揚げ物の製造方法、及び揚げ物製造装置
【課題】 加熱停止のタイミングをより厳密に判断することにより、良質かつ均質な揚げ物を製造する方法及び装置を提供する。
【解決手段】 油17中で食材3を加熱する加熱する揚げ物製造装置1で、加熱中に、食材3の誘電特性を誘電特性測定装置15によって測定し、この誘電特性を指標として、コンピュータ16で食材3に対する加熱の停止を決定する。
【解決手段】 油17中で食材3を加熱する加熱する揚げ物製造装置1で、加熱中に、食材3の誘電特性を誘電特性測定装置15によって測定し、この誘電特性を指標として、コンピュータ16で食材3に対する加熱の停止を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は揚げ物の製造方法、及び揚げ物製造装置に関するものであって、特に、揚げ物の加熱時間を制御することにより、良質な揚げ物を提供する揚げ物の製造方法、及び揚げ物製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食材を油で揚げることによって揚げ物を製造する工程(フライ工程)は、例えば即席麺、スナック菓子、惣菜等の食品製造の手法として、多く利用されている工程である。
【0003】
フライ工程に限らず、食品を加熱調理する加熱工程においては、食材全体に充分な熱を加えることが食品の安全性を高める上で重要である。また、食品の食感、味、色等の品質は加熱によって変化するので、良質で均質な食品を提供するためには、加熱を終了するタイミングを厳密に制御する必要がある。
【0004】
また、非特許文献1には、揚げ物の材料ごとに適切な加熱温度と加熱時間が記載されている。
【非特許文献1】山崎清子他著「新版調理と理論」同文書院、2003年、p.177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在のフライ工程では、加熱終了のタイミング、つまり揚げ時間の長さは調理する者の経験によって判断されていることが多い。また、材料によって異なる加熱終了のタイミング(揚げ上がり)を適切に判断することは困難である。従って、良質な食品(揚げ物)を提供するために、より厳密に揚げ時間を制御する方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みたものであり、その目的は、揚げ時間を厳密に制御することで、より良質な揚げ物を製造する方法及び装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、揚げ物の製造において、揚げ時間、すなわち油中での食材の加熱時間に伴って、食材の誘電特性が変化することを見出した。さらに、その誘電特性の変化が、加熱による食材の温度上昇に起因する当該食材の状態変化、つまり食材中のデンプンの糊化及び食材の水分の蒸発を反映しており、それゆえ、食材の誘電特性を測定することで、揚げ物の製造における品質管理が簡便かつ非破壊に行えるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)油中で食材を加熱する加熱ステップと、上記加熱ステップ中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定ステップと、上記誘電特性を指標として加熱の停止を決定する加熱停止決定ステップとを含む揚げ物の製造方法。
(2)上記誘電特性は、静電容量及び損失係数の少なくとも一方である(1)に記載の揚げ物の製造方法。
(3)上記食材はデンプン含有食品である(1)又は(2)に記載の揚げ物の製造方法。
(4)油中で食材を加熱して揚げ物を製造する装置であって、上記油を加熱する加熱部と、上記加熱部の動作中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定部と、上記誘電特性を指標として上記食材に対する加熱の停止を決定する加熱停止決定部とを備える揚げ物製造装置。
(5)上記誘電特性測定部は、網状電極を備える(4)に記載の揚げ物製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の揚げ物の製造方法は、油中で食材を加熱する加熱ステップと、上記加熱ステップ中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定ステップと、上記誘電特性を指標として加熱の停止を決定する加熱停止決定ステップとを含む。
【0010】
誘電特性の一つである静電容量を指標とすれば、加熱に伴う食材の温度を把握することができ、また特にジャガイモ等を食材として用いた場合においては食材中に含まれるデンプンの糊化を把握することができる。一方、誘電特性の一つである損失係数は、食材の水分蒸発率と良好な相関関係がある。ゆえに、所望の品質を有し、かつその品質がほぼ均一な揚げ物を提供することができる。
【0011】
なお、本発明には、上記揚げ物製造方法を用いた揚げ物製造装置も含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の揚げ物製造装置は、油を加熱する加熱部と、上記加熱部の動作中に上記油の誘電特性を測定する誘電特性測定部と、上記誘電特性を指標として加熱の停止を決定する加熱停止決定部とを備えればよい。
【0013】
そのような装置の一例として、図1に本実施の形態に係る揚げ物製造装置1を表す図面を示す。
【0014】
図1に基づいて揚げ物製造装置1の構成を説明すると、以下の通りである。
【0015】
揚げ物製造装置1は、油槽11内の食材3を加熱することで、食材3から揚げ物を製造する装置である。
【0016】
揚げ物製造装置1は、油槽11中の油17を加熱するためのヒータ14(加熱部)、ヒータ14の出力を制御する温度制御装置12、油17の誘電特性を測定する誘電特性測定部(誘電特性測定装置15、電極部2)、及び誘電特性測定装置15に接続されたコンピュータ16を備える。揚げ物製造装置1は、さらに、温度制御装置12を備えており、温度制御装置12は、油17の温度を測定するための熱電対13及びヒータ14に接続されている。
【0017】
なお、電極部2と油槽11の内壁の間には、電極部2の電極20(20a・b)間の不要な通電を妨げて、油17の誘電特性を正確に測定できるように、絶縁部22が設けられていることが好ましい。
【0018】
本実施の形態では、図1に示したように、油槽11底部に絶縁部22が設けられているので、電極部2と油槽1との接触が妨げられ、電極20a・b間で不要な通電が生じないという効果を奏する。しかし、本発明の実施の形態としてはこの構成に限らず、例えば、電極部2がその外側(油槽1側)に絶縁部を備えることによって、又は、揚げ物製造装置1が、電極部2と油槽1内壁とが接触しないように電極部2の位置を調節する位置調節機能を備えることによって、上記効果を奏するものであってもよい。
