説明

接合構造,木質構造物,及び木質構造物の施工方法。

【課題】木質軸部材の接合構造を単純化,小型化,軽量化し,その施工性を向上すること。
【解決手段】複数の木質軸部材10を軸方向の圧縮応力が支配的に作用するよう接合して構成される木質構造物用の接合構造が提供される。この接合構造は,相隣接する上記木質軸部材10の端面12間に配置される接合ブロック20と;上記接合ブロック20と上記木質軸部材10の端面との隙間に嵌入される隙間充填部材30と;を含み,相隣接する上記木質軸部材10が,上記接合ブロック20及び上記隙間充填部材30を介して,軸方向の圧縮応力を相互に伝達可能に接合されることを特徴とする。これにより,木質軸部材10と接合ブロック20及び隙間充填部材30との面接触による支圧耐力によって,複数の木質軸部材10を好適に接合・支持でき,接合構造を単純化,小型化,軽量化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,複数の木質軸部材を接合する接合構造,およびこの接合構造を用いて構築された木質構造物,並びにその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,建築構造物の建材として,軽量性,柔軟性,美感等の観点から,木質材(成木材,集成材等,木を材料とする建材)が再注目されている。この木質材は,従来における小型の建築構造物(木造住宅等)のみならず,最近では大型の建築構造物,例えばドーム型構造物にも使用されている。このような木質ドーム型構造物を構築するためには,複数の木質軸部材(木質材で形成された柱材,梁材等の軸部材)を,単純で小型かつ軽量の接合機構で接合することが好ましい。
【0003】
従来の木質ドーム型構造物の接合方式としては,鋼板挿入式ドリフトピン接合方式がある(例えば,特許文献1及び2参照)。この鋼板挿入式ドリフトピン接合方式では,木質軸部材の端部に鋼板を挟み込んでドリフトピンで固定し,当該鋼板を継手金具にジョイントプレートを介してボルト接合する構成である。かかる接合方式では,木質軸部材に作用する応力は,木質軸部材→ドリフトピン→鋼板面内応力→鋼板とスプライスプレートとの摩擦接合→スプライスプレート→スプライスプレートと継手金具との摩擦接合,といった順で伝達される。
【0004】
【特許文献1】特開平9−268656号公報
【特許文献2】特開平8−60742号公報
【特許文献3】特許2886552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,上記従来の鋼板挿入式ドリフトピン接合方式では,木質軸部材の接合構造が,複雑で,大型かつ重いという問題があった。
【0006】
具体的には,上記ドリフトピン接合方式では,上記のように応力伝達経路が複雑であり,多くの応力伝達部品と複数の応力伝達機構(木質軸部材の支圧,ドリフトピンの曲げ,摩擦接合)が関与している。このため,木質軸部材の接合部が,複雑化,大型化,重量化するだけでなく,安定した性能が発揮されにくいという欠点があった。また,部品点数の多さにより品質のばらつきが大きく,不具合発生率が高くなるという欠点もあった。
【0007】
また,木質材は,鋼材に比べて耐力が低いので,多くのドリフトピン数を必要とし,この分,大面積の鋼板が必要となる。従って,接合部がさらに大型化,重量化するため,接合部自体が高コスト化してしまうだけでなく,この大型で重い接合部を支持するために,木質軸部材も太くする必要があるので,構造物全体も重量化,高コスト化してしまうという問題があった。
【0008】
また,このような鋼板挿入式ドリフトピン接合方式以外の接合方式として,特許文献3には,木質軸部材の端面同士を充填モルタルで接合し,この充填モルタルの支圧耐力によって木質軸部材間で応力を伝達する接合方式が記載されている。しかし,この接合方式では,充填モルタルの流動体を充填する現場作業が高所作業となるため,作業安全と品質確保の観点から施工性に問題があった。
【0009】
そこで,本発明は,上記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,木質軸部材の接合構造を単純化,小型化,軽量化できるとともに,施工性を向上することが可能な,新規かつ改良された接合構造,およびこれを用いた木質構造物,並びに木質構造物の施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために,本願発明者らは,木質ドーム構造等の木質構造物において,木質軸部材に作用する応力が主として軸方向の圧縮応力である点に着目した。即ち,ドーム構造は,元来原理的には軸力支配型である。このため,木質ドーム構造を構成する各木質軸部材には,軸方向の圧縮応力が支配的に作用し,曲げ応力は作用しないか,或いは比較的小さい。また,引張応力は基本的に作用しないか,或いはドーム周縁部に配置された木質軸部材に対してのみ作用する。
【0011】
そこで,本願発明者らは,この原理を利用して,木質軸部材の端面同士を,接合ブロックと,当該接合ブロックと木質軸部材の間の隙間を埋める隙間充填部材とによって接合し,これら木質軸部材と接合ブロック及び隙間充填部材との面接触による支圧耐力によって,木質軸部材間の圧縮応力を伝達する構造に想到した。この構造は,面接触により応力を伝達するので,応力伝達効率に優れ,接合構造を単純化,小型化かつ軽量化することができる。以下に,かかる構造を利用した本発明の構成について述べる。
【0012】
即ち,上記課題を解決するために本発明のある観点によれば,複数の木質軸部材を軸方向の圧縮応力が支配的に作用するよう接合して構成される木質構造物用の接合構造が提供される。この接合構造は,相隣接する上記木質軸部材の端面間に配置される接合ブロックと;上記接合ブロックと上記木質軸部材の端面との隙間に嵌入される隙間充填部材と;を含み,相隣接する上記木質軸部材が,上記接合ブロック及び上記隙間充填部材を介して,軸方向の圧縮応力を相互に伝達可能に接合されることを特徴とする。
【0013】
かかる構成により,木質軸部材と接合ブロック及び隙間充填部材との面接触による支圧耐力によって複数の木質軸部材を好適に接合・支持できる。従って,木質軸部材の接合構造を単純化,小型化,軽量化でき,木質構造物を安価に構築できる。さらに,従来の充填モルタル等の流動体を用いて接合する場合よりも,木質軸部材間に空隙・隙間が無いことを容易に確認でき,施工作業がシンプルであるので,施工性を向上することができる。
【0014】
