説明

掘削装置

【課題】地盤施工具専用の回転駆動装置を不要として施工をコンパクトに行うことを可能とする掘削装置を提供すること。
【解決手段】ケーシングチューブ4を地盤GRに回転させながら押し下げるチューブ回転装置1を備えた掘削装置であって、ケーシングチューブ4内に挿入可能であり、軸状のケリーバ6の先端に連結されて回転により地盤GRを施工可能な地盤施工具としてのドリリングバケット51,拡底バケット52と、ケーシングチューブ4に連結され、かつ、このケーシングチューブ4の回転を変速してケーシングチューブ4に挿入状態のケリーバ6に伝達可能な増速機2と、を備えていることを特徴とする掘削装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングチューブを回転させながら地中に押し込み、バケットなどの地盤施工具によりチューブ内の土砂の排出などの施工を行って杭打設用などの孔を掘削する掘削装置に関するものであり、特に、土砂の排出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるケーシング回転掘削と称され、チューブ状の鋼製のケーシングチューブをチューブ回転装置により回転させながら地中に押し込み、このケーシングチューブ内の土砂を、ハンマーグラブやバケットなどの地盤施工具を用いて掘削および排土する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この従来技術によれば、バケットによる土砂の排出時には、クレーン装置と回転駆動装置とを搭載したベースマシンから吊り下げたケリーバの先端にバケットを取り付け、バケットをケーシングチューブ内に挿入させ、ケリーバをクレーン装置に取り付けた回転駆動装置により回転させることで、バケットによりケーシングチューブ内の土砂を取り込む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−70469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の掘削装置によれば、バケットなどの地盤施工具を使用する場合、ケーシングチューブを回転させるチューブ回転装置とは別にケリーバを吊り下げて回転させることが可能な大型のベースマシンが必要である。このため、装置が大がかりとなり、施工のために広い敷地および十分な高さを確保する必要があった。
【0006】
そこで、本発明は、地盤施工具専用の回転駆動装置を不要として施工をコンパクトに行うことを可能とする掘削装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の掘削装置は、ケーシングチューブを地盤に回転させながら押し下げるチューブ回転装置を備えた掘削装置であって、
前記ケーシングチューブ内に挿入可能であり、軸状のケリーバの先端に連結されて回転により地盤を施工可能な地盤施工具と、前記ケーシングチューブに連結され、かつ、このケーシングチューブの回転を前記ケーシングチューブに挿入状態の前記ケリーバに伝達可能な回転伝達機構と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記回転伝達機構は、ケーシングチューブの回転速度を、前記ケリーバに対して変速して伝達する変速機構としてもよい。
また、前記回転伝達機構は、前記ケーシングチューブに連結されるリングギアと、前記ケリーバが回転伝達可能に挿通されるサンギアと、前記リングギアの回転を前記サンギアに伝達するキャリアとを有した遊星歯車機構を備え、前記キャリアの公転を規制するストッパ機構を、前記チューブ回転装置に支持してもよい。
さらに、前記遊星歯車機構は、前記サンギアに対し、その回転方向を前記リングギアの回転方向と逆転させて伝達する構造としてもよい。
【0009】
また、前記ケーシングチューブの上端に連結可能な、前記リングギアとの接続用のジョイントチューブを設け、このジョイントチューブと前記リングギアとの間に、前記ケーシングチューブの押し下げ回転時の回転方向である正回転時に回転方向および軸方向に係合し、逆回転時に前記係合が外れる係合機構を設けてもよい。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の掘削装置は、チューブ回転装置によりケーシングチューブを回転させると、回転伝達機構を介してケリーバが回転され、ケーシングチューブ内に配置された地盤施工具が回転され、地盤の施工を行うことができる。