【0019】
次に、電極部2の構造を図2に基づいて説明する。
【0020】
図2は、電極部2の構造を示す斜視図であり、図2(a)は食材3を保持した状態の電極部2を、図2(b)は、電極部2から電極20aを除いた状態を示す斜視図である。また図2(c)は、電極部2の断面図である。
【0021】
図2(a)に示すように、電極部2は、略平行に向かい合う2つの電極20a・bを備えている。なお、電極20a・bは、それぞれ誘電特性測定装置15に接続されている。
【0022】
また、図2(c)に示すように、電極20a・bの間には、絶縁体25によって間隙28が設けられている。
【0023】
図2(a)〜(c)に示すように、間隙28内には、絶縁体25及び電極20a・bによって食材3が保持されるようになっている。この構成によって、後述するように、油17中の食材3の誘電特性を測定することができる。
【0024】
また、電極20としては、図3に示すような網状電極26を用いてもよい。図3に示すように、網状電極26は、2つ以上の開口部27を備えているものである。この構成によって、電極26間の食材3周辺における油の対流が促進され、その結果、食材3が効率よく加熱されるという効果を奏する。従って、開口部27の数及び形状等は、食材3を保持することができて、上記効果を奏するように設定されていればよく、特に限定されない。
【0025】
また、本実施の形態の電極部2は、上述した他に、電極20を備えたかご状の容器(揚げかご)であってもよい。この揚げかご内に食材を入れた状態で揚げ物を製造する構成であってもよい。このとき、電極20は、揚げかごの向かい合う面の少なくとも一部に設置されていればよい。
【0026】
なお、図2・3では説明の便宜上食材3を1つしか図示しなかったが、もちろん本発明の揚げ物の製造装置及び揚げ物の製造方法は、一度に2つ以上の食材に対して適用可能である。
【0027】
また、電極20と食材3とは接触しないことが好ましい。その理由として、食材3と電極20とが接触することで、電極20a・b間に不要な通電が生じ、その結果、食材3の誘電特性を正確に検出することができなくなるからである。
【0028】
そのため、電極20の食材3側に、接触を防止する接触防止部材を設けてもよい。接触防止部材としては、例えば網状の絶縁体で、加熱によって電極20間の誘電特性を変化させないものであることが好ましい。
【0029】
また、誘電特性測定装置15としては、既知の装置を好適に適用することができる。例えば、LCRメーター、キャパシタンスメーター、ネットワークアナライザー等が挙げられる。
【0030】
次に、図1に基づいて、上記構成を備えた揚げ物製造装置1の動作について説明すると、以下の通りである。
【0031】
油槽11中の油17はヒータ14によって加熱され、その温度は、熱電対13を介して温度制御装置12で検出される。つまり、本実施の形態では、温度制御装置12は温度測定装置を兼ねている。温度制御装置12は、油17の温度が予め設定された温度になるように、ヒータ14の出力を調節する。
【0032】
食材3は、油17内で、電極部2に保持された状態で加熱される(加熱ステップ)。食材3が加熱されている間に、誘電特性測定装置15が電極20a・b間の誘電特性を測定する。測定された誘電特性の情報は、コンピュータ16に送られる。
【0033】
食材3の加熱時間(揚げ時間)の増加に伴って、食材3の誘電特性(電極20a・b間の誘電特性)は変化する。この誘電特性の変化は、加熱によって食材3の温度が上昇することで生じる食材3の状態の変化(特に食材中のデンプンの糊化及び食材の水分の蒸発)に起因する。従って、コンピュータ16内でこの誘電特性を記録し、その変化を検出することで、食材3の加熱による変化を把握することができる。この誘電特性の変化の検出を誘電特性測定ステップとする。つまり、コンピュータ16も誘電特性測定部に含まれるともいえる。またコンピュータ16は、加熱の停止を決定する加熱停止決定部である。
【0034】
以上のように、コンピュータ16は食材3の変化に伴う誘電特性の変化を把握することができる。従って、予めコンピュータ16内に、揚げ時間に対する食材3の誘電特性の変化をグラフ化したものと、そのグラフのどの時点で加熱を終了するかを記録しておけば、食材3に対する加熱をいつ終了するかをコンピュータ16によって判断することができる(加熱停止決定ステップ)。このようにして、食材3が所望の状態(デンプンの糊化、水分蒸発)のときに加熱を停止することができる。
【0035】
また、加熱を停止する方法としては、電極部2ごと食材3を油17の外に移動させることで停止すればよい。食材3を油17の外に出す方法としては特に限定されない。例えば、コンピュータ16が揚げ物製造者に加熱停止を通知する構成としてもよい。また、揚げ物製造装置1が電極部2を駆動するための駆動装置を備えており、駆動装置がコンピュータ16から送られた加熱停止信号を受けることによって電極部2を油17の外に移動させるように設定して、揚げ物製造の工程を自動化することもできる。
【0036】
また、コンピュータ16を温度調節装置12に接続し、コンピュータ16から温度調節装置12に加熱停止信号が送られるようにしてもよい。この場合、温度調節装置12がヒータ14を調節して、加熱を停止すればよい。
【0037】
次に、食材の誘電特性を利用して加熱停止のタイミングを決定する方法について説明する。
【0038】
まず、誘電特性のうち、静電容量の変化を利用して加熱停止を決定する機構について述べる。
【0039】
揚げ物製造装置1によって揚げられた食材の誘電特性(ここでは静電容量)の変化のグラフの一例を図4(a)に示す。図4は、横軸が揚げ時間(s)、縦軸が静電容量(F)を示し、揚げ時間に伴う静電容量の変化を表すグラフである。なお、このグラフの食材は、デンプン含有食材であるものとする。デンプン含有食材とは、ジャガイモ等のイモ類、又は穀類等の、デンプンを豊富に含んだ食材を意味する。
【0040】
なお、食材の種類によって揚げ時間に対する静電容量のグラフは異なるが、同じ種類の食材では、ほぼ同一のグラフとなると考えてよい。図4(a)では、揚げ時間の増加に伴って、静電容量は、一旦上昇したのち、緩やかに減少する。
【0041】
図4(a)のグラフを揚げ時間で微分した結果を図4(b)に示す。図4(b)をみても分かるように、図4(a)のグラフは静電容量の増加の終わる点A、及び変曲点Bを有する。
【0042】
この点Aは、食材中のデンプンの内部のデンプンがほぼ糊化し終わった点(糊化終了点)であり、この時点で加熱の停止を決定してもよい。
