説明

接着結合を持つ細胞の増殖を刺激するRNAi方法および組成物

ある種の細胞−細胞結合の下方調節により、接着結合を発現しかつ増殖を中止する細胞、例えば、ヒト角膜内皮細胞の増殖を刺激するための方法および組成物が本願明細書に記載される。1つの具体例において、下方調節はRNA干渉を用い、細胞と分裂促進の成長因子および細胞質内cAMPを上昇する剤とを接触させることにより達成される。さらに、角膜実質細胞からヒト角膜内皮細胞を単離する方法、ならびにヒト角膜内皮細胞凝集物の生存度を保存および維持する方法が本願明細書に記載される。また、単離され、所望により貯蔵され、一過性にP120の発現を下方調節する剤と接触させたヒト角膜内皮細胞および生物学的適合性担体を含む外科的移植片が記載される。本願明細書に記載された方法および組成物は、in vitro組織設計中にヒト角膜内皮細胞を拡張するのを助ける新規療法に、および角膜内皮細胞機能障害のin vivo処置のために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府支援)
本発明は、国立眼研究所のScheffer C.G.Tsengへの助成番号RO1 EY06819および助成番号RO1 EY015735により、全体的および部分的に支援された。米国政府は本願発明においてある種の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
目の重要な屈折要素の角膜は、眼球の多層の透明性で無血管の最も外側の部分である。ヒトが良好に見るためには、角膜の全ての層は透明のままでなければならない。角膜の層上のいずれの曇りまたは不透明な領域も、光の適切な屈折に干渉するであろう。角膜を含む連続層は、眼球表面から内向きに、上皮、ボウマン層、角膜実質、デスメ膜および内皮を含む。
【0003】
角膜後面を裏打ちし前眼房に向く単層細胞であるヒト角膜内皮は、角膜実質の水和の調節、それ故に、透明性において極めて重要な役割を演じる。ヒト角膜内皮は、角膜の透明性を維持するために必要である、非常に重要な流体抽出あるいはポンプ機能を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
健康な眼において、眼流体は、内部から角膜実質にゆっくり通過し;次いで、過剰な水は角膜内皮によって眼の角膜実質から前眼房に送り込まれる。さらに、角膜におよび角膜の外に移動する流体の割合が、調和して維持されることが非常に重要である。内皮細胞のポンプ機能が減少すれば、角膜実質は膨張し、規則的なパターンの角膜実質のコラーゲンマトリックスは過剰な水によって損なわれるであろう。この結果、角膜実質はかすみ、結局不透明になるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
細胞と少なくとも1つの細胞−細胞間結合成分の発現を下方調節する剤とを接触させることを含む、接着結合(AJ)を持つ細胞の増殖を刺激する方法が本願明細書に記載される。1つの具体例において、細胞−細胞間結合成分はAJ蛋白質またはp190である。さらなる具体例において、AJ蛋白質はカドヘリンである。まださらなる具体例において、カドヘリンは、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120カテニン(以下、p120と略記する)、E−カドヘリン、VE−カドヘリンおよびP−カドヘリンから選択される。
【0006】
1つの具体例において、AJを持つ細胞は、例えば、内皮細胞、上皮細胞、平滑筋細胞、角化細胞、外胚葉細胞または内胚葉細胞である。さらなる具体例において、内皮細胞は、例えば、ヒト角膜内皮細胞(以下に、本願明細書ではHCECと略記する;本願明細書に用いたHCECは、前眼房に向く角膜後面での単層細胞である)、管周囲内皮細胞、脳微細血管内皮細胞、血管内皮細胞、内皮前駆細胞、膣上皮細胞または他のいずれかのタイプの上皮細胞である。まださらなる具体例において、上皮細胞は、例えば、網膜色素上皮細胞、筋上皮細胞、羊膜上皮細胞、泌尿器上皮細胞、乳房上皮細胞、気管支上皮細胞、卵巣上皮細胞、肺胞上皮細胞または他のいずれかのタイプの内皮細胞である。まださらなる具体例において、AJを持つ細胞はHCECである。
【0007】
1つの具体例において、剤は、内皮細胞と一過性に接触させる。さらなる具体例において、前記成分の下方調節はRNA干渉に起因する。まださらなる具体例において、RNA干渉は、p120の発現を下方調節する。まださらなる具体例において、剤は二本鎖RNAである。まださらなる具体例において、RNA干渉はパルスで適用される。
【0008】
1つの具体例において、細胞は、哺乳動物、例えば、ヒト、サル、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコまたはウサギの体内のごときin vivoにて剤と接触させる。好ましくは、哺乳動物はヒトである。さらなる具体例において、接触は哺乳動物の眼において生じる。まださらなる具体例において、哺乳動物の眼は、例えば、水疱性角膜症(無水晶体または偽水晶体の水疱性角膜症を含む)、角膜内皮細胞変性症(フックス変性症)、角膜浮腫、先天性遺伝的内皮変性症、または角膜内皮が損傷される他のいずれかの疾患のごとき、角膜内皮細胞機能障害を有する。まださらなる具体例において、剤は哺乳動物の眼の前眼房に投与される。まださらなる具体例において、剤は、眼の前眼房に直接的に投与される。
【0009】
1つの具体例において、細胞はHCECであって、剤は、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120および/またはp190の発現を下方調節する剤である。
【0010】
さらに、細胞と、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120および/またはp190の発現を下方調節する剤とを接触させ;培地、例えば、成長因子および/または細胞質内cAMPを上昇させる剤を含有する培地中に細胞を接種し;次いで、その細胞を培養して拡張されたHCECを形成することを含む、培養においてHCECを拡張する方法が本願明細書に記載される。1つの具体例において、剤は、凝集または単層の形態におけるHCECと一過性に接触させる。さらなる具体例において、前記成分の下方調節はRNA干渉に起因する。まださらなる具体例において、RNA干渉は、p120の発現を下方調節する。まださらなる具体例において、剤は二本鎖RNAである。まださらなる具体例において、RNA干渉はパルスで適用される。まださらなる具体例において、RNA干渉のパルスは、少なくとも約12時間持続する。まださらなる具体例において、HCECは、AJが形成される凝集状態または単層である。
【0011】
まださらなる具体例において、前記のHCECを拡張する方法は、細胞と分裂促進成長因子とを接触させることを含む。分裂促進成長因子は、例えば、上皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、FGFの他のファミリーのメンバー、肝細胞増殖因子、血小板由来増殖因子(PDGF)またはインターロイキン1(IL−1)を含む。まださらなる具体例において、HCECの増殖が阻害でき、AJ形成が細胞と細胞質内cAMPを上昇させる剤とを接触させることにより促進できるHCECを拡張する方法。細胞質内cAMPを上昇させる剤の例は、8−ブロモ−cAMP、ジブチリルcAMP、イソブチル−メチルキサンチン、ペントキシフィリン、ホルスコリン、コレラ毒素、プロスタグランジンE2(PGE2)、フェニル酪酸、ブタプロスト、イロプロストまたは細胞質内cAMPを上昇させる他の剤を含む。1つの特定の具体例において、細胞質内cAMPを上昇させる剤はコレラ毒素である。
【0012】
さらに、デスメ膜とコラゲナーゼを含む溶液とを接触させ、次いで、消化後に溶液からHCECの凝集物を分離することを含む角膜実質細胞からHCECを単離する方法が本願明細書に記載される。1つの具体例において、コラゲナーゼは、コラゲナーゼA、コラゲナーゼB、コラゲナーゼD、またはコラーゲン中で三重らせんペプチド結合を切断するいずれかの酵素である。もう一つの具体例において、デスメ膜は、少なくとも1つのHCEC凝集物の単離のため、約1〜約18時間、例えば、約1.5〜約17時間、約5〜17時間、約7〜約17時間、約10〜16時間、約12〜16時間、約1〜約18時間の他のいずれかの期間、コラゲナーゼを含む溶液と接触させる。1つの具体例において、HCECの凝集物はピペット操作によって消化後に溶液から分離できる。もう一つの具体例において、HCECの凝集物は遠心によって消化後に溶液から分離できる。まだもう一つの具体例において、HCECの凝集物は、消化後に、サイズに基づく細胞分画装置またはメッシュを介するふるいにより溶液から分離できる。
【0013】
さらに、約0.8mM〜約1.5mM、例えば、約0.8mM〜約1.5mM、約0.85mM〜約1.4mM、約0.9mM〜約1.3mM、約0.95mM〜約1.2mM、約1.0mM〜約1.1mMのカルシウムイオン濃度、または約0.8mM〜約1.5mMの他のいずれかの濃度を有する無血清培地中でHCEC凝集物を貯蔵することを含む、HCEC凝集物の生存度を保存および維持する方法が本願明細書に記載される。1つの具体例において、カルシウムイオン濃度は貯蔵培地中の約1.08mMである。さらなる具体例において、補足は無血清培地に提供される。
