接触式変位センサ
【課題】スタイラスと測定対象との間に生じる摩擦やスティックスリップの影響を低減して走査法により形状測定を行うことができる接触式変位センサを提供する。
【解決手段】被測定物100の変位を感知する接触式変位センサ1は、被測定物100に対して進退可能に取り付けられる可動軸3と、可動軸3の先端に取り付けられ、被測定物100の表面を走査されるスタイラス4と、スタイラス4と可動軸3との間に取り付けられる振動子5とを備え、振動子5は、振動子5のばね定数、振動子5とスタイラス4の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、振動子5と可動軸3の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、振動子5の等価質量、可動軸3の質量、及びスタイラス4の質量に基づいて決定される好適周波数帯域内の周波数で振動され、スタイラス4は所定の振幅で軸線方向に振動され、かつ可動軸3はほとんど振動しないことを特徴とする。
【解決手段】被測定物100の変位を感知する接触式変位センサ1は、被測定物100に対して進退可能に取り付けられる可動軸3と、可動軸3の先端に取り付けられ、被測定物100の表面を走査されるスタイラス4と、スタイラス4と可動軸3との間に取り付けられる振動子5とを備え、振動子5は、振動子5のばね定数、振動子5とスタイラス4の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、振動子5と可動軸3の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、振動子5の等価質量、可動軸3の質量、及びスタイラス4の質量に基づいて決定される好適周波数帯域内の周波数で振動され、スタイラス4は所定の振幅で軸線方向に振動され、かつ可動軸3はほとんど振動しないことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定等に用いられる接触式変位センサ、より詳しくは、振動子を有するスタイラスが取り付けられて走査法で形状測定を行う接触式変位センサに関する。
【背景技術】
【0002】
接触式変位センサによる測定は、細いスタイラスを使用し、その先端と測定対象の測定面とを接触させ、測定面に追従させることによって形状を測定するものである。接触式変位センサによる形状測定は、外乱に強く、真空等の特別な条件を必要とせず、測定対象に油等が付着していても高い精度の測定が可能なため、産業分野において重要な手段となっている。また、接触式変位センサは光を使った顕微鏡等では、光が散乱してしまうことにより測定できないような急角度の傾斜を有する形状も測定できるといった特徴を持つ。
【0003】
接触式変位センサを用いた測定法には点測定法と走査法がある。点測定法は、接触式変位センサをある測定点で測定対象に接触させ、その位置を測定した後、一度測定対象から離間させ、次の測定点に移動する方法である。点測定法による形状測定を行う装置としては、例えば特許文献1に記載の装置が知られている。
【特許文献1】特開2007−309684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような点測定法の装置による測定は、測定時間が長いという問題がある。
これに対し、走査法は、接触式変位センサと測定対象とが接触したままその形状を測定する方法であるため、点測定法に比べ測定時間は短くなるものの、スタイラスと測定対象との間にスティックスリップ現象が発生するという問題がある。
【0005】
特に、マイクロマシンを構成するマイクロパーツやマイクロレンズアレイのような100マイクロメートル(μm)ないし200μmのサイズの微細形状を測定する場合、先端が数十μmの細く長いスタイラス軸が必要となり、さらに摩擦やスティックスリップの影響が大きくなる。
この問題点を解決するために、接触式変位センサの接触圧を大きくして測定する方法も考えられるが、測定対象をいためてしまったり、スタイラスの先端が曲がったりする等の問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、スタイラスと測定対象との間に生じる摩擦やスティックスリップの影響を低減して走査法により形状測定を行うことができる接触式変位センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被測定物の変位を感知する接触式変位センサであって、前記被測定物に対して進退可能に取り付けられる可動軸と、前記可動軸の先端に取り付けられ、前記被測定物の表面を走査されるスタイラスと、前記スタイラスと前記可動軸との間に取り付けられる振動子とを備え、前記振動子は、前記振動子のばね定数、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子の等価質量、前記可動軸の質量、及び前記スタイラスの質量に基づいて決定される好適周波数帯域内の周波数で振動され、前記スタイラスは所定の振幅で軸線方向に振動され、かつ前記可動軸はほとんど振動しないことを特徴とする。
【0008】
なお、本発明において、「ほとんど振動しない」とは、全く振動しない状態と、振動しているが、その振幅が、当該接触式変位センサの検出限界に鑑みて無視できる程度に小さい状態との両方を含む。
【0009】
本発明の接触式変位センサによれば、振動子が好適周波数帯域内の周波数で振動されることによって、スタイラスが所定の振幅で軸線方向に振動され、被測定物の表面から断続的に離間される。一方、可動軸はほとんど振動しないので、接触式変位センサの検出値には影響を与えない。
【0010】
前記好適周波数帯域は、前記振動子の振動周波数をω、前記ばね定数をki、前記振動子の等価質量の1/2と前記可動軸の質量との和をmh、前記振動子の等価質量の1/2と前記スタイラスの質量との和をmg、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkg、cg、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkh、ch、として、下記数1及び数2の数式にもとづいて、ξg及びξhの、前記振動子の振動周波数ごとの推移に関する曲線を取得して決定されてもよい。この場合、振動子の振動周波数ごとの推移を当該曲線によって容易に把握することができるので、容易かつ的確に好適周波数帯域を決定することができる。