【0043】
また、変曲点B(温度上昇終了点)では、試料の温度上昇が終了しているので、この時点で加熱の停止を決定してもよい。ただし、製造する食品(揚げ物)によって、求められるデンプンの糊化度合い、及び水分量といった食材の加工状態は異なるので、加熱をどの時点で停止するかは目的に応じて設定可能である。
【0044】
このように、本発明の揚げ物製造方法では、加熱中の食材の誘電特性を基準として加熱停止を決定するので、所望の品質を有し、かつ均質な食品(揚げ物)を提供することができる。
【0045】
次に、誘電特性のうち、損失係数を指標として加熱停止を決定する方法について述べる。
【0046】
損失係数は、実施例及び図5に示すように、揚げ時間の増加に伴う水分蒸発率の変化と直線関係、つまり一対一の関係にある。このように、損失係数は、静電容量とは異なり食材中のデンプンによって影響を受けないので、より正確に、食材中の水分量を測定することができる。
【0047】
なお、「静電容量」とは、導体の電位を単位量だけ高めるのに要する電気量である。「損失係数」とは、誘電体に交流電場を加えた時に分極が起こり、その際エネルギーが熱として失われる量であり、LCRメーター等の誘電特性測定装置により測定されるパラメータの一つである。
【0048】
なお、損失係数を用いる場合も、静電容量を用いる場合と同じく、誘電特性測定装置15で測定された損失係数を、コンピュータ16内に予め記憶されていた損失係数のグラフと比較することで、最適な加熱時間を決定するものである。
【0049】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
以下、図1に示す揚げ物製造装置1を用いて、モデル食品である素焼きの板、及びジャガイモを揚げた結果を示す。
<A.モデル食品>
(誘電特性の測定)
モデル食品である素焼きの板(7.5cm×7.5cm×1cmの直方体状)を食材試料(食材3)とした。この素焼きの板を冷蔵庫(4℃)中で蒸留水に浸した状態で24時間静置し、吸水させた。つまり、このモデル食品は、板の温度上昇、水の温度上昇と蒸発及び吸油が起こる系である。
【0052】
誘電特性(静電容量C)の測定には網状電極(縦20cm×横12cm、電極板間距離2cm)に接続したLCRメーター(HIOKI社製、3532 LCR HITESTER、実施の形態における誘電特性測定装置)を用いた。測定周波数はノイズの少なかった50kHzとした。なお、図2の絶縁体25としては、竹串を用い、油として日清オイリオ株式会社製大豆白絞油を用いた。
【0053】
平行平板にモデル食品を挿入・固定して、この電極を加熱したフライ油(150℃、14L)中に投入し、10秒毎に600秒まで誘電特性の変化を測定した。
【0054】
この測定結果を図5に示す。図5は、揚げ時間(s)を横軸、静電容量(F)を縦軸に示したグラフである。
【0055】
図5に示すように、揚げ時間に伴い静電容量は減少した。また、揚げ時間70〜120秒に一時静電容量が増加する傾向が見られた。
【0056】
なお、水を含まない(乾燥させた)モデル食品では、静電容量の変化が図5の結果よりも非常に小さかった(データ不図示)。従って、加熱による静電容量の減少の要因は、モデル食品内に含まれた水の蒸発によるものであると考えられた。
【0057】
また、モデル食品内の水が、蒸発する際にどのような挙動をとるのか考察した結果、モデル食品から蒸発した水の一部が、一旦、油中にマイクロバブル状の水滴として分散すると考えると、図5のグラフによく合致することが分かった。
【0058】
なお、マイクロバブルとは、明確な定義はないが、一般には直径1mm以下の微小気泡を指す。マイクロバブルは通常の気泡に比べ、液体中に長時間残存する特性を持つ。
<B.ジャガイモ>
(1.揚げ時間に対する静電容量の変化の測定)
食材試料として、ジャガイモを直径4cm、厚さ1.8cmの円盤状に調製したものを使用し、フライ温度を180℃とした以外は、上記<A>欄と同様の方法で誘電特性を測定した。
【0059】
180℃のフライ油でジャガイモを揚げた際の揚げ時間と静電容量との関係を図6に示した。静電容量は初め70秒まで増加し、70秒〜120秒では一定もしくは緩やかに減少、その後揚げ時間120秒以降から減少する傾向が見られた。また、揚げ時間400秒付近で変曲点が確認された。
【0060】
このように、ジャガイモがモデル食品とは異なる静電容量の変化を示した要因として、ジャガイモ内のデンプンの糊化が考えられた。
(2.ジャガイモの静電容量とデンプンの糊化の関係)
(2‐1)ジャガイモの静電容量とジャガイモの温度との関係
DES100(セイコー電子工業株式会社製)を用いてジャガイモの誘電特性の温度依存性を測定した。ジャガイモをPTFEサンプルホルダーに挿入した。サンプルホルダーをDES100内の電極にはさみ誘電特性を測定した。測定周波数は50kHzとした。プログラム温度は30℃から110℃、昇温速度は1℃/分に設定した。結果を図7に示す。なお、この測定方法ではジャガイモが密封されているので、水の蒸発はない。つまり、静電容量に対する水の蒸発の影響は除かれている。
(2‐2)DSC測定
ジャガイモをスライスし、直径30mm、厚さ0.4mmの円盤状に調製したものを使用し、DSC測定(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱分析)を行った。
【0061】
DSC測定はサンプル(試料)およびリファレンス(基準物質)の温度を設定されたプログラムに従って変化させながらそのサンプル及びリファレンスの温度差を、温度の関数として測定する方法であり、デンプンの糊化状態を測定するのに一般的に用いられる方法である。DSC測定には、セイコー電子工業株式会社製のDSC120を用いた。
【0062】
アルミニウム製のサンプルパンにジャガイモ(10mg)を封入した。リファレンスにはAl2O3(10mg)を用いた。プログラム温度は30℃から120℃、昇温速度1℃/分に設定した。結果を図8に示す。
(2‐3)ジャガイモ内部温度の測定
上記(1)欄の誘電特性の測定と同様に、ジャガイモを平行平板電極に挿入・固定し実験を行った。ジャガイモの幾何学的中心及び表面付近にK型熱電対を挿入し20秒毎に測定を行った。結果を図9に示す。
(2‐4)酵素的褐変を利用したジャガイモの加熱過程の測定
上記(1)欄の誘電特性の測定と同様に、ジャガイモを電極に挿入・固定し実験を行った。任意の揚げ時間毎にフライ油からジャガイモを取り出し、中心を通り円に対し垂直に切断した。その後、一晩空気中に放置し、表面の酵素的褐変を安定させて観察した。切断面を図10に示す。
【0063】