したがって、ケリーバ専用の回転駆動装置が不要となり、掘削をコンパクトに行うことが可能となる。
【0011】
また、回転伝達機構として変速機構を用いれば、チューブ回転装置の回転速度を変えること無しに、地盤施工具を最適回転数で回転させることが可能となる。
さらに、回転伝達機構として遊星歯車機構を用い、チューブ回転装置に支持されたストッパ機構によりキャリアの公転を規制すれば、ケーシングチューブの回転が遊星歯車機構を介してケリーバに伝達されるため、ケリーバおよび地盤施工具への回転出力方向および等速を含む変速比の設定自由度が高い。
さらに、遊星歯車機構が、サンギアに対し、その回転方向をリングギアに対して逆転させるものでは、地盤施工具がケーシングチューブに対して逆方向に回転する。
この場合、ケーシングチューブの回転に伴って、ケーシングチューブ内の土が、ケーシングチューブと同方向に回転される一方で、地盤施工具は、土の回転方向とは逆方向に回転する。これにより、地盤工具がケーシングチューブと同方向に回転するものと比較して、地盤施工効率が向上する。
【0012】
また、ケーシングチューブにジョイントチューブを連結し、ジョイントチューブとリングギアとの間に係合機構を設ければ、ケーシングチューブを回転させるだけで、遊星歯車機構との係合および係合解除が可能であり操作が簡単である。また、ジョイントチューブを介在させることにより、ケーシングチューブとしては既存のものを加工することなく使用することが可能で、汎用性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態の掘削装置の構成を説明する地盤を切断した状態で示す側面図である。
【図2】第1実施の形態の掘削装置のストッパ機構の平面図である。
【図3】第1の実施の形態の掘削装置の増速機を示す断面図であって、図4のS3−S3線による断面を示している。
【図4】第1の実施の形態の掘削装置の増速機を示す断面図であって、図3のS4−S4線による断面を示している。
【図5】第1の実施の形態の掘削装置の増速機を示す平面図あって、図4のY5−Y5線による断面を示している。
【図6】第1の実施の形態の掘削装置の作業手順を説明する側面図である。
【図7】第2の実施の形態の掘削装置の増速機を示す上方から見た状態の断面図である。
【図8】第2の実施の形態の掘削装置の増速機を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第1の実施の形態の掘削装置Aについて図面を参照して説明する。
この掘削装置Aは、図1に示すようにチューブ回転装置1と増速機(回転伝達機構:変速機構)2とストッパ機構3とを備えている。
【0015】
チューブ回転装置1は、ケーシングチューブ4の外周を把持してケーシングチューブ4を回転させながら軸方向に押し下げることによりケーシングチューブ4を地中に押し込むことができる周知の装置である。その構成を簡単に説明すると、チューブ回転装置1は、支持ビーム11,ベースフレーム12、反力受フレーム13を備えている。
【0016】
支持ビーム11は、地盤GR上に固定されて、チューブ回転装置1を含む掘削装置A全体を支持するものである。
ベースフレーム12は、支持ビーム11に複数の水平ジャッキ14を介して支持されており、各水平ジャッキ14の上下方向寸法を調整することにより水平に設置される。
反力受フレーム13は、ベースフレーム12に複数の昇降シリンダ15を介して支持されており、この昇降シリンダ15の油圧による伸縮に伴ってベースフレーム12に対して昇降可能に支持されている。
【0017】
また、ベースフレーム12には、ケーシングチューブ4の外周に接する回転フレームに回転駆動力を与える回転駆動装置16が設けられている。この回転駆動装置16は、周知のように複数のモータを備え、これらのモータの回転が回転フレームを介してケーシングチューブ4に伝達される。また、反力受フレーム13による押し下げ力は、回転駆動装置16の回転フレームを介してケーシングチューブ4に伝達される。
したがって、回転駆動装置16により回転フレームを回転させながら昇降シリンダ15を短縮駆動させることにより、ケーシングチューブ4が回転されながら地中に押し込まれるようになっている。
