説明

接触抵抗、防汚特性に優れるプローブピン用途に好適な銀合金

【課題】低接触圧、高温強度改善、防汚特性において改善され、プローブピン用途に好適な材料を提供する。
【解決手段】本発明は、Au−Cu合金からなるプローブピン用途に適した銀合金であって、Cu:30〜50重量%、残部Agである銀合金である。この材料は、更に、Niを2〜10重量%含むことで、強度面でより改善される。そして、これらの材料からなるプローブピンは、低い接触圧でも接触抵抗が安定しており、強度面、防汚特性にも優れ、長期間安定的に使用可能なプローブピンを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路等の電気特性を検査するためのプローブピンを構成する線材に適した銀合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェハー上に形成された半導体集積回路や液晶表示装置等の電気的特性の検査を行う際、複数のプローブピンが配列したプローブカードが用いられている。この検査では、通常、ウェハー上に形成された検査対象物である半導体集積回路素子や液晶表示装置等の複数の電極パッドに、プローブピンを接触させることによって行われている。
【0003】
従来から用いられているプローブピン用の材料としては、タングステン(W)及びその合金(W−Re合金等)や、ベリリウム銅(Be−Cu)、リン青銅(Cu−Sn−P)、パラジウム合金(Pd−Ag合金)等がある。
【特許文献1】特開平10−038922号公報
【特許文献2】特開平05−154719号公報
【特許文献3】特開2004−093355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プローブピンは、検査対象物に対して何百万回と接触する部材であるから、その構成材料は繰り返し検査による磨耗が少なくなるよう高硬度であることが要求される。また、プローブピンは電気特性の検査で用いられるものであることから、比抵抗が低く導電性の良好な導電材料を適用することが好ましいとされる。上記の各種材料は、これら硬度、比抵抗の観点を主眼として開発された材料である。
【0005】
ところで、上記のような従来からの要求に加え、検査効率の改善要求や近年の半導体集積回路等の高密度化への対応要求等により、新たな特性の改善の必要性が高くなっている。
【0006】
例えば、検査効率の改善として、近年、プローブカードに実装するプローブピンの本数を増加させる多ピン化が進行している。ここで、検査時においては、プローブピンと検査対象物との接触抵抗を安定させることが必要となるが、そのためにはプローブピンを検査対象物にある程度押し込む必要がある。この安定的な接触抵抗を得るための押込量(オーバードライブ)は、材質により相違するが、押込量を大きいものとすると接触圧が高くなる。そして、接触圧が高いプローブピンは、多ピン化により検査対象物への負担を大きくすることとなる。よって、多ピン化に対応可能なプローブピン用の材料として、オーバードライブが小さく低接触圧でも安定的な接触抵抗を得られることが要求される。
【0007】
また、半導体集積回路等の高密度化に伴い、プローブピンの狭ピッチ化の傾向にあり、これに対応するためその線径の微細化が要請されている。この要請に応えるためには、強度面についても改善が必要であるが、この場合の強度改善は、単に硬度を上昇させれば良いというものではない。プローブピンは、検査対象物に対して高速で繰返し接触するものであり、その摩擦熱により高温となった状態で応力負荷を連続的に受けるため、いわゆるクリープ変形が懸念される。このクリープ変形は不可逆であるため、一旦変形したプローブピンは交換を要することとなる。よって、高温下での変形が生じがたいことも要求される特性である。
【0008】
更に、プローブピンにおいては、繰返し使用により接触相手からの異物の付着といった汚染の問題がある。従来から、プローブピンにはそれ自体の酸化皮膜形成の問題が指摘されていたが、この異物不着の問題はこれよりも大きな問題であり、汚染による接触抵抗の安定性が失われ、それによりプローブピン交換を余儀なくされることがあった。従って、かかる汚染に対する耐性(防汚特性)も重要な特性となっている。
【0009】
従来のプローブピン用の材料は、上記のような新たな要求特性を具備するとはいい難い。本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、低接触圧、高温強度改善、防汚特性において改善された材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者等は鋭意研究を行い、銀(Ag)を主体とし、所定範囲の銅を添加した合金が、上記の諸特性を具備するプローブピン用の合金材料を見出した。
【0011】
即ち、本発明は、Au−Cu合金からなるプローブピン用の線材に適した銀合金であって、Cu:30〜50重量%、残部Agである銀合金である。
【0012】
Agは、低比抵抗で良好な導電体であることからプローブピン用途として好適な材料であるが、その反面強度面で不足がある。本発明は、Agに対する合金元素として、所定範囲のCuを添加することで、その強度不足を補完しバランスを図っている。
【0013】
上記のように、Cuは、合金の強度上昇の作用を有するが、Cuが選択されるのは、強度上昇の作用がある上に合金の導電性に与える影響が少ないからである。そして、プローブピン用途における、合金組成としては、Cuを30〜50重量%添加するものである。かかる範囲に限定するのは、30重量%未満では、強度不足となり、50重量%を超えると酸化し易くなるからである。
【0014】
また、本発明に係る合金は、更に、Niを2〜10重量%含んでいても良い。Niを更に添加するのは、強度面での改善効果をより明確にするためである。このNiの添加量を2〜10重量%とするのは、2重量%未満では、添加による改善効果が少ないからであり、10重量%を超えると加工性に問題が生じるからである。
【0015】
