説明

描画装置、光学ユニット及び描画方法

【課題】空間光変調器の長寿命化を図るとともに、空間光変調器で空間変調された光が空気のゆらぎによる影響を受けることを抑える技術を提供する。
【解決手段】描画装置100は、光学ユニット40を備えている。光学ユニット40は、主にレーザ発振器41、照明光学系43、三角プリズム47、投影光学系46、および空間光変調ユニット44を備えている。レーザ発振器41からの光が三角プリズム47に入射し、光学面473で三角プリズム47の内部に向けて全反射される。このとき、光学面473の外側で生成されたエバネッセント光を空間光変調器441が空間変調して、光学面473で反射される光の空間変調が行われる。空間変調された光は、大気圧よりも低い圧力環境に調節されたチャンバ50に導入され、光は投影光学系46を通って基板W表面に照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板、太陽電池用パネルなどの各種基板(以下、単に「基板」と称する)に代表される描画対象物に対して光を照射することで、パターンを描画対象物の表面に直接描画する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に塗布された感光材料に回路などのパターンを形成するにあたって、光源とフォトマスクを用いて当該感光材料を面状に露光する露光装置が周知である。これに対して、近年では、フォトマスクを用いず、CADデータ等で変調した光ビームによって基板上の感光材料を走査することにより、当該感光材料に直接パターンを描画する描画装置(直接描画装置)が注目されている。直接描画装置は、感光材料への光ビームを画素単位でオン/オフ変調するための空間光変調器を備える。反射型の空間光変調器では、光源から供給される光ビームを反射して基板上に与えるオン状態と、光ビームを基板の外部に向けて反射あるいは拡散させるオフ状態とを、描画パターンを表現した制御信号によって画素単位で切り換える。
【0003】
ところで、このような空間光変調器が光源からの光に照射され続けると、空間光変調器の被照射面が劣化して、所望の状態に光を空間変調させることができなくなる。被照射面が劣化した空間光変調器は交換しなければならないため、空間光変調器が劣化するまでの使用時間を長くして、交換の頻度をより少なくし、交換作業の手間を軽減することが望まれる。
【0004】
例えば、特許文献1には、散乱フォイルを1次元に配列した、空間光変調器と同様の構成を有する光スイッチが開示されている。散乱フォイルの近傍にはガラス板が設けられており、電圧が印加されない状態では、散乱フォイルはガラス板に接している。一方、電圧が散乱フォイルに印加されると、散乱フォイルはガラス板から一定の距離をおいて離れ、ガラス板の内部を進行する光はガラス板の表面で全反射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−530987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術を描画装置に適用した場合、電圧が印加された状態の空間光変調器は上記ガラス板のような光学部材に接触しないため、光源からの光が空間光変調器に入射することはない。しかしながら、電圧が印加されていない状態の空間光変調器は上記光学部材に接しており、光源からの光を受け続けることとなる。
【0007】
また、空間光変調器によって空間変調された光は投影光学系を介して基板の表面に照射される。このとき、投影光学系の内部を進行する光は空気のゆらぎによる影響を受けて、基板上の結像位置がずれるおそれがある。結像位置を補正しようにも、サイズを小さくする要請がある投影光学系に補正制御系を搭載することは難しい。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、空間光変調器の長寿命化を図るとともに、空間光変調器で空間変調された光が空気のゆらぎによる影響を受けることを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1の発明は、所定のパターンに応じて光を変調し、変調された前記光が描画対象物を走査して前記描画対象物の表面に前記パターンを形成する描画装置であって、光源と、光学的な透明体を用いて構成され、前記光源によって生成された光を前記透明体の所定の入射面から前記透明体の内部に取り込んだ後、全反射臨界角よりも大きな角度で前記光を前記透明体の内側から前記透明体の所定の反射面に与え、当該反射面で反射した前記光を前記透明体の所定の出射面から出射させる光学部材と、前記透明体の外部において光変調素子を複数配列させた変調面が前記光の波長と同程度の離間距離をおいて前記反射面に対向しており、前記光変調素子に与える変調信号に応じて前記出射面から出射する前記光を空間変調する光変調ユニットと、大気圧よりも低い圧力に調節可能な圧力チャンバの内部空間に少なくともその一部が収容され、前記透明体の前記出射面から出射した前記光を前記内部空間を通して前記描画対象物の表面へと導く光学系と、前記光学系から出射された光と前記描画対象物とを相対的に移動させることにより、前記光学系から出射された光で前記描画対象物表面を走査させる走査駆動手段と、を備え、前記透明体の前記出射面が、前記圧力チャンバにおける前記内部空間の光入射口に配置されている。
【0010】
第2の発明は、第1の発明に係る描画装置であって、前記光変調素子が前記圧力チャンバの外部に設けられている。
【0011】
第3の発明は、第2の発明に係る描画装置であって、前記透明体が前記圧力チャンバの前記光入射口に固定されたプリズムである。
【0012】
第4の発明は、第1ないし第3の発明のいずれかに係る描画装置であって、前記光変調素子が有する前記変調面は、前記光源からの光を反射する反射面である。
【0013】
第5の発明は、第4の発明に係る描画装置であって、前記光変調ユニットは、変位可能な第1反射面を有する可動単位素子と、位置が固定された第2反射面を有する固定単位素子とが交互に複数配列して構成された回折格子型の空間光変調器を有している。
【0014】
第6の発明は、所定のパターンに応じて光を変調し、変調された前記光を描画対象物上に照射する光学ユニットであって、光学的な透明体を用いて構成され、光源によって生成された光を前記透明体の所定の入射面から前記透明体の内部に取り込んだ後、全反射臨界角よりも大きな角度で前記光を前記透明体の内側から前記透明体の所定の反射面に与え、当該反射面で反射した前記光を前記透明体の所定の出射面から出射させる光学部材と、前記透明体の外部において光変調素子を複数配列させた変調面が前記光の波長と同程度の離間距離をおいて前記反射面に対向しており、前記光変調素子に与える変調信号に応じて前記出射面から出射する前記光を空間変調する光変調ユニットと、大気圧よりも低い圧力に調節可能な圧力チャンバの内部空間に少なくともその一部が収容され、前記透明体の前記出射面から出射した前記光を前記内部空間を通して前記描画対象物の表面へと導く光学系と、を備え、前記透明体の前記出射面が、前記圧力チャンバにおける前記内部空間の光入射口に配置されている。
【0015】
