説明

接触要素及び接触装置

接触要素(1)と接触部材(2)の間で電流が流れることを可能にするために、接触部材(2)に対して電気的な接触をするための接触要素(1)であって、この接触要素は、ボディ(3)を有し、このボディの少なくとも一つの接触表面が、前記接触部材に対して接触するための接触レイヤ(4)で被覆されている。この接触レイヤは、ナノ・コンポジット・フィルムを有し、このフィルムは、アモルファス・カーボンのマトリクスを有し、ナノ・サイズの、即ち1〜100nmの範囲内の寸法を備えた少なくとも一つの金属カーバイドのクリスタライトが、その中に埋め込まれている(図1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触要素と接触部材の間で電流が流れることを可能にするために、接触部材に対して電気的な接触をするための接触要素に係る。前記接触要素は、ボディを有し、このボディの少なくとも一つの接触表面は、前記接触部材に対して接触するための接触レイヤで被覆されている。本発明はまた、電気的な摺動接触装置にも係る。この摺動接触装置においては、接触動作を行うとき、および/または妨げるとき、および/または維持するとき、この接触装置の中で、電気的な接触を行うために互いに対して接触するように構成された二つの接触表面が、互いに対して摺動することが可能である。
【0002】
そのような接触要素は、多くの異なるアプリケーションを有することが可能であり、それらのアプリケーションにおいて、前記接触レイヤは、低い接触抵抗、磨耗に対する高い抵抗、及び接触される接触部材の材料に対する低い摩擦係数、その他のような、所望の性質を備えた接触部材への電気的な接触を行うために配置される。
【0003】
そのようなアプリケーションは、例えば、一つまたはそれ以上のそのようなデバイスのウェーハにおいて半導体デバイスのためのコンタクトを作るため、機械的な断路器及びブレーカにおいて電気的な接触を行うため及び妨げるため、及び、プラグイン・タイプの接触装置において電気的な接触を行うため及び妨げるため、などである。そのような電気的な接触要素は、摺動接触または固定接触を確立することが可能であって、好ましくは、例えば銅またはアルミニウムから作られるボディを有している。
【背景技術】
【0004】
磨耗及び腐食に対して接触要素の接触表面を保護するために、前記ボディを金属の接触レイヤで被覆することが知られている。しかしながら、以下のことが判明している。即ち、そのような接触レイヤのためにこれまで使用されている金属は、それに対して押し付けられる接触部材の表面に接着する傾向を示し、それによって、牽引力が接触要素を接触部材に対して移動させようとしたとき、接触要素および/または接触部材の表面の近傍に損傷を生じさせることがある。そのような牽引力は、例えば、温度変化の際に接触要素と接触部材の材料の熱膨張率の相違のために、または、接触要素と接触部材が摺動接触状態で互いに対して移動しようとするときに、生ずる。
【0005】
この問題は、接触要素及び接触部材の接触表面に、潤滑剤を用いて潤滑性を付与することにより、これまで解決されてきた。そのような潤滑剤は、ベースとして、油または脂肪を有していることがある、しかし、グラファイトのような固体潤滑剤もまた存在する。しかしながら、固体潤滑剤は、電気的な伝導性に乏しく、そして、接触表面が互いに対して摺動するとき、しばしば、磨耗により消失してしまうことがある。
【0006】
国際特許出願公開 WO 01/41167 号には、これらの問題に対する解決方法が開示されている。それによれば、前記接触レイヤが、積層された複数エレメントの材料を有する連続フィルムとして、デザインされている。
【0007】
しかしながら、幾つかのアスペクトにおいて、これまで知られている接触要素に対して、前記接触要素が改善されることについての一定の要望及びニーズがある。それは、例えば、より低い接触抵抗を有していること、磨耗に対するより高い抵抗を有していること、そしてそれによって長い寿命、並びに潤滑剤のニーズを減少させるためのより低い摩擦をも有していること、などである。
