説明

摺動機構

【課題】低摩擦摺動材料用潤滑油として用いた際に優れた低摩擦性と耐摩耗性とを共に具備する低摩擦摺動材料用潤滑油組成物および優れた低摩擦性を有する摺動材料からなる摺動機構を提供することにより、優れた低摩擦性と耐摩耗性とを効果的に実現すること。
【解決手段】2つの摺動材料が相互に摺動する摺動面に潤滑油を介在させた摺動機構であって、潤滑油は、分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを特徴とする有機モリブデン化合物を含む潤滑油組成物からなり、2つの摺動材料のうち、少なくとも一方の摺動材料の摺動面に非晶質炭素膜が形成されており、非晶質炭素膜は、金属元素を1〜50atom%含有している摺動機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油中で2つの摺動材料が相互に摺動する摺動機構に関し、さらに詳しくは、極めて低い摩擦係数を示す潤滑油組成物で構成される潤滑油と、非晶質炭素膜を摺動面に形成した摺動材料とからなる摺動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において環境問題への対応が重要になっており、省エネルギー化や二酸化炭素の排出量の低減化に関する技術開発が進められている。例えば、自動車に関しては燃費の向上が課題の一つであり、潤滑油や摺動材料の技術開発が重要になっている。
【0003】
潤滑油に関しては、これまでに各種性能向上を目的として、種々の基油や添加剤が開発されている。例えば、エンジン油に要求される性能としては、適切な粘度特性、酸化安定性、清浄分散性、摩耗防止性、あわ立ち防止性等があり、種々の基油及び添加剤の組み合わせによりこれらの性能向上が図られている。特に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)は耐摩耗添加剤として優れることから、エンジン油の添加剤としてよく使用されている。
【0004】
一方、摺動材料に関しては、摩擦摩耗環境が苛酷な部位(例えば、エンジンの摺動部位)用の材料として、耐摩耗性向上等に寄与するTiN皮膜やCrN皮膜等の硬質皮膜を有する材料が知られている。さらに、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)皮膜を利用することで、空気中、潤滑油非存在下において摩擦係数を低下できることが知られ、DLC皮膜を有する材料(以下、DLC材料と称する。)が低摩擦摺動材料として期待されている。
【0005】
しかしながら、DLC材料は、潤滑油の存在下においてはその摩擦低減効果が小さいことがあり、この場合省燃費効果は得られにくい。そのため、代表例としての硫化オキシモリブデンジチオカーバメート(MoDTC)をはじめ、これまでに種々の低摩擦摺動材料用の潤滑油組成物の開発が行われている。
例えば、特許文献1にはエーテル系無灰摩擦低減剤を含む低摩擦摺動材料用潤滑油組成物が開示されている。特許文献2、3には、DLC部材と鉄基部材との摺動面やDLC部材とアルミニウム合金部材との摺動面に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物を用いる技術が開示されている。特許文献4には、DLCコーティング摺動材料を有する低摩擦摺動機構において、含酸素有機化合物や脂肪族アミン系化合物を含有する低摩擦剤組成物を用いる技術が開示されている。
【0006】
そして、DLC材料に関しても、Si、Ta、Wなどの金属を添加して、これらの低摩擦摺動材料用潤滑油と共に用いることにより、MoDTC由来の反応生成物を金属表面に吸着させて摩擦係数をさらに低減させる技術が、特許文献5、6に開示されている。
【0007】
しかしながら、DLC材料とMoDTCを配合した潤滑油組成物を用いた場合、摩擦係数の低減はできるもののDLC材料が急激に摩耗して、短時間で基材の露出を招き焼付けなどを生じることが非特許文献1などに示されており、この問題の発生は、上記の金属を添加したDLC材料といえども例外ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−36850号公報
【特許文献2】特開2003−238982号公報
【特許文献3】特開2004−155891号公報
【特許文献4】特開2005−98495号公報
【特許文献5】特公平03−20463号公報
【特許文献6】特許第4007440号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集(佐賀 2007−9)」、pp429−430(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、低摩擦摺動材料用潤滑油として用いた際に優れた低摩擦性に加えて優れた耐摩耗性を備えた低摩擦摺動材料用潤滑油組成物と、より優れた低摩擦性を有しさらに耐摩耗性にも優れた摺動材料とにより、優れた低摩擦性と耐摩耗性とを効果的に実現することができる摺動機構を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、まず、潤滑油組成物について鋭意検討を行い、特定の有機モリブデン化合物を含む潤滑油組成物、具体的には、分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下である有機モリブデン化合物を含む潤滑油組成物を用いた場合に優れた低摩擦性と耐摩耗性が得られることを見出した。
【0012】
そして、上記の潤滑油組成物からなる潤滑油を、それぞれの摺動面に金属摺動面が形成された2つの摺動材料と組み合わせた場合には、摩擦係数低減効果が充分には発揮されないが、一方の摺動材料を摺動面に非晶質炭素膜面形成された摺動材料とした場合には、他方の摺動材料の金属摺動面との間に、潤滑油と非晶質炭素膜との反応生成物であるモリブデンを含有する固体潤滑膜が形成されて摩擦係数がより低減されることが分かった。そして、生成された反応生成物は、非晶質炭素膜表面側よりも相手方の金属摺動面側に多く吸着されて、固体潤滑膜を形成していることも分かった。
【0013】
この知見に基づき、本発明者は、非晶質炭素膜に金属元素を含有させた場合、表面に露出した金属元素に反応生成物を吸着させることができ、摩擦係数をより低減させることができると考え、種々の実験と検討を行ったところ、金属元素を含有させた非晶質炭素膜が形成された摺動材料の場合、優れた低摩擦性を発揮することが分かった。そして、さらに金属元素の含有量を適切に制御することにより、優れた耐摩耗性をも発揮できることが分かった。
【0014】
すなわち本発明は、
1.2つの摺動材料が相互に摺動する摺動面に潤滑油を介在させた摺動機構であって、
潤滑油は、分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを特徴とする有機モリブデン化合物を含む潤滑油組成物からなり、
2つの摺動材料のうち、少なくとも一方の摺動材料の摺動面に非晶質炭素膜が形成されており、
非晶質炭素膜は、金属元素を1〜50atom%含有している摺動機構、
2.金属元素は、Si、W、Fe、Ti、Cr、Moの金属元素群から選ばれた1種以上の金属元素である上記1に記載の摺動機構、