図8のDSCの結果から、ジャガイモのデンプンの糊化温度は67℃付近であることが分かった。また、このジャガイモデンプンの糊化温度と思われる温度付近で静電容量は増加した(図7)。これらのことから、ジャガイモの加熱による静電容量の増加が、温度上昇に伴うジャガイモデンプンの糊化を表していることが示唆された。
【0064】
フライ油180℃で揚げた際のジャガイモの揚げ時間と内部温度との関係を図9に示す。ジャガイモの表面付近で温度は素早く上昇することが確認され、加熱開始後すぐにジャガイモの表面付近では糊化が始まると考えられた。また、揚げ時間400秒付近で中心温度が100℃越え、ジャガイモの温度上昇がほぼ終了することが確認された。この時点は、図6において確認された変曲点が現われる揚げ時間と良好に一致した。
【0065】
図8から糊化開始温度を約62℃、糊化終了温度を約74℃と考えられた。図9から中心温度が糊化開始温度に達するには140秒〜160秒、糊化終了温度に達するには200秒〜220秒かかることが示唆された。図6で静電容量が減少を開始する揚げ時間120秒以降もジャガイモの糊化が続くことが明らかとなった。
【0066】
図10の酵素的褐変の結果を見ると、変色した面積は揚げ時間とともに減少することが確認された。ジャガイモの断面は50〜70℃に加熱された部分は黒色になるがそれ以上の温度では色はつかない。図10において、揚げ時間130秒付近では黒色の部分がほとんどなくなっていることから、揚げ時間130秒付近ではジャガイモ内に70℃以下の部分、すなわちその後糊化し静電容量の増加に寄与すると思われる部分は非常に少ない。そのため、図6の揚げ時間120秒以降ではジャガイモの温度上昇による静電容量の増加よりも水分の蒸発による静電容量の減少の影響が大きく出て、静電容量が低下したと考えられる。
【0067】
以上の結果より、静電容量を利用してジャガイモの揚げ上がりに伴う温度上昇及び糊化を把握できることが分かる。
(3.ジャガイモの水分蒸発が静電容量に及ぼす影響)
上記(1)欄の誘電特性の測定と同様に、ジャガイモを電極に挿入・固定して油で揚げた。任意の揚げ時間毎にフライ油から取り出したジャガイモを105℃に設定した常圧乾燥機内で乾燥させ、揚げ時間に伴うジャガイモ内の水分量の変化を測定した。結果を図11に示す。図11に示すように揚げ時間に伴って、水分蒸発率は増加した。
【0068】
120秒(図6において静電容量が減少を始める揚げ時間)以降における水分蒸発率と静電容量との関係を図12に示した。図12に示すように、水分蒸発率と静電容量との間には良好な相関関係が見られた。
(4.損失係数と水分量の関係)
上記(1)欄と同様にして、揚げ時間と損失係数との関係をグラフ化した(図13)。両者の間には対応関係が認められた。ジャガイモの揚げ上がりに伴う損失係数の変化の要因は、ジャガイモ内の水の蒸発によるものであることが分かった。
【0069】
また、図14に損失係数と水分蒸発率との関係を示した。両者の間には良好な相関関係あることが明らかとなった。
【0070】
以上の結果より、損失係数を利用してジャガイモ内の水分量を評価できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の揚げ物の製造方法は、各種揚げ物、特に食材としてデンプン含有食材をもちいた揚げ物の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係る揚げ物製造装置を示す概略の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電極部の構造を示す図面であり、(a)は電極部の斜視図、(b)は電極部が食材を保持する様子を示した斜視図、(c)は電極部の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る網状電極の構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る揚げ時間と静電容量との関係の一例を示すグラフであり、Aは糊化終了点を、Bは食材の温度上昇終了点を示す。
【図5】本発明の実施例の揚げ時間と静電容量との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例の揚げ時間と静電容量との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例の食材内部の温度と静電容量との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例のDSC曲線である。
【図9】本発明の実施例の揚げ時間と食材の温度との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例の食材の加熱状態を表す酵素的褐変実験の結果を示す図面である。
【図11】本発明の実施例の揚げ時間と水分蒸発率との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例の水分蒸発率と静電容量との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例の揚げ時間と損失係数との関係を示すグラフである。
【図14】本発明の損失係数と水分蒸発率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1 揚げ物製造装置
2 電極部
3 食材
11 油槽
12 温度調節装置
14 ヒータ(加熱部)
15 誘電特性測定装置(誘電特性測定部)
16 コンピュータ(加熱停止決定部)
17 油
20a・b 電極
22 絶縁部
25 絶縁体
28 間隙
26a・b 網状電極
【技術分野】
【0001】
本発明は揚げ物の製造方法、及び揚げ物製造装置に関するものであって、特に、揚げ物の加熱時間を制御することにより、良質な揚げ物を提供する揚げ物の製造方法、及び揚げ物製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食材を油で揚げることによって揚げ物を製造する工程(フライ工程)は、例えば即席麺、スナック菓子、惣菜等の食品製造の手法として、多く利用されている工程である。
【0003】
フライ工程に限らず、食品を加熱調理する加熱工程においては、食材全体に充分な熱を加えることが食品の安全性を高める上で重要である。また、食品の食感、味、色等の品質は加熱によって変化するので、良質で均質な食品を提供するためには、加熱を終了するタイミングを厳密に制御する必要がある。
【0004】
また、非特許文献1には、揚げ物の材料ごとに適切な加熱温度と加熱時間が記載されている。