【0011】
【数1】
【0012】
【数2】
【0013】
前記振動子は、ピエゾ素子であってもよい。この場合、印加する電圧を任意に変調することによって、振動子の振動周波数を好適に制御することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の接触式変位センサによれば、スタイラスと測定対象との間に生じる摩擦やスティックスリップの影響を低減して走査法により形状測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態について、図1から図18を参照して説明する。図1は、本実施形態の接触式変位センサ(以下、単に「変位センサ」と称する。)1を示す図である。図1に示すように、変位センサ1は、被測定物100の表面形状を測定するための変位センサであって、本体2と、本体2に対して摺動自在に取り付けられた可動軸3と、可動軸3の先端に取り付けられたスタイラス4と、スタイラス4と可動軸3との間に取り付けられた振動子5とを備えて構成されている。
【0016】
本体2は、可動軸3の動きを変位量として内蔵のリニアエンコーダ(不図示)で読み取る公知の構成を有する。
可動軸3は、図示しないエアベアリングを介して本体2に進退可能に取り付けられており、スタイラス4で被測定物100の走査をする際に、被測定物100の表面形状に応じて進退する。可動軸3の測定圧は、エアベアリングによって、1ミリニュートン(mN)と低くなっているが、円滑に摺動可能となっていれば、他の機構によって本体2に取り付けられてもよい。
【0017】
図2は、スタイラス4及び振動子5を示す拡大図である。スタイラス4は、先端を尖らせて形成されており、基端は振動子5に固定されている。振動子5は、スタイラス4及び可動軸3の軸線方向にある特定の周波数で振動可能なものであり、ピエゾ素子や磁歪素子、水晶振動子、マイクロ電子機械システム(Micro-electro-mechanical Systems:MEMS)等を好適に採用することができる。振動子5の基端には、スタイラス4及び振動子5を可動軸3に取り付けるためのホルダ6が取り付けられている。ホルダ6はネジ部6Aを有し、ネジ部6Aを可動軸3の図示しないネジ孔にねじ込むことによって、スタイラス4、振動子5、及び可動軸3が略同軸に一体に固定される。スタイラス4と振動子5、及び振動子5とホルダ6との固定には熱硬化性樹脂等からなる接着剤等を好適に使用することができる。
【0018】
上記のように構成された変位センサ1を用いて被測定物100の表面形状を測定する場合は、図1に示すように、被測定物100をスピンドル101に取り付ける。そして、スピンドル101を回転させることによって被測定物100を回転させた状態で、スタイラス4の先端で被測定物100の表面を走査させ、被測定物100の各回転角における可動軸3の変位量を本体2のリニアエンコーダで記録し、リニアエンコーダの記録値を再構成することで被測定物100の表面形状が取得される。
【0019】
このとき、スタイラス4の先端と被測定物100の表面とを常に密着させて走査させると、スタイラス4と被測定物100との間でスティックスリップ等が発生し、形状測定の精度が低下することがある。特に、被測定物100の測定面が、例えば図3に示すように、波長λに対する振幅dの比が約2/3ないし1/2、最大斜度θ1が70度ないし30度の高アスペクト比の形状のような場合は、よりスティックスリップ等が発生しやすくなる。
【0020】
そこで、スティックスリップ等の発生を低減するために、図4に示すように、振動子5をスタイラス4の軸線方向に振動させ、スタイラス4を被測定物100の表面から断続的に離間させながら走査をさせる。このようにすることで、マイクロマシンを構成するマイクロパーツやマイクロレンズアレイのような微細形状を測定する場合等であっても、摩擦やスティックスリップの影響を小さくすることができる。
【0021】
しかし、このときに可動軸3に振動子5の振動が伝達してしまうと、図5に示すように可動軸3の変位量が当該振動によって変化するため、本体2のリニアエンコーダの検出値にノイズが加わってしまう。これを避けるためには、スタイラス4にだけ振動子5の振動が伝達される(すなわち、図4に示す状態となる)、あるいは、可動軸3に振動は伝達されるが、その際の可動軸3の振幅が、変位センサ1の検出限界に対して無視できる程度の値となるような所定の周波数帯域(以下、これを「好適周波数帯域」と称する。)に属する周波数で振動子5を振動させる必要がある。
【0022】
好適周波数帯域を設定するための検討について説明する。まず、好適周波数帯域を設定するために、可動軸3、スタイラス4、及び振動子5を、図6に示すように2台の台車3A及び4Aがバネ5Aで接続されたモデルとして考える。ここで、台車3Aとバネ5A、および台車4Aとバネ5Aは、それぞれ所定のばね定数、粘性係数を有して取り付けられているものとする。台車3A、4Aは、それぞれ可動軸3、スタイラス4に相当し、バネ5Aは振動子5に相当する。したがって、以下の記載においては、台車3A、4Aをそれぞれ可動軸3、スタイラス4と、バネ5Aを振動子5と置き換えて説明する。
【0023】
mgを振動子5の等価質量の1/2とスタイラス4の質量との和、mhを振動子5の等価質量の1/2と可動軸3の質量との和とし、振動子5の中心点の前後でのばね定数をそれぞれkiとする。また、ξg、ξhを、それぞれスタイラス4、可動軸3の移動量とし、振動子5の中心部をa・sinωtだけ振動させたときを考える。このとき、振動子5の中心点からスタイラス4側の部分は、図7の等価回路で表わされる。
【0024】
これを解くと、スタイラス4の移動量ξgは、下記の数3のように表される。
【0025】
【数3】
【0026】
同様に、可動軸3の移動量ξhは、下記の数4のように表される。
【0027】
【数4】
【0028】
上記数1及び数2の式を用いた好適周波数帯域のシミュレーションの一例を図8及び図9に示す。このシミュレーションでは、スタイラス4の質量を1ミリグラム(mg)、可動軸3の質量を37グラム(g)、振動子5のばね定数kiを4.0×107N/m、振動子5の等価質量を8mg、振動子5とスタイラス4の取り付け部におけるばね定数kgと減衰比ζgをそれぞれ3.0×105N/m、0.3、振動子5と可動軸3の取り付け部におけるバネ定数khと減衰比ζhをそれぞれ1×104N/m、0.3として計算を行った。なお、減衰比ζgとは、質量mg、ばね定数kg、粘性係数cgから、数1の式で求められる(減衰比ζhも数2の式で同様に求められる)。
