説明

接着剤、シート状接着剤、及びこれらを用いた接着方法

【課題】シクロオレフィンポリマー、特に熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の接着において優れた接着強度を有する接着剤、シート状接着剤、及びこれらを用いた接着方法を提供すること。
【解決手段】(A)成分:下記一般式(1)で表されるアリルエステル基を有する反応性ポリマー及び/又はオリゴマーを含有する接着剤。


〔式中、R1は炭素数1〜4のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示し、R2はシクロアルカンジイル基、シクロアルケンジイル基又はアレーンジイル基を示す。複数のR1及びR2は同じでも異なっていてもよい。また、nは平均重合数を表す1〜30の数である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルエステル基を有する反応性ポリマー及び/又はオリゴマーを含有する接着剤、シート状接着剤、及びこれらを用いた接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロオレフィンポリマーは、シクロオレフィンをモノマーとして合成されるポリマーであり、種々の重合反応により多様なポリマーが得られることが知られており、低複屈折性、耐熱性、低吸湿性を持つため高い信頼性を持つプラスチック光学部品に用いられる材料として注目されている。なかでも、熱可塑性ノルボルネン系樹脂は、耐熱性、耐光性、耐湿性、表面平滑性に優れた熱可塑性透明樹脂であり、その樹脂成形品は、容器やフィルムなどの耐湿性包装材料、電気絶縁材料、人造大理石などに有用であることが知られており、その透明性と低複屈折性から、特に光学用途において注目されている。
【0003】
樹脂成形品は、単独で用いられることもあるが、特に光学用途として用いられる場合は、同じ材料、あるいは他の材料からなる被着体と接着して用いられることが多い。しかし、熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる樹脂成形品は、同じ材料、あるいは他の材料からなる被着体と接着する場合に、接着性が低く、接着しにくいという問題がある。このような問題を解決するために、熱可塑性ノルボルネン系ポリマーの成形品の接着に用いられる接着剤が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。しかしながら、特許文献1及び2に開示される接着剤では、硬化に伴う収縮が大きい、ノルボルネン系ポリマーに対する濡れ性が低いなどの理由により、その接着強度は十分とはいえず、また接着剤層にブリスター(発泡)が生じるといった問題があった。このようななか、シクロオレフィンポリマー、特に熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の接着において、優れた接着強度を有し、かつブリスターの発生が少ない接着剤の開発が望まれている。
【0004】
【特許文献1】特許第2805225号明細書
【特許文献2】特開平6−340849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、シクロオレフィンポリマー、特に熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の接着において優れた接着強度を有し、かつブリスターの発生が少ない接着剤、シート状接着剤、及びこれらを用いた接着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、アリルエステル基を有する反応性ポリマー又はオリゴマーを含有する接着剤が、シクロオレフィンポリマー、特に熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の接着において優れた接着強度を示すことを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、以下の接着剤、シート状接着剤、及びこれらを用いた接着方法を提供するものである。
1.(A)成分:下記一般式(1)で表されるアリルエステル基を有する反応性ポリマー及び/又はオリゴマーを含有する接着剤。
【0007】
【化1】

【0008】
〔式中、R1は炭素数1〜4のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示し、R2はシクロアルカンジイル基、シクロアルケンジイル基又はアレーンジイル基を示す。複数のR1及びR2は同じでも異なっていてもよい。また、nは平均重合数を表す1〜30の数である。〕
2.さらに、(B)成分:(A)成分と共重合可能なモノマー、及び(C)成分:熱重合開始剤を含む上記1に記載の接着剤。
3.さらに、(D)成分:多官能(メタ)アクリルモノマー及び/又はオリゴマーを含む上記1又は2に記載の接着剤。
4.さらに、(E)成分:光重合開始剤を含む上記3に記載の接着剤。
5.上記3又は4に記載の接着剤を基材上に展延し、エネルギー線を照射してゲル化させて得られるシート状接着剤。
6.上記1〜4のいずれかに記載の接着剤を、熱処理によって硬化させることを特徴とする接着方法。