【0014】
さらに、(a)コラゲナーゼを含む溶液を用いて角膜実質細胞から単離され、(b)約0.8mM〜約1.5mMのカルシウムイオン濃度を有する無血清培地中に所望により保存され、次いで(c)p120の発現を下方調節する剤と一過性に接触したHCEC、ならびに生物学的適合性担体を含む外科移植片が本願明細書に記載される。1つの具体例において、HCECは、分裂促進成長因子とさらに接触させる。もう一つの具体例において、HCECのAJ形成は、細胞質内cAMPを上昇させる剤との接触によってさらに促進される。まだもう一つの具体例において、HCECは生物学的適合性担体上に再接種される。生物学的適合性担体はHCEC接着を促進し、透明性であり、角膜実質に統合できる。1つの具体例において、生物学的適合性担体はコラーゲン含有細胞間マトリックスである。もう一つの具体例において、生物学的適合性担体は羊膜である。さらなる具体例において、羊膜の厚みは減少させた。まださらなる具体例において、厚みの減少はエキシマーレーザー剥離によって達成された。まださらなる具体例において、剤は、凝集物または単層の形態におけるHCECと一過性に接触させる。さらなる具体例において、p120の発現を下方調節する剤はRNA干渉である。まださらなる具体例において、剤は二本鎖RNAである。まださらなる具体例において、RNA干渉はパルスで適用される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1A〜Fは、細胞凝集物として単離されたHCECの例示的顕微鏡像である。
【図2A】図2AはコラゲナーゼA消化から収集されたHCEC凝集物を示す例示的顕微鏡像である。
【図2B】図2Bは、高カルシウム無血清培地中での図2AからのHCEC凝集物を示す例示的顕微鏡像である。
【図2C】図2Cは、高カルシウム無血清培地中での図2AからのHCEC凝集物を示す例示的顕微鏡像である。
【図2D】図2Dは、SHEM中の図2Cに示すHCEC凝集物をさらに培養することにより得られた無傷のヒト角膜内皮単層を示す例示的顕微鏡像である。
【図2E】図2EはコラゲナーゼA消化から収集されたHCEC凝集物を示す例示的顕微鏡像である。
【図2F】図2Fは、低カルシウム無血清培地中での図2EからのHCEC凝集物を示す例示的顕微鏡像である。
【図2G】図2Gは、低カルシウム無血清培地中での図2EからのHCEC凝集物を示す例示的顕微鏡像である。
【図2H】図2Hは、低カルシウム無血清培地中で図2Gに示すHCEC凝集物をさらに培養することにより生成された、散在した単一細胞を示す例示的顕微鏡像である。。
【図3】図3は、後期密集(4週間の培養)でのARPE−19細胞系を用いるp120 mRNAのリアルタイムPCR定量によるRNAiのノックダウン効率を示す例示的グラフである。
【図4】図4は、対照(scRNA)およびp120 RNAiIノックダウン培養を示す例示的写真であり、BrdUの核染色により判断された増殖を示す細胞の各核へのp120の移行化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
添付した特許請求の範囲は、本願明細書に記載された特徴を特に示す。本開示の特徴および利点のより良好な理解は、本願明細書に記載された原理が利用される例示的具体例を記載する以下の詳細な記載への参照により得られるであろう。
【0017】
角膜内皮細胞密度および内皮細胞機能は多数の疾患、外傷または老化の結果として減少しかねない。ウサギおよびウシのごとき他の種と異なり、HCECは、それらに限定され、in vivoでの微々たる再生能および増殖能がよく知られている。損傷および破壊したHCECは、個体によって再生されない。
【0018】
HCECの破壊および/または機能障害は角膜浮腫または水疱性角膜症に進行し、次いで、それは視力喪失を生じなねない。HCECの悪化が生じる疾患の例はフックス変性としても知られる角膜内皮細胞変性症である。また、角膜内皮に対する外傷および損傷は、損傷、白内障手術または放射状角膜切開に起因しかねない。
【0019】
すべての角膜移植の約30パーセントは角膜内皮疾患のために行なわれる。現在、健康な角膜内皮を含む死体供与者角膜の全てまたは部分的な厚みの角膜移植は、損傷または疾患した角膜内皮による視界の損失の唯一の利用可能な療法である。しかしながら、角膜を置換組織として不適当にする感染性疾患リスクの増加および矯正的眼手術の広範囲の使用により、適当な供与者の不足が存在する。さらに、供与者組織として用いる角膜組織の長期間保存は未解決問題のままである。
【0020】
変性症、外傷および外科的処置の発生によるin vivoでのHCECの損失を補充する主要な手段は、代償性の細胞の移入および拡張である。角膜の内皮細胞機能障害についての代替的療法として、細胞とE−カドヘリン、VE−カドヘリン、P−カドヘリン、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120またはp190の発現を下方調節する剤とを接触させることにより、HCECのごとき、分化の間にAJを形成し、かくして増殖の可能性を失う細胞の増殖を刺激する方法が、本願明細書に記載される。
【0021】
さらに、HCECの増殖操作は、in vivoでの療法およびin vitroでの組織設計のための戦略として、機能障害のHCECを持つ眼を処置するためにHCECを拡張するのを助けることができる。in vitroでのヒト角膜内皮を設計する能力は、角膜またはHCECの外科的移植を有するという必要性を回避でき、かかる組織を角膜内皮不全に苦しむ眼における視力を回復するための代替的移植片として用い得るために、重要である。結果的に、分裂促進の刺激ならびに細胞質内cAMPを上昇させ、AJ再生成で分化を促進する剤で断続的に(パルス様式で)散在および混合した増殖の刺激によるHCECの単離、貯蔵および拡張の方法、ならびに角膜内皮組織を置換するための新しい外科的移植片が本願明細書に記載される。
【0022】
理論的には、有効な設計方法は3つの鍵となる工程:供与者角膜からのHCECの単離、移植を可能とするための期間の単離されたHCECの保存、ならびに移植に適した適当なin vitro環境で単離されたHCECの拡張を含むであろう。また、これらの各工程において、HCECは、AJ形成および細胞増殖の間の均衡作用に影響し得る、細胞が曝露される培地によって影響されかねなかった。
【0023】
ヒト角膜内皮の組織設計のための必要条件は、少数のHCECからの有効な単離、貯蔵および拡張を保証することである。もう一つの必要条件は増殖(拡張)が、AJ形成するHCEC発現型の維持(回復)よりは正常なHCEC発現型の損失と一体とならないことを保証することである。
【0024】
単離方法
隣接する角膜実質の角膜実質細胞による汚染からHCECを単離する方法が本願明細書に開示される。機械的に裸出されたデスメ膜はいくらかの角膜実質組織を含み、角膜実質細胞が存在する。従前の方法は、トリプシンの有無でのEDTA、引き続いてトリプシン/EDTAの有無によるディスパーゼ、トリプシンまたはEDTAに続いてのコラゲナーゼ、またはコラゲナーゼに続いてのトリプシンまたはEDTAを使用する。しかしながら、これらの方法は、マトリックスから細胞を剥離するのに必要とされる培養時間の延長、細胞傷害および収量の減少、または線維芽細胞(角膜実質細胞)汚染のために細胞変性に導いた。さらに、これらの方法は、かかる線維芽細胞(角膜実質細胞)汚染が発生するのを防止するためにさらなる選択培地の使用を必要とした。
【0025】
本願明細書に開示された方法は、例えば、デスメ膜とコラゲナーゼを含む溶液とを接触させ、次いで、溶液からHCEC凝集物を単離する工程を含む。例えば、デスメ膜は、接着HCECがその溶解された膜から剥離され、凝集物から排除される角膜実質細胞なくして溶液中で懸濁されたHCECの少なくとも1つの凝集物を形成するのに十分な時間、ある濃度のコラゲナーゼを含む溶液において消化できる。コラゲナーゼ溶液における消化は、形成されたHCEC凝集物が角膜実質細胞の汚染を回避するために別々の培養皿に移すことができるために、角膜実質から角膜実質細胞の汚染を除去するのを助ける。かかるHCEC凝集物は、in vivo状態と同様に細胞マトリックス相互作用および細胞−細胞AJを保持するであろう。
【0026】
用いたコラゲナーゼは、例えば、コラゲナーゼA、コラゲナーゼB、コラゲナーゼD、またはコラーゲン中のペプチド結合を切断するいずれかの酵素で有り得る。溶液中のコラゲナーゼAの濃度は、約0.5mg/ml〜約5mg/ml、例えば、約0.75mg/ml〜約4mg/ml、約1mg/ml〜約3mg/ml、約1mg/ml〜約2mg/ml、約1.5mg/ml〜約2.0mg/mlの範囲、または約0.5mg/ml〜約5mg/mlの他のいずれかの範囲であることができる。
【0027】