【0029】
図8は振動子5の振動周波数とスタイラス4の振幅との関係を示すグラフであり、図9は、振動子5の振動周波数と可動軸3の振幅との関係を示すグラフである。スタイラス4及び可動軸3の振幅は、振動子5の振幅との比率で示している。すなわち、振幅が0に近いほど振動子5の振動が伝達されていないことを示している。
【0030】
図8のグラフを見ると、スタイラス4の振幅は、振動子5の振動周波数が20キロヘルツ(kHz)を過ぎたあたりで急激に上昇し、振動周波数が約36kHzとなったときにピークを迎え、100kHzあたりでは約0.3と、振動子5の振幅の1/3となっている。周波数帯域20〜50kHzの領域R1では、振動周波数が僅かに変化しただけでもスタイラス4の振幅が急激に変化する可能性があるため、振動子5の損傷等の可能性があり、振動子5の振動周波数としては適切ではない。したがって、領域R1のような帯域は、好適周波数帯域から除外されるのが好ましい。
【0031】
一方、図9のグラフを見ると、可動軸3の振幅は、振動子5の振動周波数が80ヘルツ(Hz)付近となったときにピークを迎えた後、0に収束しており、1kHzでは振幅約0.05と振動子5の振幅の1/20となり、振動子5の振動がほぼ伝わらない、あるいは仮に伝達されても変位センサ1の検出限界に対して無視できる程度に小さくなっていることがわかる。
【0032】
再び図8に戻ると、振動子5の振動周波数が1kHzのときのスタイラス4の振幅は約1.000であり、振動子5とほぼ同じ振幅で振動していることがわかる。
以上より、本シミュレーションにおけるおおよその好適周波数帯域は、例えば、1〜15kHz、及び50〜100kHzの範囲として設定することができる。
【0033】
上述したシミュレーションの結果を検証するために、図10に示す実験系で実験を行った。スタイラス4の質量、可動軸3の質量、振動子5のばね定数ki及び等価質量が上述のシミュレーションと同一に設定された変位センサ1Aを準備し、スタイラス4の先端を剛体102に接触させた。そして、可動軸3の動きを、前方から最大サンプリング周波数160kHzのファイバセンサ103で測定した。
【0034】
図11は、図10の実験系において、振動子5を100Hzで振動させたときのファイバセンサ103の出力と振動子5への入力電圧波形を示すグラフである。曲線C1は入力電圧波形を示しており、100Hzで約10Vの電圧がかかっている。一方、ファイバセンサ103の出力は、曲線C2に示すように約150ナノメートル(nm)の振幅となっている。これは、振動子5の振動が可動軸3に伝達されて可動軸3が振動していることを示している。
【0035】
図12は、図10の実験系において、振動子5を1kHzで振動させたときのファイバセンサ103の出力と振動子5への入力電圧波形を示すグラフである。曲線C3は入力電圧波形を示しており、1kHzで約10Vの電圧がかかっている。一方、曲線C4で示すファイバセンサ103の出力は、変位センサ1Aの検出限界に対してほぼ無視できる数nm程度の振幅となっており、振動子5の振動が可動軸3にほとんど伝わっていないことが確認された。
【0036】
以上より、振動子5を1kHzの周波数で振動させたときは、可動軸3はほとんど振動しないため、本体2のリニアエンコーダで検出される変位センサ1Aの検出値にはノイズは発生せず、スタイラス4だけが振動されている。すなわち、1kHzはこの条件下における好適周波数帯域に属する周波数であることが確認された。
【0037】
次に、図13及び図14に、上記の入力電圧とファイバセンサ103の出力を、高速フーリエ変換(FFT)アナライザを用いて解析した結果を示す。図13の曲線C5はゲインを、図14の曲線C6は位相を示している。
図13及び図14を見ると、シミュレーション結果と同様に、振動子5の振動周波数を1kHzとすると、ゲインが−40デシベル(dB)以下となり、可動軸3にはほとんど伝達されていないことがわかる。また、その傾向は、周波数を増加するほど強くなることがわかる。
【0038】
さらに、振動子5の振動とスタイラス4に発生する摩擦及びスティックスリップへの影響との関係を調べるために、実験を行った。図15は、当該実験を行うための実験系を示す図である。
力センサ104を一軸自動ステージ105上に取り付け、スタイラス4と力センサ104を接触させる。このとき、図15に示す力センサ104の感度方向と変位センサ1Aの感度方向とがなす角度θ2は110度に設定されている。
【0039】
この状態で、一軸自動ステージ105を図15に矢印で示す方向に移動させ、力センサ104及び変位センサ1Aの出力を測定することで、摩擦及びスティックスリップ等の変化を調べる。スティックスリップが起こらず、摩擦が一定であれば、一軸自動ステージ105を移動させても力センサ104及び変位センサ1Aの出力は一定となる。反対にスティックスリップや摩擦の変動があれば力センサ104及び変位センサ1Aの出力に変化が生じる。
【0040】
図16及び図17は、図15の実験系による実験結果を示すグラフであり、一軸自動ステージ105を矢印の方向に一往復させたときの力センサ104及び変位センサ1Aの出力を示している。
図16は振動子5を振動させずに実験した結果を示すグラフである。横軸はサンプリング時間、縦軸左側は変位センサ1Aの出力、縦軸右側は力センサ104の出力である。曲線C7は変位センサ1Aの出力、曲線C8は力センサ104の出力を示しているが、往路(図15における左向きの動き)と復路(図15における右向きの動き)で出力に違いが出ている。変位センサ1A、力センサ104のどちらの出力も復路で大きく振動しているが、これはスティックスリップが発生しているためと考えられる。
【0041】
図17は、振動子5の振動周波数を80kHzに設定して振動させたときの実験結果を示すグラフである。図17に示すように、往路と復路における曲線C7、C8の形状の違いが、図16の結果と比べて小さくなっていることがわかる。
以上の結果から、振動子5を好適周波数帯域に属する周波数で振動させることにより、スティックスリップ及び摩擦の発生を低減できることが確認された。
