説明

携帯電話機用のホーン装置

【課題】 携帯電話機をそのまま装填することによって、携帯電話機の音響パワーおよび音質を適度な広さのリスニング空間で楽しめるレベルにレベルアップすることができるホーン装置を提供する。
【解決手段】 携帯電話機50のスピーカ内蔵部側の一端部を差し込むように装填スロット3Sに装填することによって形成される音源室を共通の音源室として第1のホーンH1と第2のホーンH2とを形成し、携帯電話機50の音に2基のホーンH1,H2によって同時にホーンロードを負荷する。この際、第1のホーンH1と第2のホーンH2とは、音源室を挟んで反対方向に開口するように形成する。いずれか一方のホーンからの放射音をリスナーに向けて直接音とし、他方のホーンからの放射音を間接音として利用することによって、間接音成分が豊富な臨場感に富む音場を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器本来の目的上、近接聴取位置でしか楽しめない限られた音響出力の携帯電話機を音源として利用しながらも、一定の聴取範囲で十分な音量を確保できるようにした携帯電話機用のホーン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
賛成であるか反対であるかは別問題として、社会構造の情報通信関連の側面においては、いわゆる、ユビキタス社会化が進行している。ユビキタス社会が、文字通り、いつでも、誰でも、どこでも、という情報環境の形成を目的とするものであれば、携帯電話機は、そのための最も現実的で身近なアイテムであるということができる。事実、携帯電話機は、短期間に頻繁な世代交代を重ね、携帯情報端末としての機能や、携帯音楽プレーヤとしての機能をも有するに至っている。
【0003】
ここで、携帯電話機の携帯音楽プレーヤとしての側面に着目した場合、優秀な音質で豊富な音楽ライブラリが提供されるデジタル通信環境が形成されているにもかかわらず、携帯電話機の音楽再生能力は、きわめて貧弱であると言わざるを得ない。これは、携帯電話機の欠点というべきものではなく、携帯電話機の音響特性が耳元で使用されることを前提として設定されていることの当然の帰結である。
【0004】
実際に、例えば、携帯電話機を部屋の片隅に据え置いてお気に入りの音楽を聴きながら日常雑事でも済まそうかとする場合、先ず、音響出力の絶対的不足を痛感することになる。この問題については、電気的には、様々な解決策があり得る。例えば、携帯電話機のライン出力をステレオアンプで増幅してステレオ装置で聴く。あるいは、携帯電話機のライン出力をPCに取り込んでPC用のオーディオ環境で聴く等の方策である。しかし、このような解決策に依った場合には、いつでもどこでも手軽に、という携帯機器の最も有利な特質が失われる結果になる。
【0005】
そこで、電気的な手段に依らないで携帯電話機の音響出力を増大させる方策として、携帯電話機の音声にホーンロードを負荷することができるようにした携帯電話置き台を兼ねる携帯電話用音響箱が提案されに至っている(下記、特許文献1参照)。
【0006】
音響機器の技術分野において、スピーカの能率を向上させる手段としてスピーカにホーンロードを負荷する方法は公知であり、適切なホーンロードの負荷による能率改善効果は劇的といえる顕著なものであることも知られている。この効果は、ホーン型スピーカのホーンを着脱する実験によって体験することができる。
【0007】
しかしながら、スピーカユニットやドライバユニット単体ではなく、携帯電話機のように外装ケースに内蔵された状態の音源ユニットに有効なホーンロードを負荷できるかについては、疑問面が多い。ホーン型スピーカにおいては、ドライバであるスピーカユニットから最終的なホーンの開口部に至るまでのホーンの音道は、厳重な気密状態とすることが求められるからである。したがって、外装ケース内のスピーカユニットにホーンロードを負荷するような発想は、音響技術の専門家の視点からすればナンセンスな発想にすぎないと言える。
【0008】
それにもかかわらず、携帯電話機を載せ置くのみで内部のスピーカユニットに実効的なホーン効果を簡単に付与することができることを発見するとともに、客観的な音響特性を採録してホーン効果を確認しておられる発明者の実践的な探究心には頭が下がる思いである(下記、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−184050
