説明

接点材料

【課題】被接触部材に対するエッジ部の接触性を向上させて抵抗値を安定させることが可能な接点材料を提供する。
【解決手段】導電性金属材料からなる母材16と、母材16の表面の、少なくとも球状端子に接触する部分に直接コーティングされた導電性炭素膜13とを有し、導電性炭素膜13は、球状端子に食い込むエッジ部14を有し、エッジ部14は、球状端子に食い込んだときに変形しない硬さを具備する上側接触部材10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、半導体素子の接続検査(バーンイン試験等)に使われるコンタクトピン等に好適に使用される接点材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の接点材料としては、そのエッジ部が、はんだ製の被接触部材に食い込むことにより、被接触部材に接触して導通するように構成されたものがある。
【0003】
従来、この接点材料のエッジ部を形成する際には、図3(a)に示すように、ベリリウム銅などの接点合金材11を鋭角に切削してエッジ部14を形成する方法や、図4に示すように、接点合金材11を鋭角に切削した後、めっき層12を介して導電性炭素膜13を積層してエッジ部14を形成する方法が採用されている。他のこの種のものとしては、例えば特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4045084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来のものにあっては、以下に述べるように、被接触部材に対するエッジ部14の接触性が悪くなるため、抵抗値が不安定になるという課題があった。
【0006】
まず、図3(a)に示すように、接点合金材11を鋭角に切削してエッジ部14を形成すると、半導体素子の接続検査を繰り返すうちに、被接触部材のはんだの一部がエッジ部14に付着する現象(つまり、はんだ転移)が生じる。そして、エッジ部14は、特に高温時において、被接触部材のはんだに含まれるスズ(Sn)と合金化しやすいため、凝着摩耗やメンテナンス(クリーニング)により、図3(b)に示すように、丸まってしまう。例えば、エッジ部14の曲率半径で評価すると、最初1〜3μm程度であったものが、150℃、5000回の接触で20μm以上になる。その結果、エッジ部14が被接触部材に食い込みにくくなり、被接触部材に対するエッジ部14の接触性が悪くなるため、抵抗値が不安定になる。
【0007】
他方、図4に示すように、接点合金材11を鋭角に切削した後、めっき層12を介して導電性炭素膜13を積層してエッジ部14を形成すると、接点合金材11上にめっき層12が形成されるため、いくら接点合金材11が先鋭に形成されていても、めっき層12の厚さに応じてエッジ部14が丸まってしまう。例えば、めっき層12の厚さが4μmの場合、接点合金材11の曲率半径が1〜3μm程度であっても、エッジ部14の曲率半径は10〜20μm程度になる。従って、エッジ部14が被接触部材に食い込みにくくなり、被接触部材に対するエッジ部14の接触性が悪くなるため、抵抗値が不安定になる。
【0008】
そこで、この発明は、被接触部材に対するエッジ部の接触性を向上させて抵抗値を安定させることが可能な接点材料を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を達成するために、この発明は、はんだ製の被接触部材に接触して導通する接点材料であって、導電性金属材料からなる母材と、該母材の表面の、少なくとも前記被接触部材に接触する部分に直接コーティングされた導電性非金属膜とを有し、前記導電性非金属膜は、前記被接触部材に食い込むエッジ部を有し、該エッジ部は、前記被接触部材に食い込んだときに変形しない硬さを具備する接点材料としたことを特徴とする。
【0010】
他の特徴は、前記導電性非金属膜が、導電性炭素膜であることにある。
【0011】
他の特徴は、前記導電性非金属膜のエッジ部は、ビッカース硬さが300以上であることにある。
【0012】
他の特徴は、前記母材が、耐食性を有する接点合金材であることにある。
【0013】
他の特徴は、前記母材が、パラジウムと銀と銅を主成分とする合金であることにある。
【0014】
他の特徴は、前記導電性非金属膜のエッジ部は、最小の曲率半径が10μm以下であることにある。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、母材の表面に導電性非金属膜がコーティングされているため、はんだ転移の発生を導電性非金属膜によって阻止することができる。また、この導電性非金属膜が母材の表面に直接(すなわち、めっき層などを介さずに)コーティングされているため、めっき層が両者間に介在する場合と異なり、母材とほぼ同じ先鋭状態を維持することができる。さらに、エッジ部が所定の硬さを具備しているため、エッジ部のエッジ強度を増大させて、被接触部材に対する接触圧力を高めることができる。これらの結果、被接触部材に対するエッジ部の接触性を向上させて抵抗値を安定させることが可能となる。
【0016】
