b)のように支柱36bの位置が通気口35の上側に位置させることができる。
【0044】
なお、本願発明の排水用通気弁は、上記の実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせもその権利範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本願発明の排水用通気弁は、住宅等の建物に設けられた台所の流し台、浴槽、トイレ等の排水管内の負圧時に排水管内への外気を吸入することが要請される産業分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に排水管が接続される接続口を有する本管部と、本管部から分岐して設けられる分岐管とを備え、
前記分岐管の先端には、排水管内が負圧になることにより通気口を開放する弁体を備えてなり、
前記弁体は、前記本管部の軸方向に対して45度の角度で移動して通気口を開閉可能に設けられてなることを特徴とする排水用通気弁。
【請求項2】
前記弁体は、通気口を閉止するように付勢されてなることを特徴とする請求項1に記載の排水用通気弁。
【請求項3】
前記弁体は、磁石の反発又は吸引により付勢されてなることを特徴とする請求項2に記載の排水用通気弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−196499(P2011−196499A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65730(P2010−65730)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000243803)未来工業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】