第7の発明は、第6の発明に係る光学ユニットであって、前記光変調ユニットは、変位可能な第1反射面を有する可動単位素子と、位置が固定された第2反射面を有する固定単位素子とが交互に複数配列して構成された回折格子型の空間光変調器を有している。
【0016】
第8の発明は、光を照射して描画対象物表面にパターンを描画する描画方法であって、光源によって生成された光を光学的な透明体の所定の入射面から前記透明体の内部に取り込んだ後、全反射臨界角よりも大きな角度で前記光を前記透明体の内側から前記透明体の所定の反射面に与え、当該反射面で反射した前記光を前記透明体の所定の出射面から出射させる光反射工程と、前記透明体の外部において光変調素子を複数配列させた変調面が前記光の波長と同程度の離間距離をおいて前記反射面に対向した光変調ユニットを使用し、前記光変調素子に与える変調信号に応じて前記出射面から出射する前記光を空間変調する光変調工程と、内部の圧力を大気圧よりも低い圧力に調節可能な圧力チャンバの内部空間に少なくともその一部が収容された光学系を使用し、前記透明体の前記出射面から出射した前記光を前記内部空間を通して前記描画対象物の表面に導く導光工程と、前記光学系から出射された光と前記描画対象物とを相対的に移動させることにより、前記光学系から出射された光で前記描画対象物表面を走査させる走査駆動工程と、を備え、前記圧力チャンバにおける前記内部空間の光入射口に前記透明体の前記出射面が配置された状態で、前記透明体の前記出射面からの前記光を前記内部空間に進行させる。
【発明の効果】
【0017】
第1ないし第8の発明によれば、光変調ユニットは、光変調素子が有する変調面が透明体の反射面と光の波長程度の離間距離をおいて設置されている。従って、この光変調素子は、透明体の反射面から透明体の外部に染み出るエバネッセント光を変調することが可能である。このエバネッセント光を空間変調すると、透明体の反射面で反射される光も空間変調される。エバネッセント光は透明体内部を通る光よりも強度が弱いため、光変調素子が受ける照射エネルギーは削減され、光変調素子の長寿命化を図ることができる。
【0018】
また、空間変調された光は、大気圧よりも低い圧力に調節可能な圧力チャンバ内にその一部が収容された光学系を使用しつつ、当該圧力チャンバの内部空間を通して描画対象物の表面へと導かれる。圧力チャンバ内の圧力を大気圧よりも低くしておくことによって、光学系を進行する光が空気によるゆらぎの影響を受けることが抑えられるため、描画対象物表面での結像位置がずれることを抑えられる。
【0019】
一方、空気とは異なって、上記の光学的な透明体の内部では、ゆらぎという問題は生じない。従って、上記透明体からの光の出射面を圧力チャンバの光入射口に配置することによって、空間変調された光は、圧力チャンバから出射するまでの区間において大気圧状態の空気環境(つまり大きなゆらぎを生じさせる媒質内)を通ることはない。このように、エバネッセント光の空間変調のために変調素子に対向して設けた透明体が、圧力チャンバによる低圧環境と組み合わされることにより、結像位置のずれ防止のための要素としても機能する。
【0020】
特に、第2の発明によれば、光変調素子が圧力チャンバの外部に設けられているため、光のノイズ成分が圧力チャンバ内に入射することを抑えることができる。
【0021】
特に、第3の発明によれば、透明体がプリズムであって、圧力チャンバの光入射面に固定されているため、圧力チャンバの剛性を高めることができる。
【0022】
特に、第5および第7の発明によれば、光変調ユニットは、可動単位素子と固定単位素子とが交互に配列して構成された回折格子型の空間光変調器を有しており、可動単位素子と固定単位素子との上下間隔を制御することができる。従って、光学部材の反射面で反射される光の反射率を自在に調節することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る描画装置100の正面図である。
【図2】描画装置100の平面図である。
【図3】ヘッド部45の各構成例を示す図である。
【図4】空間光変調器441の構成例を模式的に示す図である。
【図5】電圧がオフされている状態の空間光変調素子4411を示す図である。
【図6】電圧がオンされている状態の空間光変調素子4411を示す図である。
【図7】描画装置100で実行される一連の処理の流れを示す図である。
【図8】光の反射率と離間距離との関係を示す図である。
【図9】描画処理時における電圧がオフされている状態の空間光変調器441と三角プリズム47の位置関係を示す図である。
【図10】描画処理時における電圧がオフされている状態の空間光変調器441の断面図である。
【図11】描画処理時における電圧がオンされている状態の空間光変調器441と三角プリズム47の位置関係を示す図である。
【図12】描画処理時における電圧がオンされている状態の空間光変調器441の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0025】
<1.本発明の実施形態>
<1−1.描画装置100の構成>
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る描画装置100の構成を示した正面図及び平面図である。描画装置100は、レジスト等の感光材料の層が形成された基板Wの上面に光を照射して、パターンを描画する装置(いわゆる直接描画装置)である。なお、基板Wは、半導体基板、プリント基板、カラーフィルタ用基板、液晶表示装置やプラズマ表示装置に具備されるフラットパネルディスプレイ用ガラス基板、光ディスク用基板などの各種基板のいずれでもよい。図示例では円形の半導体基板のための描画装置となっている。
【0026】
描画装置100は、本体フレーム101で構成される骨格の天井面および周囲面にカバーパネル(図示省略)が取り付けられることによって形成される本体内部と本体フレーム101の外側である本体外部とに各種の構成要素を配置した構成となっている。
【0027】
描画装置100の本体内部は、処理領域102と受け渡し領域103とに区分されている。処理領域102には、主として、ステージ10、ステージ移動機構20、ステージ位置計測部30、光学ユニット40、およびアライメントユニット60が配置される。各構成要素については、後に詳述している。一方、受け渡し領域103には、処理領域102に対する基板Wの搬出入を行う搬送装置70が配置される。
【0028】
また、描画装置100の本体外部には、アライメントユニット60に照明光を供給する照明ユニット61が配置される。また、本体外部には、描画装置100が備える各部と電気的に接続されて、これら各部の動作を制御する制御部90が配置される。
【0029】
なお、描画装置100の本体外部で、受け渡し領域103に隣接する位置には、カセットCを載置するためのカセット載置部104が配置される。受け渡し領域103に配置された搬送装置70は、カセット載置部104に載置されたカセットCに収容された未処理の基板Wを取り出して処理領域102に搬入するとともに、処理領域102から処理済みの基板Wを搬出してカセットCに収容する。カセット載置部104に対するカセットCの受け渡しは、図示しない外部搬送装置によって行われる。