他の特徴によれば、母材が耐食性を有する接点合金材であることにより、母材の酸化に起因する抵抗値の増大を防ぎ、接点材料としての信頼性を長期にわたって確保することができる。
【0017】
他の特徴によれば、導電性非金属膜のエッジ部の最小の曲率半径を10μm以下とすることにより、エッジ部を被接触部材に確実に食い込ませることができる。そのため、エッジ部のエッジ強度をさらに増大させ、被接触部材に対するエッジ部の接触性をますます向上させて抵抗値を一層安定させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態に係るコンタクトピンの断面図で、(a)は非使用状態図、(b)は使用状態図である。
【図2】同実施の形態に係るコンタクトピンの上側接触部材のエッジ部を示す断面図である。
【図3】従来の接点材料のエッジ部の第1例を示す断面図で、(a)は使用前の状態を示す図、(b)は使用後の状態を示す図である。
【図4】従来の接点材料のエッジ部の第2例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
【0020】
図1には、この発明の実施の形態を示す。
【0021】
まず、構成を説明すると、図1中符号20は、両端摺動型のコンタクトピンで、このコンタクトピン20は、図1(b)に示すように、ICパッケージ24の接続検査(バーンイン試験等)を行うために、このICパッケージ24の「被接触部材」としてのはんだ製の球状端子24aと配線基板Pとの電気的接続を図るものである。
【0022】
コンタクトピン20は、図1に示すように、略円筒状の導電性のバレル21と、このバレル21の下端部に上下動自在に配設されて、配線基板Pの図示省略の電極部に接触する導電性の下側接触部材(下側プランジャ)22と、バレル21の上端部に上下動自在に配設されて、ICパッケージ24の球状端子24aに接触する「接点材料」としての導電性の上側接触部材(上側プランジャ)10と、バレル21の内部で下側接触部材22と上側接触部材10との間に伸縮自在に配設されて、両者を離間する方向に付勢する導電性のコイルスプリング23とを有している。
【0023】
上側接触部材10は、図1,図2に示すように、パラジウムと銀と銅の合金、パラジウムと銀とプラチナの合金、パラジウムと銀と金とプラチナの合金、金と銀と銅の合金、金と銀とプラチナの合金、銀とパラジウムとプラチナの合金、パラジウムと銀と金とプラチナと銅と亜鉛の合金などの接点合金材である導電性金属材料からなる耐食性の母材16を有している。母材16の上端部は、いわゆる王冠形状に形成されており、この上端部の表面の、ICパッケージ24の球状端子24aに接触する部分には、「導電性非金属膜」としての導電性炭素膜13が直接コーティングされている。この導電性炭素膜13のコーティング法としては、スパッタ、アークイオンプレーティングなどの公知の成膜手法を採用することができる。導電性炭素膜13の上端部には、ICパッケージ24の球状端子24aに食い込む4つのエッジ部14が、ICパッケージ24の球状端子24aに対応する形で円環状に位置して形成されている。各エッジ部14は、ビッカース硬さが300以上であり、ICパッケージ24の球状端子24aに食い込んだときに変形しない硬さを具備している。また、各エッジ部14は、最小の曲率半径が10μm以下となっている。
【0024】
次に、かかるコンタクトピン20の使用方法について説明する。
【0025】
まず、コンタクトピン20は複数、例えば、図示省略のICソケットに配設され、このICソケットを配線基板P上に配置する。このとき、図1(b)に示すように、コンタクトピン20の下側接触部材22を配線基板Pの電極部に接触させる。すると、コンタクトピン20のバレル21に対して、下側接触部材22がコイルスプリング23の付勢力に抗して押し上げられる。
【0026】
続いて、このコンタクトピン20上にICパッケージ24を収容し、ICパッケージ24の球状端子24aをコンタクトピン20の上側接触部材10に接触させる。この状態で、ICパッケージ24を所定の圧力で押し下げる。すると、コンタクトピン20のバレル21に対して、上側接触部材10がコイルスプリング23の付勢力に抗して押し下げられる。
【0027】
その結果、上側接触部材10は、4つのエッジ部14がICパッケージ24の球状端子24aに食い込み、この球状端子24aと所定の接触圧力で接触する。また、下側接触部材22は、配線基板Pの電極部と所定の接触圧力で接触する。従って、ICパッケージ24の球状端子24aは、コンタクトピン20の上側接触部材10、バレル21、コイルスプリング23及び下側接触部材22を通じて、配線基板Pの電極部と導通した状態となる。
【0028】
この状態で、ICパッケージ24に電流を流して接続検査(バーンイン試験等)を行う。
【0029】
このとき、上側接触部材10は、母材16の表面に導電性炭素膜13がコーティングされているため、母材16が露呈している場合と異なり、ICパッケージ24の接続検査を繰り返し行っても、はんだ転移の発生を導電性炭素膜13によって阻止することができる。また、この導電性炭素膜13が母材16の表面に直接(すなわち、めっき層などを介さずに)コーティングされているため、めっき層が両者間に介在する場合と異なり、母材16とほぼ同じ先鋭状態を維持することができる。さらに、各エッジ部14が所定の硬さを具備しているため、4つのエッジ部14のエッジ強度を増大させて、ICパッケージ24の球状端子24aに対する接触圧力を高めることができる。これらの結果、ICパッケージ24の球状端子24aに対する各エッジ部14の接触性を向上させて抵抗値を安定させることが可能となる。