3.潤滑油組成物が、有機モリブデン化合物の窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05以上1.0以下の潤滑油組成物である上記1又は2に記載の摺動機構、
4.潤滑油組成物が、組成物全量基準で、有機モリブデン化合物に由来する硫黄含有量が、100質量ppm以下である潤滑油組成物である上記1〜3のいずれかに記載の摺動機構、
5.有機モリブデン化合物が、(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物、(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、及び(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミドもしくはカルボン酸アミドの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、の中から選ばれた1種又は2種以上の化合物である上記1〜4のいずれかに記載の摺動機構、
6.潤滑油組成物が、さらに、有機ジチオリン酸亜鉛を含む上記1〜5のいずれかに記載の摺動機構、
7.有機ジチオリン酸亜鉛を構成する炭化水素基が、2級アルキル基を含むものである上記6に記載の摺動機構、
8.潤滑油組成物が、組成物全量基準で、モリブデン含有量が0.02〜0.2質量%の潤滑油組成物である上記1〜7のいずれかに記載の摺動機構、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低摩擦摺動材料用潤滑油として用いた際に優れた低摩擦性に加えて優れた耐摩耗性を備えた低摩擦摺動材料用潤滑油組成物と、より優れた低摩擦性を有しさらに耐摩耗性にも優れた摺動材料とにより、優れた低摩擦性と耐摩耗性とを効果的に実現することができる摺動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る摺動機構の摺動材料の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態において非晶質炭素膜の形成に用いられる陰極PIGプラズマCVD装置の概要を示す図である。
【図3】本発明の一実施例および従来例の摺動機構の摺動材料の摩擦係数の測定結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施例の摺動機構の摺動材料の摩擦係数および摩耗量の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態の摺動機構は、以下に説明する潤滑油組成物からなる潤滑油と摺動材料とを組み合わせて構成されている。
【0018】
1.潤滑油組成物
はじめに潤滑油組成物について説明する。潤滑油組成物は、以下に記載する潤滑油基油と有機モリブデン化合物を含有する。
【0019】
本発明で用いる潤滑油基油は特に制限はなく、従来使用されている公知の鉱物系基油及び合成系基油の中から適宜選択して用いることができる。
ここで、鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の1つ以上の処理を行って精製した鉱油、あるいはワックスやGTL WAXを異性化することによって製造される鉱油等が挙げられる。
また、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン[α−オレフィン単独重合体や共重合体(例えばエチレン−α−オレフィン共重合体)など]、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、ポリグリコール、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。これらの合成油のうち、特にポリα−オレフィンが好ましい。
【0020】
本発明においては、基油として、上記鉱油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油1種以上と合成油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
基油の粘度については特に制限はなく、潤滑油組成物の用途に応じて異なるが、通常100℃の動粘度が2〜30mm/s、好ましくは2.5〜15mm/s、より好ましくは3.5〜10mm/sである。100℃における動粘度が2mm/s以上であれば蒸発損失が少なく、一方30mm/s以下であれば、粘性抵抗による動力損失があまり大きくなることがなく、燃費改善効果が得られる。
【0021】
また、基油としては、JIS K 2541に準拠して測定した硫黄分が50質量ppm以下であるものが好ましい。硫黄分が50質量ppm以下であれば、低摩擦摺動材料の耐摩耗性を高める効果がある。より好ましい硫黄分は、30質量ppm以下、さらには20質量ppm以下である。
また、基油としては、環分析による%Cが3.0以下のものが好ましく用いられる。ここで、環分析による%Cとは、環分析n−d−M法にて算出した芳香族分の割合(百分率)を示す。%Cが、3.0以下であれば、良好な酸化安定性を示す。より好ましい%Cは1.0以下、さらには、0.5以下である。
さらに、基油の粘度指数は、70以上が好ましく、より好ましくは100以上、さらに好ましくは120以上である。この粘度指数が70以上の基油は、温度の変化による粘度変化が小さく、安定した潤滑特性が得られる。
【0022】
本発明においては、分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下である有機モリブデン化合物を用いる。
このような化合物を含む潤滑油組成物は、低摩擦摺動材料に対して優れた低摩擦性と耐摩耗性とを共に付与する効果がある。
【0023】
すなわち、本発明において用いる有機モリブデン化合物は、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを要する。
有機モリブデン化合物の硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%を越える有機モリブデン化合物を用いると、低摩擦摺動材料に対する耐摩耗性が悪化する。従って、好ましい有機モリブデン化合物の硫黄含有量は、0.3質量%以下である。
また、本発明の有機モリブデン化合物は、窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05以上1.0以下であることが好ましい。これによって、さらに優れた低摩擦性を得ることができる。窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05未満であると化合物の安定性が劣ることがあり、1.0を越えると摩擦低減効果が低下することがある。従って、窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)0.1以上0.8以下であることがより好ましい。
【0024】
このような化合物は、特に制限はないが、例えば、(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物、(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる反応生成物、及び(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミド、もしくはカルボン酸アミドとの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる反応生成物、が挙げられる。