【0030】
以下において、描画装置100を構成する各部の構成について説明する。
【0031】
<ステージ10>
ステージ10は、平板状の外形を有し、その上面に基板Wを水平姿勢に載置して保持する保持部である。ステージ10の上面には、複数の吸引孔(図示省略)が形成されており、この吸引孔に負圧(吸引圧)を形成することによって、ステージ10上に載置された基板Wをステージ10の上面に固定保持することができるようになっている。
【0032】
<ステージ移動機構20>
ステージ移動機構20は、ステージ10を主走査方向(Y軸方向)、副走査方向(X軸方向)、及び回転方向(Z軸周りの回転方向(θ軸方向))に移動させる機構である。ステージ移動機構20は、ステージ10を回転させる回転機構21と、ステージ10を回転可能に支持する支持プレート22を支持するベースプレート24と、ベースプレート24を主走査方向に移動させる主走査機構25とを備える。回転機構21、副走査機構23、及び主走査機構25は、制御部90に電気的に接続されており、制御部90からの指示に応じてステージ10を移動させる。
【0033】
回転機構21は、支持プレート22上で、基板Wの上面に垂直な回転軸を中心としてステージ10を回転させる。
【0034】
副走査機構23は、支持プレート22の下面に取り付けられた図示しない移動子とベースプレート24の上面に敷設された図示しない固定子とにより構成されたリニアモータ23aを有している。また、支持プレート22とベースプレート24との間には、副走査方向に延びる一対のガイド部23bが設けられている。このため、リニアモータ23aを動作させると、ベースプレート24上のガイド部23bに沿って支持プレート22が副走査方向に移動する。
【0035】
主走査機構25は、ベースプレート24の下面に取り付けられた移動子と描画装置100の基台106上に敷設された固定子とにより構成されたリニアモータ25aを有している。また、ベースプレート24と基台106との間には、主走査方向に延びる一対のガイド部25bが設けられている。このため、リニアモータ25aを動作させると、基台106上のガイド部25bに沿ってベースプレート24が主走査方向に移動する。
【0036】
<ステージ位置計測部30>
ステージ位置計測部30は、ステージ10の位置を計測する機構である。ステージ位置計測部30は、制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの指示に応じてステージ10の位置を計測する。ステージ位置計測部30は、例えば、ステージ10に向けてレーザ光を照射し、その反射光と出射光との干渉を利用して、ステージ10の位置を計測する機構により構成することができる。
【0037】
<アライメントユニット60>
アライメントユニット60は、基板Wの上面に形成された図示しないアライメントマークを撮像する。アライメントユニット60は、照明ユニット61のほか、鏡筒、対物レンズ、およびCCDイメージセンサ(いずれも図示省略)を備える。アライメントユニット60が備えるCCDイメージセンサは、例えばエリアイメージセンサ(二次元イメージセンサ)により構成される。
【0038】
照明ユニット61は、鏡筒とファイバ601を介して接続され、アライメントユニット60に対して照明用の光を供給する。照明ユニット61から延びるファイバ601によって導かれる光は、鏡筒を介して基板Wの上面に導かれ、その反射光は、対物レンズを介してCCDイメージセンサで受光される。これによって、基板Wの上面の撮像データが取得されることになる。CCDイメージセンサは、制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの指示に応じて撮像データを取得し、取得した撮像データを制御部90に送信する。なお、アライメントユニット60はオートフォーカス可能なオートフォーカスユニットをさらに備えていてもよい。
【0039】
<制御部90>
制御部90は、各種の演算処理を実行しつつ、描画装置100が備える各部の動作を制御する。制御部90は、例えば、各種演算処理を行うCPU、ブートプログラム等を記憶するROM、演算処理の作業領域となるRAM、プログラムや各種のデータファイルなどを記憶する記憶部(例えばハードディスク)、各種表示を行うディスプレイ、キーボード及びマウスなどで構成される入力部、LAN等を介したデータ通信機能を有するデータ通信部、等を備えるコンピュータにより構成される。コンピュータにインストールされたプログラムに従って、コンピュータが動作することにより、当該コンピュータが描画装置100の制御部90として機能する。制御部90で実現される各機能部は、コンピュータによってプログラムが実行されることにより実現されてもよいし、専用のハードウェアによって実現されてもよい。
【0040】
制御部90が備える記憶部には、基板Wに描画すべきパターンを記述したデータ(パターンデータ)が格納される。パターンデータは、例えば、CADを用いて生成されたCADデータであり、回路パターンなどを表現している。制御部90は、基板Wに対する一連の処理に先立ってパターンデータを取得して記憶部に格納している。なお、パターンデータの取得は、例えばネットワーク等を介して接続された外部端末装置から受信することにより行われてもよいし、記録媒体から読み取ることにより行われてもよい。
【0041】
<光学ユニット40>
光学ユニット40は、ステージ10上に保持された基板Wの上面に光を照射して描画するための機構である。光学ユニット40は、ステージ10及びステージ移動機構20を跨ぐようにして基台106上に架設されたフレーム107に設けられる。
【0042】
光学ユニット40は、レーザ発振器41、レーザ駆動部42、照明光学系43、およびヘッド部45を備える。レーザ発振器41は、光源としてレーザ光を出射する機能を有しており、レーザ駆動部42によって駆動される。
【0043】
照明光学系43は、レーザ発振器41から出射された光(スポットビーム)を、強度分布が均一な線状の光(光束断面が線状の光であるラインビーム)にする。このような照明光学系43によってラインビームにされた光は、パターンデータに応じた空間変調が施されてから基板Wの主面に照射される。ヘッド部45は、フレーム107の+Y側に取り付けられた付設ボックスの内部に収容されている。ヘッド部45の構成については、後に詳細に説明する。これらの各部41,42,43は、フレーム107の天板を形成するボックス内部に配置される。また、これらの各部41,42,43は、制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの指示に応じて動作する。
【0044】
図3は、ヘッド部45の構成を模式的に示す図である。本実施形態に係るヘッド部45は、三角プリズム47で構成された光学部材、空間光変調ユニット44、および投影光学系46を主たる構成としている。ヘッド部45が備える空間光変調ユニット44、投影光学系46は、制御部90と電気的に接続されており、制御部90からの指令信号に応じて動作する。なお、図3で示される一点鎖線の矢印は、照明光学系43から出射されてヘッド部45内を進行する光を表すものとする。
