説明

摩擦係合装置および動力伝達装置

【課題】クッションプレートの爪部によるケースのスプライン溝周辺の磨耗が抑制された摩擦係合装置および該装置を備えた動力伝達装置を提供する。
【解決手段】摩擦係合装置は、摩擦板10と摩擦板20とを摩擦係合させる摩擦係合装置である。上記摩擦係合装置は、摩擦板10を支持するギヤケース500と、ギヤケース500に対して相対回転可能であり、摩擦板20を支持するハブ800と、ギヤケース500に形成されたスプライン溝に嵌合する爪部を有し、該爪部を介してギヤケース500に支持されるクッションプレート30と、クッションプレート30と摩擦板10との間に介装される樹脂板50とを備える。そして、樹脂板50のクッションプレート30に対するすべり摩擦係数、および、樹脂板50の摩擦板10に対するすべり摩擦係数は、クッションプレート30と摩擦板10との間のすべり摩擦係数よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦係合装置および動力伝達装置に関し、特に、ピストンと摩擦板との間に弾性部材を設けた摩擦係合装置およびそれを備えた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2006−220236号公報(特許文献1)には、クラッチ締結時に生じるショックを吸収する皿ばねを設けたクラッチ機構が記載されている。ここで、皿ばねの外周部には、略矩形状をなすとともに、半径方向外側に突出する複数の歯が円周方向に等間隔に形成されている。歯の根元部には、円周方向に略円弧状に切り欠かれた応力緩和部が形成されている。特許文献1では、上記の応力緩和部を設けることにより、クラッチドラムの回転時における歯とスプライン溝との干渉が防止されるので、歯によるスプライン溝の磨耗が低減されるとされている。
【0003】
実開昭62−6537号公報(特許文献2)には、皿ばねとクラッチプレートとの間にリングを設け、皿ばねを逆反り方向へ変形させやすくすることが記載されている。
【特許文献1】特開2006−220236号公報
【特許文献2】実開昭62−6537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような皿ばね(クッションプレート)は、ケースに形成されたスプライン溝に嵌合支持される。摩擦係合装置に振動が入力された場合、クッションプレートがスプライン溝との嵌合隙間の中で振動し、ケースが磨耗することが懸念される。
【0005】
なお、特許文献1では、皿ばねの歯の根元部に凹部(応力緩和部)を設けているが、これだけでは、上記問題に対処するには必ずしも十分ではない。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、弾性部材の爪部によるケースのスプライン溝周辺の磨耗が抑制された摩擦係合装置および該装置を備えた動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る摩擦係合装置は、第1の摩擦板と第2の摩擦板とを摩擦係合させる摩擦係合装置であって、スプライン溝を有し、第1の摩擦板を支持する外方部材と、外方部材に対して相対回転可能であり、第2の摩擦板を支持する内方部材と、外方部材に形成されたスプライン溝に嵌合する爪部を有し、該爪部を介して外方部材に支持される弾性部材と、弾性部材と第1の摩擦板との間に介装される介装部材とを備える。
【0008】
ここで、上記介装部材の弾性部材に対するすべり摩擦係数および上記介装部材の第1の摩擦板に対するすべり摩擦係数は、弾性部材と第1の摩擦板との間のすべり摩擦係数よりも大きい。
【0009】
上記構成によれば、弾性部材と第1の摩擦板との間に、すべり摩擦係数の大きい介装部材を設けることにより、第1の摩擦板に対する弾性部材の相対回転が生じにくくなり、弾性部材の爪部による外方部材のスプライン溝周辺の磨耗を抑制することができる。すなわち、上記介装部材を「滑り止め」機能を有する部材として用いることができる。
【0010】
好ましくは、上記摩擦係合装置において、介装部材の少なくとも表面は樹脂素材を含む。
【0011】
これにより、上述した「滑り止め」機能を有する安価な介装部材を得ることができる。