【0025】
前記(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物は、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させることにより、例えば特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得ることができる。
6価のモリブデン化合物と反応させるアミン化合物としては特に制限されないが、具体的には、モノアミン、ジアミン、ポリアミン及びアルカノールアミンが挙げられる。より具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、及びプロピルブチルアミン等の炭素数1〜30のアルキル基(これらのアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルキルアミン;エテニルアミン、プロペニルアミン、ブテニルアミン、オクテニルアミン、及びオレイルアミン等の炭素数2〜30のアルケニル基(これらのアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルケニルアミン;メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ヘキサノールアミン、ヘプタノールアミン、オクタノールアミン、ノナノールアミン、メタノールエタノールアミン、メタノールプロパノールアミン、メタノールブタノールアミン、エタノールプロパノールアミン、エタノールブタノールアミン、及びプロパノールブタノールアミン等の炭素数1〜30のアルカノール基(これらのアルカノール基は直鎖状でも分枝状でもよい)を有するアルカノールアミン;メチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、及びブチレンジアミン等の炭素数1〜30のアルキレン基を有するアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン;ウンデシルジエチルアミン、ウンデシルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、オレイルジエタノールアミン、オレイルプロピレンジアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン等の上記モノアミン、ジアミン、ポリアミンに炭素数8〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物やイミダゾリン等の複素環化合物;これらの化合物のアルキレンオキシド付加物;及びこれらの混合物等が例示できる。これらのアミン化合物の中でも、第1級アミン、第2級アミン及びアルカノールアミンが好ましい。
【0026】
これらのアミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4〜30であり、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、反応生成物におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合でその効果を高めることができる。これらのアミン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記6価のモリブデン化合物とアミン化合物との反応比は、アミン化合物1モルに対し、モリブデン化合物のMo原子のモル比が、0.7〜5であることが好ましく、0.8〜4であることがより好ましく、1〜2.5であることがさらに好ましい。反応方法については特に制限はなく、従来公知の方法、例えば特開2003−252887号公報に記載されている方法を採用することができる。
【0027】
前記(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物は、様々な形態で製造可能であるが、特許2757174に記述されている反応生成物は、米国特許第5,412,130号で開示されているジオール、ジアミノ、又はアミノ−アルコール化合物とモリブデン源とを相間移動触媒の存在において反応させることによって得られる。米国特許第4,889,647号には脂肪油と、ジエタノールアミンとモリブデン源との反応生成物、米国特許第5,137,647号には2−(2−アミノエチル)アミノエタノールの脂肪酸誘導体とモリブデン源との反応生成物が開示されている。
【0028】
特許3291339に開示されている2−(2−アミノエチル)アミノエタノールの脂肪誘導体とモリブデン源との反応で得られる反応生成物は、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリンの脂肪誘導体の加水分解によってできるアミン−アミド中間体とモリブデン源との反応で得られる。
特許4109428に開示されている反応生成物は、脂肪油、モノアルキル化アルキレンジアミン及びモリブデン源の反応生成物を含んでおり、第1のステップとして、脂肪油とモノ置換アルキレンジアミンを高温で反応させてアミノアミド/グリセリド混合物を製造し、第2のステップとして、モリブデン源と反応させる方法で製造することが好ましい。
脂肪油としては脂肪酸のグリセリルエステル、トリアシルグリセロールまたはトリグリセリドが挙げられる。ジアミンとしては、脂肪油と反応することが可能で、中間体のアミノアミド/グリセリド混合物がモリブデン源と反応することが可能であるモノアルキル化ジアミンが用いられる。モリブデン源は、アンモニウムモリブデート、ナトリウムモリブデート、酸化モリブデン及びこれらの混合物が挙げられ、特に好ましいモリブデン源は三酸化モリブデンである。
【0029】
特許4109429に開示されている反応生成物は、長鎖モノカルボン酸とモノアルキル化アルキレンジアミンとグリセリドとモリブデン源の反応生成物を含んで成る。長鎖モノカルボン酸は、炭素原子を好適には少なくとも8、より好適には少なくとも12含む。モリブデン源にはモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、酸化モリブデンおよびそれらの混合物が挙げられる。
さらに、これらの反応生成物は、特開2004−2866号公報に記載された製造方法により、硫化させてもよい。
【0030】
また、前記(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミドもしくはカルボン酸アミドとの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる反応生成物は、特開2004−2866号公報に記載された製造方法で得ることができる。
【0031】
本発明の潤滑油組成物における、上記有機モリブデン化合物に由来する硫黄含有量については、組成物全量基準で100質量ppm以下であることが好ましい。