また,上記木質構造物は,湾曲状の設定線に沿って複数の木質軸部材を接合して,上記設定線に沿って隣接する上記木質軸部材が軸方向の圧縮応力を相互に伝達可能に接合されているようにしてもよい。これにより,複数の木質軸部材を軸方向の圧縮応力が支配的に作用するように好適に接合できる。
【0015】
また,上記木質構造物は,木質ドーム型構造物であってもよい。これにより,軸力支配型の典型的な木質構造物である木質ドーム型構造物に,上記接合構造を適用できる。
【0016】
また,上記隙間充填部材は,上記接合ブロックと上記木質軸部材の端面との隙間に応じた厚みを有する板状部材(例えばシムプレート)であってもよい。これにより,隙間充填部材として,取り扱いやすく施工が容易な固体の板状部材を使用して,上記接合ブロックと木質軸部材の端面との隙間に嵌入できる。
【0017】
また,上記板状部材は,テーパ形状を有するテーパ状板状部材であってもよい。これにより,テーパ状板状部材を,接合ブロックと木質軸部材の端面との隙間にたたき込んで,容易に嵌入することができるとともに,テーパ状板状部材を接合ブロック及び木質軸部材の端面に対して密着させることができる。
【0018】
さらに,上記木質軸部材の端面には,上記テーパ状板状部材の形状に応じたテーパ面が形成されているようにしてもよい。これにより,テーパ状板状部材をさらに容易に嵌入できるとともに,テーパ状板状部材を接合ブロック及び木質軸部材の端面に対して,より好適に密着させることができる。
【0019】
さらに,上記テーパ状板状部材は,少なくとも,上記接合ブロックと上記木質軸部材の端面との隙間のうち一側に嵌入される第1のテーパ状板状部材と,他側に嵌入される第2のテーパ状板状部材とに分割されており,上記第1のテーパ状板状部材と上記第2のテーパ状板状部材は,反対方向(例えば左右又は上下逆方向)から交互又は同時に,上記一側と他側の隙間にそれぞれ嵌入されるようにしてもよい。これにより,当該嵌入作業時に,一側からのみ嵌入圧力が作用することで木質軸部材が傾いてしまうことを防止できる。さらに,嵌入された第1のテーパ状板状部材と第2のテーパ状板状部材とがテーパ方向が逆方向となるので,施工後も,接合ブロック及び木質軸部材との間の自己釣り合いにより,当該第1及び第2のテーパ状板状部材が緩んで抜け落ちてしまうことを防止できる。
【0020】
また,上記隙間充填部材は,上記接合ブロックと上記木質軸部材の端面との隙間の形状及び/又は大きさに応じた複数種類のタイプが,施工前に予め用意されているようにしてもよい。これにより,実際の施工現場で生じた接合ブロックと木質軸部材との隙間に応じて,好適な隙間充填部材を選択して,当該隙間に嵌入して密着させることができる。
【0021】
また,上記接合ブロックは,上記木質軸部材の端面に対応する接合面を複数対有するようにしてもよい。これにより,接合ブロックの複数対の接合面に対して,複数対の木質軸部材の端面をそれぞれ接合して,1つの接合ブロックで複数対の木質軸部材10を例えば十字型,米印型のようにクロスした態様で接合できる。また,接合ブロックは中空であってもよい。これにより,接合ブロックの重量を軽量化できるとともに,後述する連結ボルトを接合ブロックの内側から締結できる。
【0022】
また,上記接合ブロックと上記木質軸部材とを連結する1又は2以上の連結ボルトをさらに含むようにしてもよい。これにより,木質軸部材に曲げ応力や引張応力が作用した場合に,接合ブロックと木質軸部材とが離隔してしまうことを防止できる。また,施工時に,接合ブロックと木質軸部材とを固定できるので,木質軸部材の接合作業や隙間充填部材の嵌入作業を好適に実行できるようになる。
【0023】
さらに,複数の上記連結ボルトが,木質軸部材の端面の上部側と下部側に偏って配置されるようにしてもよい。これにより,必要最小限のボルト数の連結ボルトを設置するだけで,木質軸部材の上下方向の曲げ応力に対して抵抗することができる。
【0024】
また,上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば,上記のような接合構造により複数の木質構造部材を接合して構成された木質構造物が提供される。これにより,構造性能に優れた木質構造物を安価に提供できる。
【0025】
また,上記課題を解決するために本発明の別の観点によれば,上記のような接合構造により複数の木質構造部材を接合して構成される木質構造物の施工方法が提供される。この施工方法は,(1)ブロック支持装置を用いて,空間の所定位置に一対の接合ブロックを離隔して配置する工程と;(2)上記一対の接合ブロック間に上記木質軸部材を配置する工程と;(3)連結ボルトを仮締めして上記接合ブロックと上記木質軸部材の端部とを仮固定する工程と;(4)上記接合ブロックと上記木質軸部材の端面との隙間に,隙間充填部材を嵌入する工程と;(5)上記連結ボルトを締結して,上記接合ブロックと上記木質軸部材の端部とを本固定する工程と;(6)複数の上記木質軸部材について,上記(1)〜(5)の工程を繰り返す工程と;(7)上記各接合ブロックを支持する上記ブロック支持装置を一斉に取り外す工程と;を含むことを特徴とする。これにより,施工作業がシンプルで安全性が高い,施工性に優れた施工方法を提供できる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば,軸力支配型の木質構造物において,木質軸部材と接合ブロック及び隙間充填部材との面接触による支圧耐力によって複数の木質軸部材を接合・支持できる。従って,木質軸部材の接合構造を単純化,小型化,軽量化でき,木質構造物を安価に構築できる。
【0027】
さらに,従来の充填モルタル等の流動体を用いて接合する場合よりも,木質軸部材間に隙間が無いことを容易に確認でき,施工作業がシンプルであるので,施工性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0029】
(第1の実施形態)
最初に,本発明の第1の実施形態にかかる木質軸部材の接合構造について説明する。
【0030】
まず,図1に基づいて,本発明の第1の実施形態にかかる接合構造が適用される木質構造物の一例として,木質ドーム型構造物について説明する。図1は,本実施形態にかかる接合構造が適用される木質ドーム型構造物の全体構成を概略的に示す分解斜視図である。
【0031】
図1に示すように,木質ドーム型構造物は,例えば,野球場やサッカー場等の競技場,展示場やコンサート会場等に用いられるホールなどといった,柱のない大空間を提供するための大型の建築構造物である。この木質ドーム型建築構造物は,概略的には,土台部1と,ドーム構造部2と,屋根部3とから構成される。