7.上記5に記載のシート状接着剤を用いて、樹脂成形品と被着体とを密着ざせた後、該接着剤を熱処理により硬化させることを特徴とする接着方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シクロオレフィンポリマー、特に熱可塑性ノルボルネン系樹脂からなる成形品の接着において優れた接着強度を有する接着剤、シート状接着剤、及びこれらを用いた接着方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[接着剤:(A)成分]
本発明の接着剤は、(A)成分:下記一般式(1):
【0011】
【化2】

【0012】
で表されるアリルエステル基を有する反応性ポリマー及び/又はオリゴマーを含有する接着剤である。
ここで、R1は炭素数1〜4のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示し、R2はシクロアルカンジイル基、シクロアルケンジイル基又はアレーンジイル基を示す。複数のR1及びR2は同じでも異なっていてもよい。また、R1及びR2は置換基を有していてもよく、直鎖でも分岐でもよい。置換基としては、特に制限はなく、例えばハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、イミノ基、アミド基、カルボキシ基などが挙げられる。R1としては、良好な接着強度を得るために、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましく、R2としては、シクロヘキサンジイル基、フェニレン基が好ましい。nは平均重合数を表し、1〜30の数であり、好ましくは1〜10である。
【0013】
反応性オリゴマーの重量平均分子量は、300〜10000、好ましくは500〜9000、さらに好ましくは800〜8000である。反応性オリゴマーの重量平均分子量が上記範囲内にあれば、優れた接着強度が得られ、シート状接着剤を得る際の加工性が良好となるので好ましい。なお、重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ法により測定し、ポリスチレン換算した値である。
また、反応性ポリマーの重量平均分子量は、10000以上であり、好ましくは10000〜50000である。反応性ポリマーの重量平均分子量が上記範囲内にあれば、優れた接着強度が得られるとともに、後述するシート状接着剤の作製が容易となる。
【0014】
(A)成分:一般式(1)で表されるアリルエステル基を有する反応性ポリマー又はオリゴマーは、公知の方法により合成することができ、例えば、2価カルボン酸又はその無水物のジ(メタ)アリルエステルと多価アルコールを触媒存在下でエステル交換反応を行い合成する方法(例えば、特開平6−73145号公報参照)、アリルアルコールと飽和多価カルボン酸との低級エステルと、多価アルコールと、から合成する方法(例えば、特開平2−251509号公報参照)を用いることができる。なお、合成された反応性ポリマー及び/又はオリゴマー中には、低分子の原料モノマーが残存するが、本発明においては、これらのモノマーを分離することなくそのまま使用してもよい。なお、(A)成分は、上記のように合成したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよく、市販品としては、「PP201(商品名)」、「DA101(商品名)」、及び「BA901(商品名)」(いずれも昭和電工株式会社製)が挙げられる。
【0015】
[接着剤:(B)成分]
本発明の接着剤は、さらに(B)成分:(A)成分と共重合可能なモノマー、及び(C)成分:熱重合開始剤を含むことができる。
(B)成分は、希釈剤として用いられるものであり、(A)成分と共重合可能なモノマーであれば特に制限なく用いることができる。なかでもアリルエステルモノマーが好ましく挙げられ、アリルエステルモノマーとしては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリルエステル、シクロヘキサントリカルボン酸トリアリルエステル、シクロヘキサンテトラカルボン酸テトラアリルエステル、ジアリルフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、ジアリルテレフタレートモノマー、ジアリルアジペートモノマー、トリアリルイソシアヌレートモノマー、トリアリルトリメリテートモノマー、ジエチレングリコールジアリルカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ジアリルアジペートモノマー、シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル、ジエチレングリコールジアリルカーボネート、ジアリルフタレートモノマー、ジアリルイソフタレートモノマー、及びジアリルテレフタレートモノマーから選ばれる少なくとも1種を用いることが、接着剤の耐熱性、耐溶剤性、及び耐衝撃性の点で好ましい。
【0016】
[接着剤:(C)成分]
(C)成分は、接着剤の硬化を促進させるために用いられるものであり、通常用いられる熱重合開始剤を制限なく用いることができる。
