説明

摂食量低減剤

【課題】 ホップ抽出物の新たな用途を提供すること。
【解決手段】 本発明は、ホップ組織又はその冷水抽出物からなる摂食量低減剤を提供する。本発明は、また、本発明の摂食量低減剤を有効成分として含有し、飼育対象の飼料摂取量を低減できる、飼料添加剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摂食量低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップはビールなどの発泡性アルコール飲料製造に欠かせない原料であり、ビールなどに苦味や香りを与え、泡立ち・泡持ちを向上させるとともに、清澄性を高め、雑菌の繁殖も抑制すると言われている。また、ホップは健胃、消化促進等の薬理作用があり、従来、薬用植物としても利用されてきた。
【0003】
近年、このようなホップの有用性に着目して、その抽出物をビール以外の用途に適用する試みがなされている。例えば、ホップ抽出物を有効成分とする耐熱性好酸性菌増殖抑制剤(特許文献1)、ホップ抽出物を有効成分とする米加工食品用香味改良剤(特許文献2)、ホップ抽出物を含有する入浴剤(特許文献3)、活性酸素消去作用を有するホップ抽出物(特許文献4)等の用途が提案されている。
【0004】
また、ホップ苞抽出物を有効成分として含有する中性脂肪低減剤(特許文献5)やホップ苞抽出物を有効成分として含有するコレステロール代謝制御剤(特許文献6)が知られており、所定のホップ組織の冷水抽出物は抗アレルギー作用を有する(特許文献7及び8)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−137241号公報
【特許文献2】特開2005−269988号公報
【特許文献3】特開平9−067245号公報
【特許文献4】特開平4−202138号公報
【特許文献5】特開2006−111609号公報
【特許文献6】特開2006−151945号公報
【特許文献7】国際公開2006−093194号パンフレット
【特許文献8】国際公開2006−093202号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、ホップ由来の成分で各種機能を発現させる試みがなされているが、天然物であり人体に適用した場合に安全なホップについて、新たな機能を見出すことが期待されている。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ホップの新たな用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ホップ組織又はその冷水抽出物からなる摂食量低減剤を提供する。例えば、ホップ組織又はその冷水抽出物を用いて鶏を飼育すると、産卵性に影響を与えずに飼料摂取量を低減させることができる。すなわち、ホップ組織又はその冷水抽出物により飼料要求率が改善される。
【0009】
上記ホップ組織の冷水抽出物は、アストラガリン、アストラガリンマロニルグルコシド、イソケルシトリン、イソケルシトリンマロニルグルコシド、ケルセチンマロニルグルコシド、ケンフェロールルチノシド、ケンフェロールマロニルグルコシド、ルチン及びフロロアシルフェノン配糖体からなる群より選ばれるフラボノイド配糖体の少なくとも1種を含有することが好ましく、また、上記フロロアシルフェノン配糖体は、フロロイソブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド、フロロ−2−メチルブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド及びフロロイソバレロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0010】
ホップ組織の冷水抽出物が上記フラボノイド配糖体を含有することで、摂食量低減剤としての効果がより顕著に発揮される。
【0011】
ホップ組織としては、ホップの茎、葉、球花又はこれらの乾燥粉砕物を用いることができる。これらの組織から、上記フラボノイド配糖体をより確実に得ることができるため、摂食量低減効果の高い摂食量低減剤を効率的に得ることができる。
【0012】
ホップ組織は、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は、乾燥ホップ球花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部を除いて得られたものであることが特に好ましい。ホップ球花にはホップ苞及びルプリン(油滴状の黄色顆粒)が含まれ、ルプリンにはビールの苦味のもととなる樹脂や香りの成分である精油が含まれるため、ビールなどの製造においてホップ球花の粉砕物からルプリンを多く含む部分を篩い分けて使用し、残りの主に乾燥ホップ苞からなる粉砕物を廃棄してしまうことが多い。
【0013】