【0042】
最後に、変位センサ1Aを用いて、図3に示すような測定面の形状を有する被測定物を、図1に示すようにスピンドル101に取り付けて実際に測定した結果を図18及び図19に示す。
図18は振動子5を振動させずに測定した結果を示すグラフである。横軸はスピンドル101の回転角、縦軸左側は変位センサ1Aの出力、縦軸右側は測定を2回行ったときの繰り返し誤差を示している。曲線C9は変位センサ1Aによって得られた被測定物の表面形状を示しており、曲線C10は繰り返し誤差を示している。曲線C9の傾斜の急な場所で繰り返し誤差の値が大きくなっており、スティックスリップの影響により誤差が生じていることが推測できる。
【0043】
図19は、振動子5の振動周波数を10kHzに設定して振動させて被測定物の表面形状を測定した結果を示すグラフである。図18の実験結果に比べて繰り返し誤差が小さくなっており、傾斜の急な場所でも振動子5を振動させてスタイラス4を振動させることにより、スティックスリップの影響を小さくできていることが示された。
【0044】
以上のように、本発明の変位センサ1及び1Aによれば、振動子5が好適周波数帯域に属する周波数で振動されることにより、可動軸3をほとんど振動させずにスタイラス4のみを振動させることができる。その結果、本体2で検出される出力値にはノイズが含まれず、スタイラス4の先端は断続的に被測定物の表面から引き離されてスティックスリップ等の発生が好適に低減される。したがって、より精度の高い測定を短時間で行うことができる。
【0045】
なお、好適周波数帯域は、スタイラス4の質量、可動軸3の質量、振動子5のばね定数ki及び等価質量等が変化することによって当然連動して変化するが、これらを適宜代入して図8及び図9に示すようなグラフを取得することによって、任意の設計パラメータを有する変位センサにおいても、同様に好適周波数帯域を決定することが可能である。
また、これらの計算をプログラム等を含む制御部に自動に行わせ、好適周波数帯域が制御部で自動的に決定され、当該好適周波数帯域に属する振動周波数で自動的に振動子が振動されるように変位センサが構成されてもよい。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態においては、スタイラスの先端がとがっている例を説明したが、これに代えて、図20に示す変形例のように、先端14Aが球状に形成されたスタイラス14が用いられてもよい。あるいは半球状の先端であってもよい。このような形状の先端14Aは、ルビー球、ガラス球等を用いて好適に形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態の接触式変位センサ及び被測定物を示す図である。
【図2】同接触式変位センサのスタイラス及び振動子を示す拡大図である。
【図3】被測定物の表面形状の一例を示す図である。
【図4】同振動子が好適周波数帯域に属する周波数で振動されたときの同接触式変位センサのスタイラス及び可動軸の動きを示す図である。
【図5】同振動子が好適周波数帯域に属さない周波数で振動されたときの同スタイラス及び同可動軸の動きを示す図である。
【図6】図1に示したスタイラス及び可動軸のモデル図である。
【図7】図6に示したモデル図の中心点からスタイラス側の部分の等価回路を示す図である。
【図8】シミュレーションの一例における同振動子の振動周波数と同スタイラスの振幅との関係を示すグラフである。
【図9】シミュレーションの一例における同振動子の振動周波数と同スタイラスの振幅との関係を同シミュレーションにおける同振動子の振動周波数と同可動軸の振幅との関係を示すグラフである。
【図10】同シミュレーションの結果を検証するための実験系を示す図である。
【図11】同実験系において、同振動子が好適周波数帯域に属さない周波数で振動されたときの入力電圧とファイバセンサの出力との関係を示すグラフである。
【図12】同実験系において、同振動子が好適周波数帯域に属する周波数で振動されたときの入力電圧とファイバセンサの出力との関係を示すグラフである。
【図13】入力電圧とファイバセンサの出力とを高速フーリエ変換によって解析した結果を示すグラフである。
【図14】入力電圧とファイバセンサの出力とを高速フーリエ変換によって解析した結果を示すグラフである。
【図15】同振動子と同スタイラスとの間の摩擦及びスティックスリップを検討するための実験系を示す図である。
【図16】同実験系において、同振動子を振動させずに行った実験結果を示すグラフである。
【図17】同実験系において、同振動子を好適周波数帯域に属する周波数で振動させて行った実験結果を示すグラフである。
【図18】同接触式変位センサを用いて、同振動子を振動させずに被測定物の表面形状を測定した結果を示すグラフである。
【図19】同接触式変位センサを用いて、同振動子を好適周波数帯域に属する周波数で振動させて被測定物の表面形状を測定した結果を示すグラフである。
【図20】シミュレーションの一例における同振動子の振動周波数と同スタイラスの振幅との関係を本発明の一実施形態の接触式変位センサの変形例におけるスタイラスを示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1、1A 接触式変位センサ
3 可動軸
4、14 スタイラス
5 振動子
100 被測定物
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状測定等に用いられる接触式変位センサ、より詳しくは、振動子を有するスタイラスが取り付けられて走査法で形状測定を行う接触式変位センサに関する。
【背景技術】
【0002】
接触式変位センサによる測定は、細いスタイラスを使用し、その先端と測定対象の測定面とを接触させ、測定面に追従させることによって形状を測定するものである。接触式変位センサによる形状測定は、外乱に強く、真空等の特別な条件を必要とせず、測定対象に油等が付着していても高い精度の測定が可能なため、産業分野において重要な手段となっている。また、接触式変位センサは光を使った顕微鏡等では、光が散乱してしまうことにより測定できないような急角度の傾斜を有する形状も測定できるといった特徴を持つ。
【0003】
