説明

摩擦ローラ式減速機

【課題】使用状態での1対のカム板15a、15a同士の間隔が適正値になる様にする為、組立作業を行う際に、入力軸2aに対するローディングナット28の軸方向に関する螺着位置を適切にする事が容易な構造を実現する。
【解決手段】前記入力軸2aの一部で、1対の太陽ローラ素子8c、8cの内径側に位置する部分に外嵌したスリーブ41を、前記両カム板15a、15a同士の間に挟持する。この状態で、これら両カム板15a、15aの互いに反対側となる他側面に、段差面26と前記ローディングナット28の側面とを当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電気自動車の駆動系に組み込んだ状態で、電動モータから駆動輪にトルクを伝達する、摩擦ローラ式減速機の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来技術の説明]
近年普及し始めている電気自動車の利便性を向上させるべく、充電1回当りの走行可能距離を長くする為に、電動モータの効率を向上させる事が重要である。この効率を向上させるには、高速回転する小型の電動モータを使用し、この電動モータの出力軸の回転を減速してから駆動輪に伝達する事が効果がある。この場合に使用する減速機のうち、少なくとも前記電動モータの出力軸に直接繋がる第一段目の減速機は、運転速度が非常に速くなるので、運転時の振動及び騒音を抑える為に、摩擦ローラ式減速機を使用する事が考えられる。この様な場合に使用可能な摩擦ローラ式減速機として、例えば特許文献1〜3に記載されたものが知られている。このうちの特許文献3に記載された従来構造に就いて、図5〜7により説明する。
【0003】
この摩擦ローラ式減速機1は、入力軸2と、出力軸3と、太陽ローラ4と、環状ローラ5と、それぞれが中間ローラである複数個の遊星ローラ6、6と、ローディングカム装置7とを備える。
このうちの太陽ローラ4は、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子8a、8bを前記入力軸2の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、このうちの太陽ローラ素子8aを前記入力軸2に対する相対回転を可能に配置して成る。前記両太陽ローラ素子8a、8bの外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としている。即ち、この転がり接触面の外径は、軸方向中間部で小さく、両端部に向かうに従って大きくなる。
【0004】
又、前記環状ローラ5は、全体を円環状としたもので、前記太陽ローラ4の周囲にこの太陽ローラ4と同心に配置した状態で、図示しないハウジング等の固定の部分に支持固定している。又、前記環状ローラ5の内周面は、軸方向中央部に向かうに従って内径が大きくなる方向に傾斜した転がり接触面としている。
又、前記各遊星ローラ6、6は、前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面との間の環状空間9の円周方向複数箇所に配置している。前記各遊星ローラ6、6は、それぞれが前記入力軸2及び前記出力軸3と平行に配置された、自転軸である遊星軸10、10の周囲に、ラジアルニードル軸受を介して、回転自在に支持している。これら各遊星軸10、10の基端部は、前記出力軸3の基端部に結合固定された、支持フレームであるキャリア11に、支持固定されている。前記各遊星ローラ6、6の外周面は、母線形状が部分円弧状の凸曲面で、それぞれ前記太陽ローラ4の外周面と前記環状ローラ5の内周面とに転がり接触している。
【0005】
更に、前記ローディングカム装置7は、一方の太陽ローラ素子8aと、前記入力軸2との間に設けている。この為に、この入力軸2の中間部に、止め輪12により支え環13を係止し、この支え環13と前記一方の太陽ローラ素子8aとの間に、この支え環13の側から順番に、皿ばね14と、カム板15と、それぞれが転動体である複数個の玉16、16とを設けている。そして、互いに対向する、前記一方の太陽ローラ素子8aの基端面と前記カム板15の片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設けている。これら各カム面17、18はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って漸次浅くなる形状を有する。
【0006】
この様なローディングカム装置7は、前記入力軸2が停止している状態では、前記各玉16、16が、図7の(A)に示す様に、前記各カム面17、18の最も深くなった部分に位置する。この状態では、前記皿ばね14の弾力により、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。これに対して、前記入力軸2が回転すると、前記各玉16、16が、図7の(B)に示す様に、前記各カム面17、18の浅くなった部分に移動する。そして、前記一方の太陽ローラ素子8aと前記カム板15との間隔を拡げ、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。この結果、この一方の太陽ローラ素子8aは前記他方の太陽ローラ素子8bに向け、前記皿ばね14の弾力と、前記各カム面17、18に対して前記各玉16、16が乗り上げる事により発生する推力とのうちの、大きな方の力で押圧されつつ回転駆動される。
【0007】
上述の様な摩擦ローラ式減速機1の運転時には、前記ローディングカム装置7が発生する軸方向の推力により、前記両太陽ローラ素子8a、8bの間隔が縮まる。そして、これら両太陽ローラ素子8a、8bにより構成される前記太陽ローラ4の外周面と、前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧が上昇する。この面圧上昇に伴ってこれら各遊星ローラ6、6が、前記太陽ローラ4及び前記環状ローラ5の径方向に関して外方に押される。すると、この環状ローラ5の内周面と前記各遊星ローラ6、6の外周面との転がり接触部の面圧も上昇する。この結果、前記入力軸2と前記出力軸3との間に存在する、動力伝達に供されるべき、それぞれがトラクション部である複数の転がり接触部の面圧が、前記両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じて上昇する。
【0008】
この状態で前記入力軸2を回転させると、この回転が、前記太陽ローラ4から前記各遊星ローラ6、6に伝わり、これら各遊星ローラ6、6がこの太陽ローラ4の周囲で、自転しつつ公転する。これら各遊星ローラ6、6の公転運動は、前記キャリア11を介して前記出力軸3により取り出せる。前記各トラクション部の面圧は、前記両軸2、3同士の間で伝達すべきトルクの大きさに応じた適正なものとなり、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、或いは、これら各トラクション部の面圧が過大になる事に伴う転がり抵抗が徒に増大する事を防止できる。
