説明

摩擦対および摩擦材

【課題】摩擦係数の向上と耐摩耗性の向上とを図る同時に、フェード時における摩擦係数の向上を図り得る摩擦対を提供する。
【解決手段】摩擦材2と相手材3とを有し、これら摩擦材2と相手材3との間に生じる摩擦力によって制動力を発生する摩擦対1であって、摩擦材2は、基材と摩擦調整剤と有機物の結合剤とを有し、かつ摩擦調整剤としてモース硬度10段階で9以上の研削材を有し、基材として金属を摩擦材全体の20体積%以上有している。そして相手材3は、表面にサーメット層3aを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材と相手材とを有し、これら摩擦材と相手材との間に生じる摩擦力によって制動力を発生する摩擦対に関する。とりわけ摩擦係数の向上と耐摩耗性の向上とを図り、かつフェード時における摩擦係数の向上を図る摩擦対に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦対は、従前から基本特性である摩擦係数の向上と、耐摩耗性の向上とが図られている。そして摩擦対は、これらを向上させることで小型化と軽量化とが図られ得る。
しかし摩擦係数の向上と耐摩耗性の向上は、互いに相補的な関係にある。例えば摩擦材の研削力を上げて摩擦係数を高くした場合には、相手材の摩耗量が大きくなってしまう。摩擦材に金属原料を多量に添加して凝着力を上げることで摩擦係数を高くした場合には、摩擦係数の温度依存性が大きくなってしまい、しかも焼き付きも生じやすくなってしまう。
【0003】
そしてこれらを解決するために、従来様々な摩擦材と相手材が開発されている。
特許文献1には、摩擦材が開示されている。本摩擦材は、摩擦係数を高める炭化ケイ素と、潤滑性を向上させる無機物とを有している。そして適度な摩擦係数と適度な耐磨耗性を得るために炭化ケイ素を10〜30重量%有している。しかし本摩擦材は、十分に高い摩擦係数を得ることが容易でないという問題があった。
特許文献2には、ロータ(相手材)が開示されている。本ロータは、表面に硬質のサーメット層を有しており、これによって耐磨耗性の向上が図られている。しかしロータの表面が硬質であるために、ロータに摺接される摩擦材を選択しなければ十分に高い摩擦係数を得ることができない場合がある。これに対して、特許文献2には、本ロータに対する好適な摩擦材が開示されていなかった。
【0004】
特許文献3には、摩擦材と相手材との組合わせが開示されている。すなわち一方が炭素―炭素複合材料であり、他方が炭化ケイ素を繊維状補強材によって補強した複合材料からなる組合わせが開示されている。そして本組合わせにすることによって、炭素―炭素複合材料同士の組合わせに比べて摩擦係数が高くなり、しかも安価に構成され得ることが開示されている。しかし本組合わせの摩擦対は、炭素―炭素複合材料側の摩耗量が非常に多くなってしまうという問題がある。しかも特許文献3に記載された摩擦材と相手材は、レース用または航空機などのために開発されたものであって、炭素あるいは炭化ケイ素をベースとするものである。そのため本発明のように繊維基材と摩擦調整剤と有機物の結合とを有する摩擦材を備える摩擦対とは、材料において大きく異なっている。
【0005】
特許文献4には、摩擦材が開示されている。本摩擦材は、セラミックマトリックス複合材料を原料とするものであって、炭化ホウ素を非酸化物セラミック繊維によって強化した材料などを原料としている。そして本摩擦材を用いることによって摩擦材の耐磨耗性の向上が図られている。しかし特許文献4に記載された摩擦材は、レース用または航空機などに使用されるものであって、セラミックをベースとしている。そのため材料において本発明にかかる摩擦対と大きく異なっている。
【0006】
また従前、摩擦対は、基本特性の一つであるフェード時の摩擦係数の向上も試みられている。フェードは、摩擦材に有機物が結合材として含まれている場合に生じる現象であって、摩擦材が300℃以上になり、有機物が分解してガスが発生し、ガスによって摩擦係数が低下する現象である。そして従来、ガスの発生を抑制するためにAr雰囲気で高温処理した摩擦材が知られていた。しかしこの種の摩擦材は、摩耗量が多く、コストが高くなるという問題を有していた。