接触式変位センサを用いた測定法には点測定法と走査法がある。点測定法は、接触式変位センサをある測定点で測定対象に接触させ、その位置を測定した後、一度測定対象から離間させ、次の測定点に移動する方法である。点測定法による形状測定を行う装置としては、例えば特許文献1に記載の装置が知られている。
【特許文献1】特開2007−309684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような点測定法の装置による測定は、測定時間が長いという問題がある。
これに対し、走査法は、接触式変位センサと測定対象とが接触したままその形状を測定する方法であるため、点測定法に比べ測定時間は短くなるものの、スタイラスと測定対象との間にスティックスリップ現象が発生するという問題がある。
【0005】
特に、マイクロマシンを構成するマイクロパーツやマイクロレンズアレイのような100マイクロメートル(μm)ないし200μmのサイズの微細形状を測定する場合、先端が数十μmの細く長いスタイラス軸が必要となり、さらに摩擦やスティックスリップの影響が大きくなる。
この問題点を解決するために、接触式変位センサの接触圧を大きくして測定する方法も考えられるが、測定対象をいためてしまったり、スタイラスの先端が曲がったりする等の問題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、スタイラスと測定対象との間に生じる摩擦やスティックスリップの影響を低減して走査法により形状測定を行うことができる接触式変位センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、被測定物の変位を感知する接触式変位センサであって、前記被測定物に対して進退可能に取り付けられる可動軸と、前記可動軸の先端に取り付けられ、前記被測定物の表面を走査されるスタイラスと、前記スタイラスと前記可動軸との間に取り付けられる振動子とを備え、前記振動子は、前記振動子のばね定数、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子の等価質量、前記可動軸の質量、及び前記スタイラスの質量に基づいて決定される好適周波数帯域内の周波数で振動され、前記スタイラスは所定の振幅で軸線方向に振動され、かつ前記可動軸はほとんど振動しないことを特徴とする。
【0008】
なお、本発明において、「ほとんど振動しない」とは、全く振動しない状態と、振動しているが、その振幅が、当該接触式変位センサの検出限界に鑑みて無視できる程度に小さい状態との両方を含む。
【0009】
本発明の接触式変位センサによれば、振動子が好適周波数帯域内の周波数で振動されることによって、スタイラスが所定の振幅で軸線方向に振動され、被測定物の表面から断続的に離間される。一方、可動軸はほとんど振動しないので、接触式変位センサの検出値には影響を与えない。
【0010】
前記好適周波数帯域は、前記振動子の振動周波数をω、前記ばね定数をki、前記振動子の等価質量の1/2と前記可動軸の質量との和をmh、前記振動子の等価質量の1/2と前記スタイラスの質量との和をmg、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkg、cg、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkh、ch、として、下記数1及び数2の数式にもとづいて、ξg及びξhの、前記振動子の振動周波数ごとの推移に関する曲線を取得して決定されてもよい。この場合、振動子の振動周波数ごとの推移を当該曲線によって容易に把握することができるので、容易かつ的確に好適周波数帯域を決定することができる。
【0011】
【数1】
【0012】
【数2】
【0013】
前記振動子は、ピエゾ素子であってもよい。この場合、印加する電圧を任意に変調することによって、振動子の振動周波数を好適に制御することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の接触式変位センサによれば、スタイラスと測定対象との間に生じる摩擦やスティックスリップの影響を低減して走査法により形状測定を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態について、図1から図18を参照して説明する。図1は、本実施形態の接触式変位センサ(以下、単に「変位センサ」と称する。)1を示す図である。図1に示すように、変位センサ1は、被測定物100の表面形状を測定するための変位センサであって、本体2と、本体2に対して摺動自在に取り付けられた可動軸3と、可動軸3の先端に取り付けられたスタイラス4と、スタイラス4と可動軸3との間に取り付けられた振動子5とを備えて構成されている。
【0016】
本体2は、可動軸3の動きを変位量として内蔵のリニアエンコーダ(不図示)で読み取る公知の構成を有する。
可動軸3は、図示しないエアベアリングを介して本体2に進退可能に取り付けられており、スタイラス4で被測定物100の走査をする際に、被測定物100の表面形状に応じて進退する。可動軸3の測定圧は、エアベアリングによって、1ミリニュートン(mN)と低くなっているが、円滑に摺動可能となっていれば、他の機構によって本体2に取り付けられてもよい。
【0017】
図2は、スタイラス4及び振動子5を示す拡大図である。スタイラス4は、先端を尖らせて形成されており、基端は振動子5に固定されている。振動子5は、スタイラス4及び可動軸3の軸線方向にある特定の周波数で振動可能なものであり、ピエゾ素子や磁歪素子、水晶振動子、マイクロ電子機械システム(Micro-electro-mechanical Systems:MEMS)等を好適に採用することができる。振動子5の基端には、スタイラス4及び振動子5を可動軸3に取り付けるためのホルダ6が取り付けられている。ホルダ6はネジ部6Aを有し、ネジ部6Aを可動軸3の図示しないネジ孔にねじ込むことによって、スタイラス4、振動子5、及び可動軸3が略同軸に一体に固定される。スタイラス4と振動子5、及び振動子5とホルダ6との固定には熱硬化性樹脂等からなる接着剤等を好適に使用することができる。
【0018】
上記のように構成された変位センサ1を用いて被測定物100の表面形状を測定する場合は、図1に示すように、被測定物100をスピンドル101に取り付ける。そして、スピンドル101を回転させることによって被測定物100を回転させた状態で、スタイラス4の先端で被測定物100の表面を走査させ、被測定物100の各回転角における可動軸3の変位量を本体2のリニアエンコーダで記録し、リニアエンコーダの記録値を再構成することで被測定物100の表面形状が取得される。