したがって、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は、乾燥ホップ球花の粉砕物からルプリンの少なくとも一部を取り除いて得られたホップ組織を原料とすることで、摂食量低減作用を有するホップ組織の冷水抽出物を効率よく得ることが可能となると共に、産業廃棄物の新たな利用法が提供される。
【0014】
乾燥ホップ球花の粉砕物としては、乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物を適用できる。ビール製造には生のホップ球花を使用する場合もあるが、流通及び保存の利便性の観点から乾燥ホップ球花を凍結させることも多い。そのため、ホップ球花の凍結乾燥物の粉砕物を原料とすれば、より簡単かつ大量に原料を入手することで、摂食量低減作用を有する冷水抽出物を効率よく得ることが可能となる。
【0015】
ホップ組織としては、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該ホップ球花から除いて得られたホップ残渣を用いることもできる。ビール製造において、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出により抽出されるホップエキスだけ使用し、残りの残渣を廃棄してしまう場合がある。この場合、抽出される物質は主にルプリンに含まれる樹脂や精油であり、乾燥ホップ球花中の水可溶性成分は殆ど抽出されずに残渣に残ることとなる。したがって、上記ホップ残渣を原料とすることで、摂食量低減作用を有する冷水抽出物を効率よく得ることが可能となる。また、産業廃棄物に新たな用途を提供することになる。
【0016】
本発明はまた、上記摂食量低減剤を有効成分として含有し、飼育対象の飼料摂取量を低減できる飼料添加剤を提供する。このような飼料添加剤によれば、対象動物の成育性に影響を与えずに飼料摂取量を減少させることができる。すなわち、飼料利用効率を向上させることが可能となる。
【0017】
飼育対象は鶏であることが好ましい。本発明の飼料添加剤を産卵鶏の飼育に使用すれば、産卵性に影響を与えずに飼料摂取量を低減させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の摂食量低減剤によれば、食事制限を特に課さなくても摂食量を減少させることが可能となる。また、本発明の飼料添加剤によれば、飼育対象の生育性に影響を与えず飼料摂取量を減少させ、飼料要求率を改善させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の摂食量低減剤及び飼料添加剤の好適な実施形態について説明する。
【0020】
本発明の摂食量低減剤の摂食量低減効果は、例えば以下の方法で判定できる。すなわち、投与の対象がヒトである場合、水及び食事を制限することなく食事を与えることにより、本発明の摂食量低減剤を投与する前に比べて、投与する間又は投与後に、食事の摂取量が3%以上、好ましくは5%以上減少すれば、摂食量低減作用があると判断できる。なお、食事量の摂取量は、例えば、摂取した食事の質量、容量、又はカロリー換算量などによって計算される。
【0021】
投与の対象が家畜である場合、体重がほぼ同程度の家畜を選び、これらに水及び飼料の摂取を制限することなく同様に与えることにより、本発明の摂食量低減剤を投与しない群に比べて、投与した群の飼料の摂取量が3%以上、好ましくは5%以上減少すれば、摂食量低下作用があると判断できる。飼料摂取量は、例えば、投与した飼料と残った飼料の質量の差によって得られる。なお、水の摂取量は食事又は飼料の摂取量とはみなさない。
【0022】
摂食量低減剤の原料となるホップとしては、あらゆる品種のホップを適用できる。しかしながら、得られる抽出成分の摂食量低減効果が高いこと、また一般的に入手しやすいことから、チェコ産ザーツ種、ドイツ産ハラタウ・トラディション種、国産フラノ18号、中国産等のビール醸造用ホップ品種が好ましく、チェコ産ザーツ種が、ホップとして特に好ましい。
【0023】
本発明におけるホップ組織とは、ホップの組織のいずれか又はその一部を意味する。冷水抽出に用いるホップ組織は、茎、葉又は球花であってもよく、球花が好ましく、ホップ苞がより好ましい。また、これらの組織の乾燥粉砕物も好ましく使用される。乾燥粉砕物又は乾燥組織の粉砕物とは、例えば、ホップ組織を乾燥及び粉砕の2つの工程によって処理して得ることのできるものであるが、2つの工程の順番は特に限定されない。なお、乾燥及び粉砕の工程については後述の通りである。
【0024】
