説明

接合方法および封止型デバイスの製造方法

【課題】部材表面に接合膜を簡単に転写することができるので、これにより接合膜を転写された部材と他の部材との接合領域を制御しつつ簡単な接合を可能にする接合方法、および信頼性の高い封止型デバイスを効率よく製造し得る封止型デバイスの製造方法を提供すること。
【解決手段】接合膜転写シート10は、基材20と、その上に成膜された接合膜とを有するものである。この接合膜転写シート10は、接合膜を所定形状にパターニングした後、このパターニングされた接合膜3をケース2に対して転写するように用いられる。接合膜3は、シロキサン結合を含む原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。接合膜3は、エネルギーを付与されることにより、接着性を発現するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法および封止型デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部材同士を接合(接着)する際には、従来、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコーン系接着剤等の接着剤を用いて行う方法が多く用いられている。
このように接着剤を用いて部材を接着する際には、液状またはペースト状の接着剤を接着面に塗布し、塗布された接着剤を介して部材同士を貼り合わせる。その後、熱または光の作用により接着剤を硬化させることで接着が完了する。
【0003】
ところが、部材の接着面に接着剤を塗布する際には、印刷法等の煩雑な方法を用いる必要がある。例えば、接着面の一部の領域に対して選択的に接着剤を塗布する場合、塗布の膜質や厚さを厳密に制御することは極めて困難である。
また、接着剤の硬化時間が非常に長くなるため、接着に長時間を要するととともに、硬化中に部材同士の位置がずれてしまったり、硬化中の加熱により熱膨張率差のある部材同士の接着界面に熱応力が残留し、接着体の変形、損傷を招くおそれがある。
【0004】
さらに、部材の構成材料によっては、接着強度を高めるためにプライマーを用いる必要があり、そのためのコストと手間が接着工程を複雑化している。
なお、接着剤としては、前述したように有機系材料からなる接着剤が一般的であるが、このような接着剤はそれ自体が通気性を有しているため、気密性を必要とする箇所の接着は困難である。
【0005】
一方、接着剤を用いない接合方法として、陽極接合等の固体接合が知られている。陽極接合は、ガラス製の部材とシリコン製の部材とを重ね合わせ、加熱しつつ両者に電圧を印加すると、接触界面に共有結合が生じ、直接接合する方法である。
特許文献1には、内部に水晶振動子素子を収容しつつ、ベース基板と蓋体とを陽極接合することにより、内部を気密封止してなる水晶振動子(封止型デバイス)が開示されている。
【0006】
しかしながら、陽極接合では、その接合原理から接合可能な材質に制約がある。具体的には、接合の際にアルカリ金属イオン等の部材内で移動するイオンを含んでいる必要があり、しかも、接合に供される2つの部材は共有結合可能な部材に限られる。このため、接合可能な材質は、ガラス材料とシリコン材料等の組み合わせに限られる。
また、固体接合では、2つの部材の各接合面のうち、互いに接触している面全体が接合するため、一部を選択的に接合することは困難である。このため、異種材料からなる部材同士を接合した場合、部材間の熱膨張率差に伴って接合界面に大きな応力が発生し、反りや剥離、気密破壊等の問題を引き起こすおそれがある。
【0007】
そこで、特許文献2では、プラズマ重合法により形成された接合膜を用いて部材同士を接合する方法が提案されている。
このような接合膜は、気相成膜法で成膜されているため、従来に比べて接合膜の位置精度や厚さを厳密に制御し易い。しかしながら、プラズマ重合法により形成した接合膜をパターニングする際には、フォトリソグラフィー技術とエッチング技術とを用いて不要部分を除去する必要があり、レジスト層の形成および除去に伴う製造工程の複雑化、高コスト化が避けられない。
また、特許文献2では、接合に供する部材の表面に接合膜を成膜する必要があるため、成膜装置と部材とは不可分であり、成膜装置がある場所に必ず部材を用意しなければならない。ところが、成膜装置は大型で重量も大きく、可搬性が著しく低いため、製品の製造プロセスでは、部材の動線に地理的制約を伴うことが避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−252805号公報
【特許文献2】特開2008−307873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、部材表面に接合膜を簡単に転写することができるので、これにより接合膜を転写された部材と他の部材との接合領域を制御しつつ簡単な接合を可能にする接合方法、および信頼性の高い封止型デバイスを効率よく製造し得る封止型デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の接合方法は、基材と、該基材の一方の面側に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し、有機基からなる脱離基とを含む接合膜とを有する接合膜付き基材と、互いの接合面が対向するように接合される第1の部材および第2の部材とを用意する準備工程と、
前記接合膜付き基材の前記接合膜を所定形状にパターニングするパターニング工程と、
パターニングされた前記接合膜にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記接合膜と前記第1の部材の接合面とが密着するように、前記接合膜付き基材と前記第1の部材とを積層し、第1の仮接合体を得る仮接合工程と、
前記第1の仮接合体から前記基材を剥離して、前記第1の部材にパターニングされた前記接合膜を転写し、第2の仮接合体を得る転写工程と、
前記第2の仮接合体の前記接合膜の剥離面にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記互いの接合面が対向するように、前記第2の仮接合体と前記第2の部材とを積層し、接合体を得る本接合工程とを有することを特徴とする。
これにより、部材表面に接合膜を簡単に転写することができるので、これにより接合膜を転写された部材と他の部材との接合領域を制御しつつ簡単な接合を可能にする。
【0011】
本発明の接合方法では、前記パターニング工程において、前記接合膜のパターニングは、形成すべき接合膜の形状に対応したマスクを前記接合膜上に載置した状態で、物理的エッチング処理を施すことが好ましい。
物理的エッチング法を用いることにより、ウェットエッチング等の化学的エッチング法を用いる場合のように、接合膜が強アルカリ性を示すエッチング液に曝されるのを確実に防止することができるため、パターニングされた接合膜のエッチング面における変質・劣化を的確に抑制または防止することができる。
【0012】
本発明の接合方法では、前記物理的エッチング処理は、プラズマエッチング処理であることが好ましい。
これにより、優れた精度でパターニングされた接合膜を確実に得ることができる。
本発明の接合方法では、前記接合膜は、Si−H結合を含んでいることが好ましい。
Si−H結合は、シロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格の規則性が低下する。このようにして、接合膜中にSi−H結合が含まれることにより、結晶化度の低いSi骨格を効率よく形成することができる。
【0013】
本発明の接合方法では、前記接合膜は、プラズマ重合膜であることが好ましい。
これにより、緻密で均質な接合膜を効率よく作製することができる。また、プラズマ重合法で作製された接合膜では、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、接合体の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0014】
本発明の接合方法では、前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝す方法および前記接合膜にエネルギー線を照射する方法の少なくとも一方により行われることが好ましい。
これにより、接合膜を効率よく活性化させることができる。また、各接合膜中の結合を必要以上に切断しないので、各接合膜の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0015】
本発明の封止型デバイスの製造方法は、基材と、該基材の一方の面側に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し、有機基からなる脱離基とを含む接合膜とを有する接合膜付き基材と、互いの接合面が対向するように重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材とを用意する第1の工程と、
前記閉空間になり得る位置にデバイスを載置する第2の工程と、
前記接合膜付き基材の前記接合膜を所定形状にパターニングする第3の工程と、
パターニングされた前記接合膜にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記接合膜と前記第1の部材の接合面とが密着するように、前記接合膜付き基材と前記第1の部材とを積層し、第1の仮接合体を得る第4の工程と、
前記第1の仮接合体から前記基材を剥離して、前記第1の部材にパターニングされた前記接合膜を転写し、第2の仮接合体を得る第5の工程と、
前記第2の仮接合体の前記接合膜の剥離面にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記互いの接合面が対向するように、前記第2の仮接合体と前記第2の部材とを積層し、前記デバイスが収納された前記閉空間を気密封止し、封止型デバイスを得る第6の工程とを有することを特徴とする。
これにより、信頼性の高い封止型デバイスを効率よく製造することができる。
本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記第3の工程において、前記接合膜付き基材の前記接合膜は、前記閉空間に対応する領域の周囲を囲う枠状の形状にパターニングされることが好ましい。
これにより、気密性の高い封止型デバイスを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)により製造される封止型デバイスの一例である水晶振動子の構成を示す平面図および断面図である。
【図2】図1に示す水晶振動子の分解斜視図である。
【図3】本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)の実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)の実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)の実施形態を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)に用いられる接合膜転写シートが備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図である。