【0032】
土台部1は,鉄筋コンクリート等で形成された土台であり,敷地上に設置される。ドーム構造部2は,この土台部1の上に設けられ,屋根部3を支持する梁として機能する。このドーム構造部2は,複数の木質軸部材10を縦横に接合して,全体としてドーム状に構築される。屋根部3は,金属材,木質材または膜材等で形成され,ドーム構造部2を覆うようにして設けられる。
【0033】
このような木質ドーム型建築構造物のドーム構造部2では,相互接合された複数の木質軸部材10に対して軸方向の圧縮応力が支配的に作用するように設計されている。つまり,このドーム構造部2では,湾曲状の設定線に沿って複数の木質軸部材10を相互に接合して,上記設定線に沿って隣接する木質軸部材10がその軸方向の圧縮応力を相互に伝達するようになっている。このような軸方向の圧縮応力の伝達によって生じる各木質軸部材10の支圧耐力によって,ドーム構造部2を支持して,柱がない大空間を提供できる。
【0034】
なお,木質軸部材10に軸方向の圧縮応力を支配的に作用させるためには,ドーム構造部2の周縁形状は,極力,円形に近いことが好ましいが,かかる例に限定されず,例えば,略長円形,略楕円形,略瓢箪形,略多角形などであってもよい。
【0035】
上記のような木質ドーム型建築構造物では,複数の木質軸部材10を縦横に組み合わせてドーム構造部2の梁を構築しているため,ドーム構造部2を軽量化できるとともに,構造物内で木質の梁を露出させることで美感に優れるという利点がある。なお,上記ドーム構造部2は,建材として複数の木質軸部材10のみを組み合わせた木造構造とされているが,かかる例に限定されず,例えば,木質軸部材10と鋼材等の他の建材とを組み合わせて接合し,木造+鉄骨造の構造とすることもできる。このように,一部に鋼材等の軸部材を含むドーム構造物も本発明の木質ドーム構造物に含まれる。
【0036】
次に,図2に基づいて,本実施形態にかかるドーム型建築構造物のドーム構造部2において複数の木質軸部材10を相互に接合する接合構造の構成例について説明する。なお,図2は,本実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造を示す平面図(a)及び正面図(b)である。
【0037】
図2に示すように,木質軸部材10は,例えば,集成材からなる角材で構成されており,ドーム構造部2の梁材として荷重に耐えられる強度を有する。この木質軸部材10の寸法は,軸方向(図2のX軸方向)の長さが例えば数m〜十数m,垂直方向(図2のZ軸方向)の幅が例えば1.8m,水平方向(図2のY軸方向)の厚みが例えば0.6mである。このように,木質軸部材10は,ドーム構造部2を構成した場合に,鉛直荷重に対してより強く耐えられるように,水平方向の厚みよりも垂直方向の幅の方が大きくなっている。
【0038】
なお,木質軸部材10の形状及び寸法は,上記例に限定されず,例えば,木質軸部材10の断面は,円形,楕円形,多角形など任意の形状であってもよい。また,木質軸部材10の端面12は,図2の例では軸方向に対して垂直な端面となっているが,かかる例に限定されず,後述するように軸方向に対して傾斜したテーパ面となっていてもよい。
【0039】
このような木質軸部材10は,その端面12同士が対向するようにして,上記所定の設定線上に配置されて,相互に接合される。
【0040】
本実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造は,図2に示すように,相隣接する木質軸部材10の端面12間に配置される接合ブロック20と,この接合ブロック20と木質軸部材10の端面12との隙間に嵌入される隙間充填部材である板状部材30と,接合ブロック20と木質軸部材10とを連結する必要最小限の数の連結ボルト40と,から構成される。
【0041】
まず,接合ブロック20について説明する。接合ブロック20は,例えば,四角柱状の外形を有する金属製の中空部材で構成される。この接合ブロック20は,例えば,金属板(鉄板等)を切削加工して製造することもできるし,或いは鋳造により形成することもできる。
【0042】
この接合ブロック20は,相隣接する木質軸部材10の端部を接合する機能を有する。図2の例の接合ブロック20は,その断面形状が例えば四角形(正方形,長方形,平行四辺形等)であり,2対の平行な外側面を有する。これにより,接合ブロック20は,相異なる二方向に延びる二対の木質軸部材10を,略十字状に接合することができる。なお,図2では,当該接合ブロック20を用いてX軸方向に延びる一対の木質軸部材10を接合した例を示しており,Y軸方向に延びる別の一対の木質軸部材10については図示を省略してある。
【0043】
このように接合ブロック20の4つの外側面は,隙間充填部材30を介して木質軸部材10の端面12に接合される接合面22をなす。このため,接合ブロック20の各側面,即ち端面22の形状は,木質軸部材10の端面12に対応する形状となっている。具体的には,例えば,接合ブロック20の端面22のZ軸方向の長さは,上記木質軸部材10の端面12のZ軸方向長さ(木質軸部材10の幅)と略同程度,或いは若干大きくなっており,また,接合ブロック20の端面22のX軸又はY軸方向の幅は,上記木質軸部材10の端面12のY軸方向長さ(木質軸部材10の厚み)と略同程度或いは若干大きくなっている。
【0044】
また,上記接合ブロック20の材質は,例えば,強度面を重視すれば鉄,鋼等であってもよいし,軽量性を重視すればアルミニウム,ジュラルミン等の軽金属であってもよい。
【0045】
また,接合ブロック20を中空ブロックとすることで,接合ブロック20を軽量化することができる。さらに,中空であることにより,接合ブロック20の内側から連結ボルト40を貫通させて,木質軸部材10に固定することができるようになる。ただし,かかる中空の接合ブロック20の板厚は,両側の木質軸部材10から受ける圧縮応力に耐えられる板厚に設計される必要がある。
【0046】
また,かかる接合ブロック20の各接合面22には,連結ボルト40を通すための複数の貫通孔24が形成されている。かかる貫通孔24は,接合ブロック20の上下部分に偏った配置で形成されている。
【0047】
次に,隙間充填部材としての板状部材30について説明する。隙間充填部材は,上記接合ブロック20の接合面22と木質軸部材10の端面12との隙間に嵌入され,当該隙間を埋める機能を有する。この隙間充填部材は,当該隙間に応じた厚みを有する板状部材30で構成される。この板状部材30は,例えば,鉄板等の金属板からなるシムプレートで構成されており,上記隙間への嵌入時の衝撃と,木質軸部材10と接合ブロック20との間の圧縮応力に耐えられる強度を有する。