【0045】
<光学部材(三角プリズム47)>
光学部材は、光学的な透明体を用いて構成される。なお、透明体とは透明な固体光学素子のことであって、典型例としてプリズムが挙げられる。また、光学部材は、上記透明体と共に、例えば透明体を保持する部材などを含めた構成であってもよい。本実施形態では、三角プリズム47が光学部材として使用される。
【0046】
三角プリズム47は、三角柱状の形状であって、例えば二酸化ケイ素などによって構成されている。三角プリズム47は外縁部を構成する面のうち、矩形の面である光学面471、光学面472、および光学面473を有している。光学面471は、照明光学系43からの光が入射する入射面であって、光の進行方向に直交している。また、光学面472は、このような光学面471に対して直角に配置された面であるとともに、光学面471から三角プリズム47内に入射した光を三角プリズム47の外部に出射する出射面である。光学面471に入射して三角プリズム47内に取り込まれた光は、三角プリズム47の内側から、光が全反射する臨界角よりも大きな角度で光学面473に照射される。光学面473で全反射された光は進行方向を下方に変えて、光学面472から三角プリズム47外部へと出射される。
【0047】
本実施形態では、三角プリズム47が備える光学面473で光を全反射させることによって、光学面473の外側の空間、つまり三角プリズム47の外部の大気空間に染み出すエバネッセント光を利用して、描画パターン形成に用いられる光の空間変調を行うものである。なお、エバネッセント光を利用した空間変調については後に詳述する。
【0048】
<投影光学系46>
投影光学系46は、三角プリズム47から出射された光を、基板Wの表面に導いて、基板Wの表面に結像させる機能を有する。投影光学系46は、例えば結像レンズ461,対物レンズ462などで構成されるが、この他にも不図示の要素として、ゴースト光を遮断する遮光板、所定方向の光を遮断する絞り板、およびその他のレンズなどの光学要素が設置されている。
【0049】
結像レンズ461は、筒状部材463の内部に収容されている。一方、対物レンズ462は筒状部材463の開口下端部に設けられた対物レンズ支持体464に取り付けられており、筒状部材463の外部に露出している。つまり、投影光学系46は、その一部の周囲を筒状部材463で覆われている。筒状部材463の下端は、対物レンズ支持体464によって塞がれており、対物レンズ支持体464と筒状部材463の下面とが真空シール467bを介して接触している。
【0050】
また、筒状部材463の開口上端部は、三角プリズム47の光学面472によって塞がれており、筒状部材463の上面と光学面472とは、真空シール467aを介して接触し、固定されている。つまり、光学面472が筒状部材463の上蓋として機能している。
【0051】
このように、筒状部材463、対物レンズ支持体464、および三角プリズム47がチャンバ50を構成しており、投影光学系46の一部である結像レンズ461がチャンバ50の内部空間に収容されている。三角プリズム47が備える光学面472は、チャンバ50の内部空間における光入射口51に配置されているため、三角プリズム47の光学面472から出射された光は、チャンバ50の内部空間に少なくとも一部が収容された投影光学系46を通って基板Wの表面に導かれる。なお、投影光学系46は完全にチャンバ50の内部空間に収容されていても構わない。その場合、筒状部材463の開口下端部は、対物レンズ462から出射される光を通過させることが可能な部材で塞がれる。
【0052】
このようなチャンバ50を構成する筒状部材463には側口468が設けられている。側口468はチャンバ50の外部に設置された、例えば真空ポンプなどで構成される圧力調節機構501とホース配管502を介して連結されている。また、筒状部材463に設けられた側口468とホース配管502とは、真空シール467cを介して接する構造となっている。つまり、チャンバ50の内部空間は真空シール467a,467b,467cによって密閉状態とされている。このため、チャンバ50内の圧力は、圧力調節機構501の駆動によって、大気圧よりも低い圧力に減圧される。なお、圧力調節機構501は、チャンバ50内を真空状態にするまで減圧することができる。
【0053】
<空間光変調ユニット44>
空間光変調ユニット44は、電気的な制御によって入射光を空間変調させる空間光変調器441を備える。一般に、光の空間変調とは、光の進行方向(光軸方向)や、光量の空間的な分布状態などを変化させることを指す。本実施形態では、空間光変調ユニット44がエバネッセント光を空間変調することで、照明光学系43から出射した線状の光(ラインビーム)も空間変調されることを利用するものである。つまり、光が照射される状態と光が照射されない状態との間で2値的な変調がパターンを構成する画素毎に行われる。
【0054】
空間光変調器441は、例えば回折格子型の空間光変調器、例えば、GLV(Grating Light Valve:グレーティングライトバルブ:シリコンライトマシーンズ社(米国カリフォルニア州サンノゼ)の登録商標)等を利用して構成される。回折格子型の空間光変調器は、格子の深さを変更可能な回折格子であり、例えば、半導体装置製造技術を用いて製造される。
【0055】
GLVを用いた空間光変調器441の構成について、図4を参照しながら模式的に説明する。より具体的には、空間光変調器441は、基板400上に、変調面を有する可動リボン401と変調面を有する固定リボン402とが、その長手方向を互いに平行して各々交互に複数配列された構成を備えている。また、各リボン401,402の短尺方向に沿う幅は、略同一とされてもよいし、コントラストや反射率を考慮して、微量に異なるものとされてもよい。なお、可動リボンは可動単位素子、固定リボンは固定単位素子にそれぞれ相当する。また、以下において、可動リボン401と固定リボン402とをまとめて「リボン401,402」と称する場合がある。
【0056】
ここで、互いに隣接する可動リボン401と固定リボン402とを「リボン対403」とすると、互いに隣接する3個以上(本実施形態では4個)のリボン対403によって形成されるリボン対集合404が、描画されるパターンの1つの画素(画素単位)に対応する。すなわち、1個のリボン対集合404が1つの画素に対応する空間光変調素子4411を構成する。
【0057】
空間光変調素子4411の構成について、図5、図6を参照しながらより詳細に説明する。各リボン401,402の表面はアルミニウム等によって構成された帯状の反射面を形成する。なお、本実施形態では反射面が変調面に相当する。固定リボン402は、スペーサ(図示省略)を介して基板400上に配設されており、基板400から一定の距離だけ離間した位置に固定されている。従って、固定リボン402の表面は、基板400の表面(以下、「基準面400f」という)と平行な姿勢で基準面400fに対して固定された固定反射面402fを形成する。
【0058】