(C)成分としては、例えば、過酸化水素;ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなどのペルオキソ二硫酸塩;2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリン酸)、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系化合物;ジクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酢酸、過コハク酸、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイドなどの有機過酸化物などが挙げられる。これら熱重合開始剤は、一種類のみを用いてもよく、また、二種類以上を併用してもよい。
【0017】
[接着剤:(D)成分]
本発明の接着剤は、エネルギー線による硬化性を有する(D)成分:多官能(メタ)アクリルモノマー及び/又はオリゴマーを含有することができる。
多官能性(メタ)アクリルモノマーとしては、分子内にエチレン性不飽和結合を2個以上有する(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。具体的にはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジアクリレートなどが挙げられる。これらの多官能性(メタ)アクリルモノマーは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
多官能性(メタ)アクリルオリゴマーとしては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系等のオリゴマーが挙げられる。ここで、エポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマーは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレート系オリゴマーを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートオリゴマーも用いることができる。
【0019】
さらに、多官能性(メタ)アクリルオリゴマーとしては、ポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリレート基をもつ疎水性の高いポリブタジエン(メタ)アクリレート系オリゴマー、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーン(メタ)アクリレート系オリゴマー、小さな分子内に多くの反応性基をもつアミノプラスト樹脂を変性したアミノプラスト樹脂(メタ)アクリレート系オリゴマー、あるいはノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等の分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマーなどが挙げられる。
【0020】
[接着剤:(E)成分]
本発明の接着剤は、(D)成分の多官能(メタ)アクリルモノマー及び/又はオリゴマーの硬化を促進させるために、(E)成分:光重合開始剤を好ましく含有する。
光重合開始剤としては、たとえば、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノンなどのフェノン系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトンなどのケトン系光重合開始剤;ベンゾイン、ベンゾインアルキルエーテル、ベンゾインヒドロキシアルキルエーテル、ジアセチルおよびその誘導体;アントラキノンおよびその誘導体;ジフェニルジスルフィドおよびその誘導体;ベンゾフェノンおよびその誘導体;ベンジルおよびその誘導体;2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)、2、2'−アゾビス(N,N'−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2'−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕、1,1'−アゾビス(1−アミジノ−1−シクロプロピルエタン)、2,2'−アゾビス(2−アミジノ−4−メチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2−N−フェニルアミノアミジノプロパン)、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−エチルアミノ−2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(1−アリルアミノ−1−イミノ−2−メチルブタン)、2,2'−アゾビス(2−N−シクロヘキシルアミジノプロパン)、2,2'−アゾビス(2−N−ベンジルアミジノプロパン)およびその塩酸、硫酸、酢酸塩;4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)およびそのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩;2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(イソブチルアミド)、2,2'−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2'−アゾビス〔2−メチル−N−(1,1'−ビス(ヒドロキシメチル)エチル)プロピオンアミド〕、2,2'−アゾビス〔2−メチル−N−(1,1'−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕等の水溶性アゾ系光重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどが挙げられる。これらの光重合開始剤は、それぞれ単独で使用することができ、また複数を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