【0010】
ところで、上記特許文献1に記載の提案に先行を許したものの、携帯電話機の情報端末化、特に、音楽情報端末化の動きに鑑み、弊社においても独自に携帯電話機用のホーン装置の試作研究を進めていたところ、次のような結論に至っている。
【0011】
十分なホーン効果を得るためには、高いホーン負荷特性を有する大型のホーンを採用することが好ましいのであるが、携帯電話機を音源として利用する限りにおいては、その内蔵スピーカの駆動力がごく限られたものであるために、ホーン負荷を駆動しきれずに特定の帯域のみがホーン効果によって強調された不自然な音響特性となる。また、ホーンのスロート部分に高い音圧が集中することとなる大型のホーン装置においては、携帯電話機とホーンとの音響的な接続部分を完全な気密構造とすることができないことにより、携帯電話機を着脱するごとにホーン特性が変化する等の問題が生じる。管楽器の演奏体験のある人は、大型の管楽器の演奏にいかに大きな体力が必要であるかを知っている。この点、上記提案の音響箱においては、単に、台上に携帯電話機を載せ置くのみで携帯電話機とホーンとの接続に対応しているが、接続の不安定さが避けられないと言える。
【0012】
大型のホーン装置を用いる場合、携帯性が損なわれるという問題も指摘することができる。大型のホーン装置は、固定的な置き場所を必要とするようになり、携帯電話機とともに持ち歩いて手軽に音楽を楽しむことの利点が損なわれる。この点、上記特許文献1に図示される携帯電話用音響箱は大寸であり、携帯困難であると思われる。
【0013】
結局のところ、携帯電話機に大型のホーン装置を適用することは、現実の使用においては、不安定要因が多すぎ、携帯電話機内蔵のスピーカユニットの駆動力や再生音帯域を考慮した場合、それに見合った適切な規模のホーン装置を用いることが適切であるということである。
【0014】
事実、携帯電話機内蔵スピーカの駆動力や再生帯域幅にマッチした小型のホーン装置で軽いホーンロードを負荷した場合には、きわめて安定で端正な再生音を得ることができる。しかしながら、ピーキーで小振りな携帯電話機特有の音色を払拭することができず、携帯電話機で適当に離れた聴取位置から音楽を楽しむことができるようにしたいという所期の目的に今一歩到達することができない。この点、上記特許文献1に記載の提案は、1機の携帯電話機の音にホーンロード特性が異なる複数のホーン負荷を付与し、最終的に複数のホーンの開口部を前方に集めて拡声音を混合することによって、再生音に聴感上の拡がりをもたせることができるとしているが、非常に複雑な内部構造であり、木工製品として製品化するとしても、部品点数が過大であり、樹脂成型によって製品化するとしても、成型用金型の離型の関係から一体成型は困難であると思われる。そして、これらの問題は、コスト問題に直結することとならざるを得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の検討結果は、ピーキーで小振りな携帯電話機特有の音色を払拭することができるならば、携帯電話機内蔵のスピーカの駆動力や再生帯域に見合った安定に動作する小型のホーン装置によって、携帯電話機を音源として所定の聴取範囲で一応音楽を楽しむことができることを示している。
【0016】
そこで、本発明は、現実の楽器演奏であるか再生音楽であるかを問わず、リスナーに対する音響効果には、楽器演奏または音楽再生される物理的環境、すなわち部屋の音響特性がきわめて大きな影響力を有するという事実と、今日の住宅環境が音響的にはきわめてライブな特性を有することに着目し、小型のホーン装置でありながも、室内間接音を最大限に利用可能とする構成の採用により、ピーキーで小振りな携帯電話機特有の音色を払拭した豊かな音場感を実現する携帯電話機用のホーン装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は次のような構成を採用する。
【0018】
(解決手段1)