【特許文献1】特開2004−35871号公報
【特許文献2】特開2001−317573号公報
【特許文献3】特公平7−68991号公報
【特許文献4】特表2004−510674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、摩擦係数の向上と耐摩耗性の向上とを図る同時に、フェード時における摩擦係数の向上を図り得る摩擦対および摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明は、各請求項に記載の通りの構成を備える摩擦対または摩擦材であることを特徴とする。
すなわち請求項1に記載の発明によると、摩擦材と相手材とを有し、これら摩擦材と相手材との間に生じる摩擦力によって制動力を発生する摩擦対であって、摩擦材は、基材と摩擦調整剤と有機物の結合剤とを有し、かつ摩擦調整剤としてモース硬度10段階で9以上の研削材を有し、基材として金属を摩擦材全体の20体積%以上有している。そして相手材は、表面にサーメット層を有している。
【0009】
したがって摩擦材は、モース硬度が非常に高い研削材を含んでいるために、研削力が向上して摩擦係数が高くなる。一方、相手材は、サーメット層を有しているために耐磨耗性に優れ得る。そして実験結果から、これら摩擦材と相手材との組合わせにて耐摩耗性の向上と摩擦係数の向上とが図られることがわかった。
また摩擦材は、金属を摩擦材全体の20体積%以上有しているために、フェード時における摩擦係数が十分に高くなることが実験結果からわかった。この原因は明らかではないが、非常に固い摩擦材と、非常に固い相手材とを擦り合わせることによって、摩擦材に含まれている金属が摩擦面に金属被膜を形成し、金属被膜によって摩擦材から発生するガスが摩擦材と相手材の間に入り込むことを抑制するためであると思慮される。一方、金属の量が20体積%よりも少ない摩擦材では、フェード時の摩擦係数が激減することが実験結果からわかった。
したがって本摩擦対によると、摩擦係数の向上と耐摩耗性の向上とを図ることができ、かつフェード時の摩擦係数の向上を図ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によると、摩擦材は、モース硬度9以上の研削材としてSiC,WCまたはBCを含んでいる。
請求項3に記載の発明によると、摩擦材は、モース硬度9以上の研削材を摩擦材全体の5〜40体積%有している。
したがって摩擦対は、本配合量の金属を摩擦材に含むことによって、摩擦係数が十分に高くなる。
【0011】
請求項4に記載の発明によると、摩擦材に含まれる金属は、基材として含まれる金属繊維である。
したがって金属は、フェード時における摩擦係数の向上を図る役割と、繊維状の基材を構成するという二つの役割を担う。
請求項5に記載の発明によると、摩擦材に含まれる金属は、1050℃以上の融点を有する金属である。
例えば、銅や鉄などの金属である。そして該金属を利用することで、摩擦係数、とりわけフェード時の摩擦係数が高くなることが実験結果からわかった。
【0012】
請求項6に記載の発明によると、相手材のサーメット層は、タングステンカーバイトを含んでいる。
実験結果からサーメット層にタングステンカーバイトが含まれることで、相手材と本発明にかかる摩擦材(請求項1〜5参照)との間には、高い摩擦係数が発生し、しかも両部材の耐磨耗性が高くなることがわかった。
【0013】
請求項7に記載の発明によると、摩擦材と相手材との間でフェードが発生した際に、摩擦材に含まれている金属が摩擦材の摩擦面において金属被膜を形成する。
したがってフェード時に摩擦材の摩擦面に金属被膜が生じ、その金属被膜によって摩擦材の有機物から発生するガスが摩擦材と相手材との間に入り込むことが抑制され得る。そのためフェード時における摩擦係数の低下が金属被膜によって抑制され得る。
請求項8に記載の発明によると、金属被膜は、フェード時に摩擦材の摩擦面全体の50面積%以上を占める。
したがって金属被膜が十分に広いために、フェード時における摩擦係数の低下を十分に抑制することができる。
【0014】