1つの例として、上記摩擦係合装置において、第1の摩擦板および弾性部材は金属製部材である。このように、第1の摩擦板および弾性部材がいずれも金属製部材である場合、それらがメタルタッチするため、両者間の摩擦係数が十分に確保しにくい傾向にある。これに対し、本発明に係る摩擦係合装置では、両者間に「滑り止め」機能を有する介装部材を設けることにより、弾性部材の回転を抑制し、弾性部材の爪部による外方部材のスプライン溝周辺の磨耗を抑制することができる。
【0012】
本発明に係る動力伝達装置は、上述した摩擦係合装置を備える。これにより、スプライン溝と弾性部材との嵌合部の磨耗が抑制された耐久性の高い動力伝達装置が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弾性部材の爪部による外方部材のスプライン溝周辺の磨耗が抑制された摩擦係合装置および該装置を備えた動力伝達装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0015】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。また、以下に複数の実施の形態が存在する場合、特に記載がある場合を除き、各々の実施の形態の構成を適宜組合わせることは、当初から予定されている。
【0016】
図1は、本発明の1つの実施の形態に係る動力伝達装置としての自動変速機の構成を説明する図である。図1を参照して、本実施の形態に係る自動変速機1は、車両に搭載される自動変速機であって、クランクシャフトに連結された入力軸110と出力軸120とを含むトルクコンバータ100と、遊星歯車機構である第1セット200,第2セット300と、出力ギヤ400と、ギヤケース500と、ギヤケース500に固定されたB1ブレーキ610、B2ブレーキ620およびB3ブレーキ630と、C1クラッチ710およびC2クラッチ720と、ワンウェイクラッチ730とを有する。
【0017】
第1セット200は、シングルピニオン型の遊星歯車機構である。第1セット200は、サンギヤS(UD)210と、ピニオンギヤ220と、リングギヤR(UD)230と、キャリアC(UD)240とを含む。
【0018】
サンギヤS(UD)210は、トルクコンバータ100の出力軸110に連結されている。ピニオンギヤ220は、キャリアC(UD)240に回転自在に支持されている。ピニオンギヤ220は、サンギヤS(UD)210およびリングギヤR(UD)230と係合している。
【0019】
リングギヤR(UD)230は、B3ブレーキ630によりギヤケース500に固定される。キャリアC(UD)240は、B1ブレーキ610によりギヤケース500に固定される。
【0020】
第2セット300は、ラビニヨ型の遊星歯車機構である。第2セット300は、サンギヤS(D)310と、ショートピニオンギヤ320と、キャリアC(1)321と、ロングピニオンギヤ330と、キャリアC(2)331と、サンギヤS(S)340と、リングギヤR(1)(R(2))350とを含む。
【0021】
サンギヤS(D)310は、キャリアC(UD)240に連結されている。ショートピニオンギヤ320は、キャリアC(1)321に回転自在に支持されている。ショートピニオンギヤ320は、サンギヤS(D)310およびロングピニオンギヤ330と係合している。キャリアC(1)321は、出力ギヤ400に連結されている。
【0022】
ロングピニオンギヤ330は、キャリアC(2)331に回転自在に支持されている。ロングピニオンギヤ330は、ショートピニオンギヤ320、サンギヤS(S)340およびリングギヤR(1)(R(2))350と係合している。キャリアC(2)331は、出力ギヤ400に連結されている。
【0023】
サンギヤS(S)340は、C1クラッチ710によりトルクコンバータ100の出力軸120に連結される。リングギヤR(1)(R(2))350は、B2ブレーキ620により、ギヤケース500に固定され、C2クラッチ720によりトルクコンバータ100の出力軸120に連結される。また、リングギヤR(1)(R(2))350は、ワンウェイクラッチ730に連結されており、1速ギヤ段の駆動時に回転不能となる。
【0024】