【特許文献1】国際特許出願公開 WO 01/41167 号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前記ニーズに少なくとも部分的に応えることにより、既知の接触要素に対して改善された電気的な接触要素を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、本発明に基づき、導入部の中に規定されたタイプの接触要素を提供することにより、実現される。この接触要素において、前記接触レイヤは、ナノ・コンポジット(nano-composite)・フィルムを有していて、このナノ・コンポジット・フィルムは、アモルファス・カーボンのマトリクスを有し、ナノ・サイズの、即ち1−100nmの範囲内の寸法を備えた少なくとも一つの金属カーバイドのクリスタライト(crystallites:微結晶)が、その中に埋め込まれている。
【0010】
そのようなナノ・コンポジット・フィルムは、そのような接触レイヤとして使用されるために非常に好適な性質を有していることが判明した。これは、前記アモルファス・カーボンのマトリクスの性質に起因するものであり、このアモルファス・カーボンは、その中に埋め込まれた金属カーバイド・クリスタライトと結びついて、前記接触部材上の、対応するまたは他の接触レイヤに対する、接触レイヤの境界面の物理的な適合を可能にして、アモルファス・カーボンのみのレイヤと比べて、接触レイヤの抵抗を減少させる。
【0011】
更にまた、前記マトリクスまたはアモルファス・カーボンの結合フェーズの中の金属カーバイドの存在は、接触レイヤの磨耗抵抗を増大させる。そのようなナノ・コンポジット・フィルムは、前記接触部材と比べて低い摩擦係数に対する潜在的な可能性をも、有している。
【0012】
“マトリクス”と言う用語は、この明細書において、カーバイドの粒子がその中に含有される連続的な多数フェーズのみに関係するものではないと、解釈されるべきである。カーボン・マトリクスは、少数フェーズであっても良く、更には連続的でなくても良く、そして、このマトリクスは、極端なケースにおいては、カーバイド粒子の周りの数個の原子レイヤのみからなっていても良い。このようにして、マトリクスは、このタイプの結合フェーズとして解釈されるべきである。
【0013】
アモルファス・カーボンのマトリクスと、金属カーバイドのナノ・サイズのクリスタライトの異なる性質は、当然に、接触要素のそれぞれ意図された用途に対して、主として金属カーバイド/カーボン・マトリクス比を変えることにより、接触レイヤを最適化することを可能にする。接触レイヤの硬さは、そのような比の増加とともに増加し、これに対してその抵抗は、金属カーバイド/カーボン・マトリクス比の増加とともに減少する。しかしながら、接触抵抗は、そのような比の増加とともに変化する。
【0014】
本発明の実施形態によれば、前記金属は、遷移金属、即ち周期律表の3族から12族までの元素である。そのような金属は、接触レイヤに、優れた性質、特に低い接触抵抗に対する優れた性質を与えることが見出された。前記ナノ・サイズの金属カーバイドに対して適切な金属の例として、ニオブ及びチタンを挙げることができる。
【0015】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルムは、一つの金属のみを有しており、即ち二元系である。目標とされる接触レイヤの性質を実現するために、アモルファス・カーボンの前記マトリクスの中に埋め込まれる金属カーバイド形成金属を唯一つ有していれば、多くの場合、十分であることが判明した。
【0016】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルムは、少なくとも一つの更なる第二の金属のカーバイドのナノ・サイズのクリスタライトを有している。この金属は、好ましくは遷移金属であっても良い。そのような第二の金属の添加は、意図される用途において接触要素に課せられる要求に、接触レイヤの性質を適合させる可能性を改善すると言うことが見出された。時により、非常に低い接触抵抗が、磨耗に対する高い抵抗よりも重要であることがあり、あるいはその反対の場合も有る。これは、そのような第二の金属を添加することにより、対処できることがある。ナノ・コンポジット・フィルムのいわゆる金属カーバイドの性質は、この更なるカーバイド形成金属の添加によって、改善されることもある。
【0017】
本発明の他の実施形態によれば、前記クリスタライトは、5〜50nmの範囲内の直径相当の寸法を有している。クリスタライトのこのサイズが、このタイプの接触レイヤに対してしばしば要求される特に好ましい特徴をもたらすことが判明した。
【0018】
本発明の他の実施形態によれば、前記マトリクスは、前記マトリクスのカーボンの中に埋め込まれたフェーズの中に配置され、且つ前記マトリクスのカーボンに対して分離された更なる第三の金属を、更に有している。金属カーバイドを形成しないそのような金属の添加は、主として、前記マトリクスの性質を変化させ、そしてその抵抗を減少させ、そしてそれにより接触レイヤ全体の抵抗を減少させることがある。