【0019】
このとき、スタイラス4の先端と被測定物100の表面とを常に密着させて走査させると、スタイラス4と被測定物100との間でスティックスリップ等が発生し、形状測定の精度が低下することがある。特に、被測定物100の測定面が、例えば図3に示すように、波長λに対する振幅dの比が約2/3ないし1/2、最大斜度θ1が70度ないし30度の高アスペクト比の形状のような場合は、よりスティックスリップ等が発生しやすくなる。
【0020】
そこで、スティックスリップ等の発生を低減するために、図4に示すように、振動子5をスタイラス4の軸線方向に振動させ、スタイラス4を被測定物100の表面から断続的に離間させながら走査をさせる。このようにすることで、マイクロマシンを構成するマイクロパーツやマイクロレンズアレイのような微細形状を測定する場合等であっても、摩擦やスティックスリップの影響を小さくすることができる。
【0021】
しかし、このときに可動軸3に振動子5の振動が伝達してしまうと、図5に示すように可動軸3の変位量が当該振動によって変化するため、本体2のリニアエンコーダの検出値にノイズが加わってしまう。これを避けるためには、スタイラス4にだけ振動子5の振動が伝達される(すなわち、図4に示す状態となる)、あるいは、可動軸3に振動は伝達されるが、その際の可動軸3の振幅が、変位センサ1の検出限界に対して無視できる程度の値となるような所定の周波数帯域(以下、これを「好適周波数帯域」と称する。)に属する周波数で振動子5を振動させる必要がある。
【0022】
好適周波数帯域を設定するための検討について説明する。まず、好適周波数帯域を設定するために、可動軸3、スタイラス4、及び振動子5を、図6に示すように2台の台車3A及び4Aがバネ5Aで接続されたモデルとして考える。ここで、台車3Aとバネ5A、および台車4Aとバネ5Aは、それぞれ所定のばね定数、粘性係数を有して取り付けられているものとする。台車3A、4Aは、それぞれ可動軸3、スタイラス4に相当し、バネ5Aは振動子5に相当する。したがって、以下の記載においては、台車3A、4Aをそれぞれ可動軸3、スタイラス4と、バネ5Aを振動子5と置き換えて説明する。
【0023】
mgを振動子5の等価質量の1/2とスタイラス4の質量との和、mhを振動子5の等価質量の1/2と可動軸3の質量との和とし、振動子5の中心点の前後でのばね定数をそれぞれkiとする。また、ξg、ξhを、それぞれスタイラス4、可動軸3の移動量とし、振動子5の中心部をa・sinωtだけ振動させたときを考える。このとき、振動子5の中心点からスタイラス4側の部分は、図7の等価回路で表わされる。
【0024】
これを解くと、スタイラス4の移動量ξgは、下記の数3のように表される。
【0025】
【数3】
【0026】
同様に、可動軸3の移動量ξhは、下記の数4のように表される。
【0027】
【数4】
【0028】
上記数1及び数2の式を用いた好適周波数帯域のシミュレーションの一例を図8及び図9に示す。このシミュレーションでは、スタイラス4の質量を1ミリグラム(mg)、可動軸3の質量を37グラム(g)、振動子5のばね定数kiを4.0×107N/m、振動子5の等価質量を8mg、振動子5とスタイラス4の取り付け部におけるばね定数kgと減衰比ζgをそれぞれ3.0×105N/m、0.3、振動子5と可動軸3の取り付け部におけるバネ定数khと減衰比ζhをそれぞれ1×104N/m、0.3として計算を行った。なお、減衰比ζgとは、質量mg、ばね定数kg、粘性係数cgから、数1の式で求められる(減衰比ζhも数2の式で同様に求められる)。
【0029】
図8は振動子5の振動周波数とスタイラス4の振幅との関係を示すグラフであり、図9は、振動子5の振動周波数と可動軸3の振幅との関係を示すグラフである。スタイラス4及び可動軸3の振幅は、振動子5の振幅との比率で示している。すなわち、振幅が0に近いほど振動子5の振動が伝達されていないことを示している。
【0030】
図8のグラフを見ると、スタイラス4の振幅は、振動子5の振動周波数が20キロヘルツ(kHz)を過ぎたあたりで急激に上昇し、振動周波数が約36kHzとなったときにピークを迎え、100kHzあたりでは約0.3と、振動子5の振幅の1/3となっている。周波数帯域20〜50kHzの領域R1では、振動周波数が僅かに変化しただけでもスタイラス4の振幅が急激に変化する可能性があるため、振動子5の損傷等の可能性があり、振動子5の振動周波数としては適切ではない。したがって、領域R1のような帯域は、好適周波数帯域から除外されるのが好ましい。
【0031】
一方、図9のグラフを見ると、可動軸3の振幅は、振動子5の振動周波数が80ヘルツ(Hz)付近となったときにピークを迎えた後、0に収束しており、1kHzでは振幅約0.05と振動子5の振幅の1/20となり、振動子5の振動がほぼ伝わらない、あるいは仮に伝達されても変位センサ1の検出限界に対して無視できる程度に小さくなっていることがわかる。
【0032】
再び図8に戻ると、振動子5の振動周波数が1kHzのときのスタイラス4の振幅は約1.000であり、振動子5とほぼ同じ振幅で振動していることがわかる。
以上より、本シミュレーションにおけるおおよその好適周波数帯域は、例えば、1〜15kHz、及び50〜100kHzの範囲として設定することができる。
【0033】
上述したシミュレーションの結果を検証するために、図10に示す実験系で実験を行った。スタイラス4の質量、可動軸3の質量、振動子5のばね定数ki及び等価質量が上述のシミュレーションと同一に設定された変位センサ1Aを準備し、スタイラス4の先端を剛体102に接触させた。そして、可動軸3の動きを、前方から最大サンプリング周波数160kHzのファイバセンサ103で測定した。
【0034】
図11は、図10の実験系において、振動子5を100Hzで振動させたときのファイバセンサ103の出力と振動子5への入力電圧波形を示すグラフである。曲線C1は入力電圧波形を示しており、100Hzで約10Vの電圧がかかっている。一方、ファイバセンサ103の出力は、曲線C2に示すように約150ナノメートル(nm)の振幅となっている。これは、振動子5の振動が可動軸3に伝達されて可動軸3が振動していることを示している。