本発明の携帯電話機用のホーン装置は、携帯電話機のスピーカ内蔵部側の一端部を差し込むように装填することによって音源室を形成する装填スロットと、形成された前記音源室を共通の音源室とする第1のホーンと第2のホーンとを備えてなる。そして、この際の第1のホーンと第2のホーンとは、音源室を挟んで反対方向に開口するように形成され、装填スロットに装填した携帯電話機の音声に第1のホーンと第2のホーンとの双方によって同時にホーンロードを負荷して反対向きの2方向に拡声音を放射し、いずれか一方のホーンからの拡声音をリスナーに向けて直接音とし、他方のホーンからの拡声音を間接音として利用可能としたことを特徴とする。
【0019】
上記解決手段1について説明する。携帯電話機用のホーン装置は、携帯電話機を装填するためのスロットと、第1のホーンと第2のホーンとを備えている。スロットには、携帯電話機のスピーカ内蔵部側の一端部を差し込むようにして装填することができる。つまり、スロットは、携帯電話機を一定の姿勢で音程に保持する機能を有し、携帯電話機とホーン装置との接続の安定性を担保する。
【0020】
また、スロットは、携帯電話機が装填されることによって、その一部分に第1のホーンと第2のホーンとによって共有される音源室を形成することができる。つまり、携帯電話機は、スロットの開口部を塞いで音源室を形成する部材として利用されている。ここで、音源室とは、ホーンロードの対象となる携帯電話機の内蔵スピーカからの音が最初に放射される空間であり、音源室に放射された音には、第1のホーンと第2のホーンとの双方のホーンによって同時にホーンロードが負荷される。
【0021】
この際、携帯電話機からの音にホーンロードを負荷する第1のホーンと第2のホーンとは、音源室を挟んで反対方向に開口するように形成されている。この結果、いずれか一方のホーンをリスナーに向けた場合、他方のホーンは、必然的にリスナーに背を向ける姿勢になる。したがって、リスナーに向いたホーンからの放射される拡声音は、リスナーに対して直接音成分として機能し、反対向きのホーンからの放射される拡声音は、そのリスニング環境の音響特性に従った間接音成分として機能することができる。この意図された豊富な間接音成分により、リスナー向きのホーンのみでは得られない、豊かな音場が形成され、携帯電話機にありがちなピーキーでスケールの小さな音響特性を補正することができる。
【0022】
なお、本発明のホーン装置をどのような向きで使用するかは、もとより個々のリスナーの自由な取り扱いに属するのであるが、上記説明のようにして直接音成分と間接音成分とを別個に放射できるように構成されていることに本発明の意義がある。
【0023】
(解決手段2)
本発明の携帯電話機用のホーン装置は、解決手段1に記載のホーン装置を基本発明として、その第1のホーンと第2のホーンとが、いずれも上下の音道壁面と左右の音道壁面とによって囲まれた4曲面構成の角型ホーンとして形成され、この際の上下の音道壁面と左右の音道壁面とは、前記第1のホーンから第2のホーンに及んで連続して形成されていることを特徴とする。
【0024】
上記解決手段2について説明する。上記解決手段は、本発明のホーン装置を具体的製品として実現する際において、部品点数を抑えることができる有利な構成を示している。
【0025】
このための手段として、第1のホーンと第2のホーンの上下および左右の音道壁面を独立に形成するのではなく、上下の音道壁面と左右の音道壁面とをそれぞれ第1のホーンから第2のホーンに及んで連続して形成するようにしている。これにより、第1のホーンと音道壁面と第2のホーンの音道壁面とを個別に形成した場合に8曲面を必要とするところを実質的に4曲面で形成することができる。
【0026】
(解決手段3)
本発明の携帯電話機用のホーン装置は、上記解決手段2に記載のホーン装置を基本発明として、その左右の音道壁面が上下の音道壁面の下側の音道壁面の下方に延長されて第1のホーンと第2のホーンとを所定姿勢で据え置くためのスタンドを兼ねていることを特徴とする。
【0027】
上記解決手段3について説明する。上記解決手段は、本発明のホーン装置を具体的製品として実現する際において、さらに部品点数を抑えることができる有利な構成を示している。
【0028】