【0018】
次に、増速機2およびストッパ機構3について説明する。
これらの増速機2およびストッパ機構3は、ドリリングバケット51や拡底バケット52などの排土装置(地盤施工具)を用いてケーシングチューブ4内などの排土を行う際に、チューブ回転装置1に取り付けて使用する。
したがって、ケーシングチューブ4の回転および押下のみを行う際には、増速機2およびストッパ機構3は、チューブ回転装置1から取り外しておく。
【0019】
増速機2は、ケーシングチューブ4の回転を増速して地盤施工具に伝達するもので、本実施の形態では、地盤施工具としてのドリリングバケット51、拡底バケット52への回転伝達には、従来と同様にケリーバ6を用いる。
この増速機2は、図3に示すように、リングギア21とキャリア22とサンギア23とを備えた回転伝達機構及び変速機構としての遊星歯車機構20により構成されている。すなわち、本実施の形態では、リングギア21がケーシングチューブ4と一体に回転し、キャリア22がストッパ機構3により公転を規制されることにより、サンギア23が増速回転され、その回転が地盤施工具に伝達される。なお、本実施の形態では、リングギア21の回転方向とサンギア23の回転方向とが同一方向となるよう、リングギア21とサンギア23との間に、いわゆる二重ピニオンタイプのキャリア22が介在されている。
【0020】
次に、キャリア22について説明する。
キャリア22は、図4に示すように、回転軸26に回転可能に支持された2枚のピニオンギア22aが、リングギア21とサンギア23との間に直列に介在されたものを3組備えている。各回転軸26は、その上下両端部が上カバー24と下カバー25とに固定されて支持されている。各カバー24,25は、中央にそれぞれ貫通穴24a,25aを有したドーナツ板状に形成されている。そして、上カバー24の貫通穴24aの内周から、円筒ケーシング24bが上方に立設されている。
リングギア21は、上下縁から内周に張り出して取り付けられた上下フランジ部材21f,21fを上下カバー24,25の外周縁に係合されて、上下カバー24,25に対して同軸で上下相対移動を規制される一方で相対回転可能に支持されている。
サンギア23は、下カバー25との間に軸受25bが介在されて、上下カバー24,25に対して同軸で相対回転可能に支持されている。
【0021】
次に、遊星歯車機構20の回転伝達について説明する。
リングギア21は、ケーシングチューブ4から回転が伝達される。
本実施の形態では、増速機2を使用する場合、図1に示すように、ケーシングチューブ4の上端に、ケーシングチューブ4の軸方向寸法を短く形成したジョイントチューブ41を取り付ける。このジョイントチューブ41とケーシングチューブ4との結合には、他のケーシングチューブ4どうしの結合構造と同様の構造を用いるため、説明を省略する。
ジョイントチューブ41は、その外周から、複数の係合アーム41aが上方に突出されている。本実施の形態では、係合アーム41aが3本設けられている。さらに、係合アーム41aの先端は、上方から見て時計回り方向に鉤部41bが延在されている。
【0022】
一方、リングギア21の外周には、図3に示すように、1または複数であって本実施の形態では3本の係合ロッド21aが外径方向に突出されている。したがって、チューブ回転装置1を駆動させてジョイントチューブ41をケーシングチューブ4と一体に上方から見て時計回り方向である正回転方向へ回転させた場合には、ジョイントチューブ41の係合アーム41aとリングギア21の係合ロッド21aとが回転方向に係合するとともに軸方向に係合して、ジョイントチューブ41およびリングギア21が一体的に正回転する。
【0023】
次に、サンギア23から地盤施工具への回転伝達構造について説明する。
サンギア23の内周には複数のスプライン状のキー溝23aが形成されている。このキー溝23aには、ケリーバ6の外周に形成されたキー61が挿入される。また、キー溝23aには、周知の図示を省略したロック機構が設けられており、サンギア23が正回転した場合には、周方向および軸方向に係合状態となり、サンギア23の回転がケリーバ6に伝達可能であるとともに、押し下げ方向の駆動力も伝達可能に形成されている。また、このロック機構による係合は、サンギア23を逆回転させた場合には、解除されるようになっている。なお、このようなロック機構は、周知であり、例えば、特開2 0 0 4 - 1 0 0 3 6 4号公報などにも記載されているため、詳細な説明は省略する。同様に、ケリーバ6も、複数のロッドにより伸縮可能に形成されており、各ロッド間にも、正回転時には、係合されて回転および押し下げ力を伝達可能であり、逆回転時には、係合が解除される回転および押し下げ力が非伝達状態となる周知の構造となっている。