角膜実質細胞からHCECの少なくとも1つの凝集物を単離するための溶液は、補足ホルモン上皮培地(SHEM)のごときかかる細胞を培養するのに適当ないずれかの培地を含むことができる。培養基は、例えば、血清、抗生物質、成長因子または細胞質内cAMPを上昇させる剤のごとき他の物質を補足できる。細胞質内cAMPを上昇させるために用いることができる剤は、例えば、8−ブロモ−cAMPおよびジブチリルcAMPのごとき細胞膜浸透性cAMP類似物、およびホスホジエステラーゼ阻害薬のごとき他の細胞内cAMP上昇剤、例えば、イソブチル−メチルキサンチンおよびペントキシフィリン、ホルスコリンおよびコレラ毒素のごときアデニレートシクラーゼ賦活物質、プロスタグランジンE2(PGE2)、フェニル酪酸、ブタプロストまたはイロプロストのごとき外因性の剤、または細胞質内cAMPを上昇させる他の剤を含む。1つの具体例において、培地は、等量のHEPES緩衝されたDMEMおよびHAMのF12;5%ウシ胎仔血清;0.5%ジメチルスルホキシド;2ng/mlマウス上皮成長因子;5μg/mLインスリン;5μg/mlトランスフェリン;5ng/mlセレン;0.5μg/mlヒドロコルチゾン;1nMコレラ毒素;50μg/mlゲンタマイシン;および1.25μg/mlアンフォテリシンBを含む。
【0028】
デスメ膜は、角膜実質細胞からの少なくとも1つのHCEC凝集物の単離につき約1〜約18時間、例えば、約1.5〜約17時間、約5〜約17時間、約7〜約17時間、約10〜約16時間、約12〜約16時間または約1時間〜約18時間の他のいずれかの期間、摂氏約37度の温度で培養できる。HCECを単離するのに必要なコラゲナーゼ溶液における培養時間は、例えば、所望の消化の量、所望のHCEC凝集物数、コラゲナーゼ溶液の濃度および/または消化されるべきデスメ膜のサイズに依存し、本願明細書に供された開示に基づいて、当業者により容易に決定できる。
【0029】
デスメ膜の消化および角膜実質細胞からのHCEC凝集物の単離に続いて、凝集物はピペット操作により溶液から集め、取り出すことができる。別法として、HCEC凝集物は、サイズに基づいた細胞分画装置またはメッシュを介して遠心またはふるいを含めた他の方法によって集めることができる。いずれの場合においても、収集は凝集物を分裂させずに生じさせるべきである。
【0030】
保存/維持方法
前記の単離されたものを含めた単離されたHCEC凝集物は、約3週間までまたはそれより長い間、無血清の高カルシウム濃度培地中で連続的に培養されれば円形球にさらに組織化でき、かかる保存されていた球は、発現型の六角形の形状でのHCECの単層を与えることができた(図2D)。高カルシウムイオン濃度を有する無血清培地中に凝集物を貯蔵することにより、HCEC凝集物の生存度を保存および維持する方法が本願明細書に開示される。
【0031】
本願明細書に用いた高カルシウムイオン濃度は、貯蔵培地中で約0.8mM〜約1.5mMカルシウム濃度、例えば、約0.8〜約1.5mM、約0.85〜約1.4mM、約0.9〜約1.3mM、約0.95〜約1.2mM、約1.0〜約1.1mM、または約0.8mM〜約1.5mMの他のいずれかの濃度である。1つの具体例において、カルシウムイオン濃度は貯蔵培地中で約1.08mMである。
【0032】
貯蔵培地は、カルシウム濃度が前記の基準を満たす限りは、HCECを貯蔵するのに適切ないずれの無血清培地、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12、またはSHEMに用いたDMEMおよびF12の混合物でもあり得る。その培地において、ウシ胎仔血清(FBS)またはフィブロネクチンを含めた他の血清因子が除去される限りは、分裂促進成長因子、抗生物質、細胞質内cAMPを上昇させる剤、KSFMサプリメントまたはSHEMサプリメントのごとき追加の成長サプリメントが添加できる。
【0033】
一旦、HCEC凝集物が無血清の高カルシウム濃度貯蔵培地に入れられれば、それらは、例えば、約3週間またはそれより長く、例えば、摂氏約37度の温度にて組織培養インキュベーター中で培養できる。凝集物は、後記のように、貯蔵培地中で浮遊凝集物として残り、例えば、血清含有培地中で引き続いての培養に用いることができる。さらに、HCEC凝集物の増殖は、後記のように刺激し得る。
【0034】
拡張方法
細胞と、E−カドヘリン、VE−カドヘリン、P−カドヘリン、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120およびp190の発現を下方調節する剤とを接触させることを含む、分化の間にAJを形成し、増殖を中止させる増殖細胞を刺激する方法が本願明細書に開示される。例えば、単離され保存されたHCEC凝集物の増殖または前記のHCEC凝集物から誘導されたHCEC単層の増殖は上記方法を用いて刺激できる。
【0035】
理論によって拘束されることを望むことなく、HCECの細胞−細胞間結合の崩壊が、それらが拡張のために単層として広がるのを助け得ることが提案される。細胞−細胞接触は、AJ、密着帯(TJ)および接着斑を含む。これらの接触のうちAJは、細胞の増殖、連絡、特異性、細胞間接着の形成および維持の制御において特に重要である。AJはカドヘリンおよびカテニンによって媒介されたアクチンベースの細胞間結合であり、カルシウム依存性細胞増殖および細胞−細胞接着を媒介する単一の膜貫通ドメイン糖タンパク質の別々のファミリーを表わす。AJの鍵となるメンバーは、カドヘリン、α−カテニン、β−カテニンおよびp120を含む。カドヘリンファミリーには、E−カドヘリン、VE−カドヘリン、N−カドヘリンおよびP−カドヘリンがあり、その発現は細胞型に依存する。一般的には、カテニンは、E−カドヘリン、他のカドヘリンおよびアクチン細胞骨格とのそれらの相互作用に関連する細胞−細胞接着の調節において主な役割を有すると考えられる80〜102キロダルトン蛋白質のファミリーである。p190は、アクチン張力繊維力学を調節し、F−アクチンケーブルの限局性の接着およびミオシン媒介収縮の抑制により、細胞骨格力学の調節において役割を果たすRhoAファミリーGTPアーゼ活性化蛋白質である。
【0036】
HCECについては、鍵となるアドヘリンは、E−カドヘリンまたはVE−カドヘリンではなくN−カドヘリンであり(それらは非常に少量で生成される);また、本願明細書に記載したα−カテニン、β−カテニン、p120およびp190はHCEC中に存在する。古典的には、細胞−細胞間結合は分化細胞の構造要素と見なされている。しかしながら、理論によって拘束されることを望むことなく、これらの細胞−細胞間結合成分の一過性の下方調節によりHCECの有系分裂ブロックを解除することは、HCECの拡張を促進できる。かくして、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120およびp190は、HCECにおいて有系分裂のブロックを解除するための適切な標的である。
【0037】
AJを持つ細胞の増殖を刺激する従前の方法は、トリプシンのごとき酵素および/またはEDTAのごとき二価陽イオンのキレート化剤を使用した。しかしながら、トリプシン/EDTAを使用する方法は、それが潜在的に有害であるために、in vivoでの適用に有効に用いることができない。さらに、トリプシン/EDTAは、周囲の細胞マトリックス相互作用を分離し、さらにAJの1以上の成分を標的とする。加えて、トリプシン/EDTAはHCECおよび隣接する角膜実質細胞を無差別に分離するであろう。細胞−細胞間結合および細胞マトリックス相互作用のかかる非特異性で広い分離後に、HCECは増殖するが、特にIL−1およびbFGFのごとき成長因子による刺激下で、線維芽細胞に形質転換し、レトロ角膜と名付けられた病理学的状態を模倣する。
【0038】
1つの具体例において、簡潔なEDTA処理は、細胞−細胞接触によって媒介された有系分裂ブロックを放出することにより、HCEC凝集物の増殖を促進した(実施例3)。しかしながら、前記のごとく、かかる処理はヒト移植に不適当であるHCEC細胞を生成し、細胞−細胞間結合および細胞マトリックス相互作用の非特異性でかつ広い分離を生じる。
【0039】
もう一つの具体例において、AJを持つ細胞の増殖は特定の細胞−細胞間結合成分を標的とすることにより刺激できる。細胞−細胞間結合成分をノックダウンして、増殖の可能性の損失と同時に、分化の間にAJを発現する細胞の有系分裂ブロックの解除を促進し得る。カドヘリンの例はE−カドヘリン、VE−カドヘリン、N−カドヘリンおよびP−カドヘリンを含む。カテニンの例は、α−、β−、γ−カテニンおよびp120を含む。ノックダウンされるRNAiがp120であるならば、例えば、p120 RNAi 1またはp120 RNAi 3を用いることができる(表5)。p120の下方調節は、ARPE−19細胞(実施例5)につきE−カドヘリン、VE−カドヘリンおよびβ−カテニン、ならびにHCEC(実施例6)につきN−カドヘリン、E−カドヘリン、VE−カドヘリンおよびβ−カテニンの著しい下方調節で細胞−細胞間結合の溶解に導く。さらに、p120はHCECにおいて、細胞−細胞間結合から核に移動し、それは、BrdU(DNA合成を示す標識)に対する核染色により判断されるような増殖を示す(図4)。カドヘリン(すなわち、HCECについてのN−カドヘリン)、α−カテニンおよびβ−カテニンは、細胞−細胞間結合が撹乱された場合に代謝的に不安定であるが、p120はそうではない(実施例4、表3)ことが判明し、これはp120の標的化が特殊でかつより有効であることを示す。
【0040】