また、本発明の潤滑油組成物における、上記有機モリブデン化合物の配合量については、組成物全量基準とし、モリブデン換算で、0.02〜0.2質量%であることが好ましい。0.02質量%以上であれば、低摩擦性と良好な耐摩耗性を得ることができる。より好ましい配合量は、モリブデン換算で、0.025質量%以上、さらには0.03質量%以上である。
【0032】
本発明の潤滑油組成物においては、上記有機モリブデン化合物とともに、さらに、有機ジチオリン酸亜鉛を含むことが好ましい。
上記有機モリブデン化合物と有機ジチオリン酸亜鉛が共存することより、低摩擦摺動材料に対する低摩擦性と耐摩耗性とをさらに向上させることができる。
前記有機ジチオリン酸亜鉛としては、一般式(I)
【0033】
【化1】

【0034】
で表わされる有機ジチオリン酸亜鉛を用いることができる。
一般式(I)中のR、R、R及びRは、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、及び炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
本発明においては、炭化水素基であるR、R、R及びRが、第2級のアルキル基を含むものが好ましい。
例えば、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0035】
本発明の潤滑油組成物における、上記有機ジチオリン酸亜鉛の配合量については、リン量換算で、0.005質量%以上であることが好ましい。0.005質量%以上であれば、低摩擦性と耐摩耗性を向上することができる。より好ましい配合量は、リン換算で、0.01質量%以上、さらには0.02質量%以上である。
【0036】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて他の添加剤、例えば、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤、酸化防止剤、耐摩耗剤又は極圧剤、摩擦低減剤、分散剤、防錆剤、界面活性剤又は抗乳化剤、消泡剤などを適宜配合することができる。
【0037】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン−ジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体など)などが挙げられる。
粘度指数向上剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.5〜15質量%程度であり、好ましくは1〜10質量%である。
流動点降下剤としては、例えば、重量平均分子量が5000〜50,000程度のポリメタクリレートなどが挙げられる。
流動点降下剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.1〜2質量%程度であり、好ましくは0.1〜1質量%である。
【0038】
清浄分散剤としては、無灰分散剤、金属系清浄剤を用いることができる。
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができるが、例えば、一般式(II)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又は一般式(III)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物が挙げられる。
【0039】
【化2】

【0040】
一般式(II)、(III)において、R11、R13及びR14は、それぞれ、数平均分子量500〜4,000のアルケニル基若しくはアルキル基で、R13及びR14は同一でも異なっていてもよい。R11、R13及びR14の数平均分子量は、好ましくは1,000〜4,000である。
また、R12、R15及びR16は、それぞれ、炭素数2〜5のアルキレン基で、R15及びR16は同一でも異なっていてもよく、rは1〜10の整数を示し、sは0又は1〜10の整数を示す。
上記R11、R13及びR14の数平均分子量が500未満であると、基油への溶解性が低下し、4,000を超えると、清浄性が低下し、目的の性能が得られないおそれがある。
また、上記rは、好ましくは2〜5、より好ましくは3〜4である。rが1未満であると、清浄性が悪化し、rが11以上であると、基油に対する溶解性が悪くなる。
【0041】
一般式(III)において、sは好ましくは1〜4、より好ましくは2〜3である。上記範囲内であれば、清浄性及び基油に対する溶解性の点で好ましい。
アルケニル基としては、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基、エチレン−プロピレン共重合体を挙げることができ、アルキル基としてはこれらを水添したものである。好適なアルケニル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基が挙げられる。ポリブテニル基は、1−ブテンとイソブテンの混合物あるいは高純度のイソブテンを重合させたものとして得られる。また、好適なアルキル基の代表例としては、ポリブテニル基又はポリイソブテニル基を水添したものである。
【0042】
上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物は、通常、ポリオレフィンと無水マレイン酸との反応で得られるアルケニルコハク酸無水物、又はそれを水添して得られるアルキルコハク酸無水物を、ポリアミンと反応させることによって製造することができる。
上記のモノタイプのコハク酸イミド化合物及びビスタイプのコハク酸イミド化合物は、アルケニルコハク酸無水物若しくはアルキルコハク酸無水物とポリアミンとの反応比率を変えることによって製造することができる。
上記ポリオレフィンを形成するオレフィン単量体としては、炭素数2〜8のα−オレフィンの1種又は2種以上を混合して用いることができるが、イソブテンとブテン−1の混合物を好適に用いることができる。
【0043】
ポリアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ペンチレンジアミン等の単一ジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジ(メチルエチレン)トリアミン、ジブチレントリアミン、トリブチレンテトラミン、ペンタペンチレンヘキサミン等のポリアルキレンポリアミン、アミノエチルピペラジン等のピペラジン誘導体を挙げることができる。
【0044】
また、上記のアルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物の他に、そのホウ素誘導体、及び/又はこれらを有機酸で変性したものを用いてもよい。アルケニル若しくはアルキルコハク酸イミド化合物のホウ素誘導体は、常法により製造したものを使用することができる。
例えば、上記のポリオレフィンを無水マレイン酸と反応させてアルケニルコハク酸無水物とした後、更に上記のポリアミンと酸化ホウ素、ハロゲン化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸無水物、ホウ酸エステル、ホウ素酸のアンモニウム塩等のホウ素化合物を反応させて得られる中間体と反応させてイミド化させることによって得られる。