したがって、サンギア23の正回転時には、これと一体的にケリーバ6が回転し、このケリーバ6の先端に取り付けたドリリングバケット51や拡底バケット52などの地盤施工具が回転しながら、ケーシングチューブ4と共に押し下げられる。
【0024】
次に、図1および図2によりストッパ機構3について説明する。
このストッパ機構3は、増速機2の上下カバー24,25およびこれに支持された図3に示すキャリア22の回転軸26が、リングギア21およびサンギア23の回転に連れ回って公転しないようにするためのもので、上下カバー24,25および回転軸26を、図1に示すチューブ回転装置1の反力受フレーム13に対して相対回転を規制する一方で、軸方向には相対移動可能とするものである。
【0025】
このストッパ機構3は、チューブ回転装置1の反力受フレーム13に対して着脱可能に取り付けられるものと、上カバー24に取り付けられたものとを備えている。
反力受フレーム13に着脱可能な部分としては、図1および図2に示すように、チューブ回転装置1の反力受フレーム13の4箇所から立ち上げられた昇降シリンダ15の外周に着脱可能な4本の連結用鋼管31と、これら連結用鋼管31に一体に結合されて略水平に支持されて中央にジョイントチューブ41が貫通される貫通穴32aを備えた長方形板状のプレート32と、プレート32の上面の短辺に沿って一体に結合された一対の支持フレーム33と、各支持フレーム33から上方へ立ち上げられた断面H状の鋼柱であるストッパバー34とを備えている。
【0026】
また、上カバー24に取り付けられたものとしては、上カバー24の上面に取り付けられ(図5参照)、円筒ケーシング24bから外径方向へ延びて、ストッパバー34に対し上下方向に相対移動可能である一方、回転方向に係合可能な長さを有したカバーロッド35を備えている。
【0027】
次に、地盤施工具について説明する。
本実施の形態では、地盤施工具として、図1(a)に示すドリリングバケット51および同図(b)拡底バケット52を用いる。両バケット51,52は、それぞれケリーバ6の先端に装着し、ケーシングチューブ4の内部に挿入して使用する。
【0028】
ドリリングバケット51は、有底の円筒形状を成し、底部に切削刃および開口を有し、回転させることにより、地盤GRを掘削し、同時に掘削土砂をバケット内部に収納する周知のものである。
【0029】
拡底バケット52は、設定された回転方向(本実施の形態では時計回り方向)に回転するのに伴って開翼する拡大翼を有し、掘削した孔の拡径を行う周知のものである。
【0030】
次に、第1の実施の形態の作用として、第1の実施の形態の掘削装置Aを用いて図1に示す杭打設用の穿孔Hを掘削する手順を説明する。
【0031】
まず、掘削装置Aのチューブ回転装置1を用いて、地盤GRにケーシングチューブ4を回転させながら押し下げる。この作業は、従来と同様であるので、詳細な説明は省略する。
そして、ケーシングチューブ4を押し下げると、次に、ケーシングチューブ4の内周の土砂を排出する。
【0032】
この土砂の排出には、従来と同様に地盤GRの状態に応じ、ハンマーグラブ(図示省略)やドリリングバケット51などを適宜使用することができるが、以下に、地盤施工具としてのドリリングバケット51を用いた土砂の排出手順について説明する。
【0033】
ドリリングバケット51を用いて土砂の排出を行う場合、まず、ケーシングチューブ4の上端にジョイントチューブ41を連結する。
また、これと並行して、図示を省略したクレーンに吊り下げられたケリーバ6を、増速機2のサンギア23に貫通させ、かつ、図6に示すように、ケリーバ6の先端にドリリングバケット51を装着しておく。
【0034】
次に、チューブ回転装置1に、ストッパ機構3を設置する。
すなわち、ストッパ機構3を、図示を省略したクレーンで吊り下げるなどし、ストッパ機構3の4箇所の連結用鋼管31が、チューブ回転装置1の4箇所の昇降シリンダ15の上から被さるようにチューブ回転装置1の上に設置する。