【0019】
前記の更なる第三の金属は、好ましくは遷移金属であり、例えば、Agであっても良い。
【0020】
本発明の他の実施形態によれば、前記カーバイド・クリスタライトは、弱いカーバイド形成金属または非カーバイド形成金属の固溶体を含有している。“弱い”と言う表現は、金属がカーバイドを形成する傾向が低いと言うことを意味している。
【0021】
そのような金属を、カーバイド・クリスタライトに添加することは、カーバイド・フェーズのカーボン含有量の低下を生じさせ、それによって、マトリクス・フェーズの中のカーボンの量の増加を生じさせる。それは、この金属が、前記少なくとも一つの金属カーバイドの金属と結合し、それにより、その金属は、そうでない場合と同じだけのカーボンと結合することができないで、カーボンをマトリクス・フェーズの中に排除し、その中のカーボンの量を増加させることになる、と言うことのためである。これは、コンタクトのアプリケーションに対して重要であることがある機械的及び電気的性質に影響を与える。
【0022】
前記弱いまたは非カーバイド形成金属は、周期律表の7族から12族までの遷移金属、またはAl、またはそれらの組み合わせである。特に、Alは、チタンと結合するために、使用されても良い。
【0023】
本発明の他の実施形態によれば、アモルファス・カーボンの前記マトリクスは、アモルファス・カーボンの前記マトリクスのカーボン原子の間での、sp2/sp3結合の高い比を有していて、前記比は、0.6より高い。アモルファス・カーボン・マトリクスのいわゆるハイブリダイゼイション(hybridisation)は、高いそのような比が、マトリクスを、ダイアモンド状ではなく、よりグラファイト状にすることによって特徴付けられ、そのことは、上記関係が逆である場合と比べて、より高い電気的伝導性をもたらす。マトリクスは、同時に、より軟らかくなり、それは、互いに対して押し付けられたときに、接触部材の表面に対する接触レイヤの表面の適合性を改善する。
【0024】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルムの厚さは、0.05〜10μmの範囲内であり、この値は、多くのアプリケーションに対して適切である。
【0025】
本発明の他の実施形態によれば、前記フィルムは、気相成長法を使用して、前記ボディの上に堆積される。その気相成長法は、物理的気相成長法(PVD)または化学的気相成長法(CVD)であっても良い。前記フィルムは、ソル・ゲルのような、溶体化方法を使用して、前記ボディの上に形成されても良い。
【0026】
本発明の他の目的は、導入部の中に規定されたタイプの電気的な摺動接触装置を提供することにあり、この装置は、二つの接触表面の互いに対する移動を可能にすると同時に、上述の不都合を大幅に減少させる。
【0027】
この目的は、本発明に基づき、そのような装置に、本発明に基づく接触要素を設けることにより実現される。この接触要素は、接触部材に対して、0.3未満、好ましくは0.2未満の低い摩擦係数を備えた乾式コンタクトを形成するように構成されている。
【0028】
そのような接触装置の基本的な特徴及び利点は、本発明に基づく接触要素の性質に関係しており、そのような接触要素についての上記の議論から明らかである。しかしながら、“電気的な摺動接触”とは、二つの部材の間の電気的な接触全てのタイプの配置を含んでおり、それら二つの部材は、コンタクトが確立されおよび/または妨げられるとき、および/または接触動作が維持されるときに、互いに対して移動されても良いことを指摘しておく。
【0029】
従って、この摺動接触は、駆動部材の動作によって互いに対して摺動する接触のみではなく、互いに対して押し付けられ且つ接触状態で互いに対して移動する二つの接触要素を有するいわゆる固定コンタクトをも含んでいる。なお、上記の移動は、磁気的緊縛(magneto-striction)、熱サイクル、異なる熱膨張係数を備えた接触要素の材料、または、時間により変化する接触要素の異なる部分の間の温度の相違、などの結果としてもたらされる。
【0030】
本発明の実施形態によれば、接触要素及び接触部材は、前記接触を行うために互いに対して押し付けられるように構成されていて、そして、この装置は、前記電気的な接触を作るために、接触要素及び接触部材に、互いに対する力をバネにより与えるえるための手段を有していても良い。