【非特許文献1】山崎清子他著「新版調理と理論」同文書院、2003年、p.177
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、現在のフライ工程では、加熱終了のタイミング、つまり揚げ時間の長さは調理する者の経験によって判断されていることが多い。また、材料によって異なる加熱終了のタイミング(揚げ上がり)を適切に判断することは困難である。従って、良質な食品(揚げ物)を提供するために、より厳密に揚げ時間を制御する方法が求められている。
【0006】
本発明は、上記従来の問題に鑑みたものであり、その目的は、揚げ時間を厳密に制御することで、より良質な揚げ物を製造する方法及び装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、揚げ物の製造において、揚げ時間、すなわち油中での食材の加熱時間に伴って、食材の誘電特性が変化することを見出した。さらに、その誘電特性の変化が、加熱による食材の温度上昇に起因する当該食材の状態変化、つまり食材中のデンプンの糊化及び食材の水分の蒸発を反映しており、それゆえ、食材の誘電特性を測定することで、揚げ物の製造における品質管理が簡便かつ非破壊に行えるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
(1)油中で食材を加熱する加熱ステップと、上記加熱ステップ中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定ステップと、上記誘電特性を指標として加熱の停止を決定する加熱停止決定ステップとを含む揚げ物の製造方法。
(2)上記誘電特性は、静電容量及び損失係数の少なくとも一方である(1)に記載の揚げ物の製造方法。
(3)上記食材はデンプン含有食品である(1)又は(2)に記載の揚げ物の製造方法。
(4)油中で食材を加熱して揚げ物を製造する装置であって、上記油を加熱する加熱部と、上記加熱部の動作中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定部と、上記誘電特性を指標として上記食材に対する加熱の停止を決定する加熱停止決定部とを備える揚げ物製造装置。
(5)上記誘電特性測定部は、網状電極を備える(4)に記載の揚げ物製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の揚げ物の製造方法は、油中で食材を加熱する加熱ステップと、上記加熱ステップ中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定ステップと、上記誘電特性を指標として加熱の停止を決定する加熱停止決定ステップとを含む。
【0010】
誘電特性の一つである静電容量を指標とすれば、加熱に伴う食材の温度を把握することができ、また特にジャガイモ等を食材として用いた場合においては食材中に含まれるデンプンの糊化を把握することができる。一方、誘電特性の一つである損失係数は、食材の水分蒸発率と良好な相関関係がある。ゆえに、所望の品質を有し、かつその品質がほぼ均一な揚げ物を提供することができる。
【0011】
なお、本発明には、上記揚げ物製造方法を用いた揚げ物製造装置も含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の揚げ物製造装置は、油を加熱する加熱部と、上記加熱部の動作中に上記油の誘電特性を測定する誘電特性測定部と、上記誘電特性を指標として加熱の停止を決定する加熱停止決定部とを備えればよい。
【0013】
そのような装置の一例として、図1に本実施の形態に係る揚げ物製造装置1を表す図面を示す。
【0014】
図1に基づいて揚げ物製造装置1の構成を説明すると、以下の通りである。
【0015】
揚げ物製造装置1は、油槽11内の食材3を加熱することで、食材3から揚げ物を製造する装置である。
【0016】
揚げ物製造装置1は、油槽11中の油17を加熱するためのヒータ14(加熱部)、ヒータ14の出力を制御する温度制御装置12、油17の誘電特性を測定する誘電特性測定部(誘電特性測定装置15、電極部2)、及び誘電特性測定装置15に接続されたコンピュータ16を備える。揚げ物製造装置1は、さらに、温度制御装置12を備えており、温度制御装置12は、油17の温度を測定するための熱電対13及びヒータ14に接続されている。
【0017】
なお、電極部2と油槽11の内壁の間には、電極部2の電極20(20a・b)間の不要な通電を妨げて、油17の誘電特性を正確に測定できるように、絶縁部22が設けられていることが好ましい。
【0018】
本実施の形態では、図1に示したように、油槽11底部に絶縁部22が設けられているので、電極部2と油槽1との接触が妨げられ、電極20a・b間で不要な通電が生じないという効果を奏する。しかし、本発明の実施の形態としてはこの構成に限らず、例えば、電極部2がその外側(油槽1側)に絶縁部を備えることによって、又は、揚げ物製造装置1が、電極部2と油槽1内壁とが接触しないように電極部2の位置を調節する位置調節機能を備えることによって、上記効果を奏するものであってもよい。
【0019】
次に、電極部2の構造を図2に基づいて説明する。
【0020】
図2は、電極部2の構造を示す斜視図であり、図2(a)は食材3を保持した状態の電極部2を、図2(b)は、電極部2から電極20aを除いた状態を示す斜視図である。また図2(c)は、電極部2の断面図である。
【0021】
図2(a)に示すように、電極部2は、略平行に向かい合う2つの電極20a・bを備えている。なお、電極20a・bは、それぞれ誘電特性測定装置15に接続されている。
【0022】
また、図2(c)に示すように、電極20a・bの間には、絶縁体25によって間隙28が設けられている。
【0023】
図2(a)〜(c)に示すように、間隙28内には、絶縁体25及び電極20a・bによって食材3が保持されるようになっている。この構成によって、後述するように、油17中の食材3の誘電特性を測定することができる。
【0024】
また、電極20としては、図3に示すような網状電極26を用いてもよい。図3に示すように、網状電極26は、2つ以上の開口部27を備えているものである。この構成によって、電極26間の食材3周辺における油の対流が促進され、その結果、食材3が効率よく加熱されるという効果を奏する。従って、開口部27の数及び形状等は、食材3を保持することができて、上記効果を奏するように設定されていればよく、特に限定されない。
【0025】
また、本実施の形態の電極部2は、上述した他に、電極20を備えたかご状の容器(揚げかご)であってもよい。この揚げかご内に食材を入れた状態で揚げ物を製造する構成であってもよい。このとき、電極20は、揚げかごの向かい合う面の少なくとも一部に設置されていればよい。