[接着剤:各種添加剤]
本発明の接着剤には、必要に応じて、接着強度を低減させない程度の範囲で、充填剤、チクソ剤、可塑剤、接着性付与剤、硬化触媒、安定剤、多官能チオール化合物などの各種添加剤を配合してもよい。
充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、表面疎水処理炭酸カルシウム、カーボンブラック、タルク、酸化チタン、ゴム粉末などが挙げられる。
チクソ剤としては、例えば、コロイド状シリカ、水素添加ヒマシ油、有機ベントナイトなどが挙げられる。可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、トリブチルホスフェート(TBP)、トリオクチルホスフェート、アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、エポキシ化大豆油などが挙げられる。
接着性付与剤としては、例えば、各種チタネート系カップリング剤、シラン系カップリング剤、及びこれらカップリング剤とイソシアネート化合物との反応生成物などが挙げられる。硬化触媒としては、例えば、トリエチルアミンなどの3級アミン類、ジブチル錫ジラウレート、オクテン酸錫、ナフテン酸鉛などの有機金属化合物などが挙げられる。
安定剤としては、例えば、商品名「チヌビン327」(チバガイギー社製)、商品名「イルガノックス1010」(チバガイギー社製)、商品名「トミソープ800」(吉富製薬社製)などが挙げられる。また、多官能チオール化合物としては、ジペンタエリスリトールへキサキス(3−メルカプトプロピオネート)などが挙げられる。
【0022】
[接着剤]
本発明の接着剤は、上記の(A)成分を必須とし、さらに必要に応じて(B)〜(E)成分を含有するものである。
本発明の接着剤が、(A)〜(C)成分を含有する場合、各成分の接着剤中の含有量は、(A)成分30〜99質量%、(B)成分0〜60質量%、及び(C)成分0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは(A)成分40〜90質量%、(B)成分8〜55質量%、及び(C)成分1〜5質量%である。各成分の含有量が上記範囲内にあれば、優れた接着強度が得られるので好ましい。
また、本発明の接着剤が、(A)〜(D)成分、(A)〜(E)成分、(A)及び(D)成分、あるいは(A),(D)及び(E)成分を含有する場合は、各成分の接着剤中の含有量は、(A)成分30〜99質量%、(B)成分0〜60質量%、(C)成分0〜10質量%、(D)成分0.5〜30質量%、及び(E)成分0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは(A)成分40〜85質量%、(B)成分8〜50質量%、(C)成分1〜5質量%、(D)成分3〜20質量%、及び(E)成分1〜5質量%である。各成分の含有量が上記範囲内にあれば、優れた接着強度が得られるので好ましい。
【0023】
本発明の接着剤は、シクロオレフィンポリマーを主成分とする樹脂成形品、なかでも熱可塑性ノルボルネン系ポリマーを主成分とする樹脂成形品の接着において優れた接着強度を有するものである。
熱可塑性ノルボルネン系樹脂としては、ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体、ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーとエチレンやプロピレンなどのα−オレフィンとの共重合体、及びこれらを不飽和カルボン酸やその油導体で変性したグラフト変性体、ならびにその水素化物などが挙げられる。また、本発明の接着剤は、シクロオレフィンポリマーとしてシクロペンテン系ポリマー、シクロブテン系ポリマーなどを主成分とする樹脂成形品の接着においても優れた接着強度を有する。
【0024】
[シート状接着剤]
本発明のシート状接着剤は、(A)〜(D)成分、(A)〜(E)成分、(A)及び(D)成分、ならびに(A)、(D)及び(E)成分を含有する接着剤を基材上に展伸し、エネルギー線を照射して該接着剤をゲル化(半硬化)して得られるものである。
ゲル化の程度としては、シート状接着剤のゲル分率が、通常1〜50%の範囲にあり、好ましくは3〜30%である。シート状接着剤のゲル分率が、上記範囲内にあれば、良好な接着強度を得ることができる。ここで、ゲル分率は、シート状接着剤の硬化の度合いを示す指標であり、下記のように質量Aと質量Bとを測定し、これを用いて下記の式(I)により算出して得られる値である。作製したシート状接着剤の質量を質量Aとし、測定後のシート状接着剤をアセトンで還流して3時間抽出を行い、その後23℃(相対湿度50%)の環境下で24時間、次いで80℃で12時間乾燥した後の質量を質量Bとしたときの、質量Aに対する質量Bの割合がゲル分率である。なお、質量の測定は、精密天秤により秤量したものである。