請求項9に記載の発明によると、基材と摩擦調整剤と有機物の結合剤とを有する摩擦材であって、摩擦調整剤としてモース硬度10段階で9以上の研削材を有し、かつ基材として金属を摩擦材全体の20体積%以上有している。そして摩擦材と相手材との間でフェードが発生した際に、摩擦材に含まれている金属が摩擦材の摩擦面において金属被膜を形成する。
したがって摩擦材は、モース硬度が非常に高い研削材を含んでいるために、研削力が向上し、摩擦係数が高くなる。
また摩擦材は、金属を摩擦材全体の20体積%以上有しているために、フェード時における摩擦係数が十分に高くなることが実験結果からわかった。この原因は明らかではないが、摩擦材と相手材との擦り合わせによって、摩擦材に含まれている金属が摩擦面に金属被膜を形成し、金属被膜によって摩擦材から発生するガスが摩擦材と相手材の間に入り込むことを抑制するためであると思慮される。一方、金属の量が20体積%よりも少ない摩擦材では、フェード時の摩擦係数が激減することが実験結果からわかった。したがって本摩擦材によると、フェード時における摩擦係数の向上を図ることができる。
【0015】
請求項10に記載の発明によると、請求項9に記載の摩擦材と、相手材とを有し、これら摩擦材と相手材との間に生じる摩擦力によって制動力を発生する摩擦対であって、相手材が表面にサーメット層を有している。
したがって相手材は、サーメット層を有しているために、耐磨耗性に優れ得る。また摩擦材と相手材は、どちらも非常に固いために、非常に固いもの同士の擦り合わせによって摩擦材に含まれている金属が引き伸ばされやすく、金属被膜が形成されやすい。
そして実験結果から、これら摩擦材と相手材との組合わせによって耐摩耗性の向上と摩擦係数の向上とが図られることもわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明にかかる摩擦対は、摩擦材と相手材とを有し、これらを摺接させた際に生じる摩擦力によって制動力を発生する。例えば摩擦対は、図1,2に示すようにディスクブレーキ用の摩擦対1であって、摩擦材2であるパッドと、相手材3であるロータを有している。
摩擦材は、基材と摩擦調整剤(充填剤)と有機物の結合剤とを有している。そして本発明にかかる摩擦材は、摩擦調整剤としてモース硬度10段階で9以上の研削材を有し、基材として金属を摩擦材全体の20体積%以上有している。
そして相手材は、サーメット層(例えば図2の3a)を有している。
以下、摩擦材と相手材について詳述する。
【0017】
摩擦材の基材は、無機繊維、有機繊維および粉末体を適宜選択して使用することができる。そして本発明では、無機繊維として金属繊維、または粉末体として金属粉を適宜含んでおり、いわゆる基材として金属を含んでいる。
金属繊維は、例えば鉄繊維,銅繊維であって、融点が1050℃以上のものが好適に使用される。金属粉としては、銅粉などを使用することができる。
金属繊維および金属粉の総配合量は、摩擦材全体の20体積%以上が好ましく、より好ましくは25体積%以上、30体積%以上である。そして該配合量の上限は、50体積%以下が好ましく、40体積%以下、35体積%以下がより好ましい。
【0018】
金属繊維以外の無機繊維としては、ガラス繊維,セラミックス繊維(アルミナ−シリカ系セラミックス繊維など),チタン酸カリウム繊維などを使用することができる。有機繊維としては、アラミド繊維などを使用することができる。
これら基材は、それぞれ個別に用いることもできるが、数種を混合して用いることもできる。そして基材の総添加量は、摩擦材全体の20〜50体積%であることが好ましい。
【0019】
摩擦材の摩擦調整剤(充填剤)は、摩擦係数の調整、異音調整、錆防止などのために含まれるものであって、無機充填材,有機充填材,潤滑剤などが適宜含まれる。そして本発明では、摩擦調整剤としてモース硬度10段階で9以上の研削材、好ましくは9.3以上の研削材を有している。
研削材としては、例えば、WC(タングステンカーバイト、モース硬度9)、SiC(炭化珪素、モース硬度9.3)、BC(炭化ホウ素、モース硬度9.6)を使用することができる。
【0020】