図2に、各変速ギヤ段と、各クラッチおよび各ブレーキの作動状態との関係を表した作動表を示す。「○」は係合を表している。「×」は解放を表している。「◎」はエンジンブレーキ時のみの係合を表している。「△」は駆動時のみの係合を表している。この作動表に示された組合わせで各ブレーキおよび各クラッチを作動させることにより、1速〜6速の前進ギヤ段と、後進ギヤ段が形成される。
【0025】
次に、図3〜図5を用いて、本実施の形態に係る摩擦係合装置について説明する。本実施の形態に係る摩擦係合装置は、具体的には、たとえば、図1におけるB1ブレーキ610、B2ブレーキ620、B3ブレーキ630、C1クラッチ710およびC2クラッチ720に適用されるものである。図3に示すように、本実施の形態に係る摩擦係合装置は、摩擦板10,20と、クッションプレート(皿ばね)30と、ピストン40と、樹脂板50と、スナップリング60とを含んで構成される。
【0026】
摩擦板10は、ギヤケース500に支持され、摩擦板20はハブ800に支持される。摩擦係合装置を作動させる際は、ピストン40によりクッションプレート30を矢印DR40方向に押圧する。これにより、摩擦板10,20が軸方向に押圧され、摩擦板10と摩擦板20とが摩擦係合する。ピストンに作用する油圧が減じられると、元の位置に戻される。これにより、摩擦板10,20は元の位置に戻される。
【0027】
典型的な例では、ギヤケース500内には、潤滑油が供給されている。すなわち、本実施の形態に係る摩擦係合装置は、典型的には、湿式の摩擦係合装置である。
【0028】
スナップリング60は、摩擦係合装置に隣接する位置に設けられ、摩擦係合装置の軸方向の移動を規制する。スナップリング60は、ギヤケース500に設けられた溝部に嵌合されている。
【0029】
摩擦板10とクッションプレート30との間には、樹脂板50が介装されている。樹脂板50のクッションプレート30に対するすべり摩擦係数は、クッションプレート30と摩擦板10との間のすべり摩擦係数よりも大きい。さらに、樹脂板50の摩擦板10に対するすべり摩擦係数は、クッションプレート30と摩擦板10との間のすべり摩擦係数よりも大きい。したがって、樹脂板50は、摩擦板10とクッションプレート30との間の「滑り止め」に寄与する部材である。
【0030】
樹脂板50は、たとえばエポキシ系樹脂などにより構成される。樹脂板50の形状は、たとえば、図4に示すようなリング形状に限定されるものではなく、たとえば、クッションプレート30の周方向(矢印DR1方向)に沿って断続的に樹脂板50が設けられてもよい。
【0031】
クッションプレート30は、図5に示すように、ギヤケース500に形成されたスプライン溝510に爪部31を嵌合することによってギヤケース500に支持される。爪部31とスプライン溝510との間には、嵌合隙間が存在する。ここで、摩擦係合装置に内燃機関からの振動が伝達されたときに、クッションプレート30がスプライン溝510との嵌合隙間の中で矢印DR1方向に振動し、爪部31と繰り返し衝突することによって、ギヤケース500が磨耗することが懸念される。
【0032】
本実施の形態において、摩擦板10およびクッションプレート30は、ともに金属製部材である。一般的に、互いに当接する部材がともに金属製である場合、両者間の摩擦係数が十分に確保しにくい傾向にあるため、摩擦板10とクッションプレート30とを直接接触させた場合、摩擦板10に対するクッションプレート30の相対回転が生じやすくなり、クッションプレート30が、スプライン溝510との嵌合隙間の中で振動しやすくなる。
【0033】
これに対し、本実施の形態に係る摩擦係合装置では、摩擦板10とクッションプレート30との間に「滑り止め」機能を有する樹脂板50を設けることにより、摩擦板10に対するクッションプレート30の相対回転を抑制することができる。
【0034】
本実施の形態に係る摩擦係合装置によれば、上述のように、クッションプレート30と摩擦板10との間に、すべり摩擦係数の大きい樹脂板50を設けることにより、摩擦板10に対するクッションプレート30の相対回転が生じにくくなり、クッションプレート30の爪部31によるギヤケース500のスプライン溝510周辺の磨耗を抑制することができる。すなわち、上記樹脂板50を「滑り止め」機能を有する部材として用いることができる。また、「滑り止め」のための部材として樹脂部材を用いることにより、上述した「滑り止め」機能を安価な部材で実現することができる。