このホウ素誘導体中のホウ素含有量には、特に制限はないが、ホウ素として、通常、0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0045】
一般式(II)で表されるモノタイプのコハク酸イミド化合物、又は一般式(III)で表されるビスタイプのコハク酸イミド化合物の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.5〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である。配合量が0.5質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、又15質量%を超えてもその配合量に見合った効果は得られない。また、コハク酸イミド化合物は、上記の規定量を含有する限り、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
金属系清浄剤としては、潤滑油に用いられる任意のアルカリ土類金属系清浄剤が使用可能であり、例えば、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート及びこれらの中から選ばれる2種類以上の混合物等が挙げられる。
【0047】
アルカリ土類金属スルフォネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が特に好ましく用いられる。
アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等が挙げられ、中でもカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0048】
前記アルカリ土類金属系清浄剤を構成するアルキル基としては、炭素数4〜30のものが好ましく、より好ましくは6〜18の直鎖又は分枝アルキル基であり、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
また、アルカリ土類金属スルフォネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートとしては、前記のアルキル芳香族スルフォン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、炭酸ガスの存在下で中性アルカリ土類金属スルフォネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の炭酸塩又はホウ酸塩を反応させることにより得られる過塩基性アルカリ土類金属スルフォネート、過塩基性アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0049】
本発明において金属系清浄剤としては、上記の中性塩、塩基性塩、過塩基性塩及びこれらの混合物等を用いることができ、特に過塩基性サリチレート、過塩基性フェネート、過塩基性スルフォネートの1種以上と中性スルフォネートとの混合が清浄性、耐摩耗性において好ましい。
本発明において、金属系清浄剤の全塩基価は、通常、10〜500mgKOH/g、好ましくは15〜450mgKOH/gであり、これらの中から選ばれる1種又は2種以上併用することができる。なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)による全塩基価を意味する。
【0050】
また、本発明の金属系清浄剤としては、その金属比に特に制限はなく、通常20以下のものを1種又は2種以上混合して使用できるが、好ましくは、金属比が3以下、より好ましく1.5以下、特に好ましくは1.2以下の金属系清浄剤を必須成分とすることが、酸化安定性や塩基価維持性及び高温清浄性等により優れるため特に好ましい。なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(モル%)/せっけん基含有量(モル%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とは、スルフォン酸基、フェノール基及びサリチル酸基等を意味する。
【0051】
金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
金属系清浄剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。配合量が0.01質量%未満であると、その効果が発揮されにくく、また20質量%を超えてもその添加に見合った効果は得られない。また、金属系清浄剤は、上記の規定量を含有する限り、単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤及び硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);4,4’−ビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール);2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール);2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール);2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール;2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール;2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール;2,6−ジ−t−アミル−p−クレゾール;2,6−ジ−t−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール);4,4’−チオビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール);4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);2,2’−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール);ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルベンジル)スルフィド;ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド;n−オクチル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;n−オクタデシル−3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート;2,2’−チオ[ジエチル−ビス−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。これらの中で、特にビスフェノール系及びエステル基含有フェノール系のものが好適である。
【0053】