研削材は、粒子状または繊維状であって、粒子状(例えばSiC粒子)であれば、平均直径が5〜15μmのものが好適に使用される。繊維状(例えばSiC繊維)であれば、平均直径が5〜15μm、長さが0.5〜20mmであって、好ましくは長さが1〜10mmのものが使用される。
研削材の添加量は、摩擦材全体の5〜40体積%であることが好ましく、より好ましくは10〜30体積%である。
【0021】
上記した研削材以外の無機充填剤としては、硫酸バリウム,炭酸カルシウム,水酸化カルシウム,雲母(マイカ),カオリン,タルク、硫化物などが必要に応じて含まれる。有機充填剤としては、カシューダストやラバーダストなどを使用できる。潤滑剤としては、黒鉛(グラファイト),三硫化アンチモン,二硫化モリブデン,二硫化亜鉛などを使用できる。
また摩擦調整剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
【0022】
結合剤としては、有機物である樹脂が使用される。例えばフェノール樹脂,イミド樹脂,ゴム変性フェノール樹脂,メラミン樹脂,エポキシ樹脂,NBR,ニトリルゴム,アクリルゴムなどが使用される。そして結合剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
結合剤の添加量は、摩擦材全体の5〜30体積%であることが好ましい。
【0023】
次に、摩擦材の製造方法を説明する。
先ず、摩擦材原料を混合して原料混合物を得る(原料混合工程)。混合機としては、アイリッヒミキサー、ユニバーサルミキサー、レーディゲミキサーなどを利用することができる。
次に、原料混合物を予備金型にて予備成形し、その後、成形用金型によって加圧加熱成形する。加圧加熱成形における成形温度は、例えば130〜200℃であり、成形圧力は、100〜1000kgf/cm、成形時間は、2〜15分である。
そして成形後に、成形体を140〜400℃で2〜48時間硬化させる。
【0024】
相手材は、表面にサーメット層を有している。例えば、相手材は、鋳鉄製のディスクブレーキ用のロータを準備し、その表面にサーメット原料粉を溶射し、溶射した表面を研磨で仕上げることで形成されている。
サーメット原料粉は、Coなどの金属粉末と、炭化系または酸化系のセラミック粉末を含んでおり、溶射されることでサーメット層になる。サーメット層としては、タングステンカーバイト(WC−12Co)を含んでいるものが好ましく、厚さとしては、50〜1000μmであることが好ましい。
【0025】
本発明にかかる摩擦対は、摩擦材と相手材とを摺接させてフェードを発生させた際に、摩擦材の摩擦面に金属被膜(例えば図2の2a)が生じる。
この金属被膜は、摩擦材の金属がフェード時に変化して形成されたものである。例えば、金属被膜は、摩擦材と相手材とをJASO C―406−87の第一フェードにて摩擦係数を測定する際に形成される。そして測定後にもこの金属被膜が摩擦材の摩擦面上に確認できる。
金属被膜は、金属光沢を有しており、未反応な金属であると推察される。
そして金属被膜は、摩擦材の摩擦面の50面積%以上、60面積%以上、70面積%以上、80面積%以上、90面積%以上の領域において形成された。
【0026】
以上のようにして摩擦対が構成されている。
すなわち摩擦材は、モース硬度が非常に高い研削材を含んでいるために、研削力が向上して摩擦係数が高くなる。一方、相手材は、サーメット層を有しているために耐磨耗性に優れ得る。そして実験結果から、これら摩擦材と相手材との組合わせにて耐摩耗性の向上と摩擦係数の向上とが図られることがわかった。
【0027】
また摩擦材は、金属を摩擦材全体の20体積%以上有しているために、フェード時における摩擦係数が十分に高くなることが実験結果からわかった。この原因は明らかではないが、非常に固い摩擦材と、非常に固い相手材とを擦り合わせることによって、摩擦材に含まれている金属が摩擦面に金属被膜を形成し、金属被膜によって摩擦材から発生するガスが摩擦材と相手材の間に入り込むことを抑制するためであると思慮される。
【0028】
また摩擦材と相手材は、どちらも非常に固いために、非常に固いもの同士の擦り合わせによって摩擦材に含まれている金属が引き伸ばされやすく、金属被膜が形成されやすい。