一方、可動リボン401は、固定リボン402と同じ位置(すなわち、基準面400fから一定の距離だけ離間した位置)と、基準面400fの側に引き下げられた位置との間で移動可能とされている。従って、可動リボン401の表面は、基準面400fと平行な姿勢を維持しつつ基準面400fに対して移動可能な可動反射面401fを形成する。つまり、空間光変調器441は、複数の固定反射面402fと複数の可動反射面401fとが交互に一次元に配列された構成となっている。なお、以下において、固定反射面402fと可動反射面401fとをまとめて「反射面401f,402f」と称する場合がある。
【0059】
空間光変調素子4411の動作は、可動リボン401と基板400とに印加する電圧のオン/オフで制御される。
【0060】
電圧がオフの状態では、可動リボン401は、基準面400fとの離間距離が固定リボン402と等しい位置にあり、可動反射面401fと固定反射面402fとが面一になる。つまり、空間光変調素子4411の表面は平面となっている。一般的に、光がこのような状態の空間光変調素子4411に入射すると、その入射光L1は回折せずに正反射する。これにより、正反射光(0次光)L2が発生する。
【0061】
一方、電圧がオンの状態では、可動リボン401は、基準面400fの側に引き下げられた位置にあり、可動反射面401fが固定反射面402fよりも基準面400fの側に引き下がった状態となる。つまり、電圧がオンの状態では、空間光変調素子4411の表面には、平行な溝が周期的に並んで複数本形成される。この状態で、空間光変調素子4411に光が入射すると、可動反射面401fで反射される反射光と、固定反射面402fで反射される反射光との間に光路差が生じる。ただし、空間光変調素子4411では、以下に説明するように、この光路差が光路差d=(n+1/2)λ(ただし、λは入射光L1の波長、nは任意の整数値である)となるようにされている。従って、正反射光(0次光)は打ち消しあって消滅し、他の次数の回折光(±1次回折光、及びさらに高次の回折光)L3が発生する。
【0062】
なお、上述のように電圧がオフの時に可動リボン401と固定リボン402とが等しい位置(基準面400fから等しい距離だけ離間した位置であり、0次光が発生する位置)となる状態が形成されるとしたが、電圧と各リボン401,402の位置との関係は、必ずしもこれに限られるものではなく、任意の電圧時に、等しい位置(0次光が発生する位置)となり、また、別の電圧時に、1次回折光が発生する位置となるように構成してもよい。
【0063】
光路差dは、電圧がオンされた状態での可動反射面401fと固定反射面402fとの離間距離Df、入射光L1の波長λ、及び入射光L1の入射角αを用いて(式1)で規定される。ただし、「入射光L1の入射角α」は、入射光L1の光軸と、反射面401f,402fの法線方向とがなす角度をいう。
【0064】
d=2Df・cosα ・・・(式1)
つまり、空間光変調素子4411では、離間距離Df及び入射光L1の入射角αは、(式2)の関係を満たす値に調整されている。
【0065】
(n+1/2)λ=2Df・cosα ・・・(式2)
ただし、空間光変調素子4411に入射する入射光L1の光軸は、反射面401f,402fの法線方向に対して角度αだけ傾斜して、かつリボン401,402の配列方向(すなわち、各リボン401,402の長手方向と直交する方向)に垂直とされる。
【0066】
空間光変調器441は、空間光変調器441が備える複数の空間光変調素子4411各々に対して独立に電圧を印加可能なドライバ回路ユニット4412を備える。各空間光変調素子4411の表面状態は、ドライバ回路ユニット4412から当該空間光変調器441に印加される電圧(以下、「入力電圧」という)に応じて、0次光L2を出射する状態と1次、及び更に高次の回折光L3(±1次回折光、±2次回折光、±3次回折光・・・)を出射する状態との間で切り替えられる。
【0067】
ドライバ回路ユニット4412は制御部90と接続されており、制御部90からの指示に応じて、指示された空間光変調素子4411に対して電圧を印加する。つまり、制御部90がパターンデータに基づいてドライバ回路ユニット4412に変調信号を送信する。変調信号に基づいてドライバ回路ユニット4412が空間光変調素子4411に対して電圧を印加することで入射光L1にパターンデータに応じた空間変調を形成することができる。
【0068】
以上が、GLVが空間光変調器441である場合の一般的な光の変調方法である。本実施形態でのGLVを用いた光の変調方法については、後に詳述する。
【0069】
本実施形態では、空間光変調器441がチャンバ50の外部であって、三角プリズム47の近傍に設置されている。具体的には、空間光変調器441が備える各リボン401,402の反射面401f,402fが、離間距離をおいて三角プリズム47が備える光学面473に対向している。なお、離間距離は、三角プリズム47の光学面471から入射する光の波長程度の長さである。
【0070】
空間光変調器441は、三角プリズム47が備える三角面に直交する方向と複数のリボン401,402の配列方向とが沿う状態で設置されている。具体的には、各リボン401,402の長手方向が、三角プリズム47の外縁部を構成する三角面の斜辺の方向に沿う向きで設置されている。空間光変調器441は空間光変調器441が有する基板400の部分で周囲の保持部材と固定されている。
【0071】
照明光学系43から出射された線状の光は、光束断面の長手方向が複数のリボン401,402の配列方向に沿う向きで光学面471に入射する。従って、光学面473にて反射された後の線状の光は、光束断面の長手方向が基板Wの搬送方向と直交する状態である。なお、空間光変調器441の設置の向きについては、必ずしも上記態様に限られるものではない。例えば、各リボン401,402の配列方向が三角プリズム47の外縁部を構成する三角面の斜辺に沿うように設けられていてもよい。このとき、照明光学系43から出射される線状の光は、光束断面の長手方向が光学面472に直交する方向と一致する向きで光学面471に入射する。
【0072】
空間光変調器441が備える空間光変調素子4411の個数をN個とすると、空間光変調器441からは、副走査方向に沿うN画素分の空間変調された光、すなわち、互いに平行でかつ個別に空間変調されたN本の単位光ビームの集合が出射されることになる。光学ユニット40は、副走査方向に沿うN画素分の空間変調された光を断続的に照射し続けながら(すなわち、基板Wの表面にパルス光を繰り返して投影し続けながら)、主走査方向(Y軸方向)に沿って基板Wに対して相対的に移動する。光学ユニット40が主走査方向に沿って基板Wを1回横断すると、基板Wの表面に、副走査方向に沿ってN画素分の幅を持つ1本のパターン群(1ストライプ領域)が描画されることになる。
【0073】
<1−2.処理の流れ>
<1−2−1.全体の流れ>
描画装置100で実行される一連の処理の流れについて説明する。なお、描画装置100で処理対象となる基板Wには、図示しない複数のアライメントマークが形成されている。アライメントマークは、例えば、基板Wの前後方向の位置合わせに用いられるマーク部分(基板Wの前後方向に沿う長尺のマーク部分)と、基板Wの左右方向の位置合わせに用いられるマーク部分(基板Wの査収方向に沿う長尺のマーク部分)とが重ねられた十字状のマークである。