【0048】
かかる板状部材30を設置する理由について以下に説明する。上記接合ブロック20を用いて木質軸部材10を接合する場合には,まず,一対の接合ブロック20が空間の所定位置に配置された後に,この一対の接合ブロック20の間に木質軸部材10が配置される。このとき,接合ブロック20間の距離よりも木質軸部材10の軸方向の長さが短くなければ,木質軸部材10を接合ブロック20間に配置できない。このため,接合ブロック20と木質軸部材10の端面12との間には,建て方に必要な隙間(例えば数十mm程度)が必然的に生じる。しかし,当該隙間が存在すると,接合ブロック20と木質軸部材10とが面接触しないため,施工後に,接合ブロック20と木質軸部材10間で軸方向の圧縮応力を伝達できなくなってしまう。
【0049】
そこで,当該隙間を埋めるため,上記板状部材30を接合ブロック20の接合面22と木質軸部材10の端面12との隙間に嵌入する。これによって,木質軸部材10,板状部材30及び接合ブロック20とを確実に面接触させることができるので,上記ドーム構造部2の完成後に,ドーム構造部2に作用する圧縮応力を,これらの木質軸部材10,板状部材30及び接合ブロック20の支圧耐力で伝達できるようになる。
【0050】
かかる板状部材30は,上記接合ブロック20と木質軸部材10の端面12との隙間の形状及び大きさに応じて,複数種類の形状及び厚みのものが用意されてもよい。これによって,施工現場において現実に発生した隙間の大きさに応じて,当該隙間に合った板状部材30を選択して嵌入し,当該隙間を好適に埋めることができる。さらに,板状部材30は,作業員がハンマー等で叩いて当該隙間に嵌入されるが,この際,板状部材30を当該隙間に嵌入しやすくするために,板状部材30をテーパ付きの板状部材としてもよい(詳細は後述する。)。
【0051】
次に,連結ボルト40について説明する。連結ボルト40は,上記接合ブロック20と木質軸部材10とを連結する。この連結ボルト40は,例えば,中空の接合ブロック20の内側から,上記貫通孔24に挿入され,木質軸部材10の端部に固定される。このとき,連結ボルト40は,図2に示すように木質軸部材10の端部に埋設固定された棒状連結金具50に対して螺合して固定されてもよいし,或いは,木質軸部材10の端部にネジ作用等により直接固定されてもよい。
【0052】
かかる連結ボルト40は,接合ブロック20と木質軸部材10とを接合させるための補助的な連結具であり,必要最小限の数だけ設置されればよい。つまり,かかる連結ボルト40の役割は,建て方時に接合ブロック20と木質軸部材10とを固定するためと,一部の木質軸部材10に作用する曲げ応力又は引張応力によって,当該木質軸部材10が接合ブロック20と離隔してしまうことを防止することにある。
【0053】
具体的に説明すると,上記木質軸部材10と接合ブロック20とを組み上げる施工時には,これらの部材間に支圧耐力が未だ作用していないため,何らかの連結手段を用いなければ,これらの部材を連結して空間の所定位置に固定することができない。従って,施工時には,連結ボルト40等の連結手段を用いて,木質軸部材10と接合ブロック20とを一時的に固定しておく必要がある。
【0054】
また,上述したようにドーム構造部2を構成する木質軸部材10には主として圧縮応力が作用するが,地震や積雪等によりドーム構造部2に偏った荷重が作用すると,当該ドーム構造部2を構成する一部の木質軸部材10には,曲げ応力が作用する場合がある。また,ドーム構造部2の周縁部に配置された一部の木質軸部材10には,引張応力が作用する場合もある。このような場合には,上記接合ブロック20,板状部材30及び木質軸部材10を離隔させるような引張力が接合部に作用するので,上述した接合ブロック20,板状部材30及び木質軸部材10間の支圧耐力だけでは,木質軸部材10を安定して支持できない恐れがある。そこで,かかる曲げ応力および引張応力に抵抗できるだけの必要最小限の数の連結ボルト40が設置される。
【0055】
このような目的で設置される連結ボルト40は,設置数の低減による施工作業の効率化および低コスト化の観点から,必要な箇所に最小限必要な数だけ効率的に配置することが好ましい。例えば,木質軸部材10に対して作用する上下方向(Z軸方向)の曲げ応力に対応するため,図2に示すように,連結ボルト40は,上記木質軸部材10の端面12の上部側と下部側の偏った位置に,例えば4本ずつ設置されてもよい。これにより,少ないボルト数で,効率的かつ効果的に曲げ応力に対応することができる。
【0056】
以上,本実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造について説明した。かかる接合構造では,部品木質軸部材10,接合ブロック20及び板状部材30が相互に好適に面接触して支圧耐力を発揮できる。このため,当該支圧耐力によって,木質軸部材10間の軸方向の圧縮応力を効率的に伝達できるので,複数の木質軸部材10を安定して接合・支持できる。
【0057】
これにより,従来の鋼板挿入式ドリフトピン接合方式のような複雑,大型かつ重い接合構造でなくても,上記のような接合ブロック20及び板状部材30といった最小限の構成要素で構成された単純で,小型かつ軽量の接合構造によって,複数の木質軸部材10を安定的に接合して,構造性能に優れた木質ドーム構造物を構築・維持できる。
【0058】
また,上記のように接合構造を単純化,小型化,軽量化することによって,当該接合構造自体を安価にできるだけでなく,木質軸部材10を細くして低コスト化できるので,木質ドーム構造物全体をより安価に構築することができるようになる。
【0059】
さらに,上記のような接合構造が単純で部品数を削減できるため,構造性能の安定性を向上でき,不具合発生率を低減できる。
【0060】
また,上記特許文献3に記載の従来の充填モルタルを用いた接合方式よりも,木質軸部材10間に隙間がないことを容易に確認できるので,品質が安定化するとともに,施工作業がシンプルであるので,高所作業の安全性を高めて,施工性を向上することができる。
【0061】
(第2の実施形態)
次に,本発明の第2の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造について説明する。なお,第2の実施形態にかかる接合構造は,上記第1の実施形態にかかる接合構造と比して,以下に説明する点で相違するのみであり,その他の機能構成は略同一であるので,その詳細説明は省略する。