【0026】
なお、図2・3では説明の便宜上食材3を1つしか図示しなかったが、もちろん本発明の揚げ物の製造装置及び揚げ物の製造方法は、一度に2つ以上の食材に対して適用可能である。
【0027】
また、電極20と食材3とは接触しないことが好ましい。その理由として、食材3と電極20とが接触することで、電極20a・b間に不要な通電が生じ、その結果、食材3の誘電特性を正確に検出することができなくなるからである。
【0028】
そのため、電極20の食材3側に、接触を防止する接触防止部材を設けてもよい。接触防止部材としては、例えば網状の絶縁体で、加熱によって電極20間の誘電特性を変化させないものであることが好ましい。
【0029】
また、誘電特性測定装置15としては、既知の装置を好適に適用することができる。例えば、LCRメーター、キャパシタンスメーター、ネットワークアナライザー等が挙げられる。
【0030】
次に、図1に基づいて、上記構成を備えた揚げ物製造装置1の動作について説明すると、以下の通りである。
【0031】
油槽11中の油17はヒータ14によって加熱され、その温度は、熱電対13を介して温度制御装置12で検出される。つまり、本実施の形態では、温度制御装置12は温度測定装置を兼ねている。温度制御装置12は、油17の温度が予め設定された温度になるように、ヒータ14の出力を調節する。
【0032】
食材3は、油17内で、電極部2に保持された状態で加熱される(加熱ステップ)。食材3が加熱されている間に、誘電特性測定装置15が電極20a・b間の誘電特性を測定する。測定された誘電特性の情報は、コンピュータ16に送られる。
【0033】
食材3の加熱時間(揚げ時間)の増加に伴って、食材3の誘電特性(電極20a・b間の誘電特性)は変化する。この誘電特性の変化は、加熱によって食材3の温度が上昇することで生じる食材3の状態の変化(特に食材中のデンプンの糊化及び食材の水分の蒸発)に起因する。従って、コンピュータ16内でこの誘電特性を記録し、その変化を検出することで、食材3の加熱による変化を把握することができる。この誘電特性の変化の検出を誘電特性測定ステップとする。つまり、コンピュータ16も誘電特性測定部に含まれるともいえる。またコンピュータ16は、加熱の停止を決定する加熱停止決定部である。
【0034】
以上のように、コンピュータ16は食材3の変化に伴う誘電特性の変化を把握することができる。従って、予めコンピュータ16内に、揚げ時間に対する食材3の誘電特性の変化をグラフ化したものと、そのグラフのどの時点で加熱を終了するかを記録しておけば、食材3に対する加熱をいつ終了するかをコンピュータ16によって判断することができる(加熱停止決定ステップ)。このようにして、食材3が所望の状態(デンプンの糊化、水分蒸発)のときに加熱を停止することができる。
【0035】
また、加熱を停止する方法としては、電極部2ごと食材3を油17の外に移動させることで停止すればよい。食材3を油17の外に出す方法としては特に限定されない。例えば、コンピュータ16が揚げ物製造者に加熱停止を通知する構成としてもよい。また、揚げ物製造装置1が電極部2を駆動するための駆動装置を備えており、駆動装置がコンピュータ16から送られた加熱停止信号を受けることによって電極部2を油17の外に移動させるように設定して、揚げ物製造の工程を自動化することもできる。
【0036】
また、コンピュータ16を温度調節装置12に接続し、コンピュータ16から温度調節装置12に加熱停止信号が送られるようにしてもよい。この場合、温度調節装置12がヒータ14を調節して、加熱を停止すればよい。
【0037】
次に、食材の誘電特性を利用して加熱停止のタイミングを決定する方法について説明する。
【0038】
まず、誘電特性のうち、静電容量の変化を利用して加熱停止を決定する機構について述べる。
【0039】
揚げ物製造装置1によって揚げられた食材の誘電特性(ここでは静電容量)の変化のグラフの一例を図4(a)に示す。図4は、横軸が揚げ時間(s)、縦軸が静電容量(F)を示し、揚げ時間に伴う静電容量の変化を表すグラフである。なお、このグラフの食材は、デンプン含有食材であるものとする。デンプン含有食材とは、ジャガイモ等のイモ類、又は穀類等の、デンプンを豊富に含んだ食材を意味する。
【0040】
なお、食材の種類によって揚げ時間に対する静電容量のグラフは異なるが、同じ種類の食材では、ほぼ同一のグラフとなると考えてよい。図4(a)では、揚げ時間の増加に伴って、静電容量は、一旦上昇したのち、緩やかに減少する。
【0041】
図4(a)のグラフを揚げ時間で微分した結果を図4(b)に示す。図4(b)をみても分かるように、図4(a)のグラフは静電容量の増加の終わる点A、及び変曲点Bを有する。
【0042】
この点Aは、食材中のデンプンの内部のデンプンがほぼ糊化し終わった点(糊化終了点)であり、この時点で加熱の停止を決定してもよい。
【0043】
また、変曲点B(温度上昇終了点)では、試料の温度上昇が終了しているので、この時点で加熱の停止を決定してもよい。ただし、製造する食品(揚げ物)によって、求められるデンプンの糊化度合い、及び水分量といった食材の加工状態は異なるので、加熱をどの時点で停止するかは目的に応じて設定可能である。
【0044】
このように、本発明の揚げ物製造方法では、加熱中の食材の誘電特性を基準として加熱停止を決定するので、所望の品質を有し、かつ均質な食品(揚げ物)を提供することができる。
【0045】
次に、誘電特性のうち、損失係数を指標として加熱停止を決定する方法について述べる。
【0046】
損失係数は、実施例及び図5に示すように、揚げ時間の増加に伴う水分蒸発率の変化と直線関係、つまり一対一の関係にある。このように、損失係数は、静電容量とは異なり食材中のデンプンによって影響を受けないので、より正確に、食材中の水分量を測定することができる。
【0047】
なお、「静電容量」とは、導体の電位を単位量だけ高めるのに要する電気量である。「損失係数」とは、誘電体に交流電場を加えた時に分極が起こり、その際エネルギーが熱として失われる量であり、LCRメーター等の誘電特性測定装置により測定されるパラメータの一つである。
【0048】
なお、損失係数を用いる場合も、静電容量を用いる場合と同じく、誘電特性測定装置15で測定された損失係数を、コンピュータ16内に予め記憶されていた損失係数のグラフと比較することで、最適な加熱時間を決定するものである。
【0049】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