【0074】
図7は、描画装置100によって実行される一連の処理の流れを示す図である。
【0075】
搬送装置70が処理対象の基板Wを搬入してステージ10上に載置すると、当該基板Wに対する一連の処理が開始される(ステップ1)。
【0076】
まず、アライメントユニット60の下方に、基板Wのアライメントマークの形成位置が置かれるように基板Wを移動させる。基板Wが目標位置まで移動させられると、アライメントユニット60は、制御部90からの指示に応じて、基板Wの表面を撮像する(ステップS2)。
【0077】
続いて、ステージ10の位置調整が行われる(ステップS3)。この処理では、制御部90は、まず、ステップS2で得られた複数の撮像データに基づいて、ステージ位置計測部30及びステージ移動機構20を制御してステージ10の位置を調整する。なお、ステップS3の処理は、光学ユニット40に対する基板Wの位置が調整されるようにパターンデータを修正することで対応してもよい。すなわち、ステップS3の処理は、ステージ10の位置を調整するのではなく、パターンデータを補正処理することにより行われてもよい。
【0078】
続いて、パターンデータの補正処理が行われる(ステップS4)。この処理では、制御部90は、まずステップS2で得られた複数の撮像データからアライメントマークの位置を検出する。そして、当該検出位置の理想位置(基板Wが変形していない場合に検出されるべきアライメントマークの位置)からのズレの幅をズレ量として検出する。パターンデータに記述されるパターンを検出されたズレ量分だけずらすように修正することによって、パターンデータに記述されるパターンを、基板Wと同じように変形させる。なお、この処理は、ステップS3の処理と並行して行われてもよい。
【0079】
ステップS3及びステップS4の処理が完了すると、ステップS4で得られた修正されたパターンデータに基づいて、基板Wに対するパターンの描画処理が行われる(ステップS5)。この処理については、後にさらに具体的に説明する。
【0080】
基板Wに対するパターンの描画処理が終了すると、搬送装置70が処理済みの基板Wを搬出し、当該基板Wに対する一連の処理が終了する(ステップS6)。
【0081】
<1−2−2.描画処理>
描画装置100で実行されるパターンの描画処理について説明する。
【0082】
レーザ駆動部42の駆動によってレーザ発振器41から出射された光は、照明光学系43にて線状の光となり、三角プリズム47の光学面471に入射する。光学面471に入射し、三角プリズム47の内部に取り込まれた光は、三角プリズム47の内部を直進し、光学面473に臨界角よりも大きい角度で入射する。このため、光は光学面473にて全反射されて、三角プリズム47の内部での進行方向を下方に変えて光学面472から投影光学系46に向けて出射される。
【0083】
このような光が全反射されている光学面473から三角プリズム47の外部に向かって、エバネッセント光が生成される。具体的には、光学面473を境界面として、光が全反射される三角プリズム47の内部空間とは反対側の大気中の空間に、所定の範囲にわたって線状の光の浸透領域が形成される。以下において、このような領域をエバネッセント領域80と称する。なお、図9、図10、図11、図12では理解を容易にするため、エバネッセント領域80は梨地で示されている。また、図10、図12ではエバネッセント領域は矩形領域として示されているが、実際は矩形領域に限られるものではない。
【0084】
エバネッセント領域80は、光の波長ほどの長さにわたる厚みを有しており、光学面473からの距離が離れるほど、エバネッセント光の強度は指数関数的に減衰する。
【0085】
エバネッセント領域80内に物質が存在すると、エバネッセント光は当該物質の表面で散乱または屈折して、光学面473と当該物質との距離に応じた強度の散乱光又は屈折光に転換されることとなる。これによって、転換されたエバネッセント光に対応する光学面473の反射位置では、光の全反射が阻止されることとなり、転換された光の分だけ光学面473での反射率が減衰する。つまり、エバネッセント光が物質によって空間変調されることにより、それまで光学面473で三角プリズム47の内部に全反射していた光が、三角プリズム47の外側の大気空間に抜き出されることとなる。
【0086】
図8は、一例として、光の波長が355nmであって、エバネッセント領域が生じているときの光学的な透明体(二酸化ケイ素)の光学面と物体(酸化アルミニウム)との距離(離間距離)と、透明体の光学面での光の反射率と、の関係が示されている。なお、図8では、上側の線がS偏光成分を、下側の線がP偏光成分を表している。光学面と物体との距離が波長以上に離れている場合は、S偏光成分、P偏光成分共に、光学面での光の反射率は100%であって全反射している。一方、物体が光学面に近づいて、離間距離が小さくなるほど反射率は小さくなる。このように、エバネッセント領域内では、光学面に物体が近づくほど、当該物体に対応する光学面での光の反射率は小さくなり光量が減少する。
【0087】
図9、図10、図11、図12は、光学面473と空間光変調ユニット44との位置関係および空間光変調ユニット44の動作の様子を簡略的に表した図である。空間光変調ユニット44は、空間光変調器441のみが記載されているが、実際は周囲を保持部材によって保持されている。なお、図9、図11では理解を容易にするため、各リボン401,402は変位する部分が概略的に記載されているが、実際は、各リボン401,402の長手方向における両端に基板400との接続部が存在する。また、同様に理解を容易にするため、空間光変調器441は、三角プリズムが有する三角面の斜辺に沿って拡大され、光学面473全体を覆うようにして記載されているが、実際は、図3に示されるように三角プリズム47の光学面473の部分領域を覆うようにして、空間光変調器441は設置されている。また、図9、図11では、1点鎖線で表された矢印の方向に沿って光学面473に入射した光が、光学面473で反射され下方に進行しており、幅WLが線状である光の光束断面の長手方向の幅を表している。
【0088】
図9は電圧が印加されていない状態の空間光変調器441が示されており、図10は図9における断面Aが示されている。各リボン401,402はエバネッセント領域80内で、エバネッセント光と干渉可能な位置に配設されている。具体的に、電圧がオフの状態では、可動リボン401の可動反射面401fと固定リボン402の固定反射面402fとが基準面400fに対して同じ高さである。従って、可動リボン401と固定リボン402とが備える反射面401f,402f各々がエバネッセント光を反射して空間変調させることとなる。この結果、本来であれば三角プリズム47内の光学面473で全反射される光は、各リボン401,402の反射面401f,402fと光学面473との離間距離に応じた反射率で反射されることとなり、全反射が阻止される。光学面473で反射されていた光は光量が減少するため、このような可動リボン401および固定リボン402で構成された空間光変調素子4411によって表される画素は最も暗くなる。なお、エバネッセント光は反射面401f,402fによって反射されることで反射光となり、三角プリズム47内に入射する可能性があるが、最終的に基板Wの表面を露光するほどには至らない。