【0025】
【数1】

【0026】
基材は、エネルギー線を照射しても劣化などが生じないものであれば特に制限はなく、例えば、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などからなるシートを用いることができる。基材の厚さは、特に制限はなく、通常10〜100μm程度であり、20〜75μmが好ましく、より好ましくは25〜50μmである。
該基材としては、シート状接着剤の使い勝手を向上させる目的で、剥離剤を塗布して形成した剥離層を設けた剥離シートを用いることができ、該剥離シートは、該シート状接着剤の片面、又は両面に設けることができる。例えば、剥離シートを両面に設けたシート状接着剤は、該剥離シート上に接着剤を硬化後に所定の厚さとなるように展伸(塗布)し、塗布した接着剤側からエネルギー線を照射して該接着剤をゲル化(半硬化)させてシート状接着剤を形成して、さらに剥離シートを重ねることで得られる。
剥離剤としては、アルキド系樹脂、シリコーン系樹脂などを含む剥離剤を用いることができ、剥離層は、該剥離剤を基材の表面上に塗布することで、設けられる。該剥離層の厚さは、特に制限はなく、通常0.05〜30μm程度であり、好ましくは0.1〜10μmである。
【0027】
エネルギー線としては、電離放射線、すなわち、紫外線又は電子線などが挙げられる。電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190〜380nmの紫外線を含む光線を用いればよい。紫外線量としては、用いる樹脂やシート状接着剤の厚みに応じて適宜選択すればよく、通常50〜500mJ/cm2程度であり、100〜450mJ/cm2が好ましく、200〜400mJ/cm2がより好ましい。また、紫外線照度は、通常50〜500mW/cm2程度であり、100〜450mW/cm2が好ましく、200〜400mW/cm2がより好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈などが用いられる。
【0028】
電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂やシート状接着剤の厚みに応じて適宜選定すればよく、通常加速電圧70〜300kV程度であることが好ましい。また、照射線量は、接着剤がゲル化する程度の量が好ましく、通常5〜300kGy(0.5〜30Mrad)、好ましくは10〜50kGy(1〜5Mrad)の範囲で選定される。電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、あるいは直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0029】
このようにして得られるシート状接着剤の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、通常10〜300μm程度であり、10〜100μmが好ましく、20〜75μmがより好ましい。
本発明のシート状接着剤は、液状接着剤を用いた場合にみられるはみ出しやブリスターの発生が少なく、また、均一な厚みの接着剤層を形成できるので、接着面積が大きくなっても接着部の全面にわたって均一な接着強度を得ることができる、などの点で優れた接着剤である。そして、本発明のシート状接着剤は、上記したシクロオレフィンポリマーを主成分とする樹脂成形品、なかでも熱可塑性ノルボルネン系ポリマーを主成分とする樹脂成形品の接着において優れた接着強度を有するものである。
【0030】
[接着剤の接着方法]
本発明の接着方法は、本発明の接着剤を熱処理によって硬化させることを特徴とする。具体的には、本発明の接着剤を、樹脂成形品及び被着体の一方又は両方に塗布し、該樹脂成形品及び被着体の接着面どうしを密着させて、動かないように固定して、熱処理によって該接着剤を硬化させることで接着するものである。
接着剤の塗布は、特に制限なく各種の塗布方法により行うことができ、例えばロールコーター、スプレー、スピンコート、あるいは手動の塗布具(アプリケーターなど)などにより行うことができる。接着剤の塗布量は、接着剤の硬化後の厚みが10〜100μm程度とすることが好ましく、25〜75μmとすることがより好ましい。
熱処理は、熱風乾燥機などを用いて行えばよく、熱処理の条件は、接着剤の塗付量、接着面の形状などにより適宜選択すればよいが、通常、被着体の熱変形などが生じない程度である100〜150℃、好ましくは100〜135℃の温度条件で、1〜5時間、好ましくは1〜3時間である。
また、被着体としては、樹脂成形体の接着面と密着する接着面を有するものであれば特に制限されず、同じ樹脂成形体でもよいし、樹脂成形体とは別の他の材料からなる被着体でもよい。樹脂成形体とは別の他の材料からなる被着体としては、光学用途においては、ガラス、セラミクス、金属などが挙げられる。
【0031】
[シート状接着剤の接着方法]
本発明のシート状接着剤の接着方法は、本発明のシート状接着剤を樹脂成形品と被着体とを密着させた後、該シート状接着剤を熱処理により硬化させることで接着するものである。より具体的には、本発明のシート状接着剤を樹脂成形品及び被着体の接着面で挟んで密着させて、熱処理してシート状接着剤を硬化させることで、樹脂成形品と被着体とを接着させるものである。