【0009】
上述の様な従来の摩擦ローラ式減速機1は、次の(1)(2)の点で改良の余地がある。
(1) ローディングカム装置7の効率が必ずしも良くない。具体的には、押圧力の確保とストロークの確保とを両立させる面から不利である。より具体的には、仮に前記入力軸2のトルク伝達方向が一定である場合でも、前記皿ばね14の弾力を押圧力の確保に有効利用できる設計を行えない。
(2) 耐久性確保が難しく、長期間に亙って安定した性能を維持しにくい。具体的には、前記皿ばね14がへたり易く、へたった場合には、前記摩擦ローラ式減速機1の起動時に、前記各トラクション部で過大な滑りが発生する。
これら(1)(2)の様な問題が発生する理由に就いて、以下に説明する。
【0010】
前記従来構造のローディングカム装置7は、前記各カム面17、18と前記各玉16、16との係合に基づくカム式推力発生機構と、予圧付与の為の前記皿ばね14とを、押圧力の作用方向に関して互いに直列に配置している。そして、前記摩擦ローラ式減速機1が停止した状態では、前記皿ばね14の弾力(以下「ばね押圧力」とする)に基づいて、前記各トラクション部に、必要最低限を上回る程度の面圧を付与する。この状態から前記摩擦ローラ式減速機1が起動すると、前記各玉16、16が前記各カム面17、18の浅い側に向けて移動し(乗り上げ)、前記カム式推力発生機構部分で発生する押圧力(以下「カム部押圧力」とする)が上昇する。このカム部押圧力の上昇に伴って前記皿ばね14が、軸方向寸法が縮む方向に弾性変形するので、この皿ばね14が完全に押し潰されるまでの間は、前記ばね押圧力のみで、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向け押圧する。従って、前記皿ばね14が完全に押し潰されるまでの間は、前記ローディングカム装置7全体としての押圧力(以下「総合押圧力」とする)は、前記皿ばね14の弾力に見合う大きさになる。そして、この皿ばね14が完全に押し潰されてから、更に前記カム式推力発生機構部分で発生する押圧力が上昇すると、前記総合押圧力は、前記カム部押圧力となる。
【0011】
結局、このローディングカム装置7全体としての押圧力の大きさは、前記ばね押圧力と前記カム部押圧力とのうちの大きい方の値になる。このカム部押圧力が大きくなった状態で、前記皿ばね14の弾力が、ローディングカム装置7全体としての押圧力を大きくする事には寄与しない。従って、前記入力軸2に加えられるトルクが大きくなった状態では、前記カム部押圧力のみで、前記各トラクション部の面圧を確保する必要がある。このカム部押圧力は、前記各カム面17、18の円周方向に関する傾斜角度を緩くすれば確保できるが、その分、前記一方の太陽ローラ素子8aを前記他方の太陽ローラ素子8bに向けて移動させるストロークを確保する面からは不利になる。図5に示した従来構造の場合、前記カム部押圧力が増大しつつ前記皿ばね14を押し潰す過程で、前記カム板15が前記他方の太陽ローラ素子8bから離れる方向に変位する。この為、元々前記ストローク確保の面から不利である。このストロークを十分に確保できないと、前記各トラクション部の面圧を確保できなくなる可能性がある為、大きなトルクを伝達可能な摩擦ローラ式減速機1を設計する面からは不利になる。
【0012】
又、金属ばねの分野で広く知られている様に、前記皿ばね14を、完全に平板状にまで押し潰す状態で繰り返し使用すると、この皿ばね14の耐久性を確保しにくい。具体的には、比較的短期間の間にこの皿ばね14の弾性が低下し(へたり)、前記入力軸2に加えられるトルクが小さい状態で、前記各トラクション部の面圧を十分に確保できなくなり、これら各トラクション部で過大な滑りが発生し易くなる。この様な原因での皿ばね14のへたりは、この皿ばね14の弾性圧縮量を制限するストッパ機構を設ける事により防止できるが、特許文献3にはその様な構造は記載されていない。
【0013】
[先発明の説明]
以上に述べた様な問題{前記(1)(2)の様な問題}を解消できる摩擦ローラ式減速機として本発明者等は先に、図8〜15に示す様な摩擦ローラ式減速機1aを発明した。
【0014】
この先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aは、入力軸2aにより太陽ローラ4aを回転駆動し、この太陽ローラ4aの回転を、複数個の中間ローラ19、19を介して環状ローラ5aに伝達し、この環状ローラ5aの回転を出力軸3aから取り出す様にしている。前記各中間ローラ19、19は、それぞれの中心部に設けた自転軸20、20を中心として自転するのみで、前記太陽ローラ4aの周囲で公転する事はない。この太陽ローラ4aは、互いに同じ形状を有する1対の太陽ローラ素子8c、8cを互いに同心に組み合わせて成り、これら両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に、1対のローディングカム装置7a、7aを設置している。これら各構成部材は、入力側軸受ケース21(図8〜9には図示省略。後述する図4参照)及び出力側軸受ケース22を含んで構成される、全体構成の図示を省略したハウジング内に収納している。
【0015】
前記入力軸2aの基半部(図8に於ける右半部)は前記入力側軸受ケース21の内側に、複列玉軸受ユニット23により、前記出力軸3aは前記出力側軸受ケース22の内側に、複列玉軸受ユニット24により、それぞれ回転自在に支持している。前記入力軸2aと前記出力軸3aとは、互いに同心に配置されている。又、この出力軸3aの基端部は連結部25により、前記環状ローラ5aと連結している。尚、本例の場合、この環状ローラ5aの内周面は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面としており、前記ハウジングの内側で前記太陽ローラ4aの周囲部分に、この太陽ローラ4aと同心に配置している。
【0016】
前記両太陽ローラ素子8c、8cは、前記入力軸2aの先半部の周囲に、この入力軸2aと同心に、この入力軸2aに対する相対回転を可能に、且つ、互いの先端面(互いに対向する面)同士の間に隙間を介在させた状態で配置している。又、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する1対のカム板15a、15aは、前記入力軸2aの中間部と先端寄り部分との2箇所位置で、前記両太陽ローラ素子8c、8cを軸方向両側から挟む位置に、それぞれ前記入力軸2aに対する軸方向変位及び回転を阻止した状態で配置して、この入力軸2aと同期して回転する様にしている。又、前記両カム板15a、15aの互いに反対側面を、それぞれ前記入力軸2aの中間部に形成した段差面26と、この入力軸2aの外周面の先端寄り部分に形成した雄ねじ部27に螺着したローディングナット28の側面とに突き当てて、この入力軸2aに対する前記両カム板15a、15aの軸方向の位置決めを図っている。そして、互いに対向する、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面と前記両カム板15a、15aの片側面との、それぞれ円周方向複数箇所ずつに、被駆動側カム面17、17と駆動側カム面18、18とを設け、これら各カム面17、18同士の間にそれぞれ玉16、16を挟持して、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成している。これら各カム面17、18の形状に就いては、基本的には、前述した従来構造の場合と同様で構わないが、要求される性能に応じて適宜異ならせる事は自由である。何れにしても前記各カム面17、18は、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化するもので、円周方向中央部で最も深く、同じく両端部に向かうに従って浅くなる。