尚、本発明に係る材料をプローブピンとする場合、ピン全体が合金材料からなる、いわゆるムク材として構成されたものが好ましい。そして、このプローブピンは、十分な硬度、導電性を有し、耐酸化性にも優れる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明に係るプローブピン用途に適した銀合金は、接触抵抗の安定性や強度面、更に、防汚特性に優れるものである。本発明によれば、長期間安定的に使用可能なプローブピンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】防汚特性、オーバードライブを評価するための模擬試験装置の概略。
【図2】クリープ特性評価試験の工程を説明する図。
【図3】実施例1、2、5、6及び従来例1、2の合金からなるプローブピンのオーバードライブと接触抵抗値との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施例を比較例とともに説明する。本実施形態では、各種の組成の合金を製造し、その硬度、比抵抗といった基本的特性を測定した後、接触圧、防汚特性、高温強度を評価した。
【0019】
試料は、原料となる各金属を真空溶解してインゴットを作製し(寸法:φ40mm×6mm)、これを断面減少率が80%前後となるように圧延した。圧延後の厚さは1.2mm前後とした。そして、圧延材を切断し、長さ10mm×幅1.0mmの試験片としこれを樹脂埋め込み、研磨して硬度測定用の試料とした。また、圧延材から、別に長さ60mm×幅10mmの試験片を切り出し、これを比抵抗測定用の試料とした。
【0020】
硬度測定はビッカース硬度計により行った。測定条件は、荷重100gf、押し込み時間10秒間とした。また、比抵抗の測定は、電気抵抗計により電気抵抗を測定し、試料の断面積と長さから比抵抗を算出した。これらの測定結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
次に、上記工程で製造した合金インゴットからワイヤー(線径0.2mm)を造し、切断・加工してプローブピンを製造した。そして、これらについて防汚特性及びクリープ特性を評価した。
【0023】
防汚特性の評価は、プローブピンを図1のような模擬試験装置に設置し、プローブピンとアルミパッドとを繰返し接触させつつ抵抗値を測定した(印加電流は1ピン当り100mAとする)。接触回数の増加に伴い抵抗値が上昇するが、抵抗値が5Ωを超えた時点をクリーニングが必要になる程の汚染された状態と設定し、5Ωになるまでの接触回数を測定した。
【0024】
また、オーバードライブの評価は、図2で示す工程で行った。この試験は、プローブピンを100℃に加熱したステージに接触させた状態から、ステージを上昇させ、(0.1mm)、この状態を100時間保持した後にステージを初期位置に戻し、負荷解除後のプローブピン先端とステージとの距離(ギャップ)を測定するものである。クリープ変形が生じた場合、負荷解除後もプローブピンは変形したままとなりこの距離が大きくなる。ここでは、クリープ特性の評価基準として、プローブピン先端とステージとの距離について、40μm以下を合格(○)とし、それ以上を不合格(×)とした。また、合格品の中でも特に優れたもの(20μm以下)については「◎」とした。これら防汚特性、クリープ特性の評価結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
表2から、各実施例におけるプローブピンは、汚染が認められるまでの接触回数が30万回を超え、極めて汚染され難いものであることがわかる。また、クリープ変形も生じ難く強度面からも好ましいことがわかる。従来品のタングステン及びその合金は、汚染の影響を受けやすく1万回程度の接触回数で抵抗値が上昇し、クリープ特性についても格段に優れているわけではない。尚、比較例として製造した銅及びニッケルの濃度が規定値外のプローブピンは、従来品に比べると好適な特性を示すが、各実施例よりも劣るものであり、防汚特性、クリープ特性のバランスに欠けるものであった。
【0027】
本実施形態では、更に、実施例1、2、5、6及び従来例1、2の合金からなるプローブピンについて、接触圧の評価を行った。この試験は、図1に示した模擬試験装置を用い、プローブピン先端のパッドへの押し込み量(オーバードライブ)を変化させつつ抵抗値を測定し、抵抗値が安定するまでのオーバードライブを測定するものである。この測定結果を図3に示す。
【0028】
図3から、各実施例に係るプローブピンは、安定した接触抵抗値が得られるまでのオーバードライブが少ないことがわかる。即ち、各実施例に係るプローブピンは、接触圧が低くても安定した接触抵抗を得ることができる物であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係る銀合金は、プローブピン用途に好適な材料であり、防汚特性、クリープ特性に優れ、低接触圧で安定的な電気特性を示す。これらの特性が改善された本発明によるプローブピンは、検査効率の改善要求や半導体集積回路等の高密度化への対応要求等にも柔軟に対応することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au−Cu合金からなるプローブピン用途に適した銀合金であって、Cu:30〜50重量%、残部Agである銀合金。
【請求項2】
更に、Niを2〜10重量%含む請求項1記載のプローブピン用途に適した銀合金。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の材料からなるプローブピン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−275596(P2010−275596A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129992(P2009−129992)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(509352945)田中貴金属工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】