また摩擦材は、Ar雰囲気等にて高温の熱処理を施していないために、熱処理によるコストを必要としない。
【実施例】
【0029】
以下に、本発明に係る実施例1,2と比較例1〜3を具体的な数字を用いて説明する。
実施例1,2に係る摩擦材と、比較例1〜3に係る摩擦材は、表1に示す原料成分と配合量にて配合する。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例1,2と比較例1〜3係る摩擦材は、研削材としてSiC粒子を含んでいる点で共通しており、平均直径が15μmのものを使用した。なお比較例3は、実施例1,2、比較例1,2よりもSiC粒子の含有量が少ない。
実施例1は、金属として鉄繊維を20体積%有しており、実施例2は、金属として銅繊維を30体積%有している。
一方、比較例1〜3は、金属の総量が20体積%よりも少ない。
【0032】
実施例1,2と比較例1〜3に係る摩擦材の製造方法は、先ず、表1に示す原料をアイリッヒミキサーによって5分間乾式にて混合し、原料混合物を得た。そして原料混合物を成形温度160℃、成形圧力200kgf/cm、成形時間10分の条件において加圧加熱成形した。次に、成形物を230℃、3時間の条件において硬化させた。
続いて比較例2の摩擦材のみをAr雰囲気中にて6時間600℃の熱処理を行った。
【0033】
実施例1,2と比較例1〜3に係る相手材は、すべて同じものを用いた。すなわち鋳鉄製のディスクブレーキ用のロータ(図1,2の3)を準備し、その表面にWC−Co粉を溶射し、溶射後に表面を研磨し、サーメット層の層厚さを約300μmに仕上げた(図2の3a)。
実施例1,2と比較例1〜3に係る摩擦材をバッキングプレートにフェノール系樹脂にて接着し、ディスクブレーキ用の摩擦材(図1,2の2)として形状を整えた。
そして上記摩擦材と相手材との組合わせによる摩擦対で生じる各特性を測定し、その測定結果を表2にまとめた。
【0034】
各特性は、以下のように測定した。
<試験後摩耗量> JASO C−406−87に従って第一効力、第一フェード、第二効力、第二フェード、第三効力、第三フェードの摩擦係数の測定試験を行い、これら試験終了時の相手材(ロータ)と摩擦材の摩耗量を測定した。
<第二効力の摩擦係数> JASO C―406−87に従って制動前速度50km/hにおける平均摩擦係数とばらつきを測定した。
<第一フェードの摩擦係数> JASO C―406−87に従って制動前速度50km/hにおけるフェード時の平均摩擦係数の最も低い制動中における瞬間摩擦係数の最低値とその時の温度を測定した。
<判定> 表3に示す判定基準に従って実験結果を判定した。
○:表3の基準を全て満たすもの
×:表3の基準を一つ以上において満たさないもの
【0035】
【表2】

【0036】
【表3】

【0037】
表2の測定結果から以下のことがわかった。
すなわち実施例1,2は、比較例3に比べて摩擦係数(第二効力)が高いことがわかった。したがって摩擦材にSiC粒子を多く含むことによって、摩擦係数が向上することがわかった。
実施例1,2は、比較例1に比べてフェード時の摩擦係数(1F)が高いことがわかった。したがって摩擦材に金属を20体積%以上含ませることで、フェード時の摩擦係数が向上し、金属の量が20体積%よりも少ない場合には、フェード時の摩擦係数が激減することがわかった。
【0038】
比較例2は、フェード時および通常時の摩擦係数がいずれも高かった。しかし比較例2は、摩擦材の摩耗量が多く、耐磨耗性が悪いことがわかった。したがって摩擦材に600℃以上の熱処理を行うことで耐磨耗性が悪くなることがわかった。一方、実施例1,2は、比較例2のように耐磨耗性が悪くなることがなかった。
【0039】
また実施例1,2は、相手材の摩耗量が十分に少なかった。
以上より実施例1,2は、すべての試験において良好な結果が得られた。そして実施例1,2の測定結果から、摩擦材に含まれる金属は、鉄でも銅でも良いことがわかった。そしてその量は、20体積%、30体積%において良好になることがわかった。