【0017】
前記両ローディングカム装置7a、7aを前記太陽ローラ4aの軸方向両側に配置する事で、前記入力軸2aにトルクが入力されると、次の様にして、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士の転がり接触部である、各トラクション部の面圧を上昇させる。先ず、前記入力軸2aにトルクが入力されていない状態では、図10の(A)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16が、前記各カム面17、18の底部若しくは底部に近い側に存在する。この状態では、前記両ローディングカム装置7a、7aの厚さ寸法が小さく、前記両太陽ローラ素子8c、8c同士の間隔が拡がっている。この状態では、前記各中間ローラ19、19が、前記太陽ローラ4a及び前記環状ローラ5aの径方向に関して外方に押される事はないか、仮に予圧ばねの弾力等により押されたとしても、押される力は小さい。
【0018】
この状態から、前記入力軸2aにトルクが入力される(前記摩擦ローラ式減速機1aが起動する)と、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、図10の(B)に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さが増大する。即ち、これら両ローディングカム装置7a、7aはそれぞれ、前記入力軸2aの回転に伴って、前記両太陽ローラ素子8c、8cのうち、自身に隣接して配置された太陽ローラ素子8cを、相手方の太陽ローラ素子8cに向けて軸方向に押圧しつつ回転させる。そして、これら両太陽ローラ素子8c、8cが、前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に関して、前記各中間ローラ19の内側に食い込み、これら各中間ローラ19を、この径方向に関して外方に押す。この結果、前記各トラクション部の面圧が上昇して、これら各トラクション部に過大な滑りを発生させる事なく、前記太陽ローラ4aから前記環状ローラ5aに動力を伝達できる。
【0019】
前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に前記各中間ローラ19、19は、それぞれの自転軸20、20を中心として回転すると同時に、伝達トルクの変動に伴って前記摩擦ローラ式減速機1aの径方向に変位する。この様な、前記各中間ローラ19、19の自転及び径方向変位を円滑に行わせる為、図示の先発明構造の場合には、次の様な構造により、これら各中間ローラ19、19を、前記環状ローラ5aの内周面と前記太陽ローラ4aとの間の環状空間9a内に設置している。即ち、前記各中間ローラ19、19は、前記ハウジング内に支持固定されるキャリア29に対し、これら各中間ローラ19、19と同数の揺動腕30、30により、回転及びこのキャリア29の径方向に関する若干の変位を自在に支持している。
【0020】
このうちのキャリア29は、円輪状の連結板部31と、この連結板部31の軸方向片側面の円周方向等間隔複数箇所(図示の例では3箇所)から前記各中間ローラ19、19の設置側に向けて、前記キャリア29の軸方向に対し平行に突出した、柱部32、32とから成る。又、前記各揺動腕30、30は、円周方向に隣り合うこれら各柱部32、32同士の間部分に設置されていて、前記キャリア29の周方向に関して一端部を、前記連結板部31の軸方向片側面にそれぞれの基端部を結合固定した揺動支持軸33、33を中心とする、揺動変位を自在としている。前記各中間ローラ19、19は、上述の様な各揺動腕30、30の中間部に設けられた枠状の保持部34、34に、それぞれ1対ずつの玉軸受35、35により、回転自在に支持している。
【0021】
前記キャリア29は、前記ハウジング内に設けた、固定の支持壁或いは支持ブラケットに固定する。この為に、前記各柱部32、32の先端面のうちで、前記キャリア29の径方向に関して内外両端寄り部分に、それぞれスタッド45a、45bを固設している。これら各スタッド45a、45bは、前記摩擦ローラ式減速機1aを前記ハウジング内に設置した状態で、前記支持壁或いは支持ブラケットに設けた通孔に挿通し、それぞれの先端部でこの支持壁或いは支持ブラケットの反対側面から突出した先端部に、ナットを螺合し更に締め付ける。
【0022】
前記各中間ローラ19、19の外周面は、軸方向中間部を単なる円筒面とし、軸方向両側部分を、それぞれ前記両太陽ローラ素子8c、8cの外周面と同方向に同一角度傾斜した、部分円すい凸面状の傾斜面としている。従って、前記各ローラ4a、5a、19の周面同士は互いに線接触し、前記各トラクション部の接触面積を確保できる。
【0023】
更に、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端部外周面に、それぞれ外向フランジ状の鍔部36、36を設けている。即ち、これら両太陽ローラ素子8c、8cの外周面のうち、前記各中間ローラ19、19の外周面と転がり接触する部分は、先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面となっており、前記両鍔部36、36の外径寄り部分は、この傾斜面の基端部から、全周に亙り径方向外方に突出している。そして、これら両鍔部36、36を含む、前記両太陽ローラ素子8c、8cの基端面に、それぞれ図12に示す様な、複数ずつの凹部37、37と前記各被駆動側カム面17、17とを、円周方向に関して交互に且つ等ピッチで配置している。このうちの各凹部37、37を前記各太陽ローラ素子8c、8cの軸方向から見た形状は、それぞれの両端部が半円形で中間部が直線状で且つ幅寸法が一定の、円周方向に長い長円形である。
【0024】