熱処理、被着体については、上記の接着剤の接着方法と同様である。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの例によって何ら限定されるものではない。
(評価方法)
各実施例及び比較例で得られた接着剤について、以下の方法で評価した。
(1)接着強度の測定
各実施例及び比較例で得られた試験片を、JIS K6854−2に準拠して、剥離角度180°、剥離速度100mm/mmでの剥離強さを測定した。
(2)ゲル分率の測定
実施例4〜7で得られたシート状接着剤から採取した測定用サンプルの質量を質量Aとし、測定後の当該サンプルをアセトンで還流して3時間抽出を行い、その後23℃(相対湿度50%)の環境下で24時間、次いで80℃で12時間乾燥した後の質量を質量Bとして、下記式(I)によりゲル分率を算出した。なお、質量の測定は、精密天秤により秤量したものである。
【0033】
【数2】

【0034】
(3)ブリスター(発泡)の評価
各実施例及び比較例の接着強度の測定に用いた試験片において、接着剤の硬化状態について、ブリスター(発泡)の状況を目視にて確認し、以下の基準で評価した。評価結果を第2表に示す。
○ :ブリスターは全く発生しなかった
△ :ブリスターは若干発生したが、光学用途以外であれば実用上問題ない
【0035】
実施例1
2枚のノルボルネン系樹脂フィルム(「ゼオノアZF−16(商品名)」:オプテス株式会社製、サイズ:150mm×300mm,厚さ:100μm)を用意した。第1表の組成及び配合比で調製した接着剤を、接着剤の硬化後の接着剤層の厚みが50μmとなるように、1枚のノルボルネン系樹脂フィルム上にアプリケーターを用いて塗布し、もう1枚のフィルムを空気が入らないように静かに密着させて、熱風乾燥機(「LC−234(型番)」,エスペック株式会社製)を用いて、130℃、2時間で接着剤を硬化させて2枚のノルボルネン系樹脂フィルムが接着された試料を得た。その後、測定幅が25mmとなるように、試料をカットして試験片とした。得られた試験片の測定及び評価の結果を第2表に示す。
【0036】
実施例2、3
実施例1において、接着剤として第1表に示す組成及び配合比で調製したものを用いた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。得られた試験片の測定及び評価の結果を第2表に示す。
【0037】
実施例4
2枚のノルボルネン系樹脂フィルム(「ゼオノアZF−16(商品名)」:オプテス株式会社製、サイズ:150mm×300mm,厚さ:100μm)を用意した。第1表の組成及び配合比で調製した接着剤を、接着剤の硬化後の接着剤層の厚みが50μmとなるように、1枚のノルボルネン系樹脂フィルム上にアプリケーターを用いて塗布し、もう1枚のフィルムを空気が入らないように静かに密着させた。これに、紫外線照射装置(フュージョン社製,フュージョンHランプを使用)を用いて、300mW/cm2、300mJ/cm2の条件で光を照射して、接着剤をゲル化(半硬化)させてシート状接着剤を得た。次いで、熱風乾燥機を用いて、130℃、2時間で接着剤を硬化させて2枚のノルボルネン系樹脂フィルムが接着された試料を得た。その後、測定幅が25mmとなるように、試料をカットして試験片とした。得られたシート状接着剤、及び試験片の測定及び評価の結果を第2表に示す。
【0038】
実施例5
実施例4において、接着剤として第1表に示す組成及び配合比で調製したものを用いた以外は、実施例4と同様にして試験片を作製した。得られたシート状接着剤、及び試験片の測定及び評価の結果を第2表に示す。
【0039】
実施例6
第1表の組成及び配合比で調製した接着剤を、接着剤の硬化後の接着剤層の厚みが50μmとなるように、アルキド系樹脂からなる剥離剤を塗布してなるポリエチレンテレフタレートフィルム(「SP−PET38X(商品名)」:リンテック株式会社製,厚さ:38μm)の剥離剤塗布面に、アプリケーターを用いて塗布した。これに、紫外線照射装置(フュージョン社製,フュージョンHランプを使用)を用いて、300mW/cm2、300mJ/cm2の条件で光を照射して、接着剤をゲル化(半硬化)させた後、シリコーン系樹脂からなる剥離剤を塗布してなるポリエチレンテレフタレートフィルム(「SP−PET381031(商品名)」:リンテック株式会社製,厚さ:38μm)を、その剥離剤塗布面が接着剤と接触するように重ね合わせ、厚さ50μmのシート状接着剤を作製した。
次に、ノルボルネン系樹脂フィルム(「ゼオノアZF−16(商品名)」:オプテス株式会社製)を2枚用意した。シート状接着剤の一方の面の剥離フィルムを剥離して、重さ2kgのゴムローラーを用いて1枚のノルボルネン系樹脂フィルムに貼付し、さらにもう一方の面の剥離フィルムを剥離して、同様のゴムローラーを用いて、もう1枚のノルボルネン系樹脂フィルムを貼付した。その後、測定幅が25mmとなるように、試料をカットして試験片とした。得られたシート状接着剤、及び試験片の測定及び評価の結果を第2表に示す。
【0040】
実施例7
実施例6において、接着剤として第1表に示す組成及び配合比で調製したものを用いた以外は、実施例6と同様にして試験片を作製した。得られたシート状接着剤、及び試験片の測定及び評価の結果を第2表に示す。