【図7】本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)に用いられる接合膜転写シートが備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。
【図8】本発明の接合方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の接合方法および封止型デバイスの製造方法を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)により製造される封止型デバイスの一例である水晶振動子の構成を示す平面図および断面図、図2は、図1に示す水晶振動子の分解斜視図、図3〜5は、本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)の実施形態を説明するための図(縦断面図)、図6は、本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)に用いられる接合膜転写シートが備える接合膜のエネルギー付与前の状態を示す部分拡大図、図7は、本発明の封止型デバイスの製造方法(本発明の接合方法)に用いられる接合膜転写シートが備える接合膜のエネルギー付与後の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、説明の便宜上、図4〜8中の上側を「上」、下側を「下」という。
以下、本発明の接合方法の一例として、図1に示す水晶振動子1を製造する方法(本発明の封止型デバイスの製造方法)について説明する。
【0018】
(封止型デバイス)
まず、本発明の封止型デバイスの製造方法を用いて製造された水晶振動子(封止型デバイス)について説明する。
図1に示す水晶振動子(封止型デバイス)1は、有底箱状をなし、内側に凹部22を有するケース(第1の部材)2と、ケース2の上方に設けられ、凹部22の開口部を覆うことにより、凹部22を閉塞する蓋体(第2の部材)4と、凹部22内に設けられた水晶振動片5とを有する。そして、ケース2と蓋体4との間は、接合膜3により接合されている。これにより、ケース2と蓋体4との間は気密封止され、凹部22は閉空間となる。
【0019】
ここで、水晶振動片5には、図示しない電気配線が設けられており、この電気配線はケース2の外表面に設けられた図示しない電極パッドと導通している。これにより、水晶振動片5にはケース2の外部から電圧を印加し得るようになっている。
水晶振動片5に電圧を印加すると、水晶の逆圧電効果により、ある一定の周波数(共鳴周波数)で水晶振動片5を振動させることができる。また、水晶振動片5が振動すると、今度は水晶の圧電効果により、ある一定の周波数で電極パッドに電圧の変動が生じる。これらの性質を利用して、水晶振動子1は、共鳴周波数で振動する電気信号を発生させる電子部品として利用される。
【0020】
ところで、水晶振動子1の凹部22内は、通常、減圧下または不活性ガス雰囲気下に維持される。これは、水晶振動片5の振動抵抗を減少させるとともに、水晶振動片5や凹部22内に設けられた電気配線等の変質・劣化を防止するためである。よって、ケース2と蓋体4との接合部には、減圧状態または不活性ガス充填状態を長期にわたって維持するための高度な気密性(または液密性)が要求される。
【0021】
図1に示す水晶振動子1では、このような接合部の気密性が接合膜3により確保されている。
以下、図1に示す水晶振動子1の各部について詳述する。
ケース2は、図1(a)に示すように、平面視にて長方形をなしており、その内側には平面視で長方形をなす凹部22を有している。また、ケース2は、図1(b)に示すように、凹部22の側面を囲うように設けられた側壁23と、凹部22の下方に設けられた底部24とで構成されている。
底部24の上面のうち、左端近傍は部分的に高くなっており、水晶振動片5を支持する支持部21となっている。
このようなケース2は、絶縁性を有する材料で構成されており、その材料としては、例えば、各種ガラス材料、各種セラミックス材料、各種シリコン材料、各種樹脂材料等が挙げられる。なお、ケース2が絶縁性を必要としない場合は、各種金属材料、各種炭素材料等であってもよい。
【0022】
水晶振動片5は、平板状をなしており、その左端が支持部21上に固定されている。水晶振動片5は、この固定部(支持部)のみで固定されており、それ以外の部分は、凹部22の空間内に浮いた状態で保持されている。
この水晶振動片5の構成材料は、水晶に限らず、圧電材料であればよい。圧電材料としては、例えば、水晶、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ホウ酸リチウム、チタン酸バリウム等が挙げられる。
水晶振動片5と支持部21との間は、マウント材6により固定されている。
マウント材6の構成材料としては、例えば、エポキシ系、シリコーン系のような各種接着剤、各種ハンダ、各種ろう材等が挙げられる。
【0023】
ケース2の側壁23上に設けられた蓋体4の構成材料としては、いかなる材料をも用いられるが、ケース2と同様の材料や、各種金属材料等が挙げられる。
ケース2と蓋体4との接合は、ケース2の側壁23の上面である接合面231と、蓋体4の下面の縁部である接合面401との間でなされており、この間に設けられた、平面視で四角形の枠状をなす接合膜3が担っている。この接合膜3は、図2の分解斜視図に示すように、ケース2の側壁23の接合面231に成膜(転写)された後、蓋体4を接合面401において接合する機能を発揮する。
【0024】
本発明では、この接合膜3が、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むもので構成される。換言すれば、接合膜31(3)は、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、このシロキサン結合に結合する脱離基とを含むものである。このような接合膜3は、それ自体が高密度で通気性が低く、ケース2や蓋体4に対して強固に密着するものであるため、極めて高度な気密性を維持することができる。
【0025】
(封止型デバイスの製造方法)
上述したような水晶振動子1は、本発明の封止型デバイスの製造方法を用いて次のようにして製造される。
図1に示す水晶振動子1の製造方法は、基材20と、その上に設けられた接合膜31とを有する接合膜転写シート(接合膜付き基材)10と、互いの接合面231、401が対向するように接合されるケース2および蓋体4とを用意する第1の工程(準備工程)と、凹部22内に水晶振動片5を収納する第2の工程と、接合膜転写シート10の接合膜31を所定形状にパターニングすることにより、パターニングされた接合膜3を得る第3の工程(パターニング工程)と、パターニングされた接合膜3にエネルギーを付与することにより、接合膜3に接着性を発現させるとともに、接合膜3とケース2の接合面231とが密着するように、接合膜転写シート10とケース2とを積層し、第1の仮接合体7を得る第4の工程(仮接合工程)と、第1の仮接合体7から基材20を剥離して、ケース2の接合面231に接合膜3を転写し、第2の仮接合体8を得る第5の工程(転写工程)と、転写された接合膜3の剥離面にエネルギーを付与することにより、接合膜3の剥離面に接着性を発現させるとともに、接合面231と接合面401とが対向するように、第2の仮接合体8と蓋体4とを積層することにより、凹部22を気密封止し、水晶振動子1を得る第6の工程(本接合工程)とを有する。
【0026】
このようにして得られた水晶振動子1は、気密性に優れた、信頼性の高いものとなる。また、本発明の接合方法および本発明の封止型デバイスの製造方法によれば、このような水晶振動子1を低温化であっても効率よく製造することができる。さらに、ケース2にパターニングされた接合膜3を簡単に転写することができるので、接合膜3が転写されたケース2と蓋体4との接合面231、401における接合領域を制御しつつ、簡単な操作でケース2と蓋体4とを接合することができる。
以下、水晶振動子1を製造する各工程について順次説明する。
【0027】
[1]まず、接合膜転写シート10と、ケース2および蓋体4とを用意する(第1の工程)。
(接合膜転写シート)
以下、接合膜転写シート10について説明する。
図3(a)に示す接合膜転写シート10は、基材20と、基材20上に成膜された接合膜31とを有するものである。このような接合膜転写シート10は、本実施形態では、ケース2が有する接合面231に対して、この接合膜31が所定形状にパターニングされた接合膜3を転写するように用いられる。
【0028】
この接合膜31(3)は、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造を有するSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを含むものである。また、基材20は、好ましくは接合膜31に対する剥離性を有するものである。
このような接合膜31は、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与することにより、接合膜31に存在する脱離基がSi骨格から脱離し、エネルギーを付与した領域に接着性が発現するという特徴を有する。そして、この接合膜31が所定形状にパターニングされた接合膜3は、この接着性を利用してケース2に接合されるとともに、基材20との界面で剥離することで、ケース2に転写される。
【0029】
以下、基材20と接合膜31とを有する接合膜転写シート10の各部の構成について詳述する。
基材20は、接合膜31を支持するものであり、好ましくは接合膜31に対する剥離性を有するものである。また、図3に示す基材20は、両面が平坦面である基板状(シート状)のものであり、その厚さは全体で均一である。
【0030】
基材20の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アラミド系樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等の樹脂系材料、フッ化チタン酸カリウム、ケイフッ化カリウム、フッ化ジルコン酸カリウム、ケイフッ酸等のフッ素系無機材料が挙げられる。
【0031】
このうち、基材20は、可撓性を有するものが好ましい。これにより接合膜転写シート10は、ケース2と積層する際に、積層界面の密着性を高めることができる。これは、基材20が可撓性を有しているため、仮にケース2の表面に凹凸があったとしても、接合膜転写シート10がその凹凸形状に沿って変形し得るため、両者の密着性が向上するからである。したがって、基材20が可撓性を有することにより、第1の仮接合体7において、接合膜転写シート10とケース2との積層ムラを抑制し、接合膜3を確実に転写することができる。
【0032】
また、ケース2に積層した接合膜転写シート10から基材20を剥離する際に、基材20は容易に湾曲し得るものとなる。このため、剥離作業が容易になるとともに、剥離の際に基材20が接合膜31に損傷を与えるなどの不具合が防止される。