【0035】
次に、図示を省略したクレーンに吊り下げられたケリーバ6を移動させ、このケリーバ6の先端に取り付けられているドリリングバケット51をケーシングチューブ4の上方からその内部に挿入するとともに、ケリーバ6の外周に取り付けられた増速機2を、ジョイントチューブ41の上に重ねて設置する。
この際、増速機2の上カバー24に固定した一対のカバーロッド35,35は、図2に示すように、ストッパバー34,34に対して上から見て、反時計回り方向側の位置に配置する。また、増速機2の外周に突出した係合ロッド21aが、ジョイントチューブ41から起立された係合アーム41aの鉤部41bと干渉しないように、増速機2の回転方向の位置を調整しながら設置する。
【0036】
増速機2のジョイントチューブ41の上への設置後、さらにケリーバ6を下方移動させてドリリングバケット51を降下させて穿孔Hの底部に配置する。なお、この時点では、ケリーバ6の伸縮機構およびサンギア23との間は非ロック状態としておく。
【0037】
ドリリングバケット51が穿孔Hの底部に達したら、次に、チューブ回転装置1を駆動させケーシングチューブ4を正回転させる。このケーシングチューブ4の回転に伴って、ジョイントチューブ41が正回転し、まず、ジョイントチューブ41の係合アーム41aと増速機2の係合ロッド21aとが図1に示す係合状態となる。
【0038】
また、増速機2では、リングギア21が正回転された場合、回転初期は、キャリア22への入力により上下カバー24,25および回転軸26を回転方向へ移動させる力が作用し、回転軸26が移動(公転)した場合は、増速機2は空転状態となるが、上カバー24に結合されたカバーロッド35がストッパバー34に当接して回転軸26の移動が規制された時点からは、増速機2は、増速作動を行ってサンギア23を正転方向へ増速回転させる。
【0039】
上記の係合アーム41aと係合ロッド21aとの係合後は、チューブ回転装置1を駆動させて、ケーシングチューブ4を正回転させながら、押し下げる。これにより、サンギア23が正回転し、サンギア23とケリーバ6との間がロック状態となり、ケリーバ6およびドリリングバケット51が正回転しながら押し下げられて、ドリリングバケット51が掘削作動を行うとともに内部に土砂を取り込む。
【0040】
なお、この場合、遊星歯車機構20により、ドリリングバケット51は、ケーシングチューブ4の回転速度よりも高速で回転されるもので、この遊星歯車機構20の増速比は、各ギア21〜23の歯数に基づいて、ドリリングバケット51の作動に最適の回転速度が得られるようにあらかじめ設定される。
また、この際、ケーシングチューブ4と共に増速機2が下方に移動するのに伴って、上カバー24に結合されたカバーロッド35は、ストッパバー34に沿って当接状態を保ちながら下方に移動する。したがって、ストッパバー34は、このドリリングバケット51が内部に十分に土砂を取り込むことができる上下方向の移動量だけカバーロッド35と相対移動できる上下方向寸法に形成されている。
【0041】
上述のようにして、ドリリングバケット51が回転しながら下方へ移動して土砂を取り込んだら、チューブ回転装置1の駆動を停止させた後、ドリリングバケット51に取り込んだ土砂の排出を行う。
この場合、まず、チューブ回転装置1を逆回転させて、増速機2とジョイントチューブ41とのロックを解除するとともに、ケリーバ6とサンギア23とのロックを解除する。そして、ケリーバ6およびドリリングバケット51を引き上げ、さらに、図6に示すように、ドリリングバケット51と共に増速機2を引き上げ、ドリリングバケット51に取り込んだ土砂を外部に排出する。
【0042】
以上の動作を繰り返し行うことでケーシングチューブ4の押し下げおよびドリリングバケット51による土砂の排出を行うことができる。なお、この動作の繰り返しに伴い、ケーシングチューブ4は、適宜、従来と同様に継ぎ足しを行う。
【0043】
次に、拡底バケット52を用いて穿孔Hの下端部の拡底を行う場合の作業を説明する。
この場合、上述のようにしてドリリングバケット51をケーシングチューブ4から引き上げた後に、ケリーバ6の下端のドリリングバケット51を取り外し、拡底バケット52に交換する。
【0044】