【0089】
図11は電圧が印加されている状態の空間光変調器441が示されており、図12は図11における断面Bが示されている。電圧がオンの状態では、基準面400fに対する可動反射面401fと固定反射面402fとの高さに差が生じており、固定リボン402は上記電圧がオフの状態と位置が変わらないが、可動リボン401は基準面400f側に変位している。この結果、可動リボン401の可動反射面401fは、エバネッセント領域80から外れた、エバネッセント光と干渉不可能な位置に移動する。従って、エバネッセント光が可動反射面401fで反射されることはなく、可動反射面401fに対向する光学面473の位置では大気側の空間に光が抜き出されない。つまり、当該位置での光は三角プリズム47内に全反射された状態が維持される。一方、固定反射面402fは、エバネッセント光を反射して空間変調させるため、固定反射面402fに対向する光学面473の位置では全反射が阻止される。つまり、固定反射面402fと光学面473との離間距離に応じた反射率で、三角プリズム47内の光は反射されるため、光量は減少する。従って、このような可動リボン401および固定リボン402で構成された空間光変調素子4411によって表される画素は最も明るくなる。
【0090】
このように、本実施の形態では、空間光変調ユニット44の各リボン401,402が光源からの光を直接受けてパターンを形成するのではなく、空間光変調ユニット44がエバネッセント光を空間変調することで、三角プリズム47内部を進行する光の空間変調を行うものである。具体的には、空間光変調素子4411の可動リボン401が電圧の印加によって変位し、可動反射面401fがエバネッセント領域80から外れたときに、このような空間光変調素子4411で表される画素の光量は最も大きくなる。また、可動リボン401に電圧が印加されず、エバネッセント領域80内で固定反射面402fと可動反射面401fとが同じ高さに位置するときに、空間光変調素子4411で表される画素の光量は最も小さくなる。このようにして画素毎の明暗が調節されて光のパターンが形成される。
【0091】
空間光変調ユニット44によって所定のパターンが形成された光は、光学面473から出射されて投影光学系46に入射する。この段階で、すでに投影光学系46が収容されているチャンバ50内は、圧力調節機構501による減圧処理が施されて大気圧よりも低い圧力環境に設定されている。空間変調された光は減圧された状態のチャンバ50内を進行し、投影光学系46が有する対物レンズ462を介して基板Wの表面に照射される。
【0092】
このようにして、空間変調された光を基板Wの表面に向けて照射させつつ、基板Wを光学ユニット40に対して相対的に移動させる。具体的には、ステージ移動機構20は、制御部90からの指示に応じて、ステージ10を主走査方向(−Y軸方向)に沿って移動させる。これによって、基板Wの表面には1ストライプ領域が描画される。
【0093】
1回の主走査が終了すると、ステージ移動機構20は、ステージ10を副走査方向(X軸方向)に沿って、1ストライプ領域の幅に相当する距離だけ移動させることによって、基板Wを光学ユニット40に対して副走査方向に沿って相対的に移動させる。
【0094】
1回分の副走査方向のステップ移動が終了すると、再び主走査が行われる。ここでも、光学ユニット40は、制御部90からの指示に応じて、パターンデータに応じた空間変調が形成された光を基板Wに向けて照射する。これによって、先の主走査で描画された1ストライプ分の描画領域の隣に、さらに1ストライプ分の領域の描画が行われることになる。このように、主走査と副走査とが繰り返して行われることによって、基板Wの表面のレジスト層(感光材料層)の全域にパターンが描画されることになる。
【0095】
この描画で得られるパターン像は潜像であり、描画後にレジスト層の現像と選択的除去が行われることにより、物理的構造としてのレジストパターンが出現する。レジストパターンが得られた後は、レジストパターンの下にある層についての周知の選択的エッチングなどの処理が実行される。
【0096】
以上のように、本実施形態に係る描画装置100は、空間光変調ユニット44が、光を直接受光して変調させるのではなく、エバネッセント光を利用して光を空間変調させることによりパターンが形成される。つまり、三角プリズム47の内部を進行する光よりも強度の弱いエバネッセント光が各リボン401,402によって空間変調されることにより、三角プリズム47の光学面473で反射される光を空間変調させる。従って、各リボン401,402が受ける照射エネルギーは従来よりも削減されるため、空間光変調器441の長寿命化を図ることができる。
【0097】
また、本実施形態では、投影光学系46の周囲を密閉して覆うチャンバ50が圧力調節機構501に連結されているため、チャンバ50内の圧力、つまり投影光学系46の周囲の圧力を大気圧よりも低い圧力環境にしたうえで、投影光学系46に光を導入させることができる。このため、投影光学系46を進行する光が空気のゆらぎによる影響を受けることは抑えられ、投影光学系46が補正制御機構のような大がかりな設備構成を備えずとも、描画対象物上での光の結像位置のずれを抑えることができる。なお、チャンバ50内の圧力が低いほど、投影光学系46を進行する光が空気のゆらぎによる影響を受けることは抑えられる。
【0098】
さらに、本実施形態では、チャンバ50の上面は三角プリズム47で構成されており、光学面472は、筒状部材463の光入射口51に配置されている。一般的に、空気とは異なって、三角プリズム47の内部ではゆらぎによる影響は生じない。従って、三角プリズム47の光学面472がチャンバ50の光入射口51に配置されることによって、光は三角プリズム47に入射してから、チャンバ50から出射するまでの区間において大気圧状態の空気環境を通ることはない。このように、エバネッセント光を空間変調するために空間光変調器441に対向して設けられた三角プリズム47が、チャンバ50の内部空間に生成された低圧環境と組み合わされることによって、結像位置のずれ防止のための要素としても機能する。
【0099】
また、エバネッセント光が染み出ている光学面473と空間光変調素子4411の各リボン401,402が備える反射面401f,402fとの離間距離を制御することによって、三角プリズム47内を進行する光の光学面473での反射率を調節することができる。従って、光は多彩な空間変調を施すことが可能である。
【0100】
また、空間光変調器441はチャンバ50の外部の大気空間に設置されているため、空間光変調器441がエバネッセント光を空間変調することにより、光は光学面473から大気側の空間に抜きだされる。従って、レーザ発振器41から出射された光が含むノイズ成分についても大気側の空間に抜き出されることとなり、投影光学系46が収容されたチャンバ50内に光のノイズ成分が入射することを抑えることができる。
【0101】