ホーン装置は特定の姿勢を維持して使用されるものであり、姿勢を維持するための何らかの部材を必要とする。そこで、第1のホーンと第2のホーンの左右の音道壁面を上下の音道壁面の下側の音道壁面の下方に延長することによって、延長した部分をホーン装置を据え置くためのスタンドとして利用することができる。これによって、独立のスタンド部材を省略することができる。
【0029】
(解決手段4)
本発明の携帯電話機用のホーン装置は、解決手段1に記載のホーン装置を基本発明として、第1のホーンと第2のホーンとのいずれか一方または双方が、上側の音道壁面と左右の音道壁面との3曲面構成の不完全な角型ホーンとして形成され、任意の平面上に据え置いたときに該平面を下側音道壁面として利用した完全な角型ホーンとして機能することを特徴とする。
【0030】
上記解決手段4について説明する。上記解決手段は、本発明のホーン装置を具体的製品として実現する際に、さらに部品点数を削減し、つまりコストを抑えて市場競争力を高める上で有利な構成を示している。
【0031】
市場に流通させるための製品には、その製品の用途や機能相当な製品価格が要求されるという現実がある。この現実を無視した製品は、技術的に成立するとしても市場競争力に欠け、産業の発展に寄与することができない。角型のホーンは、一般に上下左右の4面の音道壁面で構成される。ホーンは、スロート部からか開口部に向かって断面面積が非直線的に逓増する形態を特徴とするのであるが、このような形態は、音道壁面の1面が平面であっても実現することができる。そこで、下側の音道壁面を平面としてホーンを設計するとともに、この下側の音道壁面を省略して製品とし、この製品をテーブルや机上等の平面上に据え置いた際の置き台とした平面を下側の音道壁面として利用可能とすることによって、成型上の金型の段階から大幅な低コスト化を達成することができる。
【0032】
(解決手段5)
本発明の携帯電話機用のホーン装置は、解決手段1ないし解決手段4のいずれかに記載のホーン装置を基本発明として、その第1のホーンと第2のホーンとが、ホーンロード特性が異なるように形成されていることを特徴とする。
【0033】
上記解決手段5について説明する。上記解決手段は、本発明の携帯電話機用のホーン装置の使用態様を拡大し、リスナーの好みや、再生対象となる音楽ジャンルや、音楽を再生する場所の音響環境に広汎に適合することができるようにする構成を示している。
【0034】
仮に、反対向き形成された第1のホーンと第2のホーンとのホーンロード特性が同一であるとすれば、例えば、携帯電話機用のホーン装置を前後反転させて使用したとしても直接音成分と間接音成分とからなる全体としての音響特性は変化せず、実質的には同一の使用態様にすぎない。しかし、第1のホーンと第2のホーンのホーンロード特性が異なるものである場合には、ホーン装置を前後反転させて使用することにより、リスナーに対する直接音成分も間接音成分も変化させることができる。この結果、再生環境の音響特性や再生する音楽ジャンルに応じて直接音と間接音との比率を最適化する、あるいは、変化させて楽しむ等の応用的使用態様が可能になる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の携帯電話機用のホーン装置は、携帯電話機を装填スロットに装填することによって形成される音源室を共有する第1のホーンと第2のホーンとを備えることによって、携帯電話機の音に2基のホーンによって同時にホーンロードを負荷し、携帯電話機の音に音響パワーの拡大や過度特性の改善等の公知のホーン効果を付与することができる。また、第1のホーンと第2のホーンとは、音源室を挟んで反対方向に向けて形成されている。したがって、いずれか一方のホーンをリスナーに向けた場合に、他方のホーンは、必然的にリスナーの方には向くことはなく、リスナーは、自分の方を向いたホーンから放射される直接音と、自分の方を向いていないホーンから放射された拡声音が当該リスニング環境の音響特性に従って反射、回析等してリスナーに到達する間接音成分とによる豊かな音場を享受することができる。この結果、ホーン装置の規模を携帯電話機内蔵のスピーカの駆動力や再生帯域に適合する小型に抑えながら、携帯電話機特有のピーキーで小振りな音響特性をほぼ完全に払拭することができる。ホーン装置を小型に抑えることができることによって、利用者は、携帯電話機とともにホーン装置を携帯して、いつでもどこでも手軽に音楽を楽しむことができるという2次的効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の携帯電話機用のホーン装置の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】上記実施の形態におけるホーン装置の正面図である。