以下、図1に示す揚げ物製造装置1を用いて、モデル食品である素焼きの板、及びジャガイモを揚げた結果を示す。
<A.モデル食品>
(誘電特性の測定)
モデル食品である素焼きの板(7.5cm×7.5cm×1cmの直方体状)を食材試料(食材3)とした。この素焼きの板を冷蔵庫(4℃)中で蒸留水に浸した状態で24時間静置し、吸水させた。つまり、このモデル食品は、板の温度上昇、水の温度上昇と蒸発及び吸油が起こる系である。
【0052】
誘電特性(静電容量C)の測定には網状電極(縦20cm×横12cm、電極板間距離2cm)に接続したLCRメーター(HIOKI社製、3532 LCR HITESTER、実施の形態における誘電特性測定装置)を用いた。測定周波数はノイズの少なかった50kHzとした。なお、図2の絶縁体25としては、竹串を用い、油として日清オイリオ株式会社製大豆白絞油を用いた。
【0053】
平行平板にモデル食品を挿入・固定して、この電極を加熱したフライ油(150℃、14L)中に投入し、10秒毎に600秒まで誘電特性の変化を測定した。
【0054】
この測定結果を図5に示す。図5は、揚げ時間(s)を横軸、静電容量(F)を縦軸に示したグラフである。
【0055】
図5に示すように、揚げ時間に伴い静電容量は減少した。また、揚げ時間70〜120秒に一時静電容量が増加する傾向が見られた。
【0056】
なお、水を含まない(乾燥させた)モデル食品では、静電容量の変化が図5の結果よりも非常に小さかった(データ不図示)。従って、加熱による静電容量の減少の要因は、モデル食品内に含まれた水の蒸発によるものであると考えられた。
【0057】
また、モデル食品内の水が、蒸発する際にどのような挙動をとるのか考察した結果、モデル食品から蒸発した水の一部が、一旦、油中にマイクロバブル状の水滴として分散すると考えると、図5のグラフによく合致することが分かった。
【0058】
なお、マイクロバブルとは、明確な定義はないが、一般には直径1mm以下の微小気泡を指す。マイクロバブルは通常の気泡に比べ、液体中に長時間残存する特性を持つ。
<B.ジャガイモ>
(1.揚げ時間に対する静電容量の変化の測定)
食材試料として、ジャガイモを直径4cm、厚さ1.8cmの円盤状に調製したものを使用し、フライ温度を180℃とした以外は、上記<A>欄と同様の方法で誘電特性を測定した。
【0059】
180℃のフライ油でジャガイモを揚げた際の揚げ時間と静電容量との関係を図6に示した。静電容量は初め70秒まで増加し、70秒〜120秒では一定もしくは緩やかに減少、その後揚げ時間120秒以降から減少する傾向が見られた。また、揚げ時間400秒付近で変曲点が確認された。
【0060】
このように、ジャガイモがモデル食品とは異なる静電容量の変化を示した要因として、ジャガイモ内のデンプンの糊化が考えられた。
(2.ジャガイモの静電容量とデンプンの糊化の関係)
(2‐1)ジャガイモの静電容量とジャガイモの温度との関係
DES100(セイコー電子工業株式会社製)を用いてジャガイモの誘電特性の温度依存性を測定した。ジャガイモをPTFEサンプルホルダーに挿入した。サンプルホルダーをDES100内の電極にはさみ誘電特性を測定した。測定周波数は50kHzとした。プログラム温度は30℃から110℃、昇温速度は1℃/分に設定した。結果を図7に示す。なお、この測定方法ではジャガイモが密封されているので、水の蒸発はない。つまり、静電容量に対する水の蒸発の影響は除かれている。
(2‐2)DSC測定
ジャガイモをスライスし、直径30mm、厚さ0.4mmの円盤状に調製したものを使用し、DSC測定(Differential Scanning Calorimetry:示差走査熱分析)を行った。
【0061】
DSC測定はサンプル(試料)およびリファレンス(基準物質)の温度を設定されたプログラムに従って変化させながらそのサンプル及びリファレンスの温度差を、温度の関数として測定する方法であり、デンプンの糊化状態を測定するのに一般的に用いられる方法である。DSC測定には、セイコー電子工業株式会社製のDSC120を用いた。
【0062】
アルミニウム製のサンプルパンにジャガイモ(10mg)を封入した。リファレンスにはAl2O3(10mg)を用いた。プログラム温度は30℃から120℃、昇温速度1℃/分に設定した。結果を図8に示す。
(2‐3)ジャガイモ内部温度の測定
上記(1)欄の誘電特性の測定と同様に、ジャガイモを平行平板電極に挿入・固定し実験を行った。ジャガイモの幾何学的中心及び表面付近にK型熱電対を挿入し20秒毎に測定を行った。結果を図9に示す。
(2‐4)酵素的褐変を利用したジャガイモの加熱過程の測定
上記(1)欄の誘電特性の測定と同様に、ジャガイモを電極に挿入・固定し実験を行った。任意の揚げ時間毎にフライ油からジャガイモを取り出し、中心を通り円に対し垂直に切断した。その後、一晩空気中に放置し、表面の酵素的褐変を安定させて観察した。切断面を図10に示す。
【0063】
図8のDSCの結果から、ジャガイモのデンプンの糊化温度は67℃付近であることが分かった。また、このジャガイモデンプンの糊化温度と思われる温度付近で静電容量は増加した(図7)。これらのことから、ジャガイモの加熱による静電容量の増加が、温度上昇に伴うジャガイモデンプンの糊化を表していることが示唆された。
【0064】
フライ油180℃で揚げた際のジャガイモの揚げ時間と内部温度との関係を図9に示す。ジャガイモの表面付近で温度は素早く上昇することが確認され、加熱開始後すぐにジャガイモの表面付近では糊化が始まると考えられた。また、揚げ時間400秒付近で中心温度が100℃越え、ジャガイモの温度上昇がほぼ終了することが確認された。この時点は、図6において確認された変曲点が現われる揚げ時間と良好に一致した。
【0065】
図8から糊化開始温度を約62℃、糊化終了温度を約74℃と考えられた。図9から中心温度が糊化開始温度に達するには140秒〜160秒、糊化終了温度に達するには200秒〜220秒かかることが示唆された。図6で静電容量が減少を開始する揚げ時間120秒以降もジャガイモの糊化が続くことが明らかとなった。
【0066】
図10の酵素的褐変の結果を見ると、変色した面積は揚げ時間とともに減少することが確認された。ジャガイモの断面は50〜70℃に加熱された部分は黒色になるがそれ以上の温度では色はつかない。図10において、揚げ時間130秒付近では黒色の部分がほとんどなくなっていることから、揚げ時間130秒付近ではジャガイモ内に70℃以下の部分、すなわちその後糊化し静電容量の増加に寄与すると思われる部分は非常に少ない。そのため、図6の揚げ時間120秒以降ではジャガイモの温度上昇による静電容量の増加よりも水分の蒸発による静電容量の減少の影響が大きく出て、静電容量が低下したと考えられる。