また、アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルジフェニルアミン;4,4’−ジペンチルジフェニルアミン;4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン;4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン;4,4’−ジオクチルジフェニルアミン;4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン;テトラヘキシルジフェニルアミン;テトラオクチルジフェニルアミン;テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、及びナフチルアミン系のもの、具体的には、α−ナフチルアミン;フェニル−α−ナフチルアミン;更にはブチルフェニル−α−ナフチルアミン;ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン;ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン;オクチルフェニル−α−ナフチルアミン;ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミンなどが挙げられる。これらの中で、ジアルキルジフェニルアミン系及びナフチルアミン系のものが好適である。
【0054】
硫黄系酸化防止剤としては、例えばフェノチアジン、ペンタエリスリトール−テトラキス−(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジドデシルサルファイド、ジオクタデシルサルファイド、ジドデシルチオジプロピオネート、ジオクタデシルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ドデシルオクタデシルチオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。
酸化防止剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.1〜5質量%、好ましくは0.1〜3質量%である。
【0055】
摩擦低減剤としては、潤滑油用の摩擦低減剤として通常用いられている任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、脂肪族エーテル等の無灰摩擦低減剤が挙げられる。摩擦低減剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜2質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
金属不活性剤としてベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。金属不活性剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
【0056】
防錆剤としては、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜1質量%程度であり、好ましくは0.05〜0.5質量%である。
界面活性剤又は抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤又は抗乳化剤の配合量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜3質量%、好ましくは0.01〜1質量%である。
消泡剤としては、シリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられ、消泡効果及び経済性のバランスなどの点から、潤滑油組成物全量基準で、0.005〜0.5質量、好ましくは0.01〜0.2質量%である。
【0057】
2.摺動材料
次に、摺動材料について説明する。摺動機構には2つの摺動材料が用いられるが、少なくとも一方の摺動材料の摺動面に、金属元素を含有する非晶質炭素膜が形成されている。
このような摺動材料と上記の潤滑油とを組み合わせた摺動機構は、優れた低摩擦性と耐摩耗性とを効果的に実現することができる。
【0058】
(1)非晶質炭素膜
図1は、本発明の一実施の形態に係る摺動機構の摺動材料1の構造を模式的に示す断面図であり、図1において11は基材であり、12は中間層であり、13は金属元素を含有する非晶質炭素膜である。
【0059】
前記したように、非晶質炭素膜13に金属元素を含有させることにより、露出した金属元素が潤滑油と非晶質炭素膜との反応生成物を吸着して、2つの摺動材料の摺動面間に固体潤滑膜を形成するため、大きな低摩擦化効果を得ることができる。
【0060】
金属元素の含有量が1atom%未満と少なすぎる場合には、生成される反応生成物の量が少ないため、充分な低摩擦化効果を得ることができない。一方、40atom%を超える辺りから摩擦係数の低下が飽和し、50atom%を超えると金属同士の摺動に近づき、反応生成物の生成が起こりにくくなるため、摩擦係数が逆に増加し始める。また、金属元素の含有量が増加するほど膜硬度が低下して、耐摩耗性が低下する。このため、金属元素の含有量は、1〜50atom%が好ましく、5〜30atom%であるとより好ましい。
【0061】
また、具体的な金属元素としては、反応生成物の吸着し易さの観点より、Si、W、Fe、Ti、Cr、Moの金属元素群から選ばれた1種以上の金属元素であることが好ましい。
【0062】
(2)非晶質炭素膜の形成方法
次に、上記の非晶質炭素膜の形成方法について説明する。
【0063】
非晶質炭素膜の形成には、例えば、陰極PIG(Penninng Ionization Gauge)プラズマCVD法が好ましく用いられる。
【0064】
具体的には、例えば、陰極PIGにて発生させたプラズマがコイルで形成された磁場に閉じ込められることにより高密度化され、原料ガスを高い効率で活性な原子、分子、イオンに分解する。さらに、高活性な原料ガス成分を堆積させながら、直流パルスを基材に印加することによって高エネルギーイオンを照射することができる。これによって、摺動特性に優れた非晶質炭素膜を効率的に形成することが出来る。形成方法の詳細は、特願2008−335718(特開2010−156026)に記載されている方法が好ましい。
【0065】
図2は、陰極PIGプラズマCVD装置の一例の概略を示す図である。
図2において、40はチャンバー、41は基材、42はホルダー、43はプラズマ源、44は電極、45はコイル、46はカソード、47はガス導入口、48はガス排出口、49はバイアス電源である。そして、50はチャンバー40内に形成されたプラズマである。
上記装置を用いて、以下のようにして非晶質炭素膜を形成することができる。
最初に、基材41をホルダー42に支持させてチャンバー40内に配置する。次いで、ガス導入口47よりArガスを注入すると共に、プラズマ源43、電極44、コイル45を用いて、プラズマ50を発生、安定させる。プラズマ中にて分解されたArガスをバイアス電源49にて基材41へ引きつけ、表面エッチングを行う。その後、金属よりなるカソード46、Arガスを用いて中間層である金属層を形成する。さらに、高密度プラズマ雰囲気下でガス導入口47より注入された原料ガスを分解、反応させると同時に、前記金属元素のスパッタを行うことにより、前記金属元素を含有する非晶質炭素膜を形成する。
【0066】