【図3】図1のX−X線矢視横断面図である。
【図4】図1のY−Y線矢視縦断面図である。
【図5】上記実施の形態におけるホーン装置の動作説明図である。
【図6】本発明の携帯電話機用のホーン装置の他の実施の形態を示す縦断面図である。
【図7】本発明の携帯電話機用のホーン装置の他の実施の形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を引用しながら本発明の携帯電話機用のホーン装置を射出成型による樹脂製の一体成型品として実施した場合の実施の形態例を説明する。ただし、本発明のホーン装置は、樹脂製に限られるものではなく、木工製品としても、また、ガラス製品としても、陶磁器製品としても実施することができる。
【0038】
使用樹脂材料は任意であるが、ホーンとした際の音響的観点からは、比重の大きな硬質の樹脂材料を用いることが好ましい。好ましい樹脂材料としては、ABS樹脂、アクリル樹脂、PET樹脂、これらの混合樹脂を例示することができる。本実施の形態のホーン装置では、樹脂材料としてアクリル樹脂を採用している。アクリル樹脂を使用する場合、無着色ないし半透明着色として素材の深い透明感を生かしたデザインとすることで、高級感を表現することができる。
【0039】
なお、射出成型による樹脂製品とする場合においても、必ずしも一体成型品とする必要性はないのであるが、一体成型品とすることによって、複数部品の突き合せ精度や組立て精度等の煩雑な問題を回避することができるとともに、組立て工数を省略することができる。
【0040】
透明アクリル樹脂から一体成型された本発明のホーン装置30の全体形状は、便宜的に区別する第1のホーンH1と第2のホーンH2とを背合せ姿勢で連結し、連結部分に携帯電話機50を装填するための装填スロット3Sを配置してなる形状である(図1)。
【0041】
第1のホーンH1と第2のホーンH2は、上下の音道壁面31,31と左右の音道壁面32,32とによって取り囲まれた音道の断面が角型である角型ホーンとして形成されている。したがって、第1のホーンH1と第2のホーンH2とを形成するには、通常、8面を必要とするのであるが、第1のホーンH1と第2のホーンH2は、実質的に4曲面で構成されているところが特徴的である。
【0042】
すなわち、上下の音道壁面31,31の上側の音道壁面31は、1枚板を下向きの凸面に曲げたような曲面であり、下側の音道壁面31は、1枚板を上向きの凸面に曲げたような曲面である。そして、このような上下の音道壁面31,31は、装填スロット3Sの位置で互いの間隔が最も狭くなるように組み合わされている(図1,図4)。
【0043】
他方、左右の音道壁面32,32は、それぞれ、1枚板を内側に凸の曲面に曲げたような形状であり、左右の音道壁面についても、装填スロット3Sの位置で互いの間隔が最も狭くなるように組み合わされている(図1,図4)。そして、4面の音道壁面31,31、32,32のこのような組合せにより、互いに反対方向に向かって開口する第1のホーンH1と第2のホーンH2とがきわめて合理的に形成されるのである。
【0044】
ただし、第1のホーンH1と第2のホーンH2とは、ホーンロード特性が異なるように形成されている。正面視および横断面視のホーン装置30から明らかなように(図2,図3)、本実施の形態のホーン装置30は、ラジアルホーンに近いものであるが、第1のホーンH1は、相対的に音道が長く、カットオフ周波数が低く設定されている。一方、第2のホーンH2は、カットオフ周波数が高く設定されたショートホーンである。ロングホーンは、低音域までを、また、ショートホーンは、中高音域を効率よく拡声するという違いがある。
【0045】