さらに、基材20が可撓性を有することにより、接合膜転写シート10自体も可撓性を有するものとなる。このような接合膜転写シート10は、ロール状に巻き取ることができるので、保管時および搬送時に省スペース化が図られる。さらに、ロール状に巻き取られた接合膜転写シート10は、順次繰り出されることにより必要な長さを容易に供給可能である。このため、本発明の封止型デバイスの製造方法および本発明の接合方法を例えば接合装置により行う場合、接合膜転写シート10は装置への親和性に優れた、量産に適したものとなる。
【0033】
また、基材20は、樹脂系材料を主材料とするものが好ましく、この樹脂系材料は、特にフッ素系樹脂、ポリオレフィン、ポリエステルおよびポリイミドのいずれかであるのがより好ましい。このような基材20は、特に可撓性に優れているばかりか、接合膜31に対する優れた剥離性を有しているため、上述したような効果がより顕著になる。特に小さな曲率半径で湾曲させた場合でも、基材20が破断するおそれが少ないため、前述した剥離プロセスを容易かつ確実に行うことができる。なお、フッ素系樹脂の具体例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロエチレン−プロペン共重合体(FEP)およびエチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)等が挙げられる。
【0034】
さらに、樹脂系材料は軽量であるため、大量の接合膜転写シート10をロール状に巻き取ったとしても、そのロールは比較的軽量で可搬性に優れたものとなるため、取り扱いが容易になる。
このような基材20の平均厚さは、構成材料や目的とする可撓性に応じて適宜設定されるが、一例として0.001mm以上10mm以下程度であるのが好ましく、0.01mm以上3mm以下程度であるのがより好ましい。
【0035】
また、基材20は、その表面エネルギー(表面自由エネルギー)が、ケース2の表面エネルギーより小さいものであるのが好ましい。これによりケース2は、接合膜31に対して相対的に高い密着性を示し、接合膜31と強固に接合される一方、基材20は、接合膜31に対して相対的に低い密着性を示す。すなわち、ケース2と接合膜31との界面は相対的に強固に接合される一方、基材20と接合膜31との界面の接合強度は相対的に低くなる。これにより、接合膜転写シート10とケース2とを積層し、得られた第1の仮接合体7から基材20を剥離する際には、ケース2と接合膜31との界面で剥離を生じさせることなく、基材20と接合膜31との界面で確実に剥離を生じさせることができる。その結果、接合膜31をケース2に確実に転写することができる。
【0036】
具体的な基材20の表面エネルギーは、5mN/m以上200mN/m以下であるのが好ましく、10mN/m以上100mN/m以下であるのがより好ましい。基材20の表面エネルギーが前記範囲内であれば、基材20は、接合膜転写シート10として製造され流通する際、意図しないときに基材20と接合膜31との界面で剥離してしまうことが防止されるとともに、ケース2に接合膜31を転写する際には、適度な剥離力を加えることで基材20と接合膜31との界面で容易かつ確実に剥離させることができる。
【0037】
一方、ケース2の表面エネルギーは、基材20の表面エネルギーより高ければよいが、好ましくは1.1倍以上とされ、より好ましくは1.5倍以上とされ、さらに好ましくは2倍以上とされる。この程度の差があれば、基材20やケース2の表面エネルギーのバラツキが十分に吸収されるため、両者の密着強度の大小関係が部分的に逆転してしまうのを防止することができる。
なお、このような大きな表面エネルギーを有するケース2の構成材料としては、後に詳述するが、無機材料が好ましく用いられる。
【0038】
また、基材20の表面エネルギーは、前述したようにケース2の表面エネルギーより小さいことが好ましいが、何らかの表面処理等により、ケース2と接合膜31との接合強度を強制的に高めた場合には、必ずしも小さくなくてもよい。かかる表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理、または、これらを組み合わせた処理等が挙げられる。このような処理を施すことにより、ケース2の表面を清浄化するとともに、活性化させることができる。その結果、ケース2と接合膜31との密着強度を確実に高めることができる。
【0039】
また、物理的表面処理では、ケース2の表面の表面粗さを高めることによって、ケース2と接合膜31との界面にアンカー効果を生じさせ、密着強度の向上を図ることができる。
なお、基材20は、母材と、その表面に設けられ、接合膜31に対する剥離性を有する剥離層とで構成されるものであってもよい。これにより、母材の組成に関係なく、接合膜31に対する剥離性を有するものとなる。この場合、剥離層としては、上述した基材20と同様の特性を有するものであるのが好ましい。すなわち、剥離層の構成材料としては、前述した基材20の構成材料が挙げられ、剥離層の表面エネルギーは、前述した基材20の表面エネルギーと同様であるのが好ましい。
【0040】
剥離層は、例えば、液状材料を塗布または印刷することにより液状被膜を得た後、乾燥により被膜を形成する各種液相成膜法、CVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法等の各種気相成膜法、電界めっき法、無電解めっき法等の各種めっき法等により成膜される。
また、剥離層は、接合膜31に対して親和性の低い官能基を有するカップリング剤を基材20の上面に供給することによっても成膜可能である。このようなカップリング剤によれば、1分子または数分子程度の極薄い剥離層を形成することができる。このため、基材20に対する剥離層の密着性が向上し、基材20を湾曲させた際に、剥離層が基材20から剥がれ難くなる。
また、カップリング剤を用いて形成された剥離層では、上述した接合膜31に対して親和性の低い官能基の存在密度が高くなる。このため、剥離層の表面にはこの官能基が隙間なく並ぶこととなり、剥離層と接合膜31との界面の接合強度をムラなく抑えることができる。
【0041】
接合膜31に対して親和性の低い(剥離性を示す)官能基としては、例えば、フッ素原子、フルオロアルキル基、フルオロアルケニル基、フルオロアルキニル基、フルオロアリール基、フルオロアルコキシ基、フルオロアリールオキシ基、フルオロアルキルチオ基、フルオロアリールチオ基のようなフルオロ基、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基等が挙げられる。
【0042】
また、フルオロ基を含有するカップリング剤としては、例えば、トリデカフルオロ−1,1,2,2テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2テトラヒドロオクチルトリクロロシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
剥離層の平均厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.001μm以上1000μm以下程度、より好ましくは0.002μm以上500μm以下程度とされる。これにより、基材20に対する剥離層の密着性と、剥離層の接合膜31に対する剥離性が良好になる。また、剥離層の厚さが前記範囲内であれば、基材20の表面の平滑性が低い場合でも、剥離層の表面の平滑性を比較的高めることができる。これにより、剥離層と接合膜31との界面に生じる隙間が抑制されることとなり、接合膜転写シート10とケース2とを積層し、さらに圧縮した際に、接合膜転写シート10とケース2とをムラなく密着させることができる。その結果、接合膜31を確実に転写することができる。
【0044】
以上のような基材20の上面には、接合膜31が設けられる。この接合膜31は、前述したように、その少なくとも一部の領域にエネルギーを付与することにより、その領域に接着性が発現するという特徴を有するものである。
かかる特徴を有する接合膜31は、図6に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含み、ランダムな(または結晶性が低い)原子構造(アモルファス構造)を有するSi骨格301と、このSi骨格301に結合する脱離基303とを有するものである。このような接合膜31は、シロキサン結合302を含みランダムな原子構造を有するSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜となる。これは、Si骨格301の結晶性が低くなる(非晶質化する)ため、結晶粒界における転位やズレ等の欠陥が生じ難いためであると考えられる。このため、接合膜31自体が接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる水晶振動子1においても、接合強度、耐薬品性、耐光性および寸法精度が高いものが得られる。
【0045】
接合膜31(3)にエネルギーが付与されると、脱離基303がSi骨格301から脱離し、図7に示すように、接合膜31の表面35および内部に、活性手304が生じる。そして、これにより、接合膜31表面に接着性が発現する。かかる接着性が発現すると、接合膜31は、ケース2に対して強固に効率よく接合可能なものとなる。
なお、脱離基303とSi骨格301との結合エネルギーは、Si骨格301中のシロキサン結合302の結合エネルギーよりも小さい場合が多い。これは、シロキサン結合302の結合エネルギーが、約430kJ/molと他の結合種に比べてもかなり大きいからであり、したがって、接合膜31にエネルギーが付与されると、Si骨格301の破壊を招くことなく、脱離基303とSi骨格301との結合を選択的に切断し、脱離基303を脱離させることができる。
【0046】
また、このような接合膜31は、比較的無機材料に近い構造を有していることなどから、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、従来、流動性を有する液状または粘液状の接着剤に比べて、接着層(接合膜31)の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、水晶振動子1の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間での接合が可能となる。
また、製造後の接合膜転写シート10を流通させる場合には、接合膜31が固体状であるため、流通または保管途中で接合膜31が流れ出す等の不具合が防止される。
【0047】
なお、接合膜31においては、特に接合膜31を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10原子%以上90原子%以下程度であるのが好ましく、20原子%以上80原子%以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜31はSi原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、膜自体が強固なものとなる。このような接合膜31は、ケース2に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
【0048】
また、接合膜31中のSi原子とO原子の存在比は、3:7以上7:3以下程度であるのが好ましく、4:6以上6:4以下程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜31の安定性が高くなり、ケース2に対してより強固に接合することができるようになる。