【0031】
更なる利点、並びに、本発明の好ましい特徴は、以下の記述及び他の従属請求項から明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下において、添付図面を参照しながら、例として挙げた本発明の実施形態について説明する。
【0033】
接触要素1は、前記接触要素と前記接触部材の間に電流が流れることを可能にするために、接触部材2に対する電気的な接触を形成するものであって、図1の中に、非常に概略的に示されている。この接触要素は、ボディ3を有していて、このボディは、例えばアルミニウムまたは銅で作られていても良く、このボディの接触表面の少なくとも一つは、前記接触部材に対して接触する接触レイヤ4で被覆されている。この接触レイヤ4は、典型的に0.05〜10μmの厚さを有している。従って、図1の中に示されている厚さは、例示の目的のために、接触要素及び接触部材の他の寸法に対して誇張されて描かれている。
【0034】
接触レイヤ4は、ナノ・コンポジット(nano-composite)・フィルムを有し、このナノ・コンポジット・フィルムは、アモルファス・カーボンのマトリクス、及びその中に埋め込まれた、少なくとも一つの金属カーバイドの、ナノ・サイズの(即ち1〜100nmの範囲内の寸法を備えた)クリスタライトを有している。これは、接触レイヤに、先に述べた優れた性質を与える。金属は、好ましくは遷移金属である。
【0035】
アモルファス・カーボン・マトリクスのハイブリダイゼイション(hybridization)、即ち、如何にしてカーボンがマトリクスの中でそれ自身と結合されるかは、好ましくは、高いsp2/sp3比により特徴付けられ、このsp2/sp3比が、マトリクスを、ダイアモンド状ではなく、よりグラファイト状にする。
【0036】
第三のコンポーネントが、その性質を変えるために、ナノ・コンポジットに添加されても良い。これは、マトリクスの中に埋め込まれる他の金属カーバイドを形成することにより、金属カーバイドの性質を改善するための他の金属であることが可能であり、または、マトリクスのカーボンの中に埋め込まれたフェーズの中に配置され且つマトリクスのカーボンに対して分離されることにより、このコンポジットの性質を変える他の金属であることも可能である。
【0037】
接触要素のアプリケーションに応じて、全体の接触構造の性質が、下記の方法により、最適化されることが可能である:
1) 上述の結果をもたらすアモルファス・カーボン・マトリクス/金属カーバイド比を変化させる;
2) 接触レイヤのバルク抵抗を変えるために、金属カーバイド・クリスタライトのグレイン・サイズを変化させる、上記のバルク抵抗は、多くの場合、グレイン・サイズが増大したときに減少する;
3) 上述の結果をもたらすアモルファス・カーボン・マトリクスのsp2/sp3比を変化させる;
4) 上述の結果をもたらすAgのような第二のカーバイド形成または非カーバイド形成金属を添加する。
【0038】
下記の利点を有する接触レイヤが、このようにして、得られることが可能である:
a) 接触荷重(力)の広い領域に渡る低い接触抵抗
b) 磨耗に対する高い抵抗
c) 低い摩擦
d) 高い耐腐食性
e) 優れた高温性能
f) 上述のように調整することによる、様々な性質への大きな潜在的可能性。
【0039】
利点 a) は、図2の中に示されており、その中に、接触抵抗対コンタクト・フォースの関係が、Ni−被覆ワッシャにより代表される従来のコンタクト(Aにより)、及び、ナノ結晶のNbCがその中に埋め込まれたアモルファス・カーボン・マトリクスのナノ・コンポジット・フィルム(Bにより)に対して、示されている。双方のコーティングは、Agに対して測定されている。本発明に基づく接触レイヤが、接触荷重の広い領域に渡って、従来のコンタクトと比べて顕著に減少された接触抵抗を有していることが、明確に示されている。接触抵抗は、既に低い荷重においても、遥かに低いことが、特に興味深い。
【0040】
例として、次のことが指摘されても良い。即ち、本発明に基づく接触要素において可能性のあるナノ・コンポジット・フィルムは、ナノ・コンポジットのTi−C薄膜であっても良く、その組成は14から57原子%Tiの間であり、且つその厚さは約0.2μmである。これらのフィルムは、アモルファス・カーボン−フェーズの中に埋め込まれたTiC−クリスタライトを有している。これらの二つのフェーズの間の関係は、45から95原子%のアモルファスC−C−フェーズの間で変化する。特定の実施形態において、ナノ・コンポジット・フィルムは、0.2μmの厚さ、及び53原子%Ti、47原子%Cの全体の組成を有している。このフィルムは、アモルファス・カーボン・マトリクス(そこではカーボンの約56原子%が結合されている)及びTiC−クリスタライト(そこではカーボンの約44%が結合されている)を有している。クリスタライトの直径は、平均で13nmである。