本発明において使用されるホップ組織は、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は、乾燥ホップ球花の粉砕物からルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除かれたものであることがより好ましい。ホップ苞は、ホップ球花を構成する苞葉のことであり、球花からルプリン(油滴状の黄色顆粒)の少なくとも一部を取り除いて得ることができる。ビール等発泡性アルコール飲料の製造に用いるホップペレットを加工する際に、ホップ球花からルプリンを多く含む部分を篩い分けて使用するため、規定の大きさ(およそルプリンの大きさ)に粉砕されずに残ったホップ苞は廃棄されてしまう。このため、乾燥ホップ苞の粉砕物、又は乾燥ホップ球花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部が除かれたものを原料とすることは、産業廃棄物の新たな利用法を提供するものとなる。特に、ホップペレットを加工する際に規定の大きさ(およそルプリンの大きさ)に粉砕されずに残ったホップ苞が好ましく使用される。
【0025】
上記のようなホップ組織は、例えば、ホップ球花を乾燥して乾燥ホップ球花を得る乾燥工程と、乾燥ホップ球花を粉砕して乾燥ホップ球花の粉砕物を得る粉砕工程と、この粉砕物からルプリンの大きさ以下の粉砕物を取り除く選別工程と、を備える製造方法により得られる。乾燥工程では、ホップ球花を100℃以下の温度で乾燥させ、ホップ球花を保存可能な程度にまで水分を除去すればよいが、55℃以下の温度で水分含量を7〜9%まで乾燥することが好ましい。粉砕工程では、ホップ球花を効率的に微粉状に粉砕すればよく、粉砕には、例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル等の粉砕機を用いることができる。選別工程では、粉砕物をふるいにかけ、例えば、長径が0.1mm以上の粉砕物を「ルプリンを超える大きさ」のものとして選別することができる。この場合において、ふるいを通過させない大きさを長径0.3mm以上とすることが好ましく、長径0.5mm以上とすることがより好ましい。乾燥ホップ球花の粉砕物からルプリンの大きさ以下の粉砕物を取り除くには、例えば、目開き0.1、0.3又は0.5mmのふるいで乾燥ホップ球花の粉砕物をふるい分け、ふるいを通過しなかった粉砕物を回収すればよい。
【0026】
また、ホップ組織として用いる乾燥ホップ球花の粉砕物は、乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物であることが好ましい。乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物は、ホップ球花を乾燥、凍結、粉砕の3つの工程によって処理し得ることができるものであるが、これらの3工程の順番は特に限定されない。乾燥及び粉砕工程は上記の通りであり、凍結工程の方法は特に制限されないが、凍結温度が−10℃以下であることが好ましく、−35℃以下であることがより好ましい。
【0027】
ホップ組織としては、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該ホップ球花から除いて得られたホップ残渣を用いてもよい。このようなホップ残渣は、ビール等の製造に用いられずこれまで殆ど廃棄されてしまっていた。このような産業廃棄物だったホップ残渣を原料とすることで、産業廃棄物の新たな用途を提供することができる。有機溶媒抽出に用いる有機溶媒としては、例えば、アルコール又はヘキサンが挙げられ、炭素数1〜4の低級アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。超臨界流体抽出に用いる超臨界流体としては、例えば、二酸化炭素、水、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ペンタン、メタノール、エタノールが挙げられ、二酸化炭素が好ましい。
【0028】
本発明において使用されるホップ組織は、発泡性アルコール飲料製造後のホップ残渣(発泡性アルコール飲料の製造のために組織や成分の一部が除去されたホップをいう。但し、冷水抽出後の残渣を除く。)であってもよい。
【0029】
ここで、発泡性アルコール飲料とは、ビール、発泡酒又は発泡性雑酒をいう。ビールとは、麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの又は麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品(麦、米、とうもろこし、こうりゃん、ばれいしょ、でんぷん、糖類、又は財務省で定める苦味料若しくは着色料)を原料として発酵させたものであって、麦芽使用率が2/3以上であるのものをいい、発泡酒とは、麦芽又は麦を原料の一部とした酒類で発泡性を有する雑酒であって、麦芽使用率が2/3未満であるのものをいい、雑酒とは、原料に麦芽を使用せずに、ビールと同様の製造方法で得られるアルコール飲料であり、例えば、麦芽の代わりにエンドウタンパクを原料としたアルコール飲料などが挙げられる。
【0030】