また、接合膜31中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、Si骨格301は十分にランダムな原子構造を含むものとなり、より非晶質的な特性を示す。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜31の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。また、膜自体の機械的強度および密度も向上することから、通気性をより低下させることができる。これにより、接合膜31による気密性がより高度化される。
【0049】
なお、Si骨格301の結晶化度は、一般的な結晶化度測定方法により測定することができ、具体的には、結晶部分における散乱X線の強度に基づいて測定する方法(X線法)、赤外線吸収の結晶化バンドの強度から求める方法(赤外線法)、核磁気共鳴吸収の微分曲線の下の面積に基づいて求める方法(核磁気共鳴吸収法)、結晶部分には化学試薬が浸透し難いことを利用した化学的方法等により測定することができる。
このうち、簡便性等の観点からX線法が好ましく用いられる。
【0050】
また、Si骨格301の結晶化度を測定する際には、接合膜31に対して上述の測定方法を適用すればよいが、あらかじめ接合膜31に前処理を施しておくのが好ましい。この前処理としては、後述する接合膜31にエネルギーを付与する処理(例えば、紫外線照射処理等)が挙げられる。エネルギーの付与により、接合膜31中の脱離基が脱離し、Si骨格301の結晶化度をより正確に測定することが可能になる。
【0051】
また、接合膜31は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、例えばプラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に生じ、シロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格301を効率よく形成することができる。
【0052】
一方、接合膜31中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、接合膜31の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001以上0.2以下程度であるのが好ましく、0.002以上0.05以下程度であるのがより好ましく、0.005以上0.02以下程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜31中の原子構造は、相対的に最もランダムなものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜31は、接合強度、耐薬品性および寸法精度において特に優れたものとなる。
【0053】
このような接合膜31は、いかなる方法で作製されたものであってもよく、プラズマ重合法、CVD法(特にプラズマCVD法)、PVD法のような各種気相成膜法や、各種液相成膜法等により作製することができる。これらの中でも、プラズマ重合法によれば、緻密で均質な接合膜31を効率よく作製することができる。また、プラズマ重合法で作製された接合膜31では、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、水晶振動子1の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
【0054】
ところで、Si骨格301に結合する脱離基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜31に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。したがって、脱離基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合しているものである必要がある。
なお、プラズマ重合法による成膜の際には、原料ガスの成分が重合して、シロキサン結合を含むSi骨格301と、それに結合した残基とを生成するが、例えばこの残基が脱離基303となり得る。また、その他の成膜法においても、原料に含まれた残基が脱離基303となり得る。
【0055】
脱離基303には、Si骨格301に結合可能でかつ脱離可能な原子団であれば、特に限定されないが、H原子、B原子、C原子、N原子、O原子、P原子、S原子およびハロゲン系原子、またはこれらの各原子を含み、これらの各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団からなる群から選択される少なくとも1種で構成されたものが好ましく用いられる。かかる脱離基303は、エネルギーの付与による結合/脱離の選択性に比較的優れている。このため、このような脱離基303は、上記のような必要性を十分に満足し得るものとなり、接合膜31の接着性をより高度なものとすることができる。
【0056】
なお、上記のような各原子がSi骨格301に結合するよう配置された原子団(基)としては、例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基、ビニル基、アリル基のようなアルケニル基、アルデヒド基、ケトン基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基、メルカプト基、スルホン酸基、シアノ基、イソシアネート基等が挙げられる。
【0057】
これらの各基の中でも、脱離基303は、特に有機基であるのが好ましく、アルキル基であるのがより好ましい。有機基およびアルキル基は化学的な安定性が高いため、有機基およびアルキル基を含む接合膜31は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなる。
ここで、脱離基303が特にメチル基(−CH)である場合、その好ましい含有率は、赤外光吸収スペクトルにおけるピーク強度から以下のように規定される。
【0058】
すなわち、接合膜31の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、メチル基に帰属するピークの強度は、0.05以上0.45以下程度であるのが好ましく、0.1以上0.4以下程度であるのがより好ましく、0.2以上0.3以下程度であるのがさらに好ましい。メチル基のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対する割合が前記範囲内であることにより、メチル基がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、接合膜31中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、接合膜31に十分な接着性が生じる。また、接合膜31には、メチル基に起因する十分な耐候性および耐薬品性が発現する。
このような特徴を有する接合膜31の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合とそれに結合した脱離基303となり得る有機基とを含む重合物等が挙げられる。
【0059】
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜31は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜31は、ケース2に対して特に強固に被着するとともに、蓋体4に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、ケース2と蓋体4を強固に接合することができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
【0060】
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれた有機基(例えばアルキル基)による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜31は、エネルギーを付与されることにより、表面35に接着性が発現するとともに、表面35以外の部分においては、前述した有機基による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、このような接合膜31は、耐候性および耐薬品性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような水晶振動子、光学素子、液滴吐出ヘッド等の組み立てに際して、特に有効である。
【0061】
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜31は、接着性に特に優れるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
【0062】
このような接合膜31の平均厚さは、1nm以上1000nm以下程度であるのが好ましく、2nm以上800nm以下程度であるのがより好ましい。接合膜13の平均厚さを前記範囲内とすることにより、水晶振動子1の寸法精度が著しく低下するのを防止しつつ、基材20とケース2とをより強固に接合することができる。
なお、接合膜31の平均厚さが前記下限値を下回った場合は、十分な接合強度が得られないおそれがある。一方、接合膜31の平均厚さが前記上限値を上回った場合は、水晶振動子1の寸法精度が低下するおそれがある。
【0063】
さらに、接合膜31の平均厚さが前記範囲内であれば、接合膜31にある程度の形状追従性が保たれる。このため、例えば、ケース2の接合面(接合膜31に隣接する面)に凹凸が存在している場合でも、その凹凸の高さにもよるが、凹凸の形状に追従するように接合膜31を被着させることができる。その結果、接合膜31は、凹凸を吸収して、その表面に生じる凹凸の高さを緩和することができる。そして、接合膜転写シート10とケース2とを貼り合わせた際に、両者の密着性を高めることができる。
なお、上記のような形状追従性の程度は、接合膜31の厚さが厚いほど顕著になる。したがって、形状追従性を十分に確保するためには、接合膜31の厚さをできるだけ厚くすればよい。
【0064】
以上のような接合膜転写シート10は、必要に応じて、接合膜31の上面を覆うように設けられたカバーシートを備えたものでもよい。かかるカバーシートは、接合膜31の上面を保護し、異物の付着や接合膜31の損傷等を防止する。これにより、接合膜転写シート10は、耐久性に優れたものとなり、長期の保存や流通に適したものとなる。
このカバーシートは、接合膜転写シート10を使用する前に剥離される。この際、接合膜31とカバーシートとの界面で確実に剥離が生じる必要があることから、この界面の密着強度は、基材20と接合膜31との密着強度より小さいことが好ましい。
【0065】
かかる観点から、カバーシートは、その表面エネルギーが、基材20の表面エネルギーより小さいものであるのが好ましい。これにより基材20は、接合膜31に対して相対的に高い密着性を示し、接合膜31と比較的強く密着する一方、カバーシートは、接合膜31に対して相対的に低い密着性を示すこととなる。その結果、仮に接合膜転写シート10に意図せずエネルギーが付与されたとしても、カバーシートと接合膜31との間が接合してしまうのを防止し、接合膜31との界面で確実に剥離可能なカバーシートが得られる。