また、本実施の形態では、三角プリズム47の光学面473が、投影光学系46を収容するチャンバ50の上蓋を兼ねて構成されている。従って、従来の平板カバーガラスが投影光学系46の上面を構成する場合と比較して、上蓋の強度が増すこととなる。特に、チャンバ50内の圧力は大気圧よりも低くなるため、強度を確保することは有効である。
【0102】
<2.変形例>
本願発明は上記実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、空間光変調器441としてGLVが用いられていたが、空間光変調器441はその他の形態であっても構わない。例えば、DMD(Digital Micromirror Device:デジタルマイクロミラーデバイス:テキサスインスツルメンツ社の登録商標)のような変調単位であるマイクロミラーが二次元的に配列された空間光変調器が利用されてもよい。
【0103】
また、上記実施形態では、光学ユニット40は、描画装置100に搭載されており、基板Wの表面にパターンを描画するために用いられていたが、このような形態には限られない。光学ユニット40は、例えばプロジェクタ(投射型の画像表示装置)など、対象物に対して光を照射する形態の装置に搭載されていても構わない。この場合、空間光変調器441がGLVであれば、基準面400fに対する可動リボン401の可動反射面401fと固定リボン402の固定反射面402fとの高さの差を複数段階に調節することで、多階調で画素を表すことができる。
【符号の説明】
【0104】
40 光学ヘッド
41 レーザ発振器
43 照明光学系
45 ヘッド部
46 投影光学系
47 三角プリズム
50 圧力チャンバ
51 圧力チャンバの光入射口
90 制御部
100 描画装置
401f 可動反射面
402f 固定反射面
441 空間光変調器
471 光学面(入射面)
472 光学面(出射面)
473 光学面(反射面)
501 圧力調節機構
W 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のパターンに応じて光を変調し、変調された前記光が描画対象物を走査して前記描画対象物の表面に前記パターンを形成する描画装置であって、
光源と、
光学的な透明体を用いて構成され、前記光源によって生成された光を前記透明体の所定の入射面から前記透明体の内部に取り込んだ後、全反射臨界角よりも大きな角度で前記光を前記透明体の内側から前記透明体の所定の反射面に与え、当該反射面で反射した前記光を前記透明体の所定の出射面から出射させる光学部材と、
前記透明体の外部において光変調素子を複数配列させた変調面が前記光の波長と同程度の離間距離をおいて前記反射面に対向しており、前記光変調素子に与える変調信号に応じて前記出射面から出射する前記光を空間変調する光変調ユニットと、
大気圧よりも低い圧力に調節可能な圧力チャンバの内部空間に少なくともその一部が収容され、前記透明体の前記出射面から出射した前記光を前記内部空間を通して前記描画対象物の表面へと導く光学系と、
前記光学系から出射された光と前記描画対象物とを相対的に移動させることにより、前記光学系から出射された光で前記描画対象物表面を走査させる走査駆動手段と、
を備え、
前記透明体の前記出射面が、前記圧力チャンバにおける前記内部空間の光入射口に配置されている、描画装置。
【請求項2】
請求項1に記載の描画装置であって、
前記光変調素子が前記圧力チャンバの外部に設けられている、描画装置。
【請求項3】
請求項2に記載の描画装置であって、
前記透明体が前記圧力チャンバの前記光入射口に固定されたプリズムである、描画装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の描画装置であって、
前記光変調素子が有する前記変調面は、前記光源からの光を反射する反射面である、描画装置。
【請求項5】
請求項4に記載の描画装置であって、
前記光変調ユニットは、変位可能な第1反射面を有する可動単位素子と、位置が固定された第2反射面を有する固定単位素子とが交互に複数配列して構成された回折格子型の空間光変調器を有している、描画装置。
【請求項6】
所定のパターンに応じて光を変調し、変調された前記光を描画対象物上に照射する光学ユニットであって、
光学的な透明体を用いて構成され、光源によって生成された光を前記透明体の所定の入射面から前記透明体の内部に取り込んだ後、全反射臨界角よりも大きな角度で前記光を前記透明体の内側から前記透明体の所定の反射面に与え、当該反射面で反射した前記光を前記透明体の所定の出射面から出射させる光学部材と、
前記透明体の外部において光変調素子を複数配列させた変調面が前記光の波長と同程度の離間距離をおいて前記反射面に対向しており、前記光変調素子に与える変調信号に応じて前記出射面から出射する前記光を空間変調する光変調ユニットと、
大気圧よりも低い圧力に調節可能な圧力チャンバの内部空間に少なくともその一部が収容され、前記透明体の前記出射面から出射した前記光を前記内部空間を通して前記描画対象物の表面へと導く光学系と、
を備え、
前記透明体の前記出射面が、前記圧力チャンバにおける前記内部空間の光入射口に配置されている、光学ユニット。
【請求項7】
請求項6に記載の光学ユニットであって、
前記光変調ユニットは、変位可能な第1反射面を有する可動単位素子と、位置が固定された第2反射面を有する固定単位素子とが交互に複数配列して構成された回折格子型の空間光変調器を有している、光学ユニット。
【請求項8】
光を照射して描画対象物表面にパターンを描画する描画方法であって、
光源によって生成された光を光学的な透明体の所定の入射面から前記透明体の内部に取り込んだ後、全反射臨界角よりも大きな角度で前記光を前記透明体の内側から前記透明体の所定の反射面に与え、当該反射面で反射した前記光を前記透明体の所定の出射面から出射させる光反射工程と、
前記透明体の外部において光変調素子を複数配列させた変調面が前記光の波長と同程度の離間距離をおいて前記反射面に対向した光変調ユニットを使用し、前記光変調素子に与える変調信号に応じて前記出射面から出射する前記光を空間変調する光変調工程と、
内部の圧力を大気圧よりも低い圧力に調節可能な圧力チャンバの内部空間に少なくともその一部が収容された光学系を使用し、前記透明体の前記出射面から出射した前記光を前記内部空間を通して前記描画対象物の表面に導く導光工程と、
前記光学系から出射された光と前記描画対象物とを相対的に移動させることにより、前記光学系から出射された光で前記描画対象物表面を走査させる走査駆動工程と、
を備え、
前記圧力チャンバにおける前記内部空間の光入射口に前記透明体の前記出射面が配置された状態で、前記透明体の前記出射面からの前記光を前記内部空間に進行させる、描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−169356(P2012−169356A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27503(P2011−27503)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000207551)大日本スクリーン製造株式会社 (2,640)
【Fターム(参考)】