本発明におけるホップ組織の冷水抽出物は、ホップ組織を冷水で抽出する工程を備える製造方法により得られる。ここで「冷水」とは室温以下の水を意味し、通常、0℃超50℃以下の水のことをいう。冷水の温度は、0℃超40℃以下が好ましく、10℃以上30℃以下がより好ましく、20±5℃(さらには20±3℃)が特に好ましい。このような温度の冷水を用いることによって、抽出が効率的になり、抽出物収量が多くなる。0℃以下の冷水を用いると、冷却コストが増大してしまい、50℃超の水を用いると、本発明の効果以外の効果を奏する成分までもが溶出されてしまう傾向がある。なお、抽出時間を短縮するためには、水に少量のアルコール、好ましくはエタノールを、10質量%以下添加することができる。
【0031】
ホップ組織を冷水で抽出する方法としては、植物から天然物を水抽出する方法が採用でき、例えば、ホップ組織と一定量の冷水とを容器に入れ、適宜撹拌しながら所定時間静置し、抽出液を濾過して残渣を取り除く方法が挙げられる。混入する残渣や不純物等を完全に取り除くためには、濾過した抽出液をさらに遠心分離すればよく、その上澄み(遠心上澄み)を冷水抽出物として使用できる。なお、得られた冷水抽出物は、濃縮し、乾燥して使用することもできる。
【0032】
ホップ組織の冷水抽出物は、精製されたものであってもよい。例えば、合成吸着剤を充填したカラムに通して、精製することができる。合成吸着剤としては、例えば、Amberlite XAD−4、7及び16(オルガノ社)、活性炭、ポリビニルポリピロリドン(PVPP;ポリフェノール吸着剤)が挙げられ、この中でもAmberlite XAD−4が好ましく用いられる。具体的には、ホップ組織の冷水抽出物を、合成吸着剤を充填したカラムに通し、その吸着成分を、例えば、水及びメタノールの混合溶媒で溶出させ、溶出した画分を使用できる。
【0033】
ホップ組織の冷水抽出物は、典型的には、アストラガリン、アストラガリンマロニルグルコシド、イソケルシトリン、イソケルシトリンマロニルグルコシド、ケルセチンマロニルグルコシド、ケンフェロールルチノシド、ケンフェロールマロニルグルコシド、ルチン及びフロロアシルフェノン配糖体からなる群より選ばれるフラボノイド配糖体の少なくとも1種を含有する。
【0034】
ここで、フロロアシルフェノン配糖体は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化1】



[式(1)中、Rはイソプロピル基、イソブチル基又はsec−ブチル基を示す。]
【0035】
式(1)において、Rがイソプロピル基である場合は、フロロアシルフェノン配糖体は下記式(2)で表されるフロロイソブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドであり、Rがイソブチル基である場合は、フロロアシルフェノン配糖体は下記式(3)で表されるフロロ−2−メチルブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドであり、Rがsec−ブチル基である場合は、フロロアシルフェノン配糖体は下記式(4)で表されるフロロイソバレロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドである。
【0036】
【化2】



【0037】
本発明の摂食量低減剤は、摂食量(飼料摂取量)を低減させる作用を示すことから、摂食障害に関連する疾患、特に過食症や肥満症などの予防や症状の緩和に好ましく使用される。また、これらの疾患の予防又は症状の緩和の目的で、医薬品として特に、過食症や肥満症の予防剤又は治療剤に製造することができる。
【0038】
このような医薬品における摂食量低減剤の配合量は、医薬品の全質量基準で0.0001〜100質量%が好ましく、0.01〜100質量%がより好ましく、1〜100質量%が更に好ましく、5〜100質量%が特に好ましい。また、医薬品は、本発明の摂食量低減剤の他、浸潤剤、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、分散助剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、賦形剤、防菌防黴剤、消臭・脱臭剤、酵素、精製水、アルコール等を含有していてもよい。
【0039】
本発明の摂食量低減剤は、食品添加物として、特定保健用食品、特殊栄養食品、栄養補助食品、健康食品、機能性食品や病者用食品などの飲食物に配合することができ、化粧品添加物として、スキンケア製品、ファンデーションやメイクアップ製品などの化粧品に添加することができる。
【0040】
本発明の飼料添加剤は、上述した摂食量低減剤を有効成分として含有し、飼育対象の飼料摂取量を低減できるものである。この飼料添加剤を飼料に添加することにより、飼育対象の生育性に影響を与えることなく、飼育対象の飼料摂取量を減少できる。すなわち、飼料の利用効率を向上させることができる。
【0041】