【0035】
なお、樹脂板50は、たとえば金属板の表面に比較的滑り摩擦係数の大きい樹脂素材をコーティングしたもので構成されてもよい。また、樹脂板50に代えて、たとえば、表面を粗面化して滑り摩擦係数を大きくした金属板を用いてもよい。
【0036】
上述した内容について要約すると、以下のようになる。すなわち、本実施の形態に係る摩擦係合装置は、「第1の摩擦板」としての摩擦板10と「第2の摩擦板」としての摩擦板20とを摩擦係合させる摩擦係合装置である。上記摩擦係合装置は、スプライン溝510を有し、摩擦板10を支持する「外方部材」としてのギヤケース500と、ギヤケース500に対して相対回転可能であり、摩擦板20を支持する「内方部材」としてのハブ800と、ギヤケース500に形成されたスプライン溝510に嵌合する爪部31を有し、該爪部31を介してギヤケース500に支持される「弾性部材」としてのクッションプレート30と、クッションプレート30と摩擦板10との間に介装される「介装部材」としての樹脂板50とを備える。そして、樹脂板50のクッションプレート30に対するすべり摩擦係数、および、樹脂板50の摩擦板10に対するすべり摩擦係数は、クッションプレート30と摩擦板10との間のすべり摩擦係数よりも大きい。
【0037】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の1つの実施の形態に係る動力伝達装置としての自動変速機を示すスケルトン図である。
【図2】図1に示される自動変速機における各ギヤ段と各ブレーキおよび各クラッチとの対応を表した作動表である。
【図3】本発明の1つの実施の形態に係る摩擦係合装置を示した断面図である。
【図4】図3に示す摩擦係合装置に含まれる弾性部材と介装部材とを示した上面図である。
【図5】図3,図4に示される弾性部材の支持構造を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 自動変速機、10,20 摩擦板、30 クッションプレート(皿ばね)、31 爪部、40 ピストン、50 樹脂板、60 スナップリング、100 トルクコンバータ、110 入力軸、120 出力軸、200 第1セット、210 サンギヤ、220 ピニオンギヤ、230 リングギヤ、240 キャリア、300 第2セット、310 サンギヤ、320 ショートピニオンギヤ、321 キャリヤ、330 ロングピニオンギヤ、331 キャリヤ、340 サンギヤ、350 リングギヤ、400 出力ギヤ、500 ギヤケース、610 B1ブレーキ、620 B2ブレーキ、630 B3ブレーキ、710 C1クラッチ、720 C2クラッチ、730 ワンウェイクラッチ、800 ハブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の摩擦板と第2の摩擦板とを摩擦係合させる摩擦係合装置であって、
スプライン溝を有し、前記第1の摩擦板を支持する外方部材と、
前記外方部材に対して相対回転可能であり、前記第2の摩擦板を支持する内方部材と、
前記外方部材に形成された前記スプライン溝に嵌合する爪部を有し、該爪部を介して前記外方部材に支持される弾性部材と、
前記弾性部材と前記第1の摩擦板との間に介装され、前記弾性部材に対するすべり摩擦係数および前記第1の摩擦板に対するすべり摩擦係数が、前記弾性部材と前記第1の摩擦板との間のすべり摩擦係数よりも大きい介装部材とを備えた、摩擦係合装置。
【請求項2】
前記介装部材の少なくとも表面は樹脂素材を含む、請求項1に記載の摩擦係合装置。
【請求項3】
前記第1の摩擦板および前記弾性部材は金属製部材である、請求項1または請求項2に記載の摩擦係合装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の摩擦係合装置を備えた、動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−222100(P2009−222100A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65657(P2008−65657)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】