実施例1,2では、フェード時の摩擦係数を測定した後に、摩擦材の表面に金属被膜(図2の2a)が形成されたことを確認できた。そしてその量が摩擦材の摩擦面の80面積%以上であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、産業機械、鉄道車両、荷物車両、乗用車などに使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】摩擦対の正面模式図である。
【図2】図1のII―II線における摩擦対の模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1…摩擦対
2…摩擦材
2a…金属被膜
3…相手材
3a…サーメット層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材(2)と相手材(3)とを有し、これら摩擦材(2)と相手材(3)との間に生じる摩擦力によって制動力を発生する摩擦対(1)であって、
前記摩擦材(2)は、基材と摩擦調整剤と有機物の結合剤とを有し、かつ前記摩擦調整剤としてモース硬度10段階で9以上の研削材を有し、前記基材として金属を摩擦材全体の20体積%以上有しており、
前記相手材(3)は、表面にサーメット層(3a)を有していることを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦対(1)であって、
摩擦材(2)は、モース硬度9以上の研削材としてSiC,WCまたはB4Cを含んでいることを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摩擦対(1)であって、
摩擦材(2)は、モース硬度9以上の研削材を摩擦材全体の5〜40体積%有していることを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦対(1)であって、
摩擦材(2)に含まれる金属は、基材として含まれる金属繊維であることを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の摩擦対(1)であって、
摩擦材(2)に含まれる金属は、1050℃以上の融点を有する金属であることを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の摩擦対(1)であって、
相手材(3)のサーメット層(3a)は、タングステンカーバイトを含んでいることを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の摩擦対(1)であって、
摩擦材(2)と相手材(3)との間でフェードが発生した際に、摩擦材(2)に含まれている金属が前記摩擦材(2)の摩擦面において金属被膜(2a)を形成することを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項8】
請求項7に記載の摩擦対(1)であって、
金属被膜(2a)は、フェード時に摩擦材(2)の摩擦面全体の50面積%以上を占めることを特徴とする摩擦対(1)。
【請求項9】
基材と摩擦調整剤と有機物の結合剤とを有する摩擦材(2)であって、
前記摩擦調整剤としてモース硬度10段階で9以上の研削材を有し、かつ前記基材として金属を摩擦材全体の20体積%以上有しており、
前記摩擦材(2)と相手材(3)との間でフェードが発生した際に、前記摩擦材(2)に含まれている金属が前記摩擦材(2)の摩擦面において金属被膜(2a)を形成することを特徴とする摩擦材(2)。
【請求項10】
請求項9に記載の摩擦材(2)と、相手材(3)とを有し、これら摩擦材(2)と相手材(3)との間に生じる摩擦力によって制動力を発生する摩擦対(1)であって、
前記相手材(3)が表面にサーメット層(3a)を有していることを特徴とする摩擦対(1)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−113642(P2007−113642A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304394(P2005−304394)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】