【0035】
図12は、図10の実験系において、振動子5を1kHzで振動させたときのファイバセンサ103の出力と振動子5への入力電圧波形を示すグラフである。曲線C3は入力電圧波形を示しており、1kHzで約10Vの電圧がかかっている。一方、曲線C4で示すファイバセンサ103の出力は、変位センサ1Aの検出限界に対してほぼ無視できる数nm程度の振幅となっており、振動子5の振動が可動軸3にほとんど伝わっていないことが確認された。
【0036】
以上より、振動子5を1kHzの周波数で振動させたときは、可動軸3はほとんど振動しないため、本体2のリニアエンコーダで検出される変位センサ1Aの検出値にはノイズは発生せず、スタイラス4だけが振動されている。すなわち、1kHzはこの条件下における好適周波数帯域に属する周波数であることが確認された。
【0037】
次に、図13及び図14に、上記の入力電圧とファイバセンサ103の出力を、高速フーリエ変換(FFT)アナライザを用いて解析した結果を示す。図13の曲線C5はゲインを、図14の曲線C6は位相を示している。
図13及び図14を見ると、シミュレーション結果と同様に、振動子5の振動周波数を1kHzとすると、ゲインが−40デシベル(dB)以下となり、可動軸3にはほとんど伝達されていないことがわかる。また、その傾向は、周波数を増加するほど強くなることがわかる。
【0038】
さらに、振動子5の振動とスタイラス4に発生する摩擦及びスティックスリップへの影響との関係を調べるために、実験を行った。図15は、当該実験を行うための実験系を示す図である。
力センサ104を一軸自動ステージ105上に取り付け、スタイラス4と力センサ104を接触させる。このとき、図15に示す力センサ104の感度方向と変位センサ1Aの感度方向とがなす角度θ2は110度に設定されている。
【0039】
この状態で、一軸自動ステージ105を図15に矢印で示す方向に移動させ、力センサ104及び変位センサ1Aの出力を測定することで、摩擦及びスティックスリップ等の変化を調べる。スティックスリップが起こらず、摩擦が一定であれば、一軸自動ステージ105を移動させても力センサ104及び変位センサ1Aの出力は一定となる。反対にスティックスリップや摩擦の変動があれば力センサ104及び変位センサ1Aの出力に変化が生じる。
【0040】
図16及び図17は、図15の実験系による実験結果を示すグラフであり、一軸自動ステージ105を矢印の方向に一往復させたときの力センサ104及び変位センサ1Aの出力を示している。
図16は振動子5を振動させずに実験した結果を示すグラフである。横軸はサンプリング時間、縦軸左側は変位センサ1Aの出力、縦軸右側は力センサ104の出力である。曲線C7は変位センサ1Aの出力、曲線C8は力センサ104の出力を示しているが、往路(図15における左向きの動き)と復路(図15における右向きの動き)で出力に違いが出ている。変位センサ1A、力センサ104のどちらの出力も復路で大きく振動しているが、これはスティックスリップが発生しているためと考えられる。
【0041】
図17は、振動子5の振動周波数を80kHzに設定して振動させたときの実験結果を示すグラフである。図17に示すように、往路と復路における曲線C7、C8の形状の違いが、図16の結果と比べて小さくなっていることがわかる。
以上の結果から、振動子5を好適周波数帯域に属する周波数で振動させることにより、スティックスリップ及び摩擦の発生を低減できることが確認された。
【0042】
最後に、変位センサ1Aを用いて、図3に示すような測定面の形状を有する被測定物を、図1に示すようにスピンドル101に取り付けて実際に測定した結果を図18及び図19に示す。
図18は振動子5を振動させずに測定した結果を示すグラフである。横軸はスピンドル101の回転角、縦軸左側は変位センサ1Aの出力、縦軸右側は測定を2回行ったときの繰り返し誤差を示している。曲線C9は変位センサ1Aによって得られた被測定物の表面形状を示しており、曲線C10は繰り返し誤差を示している。曲線C9の傾斜の急な場所で繰り返し誤差の値が大きくなっており、スティックスリップの影響により誤差が生じていることが推測できる。
【0043】
図19は、振動子5の振動周波数を10kHzに設定して振動させて被測定物の表面形状を測定した結果を示すグラフである。図18の実験結果に比べて繰り返し誤差が小さくなっており、傾斜の急な場所でも振動子5を振動させてスタイラス4を振動させることにより、スティックスリップの影響を小さくできていることが示された。
【0044】
以上のように、本発明の変位センサ1及び1Aによれば、振動子5が好適周波数帯域に属する周波数で振動されることにより、可動軸3をほとんど振動させずにスタイラス4のみを振動させることができる。その結果、本体2で検出される出力値にはノイズが含まれず、スタイラス4の先端は断続的に被測定物の表面から引き離されてスティックスリップ等の発生が好適に低減される。したがって、より精度の高い測定を短時間で行うことができる。
【0045】
なお、好適周波数帯域は、スタイラス4の質量、可動軸3の質量、振動子5のばね定数ki及び等価質量等が変化することによって当然連動して変化するが、これらを適宜代入して図8及び図9に示すようなグラフを取得することによって、任意の設計パラメータを有する変位センサにおいても、同様に好適周波数帯域を決定することが可能である。
また、これらの計算をプログラム等を含む制御部に自動に行わせ、好適周波数帯域が制御部で自動的に決定され、当該好適周波数帯域に属する振動周波数で自動的に振動子が振動されるように変位センサが構成されてもよい。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態においては、スタイラスの先端がとがっている例を説明したが、これに代えて、図20に示す変形例のように、先端14Aが球状に形成されたスタイラス14が用いられてもよい。あるいは半球状の先端であってもよい。このような形状の先端14Aは、ルビー球、ガラス球等を用いて好適に形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態の接触式変位センサ及び被測定物を示す図である。
【図2】同接触式変位センサのスタイラス及び振動子を示す拡大図である。
【図3】被測定物の表面形状の一例を示す図である。