一方、前記両カム板15a、15aの内側面(軸方向両側面のうちの互いに対向する側面)の一部で、前記両太陽ローラ素子8c、8cと組み合わせた状態で前記各凹部37、37のうちの長さ方向中間部に整合する部分に、それぞれ受ピン38、38を突設している。これら各受ピン38、38の外径は、前記各凹部37、37の幅寸法よりも十分に小さくして、前記太陽ローラ素子8cと前記カム板15aとの、回転方向に関する相対変位を許容できる様に(前記各凹部37、37内での前記各受ピン38、38の円弧運動が可能な様に)している。前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとは、それぞれ前記各凹部37、37及び前記各受ピン38、38と同数の、それぞれが弾性部材である圧縮コイルばね39、39を介して組み合わせる事により、前記両ローディングカム装置7a、7aに予圧機構を組み込んでいる。即ち、前記各凹部37、37の中間部に前記各受ピン38、38を挿入し、且つ、これら各受ピン38、38と前記各凹部37、37の長さ方向片側の内端面との間で前記各圧縮コイルばね39、39を、それぞれ圧縮した状態で挟持している。これと共に、前記各カム面17、18同士の間に、それぞれ玉16、16を挟持している。尚、本例の場合には、図13に示す様に、前記両ローディングカム装置7a、7a同士の間で、前記各圧縮コイルばね39、39により前記両太陽ローラ素子8c、8cを押圧する方向が、円周方向に関して互いに逆となる様に、前記各凹部37、37内での前記各受ピン38、38と前記各圧縮コイルばね39、39との位置関係を規制している。
【0025】
上述の様な前記両ローディングカム装置7a、7aを組み立てた状態では、前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとの間に、これら両太陽ローラ素子8c、8cとこれら両カム板15a、15aとを円周方向に相対変位させる方向の弾力が付与される。前記入力軸2aを中心として前記両太陽ローラ8c、8cが円周方向に相対変位する方向は、これら両太陽ローラ8c、8c同士の間で互いに逆になる。そして、前記入力軸2aにトルクが入力されない状態でも、前記各玉16、16を、前記各被駆動側カム面17、17及び前記各駆動側カム面18、18の浅い部分に向け変位させる。この変位により、前記両ローディングカム装置7a、7aに、軸方向に関する厚さ寸法を大きくする方向のカム部押圧力を発生させて、前記各トラクション部の面圧を確保する為の予圧を付与する。
【0026】
上述の様に構成する先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aは、次の様に作用して、前記入力軸2aから前記出力軸3aに動力を、減速すると同時にトルクを増大させつつ伝達する。
即ち、電動モータにより前記入力軸2aを回転駆動すると、この入力軸2aに外嵌した前記両カム板15a、15aが回転し、前記両太陽ローラ素子8c、8cが、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との係合に基づき、互いに近づく方向に押圧されつつ、前記入力軸2aと同方向に同じ速度で回転する。そして、前記両太陽ローラ素子8c、8cにより構成される前記太陽ローラ4aの回転が、前記各中間ローラ19、19を介して前記環状ローラ5aに伝わり、前記出力軸3aから取り出される。前記摩擦ローラ式減速機1aの運転時に、前記ハウジング内には、トラクションオイルを循環させる為、前記各ローラ4a、19、5aの周面同士の転がり接触部(トラクション部)には、トラクションオイルの薄膜が存在する状態となる。又、これら各トラクション部の面圧は、前記各圧縮コイルばね39、39の弾力に基づいて発生するカム部押圧力により、前記摩擦ローラ式減速機1aの起動の瞬間から或る程度確保される。従って、この起動の瞬間から、前記各トラクション部で過大な滑りを発生させる事なく、動力伝達が開始される。
【0027】
前記入力軸2aに加わるトルクが増大すると、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する前記各玉16、16の、前記各カム面17、18への乗り上げ量が増大し、これら両ローディングカム装置7a、7aの軸方向厚さがより一層増大する。この結果、前記各トラクション部の面圧がより一層増大し、これら各トラクション部で、過大な滑りを発生する事なく、大きなトルクの伝達が行われる。これら各トラクション部の面圧は、前記入力軸2aと前記出力軸3aとの間で伝達すべきトルクに応じた適正な値、具体的には必要最小限の値に適切な安全率を乗じた値に、自動的に調整される。この結果、前記両軸2a、3a同士の間で伝達されるトルクの変動に拘らず、前記各トラクション部で過大な滑りが発生したり、逆に、これら各トラクション部の転がり抵抗が徒に大きくなる事を防止できて、前記摩擦ローラ式減速機1aの伝達効率を良好にできる。
【0028】
しかも、前記各揺動腕30、30の揺動変位に基づいて前記各中間ローラ19、19が、前記太陽ローラ4a及び前記環状ローラ5aの径方向外方に、円滑に変位する。従って、前記各トラクション部の面圧が不均一になる事を防止できて、これら各トラクション部の面圧を適正にし、前記摩擦ローラ式減速機1aの伝達効率を、より一層良好にできる。
【0029】
更に、図示の先発明に係る摩擦ローラ式減速機1aの場合には、前記両軸2a、3aの回転方向に拘らず、この摩擦ローラ式減速機1aの起動時の特性を同じにできる。この理由に就いて、図14を参照しつつ説明する。前述の様に、前記両ローディングカム装置7a、7a同士の間で、前記各圧縮コイルばね39、39が前記両太陽ローラ素子8c、8cを押圧する方向は、円周方向に関して互いに逆である。そして、前記各カム面17、18と前記各玉16、16との係合状態が、図14に示す様に、前記両カム板15a、15aの回転方向に関して、互いに逆になる。即ち、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する、前記各玉16、16と前記各カム面17、18との位置関係は、両回転方向に関して互いに対称となる。この為、前記両軸2a、3aが何れの方向に回転する場合でも、前記摩擦ローラ式減速機1aの起動時の特性を同じにできる。
【0030】
又、図示の先発明構造の場合には、前記両ローディングカム装置7a、7aを構成する太陽ローラ素子8c、8cとカム板15a、15aとを回転方向に相対変位させる事で、前記各トラクション部に予圧を付与している。この為、前記両ローディングカム装置7a、7aの効率が良く、ストローク確保も容易で、しかも、耐久性を十分に確保し易い。この理由は、図示の構造の場合には、前記各圧縮コイルばね39、39により前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとを回転方向に相対変位させ、前記各カム面17、18同士の間で前記各玉16、16を押圧して、前記両ローディングカム装置7a、7aにカム部押圧力を発生させている為である。即ち、前記各圧縮コイルばね39、39により前記両ローディングカム装置7a、7aに、前記入力軸2aにトルクが入力された場合とほぼ同様の挙動により、前記カム部押圧力を発生させる。そして、前記入力軸2aにトルクが入力された後も、前記各圧縮コイルばね39、39が前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとを押圧し続ける。
【0031】