もう一つの具体例において、AJを持つ細胞の増殖はRNAiノックダウンによってp120を標的とすることにより刺激できる。RNAiとは、細胞への二本鎖RNA(dsRNA)の導入をいい、それは、相補的mRNAの分解を引き起こし、それにより遺伝子発現を抑制する。公表されたRNAi配列を用いて、p120を下方調節し得、特定のRNAi配列を、例えば、(a)所望のmRNAオープン・リーディング・フレームの異なった標的領域;(b)Mittal V,Nature(2004) 5:355−365に公表されるようなRNAiデザイン原理;および、(c)その所望のRNAiが特殊であることを確認するBLAST検索を考えることによりInvitrogen BlockitTM RNAi Designerに基づき設計できる。
【0041】
in vivoでの適用では、RNAiをパルスで適用でき、例えば、RNAiをある期間適用した後、回復させ、その時間中に、細胞質内cAMPを上昇させる剤と一緒に分裂促進の刺激、または分裂促進の刺激に続いて細胞質内cAMPを上昇させる剤を含む培地が、RNAiの次の適用前のある期間適用される。例えば、RNAiは、約12〜約72時間、例えば、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約28時間、約32時間、約36時間、約40時間、約44時間、約48時間、約52時間、約56時間、約60時間、約64時間、約68時間、約72時間または約12〜約72時間の間のいずれかの他の時間に適用でき、回復または静止期間は、約12〜約48時間のいずれかの期間、例えば、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約28時間、約32時間、約36時間、約40時間、約44時間、約48時間、約52時間、約56時間、約60時間、約64時間、約68時間、約72時間または約12〜約72時間の間のいずれかの他の時間であり得る。1つの具体例において、RNAiは24時間の期間の間適用され、次いで、続いて、RNAiの次のパルス適用が行なわれる前に、24時間の回復および静止期間を行う。
【0042】
1つの具体例において、細胞は、哺乳動物、例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、サルまたはヒトの体内のごときin vivoにて剤と接触させる。好ましくは、哺乳動物はヒトである。さらなる具体例において、接触は哺乳動物の眼において生じる。まださらなる具体例において、哺乳動物の眼は、例えば、水疱性角膜症(無水晶体または偽水晶体の水疱性角膜症を含む)、角膜内皮細胞変性症(フックス変性症)、角膜浮腫、先天性遺伝的内皮変性症、または角膜内皮が損傷されるいずれかの疾患のごとき角膜内皮細胞機能障害を有する。まださらなる具体例において、剤は哺乳動物の前眼房に投与される。
【0043】
in vitro適用について、RNAiは、パルスにて凝集または単層の形態のHCECの培養に適用でき、細胞質内cAMPを上昇させる剤と一緒に分裂促進の刺激を含有するまたは分裂促進の刺激に続いて細胞質内cAMPを上昇させる剤を含む培地の置換で分散もしくは混合でき、例えば、RNAiはある時間適用され、次いで、RNAiの次のパルス適用の前に細胞質内cAMPを上昇させる剤と一緒に分裂促進の刺激、または分裂促進の刺激に続いて細胞質内cAMPを上昇させる剤を含む新鮮な培地で回復または静止期間適用される。例えば、RNAiは、約12〜約72時間、例えば、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約28時間、約32時間、約36時間、約40時間、約44時間、約48時間、約52時間、約56時間、約60時間、約64時間、約68時間、約72時間または約12〜約72時間の間のいずれかの時間に適用でき、回復または静止期間は、約12〜約48時間、例えば、約12時間、約16時間、約20時間、約24時間、約28時間、約32時間、約36時間、約40時間、約44時間、約48時間、約52時間、約56時間、約60時間、約64時間、約68時間、約72時間または約12〜約72時間の間のいずれかの他の時間であることができる。回復または静止期間の間に適用された新鮮な培地は、補足ホルモン上皮培地(SHEM)のごとき、かかる細胞を培養するのに適当ないずれの培地でもよい。1つの具体例において、RNAiは、EGFおよびbFGFのごときペプチド成長因子を、細胞質内cAMPを上昇させる剤、例えば、コレラ毒素と一緒に、またはペプチド成長因子に続いて、細胞質内cAMPを上昇させる剤を用いて、分裂促進の刺激を含む培地により交換する前に前記の時間の間適用し、RNAiの次のパルス適用が行なわれる前に、24時間または前記のいずれかの時間AJ形成を促進する。
【0044】
RNAiが適用されるべきHCEC培養は凝集物または単層の形態のいずれかであることができる。HCEC単層は早期密集(例えば、約1、約2、約3、約4、約5または約7日間の密集)または後期密集(例えば、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間の密集)のいずれでも有り得る。HCEC細胞のRNAiの一過性のトランスフェクション後に、トランスフェクション試薬は除去でき、細胞は前記のごとき細胞培養技術に従い継代および拡張して、特有の六角形のモザイク発現型を維持できる。
【0045】
さらなる具体例において、HCECに適用された培地は、細胞質内cAMPを上昇し得る剤で補足される。理論によって拘束されることを望むことなく、細胞質内cAMPの上昇は、線維芽細胞への形質転換および特有のHCEC発現型の損失のごとき、EGFまたはbFGF、特にIL−1およびbFGFのごとき分裂促進の成長因子によって引き起こされた、延長され持続的な増殖により引き起こされた望ましくない副作用を打ち消す。細胞質内cAMPを上昇させるために用いることができる剤は、例えば、8−ブロモ−cAMPおよびジブチリルcAMPのごとき細胞膜浸透性cAMP類似物、およびホスホジエステラーゼ阻害薬のごとき他の細胞内のcAMPを上昇させる剤、例えば、イソブチル−メチルキサンチンおよびペントキシフィリン、ホルスコリンまたはコレラ毒素のごときアデニレートシクラーゼ賦活物質、またはプロスタグランジンE2(PGE2)、フェニル酪酸、ブタプロストまたはイロプロストのごとき外因性の剤、または細胞質内cAMPを上昇させる他の剤を含む。得られた細胞は、ヒトの移植に適当である。
【0046】
外科移植片/治療方法
上記の調製されたHCECは、適切な担体または支持の有無での組織、すなわち、外科用移植片として送達できる。(a)コラゲナーゼを含む溶液を用いて角膜実質細胞から単離され、(b)約0.8mM〜約1.5mMのカルシウムイオン濃度を有する無血清培地中に所望により保存され、および(c)p120の発現を下方調節する剤と一過性に接触させたHCEC、ならびに生物学的適合性担体を含む外科移植片が本願明細書に開示される。1つの具体例において、HCECは、分裂促進の成長因子とさらに接触させる。もう一つの具体例において、HCECのAJ形成は、細胞質内cAMPを上昇させるための剤との接触によってさらに促進される。まだもう一つの具体例において、HCECが、生物学的適合性担体上に再接種される。生物学的適合性担体はHCEC接着を促進し、透明性であって、角膜実質に統合できる。1つの具体例において、生物学的適合性担体はコラーゲン含有細胞間マトリックスである。もう一つの具体例において、生物学的適合性担体は羊膜である。さらなる具体例において、羊膜の厚みは減少させた。まださらなる具体例において、厚みの減少はエキシマーレーザー切除によって達成された。まださらなる具体例において、剤は、凝集物または単層の形態におけるHCECと一過性に接触させる。さらなる具体例において、p120の発現を下方調節する剤はRNA干渉である。まださらなる具体例において、剤は二本鎖RNAである。まださらなる具体例において、RNA干渉はパルスで適用される。
【0047】
かかる移植片についてのHCEC源は、自己(同一個体から)または同種異型(異なる個体から)の源に由来し、角膜内皮疾患の患者を治療するために外科移植片として用いることができる。自家移植片は、移植者自身の組織、例えば、移植者の健全な眼から調製された移植片である。異種移植片は遺伝学的に同一でない個体間の組織の移植片である。異種移植片は、例えば、死体の眼または生体関連の個体から得られた組織から調製し得る。自家移植片は、従来の角膜移植において回避できない同種移植片拒絶を回避するという利点を与える。
【0048】
加えて、上記の調製されたHCECは、角膜実質または全角膜組織のごとき組織を設計または再生するために含むことができる。かかる設計された組織は、外科移植片として、および療法をテストする目的、または組織の機能を増強するための遺伝子治療と合わせるように用いることができる。また、本願明細書に記載された方法および組成物は、同一適用のための他の種に拡張し得る。
【0049】
実施例
以下の特定の実施例は、単なる例示として構築され、何らその開示の残りに制限的でないものとして、解釈されるべきものである。さらなる詳述なくして、当業者ならば、本願明細書の記載に基づいて、その最も十分な範囲まで本発明を利用できると考える。これにより、本願明細書に引用された全ての刊行物をここに出典明示してその全てを本願明細書の一部とみなす。それに対する引用は、かかる情報の有効性および公の普及を証拠づける。
【0050】
実施例1:HCECの単離