【0041】
図3に、接触装置の例を示す。この装置において、非常に低い摩擦を備えた自己潤滑性の乾式コンタクトを形成するために、接触表面の少なくとも一つを、本発明に基づく接触レイヤで被覆することが好ましい。この実施形態は、螺旋状の接触装置に係り、この接触装置は、バネで力が加えられる環状のボディ(螺旋状に巻かれたワイヤのリングのような)の形態の接触要素5を有していて、第一の接触部材6(インナー・スリーブまたはピンのような)、及び第二の接触部材7(アウター・スリーブまたはチューブのような)に対して電気的な接触を確立し且つ維持するように構成されている。
【0042】
接触要素5は、接触状態において圧縮され、それによって、その少なくとも接触表面8が、第一の接触部材6の接触表面9に対して、バネにより力が加えられて押し付けられ、且つ、第一の接触要素5の少なくとも他の接触表面10が、第二の接触部材7の少なくとも接触表面11に対して、バネにより力が加えられて押し付けられることになる。
【0043】
この本発明の実施形態によれば、接触表面8〜11の少なくとも一つが、全体的にまたは部分的に、本発明に基づくナノ・コンポジット・フィルムを有する接触レイヤで被覆される。そのような螺旋状の接触装置は、例えば、スイッチ・ギアの中の電気的なブレーカの中で使用される。
【0044】
図4は、どのように、本発明に基づく電気的な接触装置が、断路器12の中に配置されることがあるかについて、非常に概略的に示している、この断路器は、ナノ・コンポジット・フィルムの形態の低摩擦フィルム13を備えていて、このフィルムは、アモルファス・カーボンのマトリクス、及び、金属カーバイドのナノ・サイズのクリスタライトを有し。このクリスタライトは、二つの接触要素の間で電気的な接触を確立するため、且つそれらの接触要素の目視可能な切り離しを実現するために、互いに対して移動可能な二つの接触要素14,15の接触表面の少なくとも一つの上で、アモルファス・カーボンのマトリクスの中に埋め込まれている。
【0045】
図5は、本発明の他の実施形態に基づく電気的な摺動接触装置を概略的に示す。この装置において、接触要素16は、変圧器のタップ・チェンジャー17の可動部分であって、変圧器の二次巻線に対するコンタクト18に沿って、電気的な接触状態で摺動するように構成されていて、従って、前記変圧器から要求される水準の電圧を接続するための接触部材を形成する。低摩擦フィルム19は、金属カーバイドのナノ−クリスタライトを備えたアモルファス・カーボン・マトリクスを有していて、接触要素16の接触表面の上および/または接触部材18の上に配置されている。接触要素16は、このように、低抵抗コンタクトを維持しながら、巻線に沿って容易に移動されても良い。
【0046】
最後に、図6は、リレー20の中で使用される本発明の他の実施形態に基づく接触装置を非常に概略的に示している。反対側の接触要素21,22の接触表面の一方または双方に、本発明に基づく低摩擦フィルム23が設けられても良く、そのことは、接触表面のより少ない磨耗をもたらし、前記接触レイヤ材料の特徴のために、それらを耐腐食性にする。
【0047】
半導体コンポーネント24に対して良い電気的な接触を作るための装置が、図7の中に示されている。しかし、異なる部材がスタックの中に配置され、高い圧力で互いに押し付けられている。その圧力は、好ましくは1MPaよりも大きく、典型的には6〜8MPaである。この装置は、図を明瞭にするため間隔を開けて示されている。スタックの各半分は、半導体コンポーネントに対して接続を作るために、Cuプレートの形態のプール・ピース25を有している。各プール・ピースには、薄いナノコンポジット・フィルム26が設けられている。半導体コンポーネントの半導体材料(例えば、Si,SiCまたはダイアモンド)の熱膨張率と、Cuの熱膨張率は、大きく異なっている(Siの熱膨張率は2.2x10/K、Cuの熱膨張率は16x10−6/K)。このことは、その温度が変化した時、Cuプレート25及び半導体コンポーネント24が互いに対して横方向に移動することを意味している。
【0048】