【図4】同振動子が好適周波数帯域に属する周波数で振動されたときの同接触式変位センサのスタイラス及び可動軸の動きを示す図である。
【図5】同振動子が好適周波数帯域に属さない周波数で振動されたときの同スタイラス及び同可動軸の動きを示す図である。
【図6】図1に示したスタイラス及び可動軸のモデル図である。
【図7】図6に示したモデル図の中心点からスタイラス側の部分の等価回路を示す図である。
【図8】シミュレーションの一例における同振動子の振動周波数と同スタイラスの振幅との関係を示すグラフである。
【図9】シミュレーションの一例における同振動子の振動周波数と同スタイラスの振幅との関係を同シミュレーションにおける同振動子の振動周波数と同可動軸の振幅との関係を示すグラフである。
【図10】同シミュレーションの結果を検証するための実験系を示す図である。
【図11】同実験系において、同振動子が好適周波数帯域に属さない周波数で振動されたときの入力電圧とファイバセンサの出力との関係を示すグラフである。
【図12】同実験系において、同振動子が好適周波数帯域に属する周波数で振動されたときの入力電圧とファイバセンサの出力との関係を示すグラフである。
【図13】入力電圧とファイバセンサの出力とを高速フーリエ変換によって解析した結果を示すグラフである。
【図14】入力電圧とファイバセンサの出力とを高速フーリエ変換によって解析した結果を示すグラフである。
【図15】同振動子と同スタイラスとの間の摩擦及びスティックスリップを検討するための実験系を示す図である。
【図16】同実験系において、同振動子を振動させずに行った実験結果を示すグラフである。
【図17】同実験系において、同振動子を好適周波数帯域に属する周波数で振動させて行った実験結果を示すグラフである。
【図18】同接触式変位センサを用いて、同振動子を振動させずに被測定物の表面形状を測定した結果を示すグラフである。
【図19】同接触式変位センサを用いて、同振動子を好適周波数帯域に属する周波数で振動させて被測定物の表面形状を測定した結果を示すグラフである。
【図20】シミュレーションの一例における同振動子の振動周波数と同スタイラスの振幅との関係を本発明の一実施形態の接触式変位センサの変形例におけるスタイラスを示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1、1A 接触式変位センサ
3 可動軸
4、14 スタイラス
5 振動子
100 被測定物
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面形状を測定するための接触式変位センサであって、
前記被測定物に対して進退可能に取り付けられる可動軸と、
前記可動軸の先端に取り付けられ、前記被測定物の表面を走査されるスタイラスと、
前記スタイラスと前記可動軸との間に取り付けられる振動子と、
を備え、
前記振動子は、前記振動子のばね定数、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子の等価質量、前記可動軸の質量、及び前記スタイラスの質量に基づいて決定される好適周波数帯域内の周波数で振動され、
前記スタイラスは所定の振幅で軸線方向に振動され、かつ前記可動軸はほとんど振動しないことを特徴とする接触式変位センサ。
【請求項2】
前記好適周波数帯域は、前記振動子の振動周波数をω、前記ばね定数をki、前記振動子の等価質量の1/2と前記可動軸の質量との和をmh、前記振動子の等価質量の1/2と前記スタイラスの質量との和をmg、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkg、cg、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkh、ch、として、
【数1】
及び
【数2】
の数式にもとづいて、前記ξg及び前記ξhの、前記振動子の振動周波数ごとの推移に関する曲線を取得して決定されることを特徴とする請求項1に記載の接触式変位センサ。
【請求項3】
前記振動子は、ピエゾ素子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接触式変位センサ。
【請求項1】
被測定物の表面形状を測定するための接触式変位センサであって、
前記被測定物に対して進退可能に取り付けられる可動軸と、
前記可動軸の先端に取り付けられ、前記被測定物の表面を走査されるスタイラスと、
前記スタイラスと前記可動軸との間に取り付けられる振動子と、
を備え、
前記振動子は、前記振動子のばね定数、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数、前記振動子の等価質量、前記可動軸の質量、及び前記スタイラスの質量に基づいて決定される好適周波数帯域内の周波数で振動され、
前記スタイラスは所定の振幅で軸線方向に振動され、かつ前記可動軸はほとんど振動しないことを特徴とする接触式変位センサ。
【請求項2】
前記好適周波数帯域は、前記振動子の振動周波数をω、前記ばね定数をki、前記振動子の等価質量の1/2と前記可動軸の質量との和をmh、前記振動子の等価質量の1/2と前記スタイラスの質量との和をmg、前記振動子と前記スタイラスの取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkg、cg、前記振動子と前記可動軸の取り付け部におけるばね定数と粘性係数をそれぞれkh、ch、として、
【数1】
及び
【数2】
の数式にもとづいて、前記ξg及び前記ξhの、前記振動子の振動周波数ごとの推移に関する曲線を取得して決定されることを特徴とする請求項1に記載の接触式変位センサ。
【請求項3】
前記振動子は、ピエゾ素子であることを特徴とする請求項1又は2に記載の接触式変位センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−71798(P2010−71798A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239525(P2008−239525)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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