また、拡底バケット52を使用する場合は、拡底バケット52をケーシングチューブ4に挿入する前に、前もってチューブ回転装置1を逆転駆動させてケーシングチューブ4を図1(b)に示すように、拡底位置よりも上方へ引き上げておく。
【0045】
その後、ドリリングバケット51と同様の作業を行って拡底バケット52を穿孔Hの底部まで移動させた後、チューブ回転装置1によりケーシングチューブ4を正回転させると、拡底バケット52が図示のように開翼して穿孔Hの拡径が行われる。
【0046】
この拡底バケット52の使用時も、あらかじめ設定された量だけ下方へ押し下げた後は、チューブ回転装置1を逆転させて各ロックのロック解除を行った後、拡底バケット52およびケリーバ6の引き上げを行う。
このようにして、穿孔Hの形成を終えると、穿孔H内に鉄筋を設置し、コンクリートを打設して杭を形成することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態の掘削装置Aによれば、以下に列挙する効果を有する。
a)第1の実施の形態の掘削装置Aは、チューブ回転装置1によりケーシングチューブ4を回転させると、増速機2によりケリーバ6およびこれに取り付けられたドリリングバケット51や拡底バケット52などの地盤施工具が回転され、地盤GRに対する施工を行うことができる。
したがって、従来のようなケリーバを吊り下げて回転させるクレーン装置と回転駆動装置を搭載したベースマシンが不要となり、施工に必要な敷地の広さおよび高さを抑えて掘削をコンパクトに行うことが可能となる。
【0048】
b)ドリリングバケット51や拡底バケット52などの地盤施工具に対し、ケーシングチューブ4の回転が増速機2により増速されて伝達されるため、チューブ回転装置1の回転速度を変えること無しに、地盤施工具を最適回転数で回転させることが可能となる。したがって、既存のチューブ回転装置1をそのまま使用でき、チューブ回転装置1の回転速度を変えるものと比較して汎用性に優れる。
【0049】
c)変速機構として遊星歯車機構20を用い、チューブ回転装置1に支持されたストッパ機構3によりキャリア22の回転軸26を固定し、ケーシングチューブ4の回転が遊星歯車機構20を介してケリーバ6に増速伝達されるため、ケリーバ6および地盤施工具への回転出力方向および変速比の設定自由度が高い。すなわち、地盤施工具の違いにより、遊星歯車機構20のギア比の設定を変えることが可能であり、また、ケリーバ6の回転方向も、ケーシングチューブ4と同方向だけでなく、逆方向に回転させることも可能である。
よって、地盤施工具も、既存のものをそのまま使用可能であり、汎用性に優れる。
加えて、遊星歯車機構20を用いることにより、回転伝達を行う機構の上下方向寸法を抑えることができる。これにより、地盤施工具による施工時の必要スペースを抑えることができる。
【0050】
d)ケーシングチューブ4にジョイントチューブ41を連結し、ジョイントチューブ41とリングギア21との間に係合ロッド21aおよび係合アーム41aから成る係合機構を設け、ケーシングチューブ4を回転させるだけで、遊星歯車機構20との係合および係合解除が可能であり、操作が簡単である。また、ジョイントチューブ41を介在させることにより、ケーシングチューブ4としては既存のもの加工することなく使用することが可能となり、汎用性に優れる。
【0051】
e)ストッパ機構3は、既存のチューブ回転装置1に搭載し、その際、昇降シリンダ15を利用して連結用鋼管31を昇降シリンダ15の上から被せるように配置するだけで、位置決め固定可能としたため、位置決め固定用の機構を追加不要であり、コストおよび重量を削減できる。
【0052】
f)カバーロッド35は増速機2の上カバー24に結合し、ストッパ機構3のチューブ回転装置1に固定したストッパバー34とは別体で上下方向に相対移動可能としたため、カバーロッド35は、増速機2などとともにケリーバ6と一体に移動させることができ、土砂を穿孔Hから排出する作業が容易で、作業性に優れる。
【0053】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態の掘削装置について説明する。
なお、第2の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であるので、第1の実施の形態との相違点についてのみ説明し、両者で共通の構成については第1の実施の形態と同じ符号を付して説明を省略する。