材料:ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハム/F12培地、ケラチノサイト無血清培地(KSFM)、OptiMEM−1培地、HEPES緩衝液、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アンフォテリシンB、ゲンタマイシン、ウシ胎仔血清(FBS)、ウシ下垂体抽出物、ヒト組換え上皮成長因子(h−EGF)、0.25%トリプシン/0.53mM EDTA(トリプシン/EDTA)、およびLIVE/DEADアッセイ試薬は、Invitrogen(Carlsbad,CA)から購入した。ディスパーゼIIおよびコラゲナーゼAはRoche(Indianapolis,IN)から得た。ヒドロコルチゾン、ジメチルスルホキシド、コレラ毒素、インスリン−トランスフェリン−亜セレン酸ナトリウム培地サプリメント、L−アスコルビン酸、コンドロイチン硫酸、ヨウ化プロピジウム、Hoechst−33342色素、トリトンX−100、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(h−bFGF)、パラホルムアルデヒドおよびFITC結合抗マウスIgGは、Sigma(St.Louis,MO)から得た。マウス抗−ZO−1抗体およびタイプIコラーゲンはBD Biosciences(Bedford,MA)から得た。マウス抗ラミニン5、IV型コラーゲンα2鎖、パールカンおよびコネクシン43抗体は、Chemicon(Temecula,CA)からであった。マウス抗IV型コラーゲンα1抗体はKamiya Biomedical(Seattle、WA)からであった。抗フェードマウンティング溶液はVector Laboratories(Burlingame,CA)からであった。マウス抗Ki67抗体はDakoCytomation(Carpinteria,CA)からであった。DeadEndTMの蛍光測定TUNELシステムはPromega(Madison,WI)からであった。
【0051】
ヒト組織はヘルシンキ宣言に従い取扱った。ヒト供与者の眼からの18の角強膜組織をFlorida Lions Eye Bank(Miami,FL)から得、それらの中央の角膜ボタンのうちのいくつかを角膜移植に用いた。供与者の年齢は18〜68歳(41.4±15.8歳)の間にあった。全ての組織を試験前の10日未満の間OPTISOL(Bausch&Lomb,New York)培地中の4℃に維持した。組織を50mg/mLのゲンタマイシンおよび1.25mg/mLのアンフォテリシンBを含むDMEM培地で3回濯いだ。
【0052】
中央の角膜を8mmの直径のトレフィンにより取り出した。その後、デスメ膜ならびに角膜内皮細胞を解剖顕微鏡下で末梢性角強膜組織の後面から剥取り、SHEM培地中の2mg/mLのコラゲナーゼAで37℃にて1.5〜16時間消化し、そのSHEM培地は、5%FBS、0.5%ジメチルスルホキシド、2ng/mL マウスEGF、5μg/mL インスリン、5μg/mL トランスフェリン、5ng/mL セレン、0.5μg/mL ヒドロコルチゾン、1nMコレラ毒素、50μg/mL ゲンタマイシンおよび1.25μg/mL アンフォテリシンBを補足した、等量のHEPES緩衝DMEMおよびハムF12で調製した。消化後、HCECは凝集物を形成し、それは消化溶液を除去するために2,000rpmで3分間の遠心により集めた。また、対照として、デスメ膜ストリップを3時間までSHEM培地およびトリプシン/EDTA中の10mg/mlディスパーゼIIにおいて消化した。
【0053】
1.5時間のコラゲナーゼ消化は、デスメ膜から内皮細胞を分離し、裸出したデスメ膜を後に残して、緩い凝集物を形成するのに十分であった。3時間の消化後、コラゲナーゼ消化から誘導した内皮細胞凝集物はより緻密になった;しかしながら、デスメ膜はまだ溶解していなかった。12時間の消化後、デスメ膜は完全に消化され、大部分のHCEC凝集物は非常に緻密になった。これらのHCEC凝集物において、LIVE/DEADアッセイおよびTUNELアッセイによって確認されるように、内皮細胞は高生存度を維持した。それらの少数の緩いままのHCEC凝集物はより多くの死細胞を含むことが証明された。これらの結果に基づいて、発明者らは、12時間の消化の結果、高い細胞生存率で緻密なHCEC凝集物を生じると結論した。これらの緻密なHCEC凝集物は、それらが細胞−細胞間結合を維持したために、内皮細胞の長期間保存を促進し得る。
【0054】
結果. デスメ膜が角強膜環組織の末梢性角膜から外科的に取り出した後に、大部分のHCECは依然としてデスメ膜に接着し、一方、いくらかの細胞を切り離し(破線および星印によりマークした)、細胞がない領域を創製した(図1A)。SHEM中の37℃での1.5時間のディスパーゼII消化後、、HCECは凝集し始めたが、依然としてデスメ膜から脱離しなかった(図1B)。
【0055】
対照的に、裸出されたデスメ膜を1.5時間コラゲナーゼA中で消化した後、HCECをかなりのクラスタに凝集し、デスメ膜から完全に剥離し(図1C)、無傷のデスメ膜を後ろに残した。3時間後、コラゲナーゼA消化から誘導されたかかる凝集物はより緻密であった。しかしながら、細胞は依然としてデスメ膜から脱離しなく、ディスパーゼII消化後に分解し始めた(データを示さず)。顕著には、16時間のコラゲナーゼA消化後、デスメ膜は溶解し、大部分のHCEC凝集物は緻密であり、異なるサイズおよび形状を示したが(図1D)、ほとんどが緩みを示さなかった(図1D、1E、矢印)。
【0056】
LIVE/DEADアッセイは、緻密な凝集物が著しい緑色蛍光を示す生細胞よりなることを示した(図1F)。対照的に、緩められた凝集物は死細胞を含んでいた(図1F、矢印によってマークした)。図1Eは、図1Fの位相差顕微鏡写真である。棒は100マイクロメートル(μm)を表す。発明者らは、これらの細胞が供与者角膜の保存の間に既に死んでいるかもしれなく、かくして、コラゲナーゼA消化の間に凝集を形成することができないと推測した。
【0057】
細胞−細胞間結合および基底膜成分がコラゲナーゼA消化後に依然として維持されたかを調べるために、HCEC凝集物をOCTに包埋し、凍結切片のために調製し、免疫染色に付した。結果は、その密着帯ZO−1、ギャップ結合コネクシン−43、IV型コラーゲンα1およびα2鎖としてのかかる基底膜成分、ラミニン5およびパールカンは全てHCEC凝集物中に存在することを示した。
【0058】
さらに、核対比染色は、凝集物中のHCECが緻密であることを示した。TUNELアッセイは、わずかなアポトーシスの細胞だけが凝集物の中心に存在することを確認した。
【0059】
これらの基底膜成分がHCECの生存度を維持するのを助けるかをさらに調べるために、コラゲナーゼ単離した凝集物を引き続いて、コラーゲンIVおよびラミニン5を除去できる発明者らが報告した処理の4℃での16時間のディスパーゼII(SHEM中10mg/mL)で処理した。結果は、生死アッセイにより判断されるように、さらなるディスパーゼII消化がHCEC凝集物を分解させなく、中の細胞は依然として生きていることを示した。しかしながら、ディスパーゼ処理されたHCEC凝集物は、SHEM中でプラスチックに容易に付着できなかったが、ディスパーゼ非処理の凝集物は付着できた。これらの結果は、細胞−細胞間結合が、細胞−マトリックス相互作用よりも、凝集物を形成し、HCECの細胞生存率を維持することにより重要な役割を果たすこともでき、基底膜マトリックス成分を凝集物中に残すことが、二次培養の間にプラスチック上でHCECの細胞付着を促すことにおいて重要な役割を果たすこともできることを示した。
【0060】
実施例2:単離したHCEC凝集物の貯蔵
得られたHCEC凝集物を、異なるサプリメント(表1)を含む無血清の低カルシウムまたは高カルシウム培地中に保存した。貯蔵培地1、KSFMベースの培地のカルシウム濃度は、0.08ミリモル(mM)であり、発明者らはそれを「低カルシウム」培地と定義した。貯蔵培地2、3およびすべての培地のカルシウム濃度は、DMEM.F12の基本培地およびFBS中のカルシウムに基づいて、約1.08mMである。発明者らは、約1.08ミリモル(mM)のカルシウム濃度を有する培地を「高カルシウム」培地と定義した。
【0061】
HCEC凝集物は組織培養インキュベーターに約37℃にて3週間まで貯蔵した。細胞生存率は、生死アッセイによって決定し、血清添加培地(表2)中でそれらを二次培養することにより評価した。
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
結果. 血清添加培地中で培養した場合、HCEC凝集物は、12時間以内にプラスチック皿に急速に付着した。対照的に、無血清培地で培養した場合、それらは浮遊凝集物として残った(図2C、2G)。後者の条件において、浮遊凝集物は、1週間後に低カルシウム無血清培地(培地1)で徐々に分解した(図2F、2G)。
【0064】
対照的に、HCECは、1週間後に高カルシウム無血清培地(培地2および3)の円形球に組織化され(図2B)、3週までの間緻密な円形球に組織化された(図2C)。第3週の終わりに、これらの凝集物は12時間以内に付着し、SHEM中でプラスチック上で接種された場合に4日以内に無傷のヒト角膜内皮シートとして広がった(図2D)。しかしながら、低カルシウム無血清培地中に保存されたものは単一細胞をほとんど生成することができなかった(図2H)。棒線は100μmを表わす。