本発明に基づくフィルムの低摩擦は、半導体コンポーネントの中でのクラックおよび/または前記コンポーネントの接触表面の磨耗を避けるため、熱サイクルの際の相互の移動の傾向に対処するために、プール・ピースと半導体コンポーネントの間の前記スタックの中に、更なる部材を挿入することを省略することを可能にする。
【0049】
本発明に基づく接触要素及び電気的な摺動接触装置には、多くの他の好ましいアプリケーションがあり得る。そのようなアプリケーションは、添付された請求項の中に規定された本発明の基本的アイデアから離れることなく、当業者にとって明らかである。
【0050】
また、ここで指摘しておくが、異なるアプリケーションにおける接触レイヤに課される異なる要求に適合するために、以上において挙げたもの以外の他の遷移金属が、前記金属カーバイドのナノ・サイズのクリスタライトを形成するために適していることもあり得る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、本発明の実施形態に基づく電気的な接触要素を非常に概略的に示す。
【図2】図2は、従来のコンタクト及び本発明に基づくコンタクトに対する、接触抵抗対コンタクト・フォースの関係を示す。
【図3】図3は、本発明の他の実施形態に基づく、螺旋状のコンタクト・タイプの電気的な接触要素の断面図である。
【図4】図4は、断路器の中における、本発明に基づく接触装置を非常に概略的に示す。
【図5】図5は、本発明の実施形態に基づく、変圧器のタップ・チェンジャーの中における、摺動接触装置を非常に概略的に示す。
【図6】図6は、リレーの中における、本発明に基づく接触装置を非常に概略的に示す。
【図7】図7は、本発明の他の実施形態に基づく、半導チップに対して電気的な接触をするための装置の、部分的な断面図兼分解組立図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接触要素と接触部材(2,6,7,18)の間で、電流が流れることを可能にするために、接触部材に対して電気的な接触をするための接触要素であって、
前記接触要素(1,5,14,15,16,25)は、ボディ(3)を有し、このボディの少なくとも一つの接触表面が、前記接触部材に対して接触するための接触レイヤで被覆されている、接触要素において、
前記接触レイヤ(4)は、ナノ・コンポジット・フィルムを有し、このフィルムは、アモルファス・カーボンのマトリクスを有し、ナノ・サイズの、即ち1〜100nmの範囲内の寸法を備えた少なくとも一つの金属カーバイドのクリスタライトが、その中に埋め込まれていること、
を特徴とする接触要素。
【請求項2】
下記特徴を有する請求項1に記載の接触部材:
前記金属は、遷移金属、即ち周期律表の3族から12族の元素である。
【請求項3】
下記特徴を有する請求項2に記載の要素:
前記金属は、ニオブまたはチタンである。
【請求項4】
下記特徴を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の接触要素:
前記フィルムは、一つの金属のみを有している。
【請求項5】
下記特徴を有する請求項1から3のいずれか1項に記載の接触要素:
前記フィルムは、少なくとも一つの更なる第二の金属のカーバイドのナノ・サイズのクリスタライトを有している。
【請求項6】
下記特徴を有する請求項5に記載の接触要素:
前記第二の金属は、遷移金属である。
【請求項7】
下記特徴を有する請求項1から6のいずれか1項に記載の接触要素:
前記クリスタライトは、5〜50nmの範囲内の直径相当の寸法を有している。
【請求項8】
下記特徴を有する請求項1,2,3,5,6及び7のいずれか1項に記載の接触要素:
前記マトリクスは、更なる第三の金属を更に有し、
この第三の金属は、前記マトリクスのカーボンの中に埋め込まれたフェーズの中に配置され、前記マトリクスのカーボンに対して分離されている。
【請求項9】
下記特徴を有する請求項8に記載の接触要素:
前記更なる第三の金属は、遷移金属である。
【請求項10】
下記特徴を有する請求項9に記載の接触要素:
前記更なる第三の金属は、Agである。
【請求項11】
下記特徴を有する請求項1〜3,5〜10のいずれか1項に記載の接触要素:
前記カーバイド・クリスタライトは、弱いまたは非カーバイド形成金属の固溶体を含有している。
【請求項12】
下記特徴を有する請求項11に記載の接触要素:
前記弱いまたは非カーバイド形成金属は、周期律表の7族から12族までの遷移金属、またはAl、またはそれらの組み合わせである。