【0066】
具体的には、カバーシートの表面エネルギーは、基材20の表面エネルギーの0.3倍以上0.95倍以下程度であるのが好ましく、0.4倍以上0.9倍以下程度であるのがより好ましい。
カバーシートの構成材料としては、前述した基材20と同様の構成材料が挙げられる。
また、接合膜転写シート10は、ロール状に巻き取られた状態で保管または流通することもあるため、カバーシートには基材20と同様、可撓性を有するものが好ましく用いられる。
【0067】
次に、基材20上に所定形状をなす接合膜31を作製する方法について説明する。
接合膜31は、前述したようにいかなる作製方法でも成膜してよいが、ここでは一例として、プラズマ重合法を用いて接合膜31を作製する方法について説明する。以下、作製方法の説明に先立って、プラズマ重合法を用いて、所定形状をなす接合膜31を作製する際に使用するプラズマ重合装置について説明する。
【0068】
図8は、本発明の接合方法に用いられるプラズマ重合装置を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図8に示すプラズマ重合装置100は、チャンバー101と、基材20を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気するポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
【0069】
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
図8に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
【0070】
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104にはポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
第1の電極130は板状をなしており、基材20を支持している。
【0071】
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図8に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
第1の電極130の基材20を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図8に示すように、基材20を鉛直方向に沿って支持することができる。また、基材20に多少の反りがあっても、静電チャック139に吸着させることにより、その反りを矯正した状態で基材20をプラズマ処理に供することができる。
【0072】
第2の電極140は、基材20を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
【0073】
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
【0074】
図8に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
【0075】
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、プラズマ重合装置100により、重合して基材20の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、原料ガスについては、後に詳述する。
【0076】
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
【0077】
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による基材20の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部190の動作状況に応じて、適宜設定される。
【0078】
次に、上記のプラズマ重合装置100を用いて、基材20上に、接合膜31を作製する方法について説明する。
図3は、基材20上に接合膜31を作製する方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図3中の左側図における上側を「上」、下側を「下」と言う。
接合膜は、強電界中に、原料ガスとキャリアガスとの混合ガスを供給することにより、原料ガス中の分子を重合させ、重合物を基材20上に堆積させることにより得ることができる。以下、詳細に説明する。
【0079】
[1−1]まず、上述した基材20を用意する。
[1−2]次に、基材20をプラズマ重合装置100のチャンバー101内に収納する。そして、この状態で、プラズマ重合装置100を作動させることにより、基材20上にプラズマ重合膜を成膜する。これにより、図3(a)に示すように、基材20の上面(本実施形態では、上面のほぼ全面)に接合膜31が成膜される。
【0080】
以下、プラズマ重合装置100の作動方法を詳述する。
まず、チャンバー101を封止し、次いで、ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
次いで、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される。
【0081】
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を20体積%以上70体積%以下程度に設定するのが好ましく、30体積%以上60体積%以下程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
【0082】
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、1ccm以上100ccm以下程度に設定するのが好ましく、10ccm以上60ccm以下程度に設定するのがより好ましい。
次いで、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、重合物が基材20上に付着・堆積する。これにより、プラズマ重合膜からなる接合膜31が形成される。これにより、プラズマ重合膜からなる接合膜31が基材20上に形成される。
【0083】
また、プラズマの作用により、基材20の表面が活性化・清浄化される。このため、原料ガスの重合物が基材20の表面に堆積し易くなり、接合膜31の安定した成膜が可能になる。このようにプラズマ重合法によれば、基材20の構成材料によらず、基材20上に接合膜31を確実に成膜することができる。
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0084】
このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz以上100MHz以下程度であるのが好ましく、10MHz以上60MHz以下程度であるのがより好ましい。
【0085】
また、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01W/cm以上100W/cm以下程度であるのが好ましく、0.05W/cm以上50W/cm以下程度であるのがより好ましく、0.05W/cm以上1W/cm以下程度であるのがさらに好ましい。高周波の出力密度を前記範囲内とすることにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを防止しつつ、ランダムな原子構造を有するSi骨格301を確実に形成することができる。すなわち、高周波の出力密度が前記下限値を下回った場合、原料ガス中の分子に重合反応を生じさせることができず、接合膜31を形成することができないおそれがある。一方、高周波の出力密度が前記上限値を上回った場合、原料ガスが分解する等して、脱離基303となり得る構造がSi骨格301から分離してしまい、得られる接合膜31において脱離基303の含有率が低くなったり、Si骨格301のランダム性が低下する(規則性が高くなる)おそれがある。
【0086】
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5Pa以上1333Pa以下(1×10−5Torr以上10Torr以下)程度であるのが好ましく、133.3×10−4Pa以上133.3Pa以下(1×10−4Torr以上1Torr以下)程度であるのがより好ましい。
原料ガス流量は、0.5sccm以上200sccm以下程度であるのが好ましく、1sccm以上100sccm以下程度であるのがより好ましい。一方、キャリアガス流量は、5sccm以上750sccm以下程度であるのが好ましく、10sccm以上500sccm以下程度であるのがより好ましい。
処理時間は、1分以上30分以下程度であるのが好ましく、1分以上15分以下程度であるのがより好ましい。
また、基材20の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25℃以上100℃以下程度であるのがより好ましい。
【0087】
以上のようにして、プラズマ重合装置100を用いて、基材20上に接合膜31が形成された接合膜転写シート10が得られる。
る。
なお、接合膜31は、その厚さにもよるが比較的高い透光性を有したものとなる。そして、接合膜31の形成条件(プラズマ重合の際の条件や原料ガスの組成等)を適宜設定することにより、接合膜31の屈折率を調整することができる。具体的には、プラズマ重合の際の高周波の出力密度を高めることにより、接合膜31の屈折率を高めることができ、反対に、プラズマ重合の際の高周波の出力密度を低くすることにより、接合膜31の屈折率を低くすることができる。
【0088】
具体的には、シラン系ガスを原料とするプラズマ重合法によれば、屈折率の範囲が1.35以上1.6以下程度の接合膜31が得られる。このような接合膜31は、その屈折率が、水晶や石英ガラスの屈折率に近いため、例えば接合膜31を光路が貫通するような構造の光学部品を製造する際に好適に用いられる。また、接合膜31の屈折率を調整することができるので、所望の屈折率の接合膜31を作製することができる。
【0089】
[2]次に、ケース2の凹部22内に水晶振動片5を収納する(第2の工程)。そして、水晶振動片5とケース2の支持部21とをマウント材6により固定する。
[3]次に、接合膜転写シート10の基材20上に形成された接合膜31を所定形状にパターニングすることにより、パターニングされた接合膜3を得る(第3の工程)。
すなわち、本実施形態では、基材20上に、四角形の枠状をなす接合膜3を形成する。
この接合膜31のパターニングは、如何なる方法によって、パターニングしても良いが、例えば、以下に示すような方法により行うことができる。
【0090】
[3−1]まず、マスク36を用意する。
このマスク36は、その全体形状が、形成すべき接合膜3の形状に対応した形状をなしている。すなわち、本実施形態では、マスク36は四角形の枠状をなしている。
そして、マスク36を、接合膜3を形成すべき領域に重なるように、接合膜31上に配置する(図3(b)参照。)。これにより、接合膜31のうち、接合膜3を形成すべき領域が遮蔽される。
【0091】