【0065】
これらの結果は、コラゲナーゼ単離されたHCEC凝集物を高カルシウム無血清培地中で少なくとも3週間保存でき、かかる保存された凝集物は依然として血清添加培地中の引き続いての培養につき高HCEC生存度を保持することを示した。
【0066】
実施例3:トリプシン/EDTAを用いる、単離されたHCEC凝集物の拡張
次いで、消化直後または貯蔵培地中での保存期間後のいずれかで得られたHCEC凝集物を、約37℃の温度および5パーセント(5%)の二酸化炭素(CO)下のプラスチック皿上の異なる培養培地(表2)中で培養した。培地を約2〜3日毎に交換した。いくつかのHCEC凝集物を、前記の培養前に内皮細胞を単離するために37℃で10分間トリプシン/EDTAで予め処理した。
【0067】
HCEC凝集物をOCTに包埋し、凍結薄切に付した。4マイクロメートル(μm)の凍結切片を室温(RT)で30分間風乾し、次いで、−20℃にて10分間冷アセトン中で固定した。免疫染色に用いた切片をPBSに再水和し、0.2%トリトンX−100中で10分間インキュベートした。各々5分間のPBSでの3回の濯ぎ、および非特異的な染色をブロックするための2%BSAでのプレインキュベーション後に、切片を抗ラミニン5、IV型コラーゲンα1およびα2鎖、パールカン、ZO−1およびコネクシン43(全て1:100)抗体と1時間インキュベートした。15分間でのPBSで3回洗浄後、切片をFITC結合第2抗体(1:100のヤギ抗ウサギまたは抗マウスIgG)と45分間インキュベートした。
【0068】
各10分間の3回のさらなるPBS洗浄後に、それらをヨウ化プロピジウム(1:1000)またはHoechst−33342(10μg/mL)で対比染色し、次いで、抗フェード溶液を乗せて、蛍光顕微鏡で分析した。24ウェルプレートおよびチャンバースライド中で培養したHCECを室温にて15分間4%パラホルムアルデヒド中で固定し、前記の方法を用いて、抗−ZO−1およびコネクシン43抗体で染色した。
【0069】
Ki67の免疫組織化学染色では、内因性ペルオキシダーゼ活性を0.6%過酸化水素によって10分間ブロックした。非特異的な染色は1%正常ヤギ血清によって30分間ブロックした。次いで、細胞を抗Ki67抗体(1:100)と1時間インキュベートした。15分間のPBSでの3回の洗浄後、細胞をビオチン化したウサギ抗マウスIgG(1:100)で30分間に続いて、ABC試薬で30分間インキュベートした。反応生成物はDABで5分間展開し、光学顕微鏡で検討した。
【0070】
LIVE/DEADアッセイおよび終末のデオキシリボヌクレオチジルトランスフェラーゼを媒介としたFITC結合dUTPニック末端DNA標識(TUNEL)アッセイを用いて、各々、細胞の生存率およびアポトーシスを決定した。HCEC凝集物を室温で15分間LIVE/DEADアッセイ試薬とインキュベートした。生細胞は、細胞−細胞質の緑色蛍光染色によって区別し、一方、死細胞は核中の赤色蛍光で染色した。TUNELアッセイは製造者の指示に従い行った。略言すると、HCEC凝集物の断面は、室温にて20分間4%ホルムアルデヒドに固定し、1%トリトンX−100で透過処理した。次いで、試料を、ニックされた3’−ヒドロキシルDNA末端の修復のために外因性TdTおよびフルオレセイン結合dUTPと37℃にて60分間インキュベートした。細胞を陽性対照としてDNase Iで処理し、一方、陰性対照はrTdT酵素を欠く緩衝液でインキュベートした。アポトーシスの核は、緑色蛍光で標識した。
【0071】
結果.37℃での10分間のトリプシン/EDTAの簡潔な処理後、HCEC凝集物をより小さなクラスタおよび単一細胞に分離した。大部分の細胞は付着し、24時間(以内に拡張し(図5B)、次いで4日後にパッチおよびシートに成長した。1週後、これらの細胞は密集に達し、発現型の六角形の形状を維持した。
【0072】
免疫染色は、in vivo形態学の維持のためのマーカー:密着帯ZO−1マーカー蛋白質およびギャップ結合コネクシン−43マーカー蛋白質を発現した密集細胞を示した。これらの結果は、EDTA/トリプシンによるさらなる簡潔な消化の結果、単層へのHCECの拡張が成功することを示した。
【0073】
トリプシン/EDTAの前記の簡潔な処理がHCEC増殖を刺激するのに必要であったことをさらに確認するために、発明者らは、G0を除いて細胞周期のすべての相で発現されるKi67の免疫組織化学染色を行なった。トリプシン/EDTA処理なくしてプラスチックに直接的に接種したHCEC凝集物は、SHEM中での1週間の培養後にシート様成長を生じた。しかしながら、Ki67陽性の核を成長の周囲で単に時々観察した。また、対照的に、簡潔なトリプシン/EDTA処理後には、HCEC凝集物は、SHEM中でプラスチック上で接種したならば、密集細胞シートを生じるが、非常に多くの細胞は、ランダムに分配されたKi67陽性の核を示した。この結果は、トリプシン/EDTAの簡潔な処理が実際に細胞増殖を促進することを示した。
【0074】
SHEM中の成長因子のさらなるサプリメントが有益であるかを決定するために、簡潔なトリプシン/EDTA処理の有無でのHCEC凝集物を、100μg/mL BPE、20ng/mL NGFまたは40ng/mL bFGFの有無でのSHEM中で1週間培養した。結果は、さらなるBPEが、細胞のより多くの点在を刺激する結果、無傷のシートの損失を生じ、トリプシン/EDTAで予め処理されるならば、この現象はより顕著になり、大部分の細胞は線維芽細胞の形状に変化することを示した。対照的に、さらなるNGFは前記の劇的な細胞形状変化を生じなく、細胞は、依然としてトリプシン/EDTA処理の有無で無傷のシートを維持した。Ki67染色は、SHEM中のBPEまたはNGFのいずれかの添加がトリプシン/EDTAの簡潔な処理の有無で少数のKi67陽性の核を与えることを明らかにした。BPEに比較した場合に、bFGFをSHEMに添加した場合にも同様の結果を得た。
【0075】
これらの結果は、簡潔なトリプシン/EDTA処理が、これらの4種の培養のすべてにおいてより多数のKi67陽性細胞を生じ、細胞増殖はSHEM中のこれらの3種の成長サプリメントのいずれの添加によっても促進されなかったことを示した。SHEM中のBPEまたはbFGFの添加の結果、六角形の発現型および細胞−細胞間結合形成を損失させ、これは、これらの各成長サプリメントが細胞の遊走または分化を増加させることを示唆した。しかしながら、全体的には、トリプシン/EDTA処理は不可逆性のHCEC損傷を生じさせた。
【0076】
実施例4:in vivoおよびin vitroでのHCEC中の細胞−細胞間結合およびそれらの調節分子のmRNA発現の決定
in vivoおよびin vitroでのHCEC中のAJおよびTJならびにそれらの調節分子の発現、ならびに細胞の細胞骨格アクチンケーブルと増殖との相関を決定した。プラスチック上での14日までのin vivoおよびin vitroでのHCEC中のAJ/TJおよびそれらの調節分子のmRNA発現を、従来の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって決定した。また、in vivoおよびin vitroでのHCEC中のAJの陽性発現した成分のmRNA発現をリアルタイムPCRによって決定した。
【0077】
すべてのPCR断片は予期されたサイズであった。in vivoでのHCECは実質的レベルのN−カドヘリン(タイプII)、E−カドヘリン(タイプII)、VE−カドヘリン、p−カドヘリン、p120、p190、Rac1およびRhoAのmRNAを発現し、mRNAレベルでのE−カドヘリン(タイプI)、N−カドヘリン(タイプI)、α−カテニン、β−カテニン、γ−カテニンおよびZO−1を発現した。in vitroでのHCECは、14日間の培養後に、E−(タイプIおよびII)およびP−カドヘリンを除いて、同様のレベルの細胞−細胞間結合関連分子mRNAを発現した。in vitroでのHCEC中のN−カドヘリン(タイプII)の早期回復は、N−カドヘリンがp120により補充および安定化したAJの形成の早期ステージに関与し得ることを示した。このステージでは、p120は細胞質ゾルおよび核に広がり、転写因子として作用し得る。N−カドヘリンは、未成熟の兆候として結合から細胞質ゾルまで広がり得る。第21日にて、N−カドヘリンは、細胞−細胞間結合の環状バンドを形成し、p120は内部細胞膜で環状バンドを形成したが、N−カドヘリンおよびVE−カドヘリンはHCECの細胞質ゾルにあった。このパターンは、in vivoで判明したものに似ている成熟パターンを表わす。
【0078】
トリプシン/EDTAの簡潔な処理は、VE−カドヘリン、N−カドヘリン(タイプII)、β−カテニンおよびZO−1のかなりの下方調節によって証拠づけられるようなAJおよびTJの成分を最小に顕著に分離させた(表3)。この場合、AJおよびTJは、2日間の培養内に形成しないか、または貧弱に形成した。
【0079】