【0054】
この第2の実施の形態の掘削装置は、変速機構としての増速機200の遊星歯車機構220の構成が第1の実施の形態と異なっている。
以下に、第2の実施の形態の掘削装置における増速機200の構成並びに第1の実施の形態との相違点を図7,図8に基づき説明する。
【0055】
第1の実施の形態では、増速機2は、リングギア21とサンギア23とを同方向に回転させ、ケリーバ6及びドリリングバケット(地盤施工具)51を、ケーシングチューブ4と同方向に増速回転させるようにした。
それに対し、第2の実施の形態では、増速機200は、リングギア221とサンギア223とを逆方向に回転させ、ケリーバ6及びドリリングバケット(地盤施工具)51を、ケーシングチューブ4の回転方向と逆方向に増速回転させるようにしている。
【0056】
すなわち、チューブ回転装置1によりケーシングチューブ4と一体的に回転するリングギア221と、ケリーバ6と一体的に回転するサンギア223との間にいわゆるシングルピニオンタイプのキャリア222が介在されており、リングギア221とサンギア223とは逆方向に回転する。
【0057】
キャリア222は、シングルピニオンタイプであるが、回転軸226に小径のピニオンギア222aと大径のピニオンギア222bとが同軸に設けられ、サンギア223をリングギア221に対して増速逆回転させる。すなわち、図8に示すように、回転軸226の下側に配置された小径で相対的に少歯数のピニオンギア222aがリングギア221に噛み合わされている。そして、回転軸226の上側に配置されて、ピニオンギア222aと相対的に大径で多歯数のピニオンギア222bがサンギア223に噛み合わされている。
【0058】
なお、サンギア223は、内周に増速機200の上カバー224および下カバー225を貫通する筒状体223bを備えている。そして、この筒状体223bにおいて、大径のピニオンギア222bと軸直交方向に重なる高さにのみ、その外周にギア223cが形成されている。また、筒状体223bの内周には、第1の実施の形態と同様のキー溝223aが形成されている。
【0059】
以上説明した第2の実施の形態では、キャリア222は、第1の実施の形態と同様に、ストッパ機構3により公転を規制されるため、サンギア223はリングギア221に対して、増速逆回転される。
したがって、この第2の実施の形態の掘削装置では、掘削時にドリリングバケット51はケーシングチューブ4に対して逆方向に増速回転する。
この場合、ケーシングチューブ4の回転に伴って、ケーシングチューブ4内の土が、ケーシングチューブ4と同方向に回転される一方で、この土を掘削するドリリングバケット51が、土の回転方向とは逆方向に回転する。これにより、第2の実施の形態では、ドリリングバケット51がケーシングチューブ4と同方向に増速回転するものと比較して、掘削効率が向上する。
【0060】
また、第2の実施の形態では、キャリア222は、サンギア223をリングギア221と逆回転させるように介在させるのにあたり、リングギア221に噛み合う小径のピニオンギア222aとサンギア223に噛み合う大径のピニオンギア222bとを同軸に設けた構造とした。
このため、キャリア222が、リングギア221及びサンギア223との両方に噛み合う1枚のピニオンギアを備えたものと比較して、増速比(変速比)の設定自由度が高い。これにより、ドリリングバケット51の掘削効率に優れた増速比の設定が容易となる。
【0061】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態又は実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0062】
例えば、実施の形態では、施工工具として、排土装置としてのドリリングバケットおよび拡底バケットを示したが、これに限定されず、ケリーバに接続して、ケーシングチューブ内で地盤に対して施工を行うものであれば、排土装置以外の施工具(例えば、地盤改良用の撹拌翼や拡底機能のみ有する施工具など)を用いてもよい。
【0063】