【0062】
まず,図3に基づいて,本発明の第2の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造について説明する。なお,図3は,本実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造を示す正面図(a),A−A線での横断面図(b),B−B線での横断面図(c)である。なお,図3(b),(c)では,上部側板状部材32と下部側板状部材34を嵌入する途中の状態を示してある。
【0063】
図3に示すように,第2の実施形態にかかる接合構造では,接合ブロック20と各木質軸部材10との隙間を埋める上記板状部材30が,例えば垂直方向に上下2つの板状部材(即ち,上部側板状部材32と下部側板状部材34)に分割されており,さらに,当該各板状部材32,34は,嵌入方向先端側が尖ったテーパ形状を有するテーパ状板状部材として構成されている点が特徴的である。
【0064】
具体的には,図3に示すように,上部側板状部材32は,接合ブロック20と木質軸部材10の端面12との隙間のうち上部側略半分の上部側隙間に対して嵌入されるテーパ付きの板状部材(第1のテーパ状板状部材)であり,一方,下部側板状部材34は,上記隙間のうち下部側略半分の下部側隙間に嵌入されるテーパ付きの板状部材(第2のテーパ状板状部材)である。
【0065】
さらに,この上部側板状部材32と下部側板状部材34とは,上記各々の隙間に対して,木質軸部材10の左右逆方向から交互に叩いて嵌入される。つまり,上部側板状部材32は,図3(b)に示すように,上部側隙間に対して左方向(Y軸負方向)に嵌入され,下部側板状部材34は,図3(c)に示すように,下部側隙間に対して右方向(Y軸正方向)に嵌入される。
【0066】
ここで,図4A及び図4Bに基づいて,このような上部側板状部材32及び下部側板状部材34の形状について詳細に説明する。なお,図4A及び図4Bは,本実施形態にかかる上部側及び下部側板状部材32,34をそれぞれ示す正面図(a)と平面図(b)である。
【0067】
図4A(a)及び図4B(a)に示すように,上部側及び下部側板状部材32,34は,例えば,略矩形状のシムプレート(鉄板等)で構成されている。また,かかる上部側及び下部側板状部材32,34は,一側の辺から嵌入方向(Y軸方向)に延びる例えば帯状の切り欠き33,35が例えば2つずつ形成されている。この切り欠き33,35は,上記接合ブロック20と木質軸部材10とを連結する連結ボルト40の設置箇所に対応する位置に,連結ボルト40のネジ部40aの径より大きい幅で形成されている。かかる切り欠き33,35を設けることにより,上部側及び下部側板状部材32,34を上記各隙間に嵌入する際に,上記連結ボルト40のネジ部40aが当該切り欠き33,35の部分に挿通されて障害とならないため,上部側及び下部側板状部材32,34を円滑に嵌入できる。
【0068】
さらに,図4A(b)及び図4B(b)に示すように,上部側及び下部側板状部材32,34は,断面がくさび形のテーパ状板状部材として構成されており,嵌入方向先端側に向かうにつれ厚みが薄くなるようなテーパ形状を有している。これにより,上部側板状部材32と下部側板状部材34をハンマー等で叩いて,接合ブロック20と木質軸部材10との隙間に嵌入するときに,容易に嵌入できるようになる。
【0069】
さらに,図3に示すように,木質軸部材10の端面12には,上部側及び下部側板状部材32,34のテーパ形状および嵌入方向に応じて,相異なる方向に傾斜したテーパ面12A,12Bが予め形成されている。具体的には,この木質軸部材10の端面12の上部側略半分には,図3(b)に示すように,上部側板状部材32の嵌入方向(Y軸負方向)に向かって登るような傾斜面であるテーパ面12Aが形成されている。一方,木質軸部材10の端面12の下部側略半分には,図3(c)に示すように,下部側板状部材34の嵌入方向(Y軸正方向)に向かって登るような傾斜面であるテーパ面12Aが形成されている。
【0070】
かかるテーパ面12A,12Bに予め形成しておくことにより,嵌入時には,上部側及び下部側板状部材32,34を円滑に嵌入することができ,さらに,嵌入後には,木質軸部材10のテーパ面12A,12Bと上部側及び下部側板状部材32,34とが,好適に密着して面接触できる。なお,木質軸部材10は,鋼材等と比べて剛性が低く変形可能であるため,上部側隙間,下部側隙間の形状と,上部側板状部材32,下部側板状部材34の形状とが,ある程度相違していたとしても,この形状の相違を木質軸部材10の変形によって吸収できる。
【0071】
また,上部側及び下部側板状部材32,34は,上記接合ブロック20と木質軸部材10の端面12との隙間の形状及び/又は大きさに応じて,それぞれ複数種類用意されている。例えば,上記図4A(b)及び図4B(b)には,厚さとテーパ角(傾斜角)の異なる3種類の上部側板状部材32A〜Cと下部側板状部材34A〜Cとがそれぞれ示されている。
【0072】
このように複数種類の上部側及び下部側板状部材32,34を用意しておくことにより,実際の施工現場で,木質軸部材10を接合ブロック20間に配置した後に,当該接合ブロック20と木質軸部材10の端面12(テーパ面12A,12B)との間に生じた上部側隙間と下部側隙間の形状及び厚さに応じて,当該各隙間に合った上部側及び下部側板状部材32,34をそれぞれ選択して嵌入できる。この場合,上部側隙間又は下部側隙間の一方が大きく,他方が小さい場合には,それぞれ相異なる形状の上部側及び下部側板状部材32,34が選択されることになる。
【0073】
以上,第2の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造について説明した。第2の実施形態にかかる接合構造では,上記のように,上下に分かれたテーパ付きの上部側板状部材32と下部側板状部材34を,上部側隙間と下部側隙間に対して,左右逆方向から交互に或いは同時に叩いて嵌入する。これにより,上記第1の実施形態にかかる効果に加え,次のような効果がある。
【0074】
まず,テーパ付きの上部側及び下部側板状部材32,34を使用することにより,当該上部側及び下部側板状部材32,34を,接合ブロック20と木質軸部材10との隙間に,容易かつ円滑に嵌入できる。
【0075】
また,この上部側板状部材32と下部側板状部材34を左右両側から交互若しくは同時に叩き込むことにより,左側若しくは右側からの偏った嵌入圧力によって木質軸部材10を左右に傾かせてしまうことなく,当該板状部材32,34を安定して嵌入することができる。