ヒト内皮デスメ膜のフラットなマウントのスライドを調製し、室温にて風乾し、直ちに室温にて4%のホルムアルデヒドで固定した。免疫染色に用いた切片をPBS中に再水和し、15分間0.2%トリトンX−100中でインキュベートした。各々5分間のPBSでの3回の濯ぎ、2%BSAとプレインキュベーション後に30分間の非特異的染色をブロックした後、切片を4℃で16時間、抗N−カドヘリン、E−カドヘリン、VE−カドヘリンおよびp120(全て1:50にて)抗体とインキュベートした。15分間PBSでの3回洗浄後、切片をテキサスレッドをコンジュゲートした2次抗体(1:100のロバ抗ウサギまたは抗マウスIgG)と60分間インキュベートした。各10分間の3回のさらなるPBS洗浄後、それらをHoechst 33342(10μg/mL)で対比染色し、次いで、抗フェード溶液を組み込み、蛍光顕微鏡で分析した。
【0080】
結果.in vitroで培養したHCECは、14日間の培養後にp120、p190およびβ−カテニンのレベルを上昇させた。in vitroのHCECについてのp120のレベルは、in vivoでのHCECより4倍高く、これはHCEC増殖をin vitroにて禁止し得る。リアルタイムPCR結果はRT−PCRからのものに同等であった。
【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
また、N−カドヘリンおよびp120レベルを免疫染色により、第7、14および21日に培養したHCEC中で細胞骨格(アクチンケーブル形成)の成熟と相関し、これは、それらの発現が、後期の密集でのAJのin vitro成熟およびAJの安定化と相関することを示す。
【0084】
第1に、N−、E−、VE−カドヘリン、p120およびアクチン細胞骨格ケーブルを、内皮細胞を持つデスメ膜の平面封入調製によりin vivoにてHCEC中で同定した。in vivoのHCECは、主として細胞−細胞境界にて環状のN−カドヘリンバンド、細胞質ゾル中で主に連続的な環状のE−カドヘリンバンド、および細胞質ゾル中の弱く不連続の環状のVE−カドヘリンバンドを示した。P120は、in vivoでのHCEC中の細胞−細胞境界に密接する細胞質ゾル中で配置され、環状バンドを形成した。F−アクチンは隣接する細胞中のものから分離する個々の細胞中で高密度周辺バンド(DPB)に配置された。
【0085】
次に、N−カドヘリン、p120およびアクチン細胞骨格ケーブルの染色パターンを、in vitroでのHCEC中で同定し、N−カドヘリン染色はBrdUラベル化により増殖と相関して、HCEC中の環状のN−カドヘリンがin vitroにていつ決定されるか、およびN−カドヘリンが細胞有系分裂のブロックと関連するかどうかを決定した。第1の抗体がないin vitroのHCECを陰性対照として用いた。
【0086】
結果.第21日でのin vitroのHCECは、in vivoのHCECの局在および染色パターンに類似する主として細胞−細胞境界で環状のN−カドヘリンバンドを示し、これは、in vitroでのHCECの成熟を示す。第7日でのin vitroのHCECは破断環状バンドを形成し、第14日でのin vitroのHCECは、細胞−細胞間結合にてN−カドヘリンの不完全な環状バンドを依然として示し、これは、これらの培養のステージにてHCECが未成熟であることを示す。P120は、第21日にてin vitroのHCECにおいて内部細胞膜に配置され、環状バンドであり、これはそのHCECが成熟していることを示す。第7および14日にて、p120は、主としてin vitroのHCECの細胞質ゾルにあり、これは、それらの細胞が依然として未成熟であることを示した。BrdUラベル化は、培養の第7日にてHCEC増殖速度が第21日のものより40倍高いことを示した。
【0087】
実施例5:ARPE−19細胞系におけるノックダウンRNAiによるp120の一過性の下方調節
材料.ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハム/F12培地、ヒト上皮成長因子(hEGF)、HEPES緩衝液、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、アンフォテリシンB、ゲンタマイシン、ウシ胎仔血清(FBS)および0.25%トリプシン/0.53mM EDTA(トリプシン/EDTA)をInvitrogen(Carlsbad,CA)から購入した。コラゲナーゼAはRoche(Indianapolis,IN)から得た。ヒドロコルチゾン、ジメチルスルホキシド、コレラ毒素およびインスリン・トランスフェリン亜セレン酸ナトリウム培地サプリメントをSigma−Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。ARPE−19細胞系はATCC(Manassas、VA)から購入した。GeneEraserTM siRNAトランスフェクション試薬は、Stratagene(La Jolla,CA)から購入した。RNAeasy MiniキットはQiagen(Valencia,CA)から得た。高容量逆転写キット(High Capacity Reverse Transcription Kit)およびリアルタイムPCRプライマーおよびプローブは、Applied Biosystems(Foster City,CA)から取り寄せた。モノクローナル抗−VE−カドヘリンおよびポリクローナル抗E−カドヘリン、抗N−カドヘリンおよびp120抗体は、Santa Cruz(Santa Cruz,CA)から得た。テキサスレッドをコンジュゲートしたロバ抗ウサギまたはマウスは、Jackson ImmunoResearch(West Grove,PA)からのものであった。FITCをコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ抗体はSigma−Aldrichからのものであった。
【0088】
ARPE−19細胞をDMEM/F12(1:1)+10%FBS中で培養した。細胞を早期(4日間)および後期の密集(4週間、図3)まで培養した。
【0089】
RNAiは、Mittal V,Nature(2004)5:355−365で公表されたRNAi設計原理に従い選定した。Invitrogen BlockitTM RNAi Designerを用いて、Davis MA,Ireton RC,Reynolds AB,J Cell Biol.(2003)Nov 10;163(3):525−34に公開された2つのRNAi配列に加えて2つのよりp120に特異的なRNAi配列を設計した。BLAST検索を行い、選択したRNAi配列がp120に特異的であることを保証した。RNAiの標的とされた配列をリストする。
【0090】
【表5】

【0091】
無菌、室温、無血清、抗生物質を含まない50μlのDMEM/F12培地をポリスチレンチューブに移し、その無血清培地に3μlのGeneEraser siRNAトランスフェクション試薬を添加した。次いで、撹拌により完全に混合後、それを室温にて15分間インキュベートした。次いで、この混合物に3.0μlの1−μM p120 siRNA試料を添加し、ピペット操作によってゆるやかに混合し、室温にて15分間インキュベートした。最終のトランスフェクション混合物を250μlの新鮮な血清添加培地中で培養された細胞を含む24ウェル皿のウェルに滴下し、培養物をインキュベーター中で48時間培養した後、RNA抽出およびリアルタイムPCRに付した。
【0092】
結果.P120 RNAi 1および3は最も有効であった。RNAi 1および3の間の相乗作用は見られなかった。ノックダウンの効率は、早期の密集ARPE−19細胞を用いて、90〜95%の高さであり;p120 RNAiの組合せは、いわゆる「オフ標的効果」により効率を増強しなかった。ノックダウンの効率は、後期のARPE−19細胞を用いて、より低かった(70〜75%の高さ)(図3)。p120ノックダウン後、E−およびVE−カドヘリンは損失し、p190を下方調節した(表6)。
【0093】
【表6】

【0094】
実施例6:HCECにおけるRNAiノックダウンによるp120の一過性下方調節
ヒト組織はヘルシンキ宣言に従い取扱った。ヒト供与者の眼からの8つの角強膜組織をFlorida Lions Eye Bank (Miami,FL)から得た。それらの中央の角膜ボタンのいくつかを角膜移植に用いた。供与者の年齢は3〜65歳の間であった。全組織は試験前10日未満の間に貯蔵培地(Optisol;Chiron Vision,Irvine,CA)中に4℃で維持した。組織を50mg/mLゲンタマイシンおよび1.25mg/mLアンフォテリシンBを含有するDMEMで3回濯いだ。中央の角膜を8mmの直径のトレフィンにより取り出した。その後、デスメ膜および角膜内皮細胞を解剖顕微鏡下、辺縁角強膜組織の後面から剥取り、5%FBS、0.5%ジメチルスルホキシド、2ng/mLマウスEGF、5μg/mLインスリン、5μg/mLトランスフェリン、5ng/mLセレン、0.5μg/mLヒドロコルチゾン、1nMコレラ毒素、50μg/mLゲンタマイシンおよび1.25μg/mLアンフォテリシンBを補足した等量のHRPES緩衝DMEMおよびハムF12で調製した補足されたホルモン上皮培地(SHEM)中の1mg/mLのコラゲナーゼAで37℃にて16時間消化した。消化後、HCECは凝集物を形成し、凝集物を3分間2000rpmでの遠心により集めて、消化溶液を除去した。凝集物はSHEM培地中で3および14日間培養した。
【0095】