【0041】
比較例1、2
実施例1において、接着剤として第1表に示す組成及び配合比で調製したものを用いた以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。得られた試験片の測定及び評価の結果を第2表に示す。
【0042】
【表1】

*1,DA101:アリルエステル樹脂85%,共重合可能なモノマーとして、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル15%からなる組成物(昭和電工株式会社製)
*2,BA901:アリルエステルオリゴマー60%,共重合可能なモノマーとして、ジアリルイソフタレート40%から成る組成物(昭和電工株式会社製)
*3,PP201:アリルエステル樹脂55%,共重合可能なモノマーとして、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジアリル45%からなる組成物(昭和電工株式会社製)
*4,A−DPH:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(「NKエステルA−DPH(商品名)」:新中村化学株式会社製)
*5,A−TMP:トリメチロールプロパントリアクリレート(「NKエステルA−TMPT(商品名)」:新中村化学株式会社製)
*6,Irg500:光重合開始剤(「イルガキュア500(商品名)」:チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)
*7,Irg184:光重合開始剤(「イルガキュア184(商品名)」:チバスペシャリティケミカルズ株式会社製)
*8,ジクミル:熱重合開始剤(ジクミルパーオキサイド:Aldrich社製)
【0043】
【表2】

【0044】
実施例1〜7で作製した接着剤は、接着強度に優れるものであることが示された。また、実施例5及び7の接着剤は、ブリスター(発泡)が全く発生せず、透明樹脂などを用いる光学用途として特に好適であることが示された。一方、比較例1の多官能(メタ)アクリレート及び熱重合開始剤を含む接着剤は、接着強度が不十分であり、比較例2の多官能(メタ)アクリレート及び光重合開始剤を含む接着剤は、接着しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:下記一般式(1)で表されるアリルエステル基を有する反応性ポリマー及び/又はオリゴマーを含有する接着剤。
【化1】

〔式中、R1は炭素数1〜4のアルカンジイル基又はアルケンジイル基を示し、R2はシクロアルカンジイル基、シクロアルケンジイル基又はアレーンジイル基を示す。複数のR1及びR2は同じでも異なっていてもよい。また、nは平均重合数を表す1〜30の数である。〕
【請求項2】
さらに、(B)成分:(A)成分と共重合可能なモノマー、及び(C)成分:熱重合開始剤を含む請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
さらに、(D)成分:多官能(メタ)アクリルモノマー及び/又はオリゴマーを含む請求項1又は2に記載の接着剤。
【請求項4】
さらに、(E)成分:光重合開始剤を含む請求項3に記載の接着剤。
【請求項5】
接着剤中の含有量が、(A)成分30〜99質量%、(B)成分0〜60質量%、及び(C)成分0.1〜10質量%である請求項2に記載の接着剤。
【請求項6】
接着剤中の含有量が、(A)成分30〜99質量%、(B)成分0〜60質量%、(C)成分0〜10質量%、及び(D)成分0.5〜30質量%である請求項3に記載の接着剤。
【請求項7】
接着剤中の含有量が、(A)成分30〜99質量%、(B)成分0〜60質量%、(C)成分0〜10質量%、(D)成分0.5〜30質量%、及び(E)成分0.1〜10質量%である請求項4に記載の接着剤。
【請求項8】
シクロオレフィンポリマーを主成分とする樹脂成形品の接着用である請求項1〜7のいずれかに記載の接着剤。
【請求項9】
シクロオレフィンポリマーが熱可塑性ノルボルネン系ポリマーである請求項8に記載の接着剤。
【請求項10】
請求項3、4、6、又は7に記載の接着剤を展延し、エネルギー線を照射してゲル化させて得られるシート状接着剤。
【請求項11】
エネルギー線が紫外線である請求項10に記載のシート状接着剤。
【請求項12】
シクロオレフィンポリマーを主成分とする樹脂成形品の接着用である請求項10又は11に記載のシート状接着剤。
【請求項13】
シクロオレフィンポリマーが熱可塑性ノルボルネン系ポリマーである請求項12に記載のシート状接着剤。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載の接着剤を、熱処理によって硬化させることを特徴とする接着方法。
【請求項15】
請求項10〜13のいずれかに記載のシート状接着剤を用いて、樹脂成形品と被着体とを密着させた後、該接着剤を熱処理により硬化させることを特徴とする接着方法。

【公開番号】特開2009−132787(P2009−132787A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309321(P2007−309321)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】