従って、前記各圧縮コイルばね39、39により前記太陽ローラ素子8cと前記カム板15aとを回転方向に相対変位させる方向と、トルク伝達に伴ってこれら両部材8c、15a同士が相対変位する方向とが一致するローディングカム装置7aに関する限り、前記摩擦ローラ式減速機1aが運転されている間中、前記各圧縮コイルばね39、39の弾力が、前記両ローディングカム装置7a、7a全体として発生する総合押圧力を大きくする事に寄与する。この点で、本例の構造は、前述の図5に示した従来構造の様に、ローディングカム装置7部分で発生するカム部押圧力が大きくなった状態で、予圧付与部材である皿ばね14の弾力が総合押圧力の増大に寄与しなくなる構造とは異なる。但し、本例の構造の場合には、前記入力軸2aの回転方向に関して、前記各圧縮コイルばね39、39により一方の太陽ローラ素子8cが押圧される方向と、同じく他方の太陽ローラ素子8cが押圧される方向とは、互いに逆である。この為、前記各圧縮コイルばね39、39は、前記各トラクション部に予圧を付与する機能は果たすが、前記各玉16、16が前記各カム面17、18に乗り上げる事に伴って発生するカム部押圧力を補助する(前記各圧縮コイルばね39、39の弾力分だけ大きくする)機能は持たない。即ち、一方の太陽ローラ素子8c側の各圧縮コイルばね39、39の弾力が前記カム部押圧力に足されるのに対して、他方の太陽ローラ素子8c側の各圧縮コイルばね39、39の弾力は、前記カム部押圧力から引かれる。この様な、これら各圧縮コイルばね39、39の弾力に基づく押圧力の増加分と減少分とは、互いにほぼ等しくなる。従って、前記カム部押圧力がこの弾力に基づく押圧力を上回った後には、前記両ローディングカム装置7a、7aが発生する押圧力は、これら両ローディングカム装置7a、7aが発生するカム部押圧力になる。
【0032】
要するに、先発明の構造の場合には、前記両ローディングカム装置7a、7aが発生する押圧力は、入力軸2aに加えられるトルクの大きさに応じて総合押圧力が図15に破線αで示す様に変化する。この図15の破線αから明らかな通り、先発明の構造によれば、カム部押圧力が大きくなった状態では、前記各圧縮コイルばね39、39の弾力を前記総合押圧力の増大に利用する事はできないが、トルク伝達方向に拘らず、この総合押圧力の大きさを適正にできる。言い換えれば、前記両ローディングカム装置7a、7aが押圧力を発生する特性を、トルクの伝達方向に関して対称にできる。電気自動車の駆動系に組み込む摩擦ローラ式減速機の場合、例えば加速時と減速時とで、トルクを逆方向に伝達する必要がある。この面から、前記図15に破線αで示した特性は好ましい。
【0033】
これに対して、前記各圧縮コイルばね39、39の弾性を、前記両ローディングカム装置7a、7aが発生する押圧力上昇に利用する、即ち、前記各圧縮コイルばね39、39の弾力を前記総合押圧力の増大に利用するには、前記両ローディングカム装置7a、7a同士の間で、前記各圧縮コイルばね39、39が前記各太陽ローラ素子8c、8cを押圧する方向を同じにする。この場合には、前記各圧縮コイルばね39、39が前記各太陽ローラ素子8c、8cを押圧する方向と、前記入力軸2aの回転方向とを、互いに逆向きにする。この様な構造を採用した場合には、前記両ローディングカム装置7a、7aが発生する押圧力が、図15に実線βで示す様に変化する。この為、例えば必要とする総合押圧力が同じであると仮定した場合に、前記各カム面17、18の傾斜角度を大きくする事で、所定の総合押圧力を得るまでに、前記両太陽ローラ素子8c、8cと前記両カム板15a、15aとが周方向に相対変位する角度を小さく抑えられる。この相対変位角度を小さく抑えられる事は、前記摩擦ローラ式減速機1aの応答性(前記入力軸2aと前記出力軸3aとの回転同期性)の向上に寄与する。但し、この様な構造を採用した場合には、摩擦ローラ式減速機1aを、常に前記入力軸2aから前記太陽ローラ4aにトルクが伝達される状態で使用する事が好ましい。この理由は、制動時等、この太陽ローラ4aの側から前記入力軸2aの側にトルクを伝達する際に、一時的に総合押圧力が不足する可能性がある為である。
【0034】
又、耐久性の確保は、前記摩擦ローラ式減速機1aの運転状態の如何に拘らず、前記各圧縮コイルばね39、39に無理な力が加わらない様にする事により図れる。即ち、これら各圧縮コイルばね39、39の全長は、前記入力軸2aに加わるトルクの変動に拘らず、或る程度確保されて、潰し切られる事はないし、引き伸ばされる事もない。従って、使用状態の全範囲に関し、前記各圧縮コイルばね39、39に無理な力が加わる事はないので、長期間に亙る使用に拘らず、これら各圧縮コイルばね39、39の弾性が低下する(へたる)事はなく、前記耐久性の確保を図れる。
【0035】
ところで、上述した様な先発明の構造を組み立てる場合には、通常は、先ず、図16に示す様に、前記入力軸2aの周囲に、前記各太陽ローラ素子8c、8c、前記各カム板15a、15a、前記ローディングナット28等の各構成部材を組み付ける。この際に、これら各カム板15a、15aの軸方向の位置決めは、前記入力軸2aの中間部に形成した段差面26と、この入力軸2aの先端寄り部分に螺着したローディングナット28とを利用して図る。但し、上述した先発明の構造の場合には、前記入力軸2aの先端寄り部分に対する前記ローディングナット28の軸方向に関する螺着位置を規制する為の構造が存在しない。この為、作業上の過誤により、前記入力軸2aの先端寄り部分に対する前記ローディングナット28の螺着位置が、適切な位置からずれる可能性がある。そして、この螺着位置が前記段差面26側に過度にずれると、前記ローディングナット28の締め付けに伴って、前記各玉16、16の転動面と前記各カム面17、18とが強く当接し、これら各カム面17、18に圧痕が生じる。この様な状態では、前記両ローディングカム装置7a、7aが正常に作動しなくなる。反対に、前記螺着位置が前記段差面26から反対側に過度にずれると、大きなトルクを伝達する際に、前記各玉16、16が前記各カム面17、18の端部から外れ(これら各カム面の肩部に乗り上げ)てしまう。そして、著しい場合には、前記各玉16、16が、前記各太陽ローラ素子8c、8cと前記各カム板15a、15aとの間から脱落してしまう。この様な状態でも、前記両ローディングカム7a、7aが正常に作動しなくなる。
【0036】
尚、前記入力軸2aの先端側に存在するカム板15aの他側面を抑える部材として、前記ローディングナット28の代わりに、前記入力軸2aの外周面の先端寄り部分に形成した係止溝に係止した欠円環状の止め輪を使用すれば、この止め輪の係止位置が常に一定になる事から、使用状態での前記両カム板15a、15a同士の間隔を、常に適正値にできる。しかしながら、前記入力軸2aは、前記電動モータの出力軸と共に高速回転(例えば、40000min-1程度で回転)する。この為、前記止め輪を使用する構造の場合には、使用時に、この止め輪が、自身に作用する遠心力によって弾性的に拡径し、前記係止溝から脱落する可能性がある。この為、用途によっては、前記止め輪を使用する構造を採用する事が難しい場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0037】