このような飼料添加剤における摂食量低減剤の配合量は、飼料添加剤の全質量基準で0.001〜100質量%がよく、0.001〜50質量%が好ましく、0.01〜30質量%がより好ましく、0.1〜20質量%が更に好ましく、0.5〜10質量%が特に好ましい。また、飼料添加剤は、本発明の摂食量低減剤の他、浸潤剤、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、分散助剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、賦形剤、防菌防黴剤、消臭・脱臭剤、酵素、精製水、アルコールを含有していてもよい。
【0042】
飼料添加剤は、例えば、豚、牛、羊、山羊、鹿、馬、兎などの家畜、鶏、鴨、ガチョウ、ダチョウ、鶉などの家禽、又は犬、猫、モルモットなどのペットを飼育対象とすることができる。飼育対象は、産卵鶏が特に好ましい。産卵鶏に本発明の飼料添加剤を添加した飼料を給与した場合、産卵性に影響を与えず飼料の摂取量を低減させることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
(製造例1)
ホップ(チェコ産ザーツ種)のタイプ90ペレット100kgを蒸留水1000Lに入れ、20℃にて適宜撹拌しながらペレットを消失させて一晩静置した。これを、15分間遠心分離(コクサン社製)した。遠心分離後、上澄みを回収し、それをさらに濃縮して、15kgの濃縮液(以下「冷水抽出物A」という)を得た。
【0045】
得られた冷水抽出物Aの一部を分液ロートに移し、ヘキサンを加えヘキサン移行成分を廃棄した。さらに、水層に酢酸エチルを加え、酢酸エチル移行成分を廃棄した。最後に水層にn−ブタノールを加えブタノール抽出操作を3回繰り返して得たブタノール層を合併し、減圧濃縮してフラボノール画分(ホップ組織の冷水抽出物から分離されたフラボノイド配糖体)を得た。
【0046】
得たフラボノール画分を、まず、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。HPLCによる分析は、C18カラム(Waters Symmetry)を40℃にて使用し、流速を0.2mL/分とした。移動相は、0.05%TFA/H2Oを1液とし、アセトニトリルを2液とし、2液の割合を10%〜50%まで16分間で変化させるリニアグラジェントとした。検出は350nmのUV検出器で行った。
【0047】
さらに、上記フラボノール画分の各ピークを分取用HPLCで分離し、各ピークの成分を同定した。HPLCによる分取用分離は、C18カラム(Waters SunFire)を40℃にて使用し、流速を6mL/分とした。移動相は、10%MeCNを10分間保持し、さらに150分間かけて60%MeCNまで変化させるリニアグラジェントとした。検出は350nmのUV検出器で行った。HPLCの分析結果を図1に示した。
【0048】
図1に示すように、ホップペレット抽出物のフラボノール画分には主要ピークが3つ存在し、これらはケンフェロール配糖体(アストラガリン及びケンフェロールマロニルグルコシド)とケルセチンマロニルグルコシドであることが同定された。詳しくは、図1の1で示すピークはケンフェロールマロニルグルコシド、2で示すピークはアストラガリン、3で示すピークはケルセチンマロニルグルコシドであった。なお、図1の4で示すピークはルチン、5で示すピークはイソケルシトリン、6で示すピークはケンフェロールルチノシドであった。
【0049】
得られた冷水抽出物A10kgとデキストリン2kgとを混合し、その混合物をスプレードライヤーで粉化し、乾燥物A4kgを得た。
【0050】
(実施例1)
乾燥物Aによる鶏の産卵に及ぼす効果について試験を行った。供試鶏は、孵化後約7ヶ月の褐色卵系コマーシャル鶏(ボリスブラウン種)で、ほぼ同等の産卵状況にある鶏を240羽選択した。鶏を平均体重がほぼ均一になるように群分けし、20羽を1群とし、各試験区につき3群(3反復)試験した。各試験群にはそれぞれ、表1に示す添加物及び添加量に従って、通常の成鶏用飼料(とり王17号(株)東海くみあい飼料製)に添加物が均一に混入されたものを56日間給与した。なお、対照区の飼料には添加物を混入しなかった。なお、試験の期間中、鶏に飼料及び水を自由に摂取させ、その他の飼育条件は産卵鶏の通常の飼育条件に従った。
【0051】
【表1】



【0052】
ホップ残渣(乾燥ホップ球花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部を除いて得られたもの)又は乾燥物Aを添加したことによる鶏の成育、産卵及び飼料摂取に及ぼす影響を、以下の指標によって評価した。その結果を以下の表2に示した。
期間中の産卵重量(g)=期間中に生産された卵重量の合計値(g)
産卵率(%)=(期間中の産卵個数(個)/延べ羽数(羽))×100%
平均卵重(g)=期間中の産卵重量(g)/期間中の産卵個数(個)