【0067】
以上の結果より、静電容量を利用してジャガイモの揚げ上がりに伴う温度上昇及び糊化を把握できることが分かる。
(3.ジャガイモの水分蒸発が静電容量に及ぼす影響)
上記(1)欄の誘電特性の測定と同様に、ジャガイモを電極に挿入・固定して油で揚げた。任意の揚げ時間毎にフライ油から取り出したジャガイモを105℃に設定した常圧乾燥機内で乾燥させ、揚げ時間に伴うジャガイモ内の水分量の変化を測定した。結果を図11に示す。図11に示すように揚げ時間に伴って、水分蒸発率は増加した。
【0068】
120秒(図6において静電容量が減少を始める揚げ時間)以降における水分蒸発率と静電容量との関係を図12に示した。図12に示すように、水分蒸発率と静電容量との間には良好な相関関係が見られた。
(4.損失係数と水分量の関係)
上記(1)欄と同様にして、揚げ時間と損失係数との関係をグラフ化した(図13)。両者の間には対応関係が認められた。ジャガイモの揚げ上がりに伴う損失係数の変化の要因は、ジャガイモ内の水の蒸発によるものであることが分かった。
【0069】
また、図14に損失係数と水分蒸発率との関係を示した。両者の間には良好な相関関係あることが明らかとなった。
【0070】
以上の結果より、損失係数を利用してジャガイモ内の水分量を評価できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の揚げ物の製造方法は、各種揚げ物、特に食材としてデンプン含有食材をもちいた揚げ物の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態に係る揚げ物製造装置を示す概略の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る電極部の構造を示す図面であり、(a)は電極部の斜視図、(b)は電極部が食材を保持する様子を示した斜視図、(c)は電極部の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る網状電極の構造を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る揚げ時間と静電容量との関係の一例を示すグラフであり、Aは糊化終了点を、Bは食材の温度上昇終了点を示す。
【図5】本発明の実施例の揚げ時間と静電容量との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例の揚げ時間と静電容量との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例の食材内部の温度と静電容量との関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例のDSC曲線である。
【図9】本発明の実施例の揚げ時間と食材の温度との関係を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例の食材の加熱状態を表す酵素的褐変実験の結果を示す図面である。
【図11】本発明の実施例の揚げ時間と水分蒸発率との関係を示すグラフである。
【図12】本発明の実施例の水分蒸発率と静電容量との関係を示すグラフである。
【図13】本発明の実施例の揚げ時間と損失係数との関係を示すグラフである。
【図14】本発明の損失係数と水分蒸発率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1 揚げ物製造装置
2 電極部
3 食材
11 油槽
12 温度調節装置
14 ヒータ(加熱部)
15 誘電特性測定装置(誘電特性測定部)
16 コンピュータ(加熱停止決定部)
17 油
20a・b 電極
22 絶縁部
25 絶縁体
28 間隙
26a・b 網状電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油中で食材を加熱する加熱ステップと、
上記加熱ステップ中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定ステップと、
上記誘電特性を指標として上記食材に対する加熱の停止を決定する加熱停止決定ステップとを含むことを特徴とする揚げ物の製造方法。
【請求項2】
上記誘電特性は、静電容量及び損失係数の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の揚げ物の製造方法。
【請求項3】
上記食材はデンプン含有食品であることを特徴とする請求項1又は2に記載の揚げ物の製造方法。
【請求項4】
油中で食材を加熱して揚げ物を製造する装置であって、
上記油を加熱する加熱部と、
上記加熱部の動作中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定部と、
上記誘電特性を指標として上記食材に対する加熱の停止を決定する加熱停止決定部とを備えることを特徴とする揚げ物製造装置。
【請求項5】
上記誘電特性測定部は、網状電極を備えることを特徴とする請求項4に記載の揚げ物製造装置。
【請求項1】
油中で食材を加熱する加熱ステップと、
上記加熱ステップ中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定ステップと、
上記誘電特性を指標として上記食材に対する加熱の停止を決定する加熱停止決定ステップとを含むことを特徴とする揚げ物の製造方法。
【請求項2】
上記誘電特性は、静電容量及び損失係数の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載の揚げ物の製造方法。
【請求項3】
上記食材はデンプン含有食品であることを特徴とする請求項1又は2に記載の揚げ物の製造方法。
【請求項4】
油中で食材を加熱して揚げ物を製造する装置であって、
上記油を加熱する加熱部と、
上記加熱部の動作中に、上記食材の誘電特性を測定する誘電特性測定部と、
上記誘電特性を指標として上記食材に対する加熱の停止を決定する加熱停止決定部とを備えることを特徴とする揚げ物製造装置。
【請求項5】
上記誘電特性測定部は、網状電極を備えることを特徴とする請求項4に記載の揚げ物製造装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−223128(P2006−223128A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−38469(P2005−38469)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]