【0076】
さらに,上部側板状部材32と下部側板状部材34とが,左右逆のテーパ形状となっているので,ドーム構造の完成後も,木質軸部材10と接合ブロック20間の自己釣り合いにより,当該板状部材32,34が緩んで脱落してしまうことを防止できる。
【0077】
(第3の実施形態)
次に,本発明の第3の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造について説明する。なお,第3の実施形態にかかる接合構造は,上記第1の実施形態にかかる接合構造と比して,以下に説明する点で相違するのみであり,その他の機能構成は略同一であるので,その詳細説明は省略する。
【0078】
まず,図5及び図6に基づいて,本発明の第3の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造について説明する。なお,図5は,本実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造を示す平面図(a),C−C線での縦断面図(b)である。また,図6は,本実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造において,左側板状部材36を嵌入する途中の状態(a),右側板状部材38を嵌入する途中の状態(b)を示すC−C線での縦断面図である。
【0079】
図5に示すように,第3の実施形態にかかる接合構造では,接合ブロック20が,断面が略正六角形状の中空ブロックとなっており,この接合ブロック20の6側面が接合面22となっている。このため,かかる接合ブロック20には,水平方向に3対の木質軸部材10,即ち合計6本の木質軸部材10が60度の等角度間隔で接合されている。
【0080】
かかる六角柱形状の接合ブロック20により3対の木質軸部材10を接合した場合,隣接する木質軸部材10が障害となるため,上記第2の実施形態のように板状部材32,34を水平方向から叩いて,接合ブロック20と木質軸部材10との隙間に嵌入することができない。
【0081】
このため,第3の実施形態にかかる接合構造では,接合ブロック20と各木質軸部材10との隙間を埋める上記板状部材30を,例えば水平方向に左右2つの板状部材(即ち,左側板状部材36と右側板状部材38)に分割し,各々の左側板状部材36と右側板状部材38を上下方向から当該隙間に嵌入するようにしている。
【0082】
具体的には,図5及び図6に示すように,左側板状部材36は,接合ブロック20と木質軸部材10の端面12との隙間のうち左側略半分の左側隙間に対して嵌入されるテーパ付きの板状部材(第1のテーパ状板状部材)であり,一方,右側板状部材38は,上記隙間のうち右側略半分の右側隙間に嵌入されるテーパ付きの板状部材(第2のテーパ状板状部材)である。
【0083】
さらに,この左側板状部材36と右側板状部材38とは,上記各々の隙間に対して,木質軸部材10上下逆方向から交互に叩いて嵌入される。つまり,左側板状部材36は,図6(b)に示すように,左側隙間に対して下方向(Z軸負方向)に嵌入され,右側板状部材38は,図6(c)に示すように,右側隙間に対して上方向(Z軸正方向)に嵌入される。
【0084】
ここで,図7A及び図7Bに基づいて,このような左側板状部材36及び右側板状部材38の形状について詳細に説明する。なお,図7A及び図7Bは,本実施形態にかかる左側及び右側板状部材36,38をそれぞれ示す正面図(a)と側面図(b)である。
【0085】
図7A(a)及び図7B(a)に示すように,左側及び右側板状部材36,38は,例えば,略矩形状のシムプレート(鉄板等)で構成されている。また,かかる左側及び右側板状部材36,38は,一側の辺から嵌入方向(Z軸方向)に延びる例えば帯状の切り欠き37,39が例えば1つずつ形成されている。この切り欠き37,39は,上記接合ブロック20と木質軸部材10とを連結する連結ボルト40の設置箇所に対応する位置に,連結ボルト40のネジ部40aの径より大きい幅で形成されている。これにより,左側及び右側板状部材36,38を上記各隙間に嵌入する際に,上記ネジ部40aが当該切り欠き36,38の部分に挿通されて障害とならないため,左側及び右側板状部材36,38を円滑に嵌入できる。
【0086】
さらに,図7A(b)及び図7B(b)に示すように,左側及び右側板状部材36,38は,断面がくさび形のテーパ状板状部材として構成されており,嵌入方向先端側に向かうにつれ厚みが薄くなるようなテーパ形状を有している。これにより,左側板状部材36と右側板状部材38をハンマー等で叩いて,接合ブロック20と木質軸部材10との隙間に嵌入するときに,容易に嵌入できるようになる。
【0087】
さらに,図5(b)及び図6に示すように,木質軸部材10の端面12には,上記左側及び右側板状部材36,38のテーパ形状および嵌入方向に応じて,相異なる方向に傾斜したテーパ面12C,12Dが予め形成されている。具体的には,この木質軸部材10の端面12の左側略半分には,図6(a)に示すように,左側板状部材36の嵌入方向(Z軸負方向)に向かって登るような傾斜面であるテーパ面12Cが形成されている。一方,木質軸部材10の端面12の右側略半分には,図6(b)に示すように,右側板状部材38の嵌入方向(Z軸正方向)に向かって登るような傾斜面であるテーパ面12Dが形成されている。
【0088】
かかるテーパ面12C,12Dに予め形成しておくことにより,嵌入時には,左側及び右側板状部材36,38を円滑に嵌入することができ,さらに,嵌入後には,木質軸部材10のテーパ面12C,12Dと左側及び右側板状部材36,38とが,好適に密着して面接触できる。なお,木質軸部材10は,鋼材等と比べて剛性が低く変形可能であるため,左側隙間,右側隙間の形状と,左側板状部材36,右側板状部材38の形状とが,ある程度相違していたとしても,この形状の相違を木質軸部材10の局部的変形によって吸収できる。
【0089】
また,図示しないが,第2の実施形態と同様に,左側及び右側板状部材36,38は,上記接合ブロック20と木質軸部材10の端面12との隙間の形状及び/又は大きさに応じて,それぞれ複数種類のテーパ角および厚みのものが用意されている。これにより,実際の施工現場で,接合ブロック20と木質軸部材10の端面12(テーパ面12C,12D)との間に生じた左側隙間と右側隙間の形状及び大きさに応じて,当該各隙間に合った左側及び右側板状部材36,38を,それぞれ選択して嵌入できる。
【0090】