【特許文献1】特開昭59−187154号公報
【特許文献2】特開昭61−136053号公報
【特許文献3】特開2004−116670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、入力軸の外周面の一部に形成した段差面を一方のカム板の他側面に、この入力軸の一部に螺着したローディングナットの側面を他方のカム板の他側面に、それぞれ当接させる事により、これら両カム板の軸方向に関する位置決めを図る構造に関して、組立作業を行う際に、前記入力軸に対するローディングナットの軸方向に関する螺着位置を適切にするのが容易な構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明の摩擦ローラ式減速機は、前述した先発明の構造と同様、入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、複数個の中間ローラと、1対のローディングカム装置と、弾性部材とを備える。
特に、本発明の摩擦ローラ式減速機の場合には、前記入力軸の外周面の一部で、前記両ローディングカム装置を構成する両カム板のうちの一方のカム板の他側面から突出した部分に設けられて、この一方のカム板の他側面を当接させた段差面と、前記入力軸の外周面の一部で、前記他方のカム板の他側面から突出した部分に螺着すると共に、その側面を前記他方のカム板の他側面に当接させたローディングナットと、前記入力軸に対するこのローディングナットの軸方向に関する螺着位置を規制する為の螺着位置規制手段とを備える。
【0040】
本発明を実施する場合に、例えば、請求項2に記載した発明の様に、前記螺着位置規制手段を、前記両太陽ローラ素子の内径側で前記入力軸に外嵌されると共に、前記両カム板により軸方向両側から挟持された筒状のスリーブとする。
或いは、請求項3に記載した発明の様に、前記螺着位置規制手段を、前記入力軸の外周面の一部で前記他方のカム板の片側面から突出した位置に設けられて、この他方のカム板の片側面を当接させる第二の段差面とする。
或いは、請求項4に記載した発明の様に、前記螺着位置規制手段を、前記入力軸の外周面の一部で前記他方のカム板の他側面から突出した位置に設けられて、前記ローディングナットの側面の内径側部分を当接させる第二の段差面とする。この場合、前記他方のカム板の他側面には、前記ローディングナットの側面の外径側部分を当接させる。
【発明の効果】
【0041】
上述の様に構成する本発明の摩擦ローラ式減速機によれば、組立作業を行う際に、入力軸に対するローディングナットの軸方向に関する螺着位置を、螺着位置規制手段によって適切な位置に規制する事ができる為、使用状態での1対のカム板同士の間隔を適正値にする事ができる。この結果、使用時に、各ローラの周面同士の転がり接触部である、各トラクション部の面圧が不適正な状態になる事を防止でき、摩擦ローラ式減速機の伝達効率が悪化する事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図9と同様の図。
【図2】入力軸の周囲に、1対の太陽ローラ素子、1対のローディングカム装置、ローディングナット等を組み付けた状態で示す断面図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、図2と同様の図。
【図4】同第3例を示す、図9と同様の図。
【図5】従来構造の1例を示す断面図。
【図6】一部を省略して示す、図5のa−a断面図。
【図7】ローディングカム装置が推力を発生していない状態(A)と同じく発生している状態(B)とをそれぞれ示す、図6のb−b断面に相当する模式図。
【図8】先発明の構造を示す断面図。
【図9】図8のc部拡大図。
【図10】予圧付与の為の機構を説明する為の模式図。
【図11】摩擦ローラ式減速機を取り出し、太陽ローラ及び環状ローラを省略して、図9の右上方から見た状態で示す斜視図。
【図12】図9の中央部右側の太陽ローラ素子及びカム板を取り出して、玉及び圧縮コイルばねと共に示す斜視図。
【図13】圧縮コイルばねによる予圧付与の方向を説明する為の模式図。
【図14】駆動側、被駆動側各カム面と玉との係合状態を説明する為の模式図。
【図15】入力軸に加わるトルクの大きさ及び方向と、ローディングカム装置が発生する、軸方向の押圧力との関係を示す線図。
【図16】入力軸の周囲に、1対の太陽ローラ素子、1対のローディングカム装置、ローディングナット等を組み付けた状態で示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[実施の形態の第1例]
図1〜2は、請求項1、2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、使用状態での1対のカム板15a、15a同士の間隔が適正値になる様にすべく、組立作業を行う際に、入力軸2aに対するローディングナット28の軸方向に関する螺着位置を、適切な位置にする事を容易にする為の構造にある。その他の部分の構造及び作用は、前述の図7〜15に示した先発明の構造の場合と同様である。この為、重複する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分、並びに、前述した先発明の構造で説明しなかった部分を中心に説明する。
【0044】
本例の場合、前記入力軸2aの一部で、1対の太陽ローラ素子8c、8cの内径側に位置する部分に、螺着位置規制手段である、円筒状のスリーブ40を外嵌している。前記両太陽ローラ素子8c、8cは、このスリーブ40の軸方向両半部に、それぞれこのスリーブ40に対する軸方向変位及び回転を可能に、隙間嵌で外嵌している。又、一方(図1〜2に於ける右方)のカム板15aの他側面を段差面26に、他方(図1〜2に於ける左方)のカム板15aの他側面に前記ローディングナット28の側面を、それぞれ当接させた状態で、これら両カム板15a、15a同士の間に、前記スリーブ40を挟持している。特に、本例の場合には、この状態で、前記両カム板15a、15a同士の間隔が適正値となる様に、前記スリーブ40の軸方向寸法を規制している。
【0045】