【請求項13】
下記特徴を有する請求項1から12のいずれか1項に記載の接触要素:
アモルファス・カーボンの前記マトリクスは、アモルファス・カーボンの前記マトリクスのカーボン原子の間で、sp2/sp3−結合の高い比を有していて、前記比は、0.6より高い。
【請求項14】
下記特徴を有する請求項1から13のいずれか1項に記載の接触要素:
前記フィルムの厚さは、0.05〜10μmの範囲内である。
【請求項15】
下記特徴を有する請求項1から14のいずれか1項に記載の接触要素:
前記フィルムは、気相成長法を使用して前記ボディの上に堆積される。
【請求項16】
下記特徴を有する請求項15に記載の接触要素:
前記フィルムは、物理的気相成長法(PVD)または化学的気相成長法(CVD)により前記ボディの上に堆積される。
【請求項17】
下記特徴を有する請求項1から14のいずれか1項に記載の接触要素:
前記フィルムは、ソル・ゲルのような溶体化方法により前記ボディの上に形成される。
【請求項18】
電気的な摺動接触装置、即ち、接触動作を行うとき、および/または妨げるとき、および/または維持するときに、電気的な接触を行うために互いに対して接触するように構成された二つの接触表面が、互いに対して摺動することができる接触装置において、
当該装置が、請求項1から17のいずれか1項に記載された接触要素(1,5,14,15,16,25)を有し、前記フィルムが、接触部材に対して、0.3未満、好ましくは0.2未満の低い摩擦係数を備えた乾式コンタクトを形成するように構成されていること、を特徴とする摺動接触装置。
【請求項19】
下記特徴を有する請求項18に記載の摺動接触装置:
前記接触部材(2)もまた、前記ナノ・コンポジット・フィルムを有する前記接触レイヤで被覆された接触表面を有している。
【請求項20】
下記特徴を有する請求項18または19に記載の摺動接触装置:
前記電気的な接触を行うために互いに対して接触するように構成された、前記接触要素(1)及び前記接触部材(2)の表面は、前記接触要素及び前記接触部材の温度変化の際に、前記接触要素と前記接触部材の表面部分の材料の異なる熱膨張係数のために、互いに対して移動することが可能である。
【請求項21】
下記特徴を有する請求項20に記載の摺動接触装置:
前記接触要素(1)及び接触部材(2)は、前記コンタクトを行うために、互いに対して押し付けられるように構成されている。
【請求項22】
下記特徴を有する請求項18から21のいずれか1項に記載の摺動接触装置:
当該装置は、前記電気的な接触を作るために、前記接触要素(5)と前記接触部材(6)に、互いに対して押し付ける力をバネにより与えるための手段(7)を有している。
【請求項23】
下記特徴を有する請求項18から20のいずれか1項に記載の摺動接触装置:
当該装置は、前記変圧器の異なる巻線に対して接触するために、変圧器のためのタップ・チェンジャー(17)の中で電気的な接触を確立するように構成されている。
【請求項24】
下記特徴を有する請求項18から21のいずれか1項に記載の摺動接触装置:
前記接触要素及び前記接触部材は、機械的な断路器の二つの部分(25,26)に属していて、それらは、その二つの端子を切り離すために、互いに対して移動して離れることが可能である。
【請求項25】
下記特徴を有する請求項18から21のいずれか1項に記載の摺動接触装置:
前記接触要素及び前記接触部材は、リレーが動作するときに電気的な接触を行うために、リレー(20)の中で互いに対して移動可能な部分(21,22)に属している。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2009−501420(P2009−501420A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521352(P2008−521352)
【出願日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際出願番号】PCT/SE2006/000769
【国際公開番号】WO2007/011276
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(594075499)アーベーベー・リサーチ・リミテッド (89)
【氏名又は名称原語表記】ABB RESEARCH LTD.
【出願人】(508014224)インパクト・コーティングス・エービー (2)
【Fターム(参考)】