in vivoまたはin vitroでのHCECの凝集物/パッチからのRNAをRNAeasyミニ・キット(Qiagen)を用いて、溶解し抽出した。抽出したRNAは高容量逆転写キット(Appliedbiosystems)を用いて、逆転写した。AJ成分の増幅は、特定のプライマーおよびDNAポリメラーゼ(Appliedbiosystems)を用いて、PCRにより行なった。PCRプロフィールは、95℃で6分間の最初の変性に続いて、35サイクルの95℃での30秒の変性、60℃での1分間のアニーリングおよび72℃での1分間の伸長から成った。リアルタイムPCRでは、それは、95℃での10分間の最初の変性に続いて、40サイクルの95℃での30秒の変性、60℃での1分間のアニーリングおよび伸長よりなった。
【0096】
E−カドヘリンmRNAが出現した第21日にて、p120ノックダウン実験を行い、これは、AJが成熟し、細胞が増殖しなかったことを示す。無菌、室温、無血清、抗生物質を含まない50μlのDMEM/F12培地をポリスチレンチューブに移し、その無血清培地に3μlのGeneEraser siRNAトランスフェクション試薬を添加した。次いで、撹拌により完全に混合後、室温にて15分間インキュベートした。次いで、この混合物に3.0μlの1−μM p120 siRNA試料を添加し、ピペット操作によってゆるやかに混合し、室温にて15分間インキュベートした。最終のトランスフェクション混合物を250μlの新鮮な血清添加培地中で培養された細胞を含む24ウェル皿のウェルに滴下し、培養物をインキュベーター中で48時間培養した後、RNA抽出およびリアルタイムPCRに付して、p120、p190、E−、vE−、N−カドヘリンおよびβ−カテニンのRNA変化を検討した。スクランブルRNAiで処理した試料でp120、N−カドヘリンおよびBrdU抗体での二重免疫染色/免疫組織化学を対照として用いた。
【0097】
結果.in vitroで3週間培養したHCECにおけるノックダウンP120の結果、p120、E−カドヘリンおよびVE−カドヘリンの劇的な下方調節、p190の軽度の低下を生じ、β−カテニンの有意な変化はなかった(表7および8)。加えて、p120は、BrdUの核染色により判断される細胞増殖を示した細胞の核に移行化した(図4)。
【0098】
【表7】

【0099】
【表8】

【0100】
この発明は開示した具体例への参照で特に示され記載されたが、形態および詳細における種々の変形が、添付した特許請求の範囲により包含される発明の範囲から逸脱することなく本願明細書になし得ることは当業者により理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞と、E−カドヘリン、VE−カドヘリン、P−カドヘリン、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120カテニンおよび/またはp190の発現を下方調節する剤とを一過性に接触させることを含むことを特徴とする接着結合を持つ細胞の増殖を刺激する方法。
【請求項2】
下方調節がRNA干渉に起因し、細胞と分裂促進の成長因子および細胞質内cAMPを上昇させる剤とを接触させることをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
RNA干渉がp120カテニンの発現を下方調節することを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
RNA干渉がパルスで適用されることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
RNA干渉のパルスが少なくとも約12時間続くことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
接触がin vivoで生じることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
接触が哺乳動物の眼において生じることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
哺乳動物の眼が、角膜内皮細胞機能障害を有することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項9】
剤を哺乳動物の前眼房に投与することをさらに含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項10】
接着結合を持つ細胞が、ヒト角膜内皮細胞であって、剤が、N−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120カテニンおよび/またはp190の発現を下方調節する剤であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項11】
細胞質内cAMPを上昇させる剤が、8−ブロモ−cAMP、ジブチリルcAMP、イソブチル−メチルキサンチン、ペントキシフィリン、ホルスコリン、コレラ毒素、プロスタグランジンE2(PGE2)、フェニル酪酸、ブタプロストまたはイロプロストから選択されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項12】
細胞とN−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン、p120カテニンおよび/またはp190の発現を下方調節する剤とを一過性に接触させ;次いで、細胞を培養して、拡張したヒト角膜内皮細胞を形成するを含むことを特徴とする培養においてヒト角膜内皮細胞を拡張する方法。
【請求項13】
下方調節がRNA干渉に起因し、細胞と分裂促進の成長因子および細胞質内cAMPを上昇させる剤とを接触させることをさらに含むことを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
RNA干渉がp120カテニンの発現を下方調節することを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
RNA干渉がパルスで適用されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項16】
RNA干渉のパルスが少なくとも約12時間続くことを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
ヒト角膜内皮細胞が、早期または後期の密集にて凝集物または単層の形態であることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項18】
細胞質内cAMPを上昇させる剤が、8−ブロモ−cAMP、ジブチリルcAMP、イソブチル−メチルキサンチン、ペントキシフィリン、ホルスコリン、コレラ毒素、プロスタグランジンE2(PGE2)、フェニル酪酸、ブタプロストまたはイロプロストから選択されることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項19】
デスメ膜とコラゲナーゼを含む溶液とを接触させ;次いで、消化後に溶液からヒト角膜内皮細胞の少なくとも1つの凝集物を分離することを含むことを特徴とする角膜実質細胞からヒト角膜内皮細胞を単離する方法。
【請求項20】
コラゲナーゼがコラゲナーゼAであることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
コラゲナーゼ接触が約12〜約16時間であることを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項22】
約0.8mM〜約1.5mMのカルシウムイオン濃度を有する無血清培地中でヒト角膜内皮細胞凝集物を貯蔵することを含むことを特徴とするヒト角膜内皮細胞凝集物の生存度を保存および維持する方法。
【請求項23】
(a)コラゲナーゼを含む溶液を用いて、角膜実質細胞から単離され、(b)約0.8mM〜約1.5mMのカルシウムイオン濃度を有する無血清培地中で所望により保存され、次いで(c)p120カテニンの発現を下方調節する剤と一過性に接触したヒト角膜内皮細胞;ならびに生物学的適合性担体を含む外科用移植片。
【請求項24】
生物学的適合性担体が羊膜である請求項23記載の外科用移植片。
【請求項25】
下方調節がRNA干渉によって生じ、細胞と分裂促進の成長因子および細胞質内cAMPを上昇させる剤とを接触させることをさらに含む請求項23記載の外科用移植片。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−505001(P2010−505001A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530605(P2009−530605)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/079757
【国際公開番号】WO2008/103191
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(509089753)ティシューテック・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】TISSUETECH, INC.
【Fターム(参考)】