又、本例の場合、前記両カム板15a、15aは、前記入力軸2aの中間部と先端寄り部分とに、それぞれ止り嵌めで、がたつきなく外嵌している。又、前記両カム板15a、15aの他側面の内径側部分に、それぞれ凹部41、41を形成している。そして、これら両カム板15a、15aの他側面のうちで、これら各凹部41、41よりも外径側の部分のみを、前記段差面26と前記ローディングナット28の側面とに当接させている。又、本例の場合、前記入力軸2aから前記両カム板15a、15aへのトルク伝達は、各構成部材同士の間に作用する摩擦力によって行う。即ち、前記入力軸2aから前記一方のカム板15aへのトルク伝達は、主として、図1のトルク伝達ルートT1で示す様に、前記段差面26と前記一方のカム板15aの他側面との当接部に作用する摩擦力によって行う。これに対し、前記入力軸2aから前記他方のカム板15aへのトルク伝達は、主として、図1のトルク伝達ルートT2で示す様に、前記段差面26と前記一方のカム板15aの他側面との当接部とに作用する摩擦力と、この一方のカム板15aの片側面と前記スリーブ40の一端面(図1〜2に於ける右端面)との当接部に作用する摩擦力と、このスリーブ40の他端面(図1〜2に於ける左端面)と前記他方のカム板15aの片側面との当接部に作用する摩擦力とによって行う。尚、本例の場合、前記入力軸2aから前記他方のカム板15aにトルクを伝達する際に、その反力として、この他方のカム板15aから前記ローディングナット28に作用するトルクの大きさは、このローディングナット28を緩める為に要するトルクよりも十分に小さくなる。本例の場合には、この反力としてのトルクの大きさを、より十分に小さくする為に、必要に応じて、前記カム板15aと前記ローディングナット28との間に、優れた耐圧縮性を有する滑り軸受を挟持する事が有効である。或いは、前記スリーブ40を、前記両カム板15a、15aよりも硬い金属により造ると共に、このスリーブ40の軸方向両端面に、鋸歯状の凹凸を形成し、このスリーブ40の軸方向両端面と前記両カム板15a、15aとを、前記ローディングナット28の締め付けに伴って、機械的に噛合させる事も有効である。又、本例の場合、前記ローディングナット28に関しては、このローディングナット28の一部を雄ねじ部27にかしめ付けたり、或いは、これらローディングナット28と雄ねじ部27との螺合部の円周方向一部分に機械加工により軸方向の円孔を形成して、この円孔内に円柱状のピンを圧入する等の、緩み止め構造を設ける事が好ましい。
【0046】
上述の様に構成する本例の摩擦ローラ式減速機によれば、組立作業を行う際に、前記入力軸2aに対する前記ローディングナット28の軸方向に関する螺着位置を適切にするのが容易となる。即ち、本例の場合には、組立作業を行う初期段階で、図2に示す様に、前記入力軸2aに対して前記ローディングナット28を、前記スリーブ40が前記両カム板15a、15a同士の間で挟持されると共に、これら両カム板15a、15aが前記段差面26と前記ローディングナット28との間で挟持される状態になるまで螺入し、更に締め付ければ、前記入力軸2aに対する前記ローディングナット28の螺着位置を、適切にできる。そして、この結果、使用状態での前記両カム板15a、15a同士の間隔が適正値になる為、各カム面17、18に圧痕が生じたり、大きなトルクの伝達時に、各玉16、16がこれら各カム面17、18から外れたりする事を防止でき、1対のローディングカム装置7a、7aの作動が不良になる事を防止できる。
【0047】
[実施の形態の第2例]
図3は、請求項1、3に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、入力軸2bの外周面の一部で他方(図3に於ける左方)のカム板15aの片側面から突出した部分に、螺着位置規制手段である、第二の段差面42を設けている。そして、この第二の段差面42に前記他方のカム板15aの片側面の内周部分を当接させると共に、この他方のカム板15aの他側面にローディングナット28の側面を当接させる事により、前記入力軸2bに対するこの他方のカム板15aの軸方向の位置決めを図っている。特に、本例の場合には、図3に示す状態、即ち、上述の様に入力軸2bに対する他方のカム板15aの軸方向の位置決めを図ると共に、一方(図3に於ける右方)のカム板15aの他側面を段差面26に当接させた状態で、これら両カム板15a、15a同士の間隔が適正値となる様に、前記第二の段差面42の形成位置を規制している。又、本例の場合、前記入力軸2b(及び前記ローディングナット28)から前記他方のカム板15aへのトルク伝達は、主として、前記入力軸2bに対する前記ローディングナット28の締め付け力によって確保される、前記他方のカム板15aの片側面と前記第二の段差面42との当接部に作用する摩擦力によって行う。
【0048】
上述の様に構成する本例の摩擦ローラ式減速機の場合も、組立作業を行う際に、前記入力軸2bに対する前記ローディングナット28の軸方向に関する螺着位置を適切にするのが容易となる。即ち、本例の場合には、組立作業を行う初期段階で、図3に示す様に、前記入力軸2bに対して前記ローディングナット28を、このローディングナット28と前記第二の段差面42との間で前記他方のカム板15aを挟持する状態になるまで螺入し更に締め付ければ、前記入力軸2bに対する前記ローディングナット28の螺着位置を、適切にできる。そして、この結果、使用状態での前記両カム板15a、15a同士の間隔が適正値になる。本例の場合、必要に応じて、前記第二の段差面42に、鋸歯状の凹凸を形成する等により、前記ローディングナット28を通過するトルクを低く抑え、このローディングナット28の緩み止めを図る。
その他の部分の構成及び作用は、上述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する図示並びに説明は省略する。
【0049】
[実施の形態の第3例]
図4は、請求項1、4に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の場合には、1対のカム板15b、15cの軸方向厚さを、上述した実施の形態の第1〜2例の場合よりも大きくしている。そして、これら両カム板15b、15cの内周面の一端部(図4に於ける左端部)に設けた雌スプライン部43a、43bと、入力軸2cの外周面のうちで、これら両雌スプライン部43a、43bと整合する部分に設けた雄スプライン部44a、44bとを、それぞれスプライン係合させている。これにより、これら各スプライン係合部を介して、前記入力軸2cから前記両カム板15b、15cへのトルク伝達を行える様にしている。又、それぞれが円筒面である、前記両カム板15b、15cの内周面の中間部乃至他端部(図4に於ける右端部)と、前記入力軸2cの外周面の一部とを、たつきなく嵌合させる事により、この入力軸2cに対する前記両カム板15b、15cの同心性を確保している。
【0050】
又、本例の場合、前記入力軸2cの外周面の先端寄り部分で、他方(図4に於ける左方)のカム板15cの他側面から突出した部分に、螺着位置規制手段である、第二の段差面42aを設けている。そして、前記入力軸2cの先端寄り部分に螺着したローディングナット28aの側面のうち、内径側半部を前記第二の段差面42aに、外径側半部を前記他方のカム板15cの他側面の内径寄り部分に、それぞれ当接させている。
【0051】
上述の様な構成を有する本例の摩擦ローラ式減速機の場合も、前記第二段差面42aの存在に基づいて、前記入力軸2cに対する前記ローディングナット28aの螺着位置を適切にできる。この結果、使用状態での前記両カム板15b、15c同士の間隔を適正値にできる。又、本例の場合には、前記入力軸2cからこれら両カム板15b、15cへのトルク伝達を、前記各スプライン係合部を介して確実に行える。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施の形態の第1例の場合と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明を実施する場合には、入力軸の外周面と1対のカム板の内周面とをキー係合させる事により、これら各キー係合部を介して、前記入力軸から前記両カム板へのトルク伝達を行う様にする事もできる。