以上,第3の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造について説明した。第3の実施形態にかかる接合構造では,上記のように,左右に分かれたテーパ付きの左側板状部材36と右側板状部材38を,左側隙間と右側隙間に対して,左右逆方向から交互に或いは同時に叩いて嵌入する。これにより,上記第1の実施形態にかかる効果に加え,次のような効果がある。
【0091】
まず,テーパ付きの左側及び右側板状部材36,38を使用することにより,当該左側及び右側板状部材36,38を,接合ブロック20と木質軸部材10との隙間に,容易かつ円滑に嵌入できる。
【0092】
また,この左側板状部材36と右側板状部材38を上下両側から交互若しくは同時に叩き込むことにより,上側若しくは下側からの偏った嵌入圧力によって木質軸部材10を上下に傾かせてしまうことなく,当該板状部材36,38を安定して嵌入することができる。
【0093】
さらに,左側板状部材36と右側板状部材38とが,上下逆のテーパ形状となっているので,ドーム構造の完成後も,木質軸部材10と接合ブロック20間の自己釣り合いにより,当該板状部材36,38が緩んで脱落してしまうことを防止できる。
【0094】
(施工方法)
次に,図8〜図10に基づいて,上記第2の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造を用いて木質軸部材10を接合して,木質ドーム型構造物のドーム構造部2を施工する方法について説明する。なお,図8は,上記第2の実施形態にかかる木質軸部材10の接合構造を用いた木質ドーム型構造物の施工方法を示すフローチャートであり,図9及び図10は,当該施工方法の工程説明図である。
【0095】
図8に示すように,まず,工程S10では,ブロック支持装置の一例である支持台座5を用いて,空間の所定位置に一対の接合ブロック20を離隔して配置する(工程S10)。具体的には,図9(a)に示すように,ドーム構造部2を構築する空間の所定位置に,例えば2つの支持台座5を木質軸部材10の長さと同程度離隔して固定し,当該各支持台座5の上に接合ブロック20を固定する。
【0096】
次いで,工程S12では,上記一対の接合ブロック20の間に木質軸部材10を配置する(工程S12)。具体的には,クレーン等を用いて木質軸部材10を揚重し,図9(b)に示すように,上記2つの支持台座5上に固定された接合ブロック20間に当該木質軸部材10を配置する。この結果,接合ブロック20の接合面22と,木質軸部材10の端面12との間には,建て方に必要な隙間60(例えば10〜20mm程度)が必然的に生じる(図9(c)参照)。
【0097】
さらに,工程S14では,上記連結ボルト40を仮締めして,各接合ブロック20と木質軸部材10の各端部とを仮固定する(工程S14)。具体的には,図9(c)に示すように,中空の接合ブロック20の内側から,連結ボルト40を挿入して仮締めし,木質軸部材10の端部(又は,当該木質軸部材10に埋設された棒状連結金具50)に固定する。これによって,接合ブロック20と木質軸部材10とが仮固定され,次工程で板状部材30を安定的に嵌入できるようになる。
【0098】
その後,工程S16では,接合ブロック20の接合面22と木質軸部材10の端面12との隙間60に,隙間充填部材である板状部材30を嵌入する(工程S16)。具体的には,図9(d)に示すように,上述したテーパ形状を有する上部側板状部材32と下部側板状部材34とを,左右逆方向から,ハンマー等を用いて交互又は同時に叩いて,上記隙間60の上部と下部に嵌入する。
【0099】
次いで,工程S18では,上記連結ボルト40を締結して,接合ブロック20と木質軸部材10の端部とを本固定する(工程S18)。具体的には,図10(a)に示すように,上記仮締めしてあった連結ボルト40を締結して,接合ブロック20と木質軸部材10の端部とを,板状部材30を介して強固に固定する。これにより,木質軸部材10と板状部材32,34と接合ブロック20とが密着して,相互に好適に面接触した状態となる。
【0100】
さらに,工程S20では,ドーム構造部2を構成する全ての木質軸部材10の設置が終わるまで,上記工程S10〜S18を繰り返す(工程S20)。この結果,図10(b)に示すように,複数の木質軸部材10が,接合ブロック20及び板状部材30を介して軸方向に接合される。
【0101】
その後,工程S22では,上記各接合ブロック20を支持している支持台座5を一斉に取り外す(工程S22)。具体的には,図10(c)に示すように,上記各接合ブロック20を支持している全ての支持台座5を,同時に下降させる(ジャッキダウン)。これによって,軸方向に接合された複数の木質軸部材10,接合ブロック20及び板状部材30は,支圧耐力によって相互に軸方向の圧縮応力を伝達することで,ドーム構造部2を崩落することなく構築できる。
【0102】
以上,本実施形態にかかる施工方法について説明した。かかる施工方法では,上記接合構造が単純であるため,作業員は施工作業を迅速かつ容易に実行できる。さらに,支持台座5上での作業は高所作業であるが,板状部材30を打ち込むなどといった簡単な作業で済むので,安全性が高い。また,接合ブロック20と木質軸部材10との隙間60に板状部材30を嵌入した後に,隙間が残存しているか否かを容易に確認できるので,従来の充填モルタルを充填する方式と比べて,接合部の品質を向上することができる。
【0103】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0104】
例えば,上記実施形態では,構造物として,木質ドーム型構造物の例について説明したが,本発明はかかる例に限定されない。構造部材である木質軸部材10に対して軸方向の圧縮応力が支配的に作用する構造の木質構造物であれば,例えば,木質アーチ型構造物,木質軸部材10をラチス型に組み合わせて構築された木質垂直壁などにもできる。
【0105】
また,上記第2及び第3の実施形態では,接合ブロック20と木質軸部材10との隙間に,上下に分かれた2枚の板状部材32,34,或いは左右に分割された2枚の板状部材36,38を嵌入したが,本発明はかかる例に限定されず,3枚以上に分かれた板状部材30を任意の方向から嵌入してもよい。また,当該隙間の同一箇所に複数枚の板状部材30を重ねて嵌入して,当該隙間を好適に埋めるようにしてもよい。
【0106】