産卵日量(g/日)=期間中の産卵率(%)×平均卵重(g)
飼料摂取量(g/羽)=(期間中の飼料投与量(g)−残飼量(g))/(延べ羽数(羽))
飼料要求率=(期間中の飼料摂取量(g)/期間中の産卵重量(g))
【0053】
【表2】



【0054】
表2から、ホップ残渣又は乾燥物Aを与えた試験区は、通常の飼料を与えた対照区と比較して、平均産卵率、平均卵重、産卵日量はほぼ同等であった。また生存率は100%であった。一方、飼料摂取量をみると、対照区と比較して、試験区1〜3では飼料摂取量が有意に低下しており、飼料要求率が低下したことが分かった(5%水準で有意差あり)。すなわち、飼料添加物としてホップ残渣又は乾燥物Aを添加すると、産卵性が変わらないにもかかわらず飼料要求率が改善されたことが分かった。
【0055】
また、ホップ残渣又は乾燥物Aによる鶏の体重増加率についても測定し、その結果を以下の表3に示した。表3から、試験終了時にいずれの試験区においても体重の増加が認められたが、ホップ残渣試験区、乾燥物A試験区では体重増加率が低かった。
【0056】
【表3】



【0057】
また、ホップ残渣又は乾燥物Aによる鶏の身体活動に及ぼす影響についても評価し、その結果を以下の表4に示した。身体活動数には、マイクロミニ型アクティグラフ(サニタ商事)を用いて5日間連続測定した。表4から、ホップ残渣試験区、1%乾燥物A試験区では、高い値が認められたが、明らかな傾向は見られなかった。
【0058】
【表4】



【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】ホップペレット(チェコ産ザーツ種)から水抽出したフラボノール画分のHPLCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホップ組織又はその冷水抽出物からなる摂食量低減剤。
【請求項2】
前記ホップ組織の冷水抽出物は、アストラガリン、アストラガリンマロニルグルコシド、イソケルシトリン、イソケルシトリンマロニルグルコシド、ケルセチンマロニルグルコシド、ケンフェロールルチノシド、ケンフェロールマロニルグルコシド、ルチン及びフロロアシルフェノン配糖体からなる群より選ばれるフラボノイド配糖体の少なくとも1種を含有する、請求項1記載の摂食量低減剤。
【請求項3】
前記フロロアシルフェノン配糖体は、フロロイソブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド、フロロ−2−メチルブチロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシド及びフロロイソバレロフェノン−2−O−β−D−グルコピラノシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項2記載の摂食量低減剤。
【請求項4】
前記ホップ組織は、ホップの茎、葉、球花又はこれらの乾燥粉砕物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摂食量低減剤。
【請求項5】
前記ホップ組織は、乾燥ホップ苞の粉砕物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摂食量低減剤。
【請求項6】
前記ホップ組織は、乾燥ホップ球花の粉砕物から、ルプリンの大きさ以下の粉砕物の少なくとも一部を除いて得られたものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摂食量低減剤。
【請求項7】
前記乾燥ホップ球花の粉砕物は、乾燥ホップ球花の凍結物の粉砕物である、請求項6記載の摂食量低減剤。
【請求項8】
前記ホップ組織は、ホップ球花から有機溶媒抽出又は超臨界流体抽出によって抽出される物質の少なくとも一部を、当該ホップ球花から除いて得られたホップ残渣である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の摂食量低減剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の摂食量低減剤を含有し、飼育対象の飼料摂取量を低減する飼料添加剤。
【請求項10】
前記飼育対象は産卵鶏である、請求項9記載の飼料添加剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−18997(P2009−18997A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181281(P2007−181281)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(303040183)サッポロビール株式会社 (150)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】