[3−2]次に、マスク36を接合膜31上に配置した状態で、物理的エッチング処理を施す。これにより、接合膜31のうちマスク36により遮蔽されていない領域が除去され、その結果、図3(c)に示すように、基材20の縁部近傍に、四角形の枠状をなす接合膜3が選択的に形成される。
ここで、接合膜31の一部を除去する方法として、物理的エッチング法を用いることにより、ウェットエッチング等の化学的エッチング法を用いる場合のように、接合膜31が強アルカリ性を示すエッチング液に曝されるのを確実に防止することができるため、形成された接合膜3のエッチング面における変質・劣化を的確に抑制または防止することができる。
【0092】
また、上述したように、マスク36を接合膜31上に配置した状態で接合膜31を物理的エッチングする方法によれば、フォトリソグラフィー法を用いて形成したレジスト層により接合膜31をパターニングする場合と比較して、レジスト層の形成および除去に伴う工程を省略できるため、製造工程の簡略化を図ることができる。
物理的エッチング法としては、特に限定されず、例えば、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチングおよび光アシストエッチング等が挙げられるが、これらの中でもプラズマエッチング法であるのが好ましい。プラズマエッチング法によれば、優れた精度でパターニングされた接合膜3を確実に得ることができる。
【0093】
また、プラズマエッチング法に用いる処理ガスとしては、例えば、CF、C、C、C、CClF、SF等のフッ素原子含有化合物ガスやCl、BCl、CCl等の塩素原子含有化合物ガスなどの各種ハロゲン系ガスが好適に用いられる。
このようにしてパターニングされた接合膜3は、後述する工程において、ケース2の接合面231に転写される。そして、ケース2の接合面231と、蓋体4の接合面401とが対向するようにケース2と蓋体4とを重ね合わせることにより、この接合膜3を介して、ケース2と蓋体4とが接合される。そして、このとき、接合膜3は、ケース2の凹部22を隙間なく取り囲むように枠状に形成されているため、接合膜3を介してケース2と蓋体4とを接合することで、凹部22が気密封止される。
なお、マスク36の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスクのような各種金属材料、シリコンマスクのような各種半導体材料、各種樹脂材料、各種セラミックス材料、各種ガラス材料等が挙げられる。
【0094】
[4]次に、図3(d)に示すように、接合膜転写シート10が備える接合膜3にエネルギーを付与する。エネルギーを付与すると、接合膜3に接着性が発現する。この接着性を利用して接合膜転写シート10の接合膜3をケース2の接合面231に積層する。これにより、図4(a)に示す第1の仮接合体7が得られる。(第4の工程)。
接合膜3にエネルギーを付与する方法としては、いかなる方法であってもよいが、例えば、エネルギー線を照射する方法、加熱する方法、圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。
【0095】
このうち、エネルギーを付与する方法は、プラズマに曝す方法およびエネルギー線を照射する方法の少なくとも一方であるのが好ましい。かかる方法によれば、接合膜3を効率よく活性化させる。また、この方法によれば、接合膜3中の結合を必要以上に(例えば、基材20との界面に至るまで)切断しないので、接合膜3の特性が低下してしまうのを避けることができる。
【0096】
プラズマに曝す方法には、大気圧プラズマが好ましく用いられる。大気圧プラズマによれば、減圧手段等の高価な設備を用いることなく、容易にプラズマ処理を行うことができる。また、このプラズマ処理には、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるダイレクトプラズマ方式の他、被処理物とプラズマ発生部とが離間したリモートプラズマ方式またはダウンフロープラズマ方式による処理も好ましく用いられる。ダイレクトプラズマ方式によれば、接合膜3の近傍でプラズマを発生させるため、プラズマ処理を効率よくかつ均一に行うことができる。また、リモートプラズマ方式やダウンフロープラズマ方式のように被処理物とプラズマ発生部とが離間している場合、被処理物とプラズマ発生部とが干渉しないため、被処理物(接合膜3)をイオン損傷から避けることができる。
【0097】
一方、エネルギー線としては、例えば、紫外光、レーザー光のような光、電子線、粒子線等が挙げられる。
このうち、エネルギー線には、特に紫外線(例えば波長126nm以上300nm以下程度)を用いるのが好ましい。かかる紫外線によれば、接合膜3の特性の著しい低下を防止しつつ、広い範囲をムラなく、より短時間に処理することができる。このため、接合膜3の活性化をより効率よく行うことができる。また、紫外線には、紫外ランプ等の簡単な設備で発生させることができるという利点もある。
【0098】
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160nm以上200nm以下程度とされる。
また、紫外線を照射する時間は、接合膜3の表面付近の化学結合を切断し得る程度の時間であればよく、特に限定されないが、0.5分以上30分以下程度であるのが好ましく、1分以上10分以下程度であるのがより好ましい。
【0099】
このようにしてエネルギーが付与され、活性化された接合膜3には、終端化されていない結合手(ダングリングボンド)や、この結合手に周囲の水分が接触してなる水酸基(OH基)等が露出する。なお、前述の「活性化させる」とは、接合膜3の表面付近および内部の結合が切断されて、終端化されていない結合手が生じた状態や、その結合手に水酸基が結合した状態のいずれか一方、または、これらの状態が混在した状態のことをいう。
また、接合膜3が接合(転写)される相手となるケース2の接合面231は、水酸基(OH基)が結合している状態になっているのが好ましい。このような状態になっていると、接合面231と接合膜3との接合強度が向上することとなり、水晶振動子1の気密性がより高くなる。なお、かかる効果は、以下のような現象によるものと推察される。
【0100】
本工程において、接合膜3と接合面231とを接触させたとき、接合面231に存在する水酸基と、接合膜3に存在する水酸基とが、水素結合によって互いに引き合い、水酸基同士の間に引力が発生する。
また、この水素結合によって互いに引き合う水酸基同士は、温度条件等によって、脱水縮合する。その結果、接合膜3と接合面231との接触界面では、脱離したOH基が結合していた結合手同士が酸素原子を介して結合する。これにより、接合膜3と接合面231とがより強固に接合される。
【0101】
なお、接合面231に水酸基が結合している状態を形成するためには、例えば、接合面231に酸素プラズマ等のプラズマ処理を施す方法、エッチング処理を施す方法、電子線を照射する方法、紫外光を照射する方法、オゾンに曝す方法、またはこれらを組み合わせた方法等が用いられる。このような方法によれば、接合面231の表面を清浄化するとともに、表面付近の結合の一部を切断して、表面を活性化することができる。このような状態の表面には、周囲の水分が接触することにより、水酸基(OH基)が自然に結合する。このようにして、水酸基が結合している状態を形成することができる。
【0102】
また、ケース2の構成材料によっては、上記のような処理を施さなくても、接合面231に水酸基が結合しているものもある。かかる構成材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウムのような各種金属材料、シリコン、石英ガラスのようなシリコン系材料、アルミナのような酸化物系セラミックス材料(無機系材料)等が挙げられる。なお、ケース2は、その全体が上記のような材料で構成されていなくてもよく、少なくとも表面付近が上記のような材料で構成されていればよい。
【0103】
このような材料で構成されたケース2では、接合面231近傍が酸化膜で覆われており、この酸化膜の表面には、水酸基が結合している。したがって、上記処理を施さなくても、ケース2と接合膜3とを強固に接合することができる。
また、ケース2の表面および内部には、終端化されていない活性な結合手(ダングリングボンド)が含まれていてもよい。さらに、水酸基とダングリングボンドとが混在した状態であってもよい。ケース2の表面および内部にダングリングボンドが含まれていると、接合膜3の表面に露出したダングリングボンドとの間で、ネットワーク状に構築された共有結合に由来するより強固な接合がなされる。その結果、ケース2と接合膜3とをより強固に接合することができる。
【0104】
このようにして得られた第1の仮接合体7では、接合膜転写シート10と接合面231との接合強度が5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度を有する第1の仮接合体7は、後述する工程において、基材20を剥離した際に、接合膜3と接合面231との界面で剥離が生じるのを確実に防止し得るものとなる。
また、接合膜転写シート10と接合面231との積層には、例えば、各種ラミネート装置、各種プレス装置を用いることができる。
【0105】
[5]次に、図4(b)に矢印で示すように、第1の仮接合体7から基材20を剥離する。この剥離は、基材20を第1の仮接合体7から引き剥がすことにより行われる(第5の工程)。これにより、接合膜3をケース2の接合面231に転写してなる第2の仮接合体8が得られる(図4(c)参照)。
なお、第2の仮接合体8に転写された接合膜3の上面は、それぞれ基材20から剥離した剥離面となる。また、図4(d)の平面図において示すように、転写された接合膜3の成膜パターン(形状)は、当然に、接合膜転写シート10に成膜された接合膜3の成膜パターン(形状)と同じものになる。
【0106】
[6]次に、第2の仮接合体8の接合膜3の上面(剥離面)にエネルギーを付与する(図5(a)参照)。
接合膜3にエネルギーを付与する方法としては、前述したエネルギーを付与する方法と同様である。
エネルギーを付与すると、接合膜3に接着性が発現する。
【0107】
次いで、図5(b)に示すように、接合面231に形成された接合膜3と接合面401とが対向するように、第2の仮接合体8に蓋体4を重ね合わせる。これにより、接合膜3に発現した接着性により、蓋体4の接合面401と接合膜3の剥離面とが接合されるため、接合膜3を介してケース2と蓋体4とが接合される。その結果、凹部22が気密封止された、図5(c)に示す水晶振動子1が得られる(第6の工程)。
ここで、凹部22は気密封止されて閉空間となるが、この際には、周囲の環境が閉空間内に閉じ込められることとなる。水晶振動子1のような封止型デバイスは、前述したように閉空間の環境がデバイスの信頼性に大きな影響を及ぼすことから、本工程における周囲の環境は重要となる。
【0108】
具体的には、本工程における周囲の環境は、減圧雰囲気、不活性ガス雰囲気とされるのが好ましい。これにより、閉空間内は不活性な環境となり、デバイスの変質・劣化を長期にわたって防止することができる。さらに減圧した場合、水晶振動片5等の可動デバイスの動作における抵抗が抑制されるため、可動の精度が向上する。その結果、特性に優れた水晶振動子1が得られる。
なお、水晶振動子1を得た後、必要に応じて、以下の2つの工程[7A]、[7B]のうちのいずれか一方または双方を行うようにしてもよい。
【0109】