また,上記実施形態では,断面が正方形又は六角形の中空の接合ブロック20の例を挙げて説明したが,本発明はかかる例に限定されない。接合ブロック20の形状は,複数対の木質軸部材10の端面12と接合し,連結ボルト40を締結可能な形状であれば,例えば,多様に設計変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明は,軸力支配型の木質構造物に適用可能であり,特に,木質ドーム型構造物に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる接合構造が適用される木質ドーム型構造物の全体構成を概略的に示す分解斜視図である。
【図2】同実施形態にかかる木質軸部材の接合構造を示す平面図(a)及び正面図(b)である。
【図3】本発明の第2の実施形態にかかる木質軸部材の接合構造を示す正面図(a),A−A線での横断面図(b),B−B線での横断面図(c)である。
【図4A】同実施形態にかかる上部側板状部材を示す正面図(a)と平面図(b)である。
【図4B】同実施形態にかかる下部側板状部材を示す正面図(a)と平面図(b)である。
【図5】本発明の第3の実施形態にかかる木質軸部材の接合構造を示す平面図(a),C−C線での縦断面図(b)である。
【図6】同本実施形態にかかる木質軸部材の接合構造において,左側板状部材と右側板状部材を嵌入する途中の状態を示す縦断面図である。
【図7A】同実施形態にかかる左側板状部材を示す正面図(a)と側面図(b)である。
【図7B】同実施形態にかかる右側板状部材を示す正面図(a)と側面図(b)である。
【図8】本発明の第2の実施形態にかかる木質軸部材の接合構造を用いた木質ドーム型構造物の施工方法を示すフローチャートである。
【図9】同実施形態にかかる木質軸部材の接合構造を用いた木質ドーム型構造物の施工方法の工程説明図である。
【図10】同実施形態にかかる木質軸部材の接合構造を用いた木質ドーム型構造物の施工方法の工程説明図である。
【符号の説明】
【0109】
1 土台部
2 ドーム構造部
3 屋根部
5 支持台座
10 木質軸部材
12 木質軸部材の端面
12A〜D 木質軸部材の端面のテーパ面
20 接合ブロック
22 接合ブロックの接合面
24 接合ブロックの貫通孔
30 板状部材
32 上部側板状部材
33 上部側板状部材の切り欠き
34 下部側板状部材
35 下部側板状部材の切り欠き
36 左側板状部材
37 左側板状部材の切り欠き
38 右側板状部材
39 右側板状部材の切り欠き
40 連結ボルト
40a 連結ボルトのネジ部
50 棒状連結金具
60 接合ブロックと木質軸部材の端面との隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の木質軸部材を軸方向の圧縮応力が支配的に作用するよう接合して構成される木質構造物用の接合構造であって:
相隣接する前記木質軸部材の端面間に配置される接合ブロックと;
前記接合ブロックと前記木質軸部材の端面との隙間に嵌入される隙間充填部材と;
を含み,
相隣接する前記木質軸部材が,前記接合ブロック及び前記隙間充填部材を介して,軸方向の圧縮応力を相互に伝達可能に接合されることを特徴とする,接合構造。
【請求項2】
前記木質構造物は,湾曲状の設定線に沿って複数の木質軸部材を接合して,前記設定線に沿って隣接する前記木質軸部材が軸方向の圧縮応力を相互に伝達可能に接合されていることを特徴とする,請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記木質構造物は,木質ドーム型構造物であることを特徴とする,請求項1に記載の接合構造。
【請求項4】
前記隙間充填部材は,前記接合ブロックと前記木質軸部材の端面との隙間に応じた厚みを有する板状部材であることを特徴とする,請求項1〜3のいずれかに記載の接合構造。
【請求項5】
前記板状部材は,テーパ形状を有するテーパ状板状部材であることを特徴とする,請求項4に記載の接合構造。
【請求項6】
前記木質軸部材の端面には,前記テーパ状板状部材の形状に応じたテーパ面が形成されていることを特徴とする,請求項5に記載の接合構造。
【請求項7】
前記テーパ状板状部材は,少なくとも,前記接合ブロックと前記木質軸部材の端面との隙間のうち一側に嵌入される第1のテーパ状板状部材と,他側に嵌入される第2のテーパ状板状部材とに分割されており,
前記第1のテーパ状板状部材と前記第2のテーパ状板状部材は,反対方向から交互又は同時に,前記一側と他側の隙間にそれぞれ嵌入されることを特徴とする,請求項5または6に記載の接合構造。
【請求項8】
前記接合ブロックは,前記木質軸部材の端面に対応する接合面を複数対有することを特徴とする,請求項1〜7のいずれかに記載の接合構造。
【請求項9】
前記接合ブロックは中空であることを特徴とする,請求項1〜8のいずれかに記載の接合構造。
【請求項10】
前記接合ブロックと前記木質軸部材とを連結する1又は2以上の連結ボルトをさらに含むことを特徴とする,請求項1〜9のいずれかに記載の接合構造。
【請求項11】
複数の前記連結ボルトが,前記木質軸部材の端面の上部側と下部側に偏って配置されることを特徴とする,請求項10に記載の接合構造。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の接合構造により複数の木質構造部材を接合して構成された木質構造物。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の接合構造により複数の木質構造部材を接合して構成される木質構造物の施工方法であって;
(1)ブロック支持装置を用いて,空間の所定位置に一対の接合ブロックを離隔して配置する工程と;
(2)前記一対の接合ブロック間に前記木質軸部材を配置する工程と;
(3)連結ボルトを仮締めして前記接合ブロックと前記木質軸部材の端部とを仮固定する工程と;
(4)前記接合ブロックと前記木質軸部材の端面との隙間に,隙間充填部材を嵌入する工程と;
(5)前記連結ボルトを締結して,前記接合ブロックと前記木質軸部材の端部とを本固定する工程と;
(6)複数の前記木質軸部材について,前記(1)〜(5)の工程を繰り返す工程と;
(7)前記各接合ブロックを支持する前記ブロック支持装置を一斉に取り外す工程と;
を含むことを特徴とする,木質構造物の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−322241(P2006−322241A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147182(P2005−147182)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】