なお、第1のホーンH1と第2のホーンH2における上下の音道壁面31,31および左右の音道壁面32,32は、それぞれ、音道の上下方向と左右方向に延長して切り揃えたような体裁にデザインされ、ホーン装置30正面形態においても(図2)、平面形態においても(図3)、側面形態においても(図4)矩形を呈する端正な外観を実現している。また、下側音道壁面31の下方に延長された左右の音道壁面32,32の部分は、ホーン装置30のスタンド3Dとして利用される。
【0046】
本実施の形態におけるホーン装置30の装填スロット3Sは、携帯音楽プレーヤとしての機能を搭載し、内蔵スピーカからの音声が本体51の下部から放射される形式の携帯電話機50を想定して形成されている。この種の形態電話機50は、流行性が強く、特定機種の携帯電話機50が短期間でデファクトスタンダード的な存在となるため、市場占有率の高い特定機種を想定すれば十分であるからである。
【0047】
装填スロット3Sは、上側の音道壁面31の上方に延長された左右の音道壁面32,32と、携帯電話機50の厚み相当の間隔を保ってその音道壁面間に32,32横設する前後1対の支持板33,33とによって形成されている(図1)。この位置における左右の音道壁面32,32の間隔は、携帯電話機50の幅に合わせて設定され、装填スロット3Sに携帯電話機50を差し込むように装填することにより、装填スロット3Sの開口部が塞がれ、音源室R1が形成されるように設定されている(図4)。形成された音源室R1は、第1のホーンH1と第2のホーンH2とによって共有される。なお、装填スロット3S内には、1対のストッパリブ34,34が配置され、装填された携帯電話機50の下端部を受け止めて位置決めすることができる。
【0048】
なお、装填スロット3Sの第2のホーンH2側の支持板33は、第1のホーンH1と第2のホーンH2間の音道を遮断するように下の音道壁面31に至っており、この部分に第2のホーンH2に音圧を注入するための音孔3Hが形成されている。音孔Hは、第1のホーンH1と第2のホーンH2への音圧配分を担当している。また、装填スロット3S直下の音孔3Hの一部は、下側の音道壁面31には、音孔3Hに接続する状態で小面積の透孔が設けられ、携帯電話機50の充電用コード52を挿通することができる。
【0049】
携帯電話機50の音声は、一次的に音源室R1に放射され、音圧として第1のホーンH1と第2のホーンH2に同時に注入される(図4)。注入された音圧は、第1のホーンH1と第2のホーンH2のホーンロード特性が異なることにより、それぞれ異なる音響特性を有する拡声音P1,P2として第1のホーンH1と第2のホーンH2から反対向きに放射される。
【0050】
そこで、例えば、室内のコーナ部に置かれた机上面T1にホーン装置30を据え置いて第1のホーンH1をリスナーに向けて図示の姿勢で利用するとした場合には(図5)、リスナーに対しては、第1のホーンH1による拡声音P1が直接音として到達するとともに、第2のホーンH2から放射された中高音成分の多い拡声音P2の周囲の壁面や家具等による豊富な反射音成分とが到達するので、リスナーは、間接音成分によって醸成される臨場感豊かな音楽を楽しむことができる。
【0051】
本発明の携帯電話機用のホーン装置30は、殆んどの場合、机上面T1等の任意の平面T2上に載せ置いて利用されると考えられる。そこで、このような利用態様を前提とすることにより、全体構成を簡素化することができる実施の形態について説明する(図6,図7)。
【0052】
ホーン装置30が平面T2上に据え置かれる場合、第1のホーンH1と第2のホーンH2とのいずれか一方、例えば、第2のホーンH2の下側の音道壁面31を省略することができる(図6)。音源室R1から音孔3Hを介して第2のホーンH2側に抜けた音圧は、上側の音道壁面31と左右の音道壁面32,32と平面T2によって拘束されて第1のホーンH1の反対側に放射される。
【0053】
本図に示す形態の場合、第1のホーンH1は、完全なホーンとして機能するが、第2のホーンH2は、完全なホーンとしては機能しない。しかし、第2のホーンH2が、もっぱら間接音成分を放射する態様で使用される場合においては、正しくホーンとして機能する必要はなく、極言すれば何らかの音が出ていれば目的を達成することができるのである。
【0054】