又、本発明を実施する場合には、ローディングカム装置の構成各部に関して、凹部を形成する面と、受ピン等の受部材を突設する面とを、図示の例とは逆にする事もできる。即ち、太陽ローラ素子の基端面側に受部材を突設し、カム板の片側面側に凹部を形成して、この凹部内に圧縮コイルばねを設置する事もできる。或いは、予圧付与の為の弾性部材として、圧縮コイルばね以外のものを使用する事もできる。例えば、太陽ローラ素子の基端面とカム板の片側面とに突設した係止ピンに、引っ張りばねの両端部を係止する事もできる。又は、太陽ローラ素子の基端面とカム板の片側面とに形成した係止孔に、捩りコイルばねの両端部を係止する事もできる。要は、カム板を外嵌固定した入力軸が停止している状態で、このカム板と太陽ローラ素子とを円周方向に関して相対変位させる方向の弾力を付与できるものであれば良い。更には、1対の太陽ローラ素子同士を直接近付ける方向に付勢するばねや、各中間ローラを1対の中間ローラ素子に2分割し、これら両中間ローラ素子同士を、互いに離れる方向に付勢するものでも良い。要は、ローディングカム装置を構成するカム板と太陽ローラ素子との間でトルク伝達が行われない状態でも、各トラクション部に予圧を付与できるものであれば良い。
【0053】
又、本発明を実施する場合、出力軸と共に回転するローラは、必ずしも環状ローラである必要はない。即ち、各中間ローラを、太陽ローラの周囲で自転しつつ公転する遊星ローラとし、これら各遊星ローラを支持しているキャリアに、出力軸の基端部を結合固定した、遊星ローラ式の摩擦ローラ式減速機で、本発明を実施する事もできる。
【符号の説明】
【0054】
1、1a 摩擦ローラ式減速機
2、2a〜2c 入力軸
3、3a 出力軸
4、4a 太陽ローラ
5、5a 環状ローラ
6 遊星ローラ
7、7a ローディングカム装置
8a〜8c 太陽ローラ素子
9、9a 環状空間
10 遊星軸
11 キャリア
12 止め輪
13 支え環
14 皿ばね
15、15a〜15c カム板
16 玉
17 被駆動側カム面
18 駆動側カム面
19 中間ローラ
20 自転軸
21 入力側軸受ケース
22 出力側軸受ケース
23 複列玉軸受ユニット
24 複列玉軸受ユニット
25 連結部
26 段差面
27 雄ねじ部
28、28a ローディングナット
29 キャリア
30 揺動腕
31 連結板部
32 柱部
33 揺動支持軸
34 保持部
35 玉軸受
36 鍔部
37 凹部
38 受ピン
39 圧縮コイルばね
40 スリーブ
41 凹部
42、42a 第二の段差面
43a、43b 雌スプライン部
44a、44b 雄スプライン部
45a、45b スタッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、出力軸と、太陽ローラと、環状ローラと、中間ローラと、ローディングカム装置と、弾性部材とを備え、
このうちの太陽ローラは、軸方向に分割された1対の太陽ローラ素子を前記入力軸の周囲に、互いの先端面同士の間に隙間を介在させた状態で互いに同心に、且つ、この入力軸に対する回転及び軸方向変位を可能に配置して成るもので、前記両太陽ローラ素子の外周面は、それぞれの先端面に向かうに従って外径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面であって、これら両傾斜面を転がり接触面としており、
前記環状ローラは、前記太陽ローラの周囲にこの太陽ローラと同心に配置されたもので、内周面を転がり接触面としており、
前記中間ローラは、前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面との間の環状空間の円周方向複数箇所に設けられていて、それぞれが前記入力軸と平行に配置された自転軸を中心とする回転自在に支持された状態で、それぞれの外周面を前記太陽ローラの外周面と前記環状ローラの内周面とに転がり接触させており、
前記ローディングカム装置は、前記太陽ローラを軸方向両側から挟む2箇所位置に設けられていて、前記入力軸の回転に伴って、前記両太陽ローラ素子同士を互いに近付く方向に押圧しつつ回転させる為、これら両太陽ローラ素子の基端面の円周方向複数箇所に設けられた被駆動側カム面と、前記入力軸の周囲にこの入力軸に対する軸方向変位及び回転を阻止された状態で配置されたカム板の片側面の円周方向複数箇所に設けられた駆動側カム面との間に、それぞれ転動体を挟持して成るもので、これら各駆動側カム面及び前記各被駆動側カム面はそれぞれ、軸方向に関する深さが円周方向に関して漸次変化して端部に向かうに従って浅くなる形状を有するものであり、
前記弾性部材は、前記各ローラの周面同士の転がり接触部の面圧を確保する為の予圧を付与するものであり、
前記環状ローラと前記各自転軸を支持した部材とのうちの一方の部材を、前記太陽ローラを中心とする回転を阻止した状態とし、他方の部材を前記出力軸に結合して、この他方の部材によりこの出力軸を回転駆動自在とすると共に、
前記入力軸の外周面の一部で、前記両カム板のうちの一方のカム板の他側面から突出した部分に設けられて、この一方のカム板の他側面を当接させた段差面と、前記入力軸の外周面の一部で、前記他方のカム板の他側面から突出した部分に螺着すると共に、その側面を前記他方のカム板の他側面に当接させたローディングナットと、前記入力軸に対するこのローディングナットの軸方向に関する螺着位置を規制する為の螺着位置規制手段とを備えた摩擦ローラ式減速機。
【請求項2】
前記螺着位置規制手段が、前記両太陽ローラ素子の内径側で前記入力軸に外嵌されると共に、前記両カム板により軸方向両側から挟持されたスリーブである、請求項1に記載した摩擦ローラ式減速機。
【請求項3】
前記螺着位置規制手段が、前記入力軸の外周面の一部で前記他方のカム板の片側面から突出した位置に設けられて、この他方のカム板の片側面を当接させた第二の段差面である、請求項1に記載した摩擦ローラ式減速機。
【請求項4】
前記螺着位置規制手段が、前記入力軸の外周面の一部で前記他方のカム板の他側面から突出した位置に設けられて、前記ローディングナットの側面の内径側部分を当接させた第二の段差面であり、前記他方のカム板の他側面に、前記ローディングナットの側面の外径側部分が当接している、請求項1に記載した摩擦ローラ式減速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−104545(P2013−104545A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251199(P2011−251199)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】