[7A]得られた水晶振動子1を、ケース2と蓋体4とが互いに近づく方向に加圧する。これにより、接合面231に接合膜3がより接近し、水晶振動子1における接合強度をより高めることができる。
このとき、水晶振動子1を加圧する際の圧力はできるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に応じて水晶振動子1における接合強度を高めることができる。
なお、この圧力は、ケース2や蓋体4の構成材料や厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、1MPa以上10MPa以下程度であるのが好ましく、1MPa以上5MPa以下程度であるのがより好ましい。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒以上30分以下程度であるのが好ましい。
【0110】
[7B]得られた水晶振動子1を加熱する。これにより、水晶振動子1における接合強度をより高めることができる。
このとき、水晶振動子1を加熱する際の温度は、室温より高く、水晶振動子1の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25℃以上100℃以下程度とされ、より好ましくは50℃以上100℃以下程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、水晶振動子1が熱によって変質・劣化するのを防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
【0111】
また、加熱時間は、特に限定されないが、1分以上30分以下程度であるのが好ましい。
また、前記工程[7A]、[7B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、水晶振動子1を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、水晶振動子1の接合強度を特に高めることができる。
【0112】
なお、ケース2と蓋体4の熱膨張率がほぼ等しい場合には、上記のようにして水晶振動子1を加熱するのが好ましいが、2つの被着体の熱膨張率が大きく異なっている場合には、できるだけ低温下で接合を行うのが好ましい。接合を低温下で行うことにより、接合界面に発生する熱応力のさらなる低減を図ることができる。
具体的には、熱膨張率差にもよるが、25℃以上50℃以下程度で加熱するのが好ましく、25℃以上40℃以下程度で加熱するのがより好ましい。このような温度範囲であれば、熱膨張率差がある程度大きくても(例えば、5×10−5/K以上)、接合界面に発生する熱応力を十分に低減することができる。その結果、水晶振動子1における反りや剥離等の発生を確実に防止することができる。
【0113】
以上のような工程[7A]、[7B]を行うことにより、水晶振動子1における接合強度のさらなる向上を図ることができる。
このようにして作製された水晶振動子1は、接合膜3が接合強度、耐薬品性および寸法精度に優れていることから、そのような特性を有するものとなる。
特に、水晶振動子1は、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、アンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のように短時間で起こる強固な化学的結合に基づいて接合している。このため、水晶振動子1は、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
【0114】
また、従来の固体接合のように、高温(700℃以上800℃以下程度)での熱処理を必要としないことから、耐熱性の低い材料で構成された被着体をも、接合に供することができる。これにより、ケース2や蓋体4の構成材料の制約がなくなり、材料選択の幅を広げることができる。
また、マスク36を用いることで、接合膜3の成膜パターンを自在に制御することができるため、接合膜3の形状や面積を最適化することで、接合部に生じる応力の局所集中を緩和することができる。これにより、水晶振動子1の接合界面に生じる熱膨張差を緩和することができる。
【0115】
また、水晶振動子1の作製に用いられる接合膜転写シート10は、取扱いが容易で流通や保存にも適したシート状の形態をとり、単に物理的あるいは化学的なエネルギーを付与するのみで、強固な接着性を自在に発現し得る。このため、接合膜転写シート10は、各種製品の量産プロセスに対して優れた親和性を有するものとなる。
具体的には、接合膜転写シート10が有する接合膜は、従来、接合に供される部材の表面に直接成膜される必要があったため、成膜装置が設置されている場所に部材を用意する必要があった。これは、成膜装置が大型で重量も大きく、容易に移動することは不可能であるためである。ところが、このように成膜装置と部材とが不可分であるという地理的制約があると、部材の動線が限定されてしまうこととなり、製品の製造プロセスの自由度が低下するという問題があった。
【0116】
これに対し、本発明によれば、接合膜を形成するプロセスと、部材を接合するプロセスとを、異なる場所で行うことができる。このため、接合膜転写シート10を大量に製造しておけば、この接合膜転写シート10を所望の場所に運搬し、所望の場所で部材の接合を行うことができる。その結果、水晶振動子1の製造プロセスの自由度が飛躍的に増大し、量産効率を高めることができる。
【0117】
また、本発明によれば、2つの第2の仮接合体8同士を接合する際、接合膜3の剥離面が接合界面となる。この剥離面は、剥離の直前まで基材20に接していて異物の付着や損傷等から保護された状態になっているため、良好な接合に適した状態にある。さらに、第6の工程で接合膜3にエネルギーを付与した際にも、この剥離面近傍では脱離基が脱離し難いため、成膜直後の状態が維持され易く、接着性を十分に潜在させ得るという利点もある。よって、この剥離面にエネルギーを付与することにより、剥離面は接合面401に対して強固に接合されることとなる。このように接合膜転写シート10を用いれば、エネルギーの付与により接着性の発現を自在に制御し得る接合膜3を、両面テープが如く取り扱うことができるので、ケース2と蓋体4とを簡単にかつ強固に接合することができる。
【0118】
また、得られた水晶振動子1における接合界面は、いずれも気密性および液密性に優れたものとなる。これは、接合膜3がそれ自体高密度で通気性の低いものであり、また接合メカニズムも前述したような化学結合に基づくものであるため、小さな分子の通過も制限するためである。したがって、図1に示すような水晶振動子1を製造した場合、得られた閉空間の気密性は、ヘリウムガスを用いたリーク量(リークレート)で、1×10−9Pa・m/sec以下となることが期待できる。このようなリーク量であれば、長期にわたって閉空間の気密性を維持することができるので、閉空間を減圧状態で維持したり、所定のガスで置換したりした水晶振動子1を製造する場合に、本発明は有効に用いられる。 また、水晶振動子1におけるケース2と蓋体4との接合強度は、5MPa(50kgf/cm)以上であるのが好ましく、10MPa(100kgf/cm)以上であるのがより好ましい。このような接合強度であれば、接合界面の剥離および気密破壊が確実に防止され、信頼性の高い水晶振動子1が得られる。
なお、本実施形態では、接合膜転写シート10が有する接合膜3を、ケース2の接合面231に転写する場合について説明したが、かかる場合に限定されず、例えば、蓋体4の接合面401に転写するようにしても良いし、2つの接合膜転写シート10を用意し、ケース2の接合面231および蓋体4の接合面401の双方に転写するようにしても良い。
【0119】
以上、本発明の接合方法および本発明の封止型デバイスの製造方法を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、水晶振動子のうち、ケースと接合膜との間、および、蓋体と接合膜との間には、任意の層が付加されていてもよい。このような層としては、層間の密着強度を高める中間層、層間のクッション性を高める中間層、応力集中を緩和する機能を有する中間層等が挙げられる。
【0120】
また、本発明の封止型デバイスの製造方法では、前記実施形態の構成に限定されず、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよい。さらに、各工程の順序は、前記実施形態の構成に限定されず、例えば、1つ目の構成例では、接合膜の成膜後またはエネルギーの付与後に、デバイスを収納するようにしてもよく、2つ目の構成例では、接合膜の成膜後にデバイスを収納するようにしてもよい。
【0121】
なお、上記実施形態では、封止型デバイスの例として水晶振動子を挙げたが、本発明はこの他に、あらゆる封止型デバイスに適用することができる。封止型デバイスは、気密封止を必要とする接合部を有するデバイスであるが、例えば、圧電アクチュエータ、圧電振動子、弾性表面波素子(SAWデバイス)等の圧電デバイス、蛍光灯、放電ランプ、発光ダイオード、半導体レーザのような発光素子、フォトダイオードのような受光素子、液晶表示素子、有機EL素子、無機EL素子、プラズマディスプレイ、電気泳動表示素子のような表示素子、電荷結合素子(CCD)、相補型金属酸化物半導体(CMOS)のような撮像素子、加速度センサー、角速度センサー、圧力センサーのような各種センサー、波長可変フィルター、バイオセンサーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、光コネクター、光変調器のような光通信デバイス、ICパッケージのような半導体素子、IDタグ、ICカードのような記録媒体、腕時計、被収納物として任意の気体や液体を封入する医療器具等が挙げられる。
【0122】
さらに、本発明の接合方法は、前述した封止型デバイスの製造以外に、気密封止を必要としない、あらゆる部材等の接合に適用することができる。
具体的には、トランジスター、ダイオード、メモリーのような半導体素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、太陽電池のような光電変換素子、半導体基板とそれに搭載される半導体素子、絶縁性基板と配線または電極、インクジェット式記録ヘッド、マイクロリアクター、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、半導体素子や電子部品のパッケージ部品、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、光記録媒体のような記録媒体、燃料電池用部品等の接合に際して、本発明の接合方法が適用可能である。
【実施例】
【0123】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.水晶振動子(封止型デバイス)の製造
(実施例1)
<1>まず、基材として、幅50mm×長さ100mm×平均厚さ100μmのポリエチレンフィルムを用意した。なお、ポリエチレンの表面エネルギーは31mN/mである。
また、第1の部材および第2の部材として、それぞれ、図2に示すようなアルミナ製のケース、および、OA10ガラス製の蓋体を用意するとともに、水晶振動片を用意した。なお、アルミナの表面エネルギーは、840mN/m、OA10ガラスの表面エネルギーは、300mN/mである。