上記においては、金属元素のスパッタにより非晶質炭素膜に金属元素を含有させているが、金属元素を含有するガスを用いることができる場合には、これらのガスを原料ガスである炭化水素ガスと混合して導入することにより、より簡便に金属元素を含有する非晶質炭素膜を形成することができる。具体的な一例としては、Siを含有する非晶質炭素膜の形成に際して、テトラメチルシランSi(CH、トリメチルシランSi(CHH、モノメチルシランSi(CH)H、シランSiHなどのガスを用いることが挙げられる。
【0067】
(3)その他の構成
(a)基材
基材としては、金属系またはセラミックス系の基材を用いることができ、具体的な基材としては、例えば、鉄、熱処理鋼、超硬合金、ステンレス、ニッケル、鋼、アルミニウム合金、チタン合金、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素製の基材を挙げることができる。
【0068】
(b)中間層
非晶質炭素膜は、一般に、鉄基材料やアルミニウム合金等に密着力よく形成することが困難であるため、密着層としての中間層を設ける。中間層としては、具体的には、例えば、Ti、Cr、W、Siより選択されたいずれかの金属の金属膜、これらの金属の炭化膜、窒化膜やこれらを複層形成した構造を挙げることができる。中間層の総厚さは0.1〜2.0μmであることが望ましい。即ち、0.1μm未満である場合には、中間層としての機能が不十分となる。一方、2.0μmを超える場合には、中間層そのものが低硬度であるため、耐衝撃性や密着性が低下する恐れがある。
【0069】
(c)他方の摺動材料(摺動相手材)の摺動面
他方の摺動材料には、例えば、非晶質炭素材料、鉄基材料あるいはアルミニウム合金材料などが用いられる。つまり、2つの摺動面がともに非晶質炭素材料、一方の摺動面が非晶質炭素材料で他方の摺動面が鉄基材料、一方の摺動面が非晶質炭素材料で他方の摺動面がアルミニウム合金材料である場合が例示できる。
【0070】
鉄基材料としては、例えば浸炭鋼SCM420やSCr420(JIS)などを挙げることができる。アルミニウム合金材料としては、ケイ素を4〜20質量%及び銅を1.0〜5.0質量%を含む亜共晶アルミニウム合金又は過共晶アルミニウム合金を用いることが好ましい。具体的にはAC2A、AC8A、ADC12、ADC14(JIS)などを挙げることができる。
【0071】
また、前記非晶質炭素材料及び鉄基材料、あるいは非晶質炭素材料及びアルミニウム合金材料のそれぞれの表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μm以下であると局部的なスカッフィングが形成しにくく、摩擦係数の増大を抑制することができる。更に、上記非晶質炭素材料は、表面硬さが、マイクロビッカーズ硬さ(98mN荷重)でHv1000〜3500、厚さが0.3〜2.0μmであることが好ましい。
【0072】
一方、前記鉄基材料は、表面硬さがロックウェル硬さ(Cスケール)でHRC45〜60であることが好ましい。この場合は、カムフォロワー部材のように700MPa程度の高面圧下の摺動条件においても、膜の耐久性を維持できるので有効である。また、前記アルミニウム合金材料は、表面硬さがブリネル硬さHB80〜130であることが好ましい。非晶質炭素材料の表面硬さ及び厚さが上記範囲にあると摩滅や剥離が抑制される。また、鉄基材料の表面硬さがHRC45以上であると、高面圧下で座屈し剥離するのを抑制することができる。一方、アルミニウム合金材料の表面硬さが上記範囲にあれば、アルミニウム合金の摩耗が抑制される。
【実施例】
【0073】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0074】
A.摩擦係数低減効果の確認
最初に、少なくとも1つの摺動材料の摺動面に金属元素を含有する非晶質炭素膜が形成された2つの摺動材料と、本発明の潤滑油と組み合わせた摺動機構における摩擦係数低減効果を確認した。
【0075】
[1]摺動材料および潤滑油の用意
(実施例1)
1.摺動材料
以下の手順により、摺動材料の摺動面にTiが添加された非晶質炭素膜を形成し、実施例1における摺動材料とした。
【0076】
(1)基材
基材として、φ24mm×7.9mmのFCD700(鋳鉄)を用いた。成膜前処理として、アルカリ洗浄液にて10分間超音波線状した後、120℃にて充分乾燥させた。乾燥後、図2に示すPIGプラズマCVD装置にセットし、2×10−3Paまで真空引きした。
【0077】
基材41をセットした後、チャンバー40内にArガスを注入して、チャンバー40内の圧力を0.3Paに調整した。その後、プラズマ源43を印加してArプラズマ50を生成させ、Arイオンによる基材41の表面エッチングを放電電流10A、コイル電流8Aおよび基板パルス電圧550Vにて10分間行った。
【0078】
(2)中間層の形成
次に、スパッタリング法を用いて基材上に中間層として厚さ0.5μmのTi金属層を形成した。具体的には、Tiカソード46およびArガス80ccを用い、圧力0.4Pa、DC電流6kW、バイアス電圧50Vにて、厚さ0.5μmのTi金属層を形成した。
【0079】
(3)非晶質炭素膜の形成
さらに、高プラズマ雰囲気下でガス導入口47より注入された原料ガスを分解・反応させると同時にTiのスパッタを行うことによりTi含有非晶質炭素膜を形成した。具体的には、Ar流量50ccm、C原料ガス流量100ccm、圧力1.0Paとし、基材にバイアス電圧−500Vを印加しつつマグネトロンスパッタの投入電力を5kWとすることにより、C/H/Ti原子比が70/20/10の非晶質炭素膜、即ち、Ti元素を10atom%含有する非晶質炭素膜を形成した(厚さ3.0μm)。
【0080】
2.潤滑油
以下の組成の潤滑油を用意し、実施例1における潤滑油とした。
(1)基油(組成比率:残余):水素化精製基油、40℃動粘度21mm/s、100℃動粘度4.5mm/s、粘度指数127、%C0.0、硫黄含有量20質量ppm未満、NOACK蒸発量13.3質量%
(2)有機モリブデン化合物(組成比率:0.80質量%):商品名「SAKURA−LUBE S−710」(ADEKA Corporation製)、モリブデン含有量;10質量%、窒素含有量;1.3質量%、硫黄含有量0.02質量%
(3)ジアルキルジチオリン酸亜鉛(組成比率:0.92質量%):Zn含有量;9.0質量%、リン含有量;8.2質量%、硫黄含有量;17.1質量%、アルキル基;第2級ブチル基と第2級ヘキシル基の混合物
(4)粘度指数向上剤(組成比率:5.00質量%):ポリメタクリレート、質量平均分子量230,000
(5)流動点降下剤(組成比率:0.10質量%):ポリアルキルメタクリレート、質量平均分子量6,000
(6)アミン系酸化防止剤(組成比率:0.60質量%):ジアルキルジフェニルアミン、窒素含有量3.4質量%
(7)フェノール系酸化防止剤(組成比率:0.30質量%):オクタデシル 3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
(8)金属系清浄剤A(組成比率:1.50質量%):過塩基性カルシウムサリシレート、塩基価(過塩素酸法)350mgKOH/g、カルシウム含有量12.1質量%、硫黄量0.3質量%
(9)金属系清浄剤B(組成比率:0.60質量%):中性カルシウムスルフォネート、塩基価(過塩素酸法)17mgKOH/g、カルシウム含有量2.4質量%、硫黄含有量2.8質量%