ホーン装置30が平面T2上に据え置かれる場合、第1のホーンH1と第2のホーンH2双方の下側の音道壁面31を省略した状態で第1のホーンH1と第2のホーンH2双方を完全なホーンとして機能させることができる(図7)。
【0055】
本図に示す携帯の場合、第1のホーンH1と第2のホーンH2は、いずれも、左右の音道壁面32,32と上側の音道壁面31との3曲面で取り囲まれ、下側解放の不完全なホーンである。しかし、このようなホーン装置30は、任意の平面T2上に据え置かれることによって下側の開口部が閉じるので、使用上において4面構成の完全なホーンとして機能することができるのである。
【0056】
なお、本形態のホーン装置30においては、第1のホーンH1と第2のホーンH2の上側の音道壁面31は、下側の音道壁面31が平面であると仮定した場合に、ホーンとして必要な音道の断面積逓増率を確保することができる曲面として形成されている。
【0057】
以上の本発明のホーン装置30の実施の形態の説明は、第1のホーンH1と第2のホーンH2が角型ホーンである場合について説明しているが、第1のホーンH1と第2のホーンH2が反対方向に開口するという条件を満たす限りは、ホーンの形式的形状は、角型に限るものではなく、円形ホーンであっても楕円形ホーンであっても、さらには、ホーンの形状が、例えば、円形ホーンから途中で角型に変化するものであってもよい。
【符号の説明】
【0058】
H1 第1のホーン
H2 第2のホーン
P1 第1のホーンの拡声音
P2 第2のホーンの拡声音
30 ホーン装置
R1 音源室
3S 装填スロット
31 上下の音道壁面
32 左右の音道壁面
3D スタンド
T2 任意の平面
50 携帯電話機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯電話機のスピーカ内蔵部側の一端部を差し込むように装填することによって音源室を形成する装填スロットと、形成された前記音源室を共通の音源室とする第1のホーンと第2のホーンとを備えてなり、
前記第1のホーンと第2のホーンとは、前記音源室を挟んで反対方向に開口するように形成され、前記装填スロットに装填した携帯電話機の音声に前記第1のホーンと第2のホーンとの双方によって同時にホーンロードを負荷して反対向きの2方向に拡声音を放射し、いずれか一方のホーンからの拡声音をリスナーに向けて直接音とし、他方のホーンからの拡声音を間接音として利用可能としたことを特徴とする携帯電話機用のホーン装置。
【請求項2】
前記第1のホーンと第2のホーンとは、いずれも上下の音道壁面と左右の音道壁面とによって囲まれた4曲面構成の角型ホーンとして形成され、
前記上下の音道壁面と左右の音道壁面とは、前記第1のホーンから第2のホーンに及んで連続して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の携帯電話機用のホーン装置。
【請求項3】
前記左右の音道壁面が前記上下の音道壁面の下側の音道壁面の下方に延長されて前記第1のホーンと第2のホーンとを所定姿勢で据え置くためのスタンドを兼ねていることを特徴とする請求項2に記載の携帯電話機用のホーン装置。
【請求項4】
前記第1のホーンと第2のホーンとのいずれか一方または双方が、上側の音道壁面と左右の音道壁面との3曲面構成の不完全な角型ホーンとして形成され、任意の平面上に据え置いたときに該平面を下側音道壁面として利用した完全な角型ホーンとして機能することを特徴とする請求項1に記載の携帯電話機用のホーン装置。
【請求項5】
前記第1のホーンと第2のホーンとは、ホーンロード特性が異なるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の携帯電話機用のホーン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−175255(P2012−175255A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33307(P2011−33307)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(597069741)株式会社ブイオーシーダイレクト (16)
【Fターム(参考)】