【0124】
<2>次に、図8に示すプラズマ重合装置100を用いて、基材上に、平均厚さ200nmのプラズマ重合膜を成膜することにより、基材上にプラズマ重合膜(接合膜)を備える接合膜転写シートを得た。なお、プラズマ重合膜の成膜条件は以下に示す通りである。
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :30sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:30sccm
・高周波電力の出力 :250W
・高周波出力密度 :5W/cm
・チャンバー内圧力 :4Pa(低真空)
・処理時間 :3分
・基板温度 :60℃
このようにして成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を含み、ランダムな原子構造を有するSi骨格と、アルキル基(脱離基)とを含むものであった。また、Si骨格の結晶化度を測定するため、プラズマ重合膜の一部に波長405nmの紫外線を600秒間照射した後、X線回折法により結晶化度を測定した。その結果、プラズマ重合膜の結晶化度は30%以下であった。
【0125】
<3>次に、図3(b)に示すように、形成すべき接合膜の形状に対応したマスクをプラズマ重合膜上に載置した状態で、プラズマエッチング処理を施すことにより、基材上のプラズマ重合膜を四角形状の枠状をなす形状にパターニングした。
なお、プラズマ重合膜をプラズマエッチングした際の処理条件は以下に示す通りである。
【0126】
<処理条件>
・処理ガスの組成 :CF
・原料ガスの流量 :50sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:400sccm
・高周波電力の出力 :800W
・チャンバー内圧力 :20Pa
・処理時間 :15分
【0127】
<4>次に、得られたプラズマ重合膜に以下に示す条件でプラズマ処理を施した。
<プラズマ処理条件>
・プラズマ処理方式:ダイレクトプラズマ方式
・処理ガスの組成 :ヘリウムガス
・雰囲気圧力 :大気圧(100kPa)
・電極間距離 :1mm
・印加電圧 :1kVp−p
・電圧周波数 :40MHz
【0128】
<5>次に、プラズマ処理を施してから1分後に、プラズマ重合膜とケースとが接するように、接合膜転写シートとケースとを積層した。そして得られた積層体を5MPaで圧縮した。これにより、第1の仮接合体を得た。
<6>次に、第1の仮接合体から基材を引き剥がした。これにより、マスクの形状に対応した四角形の枠状をなす接合膜がケースに転写された第2の仮接合体を得た。
【0129】
<7>次に、第2の仮接合体が有するプラズマ重合膜に、<4>と同様にしてプラズマ処理を施した。
<8>次に、プラズマ処理を施してから1分後に、接合膜を介して、ケースおよび蓋体の互いの接合面が対向するように、これら同士を重ね合わせた。これにより、ケースと蓋体とが接合膜を介して接合された水晶振動子を得た。なお、この重ね合わせの作業は、減圧雰囲気下で行った。
次いで、得られた水晶振動子を5MPaで圧縮した。
【0130】
(実施例2)
基材を、幅50mm×長さ100mm×平均厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに変更した以外は、実施例1と同様にして水晶振動子を得た。なお、ポリエチレンテレフタレートの表面エネルギーは43mN/mである。
(実施例3)
基材を、幅50mm×長さ100mm×平均厚さ100μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムに変更した以外は、実施例1と同様にして水晶振動子を得た。なお、ポリテトラフルオロエチレンの表面エネルギーは18mN/mである。
(実施例4)
基材を、幅50mm×長さ100mm×平均厚さ50μmのポリイミドフィルムに変更した以外は、実施例1と同様にして水晶振動子を得た。なお、ポリイミドの表面エネルギーは50mN/mである。
【0131】
(比較例1)
ケースと蓋体との間をエポキシ系接着剤で接着した以外は、前記実施例1と同様にして水晶振動子を得た。なお、エポキシ系接着剤の平均厚さは、200μmとした。
(比較例2)
まず、水晶製のケースと、ガラス製の蓋体とを用意した。そして、ケースと蓋体との間を陽極接合により接合した以外は、前記実施例1と同様にして水晶振動子を得た。
【0132】
2.水晶振動子(封止型デバイス)の評価
2.1 接合強度の評価
各実施例および各比較例で得られた水晶振動子について、それぞれ接合強度を測定した。
接合強度の測定は、各接合体において第1の被着体と第2の被着体とを強制的に引き剥がしたとき、剥がれる直前の引っ張り力を測定することにより行った。また、接合強度の測定は、接合直後と、接合後に−40℃から125℃の温度サイクルを50回繰り返した後のそれぞれにおいて行った。
その結果、各実施例で得られた水晶振動子では、接合直後および温度サイクル後のいずれにおいても、十分な接合強度(10MPa以上)を有していた。
一方、各比較例で得られた水晶振動子については接合強度が非常に小さく測定できなかった。
【0133】
2.2 リーク量の評価
各実施例および各比較例で得られた水晶振動子について、それぞれリーク量を測定した。
リーク量の測定は、リークディテクターを用いて真空法により行った。また、プローブガスとしてはヘリウムガスを用いた。
【0134】
また、リーク量の測定は、接合直後と2.1の温度サイクル後のそれぞれにおいて行った。
その結果、各実施例で得られた水晶振動子では、接合直後および温度サイクル後のいずれにおいても、リーク量は1×10−9Pa・m/sec未満であった。
一方、各比較例で得られた水晶振動子についてはリーク量が多過ぎて測定できなかった。
以上の評価結果から、各実施例で得られた水晶振動子は、温度サイクルを経ても、接合強度および気密性に優れたものであることが明らかとなった。
【0135】
2.3 発振特性の評価
各実施例および各比較例で得られた水晶振動子について、それぞれの2.1の温度サイクル後における発振特性を評価した。
その結果、各実施例で得られた水晶振動子の特性は、いずれも設計時に想定した特性範囲内であった。
これに対し、各比較例で得られた水晶振動子の特性は、いずれも設計時に想定した特性範囲から外れていた。
【符号の説明】
【0136】
1……水晶振動子 10……接合膜転写シート 20……基材 2……ケース 21……支持部 22……凹部 23……側壁 231……接合面 24……底部 3、31……接合膜 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……脱離基 304……活性手 35……表面 36……マスク 4……蓋体 401……接合面 5……水晶振動片 6……マウント材 7……第1の仮接合体 8……第2の仮接合体 100……プラズマ重合装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 140……第2の電極 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の一方の面側に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し、有機基からなる脱離基とを含む接合膜とを有する接合膜付き基材と、互いの接合面が対向するように接合される第1の部材および第2の部材とを用意する準備工程と、
前記接合膜付き基材の前記接合膜を所定形状にパターニングするパターニング工程と、
パターニングされた前記接合膜にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記接合膜と前記第1の部材の接合面とが密着するように、前記接合膜付き基材と前記第1の部材とを積層し、第1の仮接合体を得る仮接合工程と、
前記第1の仮接合体から前記基材を剥離して、前記第1の部材にパターニングされた前記接合膜を転写し、第2の仮接合体を得る転写工程と、
前記第2の仮接合体の前記接合膜の剥離面にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記互いの接合面が対向するように、前記第2の仮接合体と前記第2の部材とを積層し、接合体を得る本接合工程とを有することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記パターニング工程において、前記接合膜のパターニングは、形成すべき接合膜の形状に対応したマスクを前記接合膜上に載置した状態で、物理的エッチング処理を施す請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記物理的エッチング処理は、プラズマエッチング処理である請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記接合膜は、Si−H結合を含んでいる請求項1ないし3のいずれかに記載の接合方法。
【請求項5】
前記接合膜は、プラズマ重合膜である請求項1ないし4のいずれかに記載の接合方法。
【請求項6】
前記エネルギーの付与は、前記接合膜をプラズマに曝す方法および前記接合膜にエネルギー線を照射する方法の少なくとも一方により行われる請求項1ないし5いずれかに記載の接合方法。
【請求項7】
基材と、該基材の一方の面側に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を含む原子構造と、該シロキサン結合に結合し、有機基からなる脱離基とを含む接合膜とを有する接合膜付き基材と、互いの接合面が対向するように重ね合わせることにより、内部に閉空間を形成し得る第1の部材および第2の部材とを用意する第1の工程と、
前記閉空間になり得る位置にデバイスを載置する第2の工程と、
前記接合膜付き基材の前記接合膜を所定形状にパターニングする第3の工程と、
パターニングされた前記接合膜にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記接合膜と前記第1の部材の接合面とが密着するように、前記接合膜付き基材と前記第1の部材とを積層し、第1の仮接合体を得る第4の工程と、
前記第1の仮接合体から前記基材を剥離して、前記第1の部材にパターニングされた前記接合膜を転写し、第2の仮接合体を得る第5の工程と、
前記第2の仮接合体の前記接合膜の剥離面にエネルギーを付与し、前記脱離基を前記Si骨格から脱離させ、接着性を発現させるとともに、前記互いの接合面が対向するように、前記第2の仮接合体と前記第2の部材とを積層し、前記デバイスが収納された前記閉空間を気密封止し、封止型デバイスを得る第6の工程とを有することを特徴とする封止型デバイスの製造方法。
【請求項8】
前記第3の工程において、前記接合膜付き基材の前記接合膜は、前記閉空間に対応する領域の周囲を囲う枠状の形状にパターニングされる請求項7に記載の封止型デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−129589(P2011−129589A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284436(P2009−284436)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】