【0030】
また、上側接触部材10は、母材16が耐食性を有しているので、母材16の酸化(錆び等)に起因する抵抗値の増大(導電性の劣化)を防ぎ、上側接触部材10としての信頼性を長期にわたって確保することができる。
【0031】
さらに、上側接触部材10の導電性炭素膜13の各エッジ部14は、最小の曲率半径が10μm以下であるため、4つのエッジ部14をICパッケージ24の球状端子24aに確実に食い込ませることができる。そのため、各エッジ部14のエッジ強度をさらに増大させ、ICパッケージ24の球状端子24aに対する各エッジ部14の接触性をますます向上させて抵抗値を一層安定させることが可能となる。また、4つのエッジ部14がICパッケージ24の球状端子24aに確実に食い込むので、母材16の王冠形状の上端部の直径を大きくすることができ、ICパッケージ24の球状端子24aの最下位置へのエッジ部14の食い込みをより抑制することができると同時に、各エッジ部14のセルフクリーニング性が向上する。
【0032】
また、上側接触部材10において、導電性炭素膜13がコーティングされているのは、母材16の表面の一部(ICパッケージ24の球状端子24aに接触する部分)のみであり、バレル21とは母材16が直接(導電性炭素膜13を介さずに)接触するので、母材16に比べて導電性炭素膜13の接触抵抗がやや高くても、上側接触部材10とバレル21との導電性を確保することができる。
【0033】
なお、上記実施の形態では、両端摺動型(下側接触部材22と上側接触部材10の双方がバレル21に対して上下動自在に保持されたタイプ)のコンタクトピン20について説明したが、片端摺動型(下側接触部材22と上側接触部材10の一方がバレル21に対して上下動自在に保持され、他方がバレル21に固定されたタイプ)のコンタクトピン20にもこの発明を適用することができる。
【0034】
また、上記実施の形態では、導電性炭素膜13の上端部に4つのエッジ部14を形成した場合について説明したが、このエッジ部14の個数は4つに限るわけではない。
【0035】
また、上記実施の形態では、導電性非金属膜が導電性炭素膜13であるコンタクトピン20について説明したが、導電性炭素膜13に限らず、他の導電性非金属膜を採用しても構わない。
【0036】
さらに、上記実施の形態では、被接触部材がICパッケージ24の球状端子24aである場合について説明したが、ICパッケージ24の球状端子24aに限らず、他の被接触部材に接触して導通する接点材料にもこの発明を適用することができる。
【0037】
さらにまた、上記実施の形態では、接点材料が上側接触部材10である場合について説明したが、上側接触部材10に限らず、他の接点材料にもこの発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 上側接触部材(接点材料)
13 導電性炭素膜(導電性非金属膜)
14 エッジ部
16 母材
24a 球状端子(被接触部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ製の被接触部材に接触して導通する接点材料であって、
導電性金属材料からなる母材と、該母材の表面の、少なくとも前記被接触部材に接触する部分に直接コーティングされた導電性非金属膜とを有し、
前記導電性非金属膜は、前記被接触部材に食い込むエッジ部を有し、該エッジ部は、前記被接触部材に食い込んだときに変形しない硬さを具備することを特徴とする接点材料。
【請求項2】
前記導電性非金属膜が、導電性炭素膜であることを特徴とする請求項1に記載の接点材料。
【請求項3】
前記導電性非金属膜のエッジ部は、ビッカース硬さが300以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接点材料。
【請求項4】
前記母材が、耐食性を有する接点合金材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の接点材料。
【請求項5】
前記母材が、パラジウムと銀と銅を主成分とする合金であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の接点材料。
【請求項6】
前記導電性非金属膜のエッジ部は、最小の曲率半径が10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の接点材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−202865(P2012−202865A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68495(P2011−68495)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000208765)株式会社エンプラス (403)
【Fターム(参考)】