(10)ポリブテニルコハク酸ビスイミド(組成比率:3.00質量%):ポリブテニル基の数平均分子量2000、塩基価(過塩素酸法)11.9mgKOH/g、窒素含有量0.99質量%、硫黄量0.18質量%
(11)ポリブテニルコハク酸モノイミドホウ素化物(組成比率:1.50質量%):ポリブテニル基の数平均分子量1000、塩基価(過塩素酸法)25mgKOH/g、窒素含有量1.23質量%、ホウ素含有量1.3質量%
(12)その他の添加剤(組成比率:0.50質量%):防錆剤、界面活性剤および消泡剤
【0081】
(実施例2)
1.摺動材料
摺動材料の摺動面にSiが添加された非晶質炭素膜を形成し、実施例2における摺動材料とした。
【0082】
具体的には、Siのスパッタを行うことに替えて、テトラメチルシラン65ccmとC原料ガス100ccmとの混合ガスを導入して成膜を行ったこと以外は実施例1と同様の方法で、C/H/Si原子比が70/20/10の非晶質炭素膜、即ち、Si元素を10atom%含有する非晶質炭素膜を形成した(厚さ3.0μm)。
【0083】
2.潤滑油
実施例1と同じ潤滑油を用意し、実施例2における潤滑油とした。
【0084】
(比較例)
1.摺動材料
摺動材料の摺動面に金属元素を添加しない非晶質炭素膜を形成し、比較例における摺動材料とした。
【0085】
Tiのスパッタを行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で、C/H原子比が75/25の非晶質炭素膜を形成した(厚さ3.0μm)。
【0086】
2.潤滑油
実施例1と同じ潤滑油を用意し、比較例における潤滑油とした。
【0087】
[2]摩擦係数の測定
往復動摩擦試験機(オプティマール社製SRV往復動摩擦試験機)を用いて、以下の方法(SRV試験)により摩擦係数を測定した。具体的には、非晶質炭素膜をコーティングしたディスク(φ24mm×7.9mm)を用い、その上に上記の潤滑油を数滴滴下する。SCM420製のシリンダー(φ15mm×22mm)を上記ディスク上部にセットした状態で、荷重400N、振幅1.5mm、周波数50Hz、温度100℃の条件で摩擦係数を求めた。結果を、表1および図3に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1および図3より、実施例1、実施例2は、比較例に比べて摩擦係数が早く低下し、また、摩擦係数の値も比較例に比べて小さく、充分な摩擦係数低減効果が得られることが分かる。
【0090】
B.金属含有量と摺動特性との関係
次に、非晶質炭素膜の形成に際しての金属の添加量と摺動特性との関係を調べ、好ましい金属の添加量について調べた。
【0091】
Tiのスパッタ条件を変化させて表2に示すTi添加量としたこと以外は、実施例1と同様にして、表2に示す9種類の非晶質炭素膜を形成した。
【0092】
潤滑油としては、実施例1と同じ組成の潤滑油を用いた。
【0093】
実施例1と同じSRV法を用いて摩擦係数を測定した。
【0094】
(2)摩耗量の測定
摩耗量は、摺動部分を触針式の粗さ計で段差を計測することにより測定した。
【0095】
測定結果を表2および図4に示す。
【0096】
【表2】

【0097】
表2および図4より、50atom%までは、未添加(0atom%)の場合に比べて摩擦係数低減効果が見られる一方、50atom%を超えると却って摩擦係数が増加していることが分かる。
【0098】
一方、摩耗量については、添加量の増加に伴い摩耗量が増加していることが分かる。
【0099】
この結果より、摩擦係数低減効果と耐摩耗性のいずれを重視するかは摺動環境によるが、Ti添加量としては、1〜50atom%が好ましいことが分かる。そして、摩擦係数低減効果を発揮させると共に、過度な摩耗を防止するという観点からは、5〜30atom%がより好ましいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の摺動機構は、低摩擦性かつ耐摩耗性に優れており、特に内燃機関に適用した場合に、省燃費効果を付与することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 摺動材料
11、41 基材
12 中間層
13 非晶質炭素膜
40 チャンバー
42 ホルダー
43 プラズマ源
44 電極
45 コイル
46 カソード
47 ガス導入口
48 ガス排出口
49 バイアス電源
50 プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの摺動材料が相互に摺動する摺動面に潤滑油を介在させた摺動機構であって、
潤滑油は、分子内に、窒素(N)原子及び/又は酸素(O)原子を有し、硫黄(S)原子を有してもよい有機モリブデン化合物であって、硫黄含有量が、化合物基準で0.5質量%以下であることを特徴とする有機モリブデン化合物を含む潤滑油組成物からなり、
2つの摺動材料のうち、少なくとも一方の摺動材料の摺動面に非晶質炭素膜が形成されており、
非晶質炭素膜は、金属元素を1〜50atom%含有している摺動機構。
【請求項2】
金属元素は、Si、W、Fe、Ti、Cr、Moの金属元素群から選ばれた1種以上の金属元素である請求項1に記載の摺動機構。
【請求項3】
潤滑油組成物が、有機モリブデン化合物の窒素含有量(N)とモリブデン含有量(Mo)の質量比(N/Mo)が0.05以上1.0以下の潤滑油組成物である請求項1又は2に記載の摺動機構。
【請求項4】
潤滑油組成物が、組成物全量基準で、有機モリブデン化合物に由来する硫黄含有量が、100質量ppm以下である潤滑油組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の摺動機構。
【請求項5】
有機モリブデン化合物が、(a)モリブデン化合物とアミン化合物との反応生成物、(b)脂肪酸及び/又は脂肪酸誘導体、アミノ基及び/又はアルコール基含有有機化合物とモリブデン化合物の反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、及び(c)酸性モリブデン化合物又はその塩と、コハク酸イミドもしくはカルボン酸アミドの反応生成物、及び該生成物を硫化して得られる生成物、の中から選ばれた1種又は2種以上の化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の摺動機構。
【請求項6】
潤滑油組成物が、さらに、有機ジチオリン酸亜鉛を含む請求項1〜5のいずれかに記載の摺動機構。
【請求項7】
有機ジチオリン酸亜鉛を構成する炭化水素基が、2級アルキル基を含むものである請求項6に記載の摺動機構。
【請求項8】
潤滑油組成物が、組成物全量基準で、モリブデン含有量が0.02〜0.2質量%の潤滑油組成物である請求項1〜7のいずれかに記載の摺動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−87198(P2013−87198A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229064(P2011−229064)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(591029699)日本アイ・ティ・エフ株式会社 (25)
【Fターム(参考)】