また、実施の形態では、回転伝達機構として、遊星歯車機構を示したが、この回転伝達機構としては、ケーシングチューブからケリーバに回転を伝達するものであれば、遊星歯車機構以外の、ベルト、チェーン、ロッド、プーリなどを組み合わせた周知の回転伝達構造を用いてもよい。例えば、実施の形態において、ピニオンギアとサンギアとの回転伝達を、チェーンやベルト・プーリなどで行うことができる。
また、回転伝達機構がケーシングチューブからケリーバに回転伝達するのにあたり、変速して伝達する遊星歯車機構を用いたが、その変速比は、地盤施工具に応じ、適宜最適の変速比を用いてよいと共に、等速回転伝達を行うようにしてもよい。すなわち、回転伝達機構は、実施の形態で示したようにケーシングチューブの回転を増速してケリーバに伝達するもの限らず、地盤施工具によっては減速して伝達するものを用いてもよい。特に、第2の実施の形態のように、ケーシングチューブと地盤施工具とが逆方向に回転するものでは、地盤施工具をケーシングチューブに対して等速回転や減速回転させた場合でも、効率的な施工が可能である。
【0064】
また、第1の実施の形態では、キャリアは、リングギアとサンギアとの間に2枚のピニオンギアを直列に介在させたものを示したが、キャリアにおけるピニオンギアの枚数は、実施の形態で示したものに限定されない。例えば、3枚以上の複数枚のピニオンギアを直列に介在させてもよい。あるいは、第2の実施の形態において、キャリアとして、1枚のピニオンギアをリングギアとサンギアとの両方に噛み合わせたものを用いてもよい。この場合も、サンギアは、リングギアに対して増速して逆方向に回転させることができる。
【符号の説明】
【0065】
1 チューブ回転装置
2 増速機(変速機構)
3 ストッパ機構
4 ケーシングチューブ
6 ケリーバ
20 遊星歯車機構
21 リングギア
21a 係合ロッド(係合機構)
22 キャリア
23 サンギア
26 回転軸
41 ジョイントチューブ
41a 係合アーム(係合機構)
41b 鉤部(係合機構)
51 ドリリングバケット(地盤施工具)
52 拡底バケット(地盤施工具)
A 掘削装置
GR 地盤
H 穿孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングチューブを地盤に回転させながら押し下げるチューブ回転装置を備えた掘削装置であって、
前記ケーシングチューブ内に挿入可能であり、軸状のケリーバの先端に連結されて回転により地盤を施工可能な地盤施工具と、
前記ケーシングチューブに連結され、かつ、このケーシングチューブの回転を前記ケーシングチューブに挿入状態の前記ケリーバに伝達可能な回転伝達機構と、
を備えていることを特徴とする掘削装置。
【請求項2】
前記回転伝達機構は、ケーシングチューブの回転速度を、前記ケリーバに対して変速して伝達する変速機構であることを特徴とする請求項1に記載の掘削装置。
【請求項3】
前記回転伝達機構は、前記ケーシングチューブに連結されるリングギアと、前記ケリーバが回転伝達可能に挿通されるサンギアと、前記リングギアの回転を前記サンギアに伝達するキャリアとを有した遊星歯車機構を備え、
前記キャリアの公転を規制するストッパ機構が、前記チューブ回転装置に支持されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の掘削装置。
【請求項4】
前記遊星歯車機構は、前記サンギアに対し、その回転方向を前記リングギアの回転方向と逆転させて伝達する構造であることを特徴とする請求項3に記載の掘削装置。
【請求項5】
前記ケーシングチューブの上端に連結可能な、前記リングギアとの接続用のジョイントチューブが設けられ、
このジョイントチューブと前記リングギアとの間に、前記ケーシングチューブの押し下げ回転時の回転方向である正回転時に回転方向および軸方向に係合し、逆回転時に前記係合が外れる係合機構が設けられていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−233392(P2012−233392A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233543(P2011−233543)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(595067442)システム計測株式会社 (27)
【出願人】(510210494)一般社団法人新基礎工法開発機構 (3)
【Fターム(参考)】